2023.10.31
令和5(ネ)10059 損害賠償請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和5年10月12日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
Yahoo!地図が原告地図の複製・翻案に該当するか争われました。知財高裁は、1審の東京地裁(29部)と同様に、翻案には該当しないと判断しました。
イ 判断手法(検討手順)について
ところで、控訴人と被控訴人は、複製又は翻案の有無を検討する手法
としての2段階テストと濾過テストの採否についてそれぞれの立場で主
張しているが、要は、創作性のある表現部分について同一性があるとい\nえるかどうかの判断がされれば足りるのであって、その判断に至る過程
で、最初に両著作物の共通部分の抽出を行うか、創作性の認められる表\n現上の特徴にまず着目するかという検討手順に関しては、合理的・効率
的な判断に資するための合目的的な観点から、事案に応じて適切に使い
分ければ足りる。本件では、控訴人の主張する手法(控訴人のいう2段階テスト)に沿
って(部分的に濾過テストの手法を併用する。)、以下、検討すること
とする。
(2) 控訴人地図1の表現上の本質的特徴について\n
ア 控訴人は、控訴人地図1の表現上の本質的特徴として、別紙2記載の本\n質的特徴1)〜7)を主張するところ、別紙の各控訴人地図1(甲1)に照
らして、控訴人地図1がその主張する特徴を備えていると認めることは
できる。そして、上記(1)アで述べたところに照らすと、上記本質的特徴1)〜7)
は、それぞれを個別に取り上げれば、地理情報の取捨選択、その配置等
の具体的な表現につき、上記のような制約の下での狭い幅での選択が示\nされているにとどまるものであり、従来の地図に比して顕著な特徴を有
するといった独創性が含まれているとまでは認められない。
イ この点、控訴人は、特に本質的特徴1)、同3)、同4)、5)について、従来
の常識にとらわれない素材の取捨選択を行うなどしたものであって、そ
の一部の組み合わせだけでも独創性のある表現が認められる旨主張する。\nしかし、まず、本質的特徴1)に関していえば、後述するとおり、そもそ
も被控訴人各地図と共通するとは認められないものである(この点は濾
過テストの手法を用いた。)。そして、本質的特徴3)については、控訴
人地図1の作成当時、建物及び住宅の真上から見た形状を影なしのポリ
ゴンで記載した地図は複数存在したと認められ(乙6,7,11,14,
15、25、32〜38)、本質的特徴4)、5)については、控訴人地図
1の作成当時、建物の名称及び住宅の番地が、建物及び住宅のポリゴン
の中央付近に、(番地についてはアラビア数字で)折り返すことなく横
書きされた記載を含む地図は複数存在したと認められ(乙7,14、1
5、25、32〜38)、いずれもありふれた特徴にすぎない。
なお、控訴人は、上記証拠の地図は、新旧番地を対照するという特殊な
背景の下で作成されたものが含まれているなどと主張するところ、確か
に、「番地」の取捨選択において、控訴人の主張する事情は重要な意味
を有するといえるが、上記の証拠の中には、住居表示新旧対照図以外の\nものも含まれているし(乙25、32〜34)、「番地」の取捨選択以
外の要素に関しては、従来のありふれた表現を示す証拠としての適格性\nを失うものではない。控訴人の上記主張は採用できない。
ウ 以上に述べたところを踏まえると、控訴人地図1は、別紙2の本質的特
・徴1)〜7)を備える総体として表現上の創作性を認めることができるもの\nであり、その表現上の本質的部分の特徴を被控訴人各地図から直接感得\nできるかどうかも、これを断片的、部分的に捉えるのではなく、相違点
も含めた総体としての全体的な考察により検討する必要があるというべ
きである。
(3) プロアトラス地図との比較検討
ア 各別紙のプロアトラス地図と控訴人地図1とを、控訴人主張の本質的特
徴の項目ごとに比較すると、以下のとおり認められる。
(ア) 控訴人主張の本質的特徴1)(共通要素a)について
まず、地理情報の取捨選択という観点からみるに、プロアトラス地
図では、控訴人地図1と同じく、「道路・河川」、「検索の目安とな
る公共施設や著名ビル等の個別建物形」、「一般住宅及び建物の個別
建物形」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」、及び
「建物番地」を記載することを選択し、一般住宅及び建物に関する
「居住人氏名」、「地類界」(宅地の境等)、「等高線」を記載して
