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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

著作権その他

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和5(ワ)70422  損害賠償等請求事件  著作権  民事訴訟 令和6年8月1日  東京地方裁判所

 契約書がなくても、著作権は譲渡を受けていると判断されました。

ア 前提事実及び上記各認定事実によれば、原告Aは、原告社団代表者との関係性を前提として、原告社団から対価(7 万円)の支払を受けて本件写真を含む写真 の撮影を行い、原告社団は、原告Aから本件写真の納品を受け、その後、原告Aか ら個別に許諾を得ることなく、本件写真を利用していたといえる。また、上記認定 事実からうかがわれる原告社団とEないし Colabo との関係性を踏まえると、E及 び Colabo による本件写真の利用は、原告社団の包括的又は個別の許諾に基づき行 われたものであることがうかがわれる。 他方、原告社団の原告Aに対する利用許諾料の支払その他原告社団による本件写 真の利用が原告社団と原告Aとの利用許諾契約に基づくものであることをうかがわ せる具体的な事情は見当たらない。
このような本件写真の利用態様に鑑みると、原告社団による本件写真の利用は、 原告Aによる本件写真の納品及び原告社団によるその対価の支払によって原告社団 が本件写真の著作権を取得したことに基づくものと理解される。このような理解は、 原告社団代表者、原告A及びCの各陳述ないし供述(甲 2〜4、14、証人C)に沿う ものでもある。また、これらの陳述ないし供述については、いずれもその信用性に 疑義を抱くべき具体的な事情はなく、また、相互に矛盾するものでもない。加えて、 原告社団及び原告Aは、前訴から一貫して、本件写真に係る著作権は原告Aから原 告社団に譲渡された旨主張している。 これらの事情を総合的に考慮すると、本件写真に係る著作権は、原告Aの原告社 団に対する本件写真の納品及び原告社団の原告Aに対するその対価の支払により、 原告Aから原告社団に譲渡されたとみるのが相当である。
イ これに対し、被告は、著作権譲渡を裏付ける契約書等がないことその他の事 情を縷々指摘して、原告Aから原告社団に対し本件写真に係る著作権の譲渡はない 旨主張する。 確かに、原告Aから原告社団に対する著作権譲渡を直接的に裏付ける契約書その 他の客観的な資料は存在しない。また、原告Aは、前訴において、本件写真につき、 原告社団に対して「写真の使用権」を譲渡したとの認識である旨や、被告の本件写 真の利用をもって「私や「のりこえねっと」の著作権を侵害していることになる」 旨陳述したところ、これらの陳述は、原告Aが本件写真の著作権を有することを前 提とする趣旨と理解し得ないものではなく、少なくとも、著作権の帰属につき判然 としない内容のものであるとはいえる。原告社団が原告Aに支払った対価の額も、 Eを含む 3 名の写真撮影に関するものであることや交通費を含むことを考えると、 原告A及び原告社団代表者も陳述するとおり、著作権譲渡の対価としては相当に低廉であると評価し得る。\n
しかし、契約書その他直接的に著作権譲渡を裏付ける客観的な資料がないことは、 もとより直ちに著作権譲渡がなかったことを意味するものではない。原告社団と原 告Aとの関係性に鑑みれば、そのような資料の不存在は必ずしも不自然ないし不合 理とはいえない。同様の理由から、支払われた対価が著作権譲渡の対価としては相 当に低廉であるとしても、これをもって著作権譲渡がなかったことをうかがわせる 事情とは必ずしもいえない。前訴における原告Aの陳述も、趣旨は判然としない部分はあるものの、「譲渡」や「原告社団の著作権の侵害」という表現を含むものである。そもそも、上記陳述は、原告社団が本件動画 33 及び 34 の著作権を主張する前 訴において原告社団により提出されたものであることや、原告社団と原告Aとの関 係性に加え、原告Aは法律の専門家ではなく、法的事項につき不正確な表現をすることも十\分にあり得ることをも考慮すると、前提として原告社団に対する著作権譲渡を含意するものと理解するのが相当である。

◆判決本文

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令和5(ネ)10105 損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和6年6月12日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 写真を自販機に使用した件について、トリミングされたので意に反する改変として、著作者人格権侵害で訴えました。控訴人(1審原告)は、使用料として800万受け取ってます。1審と同様、請求棄却です。

本件各写真(特に本件写真3)、5))が芸術作品と呼ぶにふさわしいもの であることは、当裁判所も全面的に認めるものであり、その価値が損なわれ るのは許せないとする控訴人の心情は理解できる。
しかし、当然ながら、被控訴人は、控訴人の芸術作品を紹介したくて本 件各写真の利用を申し出たのではなく、主役である本件たばこを引き立てる道具として本件各写真を利用しようとし、NDCを通じてその対価の支払を\n提案しているのである。そして、自動販売機で最も目に付きやすいガラス面 アイキャッチャー(販売商品の見本〔たばこパッケージ〕が並んでいる部分) にたばこパッケージと同じ大きさになるようにトリミングした写真を使用す るという本件各写真の利用方法は、本件販促活動の重要な柱となっていたの であるから、仮に、控訴人がこのようなトリミングを許諾しないという意思 を明確にしていたとすれば、控訴人の写真作品を本件販促活動に利用すると いう構想自体が白紙となり、800万円の許諾料の支払合意も合意解除されることが当然予\想されるところ、現実には、本件トリミング手法を使った写真の利用がされ、控訴人は許諾料800万円を受領しているのである。
さらに、控訴人がAから本件販促用写真が使用されている自動販売機の 写真の提供を受けて、自身の写真作品について意に反した改変があったと考 えるに至ったのは令和2年秋頃である(上記1(5)ウ)ところ、その時点ま でに、控訴人とBらが本件販促活動の内容の打合せを行っていた平成16年 〜17年から15年以上もの年月が経過している。この間、本件各写真の利 用方法を巡る打合せの経過及び内容につき、控訴人の記憶が変容し又はあい まいになっていたとしてもやむを得ないところである。十数年ぶりに本件販促用写真を見て、原作品とのギャップに強い違和感を抱いたという控訴人の\n心情に偽りはないとしても、これを「意に反した改変」が行われた根拠とす ることが適切とはいえない。

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令和3(ワ)13623  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年4月14日  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。コミュニティサイト運営者が、公衆送信権の侵害主体であると認定され、差止と7万円の損害賠償が認められました。

(2)ア 本件投稿者は、原告写真の複製物であり被告各写真を本件記事の文章と ともに被告に送信した。
イ もっとも、本件投稿者が被告に上記送信をしたことにより、直ちに、被 告各写真が公衆送信されることになったとは認められない。 本件ウェブサイトでは、会員が被告に送信した記事を被告地域パートナ ーが承認して、初めて、その記事を本件ウェブサイトの一般の閲覧者が閲 覧できるようになる(前記1(1)ウ )。本件投稿者が被告に送信した被告 各写真を含む本件記事についても、被告の地域パートナーが、その内容等 を審査して、それを承認したことにより、その承認後、被告各写真や本件 記事を本件ウェブサイトの一般の閲覧者が閲覧できるようになったと推認 することができる。
ウ 被告は、旅行に関する情報提供サービス及びそのコンサルティング業等 を目的とする株式会社であり(前記前提事実(1)イ)、本件ウェブサイトに は、「ジャパントラベルは、日本の魅力を世界に発信するメディアであり、 その他コンサルティングビジネスおよび第二種旅行業登録の訪日専門トラ ベルエージェンシーを運営」(前記1 ア)、「「インバウンド専門旅行会社 経験豊富な外国人・日本人スタッフがカスタマイズツアーを主力とした インバウンドツアーをサポートします。」(同イ )と記載されていること、 本件ウェブサイトを通じて、ホテル又は飛行機を予約したり、鉄道切符や\n施設入場券、各種パッケージツアー、体験型ツアーを購入したり、オーダ ーメイドの旅の予約をしたりすることができること(同イ )からすれ ば、本件ウェブサイトは、会員から記事の送信を受けて、その記事を表示\nすることで観光地の情報を提供しつつ、それを利用してツアーの企画など の旅行関連事業を行うことも目的としたものといえる。したがって、本件 ウェブサイトは、被告の旅行関連事業の営業のために設けられているとい う性質も有するといえる。
本件ウェブサイトでは、被告が利用者コンテンツを審査し、編集等する 旨の規定が設けられている(前記1 ウ )だけではなく、実際に、会員 が記事を被告に送信しても、被告地域パートナーの承認がない限り当該記 事は本件ウェブサイトに掲載されず、会員が被告に送信した写真は、被告 地域パートナーが承認という作業をすることによって、自動公衆送信装置 といえるサーバーに蔵置、記録され、送信可能化されるに至り、公衆送信\nされることになったといえる。また、前記 ウによれば、本件ウェブサイ トは、被告が行う旅行関連事業の営業のために設けられているという性質 も有するといえる。会員による記事の送信は、そのような被告のための記 事の提供という面も有していた。被告地域パートナーは、本件ウェブサイ トにおいて、会員から送信された記事の内容について、上記のとおりの本 件ウェブサイトの目的に沿うものであるかやその目的との関係でその質を 維持するものであるかなどを広く審査して、承認の可否を決定し、また必 要な修正を行っていたと推認でき、また、これらの作業を被告の営業のた めに被告の履行補助者として行っていたと認められる。 これらによれば、本件投稿者が被告に送信した被告各写真は、被告の履 行補助者である被告地域パートナーが被告の営業のために内容を広く審査 して承認という作業をしたことによって、サーバーに蔵置、記録され、送 信可能化されるに至り、公衆送信されたといえる。これらを考慮すると、\n被告が、被告各写真の複製、公衆送信をしたと認めることが相当である。 被告の主張について 被告は、1)記事の修正等をする被告地域パートナーはボランティアであ ること、2)被告各写真の投稿者は、被告から経済的利益を得たり、また、 指示等を受けておらず、任意に被告各写真を投稿したことを挙げて、被告 は、複製、公衆送信の主体ではないなどと主張する。
ア 上記1)について、被告地域パートナーがボランティアであったとして も、本件ウェブサイトは被告の旅行関連事業の営業のために設けられて いるという性質も有し、被告地域パートナーによる記事の承認等は、そ のような被告の営業のために行われるものと推認できることを併せて考 えれば、被告地域パートナーは、被告からの直接の報酬の支払を受けて いなかったとしても、被告の履行補助者とみるのが相当である。 したがって、被告の上記1)の主張を採用することはできない。
イ 上記2)について、本件ウェブサイトが前記のとおり被告の営業目的の ために設けられているという性質も有し、また、被告各写真についても、 他の記事と同様に、被告地域パートナーが内容を広く審査して承認し、 公衆送信されるようになったと認められることに鑑みれば、被告各写真 が被告に対して送信されたのは会員の自由な意思に基づくものであった としても、被告各写真を複製し公衆送信したのは被告とみるのが相当で ある。したがって、被告の上記2)の主張も採用することはできない。
(5)著作者人格権侵害について
前提事実 のとおり、本件ウェブサイトにおいて、原告の氏名(ペンネー ム)を表示せずに被告各写真が表\示され、また、別紙URL目録記載1のウ ェブページにおいて原告写真の左右が切除されていたと認めることができる。 これらと、本件ウェブサイトにおいて被告各写真が掲載されるに至る過程 に照らせば、前記(3)と同様の理由により、被告は、原告の氏名表示権及び同\n一性保持権を侵害したといえる。 以上によれば、被告は、原告が保有する原告写真の複製権及び公衆送信 権を侵害し、また、氏名表示権及び同一性保持権を侵害したといえる。\n

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令和4(ワ)18776  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和6年4月18日  東京地方裁判所

 既に新聞報道がなされていますが、判決がアップされました。漫画村に対する損害賠償について、東京地裁は、約17億円の損害賠償を認めました。

(1) 著作権法 114 条 3 項に基づく損害について
ア 原告らは、原告らが有する本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害行 為を行った被告に対し、出版権の侵害については著作権法 114 条 3 項に基づき、ま た、独占的利用権の侵害については同項の類推適用により、本件作品の出版権又は 独占的利用権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の 額として、その損害賠償を請求することができるといえる。
イ 利用料率について
(ア) 本件サイトにおいては、ユーザーは無償で本件作品の閲覧が可能であり、ユ\nーザーから閲覧可能とすることの対価を得ていないという意味では、侵害による売\n上高は観念できない。 もっとも、本件作品は、原告らが、別紙作品目録 1〜3 の各「販売価額(税込)」 欄記載の金額で、原告ら又は原告 KADOKAWA の完全子会社の電子配信サイトで電 子配信され、又は、コミック単行本等として販売されていたものである(前提事実 (2))。そうすると、原告らは、本件作品に係る出版権又は独占的利用権に基づき、これらの販売による利益を受けていたものと認められる。
また、本件サイトでは、ファイルをユーザーの端末にダウンロード(複製(いわ ゆる端末のキャッシュは除く。))することなく、いわゆるストリーミング形式によ り無償で閲覧することが想定されていた。もっとも、閲覧にあたり、ユーザーは、 広告の視聴等の制約を受けることなく閲覧することが可能であった。また、本件サ\nイトにおいては、閲覧した画像ファイルの保存操作を制限するような技術や機能は\n採用されておらず、ユーザーにおいて、各画像ファイルをユーザーの端末の記録媒 体に保存することも可能であった(以上につき、前記 1(1)イ)。これらの事情に鑑み ると、ユーザーにとっては、ストリーミング形式での閲覧が想定されているとはい え、本件サイトを通じて本件作品の閲覧が可能である限り、本件サイトにアクセス\nしさえすれば何らの制限なく本件作品を無償で閲覧可能な状態に置かれるといえる。\nこれは、実質的には、ユーザーが本件サイトにアクセスする都度、電子配信された 本件作品を購入したのと異ならない状態が実現されているものと評価することがで きる。
これらの事情その他本件に表れた一切の事情を総合的に考慮すると、本件におい\nて、被告による侵害行為に対し、原告らが本件作品に係る出版権又は独占的利用権 の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する金額」(著作権法 114 条 3 項)の算定 にあたっては、別紙作品目録 1〜3 の「裁判所認定損害額」欄記載のとおり、「販売 価額(税込)」欄の金額から 10%を控除した金額に、各作品の閲覧数を乗じた額とす ることが相当である。これに反する原告らの主張は採用できない。 (イ) 被告の主張について 被告は、本件サイトと同規模の漫画閲覧サイト運営者(漫画定額読み放題サービ スサイト)と原告らとの間で締結されるべきライセンス利用契約のライセンス料を 基礎に損害額を算定すべきである旨主張する。
しかし、そもそも、本件作品のうち電子配信の対象となっていない作品(別紙作 品目録 3 の番号 174〜221)については、この主張が妥当する余地はない。 また、その他の本件作品についても、上記のとおり、原告らは、自ら又は完全子 会社が管理・運営する電子配信サイトを通じて有償でのみ電子配信しているのであ って、これらの作品が漫画定額読み放題サービスの対象とされていることを認める に足りる証拠はない。そうすると、原告らにとっては、本件作品を同サービスの対 象とする動機はなく、仮に本件作品を同サービスの対象として利用許諾契約を締結 するとすれば、本件作品の販売価格と同額ないしこれに近い額を利用料として設定 すると考えることには合理性がある。 したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
ウ 閲覧数
本件調査によれば、平成 29 年 6 月〜平成 30 年 4 月の間の本件サイトへのアクセ ス総数は 億 3781 万超と推計される。また、本件サイトの平均滞在時間は約 分程度でされるところ(前記 1(3)イ)、この平均滞在時間は、漫画作品 1 巻を閲覧する のに一応十分な時間といえる。これを踏まえ、本件サイトにアクセスしたユーザー\nが 1 アクセス当たり漫画 1 巻を閲覧したとすると、上記期間中、本件サイトにおい ては、合計 億 3781 万巻の閲覧があったと推計されるとみてよい。 また、本件調査時に本件サイトに掲載されていた作品巻数は 7 万 2577 巻とされ るから、本件サイトにおける本件作品 1 巻当たりの平均閲覧数は、74回を下回ら ないものとみられる。
この点、被告は、SimilarWeb によるアクセス数の推計は不正確である旨を指摘し て、これを損害額算定の基礎とすることはできないと主張する。 確かに、本件調査の推計が依拠する SimilarWeb による調査結果の信頼性について は、これを疑問視する見解も見受けられるが(例えば乙 6)、本件において、その調 査手法ないし結果の信頼性を疑わせる具体的な事情は証拠上見当たらない。その点 を措くとしても、本件調査においては、平成 29 年 6 月〜平成 30 年 4 月の間におけ る本件サイトへの月平均サイトアクセス数は 4889 万 2057 回とされている(前記 1(3)イ)。他方、被告は本件サイトの管理・運営に関与し、利用者数の状況を把握し 得る立場にあり、現に把握していたと考えられるところ(前記 1(2)、(4))、被告によ れば、令和 4 年 7 月時点の投稿ではあるものの、月間利用者は 8500 万人とされ(前 記 1(4)ア)、また、平成 30 年 2 月時点の本件サイトの月間アクセス数は 1 億 6000 万とされている(前記 1(4)イ)。被告の本件サイト利用者数に関する上記各言及には誇 張が含まれている可能性も否めないものの、上記各数値と本件調査での推計に係る\n数値との乖離の程度等を考慮すると、その可能性を考慮してもなお、少なくとも、\n本件調査結果として推計された閲覧数が本件サイトの現実の閲覧数を上回るものと はうかがわれない。したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
エ 著作権法 114 条 3 項に基づき算定される損害額
以上によれば、本件において、原告らが「受けるべき金銭の額に相当する金額」(著作権法 114 条 3 項)は、別紙作品目録 1〜3 の「裁判所認定損害額」欄記載のと おり、「販売価額(税込)」欄記載の金額から 10%を控除した金額に、各作品の閲覧 数 74回を乗じた金額と認めるのが相当である。 このような損害額の合計額は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 3 億 6886 万 9059 円
・原告集英社につき 3 億 90万 9859 円
・原告小学館につき 8 億 1968 万 6790 円
(2) 弁護士費用相当損害金
原告らは、本件訴訟の提起に当たり訴訟代理人弁護士に委任せざるを得なかったものであり、本件に表れた一切の事情を考慮すると、被告の不法行為と相当因果関\n係のある弁護士費用相当損害金の額は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 3688 万 690円
・原告集英社につき 3902 万 098円
・原告小学館につき 8196 万 8679 円
(3) 小括
したがって、本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害の不法行為に係る原告らの損害額の合計は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 4 億 057万 5964 円
・原告集英社につき 4 億 2923 万 0844 円
・原告小学館につき 9 億 016万 5469 円
なお、原告らは、予備的に著作権法 114 条 1 項に基づき算定される損害額をも主 張する。しかし、原告らの主張を前提としても上記認定に係る損害額を上回ること はないから、この点に関して判断する必要はない。

◆判決本文

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令和5(ネ)1384等  損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和6年1月26日  大阪高等裁判所

大阪高裁は、アマゾンに対してサイト上に掲載した画像等が被告の著作権を侵害する等の申告をした行為が不正競争防止法(不競法)2条1項21号の不正競争行為に該当すると判断されました。1審の判決維持です。なお、著作物性無しと判断されたのは、芸能人を被写体とする写真が印刷された平面的な表\紙及び裏表紙を、できるだけ忠実に再現するため真正面から撮影した画像です。\n

写真集及び卓上カレンダーに係る被告画像1、2及び4ないし10は、 インターネットショッピングサイトにおいて販売する商品がどのような ものかを紹介するために、芸能人を被写体とする写真が印刷された平面\n的な表紙及び裏表\紙を、できるだけ忠実に再現するため真正面から撮影 した画像であり、上記表紙及び裏表\紙以外に背景や余白はないのであっ て、被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、背景\n等に選択の余地がなく、上記表紙及び裏表\紙ひいてはそこに印刷された 芸能人を被写体とする写真を忠実に再現する以外に、その画像の表\現自 体に何らかの形で撮影者の個性が表れているとは認められないから、上\n記各被告画像には創作性が認められない。したがって、上記各被告画像 は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)\nとはいえず、著作物とは認められないから、一審被告が上記各被告画像 について著作権を有するとは認められない。
(イ) 被告画像3について
単語帳に係る被告画像3も、インターネットショッピングサイトにお いて販売する商品がどのようなものかを紹介するための写真ではあるが、 芸能人を被写体とする写真が印刷された表\紙及び裏表紙を金具のリング\nから取り外し、各写真を表にして平面上に上下に並べ、その右側に一部\n裏表紙と重なる形で、63枚の単語カードを写真側を表\にして金具のリ ングを要として扇状に広げたものを撮影したものであり、正面から撮影 されたものではあるものの、上記単語カードを扇状に広げることによっ てその重なり合いによる陰影が表現され、また、2枚目以降の単語カー\nドの白い縁取りからわずかに各写真が垣間見えるように広げることによ って各単語カードにそれぞれ異なる写真が印刷されていることを表現し\nており、白い背景によって表紙及び裏表\紙の写真等を浮き立たせる効果 も生んでいるといえる。このような手法が商品としての単語帳を紹介す る際にまま見られるもの(乙62、63)であったとしても、その被写 体の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、背景の選択には 複数の余地があり、被告画像3の表現自体に撮影者の個性が表\れている と認められる。したがって、被告画像3は、「思想又は感情を創作的に 表現したもの」といえ、著作物性が認められるから、その撮影者である\n一審被告は被告画像3について著作権を有すると認められる。
(ウ) 以上に対し、一審被告は、被告画像1、2及び4ないし10についても、 手ブレ補正、露出補正、ホワイトバランス等の細かい調整を行い、光の 入り方に気を配って撮影場所にこだわり、複数の写真を撮影してその中 の一番良い写真について彩度、色合いを編集するなどの独自の工夫を凝 らしている旨主張するが、一審被告が主張するそのような工夫は、商品 である写真集ないし卓上カレンダーの表紙及び裏表\紙、ひいてはそこに 印刷された芸能人を被写体とする写真を忠実に再現するためのものであ\nって、上記工夫の結果、それらが忠実に再現された各被告画像が得られ たとしても、その表現自体に何らかの形で撮影者である一審被告の個性\nが表れているとは認められない。したがって、上記一審被告の主張は上\n記(ア)の判断を左右しない。
・・・
ア 上記のとおり、被告サイト上の被告各画像及び商品名のうち、そもそも著 作物性が認められるのは被告画像3のみであり、その余については著作物性 自体が認められず、一審被告が著作権を有しないから、一審原告がその著作 権を侵害した事実はおよそ存在しない。そこで、原告画像3の掲載が被告画 像3についての一審被告の著作権侵害に当たるかにつき、以下検討する。
イ 被告画像3の表現上の本質的特徴は、前記(3)ア(イ)のとおり、本件商品3 を撮影する際の被写体の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、 背景の選択等を総合した表現に認められるところ、画像テンプレートを利用\nして作成された原告画像3は、単語帳から取り外した一部の表紙等を並べて\nその横に単語帳を扇状に広げて置くなどの点で商品の見せ方に関する基本的 なアイデアに被告画像3との共通点はあるが、取り外して並べられたのが表\n紙や裏表紙の写真面か、単語カードの韓国語単語が記載された面か、その枚\n数、色彩及び配置、金具のリングを要として扇状に広げられた単語帳がその 右側に配置されているか左側に配置されているか等の配置、同単語帳の1枚 目のカードに印刷された写真内容、同単語帳の単語カードの枚数、色彩、扇 状の広がり方及び陰影等で異なっていることが一見して明らかであって、そ の素材の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、色彩の配合、素 材と背景のコントラスト等において被告画像3と異なるから、被告画像3の 表現上の本質的特徴を直接感得させるものとはいえない。なお、原告画像3\nで選択された素材のうち、本件商品3の表紙を正面から撮影した画像部分の\nみは被告画像3と共通するが、その画像自体は、被告画像1、2及び4ない し10について検討したと同様、平面的な上記表紙を忠実に再現したのみで\n創作性が認められない部分であるから、同画像部分が共通しているからとい って、原告画像3が被告画像3と類似しているとは到底認められない。した がって、一審原告が原告画像3を原告サイトに掲載したことが、被告画像3 に係る一審被告の著作権を侵害するものとは認められない。
以上によれば、一審被告が、本件各申告によってアマゾンに告知した、一\n審原告が被告サイト上の被告各画像及び商品名についての一審被告の著作権 を侵害しているとの本件各申告の内容は、全て虚偽の事実であったというこ\nとになる。そして、前記第2の2で原判決を補正した上で引用した前提事実 (1)によれば、一審原告と一審被告は競争関係にあるといえ、また、上記著 作権侵害の事実を申告する行為は一審原告の営業上の信用を害する虚偽の事\n実を告知する行為といえるから、本件各申告は、客観的に不競法2条1項2\n1号に該当するということになる。

