2022.05. 5
「ぼてぢゅう総本家」は登録商標「ぼてぢゅう」に類似するとして、原告らに対して約1000万円の損害賠償が認められました。
そこで、前記1(結合商標の類否の判断基準)に基づき本件商標1と被告
標章I)の類否を検討するに、被告標章I)は、暖簾を模した図案の上に2段書
きされた文字を記載しており、図案と文字との結合商標であるといえる。そ
して、図案部分についてみると、現実の暖簾には文字が記載されることも少
なくないという実情を踏まえると、単なる背景や文字枠として認識されるも
のであり、図案部分自体には、出所を識別する機能があるとはいえない。\n他方、被告標章I)の文字部分についてみると、2段書きされており、各段
の文字を結合したものであるといえるところ、全体的に見て、上段の「宗右
衛門町趣味のお好み焼」が下段の「ぼてぢゅう総本家」に対し、小さい文字
で付されたものであることからすれば、その内容に照らしても、需要者は、
上段部分が、下段部分の説明書きであると理解するといえるから、上段部分
には出所を識別する機能があるとはいえない。\nそして、被告標章I)の下段の文字部分についてみると、「ぼてぢゅう」と
「総本家」とを結合したものであるといえるところ、前者は、お好み焼き店
のために創作された極めて特徴的な造語であるのに対し、後者は、「おおも
との本家」を意味する一般的な日本語であって(甲28)、その前後に接続
する語句がある場合には、その語句に関連する「総本家」であると理解され
るのが通常であるから、下段の文字部分中「総本家」の文字部分から出所識
別標識としての称呼、観念が生ずるものとはいえない。そうすると、「ぼて
ぢゅう」の文字部分が、需要者に対し、商品又は役務の出所識別標識として
強く支配的な印象を与えるものと認めるのが相当である。
(3) したがって、被告標章I)は、その構成中の「ぼてぢゅう」の文字部分を抽\n出し、この部分だけを本件商標1と比較して商標そのものの類否を判断する
ことが許されるというべきである。そして、被告標章I)は、筆書きによる平
仮名「ぼてぢゅう」を同大同間隔に左横書きした外観を有するのに対し、本
件商標1は、別紙商標目録記載1のとおり、筆書きの「ぼてぢゅう」の文字
を同大同間隔で左横書きにした外観を有するのであるから、両者は、その外
観において類似するものであり、両者の称呼及び観念が同一であることも明
らかである。以上によれば、本件商標1と被告標章I)とは、類似するものと認めるのが
相当である。
(4) これに対し、被告は、「宗右衛門町」が著名であり、「趣味」が特徴的な
言葉であることを理由として、出所識別機能を有すると主張するが、「宗右\n衛門町趣味のお好み焼」という部分は、地理的名称、商品の性質、商品の種
類を示すものと理解されるのであるから、「ぼてぢゅう」が強く支配的な印
象を与えるという上記認定を左右するものとはいえない。
また、被告は、「総本家」が出所識別機能を有しないとする根拠は存在せ\nず、被告標章I)の2段の文字部分の1段に記載され、まとまりのある「ぼて
ぢゅう総本家」という9音を分離観察する理由もないなどと主張する。しか
し、「総本家」の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生ずるものと
はいえないことは、上記において説示したとおりである。のみならず、「ぼ
てぢゅう」の5字は、「総本家」の3字に比し、大きく書かれ、視覚的にも
それ自体十分区別し得る上、前者の文言は、後者の文言に対し、強く支配的\nな印象を与えるものといえる。これらの事情を踏まえると、「ぼてぢゅう」
と「総本家」とを分離して観察することが、取引上不自然であると思われる
ほど不可分的に結合しているものともいえないのであるから、被告の主張は、
上記結論を左右するものとはいえない。
・・・
商標法38条2項は、民法の原則の下では、商標権侵害によって商標権者
が被った損害の賠償を求めるためには、商標権者において、損害の発生及び
額、これと商標権侵害行為との間の因果関係を主張、立証しなければならな
いところ、その立証等には困難が伴い、その結果、妥当な損害の填補がされ
ないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵害行為によって利