いないことは認められる。しかし、その実際の適用(当てはめ)として、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」等の選択は必ずしも一致していない。
また、プロアトラス地図では、控訴人地図1には記載されていない交
差点名の記載がある(別紙プロアトラス地図・Aの「潮平」等)ほか、
「一般住宅及び建物」に関する「建物名称」を記載している点(プロ
アトラス地図・Aの「シャトレ喜鶴」「あけぼの」、プロアトラス地
図・Cの「タウン・ハウス」等)でも相違する。
次に、具体的な表現形式という観点からみても、プロアトラス地図\nは、1)ガソリンスタンドであれば「G」、飲食店であれば「R」、駐\n車場であれば「P」、学校であれば「文に〇の記号」など建物の種類
を示す記号が用いられている点、2)緑地部分が緑色、公共性の高い建
物は濃い灰色、商業施設等はオレンジ色、その他の建物及び住宅は薄
い灰色に塗り分けられ、道路が3色に塗り分けられている点で控訴人
地図1と相違しており、これらの点は、地理情報を表現する際の創作\n性に強く影響を及ぼす有意な相違と評価すべきものである。
控訴人は、これら相違点は、いずれも軽微な相違であり、表現の本\n質的特徴の同一性を失わせるものではないと主張する。しかし、地図
の著作物における地理情報の取捨選択、その配置等の具体的な表現方\n法には一定の制約があり、選択の幅が狭いと解されること(前記(1)ア)
を踏まえると、上記のような相違点を軽微なものと評価するのは相当
といえない。控訴人の主張は採用できない。
・・・・
(4) ヤフー地図との比較検討
ヤフー地図は、プロアトラス地図と多くの点で共通する特徴を有するもの
であり、したがって、控訴人地図1とプロアトラス地図との対比検討の項目
で述べたところは、ほぼそのままヤフー地図との対比検討に関しても妥当す
る。なお、プロアトラス地図になく、ヤフー地図に認められる特徴として、
ガソリンスタンド、コンビニエンスストア及びファーストフードショップの\nチェーン店について、名称ではなく各チェーン店の標章が記載されている点、
名称を折り返して表示する例がある点(ヤフー地図・Aの「健孝クリニック\n南部整形外科」等)が挙げられるが、これは、プロアトラス地図以上に控訴
人地図との表現上の違いが大きいことを示すものである。以上によれば、ヤフー地図についても、控訴人地図1の表\現上の本質的部分の特徴を直接感得できるとは認められないというべきである。
(5) 小括
したがって、被控訴人各地図は、いずれも控訴人地図1を複製又は翻案
したものとは認められないから、その余の点を判断するまでもなく、控訴人
地図1に関する著作権侵害は認められない。
◆判決本文
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◆令和3(ワ)17636
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2023.09.18
令和4(ワ)9660 債務不存在確認請求事件 著作権 民事訴訟 令和5年8月31日 大阪地方裁判所
ファイル共有ソフト「BitTorrent」の使用で被告動画が拡散したとして、20万円を超える賠償請求がなされました。原告は3万円を超える賠償債務は存在しないとする確認訴訟を提起しました。裁判所は3万7675円を超えては存在しないと判断しました。\n
(1) 被告は、ビットトレントを通じてアップロード等をすることは社会的にも
実質的にも密接な関連をもつ一体行為に参加するものであるなどとして、原告は、
本件ファイルが最初にビットトレントにアップロードされて以降の全ての権利侵害
についての責任を負う旨を主張し、仮に、原告がビットトレントを通じて自ら本件
ファイルを他のユーザーに送信することができた期間に限り不法行為が継続してい
たと解されるとしても、原告は、遅くとも令和3年10月25日に本件ファイルを
アップロードし、早くとも令和4年4月8日以降に本件ファイルにつきアップロー
ド可能な状態を終了した旨を主張する。\nしかし、共同不法行為(民法719条1項前段)が成立するためには、少なくと
も行為者各自の行為が客観的に関連して共同していることを要する(最三小判昭和
43年4月23日民集22巻4号964頁参照)から、原告が自らビットトレント
を通じて本件ファイルのデータのダウンロードを開始する前や、ダウンロードした
本件ファイルを削除したりビットトレントのクライアントソフトを削除するなどし\nてビットトレントを通じた本件ファイルのデータの送信ができなくなった後に発生
した本件著作権の侵害については、他の行為者の行為との客観的な関連共同性のあ
る行為が存在せず、共同不法行為責任を負うと解すべき理由がない。すなわち、本
件において、原告と他の氏名不詳者との間で共同不法行為が成立するのは、原告が
