商標登録の無効が争われました。審決は無効理由無し、知財高裁は4条1項15号違反と判断しました。争点は「化粧品」と「男性ファッション誌」との間で、混同を生ずるおそれがあるか否かです。
(ア) 前記(1)ウのとおり,本件雑誌には,少なくとも最近約10年間にわたり,
ほぼ毎号,化粧品についての記事が掲載されている。男性ファッション誌の主な対
象は服飾品であるものの,化粧品はファッション全般に関するものとして,男性フ
ァッション誌の対象とされているというべきである。
したがって,男性化粧品と男性ファッション誌は,共にファッションに関するも
のとして少なからぬ関連性を有するというべきである。
(イ) 男性化粧品と男性ファッション誌の需要者は,いずれも男性向けファッシ
ョンに関心のある者と考えられ,共通するというべきである。男性化粧品と男性フ
ァッション誌の取引者が異なるからといって,需要者の共通性は何ら否定されない。
したがって,男性化粧品と男性ファッション誌については,需要者が共通する。
(ウ) 本件商標の指定商品は,日常的に消費される性質の商品であり,その需要
者は特別の専門的知識経験を有する者ではないことからすると,これを購入するに
際して払われる注意力は,さほど高いものでないというべきである。
(3) 商標法4条1項15号該当性
以上のとおり,1)本件商標は,引用商標と外観において極めて類似し,観念及び
称呼において共通するのであって,本件商標と引用商標は,極めて類似したもので
あること,2)引用商標は,独創性が高いとはいえないものの,数十年にわたり,需\n要者の間に広く認識されていること,3)本件商標の指定商品(男性用化粧品)は,
原告の業務に係る本件雑誌(男性ファッション誌)の対象として,少なからぬ関連
性を有するもので,本件雑誌と需要者が共通することその他需要者の注意力等を総
合的に考慮すれば,本件商標を指定商品に使用した場合は,これに接した需要者に
対し,引用商標を連想させて,当該商品が原告あるいは原告との間に緊密な営業上
の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主\nの業務に係る商品であると誤信され,商品の出所につき誤認を生じさせるおそれが
あるものと認められる。
そうすると,本件商標は,商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれが
ある商標」に当たると解するのが相当である。
・・・
イ 被告は,本件雑誌の一部に掲載されているにすぎない化粧品について雑誌と
の強い関連性を認めるのは,本件雑誌で紹介される全ての商品について雑誌との強
い関連性を認めることとなり,ひいては指定商品「雑誌」について不当に広い権利
範囲を認めることとなり,不合理であると主張する。
しかし,前記(2)ウのとおり,本件雑誌にはほぼ毎号化粧品に関する記事が掲載さ
れ,化粧品自体,本件雑誌の対象であることが明らかな服飾品と少なからぬ関連性
を有するものである。そして,引用商標は長期間にわたって周知のものであること
に加え,原告がコラボレーション企画等を行っていることをも併せ考慮すれば,い
わゆる広義の混同が生じるおそれが認められる。
したがって,指定商品を男性用化粧品とする本件商標を15号該当とすることが
不合理であるとはいえない。
◆判決本文
地域団体商標を観念させるとして、15号違反に基づく無効を主張しました。審決は理由無し、知財高裁は理由ありと判断しました。本件商標は「豊岡柳(2段併記)」で、地域団体商標は「豊岡杞柳細工」です。
原告は,平成6年に,伝統的工芸品産業振興協会の伝統工芸士認定事業に
参加し,構成員10名が伝統工芸士の認定を受け,伝統的工芸品表\示事業を開始し
て,伝統証紙(経済産業大臣が指定した技術・技法,原材料で製作され,産地検査
に合格した製品に貼られる,「伝統マーク」をデザインした証紙)の表\示を始めた。
そして,原告は,その頃から,原告の商標として「豊岡杞柳細工」の使用を開始し,
平成13年には,更に構成員5名が伝統工芸士の認定を受けた。(甲6の9,7,\n8,9の4)
(ウ) 平成18年4月1日,地域団体商標制度が導入されたことから,原告は,
別紙引用商標目録記載のとおり,「豊岡杞柳細工」の文字からなる引用商標を出願
し,平成19年3月9日,指定商品を兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳
細工を施したこうり,柳・籐製のかご及び柳・籐製の買い物かごとする地域団体商
標として,設定登録を受けた。(甲2)
なお,地域団体商標の制度は,従前,地域の名称と商品(役務)の名称等からな
る文字商標について登録を受けるには,使用により識別力を取得して商標法3条2
項の要件を満たす必要があったため,事業者の商標が全国的に相当程度知られるよ
うになるまでの間は他人の便乗使用を排除できず,また,他人により使用されるこ
とによって事業者の商標としての識別力の獲得がますます困難になるという問題が
あったことから,地域の産品等についての事業者の信用の維持を図り,地域ブラン
ドの保護による我が国の産業競争力の強化と地域経済の活性化を目的として,いわ
ゆる「地域ブランド」として用いられることが多い上記文字商標について,その商
標が使用された結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表\示するもの
として需要者の間に広く認識されているときは,商標登録を受けることができると
するものである。また,地域団体商標は,事業者を構成員に有する団体がその構\成
員に使用をさせる商標であり,商品又は役務の出所が当該団体又はその構成員であ\nることを明らかにするものである。
・・・・
(オ) 前記(イ)のとおり,「豊岡杞柳細工」は,伝統的工芸品に指定されている
ため,通商産業省伝統的工芸品産業室が監修し伝統的工芸品産業振興協会が編集し
て年1回発行される冊子「伝統的工芸品の本」に毎回掲載され,豊岡杞柳細工の歴
史,特徴,製法等について,原告商品の写真と一緒に紹介されている。また,前記(ウ)
のとおり,引用商標は,地域団体商標として設定登録されているため,経済産業省・
特許庁が年1回発行する冊子「地域団体商標」に毎回掲載され,引用商標の構成,\n権利者,指定商品,原告商品の写真,連絡先及び関連ホームページのアドレスなど
が紹介されている。(甲6の9,21,22)
・・・
イ 前記アの認定事実によれば,豊岡杞柳細工は,豊岡地方において古くから製
作されてきたものであり,経済産業大臣により伝統的工芸品に指定され,「豊岡杞
柳細工」という引用商標が,地域団体商標として設定登録されているものである。
また,引用商標を付した原告商品は,豊岡地方に所在する店舗やミュージアム等の
施設で展示・販売されるほか,東京都内の百貨店等で展示会を開催し,インターネ
ットを介した通信販売をするなどして,豊岡地方以外でも販売されている。さらに,
原告商品は,伝統的工芸品に指定され,地域団体商標の登録を受けていることから,
経済産業省がそれぞれ年1回発行する冊子に毎年掲載されているほか,多数の書籍,
雑誌,テレビ等において,豊岡地方の伝統的工芸品であることや,その歴史,製法,
特徴等が紹介されている。これらの事情を考慮すると,引用商標を付した原告商品
は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,原告又はその構成員の業務を\n示すものとして,需要者の間に広く認識されており,一定の周知性を有していたも
のと認められる。
なお,引用商標は,地域の名称である「豊岡」と商品の普通名称である「杞柳細
工」を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる地域団体商標であるから,\nその構成自体は,独創的なものとはいえない。
(4) 商品の関連性その他取引の実情
ア 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 被告は,京都府に在住し,「拓心」の屋号で,かばんの企画,製造,販売
等の事業を営む者である。被告は,平成20年に,伝統的工芸品の作り手とデザイ
ナーやプロデューサーなど様々な分野の専門家が交流を図り,パートナーを選択し
て新商品開発研究を行って試作品を作り,発表し意見を求める展示会に参加する本\n件事業に加わり,原告のパートナーとなったが,新商品の開発には至らず,同事業
は終了した。(甲13の1〜5,23の2)
しかし,被告は,杞柳細工に商品価値を見出したことから,平成22年に本件商
標を出願し,平成23年に本件商標の設定登録を受けた。そして,被告は,本件商
