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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

公衆送信

令和3(ワ)13623  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年4月14日  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。コミュニティサイト運営者が、公衆送信権の侵害主体であると認定され、差止と7万円の損害賠償が認められました。

(2)ア 本件投稿者は、原告写真の複製物であり被告各写真を本件記事の文章と ともに被告に送信した。
イ もっとも、本件投稿者が被告に上記送信をしたことにより、直ちに、被 告各写真が公衆送信されることになったとは認められない。 本件ウェブサイトでは、会員が被告に送信した記事を被告地域パートナ ーが承認して、初めて、その記事を本件ウェブサイトの一般の閲覧者が閲 覧できるようになる(前記1(1)ウ )。本件投稿者が被告に送信した被告 各写真を含む本件記事についても、被告の地域パートナーが、その内容等 を審査して、それを承認したことにより、その承認後、被告各写真や本件 記事を本件ウェブサイトの一般の閲覧者が閲覧できるようになったと推認 することができる。
ウ 被告は、旅行に関する情報提供サービス及びそのコンサルティング業等 を目的とする株式会社であり(前記前提事実(1)イ)、本件ウェブサイトに は、「ジャパントラベルは、日本の魅力を世界に発信するメディアであり、 その他コンサルティングビジネスおよび第二種旅行業登録の訪日専門トラ ベルエージェンシーを運営」(前記1 ア)、「「インバウンド専門旅行会社 経験豊富な外国人・日本人スタッフがカスタマイズツアーを主力とした インバウンドツアーをサポートします。」(同イ )と記載されていること、 本件ウェブサイトを通じて、ホテル又は飛行機を予約したり、鉄道切符や\n施設入場券、各種パッケージツアー、体験型ツアーを購入したり、オーダ ーメイドの旅の予約をしたりすることができること(同イ )からすれ ば、本件ウェブサイトは、会員から記事の送信を受けて、その記事を表示\nすることで観光地の情報を提供しつつ、それを利用してツアーの企画など の旅行関連事業を行うことも目的としたものといえる。したがって、本件 ウェブサイトは、被告の旅行関連事業の営業のために設けられているとい う性質も有するといえる。
本件ウェブサイトでは、被告が利用者コンテンツを審査し、編集等する 旨の規定が設けられている(前記1 ウ )だけではなく、実際に、会員 が記事を被告に送信しても、被告地域パートナーの承認がない限り当該記 事は本件ウェブサイトに掲載されず、会員が被告に送信した写真は、被告 地域パートナーが承認という作業をすることによって、自動公衆送信装置 といえるサーバーに蔵置、記録され、送信可能化されるに至り、公衆送信\nされることになったといえる。また、前記 ウによれば、本件ウェブサイ トは、被告が行う旅行関連事業の営業のために設けられているという性質 も有するといえる。会員による記事の送信は、そのような被告のための記 事の提供という面も有していた。被告地域パートナーは、本件ウェブサイ トにおいて、会員から送信された記事の内容について、上記のとおりの本 件ウェブサイトの目的に沿うものであるかやその目的との関係でその質を 維持するものであるかなどを広く審査して、承認の可否を決定し、また必 要な修正を行っていたと推認でき、また、これらの作業を被告の営業のた めに被告の履行補助者として行っていたと認められる。 これらによれば、本件投稿者が被告に送信した被告各写真は、被告の履 行補助者である被告地域パートナーが被告の営業のために内容を広く審査 して承認という作業をしたことによって、サーバーに蔵置、記録され、送 信可能化されるに至り、公衆送信されたといえる。これらを考慮すると、\n被告が、被告各写真の複製、公衆送信をしたと認めることが相当である。 被告の主張について 被告は、1)記事の修正等をする被告地域パートナーはボランティアであ ること、2)被告各写真の投稿者は、被告から経済的利益を得たり、また、 指示等を受けておらず、任意に被告各写真を投稿したことを挙げて、被告 は、複製、公衆送信の主体ではないなどと主張する。
ア 上記1)について、被告地域パートナーがボランティアであったとして も、本件ウェブサイトは被告の旅行関連事業の営業のために設けられて いるという性質も有し、被告地域パートナーによる記事の承認等は、そ のような被告の営業のために行われるものと推認できることを併せて考 えれば、被告地域パートナーは、被告からの直接の報酬の支払を受けて いなかったとしても、被告の履行補助者とみるのが相当である。 したがって、被告の上記1)の主張を採用することはできない。
イ 上記2)について、本件ウェブサイトが前記のとおり被告の営業目的の ために設けられているという性質も有し、また、被告各写真についても、 他の記事と同様に、被告地域パートナーが内容を広く審査して承認し、 公衆送信されるようになったと認められることに鑑みれば、被告各写真 が被告に対して送信されたのは会員の自由な意思に基づくものであった としても、被告各写真を複製し公衆送信したのは被告とみるのが相当で ある。したがって、被告の上記2)の主張も採用することはできない。
(5)著作者人格権侵害について
前提事実 のとおり、本件ウェブサイトにおいて、原告の氏名(ペンネー ム)を表示せずに被告各写真が表\示され、また、別紙URL目録記載1のウ ェブページにおいて原告写真の左右が切除されていたと認めることができる。 これらと、本件ウェブサイトにおいて被告各写真が掲載されるに至る過程 に照らせば、前記(3)と同様の理由により、被告は、原告の氏名表示権及び同\n一性保持権を侵害したといえる。 以上によれば、被告は、原告が保有する原告写真の複製権及び公衆送信 権を侵害し、また、氏名表示権及び同一性保持権を侵害したといえる。\n