ビットトレントを通じて本件ファイルのデータを他のユーザーに送信可能な状態に\nある場合に限られるというべきである。
証拠(甲1、2の1、2の2、6)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、令和3
年当時、自宅の私用パソコンを、平日は2時間から3時間程度、休日前及び休日は\n3時間から5時間程度、インターネットに接続してネット情報の閲覧等(いわゆる
ネットサーフィン)をするが、常時接続はせず、使用時以外はシャットダウンする
という使用態様であったところ、同年10月25日、ビットトレントのネットワー
ク及びビットトレントを利用するためのクライアントソフト「μTORRENT」\nを使用して、約3時間かけて本件ファイルのダウンロードを完了させた後、原告の
パソコンからトレントファイルを削除し、翌日、本件ファイルを視聴したが、途中\nで原告のパソコンから本件ファイルを削除したこと、令和4年4月6日、原告が原\n告プロバイダから発信者情報開示請求に係る意見照会書の送付を受け、その頃、原
告のパソコンからビットトレントのクライアントソ\フト自体を削除したことが認め
られる。以上の事実及び前提事実(3)記載のビットトレントの仕組みに照らすと、
原告がビットトレントを通じて本件ファイルを他のユーザーに送信可能な状態にあ\nったというためには、少なくとも、原告が原告のパソコンをインターネットに接続\nしてビットトレントのクライアントソフトを起動した状態で、ビットトレントを通\nじて本件ファイルをダウンロードしているか又はダウンロードを完了した本件ファ
イルを原告のパソコンの送信可能\な領域に蔵置していることが必要と考えられる。
そうであるところ、原告が、原告のパソコンをインターネットに接続してビットト\nレントを通じて本件ファイルをダウンロードしていたのは約3時間に限られ、ダウ
ンロード完了後の原告のパソコンのインターネットへの接続状況やビットトレント\nのクライアントファイルの起動状況は不明であり、その翌日、原告のパソコンに保\n存した本件ファイルを視聴したものの(このときのインターネットへの接続状態や
ビットトレントのクライアントファイルの起動状況が不明であることは同様であ
る。)、途中で原告のパソコンから本件ファイルを削除したのであるから、原告が\nビットトレントを通じて本件ファイルを他のユーザーに送信可能な状態にあったと\n認められるのは、本件ファイルをダウンロードしていた3時間に限られるというべ
きである(なお、本件ファイルをパソコンから削除しても、キャッシュのデータ等\nが残存する可能性がないとはいえないが、そもそも原告のパソ\コンの送信可能な領\n域に本件ファイルのキャッシュのデータ等が自動的に保存されるものかは不明であ
る上、原告が敢えてデータをパソコンに残存させる必要性は乏しく、その後、原告\nの端末から本件ファイルに係るデータがビットトレントを通じてアップロードされ
た事実もうかがえないことから、原告は本件ファイルに係るデータをパソコンから\n全部削除したものと認められる。)。
したがって、原告が、本件著作物に係る著作権侵害について賠償責任を負う範囲
は、令和3年10月25日の3時間に発生した侵害行為による損害に限られるもの
というべきであり、被告の前記主張は、いずれも採用することができない。
(2) 以上を踏まえて本件著作物に係る著作権侵害による損害額について検討す
るに、前提事実(2)並びに証拠(乙3、4)及び弁論の全趣旨によれば、本件著作
物の「HD版ダウンロード及びHD版ストリーミング無制限」のダウンロード価格
(販売価格)は1450円であること、本件著作物の利益率は38%であること、
ビットトレントを通じた本件ファイルのダウンロード回数は、令和3年10月25
日時点で1206回、同月26日時点で1753回であり、同月25日の前記ダウ
ンロード回数は547回であることが認められる。そうすると、原告が本件の共同
不法行為により負うべき損害の範囲は、3万7675円(≒547 回×1450 円×38%
÷24×3。1円未満四捨五入)となる。
(3) 原告は、被告が、令和3年10月25日から令和4年4月8日までの間、
原告による共同不法行為が継続していたことを前提として178万9097円の損
害賠償額を主張することは損害拡大防止義務違反がある、不誠実な対応であるなど
述べて、過失相殺及び権利濫用の主張をするが、かかる被告の主張は採用すること
ができないことは前記(1)のとおりであって、原告の前記主張はその前提を欠く。
また、原告は、原告が、積極的に複製物を作成しようとする意思は希薄で、他者
のダウンロード行為による金銭的な利益を得てもいないことを指摘して、損害額に
