2015.11. 1
平成26(ワ)10089 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成27年9月30日 東京地方裁判所
映画の脚本が翻案かが争われました。
事実それ自体は,人の思想又は感情から離れた客観的な所与の存在であり,精神的活動の所産とはいえず,著作物として保護することはできない。ただし,歴史的事実や客観的事実であっても,これを具体的に表現したものについて,その表\現方法につき表現の選択の幅があり,かつその選択された具体的表\現が平凡かつありふれた表現ではなく,そこに作者の個性が表\れていれば,創作的に表現したものとして著作物性が肯定される場合があり得るし,客観的事実を素材とする場合であっても,種々の素材の中から記載すべき事項を選択し,その配列,構\成や具体的な文章表現に,著作者の思想又は感情が創作的に表\現され,著作物性が認められる場合もあり得る。
したがって,本件各著作物と本件映画との間で表現上の共通性を有するものについては,その共通性(同一性)を有する部分が事実それ自体にすぎないときは,複製にも翻案にも当たらないと解すべきであるし,それが,一見して単なる事実の記述のようにみえても,その表\現方法などからそこに筆者の個性が何らかの形で表現され,思想又は感情の創作的表\現と解することができるときには,複製又は翻案に当たるというべきである(知財高裁平成25年(ネ)第10027号同年9月30日判決・判時2223号98頁参照)。
また,著作権法27条は,著作物を「変形し,又は脚色し,映画化し」たりすることが「翻案」に該当することを明文で規定しているところ,そもそも言語の著作物と映画の著作物とでは,表現方法が異なり,言語の著作物を映画化した映画の著作物においては,登場人物の思考や感情などを表\現するに際し,もとになった言語の著作物の表現をそのまま使用するのではなく,登場人物の行動,仕草,表\情,構図,効果音などといった視覚的・聴覚的要素も加えた表\現が用いられることが,むしろ通常であることをも考慮した上で,本件映画の表現(描写)に接した際に,本件各著作物の表\現(著述)上の本質的な特徴を直接感得することができるか否かを判断すべきである。
・・・
(ア) エピソード3において,本件各著作物と本件映画とは,1)主人公が(元)恋人に助けを求めたこと,2)公園に駆け付けた(元)恋人が主人公の様子に驚いて,誰かに何かされたのかと聞いたこと,3)主人公はうなずくことしかできなかったこと,4)(元)恋人が,主人公が性的暴行を受けたことを知ってやり場のない怒りで物に当たる様子,5)主人公が(元)恋人に対して「ごめんなさい」と謝り続けた点及びその著述(描写)の順序において共通し,同一性がある。
(イ) 本件各著作物のエピソード3における著述中の上記同一性のある部分のうち,1)主人公が(元)恋人に助けを求めたこと,2)公園に駆け付けた(元)恋人が主人公の様子に驚いて,誰かに何かされたのかと聞いたこと,3)主人公はうなずくことしかできなかったことは,いずれも事実の記載にすぎない。一方,(元)恋人がやり場のない怒りを物にぶつける様子に対し,主人公が「ごめんなさい」と謝り続けた著述は,単にその事実を記述しただけでなく,被害に遭ってしまった悔しさ,被害者であるにもかかわらず込み上げてくる罪悪感,やるせなさを表現したものと認められる。そうすると,本件各著作物のうち,上記同一性のある部分は,原告が\n被害を受けた当事者としての視点から上記の各事実を選択し,事件後の原告の状況や原告の元恋人とのやりとりを淡々と記述することによって,原告の悔しさ,罪悪感,やるせなさ等を表現したものとみることができ,上記同一性のある部分全体として,原告の個性ないし独自性が表\れており,思想又は感情を創作的に表現したものと認められる。\n
(ウ) 以上より,本件映画のエピソード3における描写は,上記認定の表\現上の共通性により,本件各著作物の著述の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているものと認められ,本件映画におけるエピソ\ード3部分に接することにより,本件各著作物のエピソード3における著述の表\現上の本質的な特徴を直接感得することができ,本件各著作物を翻案したものといえる。
(エ) 被告は,上記同一性のある部分はいずれも事実の記載である旨主張するが,上記のとおり,事実の著述であっても,原告が,自身の上に実際に起きた自己の認識に基づく事実を選択し,上記のとおり,原告が抱いた悔しさ,罪悪感等を表現したものと認められ,その表\現には,原告の個性が表れているとみるべきであって,原告の思想又は感情を表\現したものではないということはできない。よって,被告の上記主張を採用することはできない。
