2019.11.26
平成30(ワ)14843 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 令和元年9月18日 東京地方裁判所
写真の著作物が無料でアップロードされたとして、約30万円の損害賠償が認められました。
本件各写真は,本件各商品を販売するために撮影されたものであると認めら
れるところ(甲33),以下のとおり,いずれも,商品の特性に応じて,被写体の
配置,構図・カメラアングルの設定,被写体と光線との関係,陰影の付け方,背景\n等の写真の表現上の諸要素につき相応の工夫がされており,撮影者の思想又は感情\nが創作的に表現されているということができる。\n
ア すなわち,本件写真1ないし4は,ト音記号,楽譜又は楽器の柄のネクタイ
を被写体とするものであり,ネクタイの下端部を手前にして波打つように配置され,
背景はネクタイの下端部が配置された写真下部を白色,写真上部を暗い灰色又は黒
色とし,陰影が明確に付されるなどして,ネクタイの柄や質感を視覚的に認識しや
すいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされているという
ことができる。
イ 本件写真5ないし10は,弦楽器の柄のコインケース等の商品を被写体とす
るものであり,本件写真5,7,9は,商品を中央に配置して全体を撮影したもの,
本件写真6,8,10は,柄の部分を大きく撮影したものであって,商品の配置の
仕方や陰影の付し方により,商品の質感や弦楽器の柄を視覚的に認識しやすいもの
となっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされているということがで
きる。
ウ 本件写真11ないし40は,楽器を演奏する動物等の置物を被写体とするも
のであり,本件写真11,14,17,20,23,26,29,32,35,3
8は,商品の前方を正面から撮影したもの,本件写真12,15,18,21,2
4,27,30,33,36,39は,商品の後方を斜め上から撮影したもの,本
件写真13,16,19,22,25,28,31,34,37,40は,動物等
の顔を斜め上から大きく撮影したものであって,背景は緑色,白色又はそれらのグ
ラデーションとし,陰影を付すなどして,動物等の表情や演奏態様等を視覚的に認\n識しやすいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされている
ということができる。
エ 本件写真41ないし44は,鍵盤等の柄のフロアマットを被写体とするもの
であり,本件写真41及び43は,四角形状の商品の形態に沿って商品のみを大き
く撮影したもの,本件写真42及び44は,その一部を大きく撮影したものであっ
て,生地の質感や鍵盤等の柄を視覚的に認識しやすいものとなっており,商品の販
売用の写真として相応の工夫がされているということができる。
オ 本件写真45ないし50は,写譜用のペンを被写体とするものであり,本件
写真45,47,49は,商品を中央に配置して全体を撮影したもの,本件写真4
6,48,50は,ペンの先端部分を大きく撮影したものであって,商品に光を反
射させ,背景を白色とし,陰影を付すなどして,商品の質感や細かい模様を視覚的
に認識しやすいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされて
いるということができる。
カ 本件写真51及び52は,写譜用のペンの替芯(5本)及びそのケースを被
写体とするものであり,ケースから突出する替芯につき長さを変えた状態で大きく
撮影したものであって,背景を白色とし,陰影を付すなどして,商品の形状を視覚
的に認識しやすいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされ
ているということができる。
キ 本件写真53ないし61は,トランペット等の楽器の柄の黒色クリアファイ
ルを被写体とするものであり,本件写真53,55,57,59は,商品を中央に
配置して全体を撮影し,柄の部分に光を反射させ,背景は黒色を基調とし,陰影を
付すなどしたもの,本件写真54,56,58,60は,柄の部分を大きく撮影し
たものであって,トランペット等の楽器の柄を視覚的に認識しやすいものとなって
おり,商品の販売用の写真として相応の工夫がされているということができる。ま
た,本件写真61は,商品を中央に配置して柄のない方向から全体を撮影したもの
であり,背景を白色と黒色のグラデーションとし,陰影を付すなどして,商品の形
状を視覚的に認識しやすいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工
夫がされているということができる。
ク 以上のとおり,本件各写真には,商品の販売用の写真として相応の工夫がさ
れており,撮影者の思想又は感情が創作的に表現されているということができる。\n
