2022.11. 4
平成30(ワ)17968 著作権 民事訴訟 令和4年8月30日 東京地方裁判所
在宅医療用プログラムの著作物性について争われました。東京地裁は被告プログラムのうち表現が似ている部分については、いずれも創作性無しと判断しました。\n
以上のように、PMポータルを基盤としPMポータルのWebフレーム
ワークを用いて作成されたことに起因して、(ア)部分の多くはPMポータル
のWebフレームワークを構成するプログラムファイルから構\成されてお
り、(ウ)部分は、PMポータルのWebアプリケーション部を参照して作成
され、データの処理や画面の表示などの中核的な機能\は(ア)部分を参照して
実行するため、その内容は、自由度が制約され、基本的な命令文を列挙し
て、変数にデータを代入する処理や画面を表示するためのHTML文書が\n記述された部分が多くを占めていること(前記第2の1(5)イ、前記イ)、
作成、表示される医事文書の基本的な様式も通知により定められるなどし\nていることから、各プログラムにおいて変数に値を設定する処理や画面を
表示するためのHTML文書を記述するに当たっても個性を発揮する余地\nが乏しい。これらの(ア)及び(ウ)部分の特性から、電子カルテシステムに適用
するために、PMポータルを修正し新たに作成した部分があるからといっ
て、そのことが直ちに本件31個の各プログラムの表現上の創作性につな\nがるとはいえない(前記ウ )。そして、原告は、本件各31個の各プロ
グラムがそれぞれ著作物であり、それらに創作性があると主張するところ、
原告が本件31個の各プログラムの創作的表現であると主張する具体的な\n各点について、本件31個の各プログラムを含む(ア)及び(ウ)部分が上記のと
おりの特性を有する部分でありそこにおけるプログラムもその特性の下に
あるものであることにも関係し、原告が創作性があるとして主張する具体
的な記述等はいずれもありふれたといえるものなどであって、それらに独
自に著作物といえる程度の表現上の創作性を認めるに足りない(前記ウ\n〜 )。
以上のとおり、本件31個の各プログラムにPMポータルを離れた独自
の創作性があるとは認めるに足りない。
・・・・
原告プログラム4と被告プログラムにおいて共通する本件共通箇所は、原告
プログラム4においては、(オ)部分に用いられているORCAから受信したXM
Lデータを解析する部分の一部である。
本件共通箇所のうち、オープンソースである「XML_Unserializer.php」を
用いた部分は、その仕様に基づくインスタンスを記述したものであり(前記1
(2)ウ )、その記述例もインターネットウェブサイトにおいて公開されている
ものであって(乙56)、ありふれた表現であって、創作性が認められない。\nまた、本件共通箇所のその余の部分は、異なる施設間で診療情報を電子的に
交換するために制作された規約であるMML及びCLAIMにおいて定義され
たタグ(用語)(前記1(2)ウ )を、「XML_Unserializer.php」の仕様に従
って記述した(乙62)ありふれた表現であって、創作性が認められない。\n以上によれば、本件共通箇所に創作性があると認めるに足りない。
◆判決本文
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2022.10.25
令和4(ネ)10011 商号使用差止等請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和4年9月27日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
会社名を示すロゴについて著作物性無しと判断されました。原審の最後に問題の標章があります。
著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学\n術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)。そ
して、商品又は営業の出所を表示するものとして文字から構\成される標章
は、商品又は営業の出所を示すという実用的な目的で作出され、使用され
るものであり、その保護は、商標法又は不正競争防止法により図られるべ
きものである。文字からなる商標の中には、外観や見栄えの良さに配慮し
て、文字の形や配列に工夫をしたものもあるが、それらは、文字として認
識され、かつ出所を表示するものとして、見る者にどのように訴えかける\nか、すなわち標章としての機能を発揮させるためにどのように構\成するこ
とが適切かという実用目的のためにそのような工夫がされているもので
あるから、通常は、美的鑑賞の対象となるような思想又は感情の創作性が
発揮されているものとは認められない。商品又は営業の出所を表示するも\nのとして文字から構成される標章が著作物に該当する場合があり得ると\nしても、それは、商標法などの標識法で保護されるべき自他商品・役務識
別機能を超えた顕著な特徴を有するといった独創性を備え、かつそれ自体\nが、識別機能という実用性の面を離れて客観的、外形的に純粋美術と同視\nし得る程度の美的鑑賞の対象となり得る創作性を備えなければならない
というべきである。
・・・
商標法などの標識法で保護されるべき自他商品・役務識別機能を超えた\n顕著な特徴を有するといった独創性を備え、かつそれ自体が、識別機能と\nいう実用性の面を離れて客観的、外形的に純粋美術と同視し得る程度の美
的鑑賞の対象となり得る創作性を備えるものとは認められないから、著作
権法により保護されるべき著作物に該当するとは認められない。
ア 控訴人は、Bは、控訴人標章に、単なるロゴタイプ・デザインを超えた
美の表現・印象を強く感じ、ウェブでの被控訴人商品の販売に利用したい\nと考えて控訴人標章を模倣したものであり、このことからしても、控訴人
標章には個性があり著作物性があると主張する(前記第3の2(1)〔控訴人
の主張〕ア)。
しかし、Bは、被控訴人商品に関する事業を実施するに当たり、同事業
に対するBの様々な意図や願望を込め、禅宗の僧侶等にも相談するなどし
て「アノワ」という語を含む被控訴人商号を考案して商号変更し、さらに
そのローマ字表記である「ANOWA」を含む被控訴人商品の名称(「AN\nOWA41」)を考案したものと認められ(乙11)、控訴人標章を被控訴
人商品に使用するために、被控訴人の商号を、控訴人標章の「ANOWA」
の読みである「アノワ」とし、ドメイン名を「ANOWA」を含む「AN
OWA41」としたものであることを認めるに足りる証拠はない。
したがって、Bが控訴人標章を模倣したと認めることはできず、控訴人
の上記主張は、その前提を欠き、採用することはできない。
イ 控訴人は、不正競争防止法によればTシャツの柄は保護の対象となるか
ら、デザインも保護すべきであり、著作権法によってもデザインを保護す
べきであると主張する(前記第3の2(1)〔控訴人の主張〕イ)。
しかし、Tシャツの柄が不正競争防止法による保護の対象となる場合が
あるとしても、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するもの\nであるから、著作権法によって当然にデザインの全てが保護されるべきで
あるとはいえないし、標章は、Tシャツのデザインと性質を異にするもの
であるから、控訴人の上記主張に基づいて、控訴人標章が著作権法により
保護されるということはできない。
ウ 控訴人は、控訴人標章は、文字を用いるものであるが、控訴人のロゴタ
イプとしての利用を目的としてデザインされたものであり、控訴人の商号
と一致するアルファベットを強調していること、文字は誰でも使用できる
ものであるから文字を強調するロゴタイプ・デザインは全て著作物とはな
りえないとする合理的理由はないことを主張する(前記第3の2(1)〔控訴
人の主張〕ウ)。
しかし、控訴人標章は、標章としての機能を発揮させるためにどのよう\nに構成することが適切かという実用目的のために工夫がされているもの\nであり、美的鑑賞の対象となるような思想又は感情の創作性が発揮されて
いるものとは認められないから、美術その他の範囲に属する著作物には該
当しないものというべきであり、控訴人の上記主張を採用することはでき
ない。
エ 控訴人は、控訴人標章はポスターと等価値であり、著作権法制定当時、
ポスターは著作物又は著作物の複製として扱われるというのが著作権法
の解釈であったから、控訴人標章も著作権法上保護されるべきであると主
張する(前記第3の2(1)〔控訴人の主張〕エ)。
しかし、控訴人標章は、商品又は営業の出所を表示する標章であり、商\n標法や不正競争防止法の保護の対象となる余地があり得るとしても、ポス
ターと等価値であるとはいえないから、控訴人の上記主張は、採用するこ
とができない。
オ 控訴人は、控訴人標章が一品制作の図又は絵であるとしたら創作性のあ
ることは議論の余地がなく、漫画の特徴的な表現を含む一こまを模倣して\nも著作権侵害となるのに、ロゴタイプ・デザイン(量産品の原画)である
が故に著作権法の保護の対象とならない、あるいは高度の創作性がなけれ
ば著作権法の保護の対象とならないというのは、著作権法上の著作物の定
義に反すると主張する(前記第3の2(1)〔控訴人の主張〕オ)。
しかし、控訴人標章は、商品又は営業の出所を表示する標章であり、商\n標法や不正競争防止法の保護の対象となる余地があり得るとしても、一品
制作の図又は絵や漫画とは性質を異にするから、控訴人の上記主張は、採
用することができない。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆令和2(ワ)19840
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2022.10.20
令和3(ワ)30051 損害賠償請求事件 その他 民事訴訟 令和4年9月28日 東京地方裁判所
放送局における番組中のナレーションが原告ブログに依拠しているかについて、著作物性を立証していないとして、著作者人格権による損害賠償請求が棄却されました。興味深いのは、被告が、既存の文章をほぼ転載したものであることを謝罪する旨の文章をウェブサイトにて掲載している点です。
原告は、被告によって、原告文章を無断転載して制作した本件番組が放送
されたことにより、原告の名誉が毀損される可能性が生じて、原告の平穏な\n日常を阻害され、原告が、これに対応するために金銭的及び時間的な負担を
負い、精神的苦痛を被り、人格権が侵害されたとして、不法行為に基づく損
害賠償を請求するものと理解することができる。そこで、この理解を前提に、
被告による本件番組の放送が原告の「権利又は法律上保護される利益を侵害
した」(民法709条)といえるか否かについて検討する。
前記前提事実(2)及び(3)のとおり、被告が原告文章に依拠して本件ナレー
ション等を作成した結果、本件ナレーション等は、原告文章と類似しており、
原告文章中の「以下省略」といった比較的特徴のある表現についてもほぼ同\nじ内容となっている。そして、被告が、本件番組において本件ナレーション
等を流すことについて、原告から事前の了解を得ていたことや、本件番組を
放送するに当たり、原告文章が掲載されている原告ウェブサイトを参照した
旨を表示したことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告の上記行\n為は、公共の放送事業者として不適切なものであったといわざるを得ない。
また、原告が主張するように、原告ウェブサイト中の文章は、分かりやす
く面白いものとなるように配慮され、独自性を有していると評価し得ること
や、被告が放送法で定められた公共の放送事業者であることからすると、本
件番組を視聴した者が、原告文章を見たとき、被告が無断転載をするはずが
ないと考えて、むしろ原告ウェブサイトの方が無断転載をしていると疑う可
能性を否定することはできない。しかし、前記前提事実(4)のとおり、被告は、本件番組が放送された4日後には、本件番組に係るウェブサイトにおいて、本件ナレーション等が既存の文章をほぼ転載したものであることを謝罪する旨の文章を掲載しており、こ
れは、上記のような誤解が生じることを防止し得る措置であるといえる。そ
して、本件全証拠によっても、実際に、上記のような誤解が広まったとは認
められない。しかも、名誉毀損が成立するためには、人の社会的評価を低下
させる事実を摘示することが必要であるところ、将棋の対局マナーについて
述べた本件ナレーション等において、原告の社会的評価を低下させる事実が
摘示されたとは認められない。そうすると、原告の主張する名誉毀損の可能\n性については、いまだ抽象的なものにとどまるものといわざるを得ない。
また、原告の主張に係る平穏に日常生活を送る利益について、上記のとお
り、原告の懸念する誤解が実際に広まったとは認められず、原告の名誉が毀