◆判決本文
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2015.10.23
平成25(ワ)1074 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成27年9月24日 大阪地方裁判所
ピクトグラムについて著作物性が認められました。ただし、一部変更したものは複製・翻案ではないと判断されました。認められたのは修正費用の22万円です。
本件ピクトグラムは,実在する施設をグラフィックデザインの技法で描き,これを,四隅を丸めた四角で囲い,下部に施設名を記載したものである。本件ピクトグラムは,これが掲載された観光案内図等を見る者に視覚的に対象施設を認識させることを目的に制作され,実際にも相当数の観光案内図等に記載されて実用に供されているものであるから,いわゆる応用美術の範囲に属するものであるといえる。
応用美術の著作物性については,種々の見解があるが,実用性を兼ねた美的創作物においても,「美術工芸品」は著作物に含むと定められており(著作権法2条2項),印刷用書体についても一定の場合には著作物性が肯定されていること(最高裁判所平成12年9月7日判決・民集54巻7号2481頁参照)からすれば,それが実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えている場合には,美術の著作物として保護の対象となると解するのが相当である。
イ 本件ピクトグラムについてこれをみると(侵害が問題となっている別紙1の19個に限る。),ピクトグラムというものが,指し示す対象の形状を使用して,その概念を理解させる記号(サインシンボル)である(甲15)以上,その実用的目的から,客観的に存在する対象施設の外観に依拠した図柄となることは必然であり,その意味で,創作性の幅は限定されるものである。しかし,それぞれの施設の特徴を拾い上げどこを強調するのか,そのためにもどの角度からみた施設を描くのか,また,どの程度,どのように簡略化して描くのか,どこにどのような色を配するか等の美的表現において,実用的機能\を離れた創作性の幅は十分に認められる。このような図柄としての美的表\現において制作者の思想,個性が表現された結果,それ自体が実用的機能\を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている場合には,その著作物性を肯定し得るものといえる。
この観点からすると,それぞれの本件ピクトグラムは,以下のとおり,その美的表現において,制作者であるP1の個性が表\現されており,その結果,実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているといえるから,それぞれの本件ピクトグラムは著作物であると認められる(弁論の全趣旨)
・・・・
天保山運河の形状については,別紙4案内図では,港区は八幡屋3丁目と海岸通り3丁目を結ぶ浮島橋の取付部(八幡屋側)の凸部,及び福崎3丁目と海岸通り4丁目を結ぶ新福崎橋が表記されているが,本件地図デザインにおいては,いずれの表\記もなく,すっきりした直線となっている点で異なっている。
エ 判断
以上の事実関係を前提に別紙4案内図が本件地図デザインの複製あるいは翻案かについて検討する。
別紙4案内図は,上記イ(ア)及び(ウ)のとおり,本件地図デザインと,咲州の北側の形状,第二寝屋川から南方向に記載された二本の川の形状において共通し,この点は,被告大阪市が別紙4案内図を作成する際に参考したとする公社図面及び大阪市全図や昭和62年の全体案内図と異なっている。しかし,上記の二本の川の形状についても,一部については上記地図と似ているほか,同イ(イ)及び(エ)のとおり,別紙4案内図と
本件地図デザインとは,淀川や木津川の川筋は似ているものの,これは他の公社地図及び大阪市全図においてもほぼ同様であり,地形的に存在する川筋を客観的に記載したためにすぎず,これを形状において共通すると評価することはできない。むしろ,その余の点については,両者は異なっている。さらに,別紙4案内図は,前記ウの点で,本件地図デザインとは異なっており,かえって公社地図あるいは大阪市全図と似通っている。
このように,原告が主張する共通点のうち,別紙4案内図が本件地図デザインの特徴と共通する部分は咲州及びごく一部の川の形状についてのみであるところ,他に多数の点で相違していること,本件地図デザインが全体的に直線的な線ですっきりと描かれているのに対し,別紙4案内図がある程度地理的な曲線を簡略にせず描いていることからすれば,本件地図デザインの表現において認められるP1の個性が,別紙4案内図においてこれを感得することはできないと言わざるを得ない。\nそうすると,仮に,原告が指摘するように,ジェネシスが別紙4案内図を作成するにあたり,本件地図デザインの一部を参考にした事実があったとしても,別紙4案内図が,本件地図デザインの複製又は翻案ということはできないから,原告の本件地図デザインの著作権及び著作権侵害に基づく請求は理由がない。