標を付した柳細工のかばん(バッグ,アタッシュケース等。以下,被告の販売する
上記かばんを総称して「被告商品」ということがある。)の製造を開始した。(甲
1,12,23の2・5)
(イ) 被告商品は,豊岡地方のほか,京都府に所在する被告の店舗や百貨店等で
販売されている。また,平成25年及び平成26年に,社団法人京都国際工芸セン
ターにおいて,「豊岡柳KAGO展」などと題する展示会が1週間開催されるなど
した。(甲23の3・4)
さらに,被告商品は,被告が開設したウェブページや他のインターネットのサイ
トを介するなどして,通信販売も行われている。(甲23の1)
(ウ) 被告が作成した被告商品のパンフレットや,被告商品の展示会を紹介する
ウェブページには,本件商標及び被告商品の写真が掲載されている。そして,上記
パンフレット等に掲載された被告商品の写真は,原告のパンフレット等に掲載され
た,原告商品である杞柳細工のかばん類や籠類と外観が類似するものも少なくない。
(甲9の1〜5,10の1〜3,23の1,23の3〜6)
イ 本件商標の指定商品は,第18類「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具
入れ,かばん金具」である。一方,前記(3)のとおり,原告商品は,引用商標の指定
商品であるこうり(第18類),かご及び買い物かご(第20類)のほかに,ハン
ドバッグ,アタッシュケース等のかばん類も含むものである。
したがって,本件商標の指定商品と原告商品とは,商品の用途や目的,原材料,
販売場所等において共通し,同一又は密接な関連性を有するものであり,取引者及
び需要者が共通する。
また,前記アのとおり,被告商品のパンフレット等に掲載されている被告商品の
写真は,原告商品と外観が類似するものも少なくない。そして,本件商標の指定商
品である「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具」が日常的に
使用される性質の商品であることや,その需要者が特別の専門的知識経験を有する
者ではないことからすると,これを購入するに際して払われる注意力は,さほど高
いものではない。
このような被告の本件商標の使用態様及び需要者の注意力の程度に照らすと,被
告が本件商標を指定商品に使用した場合,これに接した需要者は,前記(2)のとおり
周知性を有する「豊岡杞柳細工」の表示を連想する可能\性がある。
(5) 小括
以上のとおり,1)本件商標は,外観や称呼において引用商標と相違するものの,
本件商標からは,豊岡市で生産された柳細工を施した製品という観念も生じ得るも
のであり,かかる観念は,引用商標の観念と類似すること,2)引用商標の表示は,\n独創性が高いとはいえないものの,引用商標を付した原告商品は,原告の業務を示
すものとして周知性を有しており,伝統的工芸品の指定を受け,引用商標が地域団
体商標として登録されていること,3)本件商標の指定商品は,原告商品と同一又は
密接な関連性を有するもので,原告商品と取引者及び需要者が共通することその他
被告の本件商標の使用態様及び需要者の注意力等を総合的に考慮すれば,本件商標
を指定商品に使用した場合は,これに接した取引者及び需要者に対し,原告の業務
に係る「豊岡杞柳細工」の表示を連想させて,当該商品が原告の構\成員又は原告と
の間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属す\nる関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信され,商品の出所につき誤認を
生じさせるとともに,地域団体商標を取得し通商産業大臣から伝統的工芸品に指定
された原告の表示の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその\n希釈化(いわゆるダイリューション)を招くという結果を生じかねない。
そうすると,本件商標は,商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれが
ある商標」に当たると解するのが相当である。
◆判決本文
ワンポイントの図形商標について、知財高裁は「著名であるので混同する」と判断し(15号違反)、混同しないとした審決を取り消しました。
