2016.05. 6
不使用ではないとした審決が維持されました。争点は、使用されていた商標は、登録商標と実質同一の商標か、さらに、使用していた商品が「電子計算機用プログラム」か否かでした。
そこで,本件使用商標が,本件商標と社会通念上同一の商標ということがで
きるかどうか,以下検討する。
(1) 「MFX」の文字部分が本件使用商標の要部に当たるか
ア 本件使用商標は,前記1(3)アのとおりの外観を有し,「MFX」の欧
文字,「−」の記号,「EV」の欧文字,「シリーズ」の片仮名文字が,
順次,横書き一段に記載されてなるものである。
そして,「MFX」の文字部分と「EVシリーズ」の文字部分は,「−」
(ハイフン)によって接続されているのに対し,本件使用商標を構成する\n文字の大きさには特段の差異はなく,また,上記ハイフン部分を除く各文
字の間隔にも特段の差異はないから,上記ハイフンの前にある「MFX」
の文字部分は,上記ハイフンの後の文字部分と対比して,外観上まとまっ
たものとして看取されるというべきである。
これに対し,上記ハイフンの後の「EVシリーズ」の文字部分は,「E
V」の文字部分それ自体には,出所識別標識としての特段の称呼や観念を
生ずるものではなく,むしろ,「連続性を持つ一連のもの」との意味を有
する日本語であることを容易に理解することができる「シリーズ」の文字
部分がその後ろに付されていることや,電子応用機械器具の取引分野にお
いては,それ自体としては必ずしも固有の意味を生じるものとはいえない
欧文字等の組合せを,商品の種別や型番を表す記号として用いることがあ\nることからすると,取引者,需要者において,「MFX」の語によって表\n象される一連の製品における個々の製品の種別や型番を表す語と理解する\nことができるというべきである。
イ 以上を総合すると,本件使用商標の「MFX」の文字部分は,本件使用
商標のその余の文字部分から分離して観察することが取引上不自然である
と思われるほど不可分的に結合しているものではなく,むしろ,電子応用
機械器具の取引者,需要者において,被告が製造販売する製品を表すひと\nまとまりの表示として認識するものと認められ,また,本件使用商標のそ\nの余の文字部分からは,出所識別標識としての称呼や観念は生じないから,
「MFX」の文字部分が独立して自他商品の識別標識として機能し得るも\nのであると認められる。
したがって,「MFX」の文字部分は,本件使用商標の要部であると認
められ,本件商標は,これと同一の文字からなるものであるから,本件使
用商標は,本件商標と社会通念上同一の商標であると認められる。
・・・・
前記1(3)によれば,被告は,要証期間内に,ワタキューセイモアに対し,
本件使用商標が表示された本件ソ\フトウェアのバージョンアップ版が格納され
たCD−ROMを引き渡したことが認められる。
かかる行為をもって,本件商標と社会通念上同一の商標を,本件審判請求の
対象となった指定商品に含まれる「電子計算機用プログラム」について使用し
たということができるかどうかについて,以下検討する。
(1) 本件集中管理装置と本件ソフトウェアの関係について\nア 前記1(1)アのとおり,本件集中管理装置の取扱説明書には,「装置全
体」の説明として,パソコン本体及びその周辺機器から構\成されるとの記
載があり,被告のウェブサイト(甲3,甲26の1及び2)や本件集中管
理装置のパンフレット(甲9),取扱説明書(甲8,25)には,パソコ\nン本体及びその周辺機器が納められたテーブルの写真や,その見取図が,
本件集中管理装置として掲載されている。
一方,本件集中管理装置の取扱説明書には,その冒頭付近で,「本管理
装置は,Microsoft®社のWindows®上で稼働するシステ
ムです。」として,本件集中管理装置の本質が,むしろソフトウェア(本\n件ソフトウェア)にあると受け取れるような説明がされている(1⑴イ)
ほか,その記述内容も,ソフトウェアの操作方法を説明したものと受け取\nることが十分に可能\なものになっている(甲8,25)。そして,被告が,
パソコン本体及びその周辺機器自体を製造しているとは認められず,これ\nらの機器は,専ら,被告が,他のメーカーから既製品を調達して組み合わ
せたものと認められる。さらに,これらの機器自体は,パソコン本体,キ\nーボード,ディスプレイ,マウス,通信アダプタ,プリンタ,無停電電源
装置といった,パソコンでソ\フトウェアを操作するために使われるありふ
れたものばかりである上,汎用のものであれば足りるのであって,本件集
中管理装置を構成する機器としての特有のハード面での仕様や性能\が,被
告によって付加されているとは認められない。そして,これらの機器が集
中管理装置としての前記1(1)イのとおりの機能を果たすためには,アプ\nリケーションソフトウェアである本件ソ\フトウェアが,パソコン本体にイ\nンストールされることが必要となる。
また,前記1(1)オによれば,本件集中管理装置は,最新機器に対応す
るための機能追加を,本件ソ\フトウェアのバージョンアップ版を格納した
CD−ROMを用いた本件ソフトウェアのバージョンアップという形態で\n行っているものと認められるが,上記のような形態による本件集中管理装
置の機能追加に当たって,パソ\コン本体及びその周辺機器自体の更新が必
須のものであると認めるに足りる証拠はない。
イ そうすると,本件集中管理装置の機能,性能\は,専ら本件ソフトウェア\nの機能,性能\に依存しているものであって,むしろ,その本質はソフトウ\nェアである本件ソフトウェアにあるということも可能\である。そして,本
件集中管理装置を最新機器に対応させるためには,少なくとも本件ソフト\nウェアのバージョンアップが必要であり,この場合には,本件集中管理装
置が所要の機能を果たすための必須の構\成要素である本件ソフトウェアの\nバージョンアップ版が格納されたCD−ROMが顧客に販売されるから,
