2023.10.31
令和5(ネ)10059 損害賠償請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和5年10月12日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
Yahoo!地図が原告地図の複製・翻案に該当するか争われました。知財高裁は、1審の東京地裁(29部)と同様に、翻案には該当しないと判断しました。
イ 判断手法(検討手順)について
ところで、控訴人と被控訴人は、複製又は翻案の有無を検討する手法
としての2段階テストと濾過テストの採否についてそれぞれの立場で主
張しているが、要は、創作性のある表現部分について同一性があるとい\nえるかどうかの判断がされれば足りるのであって、その判断に至る過程
で、最初に両著作物の共通部分の抽出を行うか、創作性の認められる表\n現上の特徴にまず着目するかという検討手順に関しては、合理的・効率
的な判断に資するための合目的的な観点から、事案に応じて適切に使い
分ければ足りる。本件では、控訴人の主張する手法(控訴人のいう2段階テスト)に沿
って(部分的に濾過テストの手法を併用する。)、以下、検討すること
とする。
(2) 控訴人地図1の表現上の本質的特徴について\n
ア 控訴人は、控訴人地図1の表現上の本質的特徴として、別紙2記載の本\n質的特徴1)〜7)を主張するところ、別紙の各控訴人地図1(甲1)に照
らして、控訴人地図1がその主張する特徴を備えていると認めることは
できる。そして、上記(1)アで述べたところに照らすと、上記本質的特徴1)〜7)
は、それぞれを個別に取り上げれば、地理情報の取捨選択、その配置等
の具体的な表現につき、上記のような制約の下での狭い幅での選択が示\nされているにとどまるものであり、従来の地図に比して顕著な特徴を有
するといった独創性が含まれているとまでは認められない。
イ この点、控訴人は、特に本質的特徴1)、同3)、同4)、5)について、従来
の常識にとらわれない素材の取捨選択を行うなどしたものであって、そ
の一部の組み合わせだけでも独創性のある表現が認められる旨主張する。\nしかし、まず、本質的特徴1)に関していえば、後述するとおり、そもそ
も被控訴人各地図と共通するとは認められないものである(この点は濾
過テストの手法を用いた。)。そして、本質的特徴3)については、控訴
人地図1の作成当時、建物及び住宅の真上から見た形状を影なしのポリ
ゴンで記載した地図は複数存在したと認められ(乙6,7,11,14,
15、25、32〜38)、本質的特徴4)、5)については、控訴人地図
1の作成当時、建物の名称及び住宅の番地が、建物及び住宅のポリゴン
の中央付近に、(番地についてはアラビア数字で)折り返すことなく横
書きされた記載を含む地図は複数存在したと認められ(乙7,14、1
5、25、32〜38)、いずれもありふれた特徴にすぎない。
なお、控訴人は、上記証拠の地図は、新旧番地を対照するという特殊な
背景の下で作成されたものが含まれているなどと主張するところ、確か
に、「番地」の取捨選択において、控訴人の主張する事情は重要な意味
を有するといえるが、上記の証拠の中には、住居表示新旧対照図以外の\nものも含まれているし(乙25、32〜34)、「番地」の取捨選択以
外の要素に関しては、従来のありふれた表現を示す証拠としての適格性\nを失うものではない。控訴人の上記主張は採用できない。
ウ 以上に述べたところを踏まえると、控訴人地図1は、別紙2の本質的特
・徴1)〜7)を備える総体として表現上の創作性を認めることができるもの\nであり、その表現上の本質的部分の特徴を被控訴人各地図から直接感得\nできるかどうかも、これを断片的、部分的に捉えるのではなく、相違点
も含めた総体としての全体的な考察により検討する必要があるというべ
きである。
(3) プロアトラス地図との比較検討
ア 各別紙のプロアトラス地図と控訴人地図1とを、控訴人主張の本質的特
徴の項目ごとに比較すると、以下のとおり認められる。
(ア) 控訴人主張の本質的特徴1)(共通要素a)について
まず、地理情報の取捨選択という観点からみるに、プロアトラス地
図では、控訴人地図1と同じく、「道路・河川」、「検索の目安とな
る公共施設や著名ビル等の個別建物形」、「一般住宅及び建物の個別
建物形」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」、及び
「建物番地」を記載することを選択し、一般住宅及び建物に関する
「居住人氏名」、「地類界」(宅地の境等)、「等高線」を記載して
いないことは認められる。しかし、その実際の適用(当てはめ)として、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」等の選択は必ずしも一致していない。
また、プロアトラス地図では、控訴人地図1には記載されていない交
