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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

商標その他

令和5(ネ)10044  商標権に基づく差止請求権不存在確認請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和5年11月1日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

破産管財人が提起した差止請求不存在確認訴訟の控訴審です。破産会社は被控訴人(1審被告)から通常使用権を有していましたが、契約は解除されてました。1審は、差止請求権有りと判断していました。知財高裁も同じ判断です。争点は、商標法上の真正品であるので権利濫用となるか否かです。

本件使用許諾契約は既に効力を失っており、在庫商品について例外的に本件商標の使用が許諾された期間も経過しているから、本件使用許諾契約が有効である間に製造され本件商標が付された商品であっても、これを販売することは、前記1のとおり、商標法2条3項2号の「商品に標章を付したものを譲渡し」たとして「使用」に当たり、本件使用許諾契約及び本件解約合意に違反するものである。
上記事実によると、破産会社は本件在庫商品を販売できる期間を自ら合意していながら、その期間内に本件在庫商品を販売せずに、販売可能な期間を徒過したものであり、控訴人はその地位を承継したものであるから、控訴人が主張する各事実をもって、信義則違反又は権利濫用に当たるものとはいえない。\n

◆判決本文

原審はこちら。

◆令和4(ワ)18610

しかし、商標法31条2項は、「通常使用権者は、設定行為で定めた範囲内 において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を有す る。」と規定しており、通常使用権の範囲、期間、条件等は使用許諾契約によ り定められることになるが、前記1のとおり、本件使用許諾契約は既に効力を 失っており、在庫商品について例外的に本件商標の使用が許諾された期間も既 に経過しているから、本件使用許諾契約が有効である間に本件商標が付された 商品であっても、今後、これを販売することは、本件使用許諾契約及び本件解 約合意に違反するものである。そうすると、現時点において、通常使用権者で あった破産会社の地位を承継した原告が、商標権者である被告に対し、本件商 標を付した本件在庫商品を販売することは実質的違法性を欠くなどと主張し得 ないことは明らかである。
また、商標法は、商標を使用する者の業務上の信用及び需要者の利益を確保 することを目的とするところ(商標法1条参照)、需要者である一般消費者は、 登録商標が付された商品を商標権者から直接購入する場合ではなくとも、商標 権者の許諾に基づいて登録商標が付された商品を購入しようとする際には、商 標権者による技術指導や品質検査等を前提とする商品であると理解し、商標権 者が登録商標を付して流通に置いた正規の流通経路によった商品と出所及び品 質が同一の商品を購入することができる旨信頼するのが通常であり、その信頼 を裏切らないことにより、商標権者の業務上の信用が確保されるというべきで ある。ところが、前記1のとおり、本件商標を付した本件在庫商品が市場に出 回ることは、商標権者である被告の許諾がないことから、正規の流通経路によ らないものであるといえるし、本件商標を使用するに当たっての遵守事項を定 めた本件使用許諾契約が解約されたことにより、破産会社又は原告がこれに従 う法的根拠が失われ、被告は本件在庫商品の品質管理を行い得る立場にないこ とになる。そうすると、原告が本件商標を付した本件在庫商品を販売すること は、本件商標の出所表示機能\及び品質保証機能を害するものといえる。
さらに、平成15年最判は、商標権者から商標の使用を許諾された者が使用 許諾契約で定める条件に違反して当該商標を付した商品を製造したところ、別 の業者が当該商品を海外で仕入れて日本に輸入する行為、いわゆる並行輸入の 違法性が争われた事件に関する判断であるのに対して、本件は、かつて商標の 使用を許諾されていた者自身の行為の違法性が問われているから、事案を異に する。原告が指摘する他の裁判例についても、同様である。
したがって、原告が本件商標を付した本件在庫商品を販売することについて、 商標権侵害の実質的違法性を欠くとはいえない。

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令和4(ワ)19876    商標権  民事訴訟 令和5年8月24日  東京地方裁判所

 商標権侵害訴訟にて、9類「電子印刷物」と16類「印刷物」は類似商品と認定されました。

2 商品の類否(争点 2)について
(1) 本件商標 1 と被告各標章について
本件商標 1 の指定商品は、第 16 類「印刷物」(ただし、別件審判に係る予告登録の日までに限る。)のほか、第 9 類「電子印刷物」であるのに対し、被告各標章は紙媒体である雑誌すなわち印刷物に付して使用されるものである。
指定商品「電子印刷物」と商品「印刷物」とは、媒体を異にすることなどから、同一とはいえない。しかし、本件商標 1 の商標登録出願がされた平成28 年当時において既に、雑誌その他の出版物につき、同一人が同一内容の出版物を紙媒体及び電子版として出版することが広く行われていたことは、顕著な事実である。こうした事情等に鑑みると、被告各標章を印刷物に付して使用する行為は、少なくとも、本件商標 1 の指定商品である第 9 類「電子印刷物」に類似する商品についての使用ということができる。これに反する被告らの主張は採用できない。
(2) 本件商標 2 と被告各標章について
本件商標 2 の指定商品は第 16 類「印刷物」であることから、被告各標章を印刷物に付して使用する行為は、本件商標 2 の指定商品についての使用ということができる。
(3) 小括
以上より、被告各出版物に被告各標章を付して使用する被告らの行為は、指定商品に類似する商品についての登録商標に類似する商標の使用(本件商標1との関係)及び指定商品についての登録商標に類似する商標の使用(本件商標2との関係)に該当し、本件各商標権の侵害と見なされる(商標法37条1号)。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10003  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年8月10日  知的財産高等裁判所

位置商標について、識別力無しとした審決が維持されました。本件商標は、靴の上部と靴底の境界部分の外周に沿った位置に、配置されたステッチ状の黄色の破線です。3条2項の主張も認められませんでした。原告は、「Dr.Martens」(ドクターマーチン)です。

