2019.12. 4
登録商標「MMPI」第44類 心理検査について、「MMPI−1 性格検査」としての使用は、みなし侵害行為であると認定されましたが、商26条によって効力が及ばないと判断されました。
(2)ア 前記(1)ウ(被験者がパソコン画面を見ながら回答)の場合について\n
心理検査は,被験者が質問に回答し,その回答を基準に照らして判定(診
断及び解釈)し,判定結果を一定の目的のために利用するものであるから,
心理検査を役務としてみた場合,その中核は,同検査の実施主体(心理検査
の役務を提供する主体)による回答の判定(診断及び解釈)部分にあると解
される。
前記(1)ウの場合,心理検査の役務を提供するのは被告ソフトの購入者で\nあり,被告ソフトは,同役務の提供を受ける者(被験者)の利用に供する物\nに当たるところ,被告ソフトのパッケージにはそれぞれ本件商標と類似する\n被告標章3が付されており,被告は購入者をして同役務の提供をさせるため
に被告ソフトを販売しているのであるから,かかる被告の行為は,少なくと\nも法37条4号のみなし侵害行為に当たる。
イ 前記(1)イ(1)(購入者が被告質問用紙等及び被告ソフトを使用)の場合\n この場合,心理検査の役務を提供する主体は被告各商品の購入者であり,
被告質問用紙等は,同役務の提供を受ける者(被験者)の利用に供する物に
当たるところ,被告質問用紙等にはそれぞれ本件商標と類似する被告標章1
又は2が付されており,被告は上記購入者をして同役務の提供をさせるため
に被告質問用紙等を販売しているのであるから,かかる被告の行為は,少な
くとも法37条4号のみなし侵害行為に当たる。
ウ 前記(1)イ(2)(被告サービスを利用)の場合につき検討する。
この場合も,心理検査の役務を提供する主体は被験者に受検をさせる被告
回答用紙等の購入者(被告サービスの委託者)と解されるが,上記委託者は,
検査結果の判定部分を被告に委託して心理検査を行っており,被告は,被告
サービスを受託することにより心理検査の役務の一部であるが中核たる判
定業務を実行しているといえるから,被告が被告サービスを提供する行為は,
委託者による心理検査の役務の一部をなす。一方,被告が被告サービスとい
う役務を提供する直接の相手方は上記委託者であるが,同委託者は心理検査
の役務の需要者に含まれるし,被告の上記役務があってこそ同委託者の役務
が遂行される関係のものである。そうすると,被告による被告サービスの提
供は,心理検査の役務又はこれに類似する役務に当たるというべきである。
したがって,被告が被告サービスに基づいて委託者に交付する被告診断結
果書に本件商標に類似する被告標章4を付する行為は,「役務の提供に当た
りその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務
を提供する行為」(法2条3項4号)に該当するから,かかる行為は,指定
役務又はこれに類似する役務についての登録商標に類似する商標の使用に
当たり,法37条1号のみなし侵害行為に該当する。
エ 広告について
被告は,心理検査の役務に類似する役務に当たる被告サービスの提供に係
る被告ウェブサイト上の広告に被告標章5を掲載しているのであるから,役
務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供す
る行為(法2条3項8号)をしているということができる。かかる行為は,
指定役務たる心理検査の役務に類似する役務についての本件商標に類似す
る商標の使用に当たるから,法37条1号のみなし侵害行為に該当する。
・・・
(1) 法26条1項3号にいう役務の「質」とは,その語義からして,役務の内容,
中身,価値,性質などを意味するものと解されるところ,「MMPI」は,前
記1のとおり,質問紙法検査に基づいて性格傾向を把握する心理検査の名称で
ある「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」(ミネソタ多面的人\n格目録)の略称であり,本件商標の指定役務である心理検査の需要者,取引者
