2022.11.28
令和4(ワ)12062 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 令和4年11月17日 東京地方裁判所
ファスト映画の配信について総額5億円の損害賠償が認められました。計算は、ライセンス相当額(著作権法114条3項)です。賠償額を含めて被告は原告の主張を全て認めてます。原告は13名であり、合計するとちょうど5億円というのは偶然なのでしょうね。
弁論の全趣旨によれば、YouTubeの利用者がYouTube上でストリーミング形式により映画を視聴するためには所定のレンタル料を支払う必要があることが認められる。再生対象の映画の著作権者は、当該レンタル料から著作権の行使につき受けるべき対価を得ることを予定しているものと理解されることから、本件において、原告らが本件各映画作品に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、YouTube上で視聴する場合の本件各映画作品それぞれのレンタル価格等を考慮して定める金額に、本件各動画のYouTube上での再生数を乗じて算定するのが相当である。
(2)YouTubeにおける本件各映画作品の各レンタル価格(HD画質のもの)は、1作品当たり400〜500円程度であり、400円を下らないこと、うち30%がYouTubeに対するプラットフォーム手数料に充当されること、本件各動画は、それぞれ、約2時間の本件各映画作品を10〜15分程度に編集したものであるものの、本件各映画作品全体の内容を把握し得るように編集されたものであることは、いずれも当事者間に争いがない。これらの事情を総合的に考慮すると、被告らが本件侵害行為によって得た広告収益が700万円程度であること(当事者間に争いがない)を併せ考慮しても、「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(法114条3項)は、原告らの主張のとおり、本件各動画の再生数1回当たり200円とするのが相当である。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 翻案
>> 公衆送信
>> 著作権その他
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2022.08.23
令和3(ワ)10987 著作権侵害損害賠償請求事件 著作権 令和4年2月24日 東京地方裁判所
「文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表\現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合には,筆者の個性が表\現されたものとはいえない」として、著作権侵害ではないと判断されました。
そこで検討すると,著作物の複製(著作権法21条,2条1項15号)と
は,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを
再製することをいい(最高裁判所昭和50年(オ)第324号同53年9月
7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照),著作物の翻案(著作
権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特\n徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新た\nに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著\n作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創\n作する行為をいう。しかして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を\n保護するものであるから(著作権法2条1項1号),既存の著作物に依拠して
創作された著作物が思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表\n現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作\n物と同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらないもの
と解される(最高裁判所平成11年(受)第922号同13年6月28日第
一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
このように,複製又は翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依
拠して創作された著作物との同一性を有する部分が,著作権法による保護の
対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である\n(著作権法2条1項1号)。そして,「創作的」に表現されたというためには,\n厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,筆者の何
らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが,他方,文章自体\nがごく短く又は表現上制約があるため他の表\現が想定できない場合や,表現\nが平凡かつありふれたものである場合には,筆者の個性が表現されたものと\nはいえないから,創作的な表現であるということはできない。\n したがって,被告各記述を含む被告の雑誌記事,書籍等が,被告各記述に
