2022.12.17
令和2(行ケ)10120 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和4年11月9日 知的財産高等裁判所
不使用取り消しとなった商標について、知財高裁は、「使用権者による使用とは認められない」とした審決の判断を維持しました。
(1) 原告は,前記1(4)の本件ウェブページの記載を基に,本件商標が本件要証
期間中に,原告の商品である「Packard Bell Easy Note TK37 シリーズ」の本件液晶パ
ネルを販売するために使用されていると主張する。
また,前記1(4)によると,本件ウェブページには,「Amazon.co.jpで
の取り扱い開始日」が,本件要証期間中の平成29年8月8日と記載されているこ
と,原告が販売する商品には,「Packard Bell Easy Note TK37 シリーズ」があること
(甲23)が認められる。
(2) しかし,本件証拠上,CHIKAZOが本件商標権について,「商標権者,
専用使用権者,通用使用権者」(本件商標権者等)に当たると認めることはできない
のはもとより,本件商標権者等といかなる関係にある者であるかは全く明らかでは
ない。
また,CHIKAZOは,自らを米国からの直輸入品を扱う輸入業者であるとし
ている(前記1(4))ところ,原告は,米国において,製品を販売しているとは認め
られないこと(前記1(1),(2)),原告からCHIKAZOに原告の商品が流通した経
路が本件において全く明らかになっていないことを考慮すると,本件ウェブページ
には,「Packard Bell Easy Note tk37 シリーズ 15.6」等の表示があるものの,本件ウェブページを用いてCHIKAZOが販売していた「Packard Bell Easy Note TK37 シ
リーズ」が,原告の製品であるかどうかは本件の証拠上,明らかでないというほか
ない。このことは,Amazonサイトにおいては,販売業者に,詐欺行為がないようにする制度を構\築し,ブランド名を使用する際のポリシーを定めていること(前記1(4))など前記1認定の事実によっても左右されない。
そうすると,仮に,本件ウェブページにおいて,本件商標が使用されているとし
ても,上記のとおり,本件商標権者等との関係が全く不明であり,しかも,販売し
ている商品も不明である商標の使用をもって,本件商標権者等による本件商標の使
用を認めることはできない。
(3) 以上によると,原告は,本件要証期間内に,日本国内において,商標権者,
専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが,本件指定商品について,本件商標の
使用をしていることを証明したとは認められないから,本件指定商品に係る本件商
標登録は,取り消されるべきである。
なお,原告の主張するFashion Walker事件判決は,流通業者が,
ウェブサイトなどを通じて,商標の通常使用権者の商品を販売していたことが認定
された事案であり,本件とは,事案を異にする。
3 原告は,被告の本件審判請求が信義則に反し権利の濫用であると主張する。
前記2のとおり,商標法50条は,一定期間使用されていない商標については,
商標権者等の業務上の信用の維持を図る必要はない上,かえって国民一般の利益を
害することになるため,第三者による商標登録の取消請求を認めたものであると解
される。
そうすると,一定期間使用していない商標について,第三者が,それと同一又は
類似する商標を商標登録することを目的として,商標法50条により,商標登録の
取消しを求めたとしても,商標権者等の商標登録を維持する必要性が認められない
以上,当該第三者が,商標権者等の登録商標の使用をあえて妨害するなどの特段の
事情がない限り,その商標登録の取消請求が信義則に反するとか権利濫用になると
認めることはできない。
本件において,前記1のような事実関係が認められるとしても,被告が,原告の
登録商標の使用をあえて妨害するなどの特段の事情があるとは認められないから,
被告の本件審判請求が信義則に反するとか権利濫用になると認めることはできない。
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2022.10. 1
令和4(行ケ)10038 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和4年9月28日 知的財産高等裁判所
不使用取消審判の審決取消請求事件です。ネット上における商標の使用について、審決は使用していたと認定しました。知財高裁も同じ判断です。
前記1(2)の認定事実によれば、使用商標2のみならず、使用商標1につ
いても、本件投資信託(「香港籍指数連動型上場投資信託」及び「私募外
国投資信託(香港ドル建)」)の名称であることは明らかであるから、使
用商標1は、要証期間を含む期間において、請求に係る指定役務中、第3
6類「証券投資信託受益証券の募集・売出し、投資、金融資産の管理」の
範ちゅうに含まれる役務に使用されていることになる。
エ 楽天証券のウェブサイトにおける使用商標1の使用が本件投資信託の販
売会社としてのものであることは明らかである。前記イ のとおり、被告
の本件投資信託の交付運用報告書では、運用報告書(全体版)については、
販売会社である楽天証券のウェブサイトで電磁的方法により提供されて
いるとしてURLを表示しているのであるから、被告が、楽天証券におい\nて使用商標1をウェブサイトで使用していることを認識していることも
明らかである。そうすると、被告が楽天証券に使用商標1の通常使用権を
許諾していることは優に推認される。
