2021.10.19
令和3(行ケ)10071 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和3年10月14日 知的財産高等裁判所
無効審判の審決取消訴訟です。争点は、商標「pum’s」がpumaと類似(11号)または混同するか(15号)です。指定商品は18類「折り畳み式傘,晴雨兼用傘,ビーチパラソル,日傘」及び第25類「運動用特殊衣服,運動用特殊靴」です。知財高裁は類似・混同しないとした審決を維持しました。\n
(1) 本件商標と引用商標の類否判断について
ア 外観
(ア) 本件商標は,「pum’s」の文字を太字の斜体の書体で表し,末尾\nの「s」の文字の下端を語頭の「p」の文字の下部まで横一直線に延伸
し,下線のように表されて構\成されている。原告は,本件商標の1文字
目と4文字目は,大文字「P」「S」と認識されると主張するが,1文
字目の左側の縦棒が下に突き出しているのは小文字であるからなのは明
らかであり,4文字目も上端が他の小文字と同じ高さに位置しているか
ら,大文字とは認識されない。また,原告は,本件商標の2文字目は,
右側の縦棒がないため,大文字「U」と捉えられると主張するが,2文
字目は他の小文字と同じ大きさであって,直ちに採用できない。
一方,引用商標は,「PUmA」の文字を縦線を太く垂直に,横線を
細く描く書体で表し,各文字は,小文字である「m」も含めて,同じ高\nさで構成されている。\n両者は,語頭を含めた「pum(PUm)」の文字を共通にするが,
末尾において本件商標が小文字の「s」であるのに引用商標が大文字の
「A」であるという文字の相違,アポストロフィの有無,下線のように
表されたものの有無,書体が斜体であるか否か及び文字の横線が細いか\n否かといった点において明らかに異なり,外観においては,相紛れるお
それはない。
(イ) 原告は,第3の1(1)ア(ア)cのとおり,るる主張するが,前記(ア)で
認定したとおり,本件商標と引用商標の外観上の相違は明白であり,仮
に,原告が主張する個別の点につき一定の類似が認められるとしても,
そのことから,外観において相紛れるおそれがあるということはできな
い。
なお,念のために判断すれば,上記c(a)については,引用商標は文字
の横線が細いことが明確であるのに対し,本件商標では縦線と横線の太
さの違いは子細に見なければ看取できず,逆に,本件商標では角部の丸
みは明確であるが,引用商標では明らかでないし,同(b)については,本
件商標が斜体であるのに対し,引用商標は各文字が垂直かつ同じ高さで,
長方形の範囲に収まって全体として整然とした印象を与えるものであっ
て,両者の印象が異なることは明らかであるし,同(c)については,いず
れにしても本件商標における「s」の文字の下端の延伸された部分が引
用商標との相違点として着目されないということにはならないし,同?
については,相違する最後の「A」と「S」の文字が相似た文字に看取
される場合があるとは認め難いし,同(e)については,特段の意味内容を
想起させない「pum」の欧文字部分が本件商標の要部であるとは到底
いえず,原告の各主張は個別にみても採用し得ない。
そうすると,本件商標と引用商標の外観は大きく異なるものであって,
前記1の引用商標の周知著名性を勘案しても,両者の外観が類似すると
の原告の主張は採用できない。
イ 称呼
(ア) 本件商標からは「パムズ」,「パムス」,「プムズ」又は「プムス」
の称呼が生じるのに対し,引用商標からは「プーマ」又は「ピューマ」
の称呼が生じ,語頭の「pu」ないし「PU」を「プ」と読んだ場合に
音を共通にする場合があるとしても,いずれも3音という短い音数にお
いては,2音目及び3音目における音の相違,特に,3音目の「ズ」な
いし「ス」(本件商標)と「マ」(引用商標)の相違は大きいものであ
って,相紛れるおそれはない。
(イ) 原告は,前記第3の1(1)ア(イ)のとおり,本件審決が,本件商標の要
部である「PUm」の欧文字部分から生ずる「プム」の称呼と引用商標
から生ずる称呼とを対比していないと主張するが,本件商標における
「pum」の欧文字部分が要部であるという主張が到底採用できないこ
とは前記アのとおりである上,仮に同部分を本件商標の要部とし,これ
を「プム」と称呼し,引用商標を「プーマ」と称呼したとしても,短音
と長音の違い,「ム」と「マ」の違いは,短い標章の中では大きな差異
として認識されるものというべきである。
ウ 観念
本件商標が造語であることから,特定の観念を生じないのに対し,引用
商標が周知著名であることから,「原告のブランド」との観念を生じ,両
者は明確に区別することができ,相紛れるおそれがない。
エ その他
原告は,前記第3の1(1)ア(エ)のとおり,本件商標と引用商標の需要者
である一般消費者は,衣類や靴等に商標をワンポイントマークとして小さ
く表示された場合,些細な相違点に気付かないことも多いと主張する。\nしかし,商標が小さく表示された場合をことさら取り上げることの当否\nは措くとしても,そもそも本件商標と引用商標は全体的な印象においても
明らかに異なることは前記アのとおりであり,小さく表示された場合でも,\nその相違は明白であるから,原告の主張は採用できない。
また,原告は,前記第3の1(1)ア(オ)のとおり,本件消費者調査の結果を
理由に,本件商標と引用商標の類似性を主張する。
しかし,本件消費者調査は,本件商標の登録査定時よりも後に実施され
たものであること,本件商標について助成想起(本件商標の指定商品〔ス
ポーツ関連用品〕の出所標識という前提〔ヒント〕を与えて自由回答形式
で聴取するもの)による質問について原告を連想した15%という数値は
大きいとはいえない上,スポーツ関連用品というヒントを与えられれば,
多少とも本件商標と共通点のあるブランドを想起しようと努めると考え
られることを考慮すると,この数値すらそのまま受け取ることはできない
こと,本件商標と引用商標を並べた場合に両商標が類似するという回答も,
このような限界のある質問の後にされたものであることを考慮すれば,本
件商標と引用商標の類似性を裏付ける資料とはいえない。したがって,こ
の点に係る原告の主張も採用し得ない。
(2) 小括
以上によれば,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれに
おいても相紛れるおそれがなく,類似しないものと認められる。
そうすると,本件商標の指定商品と同一又は類似する商品が引用商標7,
8及び10の指定商品中に含まれているとしても,本件商標は,商標法4条
1項11号に該当せず,本件審決の判断に誤りはない。
3 取消事由2(本件商標の商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)につい
て
(1) 混同のおそれについて
「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程\n度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度,当該商標の指定商品等と他\n人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並
びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情等に照らし,当該
商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準
として,総合的に判断すべきである。
これを本件につき検討するに,前記2において判断したとおり,本件商標
と引用商標とは,引用商標の周知著名性を勘案しても,外観,称呼及び観念
のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標であって,その類似
性は極めて低いというべきであるから,本件商標の指定商品には「運動用特
殊衣服,運動用特殊靴」が含まれており,原告の業務に係る商品との間の関
連性や,取引者や需要者の共通性が高く,また,そのような商品はいずれも
注意力が高いとはいえない一般消費者も需要者とするものであることを考慮
しても,本件商標に接する取引者及び需要者が,原告又は引用商標を連想又
は想起することはないというべきである。これに反する原告の主張は,前記
2において判断したのと同様の理由によりいずれも採用し得ない。そうする
と,本件商標は,これをその指定商品に使用をしても,その取引者及び需要
者をして,当該商品が原告の商品に係るものであると誤信させるおそれがあ
るものとはいえない。
◆判決本文