前記(2)を総合すると、本願商標の用いられた原告商品は、昭和60年頃以 降、日本全国において広く販売されており、本願商標の査定時までの販売期間は約 35年と相当程度に長く、販売数量や売上高も相当程度に大きいものと認められる。 また、本願商標は、全体が黒色の革靴又はブーツに用いられた場合には、視認性が 高く目を引く部分であるといえ、需要者及び取引者が、黒等の暗い色の革靴又はブ ーツに施された黄色のステッチから原告ブランドを想起する例があることが認めら れる。他方で、黒色の革靴又はブーツであって本願商標と同じ特徴を有する商品に ついては、原告の模倣品対策により、日本国内において流通する量が極めて少ない 状況にあるから、本願商標と同じ特徴を有する黒色の革靴及びブーツが多数市場に 存在するとはいえない。 本願商標の指定商品である革靴、ブーツは、広く一般の需要者を対象とする商品 であるにもかかわらず、本件アンケート調査は、本調査としてその対象者を「店舗、 通販サイト、雑誌等で革靴やブーツを見ることがある方」であり、かつ、「1年以内 に革靴やブーツを購入した方」と限定し、これによって革靴やブーツに関心のない 層が除外されることになるが、そのような層も必要に応じて生活必需品等として革 靴やブーツを買うことが予想されることに照らすと、本件アンケート調査における\n本調査の対象者の限定については相当性の有無との問題があるものの、本件アンケ ート調査の結果によると、本願商標の特徴を有する黒い革靴の黄色ステッチ部分の 写真を見た需要者(店舗等で靴やブーツを見ることがある者及び1年以内に革靴や ブーツを購入した者)のうち、30.7%が原告ブランド名を想起することができ、 選択肢を示された場合には37.6%が原告ブランドを選択することができており、 これらの割合は、原告ブランド以外のブランド名を回答した者と比べても有意に多 く、最も多く回答された他のブランド名であるティンバーランド(Timberland)を回 答した者の割合(7.9%)の4倍以上である。この点につき、ブランドの数が多 く、かつ、購入する頻度の低いファッション製品の場合は、一般消費者が、商品の 形状に触れ、その形状からブランド名を想起する機会が多いとはいえないことから すると、15%を超える認知度があれば、十分識別力があるといえるのと見解もあ\nること(甲59)を踏まえると、本件アンケート調査の結果からは、需要者(ただ し、上記のとおり、本調査としてその対象を限定された需要者層である。)のうち相 当程度の者が、黒い革靴に本願商標が用いられた場合に、本願商標から原告ブラン ド名を想起できる程度に、黒い革靴に用いられた場合の本願商標は、認知度が高い ものと認めることができる。
しかしながら、本願商標が黄色やベージュのアウトソール及びウェルトとともに\n用いられた場合には、必ずしも視認性に優れるものではなく、需要者の目を引くと はいえない。また、前記(2)アのとおり、原告商品の多くは、アウトソール及びウェ\nルトが黒又は茶系統の色であって、黄色のステッチの視認性が高くなる態様で本願 商標が用いられており、黒又は茶系統の暗い色のウェルトとのコントラストにより、 本願商標が強く印象付けられることで、需要者の認知度を得ているものと推認され るところ、雑誌やブログ等の記事においても「黄色のステッチは、暗い色の革と魅 力的なコントラストを生む」(前記(2)オ(イ))、「ツヤのあるブラックレザーにマーチ ンの象徴、イエローステッチが引き立ちます。」(同(エ))などと地の色とのコントラ ストにより黄色のステッチが目を引くものであることを指摘するものがあることか らして、地の色を問うことなく、本願商標が需要者の認知度を得ていると認めるこ とはできない。更に、本件アンケート調査は、黒色の革靴(アウトソール及びウェ\nルトも黒である。)に本願商標を用いたものについて、側面から撮影した写真の下部 分(黄色のステッチ部分)を示して質問がされたものであるから、本願商標が黒以 外の色のアウトソール及びウェルトとともに用いられた場合についての認知度を示\nすものとはいえない。そして、現に、令和5年2月頃、黒以外の色のアウトソール\n及びウェルトとともに本願商標と同じ特徴を有する第三者の商品が市場に流通して いたことが認められるところ(別紙「被告の主張する取引の実情」の(タ)及び(ツ))これらの商品の流通については原告も模倣品としては扱わず、通知書を送付するな どもしていないことから、同種の商品が、本件審決以前にも流通していた可能性が\n十分にある。\nそうすると、少なくとも黒い革靴に用いる場合には、本願商標は相当程度の認知 度を得ているということができるとしても、それ以外の色の革靴及びブーツに用い られる場合の本願商標の認知度が高いと認めるに足りる証拠はないというほかない。 なお、前記1(4)のとおり、商標権の範囲は、願書に記載した商標に基づいて定め られるものであるところ(商標法27条)、本願商標の願書の記載によると、下地が 黒色であることは本願商標の範囲に含まれるものではないから、アウトソール及び\nウェルトが黒色である場合の本願商標の認知度をもって、本願商標自体の認知度を 評価することは相当ではない。
(4) 原告の主張について
原告は、本願商標について、1)視認性が低い態様で用いられた場合には、商標法 上の「使用」に当たらず、2)黄色の破線状の図形が需要者に特に強く識別されない ような態様で使用する場合には商標法26条1項2号又は6号により商標権が及ば ないから、他事業者の自由使用が殊更に制限されることはなく、むしろ、3)本願商 標の周知性からすると本願商標と類似する標章を使用した商品を販売等する行為は 不正競争防止法2条1条1号の不正競争に該当するから、本願商標を登録すること は公正な競争秩序に資すると主張する。 しかしながら、前記(3)で説示したとおり、本願商標の範囲を、黄色の破線状の図 形が需要者に特に強く識別される態様、すなわち、黒色のアウトソール及びウェル\nトとともに用いられる場合に限定して解釈することはできないのであって、本願商 標が、黄色やベージュ色のアウトソール及びウェルトとともに用いられる場合もそ\nの商標権の範囲に含まれるというほかない。また、商標法は、商標を保護すること により商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、産業の発展に寄与し、あ わせて需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ(同法1条)、商 標の本質は自他識別機能にあるから、これを欠くような商標については登録が認め\nられず(同法3条1項)、自他識別機能を有していないにもかかわらず過誤等により\n登録された場合や、登録後に自他識別機能を失った場合には、その権利が制限され\nるものである(同法26条 1 項等)。本件では、商標登録出願の登録の可否が問題と なっているところ、登録商標の範囲は願書の記載により画されるものであるから(同 法27条)、登録後に、本願商標又はそれと類似する商標を使用したとしても、商標 法上の「使用」に当たらないと解したり、同法26条1項各号に該当することなど を理由として、商標権の権利範囲が制限され得ることをもって、登録時において商 標権の範囲を狭く解釈して登録の可否を検討するなどということは、商標の本質で ある自他識別機能の有無を問わずに登録を認めることにもなりかねず、相当ではな\nい。
また、本願商標の周知性については前記(3)のとおりであり、アウトソール及びウ\nェルトの色を問わず、本願商標について周知性が高いとまでいうことはできない。 不競法地裁判決は、原告商品の形状のうち、「靴の外周に沿って、アッパーとウェル トを縫合している糸がウェルトの表面に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出\nし、かつ、ウェルトステッチに明るい黄色の糸が使用されており、黒色のウェルト とのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭に視認できるという原告 商品の形態」が、令和2年時点で不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」と\nして周知であると判断したものであって(甲113)、本願商標には含まれない特徴 である「黒色のウェルトとのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭 に視認できるという形態」を含めて商品等表示に当たるものとしている。そうする\nと、仮に上記形態について商品等表示性が認められたとしても、これをもって、本\n願商標について、使用により識別力を獲得したとして、商標法3条2項に該当する と認めることはできない。

◆判決本文

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令和2(ワ)4272等  商標権侵害差止等請求事件、不正競争行為差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和4年12月5日  大阪地方裁判所

 漏れていたのでアップします。大阪地裁26部は、5年の除斥期間経過後は、11号違反については特段の理由が無い限り、無効の抗弁ができないとして、一部請求1000万円を認めました。

しかも、証拠(甲4、35〜44)によれば、被告は、平成27年頃か ら、被告が独自に海外工場に製造させて輸入販売する「LEADER BIKE」が旧 リーダー社製であるかのように装うばかりでなく、「正規代理店」を称して 旧リーダー社との本件販売店契約が存続しているかのように装っていたこと が認められ、原告が製造した旧リーダー社の正規品と酷似した類似商品を旧 リーダー社や原告ないし新リーダー社の許諾なく製造し無断で被告標章を付 して販売し続けた結果、そのような情を知らない需要者において被告標章が 旧リーダー社の商品を表示するものと認識され続けているにすぎないから、到底、被告が本件商標を含む「LEADER」ブランドに関する権利が正当に帰属 すべき者であるとはいえない。
(2) また、被告は、原告が旧リーダー社の破産に乗じて本件商標権を獲得し たことを奇貨として、被告を排除して被告が確立した日本国内の「LEADER」 ブランドを独占的に使用し類似商品を販売することによって利益を得ようと する不当な目的で本件商標権を行使していると主張する。 しかしながら、前記前提事実のとおり、原告は、旧リーダー社の商品の製 造元であったのであり、本件商標権や旧リーダー社の商品のブランド力を利 用して自己の製造する商品の販売を継続するために、旧リーダー社等の破産 手続において管財人を通じて米国の裁判所の許可を受けて本件商標権等を取 得することは、何ら不当であるとはいえない。また、前記(1)のとおり、被 告は、原告が本件商標権を取得する以前から、旧リーダー社の商品ではな く、旧リーダー社に無断で被告標章を付した類似商品を販売し続けており、 証拠(甲25)によれば、原告が本件商標権の移転登録を受けた後も、第2 事件被告の取引先に対し、被告が「LEADER BIKES」製品の輸入総代理店であ ると称して通知書を送付しており、需要者をして被告の販売する被告標章を 付した商品が商標権者の許諾を受けた商品であるかのように誤認させる行動 をしているとの状況のもとでは、原告が被告に対し、本件商標権を行使する ことは、むしろ商標法の趣旨に即した正当な目的に基づくものといえる。
(3) 以上によれば、原告の被告に対する本件商標権の行使が、権利が正当に 帰属すべき者に対する不当な目的による権利行使として権利濫用に当たると はいえない。
  ・・・
商標法47条1項は、商標登録が同法4条1項11号の規定に違反してさ れたときは、商標権の設定登録の日から5年の除斥期間を経過した後はその 商標登録についての無効審判を請求することができない旨を定めており、そ の趣旨は、同号の規定に違反する商標登録は無効とされるべきものである が、商標登録の無効審判が請求されることなく除斥期間が経過したときは、 商標登録がされたことにより生じた既存の継続的な状態を保護するために、 商標登録の有効性を争い得ないものとしたことにあると解される(最高裁平 成15年(行ヒ)第353号同17年7月11日第二小法廷判決・裁判集民 事217号317頁参照)。そして、商標法39条において準用される特許 法104条の3第1項の規定(以下「本件規定」という。)によれば、商標 権侵害訴訟において、商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認 められるときは、商標権者は相手方に対しその権利を行使することができな いとされているところ、上記のとおり商標権の設定登録の日から5年を経過 した後は商標法47条1項の規定により同法4条1項11号該当を理由とす る商標登録の無効審判を請求することができないのであるから、この無効審 判が請求されないまま上記の期間を経過した後に商標権侵害訴訟の相手方が 商標登録の無効理由の存在を主張しても、同訴訟において商標登録が無効審 判により無効にされるべきものと認める余地はない。また、上記の期間経過 後であっても商標権侵害訴訟において商標法4条1項11号該当を理由とし て本件規定に係る抗弁を主張し得ることとすると、商標権者は、商標権侵害 訴訟を提起しても、相手方からそのような抗弁を主張されることによって自 らの権利を行使することができなくなり、商標登録がされたことによる既存 の継続的な状態を保護するものとした同法47条1項の上記趣旨が没却され ることとなる。
そうすると、商標法4条1項11号該当を理由とする商標登録の無効審判 が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後において は、商標権侵害訴訟の相手方は、その登録商標が同号に該当することによる 商標登録の無効理由の存在をもって、本件規定に係る抗弁を主張することが 許されないと解するのが相当である(最高裁平成27年(受)第1876号 同29年2月28日第三小法廷判決・民集71巻2号221頁参照)。 同様に、上記の期間経過後であっても商標権侵害訴訟において、登録商標 が同号に該当するものとして何人に対しても商標の使用の差止め等を求める ことが権利の濫用に当たり許されないものと解すると、同法47条1項の趣 旨が没却されることになるから、同法4条1項11号該当を理由とする商標 登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過し た後においては、商標権侵害訴訟の相手方が同項11号該当性に係る「他人 の登録商標」の商標権者であるなどの特段の事情がない限り、その登録商標 が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって、権利濫用 に係る抗弁を主張することが許されないと解するのが相当である。