益を受けているときは、その利益の額を商標権者の損害額と推定するとして、
立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、商標権者に侵害者による
商標権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在
する場合には、商標法38条2項の適用が認められると解すべきである。
これを本件についてみると、証拠(甲81ないし83)及び弁論の全趣旨
によれば、原告らの店舗は、外食市場が伸び悩む現状を踏まえ、コンビニや
スーパーの弁当や惣菜を中心として着実に成長しているいわゆる中食市場に
進出することとし、平成29年11月又は12月以降、焼きそばやお好み焼
き等のテイクアウト販売及びデリバリー販売の事業を展開していることが認
められる。そうすると、原告らの事業に係る焼きそばやお好み焼き等の商品
が被告商品1)及び4)と同じ種類の商品であることを踏まえると、被告商品1)
及び4)が一定の調理を要することを考慮しても、少なくとも中食市場におけ
る原告らの事業は、被告商品1)及び4)を販売等する被告事業と競業関係にあ
るものといえる。
したがって、原告らに、被告による商標権侵害行為がなかったならば利益
が得られたであろうという事情が存在することが認められ、商標法38条2
項の適用が認められる。
・・・
商標法38条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は、侵害
者の侵害品の売上高から、侵害者において侵害品を製造販売することにより
その製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益
の額であり、その主張立証責任は商標権者側にあるものと解すべきである。
そして、原告が、被告商品1)及び4)の限界利益の額を売上高の3割である
と主張するのに対し、当該商品を実際に製造する被告は、その割合は24%
であると主張するにとどまり、これを裏付ける証拠を何ら提出していない事
情を踏まえると、限界利益の額は、原告らの主張する上記3割を下回らない
と認めるのが相当である。
そうすると、商標法38条2項の損害額と推定される侵害品の限界利益の
額は、原告東京フードについては、前記10(2)で認定した売上高2億482
0万8219円の3割に相当する7446万2465円であると認めるのが
相当であり、原告BGHDについては、前記10(2)で認定した売上高654
6万8493円の3割に相当する1964万0547円であると認めるのが
相当である。
(2) 商標法38条2項における推定の覆滅については、侵害者が主張立証責任
を負うものであり、侵害者が得た利益と商標権者が受けた損害との相当因果
関係を阻害する事情がこれに当たるものと解される。
これを本件についてみると、前記10(2)のとおり、原告らは、「ぼてぢゅ
う」の名を付した店舗を出店し、主としてお好み焼きや焼きそばなどを提供
する事業を行っているところ、平成29年11月又は12月以降テイクアウ
ト販売及びデリバリー販売の事業を展開しているものの、その事業規模は明
らかではなく、原告の業務態様は、基本的にはスーパーマーケットなどで商
品を販売するという被告の業務態様とは、大きく異なるものであること、他
方、前記前提事実、証拠(乙1、2、4)及び弁論の全趣旨によれば、被告
は、平成23年3月19日、最初に「ぼてぢゅう」のお好み焼き店を開業し
た者が設立した株式会社ぼてぢゆう総本家から、被告保有商標1の譲渡を受
けてこれを使用し、被告保有商標1が失効した後も、被告保有商標2及び3
を保有して、お好み焼きや焼そば等を販売してきたことが認められ、被告は、
元祖「ぼてぢゅう」の信用をも引き継ぎつつ、相応の営業努力をして商品を
販売等してきたことが認められること、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、原告らと被告の業務態様等には大きな相違が存在
する上、被告も通常の範囲を超える格別の営業努力をして商品を販売等して
きたことが認められ、その他に本件に現れた事情を総合考慮すると、原告ら
に生じた損害については、商標38条2項による推定を覆滅する事情がある
というべきであり、その推定の覆滅の割合は、上記諸事情を踏まえ、9割と