において,心理検査の一手法である本件心理検査又はその略称を示すものとし
て周知であると認められるから,心理検査の内容,すなわち「質」を表すもの\nということができる。
また,被告各標章は,いずれも,明朝体様やゴシック体様といったありふれ
た書体で構成されているものである。\n そうすると,「MMPI」を含む被告各標章は,いずれも本件商標の指定役
務である心理検査又はこれに類似する役務ないし商品の「質」を,普通に用い
られる方法で表示するものということができるから,被告各標章は,法26条\n1項3号に該当し,本件商標権の効力は及ばない。
(2) これに対し,原告は,「MMPI」は,役務の普通名称又は質を表示するも\nのではなく,原告が長年にわたり独占的に提供してきた心理検査等役務を表す\nものとして識別力を獲得していたものであって,被告は,自他を識別する態様
で本件商標に類似する被告各標章を使用していると主張する。
ア この点について,確かに,証拠によれば,原告が,昭和38年以降,原告
版の質問票や回答用紙に「MMPI」の標章を用いていること(甲43〜5
3,74,75),「MMPI」の標章を用いた原告版のカタログを毎年発
行していること(甲39〜42),「MMPI」の標章を用いた原告版のマ
ニュアルを販売していること(甲32),原告が精神医学,心理学等の専門
誌,学会誌等に「MMPI」の標章を用いた広告を多数掲載してきたこと(甲
55〜60,100〜145),精神医学,心理学等の専門書等には,原告
版を本件心理検査の日本語版である趣旨の紹介をするものが多数あること
(甲7〜9,81〜95)などの事実が認められる。
イ(ア) しかし,原告が昭和38年(1963年)から平成4年(1992年)
まで使用していた質問票(甲43)は,表紙上部に「日本版MMPI質問\n票」と記載され,その下に原著がハサウェイとマッキンレーであることな
どが記載されているから,「MMPI」の表示は,当該質問票を用いて行\nわれる心理検査の種類・方法としての本件心理検査を示しており,需要者,
取引者にもそのように理解されるものというべきである。
また,平成27年(2015年)以降の新版質問票(甲44〜47,7
4)は,表紙左上部に「Minnesota」,「Multiphasic」,「Personality」,
「Inventory」と4段組みに記載されており,その直下にはハサウェイら
の名前が記載され,その右側には「MMPI新日本版研究会」と記載され
ているものであるが,同記載も,同様に行われる心理検査の種類・方法と
しての本件心理検査を示しており,需要者,取引者にもそのように理解さ
れるものというべきである。
新版回答用紙(甲48〜53,75)には,「MMPI III型 回答用
紙」などとあるだけで,原著作者の記載等はないが,回答用紙が通常は質
問票とセットで利用されるものであることからすると,需要者,取引者は
「MMPI」が行われる心理検査の種類・方法としての本件心理検査を意
味するものと理解するものと考えられる。
(イ) 次に,原告版のカタログ(甲39〜42)につきみると,「MMPI」
が単独で表記されている部分もあるものの,昭和43年(1968年),\n昭和48年(1973年),平成5年(1993年)の各カタログ(甲3
9〜41)には,「MMPI」がハサウェイ教授らによって発表された心\n理検査である旨の解説が付されており,平成30年(2018年)のカタ
ログ(甲42)にも「MMPIの実施法・まとめ」,「MMPI新日本版」
などと記載されている。これらの記載は,「MMPI」を心理検査の種類・
方法としての本件心理検査を表示するものであり,需要者,取引者もその\nように理解するものというべきである。
(ウ) さらに,原告のマニュアル(平成5年(1993年)版。甲32)の表\n紙には前記の新版質問票と同様の記載があり,扉の部分には「新日本版M
MPIマニュアル」と記載され,本文部分においても,「第1章 MMP
Iの概要」に本件心理検査についての説明がされているのであるから,同
