2024.11. 7
有名なランプシェードの立体商標について、当該商品を販売している会社が取得しました。これについて、当該商品のデザイナーの盗用であるとして、公序良俗違反、周知性違反を理由に無効主張をしました。審決・判決とも無効理由なしと判断しました。
1 取消事由1(商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について
(1) 原告は、被告は特許庁を欺いて本件商標権を取得したものであり、国際信義則及び公序良俗に反し、これは商標法4条1項7号に該当する旨主張する。\n
(2) まず、原告は、被告が A 又はその相続人から本件商標に係る商
品の著作権についてライセンス契約の締結を受けていないとして、これを問
題とするところ、商標法には、他人の著作権と抵触するような商標登録を禁
じる規定はなく、むしろそのような商標登録が発生し得ることを前提に、同
法29条により先行著作権との調整を図っているのであって、他人の著作権
との抵触の一事をもってしては、同法4条1項7号に該当しないというべき
である。 A の相続人と被告との間の著作権に関するライセンス契
約の成否、有効性いかんの問題は、同号該当性に影響を及ぼすものではない
(蛇足ながらあえて付け加えると、乙1、2に係るライセンス契約の成立及
び有効性を疑うべき事情は見当たらない。)。
(3) また、本件商標は、出願過程において、被告の業務に係る商品であること
が広く認識されていたことが認められて商標法3条2項が適用されていると
ころ、被告と A 又はその相続人との間で、本件商標に係る著作権
について紛争となっている等、その出願が国際信義に反するような事情が生
じていることの主張立証はない。本件は、単に、原告において、「被告による
A のデザインの盗用」という根拠のない憶測を述べているにすぎ
ない事案といわざるを得ない。
(4) 以上のとおりであって、本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとし
た本件審決の判断に誤りはなく、取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(商標法4条1項10号該当性の判断の誤り)について
(1) 原告は、本件商標は、 A の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されている商標として、商標法4条1項10号に該当する旨主張\nする。
しかし、原告は、本件商標が「 A の」業務に係る商品を表示するものであることを表\示するものとして周知であることを示す具体的な立証をしない。甲25、26を含め、本件商標の形状をデザインした者が A
であることを示す証拠はあるが、業務の主体が A であることを
示すものではない。
(2) 原告は、 A の相続人と被告の間で締結されたライセンス契約が
有効でないとすれば、デザイナーの有名な商品を盗用して商品化した業者が、
立体商標の登録出願をして権利を取得できるようになる旨主張するが、同主
張は商標法4条1項10号の要件とはかかわりのないものである(なお、上
記ライセンス契約の成立及び有効性を疑うべき事情がないことは上記のとお
りである。)。
(3) 以上のとおりであって、本件商標が商標法4条1項10号に該当しないと
した本件審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。
◆判決本文
立体商標について、3条2項を主張しましたが、知財高裁はこれを否定しました。
商標法3条2項は、同条1項3号から5号までに該当する商標であっても、
「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを
認識することができるもの」については、商標登録を受けることができる旨
を規定している。同条2項の趣旨は、同条1項3号から5号までに該当する
商標であっても、特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用
した結果、その商標がその商品又は役務と密接に結びついて自他商品識別力
又は自他役務識別力をもつに至ることが経験的に認められるので、このよう
な場合には商標登録を受けることができるとしたものと解される。
そして、立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得した
かどうかは、当該商標の形状の斬新性、当該形状に類似した他の商品の存否、
当該商標の使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣
伝のされた期間・地域及び規模等の諸事情を総合考慮し、立体的形状が需要
者の目につき易く,強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上
で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを
判断するのが相当である。