◆判決本文

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令和5(ネ)10110 発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和6年5月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

発信者情報開示請求について、主な争点は、(争点1)「権利が侵害されたことが明らかである」(プロ責法5条1項1号)か、(争点2)本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(同5条1項柱書)に当たるかでした。1審はいずれも該当しないとして請求を棄却しましたが、知財高裁は、これを取り消しました。

(1) 前提事実(訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」の第2の2)によると、 共有対象となる特定のファイルに対応して形成されたビットトレントネットワークに ピアとして参加した端末は、他のピアとの間でハンドシェイクの通信を行って稼働状 況やピース保有状況を確認した上、上記特定のファイルを構成するピースを保有する\nピアに対してその送信を要求してこれを受信し、また、他のピアからの要求に応じて 自身が保有するピースを送信して、最終的には上記特定のファイルを構成する全ての\nピースを取得する。
そして、証拠(甲5〜9、11)及び弁論の全趣旨によると、ビットトレントネッ トワークで共有されていた本件複製ファイルが本件動画の複製物であること、原判決 別紙動画目録記載の各IPアドレス及びポート番号の組合せは、本件監視ソフトウェ\nアが、本件複製ファイルを共有しているピアのリストとしてトラッカーから取得した ものであること、同目録記載の発信日時は、上記IPアドレス及びポート番号を割り 当てられていた各ピアが、本件監視ソフトウェアとの間で行ったハンドシェイクの通\n信において応答した日時であることがそれぞれ認められる。
そうすると、上記各ピアのユーザーは、その対応する各発信日時までに、本件動画 の複製物である本件複製ファイルのピースを、不特定の者の求めに応じて、これらの 者に直接受信させることを目的として送信し得るようにしたといえ、他のピアのユー ザーと互いに関連し共同して、本件動画の複製物である本件複製ファイルを、不特定 の者の求めに応じて、これらの者に直接受信させることを目的として送信し得るよう にしたといえる。これは、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動 公衆送信装置である各ピアの端末の公衆送信用記録媒体に本件複製ファイルを細分化 した情報である本件複製ファイルのピースを記録し(著作権法2条1項9号の5イ)、 又はこのような自動公衆送信用記憶媒体にビットトレントネットワーク以外の他の手 段によって取得した本件複製ファイルが記録されている自動公衆送信装置である各ピ アの端末について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続を行った(同号ロ) といえるから、本件動画につき控訴人が有する送信可能化権が侵害されたことが明ら\nかである。
(2) 被控訴人は、各ピアのユーザーが送信可能化権を侵害したことが明らかという\nには、当該ピアのユーザーのピース保持率が100%又はこれに近い状態に達してい ることを要すると主張する。しかし、上記(1)のとおり、ビットトレントネットワーク に参加した各ピアは、共有対象となったファイルの一部であるピースをそれぞれ保有 してこれを互いに送受信し、最終的には当該ファイルを構成する全てのピースを取得\nすることが可能な状態を作り出しているのであるから、各ピアのユーザーは、他のピ\nアのユーザーと互いに関連し共同して、当該ファイルを自動公衆送信し得るようにす るものといえる。そして、ハンドシェイクの通信に応答したピアは、当該ファイルの 一部であるピースを保有してこれを自身の端末に記録し、他のピアの要求に応じてこ れを送信する用意があることを示したものと認められるから、その保有するピースの 多寡にかかわらず、上記送信可能化行為を他のピアと共同して担ったものと評価でき\nる。被控訴人の主張は採用することができない。
・・・・
(1) 前記1(1)のとおり、原判決別紙動画目録記載のIPアドレス、ポート番号及び 発信日時により特定される通信は、各ピアが本件監視ソフトウェアとの間で行ったハ\nンドシェイクの通信において応答した通信であって、他のピアとの間で本件複製ファ イルのピースを送受信し、又は本件複製ファイルを記録した端末をネットワークに接 続する通信そのものではない。このような通信に係る発信者情報(本件各発信者情報) も、法5条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるかが問題となる。