認めるのが相当である。
(3)これに対し、原告らは、「ぼてぢゅう監修」などと表記した商品(甲18\nないし25、62)を販売しており、被告による商標権侵害行為により、当
該商品の売上げも減少し、原告らに損害が生じた旨主張する。
しかし、証拠(甲18ないし25、62)及び弁論の全趣旨によれば、上
記商品の販売減による原告らの利益の減少は、ライセンス収入の減少に相当
するものにすぎず、しかも、原告らは、上記減少に係る具体的な額について
何ら主張立証していないことからすれば、原告らの主張は、上記判断を左右
するものとはいえない。したがって、原告らの主張は、採用することができない。
(4) 以上によれば、原告東京フードに生じた商標法38条3項で推定される損
害額は、前記(1)の限界利益の額7446万2465円の1割である744万
6246円と算定され、当該事案の内容、難易度、審理経過及び認容額等に
鑑み、これと相当因果関係あると認められる弁護士費用相当損害74万46
24円との合計819万0870円となり、原告BGHDに生じた商標法3
8条3項による損害額は、前記(1)の限界利益の額1964万0547円の1
割である196万4054円と算定され、当該事案の内容、難易度、審理経
過及び認容額等に鑑み、これと相当因果関係あると認められる弁護士費用相
当損害19万6405円との合計額は216万0459円となる。
◆判決本文
原告は、登録商標「ライスパワー」「RICE POWER」を、被告は登録商標「いいべさーホワイトライスパワー」をそれぞれ保有していました。被告は「ホワイトライスパワー」「WHITE RICE POWER」を使用しており、これらが商標権侵害・不正競争行為に該当するのかが争われました。裁判所は商標権侵害・不正競争行為であるとして、差止および17万円の損害賠償を認めました。
被告主張表示1について\n
被告主張表示1は,「IIBESA」,「いいべさー」,「ホワイトライ\nスパワー」の3段の文字列からなり,「ホワイトライスパワー」の部分
は,黒字の背景に白文字の表示となっており,「いいべさー」,「いいべ\nさー」,「ほわいとらいすぱわー」との称呼が生じる。そして,「いいべ
さー」とは,東北地方の方言で「いいでしょう」という意味を持ち,
「いいでしょう」,「いいでしょう」,「白い米の力」との観念が生じるも
のといえる。
このように,被告主張表示1の外観において,「IIBESA」,「い\nいべさー」,「ホワイトライスパワー」の部分は3段に分かれて表示され\nており,「ホワイトライスパワー」の部分は黒字の背景に白文字の表示\nになっており,他とは区別されている。そして,その観念については,
「いいでしょう」,「いいでしょう」,「白い米の力」というものであり,
「いいでしょう」は「白い米の力」(ホワイトライスパワーの文字部分)
を修飾しており,「白い米の力」の部分が需要者の注意を引きつけるも
のといえる。また,その称呼についても「いいべさー」,「いいべさー」,
「ほわいとらいすぱわー」というものであり,これを一連のものと一読
するのは冗長であり,各部分について格別に称呼が生じるといえる。
加えて,被告主張表示1の「ホワイトライスパワー」のうち「ライス\nパワー」部分は,需要者である化粧品に関心のある一般の消費者に原告
勇心酒造の出所を示すものとして周知の表示であった(前記3(1))。そ
して,原告商品及び被告各商品は,ともに化粧品の部類に属するものと
いえるところ,化粧品類の取引においては,一般に,「ホワイト」とは,
その商品の色彩を表示するもの又は肌の美白効果を謳う品質や効能\表示\nに用いられるものとして,広く使用されているといえ,このような化粧
品類の取引の実情に鑑みれば,「ホワイト」の部分は,その商品の品質,
効能,色彩を表\示するものと理解し得るものといえる。これらによれば,
本件においては,「ホワイトライスパワー」のうち,「ライスパワー」の
部分が周知の表示として需要者に強い印象を与え,このこととの関係に\nおいて,「ホワイト」の部分は,その「ライスパワー」の品質,効能,\n色彩を示すものと理解し得て,その場合には識別力を有しないか,又は
識別力の弱い部分であるというべきであり,一般の消費者は,「ライス
パワー」部分に着目するといえる。
