いろいろ争点はありますが、写真について、著作物性が否定されました。ただ、文章について複製権・翻案権侵害が認められました。損害額は、販売不可事情を考慮して、114条1項(原告単価利益*被告販売数)の7割と認定されました。
制作工程写真は,別紙「制作工程写真目録」記載のとおり,故一竹によ
る「辻が花染」の制作工程の各場面を撮影したものであるところ,これら
制作工程写真の目的は,その性質上,いずれも制作工程の一場面を忠実に
撮影することにあり,そのため,被写体の選択,構図の設定,被写体と光\n線との関係等といった写真の表現上の諸要素はいずれも限られたものとな\nらざるを得ず,誰が撮影しても同じように撮影されるべきものであって,
撮影者の個性が表れないものというべきである。したがって,制作工程写\n真は,いずれも著作物とは認められない。これに反する原告らの主張は採
用できない。
イ 美術館写真について
美術館写真は,別紙「美術館写真目録」記載のとおり,一竹美術館の外
観又は内部を撮影したものであるところ,これら美術館写真の目的は,そ
の性質上,いずれも一竹美術館の外観又は内部を忠実に撮影することにあ
り,そのため,被写体の選択,構図の設定,被写体と光線との関係等とい\nった写真の表現上の諸要素はいずれも限られたものとならざるを得ず,誰\nが撮影しても同じように撮影されるべきものであって,撮影者の個性が表\nれないものである。したがって,美術館写真は,いずれも著作物とは認め
られない。これに反する原告らの主張は採用できない。
(2) 制作工程文章の著作物性について
制作工程文章は,別紙「制作工程文章目録」記載のとおり,「辻が花染」
の各制作工程を説明したものである。その目的は,各制作工程を説明するこ
とにあるため,表現上一定の制約はあるものの,制作工程文章が,同様に「辻\nが花染」の制作工程について説明した故一竹作成の文章(甲41)とも異な
っていることに照らしても,各制作工程文章の具体的表現は,その作成者の\n経験を踏まえた独自のものとなっており,作成者の個性が表現されていると\nいえるから,制作工程文章は全体として創作性があり,著作物と認められる。
これに反する被告の主張は採用できない。
(3) 旧HPコンテンツの著作物性について
旧HPコンテンツは,別紙「旧HPコンテンツ目録」記載のとおりであり,
旧HPコンテンツ1は「辻が花染」の歴史的説明,旧HPコンテンツ2は故
一竹と「辻が花染」との関わり,旧HPコンテンツ3はフランス芸術文化勲
章シュヴァリエ章勲章メッセージの和訳,旧HPコンテンツ4はスミソニア\nン国立自然史博物館からの感謝状の和訳である。旧HPコンテンツ1及び2
はいずれも歴史的事実に関する記述ではあるものの,その事実の取捨選択,
表現の仕方には様々なものがあり得,その具体的表\現には筆者の個性が表れ\nているといえるから,創作性があり,著作物と認められる。また,旧HPコ
ンテンツ3及び4はいずれも仏語ないし英語の翻訳であるが,翻訳の表現に\nは幅があり,用語の選択や訳し方等その具体的表現に翻訳者の個性が表\れて
いるといえるから,創作性があり,著作物と認められる。これに反する被告
の主張は採用できない。
複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再
製することをいうところ(著作権法2条1項15号参照),著作物の複製と
は,既存の著作物に依拠し,これと同一のものを作成し,又は,具体的表現\nに修正,増減,変更等を加えても,新たに思想又は感情を創作的に表現する\nことなく,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が\n既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作\n成する行為をいうものと解すべきである。また,翻案とは,既存の著作物に
依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表\
現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現する\nことにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接\n感得することができる別の著作物を創作する行為をいうものと解すべきであ
る(最高裁判所平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷
判決・民集55巻4号837頁参照)。