(2) そこで検討すると、法5条1項は、開示を請求することができる発信者情報 を「当該権利の侵害に係る発信者情報」とやや幅を持たせたものとし、「当該権利の 侵害に係る発信者情報」のうちには、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害 関連通信に係るものとして総務省令で定めるもの。)を含むと規定しているところ、 特定発信者情報に対応する侵害関連通信は、侵害情報の記録又は入力に係る特定電気 通信ではない。上記の各規定の文理に照らすと、「当該権利の侵害に係る発信者情報」 は、必ずしも侵害情報の記録又は入力に係る特定電気通信に係る発信者情報に限られ ないと解するのが合理的である。
また、法5条の趣旨は、特定電気通信による情報の流通には、これにより他人の権 利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情 報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという、他 の情報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ、特定電気通信による情報の流通 によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信\nの秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信 設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することがで きるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図るこ\nとにあると解される(最高裁平成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小 法廷判決・民集64巻3号676頁参照)。なお、令和3年法律第27号による改正 により、特定発信者情報の開示請求権が新たに創設されるとともに、その要件は、特 定発信者情報以外の発信者情報の開示請求権と比して加重されている。その趣旨は、 SNS等へのログイン時又はログアウト時の各通信に代表される侵害関連通信は、こ\nれに係る発信者情報の開示を認める必要性が認められる一方で、それ自体には権利侵 害性がなく、発信者のプライバシー及び表現の自由、通信の秘密の保護を図る必要性\nが高いことから、侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内において開示を認 めることにあると解される。 さらに、著作権法23条1項は、著作権者が専有する公衆送信を行う権利のうち、 自動公衆送信の場合にあっては送信可能化を含むと規定する。その趣旨は、著作権者\nにおいて、インターネット等のネットワーク上で行われる自動公衆送信の主体、時間、 内容等を逐一確認し、特定することが困難である実情に鑑み、自動公衆送信の前段階 というべき状態を捉えて送信可能化として定義し、権利行使を可能\とすることにある と解される。
ビットトレントによるファイルの共有は、対象ファイルに対応したビットトレント ネットワークを形成し、これに参加した各ピアが、細分化された対象ファイルのピー スを互いに送受信して徐々に行われるから、その送受信に係る通信の数は膨大に及ぶ ことが推認できる。しかるところ、ピースを現実に送受信した通信に係るものでなく ては「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないとすると、ビットトレントネット ワークにおいて著作物を無許諾で共有された著作権者が侵害の実情に即した権利行使 をするためには、ネットワークを逐一確認する多大な負担を強いられることとなり、 前記のとおり法5条が加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることとし\nた趣旨や、著作権法23条1項が自動公衆送信の前段階というべき送信可能化につき\n権利行使を可能とした趣旨にもとることになりかねない。\n
他方、ハンドシェイクの通信は、その通信に含まれる情報自体が権利侵害を構成す\nるものではないが、専ら特定のファイルを共有する目的で形成されたビットトレント ネットワークに自ら参加したユーザーの端末がピアとなって、他のピアとの間で、自 らがピアとして稼働しピースを保有していることを確認、応答するための通信であり、 通常はその後にピースの送受信を伴うものである。そうすると、ハンドシェイクの通 信は、これが行われた日時までに、当該ピアのユーザーが特定のファイルの少なくと も一部を送信可能化したことを示すものであって、送信可能\化に係る情報の送信と同 一人物によりされた蓋然性が認められる上、当該ファイルが他人の著作物の複製物で あり権利者の許諾がないときは、ログイン時の通信に代表される侵害関連通信と比べ\nても、権利侵害行為との結びつきはより強いということができ、発信者のプライバシ ー及び表現の自由、通信の秘密の保護を図る必要性を考慮しても、侵害情報そのもの\nの送信に係る特定電気通信に係る発信者情報と同等の要件によりその開示を認めるこ とが許容されると解される。
以上によると、本件各発信者情報は、法5条1項にいう「当該権利の侵害に係る発 信者情報」に当たると解するのが相当である。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆令和5(ワ)70029