このように,被告主張表示1の外観や観念,称呼に加えて,「ライス\nパワー」部分が需要者に周知の表示といえることや化粧品類の取引の実\n情に照らせば,被告主張表示1において強く支配的な印象を与えるのは,\n「ホワイトライスパワー」の文字部分のうちの「ライスパワー」部分で
あるというべきである。
したがって,被告主張表示1については,原告各表\示と被告主張表示\n1の「ライスパワー」部分の類似性を検討するのが相当である。
そうすると,原告表示1と,被告主張表\示1の「ライスパワー」部分
は,外観,称呼,観念において同一であり,原告表示2及び3と被告主\n張表示1の「ライスパワー」部分は,称呼,観念において同一であると\nいえるから,原告各表示と被告主張表\示1は,両者を全体的に類似のも
のとして受け取るおそれがあるといえ,類似しているといえる。
・・・
原告各表示と被告各表\示が類似していることに加えて,原告商品及び被告各
商品はいずれ化粧品の部類に属し,取引者及び需要者は共通のものといえる
ことなどに照らせば,被告が原告各表示と類似する被告各表\示を付して被告
各商品の販売等することは,需要者に他人である原告の商品と混同を生じさ
せる行為といえる。
したがって,被告が被告各表示を使用した商品を販売等する行為は,不競法\n2条1項1号の不正競争に該当する行為といえる。
・・・
被告主張標章1について
被告主張標章1は,被告主張表示1と同一の構\成であり,「IBESA」,「いいべさー」,「ホワイトライスパワー」の3段の文字列からなり,
「ホワイトライスパワー」の部分は,黒字の背景に白文字の表示となっ\nており,「いいべさー」,「いいべさー」,「ほわいとらいすぱわー」との
称呼が生じる。そして,「いいべさー」とは,東北地方の方言で「いい
でしょう」という意味を持ち,「いいでしょう」,「いいでしょう」,「白
い米の力」との観念が生じるものといえる。
このように,被告主張標章1の外観において,「IIBESA」,「い
いべさー」,「ホワイトライスパワー」の部分は3段に分かれて表示され\nており,「ホワイトライスパワー」の部分は黒字の背景に白文字の表示\nになっており,他とは区別されている。そして,その観念については,
「いいでしょう」,「いいでしょう」,「白い米の力」というものであり,
「いいでしょう」は「白い米の力」(ホワイトライスパワーの文字部分)
を修飾しており,「ホワイトライスパワー」の文字部分が需要者の注意
を引きつけるものといえる。また,その称呼についても「いいべさー」,
「いいべさー」,「ほわいとらいすぱわー」というものであり,これを一
連のものと一読するのは冗長であり,各部分について格別に称呼が生じ
るといえる。
加えて,被告主張標章1の「ホワイトライスパワー」のうち「ライス
パワー」部分は,化粧品に関心のある一般の消費者に,原告勇心酒造の
出所を示す表示として周知の表\示といえ,需要者に強い印象を与えると
いえる(前記3(1))。また,原告商品及び被告各商品は,ともに化粧品
の部類に属するものといえるところ,化粧品類の取引においては,「ホ
ワイト」とは,一般に,その商品の色彩を表示するもの又は肌の美白効\n果を謳う品質や効能表\示に用いられるものとして,広く使用されている
といえ,このような化粧品類の取引の実情に鑑みれば,「ホワイト」の
部分は,その商品の品質,効能,色彩を表\示するものと理解し得るもの
といえる。これらによれば,本件においては,「ホワイトライスパワー」
のうち,「ライスパワー」の部分が周知の表示として需要者に強い印象\nを与え,このこととの関係において,「ホワイト」の部分は,その「ラ
イスパワー」の品質,効能,色彩を示すものと理解し得て,その場合に\nは識別力を有しないか,又は識別力の弱い部分であるというべきであり,
一般の消費者は,「ライスパワー」部分に着目するといえる。
このように,被告主張標章1の外観や観念,称呼に加えて,「ライス
パワー」の部分が需要者に周知の表示といえることや化粧品類の取引の\n実情に照らせば,被告主張標章1で強く支配的な印象を与える部分は,
「ホワイトライスパワー」の文字部分のうちの「ライスパワー」部分で
あるというべきである。
したがって,被告主張標章1については,原告各表示と,被告主張標\n章1の「ライスパワー」部分との類否を検討するのが相当である。そう
すると,原告商標1と,被告主張標章1の「ライスパワー」部分は,外
