A法人の元代表者が、映画の著作物についての著作者であるとしてA法人の権利を承継した法人を訴えた事件で、裁判所は、これを認めませんでした。
「法2条1項10号は,映画製作者について,「映画の製作について発意と責任を有する者」と規定している。すなわち,映画製作者とは,自己の危険と責任において映画を製作する者を指すというべきである。映画の製作は,企画,資金調達,制作,スタッフ及びキャスト等の雇い入れ,スケジュール管理,プロモーションや宣伝活動,並びに配給等の複合的な活動から構成され,映画を製作しようとする者は,映画製作のために様々な契約を締結する必要が生じ,その契約により,多様な法律上の権利を取得し,又,法律上の義務を負担する。したがって,自己の危険と責任において製作する主体を判断するためには,これらの活動を実施する際に締結された契約により生じた,法律上の権利,義務の主体が誰であるかを基準として判断すべきことになる。 そして,上記の判断基準に照らすと,当裁判所は,以下の(ア)ないし(ウ)のとおり,本件各映画のすべてについて,その映画製作者は春樹事務所又は被告であると認定するのが相当であると判断した。確かに,証拠(甲6,乙1ないし59)並びに弁論の全趣旨によれば,原告は,本件各映画の製作に携わったことが認められるけれども,その際に関係者と締結された契約における当事者は,前記(1)及び後記(ウ)のとおり,すべて春樹事務所又は被告であるから,そうである以上,法律上の権利,義務の主体,すなわち,法的な観点からの危険と責任の主体は,原告ではなく,春樹事務所又は被告というべきである。」
◆H15. 4.23 東京地裁 平成13(ワ)13484 著作権 民事訴訟事件
著作権法15条の、いわゆる法人著作に該当するのかが争われた事件です。
高裁は、「1回目と2回目の来日には,被上告人がいわゆる就労ビザを取得していなかったこと,上告人が被上告人に対し就業規則を示して勤務条件を説明したと認められないこと,雇用契約書の存在等の雇用契約の成立を示す明確な客観的証拠がないこと,雇用保険料,所得税等が控除されていなかったこと,タイムカード等による勤務管理がされていなかったことに照らすと,3回目の来日前に,上告人と被上告人との間に雇用契約が成立したと認めることはできない。したがって,本件図画は被上告人が上告人の業務に従事する者として作成したものではなく,上告人がその著作者であるとすることはできない」と判断しました(平成11年(ネ)第4341号)。
これに対して、最高裁は、裁判官全員一致で破棄差戻しました。理由は、以下の通りです「・・・同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して,判断すべきものと解するのが相当である」。
◆平成15年04月11日 第二小法廷判決 平成13年(受)第216号 著作権使用差止請求事件