(2)被告は,本件各写真が著作物であることを争い,取り分け,本件写真42な
いし44は商品を上から撮影しているだけであり,本件写真45,46,50ない
し52は商品の販売用の写真として一般的なものであるから,これらに創作性が認
められないことは明らかである旨主張するが,前記のとおり,本件各写真には,商
品の販売用の写真として相応の工夫がされており,撮影者の思想又は感情が創作的
に表現されているということができるのであって,被告の上記主張は採用すること\nができない。
(3) 以上によれば,本件各写真には創作性が認められ,前記前提事実(2)のとおり,
これらは原告代表者によって原告の発意に基づき職務上作成されたものであるから,\nいずれも,原告の著作物であると認められる。
前記のとおり,被告は,原告の著作権(複製権,公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害しており,これらについて,少なくとも,過失があると認められるから,不法行為による損害賠償責任を負っているところ,原告は,本件\n各写真の使用料相当額に係る損害(著作権法114条3項)として,著作権侵害に
係るものにつき合計46万3800円,著作者人格権侵害に係るものにつき合計4
万6800円の損害が生じたと主張する。
(2) そこで検討すると,前記のとおり,被告は,原告が本件各写真を原告ウェブ
サイトに掲載することによって販売していた本件各商品を,本件各写真と実質的に
同一の被告各写真を被告ウェブサイトに掲載することによって販売していたもので
あり,このような被告各写真の使用態様に加えて,被告各写真の掲載期間は長いも
ので1年6か月にわたること,証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば,画像素材
の販売業者である「ペイレスイメージズ」のウェブサイトでは,画像素材の単品で
の購入価格が432円から5400円までとされていると認められることなど,本
件訴訟に現れた事情を考慮すると,本件各写真の複製及び公衆送信につき受けるべ
き金銭の額(著作権法114条3項)は,写真1枚当たり5000円と認めるのが
相当である。もっとも,原告の氏名表示権が侵害されたことによって,別途の財産\n的損害が生じたと認めるに足りない。
(3)ア これに対し,原告は,アマナイメージズの価格表において,画像素材1点\n当たりの使用期間1年までの使用単価は3万8880円,使用期間3年までの使用
単価は6万0480円,無断使用した場合には使用料金の200%を請求できると
されていることを主張するが,弁論の全趣旨によれば,アマナイメージズは,画像
素材のレンタルや販売を業とする株式会社であると認められるのに対し,本件各写
真はレンタルや販売を目的として撮影されたものではないから,原告が主張する価
格表について本件各写真の複製及び公衆送信に係る著作権法114条3項所定の損\n害額の算定に当たって大きく考慮することは相当とはいえない。
イ 他方で,被告は,(1)本件各写真の創作性の程度の低さなどに照らせば,販売
用の広告写真1枚当たりの使用料相当額はせいぜい1000円程度である,(2)被告
において学遊社に本件各写真と同じカットでプロカメラマンによる写真撮影の見積
りを依頼したところ,ライティングを施すことを含む見積額が8万円であったから,
本件各写真の使用料相当額に係る損害は高くても合計8万円である旨主張する。
しかしながら,(1)については,前記のとおり,本件各写真は,商品の販売用の写
真として相応の工夫がされているということができるから,創作性の程度が低いこ
とを理由として著作権法114条3項所定の損害額を著しく低額にすべきであると
いうことはできない。
(2)については,証拠(甲41,乙3)及び弁論の全趣旨によれば,学遊社は,被
告から提供を受けた本件各写真をサンプルとして参照し,本件各写真に対応する6
1カットの写真を半日でまとめて撮影した場合の撮影料を見積もったものと認めら
れるところ,学遊社の見積りは,本件各写真をサンプルとして参照しているため,
被写体の配置,カメラアングル・構図等を検討する必要はなく,また,半日でまと\nめて撮影しているため,複数日にわたって撮影されたと認められる本件各写真と比
べて撮影費用が低額となっているとみる余地があることなどからすれば,見積額が
8万円であるからといって,本件各写真の複製及び公衆送信に係る著作権法114
条3項所定の損害額が同程度であるということはできない。
(3) そうすると,本件各写真の複製及び公衆送信につき受けるべき金銭の額(著
作権法114条3項)は,合計30万5000円(5000円×61枚)であると
認められる。
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2019.10.30