そして、前記1(1)のとおり、楽天証券のウェブサイトでは、過去10年
の本件投資信託の価格等、本件投資信託に関する重要な情報が示され、本
件投資信託の売買も可能なのであるから、「役務に関する広告・・・を内\n容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」が行われて
いたことになる。
オ 以上によれば、本件商標の通常使用権者である楽天証券は、要証期間に
日本国内において、請求に係る指定役務中、第36類「証券投資信託受益
証券の募集・売出し」等に関する広告を内容とする情報に、本件商標と社
会通念上同一の商標である使用商標1を付して、自社のウェブサイト上で
表示し、役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法\n(インターネット)により提供する行為(商標法2条3項8号)をしてい
たものと認められる。
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2022.03.31
令和3(行ケ)10087 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和4年3月22日 知的財産高等裁判所
本件商標は、指定商品が「フランス製の被服・・」となっています。これに対して不使用取消審判が請求されました。審決は、使用していた商品がフランス製ではないとして、不使用としました。知財高裁はこれを維持しました。商標は、「IRO PARIS」です。
2 登録商標を使用すべき商品について
(1) 商標法50条2項によれば,本件の場合,商標権者たる原告が本件商標の
登録取消しを免れるためには,本件指定商品のいずれかについての本件登録
商標の使用の事実を証明しなければならない。そして,使用の事実は本件指
定商品と同一の商品に限られるのであって,指定商品に類似する商品につい
ての使用の事実を証明しても,登録取消しを免れ得ないことは,同条項の文
理上明らかである。商標権のうち禁止権に係る部分すなわち類似部分の使用
は,権利としての使用でなく事実上の使用であるため,商標法50条の意図
する登録商標の使用義務の履行とは認められないからである。
なお,商標法50条2項の適用に当たり,使用する商標については商標法
38条5項かっこ書きが適用されるため,「登録商標と社会通念上同一と認
められる商標」の使用であっても登録取消しを免れ得るが,いかなる商品に
ついての使用であるかに関しては商標法に同旨の定めはないから,上記「社
会通念上同一」とは登録商標に関する記述であって,「指定商品と社会通念
上同一と認められる商品」について使用の事実を証明しても,商標の登録取
消しを免れることはできないと解される。
(2) そして,本件指定商品は,「フランス製の被服」であり,「フランス製」
とは,フランス国内で製造された物を意味すると解されるところ,前記認定
のとおり,本件使用商品は,フランス国以外の国で製造された物であるから,
本件使用商品の使用によっては本件指定商品について本件登録商標を使用し
たものと認めることはできないというべきである。
3 原告の個別の主張について
(1) 原告は,本件使用商品がフランス国以外の国で製造されたことを自認しつ
つも,フランス国で企画,デザイン及び品質管理が行われていることを理由
に,「フランス製の」被服等に当たると認められるべきであるとして,前記
第3の1及び2のとおり種々の主張をする。
しかしながら,同主張に係る事実関係を前提としても,原告の主張は,結
局のところ,本件使用商品(フランスで企画等が行われた被服等)は本件指
定商品(「フランス製の」被服等)と類似すること,あるいは社会通念上同
一と認められることを理由に,本件商標の登録取消しを免れ得ると主張する
に等しいものであり,上記のとおり,商標法50条2項の文理に反するから,
採用できない。そして,このことは,商品の原産地表示に関する不正競争防\n止法,関税法並びに不当景品類及び不当表示防止法の一般的な運用(乙2,\n3,5〜8,11)に照らしても明らかである。
(2) 商標審査便覧に係る主張(前記第3の3)につき
原告は,商標審査便覧において,商標法4条1項16号の拒絶理由を解消
するための補正として指定商品に「○○製の」との限定を付すことが示され
ているところ,この限定が「製造された」の趣旨であるとは明記されていな
いことを指摘する。
しかしながら,商標審査便覧の内容が当裁判所における商標法の解釈適用
を左右しないことは当然である。また,原告の指摘箇所において,「○○製
の」との限定を付す補正は一例として教示されているにすぎないと解され,
現に,「イタリア製の」との限定を付す補正を教示する拒絶理由通知書(甲
21の2)に対して「イタリアにてデザインされイタリア国法人としての出
願人による厳格かつ恒常的な品質管理の下で出願人の指示に従って生産され
た」等の限定を付す補正を行い登録査定に至った登録第6430949号
(甲21の3)のような例もみられるのであるから,商標出願の実務におい
て,「○○製の」と「〇〇国でデザインされた」等とは区別されているとい
うべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 商標法50条の趣旨に係る主張(前記第3の4)につき
確かに,上記認定の事実関係を前提とすれば,本件使用商品はフランス国
で企画等がされた被服等であって「フランス製の」被服等と著しく類似する
から,商標の使用を通じた信用の蓄積がない商標を整理しようとする商標法
50条の趣旨に照らして,本件商標の登録を取り消すことはいささか酷であ
るともいえる。また,本件商標の場合,出願人(原告)が「フランス製の」
