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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

商標その他

令和6(ネ)10031  不正競争行為差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和6年10月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

日本国内のウェブサイトで、海外における「Sushi Zanmai」のお店紹介することが、日本の商標権侵害・不正競争行為に該当するかが争われました。 1審では、商標権侵害を認め、差止、損害賠償(約600万円)が認められました。知財高裁は、商標としての使用ではない、商品等表示でもない、仮に商標としての使用であると考えた場合でも、日本国内で提供される役務についての使用ではないとして、\nこれを取り消しました。

(2) 被告各表示の商標法2条3項8号該当性について\n
前記(1)の本件ウェブサイトの構成と記載内容によれば、以下に述べるとお\nり、本件ウェブサイトは、全体として、被告を含むダイショーグループが東 南アジアにおいて日本食を提供する飲食店チェーンを展開するとともに、そ こで提供するための鮮度の高い良質な食材を日本から輸出する事業を営んで いることを紹介するものであると認められるから、被告各表示を付した本件\n各ウェブページについても、本件すし店の「役務に関する広告」に当たると 認めることはできない。
ア 「事業内容」のページ(前記(1)ウ)は、説明項目の記載順が「食材・食 品の輸出/提案」、「加工・流通」、「物産展・地域振興」、最後に1 0の飲食店チェーンの一つに被告各表示を付した「店舗開発・メニュー\n開発」となっており、それぞれ相応な分量の説明と写真があり、冒頭の 「食材・食品の輸出/提案」の末尾は、食材の海外輸出を検討する日本 国内の事業者に向けた呼びかけとなっている。そうすると、これに続く 「加工・流通」、「物産展・地域振興」、「店舗開発・メニュー開発」 は、輸出先の国における流通経路の川下に関する事業内容を順次紹介す ることにより、海外輸出を検討している国内の事業者に向けて、ダイシ ョーグループを通じた輸出の利点を記載したものといえる。
イ このような食材の輸出に関連する内容は、前記(1)のとおり本件ウェブサ イトの随所にみられ、特に「海外輸出をお考えの方」のページ(前記(1) カ)は、食材の海外輸出を検討する国内事業者に向けたものであること が明らかである。
ウ これに対し、被告各表示を付した部分は、上記「事業内容」のページに\nおいては、ページの最後に被告各表示と簡潔な説明文及び英文ウェブサ\nイトへのリンクがあるにとどまり、ページ全体に占める割合は少なく、 具体的なメニューの内容、価格、店舗の所在場所といった、一般消費者 に向けて本件すし店の役務の内容を知らせる内容は乏しい(これらの情 報は、リンクされた英文ウェブサイト(乙37)に掲載されていること が推認される。)。しかも、被告各表示は、ダイショーグループが展開\nしている飲食店チェーンを紹介した部分に掲載されている10種類の飲 食店(その中には簡潔な説明文中にシンガポールやクアラルンプールの 店舗であることが明記されているものもある。)の一つにすぎない。そ して、同ページの記載内容からも、本件すし店が東南アジアに所在する ことは比較的容易に読み取ることができる。 トップページ(前記(1)ア)において被告各表示を用いた部分をみても、\n英文ウェブサイトへのリンクがないことを除いては「事業内容」のペー ジと同じであり、ページ全体に占める割合が多いとはいえず、10種類 の飲食店チェーンの一つとして店舗情報が提供されていることは、前記 「事業内容」のページと同様である。 さらに、上記の「事業内容」のページや「ダイショーグループとは」 のページ(前記(1)イ)をみれば、本件すし店が東南アジアに所在するこ と、日本法人である被告が国内からの食材の輸出の事業を営んでいるこ とは、比較的容易に読み取ることができる。
エ これに対し、原告は、本件各ウェブページの被告各表示が、ダイショー\nグループの事業内容として本件すし店の役務を「広く世間に告げ知らせる」 ことを目的として使用されていること、その役務に係る出所表示機能\、自 他商品識別機能等を果たす態様で使用されていることは明らかであるから、\n本件すし店の「役務に関する広告」に該当する旨主張する。 しかし、前記の本件ウェブサイトの構成と記載内容によれば、被告各表\ 示を用いた部分が本件すし店の役務を「広く世間に告げ知らせる」とい う一面があることを全く否定することはできないとしても、全体からみ ると、本件各ウェブページは日本からの食材の輸出という役務の広告と いうべきであって、被告各表示を用いた部分は、ダイショーグループが\n展開する他の飲食店チェーンの紹介と併せて、国内の事業者に対し、ダ イショーグループを通じて輸出した場合の食材の使用先や使用状況を明 らかにし、これにより被告との間で食材の輸出取引を行うための誘因と する目的で使用されているというべきである。 このような使用態様については、本件すし店の役務に係る出所表示機能\、 自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評価することはで\nきない。
・・・
ク 以上によれば、被告各表示は、その態様に照らし、食材の海外輸出を検\n討する国内事業者に向けた本件各ウェブページの中で、被告の事業を紹 介するために使用されているにすぎず、本件すし店を日本国内の需要者 に対し広告する目的で使用されたものではなく、現にそのような効果が 生じている証拠もない。 したがって、本件ウェブページ掲載行為は、「本件すし店の役務に関 する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為」として商 標法2条3項8号に該当するものということはできない。
(3) 被告各表示と原告各商標権の侵害について\n
仮に、原告が主張するとおり、被告各表示の使用が本件すし店の存在を日\n本国内に広く知らしめるという点において「広告」に該当し、商標的使用に 該当すると考えた場合でも、以下のとおり、被告各表示は、日本国内におけ\nる役務の提供について使用されているものではないから、原告各商標権を侵 害するものではない。 ア すなわち、被告各表示は、日本語で記載された本件各ウェブページに掲\n載されているから、これが本件すし店の広告に該当すると考えたときは、 日本国内において商標法2条3項8号に該当する行為がされたものと一応 いうことができる。
イ しかるところ、前記のとおり、本件各ウェブページは、食材の海外輸出 を検討する国内事業者に向けたものであると認められ、被告各表示は、本\n件各ウェブページの中でダイショーグループが海外で日本の食材を用いた 飲食店チェーンを展開していることを示す際に使用されている。本件各ウ ェブページには、本件すし店の具体的なメニューの内容、価格など、一般 消費者に向けて本件すし店の役務を知らせる内容は一切記載されておらず、 「事業内容」のページの被告各表示の下のリンクから誘導されるのは英文\nのページのウェブサイトである。
ウ また、証拠(乙17、21)及び弁論の全趣旨によれば、本件すし店は、 日本国外(シンガポール、マレーシア)で飲食物の提供等の役務を提供し ていることが認められ、シンガポールやマレーシアで商標登録されている 被告各表示(甲8、乙14、15。商標権者はスーパースシである。)は、\n現地でその役務を提供するに当たり、使用されている標章である。本件す し店が、日本国内で同様の役務を提供している事実は認められない。
エ そうすると、被告各表示は、本件すし店の日本国内における役務の提供\nについて用いられているものではない。被告各表示を見た日本国内の消費\n者が被告各表示により役務の提供の出所を誤認したとしても、本件すし店\nが日本で役務を提供していない以上、その誤認の結果(原告の店であると 誤認して、本件すし店から指定役務の提供を受けること)は、常に日本の 商標権の効力の及ばない国外で発生することになるはずであり、日本国内 で原告各商標権の出所表示機能\が侵害されることはない。なお、証拠(甲 10、11)によれば、クアラルンプールの本件すし店に入店する際、こ れを原告の支店であると誤認した日本人がいた事実が認められるが、当該 出所の誤認が本件各ウェブページの被告各表示を閲覧した結果生じたもの\nであることを認める証拠はない上、出所の誤認が国外で発生していること に変わりはないから、当該事実は、前記判断を左右するに足りるものでは ない。
オ もともと、一国において登録された商標は、他の国において登録された 商標から独立したものとされており(パリ条約6条1項及び3項)、かつ、 いわゆる属地主義の原則により、商標権の効力は、その登録された国内に 限られるものと解される。外国において適法に登録された商標である被告 各表示が当該外国における指定役務の提供を表\示するため本件各ウェブペ ージ上で使用された場合において、原告各商標権に基づき被告各表示の使\n用差止等を認めることは、実質的にみて、原告各商標の国内における出所 表示機能\等が侵害されていないにもかかわらず、外国商標の当該外国にお ける指定役務表示のための適法な使用を日本の商標権により制限すること\nと同様の結果になるから、商標権独立の原則及び属地主義の原則の観点か らみても相当ではないというべきである。
・・・
以上によれば、原告の主張を考慮しても、本件各ウェブページは、日本か らの食材の輸出という役務の広告というべきであり、仮に被告各表示を本件\nすし店の役務の広告であると考えた場合でも、当該役務は国外で提供される 役務であるから、原告各商標の国内における出所保護機能を害するものでは\nない。
・・・
(1) 前記2のとおり、本件各ウェブページにおいて、被告各表示は、日本から\nの食材の輸出という被告の事業に関連する情報の一つを示すために使用され ていると認められるから、他人の商品等表示と同一又は類似の商品等表\示を 使用し、出所表示機能\、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されている\nと評価することはできない。また、仮に、被告各表示が、本件すし店の提供\nする役務を表示するために使用されていると考えたとしても、当該役務は日\n本国内の役務ではなく、国外で提供される役務であるから、日本国内におい て、出所表示機能\、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評\n価することはできない。
そうすると、本件ウェブページ掲載行為は、被告各表示を商品等表\示とし て「使用」するもの(不競法2条1項1号)に当たらないから、その余の点 を判断するまでもなく、不競法2条1項1号に基づく原告の請求は、理由が ない。

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1審はこちら。

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令和5(行ケ)10119  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月28日  知的財産高等裁判所