差点名の記載がある(別紙プロアトラス地図・Aの「潮平」等)ほか、
「一般住宅及び建物」に関する「建物名称」を記載している点(プロ
アトラス地図・Aの「シャトレ喜鶴」「あけぼの」、プロアトラス地
図・Cの「タウン・ハウス」等)でも相違する。
次に、具体的な表現形式という観点からみても、プロアトラス地図\nは、1)ガソリンスタンドであれば「G」、飲食店であれば「R」、駐\n車場であれば「P」、学校であれば「文に〇の記号」など建物の種類
を示す記号が用いられている点、2)緑地部分が緑色、公共性の高い建
物は濃い灰色、商業施設等はオレンジ色、その他の建物及び住宅は薄
い灰色に塗り分けられ、道路が3色に塗り分けられている点で控訴人
地図1と相違しており、これらの点は、地理情報を表現する際の創作\n性に強く影響を及ぼす有意な相違と評価すべきものである。
控訴人は、これら相違点は、いずれも軽微な相違であり、表現の本\n質的特徴の同一性を失わせるものではないと主張する。しかし、地図
の著作物における地理情報の取捨選択、その配置等の具体的な表現方\n法には一定の制約があり、選択の幅が狭いと解されること(前記(1)ア)
を踏まえると、上記のような相違点を軽微なものと評価するのは相当
といえない。控訴人の主張は採用できない。
・・・・
(4) ヤフー地図との比較検討
ヤフー地図は、プロアトラス地図と多くの点で共通する特徴を有するもの
であり、したがって、控訴人地図1とプロアトラス地図との対比検討の項目
で述べたところは、ほぼそのままヤフー地図との対比検討に関しても妥当す
る。なお、プロアトラス地図になく、ヤフー地図に認められる特徴として、
ガソリンスタンド、コンビニエンスストア及びファーストフードショップの\nチェーン店について、名称ではなく各チェーン店の標章が記載されている点、
名称を折り返して表示する例がある点(ヤフー地図・Aの「健孝クリニック\n南部整形外科」等)が挙げられるが、これは、プロアトラス地図以上に控訴
人地図との表現上の違いが大きいことを示すものである。以上によれば、ヤフー地図についても、控訴人地図1の表\現上の本質的部分の特徴を直接感得できるとは認められないというべきである。
(5) 小括
したがって、被控訴人各地図は、いずれも控訴人地図1を複製又は翻案
したものとは認められないから、その余の点を判断するまでもなく、控訴人
地図1に関する著作権侵害は認められない。
◆判決本文
1審はこちら
◆令和3(ワ)17636
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2023.10.23
令和3(ワ)31529 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和5年9月28日 東京地方裁判所
イス「TRIPP TRAPP」について、デッドコピーではない場合に、商品等表示に該当するのか、著作権侵害かが争われました。東京地裁(40部)は、前者については、原告らの主張する本件形態的特徴は、そもそもその外延が極めて曖昧であり、原告製品のうち出所表示機能\を発揮する商品等表示部分を明確に特定するものとはいえないと判断しました。また、後者については、著作権侵害についても翻案ではないと判断されました。
最後に、原告製品と被告製品の写真があります。
ア 商品の形態に係る「商品等表示」の特定について\n
不競法2条1項1号又は2号は、他人の周知又は著名な商品等表示(人の\n業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品
又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)と同一又は類似の商品等表\示
を使用等することをもって、不正競争に該当する旨規定している。この規定
は、周知著名な商品等表示の有する出所表\示機能を保護するという観点から、\n周知著名な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤\n認混同させて顧客を獲得する行為を防止し、事業者間の公正な競争等を確保
するものと解される。そして、商品の形態は、特定の出所を表示する二次的\n意味を有する場合があるものの、商標等とは異なり、本来的には商品の出所
表示機能\を有するものではないから、上記規定の趣旨に鑑みると、その形態
が商標等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能\を発揮するよ
うな特段の事情がない限り、商品等表示には該当せず、仮にこれに該当した\n場合であっても、商品の形態は本来的には商品の出所表示機能\を有するもの
ではないのであるから、商品の形態のうち出所表示機能\を発揮する商品等表\n示部分は、取引の実情等によって時間的にも場所的にも変わり得るものとい
える。
