広告映像についても映画の著作物として、著29条1項の適用を受けると判断しました。
原告は,広告映像については,劇場用映画とは異なり,著作権法29条1項の適用は排除されるので,本件ケーズCM原版の著作者であるAがその著作権者であり,原告はAから同CM原版の著作権の譲渡を受けたと主張する。しかし,原告の主張は,以下のとおり,採用の限りでない。著作権法29条1項は,「映画の著作物・・・の著作権は,その著作者が映画制作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは,当該映画製作者に帰属する。」と,また,同法2条3項は,「この法律にいう「映画の著作物」には,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物を含むものとする。」旨規定する。本件ケーズCM原版が映画の著作物である以上(当事者間に争いはない。),その製作目的が,商品の販売促進等であることを理由として,同CM原版について同法29条1項の適用が排除されるとする原告の主張は,その主張自体失当であり,採用の余地はない。のみならず,以下のとおり,本件ケーズCM原版の具体的な製作目的,製作経緯等を検討してみても,本件ケーズCM原版について,映画の著作物の著作権に関して当該映画の製作者に帰属させる旨定めた同法29条1項の規定の適用を排除すべき格別の理由はない。
すなわち,同法29条1項は,映画の著作物に関しては,映画製作者が自己のリスクの下に多大の製作費を投資する例が多いこと,多数の著作者全てに著作権行使を認めると,映画の著作物の円滑な利用が妨げられることなどの点を考慮して,立法されたものである。ところで,本件ケーズCM原版についてみると,同原版は,15秒及び30秒の短時間の広告映像に関するものであること(乙2,3,12),他方,製作者たる広告主は,原告及び被告アドックに対し,約3000万円の制作費を支払っているのみならず,別途多額の出演料等も支払っていること,同広告映像により,期待した広告効果を得られるか否かについてのリスクは,専ら,製作者たる広告主において負担しており,製作者たる広告主において,著作物の円滑な利用を確保する必要性は高いと考えられること等を総合考慮するならば,同CM原版について同法29条1項の適用が排除される合理的な理由は存在しないというべきである。広告映像が,劇場用映画とは,利用期間,利用方法等が異なるとしても,そのことから,広告映像につき同法29条1項の適用を排除する合理性な理由があるとはいえない。原告は,本件のような広告映像の場合,制作会社が,CM原版のプリント(複製)を受注し,その収益により制作費の不足分を補うという商習慣が確立していることから,本件ケーズCM原版に係る複製権は原告に帰属すると解すべきである旨主張する。しかし,制作会社がCM原版のプリント(複製)をする例があったとしても(甲26,28,46),本件において,原告が,当然に,そのプリント代で制作費の填補を受ける権利を有していると認定することはできない。以上のとおり,本件ケーズCM原版について同法29条1項の適用が排除されることを前提として,原告が本件ケーズCM原版の著作権(複製権)を取得したとする主張は,失当である。
◆判決本文
漢字検定(漢検)の問題集に関する著作権帰属確認訴訟です。裁判所は、日本漢字能力検定協会が編集著作権を有すると判断しました。
著作権法15条1項にいう「法人等の発意に基づく」とは,当該著作物を創作することについての意思決定が,直接又は間接に法人等の判断により行われていることを意味すると解され,発案者ないし提案者が誰であるかによって,法人等の発意に基づくか否かが定まるものではない。つまり,本件対策問題集の制作が原告の判断で行われたのであれば,「原告の発意に基づく」といえるのであって,最初に作成を思いついた人物や企画を出した人物が,原告の主張するようにP3(分野別シリーズ)あるいは大栄企画(ハンディシリーズ)であったか,あるいは被告らが主張するようにP2であったかは,この点を左右しない。また,前記1(2),(3)のとおり,原告は,日本漢字能力検定及びこれに係る書籍の発行を業務としているところ,日本漢字能\力検定の主催者として行う「書籍の発行」業務とは,書籍の販売のみならず,主催者(出題者)としてのノウハウを生かした書籍の制作業務を当然含んでいるものと考えられる。そうしたところ,ステップシリーズについては,5級から7級の改訂版(本件書籍16〜18)について,執筆要項が原告名義で作成され(甲57),外部業者との編集会議に出席していたのも原告の従業員らであるし(甲59),3級及び4級の改訂二版(本件書籍14,15)についても,見積依頼書(甲60),執筆要項(甲64),編集要項(甲65),組版にあたっての指示文書(甲76)等の外部業者に渡す書面が,原告名義で作成されている。さらに,分野別シリーズ5級及び6級(本件書籍26,27)に係る執筆要項(甲88),編集要項(甲89),見積依頼書(甲91,92)や,ハンディシリーズ5級及び6級(本件書籍32,33)に係る執筆要項(甲93),編集要項(甲94),印刷会社に対する発注書(甲109,110)等も,同様に原告名義で作成されている。したがって,本件対策問題集のうちこれら9冊(本件書籍14〜18,26,27,32,33)の作成は,原告の意思によって行われたものと認められる。そして,本件対策問題集のうち上記9冊以外のものについては,執筆要項などの証拠が残っていなかったものの,いずれも3種類のシリーズに属する問題集であることや,上記9冊のうち最も早く制作されたステップシリーズ5級から7級の改訂版(平成9年10月1日発行)と,最も遅く制作されたステップシリーズ3級及び4級の改訂二版(平成21年3月20日発行)との間の時期に制作されたものであることからして,上記9冊と同様に,原告の意思により作成されたものと考えられるところ,これに反する証拠もない。一方,上記編集作業について被告オークが関与したことを窺わせる事情は,編集プロダクションとの業務委託契約を締結したというだけであり,それ以上に,被告オークが上記編集作業に関与したことを認めるに足る証拠はない。以上のとおりであるから,本件対策問題集の制作に係る意思決定は,原告の判断により行われていたといえ,本件対策問題集は,原告の発意に基づき制作されたものと認められる。
◆判決本文