このように,本件商標がワンポイントマークとして表示される場合などを考える\nと,ワンポイントマークは,比較的小さいものであるから,そもそも,そのような
態様で付された商標の構成は視認しにくい場合があるといえる。また,マーク自体\nに詳細な図柄を表現することは容易であるとはいえないから,スポーツシャツ等に\n刺繍やプリントなどを施すときは,むしろその図形の輪郭全体が見る者の注意を惹
き,内側における差異が目立たなくなることが十分に考えられるのであって,その\n全体的な配置や輪郭等が引用商標と比較的類似していることから,ワンポイントマ
ークとして使用された場合などに,本件商標は,引用商標とより類似して認識され
るとみるのが相当である(本件商標と引用商標の差異のうち,比較的特徴的である
といえる白抜きの逆三角形部分についても,外観において紛れる場合が見受けられ
る。)。さらに,多数の商品が掲載されたカタログ等や,スポーツの試合観戦の場合
などにおいては,その視認状況等を考慮すると,特に,外観において紛れる可能性\nが高くなるものといえる。
また,本件商標の指定商品は,「被服」を始め「帽子,メリヤス靴下,スカーフ,
サンダル靴,ティーシャツ」等であり,日常的に消費される性質の商品が含まれ,
スポーツ用品(運動用具)関連商品を含む本件商標が使用される商品の主たる需要
者は,スポーツの愛好家を始めとして,広く一般の消費者を含むものということが
できる。そして,このような一般の消費者には,必ずしも商標やブランドについて
正確又は詳細な知識を持たない者も多数含まれているといえ,商品の購入に際し,
メーカー名やハウスマークなどについて常に注意深く確認するとは限らず,小売店
の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくないと考えら
れる。
(6) 混同を生ずるおそれについて
本件商標と引用商標は,全体的な構図として,配置や輪郭等の基本的構\成を共通
にするものであり,本件商標が使用される商品である被服等の商品の主たる需要者
が,商標やブランドについて正確又は詳細な知識を持たない者を含む一般の消費者
であり,商品の購入に際して払われる注意力はさほど高いものとはいえないことな
どの実情や,引用商標が我が国において高い周知著名性を有していることなどを考
慮すると,本件商標が,特にその指定商品にワンポイントマークとして使用された
場合などには,これに接した需要者(一般消費者)は,それが引用商標と全体的な
配置や輪郭等が類似する図形であることに着目し,本件商標における細部の形状(内
側における差異等)などの差異に気付かないおそれがあるといい得る。
また,引用商標は,スポーツ用品(運動用具)関連の商品分野において,原告の
商品を表示するものとして,需要者の間において著名であるところ,本件商標の指\n定商品には,引用商標の著名性が需要者に認識されているスポーツ用品(運動用具)
関連の商品を含むものであるから,本件商標をその指定商品に使用した場合には,
これに接する需要者は,著名商標である引用商標を連想,想起して,当該商品が原
告又は原告との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグ\nループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるもの
というべきである。
したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当するものとして商標登録
を受けることができないというべきであるから,これと異なり,本件商標が同号に
該当しないとした審決の判断には誤りがあるといわざるを得ない。
(7) 被告の主張について
ア 被告は,本件商標と引用商標とは,審決が認定した差異以外に,商標の
縦横比の相違,左端頂部の高さの相違,左上部の左傾斜直線の長さの相違を有する
ものであり,看者に与える印象が大きく異なるというのが相当であるから,外観に
おいて混同を生ずるおそれはない旨主張する。
確かに,本件商標と引用商標とを対比すると,前記のとおり,具体的な構成にお\nいていくつかの相違点が認められるものである。しかしながら,前記認定のとおり,
引用商標は,前記のような図柄であって,原告の商品を表示するものとして,いわ\nゆるスポーツ用品関連の商品分野において,高い著名性を有していたことに照らせ
