2019.06. 7
結婚式の記録ビデオは映画の著作物であり、著作権は、実際にビデオ撮影した者が有するのか、プロデュースした者が有するのかが争われました。裁判所は、プロデュースした者であると判断しました。映画の著作物についての著作権は、特別規定があります。「その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物に参加することを約束しているときは、当該映画製作者」に著作権が帰属する(著29条1項)。」
個人的には、このようなケースって、映画の著作物として扱うべきか?を考えると、ちょっと違うのではないかと思います。
本件記録ビデオは,被告P2らの挙式等の様子を撮影・編集したビデオで
あり,そのサムネイル画像(甲38)も参酌すると,挙式等が進行する状況に応じ
た撮影対象の選択や構図等に創作的工夫が施されていると認められるから,著作権\n法2条3項に規定する「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせ
る方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物」であり,同法10条1項7\n号所定の「映画の著作物」に当たると解される。
そして,前記1で認定した事実によれば,挙式等の撮影については基本的には原
告の裁量に委ねられており,原告は様々な工夫をして撮影をしたと認められるから,
原告は,原告撮影ビデオについて,「映画の著作物の全体的形成に創作的に関与した
者」(著作権法16条)としてその著作者であると認められ,本件記録ビデオはその
複製著作物又は二次的著作物である。
(2) そこで,被告らが主張する著作権法29条1項の適用の有無について検討
する。
著作権法29条1項にいう「映画製作者」とは,「映画の著作物の製作に発意と責
任を有する者」をいい(同法2条1項10号),映画の著作物を製作する意思を有し,
同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,同著作物の製
作に関する経済的な収入・支出の主体となる者のことをいうと解される。
前記1で認定した事実のとおり,本件では,被告Beeは,社内の人間だけでは
撮影業務をこなせないことから複数の外部業者に撮影業務を委託するようになり,
原告はその外部業者の一人であったことからすると,被告Beeは,各婚礼のビデ
オ撮影業務の担当を各外部業者に割り振って委託することにより,全体としての婚
礼ビデオの製作業務を統括して行っていたといえる。
また,エフ・ジェイホテルズから委託を受けて,新郎新婦から婚礼ビデオ製作の
申込みを受け,その意向を聴取して打合せをするのは被告Beeであり,婚礼ビデ\nオを完成させて納品するのも被告Beeである。また,被告Beeは,原告による
撮影に不備があった場合の新郎新婦に対する責任も負担している。そうすると,婚
礼ビデオを適切に製作し,納品する義務は,エフ・ジェイホテルズからの委託の下,
被告Beeが負っていたといえる。
加えて,現場での撮影業務自体は基本的には原告の裁量と工夫に委ねられていた
が,被告Beeも,新郎新婦に特段の意向がある場合には原告にそれを伝えて撮影
の指示を行っており,原告の裁量等も被告Beeからの指示という制約を受けるも
のであったほか,被告Beeは,婚礼ビデオを完成させるに当たり編集作業を行い,
その中では,被告Beeが独自に製作した「プロフィールビデオ」等の上映シーン
を加工し,そのBGMを音源から採取して差し込むなど,独自の演出的な編集も行
っているから,製作するビデオの内容を最終的に決定していたのは被告Beeであ
るといえる。
そして,被告Beeは,原告に対して撮影料と交通費を支払っているほか,それ
以外の製作費用も負担しているから,本件記録ビデオの製作に関する経済的な収
入・支出の主体となっているのは原告ではなく被告Beeである。なお,被告Be
eは,本件記録ビデオに収録された楽曲についての著作権使用料等の支払をしてい
ないが,原告は,本件記録ビデオに収録された楽曲の著作権使用料は被告Beeが
負担することとなっていたと主張しており,この主張は,上記のとおり本件記録ビ
デオの製作に関する経済的な収入・支出の主体が被告Beeであることと符合する
(この点については,被告Beeも,別件の福岡地方裁判所小倉支部に提起された
事件で原告の上記主張を争うに当たり,結婚式の様子を撮影したビデオ等に結婚式
の映像とともに式場で流された音楽が収録された場合に,その音楽について日本音
楽著作権協会等に対して著作権使用料を支払うべき義務があるかは法律上確定され
ているものではなく,支払義務があるとしても,それを原告が支払った場合には求
償権の問題が発生すると主張するにとどまり〔乙3,7〕,日本音楽著作権協会等に
対する支払義務がある場合にそれを被告Beeが負担すべきことを特段争っていた
わけではないと認められる。)。
以上からすると,本件記録ビデオの製作に発意と責任を有する者は,被告Bee
であり,被告Beeは「映画製作者」に当たると認めるのが相当である。
そして,原告は,被告Beeから委託を受けて原告撮影ビデオの撮影をしたので
あるから,被告Beeに対して本件記録ビデオの製作に参加することを約束したも
のといえる。
したがって,著作権法29条1項により,本件記録ビデオの著作権は被告Bee
に帰属するから,原告は著作権を有しない。
これに対し,原告は,ビデオ撮影に当たっての自己の負担や工夫をるる主張する
が,それらは,原告が著作者であることを基礎付けるものであっても,被告Bee
が映画製作者であることを否定するに足りるものではない。
(3) したがって,原告は本件記録ビデオの著作権を有しないから,その著作権に