◆判決本文

なお本件商標、および類似すると主張した商標は、いずれも図形商標(以下参照)です。 仮に無効抗弁が認められたとしても、類似するとの判断になったかは、また別です。

◆本件商標

◆4558386号商標

◆2387164号商標

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令和3(ワ)13895 損害賠償等請求事件  商標権  民事訴訟 令和5年4月27日  東京地方裁判所

ビクトリノックスの黒字に白十字を二重の外枠で囲った登録商標についての、商標権侵害訴訟です。東京地裁は約1400万円の支払い(3項侵害で使用料4%)を命じました。

2 争点2(商標法4条1項1号該当事由の有無)について
被告は、本件商標はスイスの国旗と類似するから、商標法4条1項1号に該当 する事由があると主張する。 しかしながら、本件商標は、前記1(2)認定のとおりであるのに対し、スイスの 国旗は、正方形と、その内部(中央)に位置する幅広で白色の十字から成り、正\n方形の内部は、白色である上記十字部分を除いて赤色である。そうすると、本件\n商標及びスイスの国旗は、幅広の十字を内部に有するという点において共通する\nものの、スイスの国旗は、正方形であって白色の外縁部分がなく、内部の十字部\n分を除いた部分が鮮やかな赤色である点において相違するものと認められる。 上記共通点及び相違点の形状及び色彩を踏まえると、本件商標とスイスの国旗 は、中心的かつ全体的構成を占める図形の形状及び色彩において明らかに相違す\nるものであることが認められる。そうすると、本件商標は、スイスの国旗と同一 又は類似の商標に該当するものと認めることはできない。
・・・
(3) 使用料率について
本件商標の実施に対し受けるべき料率を検討するに、前提事実、後掲各証拠 及び弁論の全趣旨によれば、1)経済産業省知的財産政策室「ロイヤルティ料率 データハンドブック」(平成22年)において、商標権におけるロイヤルティ 料率の平均値は2.6%であること(なお、商標分類の18類については、サ ンプル数は0とされている。)(乙32)、2)原告は、長年の間、「WENG ER」ブランドとして世界的に著名なアーミーナイフを製造販売していたが、 現在は同ブランドとして時計やバッグを製造販売し、本件商標を付したかばん 製品を販売していること(甲24ないし27)、3)インターネット上のショッ ピングサイトにおいて、本件商標が付された原告商品(かばん製品)が販売さ れており、原告商品と被告商品とは競合すること(甲16)、以上の事実が認 められる。
そして、商標法38条3項による「受けるべき利益」の算定の基礎となる相 当使用料率は、侵害があったことを前提として合意されるべきものであるから、 通常の料率よりも自ずと高くなることに鑑み、上記認定事実を含め本件に現れ た一切の事情を総合考慮すると、その料率は売上高の4%であると認めるのが 相当である。 なお、被告は、損害不発生の抗弁も主張するが、上記において説示したとこ ろによれば、その主張は、採用の限りではない。
(4) 損害額について
ア 商標法38条3項に基づく損害額
したがって、商標法38条3項に基づく損害額は、次の計算式のとおり、 1254万7659円となる(小数点第一位で四捨五入)。 (計算式) 3億1369万1471円×4%≒1254万7659円
イ 弁護士費用
本件事案の内容、難易度、審理経過及び認容額等に鑑みると、これと相当 因果関係があると認められる弁護士費用相当損害額は、1254万7659 円の1割(小数点第一位で四捨五入)である125万4766円の限度で認 めるのが相当である。
ウ 合計額
以上によれば、本件の損害額は、1380万2425円となる。

◆判決本文

関連事件です。

◆令和2(ネ)10060

本件商標の不使用取消審判の審取です。

◆平成29年(行ケ)10033

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令和2(ワ)31524  販売差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和5年3月24日  東京地方裁判所

ブーツ「Dr.Martens」について、商標権侵害と不競法の周知商品等表示に該当するとして、差止が認められました。商標は「AirWair WITH Bouncing SOLES」(ロゴ化)「WITH BOUNCING SOLES」(標準文字)です。商標はブーツの足入れ口にタグのようにつけられてました。

2 争点1−1(原告商標1と被告標章が同一又は類似であるか)について
(1) 原告商標1について
原告商標1の外観は、別紙商標権目録1の登録商標欄記載のとおりであり、 黒地に、左半分部分に手書き風の字体で「AirWair」と、右半分部分の上部に 約4文字分の間隔を空けてゴシック体で「WITH」及び「SOLES」と、右半分部 分の下部に下向きの弧を描くように丸みを帯びた字体で「Bouncing」と、い ずれもオレンジ色がかった黄色の英文字が配されて構成されるものである。\n原告商標1の上記記載から、「エアウェアウィズバウンシングソールズ」と\nの称呼が生じると認められる。 また、「AirWair」は原告の社名であるものの造語と解されるから、原告の 社名を知っている者においては当該部分から原告の社名である「AirWair」と の観念が生じるものの、原告の社名を知らない者においては当該部分から特 定の観念が生じない。そして、「Bouncing」及び「SOLES」は、それぞれ英語 で「弾む」及び「靴底(ソール)」との意味を有することからすると、原告商\n標1の上記記載から、「弾む履き心地のソールを持つ AirWair」又は「弾む履 き心地のソールを持つ」との観念が生じると認められる。\n
(2) 被告標章について
被告標章は、別紙被告標章目録記載のとおり、黒地に、左半分部分に手書 き風の字体で「AirWair」と、右半分部分の上部に約1ないし2文字分の間隔 を空けてゴシック体風の字体で「WITH」及び「SOLES」と、右半分部分の下部 に概ね水平に「Bouncing」と、いずれも黄色の英文字が配されて構成される\nものである。もっとも、被告標章は、被告商品1のヒールループに付されて いるものであるところ、当該ヒールループが履き口の踵部分に深く縫い付け られているため、需要者が通常の使用状況において視認できるのは、 「AirWair」の「Ai」を除いた部分に限られる(甲44・1、5頁)。したが って、原告商標1との類否を判断するに当たっては、被告標章のうち「Ai」 を除いた部分(以下「被告標章対比部分」という。)を対象として対比するの が相当である。被告標章対比部分の記載から「アールウェアウィズバウンシングソールズ」との称呼が生じると認められる。\n
また、「rWair」のうち、「Wair」は「用いる」や「費やす」との意味を有す る英単語であるが、我が国の一般人にとってなじみのある語ではない上、冒 頭に「r」が付されているため、「rWair」が何かしらの意味を有する語である と理解できないと解されるから、当該部分から特定の観念が生じない。そし て、前記(1)のとおり、「Bouncing」及び「SOLES」は、それぞれ英語で「弾む」 及び「靴底(ソール)」との意味を有することからすると、被告標章対比部分\nの記載から、「弾む履き心地のソールを持つ」との観念が生じると認められる。\n
(3) 原告商標1と被告標章対比部分との対比
原告商標1と被告標章対比部分の外観を比較すると、文字の色味に違いが あるほか、「Ai」の有無、「WITH」と「SOLES」との間隔の幅、「Bouncing」の 字体と配置に差異があるものの、いずれも黒地に黄色味の文字で「rWair」、 「WITH Bouncing SOLES」と記載されている点において共通しており、両者 の外観は類似していると認められる。
また、原告商標1と被告標章対比部分の称呼を比較すると、両者は、「ウェ アウィズバウンシングソールズ」の点において共通しているものの、原告商\n標1の冒頭が「エア」であるのに対し、被告標章対比部分の冒頭が「アール」 である点に差異がある。もっとも、原告商標1及び被告標章対比部分の文字 部分はいずれも英語で表記されており、「エア」も「アール」も英語風に発音\nするものと理解できるから、「エア」と「アール」の称呼上の違いは実質的に 「エ」の有無にとどまり、両者の差異はほとんどないといえる。したがって、 原告商標1と被告標章対比部分の称呼は類似していると認められる。 さらに、原告商標1と被告標章対比部分の観念を比較すると、前者は「弾 む履き心地のソールを持つ AirWair」との観念も生じるものの、両者とも「弾 む履き心地のソールを持つ」との観念が生じる点で共通している。したがっ\nて、原告商標1と被告標章対比部分の観念は類似していると認められる。
(4) 小括
以上のとおり、原告商標1と被告標章対比部分は、外観、称呼及び観念に おいて類似するものと認められ、原告商標1と被告標章対比部分を含む被告 標章とが同一又は類似の商品に使用された場合には、商品の出所について混 同を生じるおそれがあるといえるから、両者は類似しているものと認められ る。また、前提事実(5)のとおり、被告商品1は、ブーツであることから、原告 商標権1の指定商品に含まれる第25類「履物」と同一であると認められる。したがって、被告標章が付された被告商品1を販売等した被告の行為は、原告商標権1を侵害するというべきである。
3 争点2−1(原告商品の形態が原告の周知な商品等表示であるか)について\n
(1) 商品の形態と商品等表示該当性\n
・・・
以上によれば、靴の外周に沿って、アッパーとウェルトを縫合してい る糸がウェルトの表面に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出し、\nかつ、ウェルトステッチに明るい黄色の糸が使用されており、黒色のウ ェルトとのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭に視認 できるという原告商品の形態(ア)は、少なくとも被告が被告商品2を販売 した令和2年の時点において、原告の商品等表示として周知となってい\nたと認められる。