・・・
ア 本願商標の立体的形状の構成は前記第2の1(1)及び前記1(2)アのとおり
であり、その形状は、ラベルプリンター用テープカートリッジとしての商
品の機能又は美感に資することを目的として採用されたものであると認\nめられる。
しかも、原告以外の者が取り扱うラベルプリンター用テープカートリッ
ジにおいても、印字用テープをロール状にして収納する部分や、印字用テ
ープの巻取りや送り出しをするための輪状の部分を有し、ケースの覆いが
透明又は半透明となっている製品が複数存在し(前記1(2)ウ)、本願商標の
形状と、原告以外の者が取り扱うラベルプリンター用テープカートリッジ
の形状とは、一定の差異はあるが、主要な構成要素が共通しており、本願\n商標の形状の斬新性は乏しく、本願商標の形状に類似した他の商品が存在
すると認められる。
イ 「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンターは平成4年から販売さ
れており(前記(2)ア)、同時期に「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプ
リンター用テープカートリッジである本件商品も販売が開始されたもの
と推認される。本件商品の形状が販売当初において現在と異なるものであ
ったと認めるに足りる証拠はなく、本件商品はその販売当初から本願商標
の形状が用いられていたと認められる。
しかし、本件商品について、原告カタログに掲載されていることは認め
られるものの、本件商品のみを扱った広告宣伝がされたとは認めるに足り
る証拠はない。
また、本件商品は箱に入った状態で販売されており(前記(2)ウ)、店舗に
おいて本願商標の形状が顧客に示されないと認められる。箱には、原告の
社名を示す「KING JIM」の文字や、「TEPRA」、「PRO」等、
「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンター用テープカートリッジで
あることが分かる文字の記載、テープの幅や色等を示す記載等がされてい
る。原告のウェブサイトで本件商品を紹介する画面には、箱から出された
本件商品が表示されており、本願商標の形状が示されているが、「KING\nJIM」、「TEPRA」、「PRO」等の文字が記載されたシールの貼られ\nた状態の写真であり、箱も表示されている上、ウェブサイト上の記載とし\nても「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンターであることが示され
ている(甲102〜104)。原告カタログも、箱から出されてシールの貼\nられた状態の本件商品とともに、箱が表示されている(前記(2)ウ)。
そして、本件商品は、「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンター
用のテープカートリッジであり、「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプ
リンターを所持する者が、新たなテープカートリッジが必要となった場合
に購入する商品であるといえ、需要者は、「『テプラ』PRO」シリーズの
ラベルプリンター用テープカートリッジであること及びテープの色、幅等
の情報を基に、本件商品の中から特定の商品を購入すると考えられるので
あり、これらの情報は、本件商品の箱やインターネット上の記載において
表示されている。したがって、需要者である一般の消費者は、本願商標の形状からではなく、箱やシールに記載された文字、あるいはウェブサイト上に記載された\n説明の記載から、本件商品を他の商品と識別すると考えられる。
ウ 本件調査の結果は、本願商標の形状が明らかな写真を示した上で回答さ
せたところ、自由回答では、写真に撮影された商品を販売する企業名及び
商品名の両方を誤った者が回答者全体の約6割を占め、選択肢に「テプラ
(TEPRA)」を入れて商品名を選ばせる質問を含めても、自由回答によ
る質問及び選択問題の全てを誤った者が全体の約半数にのぼった。
また、本件調査では、設問の中で、回答の理由を聴取し、その理由から
明らかにいい加減な回答(ノイズ)をしたと判別できる調査対象者を除い
た集計も行ったが、ノイズを除くと、上記写真に撮影された商品を販売す
る企業名又は商品名のいずれか一方を正答した者は回答者全体の31.
0%にすぎず、選択肢を示して回答させる質問でも、ノイズを除くと、上
記写真から「テプラ(TEPRA)」の商品名を選択した者は回答者全体の
35.8%にすぎないという結果となった。
エ 上記アからウまでの事情を総合すれば、本件商品が販売開始から約30
年が経過していること及び販売地域が全国であることを考慮しても、本願
商標が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったということ
はできないから、本願商標が使用により自他商品識別力を有するに至った
と認めることはできず、この判断を覆すに足りる事情は認められない。
◆判決本文