◆判決本文
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2015.07.30
平成26(ワ)26770 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟 平成27年7月16日 東京地方裁判所
資格試験の予備校が発行しているテキストについて、著作権侵害か否かが争われました。東京地裁は、複製や翻案ではないと判断しました。
原告表現1は,原告書籍1に掲載された平成8年一級建築士本試験の製図問題(設計課題「景勝地に建つ研修所」)中の図面であり,原告書籍1には次の1)ないし3)の点を除いて上記問題がそのまま掲載されている(甲1,18の3,乙1)。
原告は,原告表現1と上記問題の図面とは,1)湖を表す部分,2)等高線の描き方,3)方角表示が異なっており,これらの点については原告が独自の表\現をしたものであるから,原告表現1には創作性が認められると主張する。\nそこで判断するに,1)の湖を表す部分が,上記問題の図面ではまだら状の模様であったのを,一部を切り欠いた横線とし,切り欠き部分が斜め方向に連なるような模様としている点,2)の等高線の描き方が,線の曲がり方が同図面より緩やかになっている点,3)の方角表示が同図面より細い矢印を用いている点で原告表\現1は同図面と異なっているが(別紙侵害部分対照表1参照),これらのうち水面を横線で表\示することはありふれた表現方法であると解される。また,等高線の曲がり方の相違は僅かなものであるし(同上),方角表\示を矢印で表現することは,矢印の太さにかかわらずありふれたことであり,その表\現に作成者の個性が表れているとみることは困難である。これに加え,原告書籍1は過去の本試験問題を掲載したものであり,事柄の性質上,図面を含めて問題を忠実に再現することが求められることを考慮すると,上記の各相違点を総合しても,原告表\現1につき著作権法上保護すべき創作性を認めることはできない。したがって,被告表現1が原告表\現1を機械的に複写したものであるとしても,原告の著作権を侵害することはないと解すべきである。
◆判決本文
◆表現対比資料1
◆表現対比資料2
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2015.07.22
平成26(ネ)10004 損害賠償等請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成27年6月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
プロ野球のカードゲームについて、2選手の画像は著作権侵害と判断されました。損害賠償については、利益の総額については約1500万円ですが、2選手のカードによって得られた額の立証責任は控訴人(著作権者)にあるとして、8%を控訴人の損害と認めました。また2項侵害について、2選手のカードによる利益額の認定が争われましたが、裁判所は、総額のうち2選手分がいくらかの立証責任は著作権者側にあると判断しました。
前記イaのとおり,両ゲームの中島選手の選手カードをみると,本体写真のポー
ズ及び配置,多色刷りで本体写真を拡大した二重表示部分の存在,部位や位置関\n係,背景の炎及び放射線状の閃光の描き方という具体的な表現が同一であり,これ\nによって中島選手の力強いスイングによる躍動感や迫力が伝わってくるものであっ
て,両選手カードは,表現上の本質的特徴を同一にしているものと認められ,ま\nた,その表現上の本質的特徴を同一にしている部分において思想又は感情の創作的\n表現があるものと認められる。\nこれに対し,中島選手の前記相違点のうち,1)及び2)は前記のとおり表現上の本\n質的な特徴とはいえないし(2)のチームカラーは氏名の表記下部のごく一部にすぎ\nず,目も惹かない。),3)二重表示の写真の大きさの程度の違いは,いずれもカー\nドのほぼ中央部分に,本体写真よりも大きく拡大された頭部が選手カードの縁まで
はみ出すように配置され,本体写真の頭部の上方にあり,腰よりも上の上半身のみ
が本体写真の右上部に配置されるという点では共通していることや,選手カードが
表示されるのは主に携帯電話の画面上であることも考慮すると,全体の印象を左右\nするような大きな違いとはいえない。また,4)の二重写真の色味や5)炎の色味の違
い及び閃光を強調する楕円形状の有無の違いはあるものの,控訴人ゲームの選手