マニュアルにおいても,「MMPI」の表示は本件心理検査を意味するも\nのとして用いられているということができる。
(エ) その他,専門誌,学会誌等への広告(甲55〜60,100〜145)
及び精神医学,心理学等の専門書等(甲7〜9,81〜95)においても,
「MMPI」は心理検査の種類・方法であることを前提とした記載がされ
ているにすぎず,これが原告の役務であることを示す記載は見当たらない。
(オ) 以上のとおり,原告作成に係る質問票,回答用紙,カタログ及びマニュ
アル並びに広告や専門書における「MMPI」の使用は,いずれもこれが
心理検査の種類・方法としての本件心理検査を表示するものにすぎず,他\nに「MMPI」が,原告が提供する心理検査等役務を表すものとして識別\n力を獲得したと認めるに足りる証拠はない。
そうすると,原告が長年にわたり「MMPI」の商標を用いて独占的に
心理検査等役務を提供しており,その質問票,回答用紙,カタログ及びマ
ニュアル並びに広告や専門書において「MMPI」との表示をしてきたと\nしても,それをもって,原告が提供する役務を表すものとして識別力を獲\n得したということはできない。
ウ 原告は,原告が行う心理検査等役務は,本件心理検査に由来・関連するが,
質問項目の言語,項目数及び配列,採点基準,実施方式において本件心理検
査と異なる原告独自のものであり,原告の提供する役務として識別力を獲得
したと主張するが,上記のとおり,原告は,質問票やカタログ等において,
「MMPI」の日本版であることを表示し,また,「MMPI」についてミ\nネソタ大学のハサウェイ教授等により発表\された人格目録テストであるな
どの説明をしている上,質問項目数の差異も重複した質問を含むかどうかの
違いにすぎない。そうすると,原告が行う心理検査等役務は,我が国の社会,
文化等に合わせて「MMPI」を翻訳・標準化したものであって,原告が独
自に開発した心理検査であるということはできず,また需要者,取引者が原
告の提供する心理検査等役務を原告独自のものと認識していたことを示す
証拠もない。
エ 他方,被告が使用する各標章についてみると,(1)被告標章1は,被告質問
用紙の表紙上部に「MMPI−1 性格検査」と記載されたもの,(2)被告標
章2は,被告回答用紙に「MMPI−1 回答用紙」と記載されたもの,(3)
被告標章3は,被告ソフトのパッケージの表\紙に「MMPI−1性格検査」
と記載されたもの,(4)被告標章4は,診断結果書の1枚目に「MMPI−1
自動診断システム」と記載されたもの,(5)被告標章5は,被告のウェブサイ
ト上の被告各商品や被告サービス等の広告において,「MMPI−1性格検
査」と記載されたものである。
原告は,被告各標章が自他の役務を識別する態様で使用されていると主張
するが,上記の被告各標章の表示内容及び態様によれば,被告各標章は,本\n件心理検査による「性格検査」,本件心理検査の質問項目に対する「回答用
紙」,本件心理検査を利用した「自動診断システム」を意味し,いずれも被
告各商品や被告サービスに係る心理検査の種類・方法が本件心理検査である
ことを題号等において表示しているにすぎないというべきである。このよう\nに,被告各標章における「MMPI」は,本件心理検査を意味するものとし
て使用されているのであるから,これを被告が識別力を有する態様で使用し
たものであるということはできない。
(3) 以上のとおり,被告各標章は,いずれも本件商標の指定役務である心理検査
又はこれに類似する役務ないし商品の「質」を,普通に用いられる方法で表示\nするものということができるから,法26条1項3号に該当し,本件商標権の
効力が及ばない。
◆判決本文
商標権侵害事件です。大阪地裁21部は、(「COCO♡Ballet School」が、原告商標「CoCoバレエ」に類似すると判断しました。原告代理人なしで、保佐人弁理士がついてます。
ア 本件商標は,欧文字の「CoCo」とカタカナの「バレエ」という標準文字
の文字列が横並びに配置されており,これから生ずる称呼は「ココバレエ」であり