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令和3(ワ)22287  損害賠償請求事件  商標権  民事訴訟 令和5年3月9日  東京地方裁判所

バーキン、ケリーバッグの立体商標について、権利侵害が認定されました。損害額は被告の利益のうち2割覆滅されました。 商標権の一つがこれです。

◆登録5438059

ア 前提事実(6)のとおり、被告は、被告商品の販売によって合計515万0140円の利益 を得たことから、同金額が被告の商標権侵害によって原告が受けた損害の額と推定される (商標法 38 条 2 項)。
イ もっとも、原告商品は、その販売価格がバーキンにおいては 100 万円を、ケリーに おいては 50 万円を超えるものが大半という高級ハンドバッグである(前提事実(2))。他方、被告商品の販売価格はいずれも 1 万 5180 円であり(前提事実(6))、その価格差が大きいことは多言を要しない。また、証拠(甲 23、乙 1)及び弁論の全趣旨によれば、バーキンには複数のサイズのものがあるものの、最も小さいサイズのものの横幅は 25cm であるのに対し、被告商品 1 の横幅は 20cm であることが認められる(なお、ケリーも、横幅が cmのものを最小として複数のサイズのものが販売されており、他方、被告商品 2 の横幅は20cm である。甲 1、52)。
商標権は、特許権等の他の工業所有権とは異なり、それ自体に創作的価値があるもので はなく、商品又は役務の出所である事業者の営業上の信用等と結びつくことによってはじめて一定の価値が生じるという性質を有する。このため、商標権が侵害された場合に、侵害者の得た利益が当該商標権に係る登録商標の顧客吸引力のみによって得られたものとは必ずしもいえない場合が多い。本件のようなハンドバッグの場合、需要者の購買動機の形成に当たっては、当該商品の属するブランドはもとより、その販売価格も考慮され、また全体のデザイン及びサイズといった要素も、デザイン性ないしファッション性の側面のみならず機能面からも考慮されると考えられる。これらの点を踏まえると、原告商標ないし原告商品の周知著名性からそのブランド及び全体のデザインが需要者の購買動機形成に及ぼす影響は相当に大きいとみられるものの、販売価格並びにデザイン及びサイズにおける相違が及ぼす影響もなお無視し得ず、上記推定を覆滅すべき事情として考慮するのが相当である。また、被告商品と同じ価格帯で「バーキン風」、「ケリー風」などと称するハンバッグが市場において取引されている事実が認められるところ(乙 17〜20、28、29)、これらの全てが原告商標権の侵害品であるとは必ずしも考えられず、侵害品でないものが含まれる可能性も少なからずうかがわれる。このうち原告商標権の侵害に当たるものがどの程度存在するかは必ずしも判然としないところ、他に原告商標権の侵害品が存在することを推定覆滅事由として考慮することは相当でないものの、上記事情は推定覆滅事由として一応考慮するのが相当である。さらに、バーキンの内側には、被告商品 1 にはないファスナーポケットが設けられていることが認められるところ(弁論の全趣旨)、その有無は、デザイン性という点では需要者の購買動機の形成に必ずしも寄与しないとしても、収納性という機能面の一要素としては考慮し得るものといえる。他方、被告は、ファッションショーへの出展、独自ブランドの商品販売、全国の主要都\n市への出店、SNS での宣伝活動等の営業努力をしていることが認められる(乙 21〜27)。 もっとも、これらの営業努力は、通常の営業努力の範囲を超える特別なものとまではいえないことから、この点を推定覆滅事由として考慮するのは相当でない。
ウ 以上の事情を総合的に考慮すると、被告商品の利益の額に対する原告商標の貢献割 合については、いずれも8 割と認めるのが相当である。これに反する原告の主張は採用できない。 したがって、本件における上記損害額の推定は 2 割の限度で覆滅されるから、被告の原 告商標権侵害による原告の損害額は、被告商品 1 及び 2 の各販売利益の額(276 万 2740 円及び 238 万 7400 円)のそれぞれ 8 割に相当する 221 万 0192 円及び 190 万 99円の合計412万0112 円と認められる。
エ これに対し、被告は、原告商品と被告商品との価格差、被告商品と同じ価格帯の原 告商品を模した商品の存在、被告商品の販売利益に対する被告の営業努力の貢献、原告商品と被告商品とのサイズやファスナーポケットの有無といった機能性の違い等を指摘し、被告商品の販売によって原告に損害が発生することはなく、仮に損害が発生したとしても少なくとも 95%の推定覆滅が認められる旨主張する。 しかし、原告商品と被告商品は、いずれも主に女性を需要者とするハンドバッグであり、販売方法には共通点があり、かつ、需要者にとってその形状(全体のデザイン)は購買動機を形成する主な要素の 1 つであるところ、原告商品と被告商品は形状が類似している いった事情を踏まえると、被告が主張する上記各事情を踏まえても、原告商品と被告商品の顧客層には一定の重なり合いが認められるのであって、被告商品の販売によって原告に損害が発生すると認められる。また、これらの事情が商標法 38 条 2 項による推定を覆滅する程度については、上記のとおりである。 したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
(2) 信用毀損による無形損害の額
原告は、高級ハンドバッグである原告商品の大半を、バーキンについては 100 万円以上、ケリーについては 50 万円以上という価格で販売している(前提事実(2))。他方、被告は、原告商品と形状において類似するものの、原告商品には使用されない安価な合成皮革等を用いて製作された被告商品を、1 個 1 万 5180 円で、百貨店の店舗や自社の運営する EC サイト等を通じて、令和元年 12 月 日から令和 3 年 2 月 13 日までの 1 年余りの間に、合計398 個(被告商品 1 が 214 個、被告商品 2 が 184 個)販売した(前提事実(6))。このような被告の行為は、高級ハンドバッグとしての原告商品及びこれを製造販売する原告のブランド価値すなわち信用を毀損するものであり、これによる原告の無形損害の額は 100 万円を下らない。無形損害の額に関する原告の主張は採用できない。 また、被告は、原告商品と被告商品との購買層の違いや、原告商品を模したハンドバッ グが全国各地で廉価で販売されているのは周知の事実であることなどを指摘して、原告の信用毀損はない旨を主張する。しかし、仮にこれらの事情があるとしても、原告商標及び原告商品の周知著名性を考慮すると、その違いゆえに原告の信用が毀損されないという関係にはない。この点に関する被告の主張は採用できない。

