建築の著作物について、共同著作者とは認定できないとした1審判断が維持されました。
控訴人は,原判決が,本件建物外観(外装スクリーン部分に限られない。
以下同じ。)の設計に関し,控訴人代表者の創作的関与並びに共同創作の意\n思及び事実を認めず,また,本件建物外観を控訴人外観設計の二次的著作物
とも認めなかったのは誤りであるとして,要旨,次のとおり主張する。
ア 控訴人設計資料(甲7,7の2)及び控訴人模型(甲8)から成る控訴
人外観設計(外装スクリーン部分に限られない。以下同じ。)は,控訴人
設計資料により平面上で具体的に表現され,かつ,控訴人模型により立体\n物として具体的に表現されており,二次元での平面表\現としても,当該平
面及び模型から観念される立体表現としても,単なるアイデアではなく,\n具体的な表現である。
イ そして,控訴人外観設計は,具体的な立体形状の組亀甲柄を建築物の外
観に適用したことその他多くの点(本質的特徴部分)において,表現上の\n個性が発揮されているから,創作性を有するものであり,表現としてあり\nふれているとはいえない。
ウ したがって,控訴人外観設計は,それ自体,「建築の著作物」(著作権
法10条1項5号)であるとともに,形状,色彩,線及び明暗で思想又は
感情を表現したものであるから,「美術の著作物」(同項4号)又は単な\nる「美術」(同法2条1項1号)の範囲に属する「著作物」にも該当する。
エ 本件建物外観は,控訴人外観設計に表現された建物の本質的特徴を感得\nすることができるものであって,控訴人外観設計に基づいて制作されたも
のであるところ,控訴人と被控訴人竹中工務店は,控訴人の設計を被控訴
人竹中工務店が引き継ぐ形において,共同で本件建物の外観を設計したと
いえるので,本件建物外観は共同著作物である。万が一,共同著作物では
ないとしても,被控訴人竹中工務店は,控訴人外観設計の本質的特徴を複
製又は翻案する形で本件建物外観を設計したから,本件建物外観は控訴人
外観設計を原著作物とする二次的著作物に当たる。
(2) しかしながら,控訴人の主張は採用できない。理由は次のとおりである。
ア まず,控訴人(控訴人代表者)は,控訴人設計資料を作成するに当たり,\n外装スクリーン部分以外は全て被控訴人竹中工務店作成に係る資料を流用
しており,手を加えていない事実を自認している。したがって,控訴人外
観設計のうち外装スクリーンを除くその余の部分については,そもそも控
訴人代表者の創作的関与を認める余地がない。\nイ 次に,外装スクリーン部分について,控訴人設計資料及び控訴人模型に
基づく控訴人代表者の提案内容が「建築の著作物」の創作に関与したと認\nめ得るだけの具体性ある表現といえないことは,原判決が指摘するとおり\nであって,控訴理由を踏まえてもその認定判断は覆らない。
控訴人は,控訴人代表者の上記提案が「実際建築される建物に用いられ\nる組亀甲柄より大きいイメージ」として作成されていた点に関し,たとえ
そうであったとしても,「具体的な建物の外観が視覚的に,一般人にとっ
て看取可能な形で図面上表\現されていれば,それは具体的な表現である(か\nら,上記提案がアイデアにすぎないことの根拠にはならない)」などとも
主張するが,格子の大きさ一つ取っても,その大きさ次第で,いくらでも
集合体としての外観デザインが変わり得ることは後記のとおりであるから,
控訴人が想定していた現実の外観は,控訴人設計資料及び控訴人模型をも
ってしては,いまだ「視覚的に,一般人にとって看取可能な形で図面上表\
現されていた」といえず,その主張はやはり採用できないといわざるを得
ない。
ウ また,仮に,控訴人設計資料及び控訴人模型に現れた外装スクリーン部
分の表現そのもの(図案)に関して,「建築の著作物」に限らず,何らか\nの著作物性(創作性)を認め得るとしても,(外装スクリーンに関する)
控訴人代表者の提案と現実に完成した本件建物の外観とでは,2層3方向\nの連続的な立体格子構造(組亀甲柄)が採用されている点と,せいぜい色\n(白色)が共通するのみであり,少なくとも立体格子の柄や向き,ピッチ,
幅,隙間,方向が相違することは原判決が認定するとおりであるところ,
実際に本件建物の外観を撮影した写真(甲5の1・2)と控訴人設計資料