(争いなし。),バレエに関連する役務という観念を生じる。
被告各標章の外観及び称呼(「ココバレエスクール」)について,原告が要部と
主張する点以外に争いはない。
被告各標章からは,バレエスクールに関連する役務という観念を生じる。被告は,
被告各標章から,「『STUDIO COCO』のバレエスクール」という観念を
生じると主張するところ,バレエスクールの需要者(バレエを習おうとする者やそ
の保護者)が,被告の家族が経営し,ほぼ売上のない事業である「STUDIO C
OCO」を認識しているとは考えることはできないから(乙4,5),そのような
特定のバレエスクールとの観念を生じるという上記被告の主張は採用できない。
イ 本件商標及び被告各標章は,「CoCo」,「COCO」又は「ココ」の部
分とこれ以外の部分の結合により構成されている。\nもっとも,本件商標において,「CoCo」と「バレエ」は横並びで同じ大きさ
の標準文字で記載されており,被告各標章の「COCO」又は「ココ」とそれ以外
の部分も,いずれも横並びで類似の字体・色・装飾・大きさであり,その間に挿入
される「♡」又は「❤」(被告標章1,3,5,6)もそれぞれ上記文字列と同じ色・
大きさで記載されていることから,本件商標及び被告各商標の構成部分の一部がと\nりわけ強く需要者の注意を惹くとは考えられず,あえて分離して観察することは適
切ではないと解される。
ウ これを前提に,本件商標と被告各標章の全体について,外観・称呼・観念の
類否を検討する。
本件商標と被告各標章(被告標章2を除く。)の外観は,いずれも横並びで
同じ文字色の「CoCo」(本件商標)又は「COCO」(被告標章2を除く被告
各標章)と「バレエ」(本件商標),「バレエスクール」,「Ballet Sc
hool」,「BALLET SCHOOL」(被告標章2を除く被告各標章)と
いう文字で構成されており,「スクール」,「School」,「SCHOOL」\nには「学校」や「(バレエ)教室」という以外の特段の意味がないことに鑑みれば,
本件商標と被告標章2を除く被告各標章は,その字体,欧文字について大小文字の
区別,装飾,文字色及び間にハートマークが挿入されるか否かという小さな相違点
はあるものの,全体として外観が類似しているということができる。
また,被告標章2の外観は,「ココバレエスクール」という横並びのカタカナで
あるところ,本件商標とは,「CoCo」と「ココ」という欧文字とカタカナの部
分が異なるが,「バレエ」というカタカナは一致しており,外観はある程度類似し
ているといえる。
本件商標と被告各標章の称呼は,それぞれ「ココバレエ」と「ココバレエス
クール」であり,上記のとおり「スクール」には特段の意味がないことに鑑みれば,
本件商標と被告各標章の称呼も類似しているということができる。
本件商標と被告各標章の観念について,いずれも「ココ」という称呼の部分
は特定の観念を持たないため,それぞれ,「バレエに関連する役務」と「バレエス
クールに関連する役務」という観念となり,類似しているということができる。
以上より,本件商標と被告各標章を全体として観察すると,外観,称呼,観
念が類似するものと認められる。
(2) 出所混同のおそれ
ア 双方の使用の態様,経緯
被告は,平成13年より,相模原市,町田市において,教室を借りて被告ス
クールを営むようになり,当初は「●略●」,平成13年より「●略●」の名称を
使用していた。被告の父であるP3は,平成20年8月,被告のために,バレエレ
ッスン用のスタジオである「Studio CoCo」を町田市●略●に建て,以
後,被告は,同スタジオで被告スクールを営んだ。被告は,平成28年に病気をし
たことを契機に,●略●の通称を使用するようになり,そのころ,これに伴って被
告スクールの名称も,スタジオの名称をとって「COCO♡Ballet Scho
ol」に改め,以後これを使用するようになった。被告スクールは,地元だけで活
動してきた小さな教室とされる(甲3,13,15,乙4,5)。
