検定用ガイドブックは、法人著作と認定されました。
上記引用の認定事実によれば、本件検定は、被控訴人の理事長兼本件財
団法人の理事であった Dの指示により、発足に向けた検討が始まったもの
であり、関係団体としては被控訴人と本件財団法人の関与が想定されていた
ところ、両者の関係は、最終的に、1)本件検定の実施主体は本件財団法人と
するが、2)本件検定の標準テキストというべきガイドブック(本件書籍)は、
被控訴人を「発行」主体とし、被控訴人(文化服装学院)が内容を検討し、
その職員において執筆するという役割分担が整理されたこと、実際にも、本
件書籍の執筆を担当したのは、控訴人を含む被控訴人の従業員3名であり、
この3名に対しては、被控訴人から「原稿料」が支払われていることが認め
られる。
以上の事実によれば、本件書籍は、被控訴人の従業員としての控訴人が、
その職務上作成したものと認めることができる。なお、控訴人も、本件書籍
の執筆に当たり、文化服装学院内において執筆することがあり、被控訴人の
職員と打ち合わせ、被控訴人が所蔵する資料を借り出し、調査等の目的で文
化服装学院の図書館を利用したことを認めている(甲19、弁論の全趣旨)。
(2) 以上の認定・判断に反する控訴人の主張は、以下のとおり、いずれも採
用できない。
ア まず、控訴人は、本件書籍の作成指示は、本件財団法人の当時の事務局
長兼理事であった Aから受けたと主張し、本件当時の文化服装学院の
教務部長の Bの陳述書(甲20)中には、控訴人が Aとやり取りを
しており、自分としては本件書籍の執筆を被控訴人の業務として行って
はならないと厳命していたとの記載もある。
しかし、本件財団法人作成の本件計画案(甲18)中に、本件書籍は
被控訴人(文化服装学院)の職員に「執筆願っている」旨の記載がある
ほか、被控訴人と本件財団法人間の覚書においても、本件書籍は、被控
訴人(文化服装学院)側で執筆を含む編集・出版を担当することが明記
されている。 Bの陳述書は、これら関係証拠と矛盾するものであって、
採用できない。
イ また、控訴人は、本件書籍執筆当時の嘱託業務量からして、膨大な分量
のある本件書籍を執筆することはできなかったとも主張する。しかし、
嘱託業務としての所定の勤務時間内に本件書籍の執筆をすることが困難
であったとしても、講師としての本来の報酬とは別に相応の報酬を受け
取ることを前提に、付随業務として本件書籍の執筆を新たに引き受ける
ということはあり得る話であり、控訴人の上記主張は、本件書籍の執筆
が被控訴人従業員としての職務(付随業務)に含まれないと解すべき理
由にはならない。
ウ さらに、控訴人は、本件書籍執筆に関して本俸を上回る原稿料が支払わ
れていることから、本件執筆が嘱託専任講師業務とは別の性質のもので
あると主張する。しかし、ここで重要なのは、「原稿料」が、本件財団
法人からではなく、控訴人の使用者である被控訴人から支払われている
という事実である。本件財団法人( A)に指示されて執筆した旨をい
う控訴人の主張は、この事実と整合せず、原稿料の支払に関する客観的
な事実関係は、むしろ、被控訴人従業員としての職務(付随業務)に基
づいて本件書籍の執筆がされたことを推認させるものである。なお、本
来の講師としての報酬と別枠での支払になっているという点に関してい
えば、当該原稿料の支払は、付随業務の負担が重いことに配慮した補償
的な現金支給であったと理解できるから、いずれにせよ上記認定判断を
左右しない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和5年(ワ)70315