そうすると、原告らが商品の形態の商品等表示該当性を主張する場合には、\n商品等表示として権利範囲を画する部分がそれ自体不明確であることに鑑\nみると、商品の形態のうち出所表示機能\を発揮する商品等表示部分を明確に\n特定する必要があるものと解するのが相当である(知的財産高等裁判所平成
17年(ネ)第10068号同17年7月20日判決参照)。
これを本件についてみると、原告らは、主位的に、原告製品全体の形態が
商品等表示に該当する旨主張して、商品の形態のうち出所表\示機能を発揮す\nるという部分を明確に特定していないことからすると、原告らの主位的主張
は、上記において説示したところに照らし、主張自体失当というほかない。
他方、原告らは、予備的に、原告製品の形態のうち、出所表\示機能を発揮す\nるという部分が本件形態的特徴であるという限度で特定して主張している
ため、本件形態的特徴が商品等表示に該当するかどうか、以下検討する。\n
イ 本件形態的特徴の「商品等表示」該当性について\n
前記アのとおり、商品の形態は、特定の出所を表示する二次的意味を有す\nる場合があるものの、商標等とは異なり、本来的には商品の出所表示機能\を
有するものではないから、不競法2条1項1号又は2号の規定の趣旨に鑑み
ると、その形態が商標等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能\
を発揮するような特段の事情がない限り、商品等表示には該当しないという\nべきである。
そうすると、商品の形態は、1)客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特
徴(以下「特別顕著性」という。)を有しており、かつ、2)特定の事業者に
よって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力
な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表\n示するものとして周知であると認められる特段の事情がない限り、不競法2
条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当であ\nる。
そして、不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当すると主張\nされた表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品の形態が\n商品等表示に該当しないときであっても、上記表\示が全体として商品等表示\nに該当するとして、上記一部の商品を販売等する行為まで不正競争に該当す
るとすれば、出所表示機能\を発揮しない商品形態までをも保護することにな
るから、上記規定の趣旨に照らし、かえって事業者間の公正な競争を阻害す
るというべきである。のみならず、不競法2条1項1号又は2号により使用
等が禁止される商品等表示は、登録商標とは異なり、公報等によって公開さ\nれるものではないから、その要件の該当性が不明確なものとなれば、表現、\n創作活動等の自由を大きく萎縮させるなど、社会経済の健全な発展を損なう
おそれがあるというべきである。
そうすると、不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当すると\n主張された表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態\nが商品等表示に該当しないときは、上記表\示は、全体として不競法2条1項
1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。\nこれを本件についてみると、前記認定事実、検証の結果(検証調書参照)
及び前記認定に係る子供用椅子の販売状況によれば、原告製品は、1)左右一
対の側木の2本脚であり、かつ、座面板及び足置板が左右一対の側木の間に
床面と平行に固定されている点(特徴1))、2)左右方向から見て、側木が床
面から斜めに立ち上がっており、側木の下端が、脚木の前方先端の斜めに切
断された端面でのみ結合されて直接床面に接していることによって、側木と
脚木が約66度の鋭角による略L字型の形状を形成している点(特徴2))と
いう本件形態的特徴のほか、3)座面板と足置板を側木内側にはめ込んで固定
することによって、これらの部材を直接固定し、その余の固定部材を省いた
点(特徴3))、4)前後方向からみて、座面板、足置板、横木及び背板と、側
木が垂直に交わっており、側木内側の小さな略半円形状の溝部分を除き、直
線的要素が強調されている点(特徴4))、5)左右方向からみて、側木につい
ては、これを一直線とし、その上端の2隅を直角とし、脚木についても、こ
れを一直線とし、その先端側と後端側の各2隅の角度を略左右対称とした点
(特徴5))、6)上下方向からみて、身体に接触する曲線状の背板並びにこれ
に対応する座面板及び足置板の後部波状部分を除き、座面板と足置板の前部