令和1(ネ)10045 標章使用差止反訴請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和元年10月23日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
ピクトグラムの使用合意があること、およびその複製又は翻案には該当しないとした1審の判断が維持されました。複製又は翻案には該当しない理由は1審と同じです。
まず,控訴人が主張する反訴原告主張合意については,これを記載した
契約書等の書面は作成されていない。また,控訴人が主張する平成14年
頃の反訴原告主張合意の成立にかかる事実経過(前記第2の5(控訴人の
主張)ア)も,これを裏付ける客観的な証拠は見当たらない。
ア そこで,控訴人と被控訴人との間の取引経過についてみると,各業態
の第1号店を出店する際の請求書をみても,店舗デザイン設計料とのみ
あるだけで,反訴原告標章であるロゴや反訴原告ピクトグラムに係る制
作料,使用料については何ら記載されていない。そして,ロゴやピクト
グラムについては,ハードオフ,オフハウス,モードオフ,ガレージオ
フ,ホビーオフ,リカーオフといった各業態の第1号店を出店した(ハ
ードオフのピクトグラムについては,平成7年頃に使い始めた)後は,
コーナーの拡大などの必要に応じて更なるピクトグラムの制作・納品を
しつつも,基本的にはそれまでに制作したロゴやピクトグラムを用いて
店舗デザインの設計等を行うのが恒例となっており,各業態によって差
はあるものの,制作したロゴ及びピクトグラムはその後の出店店舗でも
用いられていた。また,平成29年4月26日に請求するまで(前記1
において引用する原判決第3の1(15)),20年以上の長期間にわたっ
て,控訴人は,反訴原告標章であるロゴや反訴原告ピクトグラムの使用
料を店舗デザイン設計(監理)料と別に請求したことはなく,制作料に
ついても,その請求を裏付ける書面は基本的に存在しない。
ただし,控訴人から被控訴人に対する制作料の請求については,平成
16年3月22日の制作料(基本デザイン料)の請求(前記1⑴におい
て改めた原判決引用部分第3の1(10))及び平成28年3月の制作料の請
求(前記1において引用する原判決第3の1(12)エ)が存在する。しか
しながら,仮に反訴原告主張合意が存在したのであれば,かかる請求が
できないことは控訴人にとって明らかであって,それにもかかわらず請
求したこと自体,それまでに作成・納品した制作料について将来も請求
できないことを認識していたからこそ,新たに作成・納品したロゴ等に
ついて,制作料の支払合意を取り付けるべく,このような行為に及んだ
と考えられるところである。なお,仮に,かかる2回の請求以外に,控
訴人が被控訴人に対し,口頭で,ロゴ等の制作料の請求をしたことがあ
ったとしても同様である。
このような状況に照らすと,将来的に,控訴人,被控訴人の間におい
て,店舗デザイン設計(監理)料等の名目で支払われた金員とは別に,
反訴原告標章及び反訴原告ピクトグラムの制作料・使用料を請求する権
利が留保されていたとは考えにくく,むしろ,これらの制作料及び使用
料の支払義務を前提とする反訴原告主張合意がなかったことが窺われる。
イ また,契約終了に当たり,控訴人が被控訴人に当初交付した書類の内
容は前記1(2)に記載のとおりであるところ,かかる記載内容からは,無
償使用許諾を前提とする反訴原告主張合意の存在というよりも,むしろ,
使用料は店舗のデザイン設計料に含まれていたとの認識が窺われる。ま
た,同書面には,制作料そのものについての言及は存在しない。
ウ 加えて,被控訴人においては,仮に反訴原告標章や反訴原告ピクトグ
ラムの使用ができなくなれば,重大な不利益が生じることが明らかであ
る。したがって,仮に反訴原告主張合意のような合意が存在するのであ
れば,これによって生じる不利益の重大性に鑑み,合意の内容を書面化
することが通常であると考えられるところ,そのような書面が存在しな
いことは既に指摘したとおりである。
エ 以上によれば,被控訴人は,店舗デザイン設計料等とは別に,ロゴや
ピクトグラムの制作料,使用料を支払う意思はなく,控訴人も,被控訴
人からの店舗デザイン設計の依頼を受ける際に,ロゴや平成7年頃以降
はピクトグラムの制作をも必要に応じて行うことを前提としつつも,こ
れらの制作料や使用料については,将来的にも被控訴人から引き続き店
舗設計業務の依頼を受けられることを期待したことから,明示的に制作
料や使用料として請求することはせずに,店舗設計業務を継続して受注
していく中で,これらについて実質的に回収を図っていこうという意向
であったと考えられる。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成29(ワ)37350
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2019.09. 2