対応する原告各記述との同一性により原告雑誌記事,原告ルポの複製又は翻
案に当たるか否かを判断するに当たっては,両者において共通する部分が,
思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部\n分又は表現上の創作性がない部分でないかどうかを検討する必要がある。\nそこで,以上の見地から,別紙1及び2の各対比表について個別に検討す\nることとする。
(2) 別紙1の対比表について\n
ア 「1−1あ」,「1−5あ」,「1−6あ」,「1−7あ」,「1−10あ」に
ついて
この箇所の原告記述と被告記述とでは,1)奨学金の原資を確保するので
あれば,元本の回収が何より重要であること,2)日本学生支援機構は20\n04年以降,回収金をまず延滞金と利息に充当するという方針をとってい
ること,3)日本学生支援機構の2010年度の利息収入は232億円,延\n滞金収入は37億円に達し,これらの金は経常収益に計上され,原資とは
無関係のところにあること,といった点が共通している。
しかし,上記共通点のうち,1)は,原告雑誌記事が発行,公表される以\n前から既に問題になっていた奨学金の金融事業化についての一般的な考察
(乙5ないし7)であって,思想又はアイデアに属するものというべきで
ある。2)と3)は,奨学金の回収方法や日本学生支援機構の収支に関する事\n実であり,3)の後段の,回収された金と奨学金の原資との関係についての
評価は,これもまた1)と同様に奨学金の金融事業化についての一般的考察
として思想又はアイデアに属するものというべきであって,原告記述と被
告記述とは,表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎな\nい。また,1)ないし3)の記述順序は同一ではあるが,その記述順序自体は
独創的なものとはいえないし,文章の分量も短く簡潔で,表現も特徴のな\nいありふれたものといわざるを得ず,表現上の創作性が認められない部分\nにおいて同一性を有するにすぎない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 著作物
>> 複製
>> 翻案
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2022.07.22
令和4(ネ)10004 不当利得返還請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和4年7月14日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
著作権侵害事件です。社史について、翻案かが争われました。知財高裁は該当部分は事実に過ぎないとして、翻案ではないと判断し、1審判断を維持しました。
(3) 前記(1)のとおり、本件社史部分が原告書籍を翻案したものに該当すると
いうためには、原告書籍と本件社史部分とが、創作的表現において同一\n性を有することが必要であるものと解されるところ、前記(2)で検討した
ところによれば、原告書籍と本件社史部分とは、番号1ないし20の各
記述において、事実、すなわち、表現それ自体でない部分において同一\n性が認められるにすぎないか、創作性が認められないありふれた表現に\nおいて同一性が認められるにすぎず、創作的表現において同一性を有す\nるものとは認められないから、被告社史中の本件社史部分は原告書籍を
翻案したものに当たらないというべきである。
(4) これに対し、控訴人は、当審において、1)ノンフィクション作品では、
著作者が取材を通じて発掘した事実こそが重要であり、自らの制作意図
にかなった事実をいかにして発掘し、発掘した事実から何を感じ取って、
どういうストーリーを見つけ出すかが、ノンフィクション作家の真骨頂
であるところ、原告書籍はこれまで公表されていなかった「NRプロジ\nェクト」の内実について明らかにしたものである、2)本件社史部分は、
原告書籍と同じテーマを取り上げたもので、原告書籍と同じ事実やエピ
ソードが次々に登場していることからすれば、原告書籍と「表\現の本質
的な特徴」が完全に一致する、原告書籍を翻案したものに該当する旨主
張する。
控訴人の上記主張は、ノンフィクション作品においては、事実を見つ
け出すこと及び見つけ出されたその事実が重要であって、原告書籍と本
件社史部分とは事実において共通する点が複数みられることを理由に、
本件社史部分は原告書籍を翻案したものに該当する旨を主張するものと
解される。
しかしながら、前記(1)のとおり、本件社史部分が原告書籍を翻案した
ものに該当するというためには、その表現上の本質的な特徴である創作\n的表現の同一性が認められる必要があり、原告書籍と本件社史部分との\n間に事実において同一性が認められる部分が複数あるとしても、そのこ
とによって両者が創作的表現において同一性を有することになるもので\nはない。控訴人の上記主張は、ノンフィクション作品自体の特徴や本質
についていうものにすぎず、その「具体的表現」における表\現上の本質
的な特徴について主張するものではないから失当である。
そして、前記(3)のとおり、原告書籍と本件社史部分は、創作的表現に\nおいて同一性を有するものとは認められないから、控訴人の上記主張は