を直線状の形状とし、その2隅を直角とした点(特徴6))に特徴があるもの
と認められる。
そうすると、原告製品は、これらの各特徴を全て組み合わせることによっ
て、身体に接触する背板部分及びこれに対応する座面板及び足置板の後部波
状部分を除き、側木、脚木、横木、座面板、足置板及び背板という椅子を構\n成すべき最小限の要素を直線的に配置し、究極的にシンプルでシャープな印
象を与える直線的構成美を空間上に形成したという限度において、形態とし\nての特徴があるものと認められる。
他方、本件形態的特徴は、図面又は写真で特定されるものではなく(意匠
法6条、24条、意匠法施行規則3条各参照)、上記にいう特徴1)及び特徴
2)を文字で特定されるにとどまるものである。そのため、本件形態的特徴は、
それ自体複数の商品形態を含むところ、本件形態的特徴には、原告らが主張
するとおり被告各製品が含まれるほか、側木が曲線を含む形態、座面板や足
置板が曲線の形態その他の直線的構成美を欠く多種多様な形態を含むもの\nであるから、原告製品が形成する直線的構成美を欠く非類似の商品形態を広\n範かつ多数含むものである。しかも、原告らの主張によれば、本件形態的特
徴(特徴1)及び特徴2))は、本件形態的特徴のみに限るというのではなく、
例えば特徴3)が付加された形態も、本件形態的特徴に含むというものである
から、本件形態的特徴は、座面板と足置板を固定するための複雑な部材を採
用する形態その他の究極的にシンプルな構成美を欠く多種多様な形態を含\nむものである。
したがって、本件形態的特徴は、そもそもその外延が極めて曖昧であり、
商品形態が商品等表示として認められる場合を限定する不競法2条1項1\n号又は2号の上記趣旨目的に鑑みると、原告らは、原告製品のうち出所表示\n機能を発揮する商品等表\示部分を明確に特定するものとはいえない。
のみならず、原告らにおいて本件形態的特徴をそのまま具備すると主張す
る被告各製品についてみても、被告各製品は、座面板及び足置板を固定する
ために、支持部材、丸みを帯びた固定部材及び略円形のネジ部材を設ける構\n成を採用し、特徴3)を有するものではない。そのため、被告各製品は、需要
者に対し、椅子全体として安定して使いやすい印象を与えるものの、複雑な
上記構成によって、究極的にシンプルな印象を与える直線的構\成美を欠くも
のといえる。しかも、被告各製品は、前後方向からみると、背板中央に楕円
形の大きな穴が形成されており、かつ、固定部材を側木にネジ止めするため、
側木には円形状の穴が多数形成されていることからすると、被告各製品は、
直線的でシャープな印象を明らかに損なうものである。さらに、被告各製品
は、左右方向からみても、側木上部が床面と略垂直方向に折れ曲がっており、
一直線の側木で構成される原告製品の直線的でシャープな印象とは、全体と\nして大きく異なる印象を与えている。加えて、被告各製品は、上下方向から
みても、座面板及び足置板の前部及び後部が端部から緩やかな曲線状に形成
されており、椅子全体として柔らかい印象を与えるものであるから、座面板
及び足置板の前部が直線で構成される原告製品の直線的でシャープな印象\nとは明らかに異なるものである。
これらの印象の相違を踏まえると、被告各製品は、座面板及び足置板の固
定において複数の部材を利用する点において、原告製品のような究極的にシ
ンプルな印象を与えるものではなく、かつ、曲線的形状を数多く含む点にお
いて、原告製品のような直線的でシャープな印象を与えるものではない。
したがって、直線的構成美を造形表\現する原告製品の高いデザイン性に鑑
みると、少なくとも被告各製品の形態は、究極的にシンプルでシャープな印
象を与える直線的構成美を欠くものであるから、原告らの出所を表\示するも
のであると認めることができないことは明らかである。
以上によれば、本件形態的特徴に含まれる被告各製品の形態は、明らかに
原告製品の商品等表示に該当しないことからすると、本件形態的特徴は、全\n体として不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと認\nめるのが相当である。
◆判決本文
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2023.04.24
令和3(ワ)17636 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 令和5年4月14日 東京地方裁判所
Yahoo!地図が原告地図の複製・翻案に該当するか争われました。東京地裁(29部)は、「記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して判断すべき」との判断基準を示しました。結論は請求棄却です。原告は個人です。
(1) 複製及び翻案の判断方法
ア 著作物の複製(著作権法2条1項15号)とは、印刷、写真、複写、録
音、録画その他の方法により有形的に再製することをいう。また、著作物