平成29(ワ)37350 標章使用差止請求反訴事件 著作権 民事訴訟 令和元年5月21日 東京地方裁判所
ピクトグラムが表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないとして、著作権侵害が否定されました。ただ、両者の具体例は掲載されていないので詳細は不明ですが、「H君」(「H」の文字を人間に見立て,両足,顔,耳,口,両手を連\n想させる装飾を施した部分をいう。),ボックスボイテル型の瓶のシルエット(反訴原告標章5),エレキギターの黒塗りイラスト等のようです。
反訴被告標章1,2及び5の作成,使用等によって,反訴原告標章1,2
及び5についての反訴原告の複製権又は翻案権が侵害されるか否かを検討
するため,反訴被告標章1と反訴原告標章1が同一性を有する部分について
みると,これらは,深緑色の長方形(横長)の中に白いアルファベット文字
が配置されていること,そのアルファベット文字の書体,大きさ,文字間の
間隔及び配置のバランス,全ての文字が円の構成要素とされていること,「O\nFF」と「USE」のアルファベット文字の上部に三つの白丸で弧を描くよ
うな装飾が施されていることなどで共通している。
アルファベット文字について著作物性を肯定するためには,その文字自体
が鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていなければならないと解
するのが相当である。反訴被告標章1と反訴原告標章1のアルファベット文
字が反訴被告の店舗で使用等をするために様々な工夫を凝らしたものであ
ることは反訴原告が主張するとおりであるとしても,それらの工夫による反
訴被告標章1と反訴原告標章1のアルファベット文字は,いずれも「オフハ
ウス」という名称をよりよく周知,伝達するという実用的な機能を有するも\nのであることを離れて,それらが鑑賞の対象となり得るような美的特性を備
えるに至っているとは認められない。また,その余の共通点については,い
ずれもアイデアが共通するにとどまるというべきであり,仮にアイデアの組
合せを新たな表現として評価する余地があるとしても,それらはありふれた\nものであるといわざるを得ないから創作性は認められない。
したがって,反訴原告標章1と反訴被告標章1は,表現それ自体でない部\n分又は表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから,\n仮に反訴原告標章1が著作物であるとしても,反訴被告標章1を作成等する
行為は反訴原告の複製権又は翻案権を侵害するものとはいえない。また,上
記と同様の理由から,反訴被告標章2及び5を作成等する行為についても反
訴原告の複製権又は翻案権を侵害するものではない。
ウ 反訴被告ピクトグラムの作成,使用等により反訴原告ピクトグラムについ
ての反訴原告の著作権が侵害されるか否かを検討するため,反訴原告ピクト
グラムと反訴被告ピクトグラムが同一性を有する部分についてみると,反訴
原告ピクトグラムと反訴被告ピクトグラムは,いずれも,反訴被告で取り扱
う商品である具体的な工業製品の外観を示した図といえるものである。そし
て,これらは,Tシャツの前部中央に表示された表\現が異なる反訴原告ピク
トグラム4−01ないし4−03及び反訴被告ピクトグラム4−01ない
し4−03を除く全てについて,具体的な形状が異なる製品を選択してこれ
を表現したものである。したがって,反訴原告ピクトグラムと反訴被告ピク\nトグラムは,基本的に,同じジャンルの製品を選択してその外観を表してい\nる点において共通するにとどまるといえるものである。また,反訴原告ピク
トグラムと反訴被告ピクトグラムにおいて,選択された製品の配置の角度,
複数の製品の種類の選択,レイアウトにおいて共通するものはあるが,これ
らは,いずれも,アイデアであるか同種の表現を行うに当たり通常考え得る\nありふれた表現といえるものであり,反訴原告ピクトグラムと反訴被告ピク\nトグラムが創作性のある部分において共通するとはいえない。また,反訴原
告ピクトグラム4−01ないし4−03及び反訴被告ピクトグラム4−0
1ないし4−03におけるTシャツの形状は概ね同じであるが,これらは極
めてありふれたTシャツの形状であり,その形状についての表現に創作性が\nあるとは認められない。
これらを考慮すると,反訴原告ピクトグラムと反訴被告ピクトグラムは,
表現それ自体でない部分又は表\現上の創作性がない部分において同一性を
有するにすぎないから,仮に反訴原告ピクトグラムの全部又はその一部が著
作物であるとしても,反訴被告ピクトグラムを作成等する行為は反訴原告の
複製権又は翻案権を侵害するものではない。
◆判決本文
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2019.07.22
平成30(ワ)16791 著作権に基づく差止等請求事件 著作権 民事訴訟 令和元年5月15日 東京地方裁判所