ば,被告が指摘するような具体的構成における差異が存在するとしても,引用商標\nと全体的な輪郭等の構成が共通していると認められる本件商標をスポーツ用品関連\nの商品を含む本件商標の指定商品に付して使用した場合には,これに接する需要者
において,当該商品が原告又は原告との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示に\nよる商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤
信するおそれがあるものというべきである。
また,具体的な構成において引用商標と相違する点があるとしても,その全体的\nな輪郭等の構成が引用商標と客観的に類似性の高いものとなっており,これをワン\nポイントマークとして使用した場合などには,一般の消費者の注意力などをも考慮
すると,出所の混同を生ずるおそれがあることは前記のとおりである。
なお,商標法4条1項15号該当性の判断は,当該商標をその指定商品等に使用
したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営
業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営\n業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれが存するかどうかを問題とする
ものであって,当該商標が他人の商標等に類似するかどうかは,上記判断における
考慮要素の一つにすぎないものである。被告が主張するような差異が存在するとし
ても,その点については,本件商標の構成において格別の出所識別機能\を発揮する
ものとまではいえないし,単に本件商標と引用商標の外観上の類否のみによって,
混同を生じるおそれがあるか否かを判断することはできない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
侵害事件において、商標「フェルガード」と「フェルゴッド」が非類似と判断されました。
まず,本件商標と被告各標章「フェルゴッド」との部分からは,いずれも特定の
観念を生じないものである。
次に,本件商標からは「フェルガード」の称呼を生じ,被告各標章の「フェルゴ
ッド」の部分からは「フェルゴッド」の称呼を生じるところ,両称呼は,「フェル」
で始まり「ド」で終わるとの点において共通するが,両称呼を一連に称呼した場合
には,称呼全体の語調,語感において異なる印象を与えるものというべきである。
さらに,本件商標と被告各標章の「フェルゴッド」の部分の外観についてみても,
同様に「フェル」で始まり「ド」で終わるとの点において共通するが,本件商標は
「フェルガード」(標準文字)から成り,「フェル」や「ド」の部分が特に強調さ
れているということもなく,この点は被告各標章の「フェルゴッド」の部分につい
ても同様であるから,本件商標と被告各標章の「フェルゴッド」の部分とを一体的
に観察すれば,両者の外観は異なる印象を与えるものというべきである。
以上によれば,本件商標が付された原告商品と被告各標章が付された被告各商品
とがいずれもフェルラ酸とガーデンアンゼリカを主成分とする健康補助食品であり,
いずれも白色系統色を基調とする外箱を包装とする点,通信販売により販売されて
いる点,認知症の患者及びその家族を需要者とする点などにおいて共通すること,
本件商標が付された原告商品について紹介する書籍,論文,記事等が複数存在する
ことを考慮しても,なお,本件商標と被告各標章とを対比したときに,需要者にお
いて,商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできない
から,被告各標章は,本件商標に類似しないというべきである。
・・・
ア 原告は,本件商標を付した原告商品が,フェルラ酸を使用した認知症サプリ
メントの先駆け的な商品であって,「フェルラ酸含有食品」といえばまず本件商標
を想起するというほど,本件商標は,医師,認知症患者及びその家族のみならず,
全国的に周知された著名な商標であると主張する。
そこで検討するに,前記4(ア)のとおり,確かに,原告商品を紹介する書籍,論文,
記事等が複数存在することが認められる。しかしながら,上記各書籍の発行部数等