損される可能性も抽象的なものに留まることに照らせば、被告に対する損害\n賠償請求を可能とする程度に、原告の平穏な日常生活が害されたということ\nはできず、不法行為の成立要件である「権利又は法律上保護される利益」の
「侵害」を認めることはできないというべきである。
なお、被告が原告文章と類似する本件ナレーション等を含む本件番組を放
送したことが原告の権利を侵害するかは、本来、原告文章に著作物性が認め
られ、原告文章に係る原告の著作権又は著作者人格権が侵害されたと認めら
れるかという観点から検討すべきであるということができる。しかし、原告
は、本件訴訟において、著作権及び著作者人格権が侵害されたことを主張し
ないとしていることから、その要件についての具体的な主張立証がされてい
ないため、著作権侵害及び著作者人格権侵害の事実を認めることはできない。
(2) 以上によれば、本件番組の放送により、原告の人格権が侵害されたとは認
められず、また、原告文章に係る原告のそのほかの権利が侵害されたと認め
◆判決本文
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2022.10.13
令和2(ワ)3931 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 令和4年10月6日 東京地方裁判所
鉄道会社が、新聞記事をスキャンして、社内イントラネットにて閲覧できるようにしていた行為について、複製権侵害・公衆送信権侵害が認められ、約200万円の損害賠償が認められました。被告は、新聞記事は事実の報道なので、著作物無しとも主張しましたが、読みやすく表現しているので創作性ありと認定しました。また、記録が残っていないH30年以前の配信についても、推定認定されています。
ア 平成30年度掲載記事のうちの一部の記事について、被告は、その著作物
性を争っている。
しかしながら、平成30年度掲載記事は、事故に関する記事や、新しい機
器やシステムの導入、物品販売、施策の紹介、イベントや企画の紹介、事業
等に関する計画、駅の名称、列車接近メロディー、制服の変更等の出来事に
関する記事である。そのうち、事故に関する記事については、相当量の情報
について、読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されるなど
されており、表現上の工夫がされている。また、それ以外の記事については、いずれも、当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テー\nマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせたり、関
係者のインタビューや供述等を、適宜、取捨選択したり要約するなどの表現上の工夫をして記事を作成している。したがって、平成30年度掲載記事は、\nいずれも創作的な表現であり、著作物であると認められる。
・・・
以上の事実に、平成30年度について被告が本件イントラネットに掲載し
た原告が著作権を有する記事の数が前記 のとおりであることなどの状況
等を考慮すると、平成30年度掲載記事の選別を行ったC証人が選別した平
成28年度及び平成29年度については、被告による著作権侵害が認められ
る記事の総数(自社及び沿線記事に分類した記事及びそれに分類していない
記事の合計)は、これら両年度の枠付き記事(自社及び沿線記事に分類した
記事の一部)の合計である52本の3倍に当たる156本を下らないもので
あると認定するのが相当である。
・・・
原告は、本件個別規定に基づく損害額を主張するところ、上記によれば、原
告においては、少なくも平成20年以降は、本件個別規定を適用して原告が発
行する新聞の記事について利用許諾を検討する体制を整えており、これらの規
定を複数年にわたり、少なくとも1000件程度適用し、これに基づく使用料
を徴収してきた実績があることが認められる。また、本件個別規定には、社内
LAN(イントラネット)での利用を想定した文言がある。他方、本件で問題
になっているイントラネットでの掲載に関して本件個別規定に基づき支払われ
た利用料の額等の実績については不明であり、また、本件個別規定には件数が
多い場合の割引に関する規定もあり、件数が相当に多い場合、どの程度本件個
別規定の本文で定める額が現実に適用されていたかが必ずしも明らかではない。
さらに、本件イントラネットによる新聞記事の掲載は、被告の業務に関連する
最新の時事情報を従業員等に周知することを目的とするものであったことから
すると、掲載から短期間で当該記事にアクセスする者は事実上いなくなると認
められる。これらの事実に加え、本件に係る被告による侵害態様等を総合的に
考慮すると、本件については、原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額
(著作権法114条3項)は、掲載された原告の記事1本について掲載期間に
かかわらず3000円として、原告に同額の損害が生じたものと認めるのが相
当である。
被告は、被告による使用が本件個別規定における「非営利で公共性のある使
用」に当たること、被告が取材対象者に当たる記事も存在することなどを指摘
する。本件個別規定の【割引】、【無料】の項目にはこれらの事情により原告が
無料での利用を許諾することが記載されている。しかし、株式会社である被告
にこれらの規定が適用されたかは明らかではなく、また、上記で定められてい
る取扱いをしなければならないことが一般的であったことを認めるに足りる証
拠はない。また、被告は、本件は本件包括規定によるべきであると主張するが、
本件個別規定について前記 ア、イに認定した事情が認められる状況で、本件
包括規定の存在は、本件個別規定も参酌して上記のとおりの損額の額を認定す
ることの妨げになるものとは認められない。
前記のとおり、平成30年度以前については、遅くとも平成30年3月31
日までに、原告が著作権を有する記事が458本掲載されたと認めるのが相当
であるから、これによる損害は137万4000円となる。平成30年度掲載
記事について、別紙損害金計算表の「掲載月」欄記載の月に対応する「記事数」欄記載の数の記事について侵害が成立すると認められる(なお、原告は、記事\n177、185、215について被告で2本分の記事が掲載されたことを理由
に2本分の損害を計上しているが、単一の記事に係る単一のイントラネットへ
の掲載であることなどからすると、いずれも1本分の損害を計上するのが相当
である。)から、損害額は「損害額」欄記載のとおりとなり、その合計額は、3
9万9000円になる。
◆判決本文
原告新聞社が異なる関連事件です。こちらは約460万円の損害が認められています。
◆令和2(ワ)12348
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2022.09.15
平成21年(ネ)第10024号 著作権確認等請求控訴事件 原審・大阪地方裁判所平成17年(ワ)第2641号
1審大阪地裁は、ソースコード1000行以上から構成されていることから、本件プログラムの著作物性を認めましたが、知財高裁(4部)は、創作性がある部分を立証しなかった原告に対して、多くの命令数により記述されているだけでは、実現される機能が多岐にわたることを意味するにすぎないとして、1審判決を破棄しました。
、
ア DHL車側プログラム(甲291)について
DHL車側プログラムのうち,「NL」「NL1」の処理(TC車の車番付けを
命ずる命令に関する処理)を行うための部分(甲291の8頁〜12頁(0286
番地〜0427番地))に関する部分は,200行前後のうちプログラムの実行順
序に係る制御を行う命令(JP命令とCALL命令)の行数が50行前後,つまり
ステップ数で全体の4分の1前後が実行順序制御に係る命令に用いられている(甲
291,294)。
DHL車側プログラムには,ソースコード上では,「JP,・・・##」と示さ\nれる,飛び先の番地が指定されず,結果として0000番地が指定された場合と同
様の動作を行うJP命令(CA0000)が含まれている(なお,甲291及び後
述する甲292においては,上述したもの以外のJP命令については飛び先となる
メモリのアドレス(番地)の値が具体的に示されており,甲289及び290と同
様に,ロードされるメモリ上のアドレス(番地)及びJP命令の飛び先となるアド
レスが絶対的に定まったものとされている。)。
これらの命令は,変更後DHCフローチャート(甲189の1)や変更前のソー\nスコード(甲289)には含まれているものではないから,本件装置を動作させる
ための最低限の機能を実現するために必要不可欠なものであったか否かは不明であ\nる。もっとも,昭和61年12月に「不連結時TC流動発生ブレーキ閉が作用しな
い」という異常への対処としてプログラムが変更されたことからすると,変更を行
ったプログラム作成者は,何らかの意図,たとえば,当該プログラムの変更による
変更後の制御のタイミングを維持すべきであること等に基づいて,ほかに選択肢が
あるにもかかわらず,あえて上記部分を挿入したままとしたものと推測されなくも
ない。
そうすると,DHL車側プログラムには,上記命令が存在することにより,創作
性が認められる余地がないわけではない。
もっとも,1審原告は,本来,ソースコードの詳細な検討を行うまでもなく,本\n件プログラムは著作物性を有するなどと主張して,当初,本件プログラムのソース\nコードを文書として提出せず,当審の平成22年5月10日の第4回弁論準備手続
期日における受命裁判官の求釈明により,本件プログラム全体のソースコードを文\n書として提出するか否かについて検討し,DHL車側プログラムについては,ソー\nスコードを提出したものの,本件プログラムのいかなる箇所にプログラム制作者の
個性が発揮されているのかについて具体的に主張立証しない。
したがって,DHL車側プログラムに挿入された上記命令がどのような機能を有\nするものか,他に選択可能な挿入箇所や他に選択可能\な命令が存在したか否かにつ
いてすら,不明であるというほかなく,当該命令部分の存在が,選択の幅がある中
から,プログラム制作者が選択したものであり,かつ,それがありふれた表現では\nなく,プログラム制作者の個性,すなわち表現上の創作性が発揮されているもので\nあることについて,これを認めるに足りる証拠はないというほかない。
以上からすると,DHL車側のプログラムには,表現上の創作性を認めることは\nできない。
イ TC車側プログラム(甲292)について
TC車側プログラムのうち,「LINK」の処理(TC車側における車番がつく
までの処理)を行うための部分(甲292の4頁〜9頁(00F7番地〜0317
番地))は,294行中88行がプログラムの実行順序に係る制御を行う命令であ
るとされている(甲294)ところ,当該部分の相当程度について,ソースコード\nが開示されていない。
DHL車側プログラムとTC車側プログラムとは,各プログラムが機能すること\nによって,本件装置を制御するものであるから,「不連結時TC流動発生ブレーキ
閉が作用しないという異常」を防止するために本件装置を制御するためには,両者
について同様の配慮が必要となると推測されることから,TC車側プログラムにも,
DHL車側プログラムと同様に,本件装置を動作させるための最低限の機能を実現\nするために必要不可欠なものであったか否かは明らかではない命令が挿入されてい
る可能性は否定できない。\nもっとも,仮に,このような命令が挿入されていたとしても,DHL車側プログ
ラムと同様に,当該命令部分の存在が,プログラム制作者の個性,すなわち表現上\nの創作性が発揮されているものであることについて,これを認めるに足りる証拠は
ないというほかない。
したがって,TC車側プログラムにも,表現上の創作性を認めることはできない。\n
ウ 1審原告の主張について
1審原告は,本件装置は,特許権を取得できるほどに新規で進歩性を有する画期
的な技術であり,新規な機能を有するものであるから,当該装置を稼働させるため\nの本件プログラムも,他の既存のプログラムの表現を模倣することにより作成する\nことはできないところ,特に,中核部分であるTC車の車番付けを行わせる部分は,
本件プログラムが有する多数の機能のうち最重要部分を実現するもので,新規のア\nイデアに基づき全くのゼロから開発されたものである,当該中核部分を構成する各\nパートは,それぞれ数十から百数十\もの命令数により記述されている上,多数のサ
ブルーチンを用いた構成となっているところ,このような複雑なプログラムにつき,\nその表現が1つ又は極めて限定された数しかなかったり,だれが記述しても大同小\n異のものとなったりすることは到底あり得ないし,他にも多数の機能を実現するた\nめの部分が有機的に組み合わされてひとまとまりのプログラムとなっているのであ
るから,本件プログラムは,本来,ソースコードの詳細な検討を行うまでもなく,\n著作権の保護を受けるプログラムの著作物に該当することは明らかであるなどと主