問題集は、編集著作物に該当する、解説は著作物と判断されましたが、本件解説の本質的特徴の同一性に欠けるとして、著作権侵害ではないと判断されました。
複製については、「被告は,実名は明らかにできないが,原告の経営する塾に在籍する複数の生徒から問題の原本を入手し解説講義を行っており,被告が本件問題を複製した事実は一切なく,生徒から任意に本件問題の原本を入手したものである。」と主張しています。
争点(1)(本件問題及び本件解説の著作物性の有無)について
(1) 証拠(甲4の1,5の1)によれば,本件問題のうち,国語Aの1は物語
文の,同2は論説文の読解問題であり,いずれも問1〜10から構成され,\n国語Bの1は物語文の,同2は説明文の読解問題であり,いずれも問1〜5
から構成されていることが認められる。\n また,証拠(甲4の2,5の2)によれば,本件解説には,解答部分,配
点部分,解説部分から構成され,解説部分には,設問ごとに,問題の出題意図,\n題材とされた文章のうち着目すべき箇所,当該箇所に係る文章の理解方法,
正解を導き出すための留意点等が記載されている。
他方,被告ライブ解説(甲1)は,本件問題について,同問題に係るテス
トの終了後に,被告の担当者等がウェブ上の動画において口頭でその解説を
するものであり,本件問題及び本件解説が画面上に表示されることはない。\n
(2) 著作権法12条は,「編集物…でその素材の選択又は配列によって創作性
を有するものは,著作物として保護する。」と規定するところ,被告は,本
件問題について,「どの部分を問題とするのか」,「何を問うのか」は問題
作成におけるアイデアにすぎないとして,本件問題は編集著作物に該当しな
いと主張する。
しかし,国語の問題を作成する場合において,数多くの作品のうちから問
題の題材となる文章を選択した上で,当該文章から設問を作成するに当たっ
ては,題材とされる文章のいずれの部分を取り上げ,どのような内容の設問
として構成し,その設問をどのような順序で配置するかについては,作問者\nが,問題作成に関する原告の基本方針,最新の入試動向等に基づき,様々な
選択肢の中から取捨選択し得るものであり,そこには作問者の個性や思想が
発揮されているということができる。本件問題についても,題材となる作品
の選択,題材とされた文章のうち設問に取り上げる文又は箇所の選択,設問
の内容,設問の配列・順序について,作問者の個性が発揮され,その素材の
選択又は配列に創作性があると認めることができる。
したがって,本件問題は編集著作物に該当する。
(3) 本件解説は,前記のとおり,本件問題の各設問について,問題の出題意図,
正解を導き出すための留意点等について説明するものであり,各設問につい
て,一定程度の分量の記載がされているところ,その記載内容は,各設問の
解説としての性質上,表現の独自性は一定程度制約されるものの,同一の設\n問に対して,受験者に理解しやすいように上記の諸点を説明するための表現\n方法や説明の流れ等は様々であり,本件解説についても,受験者に理解しや
すいように表現や説明の流れが工夫されるなどしており,そこには作成者の\n個性等が発揮されているということができる。
したがって,本件解説は創作性を有し,言語の著作物に該当するというべ
きである。
2 争点(2)(複製又は翻案該当性)について
(1) 複製について
原告は,被告が本件問題及び本件解説の複製を自ら行っているか,仮に,
自ら複製行為を行っていないとしても,保護者又は生徒をいわば手足のよう
に利用して複製をさせているのであるから,被告自身が複製を行ったと同視
し得ると主張する。
しかし,被告は,複数の原告学習塾の生徒から問題の原本を入手し解説を
行っている事実は認めるものの,問題を複製した事実は否認するところ,本
件においては,被告が自ら本件問題及び本件解説文を複製したと認めるに足
りる証拠はない。
また,被告が,指導者としての強い立場を利用し,保護者又は生徒に本件
問題等の複製を依頼し,あるいは,複製の費用を負担し,金銭や便宜を供与
するなどの働きかけをして保護者や生徒に本件問題等の複製を依頼したとの
事実を認めるに足りる証拠もない。そうすると,仮に,保護者又は生徒が本
件問題等の複製を行い,複製した本件問題の写しを被告に交付したとしても,
そのことから直ちに被告自身が複製を行ったと同視することはできない。
したがって,被告が原告の有する複製権を侵害したとの主張は理由がない。
(2) 翻案について
ア 著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,
その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的な表\現に修正,
増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することによ\nり,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得す\nることのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成11年(受)