腕時計の外観(オーデマ・ピゲのロイヤルオーク)を表した商標について識別力無しとした審決が維持されました。\n

ア 本願商標は、前記第2の1(1)のとおりの構成からなる商標である。\n腕時計においては、文字盤に刻まれた目盛りや数字をインデックスなど というところ(乙1)、本願商標は、腕時計からベルト及び針(時針等)を 除いた、ラグ(時計本体とベルトを固定する部分、乙1)、ケース、風防、 インデックスの記載がある文字盤、リューズ及びベゼル等より構成され、\nこれらの形状を文字盤の上部方向から平面視して表した図形である。しか\nも、上記図形は、ベゼル、ラグ、リューズ、文字盤の格子状模様等の全て において陰影が施され、立体的な形状として表現されている。したがって、\n本願商標は、上記時計の構成部分を平面視した図形として表\されてはいる ものの、時計の一部の形状を出所識別標識とすべく登録出願されたものと 認められる。 これを前提に、本願商標の構成を検討すると、以下のとおりである。\n本願商標のラグには、腕時計において金属ベルトを繋ぐ位置に上下二つ の凹部がある。ラグの中央には、外側が八角形で内側が円形のベゼルがあ り、そのベゼルのそれぞれの角に六角形のマイナスネジが配置されており、 全体の色は銀色である。文字盤内のインデックスは、数字ではなく、格子 模様から隆起して見える目盛りからなり、各定時においては1本線であり、 上部中央においては2本線である。文字盤にはリューズ近くの位置に腕時 計において通常日付けが表示されている位置に空白があり、中央上部にブ\nランド名を示す部分があるほかは、文字盤の全面にわたり立体的に見える ように陰影を施した格子模様が示されている。
イ 本願商標の指定商品は「時計」であるから、腕時計のほか、置時計や掛 け時計等も含まれるものであり、その需要者は一般の消費者であると認め られる。本願商標は、腕時計からベルト、針を除いたものであるとの形状 に係る上記アの各事情は、需要者がこれを容易に認識することができると いえる。
ウ 腕時計においては、別掲2の1(1)ないし(4)、2(1)ないし(2 9)及び乙4のとおり、腕時計のバンド及び針(時針等)を除いた部分の 形状として、ラグ、ケース、風防、インデックスのある文字盤、リューズ 及びベゼル等から構成され、八角形のベゼルやビス、文字盤の格子模様な\nどを、それぞれ備えるものが相当数存することが認められる。
エ 上記アないしウの事情を総合すれば、本願商標の形状は、客観的に見て、 商品の機能又は美感に資することを目的として採用されたものであり、か\nつ、本願商標の需要者である一般の消費者において、同種の商品等につい て、機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予\測し得 る範囲のものであると認められる。 そうすると、本願商標に係る形状は、商品等の形状を普通に用いられる 方法で使用する標章のみから成る商標として、商標法3条1項3号に該当 するというべきである。

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令和3(ワ)11358  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和6年3月19日  東京地方裁判所

被告は、魚介類及び水産加工品の輸出入等の事業を行う会社で、日本での食材の仕入れ及び東南アジアのダイショーグループ各社への輸出を行っていました。ダイショーグループは、シンガポール・マレーシア・インドネシアなどで「寿司」、「和食レストラン」などの店舗を展開していました。本件各ウェブページは、日本語によって記載された主に日本国内の取引者及び需要者に向けたウェブページであり、被告が管理していること、本件各ウェブページには、スーパースシが展開する本件すし店に関するものとして被告各表示が掲載されていました。裁判所は、指定商品・役務が類似する、&商標も類似するとして、差止と約600万円の損害賠償を認めました。また、不正競争行為にも該当すると判断されています。
原告は「すしざんまい」です。

ア 本件各掲載行為のうち本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為について\n
前提事実(1)イ及びウ、(4)ア、証拠(甲4、23ないし25)並びに弁 論の全趣旨によれば、原告各商標の指定役務は「すしを主とする飲食物 の提供」であること、被告は、魚介類及び水産加工品の輸出入等の事業 を行う株式会社であり、日本での食材の仕入れ及び東南アジアのダイシ ョーグループ各社への輸出を行っていること、ダイショーグループは、 シンガポール・マレーシア・インドネシアなどで「寿司」、「和食レスト ラン」などの店舗を展開していること、本件各ウェブページは、日本語 によって記載された主に日本国内の取引者及び需要者に向けたウェブペ ージであり、被告が管理していること、本件各ウェブページには、スー パースシが展開する本件すし店に関するものとして被告各表示が掲載さ\nれており、被告各表示とともに「手頃な価格で幅広い客層が楽しめる回\n転寿司。厳選した食材と豊富なメニューで、人気を集めています。」と の説明が掲載されていることが認められる。 このような事情からすれば、本件各ウェブページにおける被告各表示\nは、すしを主とする飲食物の提供を行う本件すし店を紹介するために掲 載されたものであり、「すしを主とする飲食物の提供」と類似の役務に 係るものといえるから、原告各商標の指定役務と被告各表示に係る役務\nとは類似するものといえる。 そして、被告が本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は、\n「役務に関する広告…を内容とする情報に標章を付して電磁的方法によ り提供する行為」(商標法2条3項8号)に該当するといえ、被告は原 告各商標を「使用」したものと認められる。
被告の主張について
被告は、被告各表示はスーパースシがマレーシアにおいて展開する本\n件すし店に関するものにすぎず、被告自身は「すしを主とする飲食物の 提供」を行っていないことなどから、被告各表示に係る役務は、原告各\n商標の指定役務である「すしを主とする飲食物の提供」とは類似してお らず、また、被告が原告各商標を「使用」したとはいえないと主張する。
そこで検討すると、商標法は、「商標を保護することにより、商標の 使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、 あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」と定めており、こ の目的を達成するため、商標は、標章をある者の商品又は役務に付する ことにより、その商品又は役務の出所を表示する機能\(出所表示機能\) や、取引者及び需要者が同一の商標の付された商品又は役務には同一の 品質を期待しており、商標がその期待に応える作用をする機能(品質保\n証機能)を有するものと解される。本件においては、前記 で説示した とおり、本件各ウェブページは主に日本国内の取引者及び需要者に向け たウェブページであり、かつ、被告各表示は「すしを主とする飲食物の\n提供」という役務に係るものといえるから、被告各表示がマレーシアの\n本件すし店に係るものであったとしても、本件各ウェブページに被告各 表示を掲載した行為は、日本における原告各商標の出所表\示機能及び品\n質保証機能を害し、ひいては、上記の商標法の目的にも反するものであ\nるといえる。
そして、被告各表示が被告自身の事業に関するものではなかったとし\nても、本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は被告が行った\nものと認められ、上記のとおり、そのような被告の行為によって日本に おける原告各商標の出所表示機能\及び品質保持機能が害されている以上、\n被告が原告各商標を「使用」していないと評価することはできない。 そうだとすれば、被告の上記主張はいずれも役務の類否や使用行為の 有無を左右するものではないというべきである。
・・・・
被告は、被告各表示はスーパースシがマレーシアにおいて展開する本\n件すし店に関するものにすぎず、被告自身は「すしを主とする飲食物の 提供」を行っていないことなどから、被告各表示に係る役務は、原告各\n商標の指定役務である「すしを主とする飲食物の提供」とは類似してお らず、また、被告が原告各商標を「使用」したとはいえないと主張する。
そこで検討すると、商標法は、「商標を保護することにより、商標の 使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、 あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」と定めており、こ の目的を達成するため、商標は、標章をある者の商品又は役務に付する ことにより、その商品又は役務の出所を表示する機能\(出所表示機能\) や、取引者及び需要者が同一の商標の付された商品又は役務には同一の 品質を期待しており、商標がその期待に応える作用をする機能(品質保\n証機能)を有するものと解される。本件においては、前記 で説示した とおり、本件各ウェブページは主に日本国内の取引者及び需要者に向け たウェブページであり、かつ、被告各表示は「すしを主とする飲食物の\n提供」という役務に係るものといえるから、被告各表示がマレーシアの\n本件すし店に係るものであったとしても、本件各ウェブページに被告各 表示を掲載した行為は、日本における原告各商標の出所表\示機能及び品\n質保証機能を害し、ひいては、上記の商標法の目的にも反するものであ\nるといえる。
そして、被告各表示が被告自身の事業に関するものではなかったとし\nても、本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は被告が行った\nものと認められ、上記のとおり、そのような被告の行為によって日本に おける原告各商標の出所表示機能\及び品質保持機能が害されている以上、\n被告が原告各商標を「使用」していないと評価することはできない。 そうだとすれば、被告の上記主張はいずれも役務の類否や使用行為の 有無を左右するものではないというべきである。
イ 本件各掲載行為のうち本件各アカウント写真として被告表示2を掲載し\nた行為について
前提事実(1)ウ、証拠(甲20、21)及び弁論の全趣旨によれば、スー パースシは、マレーシアにおいて本件すし店を展開していること、本件各 アカウントは、本件すし店に係るアカウントであることが認められるが、 本件全証拠によっても、被告が本件各アカウントを管理していると認める ことはできない。
したがって、本件各アカウント写真の掲載行為については、被告が行っ たものと認めることができないから、被告が原告各商標を「使用」したと はいえない。
なお、本件では、不競法違反に関して被告が原告各表示と類似の商品等\n表示を「使用」(不競法2条1項1号)したといえるか(争点2−3)も\n問題となっているが、上記で説示したとおり、本件各アカウント写真の掲 載行為は被告が行ったとは認められないから、被告が原告各表示と類似の\n商品等表示を「使用」したともいえない。\n
・・・
商標法38条2項による損害額の算定について
商標法38条2項は、商標権者等が侵害行為による損害の額を立証するこ とが困難であることから、その立証を容易にするために設けられたものであ ると解される。そうすると、同項の適用が認められるためには、侵害者によ る侵害行為がなかったならば商標権者等が利益を得られたであろうという事 情が存在する必要があるものと解される。
証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、原告はマレーシアにおいてすし 店を展開していないことが認められるところ、本件全証拠によっても、日本 国内における原告すし店とマレーシアにおける本件すし店の市場が競合する と認めることはできないから、被告による侵害行為(本件各ウェブページに 被告各表示を掲載した行為)がなかったならば原告(原告すし店)が利益を\n得られたであろうという事情が存在すると認めることはできない。 したがって、本件では、商標法38条2項を適用することはできない。
(2) 商標法38条3項よる損害額の算定について
ア 前提事実(5)のとおり、平成26年から令和5年までの被告の本件すし 店に対する売上げは合計1億4475万8151円である。 そして、証拠(甲44、乙3)及び弁論の全趣旨によれば、株式会社 帝国データバンク作成の「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用 の在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤル ティ料率に関する実態把握〜」には、商標権における使用料率(ロイヤ ルティ料率)全体の平均値は2.6パーセント、第43類「飲食物の提 供及び宿泊施設の提供」に関する平均値は3.8パーセントであると記 載されていることが認められる。 この点について、前提事実(1)のとおり、被告は、スーパースシを含め たダイショーグループ各社に対して、日本で仕入れた食材の輸出を行っ ているところ、被告が本件各ウェブページに被告各表示を掲載すること\nによって本件すし店(スーパースシ)の売上げが増加した場合、それに 伴って被告の本件すし店に対する売上げ(輸出)も増加する関係にある ものと認められる。
他方で、前記(1)で説示したとおり、日本国内における原告すし店とマ レーシアにおける本件すし店の市場が競合すると認めることはできない ことに照らすと、本件各ウェブページへの被告各表示の掲載が被告の売\n上げに与えた影響は限定的なものであったことがうかがわれる。 このような事情に加え、本件各ウェブページにおける被告各表示は遅\nくとも平成26年12月頃から相当長期にわたって掲載されていたと認 められること(前提事実(4)及び弁論の全趣旨)及び商標権侵害があった 場合に事後的に定められるべき登録商標の使用に対し受けるべき金銭の 額は通常の使用料と比べて高額となることを考慮すると、被告による原 告各商標の使用に対し原告が受けるべき金銭の額に相当する額を算定す るための使用料率については、3.8パーセントと認めるのが相当であ る。 そうすると、上記の金銭の額は、被告の本件すし店に対する売上げで ある1億4475万8151円に使用料率3.8パーセントを乗じた5 50万0809円であると認められる。
イ これに対し、原告は、前記アの金銭の額を算定するに当たっては、被 告が被告各表示を被告各ウェブサイトに掲載することにより自己の取引\n上の信頼を高めて事業全般に及ぶメリットを享受していることから、被 告の全売上高をその基礎とすべきであると主張する。 しかしながら、上記の金銭の額を算定する際に基礎とすべきは、侵害 行為に関する売上高であると解されるところ、別紙被告ウェブページ目 録記載のとおり、本件各ウェブページに掲載された被告各表示は本件す\nし店に関するものであり(甲4及び弁論の全趣旨)、それを超えて被告の 事業全体に関するものであると認めるに足りる証拠はないから、原告の 上記主張は採用できない。