◆判決本文

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令和4(ワ)9461 著作権 民事訴訟 令和6年2月7日  東京地方裁判所

不動産売買・賃貸の仲介にもちいる物件写真について、著作権侵害が認定されました。 ただ、損害額は1000円/枚で、約7万円です。

証拠(甲5、11、15、27、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、\n本件各写真は、賃貸物件の外観・内観及び周辺環境等を撮影したものであるこ と、本件各写真の撮影は、賃貸物件の内容を分かりやすく需要者に伝えるため、 明るさや撮影角度等を調整して行われたものであること、本件各写真の中には、 対象を広く写真に収めるため、パノラマ写真を撮影できるカメラを利用して撮 影されたものも含まれていることが認められる。 このような本件各写真の内容や撮影方法に照らすと、本件各写真は、被写体 の構図、カメラアングル、照明、撮影方法等を工夫して撮影されたものであり、\n撮影者の個性が表現されたものといえる。\nしたがって、本件各写真は、いずれも思想又は感情を創作的に表現したもの\nと認められ、「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当し、これに反する被告 らの主張は採用できない。
・・・
証拠(甲27、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、通常、管理会社\n等を通さずに物件写真を取得する際には、自社の従業員などが現地を訪問し、 賃貸物件の外観や内観等の撮影した上で、必要に応じて写真の加工等を行っ ていることが認められるところ、被告会社は、本件侵害対象写真を使用する ことによって、上記の作業に係る支出等を免れたものといえる。
そして、証拠(甲23の3、25、26、乙3、5)及び弁論の全趣旨に よれば、物件写真の撮影代行サービスの料金については、1)広角一眼レフカ メラ撮影の外観・内観セット(単発発注)については、3600円から45 00円、360度パノラマ撮影(単発発注)については、3200円から4 000円(写真の加工等には別途オプション料金が必要)とするもの、2)内 観(画像15枚程度)2750円、外観・共用部セット3300円、高品質 撮影5500円、交通費2000円程度とするもの、3)外観・エントラン ス・看板7枚以上で2750円〜5500円、外観・共用部・室内全て7枚 以上で1万3200円(いずれも一眼レフカメラ、広角カメラで撮影。1回 の撮影枚数は30枚以上。)、シータによる撮影(8枚以上)は1件4400 円(写真の加工等には別途オプション料金が必要で、徒歩15分以上の撮影 の場合は1650円が加算される。)とするもの、4)マンション一眼レフカ メラ広角レンズ撮影について、外観のみ(10枚程度)3500円、内観の み(20枚程度)4000円、外観・内観(30枚まで)4500円、オプ ションとして360度パノラマ撮影について、1枚500円、5枚まで10 00円〜2000円(ただし、駅から徒歩16分以上の場合は1000円が 加 算 さ れ る 。) とするもの、5)外観 の み (5枚 か ら 10枚程度)1 200円から1800円、外観・内観セットについて10枚から15枚程度 の場合は2200円から2500円、30枚程度の場合は2500円から2 800円とするものなどがあることが認められ、このような料金の定めから すれば、物件写真の撮影代行サービスを利用する場合、写真1枚当たりに換 算すると数百円程度の費用が必要となるほか、交通費や写真の加工等のため のオプション料金が別途発生し得ることが認められる。
上記の事情に加え、本件侵害対象写真の掲載期間は最大で2か月弱であっ てさほど長くないこと(前記3)、他方で、著作権侵害があった場合に事後 的に定められるべき「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」は通常の使 用料に比べて高額となることといった事情を併せ考慮すると、本件侵害対象 写真の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法11 4条3項)は、写真1枚当たり1000円の合計7万1000円と認めるの が相当である。
(2) これに対し、原告は、NHKエンタープライズ(甲19)、毎日フォトバ ンク(甲20)やアマナイメージズ(甲21)の写真使用料の定めからすれ ば、本件侵害対象写真の使用料相当額は1枚当たり2万円とすべきであると 主張する。
しかし、NHKエンタープライズや毎日フォトバンクの提供する写真は、 報道等のために撮影された写真であり、また、アマナイメージズの提供する 写真はウェブ広告や動画配信広告等に用いられるものであって、その撮影対 象や撮影方法は、賃貸物件の紹介を目的とした物件写真とは大きく異なるも のといえるから、上記各社の写真使用料の定めを本件で参考にすることは相 当ではない。

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令和5(ワ)70052  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 令和6年2月26日  東京地方裁判所

 囲碁将棋チャンネルは、YouTubeに、著作権侵害としてYouTuberの動画の削除申請しました。これが違法か否か争われました。争点は棋譜に著作権があるのか否かです。裁判所は約2万円の損害賠償を認めました。

原告は、本件において虚偽の事実を告知等されたことによって、経済的損害に つき不正競争防止法2条1項21号に基づく損害賠償請求権が発生するほかに、 併せて人格的利益を侵害するものとして、別途不法行為に基づく損害賠償請求権 が発生する旨主張する。そこで検討するに、人格権ないし人格的利益とは、明文上の根拠を有するものではなく、生命又は身体的価値を保護する人格権、名誉権、プライバシー権、肖像権、名誉感情、自己決定権、平穏生活権、リプロダクティブ権、パブリシティ 権その他憲法13条の法意に照らし判例法理上認められるに至った各種の権利 利益を総称するものであるから、人格的利益の侵害を主張するのみでは、特定の 被侵害利益に基づく請求を特定するものとはいえない。しかしながら、原告は、 裁判所の重ねての釈明にもかかわらず、単なる総称としての人格的利益をいうに とどまることからすると、原告の主張は、請求の特定を欠くものとして失当とい うほかない。
もっとも、原告は、原告主張に係る人格的利益とは、最高裁平成16年(受) 第930号同17年7月14日第一小法廷判決・民集59巻6号1569頁(平 成17年判決)にいう著作者の人格的利益と同趣旨のものであり、大阪高裁令和 4年(ネ)第265号、第599号同4年10月14日判決(令和4年判決)も、 その趣旨をいうものである旨主張する。
仮に、原告主張に係る人格的利益が、上記判例を引用する限度で特定されてい るものと善解したとしても、平成17年判決は、著作者の思想の自由,表現の自\n由が憲法により保障された基本的人権であることに鑑み、公立図書館において閲 覧に供された図書の著作者の思想、意見等伝達の利益を法的な利益として肯定す るものであり、その射程は、公立図書館の職員がその基本的義務に違反して独断 的評価や個人的好みに基づく不公平な取扱によって蔵書を廃棄した場合に限定 されるものである。そうすると、私立図書館その他の私企業における場合は、明 らかにその射程外というべきものであるから、平成17年判決は、私企業である YouTubeにおける投稿動画に係る伝達の利益が問題とされている本件に は、適切なものといえない。
また、原告が引用する大阪高裁令和4年(ネ)第265号、第599号同4年 10月14日判決(令和4年判決)は、人格的利益に関わるものと説示しつつも、 投稿者の営業活動を妨害するという側面をも踏まえたものであるから、精神的価 値という法益に限定して法的利益性が主張されている本件には、必ずしも適切で はない。のみならず、平成17年判決が、上記のとおり、伝達の利益を法的な利 益として肯定する場面を、公立図書館の職員による極めて不公平な取扱等の場合 に制限している趣旨に照らしても、憲法で保障されている表現の自由から、直ち\nにYouTubeにおける投稿動画に係る伝達の利益を肯定するのは相当では ない。その他に、原告は、著作権法、電気通信事業法その他の法令を縷々指摘して、 原告主張に係る人格的利益が重要性の高い法益である旨主張するものの、原告が 掲げる法令は、原告主張に係る人格的利益を保護するものとはいえず、上記にお いて説示したところに鑑みると、原告の主張は、その特定及び根拠を欠くもので あり、採用の限りではない。

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令和5(ネ)10038  著作権侵害差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年12月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

1審と同じく、著作物に該当するが、黙示の許諾があったと判断されました。

「確かに、乙14の4から13、乙15ないし20、22によれば、紙 におけるにじみなどの模様は模様付きの和紙としてカタログで販売される ものにも見られるものではある。しかし、控訴人は、楮を原料とし、にじ みが良く、染め方に深みを出すことができる和紙に、膠、明礬及び水を混 合した礬砂を刷毛で和紙の片面又は両面に引いて乾かし、その際、礬砂の 配合量や引き方等を調整したり、複数の刷毛を使い分けたりすることによ り、紙上に、水のにじみにくい部分や染料の染みにくい部分を生み出し、 毛質、長さ、大小が異なり、特別に注文した複数の刷毛を使い分け、主に 柿渋、胡桃、墨、土など自然の染料で和紙を染め、刷毛のあと、にじみに より紙上に色を配置するなどの手法を用いて和紙に模様や色彩を施し、一 点ずつ異なる模様の染描紙を制作しており、創作ノートに構図のためのス\nケッチ、色、染料の選択、配置、濃淡、線や動き等を記載することもあっ た(前記1(3))こと、そして、本件染描紙15から20のうち、本件染描 紙18は約65cm×約180cm、それ以外は約74cm×約100c mという大きさを備えるものであって、控訴人は空の情景を意識して本件 染描紙15から20を制作していること(前記1(2)、(3))、それぞれの模様 は原判決別紙本件染描紙(15〜20)一覧の各写真のとおりであって、 控訴人が、特定の色彩を選択して、構図を考えた上で模様を配置し、全体\nとしてまとまりのある図柄を作り上げたものといえることを考慮すれば、 創作的表現がされていると認められる。これらの事情を総合すれば、本件\n染描紙15から20の上記創作的表現は、模様のついた和紙として通常想\n定される模様とはいえず、実用的な目的のためのものといえる特徴と分離 して、美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備える部分を把握することが できるといえる。したがって、本件染描紙15から20は、控訴人の著作 物であると認められる。」
(2) 翻案について
翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質な特徴の同一\n性を維持しつつ、具体的な表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想\n又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の\n表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行\n為をいう(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法 廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
これを本件において検討すると、被控訴人Y’が制作した本件展示物15 から20は、本件染描紙15から20に依拠し、原判決別紙染描紙(15〜 20)一覧において、四角い枠を付したものとして示した写真における、四 角い枠で囲んだ部分を利用して、補正した上で引用した原判決第3の2(3)で 認定した制作過程を経て制作されたものと認められ、また、本件展示物15 から20は、作品の全体像として、「Yアートワークス/天空図屏風シリーズ」 と題する一連の作品として、屏風様式を取り入れ、上記作品より一回り大き い茶色のアルミ複合版製の下地とともに設置され、晴天の日の日中は、各展 示場の上方の天井にそれぞれ存在する天窓から日差しが差し込むように配置 され、本件展示物15から20が展示されている各壁面の正面付近の各床に は、本件展示物15から20について、本件説明とともに、それぞれ各和歌 (原典及び口語訳)が記載された説明書きが埋め込まれていて、これらの構\n成要素が組み合わされて仕立てあげられた作品であることが認められるから、 本件染描紙15から20の具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新た\nに思想又は感情を創作的に表現するものと認められるものの、本件展示物1\n5から20の屏風の部分の表現と本件染描紙15から20の上記四角い枠で\n囲んだ部分の表現とを対比すると、前者は後者と比較して、全体的に青系の\n色彩が強調され、また、刷毛のあとや染色の境目などの輪郭が鋭く明確化さ れているなど、両者は色合いや色調に多少の相違が認められるものの、刷毛 状の模様、にじみ具合及びこれらの構成や配置は極めて類似しているから、\n本件展示物15から20に接する者が本件染描紙15から20の表現上の本\n質的特徴を直接感得することが十分に可能\であるということができる。 したがって、本件展示物15から20は、本件染描紙15から20を翻案 したものであると認めるのが相当である。
・・・
6 当審における当事者の補充主張に対する判断
(1) 被控訴人Y’の前記第2の5(1)の主張について
被控訴人Y’は、本件染描紙15から20は著作物に当たらないと主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第3の4(2)のとおり、 本件染描紙15から20については創作的表現がされていると認められる。\n前記のとおり、本件染描紙15から20の模様は、単なる和紙の染みやに じみではなく、控訴人は、膠、明礬及び水を混合した礬砂を刷毛で和紙の片 面又は両面に引いて乾かし、その際、礬砂の配合量や引き方等を調整したり、 複数の刷毛を使い分けたりすることにより、紙上に、水のにじみにくい部分 や染料の染みにくい部分を生み出し、毛質、長さ、大小が異なり、特別に注 文した複数の刷毛を使い分け、主に柿渋、胡桃、墨、土など自然の染料で和 紙を染め、刷毛のあと、にじみにより紙上に色を配置するなどの手法を用い て模様や色彩を施すなどして、一点ごとに模様の異なる染描紙を制作してお り、本件染描紙15から20は空の情景を意識して制作したものである(補 正の上で引用した原判決「事実及び理由」第3の1(3))。
実際、被控訴人Y’も、控訴人店舗以外の店でも和紙を購入したが、控訴人店舗で購入した染描紙の模様が「空」や「雲」の世界観を見出しやすいと認識し、さらに、本件 染描紙15から20の中に「空」や「雲」の世界観を見出すことのできる部 分があると認め(補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第3の2(3)、 乙24)、その部分を選定して切り出し、染描紙の色合いや色調の変化等を調 整、刷毛のあとを際立たせるといった加工を行い、その上で、紙をスキャナ で読み込んでスキャンデータを作成し、これを拡大し、電子データ上で色付 けし、縦横比を調整するなどして「天空図屏風シリーズ」と題する一連の作 品を制作したのであって、本件染描紙15から20の模様を変えることなく、 これを強調することによって「空」をイメージさせる作品を作ったといえる。 これらの事情からすれば、本件染描紙15から20については、創作ノート その他染描紙の構成や色彩に関して控訴人が記載した資料は証拠として提出\nされていないものの、控訴人は、これらの染描紙の制作にあたり、特定の色 彩を選択して、構図を考えた上で模様を配置して図柄を作り上げ、完成した\nこれらの染描紙は、実用的な目的のためのものといえる特徴と分離して、美 的鑑賞の対象となり得る美的特性を備える部分を把握することができる。
原審で行われた控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は、染描紙を制作 する際に用いる刷毛に含まれた水が紙の上でどのように動くのかについて完 全にコントロールすることはできず、染料を紙に染み込ませた後にどのよう な模様が浮かび上がるのかを事前に完全に予想できるわけではないと認めら\nれる。しかし、上記のとおり、本件染描紙15から20については、控訴人 が空の情景を意識して制作し、実際に空の情景を見出し得る模様が作り出さ れていると認められるのであって、制作過程の中に一部控訴人のコントロー ルが及ばない部分があることや、完成した模様が控訴人の事前の想定と完全 には一致しないことがあるとしても、そのことをもって、本件染描紙15か ら20が著作物と認められないことにはならない。
・・・
控訴人は、染描紙につき、和紙と分離して無体物である「染描」部分だけ を利用することを包括的に許諾したことはなく、翻案等も含めた利用を包括 的かつ黙示に許諾してはいないと主張する。 しかし、控訴人が控訴人店舗に掲げていた本件注意書きは、「無断転用、模 倣、複写による商業行為」を禁ずるとの内容である。この「無断転用、模倣、 複写」に、控訴人がいう「無体物」としての利用、すなわち、染描紙の購入 者が染描紙の紙自体を使わずに模様をデータ化するなどして絵画等の作品制 作において利用する行為が含まれることが明らかであるとはいえない。控訴 人は、控訴人店舗で販売された染描紙にアーティストが絵を描いたものを控 訴人ウェブサイトに掲載しており(原判決「事実及び理由」第3の1(4))、染 描紙の購入者が染描紙を自らの作品に使用することが可能である旨を示して\nいたといえ、それにもかかわらず控訴人がいう「無体物」としての利用を明 示的に禁じていなかったのであるから、控訴人店舗で染描紙を購入した者が、 本件注意書きを見て、染描紙の模様をデータ化するなどして利用する行為が 禁じられていると理解することはできなかったといえ、かつ、控訴人も、こ うした行為を禁ずる意図を有していなかったと推認することができる。 また、控訴人は、被控訴人Y’が染描紙を利用して雑誌「和樂」の「源氏 物語」の挿絵を作成して掲載することを被控訴人Y’から伝えられながら、 被控訴人Y’による染描紙の利用を問題とせず(原判決「事実及び理由」第 3の1(5)ク)、被控訴人Y’が染描紙を利用して実際にどのような絵を制作し て雑誌に掲載したのかを確認しなかった(控訴人本人、弁論の全趣旨)。この 事実からも、控訴人が、染描紙の購入者が染描紙を利用して他の作品を制作 することに関し、染描紙に直接絵を描くことは許諾し、染描紙の模様をデー タ化するなどして利用することは禁じていたとの区別をしていたとは認めら れない。
控訴人のいう「無体物」としての利用であっても、それによって作品を制 作しようとする者は和紙である染描紙を購入するのであるから、控訴人が染 描紙を制作する目的が手漉き和紙の販売の促進にあるとしても、控訴人が「無 体物」としての利用も含めて黙示に許諾することと矛盾しない。 控訴人が、染描紙について「無体物」としての利用をしようとする者に対 して明示的な許諾の意思表示をしたことがあるとしても、そのことは控訴人\nが「無体物」としての利用を含めて他の作品制作への染描紙の利用を黙示に 許諾していたことと矛盾しない。控訴人が、明示的な許諾をする際に、「無体 物」としての利用を希望する者と何らかの条件交渉を行ったことがあるのか 否か、どのような条件交渉を行ったのかは不明であり、仮に何らかの条件交 渉を行った上で明示的な許諾の意思表示をしたことがあるとしても、事前に\n利用態様を認識した場合に控訴人がその者に対して一定の条件を求めること はあり得るといえ、やはり、控訴人が「無体物」としての利用を含めて他の 作品制作への染描紙の利用を黙示に許諾していたことと矛盾しない。 以上の事情に加え、原判決「事実及び理由」第3の5に挙げられた事情も 併せ考慮すれば、控訴人は、複製に当たる場合を除き、「無体物」としての利 用を含め、染描紙を用いて他の作品を制作することを黙示的に許諾していた と認められる。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)39895等

こちらに、問題となった展示物などがあります。

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令和5(ネ)10089  損害賠償等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和6年1月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は、「朝の雀6mmテープ」について、無断複製して持ち出したことが、レコード製作者の権利を侵害するとして、50万円の損害賠償を認めました。知財高裁はこれを維持しました。

これに対し、一審原告は、本件合意書9条1項にいう『著作権を有する 音源又は著作権使用許諾を受けた音源』については、著作権の有無にかか わらず、一審原告が保有する全ての音源を指すものであると主張する。 しかし、一審被告はこれを否定しているところであり、B’も、本件合 意書締結に向けての2度の面談において、一審原告の上記立場を説明した とはするものの、これについて一審被告が明確に同意した旨を証言等する ものではない(原審における B’の尋問調書、甲38(B’の陳述書))。ま た、一審被告が退職に当たり一審原告のもとにおいて使用した音源データ の全てを返却したとすることについて、仮に B’と一審被告との間で、一 審原告が著作権を保有し、又は著作権使用許諾を受けた音源に限らず、一 審原告在職中に一審被告が取得した音源のデータの全てを返却する旨の 合意ができた事実に基づくものとしても、これは本件合意書3条に基づく 平成29年12月末日と8条の業務終了日のいずれか早い方までの音源 のデータの返却についてのものであり、これにより直ちに、本件合意書9 条4項の、その使用につき損害賠償義務の発生する音源の対象についても、 上記同旨の合意ができたものとすることはできない。
さらに、一審原告の主張するように、本件合意書9条についても、その 著作権との文言にかかわらず、一審原告の保有する全ての音源を指すもの として当事者間に合意が成立したのであれば、その旨を本件合意書に加筆 するか訂正をすればよく、この点、一審原告においても、音源について著 作権法上の著作権が成立するか分からないものが含まれていることを明 確に認識していたのであるから(原審における証人 B’の尋問調書)、なお さら、そのようにするのが自然であるということができる。現に、本件合 意書の作成日付けについては、手書きで訂正がされ、その上に各当事者の 押印がされているところである(甲1)。このような加筆訂正等がされてい ないことは、そのような合意が存しないことをうかがわせるものである。 そもそも一審原告においても、本件訴え提起の段階においては、本件合意 9条4項の、一審原告が『著作権を保有しまたは著作権使用許諾を受けた 音源』とは、1)一審原告がレコード製作者の権利を有するもの、2)一審原 告が著作権を有するもの、3)一審原告が音の使用につき権利を有する者か ら使用の許諾を受けたもの(当該音が著作物であればその著作権を有する 者及びレコード製作者の権利を有する者から、効果音等著作物性が明確で ないものについてはレコード製作者の権利を有する者から許諾を受ける などして使用が可能となったもの)、の『1)から3)を指していることは容易 に理解できる』(訴状2ないし4頁)と主張していたところであり、一審原 告が保有する全ての音源を指すなどとは主張していなかったものである。 したがって、一審原告の上記主張は採用することができない。