理由がない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 翻案
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2022.04. 1
令和2(ワ)32121 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 令和4年3月30日 東京地方裁判所
写真の複製・翻案かが争われました。料理写真なので、構図なども一般的と判断されています。\n
著作権法が、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、\n文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(同法2条1項1号)をいい、
複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製
することをいう旨規定していること(同項15号)からすると、著作物の複
製(同法21条)とは、当該著作物に依拠して、その創作的表現を有形的に\n再製する行為をいうものと解される。
また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、
その表現上の本質的な特徴である創作的表\現の同一性を維持しつつ、具体的
表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表\現す
ることにより、これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感得する\nことのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される。
そうすると、被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものに当たるとい
うためには、原告写真と被告写真3との間で表現が共通し、その表\現が創作
性のある表現であること、すなわち、創作的表\現が共通することが必要であ
るものと解するのが相当である。
一方で、原告写真と被告写真3において、アイデアなど表現それ自体では\nない部分が共通するにすぎない場合には、被告写真3が原告写真を複製又は
翻案したものに当たらないと解される。そして、共通する表現がありふれた\nものであるような場合には、そのような表現に独占権を認めると、後進の創\n作者の自由かつ多様な表現の妨げとなり、文化の発展に寄与するという著作\n権法の目的(同法1条)に反する結果となりかねないため、当該表現に創作\n性を肯定して保護することは許容されない。したがって、この場合も、複製
又は翻案したものに当たらないと解される。
(2) 原告は、原告写真と被告写真3において共通する部分である共通点aない
しfは創作性のある表現であるから、被告写真3は原告写真を複製又は翻案\nしたものに当たる旨主張するので、以下において判断する。
ア 共通点aについて
原告写真と被告写真3とは、被写体であるスティック春巻を2本ない
し3本ずつ両側から交差させている点において共通する。
しかし、証拠(乙9)によれば、角度や向きを変えながら料理を順に
重ねて盛る「重ね盛り」という方法が存在することが認められるところ、
原告写真と被告写真3の被写体であるスティック春巻はいずれも細長い
形状を有するから、スティック春巻を盛り付ける場合に、上記の「重ね
盛り」の方法によってスティック春巻を数本ずつ交差させて配置するこ
とは、スティック春巻の撮影する場合に一般的に行われるものであると
いうことができる。加えて、証拠(甲25、26、乙2、6ないし8)
によれば、共通点aと同様に、棒状の春巻を配置して撮影された写真が
複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現は、\nありふれたものといわざるを得ない。
以上によれば、共通点aは創作的表現であるとはいえないから、被告写\n真3の共通点aの部分が、原告写真の共通点aの部分を複製又は翻案した
ものに当たると認めることはできない。
イ 共通点bについて
原告写真と被告写真3とは、2本のスティック春巻を斜めにカットして、
断面を視覚的に認識しやすいように見せ、さらに、チーズも主役でない程
度に見えるようにしている点において共通する。
しかし、具が衣に包まれているという春巻の形状に照らすと、春巻の
具を撮影するためには春巻をカットしなければならないし、その際、具
を強調するために、断面積が大きくなるよう、斜めにカットすることは、
スティック春巻を撮影する際に一般的に採用され得る手法ということが
できる。加えて、証拠(甲25、26、乙2、6ないし8)によれば、
共通点bと同様に春巻を斜めにカットした断面を配置して撮影された写
真が複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表\n現は、ありふれたものといわざるを得ない。
以上によれば、共通点bは創作的表現であるとはいえないから、被告\n写真3の共通点bの部分が原告写真の共通点bの部分を複製又は翻案し
たものに当たると認めることはできない。
ウ 共通点cについて
原告写真と被告写真3とは、端に角度がついた、白色で模様がなく、被
写体である複数本のスティック春巻とフィットする大きさの皿を使用して
いる点において共通する。
しかし、証拠(乙10、11)によれば、白い器は料理の色を引き立て