第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁
参照)。
イ 被告ライブ解説においては,前記1(1)のとおり,本件問題の全部又は一
部の画像を表示しておらず,また,口頭で本件問題の全部又は一部を読み\n上げるなどの行為もしていない。そうすると,被告ライブ解説は本件問題
の本質的な特徴の同一性を維持しているということはできず,被告ライブ
解説に接する者が本件問題の素材の選択又は配列に係る本質的な特徴を直
接感得することができるということはできない。
したがって,被告ライブ解説が本件問題を翻案したものであるとは認め
られない。
ウ 本件解説に関し,原告は,被告ライブ解説と本件解説は同様の問題につ
いて,同じ視点から解説したものであり,同じ目的の下,同じ解答に至る
考え方を説明したものであるから,その本質的な特徴は同一であると主張
する。
しかし,原告が翻案権侵害を主張する設問について,本件解説と被告ラ
イブ解説の対応する記載を対比しても,表現が共通する部分はほとんどな\nい。例えば,国語Aの1の問5に関する本件解説と被告ライブ解説を比較
しても,共通する表現は「険のある」,「祐介」など,ごくわずかな部分に\nすぎず,被告ライブ解説が本件解説の本質的特徴の同一性を維持している
ということはできない。本件解説の他の設問に係る部分についても,本件
解説と被告ライブ解説とで表現が共通する部分はほとんど存在せず,当該\n各設問に係る被告ライブ解説が本件解説の本質的特徴の同一性を維持して
いるということはできない。
したがって,本件ライブ解説が本件解説を翻案したものであるとは認め
られない。
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2019.07.12
平成30年(ワ)第466号 著作権に基づく差止等請求事件 令和元年7月11日 奈良地方裁判所
電話ボックスを金魚鉢にみたてた現代アートについて、著作物性は認めましたが、
複製ではないと判断されました。問題の作品については判決文よりも下記写真の方がわかりやすいです。https://this.kiji.is/521862833728078945?fbclid=IwAR3SJE_DfyKsf9UNjJTXiLG1XrQs9kzhhkcDdj6XMD9DBeFvihaoK9tcon8
著作権法は,著作権の対象である著作物の定義について「思想又は感情を
創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属する\nものをいう。」(同法2条1項1号)と規定しており,作品等に思想又は感情
が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものと\nして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若しくはアイディアなど
表現それ自体ではないもの又は表\現上の創作性がないものは,著作物に該当
せず,同法による保護の対象とはならないと解される。
また,アイディアが決まればそれを実現するための方法の選択肢が限られ
る場合,そのような限られた方法に同法上の保護を与えるとアイディアの独
占を招くこととなるから,この点については創作性が認められず,同法上の
保護の対象とはならないと解される。
(2)そこで,原告作品の基本的な特徴に着目すると,1)公衆電話ボックス様の
造形物を水槽に仕立て,その内部に公衆電話機を設置した状態で金魚を泳が
せていること,2)金魚の生育環境を維持するために,公衆電話機の受話器部
分を利用して気泡を出す仕組みであることが特徴として挙げることができる。
このうち,1)については,確かに公衆電話ボックスという日常的なものに,
その内部で金魚が泳ぐ、という非日常的な風景を織り込むという原告の発想自
体は斬新で独創的なものではあるが,これ自体はアイディアにほかならず,
表現それ自体ではないから,著作権法上保護の対象とはならない。\nまた,2)についても,多数の金魚を公衆電話ボックスの大きさ及び形状の
造作物内で泳がせるというアイディアを実現するには,水中に空気を注入す
ることが必須となることは明らかであるところ,公衆電話ボックス内に通常
存在する物から気泡を発生させようとすれば,もともと穴が開いている受話
器から発生させるのが合理的かつ自然な発想である。すなわち,アイディア
が決まればそれを実現するための方法の選択肢が限られることとなるから,
この点について創作性を認めることはできない。
そうすると,上記1),2)の特徴について,著作物性を認めることはできな
いというべきである。
(3)他方,原告作品について,公衆電話ボックス様の造作物の色・形状,内部に