カードの炎も中央部は黄色であり,閃光も一部黄色であり,閃光という表現自体輝\nく印象を与えるものといえるから,金色を基調とした被控訴人ゲームの選手カード
と大きく相違する印象を与えるものとはいえず,また,楕円形状の有無も閃光の明
るさの程度の違いを認識させるものにすぎないから,これらの相違点が上記共通点
から受ける印象を凌駕するものとはいえない。なお,被控訴人は,閃光(後光)の
具体的な本数や密度も違うと主張するが,これらも閃光の明るさの程度の違いを認
識させるものにすぎず,視覚的には差異を生じさせるものとはいえない。
したがって,被控訴人ゲームの中島選手の選手カードは,控訴人ゲームの同選手
カードと同一のものとはいえず,別の写真を使用し,全体として金色を基調とした
色味に変更することで,新たな表現を加えたものといえるから,複製に当たるもの\nとは認められないものの,控訴人ゲームの同選手カードを翻案したものと認められ
る。
b ダルビッシュ選手の選手カードについて
両ゲームのダルビッシュ選手の選手カードについても,前記イbのとおり,本体
写真のポーズ及び配置,多色刷りで本体写真を拡大した二重表示部分の存在,部位\nや位置関係,背景の炎及び放射線状の閃光の描き方という具体的な表現が共通であ\nり,これによってダルビッシュ選手の力強い投球動作による躍動感や迫力が伝わっ
てくるものであって,両選手カードは,表現上の本質的特徴を同一にしているもの\nと認められ,また,その表現上の本質的特徴を同一にしている部分において思想又\nは感情の創作的表現があるものと認められる。\n
・・・
被控訴人ゲームの配信開始から選手カードの表現が変更される平成23年8月18日から同月26日までの9日間に,被控訴人ゲームにおけるレアパックの販売に\nより被控訴人が得た利益が1541万5312円であることは争いがない。
ところで,著作権法114条2項は,著作権を侵害した者が「その侵害の行為に
より」利益を受けているときは,その利益の額を著作権者が受けた損害の額と推定
するものである。レアパックは,開けてみるまでどのカードが入っているか分から
ないものであり,したがってレアパックの販売とは,本件2選手カード以外のカー
ドの販売にも当たるものであるが,本件では,本件2選手カードの著作権侵害のみ
が認められるから,上記レアパックの販売利益のうち,本件2選手カードによって
得られた利益に相当する額のみが当該著作権侵害の行為により被控訴人が受けてい
る利益に当たるというべきであり,その点の立証責任は控訴人にあるものとして,
判断する。
この点,乙93,99及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人ゲームの配信開始当
時,レアパックにより入手できる選手カードは,希少性に応じて,キラ,グレー
ト,スター,スーパースター,レジェンド,レジェンド+に分類される合計996
枚であったことが認められる。しかし,1)レジェンド及びレジェンド+の存在につ
いては,被控訴人のホームページ等では公開されておらず,被控訴人ゲーム上の利
用者のサークルトピックス(利用者同士の質問板)の一部の記載でのみ確認できる
状態であったから(乙99,弁論の全趣旨),利用者の大多数が知っていたとは認
められず,またこれらのカードが当たる確率も相当低いものと認識されていたと考
えられるから,利用者がレジェンド及びレジェンド+を期待してレアパックを購入
した可能性は低いというべきこと,2)レアパックを購入する利用者は,グレードの
より高いカード(すなわち,スター,スーパースター)の入手を期待しているのが
通常であること,3)スターカードは143枚,スーパースターカードは61枚の合
計204枚が存在したものであるが(乙93),これに該当する選手として被控訴
人ホームページやプレスリリースにおいて配信時に公開されていたのは各球団1
名,合計12名のみで,そのうち2名が中島選手及びダルビッシュ選手であり(甲
131,弁論の全趣旨),ゲームの利用を開始する者は,他の利用者の口コミや,
Mobageの新着表示やゲームランキングなどで被控訴人ゲーム名が表\示される
のを見て開始することが多いとしても(乙101),上記のとおりの広報がされて
いることからすれば,これを見て被控訴人ゲームの内容を確認した利用者も相当程
度いると推認されること,4)上記2選手は人気の高い選手であり,特にダルビッシ
ュ選手の選手カードについては,利用者が被控訴人ゲームを初めて利用する際のチ
ュートリアル(ゲームの練習)において必ず一度付与され,チュートリアル終了後
に保有カードから削除されるものであり(乙99),利用者がレアパックを購入し
てスーパースターの選手カードを入手したいという気持ちを誘発するために利用さ