の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表\現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表\現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして、著作権法は、思想又は感情の
創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照)、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、\n事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表\現上の創作性がない
部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製
又は翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)
第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁
参照)。
そうすると、プロアトラスSV及びYahoo!地図が原告地図1を複
製又は翻案したものに当たるというためには、原告地図1とプロアトラス
SV及びYahoo!地図が、創作的表現において同一性を有することが必要であるものと解される。したがって、原告地図1とプロアトラスSV\n及びYahoo!地図との間で、アイデアなど表現それ自体でない部分でのみ同一性が認められる場合には、プロアトラスSV及びYahoo!地\n図は原告地図1を複製又は翻案したものに当たらない。また、原告地図1
とプロアトラスSV及びYahoo!地図との間に、表現において同一性が認められる場合であっても、同一性を有する表\現がありふれたものであるなど、その表現に創作性が認められない場合も、プロアトラスSV及びYahoo!地図は原告地図1を複製又は翻案したものに当たらないと解\nすべきである。
ところで、複製又は翻案の成否を判断するに当たっては、著作権を主張
する者が作成したものに着目して創作性を判断し、その上で、被疑侵害者
が作成したものを観察して、著作権の創作的表現と認められる部分が再製されているか否かを判断するとしても、原告地図1における創作的表\現がプロアトラスSV及びYahoo!地図に再製されていると認められるか
否かを検討する必要があるから、原告地図1とプロアトラスSV及びYa
hoo!地図の共通部分が創作的表現であるか否かを検討した場合と結論を異にするものではないというべきである。\n
イ この点、地図は、地形や土地の利用状況等の地球上の現象を所定の記号
によって客観的に表現するものであるから、個性的表\現の余地が少なく、
文学、音楽、造形美術上の著作物等に比して、著作権法上の保護を受ける
範囲が狭いのが通例である。しかし、地図において記載すべき情報の取捨
選択及び表示の方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験等が重要な役割を果たし得るものであるから、なおそこに創作性が表\れ得るということができる。そこで、地図の著作物性は、記載すべき情報の取捨選択及
びその表示の方法を総合して判断すべきものであり、前記アの創作的表\現
の同一性についても、このような観点から検討すべきである。
(2) プロアトラスSVが原告地図1を複製又は翻案したものであるか
ア 証拠(甲1、4、63)及び弁論の全趣旨によれば、原告地図1は、沖
縄県糸満市周辺の地図であること、原告地図1及びプロアトラスSVにお
ける同市潮平及び阿波根周辺の各記載は、別紙原告地図1・A及びプロア
トラスSV・Aのとおりであること、同市照屋周辺の各記載は、別紙原告
地図1・B及びプロアトラスSV・Bのとおりであること、同市兼城周辺
の各記載は、別紙原告地図1・C及びプロアトラスSV・Cのとおりであ
ることが認められる。そこで、別紙原告地図1・AないしC及びプロアトラスSV・AないしCを対比し、原告が主張する原告地図1とプロアトラスSVの共通部分
(前記第3の1(原告の主張)(1)ア(ア)a(a)1)ないし5)並びに(b)6)及び
7)。以下、この第4の1(2)アの検討においては、当該(原告の主張)で付
した頭書の番号に従って、「共通部分1)」などという。)が創作的表現と認められるかについて検討する。\n
(ア) 共通部分1)について
a 原告は、原告地図1とプロアトラスSVには住宅地図であるという
共通部分1)が存在すると主張するところ、別紙原告地図1・Aないし
C及びプロアトラスSV・AないしCを対比すると、建物や住宅、道
路、河川等が記載されている点で一致するとは認められるものの、こ
れらの具体的な記載が一致しているとは認められない。
b 前記aの一致点について検討すると、地図に建物や住宅、道路、河