張する。しかしながら,本件装置が新規性を有するからといって,当該装置を稼働させるためのプログラムが直ちに著作物性を有するということができないことは明らかで
ある。
また,先に述べたとおり,プログラムに著作物性があるというためには,プログ
ラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個\n性,すなわち,表現上の創作性が表\れていることを要するのであるから,新規のア
イデアに基づきゼロから開発されたものであること,多くの命令数により記述され
ていることから,直ちに表現上の創作性を認めることはできない。本件プログラム\nが多数の機能を実現するための部分が有機的に組み合わされているとしても,当該\nプログラムに表現上の創作性があることについて具体的に主張立証されない以上,\n当該プログラムにより実現される機能が多岐にわたることを意味するにすぎない。\nさらに,1審原告は,TC車側プログラムのうち,SOSUBサブルーチン(0
72F〜0792番地)のソースコードを例として,甲290及び292が機械語\nレベルでほぼ同一の命令構成となっているにもかかわらず,ソ\ースコードレベルで
の具体的表現が異なること,SOSUBルーチンの行う仕事は,1)連結器のピンを
外すパワーシリンダを作動させる部分,2)パワーシリンダが正常に作動したか否か
をチェックする部分,3)パワーシリンダの作動状況及びそのチェックの結果を操作
者に知らせるため表示灯の点・消灯を行う部分の3つに大別できるところ,本件プ\nログラムの極めて小さな一部分であるSOSUBルーチンのソースコードにおける\n具体的表現だけをみても,多数の選択肢の中から開発者の個性により選択された表\
現が用いられているなどとも主張する。
しかしながら,甲290及び292におけるソースコードレベルでの具体的表\現
の相違は,CPUの機種変更に応じて必然的に定まる変更に基づくものにすぎず,
創作性の基礎になり得るものではない。また,上記1)ないし3)の機能を実現するそのほかの表\現に係る選択肢が存在する可能性があるからといって,直ちに本件プログラムにおけるSOSUBルーチンの具体的表\現について,創作性が認められるものでもない。1審原告が具体的に指摘する各事項は,いずれも本件装置が要求する仕様や機能を単にプログラムとして実現したものにすぎず,表\現上の創作性を基礎付けるものではない。
◆判決本文
原審はこちら。
◆平成17(ワ)2641
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2022.08.23
令和3(ワ)10987 著作権侵害損害賠償請求事件 著作権 令和4年2月24日 東京地方裁判所
「文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表\現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合には,筆者の個性が表\現されたものとはいえない」として、著作権侵害ではないと判断されました。
そこで検討すると,著作物の複製(著作権法21条,2条1項15号)と
は,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを
再製することをいい(最高裁判所昭和50年(オ)第324号同53年9月
7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照),著作物の翻案(著作
権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特\n徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新た\nに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著\n作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創\n作する行為をいう。しかして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を\n保護するものであるから(著作権法2条1項1号),既存の著作物に依拠して
創作された著作物が思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表\n現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作\n物と同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらないもの
と解される(最高裁判所平成11年(受)第922号同13年6月28日第
一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
このように,複製又は翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依
拠して創作された著作物との同一性を有する部分が,著作権法による保護の
対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である\n(著作権法2条1項1号)。そして,「創作的」に表現されたというためには,\n厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,筆者の何
らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが,他方,文章自体\nがごく短く又は表現上制約があるため他の表\現が想定できない場合や,表現\nが平凡かつありふれたものである場合には,筆者の個性が表現されたものと\nはいえないから,創作的な表現であるということはできない。\n したがって,被告各記述を含む被告の雑誌記事,書籍等が,被告各記述に
対応する原告各記述との同一性により原告雑誌記事,原告ルポの複製又は翻
案に当たるか否かを判断するに当たっては,両者において共通する部分が,
思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部\n分又は表現上の創作性がない部分でないかどうかを検討する必要がある。\nそこで,以上の見地から,別紙1及び2の各対比表について個別に検討す\nることとする。
(2) 別紙1の対比表について\n
ア 「1−1あ」,「1−5あ」,「1−6あ」,「1−7あ」,「1−10あ」に
ついて
この箇所の原告記述と被告記述とでは,1)奨学金の原資を確保するので
あれば,元本の回収が何より重要であること,2)日本学生支援機構は20\n04年以降,回収金をまず延滞金と利息に充当するという方針をとってい
ること,3)日本学生支援機構の2010年度の利息収入は232億円,延\n滞金収入は37億円に達し,これらの金は経常収益に計上され,原資とは
無関係のところにあること,といった点が共通している。
しかし,上記共通点のうち,1)は,原告雑誌記事が発行,公表される以\n前から既に問題になっていた奨学金の金融事業化についての一般的な考察
(乙5ないし7)であって,思想又はアイデアに属するものというべきで
ある。2)と3)は,奨学金の回収方法や日本学生支援機構の収支に関する事\n実であり,3)の後段の,回収された金と奨学金の原資との関係についての
評価は,これもまた1)と同様に奨学金の金融事業化についての一般的考察
として思想又はアイデアに属するものというべきであって,原告記述と被
告記述とは,表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎな\nい。また,1)ないし3)の記述順序は同一ではあるが,その記述順序自体は
独創的なものとはいえないし,文章の分量も短く簡潔で,表現も特徴のな\nいありふれたものといわざるを得ず,表現上の創作性が認められない部分\nにおいて同一性を有するにすぎない。
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2022.07.31
令和1(ワ)26366 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 令和4年5月27日 東京地方裁判所
ポスティング業務を行うために住宅地図を購入し、これを適宜縮小して複写し、これにさらに、集合住宅名、ポストの数、配布数、交差点名、道路の状況、配布禁止宅等のポスティング業務に必要な情報を書き込むなどした地図(以下「ポスティング用地図」という。)の原図を作成して、配置していた被告に対して、差止請求と3000万円の損害賠償が認められました。
一般に、地図は、地形や土地の利用状況等の地球上の現象を所定の記号に
よって、客観的に表現するものであるから、個性的表\現の余地が少なく、文
学、音楽、造形美術上の著作に比して、著作権による保護を受ける範囲が狭
いのが通例である。しかし、地図において記載すべき情報の取捨選択及びそ
の表示の方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験等が重要な役割を\n果たし得るものであるから、なおそこに創作性が表れ得るものということが\nできる。そこで、地図の著作物性は、記載すべき情報の取捨選択及びその表\n示の方法を総合して判断すべきものである。
・・・
前記(2)によれば、本件改訂により発行された原告各地図は、都市計画図等
を基にしつつ、原告がそれまでに作成していた住宅地図における情報を記載
し、調査員が現地を訪れて家形枠の形状等を調査して得た情報を書き加える
などし、住宅地図として完成させたものであり、目的の地図を容易に検索す
ることができる工夫がされ、イラストを用いることにより、施設がわかりや
すく表示されたり、道路等の名称や建物の居住者名、住居表\示等が記載され
たり、建物等を真上から見たときの形を表す枠線である家形枠が記載された\nりするなど、長年にわたり、住宅地図を作成販売してきた原告において、住
宅地図に必要と考える情報を取捨選択し、より見やすいと考える方法により
表示したものということができる。したがって、本件改訂により発行された\n原告各地図は、作成者の思想又は感情が創作的に表現されたもの(著作権法\n2条1項)と評価することができるから、地図の著作物(著作権法10条1
項6号)であると認めるのが相当である。また、前記(2)アのとおり、本件改訂より後に更に改訂された原告各地図は、いずれも本件改訂により発行された原告各地図の内容を備えるものであるから、同様に地図の著作物であると認めるのが相当である。なお、本件改訂より前に発行された原告各地図については、原告は、本件訴訟において、被告らにより著作権が侵害された対象として主張していないので(前記第2の4(1)(原告の主張)エ)、著作物性についての検討を要しない(以下においては、「原告各地図」という場合、特に断らない限り、本件改訂以降に発行されたものを指す。)。
(5) これに対して、被告らは、1) 地図に著作物性が認められる場合は一般的に
狭く、住宅地図は他の地図と比較して著作物性が認められる場合が更に制限
される、2) 原告各地図は、江戸時代の古地図や既存の地図、都市計画図に依
拠して作成されたものであり、創作性が発揮される余地は乏しい、3) 原告各
地図は機械的に作成され、正確・精密であるとされることからすると、創作
性が発揮される部分は更に限定され、国土地理院は、2500分の1の縮尺
の都市計画基本図について、著作物性が認められる可能性は低いとの見解を\n示している、4) 過去に作成された住宅地図には家形枠が記載されたものがあ
り、家形枠を用いた表現自体ありふれている、5) 原告は地図作成業務のうち
少なくとも6割を海外の会社に対して発注しており、原告各地図には独自性
がないとして、原告各地図には著作物性が認められないと主張する。
しかし、上記1)については、前記(1)のとおり、地図の著作物性は、記載す
べき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して判断すべきものであると\nころ、前記(4)のとおり、原告各地図は、その作成方法、内容等に照らして、
作成者の個性が発現したものであって、その思想又は感情を創作的に表現し\nたものと評価できるから、地図の著作物であると認められる。
上記2)については、原告が古地図や都市計画図等を参照して原告各地図を
作成したものであったとしても、前記(2)アのとおり、原告各地図は、本件改
訂によって、都市計画図等をデータ化したものに、居住者名や建物名、地形
情報、調査員が現地を訪れて調査した家形枠の形状等を書き加えるなどして
作成されたものであり、その結果、前記(2)イの特徴を備えるに至ったもので
あって、このような原告各地図の作成方法、特徴等に照らせば、原告各地図
は、都市計画図等に新たな創作的表現が付加されたものとして、著作物性を\n有していると認められる。