◆判決本文

一審はこちら。

◆令和3(ワ)17298
被告が、原告が保有していた「朝の雀6mmテープ」について、自身の保有 する記録媒体にこれを複製し、その後、別紙主張整理表作品1記載4の場面の音響に使用するために複製したことについては当事者間に争いがない。\n原告が被告のこの行為について本件合意に違反する旨主張するのに対し、被 告は、「朝の雀6mmテープ」については、被告と原告の間で、被告が原告在籍 時から音響を担当していたアニメ「サザエさん」に使用することを目的として、 被告が原告の音源を被告が保有する記録媒体に複製し、これを音響効果に利用 することが許諾されていて、「朝の雀6mmテープ」を被告が保有する媒体に 複製することは本件合意で禁止される「持ち出し」には当たらないと主張する。 しかし、仮に被告が主張するとおり、原告が被告に対し、アニメ「サザエさ ん」に使用するために「朝の雀6mmテープ」を使用することを許諾したとし ても、その許諾は、原告からの退職後に被告がアニメ「サザエさん」を引き続 き担当することについて、当初はこれに難色を示した原告も同作品のクライア ントが同作品に関する作業を被告に委託すると決定したために最終的にこれ を了承したという状況(乙20、弁論の全趣旨)の下で、アニメ「サザエさん」 に使用する限度で「朝の雀6mmテープ」を使用することを許諾したと解する のが合理的である。その許諾が、同音源を、アニメ「サザエさん」に限らず、 自由に使用して良いという趣旨であるとするのは、上記状況に照らしても不合 理である。被告が主張する許諾は、仮にあったとしても、本件合意所定の「持 ち出し」や「音源」の意義を一般的に修正する合意などではなく、上記のとお り、「朝の雀6mmテープ」をアニメ「サザエさん」に使用する場合には被告が 本件合意で定められた債務不履行責任を問わないという限度で本件合意の内 容を修正する趣旨のものと解される。 被告は、「朝の雀6mmテープ」をアニメ「サザエさん」とは異なる作品であ る別紙主張整理表作品1記載4の場面の音響に使用した。これは、本件合意書9条1項で禁止された「持ち出し」であり、同4項所定の「音源」の「使用」\nに当たると認められ、本件合意に違反する。

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令和5(ネ)10001等  損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件  著作権 知的財産裁判例 令和5年7月13日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

各動画からキャプチャした静止画をブログ上に投稿した行為について、1審は、著作権侵害として約240万円の損害賠償を認めました。知財高裁は、「上記の額をそのまま採用することが相当とはいえない」として、約190万と認定しました。

控訴人による本件各動画の利用態様は、本件各動画からキャプチャした本件 静止画を本件各記事に貼り付け、これを本件ブログ上に投稿して掲載するというも\nのである。そうすると、その使用料相当額の算定に当たっては、他に映像からキャ プチャした写真の使用料に関する証拠がない以上、前記ア(ア)のとおりのNHKエ ンタープライズの規定を参酌するのが相当である。
なお、本件記事1ないし7は、30枚ないし70枚程度の本件静止画を用い、こ れらをそれぞれ本件動画1ないし7における時系列に従って貼り付けた上、各静止\n画の間に、直後の静止画に対応する本件動画1ないし7の内容を1行ないし数行で まとめた要約を記載したものであり、本件記事1ないし7の内容を見ただけで三十\n数分ないし五十数分の本件動画1ないし7の全体をほぼ把握できるようにするもの\nであって、その実質は、映像そのものに準ずるものとも解し得るが、前記アのとお りの各使用料によると、本来であれば、静止画(写真)を使用する枚数が多くなる と、その使用料(映像からキャプチャした写真の使用料)も高額になるところ、そ の枚数が更に多くなり、静止画を利用したコンテンツの実質が映像に準ずる域に達 した場合に、映像の使用料が参酌されることになってかえって使用料が低額になる というのは不合理であるから、本件記事1ないし7の上記内容を考慮しても、本件 各記事については、上記のとおり、映像からキャプチャした写真の使用料に係るN HKエンタープライズの規定を参酌するのが相当である。
映像からキャプチャした写真の使用料に係るNHKエンタープライズの規定によ ると、使用目的が「通信(モバイル含む)」の場合の基本料金は、5000円とさ れ、また、写真素材使用料は、「カラー」、「一般写真」及び「国内撮影」の場合、 1カット当たり2万円とされ、さらに、証拠(甲7の1ないし8、甲8の1ないし 8)及び弁論の全趣旨によると、控訴人が利用した本件静止画は、合計362枚 (話数♯054は59枚、♯044は45枚、♯043は54枚、♯042は29 枚、♯041は57枚、♯040は73枚、♯039は38枚、♯037は7枚) であると認められるから、これらによると、同規定に基づく使用料は、合計724 万5000円(2万円×362枚+5000円)となる。
そして、弁論の全趣旨によって認められるNHK(甲12によりNHKエンター プライズが取り扱う映像の制作者であると認められる。)と原告チャンネルとの相 違(規模、事業内容、社会的影響等)及びNHKが制作した映像と本件各動画との 相違(コンテンツが配信される媒体、視聴者数、映像ないし動画の制作に要する費 用、労力及び時間、コンテンツとしての社会的価値等)が大きく、上記の額をその まま採用することが相当とはいえないこと等の事情に加え、著作権侵害があった場 合に事後的に定められるべき「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」(法11 4条3項)が通常の使用料に比べておのずと高額になることを併せ考慮すると、被 控訴人が本件各動画に係る「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」は、これを 150万円と認めるのが相当である。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆令和3年(ワ)24148

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令和5(ワ)70139  著作権侵害差止請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年12月7日  東京地方裁判所

木枯し紋次郎の作者の遺族が、口に長い竹の楊枝をくわえた長脇差を携えた渡世人の図形について、木枯し紋次郎をイメージさせるとして、著作権侵害、不競法2条1項1号該当性を争いました。裁判所は、抽象的アイデアであると判断しました。

さらに念のため、本件渡世人に係る記述自体をみても、原告ら主張に係る 本件渡世人は、1)通常より大きい三度笠を目深にかぶり、2)通常よりも長い 引き回しの道中合羽で身を包み、3)口に長い竹の楊枝をくわえ、4)長脇差を 携えた渡世人というものである。そして、証拠(乙1ないし15)及び弁論 の全趣旨によれば、渡世人が、三度笠を目深にかぶり、引き回しの道中合羽 で身を包み、長脇差を携えていたというのは、江戸時代の渡世人の姿として ありふれた事実をいうものであり、口に長い竹の楊枝をくわえるという部分 を更に加えたとしても、これがアイデアとして独自性を有するかどうかは格 別、著作権法で保護されるべき創作的表現という観点からすれば、その記述\n自体は明らかにありふれたものである。仮に、本件渡世人に対しその後本件 テレビ作品で加えられた表現をもって二次的著作物とする原告らの主張に立\nって、「通常より大きい」三度笠で、「通常よりも長い」道中合羽で身を包 んでいるという記述を加えて更に検討したとしても、これらの記述も同じく 極めてありふれたものであり、原告らの上記主張の当否を判断するまでもな く、本件渡世人に係る上記記述は、全体として、ありふれた事実をありふれ た記述で江戸時代の渡世人をいうものにすぎず、これを創作的表現であると\n認めることはできない。
・・・・
不正競争防止法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」とは、人の業務\nに係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営 業を表示するものをいう。\nこれを本件についてみると、原告ら主張に係る商品等表示とは、前記1)ない し4)の特徴を備えた本件渡世人に係る表示をいうところ(第1回口頭弁論調書\n参照)、本件渡世人がありふれた江戸時代の渡世人をいうにすぎないことは、 上記において説示したとおりであり、本件渡世人に係る表示は、そもそも不正\n競争防止法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」に該当するものとはい\nえない。
仮に、原告らの主張が、本件渡世人の図柄又は写真に「紋次郎」という名称 が付された表示をいうものとしても、商品等表\示として具体的な特定を欠くの みならず、一般に「紋次郎」という名称は、本件書籍、本件漫画作品、本件テ レビ作品及び本件映画作品に登場する中心人物を示す、いわゆるキャラクター に関する識別情報であり、本来的に商品又は営業の出所表示機能\を有するもの ではない。そして、本件全証拠をもっても、原告ら主張に係る上記表示が、キ\nャラクターに関する識別情報を超えて、原告らの営業を表示する二次的意味を\n有するものと認めるに足りず、まして原告ら主張に係る上記表示が、原告らの\n営業等を表示するものとして周知著名であるものとは、本件全証拠\nを踏まえても、明らかに認めるに足りない。
のみならず、証拠(乙20ないし28)及び弁論の全趣旨によれば、被告図 柄は昭和52年に、「紋次郎いか」は昭和57年に、「げんこつ紋次郎」は平 成20年に、それぞれ商標登録を受け、被告がこれらの商標を付するなどして 被告商品を販売し、その信用を長年にわたり蓄積してきた実情及び実績を踏ま えると、仮に原告らの主張に立ったとしても、原告らの営業等と誤認混同を生 ずるおそれを直ちに認めることはできず、これを覆すに足りる証拠はない。 そうすると、仮に上記キャラクターに関する識別情報に一定の財産的価値が 化体していたとしても、実在の人物としてパブリシティ権侵害をいうなら格別、 被告が被告図柄を付して被告商品を製造販売する行為は、不正競争防止法2条 1項1号又は2号に掲げる「不正競争」に該当するものとはいえない。 したがって、原告らの主張は、いずれも採用することができない。

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令和1(ワ)10940  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和6年1月29日  大阪地方裁判所

プログラムの著作物性は認められましたが、複製・翻案については同意があったと認定されました。一方、氏名表示権侵害として10万円が認められました。\n

ア 本件プログラム1は、マンロック(高圧室作業場所への作業員の出入り用 気密扉)内の気圧、二酸化炭素濃度等を記録するペーパーレスレコーダー(最 大10機)を集中管理(レコーダーで記録された情報を遠隔地のパソコンで\nリアルタイムに表示し、データを蓄積するとともに閾値を超えた場合は警告\nを発することが可能)するシステムプログラムであり、統合管理画面(メイ\nンフォーム画面)、個々のレコーダーの監視画面(レコーダーフォーム画面。 表示形式はレコーダーと同様。)、レコーダーの通信ルーチン、データベース\n(レコーダーの情報を集積する部分)などを構成要素とするものである。(甲\n28、弁論の全趣旨)
この点、画面構成や、レコーダーのデータをどのように扱うかについては、\nプログラムの目的、環境規制の態様、ハードウェアやオペレーティングシス テムなどに由来する制約等により、表現の選択の余地の乏しいものもあると\n考えられるが、データ処理の具体的態様(クラス、サブルーチンの利用等の 構造化処理を含む)、レコーダーとの通信プロトコルの選択及びそれに応じ\nた実装、データベース化の具体的処理手順などについて、各処理の効率化な ども意識してソースコードを記述する過程においては、相応の選択の幅があ\nるものと認められる。
イ 原告は、このような選択の幅の中から、データ処理の態様を設計した上、 A4用紙で約120頁分(1頁あたり60行程度。以下同様)のソースコー\nドを作成したことからすると、ソースコード(甲28)の具体的記述を全体\nとしてみると、本件プログラム1は、原告の個性が反映されたものであって、 創作性があり、著作物であるということができる。
ウ 被告は、本件プログラム1のソースコードの多くの記述が公開されたサン\nプルプログラムであり、単純な作業を行う機能の複数の記述であり、計測上\nの管理基準に対応させた記述の順序や組合せであるから、ソースコードの記\n述に創作性はない旨を主張する。しかし、ソースコードに既存のサンプルが\n含まれることについて的確な立証はない上、仮にそのような記述が含まれる としても、プログラム全体としての創作性を直ちに否定するものともいえな いから、被告の主張は採用できない。
・・・
前提事実及び認定事実によると、本件各プログラムの中には、明示的に 異なる現場で用いることを前提とする仕様が採用されたものがあること、 本件各プログラムはいずれも発注の原因となった現場と異なる現場で用 いることについてプログラムの仕様上の制限はないとうかがわれること、 原告自身、一つの現場が終了したと見込まれる後も、プログラムの修正に 応じるなどしていること、原告自らソースコードを納品したものもあるこ\nとに加え、原告が、平成2年に独立した後、多数回にわたって被告から依 頼されたプログラムを制作、納品し、平成20年12月から平成21年4 月までの間は、被告に採用されてプログラム制作業務に従事していたこと からすれば、計測業務における被告のプログラムの利用実態(プログラム を一つの現場で利用するだけでなく他の現場においても複製、変更又は改 変(カスタマイズ)して利用していたことを含む。)から、自己が制作して 納品したプログラムが被告により複数の現場で利用され得ることを認識 していたものとみられることが認められる。これらの本件においてうかが われる事情からすると、本件各プログラムの開発に係る各請負契約におい て、成果物が、少なくとも被告の内部で使用される限りにおいては、他の 現場における使用や改変を許容する旨の黙示の合意があったものという べきである。
・・・
(1) 氏名表示権が侵害されたか(争点3−3、5−2)及び被告に故意又は過失\nがあったか(争点3−4、5−3)
ア 本件プログラム3(争点3−3、3−4)
前記前提事実のとおり、本件プログラム3を複製、変更した被告プログラ ム3の起動画面やバージョン表示画面においては、被告の社名が表\示され、 原告の氏名は表示されていない(甲9)。そして、本件プログラム3と被告プ\nログラム3を比較すると、ソースコードの大部分において同一であり、被告\nプログラム3には本件プログラム3に時間率評価機能を果たす計算処理や\ndB値の時系列変数の計算処理の機能が追加された点において相違するが\n(甲8の3)、この相違点から被告プログラム3が本件プログラム3と別個 のプログラムであるということはできない。 したがって、被告による上記表記により、本件プログラム3について、原\n告の氏名表示権が侵害され、その態様から、被告に故意があったと認められ\nる。
・・・
(3)損害の有無及び額(争点3−5、5−4)
(1)の被告の行為により原告の被った損害は、本件に顕れた一切の事情を考 慮し、10万円と認め(なお、原告は、本件プログラム5についての氏名表示\n権侵害固有の損害を主張しないが、弁論の全趣旨から、相当の損害賠償を求め る趣旨と解される。)、被告は、相当因果関係のある弁護士費用1万円を加えた 11万円及びこれに対する遅延損害金を支払う義務を負う。

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令和5(ワ)6100  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和6年1月30日  大阪地方裁判所

X(旧Twitter)にて、アカウントのアイコンを一部変形して、第三者が使用したことが氏名権、著作権などを侵害するとして、15万円の損害賠償が認められました。

(1) 氏名権侵害について
氏名は、個人の人格の象徴であり、人格権の一内容を構成するものというべきで\nあるから、人は、その氏名を他人に冒用されない権利を有する。 前提事実(3)並びに証拠(甲5〜9)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件 アカウントを通じて本件各投稿を行っているところ、本件投稿1では、本件アカウ ントにおける名前(原告の氏名である「P1」)及びユーザー名(原告が経営する 法人グループの総称である「(省略)」)が表示されており、本件投稿2ないし4\nでは、「P1」がリツイートした旨が表示されていることに加え、所定の操作によ\nり本件アカウントにおける名前等が表示されることが認められ、本件各投稿に接し\nた閲覧者は、投稿者として原告の氏名を認識するものと認められるから、被告は本 件各投稿において原告の氏名を冒用したといえる。したがって、本件各投稿は、原 告の氏名権を侵害する。 被告は、本件アカウントのプロフィール欄には「フィクションのため実在の人物 とは一切関係がございません」と記載されているから、閲覧者は、実在の人物とは 関係がないとの結論に至り、原告本人ではないと認識をする可能性がある旨を主張\nする。しかし、閲覧者は、アカウントに表示された氏名やユーザー名によって投稿\n者を特定するものと解されるから、被告指摘の記載があったとしても、閲覧者は、 原告がその旨を記載していると理解するにすぎず、前記判示に影響を与えるもので はない。被告の前記主張は採用できない。
(2) 本件著作権の侵害について
著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美\n術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいう。 本件イラストは、P3氏が、ツイッター上の交流において原告を表すためにふさ\nわしいイラストとして制作したものであり、腹ばいになるアザラシの様子をイラス トにし、その下部に「(省略)」と記載したものであるところ、全体的に丸みを帯 びた輪郭で、頭部を大きくし、ヒレを頭部付近に小さく描くことにより、親しみや すくかわいらしい印象を与えている点、大きな頭部いっぱいに両目、鼻及び口を描 くことでアザラシの表情に存在感を与えている点、これらに「(省略)」という表\ 記を欧文字で加えることで、その性格(原告の人柄)を示しつつイラストとしての 一体感を感じさせる点において、選択の幅がある中から作成者によってあえて選ば れた表現であるということができる。したがって、本件イラストは、作成者の思想\n又は感情が創作的に表現された、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えたもの\nであると認められ、「著作物」に該当する。 証拠(甲20、21)及び弁論の全趣旨によれば、P3氏は、本件イラストを制 作し、原告に対し、本件イラストに係る著作権を譲渡したことが認められ、原告 は、本件イラストに係る著作権を有していると認められる。 本件黒塗りイラストは、本件イラストの両目部分に黒の横線が入れられ、「(省 略)」という表記が黒塗りされたものであるが、被告がかかる改変を行ったことを\n認めるに足りる証拠はない。一方、前記改変は、前記目線等を加えたことに限られ るから、本件黒塗りイラストは、本件イラストに依拠し、かつ、その表現上の本質\n的な特徴の同一性を維持しつつ、これに接する者が本件イラストの表現上の本質的\nな特徴を直接感得することができるものと認められ、本件黒塗りイラストは本件イ ラストの複製物又は翻案物であって、原告が著作権を有するものといえる。そうで あるところ、被告は、本件各投稿によって、本件黒塗りイラストに改変等を加える ことなくツイッター上に投稿して、少なくとも不特定の者に対して閲覧可能な状態\nにしたことから、本件各投稿は、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害す るといえる。
・・・
(4) 名誉感情侵害について
本件投稿1について検討するに、本件投稿1は、原告の氏名及び原告が経営する 法人グループの名称を表示するとともに、その存在はフィクションであり、実在の\n団体人物とは関係がない旨が記載されたものであるところ、一般閲覧者の普通の注 意と読み方を基準として判断した場合、本件投稿1に接した閲覧者は、原告自身が 原告や(省略)とは関係がない旨を投稿したと認識するものと認められる。したが って、本件投稿1は、閲覧者に対し、原告は趣旨不明な投稿をする人物であるとの 印象を与え、原告の名誉感情を侵害するものといえる。被告は、本件各投稿は司法 書士として品位に欠ける言動をやめさせる公益目的で行った旨主張するが、仮にそ のような目的があったとしても、原告になりすまして本件投稿1を行うことが正当 化される理由にはならない。 本件投稿2ないし4について検討するに、原告は、被告がP4アカウントを作成 したことを前提として、本件投稿2ないし4の閲覧者は、原告があたかもP4氏の 名誉権を侵害したり、プライバシー権を侵害したりする投稿を平気で行う人物であ ると受け止めることから、これらの投稿は原告の名誉感情を侵害する旨を主張す る。しかし、被告がP4アカウントを作成したことを認めるに足りる証拠はない。
また、P4アカウントによる投稿に接した閲覧者は、P4氏が自身のアカウントで 投稿していると認識するものと認められるところ、仮に被告が同氏になりすまして P4アカウントを作成し投稿していたとしても、P4アカウントによる投稿をリツ イートすること自体によって、直ちに同氏の名誉権やプライバシー権が侵害される ことにはならないから、原告の前記主張はその前提を欠く。そして、本件投稿2 は、名前を「P4」、ユーザー名を「(省略)」とするP4アカウントによる「ば ればれだよ。ことP4です。」という投稿を本件アカウントでリツイートしたもの であるところ、一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準として判断した場合、本件 投稿2に接した閲覧者は、P4氏が自身のユーザー名及び氏名を紹介した投稿に対 して原告が注目し閲覧者に伝えようとしたと認識するものと認められる。したがっ て、本件投稿2は、原告の名誉感情を侵害するものとはいえない。また、本件投稿 3及び4は、P4アカウントによる「ネコではなくタチのP4です。」及び「バリ タチのP4です。」という投稿を本件アカウントでそれぞれリツイートしたもので あるところ、「ネコ」、「タチ」及び「バリ」が同性愛者を指す用語として用いら れることがあること(甲19)を踏まえ、一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準 として判断した場合、本件投稿3及び4に接した閲覧者は、P4氏が自身が同性愛 者であることを摘示した投稿に対して原告が注目し閲覧者に伝えようとしたと認識 するものと認められる。したがって、本件投稿3及び4は、原告の名誉感情を侵害 するものとはいえない。
(5) 以上から、本件各投稿は原告の氏名権及び本件著作権(複製権及び公衆送 信権)を侵害し、本件投稿1は原告の名誉感情を侵害するものとして、不法行為を 構成する。\n
2 争点2(損害の発生及びその額)について
前記1認定の本件各投稿による権利侵害の内容及び態様の一切を考慮すると、本 件各投稿により、原告が被った精神的苦痛を慰藉する金額は、15万円が相当と認 められる。ただし、原告は本件イラストの著作者ではなく、本件著作権(複製権及 び公衆送信権)侵害により原告に精神的苦痛が生じたとは認めるに足りない。

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令和4(ワ)70079  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和6年1月24日  東京地方裁判所