れていること,5)前記レアパックの販売利益は,配信開始のごく初期の9日間の売
上のみについてのものであること,からすれば,前記レアパックの販売利益のうち
少なくとも8%が,本件2選手カードの販売により被控訴人が受けた利益と認める
のが相当である。
したがって,著作権法114条2項により控訴人が受けた損害の額と推定される
額は,123万3225円(1541万5312円×0.08)である。
◆判決本文
◆原審はこちら 平成23(ワ)29184
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2015.05.29
平成26(ネ)10003 損害賠償請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成27年5月21日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
風俗レポート記事と、漫画が翻案と判断されました。1審は一部の記載についての翻案を認めましたが、知財高裁は全体として翻案と認定しています。
原告記事1(前記イ)と被告漫画1(前記ウ)の記述内容等を対比すると,原告記事1と被告漫画1とは,まず,「乱交ツアー」に参加した者が,そこで体験した風俗サービスの内容を自身の体験談として記述又は描写するという点において共通する。
また,原告記事1と被告漫画1とは,その場面展開,すなわち,i)著者又は主人公が,風俗サービスに関する情報をネット検索し,ツアーに参加を申し込む場面,ii)著者又は主人公が,開催当日に宿に向かい,宿に到着して,部屋に入るまでの場面,iii)著者又は主人公が,部屋で相部屋の男と会話する場面,iv)著者又は主人公が,露天風呂に移動して,参加者の男や女と顔を合わせる場面,v)露天風呂における「乱交」の状況を記述又は描写した場面,vi)宴会場で食事を終えた後の「乱交」の状況を記述又は描写した場面,vii)2日目の朝,ツアーが解散となった場面へと展開していく点において共通する。
さらに,原告記事1の記述には,被告漫画1には記述又は描写されていない部分が存するものの,上記各場面における被告漫画1の記述又は描写の内容はわずかな部分を除き,ほぼ原告記事1の記述に含まれ,しかも,その具体的な記述(描写)及び記述(描写)順序においても,おおむね原告記事1におけるそれと共通すると認められる。すなわち,被告漫画1の記述又は描写が原告記事1と相違するのは,1)被告漫画1がツアーの開催日を申込みから「1週間後」と明記しているのに対し,原告記事1では,申\込みから開催日まで日があることは記述から把握することができるが,どれくらい後の開催であるのかを明記していない点,2)被告漫画1が現地までの交通手段として「愛車」を利用しているのに対し,原告記事1では,
「電車とバス」を利用している点,3)被告漫画1が,宿の玄関の看板を見た主人公の感情を「気分が盛り上がってきた」としているのに対し,原告記事1では,料金の前払いをしていたので,当日まで実際に開催されるのか心配していたことから安心したとしている点,4)被告漫画1が,相部屋の男は主人公よりも先に到着しており,主人公と挨拶を交わす場面を描写しているのに対し,原告記事1では,相部屋の男は後に到着した者とされており,主人公と挨拶を交わすなどの記述はされてない点,5)被告漫画1が,主人公において,露天風呂における「乱交」時に女性の性器に「指マン」をしたと描写しているのに対し,原告記事1では,第三者の別の男性がしたと記述している点など,被告漫画1と原告記事1の全体の対比の中では,ごく一部分に止まる。
以上検討したところによれば,被告漫画1は,原告記事1に依拠し,その記述のうちの一部を省略し,かつ,その表現形式を漫画に変更したものにすぎず,全体として,原告記事1の表\現上の本質的特徴を直接感得することができるから,原告記事1の翻案物に当たるというべきである。
・・・・・
証拠(甲3,4,9,12,甲16の1・2,甲17の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,1審原告は,フリーランスで活動する風俗関係の記事のライターであること,1審原告は,株式会社コアマガジンから平成19年中に33万1000円の,平成20年中に101万3000円の,平成23年中に56万8500円の原稿料の各支払を受けたこと,1審原告は株式会社双葉社から平成19年中に56万円の原稿料(支払回数12回の合計),平成20年中に33万円の原稿料(支払回数11回の合計)の各支払を受けたこと,本訴提起前に1審被告ジップス・ファクトリーが1審原告訴訟代理