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2021.07.26
平成31(ワ)11130 商標権侵害差止請求事件 商標権 民事訴訟 令和3年6月17日 東京地方裁判所
東京地裁46部は、富富富」という標章,「ふふふ」という読み仮名を付した「富富富」という標章は、登録商標「ふふふ」と非類似として、侵害を否定しました。
被告標章2と本件商標を比較すると,これらは外観において明らかに異
なる。他方,被告標章2と本件商標は,「フフフ」の称呼を共通にする場
合がある。もっとも,被告標章2は特定の観念を生じないのに対し,本件
商標は軽く笑う声等の観念を生じ,これらは観念において異なる。
そうすると,被告標章2と本件商標は,称呼において類似する場合があ
るとしても,外観,観念において相違しており,その出所について誤認混
同を生じさせるような取引の実情があるとは認められず,同一又は類似の
商品等に使用された場合に,商品等の出所につき誤認混同を生ずるおそれ
があるとは認められない。
したがって,被告標章2は本件商標と同一又は類似のものではない。
なお,「富富富」は,被告富山県によって育成された本件米の品種名で
あり(前記1(1),(6)),被告富山県は,特に,平成30年秋頃以降,本
件米について積極的に広告,宣伝しており(同(5)),「富富富」が米の
品種名であることは相当程度知られていたと認められる。被告標章2は,
この品種名を普通に用いられる方法で表示したものである。\n
◆判決本文
関連事件です。
◆令和2(行ケ)10014
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2021.05.22
平成30(ワ)16422等 商標使用差止等請求事件 損害賠償請求事件 商標権 民事訴訟 令和3年4月23日 東京地方裁判所
登録商標「舞豚」があり、このアルファベット表記「maiton」の使用は商標権侵害と判断されました。本件は、「舞豚」はブランド豚肉で、使用許諾契約終了後の標章の使用という特殊事情があります。損害論では38条2項による算定は地理的に離れているということで否定されましたが、飲食物の提供の通常のライセンス料の約2倍の8%が認められました。
ア 商標法38条2項は,商標権者は,故意又は過失により自己の商標権を
侵害した者に対してその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場
合において,その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,そ
の利益の額は,商標権者が受けた損害の額と推定すると規定しているとこ
ろ,同項が損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定である
ことに照らせば,商標権者に,侵害者による商標権侵害行為がなかったな
らば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,商標法38
条2項の適用が認められると解すべきである。
イ 本件において,被告は,本件商標1と類似する被告各使用標章を本件商
標1と同一の指定役務である飲食物の提供に使用している。しかしながら,
原告が本件商標1を用いて経営する原告店舗は長崎県島原市に所在してい
るところ,しゃぶしゃぶ料理の提供という原告の業務に係る顧客は,飲食
店の一般的な顧客の範囲からすると,同市及びその周辺に在住の者である
と推認され,本件において,これと異なる事実を認めるに足りる証拠はな
い。他方,被告が経営していた本件店舗は東京都台東区に所在しており,
本件店舗の業務に係る顧客は,東京都内及びその周辺に在住の者であると
推認され,本件において,これと異なる事実を認めるに足りる証拠はない。
原告店舗における事業との関係で被告による商標権侵害行為がなければ原
告が利益を得られたといえるためには,それらが競合関係にある必要があ
ると解されるところ,原告店舗及び本件店舗の事業の性質から,原告店舗
に対する需要者と本件店舗に対する需要者とは重ならず,原告店舗と本件
店舗が競合関係にあるとは認められない。
ウ 原告は,本件に商標法38条2項が適用されると主張するに当たり,オ
ンラインショップや東京都中央区所在のアンテナショップ(以下,これら
を併せて「原告オンラインショップ等」という。)において,本件各商標
を付して本件豚肉等を販売しているところ,被告が本件店舗において被告
各標章を使用して飲食物を提供しなければ,豚肉舞豚を食べたいという顧
客の需要は,原告オンラインショップ等に向かうというべきであり,これ
により原告は利益を得られたなどと主張する。
ここで,被告による商標権侵害行為がなければ,原告オンラインショッ
プ等において原告が利益を得られたというためには,少なくとも本件店舗
における業務と原告オンラインショップ等における業務が競合関係にある
といえる必要があるとするのが相当である。そして,原告オンラインショ
ップ等においては,本件豚肉等が販売されているのに対し,本件店舗では
豚肉のしゃぶしゃぶ料理が提供されており,これらの事業の形態は大きく
異なる。また,顧客についてみても,本件店舗においては,店舗において
豚肉舞豚を用いたしゃぶしゃぶ料理の提供を受けたいという顧客が主であ
るのに対し,原告オンラインショップ等においては,本件豚肉等を購入し
自宅で食べたいという顧客が主である。本件店舗における業務と原告オン
ラインショップ等における業務にはこのような相違があるところ,本件に
おいて,店舗において豚肉舞豚を用いた料理を食べたいと考える顧客の需
要が原告オンラインショップ等に向かうことを裏付ける的確な証拠はない。
そうすると,本件店舗と原告オンラインショップ等とでは,類型的に事業
の形態が相違しており,本件でその顧客等が重なる事情も認められず,本
件店舗における業務と原告オンラインショップ等における業務が競合関係
にあるとはいえないと認めるのが相当である。原告の上記主張を採用する
ことはできない。
なお,原告は,被告が本件店舗を閉店したと主張する平成30年8月を
基準に,閉店後の平成30年9月から平成31年2月までとその前年同期
(平成29年9月から平成30年2月まで)の原告オンラインショップ等
の売上げを比較し,本件店舗閉店後の前者の売上げが閉店前年同期の後者
の売上げから約125%増額しており,被告による商標権侵害行為により
原告は得られる利益を逸していたなどと主張する。しかしながら,証拠
(甲38,39)及び弁論の全趣旨によれば,原告オンラインショッピン
グ等の平成30年9月から平成31年2月までの売上げが974万074
3円(内訳:ふるさと納税に係る売上げ964万6895円,それ以外の
売上げ9万3848円)であり,平成29年9月から平成30年2月まで
の売上げが776万8833円(内訳:ふるさと納税に係る売上げ757
万6000円,それ以外の売上げ19万2833円)であることが認めら
れ,本件店舗の閉店前と閉店後の同時期の売上げを比較すると,本件店舗
の閉店後の期間の売上げが増加しているとはいえるものの,それはふるさ
と納税による売上げが増加したことに伴うものといえる。そして,ふるさ
と納税制度を利用して商品を購入する動機は,ふるさとへの貢献や返礼品
を受領することなど多種多様であることに鑑みれば,上記の売上額の増加
をもって,原告の主張を裏付けるものということはできず,他に原告の上
記主張を認めるに足りる証拠もない。
エ 以上によれば,原告の業務と被告各使用標章の使用に係る被告の業務と
の間で市場における競合関係があるとはいえず,被告による商標権侵害行
為がなかったならば,原告が利益を得られたであろうと認めることはでき
ない。したがって,原告の本件商標権1の侵害による損害額の算定に当た
って,商標法38条2項を適用する前提を欠き,同項の適用は認められな
い。
(2)商標法38条3項の損害額について
ア 本件店舗は,「舞豚」というブランドの豚肉のしゃぶしゃぶ料理を提供
することを特徴とする飲食店であるところ,被告は,被告各使用標章を本
件店舗の名称,店舗の外観や料理のメニュー表などに広く用いていたこと(前記前提事実(3)アイ)からすれば,商標法38条3項による損害額の算
定に当たっては,本件店舗の売上げに対して,本件商標1の使用に対し受
けるべき料率を乗じて算定するのが相当である。
イ 次に,本件商標1の使用に対し受けるべき金銭の料率について検討する。
証拠(甲36)によれば,株式会社帝国データバンク作成の「知的財産