ついて減免責されるべきである旨を主張するが、原告が指摘する事情をもって、前
記認定の損害額を減免責すべき事情に当たるとはいえない。
(4) 以上から、原告の被告に対する本件著作物に係る著作権侵害に基づく損害
賠償債務は3万7675円を超えて存在しないものと認められる。
◆判決本文
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2023.06. 9
令和4(ネ)10106 損害賠償請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和5年6月8日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
鉄道会社が、新聞記事をスキャンして、社内イントラネットにて閲覧できるようにしていた行為について、複製権侵害・公衆送信権侵害が争われました。1審は約200万円の損害賠償を認めました。知財高裁も同様ですが、損害額が上がっています。
1審被告は平成30年度掲載記事が「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」(著作権法10条2項)であり、著作物に該当しない旨主張する。
しかしながら、上記認定のとおり、平成30年度掲載記事(甲9、10、乙14)は、事故に関する記事や、新しい機器やシステムの導入、物品販売、施策の紹介、イベントや企画の紹介事業等に関する計画、駅の名称、列車接近メロディー、制服の変更等の出来事に関する記事であるところ、そのうち、事故に関する記事については、相当量の情報について、読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されるなど表現上の工夫をし、それ以外の記事については、いずれも、当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テーマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせたり、関係者のインタビューや供述等を、適宜、取捨選択したり要約するなどの表\現上の工夫をして記事を作成していることが認められ、各記事の作成者の個性が表れており、いずれも作成者の思想又は感情が創作的に表\現されたものと認められるものであり、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」であるということはできない。
また、著作物といえるための創作性の程度については、高度な芸術性や独創性まで要するものではなく、作成者の何らかの個性が発揮されていれば足り、報道を目的とする新聞記事であるからといって、そのような意味での創作性を有し得ないということにはならない。
したがって、1審被告の上記主張は採用することができない。その他1審被告は、平成30年度掲載記事が著作物に該当しない理由を縷々指摘するが、いずれも採用することができない。
◆判決本文
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◆令和2(ワ)3931
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◆令和5(ネ)10008
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◆令和2(ワ)12348
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2023.04.26
令和4(ネ)10125 損害賠償金請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和5年4月18日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
ウェブページのフライパンの説明画像についての損害賠償請求事件です。1審は著作権侵害を認め、5万円の賠償を認めました。原告は、残りの約15万円の支払いを求めて控訴しましたが、控訴棄却です。関連事件がたくさんあります。
(1) 控訴人は、前記第2の4のとおり、1)本件各画像がウェブページごとに独立して利用されている以上、損害額はウェブページ数を基本に算定すべきである(同(1)及び(2))、2)第三者に許諾することを想定していない著作物にも相場の利用料を参酌して利用料を算出するべきである(同(3))旨主張する。上記主張に対して、引用に係る原判決の第4の3(補正後のもの)において説示するところを改めて敷衍すると、次のとおりである。