上記3)については、原告各地図が正確・精密であるとしても、前記(1)のと
おり、記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法等において創作性を発\n揮する余地はある。また、被告らの指摘する国土地理院の見解(乙63)は、
都市計画基本図について述べたものであり、住宅地図作成会社が作成する住
宅地図一般について述べたものではないし、上記2)について説示したとおり、
原告各地図は、都市計画図等を基図としてデータ化した上、これに種々の情
報を書き加えるなどすることで、住宅地図として完成させたものであるから、
国土地理院の上記見解は原告各地図に当てはまるものではない。さらに、前
記(2)イのとおり、原告各地図は、地図の4辺に目盛りが振られ、当該地図の
上、右上、右、右下、下、左下、左及び左上の各位置にある地図の番号が記
載されており、目的とする地図を検索しやすいものとなっている上、信号機
やバス停等がイラストを用いてわかりやすく表示されたり、建物等の居住者\n名や店舗名等を記載することにより住居表示についてもわかりやすくする工\n夫がされているなどの特徴を有するのに対し、証拠(乙70ないし73)に
よれば、都市計画基本図にはこのような特徴が全くないことが認められ、原
告各地図と都市計画基本図とでは、そもそも性質が異なることから、同列に
論じることはできない。
上記4)については、住宅地図において家形枠を記載することがよくあると
しても、原告各地図における家形枠の具体的な表現がありふれていることを\n認めるに足りる証拠はないから、直ちに原告各地図の著作物性を否定するこ
とはできないというべきである。
上記5)については、原告が原告各地図の作成業務を海外の会社に発注して
いることのみをもって、原告各地図の独自性を否定し、ひいては、その著作
物性を否定することはできないというべきである。
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2022.04.28
平成31(ワ)8969 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 令和4年4月22日 東京地方裁判所
ゲーム画面が著作権侵害か否か争われました。前提として裁判管轄についても争われました。後者の裁判管轄は「あり」としましたが、被告は、リンク設定行為をしただけなので、複製及び公衆送信には該当しないと、請求棄却されました。
証拠(乙8)及び弁論の全趣旨によれば、原告及び被告は、いずれも中国
に住所を置く法人であり、日本に事務所等の拠点を有しないこと、被告ゲー
ムの開発や配信に関する主要な作業は中国において行われたことが認められ
る。これらの事情によれば、本件訴訟に関する証拠が中国に存在することが
うかがわれるから、本件を日本の裁判所で審理した場合には、被告が、本件
訴訟の争点に関する主張立証をする際に、中国語で記載された書類を日本語
に翻訳したり、中国語を話す関係者のために通訳を手配したりするなどの一
定の負担を被り得ることは、否定し難い。
しかし、本件訴訟における原告の請求は、日本国内向けに配信された被告
ゲーム及びそれに関連する画像の複製を差し止め、被告ゲーム等のデータを
削除し、被告ゲームの売上げに基づき著作権法114条2項によって推定さ
れる額の損害を賠償すること等を求めるというものである。そうすると、本
件訴訟における請求の内容は日本と密接に関連するものであり、かつ、原告
が主張する上記損害は日本において発生したものと解されるから、本件は、
事案の性質上、日本とも強い関連性を有するというべきである。
また、本件訴訟の争点は、前記第2の3及び前記第3のとおり、原告各画
像と被告各画像の表現の同一性ないし類似性(争点2−1)、被告による原\n告画像1に係る著作権侵害の成否(争点2−2)、被告が原告各画像に依拠
して被告各画像を作成したと認められるか否か(争点2−3)、差止め及び
削除請求の必要性(争点3)並びに損害額(争点4)である。この点、上記
争点2−1については、原告各画像と被告各画像の対比や同一性ないし類似
性が認められる部分が創作的な表現であるか否かに関する検討を要するとこ\nろ、それらの点に係る主張立証は、主として原告各画像及び被告各画像自体
に基づいて行うことになる。これに加えて、他の画像に基づき、上記同一性
ないし類似性の認められる部分がありふれた表現であることの主張立証を行\nうことも考えられるが、当該他の画像に関する証拠が中国に存在するとして
も、その性質上、翻訳等の作業は必要とされないであろうから、被告に過大
な負担が生じるとは認め難い。上記争点2−2は、本件リンク設定行為が原
告画像1に係る原告の著作権を侵害するかどうかを、主として日本の著作権
法の解釈、適用によって判断するというものであるから、証拠の所在地が当
該争点の判断において重要な意味を持つものとはいえない。上記争点2−3
に関する証拠としては、原告ゲーム及び被告ゲーム以外のゲーム等の画像及
び公表時期に関する資料、ゲーム制作者の陳述書等が想定されるが、それら\nの全てが中国にのみ所在するとはうかがわれず、立証に際して被告に過大な
負担が生じるとまでは認め難い。上記争点3については、前記第3の3のと
おり、被告ゲームの配信が中止された事実が重要な評価障害事実として主張
立証され得るところ、被告ゲームが日本国内向けに配信されたオンラインゲ
ームであることを踏まえると、上記事実に関する主要な証拠は日本に所在す
るものと認められる。上記争点4についても、上記のとおり、原告が主張す
る損害は日本において発生したものと解されるから、損害額の算定の基礎と
なる主要な証拠は日本に所在するものと考えられる。したがって、本件が日
本で審理されるとしても、本件の重要な争点に係る主張立証に当たり、被告
に過大な負担が生じるとまでは認められない。
(2) これに対し、被告は、1)本件訴訟と当事者、事案及び争点において密接な
関連性が存在する別件中国訴訟が中国の裁判所において係属していること、
2)原告と被告は、当然に、本件訴訟を中国の裁判所に提起することが最も適
切であり、本件が中国の裁判所での解決が図られると想定していたこと、3)
本件訴訟に関する客観的な事実関係は全て中国において発生したこと、4)本
件訴訟の証拠は全て中国国内に存在すること、5)本件を日本の裁判所で審理
する場合には被告に過大な負担を課すること等を根拠として挙げ、本件訴訟
には民事訴訟法3条の9所定の「特別の事情」があると主張する。
しかし、まず、上記1)についてみるに、本件訴訟と別件中国訴訟は、いず
れも原告が当事者であるという点において共通するものの、被告は別件中国
訴訟の当事者の地位にはないから、当事者が完全に一致するものではない。
しかも、別件中国訴訟においては、原告ゲームの中国語版の表現と「C」と\n称するゲームの表現の類否等が争点とされているのであって、被告ゲームの\n表現との類否は争点とされていないばかりか、証拠(甲10)によれば、別\n件中国訴訟において争点とされている原告ゲームの表現はいずれも原告各画\n像とは異なる画像等に係るものであると認められる。そうすると、本件訴訟
と別件中国訴訟の事案及び争点はいずれも大きく相違するものといえるから、
本件訴訟と別件中国訴訟との間に強い関連性があるとまでは認められない。
次に、上記2)についてみるに、上記のとおり、本件訴訟と別件中国訴訟と
の関連性は強くない上、原告ゲームと被告ゲームがいずれも日本国内向けに
配信されたスマートフォン向けのオンラインゲームであることに照らすと、
別件中国訴訟が本件訴訟に先立って中国国内の裁判所に係属していたとして
も、原告ゲームと被告ゲームに関する著作権侵害に関する紛争の解決が中国
の裁判所で図られることが想定されていたとまでは認められない。
さらに、上記3)ないし5)についてみるに、前記(1)のとおり、本件の請求
の内容は日本と密接に関連するものであり、かつ、原告が主張する上記損害
は日本において発生したものと解されることから、本件に関する客観的な事
実関係が全て中国において発生したということはできない。また、前記(1)
のとおり、本件の証拠が専ら中国に存在するとは認められないし、本件を日
本の裁判所が審理するとしても、立証に関して被告に過大な負担を生じさせ
るものとまでは認められない。
したがって、被告の上記1)ないし5)の主張はいずれも理由がない。
(3) 以上の次第で、本件の事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の
所在地、原告を当事者とする中国の裁判所に係属中の訴訟の存在その他の事
情を十分に考慮しても、本件訴訟について、民事訴訟法3条の9所定の「特\n別の事情」があると認めることはできない。
・・・
ア 証拠(甲9、乙15ないし17)及び弁論の全趣旨によれば、本件リン
ク設定行為は、本件動画の表紙画面である被告画像1をリンク先のサーバ\nーから本件ウェブページの閲覧者の端末に直接表示させるものにすぎず、\n被告は、本件リンク設定行為を通じて、被告画像1のデータを本件ウェブ
ページのサーバーに入力する行為を行っていないものと認められる。そう
すると、前記(2)アのとおり原告画像1を複製したものと認められる被告
画像1を含む本件動画をYouTubeが管理するサーバーに入力、蓄積
し、これを公衆送信し得る状態を作出したのは、本件動画の投稿者であっ
て、被告による本件リンク設定行為は、原告画像1について、有形的に再
製するものとも、公衆送信するものともいえないというべきである。
イ これに対し、原告は、1)本件ウェブページに被告画像1を貼り付ける行\n為も、本件リンク設定行為も、本件ウェブページの閲覧者にとっては、何
らの操作を介することなく被告画像1を閲覧できる点で異なるところはな
いこと、2)本件リンク設定行為は、被告画像1を閲覧者の端末上に自動表\n示させるために不可欠な行為であり、かつ、原告画像1の複製の実現にお
ける枢要な行為といえること、3)本件リンク設定行為をすることにより、
被告ゲームを宣伝し、被告ゲームの販売による多大な利益を得たことを指
摘し、規範的にみて、被告が複製及び公衆送信の主体と認められる旨を主
張する。しかし、上記1)についてみると、単に、本件ウェブページに被告画像1
を貼り付ける等の侵害行為がされた場合と同一の結果が生起したことをも\nって、本件リンク設定行為について、複製権及び公衆送信権の侵害主体性
を直ちに肯定することはできないというべきである。
また、上記2)についてみると、仮に枢要な行為に該当することが侵害主
体性を基礎付け得ると解したとしても、本件リンク設定行為の前の時点で
既に本件動画の投稿者による原告画像1の複製行為が完了していたことに
照らすと、本件リンク設定行為が原告画像1の複製について枢要な行為で
あるとは認め難いというべきである。なお、本件動画は、本件ウェブペー
ジを閲覧する方法によらずとも、本件動画が投稿されたYouTubeの
「D」のページにアクセスすることによっても閲覧することができるから、
本件リンク設定行為が原告画像1の公衆送信にとって枢要な行為であると
も認められない。
さらに、上記3)についてみると、本件全証拠によっても、本件リンク設
定行為により被告がどの程度の利益を得ていたのかは明らかではないから、
その点をもって、被告が原告画像1の複製及び公衆送信の主体であること
を根拠付けることはできない。
したがって、上記1)ないし3)の点を考慮しても、被告を原告画像1の複
製及び公衆送信の主体であると認めることはできず、原告の上記主張は採
用することができない。
ウ また、原告は、仮に被告が著作権侵害の主体であると認められない場合
であっても、少なくとも、被告が本件リンク設定行為により上記著作権侵
害を幇助したものと認められると主張する。
しかし、前記アのとおり、被告による本件リンク設定行為は、被告画像
1をリンク先のサーバーから本件ウェブページの閲覧者の端末に直接表示\nさせるものにすぎず、本件動画の投稿者による被告画像1を含む本件動画
をYouTubeが管理するサーバーに入力・蓄積して公衆送信し得る状
態にする行為と直接関係するものではない。そうすると、本件リンク設定
行為が本件動画の投稿者による複製及び公衆送信行為自体を容易にしたと
はいい難いから、被告による本件リンク設定行為が、被告画像1に係る原
告の著作権(複製権及び公衆送信権)侵害を幇助するものと認めることは
できない。
したがって、被告を原告画像1の複製及び公衆送信の幇助者であると認
めることはできない。
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2022.04.10
令和2(ワ)25127 著作権 民事訴訟 令和4年3月25日 東京地方裁判所
「オーサグラフ世界地図」について、そもそも原告は共同著作者ではないと判断されました。