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令和4(ネ)10091  商標権侵害差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和5年3月6日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 相続において、一部の相続人が商標を出願し、他の相続人に対して、権利行使をしました。1審裁判所は、権利濫用として商標権の行使を認めませんでした。知財高裁も同様です。

控訴人の本件各商標権に基づく各請求が権利の濫用に当たるか否かにつ いて、前記1の認定事実に基づいて検討する。
イ 被控訴人は、E及び同人の子らによって運営されていた山田石材店に係 る個人事業を法人化するために、Eの子ら全員が出資して設立された法人 であり、その後50年以上にわたって継続的に、多磨霊園正門の近隣に所 在する店舗において、墓石の販売等の事業を行ってきた。また、この間、 被控訴人は、法人化する以前と同様に、「丸忠」とも表記され得る漢字の「忠」\nを丸で囲んだ標章や「山田石材店」及び「つなぎ館」の標章等、各被告標 章と同様の標章を、被控訴人及びその事業を表示するものとして使用して\nきた。 これらの事情によれば、各被告標章には、多磨霊園正門の近隣における 墓石の販売等の事業に関する被控訴人の信用が化体しているものといえ る。
ウ 被控訴人は、控訴人代表者(A)の父であるC、被控訴人代表\者(B) の父であるF及びGの3名が設立時の代表取締役となるなど、いわゆる親\n族経営の法人であるといえる。また、控訴人及び被控訴人の各店舗は近隣 に所在する上、控訴人は、平成17年7月頃から被控訴人と同様に墓石等 の販売の事業を行うようになった。 これらの事情によれば、控訴人及び被控訴人は、山田石材店の事業に関 して密接な関係にあるというべきである。
エ 上記ウで挙げた事情を考慮すると、控訴人は、上記イのとおりの被控訴 人の事業内容及び標章の使用状況等を当然に知っていたものといえる。他 方で、控訴人は、平成18年に本件商標2及び3の登録出願をするなどし た後も、被控訴人による各被告標章と同様の標章の使用について、被控訴 人に対して本件各商標権を侵害する行為である旨の指摘をしたことはな く、AがBに対して平成31年1月に乙7の書面を送付した際に初めてそ のような指摘をしたものである上、BがE名義の土地に係る遺産分割協議 への協力を拒んだ後間もなく、被告商標1に係る商標登録無効審判を請求 し、また、本件訴えを提起したものである。
これらの事情を考慮すると、控訴人は、被控訴人が各被告標章と同様の 標章を長年にわたって使用してきたことを知りながら、これを殊更に問題 視することなく互いの事業を行ってきたにもかかわらず、本件各商標権の 登録出願がされてから10年以上が経過した後になって、E名義の土地に 係る遺産分割協議という本件各商標権とは何ら関係のない事柄をきっか けとして、被控訴人に対し、本件各商標権に基づく権利行使に及んだもの とみるのが相当である。
オ 以上のとおりの被控訴人による各被告標章の使用状況、控訴人及び被控 訴人の関係、控訴人が権利行使をするに至った経緯等を総合して考慮する と、控訴人の被控訴人に対する本件各商標権に基づく権利行使は、権利の 濫用として許されないというべきである。

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1審はこちらです。

◆令和3(ワ)2722

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令和4(ワ)70046    商標権  民事訴訟 令和5年1月31日  東京地方裁判所

 登録商標「MG996R」(標準文字)の侵害として、約5万円の損害賠償が認められました。損害額として、権利取得のための出願時印紙代および登録料が認めされました。

関係法令の定めに照らせば、本件商標権の取得に通常要する費 用は1万2000円(特許法等関係手数料令4条2項の一)、維持に通常要 する費用は3万2900円(商標法40条1項、商標法施行令4条1項) と認められる。 したがって、商標法38条5項に基づく損害額は合計4万4900円と なる。
(2) 侵害行為差止めのための通知に要した費用
証拠(甲7、8、10)によれば、原告は、令和4年6月11日、被告に 対し、特定記録郵便により、本件ウェブページの削除のほか、本件商品の輸 入及び販売の停止並びに回収を求める内容の本件文書を発送したこと、被告 は、その頃、本件文書を受領したこと、その郵便料金が244円であったこ とがそれぞれ認められる。これらの認定事実に照らせば、本件文書の送付は、被告による違法な行為を排除するためのものといえるから、その送付に要した費用は、被告の不法 行為と相当因果関係がある損害というべきである。

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令和4(行ケ)10101  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年3月7日  知的財産高等裁判所

特許庁は、商標法4条1項5号(紋章の保護)違反として拒絶しました。原告はパリ条約6条の3(1)(a)の国内法実施の義務を履行していないと主張しましたが、知財高裁はこれを認めませんでした。パリ条約の改正の経緯などにも触れてます(フランス語の表記は表\示できないため、一部アルファベットに変換しました)

原告は、前記1 のとおり、パリ条約の解釈に相違があるときはフランス文 によるとの条項(29条(1)(c))を前提に、パリ条約6条の3(1)(a) の「a defaut d'autorisation des pouvoirs competents,」(所管官庁の許可 がない場合)が「, par des mesures appropriees,」(適当なる方法に依り禁止 する)だけに係るのではなく、「de refuser ou d'invalider l'enregistrement et d'interdire,」(登録を拒絶し又は無効とし)にまで係るものと解釈される べきであり、同条項の公定訳(「同盟国は、同盟国の国の紋章、旗章その他の 記章、同盟国が採用する監督用及び証明用の公の記号及び印章並びに紋章学上 それらの模倣と認められるものの商標又はその構成部分としての登録を拒絶し\n又は無効とし、また、権限のある官庁の許可を受けずにこれらを商標又はその 構成部分として使用することを適当な方法によつて禁止する。」)は、誤訳で\nあって、これを前提とした商標法4条1項5号は、パリ条約6条の3(1)(a) の国内法実施の義務を履行していない旨主張する。
し か し 、 原 告 が 指 摘 す る 「 a defaut d'autorisation des pouvoirs competents,」(権限のある官庁の許可を受けずに)は、原文上、「l'utilisation,」 と「,」で続けて副詞句として挿入されており、文言において、この「a defaut d'autorisation des pouvoirs competents, 」 が 「 d'interdire ・ ・ ・ l'utilisation」(使用を禁止する)のみに係るものであるのか、「de refuser ou d'invalider l'enregistrement et d'interdire,」(登録を拒絶し又は無効 とする)にも係るものであるのか、文法的には、どちらと読むことも可能であ\nることや、「権限のある官庁の許可を得ていない」という文言が、当初は 「d'interdire・・・l'utilisation」のみに係るものとして起草されていたと ころ、起草委員会が総会に示した条約案では、上記原文に書き換えられ、その まま確定したことにより、文法的には2通りの解釈が可能になったことは、【A】\n意見書も指摘するとおりであるから、日本語公定訳のとおり、「a defaut d'autorisation des pouvoirs competents, 」 が 、 「 d'interdire ・ ・ ・ l'utilisation」のみに係ることを前提としても、パリ条約6条の3(1)(a) の誤訳であると断じることはできない。
また、仮に、原告が指摘するような解釈、すなわち、「権限のある官庁の許 可を受けない」同盟国の紋章等の商標又はその構成部分としての登録を拒絶し、\n又は無効とするとの解釈を採用するとしても、同規定は、「権限のある官庁の 許可」を受けた登録出願をどのように取り扱うについてまで規定するものでは ない(これらの紋章等の「商標又はその構成部分としての登録を拒絶し又は無\n効とし」とされていることの反対解釈として、それ以外の場合は当然に登録を しなければならない義務を本条約が締結国に課したと解することはできない。) から、そもそも同条に基づき、我が国が「権限のある官庁の許可」を受けた登 録出願を拒絶してはならない義務を負うものではないし、同条を根拠として商 標法4条1項5号の適用範囲を狭めて「登録をしなければならない」ものと解 釈されるべきものでもない。
3 その他に原告が種々主張する点を精査しても、権限のある官庁やその許可を 得た者がパリ条約6条の3(1)(a)に規定する監督用・証明用の記号や印 章について登録出願をした場合において、その登録をしなければならないこと を根拠付けるものは見当たらない。したがって、同条に基づく義務の不履行を 理由とする原告の主張は、いずれにしても失当というほかない。

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令和2(ネ)10009等  商標権侵害差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟__全文__ 令和5年1月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