◆判決本文

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令和4(ネ)10117  商標使用料等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和6年4月10日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

原審は、権利濫用として棄却判決でしたが、知財高裁は、権利濫用ではないとして、約3200万円の支払いを命じました。

原告商標1についての商標登録出願につき、その登録前の平成17年12月6日 に、被告から原告へと出願人名義変更がされている(甲A419、乙113〜11 5)。原告商標1の商標登録出願により生じた権利を被告から原告に移転すること は、被告の取締役でありかつ原告代表者であるDが、原告のために行った取引であ\nるから、被告からみて利益相反取引に当たるところ、同取引について被告の取締役 会における承認はされていないから、被告は、原告に対し、当該移転に係る取引の 無効を主張することができることになる。しかしながら、原告商標1は平成18年 1月27日に設定の登録がされ(甲A203、204)、既に同日から5年が経過し ていることから、これを無効審判請求により無効とすることはできない(商標法4 7条1項、46条1項4号)。そうすると、被告は、原告商標1の登録について、無 効の抗弁(同法39条、特許法104条の3第1項)を提出することはできない(最 高裁平成27年(受)第1876号同29年2月28日第三小法廷判決・民集71 巻2号221頁参照)。 そして、本件において原告が原告商標1を取得した目的は、被告に使用許諾をし て足立物件に係る事業に用いるためであり、また、被告から原告に移転をしたのは 出願当初に予定していたとおりの帰属とするためであったと認められるから、原告\n商標1の出願により生じた権利の移転について被告の取締役会決議を経ていないこ とのみをもって、原告による原告商標権1に係る権利行使を制限すべきとは認めら れない。
(3) 原告各商標権について
原告各商標権の行使が権利の濫用に当たるか検討する。
まず、前記(1)のとおり、A、B、C及びDは、Aを被相続人とする相続時の税金 対策のために、被告において不動産事業を営むこととし、被告の株式の評価額を減 少させようとしていたところ、節税等の目的で、知的財産権を含む資産を関係会社 や子会社に分配して保有させるなどして利益を関係会社等に分散させることは、企 業経営者の経営判断として一般に採用し得る手法であって、商標権を、事業主体で ある被告ではなく、その事業運営を請け負う原告が取得し、被告からその商標使用 料の支払を受けることは直ちに不自然であるとはいえない。また、原告と被告との 間の本件商標使用許諾契約において定められた商標使用料は、平成25年9月期か ら平成27年9月期までの3年間の本件各物件に係る事業の売上額(甲A421) の平均に対し、商標権の全分類平均の使用料率2.6%(甲A422)を乗じた額 と比べても相当程度に低廉であり(本判決別紙「本件各物件売上額等」参照)、原告 各商標が一般的な普通名詞から構成されるものであってそれ自体の顧客吸引力が高\nいとまではいえないことを考慮しても、不相当に高額であるとはいえない。そして、 本件商標使用許諾契約の効力が認められないのは、Dが利益相反取引についての会 社法所定の手続を経ていなかったからであって、D以外の他の取締役らが、被告の 不動産事業の経営を事実上Dに任せていたという事情が認められる本件において、 本件商標使用許諾契約書が作成された平成20年10月当時、Dが当該手続に従っ て被告の取締役会の承認を得ることが困難であったような事情は見当たらないし、 仮に取締役会の承認を得ておれば、原告は、被告に対し、本件商標使用許諾契約に 基づき原告各商標の使用料を請求することができたはずである。しかも、平成21 年8月20日から平成28年2月10日までの間、被告は原告に対し、現に本件商 標使用許諾契約に定められた原告各商標の使用料の支払を行っていたことが認めら れ(補正の上引用した原判決の第2の2(7))、取締役であるA、B及びCは上記支 払について容易に知り得たといえるところ、この間、平成25年11月に死亡した Aが生前異議を述べていた事実は認められないし、B及びCにおいても、平成28 年5月に被告が本件各業務委託契約(原告と被告との間で締結された、被告が本件 各物件の管理等の事業全般に関する業務を原告に委託する旨の契約)等を解除する 旨の意思表示をするまでの間、本件商標使用許諾契約が有効であるという前提で行\n動していたことが推認され、これに反する証拠はない。
これらの事情及び前記(2)の事情を総合すると、原告が被告に対し、原告各商標権 の侵害を主張することが権利濫用に当たり許されないものと認めることはできない。 そして、被告は、少なくとも過失により、契約上の権限を取得することなく原告各 商標の使用を開始し、継続したことになるというべきであるから、被告は、原告に 対し、不法行為に基づき、使用料相当額の損害を賠償する義務があるというべきで ある。
なお、原告が使用料相当額の損害賠償金を請求する期間は平成28年4月1日か ら令和元年9月30日までであって、原告商標3の登録後であるから、本件商標使 用許諾契約書が作成された平成20年10月1日当時に原告商標3の商標登録出願 がされていなかったことは、上記判断を左右しない。

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令和5(行ケ)10095 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月11日  知的財産高等裁判所

色彩の組合せのみからなる商標について、識別力無しとした審決が維持されました。原告は、エルメスです。最後に、包装箱等の色彩に関する被告提示事例の評価及び独占適応性の問題について裁判所の意見が付言されています。