との限定を付す補正をしたのは商標法4条1項16号の拒絶理由を解消する
ためやむなく行ったことにすぎず,例えば「フランスで製造,企画,デザイ
ン又は品質管理された」のような限定を付す補正が拒絶理由通知書や商標審
査便覧等において教示されていたとすればそれに従った可能性が高い,とい\nう事情もある。
しかしながら,そのような事情があるとしても,前記2のとおり,商標法
50条2項の文理からすれば,「指定商品」を「指定商品と社会通念上同一
と認められる商品」に拡張解釈することは認められないのであるから,かか
る拡張解釈を排した本件審決の判断に誤りはない。
なお,原告は,商標法2条1項1号における「商標」と「標章」との使い
分けを根拠に,「社会通念上同一と認められる商標」とは「『社会通念上同
一と認められる標章』が,『社会通念上同一と認められる商品』について使
用されている」と解釈されるべきとも主張するが,独自の解釈であって採用
することができない。
(4) 特許庁における審査実務の一貫性に係る主張(前記第3の5)につき
原告は,外国の地名を含む商標の出願に対して商標法4条1項16号該当
の拒絶理由通知がされた後,「○○製の」ではなく「○○でデザインされ
た」等の限定を付す補正によって登録査定に至った例があると主張する。
しかしながら,そのことは,当該補正によって商標法4条1項16号該当
の拒絶理由が解消したと判断されたことを示すにすぎず,「○○でデザイン
された」等と「○○製の」とが同義であると判断されたことを示すわけでは
ない。したがって,原告の上記主張は,上記2の判断を何ら左右しない。
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2022.03.29
令和3(行ケ)10112 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和4年3月23日 知的財産高等裁判所
不使用であったとした審決が維持されました。争点は「IC電子点滅器」が「電子応用機械器具」に該当するか否かです。
(2) 本件指定商品は、本件商標について書換登録申請がされた日(平成13年\n3月15日(甲7、8)。以下「本件申請日」という。)に施行されていた商標法\n施行規則別表(平成13年経済産業省令第202号による改正前のもの。以下「省\n令別表」という。)第9類15に定める「電子応用機械器具及びその部品」を意味\nするものと解されるので、同類15に定める「電子応用機械器具及びその部品」の
意義について検討する。
ア 本件申請日に施行されていた商標法施行令別表\(平成13年政令第265号
による改正前のもの)には、「第9類 科学用、航海用、測量用、写真用、音響用、
映像用、計量用、信号用、検査用、救命用、教育用、計算用又は情報処理用の機械
器具及び電気式又は光学式の機械器具」との定めがある。
イ 省令別表には、次の定めがある。\n
(ア) 「第9類3 配電用又は制御用の機械器具
開閉器 継電器 遮断機 制御器 整流器 接続器 断路器 蓄電器 抵抗器
点滅器 配線函 配電盤 ヒューズ 避雷器 変圧器 誘導電圧調整器 リアクト
ル」
(イ) 「第9類15 電子応用機械器具及びその部品
(1) 電子応用機械器具
ガイガー計数器 高周波ミシン サイクロトロン 産業用X線機械器具 産業用
ベータートロン 磁気探鉱機 磁気探知機 磁気ディスク用シールドケース 地震
探鉱機械器具 水中聴音機械器具 超音波応用測探器 超音波応用探傷器 超音波
応用探知機 電子応用静電複写機 電子応用扉自動開閉装置 電子計算機(中央処
理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、磁気テ
ープその他の周辺機器を含む。) 電子顕微鏡 電子式卓上計算機 ワードプロセ
ッサ
・・・
ウ なお、弁論の全趣旨により本件申請日の後に発行されたものと認められる類\n似商品・役務審査基準(乙1、2)においても、「配電用又は制御用の機械器具」
として「開閉器」及び「点滅器」が掲げられているが、「電子応用機械器具及びそ
の部品」としては、「開閉器」も「点滅器」も掲げられていない。
エ 上記ア及びイによると、本件指定商品(「電子応用機械器具及びその部品」)
は、上記イ(イ)のとおり省令別表第9類15に定める「電子応用機械器具及びその\n部品」に該当するものとして掲げられた「電子計算機」、「X線管」、「ダイオー
ド」、「集積回路」等の商品を含み、上記イ(ア)のとおり同類3に定める「配電用
又は制御用の機械器具」に該当するものとして掲げられた「開閉器」及び「点滅器」
を含まないと解するのが相当である。そして、証拠(甲13〜15)及び弁論の全
趣旨によると、ここでいう「開閉器」ないし「点滅器」とは、電気回路を開閉する
装置、すなわち、スイッチを意味するものと認められる。
(3) これを本件各商品についてみるに、証拠(甲5、9〜12、16の1、甲
17〜19、23、24)及び弁論の全趣旨によると、本件各商品は、いずれも照
明器具の点滅を制御したり、その色を調節したりするICスイッチであると認めら
れるから、本件各商品は、少なくとも省令別表第9類3に定める「制御用の機械器\n具」としての「開閉器」ないし「点滅器」に該当するというべきである。したがっ
て、本件各商品は、同類15に定める「電子応用機械器具及びその部品」、すなわ
ち、本件指定商品には該当しないといわざるを得ない。
(4) 原告は、本件各商品の部品(CPU、IC等)はいずれも本件指定商品に
該当するから、本件各商品も本件指定商品に該当する旨主張する。しかしながら、
本件において本件指定商品に該当するか否かが問題とされるのは、完成品たる本件