の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査報告書」におい
て,「商標権に関する分類別ロイヤルティ料率の平均値」について全体
(205件)では2.6%であり,「商標の分類」が「第43類 飲食物
の提供及び宿泊施設の提供」については3件の例があり,最大値5.5%,
最小値1.5%,平均値3.8%であるとの記載が認められ,飲食物の提
供についての商標権のロイヤルティ料率は,全体の平均値より相当程度高
いといえる。
また,証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば,豚肉舞豚は平成7年1
0月19日の第39回長崎県種豚共進会において農林水産大臣賞を受賞し
たこと(甲37),本件店舗の開店時に長崎新聞には「島原産ブランド豚
提供「舞豚」」という見出しの記事が,島原新聞には「「舞豚」が東京進出」
という見出しの記事がそれぞれ掲載されたこと(乙4)が認められる。こ
れらの事実に照らせば,豚肉舞豚に対して一定の評価が与えられていたこ
とがうかがえる。
そして,本件店舗は,豚肉舞豚をしゃぶしゃぶ料理として提供すること
を大きな特徴とする店舗であるところ,被告は,店舗の名称や看板,メニ
ュー表等に被告各使用標章を使用していた。他方,本件店舗には,他に顧客を特に引き付けるような標章等が使用されていたともいえない。そうす\nると,被告は,一定の評価が与えられていた豚肉舞豚と同じ呼称等を有す
る被告各使用標章を,店舗の名称も含めて積極的に活用して本件店舗を営
業していたといえ,被告各使用標章の使用は被告の売上げにも貢献するも
のであったといえる。
これらの事情に加えて,被告は,本件各商標の使用許諾契約が被告によ
る信頼関係を破壊する行為により解除された後も,被告各使用標章の使用
を継続していたなど本件訴訟に現れた一切の事情を併せて考えれば,商標
権を侵害した者に対して事後的に定められるべき商標の使用に対し受ける
べき料率は,8%と認めるのが相当である。
ウ 以上によれば,被告による商標権侵害について,商標法38条3項によ
り算定される損害額は,本件店舗の売上高(平成29年12月から平成3
0年8月)1189万7246円(争いのない事実)に8%を乗じた金額
である95万1779円となる。
(3) 損害不発生の抗弁について
被告は,原告に使用料相当額の損害は発生しておらず,商標法38条3項
は適用されないと主張する。
しかし,被告は,店舗の名称や看板,メニュー表等に被告各使用標章を使用した一方,本件店舗において他に強く顧客を誘引する標章等が使用されて\nいたものではない。被告各使用標章の使用が被告の売上げに貢献していたと
いえることは前記(2)のとおりであるから,被告が被告各使用標章を使用した
ことにより原告に使用料相当額の損害が生じないとは認められない。被告の
損害不発生の抗弁についての主張は理由がない。
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2021.05. 4
令和2(ネ)10060 商標権侵害差止等請求控訴事件 商標権 民事訴訟 令和3年4月21日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
ビクトリノックスの黒字に白十字を二重の外枠で囲った登録商標についての、商標権侵害訴訟です。侵害被疑者は赤十\字が登録できない(商標法4条)ので、十字部分は要部ではないと争いましたが、知財高裁は侵害とした東京地裁の判決を維持しました。\n
(1) 十字部分の色彩等に基づく類否の主張について\n
控訴人は,標章において色彩が類否に大きく影響すること,十字部分を有\nする標章は特に十字部分の色彩が類否に大きく影響することを前提として,\n被控訴人商標と控訴人標章1,3は外観,称呼,観念が異なり,類似しない
と主張するが,控訴人の主張を採用することはできない。以下,詳述する。
ア 標章において色彩が類否に大きく影響するという控訴人の主張について
控訴人は,例えば,国旗において色彩が重要な要素であるように,標章
は,同一の文字や図形の結合等であっても,色彩の相違によって印象が異
なるものであり,現に,商標法70条1項は,色彩を登録商標と同一にす
れば登録商標と同一の商標となる場合であっても,色彩が異なれば登録商
標に類似しない商標があることを前提としており,このことは,色彩以外
が同一であり色彩だけが異なっている商標が非類似になることを示して
いるとし,そのため,商標の類否判断に色彩が大きく影響すると主張する。
しかし,国旗において色彩が重要な要素であるとしても,国旗の例が直
ちに商標に当てはまるものではない。また,標章において,文字や図形は
色彩に劣らず重要な要素であり,商標法70条1項が,色彩を登録商標と
同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるもの
を,登録商標に類似の商標にとどまるとするのではなく,登録商標に含ま
れるとしていることからすれば,文字や図形が同一であって色彩のみが異
なる商標は,登録商標と同一の商標と認められる場合が多いといえる。そ
のため,控訴人の上記条項の理解は不適切であり,同条項に基づき,標章
において色彩のみが類否に大きく影響するということはできない。なお,
色彩が識別性等の観点から大きな意味を有しており,色彩のみが異なるこ
とにより全く違う商標となってしまうような例外的な場合について商標
法70条1項が適用されないとする余地があるとしても,上記の認定は左
右されない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
イ 十字部分を有する標章は特に十\字部分の色彩が類否に大きく影響すると
いう控訴人の主張について
控訴人は,商標法4条1項4号は,赤十字の標章と同一又は類似の商標\nについて商標登録を受けることができないと定めており,赤十字の標章及\nび名称等の使用の制限に関する法律1条は,白地に赤十字の標章若しくは\n赤十字の名称又はこれらに類似する記章若しくは名称をみだりに用いる\nことを禁じていること,緑と白で構成された十\字の標章は,安全標識とし
て定められていることから,十字部分を有する標章においては特に十\字部
分の色彩が類否に大きく影響すると主張する。
しかし,赤十字の標章や安全標識について上記の事実があるとしても,\n赤十字の標章と同一又は類似の商標でなければ,十\字部分を含む商標の登
録は認められる余地があり,十字部分を含む商標において十\字部分の色彩
が識別性等の観点からどのような意味を有するかは,その商標の具体的な
構成等に照らして判断されるべき事柄であって,一概に,十\字部分を有す
る標章において特に十字部分の色彩が類否に大きく影響するということ\nはできず,控訴人の上記主張は,採用することができない。
ウ 被控訴人商標と控訴人標章1,3の類否について
控訴人は,被控訴人商標と控訴人標章1,3は,外観,称呼,観念が異
なり,類似しないと主張する。
しかし,原判決の説示するとおり(原判決9頁6行目ないし10頁10
行目),被控訴人商標と控訴人標章1は,外観が類似しており,いずれも
「ジュウジ」「クロス」などの同一の称呼及び「十字」「クロス」などの\n同一の観念が生じ,取引の実情を踏まえると,被控訴人商標と控訴人標章
1は,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあり,両者は類似する
と認められる。また,原判決の説示するとおり(原判決11頁5行目ない
し12頁14行目),被控訴人商標と控訴人標章3は,外観が類似してお
り,同一の称呼及び観念が生じ,取引の実情を踏まえると,被控訴人商標
と控訴人標章3は,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあり,両
者は類似すると認められる。したがって,控訴人の上記主張は採用するこ
とができない。
(2) 十字以外の部分等に基づく類否の主張について\n
控訴人は,商標法4条1項1号が,国旗と同一又は類似の商標は商標登録
を受けることができないと定めていることからすると,被控訴人商標が登録
されているのは,スイス国旗と類似していないからであり,そうであるとす
ると,被控訴人商標のうち,スイス国旗と似ている十字部分は要部ではなく,\n円弧からなるループ状図形が要部であるとした上で,被控訴人商標の円弧か
らなるループ状図形の外周と控訴人各標章の正方形部分の外周は,形状,色
彩,観念が異なるとし,被控訴人商標の指定商品と同一又は類似の商品に使
用された控訴人各標章が外観,観念等によって取引者,需要者に与える印象,