(2) 著作権法114条3項によって、著作権者が著作権侵害によって受けた損害の額とすることのできる「受けるべき金銭の額に相当する額」の算定に当たっては、当該著作物の利用回数あるいは当該利用から生じた利益等の、当該著作物の直接の侵害行為の物理的な分量に従うのみならず、当該著作物の利用期間、利用態様、当該著作物から享受できる内容又は価値、侵害者の内心の態様(同条5項参照)、当該著作物を利用する市場の状況、他の者への利用許諾の状況等の諸般の事情を総合考慮して定めるべきものである。
本件についてみると、ウェブサイトの閲覧上、本件各画像は、見かけ上、本件商品の数に相当するウェブページで閲覧されるものではあるが、それらは一定の目的をもって一体化された画像の一部が使い回されているとみることも可能なものであり、一体の利用とみることができるから、本件各画像又はウェブページごとに複製又は送信可能\化について損害額を算定することは妥当とはいい難い。そして、本件各画像の利用期間も短期間であって、たとえ通販サイトであろうとも、閲覧に供された回数は限定的なものと考えるのが自然である。さらに、本件画像2)中のフライパンで調理中の食材を写した写真と本件画像3)中のフライパンを製造している職人の写真は、スキャンパン社から提供を受けたものであることを控訴人は自認しており(スキャンパン社がこれら写真に係る著作権を控訴人に譲渡したことを認めるに足りる証拠はない。)、控訴人が著作権を有するものではないし、本件各画像は商業的実用用途を目的とする著作物であって、むしろ、本件各商品をありのままに表現することを主目的とするものと理解され、その表\現される思想又は感情は限定的なものであるといえる。このことは、本件各画像が文字、写真等の素材を組み合わせたものであったとしても変わるものではない。また、被控訴人に過失があることは免れないとしても、それは重大なものではなく、その利用目的も、控訴人の営業を殊更に妨害するためであったり、本件各画像に表現されたところから享受できる価値を損なうためであったりなどの、専ら害意に基づくものとは認められず、単純なる自己の営業のための商業的利用にすぎない。n
(3) 次に、写真又は画像についての利用許諾状況をみてみると、日本美術著作権協会の利用申請方法は、画像の利用許諾を原則として1用途1目的につき毎回申\請を要するものと定めていること(甲26)、株式会社東京美術倶楽部の使用料規程は、コンピューター・ネットワークにおける美術の著作物の利用料の額を、著作物1点あたり1回につき1か月当たり1万円(美術関係業態以外)、2か月目以降は5000円と定めていること(甲27)、朝日新聞社が運営するデータベースの利用規約は、収録された写真、動画等を提供するサービスにおける法人の利用条件を、1媒体につき1用途1回限りの非独占的使用に限り、重版、再放送その他の用途で再利用する場合には別料金が発生すると定めていること(甲28)、Imagenaviの利用ガイドは、画像素材について、使用になる用途、期間によって料金設定が決まり、複数媒体に使用する場合には1使用ごとに料金が発生すると定めていること(甲29)が認められるが、これらの規定が念頭に置く「目的」、「用途」、「回数」又は「使用」は何を基準とするかは一義的には明らかでなく、ましてや上記各証拠がウェブサイトという1媒体の中における利用料をウェブページを基準にして決めていると理解することも困難であるから、これら利用料の算定方法を直ちに本件における損害額の算定方法の参考とすることはできない(なお、控訴人から音楽又は音源の利用に関する利用許諾に関する証拠も提出されているが、著作物としての性質が大きく異なるものであり、その参酌は相当でない。)。
(4) さらに、写真又は画像についての利用料についてみると、毎日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で商業利用する者に対し、2万2000円から4万4000円の利用料の支払を求めることがあり(甲5)、朝日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で利用する者に対し、使用期間6か月までの場合に2万2000円、使用期間1年までの場合に3万3000円、使用期間3年までの場合に5万5000円の使用料の支払を求めることがあり(甲6)、株式会社アフロは、同社が権利を有する様々な種類の静止画像をインターネット上の広告やホームページなどに利用する者に対し、同一ウェブサイト内においては利用箇所を問わず、利用期間1年までの場合に2万2000円、利用期間3年までの場合に2万8600円、利用期間5年までの場合に3万3000円の利用料の支払を求めることがある(甲7)との事実が認められるものの、利用許諾される写真のサイズ、質等や、媒体の数、掲載場所等の利用許諾の際の利用条件の詳細が不明であり、これら利用料をそのまま本件における損害額の算定について参考とすることはできず、ましてや、上記利用料を参考として算定した額をウェブページ1ページ当たりの損害として損害額を算定すべきとする根拠ともならない。また、ペイレスイメージズは、印刷物又はウェブ用との用途における画像素材単品での購入価格を、解像度、大きさに応じて440円から5500円に設定しているとの事実は認められるものの(乙3)、どのような画像が想定されているのか不明であり、やはり、この購入代金をそのまま本件における損害額の算定について参考とすることができない。