著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学\n術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいい、
共同著作物とは、「二人以上の者が共同して創作した著作物であつて、その
各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの」(同項12号)
をいう。
そうすると、本件地図1ないし4が原告及び被告の共同著作物であり、原
告がこれらについての共有著作権及び著作者人格権を有するというためには、
原告の思想又は感情が本件地図1ないし4に創作的に表現されたと認められ\nる必要がある。
(2) 前記1(5)及び(6)のとおり、被告は、平成12年頃に、原告と本件覚書を
交わし、原告との共同研究が終了した後、原告と面会したり、直接連絡をと
ったりしたことはなかったところ、原告に相談することなく、平成21年に
本件発表をし、その頃に本件地図1及び2が掲載された本件論文1を、平成\n29年に本件地図3及び4が掲載された本件論文2を、それぞれ作成したも
のであり、原告は、被告の本件発表並びに本件論文1及び2の作成の事実を\n知らなかったものである。また、原告は、その本人尋問において、本件地図1ないし4自体を作成し
たのは被告である旨供述している。したがって、仮に本件論文1に掲載された本件地図1及び2並びに本件論
文2に掲載された本件地図3及び4に著作物性が認められるとしても、本件
地図1ないし4は、原告の思想又は感情が創作的に表現されたものではなく、\n被告のみの思想又は感情が創作的に表現されたものと認めるのが相当であり、\n原告及び被告の各氏名が記載された本件論文1に掲載された本件地図1及び
2について、著作権法14条に基づき、原告及び被告が著作者であると推定
されたとしても、その推定は覆されるというべきである。
(3)ア これに対して、原告は、1) 本件論文1及び2は、原告及び被告を共同発
明者とする本件出願1ないし3の各願書に添付した明細書に記載された内
容に基づくものであり、本件論文1及び2に掲載された本件地図1ないし
4は、本件出願1ないし3の各願書に添付した図面と基本的に同一である
こと、2) 本件発表の発表\者として原告の氏名が挙げられ、本件論文1の冒
頭に原告の氏名が、末尾に原告に対する謝辞が、それぞれ記載されている
ことからすると、本件地図1ないし4は原告及び被告の共同著作物である
と主張する。
イ しかし、上記1)について、本件出願1ないし3の各願書に添付した明細
書に従って本件地図1ないし4を作成できるとの事実を認めるに足りる証
拠はない。
また、前記前提事実(2)ないし(4)のとおり、原告は本件出願1ないし3
の各発明者の一人として名前が挙げられているが、発明とは「自然法則を
利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法2条1項)であり、
発明者はこのような技術的思想を創作した者をいうのに対し、著作物とは
「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)であ\nり、著作者は「著作物を創作する者」(同項2号)をいうことから、両者
が創作する対象は、それぞれ技術的思想と表現という異なるものである。\n仮に本件出願1ないし3が地図の作成方法に関する発明に係る出願であり、
本件出願1ないし3の各願書に添付した明細書に従って地図を作成するこ
とができたとしても、上記発明に係る技術的思想の創作に関わったにすぎ
ない原告の思想又は感情が当該地図において創作的に表現されたというこ\nとにはならない。
さらに、証拠(甲1、2、4ないし6)によれば、本件地図1及び3と
本件出願1の願書に添付した図面の【図10】のLC2、本件出願2の願
書に添付した図面の【図10】のLC2及び本件出願3の願書に添付した
図面のFIG.10のLC2とを比較すると、国境線及び地名の記載の有
無、各大陸の形状、位置関係等が少なからず異なっており、本件地図2及
び4と本件出願1の願書に添付した図面の【図9】、本件出願2の願書に
添付した図面の【図9】及び本件出願3の願書に添付した図面のFIG.
9とを比較すると、各大陸の形状、位置関係等が少なからず異なっている
ことが認められる。地図が地形等を客観的に表現することを目的としたも\nのであることを考慮すると、仮に本件出願1ないし3の上記各図面に原告
の思想又は感情が創作的に表現されたといえるとしても、上記のような相\n違のある本件地図1ないし4にも同様に原告の思想又は感情が創作的に表\n現されたということは困難である。以上を総合すると、上記1)の事情をもって、原告の思想又は感情が本件地図1ないし4に創作的に表現されたというには足りないから、同事情は前記(2)の認定を左右するものではないというべきである。
ウ また、上記2)について、前記前提事実(5)のとおり、日本国際地図学会の
平成21年度定期大会のプログラムには、本件発表の発表\者として、被告
のみならず原告の氏名が記載されており、本件論文1の冒頭にも、被告の
みならず原告の氏名が記載され、その末尾に「本研究の基礎はA氏との半
年間の共同研究によるものである。」と記載されている。しかし、被告は、その本人尋問において、被告が修士論文を作成した際、原告が被告に対してアイデアの盗用であるなどと主張したことがあったことから、原告に配慮して、上記のとおり、原告の氏名を記載するなどした旨供述しているところ、前記1(3)ないし(5)の経過に鑑みると、被告の上
記供述は信用することができるというべきである。そうすると、上記各記載の存在をもって、本件論文1に掲載された本件地図1及び2に原告の思想又は感情が創作的に表現されているということはできないから、上記2)の事情も前記(2)の認定を左右するものではない。
エ したがって、原告の前記アの主張は採用することができない。
(4) 以上によれば、本件地図1ないし4は、原告及び被告の共同著作物とは認
められないから、原告が本件地図1ないし4に係る共有著作権及び著作者人
格権を有するとはいえない。
087/091087
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2022.04. 1
令和2(ワ)32121 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 令和4年3月30日 東京地方裁判所
写真の複製・翻案かが争われました。料理写真なので、構図なども一般的と判断されています。\n
著作権法が、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、\n文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(同法2条1項1号)をいい、
複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製
することをいう旨規定していること(同項15号)からすると、著作物の複
製(同法21条)とは、当該著作物に依拠して、その創作的表現を有形的に\n再製する行為をいうものと解される。
また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、
その表現上の本質的な特徴である創作的表\現の同一性を維持しつつ、具体的
表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表\現す
ることにより、これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感得する\nことのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される。
そうすると、被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものに当たるとい
うためには、原告写真と被告写真3との間で表現が共通し、その表\現が創作
性のある表現であること、すなわち、創作的表\現が共通することが必要であ
るものと解するのが相当である。
一方で、原告写真と被告写真3において、アイデアなど表現それ自体では\nない部分が共通するにすぎない場合には、被告写真3が原告写真を複製又は
翻案したものに当たらないと解される。そして、共通する表現がありふれた\nものであるような場合には、そのような表現に独占権を認めると、後進の創\n作者の自由かつ多様な表現の妨げとなり、文化の発展に寄与するという著作\n権法の目的(同法1条)に反する結果となりかねないため、当該表現に創作\n性を肯定して保護することは許容されない。したがって、この場合も、複製
又は翻案したものに当たらないと解される。
(2) 原告は、原告写真と被告写真3において共通する部分である共通点aない
しfは創作性のある表現であるから、被告写真3は原告写真を複製又は翻案\nしたものに当たる旨主張するので、以下において判断する。
ア 共通点aについて
原告写真と被告写真3とは、被写体であるスティック春巻を2本ない
し3本ずつ両側から交差させている点において共通する。
しかし、証拠(乙9)によれば、角度や向きを変えながら料理を順に
重ねて盛る「重ね盛り」という方法が存在することが認められるところ、
原告写真と被告写真3の被写体であるスティック春巻はいずれも細長い
形状を有するから、スティック春巻を盛り付ける場合に、上記の「重ね
盛り」の方法によってスティック春巻を数本ずつ交差させて配置するこ
とは、スティック春巻の撮影する場合に一般的に行われるものであると
いうことができる。加えて、証拠(甲25、26、乙2、6ないし8)
によれば、共通点aと同様に、棒状の春巻を配置して撮影された写真が
複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現は、\nありふれたものといわざるを得ない。
以上によれば、共通点aは創作的表現であるとはいえないから、被告写\n真3の共通点aの部分が、原告写真の共通点aの部分を複製又は翻案した
ものに当たると認めることはできない。
イ 共通点bについて
原告写真と被告写真3とは、2本のスティック春巻を斜めにカットして、
断面を視覚的に認識しやすいように見せ、さらに、チーズも主役でない程
度に見えるようにしている点において共通する。
しかし、具が衣に包まれているという春巻の形状に照らすと、春巻の
具を撮影するためには春巻をカットしなければならないし、その際、具
を強調するために、断面積が大きくなるよう、斜めにカットすることは、
スティック春巻を撮影する際に一般的に採用され得る手法ということが
できる。加えて、証拠(甲25、26、乙2、6ないし8)によれば、
共通点bと同様に春巻を斜めにカットした断面を配置して撮影された写
真が複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表\n現は、ありふれたものといわざるを得ない。
以上によれば、共通点bは創作的表現であるとはいえないから、被告\n写真3の共通点bの部分が原告写真の共通点bの部分を複製又は翻案し
たものに当たると認めることはできない。
ウ 共通点cについて
原告写真と被告写真3とは、端に角度がついた、白色で模様がなく、被
写体である複数本のスティック春巻とフィットする大きさの皿を使用して
いる点において共通する。
しかし、証拠(乙10、11)によれば、白い器は料理の色を引き立て
る効果があり、選択肢として基本的な色であること、料理の写真を撮影す
る際には盛り付ける料理にぴったり合う大きさの皿を選択することが重要
であることが認められる。そうすると、白色で模様がなく、黄土色のステ
ィック春巻とフィットする大きさの皿を使用することは、スティック春巻
の写真を撮影する上で一般的に行われ得るということができる。加えて、
証拠(甲25、26、乙2、8)によれば、共通点cと同様に、白色で模
様がなく、被写体である複数本のスティック春巻とフィットする大きさの
皿を使用して撮影された写真が複数存在すると認められることに照らすと、
上記の共通点に係る表現はありふれたものといわざるを得ない。\n以上によれば、共通点cは創作的表現であるとはいえないから、被告\n写真3の共通点cの部分が原告写真の共通点cの部分を複製又は翻案し
たものに当たると認めることはできない。
エ 共通点dについて
原告写真と被告写真3とは、皿に並べた春巻を、正面からでなく、角度
をつけて撮影している点において共通する。
しかし、証拠(乙12)によれば、料理写真の構図として、料理を正面\nから撮影するのではなく、左右に回転させて左右向きに配置して、斜めの
方向から撮影する手法が存在することが認められる。そうすると、皿に並
べた春巻を、角度をつけて撮影することは、一般的に行われ得るというこ
とができる。加えて、証拠(甲25、26、乙7、8)によれば、共通点
dと同様に、皿に並べた春巻を、角度をつけて撮影した写真が複数存在す
ると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現はありふれたも\nのといわざるを得ない。
以上によれば、共通点dは創作的表現であるとはいえないから、被告\n写真3の共通点dの部分が原告写真の共通点dの部分を複製又は翻案し
たものに当たると認めることはできない。
オ 共通点eについて
原告写真と被告写真3とは、撮影時に光を真上から当てるのではなく、
斜め上から当てることで、被写体の影を付けている点において共通する。
しかし、証拠(乙13)によれば、料理写真の撮影方法として、料理の
斜め後ろから料理に光を当て、料理上部を明るく照らすとともに手前側を
暗くして立体感を生じさせる斜め逆光という手法が存在すること、斜め逆
光は料理写真で最もよく使われるライティングであることが認められる。
したがって、被写体に影を付け、立体感を醸成するという撮影方法は、春
巻を含む料理の写真を撮影する上で一般的に用いられ得る手法であるとい
うことができる。加えて、証拠(甲25、26、乙2、6ないし8)によ
れば、共通点eと同様に、斜め逆光の手法を用いて撮影された春巻の写真
が多数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現は\nありふれたものといわざるを得ない。
以上によれば、共通点eは創作的表現であるとはいえないから、被告\n写真3の共通点eの部分が原告写真の共通点eの部分を複製又は翻案し
たものに当たると認めることはできない。
カ 共通点fについて
原告写真と被告写真3とは、葉物を含む野菜を皿の左上のスペースに置
いている点において共通する。
しかし、揚げ物である春巻に、野菜が付け合わせとして盛り付けられ
ることは、一般的に行われることであるといえるから、春巻の写真を撮
影する際に野菜が皿の隅のスペースに置かれることもまた、一般的に行
われることということができる。現に、証拠(甲25、26、乙2、6
ないし8)によれば、上記の共通点と同様に配置された春巻の写真が複
数存在することが認められる。そうすると、上記の共通点に係る表現は\nありふれたものといわざるを得ない。
以上によれば、共通点fは創作的表現であるとはいえないから、被告写\n真3の共通点fの部分が原告写真の共通点fの部分を複製又は翻案したも
のに当たると認めることはできない。
キ 全体的観察
前記アないしカのとおり、共通点aないしfはいずれも創作的表現であ\nるとは認められないから、これらの共通点を全体として観察しても、原告
写真と被告写真3との間で創作的表現が共通するとは認められない。\n
ク 小括
以上の次第で、原告写真と被告写真3は、ありふれた表現が共通するに\nすぎず、原告写真と被告写真3との間で創作的表現が共通するとは認めら\nれないから、被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものに当たるとは
認められない。
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2022.03.29
令和3(ネ)10083 著作権侵害差止等請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和4年3月23日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
コンピュータソフトの画面について、著作物性、不競法2条1項1号の商品等表示に該当するかが争われました。知財高裁2部は、1審の判断を維持しました。
ア 控訴人は,控訴人表示画面と被控訴人表\示画面との一致箇所をひとまとまり
として捉えて創作性を判断すべきこと,ビジネスソフトウェアのディスプレイ(表\
示画面をいう趣旨と解される。)における表現の創作性については丁寧な検討が必\n要であること,控訴人表示画面について表\現上主要な箇所は2)データ分析等画面(単
品詳細情報画面,日別画面,他店舗在庫表示画面,定期改正入力画面,リクエスト\n管理画面)であり,そこには表現上の工夫が多数散りばめられていることなどを主\n張する。
しかし,被控訴人製品の各表示画面から控訴人製品の各表\示画面の本質的な特徴
を感得することはできず,被控訴人表示画面に接する者が全体として控訴人表\示画
面の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとは認められないことは,\n訂正して引用した原判決の第4の1で認定判断したとおりである。
控訴人表示画面と被控訴人表\示画面の対比に係る判断は,同1(3)のとおりであ
って,控訴人表示画面と被控訴人表\示画面の共通する部分をひとまとまりにして検
討することによって,上記判断が左右されるものではない。ビジネスソフトウェア\nのディスプレイ(表示画面)における表\現の創作性について丁寧な検討が必要であ
るという一般論の主張も,上記判断に影響しない。控訴人が2)データ分析等画面に
多数散りばめられていると主張する表現上の工夫のうち,発注操作を行う欄の配色\nについては,創作者の思想又は感情が創作的に表現されているといえる程度の特徴\nを有するものとは認められず,同欄の位置や詳細情報を画面の下方に配置すること
は,書店業務を効率的に行うという観点から通常想定される範囲内のものである。
控訴人の主張する2)データ分析等画面における素材の選択及び配列における選択の
幅についても,訂正して引用した原判決の第4の1(4)で判断したとおりである。
イ 控訴人は,控訴人製品の表示画面と被控訴人製品の表\示画面に共通性が多数
認められること,操作ガイダンスの文字列に一致が何か所もあることなどを主張す
るが,それらの主張は,訂正して引用した原判決の第4の1の認定判断を左右する
ものではない。
(2) 争点4(不正競争防止法違反の有無)に関する控訴人の補充主張について
ア 控訴人は,控訴人表示画面の特別顕著性に関し,需要者を書店ユーザーに限\n定すべきこと,控訴人製品がその表示画面に顕著な特徴を有することを主張するが,\n控訴人表示画面の特徴に関しては訂正して引用した原判決の第4の1(3)及び(4)で
認定判断したとおりであり,控訴人表示画面に特別顕著性が認められないことは,\n同3で判断したとおりである。控訴人の主張するように控訴人製品の需要者を書店
に限定したとしても,上記の認定判断は左右されない。
イ 控訴人は,周知性についても主張するところ,控訴人製品のシェアについて
控訴人が当審で追加提出した証拠(甲83の1・2,甲84)を含む本件全証拠を
もってしても,控訴人の主張するシェアを認めるに足りない。なお,仮に,控訴人
製品が相応のシェアを占めているとしても,そのことから直ちに,控訴人表示画面\nの周知性が認められるものともいえない。
また,控訴人は,控訴人製品の宣伝・広報活動について主張するが,当該活動に
ついて控訴人が追加提出した証拠(甲85〜91)を含む本件全証拠をもってして
も,当該活動は一定の期間及び範囲に限定して認められるにすぎず,また,その内
容をみても,当該活動において控訴人表示画面が媒体に表\示されていたものではな
いから,控訴人表示画面の周知性を裏付けるものとはいえない。\n控訴人のその他の主張も,訂正して引用した原判決の第4の3(2)における控訴
人表示画面の周知性が認められない旨の判断を左右するものではない。\n
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成30(ワ)28215
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2022.02.14
令和2(ワ)19927 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年12月24日 東京地方裁判所
社史の発行が原告書籍の翻案であるとした不当利得返還請求訴訟です。裁判所は、創作的表現において同一性を有しないとして、請求を棄却しました。\n
(1) 言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,か
つ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表\現に修正,
増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,\nこれに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得すること\nのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は
感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照),既\n存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,
事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表\現上の創作性がない部
分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には
当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同
13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁)。
そうすると,本件社史部分が原告書籍を翻案したものに当たるというため
には,原告書籍と本件社史部分とが,創作的表現において同一性を有するこ\nとが必要であるものと解される。
したがって,原告書籍と本件社史部分との間で,事実など表現それ自体で\nない部分でのみ同一性が認められる場合には,本件社史部分は原告書籍を翻
案したものに当たらない。
また,原告書籍と本件社史部分との間に,表現において同一性が認められ\nる場合であっても,同一性を有する表現がありふれたものである場合には,\nその表現に創作性が認められず,本件社史部分は原告書籍を翻案したものに\n当たらないと解すべきである。すなわち,著作者等の権利の保護を図り,も
って文化の発展に寄与するという著作権法の目的(同法1条)に照らせば,
著作物に作成者の何らかの個性が現れており,その権利を保護する必要性が
あるといえる場合には,上記の創作性が肯定され得るが,一方で,表現があ\nりふれたものである場合には,そのような表現に独占権を認めると,後進の\n創作者の自由かつ多様な表現の妨げとなり,かえって上記の著作権法の目的\nに反する結果となりかねないため,当該表現に創作性を肯定して保護を与え\nることは許容されないというべきであり,そのため,原告書籍と本件社史部
分との間で同一性を有する表現がありふれたものである場合には,その表\現
に創作性を認めることができない。
(2) まず,別紙2記述対比表の原告書籍及び本件社史部分の各記述について,\nそれぞれの間での創作性を有する表現の同一性が認められるか否かについて\n検討する。
ア 番号1の各記述について
(ア) 原告書籍の番号1の記述は,原告書籍における当該記述の前後の文脈
を踏まえると,被告従業員であったBが被告の二輪世界選手権への再挑
戦の担当者になるとの内示を受ける前日に出身地を尋ねられた際のやり
とりを記述したものであり,本件社史部分の番号1の記述は,本件社史
部分における当該記述の前後の文脈を踏まえると,Bが上記内示の際に
出身地を尋ねられたことを記述したものであると認められる。
これらの記述は,Bが上記内示を受ける際に出身地を尋ねられたこと
を内容とする点で共通しているが,このようなやりとりがあったことは
事実にすぎないというべきであり,表現それ自体でない部分で同一性が\n認められるに留まる。また,出身地を尋ねるやりとりがあったことにつ
いて,原告書籍の番号1の記述では,「おいB,おまえ家は東京だよな」
と記述されているのに対し,本件社史部分の番号1の記述では,「世間話
の中で出身地を聞かれました。『東京です』と答えたのを覚えていますよ」
と記述されており,それらの具体的な記述における描写の手法が異なる
ものとなっており,表現それ自体において同一性を有するとは認められ\nない。
(イ) 原告は,原告書籍と本件社史部分に同じ事実が記述されていることに
ついて,社史編纂委員会の担当者は原告書籍に記述された事実を原告書
籍に依拠して知ったものであるから,翻案該当性が認められるべき旨を
主張する。
しかしながら,前記(1)のとおり,本件社史部分に記述された事実が原
告書籍に依拠したものであったとしても,原告書籍と本件社史部分の各
記述が事実といった表現それ自体でない部分において同一性を有するに\n留まる場合には,原告書籍の翻案には当たらないと解するのが相当であ
るから,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) したがって,番号1の各記述について,創作的表現において同一性を\n有するものと認めることはできない。