川等を記載すること自体はアイデアにすぎず、共通部分1)は、表現それ自体でない部分で同一性を有するにすぎないというべきである。\n したがって、共通部分1)について、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。\n
(イ) 共通部分2)について
a 原告は、原告地図1とプロアトラスSVが、いずれも、検索の目安
となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物について、居住
人氏名や建物名称の記載を省略し、住宅及び建物のポリゴン並びに番
地のみを記載し、当該ポリゴンは影なしのポリゴンであり、番地は当
該ポリゴンのほぼ中央に、紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで、
折り返すことなく、必ずしも当該ポリゴンの内部に収まらずに、アラ
ビア数字で記載されている点を、共通部分2)として主張する。しかし、別紙原告地図1・AないしC及びプロアトラスSV・Aな
いしCを対比すると、原告地図1とプロアトラスSVで、同じ建物に
ついて名称が記載されているものもあれば、一方の地図では名称が記
載されているが、他方の地図では記載されていないものもあり、公共
施設やビル等のうち検索の目安となるものや著名なものが異なるとい
える。また、原告地図1とプロアトラスSVで、住宅及び建物のポリ
ゴンの具体的な記載が全て一致するとは認められない。さらに、原告
地図1では、ほぼ全てのポリゴンにつき番地が記載されているのに対
し、プロアトラスSVでは、番地が記載されていないポリゴンが相当
数ある。
したがって、原告地図1とプロアトラスSVは、一部の住宅及び建
物のポリゴンの具体的な記載の点、一部の建物について建物名称が記
載され、住宅の居住人氏名やその他の建物の建物名称の記載は省略さ
れている点、住宅及び建物がポリゴンで表現されており、当該ポリゴンには影が記載されていない点、一部の住宅及び建物の番地が、当該\nポリゴンのほぼ中央に、紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで、
折り返すことなく、必ずしも当該ポリゴンの内部に収まらずに、アラ
ビア数字で記載されている点でのみ一致すると認めるのが相当である。
b 前記aのとおり、原告地図1とプロアトラスSVで、一部の住宅及
び建物のポリゴンの具体的な記載が一致したとしても、それは、同じ
住宅又は建物を真上から見たときの外枠を記載したことによるもので
あるから、住宅及び建物の形状という事実において同一性が認められ
るにすぎない。また、原告地図1では、ポリゴンが淡い黄色であるの
に対し、プロアトラスSVでは、ポリゴンは薄い灰色、濃い灰色又は
オレンジ色であること、原告地図1では、番地は、黒色で、各数字が
鉛直方向に記載されているのに対し、プロアトラスSVでは、番地は、
薄茶色で、各数字が斜体で記載されていることを考慮すると、その他
の一致点は、具体的な表現において同一性を有するものとは認められず、地図の記載方法というアイデアにおいて同一性が認められるにす\nぎないといわざるを得ない。
さらに、共通部分2)が表現において同一性を有するものであるとしても、証拠(乙6、7、11、14、15、25、32ないし38)\nによれば、原告地図1の作成当時、建物及び住宅の真上から見た形状
を影なしのポリゴンで記載した地図は複数存在したと認められる。そ
うすると、このような記載方法については、ありふれていたといえる
上、原告地図1の表示範囲である沖縄県糸満市周辺の地図において、建物及び住宅の形状をこのようなポリゴンで記載するとしても、ポリ\nゴンは建物及び住宅の形状に従って記載するものであるため、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないとい\nうべきである。
その上、証拠(乙7、14、15、25、32ないし38)によれ
ば、原告地図1の作成当時、建物及び住宅の番地が、建物及び住宅の
ポリゴンの中央付近に、アラビア数字で折り返すことなく横書きされ
た記載を含む地図は複数存在したと認められる。そうすると、このよ
うな記載方法についても、ありふれていたといえる上、原告地図1の
表示範囲である沖縄県糸満市周辺の地図において、建物及び住宅の番地をこのように記載するとしても、番地はあらかじめ指定されている\nものであるため、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないというべきである。したがって、共通部分2)は、表現それ自体でない事実又はアイデアにおける同一性を有するにすぎないか、表\現において同一性を有する
としても、その表現に創作性は認められないから、共通部分2)につき、
創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