は明らかではないし,論文や会議での発表についてはその対象が相当程度限定され\nたものであることが推認できるほか,上記雑誌等の紹介記事をもっても,本件商標
が具体的にどの程度認知されているのかは判然としないというほかはない。現に,
原告自身が提出する証拠によっても,原告商品の利用者数は5000人ないし60
00人というのであって,我が国の人口や,そのうち認知症に罹患していると推定
される患者数やその家族の人数との比較からしても,本件商標が全国的に周知され
た著名な商標であるとは認め難いというほかはない。よって,本件商標の周知性,
著名性を前提として本件商標と被告各標章との対比を行うべきかのような原告の主
張は採用することができない。
◆判決本文
◆原審はこちら。平成28(ワ)8027
2017.02. 8
図形商標「図形(舞妓さん)+京都赤帽」が、文字商標「赤帽」と非類似と判断されました。
以上に基づき,原告商標1と被告標章1の類否についてみるに,これら
を全体的に観察した場合には,外観,称呼及び観念がいずれも大きく相違
する。また,被告標章1のうちその構成上その余の部分と識別可能\な「京
都赤帽」との文字部分のみをみた場合でも,原告商標1とは「京都」の有
無並びに文字数(2字か4字か)及び音数(4音か7音か)が異なってお
り,外観,称呼及び観念共に明確に区別し得ると解される。さらに,原告
商標1と被告標章1は,被告標章1に「赤帽」の文字が含まれることから
称呼等の一部に共通点があるが,被告標章1の構成上この2字のみに着目\nすることは困難と解される上,「赤帽」の語は前記意味を有する普通名詞
であることに照らすと,上記共通点を類否の判断において重視することは
相当でない(なお,原告商標1が周知であるとの原告の主張については後
述する。)。
これに加えて,取引の実情をみるに,本件の証拠上,被告標章1の使用
により原告と被告の提供する役務の間に出所の混同ないしそのおそれが
生じていること,例えば,原告商標1の指定役務の需要者において,地名
と「赤帽」の語を組み合わせた名称が原告(その組合員を含む。以下同じ。)
の提供する役務を示すものとして広く認識されていること,被告の提供す
る役務が「あかぼう」と略称されていること,原告が舞妓を想起させる図
形を被告による使用開始前から用いていることなどの事情はうかがわれ
ない。
以上によれば,原告商標1と被告標章1は類似しないと判断するのが相
当である。
エ これに対し,原告は,被告標章1のうち「赤帽」以外の部分が識別力を
有しないこと,原告商標1が周知であることを理由に,「赤帽」の部分が
被告標章1の要部であり,これが原告商標1と同一であるので,被告標章
1は原告商標1に類似する旨主張する。
そこで判断するに,被告標章1の構成は前記イのとおりであり,「赤帽」\nの文字は「京都赤帽」という一連表記された文字列の一部に存するにとど\nまる一方,舞妓の図形が中央上部に大きく配置されており,これが被告標
章1に接する者の注意を引くことに照らすと,被告標章1のうち「赤帽」
の部分のみが識別力を有し,その余の部分から出所識別機能としての称呼\n又は観念が生じないとは認められない。
また,原告商標1の周知性を裏付ける証拠として原告が提出するのは,
昭和52年〜56年の新聞記事(甲53〜59,60の1),原告作成の
機関誌等(甲60の2〜5)のほか,一部(平成20年発行のサンデー毎
日。甲68)を除いては広く頒布されているか定かでない雑誌の記事等や
放映地域が限られたテレビ報道等(甲70〜75,78,79),専ら子
供向けと解される書籍又は玩具(甲69の1及び2,76,77)にとど
まる。さらに,これらの証拠上も,原告が常に「赤帽」と略称されるので
はなく,「Akabou」,「あかぼう」等の表示も用いられていること\nが認められる。そうすると,「赤帽」の表示が原告の提供する役務を示す\nものとして原告商標1の指定役務の取引者又は需要者に広く認識されて
いると認めるに足りないから,被告標章1のうち「赤帽」の部分が役務の
出所識別標識として強く支配的な印象を与えると解することは困難であ
る。
したがって,本件において被告標章1の構成から「赤帽」の部分を抽出\nしてこの部分だけを原告商標1と比較して商標の類否を判断することは
相当でなく(最高裁平成20年9月8日判決・裁判集民事228号561
頁参照),原告の上記主張を採用することはできない。
◆判決本文