2 色彩のみからなる商標と商標法3条2項等について
(1) 平成26年法律第36号による改正(以下「平成26年改正」という。) 前の商標法2条1項は、「商標」の定義として、「文字、図形、記号若しく は立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」と規定して おり、文字、図形等と結合していない色彩のみの商標は商標法の保護の対象 外であった。しかし、色彩のみや音といった「新しい商標」を保護対象とす る諸外国の状況もあり、企業のブランド戦略の多様化が進む中で、我が国に おいてもこうした「新しい商標」の保護ニーズが高まることとなり、平成2 6年改正により、色彩のみからなる商標が商標法の保護対象として認められ ることとなった。
しかし、色彩は商品等に自ずと付随する特性という一面を不可避的に有す るところ、通常はこうした商品特性にすぎない色彩が自他商品役務識別力を 有するといえるためには、使用による識別力の獲得その他の特段の事情が必 要になると解される。この点について平成26年改正は何ら触れておらず、 商標法3条1項3号、6号、同条2項等の解釈・適用に(すなわち、色彩以 外の商品特性と同じ土俵での議論に)ゆだねている。その意味で、平成26 年改正は、色彩商標に係る識別力獲得について例外的な取扱いを定めたもの ではないが、同改正の背景に、企業の多様なブランド戦略を支援しようとい う観点があったことを踏まえ、そのような立法趣旨が損なわれないような解 釈運用が求められていると解される。
(2) このような観点から、本願商標の特徴を具体的に検討するに、本願商標は、 別紙商標目録記載のとおり、橙色(RGBの組合せ:R221、G103、 B44)と茶色(RGBの組合せ:R94、G55、B45)の色彩の組合 せからなり、箱全体において橙色、上部周囲に茶色とする構成からなるもの\nである。
願書の商標の詳細な説明の記載に照らすと、本願商標は、全体が橙色の 「箱」状の物品を想定して、その「上部周囲」(上面と側面が接合するライ ンを指すものと理解される。)に沿って、輪郭を縁取るように茶色が付され ている構成からなるものと理解され、その意味で、立体的形状と色彩の結合\n商標類似の要素も含まれているといえる。もちろん、同説明中に「商標見本 における破線は、箱の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素\nではない」と明記されていることから、本来的な意味での立体的形状と色彩 の結合商標ではなく、分類としては「色彩の組合せのみからなる商標」であ ることに変わりはないと解されるが、本願商標が「『立体的形状と色彩の結 合商標』類似の要素も含まれている『色彩の組合せのみからなる』商標」と いう特徴を有することを正しく理解し、その特徴に即応した判断が求められ るというべきである。
(3) 被告は、本願商標の橙色と茶色の色彩、組合せ及び色彩の付される位置は いずれもありふれたものであり、これに近似する表示全般を本願商標と見分\nけることは困難である、本願商標に近似する色彩は、様々な商品の包装箱に おいて多数の事業者によって使用されている実情がある(包装箱等の色彩に 関する被告提示事例)、などと主張する。
確かに、橙色と茶色は同系色で、ファッションの分野でも橙色と相性がよ く合わせやすい色とされている(乙16)と認められるほか、色彩のわずか な違い程度であれば、近似色との識別が困難な場合があること等は、被告の 主張するとおりといえる。
しかし、本願商標は、より商標登録のハードルが高いと考えられる単一色 の色彩商標と異なることはもとより、単なる橙色と茶色の組合せをもって特 定されるものでもなく、上記(2)で述べたとおり、箱全体の橙色とその上部 輪郭を縁取るように付された茶色を組み合わせた特有の構成を有するもので\nある。このような構成は、RGB比率の絶妙なバランスと相まって、明るい\n橙色と落ち着いた茶色のコントラストを通じて橙色の華やかさを強調し、茶 色の縁取りが箱の輪郭のシャープさを印象付けるものであり、特に、茶色を あえて上部周囲だけに使用するにとどめたことで、シンプルな中に気品を感 じさせる構成になっているといえる。これを単純な「ありふれた色彩の組合\nせ」というのは、適切な理解とはいえない。 また、被告は、本願商標が「ありふれた色彩の組合せ」にすぎないと評価 する根拠の一つとして、包装箱等の色彩に関する被告提示事例を挙げている が、この点の被告の主張を採用できないことは、後記5(1)に詳述するとお りである。
・・・
4 本願商標の使用による自他商品役務識別力の獲得について
(1) 前記3の認定事実によれば、原告が展開する「エルメス」ブランドは、我 が国においても相当の長期間にわたる直営店等での商品の販売や公式ウェブ サイトその他のウェブサイト、全国紙、駅構内や百貨店での屋外掲示、原告\nの店舗内外のディスプレイ等における広告宣伝により、著名なものとなって いると認められる。その著名の程度は、我が国における歴史の長さ、圧倒的 な販売実績、一般消費者への露出の多い活発な広告宣伝等を通じて、あるゆ るファッションブランドの中でもトップクラスの地位にあると解される。 また、「エルメス」ブランドの商品の販売時には本願商標を付した本件包 装箱(通称オレンジボックス)が用いられ、「エルメス」ブランドの広告宣 伝においても本件包装箱やその配色をデザイン化したものが意識的・戦略的 に用いられている。
以上の認定に弁論の全趣旨を総合すれば、本件包装箱、ひいては本願商標 は、原告のブランド戦略に明確に位置づけられた「エルメス」の象徴として 用いられているものと認められる。そして、このような本件包装箱の使用及 び宣伝広告を通じて、少なくとも、「エルメス」のような高級ファッション ブランド商品の購入者やこれに関心を有する消費者の間では、本願商標を付 した本件包装箱(オレンジボックス)は、原告の展開する「エルメス」ブラ ンドに係るものであるとの認識が広く浸透しているものと認められる。
(2) しかし、本願の指定商品及び指定役務は別紙商標目録のとおり多岐にわた り、その中には第3類の革用クリーム、第14類の時計、キーホルダー、第 16類の紙製箱等、文房具類、日記帳、写真立て、第18類のリュックサッ ク、カード入れ、傘のように、安価な日用品として取引されることが少なく ないものが含まれているから、その需要者は広く消費者一般であると解する のが相当であり、「エルメス」のような高級ファッションブランド商品の購 入者やこれに関心を有する消費者に限られないというべきである。 そのような一般消費者を基準に考えた場合、「エルメス」ブランド自体は 広く知られているにしても、これを認識させる具体的な標章としては、著名 な「HERMES」の文字商標や馬車と人を描いた図形商標である可能性も\nあり、これら文字商標や図形商標を離れて、色彩商標である本願商標それ自 体から「エルメス」ブランドを認識できるようになっているとまで、直ちに 認めることはできない。
・・・
(6) 小括
以上に述べたところを要約すると、第1に、本件包装箱の使用及び宣伝広 告を通じて、少なくとも、「エルメス」のような高級ファッションブランド 商品の購入者やこれに関心を有する消費者の間では、本願商標を付した本件 包装箱(オレンジボックス)は、原告の展開する「エルメス」に係るもので あるとの認識が広く浸透しているものと認められるが、本願の指定商品及び 指定役務に照らすと、本願商標の需要者としては一般消費者を想定すべきで あり、そうした需要者を基準に考えた場合、本願商標それ自体から「エルメ ス」ブランドを認識できるに至っていると即断することはできない。本件各 アンケート調査の結果も、この点の認定証拠として不適当である。第2に、 本願の指定商品のうち第3類の香料及び第16類の紙製箱等並びにこれらの 商品に係る第35類の小売等役務については、本願商標の使用の事実が認め られず、これら指定商品・役務について、本願商標の使用による自他商品役 務識別力の獲得を認めることはできない。 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告主張の取消事 由は認められないことに帰する。本件審決が、指定商品との関係で商標法3 条1項3号該当性を認めた上同条2項の適用を否定した判断、指定役務との 関係で同条1項6号該当性を認めた判断に誤りはない。
5 その他の論点について
以下は、本件訴訟の帰趨に影響を及ぼすものではないが、包装箱等の色彩に 関する被告提示事例の評価及び独占適応性の問題について、当裁判所の考えを 示しておく。
(1) 包装箱等の色彩に関する被告提示事例の評価について
ア 商品の包装箱等についての取引の実情として、別紙2「商品の包装箱等 についての色彩の事例」にある包装箱等が、原告以外の事業者によって製 造、販売されていることが認められる。
イ そこで、被告提示事例を個別に検討するに、事例イ(イ)(乙39)、事 例イ(ウ)(乙40)及び事例ウ(ア)(乙50、51)は、本願商標の色彩 及びその配色の特徴が比較的類似していると解されるが、このうち、事 例イ(ウ)及び事例ウ(ア)は、本願の指定商品及び指定役務と異なる洋菓子 (キャラメル、パイ)の包装箱に関するものである上、証拠(甲170、 171)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、事例イ(ウ)の商品は原告の 知的財産権を侵害するものであるとして、警告書を送付して相手方事業 者と交渉したところ、相手方事業者は、令和5年10月までに、当該商 品の展示販売を中止するとともに、「本件色彩(箱全体に橙色、上部周 囲に茶色の色彩)がエルメスの商品及び役務を示す表示として広く認識\nされていることを理解し、今後は本件商品(本件色彩と類似する色彩を 付したギフト箱)及び本件色彩と類似の色彩を付したギフト箱を展示販 売しないことを誓約いたします」との誓約書を原告に差し入れたこと、 原告は、これ以外にも、侵害品と判断した商品を発見した場合、同様の 対応をしており、警告書の送付を行うケースは年間30〜40件程度あ ること、事例イ(イ)についても、対応を検討中であることが認められる。 これに対し、被告は、事例イ(ウ)の商品につき、販売中止の理由は明ら かでなく、これを模倣品とみるべき根拠はない旨主張するが、当該商品 の形態及び上記誓約書の文言を総合すれば、相手方事業者は、当該商品 の製造販売が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たることを自 認して販売を中止したものと推認できる。
そうすると、このような侵害品が市場に存在するとの事実は、本願商 標の色彩及びその配色の特徴がありふれたものであることを根拠づける ものではなく、むしろ、本件包装箱(本願商標)の色彩及びその配色の 特徴が高い顧客吸引力を有することを示唆するものといえる。
ウ 包装箱等の色彩に関する被告提示事例のうち、上記イで触れたもの以外 の事例は、本願商標の特徴である茶色の縁取りが全くないか、その範囲 が本願商標と異なり、「上部周囲」以外にも及んでいるようなものであ って(本願商標が茶色をあえて上部周囲だけに使用していることは上述 のとおりであり、その違いは全体の印象に大きく影響する。)、本願商 標の色彩及びその配色がありふれたものであることを根拠づけるものと はいえない。
この点に関し、被告は、商標の類否は離隔的観察を前提とすべきこと からすれば、箱の大部分に橙色、縁等にわずかに茶又は近似する色が使 用されているものも、本願商標と見分けることは困難であると主張する。 しかし、この主張は、前記2(2)で述べた本願商標の特徴を的確に踏まえ たものといえない上、本願商標の使用、宣伝広告等を通じて需要者の認 識が変化することも踏まえて検討すべきものであって、一概に被告主張 のように決めつけることはできないというべきである。
(2) 独占適応性の問題について
被告は、本願商標の登録を認めた場合、多数の事業者によって広く使用さ れている色彩について、本願商標に類似すると判断され得る使用態様が事実 上制限されることになり、ファッション分野を中心に、色彩使用の自由が著 しく制限され、他の事業者に著しい委縮効果を及ぼすことになる旨主張する。
しかし、まず、本願商標は、単なる橙色と茶色の組合せをもって特定され るものではなく、箱全体の橙色とその上部輪郭を縁取るように付された茶色 を組み合わせた特有の構成を有するものであって、その商標登録を認めたか\nらといって、単純に色彩の独占がもたらされるわけではないし、このような 特有の構成を備えた色彩の組合せが多数の事業者によって広く使用されてい\nるという取引の実情が認められるわけでもない(上記(1)参照)。また、仮 に本願商標の登録が認められたとしても、これに類似すると判断される使用 態様は、実際上、不正競争防止法2条1項1号の不正競争にも当たる場合が 少なくないと解され(被告提示事例イ(ウ)の販売中止の経緯参照)、その委 縮効果を過大に評価すべきでない。

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令和5(行ケ)10068 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年3月27日  知的財産高等裁判所