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令和4(ワ)18776  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和6年4月18日  東京地方裁判所

 既に新聞報道がなされていますが、判決がアップされました。漫画村に対する損害賠償について、東京地裁は、約17億円の損害賠償を認めました。

(1) 著作権法 114 条 3 項に基づく損害について
ア 原告らは、原告らが有する本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害行 為を行った被告に対し、出版権の侵害については著作権法 114 条 3 項に基づき、ま た、独占的利用権の侵害については同項の類推適用により、本件作品の出版権又は 独占的利用権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の 額として、その損害賠償を請求することができるといえる。
イ 利用料率について
(ア) 本件サイトにおいては、ユーザーは無償で本件作品の閲覧が可能であり、ユ\nーザーから閲覧可能とすることの対価を得ていないという意味では、侵害による売\n上高は観念できない。 もっとも、本件作品は、原告らが、別紙作品目録 1〜3 の各「販売価額(税込)」 欄記載の金額で、原告ら又は原告 KADOKAWA の完全子会社の電子配信サイトで電 子配信され、又は、コミック単行本等として販売されていたものである(前提事実 (2))。そうすると、原告らは、本件作品に係る出版権又は独占的利用権に基づき、これらの販売による利益を受けていたものと認められる。
また、本件サイトでは、ファイルをユーザーの端末にダウンロード(複製(いわ ゆる端末のキャッシュは除く。))することなく、いわゆるストリーミング形式によ り無償で閲覧することが想定されていた。もっとも、閲覧にあたり、ユーザーは、 広告の視聴等の制約を受けることなく閲覧することが可能であった。また、本件サ\nイトにおいては、閲覧した画像ファイルの保存操作を制限するような技術や機能は\n採用されておらず、ユーザーにおいて、各画像ファイルをユーザーの端末の記録媒 体に保存することも可能であった(以上につき、前記 1(1)イ)。これらの事情に鑑み ると、ユーザーにとっては、ストリーミング形式での閲覧が想定されているとはい え、本件サイトを通じて本件作品の閲覧が可能である限り、本件サイトにアクセス\nしさえすれば何らの制限なく本件作品を無償で閲覧可能な状態に置かれるといえる。\nこれは、実質的には、ユーザーが本件サイトにアクセスする都度、電子配信された 本件作品を購入したのと異ならない状態が実現されているものと評価することがで きる。
これらの事情その他本件に表れた一切の事情を総合的に考慮すると、本件におい\nて、被告による侵害行為に対し、原告らが本件作品に係る出版権又は独占的利用権 の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する金額」(著作権法 114 条 3 項)の算定 にあたっては、別紙作品目録 1〜3 の「裁判所認定損害額」欄記載のとおり、「販売 価額(税込)」欄の金額から 10%を控除した金額に、各作品の閲覧数を乗じた額とす ることが相当である。これに反する原告らの主張は採用できない。 (イ) 被告の主張について 被告は、本件サイトと同規模の漫画閲覧サイト運営者(漫画定額読み放題サービ スサイト)と原告らとの間で締結されるべきライセンス利用契約のライセンス料を 基礎に損害額を算定すべきである旨主張する。
しかし、そもそも、本件作品のうち電子配信の対象となっていない作品(別紙作 品目録 3 の番号 174〜221)については、この主張が妥当する余地はない。 また、その他の本件作品についても、上記のとおり、原告らは、自ら又は完全子 会社が管理・運営する電子配信サイトを通じて有償でのみ電子配信しているのであ って、これらの作品が漫画定額読み放題サービスの対象とされていることを認める に足りる証拠はない。そうすると、原告らにとっては、本件作品を同サービスの対 象とする動機はなく、仮に本件作品を同サービスの対象として利用許諾契約を締結 するとすれば、本件作品の販売価格と同額ないしこれに近い額を利用料として設定 すると考えることには合理性がある。 したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
