YouTube動画におけるテロップについて、著作物と認定され、約24万円の支払いを認めました。
(1) 前提事実(第 2 の 1)、証拠(甲 8〜10)及び弁論の全趣旨によれば、本件動
画は、動物等のイメージ画像等を繋ぎ合わせたスライドショー、BGM、本件テロッ
プ及びこれを朗読したナレーションによって構成されるところ、スライドショー及\nび BGM のみではストーリー性が乏しく、本件動画の内容を正しく把握することは
困難であると認められる。その意味で、本件テロップ及びこれを朗読したナレーシ
ョンは、その余の構成部分に比して、本件動画の中で重要な役割を担うものといえ\nる。また、このような役割を担う本件テロップの内容は、男性 2 人が群れを離れた
野生のライオンを保護し育てた後、野生動物の保護地区に戻したことや、後に男性
らの 1 名がこの保護地区を訪れた際の当該ライオンとの再会の模様等の一連の出来
事に関し、推察される各主体の心情等を交えて叙述したものである。表現方法につ\nいても、本件テロップは、動画視聴者の興味を引くことを意図してエピソード自体\nや表現の手法等を選択すると共に、構\成や分量等を工夫して作成されたものといえ
る。
したがって、本件テロップは、その作成者である原告の思想及び感情を創作的に
表現したものであり、言語の著作物と認められる。\n
(2) 被告は、本件テロップと同様の文章の構成により本件テロップと同じエピソ\
ードを紹介するインターネット上の記事は本件テロップの公開前から散見されるな
どとして、本件テロップの著作物性は認められない旨主張する。
証拠(乙 1〜4)によれば、本件テロップの公開前から、男性 2 人が野生のライオ
ンを育て、保護地区に戻したことや、後に男性が保護地区を訪れた際の当該ライオ
ンとの再会の模様等の一連の流れに関して、本件テロップと共通性を有する少なく
とも 4 つの記事がインターネット上で公開されていることが認められる。そのうち
の 1 つの内容は、おおむね別紙「既公開記事の内容」記載のとおりであり、本件テ
ロップとその公開前から存在する記事とでは、アイデアないし事実を共通にする部
分があると認められる。しかし、その具体的な表現を比較したとき、各主体の心情\nその他の表現の内容及び方法においてこれらは表\現を異にし、本件テロップにおい
ては、上記既存の記事には見られない創作性が発揮されているといってよい。した
がって、この点に関する被告の主張は採用できない。
2 争点 1-2(複製権、翻案権及び公衆送信権侵害の有無)
本件テロップと本件記事の各内容を比較すると、本件記事には、本件テロップと
完全に一致する表現が多数含まれる。他方、相違する部分は、句読点の有無や助詞\nの違い、文言の一部省略等の僅かな相違のほか、例えば、本件テロップには、「ドイ
ツ出身のCさんは幼い頃からずっと動物を大切に思ってきました。」とあるのに対
し、本件記事には、「この感動のストーリーは 2 人の人間から始まります。その 1 人
がCさん。Cさんはドイツ出身。幼い頃よりずっと動物を大切に思ってきました。」
とあるなどの相違部分が存在する。これらの相違部分は、表現の手法等に若干の違\nいが見られるものの、内容的には、本件テロップの表現を若干修正したり、要約又\nは省略したり、前後の表現を入れ替えるなどしているにとどまり、実質的にほぼ同\n一の内容を表現したものといえる。\n複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製する
ことをいうところ(著作権法 2 条 1 項 号)、著作物の再製とは、既存の著作物に
依拠し、これと同一のものを作成し、又は、具体的表現に修正、増減、変更等を加\nえても、新たに思想又は感情を創作的に表現することなく、その表\現上の本質的な
特徴の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を\n直接感得できるものを作成する行為をいうものと解される。また、翻案とは、既存
の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体\n的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表\現するこ
とにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得でき\nる別の著作物を創作する行為をいうものと解される(最高裁平成 11 年(受)第 922
号同 13 年 6 月 28 日第一小法廷判決・民集 5巻 4 号 837 頁参照)。
本件記事は、記事中に本件動画が埋め込まれていること(甲 4)や、上記のとおり、本件テロップと完全に一致する表現を多数含み、相違する部分も、句読点の有無等の僅かな形式的な相違や本件テロップの表\現の僅かな修正、要約、前後の入れ替え等にとどまり、実質的にほぼ同一の内容を表現したものであることに鑑みると、本件テロップに依拠したものと認められると共に、著作物である本件テロップの表\現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者がその特徴を直接感得できるものと認められる。したがって、被告が本件記事を被告サイト上に投稿する行為は、原告の本件テロップに係る複製権又は翻案権を侵害するものであると共に、本件記事を送信可能化するものとして公衆送信権を侵害するものと認められる。また、本件記事が本件テロップに依拠していることから、上記著作権侵害行為につき、被告には少なくとも過失が認められる。これに反する被告の主張は採用できない。以上より、原告は、被告に対し、著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権)侵害の不法行為に基づき、損害賠償請求権を有することが認められる。\n
3 争点 1-3(原告が本件テロップの著作権を主張することの信義則違反の有無)
被告は、原告が第三者の著作権を侵害して作成した動画による収益が減少したと
して損賠賠償を請求し、また、本件動画全体としては請求が認められない可能性が\nあるため、本件テロップのみを対象として権利侵害を主張しているとして、原告の
請求が信義則に反する旨主張する。
しかし、そもそも、本件動画につき第三者の著作権を侵害して作成されたもので
あることを認めるに足りる的確な証拠はない。その点を措くとしても、本件テロッ
プは独立した表現物として把握し得るものであること、本件記事もそのような本件\nテロップに依拠して作成されたものとみられることに鑑みると、原告が本件テロッ
プの著作権侵害を主張することをもって信義則に反するということはできない。こ
の点に関する被告の主張は採用できない。
・・・
4 争点 2(原告の損害)
(1) 認定事実
前提事実、証拠(甲 14〜19(17 については枝番を含む。)、乙 11〜14)及び弁論
の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告は、令和 2 年 6 月 日に本件動画を投稿した。YouTube では動画の再生
回数等に応じて動画投稿者に収益が支払われるところ、上記投稿日から同年 月
日までの本件動画の再生回数は約 680 万 5000 回、推定収益は 309 万 6740 円で
あった。また、推定収益の推移は別紙「推定収益の推移データ」のとおりであり、
上記投稿日から同年 11 月 30 日までの推定収益は 379 万 4863 円であった。
イ 令和 2 年 7 月 27 日、被告は本件記事を投稿して公開したが、同年 9 月 30 日
まで閲覧者はおらず、その後、原告の申入れを受けて本件記事を削除した同年 11 月
までの本件記事の閲覧回数は 154 回であった。
ウ 作家等文芸を職業とする者の職能団体であり、著作権管理事業を行う日本文\n藝家協会は、その著作物使用料規程である本件規程により、著作物を書籍として複
製し、公衆に譲渡する場合の使用料につき、本体価格の 15%に発行部数を乗じた額
を上限として利用者と協会が協議して定める額としている。
エ 原告は、本件訴訟に先立ち、本件記事につき発信者情報開示請求訴訟を提起
して発信者情報の開示を受けたところ、その際、原告は、弁護士に訴訟追行を委任
し、弁護士費用 44 万円(消費税込)、実費 1 万 4194 円を支払った。
(2) 逸失利益について
ア 主位的主張について
上記認定のとおり、本件記事の閲覧回数は、同年 月 1 日以降本件記事が削除
されるまでの間の 154 回にとどまる。このことと、本件動画の再生回数及び推定収
益、とりわけ推定収益の推移の状況に鑑みると、このような本件記事の投稿と本件
動画の再生回数ないし収益の減少との間に因果関係を認めることはできない。した
がって、この点に関する原告の主張は採用できない。
イ 予備的主張について\n
原告は、本件記事により被告が得た収益の額ではなく、本件動画の経済的価値に
本件規程を参考にした仮想使用料率を乗じて、一回的な給付としての「著作権の行
使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法 114 条 3 項)を算出すべき
旨主張するものと理解される。他方、被告は、このような原告の主張を前提としつ