(5) 以上のとおりであり、本件記録に顕れた諸般の事情を考慮すると、本件における損害額は、被告サイト全体における利用について5万円とするのが相当であると認められ、控訴人の前記(1)1)の主張を採用することはできず、同2)に主張するところを参酌しても、上記結論は左右されない。
3 当審における控訴人の追加主張に対する判断
控訴人は、前記第2の5のとおり、原審及び当審において生じた訴訟費用を不法行為に基づく損害として追加する旨を主張する。民事訴訟手続の遂行により要した費用のうち、民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものについては、専ら訴訟裁判所の裁判所書記官の処分を経て取り立てることが予定されているというべきであるから、当該訴訟における不法行為に基づく損害賠償請求において、民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されないと解される(最高裁判所平成31年(受)第606号令和2年4月7日第三小法廷判決参照)。控訴人は、訴え提起及び控訴提起の手数料や書類の送付に要した郵便費用を不法行為に基づく損害として主張するが、これらは民事訴訟費用等に関する法律2条1号、2号に定めるものであるから、これら費目を本件において損害賠償として請求することはできない。n
◆判決本文
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2023.01. 6
令和4(ネ)10083 発信者情報開示請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和4年12月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
本文、ユーザー名のほかアイコンまでをリツートした行為について、引用と認められると判断されました。
ア 控訴人は、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする行為が利用規約に反することは明らかであり、それゆえ利用規約に基づいて本件ツイートによる公衆送信権侵害等について適法となることはないなどと主張する。
しかし、控訴人の上記主張は、利用規約の内容によって直ちに著作権法32条1項にいう公正な慣行の内容が規定されることを前提にするものであって、相当でない。この点、控訴人は、利用規約が遵守されることがツイッターの全ユーザー間の共通認識となっているとも主張するが、当該主張も、結局は利用規約の内容によって直ちに著作権法32条1項にいう公正な慣行の内容が規定されることをいうものに帰し、訂正して引用した原判決の第4の2(2)の認定判断を左右するものではない。特に、本件ツイート及びそこにおける原告ツイートの引用が批評という表現行為に係るものであることに照らしても、利用規約によってその態様ゆえにその引用としての適法性が直ちに左右されるとみることはできない。\n
イ 控訴人は、ユーザーにおいては、ツイートを削除していなくともプロフィール画像を変更すれば過去のツイートについても変更後のプロフィール画像が表示されること等を前提としてツイッターを利用していることや、プロフィール画像がツイート本文の内容とは独立して自身の個性を表\現するものであるなどと主張する。しかし、訂正して引用した原判決の第4の2(3)で説示したとおり、ユーザーは、自らのツイートの内容が当該ツイートをした時点におけるアイコンと一体的に表現主体及び表\現内容を示すものとして取り扱われ得ることについても、相応の範囲で受忍すべきものであり、控訴人の上記主張も、訂正して引用した原判決の第4の2(2)の認定判断を左右するものではない。