る効果があり、選択肢として基本的な色であること、料理の写真を撮影す
る際には盛り付ける料理にぴったり合う大きさの皿を選択することが重要
であることが認められる。そうすると、白色で模様がなく、黄土色のステ
ィック春巻とフィットする大きさの皿を使用することは、スティック春巻
の写真を撮影する上で一般的に行われ得るということができる。加えて、
証拠(甲25、26、乙2、8)によれば、共通点cと同様に、白色で模
様がなく、被写体である複数本のスティック春巻とフィットする大きさの
皿を使用して撮影された写真が複数存在すると認められることに照らすと、
上記の共通点に係る表現はありふれたものといわざるを得ない。\n以上によれば、共通点cは創作的表現であるとはいえないから、被告\n写真3の共通点cの部分が原告写真の共通点cの部分を複製又は翻案し
たものに当たると認めることはできない。
エ 共通点dについて
原告写真と被告写真3とは、皿に並べた春巻を、正面からでなく、角度
をつけて撮影している点において共通する。
しかし、証拠(乙12)によれば、料理写真の構図として、料理を正面\nから撮影するのではなく、左右に回転させて左右向きに配置して、斜めの
方向から撮影する手法が存在することが認められる。そうすると、皿に並
べた春巻を、角度をつけて撮影することは、一般的に行われ得るというこ
とができる。加えて、証拠(甲25、26、乙7、8)によれば、共通点
dと同様に、皿に並べた春巻を、角度をつけて撮影した写真が複数存在す
ると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現はありふれたも\nのといわざるを得ない。
以上によれば、共通点dは創作的表現であるとはいえないから、被告\n写真3の共通点dの部分が原告写真の共通点dの部分を複製又は翻案し
たものに当たると認めることはできない。
オ 共通点eについて
原告写真と被告写真3とは、撮影時に光を真上から当てるのではなく、
斜め上から当てることで、被写体の影を付けている点において共通する。
しかし、証拠(乙13)によれば、料理写真の撮影方法として、料理の
斜め後ろから料理に光を当て、料理上部を明るく照らすとともに手前側を
暗くして立体感を生じさせる斜め逆光という手法が存在すること、斜め逆
光は料理写真で最もよく使われるライティングであることが認められる。
したがって、被写体に影を付け、立体感を醸成するという撮影方法は、春
巻を含む料理の写真を撮影する上で一般的に用いられ得る手法であるとい
うことができる。加えて、証拠(甲25、26、乙2、6ないし8)によ
れば、共通点eと同様に、斜め逆光の手法を用いて撮影された春巻の写真
が多数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現は\nありふれたものといわざるを得ない。
以上によれば、共通点eは創作的表現であるとはいえないから、被告\n写真3の共通点eの部分が原告写真の共通点eの部分を複製又は翻案し
たものに当たると認めることはできない。
カ 共通点fについて
原告写真と被告写真3とは、葉物を含む野菜を皿の左上のスペースに置
いている点において共通する。
しかし、揚げ物である春巻に、野菜が付け合わせとして盛り付けられ
ることは、一般的に行われることであるといえるから、春巻の写真を撮
影する際に野菜が皿の隅のスペースに置かれることもまた、一般的に行
われることということができる。現に、証拠(甲25、26、乙2、6
ないし8)によれば、上記の共通点と同様に配置された春巻の写真が複
数存在することが認められる。そうすると、上記の共通点に係る表現は\nありふれたものといわざるを得ない。
以上によれば、共通点fは創作的表現であるとはいえないから、被告写\n真3の共通点fの部分が原告写真の共通点fの部分を複製又は翻案したも
のに当たると認めることはできない。
キ 全体的観察
前記アないしカのとおり、共通点aないしfはいずれも創作的表現であ\nるとは認められないから、これらの共通点を全体として観察しても、原告
写真と被告写真3との間で創作的表現が共通するとは認められない。\n
ク 小括
以上の次第で、原告写真と被告写真3は、ありふれた表現が共通するに\nすぎず、原告写真と被告写真3との間で創作的表現が共通するとは認めら\nれないから、被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものに当たるとは
認められない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 著作物
>> 複製
>> 翻案
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2022.02.14
令和2(ワ)19927 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和3年12月24日 東京地方裁判所
社史の発行が原告書籍の翻案であるとした不当利得返還請求訴訟です。裁判所は、創作的表現において同一性を有しないとして、請求を棄却しました。\n
(1) 言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,か
つ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表\現に修正,