・・・
(ウ) 小活
前記(ア)及び(イ)の対比の結果に照らせば,原告書籍の番号20−1及
び20−2の記述と本件社史部分の番号20の記述が創作的表現におい\nて同一性を有するものと認めることはできず,これは,原告書籍の番号
20の記述全体と本件社史部分の番号20の記述とを対比した場合でも
同様である。
(3) 前記(2)のとおり,番号1ないし20の各記述において,本件社史部分が
原告書籍と創作的表現において同一性を有するとは認められないから,依拠\n性について検討するまでもなく,被告社史中の本件社史部分は原告書籍の翻
案に該当するものではない。
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2022.01. 6
平成30(ワ)28215 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 令和3年9月17日 東京地方裁判所
コンピュータソフトの画面について、著作物性、不競法2条1項1号の商品等表示に該当するかが争われました。本件ではいずれも否定されましたが、一般論としては「ビジネスソ\フトウェアの表示画面は,商品の形態と同様,・・特別顕著性,かつ,・・周知になっている場合に不競法2条1項1号の「商品等表\示」に該当すると解するのが相当である。」と
認定されています。
以上のとおり,原告表示画面と被告表\示画面の共通する部分は,いずれも
アイデアに属する事項であるか,又は,書店業務を効率的に行うに当たり必
要な一般的な指標や情報にすぎず,各表示項目の名称の選択,配列順序及びそのレイアウトといった具体的な表\現においても,創作者の思想又は感情が創作的に表現されているということはできない上,両製品の配色の差違等により,利用者が画面全体から受ける印象も相当異なるというべきである。そ\nして,被告表示画面について,他に原告表\示画面の本質的特徴を直接感得し
得ると認めるに足りる証拠はない。
(4) 表示画面の選択や相互の牽連関係における創作性の有無・程度
ア 原告は,表示画面の牽連性に関し,原告製品は,画面の最上部にメニュータグを常時表\示し,どの画面からも次の業務に移行できるようにしている点や,画面の中央にサブメニュー画面を用意し,画面遷移なしに表示することを可能\にしている点などに独自性があると主張する。 しかし,画面の最上部にメニュータグを常時表示し,そのいずれの画面からも次の業務に移行できるようにすることや,画面の中央にサブメニュー画\n面を用意し,画面遷移なしに表示することを可能\にすることは,利用者の操
作性や一覧性あるいは業務の効率性を重視するビジネスソフトウェアにおいては,ありふれた構\成又は工夫にすぎないというべきであり,原告製品における表示画面相互の牽連性に特段の創作性があるということはできない。
イ また,原告は,原告製品が補充発注画面や自動計算機能を備えていることをもって他社にはない独自性があると主張するが,在庫の変動に伴い商品を\n補充して発注することや,定期改正数を自動計算することなどは,一般的な
書店業務の一部であり,原告製品の補充発注(条件設定)画面及び補充発注
(入力)画面に表示された項目の名称の選択,配列順序及びそのレイアウトなどの具体的な表\現において,創作者の思想又は感情が創作的に表現されて\nいるということはできないことは,前記(3)ケ及びコで判示のとおりである。
ウ したがって,原告製品は,表示画面の選択や画面相互の牽連性において独自性又は創作性があるとの原告主張は採用し得ない。\n
・・・
(1) 原告は,被告製品の表示画面が不競法2条1項1号の規定する不正競争行為に該当すると主張するところ,ビジネスソ\フトウェアの表示画面は,商品の形\n態と同様,1)当該表示画面が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,2)その表示画面が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な広告宣伝や爆発的な販売実績等により,\n需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている場合に不競法2条1項1号の「商品等表\示」に該当すると解するのが相当である。
(2) 周知性について
原告は,原告表示画面が,遅くとも平成25年末までには,出版業界及び書店業界において広く認識されていたと主張するが,以下のとおり,理由がない。\nア 原告製品の販売数や市場占有率に関し,原告は,原告のシステム製品は出
版社市場でトップシェアを占めており,原告製品は既に全国の小売書店10
00店舗に向けて販売・採用されていると主張するが,原告商品の導入件数,
市場規模,原告製品の市場占有率を客観的に示す証拠は提出されていない。
イ また,原告は,業界新聞である「文化通信BB」において原告製品が紹介
されたことを指摘するが,「文化通信BB」の発行部数等は明らかではなく,
その記事の内容は原告製品を紹介する内容を含むものの,原告製品の表示画面は一切掲載されていない(甲18)。\n同様に,原告は,日販が平成25年8月1日付け業界新聞において書店向
けPOSレジと原告製品を連携させることを発表し,系列の書店1000店に合計1300台を販売することを表\明したと主張するが,同記事で導入が表明されているのはPOSレジであり,原告製品が書店に導入されたことを裏付けるものではない上,同記事には原告製品の表\示画面は一切表示されて\nいない(乙23)。
ウ さらに,原告は,「文化通信」及び「新文化」のウェブサイトの上段に,バ
ナー広告を掲載したことや,「BOOK EXPO」や「書店大商談会」に出
展し,広報を行っていることを根拠に,原告表示画面には周知性がある旨主張する。\n しかし,証拠(乙22)によれば,文化通信社のウェブサイト上に掲載さ
れたバナー広告は,「BOOK ANSWERシリーズ」という製品名を表示するものにすぎず,原告製品の表\示画面は一切示されていない。また,「BOOK EX
PO」や「書店大商談会」への出展についても,その規模や具体的な出展・
宣伝態様などは一切明らかではない。
エ 以上によれば,原告画面表示が,遅くとも平成25年末までに,出版業界及び書店業界において広く認識されていたと認めることはできない。\n
(3) 特別顕著性について
原告は,原告表示画面には特別顕著性が認められる旨主張し,その根拠として,1)業務統合型のシステムを構築するという設計思想に基づき,仕入部門で使用するメニューと店売部門で使用するメニューが統合されている点や,2)発
注に当たって,商品分析の画面から一旦発注画面に移行することなく,商品分
析の画面から即発注することができる点,3)帳票を作成するという発想がなく,
画面上に表示して見るということを基本にしている点,4)独自の用語を用いて
いる点に,他社製品にはない原告製品の独創的な特徴がある旨主張する。
しかし,上記1)〜3)の点は,いずれも,原告製品の設計思想や機能としての独自性を指摘するものにすぎず,表\示画面自体の顕著な特徴を基礎付けるものということはできない。また,上記4)の点についても,原告製品の表示画面に用いられた用語は,一般的な書店業務に用いられているものがほとんどであり,\n画面全体の特別顕著性を基礎付けるに足りる独創的を有すると認めることは
できない。
したがって,原告表示画面が同種製品と異なる顕著な特徴を有しているということはできない。\n
(4) 以上のとおり,原告表示画面には,周知性及び特別顕著性のいずれも認められないから,原告表\示画面が「商品等表示」に該当するということはできない。\nしたがって,その余の点を判断するまでもなく,不正競争防止法に関する原
告の主張についても理由がない。
◆判決本文
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2022.01. 5
平成31(ワ)2534 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟 令和3年11月11日 大阪地方裁判所
自然保護センターのインターネット展示システムについて著作物性があるかが争われました。大阪地裁は著作物性無しと判断しました。
ア 著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,\n美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(法2条1項1号)。したがって,著作
物といえるためには,思想又は感情を表現したものであること,その表\現に創作性
があること,文学,学術,美術又は音楽の範囲に属するものであることを要する。
イ 前提事実及び前記認定に係る各事実によれば,原告は,旧展示システムから
の移行として本件展示システムを構築するに当たり,本件購入契約及び本件構\築契
約に基づき,本件展示システムの機能を実現するために必要な機能\を選定し,性能,\nセキュリティ対策ないし費用等の面から必要かつ最適と考えるサーバ機器及びネッ
トワーク機器等を,その組合せも踏まえた上で選定し,各機能等を分担させて本件\n展示システムを構築することとして,本件サーバ設計書を改訂し,これに基づき,\n本件展示システムを構築したことが認められる。\nもっとも,本件サーバ設計書と本件展示システム自体とはその表現形式を異にす\nることから,本件展示システムの著作物性の有無は,本件サーバ設計書の著作物性
とは別個に検討する必要がある。すなわち,本件展示システム自体につき著作物性
が認められるためには,本件サーバ設計書を離れてなお固有の創作性が認められる
必要がある。
しかるに,本件展示システム自体は,いわば本件サーバ設計書の記載
を技術的・機械的に具体化したものにとどまるものというべきであって,固有の創
作性があると見るべき部分に関する具体的な主張立証はない。そうである以上,本
件展示システム自体をもって創作的な表現と見ることはできない。\nしたがって,本件サーバ設計書の表現の創作性すなわち著作物性の有無に関わり\nなく,本件展示システム自体をもって著作物ということはできない。
ウ これに対し,原告は,本件展示システムは本件サーバ設計書とは独立して外
部に表出された著作物である旨などを主張する。\nしかし,本件展示システムが本件サーバ設計書の記載のとおりに構築されたもの\nであることは,原告自身も認めるところである。原告が本件展示システム自体の創
作性の表現として縷々主張するものも,本件サーバ設計書の記載に基づき実現され\nているものと理解されるのであって,前記のとおり,これを離れて本件展示システ
ムに固有の創作性があると見るべき部分についての具体的な主張立証はない。また,
本件保守管理仕様書には「生物情報データベースフォーマット,及び,WebGIS」
の著作権が原告に帰属する旨の記載があるものの,著作物性の有無は当事者間の契
約条項の記載によって決定されるものではない。そもそも,上記記載が示すものと
本件展示システム自体との関係性に関する具体的な主張立証はなく,両者の異同そ
の他の関係性は不明というほかない。
その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用
できない。
(3) 小括
以上のとおり,本件展示システム自体の著作物性は認められない。したがって,
原告は,本件展示システム自体に係る著作者人格権(同一性保持権)を有しないか
ら,その余の点を論ずるまでもなく,被告に対する著作者人格権に基づく差止及び
廃棄請求権を有しない。
ア 本件サーバ設計書1頁にはネットワーク構成図等が記載されているところ\n(前記1(1)エ(イ)),本件展示システムが ADSL 回線と本件ルータを接続すること
により外部ネットワークと接続することは,本件購入仕様書及び本件構築仕様書に\nも,システム構成として記載されている。また,同頁記載の各端末に割り当てられ\nたグローバル IP アドレスは,本件サーバ設計書を見ずとも,所定の手順を履践す
ることにより確認可能なものである。また,本件サーバ設計書15頁には,「項目\n名設計」の項に本件ルータの初期パスワード及び変更後パスワードが記載されてい
るところ(前同),このうち,初期パスワードは本件説明書にも記載がある。さら
に,本件サーバ設計書17頁には,「ルータ・ファイアウォール設定コマンド」の
項の「パケットフィルタリング」に関する記載があるところ(前同),本件展示シ
ステムにおいてファイアウォール機能がパケットフィルタリングにより行われるこ\nとは,本件購入仕様書及び本件構築仕様書にも記載されている。加えて,本件ルー\nタがファイアウォール機能を有することやそのファイアウォールポリシーの詳細な\n設定情報,ルータの設定コマンド等は一般に公開されている(乙1,3〜5)。し
かも,「パケットフィルタリング」記載の設定方法は,メーカーが一般に公開して