記憶,連想等は,被控訴人商標とは全く異なるものであるから,被控訴人商
標と控訴人各標章は類似しないと主張する。
しかしながら,被控訴人商標が登録されているのは,スイス国旗と類似し
ていないからであるとしても,そのことから直ちに,被控訴人商標のうち,
十字部分以外の円弧からなるループ状図形が要部であるとして,その部分の\n比較に基づいて商標の類否を判断すべきであるとはいえない。商標の類否は,
外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を
総合して,その商品に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきもの
であるところ,被控訴人商標と控訴人各標章は,いずれも十字部分と外周部\n分からなり,十字部分は被控訴人商標及び控訴人各標章の中心にあって目立\nつ位置にあるから,類否判断に当たっては,十字部分も含めて被控訴人商標\nと控訴人各標章のそれぞれの全体を比較考察すべきである。そのため,十字\n部分以外の周囲の部分の比較により被控訴人商標と控訴人各標章は非類似で
あるとする控訴人の上記主張を採用することはできない。
◆判決本文
1審は東京地裁ですがなぜかアップされていません。
こちらは同商標権に対する不使用審決取消訴訟です。審決は不使用と認定しましたが、知財高裁はこれを取り消しています。
◆判決本文
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2021.04.21
令和2(行ケ)10107 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和3年4月14日 知的財産高等裁判所
商標「ざんまい」が「すしざんまい」と混同するかが争われました。指定商品・役務は「すし」「すしを主とする飲食物の提供」です。審決・判決とも「すしざんまい」は著名、混同する」と判断しました。
本件商標は,別紙1記載のとおり,「ざんまい」の文字を横書きに書
してなる商標である。本件商標から「ザンマイ」の称呼が生じる。
「ざんまい」の語は,「一心不乱に事をするさま。」(広辞苑第七版)の
意味を有するから,本件商標から,このような意味合いの観念を生じる。
また,前記2(2)ア認定のとおり,「すしざんまい」の表示は,本件商標 の登録出願時及び登録査定時において,被告が店舗展開する「すしざん\nまい」チェーン店の名称として,需要者である一般消費者の間に広く認
識され,被告の業務に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示する ものとして,著名であったこと,「すし」に関連する登録商標の使用にお\nいては,「すし」又は「寿司」の表示を登録商標の前後に付加して使用す ることが普通に行われており,現に,原告においても,本件商標の「ざ\nんまい」の前に「寿司」の文字を付加した「寿司ざんまい」の商標を使
用していること(前記1(4))に鑑みると,本件商標が指定商品「すし」
に使用されたときは,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店
を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念をも生じるものと
認めるのが相当である。
(イ) 引用商標1は,別紙2記載のとおり,上段に筆文字風で記載された
「つきじ喜代村」の文字を,中段に大きく筆文字風で記載された「すし
ざんまい」の文字を,下段に小さくゴシック体で記載された「SUSH
IZANMAI」の文字を3段に配した構成からなる結合商標であり, このうち,「すしざんまい」の文字は,引用商標1の中央に他の文字より\nも大きく,かつ,太く記載されており,「すし」の部分は,「し」が「す」
の左下に位置し,縦書きのように記載されている。
そうすると,引用商標1を構成する「つきじ喜代村」の文字部分,「すしざんまい」の文字部分及び「SUSHIZANMAI」の文字部分は,\n外観上,それぞれが分離して観察することが取引上不自然と思われるほ
ど不可分的に結合しているものとはいえない。
そして,「すしざんまい」の文字部分の上記構成態様に照らすと,引用 商標1の構\成中の「すしざんまい」の文字部分は,取引者,需要者に対 し,「すしを主とする飲食物の提供」の役務の出所識別標識として強く支
配的な印象を与えるものと認められるから,要部として抽出できるもの
と認めるのが相当である。
しかるところ,引用商標1の要部である「すしざんまい」の文字部分
及び「すしざんまい」の標準文字からなる引用商標2から,いずれも「ス
シザンマイ」の称呼が生じる。
また,前記2(2)ア認定のとおり,「すしざんまい」の表示は,本件商標の登録出願時及び登録査定時においては,被告が店舗展開する「すしざ\nんまい」チェーン店の名称として,需要者である一般消費者の間に広く
認識され,被告の業務に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示す るものとして,著名であったことに鑑みると, 引用商標1の要部である
「すしざんまい」の文字部分及び引用商標2から,被告が店舗展開する
「すしざんまい」チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんま
い」の観念を生じるものと認めるのが相当である。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,本件商標と引用商標1及び2は,外観
及び称呼が異なるが,観念においては,本件商標が指定商品「すし」に
使用されたときは,本件商標から被告が店舗展開する「すしざんまい」
チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念をも生
じるのに対し,引用商標1の要部である「すしざんまい」の文字部分及
び引用商標2からも,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店
を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念を生じる点で共通
するものと認められる。
イ 以上のとおり,1)「すしざんまい」の表示は,本件商標の登録出願時及 び登録査定時において,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店\nの名称として,需要者である一般消費者の間に広く認識され,被告の業務
に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示するものとして,著名であ ったこと(前記2(2)ア),2)本件商標と引用商標1の要部である「すしざ
んまい」の文字部分及び引用商標2から,いずれも被告が店舗展開する「す
しざんまい」チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんまい」の
観念を生じる点で共通すること(前記ア(ウ)),3)本件商標の指定商品であ
る「すし」と被告の業務に係る役務である「すしを主とする飲食物の提供」
は,需要者が一般消費者である点で共通し(前記2(1)ア),販売の対象とな
る商品又は提供の対象となる商品がいずれも「すし」である点で共通する
ことを総合考慮すると,本件商標をその指定商品の「すし」に使用すると
きは,その取引者,需要者において,被告が店舗展開する「すしざんまい」
チェーン店の名称として著名な「すしざんまい」の表示を想起し,当該商 品を被告又は被告と緊密な営業上の関係又は同一の表\示による商品化事業 を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であるかのよ
うに,その出所について混同を生ずるおそれがあるものと認められる。
したがって,本件商標は,引用商標1及び2との関係において,商標法
4条1項15号に該当するものと認められる。
これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(2) 原告の主張について
原告は,1)引用商標1及び2の指定役務「すしを主とする飲食物の提供」
にいう「すし」と本件商標の指定商品「すし」とは,握り寿司等3種類を除
き,「すし」の内容が一致せず,需要者が異なる,2)「すし」の販売にいう「す
し」は,弁当と同じような用途であるのに対し,「すしを主とする飲食物の提
供」にいう「すし」の提供は,すし職人と会話を楽しむといった別の要素が