商標「O!OiMAIN」が、マルイの商標「〇|〇|」とは非類似、混同なしと審決が、前者の非類似との判断が間違っているとして、取り消されました。

別紙登録商標目録記載のとおり、本件商標は、「O」、「!」、「O」、「i」、 「M」、「A」、「I」及び「N」の各文字又は符号を同じ書体(やや斜字のゴシ ック体様の黒の書体)、同じ大きさ及び等しい間隔で一連に横書きしてなるもので あり、これらの文字又は符号は、まとまりよく一体的に構成されている。もっとも、\nその中の「M」、「A」、「I」及び「N」の各文字は、「主要な」等の意味を有 し、我が国において日常的に広く用いられる「メイン」の語に相当する英単語であ る「MAIN」の語を構成するものであるから、この「MAIN」の語は、ひとま\nとまりの単語として強く認識されるというべきである。
(ウ) O!Oi部分
「O!Oi」が辞書等に搭載された語であり、又は一般的に用いられている語で あると認めるに足りる証拠はないから、O!Oi部分は、特定の意味合いを有しな い一種の造語であり、それゆえに、平易な英単語のみからなるMAIN部分との対 比において視覚的に目立つものである。そして、前記(ア)のとおり、被告が代表者\nを務めるファインドフォーム社は、その製品に「OIOI」、「OiOi」、 「O!Oi」等の標章を付して販売するなどしている。このような取引の実情(な お、「OIOI」又は「OiOi」の標章と「O!Oi」の標章とが変わりのない ものと理解し得ることについては、後記ウ(ア)のとおりである。)を併せ考慮する と、O!Oi部分は、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識としての印象を強 く与えるものであると認めるのが相当である。
(エ) MAIN部分
「MAIN」の語は、前記(イ)のとおり、「主要な」等という意味を有する英単 語であり、かつ、それが多くの場合、形容詞として他の語を修飾するために広く用 いられている語であることは、公知の事実である。「O!Oi」の語が特定の意味 合いを有しない一種の造語であり、視覚的に目立つものであって(前記(ウ))、前 記(ア)の取引の実情において商品の出所識別標識としての印象を強く与えるような 形で使用されているのに対し、「MAIN」の語については、そのような事情は見 当たらない。すなわち、MAIN部分は、「MAIN」の語の通常の意味に照らし ても、取引の実情においても、商品の出所識別標識としての印象は、O!Oi部分 が与えるそれと比較して、相当程度に弱いというべきである。
(オ) 本件商標の分離観察の可否についての小括
以上によると、本件商標のO!Oi部分は、取引者、需要者に対し商品の出所識 別標識として強く支配的な印象を与えるといえ、前記(イ)の本件商標の構成を考慮\nしても、本件商標の各構成部分(O!Oi部分及びMAIN部分)は、それらを分\n離して観察することが取引上不自然であると思われるほどに不可分的に結合してい ると認められないから、本件商標については、その構成部分の一部であるO!Oi\n部分を抽出し、O!Oi部分だけを各引用商標と比較して商標の類否を判断するこ とも許されると解するのが相当である。
ウ 本件商標のO!Oi部分と引用商標3の類否 事案に鑑み、本件商標との類否判断の対象として、引用商標3を取り上げる。
(ア) 外観
別紙登録商標目録記載のとおり、本件商標のO!Oi部分は、「O」、「!」、 「O」及び「i」の各文字又は符号を同じ書体(やや斜字のゴシック体様の黒の書 体)、同じ大きさ及び等しい間隔で一連に横書きしてなるものであり、これらの文 字又は符号は、まとまりよく一体的に構成されている。\n別紙引用商標目録記載3のとおり、引用商標3は、「〇」、「|」、「〇」及び 「|」の各記号を同じ書体(ゴシック体様の赤の書体)、同じ大きさ及び等しい間 隔で一連に横書きしてなるものであり、これらの記号は、まとまりよく一体的に構\n成されている。
ここで、引用商標3の「|」の記号は、「I」の文字を図案化したものとして、 両者は実質的には変わりのないものとの印象を与え得るものであり、また、「I」 の文字と「i」の文字は、互いにアルファベットの大文字・小文字の関係にあるに すぎないから、これらも、実質的には変わりのないものと理解され得るといえる。 さらに、証拠(甲65〜77)及び弁論の全趣旨によると、企業名、ブランド名、 サービス名、芸名等を表すロゴや文字列の中で、「I」の文字又は「i」の文字に\n代えて「!」の符号又は縦若しくは斜めの棒状の図形の下部に「●」、「■」、 「★」等の図形を配した記号を用いる例が多数あるものと認められ、「!」の符号 も、アルファベットの文字列の中に配されたときは、「I」の文字又は「i」の文 字と変わりのない文字であると理解され得るものである。加えて、「〇」の記号も、 「O」の文字を図案化したものとして、両者は実質的には変わりのないものとの印 象を与え得ること、前記説示したところを踏まえると、その取引者、需要者からみ れば、本件商標のO!Oi部分と引用商標3の字体の相違(色彩の相違を含む。) が類否判断に当たって大きな意味合いを有するものとは認め難いことを併せ考慮す ると、取引者、需要者は、本件商標のO!Oi部分を見た場合、これが「〇|〇|」 と実質的には変わりのないものを指すと理解し得るということができるから、本件 商標のO!Oi部分の構成と引用商標3の構\成との間に厳密には前記のような相違 があるとしても、隔離観察を前提とすると、両者は、外観上極めて相紛らわしいも のであると認めるのが相当である。 被告は、「F!T」等の文字列の場合と異なり、「O!Oi」の文字列について は、「!」の符号を「I」の文字等に置換して認識すべきことが強く示唆されてい ないなどと主張するが、迅速を貴ぶ商取引において、アルファベットの文字列の中 に配された「!」の符号は、その形状(縦棒上の図形とその下部に小さく点様の図 形を配してなるもの)に照らし、当該文字列からの示唆の大小にかかわらず、「I」 の文字等と変わりのないものと理解され得るというべきである。被告の主張を採用 することはできない。
(イ) 称呼
本件商標のO!Oi部分は、途中に感嘆符を含む一種の造語であるが、証拠(甲 37〜41、45、52〜54、56、58)及び弁論の全趣旨によると、O!O i部分からは、「オーアイオーアイ」又は「オアイオアイ」の称呼が生じるものと 一応認められる。 別紙引用商標目録記載3及び別紙ハウスマーク目録記載のとおり、引用商標3は、 原告標章と外観上同一視し得る形状のものであるところ、前記1のとおり、原告標 章が原告らのロゴマークとして取引者、需要者の間に広く認識されているものであ ることからすると、引用商標3からは、「マルイ」の称呼が生ずるものと認めるの が相当である(この点は、当事者間に争いがない。)。そして、本件商標のO!O i部分と引用商標3とが、前記のとおり、外観上極めて相紛らわしいことを踏まえ ると、O!Oi部分についても「マルイ」の称呼が生じ得るというべきである。
(ウ) 観念
本件商標のO!Oi部分は、特定の意味合いを有しない一種の造語である。 別紙引用商標目録記載3及び別紙ハウスマーク目録記載のとおり、引用商標3は、 原告標章と外観上同一視し得る形状のものであるところ、前記1のとおり、原告標 章が原告らのロゴマークとして取引者、需要者の間に広く認識されているものであ ることからすると、引用商標3からは、「丸井又はマルイのロゴマーク」などの観 念が生ずるものと認めるのが相当である(この点は、当事者間に争いがない。)。 そうすると、本件商標のO!Oi部分が特定の意味合いを有しないとしても、同部 分は引用商標3と外観上極めて相紛らわしいから、同部分からは、引用商標3と同 様の観念が生じ得るものということができる。
(エ) 検討
以上のとおり、本件商標のO!Oi部分と引用商標3は、外観、称呼及び観念の 点で極めて相紛らわしいものであり、加えて、前記1のとおり、引用商標3と外観 上同一視し得る形状を有する原告標章が原告らのロゴマークとして取引者、需要者 の間に広く認識されていることなどを併せ考慮すると、本件商標のO!Oi部分と 引用商標3については、両者が同一の商品又は役務について使用された場合、その 商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるものと認めるのが相当で ある。したがって、本件商標のO!Oi部分と引用商標3は、取引の実情に基づき、 外観、称呼、観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し て全体的に考察すると、互いに類似するものと認められる。

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関連です。
こちらは商標「5252byO!Oi」と「OIOI」の類否です。こちらも商標類似と判断されました。

◆令和5(行ケ)10067

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令和4(ワ)16062  損害賠償請求事件  商標権  民事訴訟 令和6年1月17日  東京地方裁判所

医薬品について、旧字の商標の類似範囲が争われました。 本件登録商標「仙脩」、被告標章「仙修」「仙修六神丸」「御所 仙修」「御所仙修」です。
裁判所は、「御所仙修」は非類似、それ以外は類似すると判断しました。