つ、本件記事により被告が得た収益の額を本件動画の経済的価値(ただし、その算
定対象期間は原告の主張と異なる。)に加算したものに仮想使用料率を乗じて「著作
権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を算出すべき旨を主張する。そ
こで、本件においては、本件動画の経済的価値を基礎とし、これに仮想使用料率を
乗ずることによって、一回的な給付としての「著作権の行使につき受けるべき金銭
の額に相当する額」を算出することとする。
まず、本件動画の経済的価値は、本件記事の投稿期間とは直接の関わりがないと
思われることから、原告の主張のとおり、本件動画の投稿日から本件記事の削除日
までの収益額 379 万 4863 円をもって本件動画の経済的価値とするのが相当である。
他方、上記本件動画の経済的価値及び本件規程の内容を参酌すると共に、本件テロ
ップは、本件動画の中で重要な役割を担うものではあるものの、画像等と一体とな
って本件動画を構成するものであること、ここでの仮想使用料率は著作権侵害をし\nた者との関係で事後的に定められるものであることその他本件に現れた一切の事情
を考慮すれば、仮想使用料率については 3%程度とみるのが相当である。そうする
と、本件テロップに係る「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」(著作権法 114
条3項)は、12 万円をもって相当とすべきである。これに反する原告及び被告の主
張はいずれも採用できない。
(3) 発信者情報の取得に要した費用
ウェブサイトに匿名で投稿された記事が不法行為を構成し、被侵害者が損害賠償\n請求等の手段を取ろうとする場合、被侵害者は、侵害者である投稿者を特定する必
要がある。このための手段として、非侵害者には、特定電気通信役務提供者の損害
賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律により発信者情報の開示を請求
する権利が認められているものの、これを行使するためには、多くの場合、訴訟手
続等の法的手続を利用することが必要となる。その際、手続遂行のために、一定の
手続費用を要するほか、事案によっては弁護士費用を要することも当然あり得る。
そうすると、これらの発信者情報開示手続に要した費用は、当該不法行為による損
害賠償請求の遂行に必要な費用という意味で、不法行為との間で相当因果関係のあ
る損害となり得るといってよい。
本件では、上記認定のとおり、原告は、発信者情報開示請求訴訟に係る弁護士費
用 44 万円(消費税込)及び実費 1 万 4194 円の合計 4万 4194 円を支出した。発
信者情報開示手続の性質・内容等を考慮すると、このうち 万円をもって被告の
不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
◆判決本文
P-Pソフト「BitTorrent」をインストールしたコンピュータの発信者情報開示請求事件です。裁判所は、本件発信者によるHandshakeに係る情報は、\n「特定電気通信」に該当すると、開示を認めました。
ア 本件調査会社は、原告から指定されたコンテンツの品番を含むファイルを
トラッカーサイトで検索し、著作権侵害が疑われるファイルのハッシュ値
(データ〔ファイル〕を特定の関数で計算して得られる値のこと。ファイル
からハッシュ値は一意に定まるので、ファイルの同一性確認のために用いら
れる。)を取得し、本件検知システムに登録した。
イ 本件検知システムは、上記経緯により同システムの監視対象となった上記
ファイルのハッシュ値について、BitTorrentネットワーク上で監
視を行った。具体的には、本件検知システムは、トラッカーサーバーに対し、
上記ファイル(全部又は一部をいう。以下1において同じ。)のダウンロー
ドを要求し、当該ファイルをダウンロードできる(所持している)ピアのI
Pアドレス、ポート番号等のリストをトラッカーサーバーから受け取って、
本件検知システムのデータベースに記録した(別紙動画目録記載の「IPア
ドレス」及び「ポート番号」欄は、当該IPアドレス及びポート番号である。)。
そして、本件検知システムは、上記リストを受け取った後、同リストに載
っていたユーザーに接続をして、同ユーザーが応答することの確認(Han
dshake)を行っており、別紙動画目録記載の「発信時刻」欄の日時は、
当該Handshake完了時のものである。
もっとも、本件検知システムは、上記Handshakeの時点において、
上記ユーザーが保有している上記ファイルを実際にダウンロードしていな