 新聞社がツイートを全文利用することは、著作権法41条の「報道の目的上正当な範囲内」に該当すると判断されました。

著作権法41条は、時事の事件の報道には、国民の知る権利に資する側面 があり、しかも、速報性が求められるため、事前に著作権者の許諾を得るこ となく、当該報道に伴う著作物利用を認める必要性があること、他方で、当 該報道に伴い利用することが避け難い著作物をその目的上正当な範囲内にお いて利用するにとどまれば、著作権者の利益を不当に害するものではないこ とに鑑み、著作権者の権利制限を認めたものと解される。 上記のような著作権法41条の趣旨に鑑みると、「時事の事件」とは、速 報性の要求される事件、すなわち、現在又は近時に起こった事件をいうと解 するのが相当である。本件において、社会活動家である原告が、社会的に注 目されたB元首相の射殺事件についてコメントをしたことは、本件記事の配 信の前日の出来事であるから、「時事の事件」に該当する。 また、上記著作権法41条の趣旨に照らすと、「当該事件を構成」する著\n作物とは、当該報道に伴い利用することが避け難い著作物、すなわち、事件 の主題となっている著作物をいうと解されるところ、「時事の事件」を社会 活動家である原告が、社会的に注目されたB元首相の射殺事件についてコメ ントをしたことと捉えると、原告のコメント内容すなわち本件各ツイートの 内容は、事件の主題となっている著作物であるといえる。 さらに、上記のとおり、著作権法41条の正当化根拠が、当該報道に伴い 利用することが避け難い著作物をその目的上正当な範囲内において利用する にとどまれば、著作権者の利益を不当に害するものではない点にあることに 照らすと、著作物の利用が「報道の目的上正当な範囲内において」行われる といえるかどうかは、著作物の利用の必要性及びその利用の態様に照らして 著作権者の利益を不当に害しないかどうかという観点から検討されるべきで ある。
本件において、被告は、本件各ツイートの内容をほぼ全文引用しているも のであるが、そもそも本件各ツイートは全体で400字前後とさほど長くな いものであり、原告がコメントした事実をその表現内容とともに正確に伝え\nるという報道の目的に鑑みると、要約や一部の切り取りをすることなく本件 各ツイートのほぼ全文を引用する必要性があったものと認められる。 他方で、本件各ツイートは、前記3のとおり原告の著作物として保護され るものであるものの、ツイッター上で公開され、誰もが無料で閲覧すること ができるものであり、原告も、自身の思想や意見をより多くの者に知っても らうために本件各ツイートを発信していると認められること(弁論の全趣旨) に照らすと、前記1のとおり、被告による本件見出しの選択に問題があった としても、本件各ツイートを全文引用すること自体が原告の利益を不当に害 しているとはいい難い。以上によれば、被告による本件各ツイートの利用は、「報道の目的上正当な範囲内」においてされたものといえる。
(2) これに対し、原告は、およそあらゆる著作物をいかなる場合でも無制限に 報道目的で利用できることになってしまい、著作権の保護が無意味となって しまうから、著作権法41条は、著作物の創作行為や公表行為そのものを\n「時事の事件」として捉え、当該著作物を「当該事件を構成し、又は当該事\n件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物」として利用することは およそ想定していないと主張する。しかし、前記(1)で説示したとおり、著作権法41条は、「当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物」であれば、無制限に報道目的で利用することを認めているものではなく、その中で\nも「報道の目的上正当な範囲内」における利用を想定しており、それは、当 該報道に伴い利用することが避け難い著作物をその目的上正当な範囲内にお いて利用するにとどまれば、著作権者の利益を不当に害するものではないこ とを根拠とするものである。したがって、同条によって、あらゆる著作物を いかなる場合でも無制限に報道目的で利用できるわけではないから、原告の 上記主張は、独自の見解であるといわざるを得ず、採用することができない。

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令和4(ワ)7920 損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年8月25日  東京地方裁判所

 動画タイトルに被告Aの氏名を用いたYouTube動画が、被告AのGoogleへの申し立てで削除されました。原告は、著作権侵害ではないのに、著作権侵害申\し立てフォームで申し立てを行い、かつ原告への通知をしなかったとして、損害賠償を求めました。裁判所は、顧客吸引力等を利用するパブリシティ権侵害であることは明確として、請求を棄却しました。

他方、作成した動画をユーチューブに投稿し、これを公開して広くその内容 を伝える行為は、投稿者が行う表現活動や事業活動に関わり得るものであって、\nその動画が削除されることで表現活動や事業活動が制限され、投稿者の法律上\n保護される利益が害される場合があるといえる。ユーチューブの利用について は、上記の規約があり、また、グーグルには著作権侵害についての前記のポリ シーがあるところ、権利侵害の通知を行う者が著作権侵害がないにもかかわら ず侵害がされているという情報をグーグルに通知して、それによってグーグル が動画を削除した場合、権利侵害がないにもかかわらず動画を削除されるに至 った者は、本来動画を削除される理由がなくそれが削除され法律上保護される 利益を害されたといえる場合があるといえる。これらによれば、グーグルに対 して権利侵害の通知を行うことは、その内容や態様により、投稿者の法律上保 護される利益を害する違法な行為となる場合があるといえる。
本件通知は、著作権侵害を通知するためのフォームであり、フォームで用意 されていた文言である「私は侵害された著作権の所有者、または当該所有者の 正式な代理人です。」「私は、申し立てが行われたコンテンツの使用が、著作権\nの所有者、代理人、法律によって許可されていないことを確信しています。」と いう記載があり、また、フォームで用意された「著作権者名」、「著作権対象物 のタイトル」についてもそれぞれ記載している。
もっとも、「権利を侵害された作品についての説明」について「その他」とし た上で、「公演の種類」を「氏名」とし、「著作権対象物のタイトル」を「A(ひ らがな併記)」としている。そして、「補足情報」として、権利侵害の内容とし て「パブリシティ権侵害」と明記した上で、「顧客吸引力、宣伝、広告収益目的 のためにタイトルに無断で氏名を使用し、経済的利益を害している。」と記載 している。これらの記載のうち「著作権対象物のタイトル」が人の氏名そのも のであることは明らかであり、「公演の種類」が「氏名」であることや「補足情 報」の記載内容から、これらの記載は、「著作権者名」とされる、Aの氏名その ものを、対象動画のタイトルに用いることで、同人のパブリシティ権を侵害し たと通知していると理解できるものである。
被告Aは、著作権侵害の通知のフォームを利用して本件通知をしたところ、 そのフォームでは、「著作権者名」や「著作権対象物のタイトル」に記入する欄 があり、また、通知をする者が著作権者やその代理人であることなどを表明す\nる定型の文言があるため、上記各欄の記載やその定型の文言が本件通知に含ま れることとなっている。しかし、「著作権対象物のタイトル」や「補足情報」の 上記のような記載からすれば、被告Aは、ユーチューブにおいてパブリシティ 権侵害の通知をする専用のフォームがあったとは認められない状況において、 本件動画のタイトルに被告Aの氏名を用いたことがパブリシティ権侵害である ことを通知する意図で、本件通知をグーグルに送付したと認められる。
本件で、原告は、本件通知は本件動画が通知者の著作権を侵害されている旨 の通知をするものであり、通知者である被告Aには、著作権侵害の有無を事前 に確認する義務があったにもかかわらず、被告Aは、これを怠って原告が著作 権を侵害している旨の虚偽の通知をしたことを請求の原因として主張する。 しかし、ユーチューブにおいてパブリシティ権侵害の通知をするフォームが あったとは認められない状況において、前記 のとおり、被告Aは、本件動画 のタイトルに被告Aの氏名を用いたことが被告Aの顧客吸引力等を利用する パブリシティ権侵害であることを通知する意図で、その旨の記載をするなどし て、本件通知をグーグルに送付したと認められる。そして、本件通知は、著作 権侵害の通知をするフォームを利用したことに伴う記載はあるが、著作権対象 物のタイトルとして氏名のみが記載され、その補足情報の記載が上記のような ものであることからすると、通知者が自らの氏名が対象動画のタイトルに利用 されていることによるパブリシティ権侵害があると通知するものであると理 解できるものである。
前記のとおり、ユーチューブにおいて、グーグルに対し権利侵害の通知を行 うことは、その内容や態様により、投稿者の法律上保護される利益を害する違 法な行為となる場合があるといえる。原告は、本件の請求の原因を上記のとお り主張して被告Aが著作権侵害の有無を調査すべき義務があったと主張する ところ、本件通知の内容や態様が上記のようなものであったことに照らせば、 通知者である被告Aに原告が主張するような著作権侵害の有無を事前に確認 する義務があったとは認められず、同義務違反により原告の法律上保護された 利益が侵害されたことを理由とする原告の請求には理由がない。 なお、グーグルは、本件通知に基づき本件動画を再生できないようにしたが、 被告Aに原告が主張する義務があったとはいえず、被告Aに原告が主張する義 務違反行為があったとは認められないから、同事実は、上記判断を左右するも のではない。

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令和4(ワ)9660 債務不存在確認請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年8月31日  大阪地方裁判所

ファイル共有ソフト「BitTorrent」の使用で被告動画が拡散したとして、20万円を超える賠償請求がなされました。原告は3万円を超える賠償債務は存在しないとする確認訴訟を提起しました。裁判所は3万7675円を超えては存在しないと判断しました。\n

(1) 被告は、ビットトレントを通じてアップロード等をすることは社会的にも 実質的にも密接な関連をもつ一体行為に参加するものであるなどとして、原告は、 本件ファイルが最初にビットトレントにアップロードされて以降の全ての権利侵害 についての責任を負う旨を主張し、仮に、原告がビットトレントを通じて自ら本件 ファイルを他のユーザーに送信することができた期間に限り不法行為が継続してい たと解されるとしても、原告は、遅くとも令和3年10月25日に本件ファイルを アップロードし、早くとも令和4年4月8日以降に本件ファイルにつきアップロー ド可能な状態を終了した旨を主張する。\nしかし、共同不法行為(民法719条1項前段)が成立するためには、少なくと も行為者各自の行為が客観的に関連して共同していることを要する(最三小判昭和 43年4月23日民集22巻4号964頁参照)から、原告が自らビットトレント を通じて本件ファイルのデータのダウンロードを開始する前や、ダウンロードした 本件ファイルを削除したりビットトレントのクライアントソフトを削除するなどし\nてビットトレントを通じた本件ファイルのデータの送信ができなくなった後に発生 した本件著作権の侵害については、他の行為者の行為との客観的な関連共同性のあ る行為が存在せず、共同不法行為責任を負うと解すべき理由がない。すなわち、本 件において、原告と他の氏名不詳者との間で共同不法行為が成立するのは、原告が ビットトレントを通じて本件ファイルのデータを他のユーザーに送信可能な状態に\nある場合に限られるというべきである。
証拠(甲1、2の1、2の2、6)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、令和3 年当時、自宅の私用パソコンを、平日は2時間から3時間程度、休日前及び休日は\n3時間から5時間程度、インターネットに接続してネット情報の閲覧等(いわゆる ネットサーフィン)をするが、常時接続はせず、使用時以外はシャットダウンする という使用態様であったところ、同年10月25日、ビットトレントのネットワー ク及びビットトレントを利用するためのクライアントソフト「μTORRENT」\nを使用して、約3時間かけて本件ファイルのダウンロードを完了させた後、原告の パソコンからトレントファイルを削除し、翌日、本件ファイルを視聴したが、途中\nで原告のパソコンから本件ファイルを削除したこと、令和4年4月6日、原告が原\n告プロバイダから発信者情報開示請求に係る意見照会書の送付を受け、その頃、原 告のパソコンからビットトレントのクライアントソ\フト自体を削除したことが認め られる。以上の事実及び前提事実(3)記載のビットトレントの仕組みに照らすと、 原告がビットトレントを通じて本件ファイルを他のユーザーに送信可能な状態にあ\nったというためには、少なくとも、原告が原告のパソコンをインターネットに接続\nしてビットトレントのクライアントソフトを起動した状態で、ビットトレントを通\nじて本件ファイルをダウンロードしているか又はダウンロードを完了した本件ファ イルを原告のパソコンの送信可能\な領域に蔵置していることが必要と考えられる。 そうであるところ、原告が、原告のパソコンをインターネットに接続してビットト\nレントを通じて本件ファイルをダウンロードしていたのは約3時間に限られ、ダウ ンロード完了後の原告のパソコンのインターネットへの接続状況やビットトレント\nのクライアントファイルの起動状況は不明であり、その翌日、原告のパソコンに保\n存した本件ファイルを視聴したものの(このときのインターネットへの接続状態や ビットトレントのクライアントファイルの起動状況が不明であることは同様であ る。)、途中で原告のパソコンから本件ファイルを削除したのであるから、原告が\nビットトレントを通じて本件ファイルを他のユーザーに送信可能な状態にあったと\n認められるのは、本件ファイルをダウンロードしていた3時間に限られるというべ きである(なお、本件ファイルをパソコンから削除しても、キャッシュのデータ等\nが残存する可能性がないとはいえないが、そもそも原告のパソ\コンの送信可能な領\n域に本件ファイルのキャッシュのデータ等が自動的に保存されるものかは不明であ る上、原告が敢えてデータをパソコンに残存させる必要性は乏しく、その後、原告\nの端末から本件ファイルに係るデータがビットトレントを通じてアップロードされ た事実もうかがえないことから、原告は本件ファイルに係るデータをパソコンから\n全部削除したものと認められる。)。
したがって、原告が、本件著作物に係る著作権侵害について賠償責任を負う範囲 は、令和3年10月25日の3時間に発生した侵害行為による損害に限られるもの というべきであり、被告の前記主張は、いずれも採用することができない。
(2) 以上を踏まえて本件著作物に係る著作権侵害による損害額について検討す るに、前提事実(2)並びに証拠(乙3、4)及び弁論の全趣旨によれば、本件著作 物の「HD版ダウンロード及びHD版ストリーミング無制限」のダウンロード価格 (販売価格)は1450円であること、本件著作物の利益率は38%であること、 ビットトレントを通じた本件ファイルのダウンロード回数は、令和3年10月25 日時点で1206回、同月26日時点で1753回であり、同月25日の前記ダウ ンロード回数は547回であることが認められる。そうすると、原告が本件の共同 不法行為により負うべき損害の範囲は、3万7675円(≒547 回×1450 円×38% ÷24×3。1円未満四捨五入)となる。
(3) 原告は、被告が、令和3年10月25日から令和4年4月8日までの間、 原告による共同不法行為が継続していたことを前提として178万9097円の損 害賠償額を主張することは損害拡大防止義務違反がある、不誠実な対応であるなど 述べて、過失相殺及び権利濫用の主張をするが、かかる被告の主張は採用すること ができないことは前記(1)のとおりであって、原告の前記主張はその前提を欠く。 また、原告は、原告が、積極的に複製物を作成しようとする意思は希薄で、他者 のダウンロード行為による金銭的な利益を得てもいないことを指摘して、損害額に ついて減免責されるべきである旨を主張するが、原告が指摘する事情をもって、前 記認定の損害額を減免責すべき事情に当たるとはいえない。
(4) 以上から、原告の被告に対する本件著作物に係る著作権侵害に基づく損害 賠償債務は3万7675円を超えて存在しないものと認められる。

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令和3(ワ)20472  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年5月18日  東京地方裁判所

 写真の著作物について、許諾料460万円には、プロジェクト期間終了後の使用を含んでいないと判断されました。460万という高額の契約なのに、契約書無しでした。

・・上記小冊子に本件各写真を掲載することを許可した。なお、当該許可に当たり、原告と被告会社との間で契約書は作成され被告らは、本件各写真の高額な許諾料に鑑みれば、原告が被告会社に対し本件各写真の利用を許諾する契約(以下「本件契約」という。)には、実績紹介等のための利用を許諾する旨の合意(以下「本件合意」という。)が含まれていたと主張する。
そこで検討するに、原告が被告会社との間で本件契約を締結するに当たり、 契約書を作成しなかったことは、当事者間に争いがない。そして、原告は、 本件合意があったことを否定しているところ、本件契約に関して、原告と被 告会社間のやり取りなど本件合意がうかがわれるような書面等は存在せず、 被告らの主張を前提としても、上記合意がされた経緯、時期、場所その他の 事情は、具体的には明らかにされていない。のみならず、証拠(甲17、1 8)及び弁論の全趣旨によれば、別の会社に対して本件写真1の利用を許諾 した際は、これに関する契約書が作成されているところ、当該契約書におけ る本件写真1の許諾料は、本件契約における許諾料と同等のものであるのに、 実績紹介等のための利用を許諾する旨の合意は存在しなかったことが認めら れる。 これらの事情の下においては、本件合意があったことを裏付けるに的確な 証拠はなく、本件契約と同種の別件契約の内容に照らしても、本件合意があ ったものと認めるのは相当ではない。したがって、被告らの主張は、採用す ることができない。
これに対し、被告らは、写真家等のクリエイターにとっても、実績紹介と して写真等が使用されることにはメリットがあることなどから、広告デザイ ン業界においては、このような実績紹介として写真等を使用する場合には、 クリエイターに利用許諾を求めない慣行が存在する旨主張する。 そこで検討するに、証拠(甲11、12、34ないし38)及び弁論の全 趣旨によれば、被告会社は、本件各写真のデジタルデータに「透かし」を入 れ又は写真家の名前を浮き彫りにするなどの無断複製防止措置をせずに、本 件ウェブページに上記デジタルデータを掲載したものと認められるところ、 同デジタルデータは、グーグルの検索サイトの画像欄その他のインターネッ ト上に、原告の名前が付されずに広く複製等されるに至ったことが認められ る。そして、証拠(乙5、6)及び弁論の全趣旨によれば、実績紹介での利 用につき、デザインも含めての掲載であれば格別、画像を抜き出して利用す ることは許容されず、また、ウェブページにおいて、PDFを閲覧できたり ダウンロードできたりする場合はライセンス料金が発生する旨注意喚起する フォトエージェンシーが存在することが認められる。 これらの事情を踏まえると、少なくとも、被告会社が無断複製防止措置な く本件各写真のデジタルデータを掲載するような態様についてまで、クリエ イターに利用許諾を求めない慣行が存在するものと認めることはできない。 したがって、被告らの主張は、採用することができない。

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令和3(ワ)11118  損害賠償等請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年1月26日  東京地方裁判所

ゲーム内のキャラクターを性玩具に見立てた内容等の記載された同人誌を頒布したことなどが、原告らの名誉を毀損すると共に、原告らのパブリシティ権、肖像権及び名誉感情を侵害するかが争われました。裁判所は、合わせて440万円の損害賠償およびマスクの廃棄などを認めました。

本件同人誌は、本件ゲームの愛好者向け同人誌即売会である本件即売会に おいて販売された同人誌である。その内容も、本件ゲームそれ自体とは異な り、本件キャラクターを性玩具として扱うなどの本件キャラクター描写のよ うな卑猥なイラストやストーリーを含む漫画を主な内容とし、全体としては、 本件ゲームないし本件キャラクターを揶揄する趣旨も含むものと理解される。 しかも、本件同人誌は、随所に原告A個人を揶揄する趣旨のものと理解され るイラストや文言による描写をも含む。本件クレジット表記に「TwiFemis」 として 3 つのツイッターアカウントが挙げられているところ、この語がツイ ッター上でフェミニズムに関する言動を展開する人々又はその現象を指すイ ンターネットスラングであることに鑑みても、本件同人誌は、本件クレジッ ト表記に表\記された者を揶揄する趣旨を強く含むものであることがうかがわ れる。
このような本件同人誌の性質及び内容に鑑みると、一般的な読者の注意と 読み方を基準とした場合に、本件ゲームの制作者である原告らが本件同人誌 の制作に協力したと理解されるとは考え難く、また、本件ゲームの設定が本 件同人誌の内容に沿うものと理解されるともいい難い。 しかし、他方で、本件ガイドラインの内容がやや抽象的なものであり、本 件ゲームに係る二次創作作品が本件ガイドラインにより許容される範囲が必 ずしも明確でないことを併せ考慮すると、上記基準によっても、本件同人誌 の頒布という行為それ自体をもって、このような内容の二次創作作品が本件 ガイドラインにより許容される範囲内に含まれ、許容されるものであるとい う判断を原告会社が行ったという事実を摘示するものと理解されることは合 理的にあり得る。しかも、「SPECIAL THANKS」として本件クレジット表記\nに原告らの名称が明記され、原作として本件ゲームの名称が記されているこ とは、このような理解を強めるものといえる。 この場合、原告会社は、自ら管理するコンテンツである本件キャラクター に対する愛着や敬意の乏しい企業として、その社会的評価が低下すると見る のが相当である。また、原告Aについても、本件ゲームのプロデューサーと して本件ゲームのユーザーの間では著名な人物であることなどに鑑みると、 原告会社とは別に個人としての社会的評価が同様に低下すると見られる。 このことは、本件店舗描写に関しても同様である。
(3) 小括
以上の事情に鑑みると、一般的な読者の普通の注意と読み方を基準とすれ ば、本件キャラクターに対する卑猥な描写をその内容とすると共に、クレジ ット表記に「SPECIAL THANKS」と付して原告らの名称等を記載した本件同 人誌を頒布する行為及び本件店舗描写は、原告らそれぞれの名誉を毀損する ものといえる。これに反する被告の主張は採用できない。
2 本件同人誌の頒布、本件マスクの着用等による原告Aのパブリシティ権侵害 の成否(争点 1-2)について
原告Aは、被告が本件マスクを着用しながら本件同人誌を頒布した行為及び 本件同人誌に本件マスクの写真を掲載した行為につき、原告Aのパブリシティ 権侵害を主張する。肖像等を無断で使用する行為については,1)肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,2)商品等の差別化を図る目的で肖像等を商 品等に付し,3)肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有す る顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害する ものとして,不法行為法上違法となる(最高裁判所平成 24 年 2 月 2 日第一小 法廷判決・民集 66 巻 2 号 89 頁参照)。
本件の場合、そもそも、原告Aが本件ゲームの愛好者等の間で著名であると しても、そのことから直ちに同原告の肖像等に顧客吸引力があることにはなら ないところ、この点について、同原告は何ら具体的な主張立証をしない。 この点を措くとしても、本件マスクは、原告Aの写真を顔面に着用できるよ うに山型に湾曲させただけの粗雑な作りのものにすぎない。そのため、本件マ スクやこれを撮影した写真は、同原告の肖像の写真(甲 10)とは相応に異なる 印象を与えるものであり、同原告の肖像それ自体を独立して鑑賞の対象とする 目的で作成されたものとはいい難い。また、本件同人誌における本件マスクの 写真は全 頁程度のうちの 8 頁目にのみ掲載されている(甲 5)。しかも、同 頁の本件マスクの写真は、「本邦初公開!これが【神】のリアルマスクだ――\―\nッ!」との宣伝文句と共に、「古来より人は儀式や祭礼に際し、自らに神格を宿 すために仮面をまとったという・だとすれば神である(省略)のマスクが作ら れるのは人間心理の必然的帰結であろう。」との説明文の記載と共に掲載され ており、これらは、本件同人誌の本編である漫画の内容と直接的には無関係に、 主に原告Aを揶揄する文脈で掲載されているものと理解される。これを踏まえ ると、本件即売会での本件同人誌の頒布にあたり被告が本件マスクを着用して いた点についても、同様に原告Aを揶揄する趣旨で行われたものと理解するの が相当である。
また、本件 3 コマ漫画における原告Aの氏名は、その素材となった別作品の 宣伝用画像(甲 148)の構図に擬して作成した最終コマに表\示されたものであ り、著作者として表示されたものとは理解し得ないと共に、当該コマの上部に\n小さく配置されているに過ぎないこともあって、原告Aの氏名の顧客吸引力の 利用を目的としたものとはいい難い。 そうすると、本件マスクの写真の掲載及び本件即売会での本件同人誌頒布時 における着用並びに本件 3 コマ漫画の氏名の記載は、上記1)〜3)のいずれにも 当たらず、その他専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる 場合に当たるとは認めるに足りない。 したがって、これらの行為は原告Aのパブリシティ権を侵害する違法なもの とはいえない。この点に関する原告Aの主張は採用できない。
3 本件同人誌の頒布、本件マスクの着用等による原告Aの肖像権及び名誉感情 の侵害の成否(争点 1-3)について
(1) 肖像権侵害の成否
人はみだりに自己の容貌,姿態を撮影されないことについて法律上保護さ れるべき人格的利益を有するところ,ある者の容貌,姿態をその承諾なく撮 影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位, 撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮 影の必要性等を総合的に考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会 生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決せられる (最高裁平成 17 年 11 月 日第一小法廷判決・民集 59 巻 9 号 2428 頁参照)。 撮影された写真が雑誌等に掲載されるなどして公開された場合も,同様の判 断枠組みが妥当すると考えられる。 前記 2 のとおり、本件マスクは、原告Aの写真を粗雑な方法で加工したも のであり、原告Aの肖像の写真(甲 10)とは相応に異なる印象を与えるもの ではある。しかし、本件同人誌では本件マスクが原告Aの「リアルマスク」 と紹介されていること、原告Aが本件ゲームの愛好者等の間で著名であるこ と等の事情に照らすと、被告が本件マスクの写真が掲載された本件同人誌を 本件マスクを着用しながら頒布した行為は、原告Aの写真を無断で公開した 場合と同様に理解することができる。また、本件同人誌の内容、とりわけ本 件マスクの紹介の仕方等に照らすと、被告は、専ら原告Aを揶揄する目的で 本件マスクを作成し、これを着用の上、その写真を掲載した本件同人誌を頒 布したといえる。
以上のような写真の使用目的及び使用態様等に照らすと、本件マスクに係 る被告の各行為は、自己の容貌等の写真をみだりに公開されないことについ ての原告Aの人格的利益を侵害し、その侵害が社会生活上受忍すべき限度を 超えるものというべきであり、不法行為法上違法と認めるのが相当である。 これに反する被告の主張は採用できない。
(2) 名誉感情の侵害
前記のとおり、被告は、専ら原告Aを揶揄する目的で本件マスクを作成し、 これを着用の上、本件即売会にて本件同人誌を頒布した。加えて、本件同人 誌には、原告Aと同定される男性イラストに係る本件男性イラスト描写が掲 載されている(前提事実(3))。また、本件店舗描写についても、本件同人誌の 他の記載と合わせると、「(省略)」などの記載は原告Aを指すことが明確に理 解される。このような被告の行為は、原告Aに対する社会通念上許される限度を超える 侮辱行為であり、原告Aの人格的利益(名誉感情)を侵害する違法なものとし て、不法行為に当たるとするのが相当である。これに反する被告の主張は採用 できない。
4 本件ツイートによる原告らの名誉毀損の成否(争点 2)について
(1) 本件店舗に関する投稿について
被告は、別紙 4 投稿目録(4)のとおり、原告会社の運営する本件店舗を「キ ャバカレー」、「派遣型風俗キャバカ〇ー機関」などと呼んだ上、「キャバカレ ー」が違法風俗店として摘発され、セクキャバ「キャバカレー」経営者であ る「(省略)」が風営法違反の疑いで逮捕されたという内容の画像を、実在す るニュース映像風の画像のように表現して投稿した(前提事実(2)ア)。 一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、被告の上記各投稿は、 原告会社の経営する本件店舗が「違法風俗店」として捜査機関により摘発さ れ、原告Aと同定される者が風営法違反の疑いで逮捕されたという事実を摘 示したものと理解される。これにより、上記各投稿は、これを閲覧した者に おいて、原告らが違法な風俗店を経営し、その代表者である原告Aが逮捕さ\nれたという印象を与えるものであって、原告らの社会的評価をいずれも低下 させるものといえる。 したがって、被告の上記各投稿は、原告らそれぞれの名誉を毀損するもの であり、原告らに対する不法行為に当たると認められる。これに反する被告 の主張は採用できない。
・・・
以上のとおり、被告による本件同人誌の頒布等による原告Aの名誉毀損並 びに本件マスクを着用して本件同人誌を頒布等した行為による同原告の肖像 に係る人格的利益及び名誉感情の侵害は、いずれも同原告に対する不法行為 を構成するものと認められる。また、被告のツイッターにおける本件店舗に\n関する投稿による原告Aの名誉毀損並びに同原告の顔写真等の投稿による同 原告の肖像に係る人格的利益及び名誉感情の侵害は、いずれも原告Aに対す る不法行為を構成するものと認められる。\n他方、本件同人誌の頒布等による原告Aのパブリシティ権の侵害及び被告 のツイッターにおける被差別部落に関する投稿による同原告の名誉権の侵害 は認められない。
(2) 原告会社の請求について
以上のとおり、被告による本件同人誌の頒布等及び被告のツイッターにお ける本件店舗に係る投稿による原告会社の名誉毀損は、いずれも原告会社に 対する不法行為を構成するものと認められる。\n他方、被告のツイッターにおける本件キャラクターの人権等に言及する投 稿、本件キャラクターに関する卑猥な投稿及び被差別部落に関する投稿につ いては、いずれも原告会社の名誉を毀損するものとはいえず、原告会社に対 する不法行為を構成するものとは認められない。\n