(1) 被告標章1について
本件商標と被告標章1の外観についてみると、いずれも漢字二文字で一文 字目の字が「仙」の字で同一であり、二文字目の字も本件商標が「脩」、被 告標章1が「修」の字であり、右側下部のみが、本件商標が「月」と同じ形 状をしているのに対し、被告商標1が「彡」の形状をしており、異なってい るものの、それ以外の左側及び右側上部は同一形状をしており、似た形状を している。そうすると、本件商標と被告標章1の外観は類似しているといえ る。
本件商標と被告標章1の称呼についてみると、両者はいずれも「せんしゅ う」で同一である。 そして、観念についてみると、本件商標も被告標章1もいずれも「せんし ゅう」としては広辞苑(第7版)に掲載されていない。もっとも広辞苑(第 7版)によれば、「仙」の部分は「仙人」の意味とされる。「脩」は、前記 1(3)のとおり、本来の意味は干し肉を指すものであったが、現代では音が同 じ被告標章1の二文字目の「修」と同じ「おさめる」の意味をも有している とされ、「修」の簡体字ないし異字体として使用されることもあるものであ る。これらの事実に照らすと、本件商標も被告標章1も、いずれもそれ自体 で特定の観念を有するとはいえないが、それぞれを構成する漢字は、共通す\nるものと、共通する意味を有するものであり、それらの漢字から想起される 観念も類似していると評価することができる。
被告は、特に医薬品の需要者からは、「脩」の字は乾燥させた生薬や原料 を想起させる文字であり、医薬品として「虎脩六神丸」と「虎修六神丸」の 両商品名を販売している会社も存在していることなどを指摘する。しかし、 「脩」の字には「修」と同じ「おさめる」の意味も有しているとされる。ま た、原告は医薬品の小売業であり(前記第2の1(1)及び(4))、被告の卸売の 販売先が、被告各商品をインターネット上のサイトで販売していること(前 記第2の1(6))からすると、被告各商品の市場は全国に及び、かつその対象 も消費者に及ぶといえ、被告各商品の需要者には消費者も含まれ、また、医 薬品に精通する者のみが需要者であるとはいえないので、この点に関する被 告の主張は採用できない。 これらの事情を総合的にみれば、本件商標と被告標章1は類似している といえる。
(2) 被告標章2について
本件商標と被告標章2の外観についてみると、本件商標は漢字二文字であ るのに対し、被告標章2は漢字5文字であり、「仙」の字が同一であり、 「脩」と「修」の字が類似しているとしても、全体として外観が類似してい るとはいえない。また、本件商標と被告標章2の称呼についてみても、「せ んしゅう」と「せんしゅうろくしんがん」であり、一部共通するとしても、 全体として称呼が類似しているともいえない。 もっとも、被告標章2のうちの「六神丸」の部分は、前記1(1)のとおり、 古くから特定の漢方薬を指す用語であるとされ、広辞苑(第7版)において も「漢方薬の一つ」として説明されているものであり、その他想起される意 味はなく、実際にも、漢方薬として、多くの会社から六神丸という名称の商 品が販売されている。そうすると、需要者にとって、「六神丸」の部分は、 特定の内容の漢方薬を指すものといえる。 そうすると、被告標章2において、「六神丸」の部分は出所識別力を有さ ず、主に出所識別力を有するのは、「仙修」の部分であるといえる。そこで、 本件商標と被告標章2の「仙修」の部分を被告して商標の類否を検討すると、 本件商標と被告標章2の「仙修」の部分については、前記 のとおり、外観 が類似し、称呼が同一である。また、観念についても、本件商標の「仙修」 と被告標章2の「仙脩」のそれぞれの漢字から想起される観念は類似すると いえる。 これらの事情を総合的にみれば、本件商標と被告標章2は類似していると するのが相当である。
(3) 被告標章3について
本件商標と被告標章3の外観についてみると、本件商標は漢字二文字であ るのに対し、被告標章3は漢字4文字であり、「仙」の字が同一であり、 「脩」と「修」の字が類似しているとしても、全体として観察した場合は、 外観が類似しているとはいえない。 もっとも、被告標章3は、「御所」と「仙修」の間に空白があり、かつ 「御所」の文字は、四角形の枠で囲まれていて、そのような枠がない「仙修」 の部分と「御所」の部分は、外観上、明確に分離して観察することができる ものといえる。そして、本件商標と被告標章3の「仙修」部分の外観が類似 しているのは、前記アで述べたとおりである。 また、本件商標と被告標章3の称呼についてみても、「せんしゅう」と 「ごせせんしゅう」又は「ごしょせんしゅう」であり、全体の称呼は異なる ものの、分離して観察することができる「御所」部分を除いた「せんしゅう」 の部分は同一である。 本件商標と被告標章3の観念についてみると、「御所」は、前記1(2)のと おり、古くからの薬の生産地である奈良県の被告所在地の市を意味するもの であり、文献等において言及されることはあるが、本件証拠上、言及されて いる文献は奈良県に関する文献か医薬品に関する論文等の専門誌であり、 「御所」が、需要者に特に広く知られていて、需要者が当然に特定の市を想 起するとまでは認めるに足りない。そして、「御所」は、広辞苑(第7版) においても、「ごせ」と読ませる場合、「奈良県西部、大阪市に接する市」 と記載されている一方で、「ごしょ」と読ませる場合、「天皇の座所を意味 する」と記載されている。これらの事実からすると、「御所」は、「ごせ」 と読ませる場合は奈良県の市名として理解されるものの、需要者が必ずその ように理解するとまでは認めるに足りず、「ごしょ」と読む天皇の座所の意 味を想起する者もいるといえる。もっとも、被告標章3では、前記のとおり 「御所」と「仙修」は外観上明確に分離しているところ、本件商標の「仙修」 と被告標章2のうちの「仙脩」のそれぞれの漢字から想起される観念は類似 するといえる。
以上の事情をみると、被告標章3は、全体として不可分一体のものとはい えず、その構成上、被告標章3の「仙修」の部分も出所識別標識となるもの\nであり、この部分と本件商標との類否を判断することができるというべきで ある。そして、前記 に述べたのと同じ理由により、本件商標と「仙修」の 部分は類似しているといえるから、本件商標と被告標章3は類似していると いえる。
(4) 被告標章4について
本件商標と被告標章4の外観についてみると、本件商標は漢字二文字であ るのに対し、被告標章3は漢字4文字であり、「仙」の字が同一であり、 「脩」と「修」の字が類似しているとしても、全体として観察した場合は、 外観が類似しているとはいえない。そして、被告標章4は、被告標章3とは 異なり、「御所」と「仙修」の間に空白もなく、かつ「御所」の部分も四角 形の枠で囲まれるなどしていないから、外観上、「御所」の部分と「仙修」 とが分離して観察されることはない。
また、本件商標と被告標章4の称呼についてみても、「せんしゅう」と 「ごせせんしゅう」又は「ごしょせんしゅう」であり、一部重なる部分はあ るものの、全体として観察した場合、称呼は異なる。 そして、本件商標と被告標章4の観念についてみると、前記ウで述べたと おり、「御所」について、「ごせ」と読ませる場合は奈良県の市名として理 解されるものの、需要者が必ずそのように理解するとまでは認めるに足りず、 「ごしょ」と読む天皇の座所の意味を想起する者もいるといえるものであり、 「御所」の部分にも一定の観念が生ずるものといえる。 そして、被告標章4の「御所仙修」が外観上分離されない一連のものであ るところ、そのうちの「御所」の部分に出所識別標識としての機能がないと\nは直ちにはいえないし、「仙修」の部分が出所識別標識として強く支配的な 印象を与えるとはいえない。 これらの事情を総合的にみれば、本件商標と被告商標4は類似していると はいえない。

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令和5(ネ)10091  商標権侵害行為差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和6年3月6日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

雑誌「現代の理論」について、9類「電子出版物」の権利により、被告商品(印刷物(16類))に商標権侵害が認められました。判断は原審維持です。

当裁判所は、第1審原告の請求は、当審における請求の拡張を踏まえると、 第1審被告らに対し被告各標章を付した出版物の出版、販売等の差止め、第1 審被告NPOに対し被告出版物1(1)〜(5)の廃棄、第1審被告らに対し被告出 版物2(1)〜(26)の廃棄、第1審被告らに対し24万8570円及びこれに対す る被告出版物2(26)の発売日以降の遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由 があると判断する。その理由は、以下のとおりである。
1 争点1〜4に関する当裁判所の判断は、原判決の第3の1〜4(18頁〜) のとおりであるから、これを引用する。
すなわち、本件各商標及び被告各標章はそれぞれ類似しており(争点1)、 被告各標章を印刷物に付して使用する行為は、本件各商標権の指定商品又はこ れに類似する商品についての使用ということができる(争点2)。そして、本 件商標2の商標登録無効の抗弁(商標法4条1項19号違反等をいうもの、争 点3)及び第1審被告NPOの先使用の抗弁(争点4)は、「現代の理論」の 標章が第1審被告NPOの業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたとはいえない等の本件の事情の下では、いずれも\n理由がない。
2 争点5(権利濫用の抗弁)について
(1) 第1審被告らは、第1審原告が本件各商標を使用して雑誌を発行すること は一切なかったし、将来においてもその予定はないにもかかわらず、本件各商標権の行使をするのは、第1審被告らによる雑誌「現代の理論」の発行を\n妨害することを主たる目的としたものであることが明白であり、第1審原告 が第1審被告NPOの編集委員会に所属していたことがあり、第1審被告N POが創刊当時の精神を引き継いで設立されたことを認識していたことを併 せ考えれば、上記権利行使は権利の濫用に当たる旨主張する。
しかし、第1審被告らが被告各標章を印刷物に付して使用する行為は、少 なくとも、本件商標1の指定商品である第9類「電子印刷物」に類似する商 品についての使用ということができるから、第1審原告は、雑誌等「印刷物」 としての「現代の理論」の発行予定がないにしても,「電子印刷物」を指定商品とする商標権に基づき,第1審被告らの上記行為についての差止請求を\nなし得るものである。また、第1審原告において、競合関係となり得る被告 各出版物が販売されている状況において、本件各商標を使用した雑誌を現に 販売していないからといって、将来においても販売することがないとは直ち にいえない。
また、雑誌「現代の理論」の創刊当時の精神を誰が引き継いでいるか否か といった事項は、権利関係の帰属の問題と異なり客観的に判断することが困 難であり、本件においてこれを確定するに足りる証拠もない。第1審被告N POが明石書店に雑誌「現代の理論」の出版権を譲渡した後に発行していた 雑誌「FORUM OPINION」に「NPO現代の理論・社会フォーラ ム」という名称を付記していたとか、第1審被告NPOの名称に「現代の理 論」が含まれているといった点は、第1審被告NPO側の認識を示すものに すぎないし、購読者らからのメッセージ(乙13)は、雑誌「現代の理論」 を懐かしむ一定の者がいることを示すものとはいえても、第1審被告NPO が需要者から雑誌「現代の理論」創刊当初からの精神を引き継いでいると広 く認識されていることを意味するものではない。
(2) 第1審被告らは、第1審原告の権利行使を認めるとすれば、「現代の理論」 という雑誌名がなくなることになり、商標法1条の規定する「産業の発達」 や「需要者の利益」に反する旨主張する。しかし、商標法1条の定めるとこ ろは、一定の商標を使用した商品等が一定の出所から提供されるという取引 秩序を維持することによって、産業の発達に寄与し、需要者の利益を保護す ることにあるのであって、伝統ある名称を有する雑誌が存続するかどうかと いった事項は、これとは異なる問題である。 また、第1審被告らは、差止・廃棄請求を認めることは、経済的自由権で ある商標権によって、憲法上優越的地位を有する表現の自由を制約することになる旨主張するが、差止・廃棄請求を認めたからといって、被告各標章を\n用いない意見表明や出版の機会が制約されるわけではない。\n

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◆令和4(ワ)19876

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令和3(ワ)16043  損害賠償請求事件  商標権 令和6年1月26日  東京地方裁判所

商標「年賀マスク」(指定商標「衛生マスク」)の侵害として、約100万円の損害賠償が認められました。損害額の計算は、38条2項では95%の推定覆滅が認められたものの、その分については3項の適用として5%のライセンス料が認められました。