観,称呼,観念において同一であり,原告商標2と被告主張標章1の
「ライスパワー」部分は,称呼,観念において同一であるといえる。そ
して,原告勇心酒造と原告創研は,原告各商標の持つ出所識別機能等を\n保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価する
ことができ(前記認定事実(4)),実質的には同一の表示による商品化事\n業を一体として営む関係にあるといえることに鑑みれば,上記「ライス
パワー」部分が同一である場合,原告各商標と被告主張標章1は,類似
しているということが相当である。
・・・
カ 被告は,1)被告主張標章1ないし4が全体としてまとまりよく表示され\nており,称呼も冗長ではなく,よどみなく一連に称呼できることから,全
体を一体として理解すべきである,2)「ホワイトライスパワー」のうち
「ホワイトライス」とは白米を指すことから,「ホワイト」の部分だけを
分離して判断することはできないなどと主張するが,これらの被告の主張
を採用することができないのは,前記4(3)キのとおりである。
キ 以上のとおり,原告各商標と被告主張標章1ないし4及び被告標章5な
いし8は類似しているといえる。そして,被告主張標章1ないし4は,
「ホワイトライスパワー」又は「White Rice Power」と
いう被告標章1ないし4の文字列を含むことからすれば,原告各商標と被
告標章1ないし4は類似しているといえる。したがって,原告各商標と被
告各標章は類似しているといえる。
◆判決本文
商標権侵害事件です。3段併記の商標「KENT/MARINE SPIRIT/BROS.」、2段併記の商標「KENT/BROS.」、が、原告商標「Kent」に類似すると判断されました。被告は、2段併記の登録商標「KENT BROS/ケントブロス」を保有していましたが専用権の範囲外の使用と判断されています。
ア 被告標章1の分離観察の可否
被告標章1の外観は別紙被告標章目録記載1のとおりである。すなわち,
上段に横書きの「KENT」,中段に横書きの「MARINE SPIR
IT」,下段に横書きの「BROS.」を,いずれもほぼ同じ列幅で,か
つ,上段と中段との行間及び中段と下段との行間をほとんど空けること
なく三段に配して成る結合商標であって,全体としてまとまりよく構成\nされている。
もっとも,欧文字は左から右に順次目線を移して読解するものであるか
ら,二段以上にまたがって欧文字が配された場合には,横一列に配され
た場合と比較して結合の度合いは相当弱くなるといえる。特に,上段と
下段でそれぞれ独立した単語となり得る場合には,なおさらである。さ
らに,上段と下段を構成する欧文字はいずれもおおむね同じ大きさであ\nる上,黒地に白抜きで記載されている点及び手書き風の字体である点に
おいても共通するのに対し,中段を構成する欧文字の大きさは上段及び\n下段の欧文字より相当小さく,その行の高さは上段及び下段の行の高さ
の3分の1程度にすぎない上,白地に黒い字で記載されている。しかも,
中段を構成する欧文字は,水平方向に平行に延びる2本の直線と垂直方\n向の弦を有する2つの半円とを組み合わせた横長の角丸長方形様の図形
によって囲まれ,当該図形部分は白く着色されており(そのため,中段
を構成する欧文字は,上段及び下段とは異なり,黒字で記載されてい\nる。),中段の全体が一本の白い横棒のような外観を呈している。このよ
うに,中段の外観は上段及び下段と大きく異なる上,横棒のような外観
を有しているから,中段を境に,上段と下段が分離されたような外観を
有しているということができる。
そして,前記(2)アのとおり,イトーヨーカドーは,平成21年度以降,
約10年という相当長期間にわたって,168回もの多数回,チラシに
「Kent」ブランドのシャツ,パーカー,パンツ,靴下,コート,セ
ーター,下着,手袋等の広告を掲載しており,前記(2)ウのとおり,「K
ent」ブランドの商品については,イトーヨーカドーにおいて,平成
21年度から平成30年度までの間に●(省略)●もの売上げがあった
もので,年によって増減はあるものの,平均すれば年間約50億円を売
り上げてきたこと,前記(2)イのとおり,限られた期間及び回数ながら,
著名人を起用した「Kent」ブランドのテレビCMが全国に放映され