◆判決本文

こちちに争点となった表記があります。\n

◆判決本文

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令和4(ネ)10125 損害賠償金請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年4月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ウェブページのフライパンの説明画像についての損害賠償請求事件です。1審は著作権侵害を認め、5万円の賠償を認めました。原告は、残りの約15万円の支払いを求めて控訴しましたが、控訴棄却です。関連事件がたくさんあります。

(1) 控訴人は、前記第2の4のとおり、1)本件各画像がウェブページごとに独立して利用されている以上、損害額はウェブページ数を基本に算定すべきである(同(1)及び(2))、2)第三者に許諾することを想定していない著作物にも相場の利用料を参酌して利用料を算出するべきである(同(3))旨主張する。上記主張に対して、引用に係る原判決の第4の3(補正後のもの)において説示するところを改めて敷衍すると、次のとおりである。
(2) 著作権法114条3項によって、著作権者が著作権侵害によって受けた損害の額とすることのできる「受けるべき金銭の額に相当する額」の算定に当たっては、当該著作物の利用回数あるいは当該利用から生じた利益等の、当該著作物の直接の侵害行為の物理的な分量に従うのみならず、当該著作物の利用期間、利用態様、当該著作物から享受できる内容又は価値、侵害者の内心の態様(同条5項参照)、当該著作物を利用する市場の状況、他の者への利用許諾の状況等の諸般の事情を総合考慮して定めるべきものである。
本件についてみると、ウェブサイトの閲覧上、本件各画像は、見かけ上、本件商品の数に相当するウェブページで閲覧されるものではあるが、それらは一定の目的をもって一体化された画像の一部が使い回されているとみることも可能なものであり、一体の利用とみることができるから、本件各画像又はウェブページごとに複製又は送信可能\化について損害額を算定することは妥当とはいい難い。そして、本件各画像の利用期間も短期間であって、たとえ通販サイトであろうとも、閲覧に供された回数は限定的なものと考えるのが自然である。さらに、本件画像2)中のフライパンで調理中の食材を写した写真と本件画像3)中のフライパンを製造している職人の写真は、スキャンパン社から提供を受けたものであることを控訴人は自認しており(スキャンパン社がこれら写真に係る著作権を控訴人に譲渡したことを認めるに足りる証拠はない。)、控訴人が著作権を有するものではないし、本件各画像は商業的実用用途を目的とする著作物であって、むしろ、本件各商品をありのままに表現することを主目的とするものと理解され、その表\現される思想又は感情は限定的なものであるといえる。このことは、本件各画像が文字、写真等の素材を組み合わせたものであったとしても変わるものではない。また、被控訴人に過失があることは免れないとしても、それは重大なものではなく、その利用目的も、控訴人の営業を殊更に妨害するためであったり、本件各画像に表現されたところから享受できる価値を損なうためであったりなどの、専ら害意に基づくものとは認められず、単純なる自己の営業のための商業的利用にすぎない。n
(3) 次に、写真又は画像についての利用許諾状況をみてみると、日本美術著作権協会の利用申請方法は、画像の利用許諾を原則として1用途1目的につき毎回申\請を要するものと定めていること(甲26)、株式会社東京美術倶楽部の使用料規程は、コンピューター・ネットワークにおける美術の著作物の利用料の額を、著作物1点あたり1回につき1か月当たり1万円(美術関係業態以外)、2か月目以降は5000円と定めていること(甲27)、朝日新聞社が運営するデータベースの利用規約は、収録された写真、動画等を提供するサービスにおける法人の利用条件を、1媒体につき1用途1回限りの非独占的使用に限り、重版、再放送その他の用途で再利用する場合には別料金が発生すると定めていること(甲28)、Imagenaviの利用ガイドは、画像素材について、使用になる用途、期間によって料金設定が決まり、複数媒体に使用する場合には1使用ごとに料金が発生すると定めていること(甲29)が認められるが、これらの規定が念頭に置く「目的」、「用途」、「回数」又は「使用」は何を基準とするかは一義的には明らかでなく、ましてや上記各証拠がウェブサイトという1媒体の中における利用料をウェブページを基準にして決めていると理解することも困難であるから、これら利用料の算定方法を直ちに本件における損害額の算定方法の参考とすることはできない(なお、控訴人から音楽又は音源の利用に関する利用許諾に関する証拠も提出されているが、著作物としての性質が大きく異なるものであり、その参酌は相当でない。)。
(4) さらに、写真又は画像についての利用料についてみると、毎日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で商業利用する者に対し、2万2000円から4万4000円の利用料の支払を求めることがあり(甲5)、朝日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で利用する者に対し、使用期間6か月までの場合に2万2000円、使用期間1年までの場合に3万3000円、使用期間3年までの場合に5万5000円の使用料の支払を求めることがあり(甲6)、株式会社アフロは、同社が権利を有する様々な種類の静止画像をインターネット上の広告やホームページなどに利用する者に対し、同一ウェブサイト内においては利用箇所を問わず、利用期間1年までの場合に2万2000円、利用期間3年までの場合に2万8600円、利用期間5年までの場合に3万3000円の利用料の支払を求めることがある(甲7)との事実が認められるものの、利用許諾される写真のサイズ、質等や、媒体の数、掲載場所等の利用許諾の際の利用条件の詳細が不明であり、これら利用料をそのまま本件における損害額の算定について参考とすることはできず、ましてや、上記利用料を参考として算定した額をウェブページ1ページ当たりの損害として損害額を算定すべきとする根拠ともならない。また、ペイレスイメージズは、印刷物又はウェブ用との用途における画像素材単品での購入価格を、解像度、大きさに応じて440円から5500円に設定しているとの事実は認められるものの(乙3)、どのような画像が想定されているのか不明であり、やはり、この購入代金をそのまま本件における損害額の算定について参考とすることができない。
(5) 以上のとおりであり、本件記録に顕れた諸般の事情を考慮すると、本件における損害額は、被告サイト全体における利用について5万円とするのが相当であると認められ、控訴人の前記(1)1)の主張を採用することはできず、同2)に主張するところを参酌しても、上記結論は左右されない。
3 当審における控訴人の追加主張に対する判断
控訴人は、前記第2の5のとおり、原審及び当審において生じた訴訟費用を不法行為に基づく損害として追加する旨を主張する。民事訴訟手続の遂行により要した費用のうち、民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものについては、専ら訴訟裁判所の裁判所書記官の処分を経て取り立てることが予定されているというべきであるから、当該訴訟における不法行為に基づく損害賠償請求において、民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されないと解される(最高裁判所平成31年(受)第606号令和2年4月7日第三小法廷判決参照)。控訴人は、訴え提起及び控訴提起の手数料や書類の送付に要した郵便費用を不法行為に基づく損害として主張するが、これらは民事訴訟費用等に関する法律2条1号、2号に定めるものであるから、これら費目を本件において損害賠償として請求することはできない。n

◆判決本文
原審はこちら

◆令和3(ワ)28410


関連事件です。
関連事件1

◆令和4(ネ)10105
原審

◆令和4(ワ)3313


関連事件2

◆令和4(ネ)10085
原審

◆令和3(ワ)15526


関連事件3

◆令和4(ネ)10086
原審

◆令和3(ワ)31909


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原審

◆令和3(ワ)21922


以下は地裁のみ
関連事件5

◆令和3(ワ)33431

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◆令和3(ワ)21533

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◆令和3(ワ)15525

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令和4(ネ)10104  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年4月17日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 発信者情報開示請求事件です。スクリーンショットを添付したツイートについて、原審・知財高裁いずれも、著32条の引用にあたると判断しました。

控訴人は、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイート をした場合には、引用リツイートによる場合とは異なり、引用元に引 用の事実が通知されないため、ツイートを引用された者は自分が知ら ないところで議論がされてしまい、また、ブロックした人物からツイ ートを引用されてしまうことがある旨主張する。 しかしながら、ツイッターにおける上記の通知機能は、ユーザーの\n利便性を高めるための付加的な機能にすぎないというべきである。ま\nた、証拠(甲18)及び弁論の全趣旨によれば、ツイッターにおける ブロック機能は、ブロック対象のアカウントがツイッターにログイン\nした状態においてのみ、ツイートの閲覧を制限するなどの効果をもた らすものにすぎず、例えば、ブロック対象者がツイッターにログイン せずに、又はブロックされた者とは異なるアカウントでアクセスした 場合には、ブロックした者が公開しているツイートを閲覧することが なお可能である。さらに、ツイッターにおいては、投稿されたツイー\nトがインターネット上で広く共有されて批評の対象となることも当然 に予定されており、ツイートを投稿した者も、自らのツイートが批評\nされることや、その過程においてツイートが引用されることを当然に 想定しているものといえる。
以上の事情を考慮すると、他のツイートのスクリーンショットを添 付したツイートがされた場合に上記の通知機能やブロック機能\が働か なくなるからといって、控訴人の著作者としての権利が、引用リツイ ートの場合と比較して殊更に害されるものということはできない。そ うすると、控訴人が指摘する上記の各事情をもって、本件ツイートに おいて原告ツイートが引用されたことにつき、公正な慣行に合致しな いものであるということはできない。

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◆令和4(ワ)14375

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令和4(ネ)10060  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年4月13日  知的財産高等裁判所

元ツイートをスクリーンショットで引用するやり方について、原審では著作権侵害と判断されましたが、知財高裁は正当な引用と判断しました。

 しかし、そもそも本件規約は本来的にはツイッター社とユーザーとの間の約定であって、その内容が直ちに著作権法上の引用に当たるか否かの判断において検討されるべき公正な慣行の内容となるものではない。また、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする行為が本件規約違反に当たることも認めるに足りない。 他方で、批評に当たり、その対象とするツイートを示す手段として、引用リツイート機能を利用することはできるが、当該機能\を用いた場合、元のツイートが変更されたり削除されたりすると、当該機能を用いたツイートにおいて表\示される内容にも変更等が生じ、当該批評の趣旨を正しく把握したりその妥当性等を検討したりすることができなくなるおそれがあるのに対し、元のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする場合には、そのようなおそれを避けることができるものと解される。そして、弁論の全趣旨によると、現にそのように他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートするという行為は、ツイッター上で多数行われているものと認められる。以上の諸点を踏まえると、スクリーンショットの添付という引用の方法も、著作権法32条1項にいう公正な慣行に当たり得るというべきである。
(イ)これに対し、被控訴人は、引用ツイートによるべきことは、ツイッターの利用者において常識である旨を主張するが、当該主張を裏付けるに足りる証拠はない(なお、前記のとおり、本件規約の内容が直ちに著作権法上の引用に当たるか否かの判断において検討されるべき公正な慣行の内容となるものではないことからすると、ツイッターのユーザーにおいて本件規約の前記の定めを認識しているというべきことから直ちに、引用ツイートによるべきことがユーザーの共通の理解として前記公正な慣行の内容となるということもできない。)。また、被控訴人は、スクリーンショットの添付という方法による場合、著作権者の意思にかかわらず著作物が永遠にネット上に残ることとなり、著作権者のコントロールが及ばなくなるという不都合がある旨を主張するが、そのような不都合があることから直ちに上記方法が一律に前記公正な慣行に当たらないとまでみることは、相当でないというべきである。
(ウ)その上で、訂正して引用した原判決の第4の2(1)アで認定判断した原告投稿1の内容、同(2)アで認定した本件投稿1の内容や原告投稿1との関係等によると、本件投稿1は、Yが、本件投稿者1及び本件投稿者1と交流のあるネット関係者間で知られている人物(「A」なる人物)を訴えている者であることを前提として、更に多数の者に関する発信者情報開示請求をしていることを知らせ、このような行動をしているYを紹介して批評する目的で行われたもので、それに当たり、批判に関係する原告投稿1のスクリーンショットが添付されたものであると認める余地があるところ、その添付の態様に照らし、引用をする本文と引用される部分(スクリーンショット)は明確に区分されており、また、その引用の趣旨に照らし、引用された原告投稿1の範囲は、相当な範囲内にあるということができる。また、訂正して引用した原判決の第4の2(1)イ〜エで認定判断した原告投稿2〜4の内容及びその性質並びに同(2)アで認定した本件投稿2〜4の内容や原告投稿2〜4との関係等によると、本件投稿2〜4は、本件投稿者2を含むツイッターのユーザーを高圧的な表現で罵倒する原告投稿2、他のツイッターのユーザーを嘲笑する原告投稿3及び他のツイッターのユーザーを嘲笑する原告投稿4を受けて、これらに対する批評の目的で行われたものと認められ、それに当たり、批評の対象とする原稿投稿2〜4のスクリーンショットが添付されたものであるところ、その添付の態様に照らし、引用をする本文と引用される部分(スクリーンショット)は明確に区別されており、また、それらの引用の趣旨に照らし、引用された原告投稿2〜4の範囲は、それぞれ相当な範囲内にあるということができる。以上の点を考慮すると、本件各投稿における原告各投稿のスクリーンショットの添付は、いずれも著作権法32条1項の引用に当たるか、又は引用に当たる可能\性があり、原告各投稿に係るYの著作権を侵害することが明らかであると認めるに十分とはいえないというべきである。」\n

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◆令和3(ワ)15819

令和4(ネ)10044も同趣旨です。

◆令和4(ネ)10044

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令和4(ワ)2237 発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年3月30日  東京地方裁判所

 著作権侵害に基づく発信者情報開示請求が棄却されました。著作権法41条の「時事の報道」に該当するというものです。

1 争点1(著作権法41条の適用の可否)について
(1) 本件投稿1について
ア 証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿1は、「『まとめサイ ト』でのインラインリンクに著作権侵害幇助の判決!:プロ写真家・A公式 ブログ…」との表題及び「インラインリンクは著作権の幇助侵害にあたると\nいう判決が出たそうです。」とのコメントと共に、本件写真が投稿されたも のであり、本件写真は、上記にいう著作権侵害幇助の判決(以下「別件訴訟 判決」という。)において、著作権侵害の成否が問題とされた写真そのもの であることが認められる。
上記認定事実によれば、本件投稿1は、別件訴訟判決の要旨を伝える目的 で本件写真を掲載しているところ、本件写真は、別件訴訟判決という時事の 事件において正に侵害の有無が争われた写真そのものであり、当該事件の主 題となった著作物であることが認められる。そうすると、本件写真は、著作 権法41条にいう事件を構成する著作物に該当するものといえる。\nそして、上記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様、上記事件の主題 性等を踏まえると、本件投稿1において、本件写真は、同条にいう報道の目 的上正当な範囲内において利用されたものと認めるのが相当である。
イ これに対し、原告は、「インラインリンクは著作権の幇助侵害にあたると いう判決が出たそうです。」との記載は、抽象的に、インラインリンクが著 作権の幇助侵害に当たり得るという規範の問題を伝えるにすぎないもので あるから、本件投稿1は「報道」に当たらないと主張する。しかしながら、 前記認定事実によれば、本件投稿1は、著作物の利用に関して社会に影響を 与える別件訴訟判決の要旨を伝えるものであって、社会的な意義のある時事 の事件を客観的かつ正確に伝えるものであることからすると、これが「報道」 に当たることは明らかである。したがって、原告の主張は、採用することが できない。
また、原告は、本件元投稿においては本件写真がすぐに削除されたことや、 規範の問題を伝達するに当たり写真の掲載は不要であることからすれば、本 件投稿1における本件写真の掲載は、著作権法41条に規定する「報道の目 的上正当な範囲内」に含まれないと主張する。しかしながら、上記において 説示したとおり、本件写真は、別件訴訟判決という時事の事件の主題となっ た著作物であることからすれば、原告主張に係る事情を十分に考慮しても、\n原告の主張は、上記判断を左右するものとはいえない。したがって、原告の 主張は、採用することができない。
ウ 以上によれば、本件投稿1における本件写真の掲載は、著作権法41条に より適法であるものと認められる。
(2) 本件投稿2について
ア 証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿2は、「まとめサイト 発信者情報裁判Line上告棄却 敗訴確定ニュース プロ写真家 A公 式ブログ 北海道に恋して」との記載と共に、本件写真が投稿されたもので あり、本件写真は、上記にいう発信者情報裁判の上告棄却判決(以下「別件 最高裁判決」という。)において、著作権侵害の成否が問題とされた写真そ のものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件投稿2は、別件最高裁判決の要旨を伝える目 的で本件写真を掲載しているところ、本件写真は、別件最高裁判決という時 事の事件において正に侵害の有無が争われた写真そのものであり、当該事件 の主題となった著作物であることが認められる。そうすると、本件写真は、 著作権法41条にいう事件を構成する著作物に該当するものといえる。\nそして、上記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様、上記事件の主題 性等を踏まえると、本件投稿2において、本件写真は、同条にいう報道の目 的上正当な範囲内において利用されたものと認めるのが相当である。
イ これに対し、原告は、本件投稿2は、悪質なスパムブログにユーザーを誘 導するために本件写真を利用するものであるから、「報道」に当たる余地は ないと主張する。しかしながら、証拠(甲14、15)及び弁論の全趣旨に よっても、Bloggerがスパムブログに悪用され得ることや、広告収入 を得る目的等でスパムブログが存在することなどが一般的に認められるこ とが立証され得るにとどまり、本件投稿2自体が悪質なスパムブログにユー ザーを現に誘導している事実を具体的に認めるに足りないものといえる。そ の他に、上記 イにおいて説示したところと同様に、上記認定に係る本件写 真の利用目的、利用態様のほか、本件写真が、著作物の利用に関して社会に 影響を与える別件最高裁判決という時事の事件の主題となった著作物であ ることを踏まえると、原告主張に係る事情を十分に考慮しても、原告の主張\nは、上記判断を左右するものとはいえない。 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
ウ 以上によれば、本件投稿2における本件写真の掲載は、著作権法41条に より適法であるものと認められる。

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令和4(ワ)15136  発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年2月28日  東京地方裁判所

 発信者情報開示事件です。原告がインスタグラムに限定公開した動画が、投稿者により公開されてしまい、発信者情報の開示を求めました。原告の動画は、「原告の夫である歯医者」が麻酔待ちの間にご近所に菓子折り渡しに走ってるというものでした。被告であるGoogleは、医療現場の実態を報道するもので、著41条に該当すると反論しましたが、認められませんでした。