「2ちゃんねる」の商標権に基づき約2億円の損害賠償を認めました。1審は、被告の先使用権を認めていましたが、控訴審はこれを否定しました。

ア 控訴人が平成11年5月頃に自らプログラムやレンタルサーバを準備した上 で本件電子掲示板を開設したこと(前記2(2)ア)、その後、利用者の増加に伴い、 ボランティアの協力によって本件電子掲示板の維持や機能向上等が図られるように\nなり、控訴人は不要なデータの削除作業等を行うようになっていったものの、本件 電子掲示板のプログラムの修正等に参加する技術的ボランティアは、控訴人から、 又は、NTテクノロジー社のサーバの使用を控訴人に申し出て控訴人の了承を得る\nなどして平成12年頃から本件電子掲示板の運営に関与していたBから、技術的ボ ランティアとして参加することの許諾を得るなどしていたこと(同(2)イ(ア)・(ウ))、 平成14年頃から平成26年2月に至るまで、本件電子掲示板の広告料収入は控訴 人が代表取締役を務める東京プラス社が取得し、その中から控訴人名義でNTテク\nノロジー社に送金がされるなどしていたこと(同(1)ウ、(2)エ(ア))、平成16年及 び平成17年に控訴人が対外的にも本件電子掲示板の管理人として活動し、平成1 8年5月12日発行の「2ちゃんねる公式ガイド2006」にも控訴人が本件電子 掲示板の生みの親であることなどが記載されていたこと(同(2)カ、キ)のほか、そ の後も控訴人が平成18年当時本件電子掲示板の管理人であったことに沿う事実が 認められること(同(2)ク〜シ・セ・ト)を考慮すると、前記(1)で原判決の第3の 4(3)を訂正の上で引用して認定したように「2ちゃんねる」の標章及び「2ch.net」 の標章が周知性を獲得したというべき平成18年の時点において、その役務の提供 の主体は、控訴人であったというべきである。
イ(ア) 他方で、本件全証拠をもってしても、平成18年の時点及びそれ以降平成 26年3月27日(原告商標2の出願日)までのいずれかの時点において、「2ち ゃんねる」の標章及び「2ch.net」の標章が、NTテクノロジー社又は被控訴人の業 務に係る役務を表示するものとなったとみるべき事情は認められない。\n
(イ) この点、NTテクノロジー社については、本件電子掲示板のサーバを提供し たこと(前記2(2)イ(ア))や、PINKちゃんねるを開設し、2ちゃんねるビュー アの販売及び運営を行うようになったこと(同(2)ウ)、平成14年頃以降、本件電 子掲示板の広告料の売上げからの送金を受けていたほか、2ちゃんねるビューア「●」 の売上げを取得していたこと(同(2)ウ・エ)、本件ドメイン名について平成17年 5月10日時点でAが運営面に関する連絡先として登録されたりNTテクノロジー 社が登録サービス提供者として登録されたりしていたこと(同(3)イ〜カ)が認めら れる。
しかし、サーバの提供者が直ちに当該サーバを用いた事業の運営者となるもので はないことは明らかである。また、PINKちゃんねるは、あくまで本件電子掲示 板とは別個のアダルト版の掲示板として運営されていたことがうかがわれるから (弁論の全趣旨)、それを開設等したことからNTテクノロジー社が本件電子掲示 板の運営者となったということはできない。2ちゃんねるビューアの販売及び運営 についても、本件電子掲示板の古いスレッドを閲覧できるなどといったその利点か らして、2ちゃんねるビューアは、掲示板の中核的な機能というべき文書等の掲示、\nすなわち、本件電子掲示板における書込みや直近の掲示板の閲覧という機能と比べ\nると補足的な機能に係るものにすぎないといえ、その販売及び運営が直ちに本件電\n子掲示板本体の運営者であることを基礎付けるものとはいえない(この点、被控訴 人は、NTテクノロジー社が2ちゃんねるビューアを開発したと主張するが、当該 事実を認めるに足りる証拠もない。)。本件電子掲示板の広告料の売上げからの送 金についても、NTテクノロジー社が本件サーバ(NT)を本件電子掲示板のため に提供していたことからすると、控訴人が主張するように同提供の対価とみること もでき、本件電子掲示板の運営者であることを基礎付けない(なお、平成26年2 月の段階でも、NTテクノロジー社は、東京プラス社に対し、「Internet Services」 名目で金員を請求していたところである(前記2(2)タ)。)。本件ドメイン名の登 録に係る前記事情についても、そもそもドメイン名の登録名義と当該ドメインを用 いた事業の主体が同一であるという経験則が確固として存在するとは解し難いこと に加え、NTテクノロジー社が本件サーバ(NT)の提供者であったことや、本件 電子掲示板の事業形態等に変動があったことが他の証拠から特段うかがわれない時 期においても本件ドメイン名の登録情報が頻繁に変更され、かつ、それには単に名 義のみの変更であったことがうかがわれる複数の会社が含まれていること(同(1) エ、同(2)コ・サ(ウ)・セ、同(3)ア〜カ)を踏まえると、NTテクノロジー社が本件 電子掲示板の運営者であったことを裏付けるものとはいえない。
上記に関し、Aの陳述報告書(乙10、11)及び尋問調書の写し(乙12)に は、NTテクノロジー社が本件電子掲示板のプログラミング等に関与していた旨の 陳述ないし供述の記載があるが、そのような関与をするに至る経緯や具体的な関与 態様について何ら触れるものでなく、上記記載からそのような関与の事実を認める には足りず、他に当該事実を認めるに足りる証拠はない。
また、被控訴人は、B及びその他のゼロ社の関係者が本件電子掲示板のプログラ ムの修正等に深く関わっていたことを主張するが、BがNTテクノロジー社の代理 人等として当該修正等を行っていたと認めるに足りる証拠はなく、また、ゼロ社と NTテクノロジー社を一体的なものとみるべき事情等も認められないから、被控訴 人の上記主張は、NTテクノロジー社が本件電子掲示板の運営者であったことを根 拠付けるものとはいえない(なお、一般に、ウェブサイトのプログラムの作成や修 正等は、当該ウェブサイトに係る事業の運営者によって行われる場合もあれば、当 該運営者から委託を受けた第三者によって行われる場合等もあるのであって、単に 本件電子掲示板のプログラムの修正等に深く関与したという事実から、本件電子掲 示板の運営者であることが直ちに基礎付けられるものでもない。この点、本件電子 掲示板のボランティアについては、その関与態様のほか、少なくとも平成26年1 月25日当時、ボランティアには一切の義務も責任もない旨が本件電子掲示板に明 記されていたこと(前記2(2)イ(ウ))も考慮すると、ボランティアにおいて、自ら が控訴人とともに本件電子掲示板の運営者の一人であるとして本件電子掲示板のプ ログラムの修正等の作業に参加していたものとは解し難く、Bにおいては特に本件 電子掲示板への関与が深かったことがうかがわれることを考慮しても、なお、Bに ついても他のボランティアと異なるものとは直ちに認め難いところである。)。 付言するに、東京プラス社がNTテクノロジー社を被告として提起した訴訟の控 訴審判決において、NTテクノロジー社が共同事業と称するのも理解できる旨など が述べられているが(前記2(2)テ)、それは、2ちゃんねるビューアの販売収益等 も含めた評価であって、本件電子掲示板の運営に限らず、より広く本件電子掲示板 及びそれに関連する事業における東京プラス社とNTテクノロジー社の関係性につ いていうものとみることができ、NTテクノロジー社が本件電子掲示板の運営者で あったとは認められないとの前記判断と矛盾するものではない。
(ウ) 被控訴人については、NTテクノロジー社が本件電子掲示板に関連して行っ ていた業務を引き継いだこと(前記2(2)オ)や、平成24年5月3日までに本件ド メイン名の登録者となったこと(同(3)カ)、世界知的所有機関の調停仲裁センター により被控訴人による本件ドメイン名の使用が正当なものと認められたこと(同(3) キ)が認められるが、前記(イ)のとおりNTテクノロジー社が本件電子掲示板の運営 者であったとは認められない以上、被控訴人が引き継いだ業務(その内容は明確で はないが、少なくとも本件関与期間の開始時点前日である平成26年2月18日ま では、PINKちゃんねるに関する業務や、2ちゃんねるビューアに関する業務で あったとみられる。)をもって、被控訴人が本件電子掲示板の運営者であることを 基礎付けるものとはいえず(なお、Bやゼロ社の作業ないし業務をもって被控訴人 によるものとみるべき事情も見当たらない。)、本件ドメイン名の登録者となった ことについても、前記(イ)で指摘した点に照らし、被控訴人が本件電子掲示板の運営 者であったことを裏付けるものではない。また、上記調停仲裁センターの判断につ いても、あくまで当該事件について適用されるべき手続規則に基づく立証責任と当 該事件において提出された証拠に基づく判断であると解され、本件の判断を左右す るものではない。