c これに対して、原告は、乙第6及び32ないし34号証の各地図は
一般住宅の居住人名が記載された箇所があること、乙第7、14、1
5及び36ないし38号証の各地図は極めて特殊な状況の下で、一部
地域についてのみ作成されたものであること、乙第10号証の地図は
そもそもポリゴンの記載がないこと、乙第18号証の地図はポリゴン
を記載し、一般住宅の居住人名を記載せず、一部の建物の名称を記載
するという特徴を有しないこと、乙第24及び25号証の各地図は主
に自動車での移動等のために広域の道路情報や地理情報を得ることを
目的としたものであり、そもそも居住人名や番地を記載する必要はな
いことからすると、原告地図1の記載がありふれていたことの証拠と
ならないと主張する。
しかし、上記各地図は、いずれも、建物及び住宅の真上から見た形
状を影なしのポリゴンで記載したり、建物及び住宅の番地が、建物及
び住宅のポリゴンの中央付近に、アラビア数字で折り返すことなく横
書きされたりする部分を含んでいると認められ、他方で、本件全証拠
によっても、上記各地図が特殊な目的のために作成されたものである
といった、ありふれていることを否定するような事情を認めることは
できない。そうすると、上記の記載方法はありふれていたものといわ
ざるを得ない。
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2023.01. 6
令和3(ワ)5086 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 令和4年12月12日 大阪地方裁判所
原告の「桜のイラスト」の複製・翻案かが争われました。大阪地裁は、著作物性は認めたものの、創作性ある部分が共通しないとして、請求棄却しました。
3 争点2(被告各イラストが、原告各イラストを複製ないし翻案したものであり、
かつ同一性保持権を侵害するものであるかどうか)について(被告イラスト2に
関する判断)
前記2の認定によると、原告イラスト1は、現実の桜にみられる要素を原告な
りの手法により適宜デフォルメして表現し、それらを組み合わせた上、認定に係\nる背景を付した所定の用紙上に配置するなどして1個のデザインとして完成さ
せたものであって、認定した表現を含む表\現の総体としては原告の個性が現れた
ものであって創作性があるといえ、著作物性を一応肯定できる(争点1)。
よって、進んで争点2について判断する。
この点、原告は、原告特徴1)〜9)が原告イラスト1の表現上の本質的な特徴で\nあり、そのうち原告特徴1)及び3)〜9)が被告各イラストと共通し、被告各イラス
トに接した者が原告イラスト1の表現上の本質的な特徴を直接感得することが\nできると主張するところ、原告は、主に被告イラスト2との対比において複製な
いし翻案を主張したので、まず被告イラスト2について検討する。
(1) 原告特徴1)について
原告主張の原告特徴1)は、前記第3の2(1)に主張のとおりであるところ、
ここでいう「背景全体」とは、花の白いスタンピング(かすれ要素A)が原告
特徴2)として特定されてこれが除かれていることから、原告イラスト1から、
正面視花要素A、側面視花要素A、つぼみ要素A、かすれ要素Aを除いた部分
をいうものと解される。
そして、前記認定によると、同部分の具体的態様は、「色調の異なるピンク色
や一部オレンジ色が、不明瞭にぼかし味をもちながら配色された」ものであっ
て、これと対応する被告イラスト2の要素としては、「赤みのある紫、青みのあ
る紫、オレンジ色などがグラデーション、ぼかしを伴って全体としてはマーブ
ル状に彩色され、前記すかしを伴ったスタンピング要素Bがランダムに散りば
められている」背景部分が該当する。
この点、原告イラスト1と被告イラスト2の背景部分は、そもそもの枠の大
きさが異なることに伴う広がりの規模や、背景として認識される部分の形状が
大きく異なって特段の共通点を見出し難い上、被告イラスト2における、赤み
のある紫、青みのある紫、オレンジ色などがマーブル状に彩色されている点は、
原告イラスト1にはみられない被告イラスト2の特徴というべきであって、こ
れらの相違点の与える影響は大きなものがある。したがって、原告特徴1)で指摘する内容は、被告イラスト2との共通点を構成しないというべきである。\n
(2) 原告特徴3)ないし同4)について
原告は、原告特徴3)及び同4)が被告イラスト2にもみられると主張するとこ
ろ、前記認定によると、原告イラスト1には、5または6個の正面視花要素A
等で構成されるまとまりが台紙の略左中央上、略右上及び略右下の3か所にあ\nることが認められる。また、原告特徴4)中の「空きスペース」に描かれた「適
宜桜の花」が具体的に何を指すかは必ずしも明らかではないが、右上上端及び
左中下端に見切れた正面視花要素Aが各1個、台紙略左下のおおむね中央に正
面視花要素A1個をいうものと解され、これらが同位置に配されている。