各商品であり、その部品ではないから、仮に原告が主張するとおり本件各商品の全
ての部品が本件指定商品に該当するとしても、そのことは、本件各商品が本件指定
商品に該当しないとの上記判断を左右しない。
また、原告は、「配電」は変電所から需要端までの屋外の電力輸送を意味し、家
庭内等において使用する照明器具の内部に配設される本件商品1は「配電用の機械
器具」の範ちゅうに属しないとして、本件商品1が「配電用の機械器具」の範ちゅ
うに属し、「電子応用機械器具及びその部品」の範ちゅうに属しないとした本件審
決の判断は誤りである旨主張する。しかしながら、上記(3)において説示したとお
り、本件商品1は、少なくとも「制御用の機械器具」としての「開閉器」ないし
「点滅器」に該当するものであるから、仮に「配電」の意義が原告の主張するとお
りであったとしても、そのことは、本件商品1が本件指定商品に該当しないとの上
記判断を左右しない。
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2022.02.23
令和2(行ケ)10114 商標権 行政訴訟 令和4年2月10日 知的財産高等裁判所
不使用取消審判の請求自体が信義則に反するとして、不使用とした審決が取り消されました。なお被告は欠席裁判です。
原告らとブランデッドボースト社が平成27年(2015年)11月4日
に締結した本件和解契約には,1)原告らは,「BOAST」の商号で「BO
AST」商標を付した商品を米国外で自由に販売することができることを確
認する旨の条項(12項),2)ブランデッドボースト社は,世界中でボース
ト社又は原告によるその他の登録により保護される原告らの商号権及び商標
権を妨害しない旨の条項(14項)が存在することは,前記1(4)認定のとお
りである。
前記1認定の本件和解契約締結に至る経緯,本件和解条項12項及び14
項の文言に鑑みると,本件和解条項14項の「世界中でボースト社又は原告
によるその他の登録により保護される原告らの商号権及び商標権を妨害しな
い」にいう「妨害しない」との文言は,ブランデッドボースト社が,原告ら
が有する米国外で商標登録された「BOAST」ブランドに係る商号権及び
商標権の有効性を争わない義務(いわゆる不争義務)を負うことを定めた趣
旨を含むものと解される。
そうすると,ブランデッドボースト社は,本件和解契約に基づき,原告に
対し,本件商標の商標権について不争義務を負うものと認められる。
そして,前記1(5)認定のとおり,被告は,平成29年(2017年)10
月3日,ブランデッドボースト社から,米国内の「BOAST」ブランドに
係る事業を買収し,同社が保有する「BOAST」ブランドに係る米国登録
商標の移転を受け,これに伴い,ブランデッドボースト社の本件和解契約に
基づく契約上の地位を承継したのであるから,被告は,原告に対し,本件和
解契約に基づいて,本件商標の商標権について不争義務を負うものと認めら
れる。
(2) 商標法50条1項が,「何人も」,同項所定の商標登録取消審判を請求す
ることができる旨を規定し,請求人適格について制限を設けていないのは,
不使用商標の累積により他人の商標選択の幅を狭くする事態を抑制するとと
もに,請求人を「利害関係人」に限ると定めた場合に必要とされる利害関係
の有無の審理のための時間を削減し,審理の迅速を図るという公益的観点に
よるものと解される。
一方で,商標権に関する紛争の解決を目的として和解契約が締結され,そ
の和解契約において当事者の一方が他方(商標権者)に対して当該商標権に
ついて不争義務を負うことが合意された場合には,そのような当事者間の合意の効力を尊重することは,当該商標権の利用を促進するという効果をもた
らすものである。また,このように当事者間の合意の効力を尊重するとして
も,第三者が当該商標権に係る商標登録について同項所定の商標登録取消審
判を請求することは可能であるから,上記公益的観点による利益を損なうも\nのとはいえない。
したがって,和解契約に基づいて商標権について不争義務を負う者が,当
該商標権に係る商標登録について同項所定の商標登録取消審判を請求するこ
とは,信義則に反し許されないと解するのが相当である。
しかるところ,前記(1)認定のとおり,被告は,原告に対し,本件和解契約
に基づいて,本件商標の商標権について不争義務を負うものであるから,被
告による本件審判の請求は,信義則に反し,許されないというべきである。
これと異なる本件審決の判断は誤りであある。
◆判決本文
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2022.02.22
令和3(行ケ)10076 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和4年2月9日 知的財産高等裁判所
商標「知本主義」の不使用取消審判の審決取消訴訟です。会報のタイトルとして「賢主主義と知本主義」を使用していましたが、審決は不使用と認定しました。裁判所も同様です。本件会報は市場における独立した商取引の対象たる商品ではないとされています。
商標法上,商標の本質的機能は,自他商品又は役務の識別機能\にあると解するの
が相当であるから(同法3条参照),同法50条にいう「登録商標の使用」という
ためには,当該登録商標が商品又は役務の出所を表示し,自他商品又は役務を識別\nするものと取引者及び需要者において認識し得る態様で使用されることを要すると
解するのが相当である。
この点に関し,原告は,上記「登録商標の使用」といえるためには,当該登録商
標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足りる旨