被告作品集130−131頁(甲9)と制作工程文章を別紙「原被告作品
対比表」記載1のとおり比較対照すると,被告作品集130−131頁の制\n作工程に関する各文章は,制作工程文章1ないし7及び9の各文章と全く同
一か,又はほとんど同一であり,一部改変され,相違点はあるものの,全体
として制作工程文章の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる。\nよって,被告は被告作品集130−131頁において制作工程文章1ないし
7及び9を複製ないし翻案したものと認められ,複製権ないし翻案権を侵害
する。そして,上記改変は著作者の意に反する改変といえるから,同一性保
持権を侵害する。
これに対して,被告は,両各文章は創作性のない部分について同一性を有
するにすぎず,複製にも翻案にも当たらないと主張するが,上記のとおり,
制作工程文章の創作的部分において同一性が認められるから,被告の主張は
採用できない。
原告らは,被告作品集の販売に係る損害額について原告作品集の利益額
に基づき114条1項の適用があると主張するのに対し,被告はこれを争
うため,以下検討する。
(ア) 原告作品集の販売主体及び原告らの販売能力
原告作品集の奥付には「(C)1998 (株)一竹辻が花」と記載され,原告作
品集は訴外一竹辻が花のウェブサイトにおいて販売されていることが認
められる(甲8,29)ところ,訴外一竹辻が花(昭和59年5月8日
に「株式会社オピューレンス」から商号変更)は平成22年まで原告A
が代表者を務めていた会社であり(甲50の1及び2),原告工房も含\nめて実質的には原告Aらの経営によるものと認められ,その販売主体は
実質的には原告らとみることができる。また,原告作品集の制作には,
故一竹を引き継いで「辻が花染」を制作する原告Aの関与が大きいもの
と考えられることも併せ考慮すれば,原告らには原告作品集の販売能力\nがあると認められる。
これに対し,被告は,そもそも原告らが原告作品集を販売しておらず,
販売能力がないから,被告作品集への114条1項の適用の基礎を欠く\nと主張するが,上記説示に照らして採用できない(なお,被告は,原告
作品集の奥付に「制作(株)便利堂」と記載されていること(甲8)も
指摘するが,この点は販売能力とは関係がない。)。
(イ) 原告作品集と被告作品集の代替性
原告作品集と被告作品集は,その大部分において,着物作品(部分を
含む。)を1頁に大きく配置して紹介するとともに,観賞の対象とする
ものであり,そのほかの部分においても,故一竹の略歴,制作工程の説
明,美術館の紹介が記載されており,内容は類似するものと認められる
(甲9,51)。また,上記内容の共通性に照らして,着物作品の観賞
を主としつつ,故一竹と「辻が花染」について理解を深めるという利用
目的・利用態様も基本的には同一であると認められる。そうすると,後
記のとおり,販売ルートの違いはあるものの,両作品集には代替性が認
められる。被告は,内容,利用目的・利用態様及び販売ルートの相違か
ら,原告作品集と被告作品集には代替性がないと主張するが,上記説示
に照らして採用できない。
(ウ) 以上からすれば,被告作品集の販売に係る損害額について原告作品集
の利益額に基づき著作権法114条1項の適用があるというべきである。
イ 原告らが販売することができないとする事情(推定覆滅事情)
被告は,販売市場の相違,被告の営業努力,被告作品集の顧客吸引力に
より,被告作品集の譲渡数量の全数について販売することができないとす
る事情があると主張する。
そこで検討するに,原告作品集は訴外一竹辻が花のウェブサイトにおい
てインターネット上で販売されている(甲29)のに対し,被告作品集は
一竹美術館のショップ内で販売されており(前記前提事実(4)ア),顧客層
に一定の違いがあると考えられること,また,被告作品集は,美術館のシ
ョップにおいてまさに一竹作品等を観賞した者に対して販売されているこ
とにより,販売態様の異なる原告作品集とは顧客誘引力に違いがあると考
えられること,以上の事情を踏まえると,被告作品集の30%については,
原告らが販売することができないとする事情があったと認めるのが相当で
ある。
◆判決本文
問題となった著作物は以下です。
◆別紙1
◆別紙2
◆別紙3
◆別紙4
2018.07. 2
イラストについて公衆送信権侵害の損害額として30万円が認められました。ただ、侵害と指摘されても、そのタイミングで通常のライセンス料を払えばすむなら、誰も最初からまじめに契約しようとは考えないですよね。損害賠償が得べかりし利益の補償という考え方は分かりますが、著作権侵害が故意の場合には、懲罰的賠償を可能とするとかできないんでしょうか。