人弁護士に対して送信した電子メール中には,1審被告ジップス・ファクトリーの規定する原稿料が1頁当たり5000円である旨の記述があったこと,被告漫画1の総頁数が6頁であり,被告漫画2の総頁数が6頁であること,本件雑誌の販売部数は10万部程度であることが認められる。
上記事実に加え,1審原告が原告記事1及び2を自身が開設する本件ブログにおいて公開していること,原告記事1及び2の内容,侵害行為の態様,その他本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すれば,著作権侵害についての原告記事1の使用料相当額,原告記事2の使用料相当額は各5万円(合計10万円)と認めるのが相当である。
(3) 著作者人格権侵害について
1審原告は,被告漫画1により原告記事1についての同一性保持権及び氏名表示権を,被告漫画2により原告記事2についての同一性保持権及び氏名表\示権を,それぞれ侵害されたものであり,証拠(甲12)によれば,1審原告は,上記著作者人格権の侵害により,精神的苦痛を被ったものと認められる。
そして,1審原告が原告記事1及び2を自身が開設する本件ブログにおいて公開していること,原告記事1及び2の内容,侵害行為の態様(改変箇所の多寡,改変内容,本件雑誌の性質やその発行部数等),その他本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すれば,著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)の侵害により1審原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は,原告記事1及び2につき各20万円(合計40万円)と認めるのが相当である。
(4) 弁護士費用について
本訴の事案の内容,認容額,訴訟の経過等を総合すると,1審被告らの著作権侵害行為及び著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は5万円と認めるのが相当である。
(5) 合計 55万円
◆判決本文
◆1審はこちらです。平成24(ワ)3677
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2015.03. 4
平成25(ワ)15362 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成27年2月25日 東京地方裁判所
歴史小説から製作した放送番組について著作権侵害が認定され、差止請求および30万円の損害賠償が認められました。
原告は,別紙作品対照表1ないし3記載のとおり,原告各小説を別紙作品対照表\1ないし3記載の各原告小説1ないし3の表現欄に記載された各部分に分け,それらが個々的に著作物に当たり,また,被告各番組を別紙作品対照表\1ないし3記載の各被告番組1ないし3の表現欄に記載された各部分に分け,別紙主張対照表\1ないし3の「原告の主張」欄記載の理由により,それぞれの各被告番組の表現は,各原告小説の複製若しくは翻案に当たり,したがって,原告の有する複製権若しくは翻案権を侵害する旨主張する。\nそこで,以下,それぞれについて,原告各小説の記述部分にかかる創作性等に関して具体的に陳述する原告の陳述書(甲1,26,27)の内容を斟酌しつつ,個別に複製権若しくは翻案権侵害の成否に関する当裁判所の判断を示すこととするが,その具体的内容は,別紙主張対照表1ないし3の「当裁判所の判断」欄記載のとおりである。\nそうすると,同欄記載のとおり,著作権(複製権,翻案権)侵害が認められるのは,被告番組1については,別紙作品対照表1の「3 エピソードの翻案」の番号1の表\現部分(これを以下「被告番組1−3−1」といい,以下,各作品対照表記載の各番号に従って同様に称することとする。),被告番組2については,被告番組2−5−6,被告番組3については,被告番組3−4−6であり,その余は複製権侵害,翻案権侵害のいずれも成立しないと認めるのが相当である。\nまた,上記被告番組1の内容が語られている被告番組4については,被告番組1−3−1と同じ表現部分(以下「被告番組4侵害認定表\現部分」という。)が,上記被告番組3の内容が語られている被告番組5については,被告番組3−4−6と同じ表現部分(以下「被告番組5侵害認定表\現部分」という。)が,それぞれ原告の保有する著作権(複製権,翻案権)を侵害すると認められ,その余は複製権侵害,翻案権侵害のいずれも成立
しないと認めるのが相当である。
◆判決本文
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2015.01.13
平成25(ワ)9673 書籍出版差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成26年12月19日 東京地方裁判所