主張するが,上記のとおりの商標の本質的機能に照らし,採用することができない。\n
(2) 本件各書籍について
証拠(甲8,10,12,14,16,18,20,22,24,26,36の
1及び2)によれば,本件各書籍(表紙,裏表\紙,書籍に付された帯等も含む。)
には,「知本主義の時代を生きろ」,「私は資本主義ではなく「知本主義」時代が
到来すると思う。」,「資本主義に代わる知本主義」,「「資本主義」から「知本
主義」へ」など,「知本主義」の文字を用いた表現が一定程度記載されているもの\nと認められる。
しかしながら,原告が「知本」の語につき辞書にも記載がないと主張するとおり,
「知本主義」の語の観念は不明確であり,「主義」との語尾から何らかの主義主張
を指すことがうかがわれるのみである。そうすると,上記のとおり本件各書籍にお
いて「知本主義」の文字を用いた表現が一定程度記載されていることや,本件各書\n籍が通信販売サイト等において宣伝されていること(甲9,11,13,15,1
7,19,21,23,25,27,37)を考慮しても,「知本主義」の文字又
はこれを含む表現に触れた取引者及び需要者は,これらの文字等を書籍の副題の一\n部,記載内容,宣伝文句,著者の主張等であると認識するにとどまり,これらの文
字等が当該書籍に係る自他商品識別機能を果たすと認識するとは考え難い(これは,\n「知本主義」の文字が鍵括弧でくくられている場合であっても変わるところではな
い。)。なお,この点に関し,原告も,「知本主義」の文字等が書籍に付された場
合,「知本」の主義主張に関する分野ないし事項の書籍であることを取引者及び需
要者に想起させる旨主張しているところである。
したがって,本件各書籍における「知本主義」の文字の記載は,商標法50条に
いう「登録商標の使用」に該当しない。
(3) 甲28会報について
ア 証拠(甲28)によれば,甲28会報には,「賢主主義と知本主義」との表\n題が付され,「X会のうた」として,「いっぱい 知本主義」との記載がされ,
「「知本主義」を実践するX会12月例会」なる会合の告知がされているものと認
められるが,甲28の記載やその他の証拠によっても,甲28会報が市場における
独立した商取引の対象たる商品であると認めることはできないから,甲28会報に
おける上記表題等の記載をもって,本件商標が商品について使用されたということ\nはできない。
イ 証拠(甲28)によれば,甲28会報には,「令和元年12月23日」との
日付の記載があるものと認められ,その他,甲28会報が本件要証期間内に発行さ
れたものと認めるに足りる証拠はない。
ウ 以上のとおりであるから,甲28会報における上記アの記載をもって,原告
又は本件商標の専用使用権者若しくは通常使用権者(以下「原告ら」という。)が
本件要証期間内に本件指定商品について本件商標を使用したと認めることはできな
い。
(4) 甲29の選挙公報について
証拠(甲29)によれば,甲29は,東京都選挙管理委員会が平成11年4月1
1日執行の東京都知事選挙に際して発行した選挙公報(原告に係るもの)であり,
「資本主義(拝金主義)から知本主義へ」との記載がされているものと認められる。
しかしながら,一般に選挙公報が「新聞」,「雑誌」若しくは「書籍」又はこれ
らに係る広告等に該当しないことは明らかである。また,上記認定のとおりの選挙
の執行期日にも照らすと,同選挙公報が本件要証期間内に発行されたと認めること
もできない。
そうすると,甲29の選挙公報における上記記載をもって,原告らが本件要証期
間内に本件指定商品について本件商標を使用したと認めることはできない。
(5) 甲30の社歌について
証拠(甲30)及び弁論の全趣旨によれば,甲30の書面には,「知本主義・知
財企業「B 勤務心得の歌」」と題する歌の歌詞が記載され,その歌詞の中に「知
本主義」の語が用いられているものと認められる。
しかしながら,本件全証拠によっても,甲30の書面が「新聞」,「雑誌」若し
くは「書籍」又はこれらに係る広告等に該当すると認めることはできないし,同書
面の作成時期も不明である(同書面には,「SINCE1957」との記載がみられるのみ
である。)。
そうすると,甲30の書面における上記記載をもって,原告らが本件要証期間内
に本件指定商品について本件商標を使用したと認めることはできない。
(6) 甲34のウェブサイトについて
証拠(甲34)及び弁論の全趣旨によれば,甲34は,原告の著書を宣伝するウ
ェブサイトであって,原告が代表取締役を務める株式会社Bが運営するものの画面\nを印刷した書面であると認められる。
しかし,甲34をみても,本件商標又は社会通念上これと同一の商標が当該ウェ
ブサイトに表示されているということはできない。\nしたがって,原告らが甲34のウェブサイトにおいて本件商標を使用したとは認
められない。
(7) 甲37のウェブサイトについて
証拠(甲37)及び弁論の全趣旨によれば,甲37は,原告の著書(甲36の1
及び2)を宣伝するウェブサイトであって,上記株式会社Bが運営するものの画面
を印刷した書面であり,同画面には,同著書を宣伝する文言として,「資本主義社
会は「知本主義」へ」との記載がされているものと認められる。
しかしながら,前記(2)において説示したとおり,「知本主義」の文字を含む上
記記載に触れた取引者及び需要者は,これを同著書の記載内容,宣伝文句,著者の
主張等であると認識するにとどまり,これが同著書に係る自他商品識別機能を果た\nすと認識するとは考え難い。
したがって,甲37のウェブサイトにおける上記記載は,商標法50条にいう
「登録商標の使用」に該当しない。
◆判決本文
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2022.01.24