後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,1)原告は,平成29年6月頃,ウェ
ブサイト上に掲載する漫画の制作依頼を受けたところ,この依頼において,
掲載期間を1年間(2年目以降も掲載する場合には契約更新を行う。)とし,
原稿料は,漫画本編は1頁当たり2万円,カラー扉絵は4万円との条件を示
されたこと(甲12),2)原告は,平成28年頃,書籍の表紙用のカラーイラ\nスト(スーツを着て,ペンとメモ帳を持った女性のイラスト)及び当該書籍
中の扉絵4点を制作したところ,原稿料は,表紙のイラストについて3万円,\n扉絵について3000円であったこと(甲14の1・2),3)原告は,平成2
9年の年賀状用のカラーイラスト(餅と鳥を組み合わせたイラスト)を制作
したところ,原稿料は2万4000円であったこと(甲15の1・2),以上
の事実が認められる。
これらの事実に加え,本件各イラストの内容(前提事実 ),本件サイトは
インターネットメディア事業を行うことなどを目的とする被告が運営し,そ
の閲覧数に応じて被告が収入を得るものであること(弁論の全趣旨),その
他本件における諸事情を総合すると,本件各イラストの使用に対し受けるべ
き金額は1年当たり3万円とするのが相当である。
そして,弁論の全趣旨によれば,被告が本件サイト上に本件各イラストを
掲載していた期間は,平成26年7月31日から平成29年6月8日までで
あると認められるから,原告が,本件各イラストの使用に対し受けるべき金
銭の額は合計27万円(1年当たりの使用料3万円×3点×3年分)となる。
イ これに対し,原告は,原告が制作するイラストの使用料は1年当たり10
万円を下らないと主張し,原告本人の陳述書中にも同旨の記載がある(甲1)
が,上記アの認定事実に照らし,原告の主張は採用することはできない。
ウ 他方,被告は,ツイッターのサービス利用規約上,ツイート自体を埋め
込む方法によって他のウェブサイトに掲載することが認められている点
を損害額の算定において考慮すべきであると主張するが,被告の主張を前
提としても,本件における被告の掲載行為が適法となる余地はなく,上記
に述べた本件サイトの性質等に照らしても,被告の上記主張は採用するこ
とができない。
また,被告は,本件各イラストが掲載されていた本件サイトのPV数は
公開後約2か月間に集中しており,その後はほとんど閲覧されていないか
ら,掲載期間全部を損害額算定の根拠することは不当であると主張する。
しかしながら,本件において原告が受けるべき金員の額は,被告による本
件各イラストの掲載行為の内容等を踏まえて算定すべきであるから,被告
の上記主張は採用することができない。
さらに,被告は,原告が本件訴訟提起前に被告に対し本件各イラストの
著作権侵害による損害賠償金として9万円(1点3万円×3点)を請求し
ていたこと,上記ア1)について,漫画の原稿料にはストーリー制作作業に
対する対価も含まれると考えられること,同2)について,書籍の表紙とな\nるイラストと本件各イラストでは完成度が異なることから,いずれも本件
各イラストの使用料相当額の算定資料としては適切ではなく,むしろ,本
件各イラストの性質上,同2)の書籍の扉絵の原稿料(1点3000円)が
算定資料になり得る事例であり,本件各イラストは3点(描かれた場面の
数は合計14枚)であり,構図も3種類程度しかないこと等を踏まえると,\n本件各イラストの使用料は高くても1回2〜3万円程度であると主張す
る。
しかしながら,本件訴訟提訴前に一定の金額を提示したとしてもその金
額が直ちに本件各イラストの使用料相当額であるとはいえない。また,本
件各イラストにおいては,複数の場面が多色カラーで描かれ,各場面に合
わせた説明文も記載されており,これらの場面設定や説明文についても原
告が創作していることを踏まえると,本件各イラストの使用料相当額が,
漫画や書籍の表紙の原稿料と比べて低額になるとはいえず,被告の主張は\n採用することができない。被告は,被告が本件各イラストの掲載によって得た利益は2500円程度に過ぎないとも主張するが,本件サイトの性質等を踏まえても,上記ア
で認定した本件各イラストの使用に対し受けるべき金銭の額が不相当で
あるとはいえない。
◆判決本文
発信者情報開示事件です。1審では、リツイートはインラインリンクであるので、著作権侵害に該当しないと判断され、請求は棄却されました。知財高裁(2部)は、著作者人格権侵害があったとして、一部の発信者情報について開示を認めました。