ウ 閲覧数
本件調査によれば、平成 29 年 6 月〜平成 30 年 4 月の間の本件サイトへのアクセ ス総数は 億 3781 万超と推計される。また、本件サイトの平均滞在時間は約 分程度でされるところ(前記 1(3)イ)、この平均滞在時間は、漫画作品 1 巻を閲覧する のに一応十分な時間といえる。これを踏まえ、本件サイトにアクセスしたユーザー\nが 1 アクセス当たり漫画 1 巻を閲覧したとすると、上記期間中、本件サイトにおい ては、合計 億 3781 万巻の閲覧があったと推計されるとみてよい。 また、本件調査時に本件サイトに掲載されていた作品巻数は 7 万 2577 巻とされ るから、本件サイトにおける本件作品 1 巻当たりの平均閲覧数は、74回を下回ら ないものとみられる。
この点、被告は、SimilarWeb によるアクセス数の推計は不正確である旨を指摘し て、これを損害額算定の基礎とすることはできないと主張する。 確かに、本件調査の推計が依拠する SimilarWeb による調査結果の信頼性について は、これを疑問視する見解も見受けられるが(例えば乙 6)、本件において、その調 査手法ないし結果の信頼性を疑わせる具体的な事情は証拠上見当たらない。その点 を措くとしても、本件調査においては、平成 29 年 6 月〜平成 30 年 4 月の間におけ る本件サイトへの月平均サイトアクセス数は 4889 万 2057 回とされている(前記 1(3)イ)。他方、被告は本件サイトの管理・運営に関与し、利用者数の状況を把握し 得る立場にあり、現に把握していたと考えられるところ(前記 1(2)、(4))、被告によ れば、令和 4 年 7 月時点の投稿ではあるものの、月間利用者は 8500 万人とされ(前 記 1(4)ア)、また、平成 30 年 2 月時点の本件サイトの月間アクセス数は 1 億 6000 万とされている(前記 1(4)イ)。被告の本件サイト利用者数に関する上記各言及には誇 張が含まれている可能性も否めないものの、上記各数値と本件調査での推計に係る\n数値との乖離の程度等を考慮すると、その可能性を考慮してもなお、少なくとも、\n本件調査結果として推計された閲覧数が本件サイトの現実の閲覧数を上回るものと はうかがわれない。したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
エ 著作権法 114 条 3 項に基づき算定される損害額
以上によれば、本件において、原告らが「受けるべき金銭の額に相当する金額」(著作権法 114 条 3 項)は、別紙作品目録 1〜3 の「裁判所認定損害額」欄記載のと おり、「販売価額(税込)」欄記載の金額から 10%を控除した金額に、各作品の閲覧 数 74回を乗じた金額と認めるのが相当である。 このような損害額の合計額は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 3 億 6886 万 9059 円
・原告集英社につき 3 億 90万 9859 円
・原告小学館につき 8 億 1968 万 6790 円
(2) 弁護士費用相当損害金
原告らは、本件訴訟の提起に当たり訴訟代理人弁護士に委任せざるを得なかったものであり、本件に表れた一切の事情を考慮すると、被告の不法行為と相当因果関\n係のある弁護士費用相当損害金の額は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 3688 万 690円
・原告集英社につき 3902 万 098円
・原告小学館につき 8196 万 8679 円
(3) 小括
したがって、本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害の不法行為に係る原告らの損害額の合計は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 4 億 057万 5964 円
・原告集英社につき 4 億 2923 万 0844 円
・原告小学館につき 9 億 016万 5469 円
なお、原告らは、予備的に著作権法 114 条 1 項に基づき算定される損害額をも主 張する。しかし、原告らの主張を前提としても上記認定に係る損害額を上回ること はないから、この点に関して判断する必要はない。