ウ 控訴人は、本文やユーザー名のほかアイコンまで掲載する必要があるのかには疑問があり、また、現在もツイッター上で閲覧可能な原告ツイートについて、これをあえてスクリーンショットで掲載する必要はないなどと主張する。\nしかし、控訴人においては原告アイコンが原告ツイートの内容と一体的に取り扱われ得ることを相応の範囲で受忍すべきことは既に説示したとおりであり、また、原告ツイートが現在も閲覧可能であるとしても、仮に本件投稿者が引用リツイート機能\を用いていた場合には、原告ツイートを削除等するという専ら控訴人の意思に係る行為によって引用に係る原告ツイートが削除等され、本件ツイートの趣旨等が不明確となるような事態が生じ得ることに照らして、原告ツイートが現在も閲覧可能であるか否かは、本件ツイートにおける引用の適否に直ちに影響すべきものではない。この点、原告ツイートが投稿されてから本件ツイートが投稿されるまでには約7年半という相応の長期間が経過しているところ、原告ツイートが現在も閲覧可能\であり(甲20)、その間に特に控訴人がプロフィール画像を変更したといったことも認められないものであるが、一般的に、引用元ツイートが投稿後変更されることなく相応の長期間が経過した後であっても、引用リツイートの投稿を契機として引用元のツイートが変更や削除等されたりする可能性もあるから、上記相応の長期間の経過をもって直ちに本件ツイートにおける引用の必要性や相当性が否定されるものではなく、また、閲覧可能\性や画像の変更の有無に係る上記各事情は、他方で、原告ツイートの投稿時から本件ツイートの投稿時までの間に、原告において原告アイコンを含む原告ツイートの変更や削除等をしなければならないような事情が他には生じておらず、本件ツイートにおける引用の必要性や相当性を判断するに当たり他に考慮すべき特段の事情がないことをうかがわせるものである。
◆判決本文
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2023.01. 3
令和3(ワ)21224 損害賠償金請求事件 著作権 民事訴訟 令和4年11月21日 東京地方裁判所
ウェブページのフライパンの説明画像について、著作権侵害を認め、5万円の賠償を認めました。
本件において、原告が、本件各画像を含め、自己が著作権を有する著作
物を第三者に有償で利用許諾していたと認めるに足りる証拠はないから、
実際の利用許諾例に準じて使用料相当額を算定することはできない。
イ この点、原告は、新聞社や写真提供会社が提供する画像レンタルサービ
スにおける使用料を根拠として、本件各画像の1ページ当たりの使用料相
当額は6万6666円を下らず、これに本件各画像が掲載されたウェブペ
ージのページ数を乗じて使用料相当額を算定すべきであると主張する。
(ア) まず、ページ数を単純に乗ずることの当否について検討すると、原告
商品は、特長、材質、製造方法、メーカーなどが同一である複数のフラ
イパンの一群からなる商品であるところ(甲12)、被告ストアにおける
本件各画像の利用態様も、複数の商品販売ページにわたって、原告商品
が等しく備える特長等を紹介する本件画像1)ないし7)の各画像の複製物
を共通して複製及び送信可能化し、本件商品画像については、当該ペー\nジで販売している商品に相当する画像1点を複製及び送信可能化したと\nいうものであることが認められる(前提事実(2)ア、イ、甲2)。このよ
うな利用態様にかんがみれば、特に、全てのページにわたって原告商品
に共通する特長等を紹介する同一の画像7点については、異なる態様で
複数回利用された場合と同視することはできず、本件において、単純に
ページ数(すなわち販売している商品の種類の数)を乗じて使用料相当
額を算定することが相当であるとはいえない。
そこで、更に検討すると、本件各画像は、商品群からなる原告商品の
ネット通販用広告画像、すなわち販売促進資料として作成されたものと
認められることから(甲12)、原告商品の販売と無関係に本件各画像を
使用することは通常考え難く、仮に原告が第三者に本件各画像の利用を
許諾するとすれば、原告も主張するとおり、原告商品の日本国内の正規
代理店として、原告商品の再販売契約をするに当たり、その販売促進資
料として本件各画像全体を利用許諾するような場合が想定される。そし
て、同一のオンラインショッピングモール上に出店しているとしても、
オンラインストア名が異なれば、商品の販売経路を複数有することにな
るから、販売促進資料としての画像の利用許諾契約に当たっても、原告
商品を取り扱うオンラインストア数の多寡を考慮するのが合理的といえ
る。アフロ社が提供している画像レンタルサービスにおいて、同一サイ
トである限り、使用箇所を問わず同じ使用料が設定されている(甲7の
「ウェブ広告・ホームページ」欄の注記)ことも、オンラインストア数
に応じて使用料相当額を算定する方法の合理性を裏付けるものである。
以上のとおり、原告商品が一つの商品群からなるものであること、被
告ストアにおける本件各画像の実際の利用態様及び想定される本件各画
像の利用許諾の態様にかんがみれば、本件各画像の使用料相当額を算定