いる設定例集(乙5)記載の設定例と,サーバの IP アドレスを異にするに過ぎな
い。
そうすると,本件展示システムにつき外部との接続を遮断するために必要な情報
のうち,本件サーバ設計書を参照しなければ被告及び外部業者が把握し得ないもの
は,本件ルータの変更後パスワード及び開放されているポート番号である。これに,
確認に所定の手順を要するIPアドレスをも含むとしても,サーバのIPアドレス及
び本件ルータの変更後パスワードは,本件展示システムに固有のものと思われるこ
とから,これらの情報が第三者との関係で秘密として保持されることにつき,原告
にとっての有用性ないし固有の利益があるとは考え難く,少なくともこれがあるこ
との具体的な主張立証はない。また,本件サーバ設計書17頁には,開放済みポー
ト番号として本件閉鎖行為により閉鎖された80,25及び53のほか,110,
143,123も記載されているが,これらも含め,いずれも代表的なポート番号\nとされるものであるから(乙14),これらの情報についても,秘密として保持さ
れることにつき原告にとっての有用性ないし固有の利益があるとは考え難い。
そうすると,被告の外部業者に対する本件開示行為(本件サーバ設計書1頁,1
5頁及び17頁の開示)につき,原告の法的に保護すべき権利ないし利益を侵害す
るものとはいえない。
したがって,本件開示行為をもって,被告による国家賠償法上の違法行為と認め
ることはできない。
イ これに対し,原告は,本件開示行為により,本件サーバ設計書記載の原告の
秘密情報を保持する権利ないし利益が侵害された旨及びこれにより本件展示システ
ムの基となっている基礎システムを使用する他の顧客のシステムについてセキュリ
ティ対策を施す必要が生じ,損害を受けた旨などを主張する。
しかし,前記のとおり,本件開示行為により開示された情報は,いずれも公開さ
れたものであるか,原告にとって有用性ないし固有の利益がある情報とはいえない。
また,損害の点についても,他の顧客に対する連絡・周知文書や対策として調達し
たとする機器の購入の裏付資料といった客観的な証拠はない。
その他原告が縷々主張する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用
できない。
◆判決本文
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2022.01. 3
令和3(ネ)10044 著作権侵害請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和3年12月8日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
公園に設置したタコの滑り台について1審は著作物ではないと判断し、知財高裁もこの判断を維持しました。
「イ 前記ア認定のとおり,本件原告滑り台は,遊具としての実用に供
されることを目的として製作されたことが認められる。
ところで,著作権法2条1項1号は,「著作物」とは,「思想又は
感情を創作的に表現したものであつて,文芸,学術,美術又は音楽の\n範囲に属するもの」をいうと規定し,同法10条1項4号は,同法に
いう著作物の例示として,「絵画,版画,彫刻その他の美術の著作物」
を規定しているところ,同法2条1項1号の「美術」の「範囲に属す
るもの」とは,美的鑑賞の対象となり得るものをいうと解される。そ
して,実用に供されることを目的とした作品であって,専ら美的鑑賞
を目的とする純粋美術とはいえないものであっても,美的鑑賞の対象
となり得るものは,応用美術として,「美術」の「範囲に属するもの」
と解される。
次に,応用美術には,一品製作の美術工芸品と量産される量産品
が含まれるところ,著作権法は,同法にいう「美術の著作物」には,
美術工芸品を含むものとする(同法2条2項)と定めているが,美術
工芸品以外の応用美術については特段の規定は存在しない。
上記同条1項1号の著作物の定義規定に鑑みれば,美的鑑賞の対
象となり得るものであって,思想又は感情を創作的に表現したもので\nあれば,美術の著作物に含まれると解するのが自然であるから,同条
2項は,美術工芸品が美術の著作物として保護されることを例示した
規定であると解される。他方で,応用美術のうち,美術工芸品以外の
量産品について,美的鑑賞の対象となり得るというだけで一律に美術
の著作物として保護されることになると,実用的な物品の機能を実現\nするために必要な形状等の構成についても著作権で保護されることに\nなり,当該物品の形状等の利用を過度に制約し,将来の創作活動を阻
害することになって,妥当でない。もっとも,このような物品の形状
等であっても,視覚を通じて美感を起こさせるものについては,意匠
として意匠法によって保護されることが否定されるものではない。
これらを踏まえると,応用美術のうち,美術工芸品以外のもので
あっても,実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離し
て,美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えてい\nる部分を把握できるものについては,当該部分を含む作品全体が美術
の著作物として,保護され得ると解するのが相当である。
以上を前提に,本件原告滑り台が美術の著作物に該当するかどう
かについて判断する。
ウ 控訴人は,本件原告滑り台は,一品製作品というべきものであり,
「美術工芸品」(著作権法2条2項)に当たり,創作性を有するから,
美術の著作物に該当する旨主張する。
そこで検討するに,1)「タコの滑り台,北欧に」との見出しの平
成23年7月7日の朝日新聞の記事(甲4)には,控訴人のB会長の
発言として「タコの滑り台は一つ一つデザインが違い,その都度設計
する。」,2)「タコの滑り台の話」と題するC作成の令和2年7月11
日の毎日新聞の記事(甲25)には,タコの滑り台について「一つ一
つが手作りで,全く同形の作品はないという。」,3)株式会社パークフ
ル作成のウェブサイトに掲載された「日本縦断!タコすべり台がある
公園特集」と題する2018年(平成30年)1月3日付けの記事
(乙24)には,タコの滑り台について「どのタコも手作りで作られ
ていて,二つとして同じ形のタコはいないんだそう!」との記載があ
る。
しかしながら,上記各証拠の記載は,いずれも,B会長の発言又
は伝聞を掲載したものであって,客観的な裏付けに欠けるものである。
他方で,前記前提事実(2)及び(3)のとおり,前田商事が全国各地から発
注を受けて製作したタコの滑り台は260基以上にわたること,前田
商事が製作したタコの滑り台は,基本的な構造が定まっており,大き\nさや構造等から複数の種類に分類され,本件原告滑り台は,その一種\nである「ミニタコ」に属するものであったことからすれば,本件原告
滑り台と同様の「ミニタコ」の形状を有する滑り台が他にも製作され
ていたことがうかがわれる。そうすると,上記各証拠から直ちに本件
原告滑り台が一品製作品であったものと認めることはできない。他に
これを認めるに足りる証拠はない。
よって,本件原告滑り台は,「美術工芸品」に該当するものと認め
られないから,控訴人の上記主張は,その前提を欠くものであって,
理由がない。
エ 控訴人は,本件原告滑り台が「美術工芸品」に当たらないとしても,
美術の著作物として保護される応用美術である旨主張する。
そこで,まず,本件原告滑り台において,実用目的を達成するた
めに必要な機能に係る構\成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美
的特性である創作的表現を備えている部分を把握できるかどうかを検\n討し,その上で,全体として美術の著作物に該当するかどうかについ
て判断する。
・・・
このように,タコの頭部を模した部分は,本件原告滑り台の中でも最
も高い箇所に設置されており,同部分に設置された上記各開口部は,滑
り降りるためのスライダー等を同部分に接続するために不可欠な構造で\nあって,滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成であると\nいえる。また,上記空洞は,同部分に上った利用者が,上記各開口部及
びスライダーに移動するために必要な構造である上,開口部を除く周囲\nが囲まれた構造であることによって,高い箇所にある踊り場様の床から\n利用者が落下することを防止する機能を有するといえる。他方で,上記\n空洞のうち,スライダーが接続された開口部の上部に,これを覆うよう
に配置された略半球状の天蓋部分については,利用者の落下を防止する
などの滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成とまではい\nえない。
そうすると,本件原告滑り台のタコの頭部を模した部分のうち,上記
天蓋部分については,滑り台としての実用目的を達成するために必要な
機能に係る構\成と分離して把握できるものであるといえる。
しかるところ,上記天蓋部分の形状は,別紙1のとおり,頭頂部から
後部に向かってやや傾いた略半球状であり,タコの頭部をも連想させる
ものではあるが,その形状自体は単純なものであり,タコの頭部の形状
としても,ありふれたものである。
したがって,上記天蓋部分は,美的特性である創作的表現を備えてい\nるものとは認められない。
そして,本件原告滑り台のタコの頭部を模した部分のうち,上記天蓋
部分を除いた部分については,上記のとおり,滑り台としての実用目的
を達成するために必要な機能に係る構\成であるといえるから,これを分
離して美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えてい\nるものと把握することはできないというべきである。
以上によれば,本件原告滑り台のうち,タコの頭部を模した部分は,
実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して,美的鑑賞
の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握で\nきるものとは認められない。
・・・
そうすると,本件原告滑り台のうち,タコの足を模した部分は,座っ
て滑走する遊具としての利用のために必要な構成であるといえるから,\n同部分は,実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して,
美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分\nを把握できるものとは認められない。
・・・
前記(ア)ないし(ウ)のとおり,本件原告滑り台を構成する各部分にお\nいて,実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して,
美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部\n分を把握することはできない。
そして,上記各部分の組合せからなる本件原告滑り台の全体の形状に
ついても,美的鑑賞の対象となり得るものと認めることはできないし,
また,美的特性である創作的表現を備えるものと認めることもできない。\nしたがって,本件原告滑り台が美術の著作物に該当するとの控訴人の
主張は,採用することができない。
・・・
「(カ) また,控訴人は,応用美術であっても「実用目的を達成するため
に必要な機能に係る構\成と分離して,美術鑑賞の対象となり得る美的
特性を備えている部分を把握できるもの」については「美術の著作物」
として保護され得るという判断基準によるとしても,「実用目的を達
成するために必要な機能に係る構\成と分離して」とは,その構成部分\nを物理的に取り除くというのではなく,実用品として必要な機能を果\nたす構成を観念的に捨象して,創作物をみることを意味すると解すべ\nきであり,本件原告滑り台を滑り台としての機能を取り去ってみたと\nき,その形状は,Aが彫刻家としての思想又は感情を創作的に表現し\nたものであり,抽象芸術として十分に鑑賞の対象になり得るものであ\nるから,美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているとして,美
術の著作物に該当する旨主張する。
しかしながら,本件原告滑り台は,遊具としての実用に供されるこ
とを目的として製作された作品である以上,これが美術の著作物に該
当するか否かを判断するに当たっては,実用品である滑り台としての
機能を果たす構\成を観念的に捨象して検討することはできないから,
控訴人の上記主張は,採用することができない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和1(ワ)21993
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