及び控訴人模型とを見比べてみても(あるいは,乙2の比較図面を参照し
ても),例えば,個々の格子を意識させるものであるかどうか(本件建物
は全体として細かい編み込み模様になっており,遠目に見ると個々の格子
をそれほど意識させない態様であるのに対し,控訴人代表者の提案は,個々\nの格子が大きく,格子を構成する直線も際立っており,遠目に見てもその\n存在を意識させるとともに,六角形のデザインがより強調される態様とな
っている。),編み込み模様の編み目の向き(本件建物は横方向を意識さ
せるのに対し,控訴人代表者の提案は縦方向を意識させる。),外装スク\nリーンの裏側にある建物自体の骨格を意識させるかどうか(本件建物の外
装スクリーンは編み目が細かく,裏側にある建物自体の骨格を意識させな
いのに対し,控訴人代表者の提案のそれは編み目が粗く,裏側にある建物\n自体の骨格が透けて見えてその存在を意識させる。)などの点において大
きく異なっており,全体としての表現や見る者に与える印象が全く異なる\nことは明らかといえる。
この点,控訴人は,控訴理由書等において,立体格子のピッチ,幅,隙
間や,向き,方向などの相違は,いずれも本件建物の外観(見た目)に特
段の違いをもたらすとはいえず,表現の本質的特徴を違えるほどの違いと\nはいえない旨主張するが,同じ組亀甲柄を採用したデザインでも,上記の
諸要素等の違い(格子自体のデザインはもちろん,その大きさや配置,組
み合わせ方等の違い)により,様々な表現があり得ることは,本件で提出\nされている関係各証拠(甲30〜34,乙12,13など。乙号証は枝番
号を含む。)からも明らかといえるし,実際に本件建物外観と控訴人代表\n者の提案とで表現が大きく異なることは前記のとおりであるから,採用で\nきない。
エ そうすると,結局のところ,外装スクリーン部分に関し本件建物外観と
控訴人代表者の提案とで共通するのは,ほぼ2層3方向の連続的な立体格\n子構造(組亀甲柄)を採用した点に尽きるのであって,それ自体はアイデ\nアにすぎない(前記のとおり,建物の外観デザインに組亀甲柄を採用する
としても,その具体的表現は様々なものがあり得るのであるから,組亀甲\n柄を採用するということ自体は,抽象的なアイデアにすぎない。)という
べきであるから,控訴人代表者が本件建物外観について創作的に関与した\nとは認められないし,控訴人代表者の提案が本件建物の原著作物に当たる\nとも認められない。
(3) 以上によれば,原判決が,本件建物外観の設計に関し,控訴人代表者の創\n作的関与並びに共同創作の意思及び事実を認めず,かつ,本件建物外観を控
訴人外観設計の二次的著作物とも認めなかったことは相当であり,その認定
判断に誤りはない。
◆判決本文
◆原審はこちら。平成27(ワ)23694
建物の著作物の創作者が争われました。原告は共同著作者ではないと判断され、また、原告模型の創作性も否定されました。
「建築の著作物」(同法10条1項5号)とは,現に存在する
建築物又はその設計図に表現される観念的な建物であるから,当該設計\n図には,当該建築の著作物が観念的に現れているといえる程度の表現が\n記載されている必要があると解すべきである。
(イ) 上記1(認定事実)(2)のとおり,原告代表者は,乙から本件建物の\n外観に関する設計の依頼を受け,日本の伝統柄をデザインの源泉とし,
一見洗練された現代的なデザインのように見えるが「日本」を暗喩でき
るものとするとの設計思想に基づいて,原告設計資料及び原告模型を作
成し,平成25年9月6日,乙に対し,本件建物の外装スクリーンの上
部部分(2階及びR階部分)を立体形状の組亀甲とすることを含めた設
計案を提示している。そして,この時点において,被告竹中工務店は,
上記部分を立体形状の組亀甲とすることに着想していなかった(争いの
ない事実)。
しかしながら,上記1(認定事実)(2)のとおり,原告設計資料及び原
告模型に基づく原告代表者の上記提案は,上記1(認定事実)(1)イの内
容が記載された被告竹中工務店設計資料を前提に,当該資料のうちの外
装スクリーンの上部部分のみを変更したものであり,上記提案には,伝
統的な和柄である組亀甲柄を立体形状とし,同一サイズの白色として等
間隔で同一方向に配置,配列することは示されているが,実際建築され
る建物に用いられる組亀甲柄より大きいイメージとして作成されたもの
であるため,実際建築される建物に用いられる具体的な配置や配列は示
されておらず,他に,具体的なピッチや密度,幅,厚さ,断面形状も示
されていない。一方で,上記1(認定事実)(6)のとおり,組亀甲柄は,
伝統的な和柄であり,平面形状のみならず,建築物を含めて立体形状と
して用いられている例が複数存在し,建築物の図案集にも掲載されてい
る。
そうすると,原告設計資料及び原告模型に基づく原告代表者の提案は,\n被告竹中工務店設計資料を前提として,その外装スクリーンの上部部分
に,白色の同一形状の立体的な組亀甲柄を等間隔で同一方向に配置,配
列するとのアイデアを提供したものにすぎないというべきであり,仮に,
表現であるとしても,その表\現はありふれた表現の域を出るものとはい\nえず,要するに,建築の著作物に必要な創作性の程度に係る見解の如何
にかかわらず,創作的な表現であると認めることはできない。更に付言\nすると,原告代表者の上記提案は,実際建築される建物に用いられる組\n亀甲柄の具体的な配置や配列は示されていないから,観念的な建築物が
現されていると認めるに足りる程度の表現であるともいえない。\n以上によれば,本件建物の外観設計について原告代表者の共同著作者\nとしての創作的関与があるとは認められない。
(ウ) これに対し,原告は,原告設計資料及び原告模型に基づく原告代表\n者の上記提案は,建物の外観に用いられることが多くない組亀甲柄を選
択し,組亀甲柄を用いるというアイデアから想定される複数の表現から\n特定の表現を選択して決定するものであることや,組亀甲柄部分の光の\n表現についても具体的に決定されているものであることをもって,創作\n的な表現である旨主張する。\n しかしながら,組亀甲柄は,建築物の図案集にも掲載され,実際に建
築物に用いられている例が複数存在することは上記(イ)のとおりであり,
建物の外観に組亀甲柄を用いること自体がありふれていないということ
はできない。また,原告設計資料及び原告模型に基づく原告代表者の提\n案は,上記(イ)のとおり,組亀甲柄の大まかな色,形状,配置,配列が
決定されているにすぎず,一般的な組亀甲柄として紹介されている例
(乙11の1ないし4,12の1)と比較しても,個性の発露があると
認めるに足りる程度の創作性のある表現であるということはできない。\nさらに,原告の主張する光の表現は,具体的に明らかではなく,この点\nをもって創作性を認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
イ 「共同して創作した」といえるかについて
仮に,本件建物の外観設計における原告代表者の創作的関与の有無の\n点を措いても,前記第2の1(前提事実)(2)エ及び上記1(認定事実)
(3)・(4)のとおり,被告竹中工務店の設計担当者は,本件打合せで原告代
表者から原告設計資料及び原告模型に基づく提案内容の説明を聞いたこ\nとはあるが,原告との共同設計の提案を断り,その後,原告代表者と接\n触ないし協議したことはない。
また,上記1(認定事実)(2)・(4)のとおり,原告代表者の設計思想は,\n本件建物のファサードを,日本の伝統柄をデザインの源泉とし,一見洗
練された現代的なデザインのように見えるが「日本」を暗喩できるもの
とするなどというものであるのに対し,被告竹中工務店の設計思想は,
組亀甲柄のもつ2層3方向の幾何学構造に着目した編込み様のデザイン\nなどというものであって,原告代表者と被告竹中工務店の設計思想は異\nなる上,上記1(認定事実)(2)・(5)のとおり,原告代表者の提案内容と\n完成後の本件建物は,外装スクリーンの上部部分に2層3方向の立体格
子構造が採用されている点は共通するが,少なくとも立体格子の柄や向\nき,ピッチ,幅,隙間,方向が相違しており(具体的には,原告設計資
料及び原告模型には,本件建物の外装の上部に同じ形状及びサイズの白
色の組亀甲柄を等間隔で同一方向に配置,配列することとすること,ピ
ッチを「@≒500mm」,巾を「≒150mm」,向きを鉛直,隙間
を「△辺≒200mm」とする格子が記載されており,この他に,外装
スクリーンの寸法や,格子のピッチ,密度,隙間,幅,厚さ,断面形状,
表面処理に関する具体的な記載はないのに対し,本件建物においては,\nその2階以上の外装部分は,アルミキャストを素材とする白色の三次元
曲面による2層3方向の立体格子構造とされ,ピッチは「@250m\nm」,巾は「90mm」,向きは斜光,隙間は「△辺94mm」の格子
が用いられ,横方向が強調された配列とされている。),建物の外観に
関する表現上の重要な部分,すなわち本質的特徴といえる点において多\nくの相違点がある。
これらの事情に照らせば,原告と被告竹中工務店の間に共同創作の意
思や事実があったとは認められず,両者が本件建物の外観設計を「共同
して創作」したと認めることはできない。
・・・・
ア 原著作物性について
上記(1)アのとおり,原告設計資料及び原告模型に基づく原告代表者の提\n案は創作的な表現であるとはいえないから,これに著作物性を認めること\nはできない(更に付言すると,建物の著作物性を認めることもできない。)。
イ 被告竹中工務店による翻案について
また,仮に,原告設計資料及び原告模型に係る原告代表者の提案につい\nての著作物性の有無の点を措いても,上記(1)イのとおり,原告設計資料及
び原告模型と本件建物とは,その表現上の重要な部分において多くの相違\n点があり,本件建物から原告設計資料及び原告模型における表現上の本質\n的特徴を感得することはできない。
◆判決本文
原告が著作権者であるとの立証がないと判断されました。
原告は,原告商品の製造を委託するに当たりBが作成した原画を被告に
交付した旨主張するが,そうであるとすれば,原告があぶらとり紙の名称
を変更した時点ないし被告との取引を中止した時点で,被告に対して上記
原画の返還を求め,あるいはその保管状況を問い合わせるなどの行動をと
るべきものと解される。ところが,本件の証拠上,原告がそのような行動
をとったことはうかがわれず,B が作成したという原画の存在自体定かで
ないといわざるを得ない。
なお,被告商品の原画に関しては,被告が「ふるや紙」の文字は書家の
書いた色紙(乙10)によるものであると主張するのに対し,原告は,色
紙の作成者に関する被告の主張が変遷し,作成時期も不明であるので,被
告の主張は失当であるとする。被告の主張が変遷したことは原告指摘のと
おりであるが,本件著作物がBの作成であると認められない以上,この点
は本件の結論に影響するものでない。
イ 被告商品は遅くとも平成12年から販売され,また,被告は被告デザイ
ンに酷似する「ふるや紙」の文字を用いたあぶらとり紙を平成3年から販
売していたが(前記前提事実(2)イ),原告は,平成27年12月に B が被
告に対して書面を送付するまで,被告に対して本件著作権の侵害その他何
らの異議を唱えていない(甲5,7,弁論の全趣旨)。この点につき,原
告は被告商品の存在を認識していなかった旨主張するが,原告は(所在地
は省略)で土産物店を経営する会社であり(前記前提事実⑴ア),また,
被告商品は原告の主張によれば20年間にわたり毎年100万冊が販売さ
れていたというのであるから,その存在に気付かなかったというのは不自
然と解さざるを得ない。
ウ 本件著作物を表紙デザインに用いた原告商品は雑誌で紹介されるなどし\nて広く販売されており(前記前提事実(2)ウ),A は平成5年3月に本件著
作物のうち左下の文字を除いた部分からなる商標の商標登録出願をしたが
(甲33),原告は,翌年8月頃,商品の名称を「ふるや紙」から「ゆと
り紙」に変更した(前記前提事実(2)ウ)。この変更の理由につき,原告は,
他社が「ふるや紙」という名称のあぶらとり紙を販売し,原告商品との誤
認混同が生じたためである旨主張するが,原告商品が「ふるや紙」として
広く知られており,A が考案したという名称につき商標登録出願をしたと
いうのであれば,他社に対して商品名の変更を求めることなく,自らが変
更することは不合理と解される。
(3) したがって,原告の主張はいずれも失当であり,原告が本件著作物の著作
権者であると認めることはできない。
◆判決本文