するに当たっては、本件各画像の複製物が掲載されたページ数(すなわ
ち販売している商品の種類の数)ではなく、オンラインストア数を基準
とすべきであって、本件においては、被告ストアが一つであることから、
被告ストア全体にわたって本件各画像を1回利用したものとして算定す
るのが相当というべきである。
(イ) 次に、本件各画像の具体的な使用料相当額について検討する。
a 原告が指摘する新聞社の画像レンタルサービスにおいて、具体的に
どのような写真や画像が提供されているのかを認めるに足りる証拠は
ない。しかし、新聞社が提供する写真は、いわゆる報道写真にみられ
るように、ある事件や事象の一瞬を捉えているなど、構図やシャッタ\nーチャンス等に高度な工夫を凝らした創作性の高いものや、他の手段
では入手が困難な希少性の高いものである可能性があると考えられる。\nまた、アフロ社が提供する画像レンタルサービスについては、上記
のような報道写真とは異なる性格の画像も提供されていることがうか
がわれるものの(甲7)、やはり、実際にどのような写真や画像が提供
されているのかは、本件証拠上認めるに足りない。
b その一方で、被告が指摘するシャッターストック社やピクスタ社の
画像レンタルサービスについてみると、証拠からうかがわれる具体的
な画像の内容(乙3、4)のほか、ピクスタ社では6200万点以上
の写真、イラストなどの素材について、料金が1か月間に利用できる
画像の点数に基づいて設定されていたり、未利用画像数を翌月以降に
繰り越せるといった条件で提供されていたりすること(乙2、4)に
かんがみれば、これらのサービスにおいて低額な使用料で提供されて
いるのは、汎用性のあるウェブサイト用の素材である可能性が高い。\n もっとも、商業的利用の可否など、その余の使用条件については、
本件証拠上判然としない。
c これに対し、前提事実(2)ア及び前記(ア)のとおり、本件各画像は、
商品販売ページを見た顧客の購買意欲を高めるように、原告商品を用
いて調理している様子を撮影した写真や特長等を述べた文言、画像な
どを配置した原告商品に特化した販売促進目的の画像であって、報道
写真とも、シャッターストック社やピクスタ社が提供する汎用性のあ
るウェブサイト用の素材とも、性格及び目的が大きく異なる。また、
前記(ア)において説示したとおり、原告が第三者に本件各画像を利用許
諾することが想定されるのは、原告商品の正規代理店として、原告商
品の再販売契約に当たって販売促進資料として利用されるような場合
であるから、専ら写真、画像等の利用許諾に伴う使用料をもって収益
を上げるというビジネスモデルに基づき設定された使用料の水準が妥
当するともいい難い。これらの事情に照らせば、原告及び被告の双方
がそれぞれ指摘する画像レンタルサービスにおいて規定されている使
用料の水準が本件においてそのまま妥当するとはいえない。
その一方で、前記(ア)のとおり、本件各画像は、原告商品の再販売契
約に伴う販売促進資料との位置付けで利用許諾されることが想定でき
るから、本件各画像の使用料のみによって本件各画像の取得費用を回
収したり、原告商品の再販売によって得られる利益を超えたりするよ
うな高額な使用料が設定されるとは考え難い。
このほか、本件各画像は、報道写真のように高度の創作性を有して
おり代替可能性が小さいとまではいえないものの、原告商品に特化し\nた販売促進資料として工夫して作成されたものであり(前記(ア))、相
応に創作性を有する著作物であること(前記1)、被告ストアにおける
販売商品数は11点であり、本件各画像の利用期間が約3か月間であ
ったこと(前記(1))、本件各画像の利用に当たっての将来の使用料額
を定める場面ではなく、原告の許諾を何ら得ることなく本件各画像を
利用した被告に対する損害賠償を請求する場面での金額の算定である
ことなどを総合考慮すると、本件各画像の使用料相当額は合計5万円
と認められる。
ウ 当事者の主張について
(ア) 原告は、本件各画像の使用料相当額を算定するに当たり、いつも社に
本件各画像のデザイン制作料等として約700万円を支払ったことを考
慮すべきであると主張する。
しかし、原告がいつも社に委託したのは、ウェブサイト関連業務及び
検索エンジン最適化サービスであり、本件各画像の制作業務はその一部
を構成するにすぎないと認められるところ(甲12)、本件各画像のデザ\nイン制作のみに要した費用を認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって、本件各画像の使用料相当額の算定に当たって、原告が主
張する金額を考慮することはできない。
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