あり,極めて人間的であり,しかも,魚の鮮度が勝負であり,鮮度が比較的
短時間で落ちる商品を鮮度の良い状態で提供していること,回転ずしや着席
スタイルのすし店等でも,テイクアウトは行われているが,全体のごく一部
であり,特に着席スタイルのすし店は鮮度にこだわり,テイクアウトは拒否
されるのは周知の事実であることからすると,「すし」と「すしを主とする飲
食物の提供」とは,その性質,用途又は目的において密接な関連性を有する
とはいえない,3)原告の業態は,宅配寿司であり,ウェブサイト又は電話に
よる注文を受けてから寿司を盛り,スピーディな配達をするというものであ
るのに対し,被告の業態は,カウンター方式及び個室方式をとり,会食・接
待・結納などにも利用できる料亭をイメージした落ち着いた雰囲気の個室を
用意しており,テイクアウトはあくまで「お持ち帰り」としての利用であり,
原告の業態と被告の業態が相違するなどとして,本件商標の登録出願時及び
登録査定時において,本件商標をその指定商品「すし」に使用した場合,こ
れに接する需要者が引用商標を想起,連想し,当該商品を被告あるいは被告
と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの
ように,その出所について混同を生ずるおそれがあるとはいえないから,本
件商標が商標法4条1項15号に該当するものとはいえない旨主張する。
しかしながら,1)については,前記2(1)イで説示したとおり,本件商標の
指定商品「すし」と引用商標1及び2の指定役務「すしを主とする飲食物の
提供」とは,需要者が異なるものと認めることはできない。
2)については,「すしを主とする飲食物の提供」の提供の場所を原告が主張
するような着席スタイルのすし店に限定すべき合理性はない。
3)については,原告が主張する原告の業態と被告の業態の相違は,本件商
標をその指定商品「すし」に使用した場合,これに接する需要者が,当該商
品を被告又は被告と緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を 営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であるかのように,\nその出所について混同を生ずるおそれがあるとの前記(1)の判断を左右するも
のではない。
◆判決本文
こちらは関連事件です。
◆令和2(行ケ)10108
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2021.03.30
令和3(行ケ)10118 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和3年3月11日 知的財産高等裁判所
「SMS」+図形商標から、「SMS」を分離観察できるかが、争われました。知財高裁(2部)は分離可能とした審決を維持しました。判決文の最後に本件および引用商標が掲載されています。\n
(1) 本件商標は,別紙1のとおりであり(甲1),三つのハート形の図形を横に
重なるように並べた本件図形部分と,その下に配置された横書きにした「SMS」
のありふれた書体の欧文字(本件文字部分)とからなる商標である。
本件図形部分は,ハートの形を縁取った線を横に二つ描き,その二つのハートの
形の内側の二つの半円部分を用いて,中央部分に三つ目のハートの形を描いたもの
で,一筆書きによって描くことができるようになっている。
本件図形部分及び本件文字部分のいずれにも色彩はなく,本件図形部分の高さは,
本件文字部分の高さの3倍弱であり,本件図形部分の横幅は,本件文字部分の横幅
の2倍弱である。
(2) 本件商標の上記(1)の外観からすると,本件商標においては,本件図形部分
と本件文字部分とを明確に区別することができ,それらの各部分を分離して観察す
ることが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているとは認められな
いから,本件商標から,本件文字部分を抽出し,同部分を他人の商標と比較して商
標の類否を判断することができるというべきである。
そして,本件文字部分からは,「エスエムエス」との称呼が生じるが,「SMS」
の語は,「広辞苑 第六版」には掲載されておらず(甲19),他に一般的な辞書に
掲載されている例があるとも認められないから,造語であると認められ,特定の観
念は生じないというべきである。
3 引用商標1及び2について
(1) 引用商標1及び2は,別紙2,3のとおりであり(甲2,3),オレンジ色
の小さな円をL字型に並べた形状と,同様の黄色のL字型の形状とを組み合わせた
正方形を45度傾けた形状の図形部分(引用1及び引用2図形部分)と,その右側
に配置された,横書きにした「SMS」の欧文字と横書きにした「Best ma
tching Best value」の欧文字を上下二段に配置した部分(引用
1及び引用2文字部分)からなる商標である。
引用1及び引用2図形部分の高さは,「SMS」の文字部分の高さの2倍程度であ
り,引用1及び引用2図形部分の横幅は,「SMS」の文字部分の横幅の6割程度で
ある。また,「Best matching Best value」の文字部分は,
「SMS」の文字部分と同じ横幅で,「SMS」の文字部分に比較して,極めて小さ
く書かれている。
(2) 引用商標1及び2の上記(1)の外観からすると,引用商標1及び2において
は,引用1及び引用2図形部分と引用1及び引用2文字部分とを明確に区別するこ
とができる。また,引用1及び引用2文字部分については,「SMS」の文字部分と,
「Best matching Best value」の文字部分は2段に分か
れていて,大きさも顕著に異なるのであるから,両者を明確に区別することができ
る。
したがって,引用商標1及び2において,「SMS」の文字部分が他の部分と分離
して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているとは
認められないから,「SMS」の文字部分を抽出し,同部分を他人の商標と比較して
商標の類否を判断することができるというべきである。
そして,前記2(2)のとおり,「SMS」の文字部分からは,「エスエムエス」との
称呼が生じるが,特定の観念は生じないというべきである。
・・・・
原告は,「SMS」とは,携帯電話でのメッセージ送受信サービスである
「Short Message Service(ショートメッセージサービス)」の
略語であり,本件審決がされた令和2年の時点で,「ショートメッセージサービス」
の略語としての「SMS」は,通信分野に限らず,一般に周知されていると主張し,
その証拠として,甲25,26を提出する。
甲25によると,「SMS」が「ショートメッセージサービス」の略語であること
を説明したウェブサイトが存在することが認められるが,前記2(2)のとおり,「S
MS」の語が一般的な辞書に掲載されている例があるとは認められないことからす
ると,上記ウェブサイトの存在から,「SMS」が「ショートメッセージサービス」
の略語を意味することが一般的に認識されていたということはできないというべき
である。
◆判決本文
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2021.03.12
令和2(行ケ)10088 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和3年2月22日 知的財産高等裁判所
文字商標「ホームズくん」が、「ホームズ君」を含む図形商標と類似するとして拒絶されました。知財高裁は審決を維持しました。
原告は,1)原告キャラクターと本願商標との密接不可分的なつながり,2)
原告キャラクター及び原告ウェブサイトの周知著名性,3)不動産業界の取引
の実情を考慮すると,本願商標からは,原告キャラクターの観念,さらには
原告による各種不動産情報の提供の役務という観念が生じる旨主張する。こ
の主張は,取引の実情を考慮すると,本願商標から,上記の各観念が生じる
と主張しているものと解される。
しかしながら,証拠(甲34〜39,41)によれば,原告が,原告キャ
ラクターを利用した宣伝広告活動や営業活動を展開しており,原告キャラク
ターやその愛称である「ホームズくん」がそれなりの知名度を有するに至っ
ていることは認められるものの,他方で,参加人も,引用商標1やそれに類
似した標章,「ホームズ君」という名称等を利用して宣伝広告活動や営業活
動を行っており,相応の知名度を得るに至っていること(丙20〜323)
等の事情に照らしてみると,本願商標の指定役務に係る取引分野において,