かかるバージョンアップ版を対象とする独立の取引を観念することができ
る。
以上によれば,本件ソフトウェアのバージョンアップ版は,本件集中管\n理装置の単なる付属品ではなく,それ自体を独立した商品として観念する
ことができるというべきである。
◆判決本文
不使用であるとした審決が維持されました。争点の一つが、3段併記の商標のうち、一部の文字列の使用が50条の使用に該当するかです。裁判所は審決と同様に、社会通念上同一とはいえないと判断しました。
ア 本件使用商標1は,別掲1のとおり,最上段に「Rubotan」の欧
文字,その下段に「LINE」の欧文字,さらに,その下段に「LIQU
ID」の欧文字,「ルボタン」の片仮名文字及び「ライン」の片仮名文字
を三段に配してなる五段の標章である。
上段二段の「Rubotan」及び「LINE」の欧文字は,下段三段
の「LIQUID」,「ルボタン」及び「ライン」よりも文字が大きいこ
と,「LIQUID」の下部の「ルボタン」及び「ライン」の片仮名文字
は,同じ大きさ,同じ書体でまとまりよく併記されていることからすると,
「ルボタン」及び「ライン」の片仮名文字は,「Rubotan」及び
「LINE」の欧文字の表音を示したものとして,本件使用商標1から\n「ルボタンライン」の称呼が自然に生じるものと認められる。「LIQU
ID」の欧文字は,「液状」の意味を有し,本件使用商品が液状であるこ
とを表示したものと理解することができ,しかも,上段二段の「Rubo\ntan」及び「LINE」の欧文字よりも文字が小さいことからすると,
出所識別標識としての機能は弱いものといえる。\n一方で,「Rubotan」の欧文字と「LINE」の欧文字は,上下
2段にまとまりよく併記されており,「Rubotan」の欧文字は筆書
き風の書体であり,「LINE」の欧文字は「Rubotan」の欧文字
よりもやや文字が大きいが,「Rubotan」の欧文字はゴシック体の
「LINE」の欧文字とは異なる筆書き風の書体であることからすると,
外観上,いずれかが顕著に際立っているということはできない。
加えて,本件使用商品は,販売名を「ルボタン ライン」とする「アイ
ライナー」であり(前記(1)),本件使用商品の宣伝広告においては,本
件商品の画像とともに「ルボタンライン」,「ルボタンライン リキッド
アイライナー」,「ルボタンアイライナー」などと表記され(甲22ない\nし27),本件証拠上,本件使用商品について,「LINE」の部分のみ
をその出所の識別標識として使用していた事情は認められない。
イ 以上を総合すると,本件使用商標1の構成中の「Rubotan」及び\n「LINE」の欧文字は,分離して観察することが取引上不自然であると
思われるほど不可分的に結合しているものではないが,需要者,取引者に
おいては,ひとまとまりの表示として認識するものと認められるから,\n「LINE」の欧文字部分が独立して自他商品識別標識として機能し得る\nものということはできない。
したがって,「LINE」の欧文字及びその表音を示した「ライン」の\n片仮名文字が,本件使用商標1の要部に当たるとの原告の主張は採用する
ことができない。
ウ この点に関し,原告は,化粧品業界においては,書体,大きさ,段等を
異にする2以上の構成要素からなる商標については,それぞれの構\成要素
について商標登録を受けて使用するのが一般的であるという取引の実情が
あり,このような取引の実情を考慮すると,「LINE」の欧文字が本件
使用商標1の要部に当たる旨主張する。
しかしながら,個々の商標の要部をどのように認定するかは,需要者,
取引者の認識等を前提に個別的に検討すべき問題であり,原告が主張する
ような取引の実情があるからといって直ちに「LINE」の欧文字が本件
使用商標1の要部に当たることの根拠となるものではない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
エ 以上のとおり,本件使用商標1の構成中の「LINE」の欧文字及び\n「ライン」の片仮名文字は本件使用商標1の要部に当たるものと認められ
ないから,本件使用商標1は本件商標と社会通念上同一と認められる商標
であるとの原告の主張は,その前提を欠くものであり,理由がない。
(3) 本件使用商標2と本件商標の社会通念上同一性について
原告は,要証期間内に,別掲2のとおり,本件使用商品を6個梱包するた
めの包装用容器(本件包装用箱)に,「 」の片仮名文字,その
下段にゴシック体で大きく表された「ライン」の片仮名文字を表\示して使用
していたものであり,「ライン」の片仮名文字の標章(本件使用商標2)は,
本件商標と社会通念上同一性のある商標であるから,原告又は通常使用権者
であるエリザベスは,要証期間内に,本件商標と社会通念上同一と認められ
る商標(本件使用商標2)を本件使用商品に使用した旨主張する。
しかしながら,前記(2)ア認定のとおり,本件使用商品は,販売名を「ル
ボタン ライン」とする「アイライナー」であり,本件使用商品の宣伝広告
においては,本件商品の画像とともに「ルボタンライン」,「ルボタンライ
ン リキッドアイライナー」,「ルボタンアイライナー」などと表記され,\n本件証拠上,本件使用商品について,本件使用商標1の構成中の「LIN\nE」の部分のみをその出所の識別標識として使用していた事情は認められな
いこと,本件包装用箱は,本件使用商品を6個梱包するための包装用容器で
あること(甲95)に照らすと,本件包装用箱に接した需要者,取引者は,
本件包装用箱に付された別掲2の「ルボタン」及び「ライン」の片仮名文字
を,ひとまとまりの標章として認識し,上記標章から「ルボタンライン」の
称呼が自然に生じるものと認められるから,「ライン」の片仮名文字のみが
独立して自他商品識別標識として機能し得るものということはできない。\n
◆判決本文