設置された公衆電話機の種類・色・配置等の具体的な表現においては,作者\n独自の思想又は感情が表現されているということができ,創作性を認めるこ\nとができるから,著作物に当たるものと認めることができる。
2 争点2(被告作品による原告作品の著作権侵害の有無)について
(1)被告作品と原告作品の対比
被告作品と原告作品を対比すると,次の点を指摘することができる(甲7,
22,25,26,51の1.2)。
ア 公衆電話ボックス様の造作物
原告作品と被告作品は,いずれも我が国で見られる一般的な公衆電話ボ
ックスを模した,垂直方向に長い直方体で,側面の4面がガラス張りの造
作物内部に水を満たし,その中に金魚を泳がせている。
しかしながら,原告作品は屋根部分が黄緑色様であるのに対し,被告作
品は屋根部分が赤色である。また,被告作品は実際に使用されていた公衆
電話ボックスの部材を利用しているのに対し,原告作品はこれを使用せず,
アルミサッシや鉄枠等を組み合わせて制作されている。
イ造作物内部に設置された公衆電話機
原告作品と被告作品は,いずれも上記造作物内部に棚板を二枚設置し,
上段に公衆電話機が設置されている。
しかしながら,原告作品の公衆電話機は黄緑色様であるのに対し,被告
作品の公衆電話機は灰色であり,公衆電話機のタイプも異なっている。ま
た,棚板について,原告作品は水色で,形は二段とも正方形であるのに対
し,被告作品は銀色で,下段の形は三角形である。
ウ 受話器部分
原告作品と被告作品は,いずれも受話器がハンガー部分又は本体から外
された状態で水中に浮かんでおり,受話器の受話部分から気泡が発生して
いる。
(2)検討
ア 著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであり,既存\nの著作物に依拠して作成,創作された著作物が,思想,感情若しくはアイ
ディア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表\現上の創作
性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合に
は,著作物の複製には当たらないものと解される。
イ 前記1で判示したところによれば,原告が同一性を主張する点(前記第
2の3(2)ア(ア))は著作権法上の保護の及ばないアイディアに対する主張で
あるから,原告の同一性に関する上記主張はそもそも理由がない。
なお,事案に鑑み,具体的表現内容について原告作品と被告作品との間\nに同一性が認められるか否かについて検討するに,前記(1)で指摘したとお
り,原告作品と被告作品は,1)造作物内部に二段の棚板が設置され,その
上段に公衆電話機が設置されている点,2)同受話器が水中に浮かんでいる
点は共通している。しかしながら,1)については,我が国の公衆電話ボッ
クスでは,上段に公衆電話機,下段に電話帳等を据え置くため,二段の棚
板が設置されているのが一般的であり,二段の棚板を設置してその上段に
公衆電話機を設置するという表現は,公衆電話ボックス様の造作物を用い\nるという原告のアイディアに必然的に生じる表現であるから,この点につ\nいて創作性が認められるものではない。また,2)については,具体的表現\n内容は共通しているといえるものの,原告作品と被告作品の具体的表現と\nしての共通点は2)の点のみであり,この点を除いては相違しているのであ
って,被告作品から原告作品を直接感得することはできないから,原告作
品と被告作品との同一性を認めることはできない。
◆判決本文
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2019.04. 3
平成30(ワ)27253 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成31年3月13日 東京地方裁判所(29部)
お菓子のパッケージのイラストについて、著作権の譲渡権侵害について、同一性の程度が高いとして、被告に注意義務違反があったとして過失が認定されました。
被告らは,いずれも加工食品の製造及び販売等を業とする株式会社であり,業として,被告商品を販売していたのであるから,その製造を第三者に委託していたとしても,補助参加人等に対して被告イラストの作成経過を確認するなどして他人のイラストに依拠していないかを確認すべき注意義務を負っていたと認めるのが相当である。
また,前記認定のとおり,本件イラストと被告イラストの同一性の程度が非常に
高いものであったことからしても,被告らが上記のような確認をしていれば,著作
権及び著作者人格権の侵害を回避することは十分に可能\であったと考えられる。に
もかかわらず,被告らは,上記のような確認を怠ったものであるから,上記の注意
義務違反が認められる。
◆判決本文
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