「ホームズくん」といえば原告キャラクター,ひいては原告の営業を表すと\n取引者,需要者の誰もが理解するといえるほどの一般的,普遍的な観念が成
立するに至っているとまで認めることはできない。そして,単に,原告が「
ホームズくん」という愛称の原告キャラクターを利用しており,それが,一
定程度の知名度を有しているという程度のことであれば,それは,せいぜい
本願商標に係る個別的な事情であるにとどまり,取引の実情として考慮する
ことが許される,指定商品・役務全般についての一般的・恒常的事情(最高
裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4月25日第一小法廷判決・審決取消
訴訟判決集昭和49年443頁参照)には当たらない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
3 引用商標1の外観・観念・称呼について
(1) 引用商標1は,別紙審決書写しの別掲2のとおり,「ホームズ君」部分,
「耐震フォーラム」部分,引用図形部分から成る結合商標である。
ア 引用商標1は,外観上,「ホームズ君」部分,「耐震フォーラム」部分
及び引用図形部分の三つが分離されないような態様で構成されているもの\nではない。そして,「ホームズ君」部分及び「耐震フォーラム」部分と引
用図形部分とは,文字と図形との違いに加え,色彩においても大きく異な
っており,外観上密接不可分な関係にないことは明らかである。他方,「
ホームズ君」部分と「耐震フォーラム」部分とは,色彩が青色で統一され
ており,字体も共通するようにみられるものの,改行により二列になって
いて一体性に乏しい上,前者は文字が青であるのに対し,後者は,青の背
景に白抜きで文字が表されている点でも異なり,更に文字の大きさも異な\nるため,やはり外観上密接不可分な関係にあるとはいい難い。
また,「ホームズ君」部分,「耐震フォーラム」部分,引用図形部分の
三者が,称呼,観念において密接不可分の関係性を有していると認めるだ
けの根拠を見出すこともできない(なお,後のイで述べるとおり,「ホー
ムズ君」部分と引用図形部分には,観念において一定の関係があると理解
することも可能であるが,そうであるとしても,「ホームズ君」部分を要\n部として抽出し得るという結論に変わりがないことは,後に述べるとおり
である。)。
したがって,引用商標1は,各構成部分を分離して観察することが,取\n引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえないか
ら,各部分を分離して観察することも許されるものというべきである。
イ そして,「ホームズ君」の文字は,それ自体としてみれば,商品・役務
の出所識別標識としての機能を十\分に果たし得るものであるといえること,
「ホームズ君」部分は,引用商標1の他の部分に比べると小さいとはいえ,
十分に認識可能\な形で記載されており,出所識別標識としての機能を果た\nし得ないほどに他の部分に埋没してしまっているとはいえないこと等の事
情に照らしてみると,「ホームズ君」部分を,引用商標1の要部として抽
出することは十分に可能\であるということができる。
他方「耐震フォーラム」部分を構成する「耐震」及び「フォーラム」は\nいずれも普通名詞であって(乙7・8(大辞林第三版)),これらを結合
した「耐震フォーラム」の語は,建築物等の耐震性に関する講演会・討論
会を指称するためしばしば使用されていること(乙9〜19(各種の専門
新聞・一般日刊新聞))に照らすと,引用商標1が例えば「不動産に関す
るセミナーの企画・運営」に用いられた場合には,「耐震フォーラム」部
分は,「建物の耐震性に関する講演会・討論会」程度の意味合いを認識さ
せるにすぎず,出所識別標識としての称呼・観念を生じさせるとはいえな
い。
また,引用図形部分は,全体としてみると,探偵風の装束をした人物が
家を観察している場面を描いたものと受け取れ,横にある「ホームズ君」
部分を併せ見ることにより,家を観察する名探偵ホームズといった観念を
生ずる余地があるが,仮にそうであるとしても,それは,「ホームズ君」
のイメージを視覚的に描き出したものであって,「ホームズ君」部分を補
完するものにすぎないと理解すべきであるから,独立して出所識別機能を\n果たすとまで見ることはできない。
以上によれば,本件においては,引用商標1から抽出した「ホームズ君
」部分と本願商標との比較によって類否を判断すべきである。
◆判決本文
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2021.03.11
令和2(行ケ)10104 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和3年2月22日 知的財産高等裁判所
商標「旬/JAPAN SHUN」について、先行商標「市場365/旬/SYUN RAKU ZEN」と類似するかが争われました。審決、知財高裁とも、分離解釈可能として類似すると判断しました。\n
商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された
場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否か
によって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観念,称
呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべ
く,しかも,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その
具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行
ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,
最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集5
1巻3号1055頁参照)。
また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構\成部
分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分
的に結合していると認められる場合においては,その構成部分の一部を抽出し,\nこの部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは,原則として許さ
れないが,その場合であっても,商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に\n対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や,
それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合などには,
商標の構成部分の一部だけを取り出して,他人の商標と比較し,その類否を判\n断することが許されるものと解される(最高裁昭和37年(オ)第953号同
38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成
3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5
009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷
判決・裁判集民事228号561頁参照)。
以下,上記の判断枠組みに沿って,本願商標及び引用商標の類否について検
討する。
2 原告の主張1(分離観察の可否)について
(1) 本願商標について
ア 商標の構成\n
(ア) 本願商標は,黒色の長方形図形を背景として,左側から順に,本願
漢字部分及び本願欧文字部分が配置された結合商標であり,両部分は,
ほぼ同じ高さで横一列に,重なり合うことなく配置されている。
(イ) 本願漢字部分は,「旬」の漢字1文字からなる。この文字は,赤色の
毛筆体で描かれており,本願欧文字部分の各文字の4倍程度の大きさで
ある。また,本願漢字部分は,やや図案化されているものの,その程度
は低いといえる。
(ウ) 本願欧文字部分は,同じ幅で上下2段に配置された「JAPAN」
及び「SHuN」の欧文字からなり,これらの文字は,いずれも白色の
毛筆体で描かれている。また,本願欧文字部分は,本願商標のうち2分
の1程度の幅を占めている。