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令和5(ネ)10001等  損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件  著作権 知的財産裁判例 令和5年7月13日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

各動画からキャプチャした静止画をブログ上に投稿した行為について、1審は、著作権侵害として約240万円の損害賠償を認めました。知財高裁は、「上記の額をそのまま採用することが相当とはいえない」として、約190万と認定しました。

控訴人による本件各動画の利用態様は、本件各動画からキャプチャした本件 静止画を本件各記事に貼り付け、これを本件ブログ上に投稿して掲載するというも\nのである。そうすると、その使用料相当額の算定に当たっては、他に映像からキャ プチャした写真の使用料に関する証拠がない以上、前記ア(ア)のとおりのNHKエ ンタープライズの規定を参酌するのが相当である。
なお、本件記事1ないし7は、30枚ないし70枚程度の本件静止画を用い、こ れらをそれぞれ本件動画1ないし7における時系列に従って貼り付けた上、各静止\n画の間に、直後の静止画に対応する本件動画1ないし7の内容を1行ないし数行で まとめた要約を記載したものであり、本件記事1ないし7の内容を見ただけで三十\n数分ないし五十数分の本件動画1ないし7の全体をほぼ把握できるようにするもの\nであって、その実質は、映像そのものに準ずるものとも解し得るが、前記アのとお りの各使用料によると、本来であれば、静止画(写真)を使用する枚数が多くなる と、その使用料(映像からキャプチャした写真の使用料)も高額になるところ、そ の枚数が更に多くなり、静止画を利用したコンテンツの実質が映像に準ずる域に達 した場合に、映像の使用料が参酌されることになってかえって使用料が低額になる というのは不合理であるから、本件記事1ないし7の上記内容を考慮しても、本件 各記事については、上記のとおり、映像からキャプチャした写真の使用料に係るN HKエンタープライズの規定を参酌するのが相当である。
映像からキャプチャした写真の使用料に係るNHKエンタープライズの規定によ ると、使用目的が「通信(モバイル含む)」の場合の基本料金は、5000円とさ れ、また、写真素材使用料は、「カラー」、「一般写真」及び「国内撮影」の場合、 1カット当たり2万円とされ、さらに、証拠(甲7の1ないし8、甲8の1ないし 8)及び弁論の全趣旨によると、控訴人が利用した本件静止画は、合計362枚 (話数♯054は59枚、♯044は45枚、♯043は54枚、♯042は29 枚、♯041は57枚、♯040は73枚、♯039は38枚、♯037は7枚) であると認められるから、これらによると、同規定に基づく使用料は、合計724 万5000円(2万円×362枚+5000円)となる。
そして、弁論の全趣旨によって認められるNHK(甲12によりNHKエンター プライズが取り扱う映像の制作者であると認められる。)と原告チャンネルとの相 違(規模、事業内容、社会的影響等)及びNHKが制作した映像と本件各動画との 相違(コンテンツが配信される媒体、視聴者数、映像ないし動画の制作に要する費 用、労力及び時間、コンテンツとしての社会的価値等)が大きく、上記の額をその まま採用することが相当とはいえないこと等の事情に加え、著作権侵害があった場 合に事後的に定められるべき「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」(法11 4条3項)が通常の使用料に比べておのずと高額になることを併せ考慮すると、被 控訴人が本件各動画に係る「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」は、これを 150万円と認めるのが相当である。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆令和3年(ワ)24148

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