増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,\nこれに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得すること\nのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は
感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照),既\n存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,
事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表\現上の創作性がない部
分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には
当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同
13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁)。
そうすると,本件社史部分が原告書籍を翻案したものに当たるというため
には,原告書籍と本件社史部分とが,創作的表現において同一性を有するこ\nとが必要であるものと解される。
したがって,原告書籍と本件社史部分との間で,事実など表現それ自体で\nない部分でのみ同一性が認められる場合には,本件社史部分は原告書籍を翻
案したものに当たらない。
また,原告書籍と本件社史部分との間に,表現において同一性が認められ\nる場合であっても,同一性を有する表現がありふれたものである場合には,\nその表現に創作性が認められず,本件社史部分は原告書籍を翻案したものに\n当たらないと解すべきである。すなわち,著作者等の権利の保護を図り,も
って文化の発展に寄与するという著作権法の目的(同法1条)に照らせば,
著作物に作成者の何らかの個性が現れており,その権利を保護する必要性が
あるといえる場合には,上記の創作性が肯定され得るが,一方で,表現があ\nりふれたものである場合には,そのような表現に独占権を認めると,後進の\n創作者の自由かつ多様な表現の妨げとなり,かえって上記の著作権法の目的\nに反する結果となりかねないため,当該表現に創作性を肯定して保護を与え\nることは許容されないというべきであり,そのため,原告書籍と本件社史部
分との間で同一性を有する表現がありふれたものである場合には,その表\現
に創作性を認めることができない。
(2) まず,別紙2記述対比表の原告書籍及び本件社史部分の各記述について,\nそれぞれの間での創作性を有する表現の同一性が認められるか否かについて\n検討する。
ア 番号1の各記述について
(ア) 原告書籍の番号1の記述は,原告書籍における当該記述の前後の文脈
を踏まえると,被告従業員であったBが被告の二輪世界選手権への再挑
戦の担当者になるとの内示を受ける前日に出身地を尋ねられた際のやり
とりを記述したものであり,本件社史部分の番号1の記述は,本件社史
部分における当該記述の前後の文脈を踏まえると,Bが上記内示の際に
出身地を尋ねられたことを記述したものであると認められる。
これらの記述は,Bが上記内示を受ける際に出身地を尋ねられたこと
を内容とする点で共通しているが,このようなやりとりがあったことは
事実にすぎないというべきであり,表現それ自体でない部分で同一性が\n認められるに留まる。また,出身地を尋ねるやりとりがあったことにつ
いて,原告書籍の番号1の記述では,「おいB,おまえ家は東京だよな」
と記述されているのに対し,本件社史部分の番号1の記述では,「世間話
の中で出身地を聞かれました。『東京です』と答えたのを覚えていますよ」
と記述されており,それらの具体的な記述における描写の手法が異なる
ものとなっており,表現それ自体において同一性を有するとは認められ\nない。
(イ) 原告は,原告書籍と本件社史部分に同じ事実が記述されていることに
ついて,社史編纂委員会の担当者は原告書籍に記述された事実を原告書
籍に依拠して知ったものであるから,翻案該当性が認められるべき旨を
主張する。
しかしながら,前記(1)のとおり,本件社史部分に記述された事実が原
告書籍に依拠したものであったとしても,原告書籍と本件社史部分の各
記述が事実といった表現それ自体でない部分において同一性を有するに\n留まる場合には,原告書籍の翻案には当たらないと解するのが相当であ
るから,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) したがって,番号1の各記述について,創作的表現において同一性を\n有するものと認めることはできない。
・・・
(ウ) 小活
前記(ア)及び(イ)の対比の結果に照らせば,原告書籍の番号20−1及
び20−2の記述と本件社史部分の番号20の記述が創作的表現におい\nて同一性を有するものと認めることはできず,これは,原告書籍の番号
20の記述全体と本件社史部分の番号20の記述とを対比した場合でも
同様である。
(3) 前記(2)のとおり,番号1ないし20の各記述において,本件社史部分が
原告書籍と創作的表現において同一性を有するとは認められないから,依拠\n性について検討するまでもなく,被告社史中の本件社史部分は原告書籍の翻
案に該当するものではない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 著作物
>> 翻案
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP