「オーサグラフ世界地図」について、そもそも原告は共同著作者ではないと判断されました。
著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学\n術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいい、
共同著作物とは、「二人以上の者が共同して創作した著作物であつて、その
各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの」(同項12号)
をいう。
そうすると、本件地図1ないし4が原告及び被告の共同著作物であり、原
告がこれらについての共有著作権及び著作者人格権を有するというためには、
原告の思想又は感情が本件地図1ないし4に創作的に表現されたと認められ\nる必要がある。
(2) 前記1(5)及び(6)のとおり、被告は、平成12年頃に、原告と本件覚書を
交わし、原告との共同研究が終了した後、原告と面会したり、直接連絡をと
ったりしたことはなかったところ、原告に相談することなく、平成21年に
本件発表をし、その頃に本件地図1及び2が掲載された本件論文1を、平成\n29年に本件地図3及び4が掲載された本件論文2を、それぞれ作成したも
のであり、原告は、被告の本件発表並びに本件論文1及び2の作成の事実を\n知らなかったものである。また、原告は、その本人尋問において、本件地図1ないし4自体を作成し
たのは被告である旨供述している。したがって、仮に本件論文1に掲載された本件地図1及び2並びに本件論
文2に掲載された本件地図3及び4に著作物性が認められるとしても、本件
地図1ないし4は、原告の思想又は感情が創作的に表現されたものではなく、\n被告のみの思想又は感情が創作的に表現されたものと認めるのが相当であり、\n原告及び被告の各氏名が記載された本件論文1に掲載された本件地図1及び
2について、著作権法14条に基づき、原告及び被告が著作者であると推定
されたとしても、その推定は覆されるというべきである。
(3)ア これに対して、原告は、1) 本件論文1及び2は、原告及び被告を共同発
明者とする本件出願1ないし3の各願書に添付した明細書に記載された内
容に基づくものであり、本件論文1及び2に掲載された本件地図1ないし
4は、本件出願1ないし3の各願書に添付した図面と基本的に同一である
こと、2) 本件発表の発表\者として原告の氏名が挙げられ、本件論文1の冒
頭に原告の氏名が、末尾に原告に対する謝辞が、それぞれ記載されている
ことからすると、本件地図1ないし4は原告及び被告の共同著作物である
と主張する。
イ しかし、上記1)について、本件出願1ないし3の各願書に添付した明細
書に従って本件地図1ないし4を作成できるとの事実を認めるに足りる証
拠はない。
また、前記前提事実(2)ないし(4)のとおり、原告は本件出願1ないし3
の各発明者の一人として名前が挙げられているが、発明とは「自然法則を
利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法2条1項)であり、
発明者はこのような技術的思想を創作した者をいうのに対し、著作物とは
「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)であ\nり、著作者は「著作物を創作する者」(同項2号)をいうことから、両者
が創作する対象は、それぞれ技術的思想と表現という異なるものである。\n仮に本件出願1ないし3が地図の作成方法に関する発明に係る出願であり、
本件出願1ないし3の各願書に添付した明細書に従って地図を作成するこ
とができたとしても、上記発明に係る技術的思想の創作に関わったにすぎ
ない原告の思想又は感情が当該地図において創作的に表現されたというこ\nとにはならない。
さらに、証拠(甲1、2、4ないし6)によれば、本件地図1及び3と
本件出願1の願書に添付した図面の【図10】のLC2、本件出願2の願
書に添付した図面の【図10】のLC2及び本件出願3の願書に添付した
図面のFIG.10のLC2とを比較すると、国境線及び地名の記載の有
無、各大陸の形状、位置関係等が少なからず異なっており、本件地図2及
び4と本件出願1の願書に添付した図面の【図9】、本件出願2の願書に
添付した図面の【図9】及び本件出願3の願書に添付した図面のFIG.
9とを比較すると、各大陸の形状、位置関係等が少なからず異なっている
ことが認められる。地図が地形等を客観的に表現することを目的としたも\nのであることを考慮すると、仮に本件出願1ないし3の上記各図面に原告
の思想又は感情が創作的に表現されたといえるとしても、上記のような相\n違のある本件地図1ないし4にも同様に原告の思想又は感情が創作的に表\n現されたということは困難である。以上を総合すると、上記1)の事情をもって、原告の思想又は感情が本件地図1ないし4に創作的に表現されたというには足りないから、同事情は前記(2)の認定を左右するものではないというべきである。
ウ また、上記2)について、前記前提事実(5)のとおり、日本国際地図学会の
平成21年度定期大会のプログラムには、本件発表の発表\者として、被告
のみならず原告の氏名が記載されており、本件論文1の冒頭にも、被告の
みならず原告の氏名が記載され、その末尾に「本研究の基礎はA氏との半
年間の共同研究によるものである。」と記載されている。しかし、被告は、その本人尋問において、被告が修士論文を作成した際、原告が被告に対してアイデアの盗用であるなどと主張したことがあったことから、原告に配慮して、上記のとおり、原告の氏名を記載するなどした旨供述しているところ、前記1(3)ないし(5)の経過に鑑みると、被告の上
記供述は信用することができるというべきである。そうすると、上記各記載の存在をもって、本件論文1に掲載された本件地図1及び2に原告の思想又は感情が創作的に表現されているということはできないから、上記2)の事情も前記(2)の認定を左右するものではない。
エ したがって、原告の前記アの主張は採用することができない。
(4) 以上によれば、本件地図1ないし4は、原告及び被告の共同著作物とは認
められないから、原告が本件地図1ないし4に係る共有著作権及び著作者人
格権を有するとはいえない。
087/091087
◆判決本文
2022.04. 1
原告は企画書の著作者ではないとして、著作権侵害が否定されました。
原告は、本件企画書の作成に際して本件土地の開発計画を立案し、つくば
建設設計事務所等から提出された検討結果を総合的に取りまとめ、本件企画
書に落とし込む作業を行ったこと、建築計画等の制作において設計図面等の
著作権は発注者である取りまとめ会社に帰属する慣例があることから、原告
は本件企画書の著作者であると主張する。
しかし、単に計画を立案したというのみではアイデアの提供にとどまるし、
他社による検討結果を取りまとめ、本件企画書に落とし込む作業をしたとし
ても、当該他社の創作的表現を本件企画書に記載したのみでは、当該作業を\n通じて、本件企画書に原告の思想又は感情を創作的に表現したことにはなら\nないというべきである。そして、本件全証拠によっても、原告が本件企画書
等の作成にどのように関与したのかは明らかではないから、本件企画書等が
「著作物」に該当するとしても、原告がこれを「創作」したと認めることは
できない。したがって、原告が本件企画書等の「著作者」(著作権法2条1
項2号)であるとは認められない。
また、原告が主張するような慣例が存在することを認めるに足りる証拠も
ないから、そのような慣例に基づいて原告が本件企画書等の著作者になると
認めることもできない。
以上の次第で、仮に本件企画書等に著作物性が認められるとしても、原告
は本件企画書等の著作者であると認めることはできない。
◆判決本文