◆判決本文

◆平成29年(ワ)第3428号

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令和4(行ケ)10062 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和5年1月24日  知的財産高等裁判所

 三菱鉛筆が「ユニ色」について色彩のみからなる商標を出願しましたが、知財高裁(2部)は識別力無しとした審決を維持しました。

前記認定事実によると、原告商品は、相当の長きにわたり新聞等の記事において 取り上げられ、また、様々な媒体において広告がされてきたのであるから、原告商 品(ユニ、ハイユニ又はユニスターと称する鉛筆)は、需用者の間において、相当 程度の認知度を有しているものと認められる。 しかしながら、前記認定のとおり、原告商品には、本願商標のみならず他の色彩 及び文字も付されているところ、前記1(2)のとおり、本件指定商品である鉛筆を 含む筆記用具について、ボルドー及びバーガンディーを含む本願商標の近似色が広 く使用されている実情も併せ考慮すると、原告商品に触れた需用者は、本願商標の みから当該原告商品が原告の業務に係るものであることを認識するのではなく、本 願商標と組み合わされた黒色又は黒色及び金色や、当該原告商品が三菱鉛筆のユニ シリーズであることを端的に示す「MITSU−BISHI」、「uni」、「H i−uni」、「uni☆star」等の金色様の文字と併せて、当該原告商品が 原告の業務に係るものと認識すると認めるのが相当である。 加えて、前記認定のとおり、鉛筆の市場においては、原告及び株式会社トンボ鉛 筆が合計で80%を超える市場占有率を有しており、比較的鉛筆に親しんでいる需 用者としては、本件アンケート調査における質問をされた場合、回答の選択の幅は 比較的狭いと考えられるにもかかわらず、本願商標のみを見てどのような鉛筆のブ ランドを思い浮かべたかとの質問に対し、原告の名称やそのブランド名(三菱鉛筆、 uni等)を想起して回答した者が全体の半分にも満たなかったことからすると、 本願商標のみから原告やユニシリーズを想起する需用者は、比較的鉛筆に親しんで いる者に限ってみても、それほど多くないといわざるを得ない。 以上によると、本件指定商品に係る需用者の間において、単一の色彩のみからな る本願商標のみをもって、これを原告に係る出所識別標識として認識するに至って いると認めることはできない。
(3) 小括
以上のとおり、本願商標については、これが使用された結果、原告の業務に係る 商品であることを表示するものとして需用者の間に広く認識されるに至り、その使\n用により自他商品識別力を獲得しているといえないから、原告による本願商標の独 占使用を認めることが公益上の見地からみて許容される事情があるか否かについて 判断するまでもなく、本願商標が商標法3条2項に規定する商標(「使用をされた 結果需用者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識するもの」)に該 当するということはできない。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
3 原告の主張について
(1) 原告は、本願商標は原告が採択した独自の色彩であって、原告以外の善意 の取引者が偶然に使用することはあり得ないものであるから、自他商品識別標識と して機能すると主張する。\nしかしながら、原告が単一の色彩のみからなる商標(色彩)を採択した経緯や、 当該商標と同一の商標を一定の指定商品及び指定役務について使用する者がないこ とは、当該商標が自他商品識別標識又は自他役務識別標識として機能するか否かと\nは直接の関係がないことであるから、原告の上記主張を採用することはできない (原告は、本願商標が自他商品識別力を欠くというためには、本件指定商品につい て、本願商標と同一の商標が既に第三者によって当該商品の色彩として使用されて いることが必要であるとも主張するが、独自の見解であり、採用できない。)。
(2) 原告は、1)これまで数多くの新聞、雑誌等において、本願商標に係る記事 が掲載されてきたこと、2)これまで長年にわたり、新聞、テレビ等において、本願 商標が使用された原告商品の広告が行われてきたこと、3)原告は、鉛筆の市場にお いて極めて高い市場占有率を誇り、また、本願商標を使用した多数の原告商品が全 国の多数の店舗において販売されていること、4)別件商標1及び2について商標登 録がされていることからすると、本願商標は、著名な商標として、自他商品識別標 識として機能してきたと主張する。\nしかしながら、上記1)ないし3)の点については、前記2(2)のとおり、原告商品 が需要者の間において相当の認知度を有していることの根拠となるものではあるも のの、原告商品に付された本願商標以外の色彩及び文字の存在や、本件指定商品で ある鉛筆を含む筆記用具について、ボルドー及びバーガンディーを含む本願商標の 近似色が広く使用されている実情を考慮すると、上記1)ないし3)の事実が存在する としても、原告商品に触れた需用者は、本願商標のみから当該原告商品が原告の業 務に係るものであると認識するということはできない。また、上記4)の点について は、別件商標1及び2は、いずれも本願商標に係る色彩とそれ以外の色彩との組合 せからなるものであり、その色彩及び配色を特定してなるものであって(甲137、 138)、輪郭のない単一の色彩のみからなる本願商標とは相当に異なるものであ るから、別件商標1及び2について商標登録がされていることは、本願商標がそれ のみで自他商品識別力を有することの根拠になるものではない。 以上のとおりであるから、原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 原告は、本願商標は「ユニ色」として、商品が原告の業務に係るものであ ることを直接表示するものとなっており、特別顕著なものであるから、自他商品識\n別標識として機能するものであると主張する。\n確かに、前記1(1)イのとおり、「DICカラーガイドPARTII)(第4版)第 5巻」に収録された「DIC−2251」(本願商標)については、色名が「un i色」とされており、また、「文具のこが屋」のウェブサイトにおいても、「ユニ ペンシルホルダー」なる商品の説明として、「本体軸部分には実際の木材を使用し、 ユニのイメージカラーである、…アレンジしたオリジナルカラー(通称「ユニ色」) と「黒」、「金」をあしらいました。」との記載があるが(甲29)、本願商標に 係る色彩を「ユニ色」と呼称する場合があるとしても、前記2(2)において説示し たところに照らすと、需用者において、この「ユニ色」のみで、本件指定商品であ る鉛筆が原告の業務に係るものであると認識するとはいえないといわざるを得ない。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 原告は、本願商標が使用された商品(鉛筆)に接した需用者は商品のうち の狭い部分に付された文字商標のみによって商品の出所を認識するのではなく、商 品の大部分を占める本願商標をもって商品の出所を認識するのであるから、このよ うな本願商標の重要性に照らすと、本願商標は自他商品識別力を有すると主張する。 しかしながら、原告商品に付された本願商標以外の色彩及び文字(なお、当該文 字は、当該原告商品が三菱鉛筆のユニシリーズであることを端的に示すものであ る。)の存在や、本件指定商品である鉛筆を含む筆記用具について、ボルドー及び バーガンディーを含む本願商標の近似色が広く使用されている実情を考慮すると、 原告商品に触れた需用者が本願商標のみから当該原告商品が原告の業務に係るもの であると認識することができないことは、これまで説示してきたところであって、 このことは、原告商品(鉛筆)の表面において本願商標に係る色彩が付された面積\nが他の色彩が付された面積に比して大きいことにより左右されるものではない(な お、証拠(甲47、48、148〜150)によると、原告商品に付された文字が 需用者の目を引くものでないということはできない。)。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(5) 原告は、原告商品の模倣品が存在することは本願商標が自他商品識別標識 として機能してきたことを意味すると主張する。\nしかしながら、原告が主張する模倣品(甲109、110)も、鉛筆の表面に本\n願商標に係る色彩又はその近似色のみを付したものではなく、帯状の黒色を配した り、金色様の文字を付したりしたものであるから、これらの模倣品の存在をもって、 本願商標に係る色彩のみで自他商品識別力を有するということはできない。したが って、原告の上記主張は、採用できない。
(6) 原告は、特許庁が別件商標1の見本として、別件商標1の見本に該当しな い鉛筆(ユニスター)を展示したことをもって、特許庁も専ら本願商標によって鉛 筆が原告の業務に係る商品であると認識している旨の主張をするが、仮に特許庁が 原告の主張するような取り違えをしたからといって、本願商標に係る色彩のみで自 他商品識別力を有するということはできない。したがって、原告の主張を採用する ことはできない。

◆判決本文

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 >> 商3条1項各号
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令和3(ワ)6974  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和4年9月12日  大阪地方裁判所