令和2(行ケ)10113 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和4年1月19日 知的財産高等裁判所
不使用取消審判の請求が権利濫用かが争われました。知財高裁は、権利濫用とまではいえないとした審決を取り消しました。
上記各事実によれば,被告は,ブランデッドボースト社を買収した後,本
件審判請求に及ぶ直前まで,原告との間で,原告が保有する本件商標を含む
日本及びその他の国のBOASTブランドに係る登録商標の買取りについて
協議をしていたが,協議中断の数か月後に本件審判請求に及んだものである。
こうした経緯に加え,被告は,本件審判請求における手続において,原告
が,「2017年10月3日,請求人は,ブランドボースト社(当審注:ブ
ランデッドボースト社のこと)より,同社の「BOAST」ブランド事業を
買収し,同社が保有する米国「BOAST」登録商標の移転を受けた(乙1)。
したがって,請求人は,被請求人が保有する日本「BOAST」登録商標に
干渉しない義務を含む,本件和解契約に基づく義務を履行する責任を負う」,
「また,請求人は,本件和解契約に基づき,日本「BOAST」登録商標に
係る被請求人の権利に対する干渉を行ってはならない義務を負う」旨主張し
たのに対して,具体的に弁駁していないことは記録上明らかであり,また,
本訴における原告による同旨の主張についても反論していないことからする
と,被告は,ブランデッドボースト社から米国内における「BOAST」事
業を買収するに際して,原告らと同社との間では,同社が,世界中でボース
ト社又は原告によるその他の登録により保護される原告らの商号権及び商標
権を妨害しない旨の本件和解契約に基づく義務を負担しており,上記買収に
より被告も同義務を履行する責任を負うことを認識しながら,これを前提と
して,原告との間で,原告が保有する本件商標を含む日本及びその他の国の
BOASTブランドに係る登録商標の買取り交渉をしていたものと認められ
る。
そうすると,被告は,原告との間で,原告が保有する本件商標を含む日本
及びその他の国のBOASTブランドに係る登録商標の買取り交渉が頓挫す
るや否や,原告が保有する商標権を妨害してはならない旨の上記義務に反す
ることを知りながら,本件商標の取消しを求めて本件審判請求に及んだもの
と認めるのが相当である。したがって,本件審判請求は,金銭的負担をすることなく本件商標を使用することを企図し,取消審判制度が何人も申し立てることができることに藉\n口して,専ら原告を害する目的でしたものと認められるから,権利の濫用に
当たるものというべきである。
◆判決本文
審決(取消2018−300722)は、下記のように、権利濫用とまではいえないとして、不使用であるので登録を取り消すと判断していました。
イ 判断
上記事実によれば、被請求人らとブランドボースト社との間で、互いの商号及び商標に係る権利について妨害しないことを含む本件和解契約が結ばれていたことは窺えるものの、そのような当事者間の合意が、本件商標に対する不使用取消審判の請求までも禁止するものであるかは、証拠上明らかでなく、当該契約違反か否かは措くとしても、請求人による本件審判の請求が専ら被請求人を害することを目的としていると認められる事情を見いだすこともできない。また、前記(1)の不使用取消制度の趣旨からすれば、登録商標は使用をしているからこそ、保護を受けられるのであって、一定期間登録商標が使用されていない場合には、保護すべき信用が存しないのであるから、取り消されてもやむを得ないものである。
そして、後述するとおり、被請求人は本件商標の使用について、何らの主張、立証もしていないものである。なお、請求人と被請求人との登録商標買取り交渉が合意に至らなかった状況において、本件商標の不使用を理由として、請求人が本件審判請求を行ったとしても、そのこと自体は格別不自然とはいえない。その他、請求人による本件審判の請求が専ら被請求人を害することを目的としていると認められる場合などの特段の事情は見いだせず、本件審判請求が権利の濫用であるとはいえないし、信義則違反であるとして本件審判請求が成り立たないとすべきともいえない。
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2022.01. 7
平成18(行ケ)10043 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成18年6月29日 知的財産高等裁判所
かなり昔の判決ですが、興味深いのであげておきます。登録商標の同一性および、取説における使用も使用と認定されました。
標章「速脳速聴基本プログラム」の使用が、登録「速脳速聴」の使用と認定されました。指定商品は「中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・
磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器」です。
本件関連標章1は,「速脳速聴」(本件商標)と「基本プログラム」と
が結合した語から成るものである。この構成中の「速脳速聴」の部分は,\n高速で聴くことによって脳の回転を高めるといった程度の意味を有するも
のと理解されないこともないが,明確な意味を有するとまではいえず,取
引者・需要者において,既存の明確な観念を伴わない新たな造語であると
認識するものと認められる。一方,「プログラム」の語は,本件商標の指
定商品である電子応用機械器具の分野において,その一種である電子計算
機のためのプログラムを示す普通名称であり,これに冠して付加されてい