たことに照らせば,「Kent」ブランドは,令和元年当時,被服の分野
において,相応の周知性を有しており,取引者及び需要者に対し,商品
の出所識別標識として相当強い印象を与えていたものと認めるのが相当
である。そうすると,被告標章1の上段の「KENT」は,上記「Ke
nt」の二文字目以降を大文字で記載したほかは,つづりが同一である
ことから,「KENT」の標章が被服に用いられた場合には,取引者及び
需要者において「Kent」ブランドを想起するものと認めることがで
きる。
他方,「BROS.」についてみれば,25類・被服を指定商品とする
「BROS ブロス」との登録商標が存在すると認められるものの(乙
3),本件全証拠によっても,被服に関する「BROS」の実際の使用例
としては,男性用下着のサブブランドとしてのものが認められるのみで
あって,「BROS」がどの程度の周知性を有するのかは明らかではない。
そうすると,上記の登録商標の存在を根拠に「BROS.」から出所識別
標識としての称呼,観念が生ずると認めることはできず,その点につい
ては,本件証拠上,明らかではないというべきである。以上の事情を総
合すれば,被告標章1の構成部分のうち,「BROS.」から出所識別標\n識としての称呼,観念が生じないとまでは認められないものの,上段の
「KENT」と下段の「BROS.」は,二段以上にまたがって配され,
かつ,それぞれが独立した単語となり得ることにより,横一列に配され
た場合と比較して結合の度合いは相当弱くなることに加え,一本の白い
横棒のような外観を有する中段の「MARINE SPIRIT」によ
り上下に分離されている上,「KENT」に対応する「Kent」ブラン
ドが,被服の分野において,相応の周知性を有しており,取引者及び需
要者に対し,商品の出所識別標識として相当強い印象を与え得ることか
らすれば,上段の「KENT」と下段の「BROS.」とを分離して観察
することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合している
とまではいえない。したがって,被告標章1については,上段の「KE
NT」のみを分離して観察することができると認めるのが相当である。
その結果,被告標章1については,「ケント」との称呼が生じ,かつ,原
告が使用権を設定し,イトーヨーカドーが使用する「Kent」ブラン
ドの商品であるとの観念が生じるものと認められる。
イ 被告標章2の分離観察の可否
被告標章2の外観は別紙被告標章目録記載2のとおりである。すなわち,
上段に横書きの「KENT」,下段に横書きの「BROS.」を,いずれ
もほぼ同じ列幅で,かつ,上段と下段との行間をほとんど空けることな
く二段に配して成る結合商標であって,全体としてまとまりよく構成さ\nれている。
もっとも,欧文字は左から右に順次目線を移して読解するものであるか
ら,上記の「KENT」と「BROS.」のように,二段以上にまたがっ
て欧文字が配された場合には,横一列に配された場合と比較して結合の
度合いは弱くなり,上段と下段でそれぞれ独立した単語となり得る場合,
その結合の度合いがより弱くなることは,被告標章1の場合と同様であ
る。
そして,前記アのとおり,「BROS.」から出所識別標識としての称呼,
観念が生じないとは認められないものの,他方で,「Kent」は商品の
出所識別標識として取引者及び需要者に相当強い印象を与えていたもの
と認められ,かつ,「KENT」の標章が被服に用いられた場合には,取
引者及び需要者において「Kent」ブランドを想起するものと認めら
れる。
そうすると,被告標章2においては,被告標章1の中段に相当する部分
が存在しないものの,そもそも「KENT」と「BROS.」の結合の度
合いが弱い上,「KENT」に対応する「Kent」ブランドが商品の出
所識別標識として相当強い印象を与え得ることからして,被告標章2の
各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思わ\nれるほど不可分的に結合しているものとは認められないというべきであ
り,上段の「KENT」を分離観察することができるというべきである。
その結果,被告標章2についても,被告標章1と同様,「ケント」との称
呼及び「Kent」ブランドの商品の観念が生じるものと認められる。
◆判決本文