 被告は、本件投稿画像につき、医療関係者の男性が患者の麻酔中に当該患者 の下を離れて外出している様子を収めたものであり、その様子を投稿すること は、医療現場の実態や、医療事故につながりかねない様子を捉えたものとして ニュース性があるから、「時事の事件」を構成するものである旨主張する。\nしかしながら、前記前提事実、証拠(甲6及び10)及び弁論の全趣旨によ れば、本件投稿画像は、ある男性が住宅地の道路上を走っている画像に、「麻 酔待ちの間にご近所に菓子折り渡しに走ってる。田舎過ぎて。笑」というテロ ップが付されるにとどまり、いつの出来事であるかどうか一切明らかではなく、 しかも、本件投稿画像は、Googleマップという地図アプリにおいて、本 件歯科医院の上にカーソルを動かし、クリックした場合に表\示されるものにす ぎないものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件投稿画像で表示された出来事は、これが生じた\n時期すら明らかではなく、地図アプリにおいて本件歯科医院の上にカーソルを\n動かし、クリックした場合に限り表示されるにすぎないことが認められる。\nそうすると、本件投稿画像の出来事は、著作権法41条にいう「時事の事件」 とはいえず、その投稿も、上記認定に係る表示態様に照らし、同条にいう「報\n道」というに足りないものと認めるが相当である。
これに対し、被告は、本件投稿画像で表示された出来事が医療現場の実態や、\n医療事故につながりかねない様子をとらえたものである旨主張するものの、一 般の利用者の普通の注意と読み方とを基準として判断すれば、「麻酔待ちの間 にご近所に菓子折り渡しに走ってる。田舎過ぎて。笑」というテロップの内容 及び上記認定に係る本件投稿画像の内容を踏まえると、本件投稿画像は、医療 現場の実態や、医療事故につながりかねない様子であると理解されるものと認 めることはできず、上記各内容に照らしても、被告が主張するようなニュース 性を認めることもできない。したがって、被告の主張は、その前提を欠くもの であり、いずれも採用することができない。

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令和4(ネ)10049  不当利得返還、同反訴、損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年3月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

アニメ作品の音響データの元となるセッションデータについて、退職時の合意書に基づき、引き渡し義務があるのかが争われました。

しかしながら、証拠(乙14、15、22、24、25、31、32、 原審証人B)及び弁論の全趣旨によると、1)被告音源データは、爆発音だ けでも約2000種類のものを含み、一審被告取締役Bが音響効果業務で 使用するハードディスクでは作業の効率化のため被告音源データの一部 を厳選して保存しているが、そのハードディスクに保管されている被告音 源データのデータ量でも約194ギガバイト、ファイル数3万1000個 超となるなど、膨大な数の音源データで構成されていると認められ、この\nように多種多様な音で構成されていることからみて、個々の音源の中には\n個性的な特徴を有するものが多数含まれるとうかがわれること、2)被告音 源データは、生音(人の手で音を作り出して収録した音)、シンセサイザー で合成した音等の効果音、環境音等からなるものであるが、シンセサイザ ーで制作される音については優に100を超える設定項目を設定しなけ ればならないこと、生音で制作される音については制作の際の個人差が想 定されること、屋外で録音した音については音の録音をするに適した場所、 環境、時間帯等を探し出して選択し、録音した部分から不要となる部分を 省く編集をしなければならないこと、同種の方法で制作された音同士を、 あるいは、異種の方法で制作された音同士を掛け合わせて融合するなどし て複雑な混成をさせていること、以上のことからして、単に発生している 音を録音するという機械的作業により制作され音が保存されているでは なく、その制作に当たって創造性を発揮させる余地が十分にある音が保存\nされていること、3)上記のような単純とはいい難い作業に基づいて制作さ れるほか、アナログ機材で様々な融合や設定をしてできた音であるのにそ の設定等が不明で、現在どのようにして制作するかも分からない再現不能\nな音源も多いことから、偶然に同一の音が再現される可能性は低く、世上\n耳にすることのある、ありふれた音そのものとは構成が異なること、4)被 告音源データのうち、少なくとも半分は上記のような制作過程によって一 審被告が制作したものであること、5)1音源の長さは、数秒程度のものあ れば、1分以上に及ぶものもあって、制作作業の過程で思想又は感情の表\n現を込め得る程度の長さのものも含むことが認められる。
以上によれば、被告音源データの中の個々の音のみであっても、幅のあ る表現の中から選択され、その表\現に個性の発露を認め得る音も決して少 なくないものと認められ、そのようにして制作された音には創作性を認め る余地があるといえ、一律に効果音の著作物性を否定できるものではない し、著作物性のある音がごくわずかであるともいい得ない。 そして、一審原告は、一審被告在職中に被告音源データを用いて音響効 果業務を行っていたのであるから、被告音源データに含まれる音と同一の 音あるいは類似の音を制作した場合には、明らかに依拠性が認められ、あ るいは容易に依拠性を認め得るのであるから、被告音源データに含まれる いずれかの音と同一の音を利用し、あるいは類似の音を制作して利用した 場合でも、一審被告の被告音源データについて一審原告による少なくとも 複製権又は翻案権の侵害が成立する可能性は否定できないといえる。\n
・・・
4 第1事件反訴に係る本件セッションデータの引渡請求について
一審原告は、一審被告から、本件再委託業務の再委託を受けて同業務 を履行したところ(前提事実(4)イ及びエ)、一審被告は、本件セッション データは本件合意書第14条の「成果物」に該当するとして、本件合意 に基づき一審原告に対して本件セッションデータの一審被告への引渡し を求めている。
(1) 本件合意の内容
本件合意書第14条は、一審原告に対し、一審被告から受託した業 務の「成果物」を特に区分けなく顧客及び一審被告に納入すべき義務 を定めるから(別紙「本件合意書(抜粋)」参照。以下本件合意書の条 項につき同じ。)、一審被告に納入すべき「成果物」は、顧客に納入す べきものと同じものと理解される。また、同第9条は、一審原告が一 審被告から音響効果業務を受託した場合の「成果物」の所有権及び音 源の著作権が一審被告に帰属することを定め、同第8条2項は、再委 託業務の対価には音響効果制作の過程で発生するいわゆる中間生成物 のものも含めて著作権譲渡の対価が含まれると定めるから、一審原告 が「成果物」を一審被告に納入すると、一審原告は、当該「成果物」 の所有権及び音源の著作権を失うものと理解される。
(2) プロツールスセッションデータについて
「プロツールス」は、音編集ソフトであり、作品の映像に合わせて\n音源データを編集して放映用の音源データを制作する手法が用いられ ており、一審原告もプロツールスを用いて一審被告から再委託を受け た業務を行った(前提事実(2)ア)。 証拠(甲12、乙15、22、34、原審証人B)によると、1)「プ ロツールスセッションデータ」とは、音響効果業務の作業の際にプロ ツールスが作成する「セッション」というファイルの中に記録された 音源データを含む各種データのことであり、効果音等が記録された放 映用の音源データや、台詞、音楽等が含まれる放映用の音声データと は別のファイルであること、2)音響効果業務の作業に当たっては、ま ず、映像に合うような音源データを選択し、セッションデータの中に これら音源データをコピーして取り込み、それら音源データの一又は 複数をそのままに、あるいはピッチを変えるなどして、作品の映像と 音との間のタイミング等を調整しながら各音源データを組み込んでい くこと、3)そのため、セッションデータの中には放映用の音源データ の制作に利用した音源データの全てが保存されていること、4)顧客に 納入される台詞、音楽等が含まれる放映用の音声データは、放映用の 音源データを調整しながら、放映用の音源データと台詞、音楽等の音 声データとをダビングしたミックスデータとして納入されること、5) セッションデータには音響効果業務を行う事業者のノウハウが詰まっ ているため、第三者や競業者にその内容が開示されることはないし、 顧客にもセッションデータが納入されることはなく、効果音等のみを 必要とする顧客からの要望については、セッションデータから音源デ ータをまとめて一つのファイルとして出力されるデータが納入される ことが認められる。
(3) 西田弁護士の発言
前記1(3)ウ(本判決第3の2(3)において補正されている。)のとおり、 Aらも立ち会っていた本件面談において、西田弁護士は、一審原告か ら本件再委託業務に関する質問があった際に、一審原告が一審被告に 対して渡さなければいけないものは、「一本化」しているものでよく、 「パーツは渡さなくていい」旨の回答をしており、これは、「一本化」 とは素材となる音源データをまとめあげた放映用の音源データのこと を指し、「パーツ」とは、上記音源データの制作に要した素材となる音 源データのことを指すと理解できるから、結局、本件セッションデー タの引渡しを不要であると回答したものと認められる。 これに対して、西田弁護士は、「パーツで渡さなくてよいと答えてい ます・・・X氏が自身で購入した音源一つ一つを、・・・渡さなくてよ い(権利譲渡しなくてよい)という意味合いです。」、「一本化して渡し てほしい・・・というのは、プロツールスのセッションデータとして 一本化して渡してほしいという意味です」旨を陳述するが(乙28)、 上記のとおりセッションデータはもともと一つであるし、前記(2)のと おり、セッションデータを引き渡せば個々の音源データも引き渡され ることになるから、関係証拠と整合しない陳述であり、採用すること はできない。
(4) 報酬の支払
本件合意書第8条1項は、同第6条2項の音響効果業務の再委託業 務について、一審原告に対する報酬の支払を「成果物」の納品月の末 締め当該締日の3か月後の月の5日限りとして、一審原告の先履行と 定めているところ、一審原告は、本件再委託業務に係る各作品に係る、 台詞、音楽等の音声データとを音源データとをダビングしたミックス データを顧客に納品しており(甲8、弁論の全趣旨)、これに対し、一 審被告は、前提事実(4)エのとおり、本件セッションデータの引渡しを 求めることなく、本件再委託業務に係る報酬を全額支払っている。本 件セッションデータの引渡しは、令和元年12月24日受理の第1事 件反訴状の一審原告に対する送達によって初めて求められた(弁論の 全趣旨、顕著な事実)。
(5) 本件セッションデータの引渡義務
前記(2)のセッションデータの性質を前提とする限り、セッションデ ータそれ自体は放映に用いる音源データではなく、顧客に納品される ものではない。そして、本件合意は一審原告が一審被告を退職した後 の法律関係を規律するものであるところ、前記(1)の本件合意の内容や 本件合意書第14条の「成果物」の解釈を前提とした場合、本件セッ ションデータも同「成果物」に含まれるとすると、一審原告は、本件 再委託業務の履行に際して利用した素材である各音源データについて、 たとえそれが自らの負担において新たに取得したものであっても、そ の権利一切を喪失することになり、その後自らこれらを利用すること ができなくなって業務遂行が困難となり、極めて不合理な結論に至る し、一般的な取引慣行にもそぐわないことになる。また、本件面談時 や本件再委託業務の履行過程における一審被告の言動も、本件セッシ ョンデータが本件合意書14条の「成果物」には該当しないことを前 提とするものと理解するのが自然かつ相当である。
以上によれば、本件合意書を合理的に理解しようとする限り、本件 合意によって本件セッションデータの引渡義務を根拠付けることはで きないというべきである。なお、一審被告は、一審原告が一審被告を退職する前に担当したものも含めて、過去に音響効果業務を受注して制作した作品のセッショ ンデータを保存、管理しているが(乙22、原審証人B)、それは自ら が制作したセッションデータを自らが保有していることを意味するに すぎない。一審原告は独立した事業者の立場においてセッションデー タを制作する者であってそのセッションデータを保有する者であるか ら、一審被告が過去に制作した作品のセッションデータを保存、管理 していることは、一審被告に対する一審原告の本件セッションデータ の引渡義務を何ら基礎付けない。

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令和4(ネ)10103 損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年3月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

著作者人格権の侵害として、5.5万円の損害賠償が認められました。なお控訴人は、1審では、著作者人格権の侵害を主張していませんでした。

(3) 原告文章2について
ア 原告文章2は、将棋の駒の準備や片付けに関して説明するものであるところ、 その記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって(乙19〜24、27、 弁論の全趣旨)、当該内容自体から創作性を認めることはできない。 もっとも、「「雑用は喜んで!」とばかりに下位者が手を出さないようにしまし ょう。」という部分については、控訴人自身の経験に基づき、初心者等が陥りがち な誤りを指摘するため、広く一般に目下の者が「雑用」を率先して行うに当たって の心構えを示したものといい得る表\現を選択し、これを簡潔な形で用いた上で、し かし、逆に、将棋の駒の準備や片付けに関してはこれが当てはまらないことを述べ ることで、将棋の初心者にも分かりやすく、かつ、印象に残りやすい形で伝えるも のといえる。この点、本件番組の制作時に参考にした書籍やウェブサイトである被 控訴人が当審において提出した証拠(乙15〜37。以下「当審提出証拠」という。) のうち駒の準備や片付けについて記載されたもの(乙20〜24、27)にも、類 似の表現は見受けられない。したがって、上記部分は、特徴的な言い回しとして、\n控訴人の個性が表現として現れた創作性のあるものということができ、著作物性を\n有するというべきである。これに対し、原告文章2のうちその他の部分における表\n現は、ありふれたものといえ、控訴人の何らかの個性が表現として現れているもの\nとは認められない。
そして、本件ナレーション等のうち原告文章2に対応する部分においては、正に 上記のとおり創作性のある部分が、感嘆符の有無と「下位者が」を「下位の者は」 と変更する点を除くと一言一句そのままの形で使用されている。 したがって、被控訴人は、原告文章2のうち創作性のある部分について、控訴人 の許諾を得ることなく、また、その著作者名を表示することもなく、これを含む本\n件ナレーション等を本件番組で放送したことにより、控訴人の著作権(公衆送信権) 及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものと認められる。\nイ 被控訴人は、「雑用は喜んで!」という表現は、一般社会においても一般的\nに用いられるありふれたものであるなどと主張するが、駒の準備や片付けは上位者 が行うという将棋のルールを踏まえると、それらは将棋の対局において「雑用」と はいえないものである。そのようなものについて、あえて「雑用は喜んで!」との 表現を用いた上で、かつ、逆説的に説明するという特徴的な言い回しをしたという\n点に、控訴人の個性が現れているということができる。前記アの認定判断に反する 被控訴人の主張は採用できない。
・・・
原告文章5は、将棋の「待った」について説明するものであるところ、その 記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって(乙19、21、24、2 6、31〜32、34〜37、弁論の全趣旨)、当該内容自体から創作性を認める ことはできない。 もっとも、「着手した後に「あっ、間違えた!」「ちょっと待てよ・・・」など と思っても、勝手に駒を戻してはいけません。」という部分については、将棋を指 す者が抱き得る感情を分かりやすく簡潔に表現することで、将棋の初心者にも印象\nに残りやすい形で伝えるものといえる。この点、当審提出証拠のうち「待った」に ついて記載されたもの(乙19、21、24、26、32、34〜37)の中に、 類似の表現はほとんど見受けられず、唯一、「仮に駒から手を離した瞬間に「あ、\n間違っている」と気づいたとしても」という類似の表現が用いられているもの(乙\n32)はあるが、原告文章5は、控訴人自身の経験に基づき、感嘆符等の記号を用 いるほか、「あっ、間違えた!」という語と「ちょっと待てよ・・・」という語を 続けてたたみかけることで、将棋を指す者が抱き得る感情とルール又はマナーとし ての将棋の「待った」をより生き生きと分かりやすく、かつ、印象深く表現するも\nのといえる。したがって、上記部分は、控訴人の個性が表現として現れた創作性の\nあるものということができ、著作物性を有するというべきである。これに対し、原 告文章5のうちその他の部分における表現は、ありふれたものといえ、控訴人の何\nらかの個性が表現として現れているものとは認められない。\nそして、本件ナレーション等のうち原告文章5に対応する部分においては、正に 上記のとおり創作性のある部分が、感嘆符及び「・・・」の有無等の点を除き、ほ ぼそのままの形で使用されている。 したがって、被控訴人は、原告文章5のうち創作性のある部分について、控訴人 の許諾を得ることなく、また、その著作者名を表示することもなく、これを含む本\n件ナレーション等を本件番組で放送したことにより、控訴人の著作権(公衆送信権) 及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものと認められる。\n

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令和3(ワ)13720 著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年1月20日  東京地方裁判所

出版権に基づく著作権侵害を主張しましたが、裁判所は、「相違部分には、被告の思想又は感情を創作的に表現した部分が含まれる」として、原作のまま複製には該当しないと判断しました。\n

1 争点1(被告表紙等が原告表\紙を「原作のまま…複製」(著作権法80条1項 1号)したものであるか)について (1) 前記前提事実(2)イのとおり、原告は、Bとの間で、本件出版契約を締結し、 原告漫画について、紙媒体出版物(オンデマンド出版を含む。)として複製 し、頒布することなどを内容とする「出版権」の設定を受けることを合意し たところ、この合意内容によれば、原告は、原告漫画を目的とする出版権と して、「頒布の目的をもつて、原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方 法により文書又は図画として複製する権利」(著作権法80条1項1号)を 取得したものと認められる。 そして、上記出版権は、著作物を「原作のまま…複製する権利」であるこ とからすると、出版権の目的である著作物を有形的に再製する行為には及ぶ が、上記著作物のうち創作的表現とは認められない部分と同一性のあるもの\nを作成する行為には及ばないし、翻案、すなわち、上記著作物の表現上の本\n質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加え\nて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が\n上記著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物\nを創作する行為(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第1 小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)にも及ばないと解される。 (2) 証拠(甲4、5)によれば、被告が作成した被告表紙等は、少なくとも以\n下の部分において、原告表紙と相違すると認められる(以下、これらの相違\n部分を「本件相違部分」という。)。
ア 原告人物1の髪は目及び耳にかかる程度の長さで描かれているのに対し、 被告人物1の後髪は肩にかかり、横髪は耳を隠し、前髪は頬にかかるほど の長さで描かれている部分
イ 原告人物1の右耳は飾りが付いていないように描かれているのに対し、 被告人物1の右耳はピアスのように見える飾りが付いているように描かれ ている部分
ウ 原告人物2の髪は自然に流れるようにウェーブした状態に描かれている のに対し、被告人物2の髪は、複数の束となっており、束ごとに髪先が直 線的に切りそろえられた状態に描かれている部分
エ 原告人物2の瞳は略楕円形で、眉毛は細い線のように描かれているのに 対し、被告人物2の瞳は略円形で、眉毛は太く描かれている部分
オ 原告人物2は口をほとんど開けていないように描かれているのに対し、 被告人物2は、口を開き、歯が覗くように描かれている部分 カ 原告人物1及び2は学生服及びワイシャツを着ているように描かれてい るのに対し、被告人物1及び2は学生服及びワイシャツとは異なる服を着 ているように描かれている部分
(3) 前記前提事実(1)イ及び(3)並びに前記(2)の認定事実によれば、二次創作同 人誌を発行していた被告は、自らの知識や経験に基づき、被告漫画のストー リーや登場人物の設定等を念頭に置きつつ、被告漫画の表紙及び中表\紙とし てふさわしいものとなるように考えながら、原告表紙との本件相違部分を含\nむ被告表紙等を作成したということができる。そして、本件相違部分は、人\n物の髪型、目及び衣服といった当該人物の外見を特徴付ける部分に関する表\n現であり、別紙対比表からも明らかなとおり、被告表\紙等における被告人物 1及び2の外見の描写のうち本件相違部分が占める割合は小さくない。さら に、本件相違部分に係る表現がありふれたものであることを認めるに足りる\n証拠はない。したがって、本件相違部分には、被告の思想又は感情を創作的 に表現した部分が含まれると認めるのが相当である。\n
そうすると、原告表紙と被告表\紙等との共通部分に創作的表現が認められ\nない場合には、被告表紙等は、原告表\紙のうち創作的表現とは認められない\n部分と同一性があるにすぎず、被告は、創作的表現を含む本件相違部分を備\nえた、原告表紙とは別の新たな著作物である被告表\紙等を創作したといえる。 また、上記共通部分に創作的表現が認められる場合には、被告は、新たに創\n作的表現を含む本件相違部分を加えることにより、原告表\紙の表現上の本質\n的な特徴を直接感得することのできる別の著作物である被告表紙等を創作し\nたものであるから、原告表紙を翻案したものといえる。\n
以上によれば、被告表紙等は、いずれにしても、原告表\紙を「原作のまま …複製」(著作権法80条1項1号)したものとは認められないから、被告 が被告表紙等を作成したことにより原告漫画に係る原告の出版権が侵害され\nたとは認められない。

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令和4(ネ)10083  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年12月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

本文、ユーザー名のほかアイコンまでをリツートした行為について、引用と認められると判断されました。 ア 控訴人は、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする行為が利用規約に反することは明らかであり、それゆえ利用規約に基づいて本件ツイートによる公衆送信権侵害等について適法となることはないなどと主張する。 しかし、控訴人の上記主張は、利用規約の内容によって直ちに著作権法32条1項にいう公正な慣行の内容が規定されることを前提にするものであって、相当でない。この点、控訴人は、利用規約が遵守されることがツイッターの全ユーザー間の共通認識となっているとも主張するが、当該主張も、結局は利用規約の内容によって直ちに著作権法32条1項にいう公正な慣行の内容が規定されることをいうものに帰し、訂正して引用した原判決の第4の2(2)の認定判断を左右するものではない。特に、本件ツイート及びそこにおける原告ツイートの引用が批評という表現行為に係るものであることに照らしても、利用規約によってその態様ゆえにその引用としての適法性が直ちに左右されるとみることはできない。\n
イ 控訴人は、ユーザーにおいては、ツイートを削除していなくともプロフィール画像を変更すれば過去のツイートについても変更後のプロフィール画像が表示されること等を前提としてツイッターを利用していることや、プロフィール画像がツイート本文の内容とは独立して自身の個性を表\現するものであるなどと主張する。しかし、訂正して引用した原判決の第4の2(3)で説示したとおり、ユーザーは、自らのツイートの内容が当該ツイートをした時点におけるアイコンと一体的に表現主体及び表\現内容を示すものとして取り扱われ得ることについても、相応の範囲で受忍すべきものであり、控訴人の上記主張も、訂正して引用した原判決の第4の2(2)の認定判断を左右するものではない。
ウ 控訴人は、本文やユーザー名のほかアイコンまで掲載する必要があるのかには疑問があり、また、現在もツイッター上で閲覧可能な原告ツイートについて、これをあえてスクリーンショットで掲載する必要はないなどと主張する。\nしかし、控訴人においては原告アイコンが原告ツイートの内容と一体的に取り扱われ得ることを相応の範囲で受忍すべきことは既に説示したとおりであり、また、原告ツイートが現在も閲覧可能であるとしても、仮に本件投稿者が引用リツイート機能\を用いていた場合には、原告ツイートを削除等するという専ら控訴人の意思に係る行為によって引用に係る原告ツイートが削除等され、本件ツイートの趣旨等が不明確となるような事態が生じ得ることに照らして、原告ツイートが現在も閲覧可能であるか否かは、本件ツイートにおける引用の適否に直ちに影響すべきものではない。この点、原告ツイートが投稿されてから本件ツイートが投稿されるまでには約7年半という相応の長期間が経過しているところ、原告ツイートが現在も閲覧可能\であり(甲20)、その間に特に控訴人がプロフィール画像を変更したといったことも認められないものであるが、一般的に、引用元ツイートが投稿後変更されることなく相応の長期間が経過した後であっても、引用リツイートの投稿を契機として引用元のツイートが変更や削除等されたりする可能性もあるから、上記相応の長期間の経過をもって直ちに本件ツイートにおける引用の必要性や相当性が否定されるものではなく、また、閲覧可能\性や画像の変更の有無に係る上記各事情は、他方で、原告ツイートの投稿時から本件ツイートの投稿時までの間に、原告において原告アイコンを含む原告ツイートの変更や削除等をしなければならないような事情が他には生じておらず、本件ツイートにおける引用の必要性や相当性を判断するに当たり他に考慮すべき特段の事情がないことをうかがわせるものである。