前記(1)のとおり,本件アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている\n画像は,流通情報2(2)の画像とは異なるものである。この表示されている画像は,\n表示するに際して,本件リツイート行為の結果として送信された HTML プログラム
や CSS プログラム等により,位置や大きさなどが指定されたために,上記のとおり
画像が異なっているものであり,流通情報2(2)の画像データ自体に改変が加えら
れているものではない。
しかし,表示される画像は,思想又は感情を創作的に表\現したものであって,文
芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものとして,著作権法2条1項1号にいう
著作物ということができるところ,上記のとおり,表示するに際して,HTML プロ
グラムや CSS プログラム等により,位置や大きさなどを指定されたために,本件ア
カウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3〜5のよ\nうな画像となったものと認められるから,本件リツイート者らによって改変された
もので,同一性保持権が侵害されているということができる。
この点について,被控訴人らは,仮に改変されたとしても,その改変の主体は,
インターネットユーザーであると主張するが,上記のとおり,本件リツイート行為
の結果として送信された HTML プログラムや CSS プログラム等により位置や大きさ
などが指定されたために,改変されたということができるから,改変の主体は本件
リツイート者らであると評価することができるのであって,インターネットユーザ
ーを改変の主体と評価することはできない(著作権法47条の8は,電子計算機に
おける著作物の利用に伴う複製に関する規定であって,同規定によってこの判断が
左右されることはない。)。
また,被控訴人らは,本件アカウント3〜5のタイム
ラインにおいて表示されている画像は,流通情報2(1)の画像と同じ画像であるから,
改変を行ったのは,本件アカウント2の保有者であると主張するが,本件アカウン
ト3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は,控訴人の著作物である本\n件写真と比較して改変されたものであって,上記のとおり本件リツイート者らによ
って改変されたと評価することができるから,本件リツイート者らによって同一性
保持権が侵害されたということができる。さらに,被控訴人らは,著作権法20条
4項の「やむを得ない」改変に当たると主張するが,本件リツイート行為は,本件
アカウント2において控訴人に無断で本件写真の画像ファイルを含むツイートが行
われたもののリツイート行為であるから,そのような行為に伴う改変が「やむを得
ない」改変に当たると認めることはできない。
イ 氏名表示権(著作権法19条1項)侵害
本件アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像には,控訴人\nの氏名は表示されていない。そして,前記(1)のとおり,表示するに際して HTML プ
ログラムや CSS プログラム等により,位置や大きさなどが指定されたために,本件
アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3〜5の\nような画像となり,控訴人の氏名が表示されなくなったものと認められるから,控\n訴人は,本件リツイート者らによって,本件リツイート行為により,著作物の公衆
への提供又は提示に際し,著作者名を表示する権利を侵害されたということができ\nる。
・・・
(7) 「侵害情報の流通によって」(プロバイダ責任制限法4条1項1号)及び
「発信者」(同法2条4号について
前記(5)ア,イのとおり,本件リツイート行為は,控訴人の著作者人格権を侵害す
る行為であるところ,前記(5)ア,イ認定の侵害態様に照らすと,この場合には,本
件写真の画像データのみならず,HTML プログラムや CSS プログラム等のデータを
含めて,プロバイダ責任制限法上の「侵害情報」ということができ,本件リツイー
ト行為は,その侵害情報の流通によって控訴人の権利を侵害したことが明らかであ
る。そして,この場合の「発信者」は,本件リツイート者らであるということがで
きる。
◆判決本文
一審はこちらです。
◆平成27(ワ)17928