6 争点4(損害の発生及び数額)について
(1) 前記2のとおり、本件商標と被告標章は類似するから、被告による被告商 品の販売行為は、本件商標権の侵害行為を侵害したものとみなされる(商標 法37条1号)。
(2) 商標権者に、侵害者による商標権侵害行為がなかったならば利益が得られ たであろうという事情が存在する場合には、商標権者がその侵害行為により 損害を受けたものとして、商標法38条2項の適用が認められると解される。 原告は、前記第2の1(4)のとおり、原告の商品を販売するウェブサイトに おいて、本件商標を商品名の一部として付した原告商品を法人向けに販売し ていた。これに対し、被告は、同(3)のとおり、販売サイトや小売店の店頭に おいて、被告商品を販売していた。もっとも、原告商品も被告商品も新年の 挨拶における贈答品として用いられる衛生マスクであり、一般的な衛生マス クとは販売のコンセプトが異なることをも踏まえると、原告商品の顧客とな るべき法人において、被告商品を被告の販売サイトや小売店の店頭から商品 を購入するものがいなかったとはいえない。そうすると、被告の侵害行為に より原告商品の売上げが減少したものと評価でき、原告に、被告による商標 権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する。 したがって、商標法38条2項の適用がある。
(3)ア 商標法38条2項により侵害者が受けた利益の額が原告の損害と推定さ れる。もっとも、同規定は推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が 得た利益の一部又は全部について、商標権者が受けた損害との相当因果関 係が欠けることを主張立証した場合には、その限度で上記推定は覆滅され る。
イ 被告は、令和2年8月から令和3年1月までの間に、被告標章が付され た包装箱に入れた衛生マスク4種類を販売していた。被告商品について、 前記第2の1のとおり、その売上額は合計1596万1281円であり、 そのための経費は1215万0844円であったから、限界利益は381 万0437円である。
ウ 被告は、本件において、推定覆滅の事由に該当する事実がある旨主張す る。 被告は、原告商品は業者等の法人のみが購入でき、原告商品の想定 される利用方法は、原告商品を購入した法人の従業員や取引先への年始 の贈り物であるのに対し、被告商品は一般消費者が他の衛生マスクと比 較しながら購入するものであり、衛生マスクという物品の性質上最終的 に使用するのが個人であるとしても、当該個人が取得するまでのルート は両者において全く異なると主張する。
この点に関係し、原告は、原告の販売先が法人であるとした上で、当 該法人は、当該法人の従業員や取引先への年始の贈り物とするノベルテ ィ商品としてこれを使用するほか、個人に対して販売する旨主張する。 しかし、原告の販売先である法人が、個人に対して販売した数量等につ いては何ら主張立証されておらず、当該法人が個人に対して販売してい たことを認めるに足りない。したがって、原告商品は、法人によって、 当該法人の従業員や取引先への新年の挨拶における贈答品とするという 目的で購入されたと認められる。 被告商品は被告の販売サイトや小売店の店頭において販売されていて、 法人だけでなく、一般消費者も自由に購入できた。そうすると、原告商 品の顧客となるべき法人に、被告商品を被告の販売サイトや小売店の店 頭から商品を購入するものがいなかったとはいえないものの(前記 )、 原告商品は上記のとおり法人がそのノベルティ商品として購入するもの であるのに対し、被告商品は、基本的には、一般の消費者が購入すると いえ、その市場は異なる部分が非常に大きく、この事情は、前記推定を 覆滅させる事情であると認める。被告は、本件商標の顧客吸引力は皆無に等しく、被告商品が売れたのは、被告商品名や被告商品の品質に関わる表示によるものである旨主\n張する。
しかし、被告商品名を付した商品が一定数販売され、また、報道機関 などで取り上げられたことがあったとしても、極めて多種の製品が大量 に販売されている衛生マスクの需要者において、被告商品名が広く知ら れていたとは認められないし、また、衛生マスクにおいては品質に関す る表示がされることも多いところ、被告商品の品質に関する表\示が特に 顧客吸引力を有するものであることを認めるに足りない。他方、被告標 章は、被告商品の包装箱の正面の右上部分及び上面の2か所に目立つよ うに記載されていて、包装箱の上面においてはその中央部分に記載され ているのであり、その顧客吸引力がないとはいえない。 本件については、前記 の事情により推定が大きく覆滅すると認めら れるという事情があるところ、それに加えて被告が主張する上記推定覆 滅についての事情があるとは認められない。 以上のとおり、原告商品と被告商品は、市場が非常に大きく異なっ た。原告商品の市場は被告商品の市場に比べて小さく、被告商品の市場 のうち、ごく一部が原告商品の市場と重なっていたといえる。このよう な事情によれば、被告商品を購入した者のうち、被告商品に被告標章が 付されていることによって原告商品に代えて被告商品を購入したといえ る者の割合はかなり低いと認められ、被告が主張する事由のうち、上記 の理由により、原告は被告商品の販売数量のうちの相当多くのものにつ いて販売することができたとはいえない事情があり、商標権者が受けた 損害との相当因果関係が欠けると認める。上記の理由により、原告は被 告商品の販売数量の95%について販売することはできたとはいえず、 被告が得られた限界利益のうち、原告の損害との相当因果関係のあるも のは、5%であったと認めるのが相当である。
エ そうすると、商標法38条2項による原告の損害は次のとおり、19万 0521円である(小数点以下切り捨て)と認められる。
(計算式)381万0437円×0.05=19万0521円(小数点以下 切り捨て)
(4) 商標法38条2項による推定が覆滅される場合であっても、当該推定覆滅 部分について、商標権者が使用許諾をすることができたと認められるときは、 同条3項の適用が認められると解される。 前記(3)によれば、本件の事情の下においては、原告が販売することができ ない事情があるとされた数量に相当する被告商品については、原告が使用許 諾をすることができたと認められる。 そして、商標法38条3項の使用の対価を算定するにあたっては、当該商 標権の侵害があったことを前提として当該商標権を侵害した者との間で合意 をするとしたらならば、当該商標権者が得ることとなるその対価を考慮する ことができる(同条4項)。第10類の商標の使用料率の平均値は売上高の 3%とされるが、その最大値は5.5%とされ(乙61)、この使用料率の 平均値には、非侵害者との間の合意による使用料率も含まれており、侵害し た者との間で合意をする場合平均値より高い使用料率になり得ることを踏ま えると、原告の使用機会の喪失による得べかりし利益は、対象となる商品の 売上高の5%は下回らないものと認める。そうすると、商標法38条2項による推定が覆滅される部分についての商標法38条3項の損害は、以下のとおり、75万8160円となる。
(計算式)1596万1281円×0.95×0.05=75万8160円(小数点未満切り捨て)
(5) そうすると、原告の損害額は94万8681円となる。

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令和5(ネ)10070  損害賠償等請求控訴、同附帯控訴事件  商標権  民事訴訟 令和5年12月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

商標権侵害事件です。原審は約1400万円の損害賠償を認めました。知財高裁も同様です。論点は、スイスの国旗に似ている商標として無効理由ありかどうかです。

控訴人は、本件商標はスイスの国旗に類似しており、商標法4条1項1号 違反の無効理由があると主張する。
しかし、本件商標の形状は原判決「事実及び理由」第4の1(2)のとおりで あり、やや丸みを帯びた縁(辺)を有する略四角形(略正方形)と、これに 囲まれた略相似形であるやや丸みを帯びた縁(辺)を有する略四角形と、そ の内部(中央)に位置する幅広の十字からなり、前者の略四角形の縁と後者\nの略四角形の縁とがなす部分(外縁部分)と、上記十字部分は、いずれも白\n色であり、後者の略四角形の内部は、上記十字部分を除き黒色であり、上記\n十字の幅は外縁部分の3倍程度である。
これに対し、スイスの国旗は、原判決「事実及び理由」第4の2のとおり、 正方形と、その内部(中央)に位置する幅広で白色の十字からなり、正方形\nの内部は、白色である上記十字部分を除いて赤色である。\nしたがって、スイスの国旗は、正方形であって白色の外縁部分がなく、内 部の十字部分を除いた部分が赤色である点において、本件商標と相違してお\nり、本件商標とスイスの国旗は、控訴人が指摘する共通点を考慮しても、中 心的かつ全体的構成を占める図形の形状及び色彩において明らかに相違する。\n被控訴人が、本件商標と同様の形状であるが、地色が赤色で十字部分が白\n色の標章を使用したことがあるとしても、そのことをもって、地色が赤色で 十字部分が白色のものも本件商標に含まれることにはならず、本件商標とス\nイスの国旗がその色において共通するとはいえない。

◆判決本文
原審はこちら。

◆令和3(ワ)13895

当事者が同じ関連訴訟です。

◆令和2(ネ)10060

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令和2(ワ)7918  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和5年12月14日  大阪地方裁判所

被告は、ロゴ化された商標「Robot Shop」を用いてオンライン販売をしていました。商標「Robot Shop」(標準文字)の商標権者が、侵害訴訟を提起しました。裁判所は、差止と約1500万円の損害賠償を認めました。争点は、被告の行為は役務「ロボットの提示」か、26条該当性、禁反言などです。判決文の最後に被告標章、原告商標などが掲載されています。

証拠(乙1〜3)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件商標の出願に当 たり、「第7類 工業用ロボット、娯楽用ロボット、研究用ロボット、その他ロボッ ト」、「第28類 ロボットおもちゃ並びにその部品」等、「第35類 工業用ロ ボットの小売」等を指定商品及び指定役務としていたが、特許庁から、本件商標は、 「ロボットの小売店」程の意味合いを容易に認識させるものであるところ、ロボッ トの販売及び修理等を取り扱う業界において、「Robot Shop」及び「ロ ボットショップ」の文字が、ロボットを取扱商品とする小売店であることを示す語 として一般的に使用されている実情があることから、本件商標を第35類の工業用 ロボットの小売等の指定役務に使用することは、商標法3条1項3号に該当するこ と等を理由とする拒絶理由通知書の送付を受け、前記商品及び役務を指定商品等か ら除外して、本件商標の登録を受けたことが認められる。
被告は、被告各サイトにおいて、被告販売商品を販売しているところ、このよう な本件商標の出願経過に照らすと、原告が、被告販売商品のうちロボットと同一又 は類似するものに対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則(民法 1条2項)により許されないと解するのが相当である。
(2) ロボットの字義は、「複雑精巧な装置によって人間のように動く自動人形。 一般に、目的とする操作・作業を自動的に行うことのできる機械又は装置」(広辞 苑第七版)であるほか、証拠(甲24、25、乙31)及び弁論の全趣旨によれば、 日本産業規格(JIS規格)は、ロボットについて、二つ以上の軸についてプログ ラムによって動作し、ある程度の自律性をもち、環境内で動作をして所期の作業を 実行する運動機構と定義し、産業用ロボットについて、産業オートメーション用途\nに用いるため、位置が固定又は移動し、3軸以上がプログラム可能で、自動制御さ\nれ、再プログラム可能な多用途マニピュレータ(互いに連結され相対的に回転又は\n直進運動する一連の部材で構成され、対象物をつかみ、動かすことを目的とした機\n械)と定義していることが認められる。これらの字義等に照らすと、所定の目的の ために自律性をもって動作等をする機械又は装置は、少なくともロボットに類似す るものであるといえる。
別紙「被告商品の指定商品該当性」の「被告サイトにおける説明」欄によれば、 非類似商品を除く被告商品のうち、「被告商品」欄の「2.無人機・ドローン」の 「(1)無人機・ドローンキット/ARF/RTF」、「(2)完成品(RTF)/半完 成品(ARF)」、「(3)無人機・ドローン 完成品(RTF)」、「(4)小型/超小 型無人機」、「(6)Vテール」、「(7)クワッドコプター」、「(8)ヘキサコプター/ オクタコプター」及び「(9)飛行機」(以下、これらを「ロボット類似品」と総称す る。)は、所定の目的のために自律飛行が可能なものが含まれるものと認められ、\n少なくともロボットに類似するものといえる。一方、ロボット類似品を除くその余の被告商品は、いずれもロボット製作に使用する部品や汎用的な部品、製作機器等であって、ロボットに類似するとはいえない。
(3) 以上から、原告が、ロボット類似品に対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則により許されない。