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令和3(ワ)21224  損害賠償金請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年11月21日  東京地方裁判所

ウェブページのフライパンの説明画像について、著作権侵害を認め、5万円の賠償を認めました。

本件において、原告が、本件各画像を含め、自己が著作権を有する著作 物を第三者に有償で利用許諾していたと認めるに足りる証拠はないから、 実際の利用許諾例に準じて使用料相当額を算定することはできない。 イ この点、原告は、新聞社や写真提供会社が提供する画像レンタルサービ スにおける使用料を根拠として、本件各画像の1ページ当たりの使用料相 当額は6万6666円を下らず、これに本件各画像が掲載されたウェブペ ージのページ数を乗じて使用料相当額を算定すべきであると主張する。 (ア) まず、ページ数を単純に乗ずることの当否について検討すると、原告 商品は、特長、材質、製造方法、メーカーなどが同一である複数のフラ イパンの一群からなる商品であるところ(甲12)、被告ストアにおける 本件各画像の利用態様も、複数の商品販売ページにわたって、原告商品 が等しく備える特長等を紹介する本件画像1)ないし7)の各画像の複製物 を共通して複製及び送信可能化し、本件商品画像については、当該ペー\nジで販売している商品に相当する画像1点を複製及び送信可能化したと\nいうものであることが認められる(前提事実(2)ア、イ、甲2)。このよ うな利用態様にかんがみれば、特に、全てのページにわたって原告商品 に共通する特長等を紹介する同一の画像7点については、異なる態様で 複数回利用された場合と同視することはできず、本件において、単純に ページ数(すなわち販売している商品の種類の数)を乗じて使用料相当 額を算定することが相当であるとはいえない。
そこで、更に検討すると、本件各画像は、商品群からなる原告商品の ネット通販用広告画像、すなわち販売促進資料として作成されたものと 認められることから(甲12)、原告商品の販売と無関係に本件各画像を 使用することは通常考え難く、仮に原告が第三者に本件各画像の利用を 許諾するとすれば、原告も主張するとおり、原告商品の日本国内の正規 代理店として、原告商品の再販売契約をするに当たり、その販売促進資 料として本件各画像全体を利用許諾するような場合が想定される。そし て、同一のオンラインショッピングモール上に出店しているとしても、 オンラインストア名が異なれば、商品の販売経路を複数有することにな るから、販売促進資料としての画像の利用許諾契約に当たっても、原告 商品を取り扱うオンラインストア数の多寡を考慮するのが合理的といえ る。アフロ社が提供している画像レンタルサービスにおいて、同一サイ トである限り、使用箇所を問わず同じ使用料が設定されている(甲7の 「ウェブ広告・ホームページ」欄の注記)ことも、オンラインストア数 に応じて使用料相当額を算定する方法の合理性を裏付けるものである。 以上のとおり、原告商品が一つの商品群からなるものであること、被 告ストアにおける本件各画像の実際の利用態様及び想定される本件各画 像の利用許諾の態様にかんがみれば、本件各画像の使用料相当額を算定 するに当たっては、本件各画像の複製物が掲載されたページ数(すなわ ち販売している商品の種類の数)ではなく、オンラインストア数を基準 とすべきであって、本件においては、被告ストアが一つであることから、 被告ストア全体にわたって本件各画像を1回利用したものとして算定す るのが相当というべきである。
(イ) 次に、本件各画像の具体的な使用料相当額について検討する。
a 原告が指摘する新聞社の画像レンタルサービスにおいて、具体的に どのような写真や画像が提供されているのかを認めるに足りる証拠は ない。しかし、新聞社が提供する写真は、いわゆる報道写真にみられ るように、ある事件や事象の一瞬を捉えているなど、構図やシャッタ\nーチャンス等に高度な工夫を凝らした創作性の高いものや、他の手段 では入手が困難な希少性の高いものである可能性があると考えられる。\nまた、アフロ社が提供する画像レンタルサービスについては、上記 のような報道写真とは異なる性格の画像も提供されていることがうか がわれるものの(甲7)、やはり、実際にどのような写真や画像が提供 されているのかは、本件証拠上認めるに足りない。
b その一方で、被告が指摘するシャッターストック社やピクスタ社の 画像レンタルサービスについてみると、証拠からうかがわれる具体的 な画像の内容(乙3、4)のほか、ピクスタ社では6200万点以上 の写真、イラストなどの素材について、料金が1か月間に利用できる 画像の点数に基づいて設定されていたり、未利用画像数を翌月以降に 繰り越せるといった条件で提供されていたりすること(乙2、4)に かんがみれば、これらのサービスにおいて低額な使用料で提供されて いるのは、汎用性のあるウェブサイト用の素材である可能性が高い。\n もっとも、商業的利用の可否など、その余の使用条件については、 本件証拠上判然としない。
c これに対し、前提事実(2)ア及び前記(ア)のとおり、本件各画像は、 商品販売ページを見た顧客の購買意欲を高めるように、原告商品を用 いて調理している様子を撮影した写真や特長等を述べた文言、画像な どを配置した原告商品に特化した販売促進目的の画像であって、報道 写真とも、シャッターストック社やピクスタ社が提供する汎用性のあ るウェブサイト用の素材とも、性格及び目的が大きく異なる。また、 前記(ア)において説示したとおり、原告が第三者に本件各画像を利用許 諾することが想定されるのは、原告商品の正規代理店として、原告商 品の再販売契約に当たって販売促進資料として利用されるような場合 であるから、専ら写真、画像等の利用許諾に伴う使用料をもって収益 を上げるというビジネスモデルに基づき設定された使用料の水準が妥 当するともいい難い。これらの事情に照らせば、原告及び被告の双方 がそれぞれ指摘する画像レンタルサービスにおいて規定されている使 用料の水準が本件においてそのまま妥当するとはいえない。
その一方で、前記(ア)のとおり、本件各画像は、原告商品の再販売契 約に伴う販売促進資料との位置付けで利用許諾されることが想定でき るから、本件各画像の使用料のみによって本件各画像の取得費用を回 収したり、原告商品の再販売によって得られる利益を超えたりするよ うな高額な使用料が設定されるとは考え難い。
このほか、本件各画像は、報道写真のように高度の創作性を有して おり代替可能性が小さいとまではいえないものの、原告商品に特化し\nた販売促進資料として工夫して作成されたものであり(前記(ア))、相 応に創作性を有する著作物であること(前記1)、被告ストアにおける 販売商品数は11点であり、本件各画像の利用期間が約3か月間であ ったこと(前記(1))、本件各画像の利用に当たっての将来の使用料額 を定める場面ではなく、原告の許諾を何ら得ることなく本件各画像を 利用した被告に対する損害賠償を請求する場面での金額の算定である ことなどを総合考慮すると、本件各画像の使用料相当額は合計5万円 と認められる。
ウ 当事者の主張について
(ア) 原告は、本件各画像の使用料相当額を算定するに当たり、いつも社に 本件各画像のデザイン制作料等として約700万円を支払ったことを考 慮すべきであると主張する。 しかし、原告がいつも社に委託したのは、ウェブサイト関連業務及び 検索エンジン最適化サービスであり、本件各画像の制作業務はその一部 を構成するにすぎないと認められるところ(甲12)、本件各画像のデザ\nイン制作のみに要した費用を認めるに足りる的確な証拠はない。 したがって、本件各画像の使用料相当額の算定に当たって、原告が主 張する金額を考慮することはできない。

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令和4(ネ)265等  損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年10月14日  大阪高等裁判所

 共謀して、「YouTube」に投稿した動画を著作権侵害と通知して動画削除させた行為が、共同不法行為に当たるかが争われました。1審は、原告に約7万円支払えと、認定しました。被告が控訴し、原告も附帯控訴をしました。大阪高裁は、被控訴人(1審被告)に対して、約26万円の支払いを命じました。本件編み方動画については著作物性がないという判断は、共通ですが、損害賠償額が変わりました。1審は停止期間中の広告収入のみを認めたようです。

前記(2)のとおり、本件侵害通知は、いずれも法的根拠に基づかないもの であるが、前記(2)で述べたところに加え、上記(3)認定の各事実からすると、 以下に詳述するとおり、控訴人Bは、前記注意義務を怠った過失があるとい えるばかりか、著作権侵害通知制度を濫用したものということさえできるの であって、これにより、本件侵害通知の対象動画の投稿者である被控訴人の 法律上保護される利益を侵害したものであるから、控訴人Bが本件侵害通知 を提出した行為は、被控訴人の法律上保護される利益を違法に侵害したもの として不法行為を構成するというべきである。
イ すなわち、控訴人Bの提出した本件侵害通知の記載内容をみるに、本件侵 害通知1は、前記(2)アのとおり、被控訴人メランジ動画につき「編み目(ス ティッチ)の著作権侵害」があるというものであって、編み目の著作物性を いう点において、その通知内容自体から著作権侵害が認められないことが明 らかなものである。
また、本件侵害通知2は、前記(2)イのとおり、被控訴人トリニティ動画の 「動画全体」につき「著作権、翻訳権の侵害」があるというものであって、 控訴人Bは、被控訴人トリニティ動画の口頭説明部分が控訴人動画1)〜3)の 口頭説明部分の著作権を侵害すると考えて本件侵害通知2を提出した旨陳述 しており(乙10、控訴人B本人)、本件訴訟においては、その旨主張する ようであるが(これ自体が法的に失当であることは前記(2)イのとおりであ る。)、被控訴人トリニティ動画が控訴人動画のうちいずれの動画のいかなる 部分の著作権を侵害したかにつき、明確かつ具体的な主張をしているもので はないこと、控訴人Bの陳述も、要は、被控訴人動画において控訴人動画に おける編み目の作り方が同じであることを中心に著作権侵害があった旨を述 べるものであること、本件侵害通知2が本件侵害通知1と同日にされている ことに加え、前記(3)の各事実にも照らすと、むしろ控訴人Bは、本件侵害通 知2においても本件侵害通知1と同様、本来、著作権侵害が認められない被 控訴人トリニティ動画が編み目の著作権を侵害したことを根拠として、著作 権侵害通知をYouTubeに提出したものと認めるのが相当である(この ことは、控訴人Bの陳述(乙10)によれば、被控訴人トリニティ動画の2 5分47秒間のうち、著作権侵害に該当する部分は3分43秒間にすぎない にもかかわらず、控訴人Bが、削除依頼ウェブフォーム(甲18)において、 タイムスタンプで該当箇所を特定することもなく、被控訴人トリニティ動画 の「動画全体」が著作権侵害部分に該当するとして本件侵害通知2を行って いることからも裏付けられる。)。したがって、本件侵害通知2も、その内 容において著作権侵害が認められないことが明らかなものというべきである。
ウ しかし、そもそも編み物の編み目に著作物性が認められないことは前記(2) アで説示したとおりであるし、前記(3)アによれば、控訴人Bは、むしろ動画 の著作物性の有無の判断には困難が伴うことをかねてから認識していたこと が認められる。また、著作権侵害が肯認されるには依拠性が必要であるが、 前記(3)エによれば、控訴人Bが本件侵害通知を提出するに当たって依拠性を 検討した様子は全くうかがえない。 そればかりか、控訴人Bが本件侵害通知を提出するに当たり、著作権侵害 の有無を予め検討していたのであれば、それが法的に失当であろうとも、本件侵害通知後の被控訴人からの問い合わせに対して著作権侵害と考える理由\nを端的に回答できるはずであるが、被控訴人に対する回答ぶりは専ら困惑さ せることに終始するものであるし((3)エ)、本件訴訟を提起された後におい てすら、控訴人らは著作権侵害を理由に裁判手続をとろうとしていないこと、 その他前記(3)で認定した本件侵害通知提出前後の状況をも考慮すると、控訴 人Bは、本件侵害通知を提出するに当たり、編み目の著作物性が肯定される には困難を伴うことを十分認識していたと認められるにもかかわらず、控訴人動画で紹介した編み目と同一の編み目を説明する動画であれば、それが控\n訴人動画に依拠したものか否かを問わず、先行して動画を投稿した控訴人B の著作権を侵害するとの独自の見解を有し、この見解が法的に成り立つか否 かを検討することなく、すなわち、控訴人Bが著作権者等であることはもと より、著作権侵害通知の内容が正確であることについて検討することなく、 必要な注意義務を怠って漫然と本件侵害通知を提出したものと認めるのが相 当である。
エ なお、控訴人らは、専門家であるJ弁理士及びK弁護士にも相談した上で、 本件侵害通知を行った旨主張するが、控訴人らが本件侵害通知当時に上記専 門家に著作権侵害に関する相談をしていたことを認めるに足りる的確な証拠 はなく、また、仮に何らかの相談をしていたとしても、前記の本件侵害通知 の内容及び本件訴訟における応訴の内容に照らし、真摯な相談がされたもの ともおよそ考えられないから 、これによって控訴人Bが本件侵害通知を提出 するに当たって必要な検討をしたとは認められない。
オ そして、控訴人Bは、被控訴人に対する以外にも、本件侵害通知に相前後 して、他の複数のチャンネル開設者に対し、その投稿した編み物動画やアプ リケーション上での編み物作品の販売に対し、動画のコメント欄等に抗議を 書き込んだり、被控訴人に対すると同様に、編み目を含む編み方の模倣を理 由に一斉に複数の著作権侵害通知を提出したりすること((3)イ、ウ、オ)によ って、これらの者が、控訴人Bが動画で紹介している編み方と同じ編み方を 動画で投稿することを事実上抑止しようとしていたことがうかがわれる。 さらに、弁護士への依頼や著作権侵害警告に対する異議申立てを考えるようなチャンネル開設者に対しては、控訴人Bに加担する控訴人D又は控訴人\nB自身において、「一度痛い目見ないといけない」「詐欺で警察にも行けるお話」などと強迫的ともいえるメッセージを送信したり、独自の見解を一方\n的に押し付けるようなコメントを公表したりして((3)イ、オ、カ)、裁判手続 で著作権侵害の有無を明らかにするより、示談するよう強く求めていたこと も認められ、以上のような諸事情を総合すると、控訴人Bは、著作権侵害通 知制度を利用して、競業者であるといえる同種の編み物動画を投稿する者の 動画を削除することで不当な圧力をかけようとしていたとさえ認められる。
カ 以上によれば、控訴人Bは、本件侵害通知をYouTubeに提出するに 当たって、単に自らが著作権者であることや、著作権侵害通知の内容が正確 であることについて何ら検討することなく漫然と法的根拠に基づかない本件 侵害通知を提出したという点で必要な注意義務を怠った過失があるといえる ばかりか、前記のとおり著作権侵害通知制度を濫用したものということさえ できるのであって、これにより本件侵害通知の対象動画の投稿者である被控 訴人の法律上保護される利益を侵害したものであるから、控訴人Bが本件侵 害通知を提出した行為は、被控訴人の法律上保護される利益を違法に侵害し たものとして不法行為を構成するというべきである
・・・
ア 前記2(1)アで説示したとおり、YouTubeは、インターネットを介 して動画の投稿や投稿動画の視聴などを可能とするサービスであり、投稿者は、動画の投稿を通して簡易な手段で広く世界中に自己の表\現活動や情報を伝えることが可能となるから、作成した動画をYouTubeに投稿する自由は、投稿者の表\現の自由という人格的利益に関わるものであるといえ、控訴人Bによる違法な本件侵害通知により被控訴人動画が一方的に削除された ことにより、被控訴人はその人格的利益を侵害されたものと認められる。
イ そして、その削除期間が、令和2年2月6日から同年8月29日までの2 06日間に及ぶこと、被控訴人トリニティ動画の動画時間が25分47秒間、 被控訴人メランジ動画の動画時間が19分24秒間であって、テロップ挿入 や音声等の編集作業にも相応の労力、時間を要して作成されたものであるこ とがうかがわれること(甲56〜58)、被控訴人動画が投稿されたAのチ ャンネルには少なくとも1000人を超える登録者がいたことに加え、被控 訴人が、削除当日に、控訴人Bに対し、控訴人Bのどの動画の著作権を侵害 したことになるのか教えてほしい旨問い合わせたのに対して、控訴人Bは、 これに対する回答をしないばかりか(前記2(3)エ)、同年6月頃、Cのチャ ンネルにおいて、被控訴人に向け、本件侵害通知のことを取り上げて「2度 あることは3度ある、3度目は命取りです」などとのコメントを記載して、 控訴人Bが3回目となる著作権侵害通知をすることで、被控訴人のチャンネ ル停止・全動画の削除という事態が起きかねないことをほのめかすなど、被 控訴人をして専ら畏怖、困惑させるばかりで、事後的にも誠意ある対応をせ ず、原判決において控訴人らの指摘する被控訴人動画による著作権侵害が認 められない旨判断された後も、被控訴人動画が控訴人動画の盗作であるかの ような独自の見解に基づくコメントをYouTubeのチャンネルに記載し ていること(甲13、14、20、69〜77)など、本件に現れた一切の 事情を考慮すると、被控訴人が上記の人格的利益の侵害により受けた精神的 苦痛を慰藉する金額は20万円を下らないというべきである。
ウ なお、被控訴人は、前記第3の5(被控訴人の主張)(2)イ、ウに記載す る、本件侵害通知による被控訴人チャンネル全体の収益性の低下及び視聴者 に対する信頼毀損による視聴数低下について、慰謝料算定に当たっての根拠 としても主張するが、被控訴人は、上記各事情によって被控訴人チャンネル の収益性の低下による経済的損害が生じたことをいうものであって、その損 害賠償の可否は、そのような経済的損害の発生が認められるか否かの立証に 係るものであり、損害の発生が不明な場合に前記イで認定したところを超え て慰謝料として損害賠償を認めることはできないというべきである。したが って、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(2) 広告収益に関する経済的損害について
ア 被控訴人動画の広告収益の低下
被控訴人動画がYouTubeにおいて削除されていた期間は、前記のと おり令和2年2月6日から同年8月29日までの206日間であるところ、 証拠(甲31、32)によれば、被控訴人メランジ動画(投稿日は同年2月 3日)についての広告収益は、同年2月3日から同月6日までの4日間で合 計1463円(1日当たり365.75円)であったこと、被控訴人トリニ ティ動画(投稿日は令和元年8月1日)についての広告収益は、令和元年1 1月6日から令和2年2月6日までの93日間で合計1766円(1日当た り18.98円)であったことが認められる。
被控訴人トリニティ動画の削除により被控訴人が失った広告収益は、上記 のとおり1日当たり18.98円として算出するのが相当と認めるが、被控 訴人メランジ動画の上記収益単価は、投稿直後の4日間の広告収益に基づく ものである。広告収益は動画の視聴数等によって変動し得るところ、一般的 に、新たに投稿された動画の方が視聴者の耳目を集めやすく、投稿直後は視 聴数が多く、その後時間が経過するにつれて逓減する傾向があること自体は 否定し難いこと、編み物の編み方に関する動画の視聴は、季節柄、夏場には 視聴数が低くなる傾向がうかがわれ、通年で一定しているとはいい難いこと (甲83の1〜5)からすると、被控訴人メランジ動画の広告収益は、削除 後の当初30日間は1日当たり350円、その後は、被控訴人トリニティ動 画との対比を考慮して、1日当たり20円として被控訴人の損害を算定する のが相当と認める。
そうすると、本件侵害通知による被控訴人動画の削除により被控訴人が被 った広告収益に関する損害は、1万7929円(〔350円+18.98 円〕×30日+〔20円+18.98円〕×〔206日−30日〕)。端数 切捨て。)に限り、これを認めるのが相当である(なお、被控訴人動画の削 除又は復元の当日分については、一定程度の広告収益が得られている可能性がないではないが、特に上記認定を左右すべき事情ではない。)。\n
イ 被控訴人チャンネル全体の収益性の低下等 被控訴人は、被控訴人動画が本件侵害通知によって削除されたことは、被 控訴人チャンネルのステータスに影響を与え、被控訴人チャンネルの動画が 視聴者の画面に表示されにくくなったり、広告単価が低下したりするなどの不利益を生じさせ、被控訴人チャンネル全体の収益性を低下させている旨主\n張し、また、被控訴人チャンネルに対する視聴者の信頼が著しく低下し、視 聴数が減少して収益性が低下した旨主張する。
しかし、「YouTubeヘルプ」(甲8)において、著作権侵害の「警 告を複数回受けると収益化に影響を及ぼすおそれがあります。」との記載が されているものの、どのような場合にいかなる仕組みによって収益化に影響 を及ぼすかについては必ずしも明確になっているとは認められない。また、 被控訴人が影響を受けたとする被控訴人チャンネル全体の収益について、本 件侵害通知がされる前後、さらに被控訴人動画の復元後といった各時点の収 益が具体的にいかなるものであったかを認めるに足りる証拠は何ら提出され ておらず、被控訴人から数値を示すなどした具体的主張もされていない。Y ouTubeにおいては、各動画の収益に関する分析情報は期間を区切って 画面上に表示させることが可能\である(甲31、32、83の1〜5)から、 本件侵害通知がされる前後、被控訴人動画の復元後といった各時点で動画の 視聴数、収益等にいかなる変動があるかを立証することは容易であると認め られるにもかかわらず、被控訴人動画ないしチャンネルについてそうした立 証が全くされていないことに照らすと、本件侵害通知による被控訴人動画の 削除により被控訴人のチャンネル全体の収益性が低下するなどして被控訴人 が経済的損害を被ったとは認めるに至らないというべきである。

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令和4(ネ)10024  映画上映禁止及び損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年9月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