歴史教科書の記述が翻案であるとは認定されませんでした。
したがって,例えば,ある歴史教科書の一単元において選択された複数の事項の組合せが,他の歴史教科書の同じ単元において選択された事項の組合せと異なる場合であっても,当該歴史教科書で取り上げられた個々の事項が,いずれも他の歴史教科書にも記載されているような一般的な歴史上の事実又は歴史認識にすぎないときは,通常,それらの事項の組合せは,歴史教科書に記載され得る一般的な事項の中から,著者が適宜選択をした結果であるといえ,そこに著者独自の創意工夫が表れているということはできないから,その組合せの相違をもって歴史教科書の個性であるということはできないと解される。\nまた,ある歴史教科書に,他の歴史教科書には記載のない事項が取り上げられて記載されている場合でも,その事項が歴史文献等に記載されている一般的な歴史上の事実又は歴史認識にすぎないときは,それを当該歴史教科書の中の関連する単元で取り上げ,一般的に歴史教科書に記載される歴史的事項に関連して,その説明のために,又はそれを敷衍するものとして,付加して記述することは,歴史学習のための教科書としては通常のことであるから,当該歴史教科書にそのような他の歴史教科書に記載のない事項があるというだけでは,そこに歴史教科書としての個性が表れていると解することはできないというべきである。
エ 原告は「表現の順序(論理構\成)」の創作性を主張するところ,事項の選択において取り上げられた複数の事柄をどのような順序で配列して記載するかという点には,著者の創意や工夫が発揮されることがあるから,一般論としては,そこに何らかの表現上の創作性を認める余地はあるということができる。\nもっとも,前記(2)のような歴史教科書の性質上,一つの単元で取り上げることが可能な事項の数は限られており,しかも,それらの事項は,系統的に配列されて,生徒が理解しやすいように記述されることが求められて\n
いるといえるから,特に歴史教科書においては,ある単元において取り上げられた複数の歴史的事実をどのような順序で配列するかについての選択の幅は限られており,そこに著者の個性が表れていると認められる場合は少ないものといわざるを得ない。\nこの点,例えば,歴史的事実を単に時系列に沿って配列するような場合は,そこに著者の創意や工夫があるということはできない。また,複数の関連する事項を,通常の歴史教科書において考慮されるような,歴史的な因果関係,相互の関連性,歴史学習における重要性などの観点に従って,生徒の読みやすさや理解のしやすさに配慮しつつ,論理的な文章として,適宜,配列して表現したにすぎないような場合も,それは歴史教科書としてありふれた配列というべきであるから,仮にその配列がたまたま他の歴史教科書の配列と異なっているとしても,そこに著者の個性が表\れているということはできない。それゆえ,そのような場合は,その配列の差異をもって,著作権法によって保護される著作物としての創作性を基礎付けることはできないというべきである。
オ 表現の視点に当たるアイデア,制作意図・編集方針又は歴史観などは,前記イのとおり,それ自体は表\現ではなく,著作権法によって保護されるものではないのであるから,仮にその表現の視点が独自のものといい得るとしても,その表\現の視点に基づいて記述された具体的な表現内容が,単に著者のアイデア,制作意図・編集方針又は歴史観などをそのまま文章にして記述したにすぎない場合や,その表\現の視点に基づけば,誰が書いてもそのような文章としてしか表現できず,あるいは,その文章表\現が平凡なものにとどまるときは,その文章は,表現の視点という著作権法で保護されない点において独自性があるというにすぎず,その具体的な表\現内容において,著作権で保護されるべき表現上の創作性を有するものということはできない。\n
また,歴史教科書において取り上げられ,その表現の素材とされている歴史上の事実又は歴史認識も,前記ウのとおり,それ自体は著作権法で保護されるべき表\現には当たらないのであるから,上記と同様に,仮に取り上げられた歴史上の事実あるいは歴史認識がそれ自体として独自性を有するものであるとしても,そのような事実あるいは認識を,ありふれた構文や一般的な言い回しで,生徒が理解しやすいような文章として記述したというだけでは,その具体的な表\現内容において創作性があるというということはできない。
したがって,二つの歴史教科書が,その具体的な記述の内容において共通する部分があるとしても,その共通部分が上記のように表現上の創作性が認められないものである場合には,それを翻案の根拠とすることはできないというべきである。\n
◆判決本文
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