 情報サイトによける標章の使用は、商標的使用ではない(商26条1項6号)として、商標権の効力が及ばないと判断されました。

(1) 本件サービスサイトの性質及び本件ウェブページの位置づけについて 後掲各証拠及び弁論の全趣旨に前提事実を総合すると、次の各事実を認めること ができる。
ア 被告は、平成30年、葬儀に関する困りごとの解決へ向け、葬儀サービスを 探している人々と葬儀社をマッチングする事業として葬儀社紹介サービスを提供す る本件サービスサイトの運営を開始した(甲3、4)。 本件サービスサイトは、被告との提携の有無にかかわらず、全国の葬儀社の情報 を掲載することとしており、被告と提携していない葬儀社のページには、葬儀社の 電話番号やウェブサイトのリンクを記載し、被告の提供するサービスを介さず直接 連絡できる設計としており、本サービスサイトのユーザー(葬儀希望者)が、提携 していない葬儀社を指定して被告に問合せをした場合は、当該葬儀社の電話番号を 案内する方針としている。なお、提携先の葬儀社については、見積り取得の手配や 代行を行っている(甲10、20)。
イ 本件サービスサイトにおいて、ユーザーが一定の地域を選択すると、被告が 把握するその地域に所在の葬儀社や斎場が一覧表示され(その他、費用・形式別の\nプランの紹介、葬儀の依頼や相談、一括見積を行うサイトへの遷移ボタン、当該地 域の葬儀に関するQ&Aや事例なども表示される)、その一覧の中から、個別の葬\n儀社等を選択すると、当該個別の葬儀社等に関する被告が把握した情報を提供する ページが表示され、本件葬儀場(セレモニートーリン)を選択した場合、本件ウェ\nブページが表示される(甲22の1・2、乙1)。\n
ウ 本件ウェブページは、その固定ヘッダーに「安心葬儀 葬儀のご依頼/ご相 談 一括見積なら|安心葬儀」「安心葬儀/葬儀相談コールセンター(無料)通話 無料<省略>」といった記載があるほか、ページの上部に「安心葬儀TOP」「葬 儀の種類」「宗教・宗派別葬儀」「葬儀の知識」という記載(リンク)や「安心葬儀 TOP>大阪府の葬儀社/斎場一覧>大阪市<以下略>>セレモニートーリン」と いう各ウェブページの階層を示す記載があり、また、「セレモニートーリン」と太 字で書かれた下部には、本件葬儀場の外観を撮影した写真が掲載され、「セレモニー トーリンとは」「セレモニートーリンの特徴」「セレモニートーリンの住所・地図・ アクセス」「セレモニートーリンの情報」「セレモニートーリンの口コミ・レビュー」 「セレモニートーリンの葬儀式場・休憩室情報」の各欄にはそれぞれ見出しに対応 した情報が記載されているほか、「当サイトは「セレモニートーリン」と提携して おりません。掲載している情報は、葬儀社様の公式サイトの情報など、一般に公開 されている情報をもとに、当サイトの方で収集、編集を加えまとめたものになりま す(中略)。斎場に関する詳細・最新の情報につきましては公式の Web サイトや電 話で直接ご確認ください。」との記載がある。 これより下部には、「セレモニートーリンの近くにある他の斎場」「大阪府で経 験・実績の多い葬儀社」「大阪府の家族葬の葬儀事例」の欄には、それぞれ複数の 葬儀社や葬儀事例が記載されており、さらに、「葬儀社/斎場を地域を指定して検 索する」「葬儀社/斎場を大阪府の市町村から選ぶ」の欄においては、それぞれ選 択した対象エリアや地域に所在する葬儀社等を検索することが可能である(甲22\nの1・2。なお、以上の記載内容は、口頭弁論終結時のものである。)。
エ 検索サイトYahoo!において、「セレモニートーリン」とキーワード検 索すると、検索結果を表示するウェブページにおいて、広告であることが明記され\nた他の葬儀社等のリンクが表示された後、広告表\示のないものとしては一番目に原 告のウェブサイトへのリンクが「公式/セレモニートーリン・大阪市<以下略>、 東大阪のお葬式」等の見出しのもとに何件か表示される。それに引き続き、被告の\n本件ウェブページについての案内(その詳細は、「https<以下略>>大阪府の葬儀 社/斎場一覧>大阪市<以下略>」とドメイン部分等が小さく表示され、その下に\n見出し(リンク)部分として、「セレモニートーリン(大阪府)の斎場詳細|安心 葬儀」が表示され、「評価:4.3 1件のレビュー」との情報及び本件ウェブペー ジの説明文として、「セレモニートーリン(大阪府大阪市<以下略>)の口コミ、 写真、施設情報、アクセス・地図など詳しい情報をご紹介します。【安心葬儀】は お客様のご予算やご要望に合わせて、...」が表示され、「セレモニートーリンの特\n徴・セレモニートーリンの住所・地図...」との表示もされる。)が表\示される。な お、その下には、詳細は不明であるが、被告以外の他のサービスサイトと思われる サイトへのリンクも表示される(甲21の1・2)。\n
(2) 前記認定によると、本件サービスサイトは、その構成において、需要者であ\nる葬儀希望者に対し、その条件に見合った葬儀社等の情報提供を行い、また希望者 には葬儀の依頼や相談、一括見積を行うことなどを通して、葬儀希望者と葬儀社等 とのマッチング支援を行うサービス(被告役務)を提供するものであることが容易 に看取できる。
そして、本件ウェブページは、これを単独でみても、そのドメインや本件ウェブ ページのタイトル部分や末尾の「安心葬儀」等の表示、競合し得る近隣の斎場等の\n情報も表示されることに加え、本件葬儀場の情報については、ホールの外観、特徴\nや所在地、アクセス方法、設備情報等の客観的な情報が記載されているにとどまり、 これを超えて本件葬儀場の利用を誘引するような記載はみられないこと等の事情か らすると、本件ウェブページに接した需要者は、「セレモニートーリン」を、葬儀 場を紹介するという本件サービスサイトにおいて紹介される一葬儀社(場)として 認識するものであり、原告が本件葬儀場において提供する商品ないし役務に関し、 被告がその主体であると認識することはないものというべきである(本件ウェブペー ジを含め、本件サービスサイトの運営者が原告であると認識することがないことも 同様である。)。
さらに、原告が問題とする本件ウェブページの html ファイル中のタイトルタグ及 び記述メタタグに記載された内容は、検索サイトYahoo!において「セレモニー トーリン」をキーワードとして検索した際の検索結果において基本的に各タグに記 載されたとおり表示されると認めることができるが、その内容は、いずれも本件サー\nビスサイトの名称が明記された見出し及び説明文と相まって、原告の運営するウェ ブサイトとは異なることが容易に分かるものと評価できる上、一般に、検索サイト の利用者、とりわけ現に葬儀の依頼を検討するような需要者は、検索結果だけを参 照するのではなく、検索結果の見出しに貼られたリンクを辿って目的の情報に到達\nするのが通常であると考えられるところ、需要者がそのように本件ウェブページに 遷移した場合には、前記のとおり、被告が運営する本件サービスサイトの一部とし て本件ウェブページを理解するのであって、やはり、被告標章を本件ウェブページ の各タグ内で使用することによって、原告と被告の提供する商品または役務に関し 出所の混同が生じることはないというべきである。 したがって、被告による被告標章の使用は、商標法26条1項6号の規定により、 本件商標権の効力が及ばないというべきである。
(3) 原告は、被告は、本件ウェブページの見出しやその説明文において被告標章 を表示させ、需要者をして本件ウェブページにアクセスするよう誘引し、本件ウェ\nブページにおいて本件葬儀場の建物の写真や情報を表示させることで、需要者をし\nて、本件ウェブページが原告(セレモニートーリン)のウェブページであると誤認 させ、出所の混同を生じさせている旨を主張する。 しかし、本件ウェブページの見出し、説明文及び本件ウェブページ自体の表示内\n容を踏まえると、見出し及び説明文に被告標章の表示があるからといって、出所の\n混同を生じさせることにはならないことは前述したとおりである。原告の主張は、 要するに、原告を紹介する本件ウェブページに被告の電話番号等が表示されること\nにより、原告が、その潜在的需要を失う不利益を被っていることをいうものと解さ れるが、そのような結果が仮に生じているとしても、前記認定に係る本件サービス サイトの性質及び本件ウェブページの記載(なお、反対にこれを参照して原告に依 頼する需要者も在り得ると考えられる。)からすると、自由競争の範囲内のものと いうべきである。原告の前記主張は採用の限りでない。

◆判決本文

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