イ 分離観察の可否
(ア) 本願漢字部分は,漢字1文字が赤色で大きく描かれているのに対し,
本願欧文字部分は,上下2段に配置された複数の欧文字が白色で描かれ
ており,両部分の文字の大きさや色彩,文字種,構成等は,明らかに異\nなるといえる。また,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,ほぼ同じ高
さで横一列に配置されてはいるものの,重なり合うことなく配置されて
いる。そうすると,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,それぞれが独
立したものであるとの印象を与え,視覚上分離して認識されるものとい
える。
また,本願欧文字部分は,本願商標のうち2分の1程度の幅を占めて
おり,看者の目を引きやすいとはいえるものの,他方で,本願漢字部分
は,その色彩や大きさからすれば,相応に目立つ態様で表示されている\nといえるから,本願商標に接した者は,本願欧文字部分のみならず,本
願漢字部分にも注意を引かれるものといえる。なお,黒色の背景部分は,
視覚上,特段の印象を与えるようなものではない。
(イ) また,本願漢字部分は,平易な漢字である「旬」の文字を表したも\nのであるから,同部分からは,「シュン」との称呼が生じるとともに,日
常用語として「魚介・野菜・果物などがよくとれて味の最もよい時」等
(乙2)を意味する「旬」の観念が生じるものといえる。
他方で,本願欧文字部分は,上下2段に配置された「JAPAN」及
び「SHuN」の欧文字からなるものであるところ,平易な英語である
「JAPAN」の文字からは,「ジャパン」との称呼が生じるとともに,
「日本」の観念が生じるが,「SHuN」の文字は,外国語の成語である
とは認められず,特定の意味合いを表す語であるとも認められないから,\n同文字からは,いわゆるローマ字読みによって「シュン」との称呼が生
じ得るとはいえるものの,特定の観念は生じないというべきである。そ
うすると,本願欧文字部分からは,特定の観念が生じるものではないと
いうべきである。
以上のとおり,本願漢字部分は,本願欧文字部分との間において,「S
HuN」の文字部分と称呼が共通し得るのみであり,これ以外の部分と
は,称呼の面からみても,観念の面からみても,共通するところはない
から,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,統一性のある称呼又は観念
によって結び付けられているものではないというべきである。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)で検討したところによれば,本願漢字部分及び本
願欧文字部分は,それぞれが独立したものであるとの印象を与え,視覚
上分離して認識されるものといえる上,称呼又は観念上の関連性がある
ものとはいえない。
そうすると,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,本願漢字部分のみ
を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的
に結合しているものとは認められない。そして,前記のとおり,本願漢
字部分は,相応に目立つ態様で表示されているといえることからすれば,\n本件においては,本願商標から本願漢字部分を抽出し,同部分のみを他
人の商標と比較して類否を判断することが許されるというべきである。
◆判決本文
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2021.02. 4
平成30(ワ)11672 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟 令和3年1月12日 大阪地方裁判所
被告標章「リシュ活」が商標「Re 就活」の侵害となるかが争われました。大阪地裁(21部)は、称呼から類似すると判断しました。ドメインの差止も認められました。
前記のとおり,本件商標は,欧文字2文字と漢字2文字からなっており,
カタカナ3文字と漢字1文字からなる被告標章1とは,語尾の「活」の一文字のみ
が共通しているに過ぎず,欧文字とカタカナから受ける印象も相応に異なるから,
外観は同一ではなく,類似するものとも認め難い。
また,被告標章1からは特定の観念を生じないため,観念の点において,両者が
同一又は類似ということはできない。
しかしながら,称呼においては,両者は長音の有無が異なるに過ぎず,長音は他
の明確な発音と比べて比較的印象に残りにくいことから,離隔的に観察した場合,
同一のものと誤認しやすく,極めて類似しているといえる。被告は,アクセントが
異なると主張するが,本件商標も被告標章1も造語であるため,固定したアクセン
トがあるわけではなく,時と場所を異にしてもアクセントの違いで区別できるほ
ど,印象が異なるものとは認め難い。
(イ) 取引の実情を踏まえて検討するに,需要者である求人企業においては,前
記認定のとおり,本件商標に係る役務についても,被告役務についても,役務利用
に当たっては文書による申込みを要し,役務のプランを選択し,相応の料金を支払\nうものであり,新規に正社員を採用するという企業にとって日常の営業活動とは異
なる重要な活動の一環として行われる取引であるから,求人に係る媒体の事業者が
多数ある中で(乙17,33),どの程度の経費を投じていかなる媒体でいかなる
広告や勧誘を行うかは,各事業者の役務内容等を考慮して慎重に検討するものと考
えられ,外観や観念が類似しない本件商標と被告標章1について,需要者である求
人企業が,称呼の類似性により誤認混同するおそれがあるとは認め難い。
しかしながら,求職者についてみると,前記認定のとおり,本件商標に係る役務
も被告役務も,利用のための会員登録は簡易であり,無料で利用できる上,証拠
(乙13,18ないし27,34。各枝番を含む。)によれば,多数の他の求人情
報ウェブサイトでも会員登録無料をうたっており,気軽に利用できるように簡単に
会員登録ができることを宣伝しているところ,情報を得て就職先の選択肢を広げる
意味で複数のサイトに会員登録する動機がある一方で,複数のサイトに会員登録す
ることに何らの制約もなく,現実に多数の大学生が複数の就職情報サイトに登録し
ていることが認められる。そうすると,求職者については,必ずしも役務内容を事
前に精査して比較検討するのではなく,会員登録が無料で簡易であるため,役務の
名称を見てとりあえず会員登録してみることがあるものと考えられる。
そして,本件商標も被告標章1も短く平易な文字列であり,発音も容易であるこ
と,本件商標に係る役務や被告役務はインターネット上で提供されているところ,
インターネット上のウェブサイトやアプリケーションにアクセスする方法として
は,検索エンジン等を利用した文字列による検索が一般的であり,正確な表記では\nなく,称呼に基づくひらがなやカタカナでの検索も一般に行われており,ウェブサ
イトや検索エンジン側においてもあいまいな表記による検索にも対応できるように\nしていることが広く知られていることからすれば,需要者である求職者は,外観よ
りも称呼をより強く記憶し,称呼によって役務の利用に至ることが多いものという
べきである。
そうすると,求職者が需要者に含まれるという取引の実情にかんがみれば,需要
者に与える印象や記憶においては,本件商標と被告標章1とでは,前記外観の差異
よりも,称呼の類似性の影響が大きく,被告標章1は特定の観念を生じず,観念の
点から称呼の類似性の影響を覆すほどの印象を受けるものではないから,前述のと
おり必ずしも事前に精査の上会員登録するわけではない学生等の求職者において,
被告標章1を本件商標に係る役務の名称と誤認混同したり,本件商標に係る役務と
被告役務とが,同一の主体により提供されるものと誤信するおそれがあると認めら
れる。
(ウ) 被告は,ウェブサイトでの役務の提供においては,役務主体の識別はウェ
ブサイトの上部等の目立つところに付されたロゴにより行われるのが通常であると
主張するが,前記のとおり,インターネット上においても,文字列で構成された商\n標については,称呼で記憶してアクセスすることが多いのであり,称呼の重要性が
低いものとはいえない。また,被告は,求職者がサービス内容を確認して会員規約
に同意し,所定の情報を入力して会員登録するまでの過程で多くの画面に接するこ
とにより視覚で役務の内容や運営主体を理解すると主張するが,証拠(乙3,36
の1,2)によれば,被告は,ウェブサイト上で,被告役務につき「まずは会員登