いものの、上記時点において上記ユーザーから返信された上記ファイルのハ
ッシュ値によって、実際に上記ユーザーが上記ファイルを所持していること
の確認を行っている。そのため、本件検知システムは、上記時点において直
ちに上記ユーザーから上記ファイルのダウンロードができる状態にあった
ことになる。
ウ なお、BitTorrentにおいて、ファイルをダウンロードするよう
になったユーザーは、BitTorrentクライアントソフトを停止させ\nるまで、トラッカーサーバーに対し、当該ファイルが送信可能であることを\n継続的に通知し、他のユーザーからの要求があれば、当該ファイルを送信し
得る状態になっている。
(2) 権利侵害の明白性
前記前提事実記載のBitTorrentの仕組み及び上記認定事実記載
の本件検知システムの仕組み等によれば、本件発信者は、本件動画をその端末
にダウンロードして、本件動画を不特定多数の者からの求めに応じ自動的に送
信し得るようにした上、別紙動画目録記載のIPアドレス及びポート番号の割
当てを受けてインターネットに接続し、Handshakeの時点である別紙
動画目録記載の「発信時刻」欄記載の日時において、不特定の者に対し、Bi
tTorrentのネットワークを介して本件動画に係る送信可能化権が侵\n害されその状態が継続していることを通知したものと認めるのが相当である。
そして、当事者双方提出に係る証拠及び弁論の全趣旨によっても、侵害行為の
違法性を阻却する事由が存在することをうかがわせる事情を認めることはで
きない。
これらの事情を踏まえると、本件発信者は、Handshakeの時点にお
いて、不特定の者に対し、BitTorrentのネットワークを介して本件
動画に係る送信可能化権が侵害されその状態が継続していることを通知して\nいるのであるから、本件発信者によるHandshakeに係る情報は、プロ
バイダ責任制限法5条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」に該当する
ものと解するのが相当である。また、本件発信者によるHandshakeに
係る情報は、上記のとおり、不特定の者において、本件動画に係る送信可能化\n権が侵害されその状態が継続していることを確認する上で、必要な電気通信の
送信であるといえるから、「特定電気通信」にも該当するものと解するのが相
当である。
(3) 被告の主張
ア 被告は、Handshakeは応答確認にすぎず、本件動画のアップロー
ド又はダウンロードではないから、Handshakeに係る情報は、送信
可能化権の侵害に係る発信者情報には当たらないと主張する。しかしながら、\n本件発信者が、Handshakeの時点において、不特定の者に対し、本
件動画に係る送信可能化権が侵害されその状態が継続していることを通知\nしていることは、上記において説示したとおりであり、当該事実関係を前提
とすれば、Handshakeに係る情報が「権利の侵害に係る発信者情報」
に該当するものと認めるのが相当である。したがって、被告の主張は、採用
することができない。
また、被告は、本件発信者は、Handshake時までに、本件動画の
ファイルのピースさえ保有していない可能性があると主張する。しかしなが\nら、前記認定事実によれば、確かに、本件検知システムは、Handsha
keの時点において、ユーザーが保有しているファイルを実際にダウンロー
ドしていないものの、本件検知システムは、上記時点において上記ユーザー
から返信された上記ファイルのハッシュ値によって、実際に上記ユーザーが
上記ファイルを所持していることの確認を行っていることが認められる。そ
うすると、本件発信者は、Handshakeの時点までに、少なくとも当
該ファイルのピースを所持しているものと推認するのが相当であり、これを
覆すに足りる証拠はない。したがって、被告の主張は採用することができな
い。
イ その他に、被告提出に係る準備書面を改めて検討しても、上記認定に係る
本件検知システムの仕組み等を踏まえると、被告の主張は、上記判断を左右
するに至らない。したがって、被告の主張は、いずれも採用することができ
ない。
(4) 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、損害賠償請求を予定し\nていることが認められることからすると、原告には本件発信者情報の開示を受
けるべき正当な理由があるものといえる。
(5) したがって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、
本件発信者情報の開示を求めることができる。
◆判決本文