被告は,被告ウェブサイト1のヘッダー及びフッター部分において被告標章
1を,ヘッダー部分及び「About」という項目の下の文章中において被告標章
2を,「News」という項目の下の文章中において被告標章3を,「Sched
ule」という項目の下のスケジュール表のファイル名として被告標章4を,被告\nウェブサイト2のヘッダー部分において被告標章5を,問合わせ用のページにおい
て被告標章6を使用していた(甲4,5)。
原告は,平成元年から大阪市内において原告スクールを運営し,自らのウェ
ブサイトや定期発表公演のパンフレットにおいて本件商標を使用している。原告ス\nクールは被告スクールに比して規模が大きく,知名度においても上回っていると認
められる(甲9〜11)。
平成31年1月11日以前は,インターネット上の検索エンジンにおいて,
「ココバレエスクール」又は「COCOバレエ」を検索語として用いて検索した場
合,検索結果において,原告スクールと被告スクールが上下に並んで表示された(甲\n6,8)。
イ 検討
このような本件商標及び被告各標章の使用態様からすれば,需要者である,バレ
エを習おうとする者やその保護者が,インターネットを利用して検索等した場合,
原告スクールと被告スクールとの間に何らかのつながりや提携関係があるものと誤
認する可能性があったというべきであり,本件商標と被告各標章には,出所混同の\nおそれがあったと認められる。
(3)被告の主張について
被告は,「COCO♡Ballet School」という被告スクールの名称や,
これに由来する被告各標章は,P3が被告スクールと同じ場所で経営する「STU
DIO COCO」の名称からとったものであり,被告スクールは小規模な地元密
着の教室であって,その旨は被告ウェブサイトにおいて明示されているから,出所
混同のおそれはないと主張し,被告本人及びP3は,これに沿う陳述書(乙4,5)
を証拠として提出する。
しかし,P3の経営する「STUDIO COCO」は,バレエのレッスンや貸
しスタジオとして使用する小規模な教室であり,格別の周知性を有するとは認めら
れないから(甲3,乙5),被告各標章に接した需要者が,「STUDIO CO
CO」より派生した事業であると認識するとは考え難い。また,被告ウェブサイト
において,被告スクールが東京都町田市所在であることや,生徒募集の範囲が町田
市及び相模原地域であることは記載されているものの,離れた地域にあるバレエ教
室が互いに提携関係にある可能性もあるから,被告ウェブサイトにおいて被告各標\n章に接した需要者が,原告スクールとつながりがあるものと誤認する可能性を否定\nすることはできない。
したがって,上記被告の主張を採用することはできない。
(4) まとめ
以上より,本件商標と被告各標章は,外観・称呼・観念が類似し,出所混同のお
それがあり,前記前提事実のとおり指定役務が同一であると認められるから,全体
として,被告各標章は本件商標に類似するというべきである。
・・・
ア 使用料相当額
原告は,本件商標の使用料相当額について1か月あたり6万円と主張し,原
告スクールがニューヨーク市所在のバレエスクールと提携関係にあるとして(甲1
6),同スクールへの留学を希望する生徒の募集を目的とした首都圏のバレエスク
ールとの提携や,そのために本件商標の使用を許諾して使用料を徴収することを構\n想している旨を主張するが,実際にそのような使用料額の支出を内容とする契約が
締結されたことの主張・立証はない。
前記認定のとおり,本件商標と被告各標章の誤認混同のおそれは,インター
ネット上で生じるものと解されるが,本件商標が表象するのは,インターネット上\nの物品の販売又はサービスの提供ではなく,バレエの教授という現実に提供する役
務である。そして,原告スクールは大阪市に,被告スクールは町田市にあって地理
的に全く離れているから,原告スクールの会員が,被告各標章を見たことで被告ス
クールに移籍したり,原告スクールに入会しようとした者が,被告各標章を見たこ
とで被告スクールに入会するといった形で誤認混同が生じ,原告に経済的損失が生
じたとの事実は,主張も立証もされていない。
また,前記認定したところによれば,被告は,被告各標章を,本件商標の登
録以前より使用しており,P3が建てたスタジオの名称をとって被告各標章を定め
たものであり,平成30年6月に原告に警告されて初めて本件商標の存在を知った
と認められるから,本件商標の顧客吸引力や信用を利用することを目的として,被
告各標章を使用したものでないことは明らかである。
以上を総合すると,原告に 経済的損失が認められず,
被告各 抽象的に誤認混同のおそれのある被告各標章が排除されなかったことによる損害が認められるにすぎないから,これに対する損害金としては,1か月1万円をもって相当と認める。したがって,商標法38条3項により,原告の損害となるべき平成29年9月12日から平成31年1月11日までの使用料相当額は,16万円(1万円×16か
月)となる。
イ 弁理士費用相当額
本件訴訟提起に至る経緯,前記認定した被告の商標権侵害となる行為の態様等を
総合すると,被告の行為と,補佐人である弁理士の費用との間に,相当因果関係を
認めることはできない。
◆判決本文
2019.01. 4
商品と小売サービスが類似するとした審決が維持されました。
本願商標の指定商品は,第9類「電子出版物」及び第16類「雑誌,書
籍」(本願指定商品)を含むところ,近年,「従来は本や雑誌の形で提供
されていた情報を,デジタル化したソフトの形で,あるいはパソ\コン,タ
ブレット端末,スマートホン,電子書籍リーダーなどを使ってアクセスで
きる形で提供する出版」である電子出版が盛んになり,現に,紙に印刷さ
れた商品「印刷物」の一種である「雑誌」や「書籍」の内容(コンテンツ)
が,電子化された「電子出版物」として需要者へ広く配信(販売)される
など,両者は相互に密接な関連性を有している。
そして,本願指定商品はいずれも,主に書籍や雑誌,電子出版物などの
出版を行う事業所である出版社により制作,販売される商品であり,多岐
にわたる年代層の個人から各種教育機関等の幅広い需要者に対して,書店
又はオンライン書店を通じて販売されている。
イ 引用商標の指定役務中,第35類「印刷物の小売又は卸売の業務におい
て行われる顧客に対する便益の提供」(以下,この役務中,小売と関連す
る役務を「引用小売役務」という。)は,雑誌や書籍等の印刷物及び印刷
物と密接な関連性を有する電子出版物を取り扱う小売又は卸売の業務にお
いて行われる顧客に対する便益の提供である。
そして,引用小売役務は,主に書籍や雑誌,電子出版物を小売する書店
により提供される役務であり,多岐にわたる年代層の個人から各種教育機
関等の幅広い需要者に対して,主として書店又はオンライン書店において
提供される。
(3) 本願指定商品と引用小売役務との関連性について
本願指定商品と引用小売役務は,いずれも電子出版物又は印刷物を取り扱
う商品又は役務であるところ,その商品の販売場所及び役務の提供場所が一
致し(書店又はオンライン書店),需要者の範囲も一致(幅広い需要者層)
する。
さらに,本願指定商品と引用小売役務は,主に出版社又は書店により製造,
販売又は提供されているとはいえ,同一営業主により製造,販売又は提供さ
れている実情があり,いわゆる出版社が自己又はそのグループ会社が運営す
るウェブサイト又は店舗において,電子出版物,書籍又は雑誌を販売(小売)
している事例に加え,書店として小売事業を展開する事業者が,書籍や雑誌
の制作,出版をする事例も複数挙げることができる(乙8〜20)。
(4) 以上のとおり,本願指定商品と引用小売役務は,その商品の販売場所及び
役務の提供場所,並びに需要者の範囲が一致するため,相互に密接な関連性
を有する。さらに,これらは同一の営業主によって製造,販売又は提供され
ている実情がある。このような取引の実情を踏まえると,これら商品及び役
務に同一又は類似の商標を使用するときは,同一営業主の製造,販売又は提
供に係る商品又は役務と誤認混同を生じるおそれがあるというべきである。
したがって,本願指定商品は引用小売役務と類似する。
◆判決本文