録してください。メールアドレスと属性の登録のみで約1分で完了します。」など
と記載し,会員登録フォームのページには被告役務の内容を説明する特段の記載は
なく,メールアドレスや学校名等の登録のみで会員登録が完了し,会員規約はスク
ロールしなければ内容を確認できないものであることが認められる。他方,被告役
務の会員登録に当たって,学生に役務の内容や運営主体を理解させ,本件商標に係
る役務との誤認混同を生じさせないようにする識別表示については,存するとは認\nめられない。
◆判決本文
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2021.01.28
令和2(行ケ)10101 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和3年1月19日 知的財産高等裁判所
商標「庵治石工衆」は,地域団体商標「庵治石」と出所混同する(15号)とした審決が維持されました。
前記1に認定した事実によると,「庵治石」との文字は,「香川県高松市
庵治町・牟礼町産の花崗岩」を意味するものであり,これを用いた石材又は
この石材を加工した石製品は,「庵治石(あじいし)」と呼ばれ,古くから
我が国において品質の高い石製品として広く知られており,香川県の伝統工
芸品となっていることが認められる。
一方,引用商標権者及びその構成員を含む高松市庵治町及び牟礼町内の採\n掘業者や石材業者らは,昭和20年から40年代にかけて組合を結成し,昭
和45年(1970)からは毎年,庵治石を用いた石製品の展示即売会を行
ってきており,平成19年3月9日には,地域団体商標として引用商標の設
定登録を受け,庵治石を用いた石製品に「庵治石(R)登録証」や「庵治石(R)プ
レート」を発行したり,「庵治石(R)」のシールを付したりして,ブランドの
維持に努め,さらに,庵治石の知名度向上や庵治石を用いた石製品の販路拡
大等を目的とした様々な展示会やイベントを開催し,引用商標の普及活動の
ための各種事業を長年継続して現在まで実施しているところ,その模様が相
当数の来場者や新聞,雑誌等への記事掲載を通じて,相応の程度に広告され
ている。加えて,引用商標は,地域団体商標の登録を受けていることから,
経済産業省特許庁が年1回発行する冊子及び同庁のホームページに毎回掲載
され,地域団体商標の普及事業において紹介されている。
これらの事情を考慮すると,引用商標は,本願商標の登録出願時及び本件
審判時において,「香川県高松市庵治町・牟礼町で採掘され加工された製品
に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし地域ブランド」との引用商標権者
又はその構成員の業務を示すものとして,需要者の間に広く認識されており,\n相当程度高い周知性を有していたものと認めるのが相当である。
(2) 原告の主張について
原告は,「庵治石」の文字は「香川県庵治町産の石」及び「香川県庵治町
産の石を加工して製作された石塔・墓石等」を表示するものとして我が国に\nおいて広く知られていたものであり,全体として石材の一種を示す普通名称
であって石材関連の商品及び役務との関係において自他商品役務識別機能及\nび出所表示機能\を有しない語であり,そうであれば,「庵治石」を標準文字
で表してなる引用商標が引用商標権者の業務を想起させるものとして周知性\nを有することはない旨を主張する。
しかしながら,「庵治石」の文字が「香川県高松市庵治町・牟礼町産の花
崗岩」を意味すると認められることは,前記のとおりであり,原告も自認し
ているところ,「庵治石」がその本来の産地以外の産地から産出される同種
同等の石材の呼称にも用いられるなど,石材の種類を示す普通名称になった
ことを示す証拠はなく,また,庵治地方以外の業者が「庵治石」を産地を示
すためではなく自己の商標として使用していたことを認めるに足りる証拠も
ない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
3 出所の混同のおそれに係る判断の誤りの存否について
(1) 検討
前記2(1)のとおり,「庵治石」の文字は,「香川県高松市庵治町・牟礼町
産の花崗岩」を意味するが,同時に,広く知られた「香川県高松市庵治町・
牟礼町で採掘され加工された製品に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし
地域ブランド」をも意味し,その文字部分のみで特定の意味合いを有するよ
く知られた語であるから,本願商標の「庵治石工衆」は,「庵治石」の文字
部分と「工衆」の文字部分とを分離して観察することが取引上不自然である
と思われるほど両者が不可分的に結合しているものとはいい難いといえる。
そして,本願商標の構成から「庵治石」の文字を除いた「工衆」の文字部分\nは,辞書等に載録された成語ではなく,「ものを作ることを職とする人々」
程の意味合いを連想させるにとどまるから,本願商標の指定役務との関係で
は出所識別標識としての機能は必ずしも強くなく,本願商標の構\成中の「庵
治石」の文字部分が出所識別標識を果たし得る要部として看取されるという
べきである。
本願商標の要部である「庵治石」の文字部分と引用商標とを対比すると,
いずれも標準文字で「庵治石」の文字を書してなる点で外観が同一であり,
また,「アジイシ」の称呼が生じる点で,称呼が同一である。そして,本願
商標をその指定役務に使用した場合は,本願商標の要部から「香川県高松市
庵治町・牟礼町産の花崗岩」という観念だけでなく,「香川県高松市庵治町・
牟礼町で採掘され加工された製品に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし
地域ブランド」という観念も生じるものであり,本願商標の観念は,引用商
標から生じる観念と同一である。そうすると,本願商標と引用商標の類似性
は極めて高いというべきである。
また,本願商標の指定役務は,その加工又は情報提供の対象物を,引用商
標の指定商品を含む墓用石材や墓石等とするものであるから,本願商標の指
定役務と引用商標の指定商品とは,密接な関連性を有するとともに,取引
者,需要者も相当程度で共通にするものといえる。そして,本願商標の指定
役務の需要者に含まれる一般需要者は,必ずしも石材等について専門的な知
識や経験を有するものではない者も含まれており,高度の注意力をもって役
務の提供を受けるとは限らない。
以上を考慮すると,本願商標をその指定役務に使用した場合には,これに
接する取引者,需要者は,出所識別標識としての機能を果たし得る要部であ\nる「庵治石」の文字部分に着目して,地域ブランド名として周知である引用
商標を連想,想起し,当該役務が引用商標権者又はその構成員との間に緊密\nな営業上の関係又は同一の表示による商品役務化事業を営むグループに属す\nる関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信し,役務の出所につき誤
認を生じさせるおそれがあるものというべきである。
そうすると,本願商標は,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずる
おそれがある商標であるから,商標法4条1項15号に該当する。
(2)原告の主張について
原告は,1)取引者,需要者は,本願商標を「庵治石」の産地である庵治地
域を表す「庵治」と「石工」及び「衆」からなるものであると認識し,取引\n者,需要者に対して「香川県庵治地域において,石を切り出したり,それを
細工したりする職人の集団」ほどの観念を想起させ「アジイシクシュウ」又
は「アジセッコウシュウ」の称呼を生じさせるから,引用商標と混同のおそ
れはない,2)仮に,取引者,需要者が本願商標を「庵治石」と「工衆」とか
らなる商標であると認識するとしても,「庵治石」の文字には自他商品役務
識別機能及び出所表\示機能がないから,本願商標は,引用商標と識別力のな\nい部分で共通するにすぎず,引用商標権者の業務と何らかの関係性があると
認識させるものでない旨主張する。
しかしながら,上記1)の主張については,本願商標を「庵治」と「石工」
及び「衆」からなるものであると認識するのが通常であるとはいい難く,ま
た,仮に,そのような認識が生じるとしても,それと並んで,庵治石を要部
とした前記(1)記載の観念が生じることは明らかであるし,上記2)の主張の
前提が成り立たないことは,前記(1)に認定判断したとおりであるから,原
告の上記主張は,採用することができない。
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