る「基本」の語は,「物事が成り立つためのよりどころとなるおおもと。
基礎。」(甲27の2,ウェブサイトの「 辞書」),「物事がそれに goo
基づいて成り立つような根本。」(甲28,株式会社岩波書店平成3年1
1月15日発行「広辞苑第4版」)を意味し,後に「応用」若しくは「発
展」など次の段階へと続くことを想起,連想させる一般的な記載にすぎな
いから,本件関連標章1に接した取引者・需要者は,通常,その構成中の\n「基本プログラム」の部分は,商品の特定のために当該商品の用途等を表\n示したものと理解して,それ自体を自他商品の識別力を有する部分とは考
えないと認めるのが相当である。
そして,「速脳速聴」と「基本プログラム」とは,一体不可分の密接な
関係にあるとはいえないし,「速脳速聴基本プログラム」の称呼は,「ソ\nクノウソクチョウキホンプログラム」と著しく冗長であって,この一連一\n体の称呼によることが取引の実情に即したものであるとは言いがたく,む
しろ,取引の実際においては,冒頭の「速脳速聴」の部分に即して「ソク\nノウソクチョウ」との称呼を生ずるのが通常であるということができる。\nそうすると,本件関連標章1の「速脳速聴基本プログラム」の語は,
「速脳速聴」の部分において,取引者・需要者の注意を引くものであり,
その部分が自他商品の識別力を有するものというべきである。
もっとも,本件関連標章1の「速脳速聴」の部分について,高速で聴く
ことによって脳の回転を高めるといった程度の意味のものととらえ,本件
関連標章1について,一体として「速脳速聴の基本的なプログラム」,あ
るいは,「速脳速聴に関する基本的なプログラム」との観念を生ずること
もあり得ないものではない。しかし,一般には,「速脳速聴」の観念が必
ずしも明確でないことに照らしても,「速脳速聴の基本的なプログラム」
等の観念が生ずる可能性がないわけではないことによって,「速脳速聴」\nの部分の自他商品識別力が否定されるものではないというべきである。
そして,この「速脳速聴」は,本件商標と同一なのであるから,本件関
連標章1は,本件商標と社会通念上同一と認められる商標とみるのが相当
であり,上記1及び2・・・ に照らせば,プランニングラボは,本件予\n告登録前3年以内に,本件関連標章1により,本件商標の指定商品である
本件商品1につき,商標法2条3項1号及び8号にいう本件商標の「使
用」をしていたというべきである。
ウ ところで,被告は,本件CDに付されている商標は,「速脳速聴基本プ
ログラム」であるから,本件商標「速脳速聴」とは,同一の商標ではない
し,「速脳速聴基本プログラム」は,一体として「速脳速聴の基本プログ
ラム」の観念が生じ,当然,一連一体として観察,称呼しなければならず,
本件商標とは,称呼,外観,観念のすべてを異にするものであり,識別力
を異にすることが明らかであるから,本件関連標章1は,本件商標と社会
通念上同一と認められる商標でないと主張する。
しかし,「速脳速聴基本プログラム」がそれ自体一つの商標であるとし
ても,上記のとおり,取引の実際においては,「速脳速聴」の部分,すな
わち,本件商標に相当する部分が商標として自他商品識別力を有している
ものというべきである。また,「速脳速聴基本プログラム」から,一体と
して「速脳速聴の基本プログラム」の観念が生ずる可能性があることは,\n上記のとおりであるが,そのことから,このような結合語を,直ちに一連
一体として観察,称呼しなければならないものとはいえず,一体として
「速脳速聴の基本プログラム」の観念が生ずる可能性があることによって,\n「速脳速聴」の部分の自他商品識別力が否定されるものではないことも,
上記のとおりである。
(4) 次に,本件取扱説明書の表紙に記載されている「速脳速聴<R>基本プログ
ラム」(以下「本件関連標章2」という。)について検討する。
ア 本件関連標章2が,本件商標と社会通念上同一といえるかについてみる
と,本件関連標章2は,「速脳速聴」と「基本プログラム」とが<R>マー
クで区分された語であるところ,この<R>マークは,米国における連邦登
録商標の商標表示の方法(米国連邦商標法1111条〔ランナム法29\n条〕)であって,商標法73条,同法施行規則17条にいう商標登録表示\nではないが,我が国でも登録商標に簡明な<R>マークを付すことが慣行的
に行われていることは,当裁判所に顕著である。そして,本件関連標章2
においては,<R>マークによって,「速脳速聴」と「基本プログラム」と
が明確に分離されており,また,上記のとおり,本件取扱説明書の裏表紙\nには,「『速脳』『速脳速読』『速脳速聴』等は新日本速読研究会(X
〔注,原告〕)が保有する商標です。」等の記載があることから,取引者
・需要者は,「速脳速聴」が商標であると容易に理解することができるも
のである。
そうすると,本件関連標章2は,本件関連標章1以上に,「速脳速聴」
の部分に自他商品識別力があるということができるから,本件商標と社会
通念上同一と認められる商標であり,プランニングラボは,本件関連標章
2によっても,本件関連標章1と同様,本件商標の使用をしていたといわ
なければならない。
◆判決本文
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2022.01. 4
令和1(ワ)30282 損害賠償請求事件 商標権 民事訴訟 令和3年11月29日 東京地方裁判所
本件登録商標を使用していたとする虚偽の主張を行い,原告に対し本件連絡書を送付して損害賠償を請求し,本件仮処分命令申立てをしたという,IBEX社による一連の行為は,原告に対する故意による不法行為を構\成するとして、IBEX社の代表取締役に、約1600万円の損害賠償が認められました。
前記1(1)イ(ア)のとおり,原告は,従前から使用していたブランド
である「Attractions」に係る原告標章を商標登録しよう
と考え,本件弁理士に対し相談したところ,本件登録商標の存在が判
明したため,その取消請求をすることとした。こうした経緯に照らす
と,原告は,今後「Attractions」のブランドを事業展開
するに当たり,原告標章の使用が本件商標権を侵害するおそれがあっ
たことから,それを避けることを目的として上記取消請求をすること
としたものと認められる。
また,証拠(原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,I\nBEX社との和解交渉が難航していたことや,原告代理人から,IB
EX社が原告に対し保全命令を申し立て,原告の商品が差し押さえら\nれるなどする可能性があるとの説明を受けたことなどを契機として,\n平成29年7月末頃から「Attractions」のブランドの使
用を取り止めることを選択肢の一つとして検討し始めたこと,同年8
月8日頃にIBEX社から本件連絡書の送付を受けたため,「Att
ractions」のブランドの使用を取り止め,別ブランドに変更
することを決定したこと,さらに,同年9月1日以降,実際に「At
tractions」の商標を切り替える対応を採り,商標を切り替
えることができない本件在庫商品については販売の停止を決定したこ
とが認められる。
さらに,前記(1)ア(ア)のとおり,平成28年9月1日から平成29
年8月31日までの会計年度における原告の売上高は1億0794万
2353円であると認められるのに対し,前記(1)ア(イ)のとおり,平
成29年8月31日の時点において原告が保有していた本件在庫商品
の販売価額は合計2875万7760円であると認められるから,こ
れらの数値を基礎とすれば,本件在庫商品が原告の総売上高に占める
割合は26%余りであることになる。
以上のように,原告は,そもそも本件商標権を侵害するリスクを避
けるために本件審判請求事件に係る請求をしたところ,IBEX社が
これを争い,同社の主張に沿う外観の証拠が提出され,その一方でI
BEX社との手続外での和解交渉が難航していたことからすると,遅
くとも平成29年7月頃には,本件在庫商品を販売することにより本
件商標権を侵害し,原告の商品が差し押さえられるなどするリスクを
相当程度具体的に認識していたと認められる。そして,本件在庫商品
が原告の総売上高に占める割合が26%余りであったことからすると,
これが差し押さえられた場合には原告の経営に大きな影響を及ぼす可
能性があったと認められる。こうした中で,本件連絡書を送付され,\nIBEX社から同年8月18日までの回答を迫られたという経緯に照
らせば,原告において,同年9月1日以降に「Attraction
s」のブランドの使用を取り止めるという判断をするのはやむを得な
いものであったというべきである。
以上によれば,IBEX社の前記1(2)の不法行為と原告の損害と
の間に相当因果関係が認められることはもとより,被告に認められる
善管注意義務違反が,IBEX社の代表取締役としての権限を行使す\nることなく,Bらに業務を任せきりにし,IBEX社による上記不法
行為を惹起したというものであることに照らすと,被告の任務懈怠と
原告の損害との間にも相当因果関係があると認めるのが相当である。
b これに対し,被告は,原告が商標を切り替える対応を採り,本件在
庫商品の販売を取り止めるという行為に及んだのは,原告自身の経営
判断によるものであるとして,被告の任務懈怠と原告の損害との相当
因果関係は認められないと主張する。
しかし,原告の上記行為が経営判断に基づくものであるとしても,
前記 a で説示したとおり,それはやむを得ないものであったというこ
とができ,むしろ,経営判断として合理的かつ自然なものであるとい
うべきであるから,原告の経営判断が介在したことをもって,被告の
任務懈怠と原告の損害との間の相当因果関係を否定することはできな
い。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。
c また,被告は,IBEX社の経営を実質的に支配していたのはBで
あり,被告がBの判断を翻意させることはできなかったから,被告の
任務懈怠と原告の損害との間には相当因果関係は認められないと主張
する。
しかし,前記1(1)アのとおり,被告は,Bの大学の同級生であり,
IBEX社の経営会議やBとF弁護士との打ち合わせに同席するなど,
代表取締役として一応の役割を果たしていた。また,被告は同社の代\n表取締役であり,被告の他に同社には役員が選任されていなかったの\nであるから,法的には同社の業務に関する一切の権限を被告のみが有
しており,同社の代表取締役として,主体的に行動することは可能\で
あったというべきである。したがって,被告は,IBEX社の一連の
不法行為により原告が損害を被ることについても,これを阻止するこ
とができなかったとまではいえない。
以上によれば,被告が代表取締役としての任務を懈怠することなく,\n原告に不法行為による損害を与えないようにする善管注意義務を果た
し,本件審判請求事件や本件仮処分命令申立て等について適切に対処\nしていれば,原告が主張する損害が発生していなかったということが
できる。
してみると,IBEX社の経営をBが実質的に支配していたことか
ら直ちに被告の任務懈怠と原告の損害との間の相当因果関係が否定さ
れるものではなく,被告の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
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