基づく請求は理由がない。
4 争点5(著作者人格権侵害のおそれの有無)について
(1) 同一性保持権についてみると,本件記録ビデオは原告撮影ビデオを編集し
たものであるが,前記1で認定した事実からすると,原告は,被告Beeが原告撮
影ビデオを適宜編集することを承諾していたと認められるから,本件記録ビデオは
原告の同一性保持権を侵害して製作されたものではない。
したがって,仮に被告らが本件記録ビデオを複製,頒布するとしても,意に反す
る改変を行うことにはならないから,同一性保持権の侵害は生じない。
◆判決本文
ウェブサイトにおいて,書籍を他人の著作物である旨を表示されたことが,氏名表\示権の侵害に当たるかが争われました。原判決は,「氏名表示権は,著作者が原作品に,又は著作物の公衆への提供,提示に際し,著作者名を表\示するか否か,表示するとすれば実名を表\示するか変名を表示するかを決定する権利であるところ,被控訴人のホームページにおいて,本件各書籍の公衆への提供,提示がされているとはいえないから,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の請求には理由がない」と判断しました。なお、時期に後れた攻撃防御であるとの申\立ては認められませんでした。
1 時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて
本件は,平成29年12月20日に東京簡易裁判所に訴えが提起され,平成30
年2月9日に東京地方裁判所に移送され,3回の弁論準備手続期日を経て,同年6
月21日の口頭弁論期日において弁論が終結されたところ,弁論の全趣旨によると,
東京地方裁判所は,同年3月30日,控訴人(一審原告)訴訟代理人に対し,被侵
害利益が公表権(著作権法18条),氏名表\示権(著作権法19条),同一性保持
権(同法20条)又は著作権法に定めのない権利利益であるのか,具体的に明らか
にすることなどを求めるファックス文書を送付したこと,控訴人(一審原告)訴訟
代理人は,同年4月25日,被侵害利益は「氏名表示権(著作権法19条)」であ\nる旨を記載した同日付け原告第1準備書面を東京地方裁判所に提出し,同書面は同
日の第1回弁論準備手続期日において陳述されたことが認められる。そうすると,
控訴人は,被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の
著者であると偽られない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権の主張を,
遅くとも原審の口頭弁論終結日である平成30年6月21日までにすることが可能であったといえるから,これを当審において初めて主張することは「時機に後れて\n提出した攻撃又は防御の方法」(民訴法157条1項)に該当することが認められ
る。
しかし,控訴人は,本件の控訴審の第1回口頭弁論期日(平成30年11月21
日)において,被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三
者の著者であると偽られない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権の主張
をしたものであって,本件は,第2回口頭弁論期日において弁論が終結されたこと
からすると,上記の時点における上記主張により,訴訟の完結を遅延させることと
なると認めるに足りる事情があったとはいえない。
したがって,上記主張に係る時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立ては,認め\nられない。
・・・
証拠(甲1,甲1の2)及び弁論の全趣旨によると,本件書籍1は,D
VD付きの書籍であり,書籍には,写真,イラスト,文章等が,DVDには映像が
掲載されていることが認められる。そして,前記アのとおり,本件書籍1の奥付に
は,控訴人以外の多くの個人又は団体の名が,様々な立場から本件書籍1の成立に
関与したものとして記載されていること,「監修」が「書籍の著述や編集を監督す
ること」(広辞苑第7版)を意味することからすると,本件書籍1が編集著作物で
あるとしても,前記アの記載から,その編集著作物の著作者が,控訴人であると推
定すること(著作権法14条)はできず,著作者が控訴人であるとは認められない。
また,その他に,控訴人が,本件書籍1につき,素材の選択又は配列によって創
作性を発揮したものと認めるに足りる主張・立証はない。
この点について,控訴人は,株式会社ビックスとの間における作業過程に照らし
てみても,控訴人が実態として編集著作物の著作者となる旨主張する。
しかし,控訴人が主張する本件書籍1への控訴人の関与については,控訴人の陳
述書(甲8)以外の証拠はなく,また,上記陳述書によっても,「明確に覚えてい
ない」というのであって,控訴人が,「監修」,すなわち,書籍の著述や編集を監
督することを超えて編集著作物の著作者と評価し得る作業を行ったことを認めるこ
とはできないから,控訴人の上記主張は,採用できない。
したがって,控訴人が本件書籍1の編集著作者であるとは認められない。
そうすると,本件書籍1については,控訴人の主張する被侵害利益は,その根拠
を欠くから,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に対する被侵害
利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の著者であると偽ら
れない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権が存するとは認められない。
◆判決本文