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令和4(ワ)4903    商標権  民事訴訟 令和5年11月30日  大阪地方裁判所

商標「久宝殿」について、先使用権は認められず、差止請求が認められました。

2 被告標章につき被告に先使用権が認められるか(争点1)について
(1) 被告は、葬儀会社の需要者は、主として葬儀会館の周辺地域に居住する者 であるとした上で、一般に、葬儀会社の商圏は、葬儀会館を中心として半径2km 程度といわれているから、当該地域を周知性が求められる地理的範囲として、被告 標章に係る先使用権の有無を判断すべきである旨主張する。
(2) この点、葬儀はその施行の必要が予測不可能\である一方で、一旦不幸があ れば直ちにその施行が求められるという性質を有することを踏まえて、主として葬 儀会館の周辺地域に居住する者が需要者として想定されるということについては、 一定の合理性が認められる。
しかしながら、ある標章につき先使用権が認められた場合、未登録でありながら、 登録商標が有する禁止権の効力を排除して当該標章の使用が許されることになり、 商標権の効力に対する重大な制約をもたらすことになる。かかる重大な制約に鑑み ると、法32条1項前段にいう「需要者の間に広く認識されている」の地理的範囲 につき、法4条1項10号におけるものよりも緩やかに解する余地があるとしても、 独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するウェブサイトにおける「業種別開業\nガイド」の「葬祭業」のページにおいて「斎場事業は、商圏範囲が2キロメートル、 人口3万人に1会館を1つの目安とする。」と記載されていること(乙25)をも って、葬儀会社の商圏が半径2km程度であるとして、被告標章につき本件会館を 中心として半径2km程度の範囲で周知されていれば足りると判断することは相当 ではない。 前記認定の事実によれば、本件会館における平成28年から令和2年までの葬儀 の全施行件数(567件)のうち、葬儀申込者の居住地が半径2km圏内に存在す\nる件数が約82%(464件)を占めている(認定事実(2)イ)が、上記圏外の件 数が2割弱も存在すること、みと大協が近隣地区のみならず大阪地域ないし東大阪 ・八尾の相当程度広い地域を対象とした宣伝広告活動も行っていたこと(認定事実 (5))を考慮すると、みと大協が被告標章と同一の「久宝殿」との標章をその業務 (葬儀業)に使用していた地理的範囲は、おおむね東大阪市及び八尾市の全域(本 件会館から最大で約10km圏内に相当する。乙169)と考えられるから、先使 用権が認められるための要件としての周知性についてはその範囲において検討され るべきである。
(3) そして、認定事実(2)ア及び(3)によれば、平成28年から令和2年までの みと大協の葬儀の施行実績(年順に、127件、102件、137件、124件、 77件〔令和2年8月頃まで〕)は、東大阪市及び八尾市における死亡者数の8割 (年順に、6258人〔1人未満切捨て。以下同じ。〕、6211人、6452人、 6522人、4481人〔令和2年8月までとして、年全体の3分の2〕)を基準 とした場合、そのうち約2%にすぎない上、認定事実(4)のとおり、本件会館の半 径2km圏内における他社の葬儀会館の数は、東大阪市内に4件、八尾市内に5件 であって、これらの葬儀会館における本件会館のシェアは明らかではないところ、 上記の範囲が半径3km圏内に拡大するだけでも、他社の葬儀会館の数は東大阪市 内に12件程度、八尾市内に14件程度に増加し、これらの葬儀会館における本件 会館のシェアはより縮小することになる。しかも、認定事実(1)イのとおり、みと 大協は、平成28年頃から経営状況が悪化し、福田商事に支払う本件会館の使用料 も以前より大きく減少していることから、令和2年当時の本件会館のシェアはさら に縮小していた可能性がある。\n以上のことからすると、仮に、東大阪市及び八尾市全域という地理的範囲におけ る先使用権の成立が許容され得ることを前提として、本件会館が、平成12年から 「メモリアルホール久宝殿」との名称で約20年にわたり葬儀会館として使用され てきたこと、「久宝殿」との標章(被告標章)が一定程度の識別力を有すること (前提事実(4)ア参照)を考慮しても、被告標章は、本件商標の登録出願(令和2 年9月17日出願)の際、当該範囲において、現に需要者の間に広く認識されてい たとは認められない。
(4) したがって、被告が、みと大協から「当該業務を承継した者」(法32条 1項後段)に当たるか否かを検討するまでもなく、被告標章につき被告に先使用権 が認められるとの被告の主張(抗弁)は理由がない。

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令和4(ワ)9818  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和5年12月19日  大阪地方裁判所

商標「熱中対策応急キ ット」(標準文字)についての侵害訴訟です。被告は識別力無しの無効理由(商3条1項3号)、効力が及ばない範囲(商26条)を主張しました。裁判所は、識別力無しとして無効と判断しました。

2 本件商標の法3条1項3号に基づく無効理由の有無(争点1)について
(1) 本件商標が、その指定商品について商品の用途を普通に用いられる方法で 表示する標章のみからなる商標であるというためには、本件査定日(令和4年2月28日)の時点において、当該商標が当該商品との関係で商品の用途を表\示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に、将来を含め、商品の用途を表\示したものと一般に認識されるものであれば足りると解される。そして、当該商標の取引者、需要者に よって当該商品に使用された場合に商品の用途を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構\成やその指定商品に関する取引の実情を考慮して判断すべきである。
(2)ア 本件商標は、「熱中対策応急キット」の文字を標準文字で表してなり、本件商標を構\成する文字は、同じ大きさ及び書体で、等間隔かつ横一列にまとまりのある態様で並べられている。そうすると、本件商標は、取引者及び需要者に、こ れを構成する文字の全体をもって、一連一体の語を表\すものとして理解されると考 えられる。
イ 本件商標中の「熱中」、「対策」、「応急」及び「キット」の4つの語は、 それぞれ、「物事に心を集中すること。夢中になってすること。また、熱烈に思う こと。」、「相手の態度や事件の状況に応じてとる方策。」、「急場のまにあわ せ。」、「組立て模型などの部品一式。工具・用具一式。」といった意味を一般に 有するところ(いずれも広辞苑第七版、平成30年1月発行)、これらの語を字義 どおりに捉えると、「熱中対策応急キット」の語全体から、熱中症の対策又は応急 処置に用いる物品ないしそれらをバッグに入れて一まとめにしたものといった意味 合いが直ちに導かれるものではない。 もっとも、「熱中」との語は、「熱中症」との3文字の語のうち、「症状」を示 すものと解される「症」の文字を除く2文字と一致しており、「熱中症」との語の 一部を示すものとみても不自然とはいえない。
ウ 取引の実情をみると、前記認定事実のとおり、「熱中対策応急キット」との 標章が付された商品(本件商標に係る商品の区分ごとに本件指定商品と同一又は類 似の商品を含んでいるもの)は、平成24年頃から本件査定日(令和4年2月28 日)までに、ミドリ安全を中心とする多数の法人(被告を含む。)において、熱中 症に応急的に対応するための物品一式として広告販売されている状況が認められる。 一方、前記イの「熱中」の語の意味(物事に心を集中すること。夢中になってする こと。また、熱烈に思うこと。)を踏まえて、これに対応するといった用途に用い られる商品が、「熱中対策応急キット」ないし「熱中対策」との標章を付して広告 販売されている事実を認めるに足りる証拠はない。なお、原告も、平成31年(令 和元年)から、熱中症に対応するための物品一式が収納されたポーチに「熱中対策 キット」との標章を付して広告販売している上、令和5年には、熱中症に応急的に 対応するための物品一式がポーチに収納された「熱中対策応急キット」との名称の 商品の広告販売を開始している(前記認定事実(7))。
エ 以上を総合すると、「熱中対策」の語は、本件査定日の時点で、「熱中症対 策」との意味でも一般的に理解され、「熱中対策応急キット」の語は、熱中症の対 策又は応急処置に用いる物品一式ないしそのような物品を含む商品との意味を有す ることが一般に認識されていたことが認められる。そして、本件指定商品は、熱中 症の対策又は応急処置に用いる物品ないしそれらを収納するポーチ等(それらの全 部又は一部を組み合わせたものを含む。)の商品に含まれると認められるところ、 標準文字で表される「熱中対策応急キット」との本件商標がかかる商品に使用された場合、当該商品の取引者又は需要者によって、当該商品の用途を示すものとして\n一般に認識される状態となっていたといえる。そうすると、「熱中対策応急キット」 との本件商標は、指定商品に使用された場合、商品の用途を普通に用いられる方法 で表示する標章のみからなる商標として、法3条1項3号に該当するものと解するのが相当である。\n
(3) したがって、本件商標は、法3条1項3号に違反して登録されたものであ り、無効審判により無効とされるべきものであるから、原告は、被告に対し、本件 商標権を行使することができない(法46条1項1号、39条、特許法104条の 3第1項)。

◆判決本文

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