一方、被告イラスト2においては、3個の正面視花要素B等で構成されるま\nとまり(別紙被告イラスト2分析図でいうγ及びεのまとまり)、4個の正面
視花要素B等で構成されるまとまり(同分析図でいうδのまとまり)、5個の\n正面視花要素B等で構成されるまとまり(同分析図でいうα及びβのまとまり)\nが、袋体正面では15から20個、前記αからεまでのまとまりが回転を加え
たうえでやや不規則に被告イラスト2の枠を埋めるように配されている。また、
これらのまとまりが不整形な形状のためにできたまとまりのない部分に正面
視花要素Bが単独で配されている。
そして、原告イラスト1にみられるまとまりと、被告イラスト2におけるま
とまりを、それ自体で相互に比較しても、各構成要素(正面視花要素、側面視\n花要素、つぼみ要素)の構成や形態において同一のものは認められない上、被\n告イラスト2においては、まとまりの数自体や、まとまりの繰り返しによって
与えられる印象が強く、後述の各構成要素の相違点と相まって、「5ないし6\n個の桜の花をまとまって描く」というアイデアのレベルを超えた具体的な表現\n上の共通性を認めることはできない。また、桜の花を数個まとめて描くこと自
体は、自然の桜を描写する際に自然に着想することであって、他の桜のイラス
トにもみられるありふれたものといわざるを得ない。また、原告特徴4)につい
ても、原告イラスト1においては、被告イラスト2との対比において、まとま
りとまとまりの間隔というものは観念しづらく、むしろまとまりの配置のない
略左下部に1個の正面視花要素Aを配したとの印象が強く、具体的表現におけ\nる共通性を感得できない。
以上によると、原告特徴3)及び同4)で指摘される内容は、被告イラスト2に
みられる特徴とはいえず、共通点は認められない。
(3) 原告特徴5)、同6)及び同7)について
原告は、正面視花要素Aに関して、原告特徴5)、同6)及び同7)が特徴であり、
同特徴が被告イラスト2にも存すると主張する。
この点、まず、正面視花要素Aと同Bの花弁についてみると、前記認定のと
おり、原告イラスト1における花弁は、「白色で基部付近はピンクないし淡い
ピンク色が不均一の色調でぼかしたように配されている」のであり、花弁の白
と背景のコントラストが強く意識される一方、被告イラスト2における花弁は
「ごく薄い赤みないし青みのかかった紫色の下地に透明感のある白の小さな
おおむね丸いドットが重なるように多数配されて前記薄紫の下地が透けて看
取できる」態様で描かれており、花弁それ自体も淡く着色されている上、背景
とのコントラストは弱く、全体として正面視花要素Bは同Aと相当に異なった
印象を受けるものである。したがって、原告特徴5)が被告デザイン2にも備わ
っているとは認められない。また、原告特徴6)及び同7)についてみると、完全
に開花した桜を正面視で「5枚の花弁を放射線状に一体に、花弁ごとに区切ら
ずに描き、花弁の中央部に略放射線状にランダムな長さ及び角度で8本又は9
本描く」ことや、同様にやや斜方視で、「5枚の花弁を略扇形に一体に、花弁ご
とに区切らずに描いた上で、弧の部分にランダムに山を複数描き、花弁の下寄
りの部分に茶色の細い線でおしべ等を略扇形状にランダムな長さ及び角度で
6本又は7本描き、その先端を茶色の小さい丸で描いている点」は、前記認定
に係る自然の桜の態様及び他のイラストの表現に照らすと、桜のイラストにみ\nられるごく一般的な表現であり、ありふれたものであって、そもそもかかる特\n徴は、原告イラスト1の本質的特徴に当たらない。
(4) 原告特徴8)及び同9)について
原告主張の「先端に白色のつぼみがついた茶色の花柄及びがく片を、花から
適宜飛び出して描いている点」(原告特徴8))及び「つぼみには完全に閉じた状
態のものと、半開き状態のものがあり、前者はふっくらとした雫形状で、先端
がやや尖っていて、がく片は3本であり、後者は略扇形で弧の部分にランダム
に山を複数描き、がく片は基本的に4本となっている点」についても、前記認
定に係る自然の桜の態様及び他のイラストの表現に照らすと、桜のイラストに\nみられるごく一般的な表現であり、ありふれたものといわざるをえず、原告イ\nラスト1の本質的特徴に当たらない。
・・・
(6) まとめ
以上のとおり、被告イラスト2は、アイデアなど表現それ自体でない部分又\nは表現上創作性がない部分において原告イラスト1と同一性を有するにとど\nまり、これに接する者が、原告イラスト1の表現上の本質的な特徴を感得する\nことはできないから、依拠性を判断するまでもなく、原告イラスト1の複製及
び翻案に当たらない。よって、被告イラスト2を用いた被告製品2を被告が販
売した行為は、原告の原告各イラストに係る複製権及び翻案権を侵害するもの
とはいえず、同様に、同一性保持権を侵害するということもない。
◆判決本文
◆当事者のイラストです
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