2024.12. 5
商標「ZOOM」について、9類「電子計算機、電子計算機用プログラム、電子式卓上計算機」は不使用と認定されました。もともとはトンボ鉛筆が所有していましたが、米国法人のZOOMに分割譲渡しています。審決は、不使用と判断し、知財高裁もこれを認めました。争点は、書き換え時に「電子計算機」とした場合に、周辺機器が含まれるか否かです。
(9) 本件商標の本件書換登録後の指定商品である「電子計算機」の意味につい
て上記(7)で検討した結果を本件に当てはめると、まず、使用商品2について
は、その仕様は「別紙1 使用商品2」記載のとおりであるところ、上記(8)
のとおり、使用商品2は静電容量式のタッチペン付きの尾栓であって、人の
指などの導電性の物に代わる入力手段に過ぎないから、上記(7)のとおり、電
子の作用をその機械器具の機能の本質的な要素としているものだけを含むと\nする「電子計算機」に含まれるものとは解しがたい。加えて、「電子計算機」
につき、上記のとおり中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させ
た電子回路等の周辺機器のみを含み、補助記憶装置であるハードディスクユ
ニット等の電子計算機外部の周辺機器ですら含まれないと解されることから
すれば、電子計算機の中央処理装置及び電子計算機用プログラムの記憶とは
何ら関係しない、多機能ペンの尾栓である使用商品2は、電子計算機に含ま\nれる周辺機器に当たるものとは解しがたいというべきである。
次に、使用商品1は、多機能ペンであって筆記具である上、静電容量式の\nタッチペン付きの尾栓を備えていることを考慮しても、上記と同様に、人の
指などの導電性の物に代わる入力手段に過ぎないから、電子の作用をその機
械器具の機能の本質的な要素としているものだけを含むとする「電子計算機」\nに含まれるものとは解しがたく、電子計算機の中央処理装置及び電子計算機
用プログラムの記憶とは何ら関係しない多機能ペンである使用商品1は、電\n子計算機に含まれる周辺機器に当たるものとも解しがたいというべきである。
その他、本件取消対象指定商品につき、本件要証期間における本件商標の
使用の事実の立証はされていない。
そうすると、本件取消対象指定商品について、本件要証期間における本件
商標の使用の事実は立証されていないこととなるから、これと同旨の本件審
決の判断に誤りはない。したがって、原告らの主張する取消事由には理由がない。
2 原告らの主張に対する判断
(1) 原告らは、前記第3の1〔原告らの主張〕(1)及び(2)のとおり、各使用商品
は「電子計算機」ないしそこに含まれる周辺機器に当たるから、本件商標の
本件取消対象指定商品についての使用の事実の立証がされていると主張する。
しかし、既に述べたとおり、本件商標の本件書換登録後の指定商品である
「電子計算機」は、電子の作用をその機械器具の機能の本質的な要素として\nいるものだけを含み、その電子計算機に含まれる周辺機器も、中央処理装置
及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路等の周辺機器のみがこれ
に当たり、ハードディスクユニット等の外部周辺機器はこれに当たらないと
解されるところ、各使用商品は、いずれもそこにいう「電子計算機」に該当
するものとは認められないというべきである。なお、原告らの主張のうち、
本件書換登録が書換登録ガイドラインに従ったものであるとする点について
の判断は後記(3)のとおりである。したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
(2) 原告らは、前記第3の1〔原告らの主張〕(3)のとおり、「商品及び役務の区
分解説〔国際分類第9版対応〕」(甲56)によれば、本件書換登録の申請時\nにおいても、電子計算機は周辺機器を含むものとして考えられていたとし、
「周辺機器」についての辞書等の記載によれば、スタイラスペンが入力装置
として解説されていることなどから、各使用商品は、入力装置であるスタイ
ラスペン(ペン型データ入力具)の性質を有するものとして、「電子計算機」
の周辺機器に含まれる旨を主張する。しかし、上記1(3)イの「商品及び役務の区分解説〔国際分類第9版対応〕」(甲56)の記載を含め、本件書換登録後の指定商品である「電子計算機」に含まれる周辺機器については、中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路等の周辺機器のみがこれに当たるものであり、ハード
ディスクユニット等の外部周辺機器がこれに当たらないと解されることにつ
いては既に述べたとおりである。そして、上記1(8)のとおり、使用商品1の
外箱には「Stylus pen」とのシールが貼付されていたけれども、各使用商品\nが本件書換登録後の指定商品である「電子計算機」に含まれないことについ
ては、上記1(9)で述べたとおりである。したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
(3) 原告らは、前記第3の1〔原告らの主張〕(2)及び(4)のとおり、原告トンボ
鉛筆は、本件書換登録の申請に当たり、本件書換登録申\請日当時の書換ガイ
ドラインに沿って書き換えを行ったに過ぎないから、本件書換登録後の指定
商品「電子計算機」は、本件書換登録前の「電子計算機〔中央処理装置及び
その周辺機器(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディス
ク、磁気テープを含む)〕」と同義であるところ、書換前の「その周辺機器」
には各使用商品が含まれるから、書換後の「電子計算機」についても同様に
解すべき旨を主張する。
しかし、上記1(5)エのとおり、書換ガイドラインの一覧表上に昭和34年\n法に基づく商品として記載されているのは「電子計算機」であって、本件書
換登録前の本件商標の指定商品であった「電子計算機〔中央処理装置及びそ
の周辺機器(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、
磁気テープを含む)〕」と同一ではないから、原告トンボ鉛筆の行った書換は、
必ずしも書換ガイドラインの一覧表に示された通りの書換を行ったものとは\nいえない。加えて、そもそも書換ガイドラインは、上記1(5)ウにあるとおり、
基準的な性格のものに過ぎない上に、一覧表の書換表\示以外の書換表示であ\nっても、それが書換登録申請に係る商標権の指定商品の範囲内の適切な商品\n表示であれば、その書換表\示による書換も認められるのであるから、本件申\n請時の商品等区分に従い、本件書換登録前の指定商品の記載に基づいて原告
トンボ鉛筆が指定商品に含まれると考える商品について書換申請を行うこと\nも可能であったということができる(上記1(5)エ)。なお、本件書換登録申請\n日当時の「類似商品・役務審査基準」が適用される間における書換登録にお
いても、書換前の第11類「電子計算機〔中央処理装置およびその周辺機器
(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、磁気テー
プを含む)〕」及びこれと類似する記載を、第9類「電子計算機〔中央処理装
置及びその周辺機器(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気
ディスク、磁気テープを含む)」などや、これと類似する記載に書き換えた例
も存するところである(乙47ないし49、51)。
さらに、上記の点を措くとしても、上記1(5)ウの書換ガイドライン利用上
の注意事項(「旧区分の1の商品に対して書換表示が複数の商品となる場合\nは、各商品の配列を五十音順とし、各商品間をカンマ(,)で区切っている。」)\nから明らかなとおり、そもそも同ガイドラインの一覧表に示された記載に沿\nって商品「電子計算機」の書換登録を行ったとする場合の書換後の商品は、
上記1(5)エのとおり「電子計算機」及び「電子計算機用プログラム」の二つ
の商品であり、指定商品を実質的に超えない範囲で書換登録がなされるもの
であること(上記1(5)ア、イ)に鑑みれば、二つの商品に書換えられた後の
一方の商品である「電子計算機」が、書換前の商品「電子計算機」と内容的
に全く同一とはいえないことも明らかである。
そして、商標法附則12条3項が「(書換の)申請書に記載されなかった指\n定商品に係る商標権は、登録の時に消滅する。」と規定するところから、書換
登録がなされた後にあっては、該商標の指定商品については、書換後の指定
商品の内容に従って客観的に定まるものと解される。これに沿って解した場
合の、本件書換登録後の本件商標の指定商品である「電子計算機」の意義、
及び各使用商品がこれに当たらないことについては、既に検討したとおりで
ある。
◆判決本文
不使用取消審判段階では、証拠を提出せず、知財高裁で使用証拠を提出し、不使用取消審決が取り消されました。
ア 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕(1)のとおり、平成3年最高裁判決
は、本件において適用されるべきではなく、本件訴訟において、原告によ
る本件訴訟の使用に関する新たな立証を許すべきではないと主張する。
しかし、商標法50条2項本文は、商標登録の不使用取消審判の請求が
あった場合において、被請求人である商標権者が登録商標の使用の事実を
証明しなければ、商標登録は取消しを免れない旨規定しているが、これは、
登録商標の使用の事実をもって商標登録の取消しを免れるための要件と
し、その存否の判断資料の収集につき商標権者にも責任の一端を分担させ、
もって審判における審判官の職権による証拠調べの負担を軽減させたも
のであり、商標権者が審決時において使用の事実を証明したことをもって、
商標登録の取消しを免れるための要件としたものではないと解される(平
成3年最高裁判決)。平成3年最高裁判決の事案も、本件と同様、審判手続
段階において、商標登録取消請求の被請求人が商標使用の事実について何
ら主張立証しなかったものであり、本件において原告が本件審判手続の中
で本件商標の使用に関する主張立証をしなかったことにより、平成3年最
高裁判決が説示した商標法50条2項本文の上記趣旨が本件に当てはま
らないとは解されない。したがって、被告の上記主張は採用することができない。
イ 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕(2)アないしエのとおり、本件商標
の使用の事実が立証されたとはいえない旨主張する。
(ア) 前記第3の2〔被告の主張〕(2)アについて
証拠(甲13〜15)及び弁論の全趣旨によって、「Pleasure」の文字
が記載された本件眼鏡フレームを、オリエント眼鏡が原告の下請けとし
て製造し、原告に納入したものであると認められることは、前記(4)のと
おりであり、原告が、本件眼鏡フレームを使用した眼鏡を、原告の経営
する店舗で販売したことは、商標法50条2項にいう「登録商標の使用」
に当たると認められる。
甲1の1ないし3の写真は、本件眼鏡フレームが存在することを立証
するものであり、甲2の1ないし5等その他の証拠と併せて、要証期間
内に原告が商標を使用した事実を立証するものであるから、甲1の1な
いし3の写真の撮影日が要証期間内ではないことをもって、原告が要証
期間内に商標を使用した事実が立証されていないとはいえない。
甲1の1ないし3の写真に撮影されている眼鏡が眼鏡フレームのみな
らずレンズにも「Pleasure」の文字が存在している一方、原告のウェブ
サイトに掲載された「オグラ眼鏡店オリジナル」の商品の中に眼鏡のレ
ンズ部分に商標が刻印されているものが存在しないとしても、甲1の1
ないし3の写真に撮影されている眼鏡が実際に販売されたものであると
認められないことにはならない。
(イ) 前記第3の2〔被告の主張〕(2)イについて
甲2の1ないし5の「お客様カード」は、「Pleasure」の文字が記載さ
れた本件眼鏡フレームを用いた眼鏡の販売の事実を立証する証拠である。
原告は、これらの「お客様カード」に上記商標を記載したことが商標法
2条3項8号にいう「取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し」
た行為に該当するなどとは主張立証していないから、上記「お客様カー
ド」が同号にいう「取引書類」に該当しないとしても、前記(2)ないし(6)
の認定及び判断は左右されない。
ジャーナル(甲7の1ないし4)及び日計表(甲8の1・2)には、\n「オグラ眼鏡店亀有店」との記載があるが、これらの書類に記載された
店舗の電話番号は、原告のウェブサイトに記載されたオグラ眼鏡店イト
ーヨーカドー亀有駅前店の電話番号と同一であるから(乙4の1ないし
6)、上記資料に記載された「オグラ眼鏡店亀有店」はオグラ眼鏡店イト
ーヨーカドー亀有駅前店を指すと認められ、このことからすれば、甲2
の1ないし5の「お客様カード」に記載された「亀有店」もオグラ眼鏡
店イトーヨーカドー亀有駅前店を指すと認めることができるのであって、
これらの「お客様カード」は、オグラ眼鏡店イトーヨーカドー亀有駅前
店における売上げに関する資料であると認められる。
ジャーナル(甲7の1ないし4)は、これのみをもって本件眼鏡フレ
ームを用いた眼鏡の販売の事実を立証するものではなく、甲2の1ない
し5の「お客様カード」等の証拠を併せて上記販売の事実が立証されて
いるといえるから、甲7の1ないし4に本件商標あるいは「Pleasure」
の商標が記載されていないとしても、前記(2)ないし(6)の認定及び判断は
左右されない。
(ウ) 前記第3の2〔被告の主張〕(2)ウについて
前記(2)ないし(6)のとおり、甲4以外の証拠により、「Pleasure」の記載
のある眼鏡フレームを用いた眼鏡の販売の事実が立証されているといえ
るから、甲4に関する被告の主張は前記(2)ないし(6)の判断を左右しない。
なお、被告は、甲4が「商品に関する広告、価格表若しくは取引書類」\n(商標法2条3項8号)に該当しないから、商標の使用を立証するため
の証拠とならないという趣旨の主張をする。しかし、原告は、甲4を同
法2条3項8号にいう「取引書類」に該当すると主張するものではなく、
「Pleasure」の記載のある眼鏡フレームを用いた眼鏡の販売が同法50
条2項の使用に該当する旨主張しているのであり、このような使用を立
証するために証拠として提出する資料が上記「取引書類」に該当する必
要もないから、被告の主張は失当である。
(エ) 前記第3の2〔被告の主張〕(2)エについて
現在の原告のウェブサイトの「オグラ眼鏡店オリジナル」の箇所に
「Pleasure」又は「PLEASURE」という名称の商品が掲載されていない
としても、そのことをもって、前記(2)ないし(6)の認定及び判断は左右さ
れない。
乙3の1ないし6及び乙4の1ないし6のウェブサイトの画面が、甲
2の1ないし5において「Pleasure」の記載のある眼鏡フレームを用い
た眼鏡が販売されたとされる時期(令和2年11月11日から令和3年
3月7日)の原告のウェブサイトの画面であるか否かは、乙3の1ない
し6及び乙4の1ないし6の画面の内容からは明らかでない。また、仮
に上記画面が上記時期における原告のウェブサイトの画面であり、この
ウェブサイトに「Pleasure」又は「PLEASURE」の名称の商品が掲載さ
れていなかったとしても、このことから、上記時期において原告の店舗
で「Pleasure」の記載のある本件眼鏡フレームを用いた眼鏡が販売され
たことがあり得ないということはできない。
「オグラ眼鏡店新宿サブナード店」の店員が、令和5年4月29日、
被告代理人に対し、「『Pleasure』という商品は扱っていない、在庫切れ
ではなく全ての店舗において既にその商品はない、昔はあったが現在は
取り扱いがない。」という趣旨の回答をしたとの事実を裏付ける証拠は何
ら提出されていない。また、仮に、上記店舗の店員が上記発言をしたと
しても、その発言の根拠は明らかでなく、前記(2)ないし(6)の認定及び判
断を左右するものではない。
◆判決本文