インタビュー形式の映画「主戦場」について、著作権侵害(人格権を含む)に基づいて差止などを求めました。1審は、原告の請求棄却、知財高裁も同じ判断です。

ア 控訴人らは、同一性保持権侵害の被侵害利益は、著作者の名誉感情であ るとし、被控訴人Yが、慰安婦問題というデリケートな問題を扱った本件 利用映像等5の一部を切り出し、音声を削除し、ナレーションを加えるこ とは、控訴人X2が客観的証拠もなく偏った主張を述べているにすぎない かのような印象を与えかねないし、また、本件利用映像等6は、控訴人X 2が著作者である本件外部映像等6のうち、日本における人種差別につい てことさらに騒ぎ立てる者がいることを述べた部分のみが利用されてい て、控訴人X2が、日本に人種差別が存在すると指摘すること自体を批判し ているかのような印象を与えかねないから、いずれも通常の著作者であれ ば名誉感情を害されるものであり、控訴人X2の同一性保持権を侵害する 旨主張する。
イ しかしながら、仮に同一性保持権侵害の被侵害利益に著作者の名誉感情 が含まれるとしても、それによっておよそ一切の改変が著作者の名誉感情 を侵害し、同一性保持権の侵害となると解すべき根拠はなく、著作物の性 質や利用行為の態様等を考慮して、同一性保持権侵害の有無を考慮すべき である。
本件利用映像等5、6は、ユーチューブ上の映像である本件外部映像等 5、6の一部である。ユーチューブ上の映像は、無料でいつでもだれでも 閲覧することができ、どの映像を見るかはもとより、映像の全部を見るの か一部を見るのか、映像のどの部分を見るのかを、閲覧者が自由に選択し て見ることができるという性質を有する。 本件利用映像等5、6は、本件利用映像等2、3の後、本件利用映像等 4が3秒間表示された後に表\示されるものであるところ、本件利用映像等 2、3には、左上部に「YouTube」という表示があり、「X2´」という著作 者名が表示されており、被控訴人Yは、本件利用映像等5に先立って、イ\nンターネット上の投稿でビデオを見つけた旨のナレーションを入れてお り、本件映画1のエンドクレジットの「利用した映像及び写真の出所」に、 控訴人X2の氏名、本件外部映像等5、6の題名、ユーチューブに投稿され た動画であることの記載があるから、本件映画1を見る者にとって、本件 外部映像等5、6がユーチューブ上の映像の一部であることは明らかであ り、著作者名や題名から本件外部映像等5、6を検索することは容易に可 能である(乙38)。\n
本件利用映像等5、6は、被控訴人Yが慰安婦問題に関心を有するよう になったきっかけとなった動画を作成した人物であり、本件映画1中のイ ンタビューの対象ともなっている控訴人X2がどのような人物であるかを 紹介することを目的とするものであり、控訴人X2の主張を誤って伝えるも のであるとは認められない。 その他、原判決第3の9(1)イないしエ(原判決68頁19行目から70 頁14行目まで)、同(2)イないしエ(原判決70頁23行目から72頁9行 目まで)に記載された事情も考慮すると、被控訴人らが本件利用映像等5、 6を利用して本件映画1を製作、上映することは、控訴人X2の名誉感情を 害するとは認められず、本件利用映像等5、6の作成は、いずれも「やむ を得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)であり、控訴人X 2の著作者人格権を侵害するものとは認められない。

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原審はこちら。

◆令和1(ワ)16040

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令和3(ワ)24148  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年11月24日  東京地方裁判所

 著作権侵害として、発信者情報の特定のための裁判費用も含めて242万円の損害賠償が認められました。引用であるとの主張は否定されました。

被告は、本件各記事による本件各動画の利用は適法な引用(法 32条 1項)に当たる旨を主張する。しかし、証拠(甲 7)及び弁論の全趣旨によれば、本件各記事は、いずれも、約 30 枚〜60 枚程度の本件各動画からキャプチャした静止画を当該動画の時系列に沿ってそれぞれ貼り付けた上で、各静止画の間に、直後に続く静止画に対応する本件各動画の内容を 1 行〜数行程度で簡単に要約して記載し、最後に、本件各動画の閲覧者のコメントの抜粋や被告の感想を記載するという構成を基本的なパターンとして採用している。各静止画の間には、上記要約のほか、被告による補足説明やコメント等が挟まれることもあるが、これらは、関連する動画(URL のみのものも含まれる。)やスクリーンショットを 1 個〜数個張り付けたり、1 行〜数行程度のコメントを付加したりしたものであり、概ね、各静止画及びこれに対応する本件各動画の内容の要約部分による本件各動画全体の内容のスムーズな把握を妨げない程度のものにとどまる。また、本件各記事の最後に記載された被告の感想は、いずれも十数行〜二十\数行程度であり、本件各動画それぞれについての概括的な感想といえるものである。
以上のとおり、本件各記事は、いずれも、キャプチャした静止画を使用 して本件各動画の内容を紹介しつつそれを批評する面を有するものではあ る。しかし、本件各記事においてそれぞれ使用されている静止画の数は約 30 枚〜60 枚程度という多数に上り、量的に本件各記事のそれぞれにおい て最も多くの割合を占める。また、本件各記事は、いずれも、静止画と要 約等とが相まって、4分程度という本件各動画それぞれの内容全体の概略 を記事の閲覧者が把握し得る構成となっているのに対し、本件各記事の最\n後に記載された投稿者の感想は概括的なものにとどまる。 以上の事情を総合的に考慮すると、本件各記事における本件各動画の利 用は、引用の目的との関係で社会通念上必要とみられる範囲を超えるもの であり、正当な範囲内で行われたものとはいえない。 したがって、本件各記事による本件各動画の利用は、適法な「引用」(法 32条1項)とはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。
イ 争点(2)(時事の事件の報道の抗弁の成否)について
被告は、本件各記事における本件各動画の利用は、社会において有用で 公衆の関心事となりそうな新しい事業を計画している一般企業家が存在す る事実及びその事業計画に対する投資家の判断・評価という近時の出来事 を公衆に伝達することを主目的とするものであり、時事の事件の報道(法 41 条)に当たる旨を主張する。 しかし、そもそも、本件各動画は、その内容に鑑みると、一般企業家が 投資家に対して事業計画のプレゼンテーションを行い、質疑応答等を経て、 最終的に投資家が出資の可否を決定するプロセス等をエンタテインメント として視聴に供する企画として制作されたものというべきであって、それ 自体、「時事の事件」すなわち現時又は近時に生起した出来事を内容とする ものではない。本件各記事は、前記認定のとおり、このような本件各動画 の内容全体の概略を把握し得るものであると共に、これを視聴した被告の 概括的な感想をブログで披歴したものに過ぎず、その投稿をもって「報道」 ということもできない。 したがって、本件各記事は、そもそも「時事の事件の報道」とは認めら れないから、適法な「時事の事件の報道のための利用」(法 41 条)とはい えない。この点に関する被告の主張は採用できない。
ウ 争点(3)(権利濫用の抗弁の成否)について
被告は、原告が「切り抜き動画」制作者による本件各動画の拡散を積極 的に利用して原告チャンネルの登録者数の増加を図り、実際にその恩恵を 享受しているにも関わらず、被告に対して本件各動画の著作権を行使する ことは権利の濫用に当たる旨を主張する。 しかし、証拠(甲 29)及び弁論の全趣旨によれば、原告が利用する「切 り抜き動画」とは、原告が、特定のウェブサイトで提供されるサービスを 通じて、原告チャンネル上の動画をより個性的に編集して自己のチャンネ ルに投稿することを希望するクリエイターに対し、その収益を原告に分配 すること等を条件に、当該動画の利用を許諾し、その許諾のもとに、クリ エイターにおいて編集が行われた動画であると認められる。他方、弁論の 全趣旨によれば、被告は、本件各動画の利用につき、原告の許諾を何ら受 けていないことが認められる。
そうすると、原告が「切り抜き動画」の恩恵を受けているからといって、 被告に対する本件各動画に係る原告の著作権行使をもって権利の濫用に当 たるなどと評価することはできない。他に原告の権利濫用を基礎付けるに 足りる事情はない。したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
2 争点(4)(原告の損害及びその額)
(1) 「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」
ア 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、映像の使用料又は映像からキャ プチャした写真の使用料に関し、以下の事実が認められる。
(ア) 映像からキャプチャした写真の使用料
NHK エンタープライズが持つ映像・写真等に係る写真使用の場合の素 材提供料金は、基本的には、メディア別基本料金及び写真素材使用料に より定められるところ(更にこの合計額に特別料率が乗じられる場合も ある。)、使用目的が「通信(モバイル含む)」の場合の基本料金は 5000 円(ライセンス期間 3 年)、写真素材使用料は、「カラー」、「一般写真」、 「国内撮影」の場合、1 カットあたり 2 万円とされている(甲 12)。 なお、共同通信イメージズも写真の利用料金に関する規定を公表して\nいるが(乙 12)、ウェブサイト利用についてはニュースサイトでの使用 に限ることとされていることなどに鑑みると、本件においてこれを参照 対象とすることは相当でない。
(イ) 映像の使用料
・・・・
イ 本件各動画については、前記「切り抜き動画」に係る利用許諾と原告へ の収益の分配がされていることがうかがわれるものの、その分配状況その 他の詳細は証拠上具体的に明らかでない。その他過去に第三者に対する本 件各動画の利用許諾の実績はない(弁論の全趣旨)。そこで、原告が本件各 動画の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(法 114 条 3 項)を算定するに当たっては、本件各動画の利用許諾契約に基づく利用料 に類するといえる上記認定の各使用料の額を斟酌するのが相当である。 被告による本件各動画の使用態様は、本件各動画をキャプチャした本件 静止画を本件各記事に掲載したというものである。そうすると、その使用 料相当額の算定に当たっては、映像からキャプチャした写真の使用料を定 める NHK エンタープライズの規定(上記ア(ア))を参照するのが相当とも 思われる。もっとも、当該規定がこのような場合の一般的な水準を定めた ものとみるべき具体的な事情はない。また、本件各記事は、いずれも、相 秒以上の部分について 500 円(いずれも 1 秒当たりの単価)である(甲 21)。
・・・
当数の静止画を時系列に並べて掲載すると共に、各静止画に補足説明を付 すなどして、閲覧者が本件各動画の内容全体を概略把握し得るように構成\nされたものである。このような使用態様に鑑みると、本件静止画の使用は、 映像(動画)としての使用ではないものの、これに準ずるものと見るのが むしろ実態に即したものといえる。
そうである以上、原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべき金 銭の額に相当する額(法 114 条 3 項)の算定に当たっては、映像の使用料 に係る各規定(上記ア(イ))を主に参照しつつ、上記各規定を定める主体の 業務や対象となる映像等の性質及び内容等並びに本件各動画ないし原告チ ャンネルの性質及び内容等をも考慮するのが相当である。加えて、著作権 侵害をした者に対して事後的に定められるべき、使用に対し受けるべき額 は、通常の使用料に比べて自ずと高額になるであろうことを踏まえると、 原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額 (法 114 条 3 項)は、合計 200 万円とするのが相当である。
ウ これに対し、被告は、原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべ き金銭の額に相当する額は著作権の買取価格を上回ることはないことを前 提とし、本件各動画の著作権の買取価格(3 万円)のうち本件各記事にお いて静止画として利用された割合(2%)を乗じたものをもって、原告の受 けるべき金銭の額である旨を主張する。 もとより、著作物使用料の額ないし使用料率は、当該著作物の市場にお ける評価(又はその見込み)を反映して定められるものである。しかし、 その際に、当該著作物の制作代金や当該著作物に係る著作権の譲渡価格が その上限を画するものとみるべき理由はない。すなわち、被告の上記主張 は、そもそもその前提を欠く。 したがって、その余の点につき論ずるまでもなく、この点に関する被告 の主張は採用できない。
(2) 発信者情報開示手続費用
本件のように、ウェブサイトに匿名で投稿された記事の内容が著作権侵害の不法行為を構成し、被侵害者が損害賠償請求等の手段を取ろうとする場合、権利侵害者である投稿者を特定する必要がある。このための手段として、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律により、発信者情報の開示を請求する権利が認められているものの、これを行使して投稿者を特定するためには、多くの場合、訴訟手続等の法的手続を利用することが必要となる。この場合、手続遂行のために、一定の手続費用を要するほか、事案によっては弁護士費用を要することも当然あり得る。そうすると、これらの発信者情報開示手続に要した費用は、当該不法行為による損害賠償請求をするために必要な費用という意味で、不法行為との間で相当因果関係のある損害となり得るといえる。本件においては、前提事実(5)のとおり、原告は、弁護士費用を含め発信者情報開示手続に係る費用として 167 万 440円を要したが、発信者情報開示手続の性質・内容等を考慮すると、このうち20万円をもって被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。

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令和4(ネ)10033  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年11月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 著作権侵害に関する発信者情報開示請求事件です。1審は、ツイート時のログイン時のIPアドレスに加えてそれ以外のツイート時のIPアドレスも、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断しました。これに対して、知財高裁は、「本件各投稿直前のログイン時のIPアドレス及びそのIPアドレスを使用して情報の送信がされた年月日及び時刻の情報を求める限度で理由有り」と、変更しました。

法4条の趣旨は、特定電気通信による情報の流通によって権利の 侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密\nに配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通 信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求す ることができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の\n権利の救済を図ることにあると解されること(最高裁平成21年(受)第1 049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁参照) に鑑みると、法4条1項の委任を受けた省令1号ないし8号の規定は、開示 の対象となる「侵害情報の発信者の特定に資する情報」を限定的に列挙した ものと解される。以上を前提に、本件ログイン時IPアドレス等が省令5号及び8号に該当するかどうかについて判断する。
(2) 認定事実
前記前提事実と証拠(甲32、58ないし63)及び弁論の全趣旨によれ ば、以下の事実が認められる。
ア 本件各投稿の日時
本件投稿1は、令和2年11月12日午前7時52分にアカウント1を 利用して、本件投稿2は、同月7日午前4時57分にアカウント2を利用 して、本件投稿3は、同年12月18日午後7時3分にアカウント3を利 用して、本件投稿4は、同日午前10時35分にアカウント4を利用して、 本件投稿5は、令和3年3月7日午後5時52分にアカウント5を利用し て、ツイッターのウェブサイトにそれぞれ投稿された。
イ 本件訴訟に至る経緯等
(ア) 被控訴人は、令和2年11月17日、アカウント1について、控訴 人を債務者とする発信者情報開示仮処分の申立て(東京地方裁判所令和\n2年(ヨ)第22121号)をし、令和3年2月17日、アカウント1 にログインした際のIPアドレスのうち、本件投稿1の直前のログイン 時以降、控訴人が保有するIPアドレス及びそのタイムスタンプの全て の開示を命じる仮処分決定(以下「本件仮処分決定1」という。)がされ た。その後、控訴人は、本件仮処分決定1につき本案の起訴命令の申立\nてをし、同月25日、起訴命令が発せられた。 また、被控訴人は、アカウント2ないし4について、控訴人を債務者 とする発信者情報開示仮処分の申立て(令和2年(ヨ)第22125号)\nをし、同年3月2日、控訴人が保有するログイン情報のうち、侵害情報 の投稿直前のログイン時のIPアドレス及びそのタイムスタンプの開示 を命じる旨の仮処分決定(以下「本件仮処分決定2」という。)がされた。 その後、控訴人は、本件仮処分決定2につき本案の起訴命令の申立てを\nし、同月29日、起訴命令が発せられた。
(イ) 被控訴人は、前記(ア)の各起訴命令を受けて、令和3年3月3日、 原審に本件訴訟を提起した。その後、被控訴人は、同年10月12日、 アカウント5について、発信者情報の開示を求める訴えの追加的変更を した。
(ウ) 被控訴人は、本件仮処分決定1に基づき、間接強制決定を求める申\n立てをし、同月19日、間接強制決定がされた。 また、被控訴人は、本件仮処分決定2に基づき、間接強制決定を求め る申立てをし、同月24日、間接強制決定がされた。\n
(エ) 原審は、令和3年11月9日、口頭弁論を終結し、令和4年1月2 0日、原判決を言い渡した。 その後、控訴人は、同年3月4日、本件控訴を提起した。
(オ) 控訴人は、令和4年5月26日、被控訴人に対し、アカウント1に ついて、本件投稿1の直前のログイン時(日本時間令和2年11月12 日午前7時44分49秒)以降、令和4年5月24日午後3時49分5 0秒までのログイン情報に係るIPアドレス及びタイムスタンプを、ア カウント2ないし4について、本件投稿2ないし4のそれぞれ直前のロ グイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ(アカウント2につき令和 2年11月7日午前4時46分29秒時、アカウント3につき令和2年 12月18日午前8時54分54秒時、アカウント4につき令和2年1 2月18日午前8時54分9秒時の各IPアドレス)を開示した。
(3) 本件ログイン時IPアドレス等の省令5号及び8号該当性について ア 省令5号及び8号の意義について (ア) 1)前記(1)のとおり、省令5号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アド レス」は、「侵害情報の発信者の特定に資する情報」を類型化したもの であること、2)前記(1)の法4条の趣旨に照らすと、被害者の権利行使 の観点から、開示される情報の幅は広くすることが望ましいが、一方で、 発信者情報は個人のプライバシーに深く関わる情報であって、通信の秘 密として保護されるものであることに鑑みると、被害者の権利行使にと って有益であるが不可欠ではない情報や開示することが相当とはいえ ない情報まで開示することは許容すべきではないと考えられ、このこと は、侵害情報の発信者によって行われた通信に係る情報であっても同様 であること、3)省令5号の「侵害情報に係る」との文言を総合考慮する と、同号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」とは、侵害情報の 送信に使用されたIPアドレス又は侵害情報の送信に関連する送信に 使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために 必要かつ合理的な範囲のものをいうと解するのが相当である。
次に、省令8号の「第5号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた 電気通信設備、…携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定 電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻」との文言に鑑み ると、省令8号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」とは、「省令 5号」の「アイ・ピー・アドレス」を使用して侵害情報の送信又はその 送信に関連する送信がされた年月日及び時刻をいうものと解するのが相 当である。
(イ) これに対し、被控訴人は、1)ツイッターにおいては、そのセキュリ ティの高さからログインした者が発信者であるという蓋然性が極めて高 い状況であり、特定のアカウントにログインしている以上、当該ログイ ンをした者は、発信者と同一人物であることが強く推認されるところ、 法4条の趣旨・規定ぶり、控訴人の提供するサービスの仕組みやセキュ リティの状況からすれば、ログイン情報等の開示において、発信者と投 稿者との主観的同一性が認められれば足り、通信間の客観的関連性は求 められていないというべきであるから、ツイッターへのログイン時のI Pアドレス等は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に 該当する、2)本件ログイン時IPアドレス等の全面開示を認めないこと は、被控訴人の知る権利(憲法21条1項、13条、32条)を侵害し 違憲であり、「権利行使を確保するための手続を国内法において確保」し なければならないとするWIPO著作権条約14条2項の要請にも反す るから、憲法適合解釈のもと、法及び総務省令を憲法21条1項、13 条、32条に適合的に解釈し、本件ログイン時IPアドレス等を全面的 に開示すべきである、3)令和4年10月1日に施行される規則において は、投稿前のログアウト情報や投稿後のログイン情報など論理的に投稿 そのものに供された可能性がない通信情報も含めてアカウント開設から\n閉鎖までの全ての情報が理論上開示され得ることが定められ、開示対象 の発信者情報について、侵害情報の投稿行為との客観的な関連性を求め ておらず、通信情報が侵害情報の発信者のものと認められる場合には開 示を肯定する立場をとっていることからすると、規則施行前の省令にお いても、ログイン情報等の開示において、発信者と投稿者との主観的同 一性が認められれば足り、通信間の客観的関連性は求められていないと いうべきである旨主張する。
しかしながら、1)及び2)については、法4条1項の委任を受けた省令 1号ないし8号の規定は、開示の対象となる「侵害情報の発信者の特定 に資する情報」を限定的に列挙したものと解されるところ、前記(ア)で 説示したとおり、省令5号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」 とは、侵害情報の送信に使用されたIPアドレス又は侵害情報の送信に 関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を 特定するために必要かつ合理的な範囲のものをいうと解するのが相当で あり、また、省令8号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」とは、 「省令5号」の「アイ・ピー・アドレス」を使用して侵害情報の送信又 はその送信に関連する送信がされた年月日及び時刻をいうものと解する のが相当であるから、ツイッターへのログイン時のIPアドレス等であ れば、省令5号及び8号に該当しないものであっても、法4条1項の「当 該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するということはできない。 そして、前記(ア)のとおり、前記(1)の法4条の趣旨に照らすと、被害 者の権利行使にとって有益であるが不可欠ではない情報や開示すること が相当とはいえない情報まで開示することは許容すべきではないと考え られ、このことは、侵害情報の発信者によって行われた通信に係る情報 であっても同様である。
また、控訴人が挙げる憲法の規定やそれらの趣旨を考慮したとしても、 被控訴人に、法律に定められていない発信者情報の開示を求める権利が あると解することもできない。 次に、3)については、ログイン情報に相当する「侵害関連通信」につ いて規定する規則5条柱書によれば、「法第五条第三項の総務省令で定め る識別符号その他の符号の電気通信による送信は、次に掲げる識別符号 その他の符号の電気通信による送信であって、それぞれ同項に規定する 侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」と規定し、ログイン情報 の開示において「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に限定 しており、被控訴人が述べるように、開示対象の発信者情報について、 侵害情報の投稿行為との客観的な関連性を求めておらず、通信情報が侵 害情報の発信者のものと認められる場合には開示を肯定する立場をとっ ているとまでいうことはできない。

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令和4(ネ)10019  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年10月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は、同一性保持権侵害と判断しましたが、知財高裁(2部)は「引用」に該当し、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に該当すると判断しました。リツイート最高裁判決(最判令和2年7月21日)とは結論、逆ですが、あの事件はリツートの元自体の侵害があったので、その意味では、事案が異なります。

イ 控訴人は、前記アの本件被控訴人イラスト1の利用について、「引用」に当 たり適法であると主張するので検討するに、適法な「引用」に当たるには、1)公正 な慣行に合致し、2)報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われ るものでなければならない(著作権法32条1項)。
ウ(ア) 本件ツイート1−1をみると、前記(2)のとおり、乙1の2イラストと本件 被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像2枚とともに、「これどうだろう ww」「ゆ るーくトレス? 普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」と の文言が投稿されており、これは、被控訴人作成の本件被控訴人イラスト1が、乙 1の2イラストをトレースして作成されたものである旨を主張するものであって、 本件被控訴人イラスト1を検証し、批評しようとするものであると認められるから、 本件投稿者1が本件被控訴人イラスト1を用いた目的は、批評にあるといえる。
(イ)a 次に、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用方法をみ ると、乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせて表示しているも\nの(本件投稿画像1−1−2、1−1−3)と、本件被控訴人イラスト1を含む複 数の被控訴人作成イラストを並べて表示しているもの(本件投稿画像1−1−4)\nがあり、これらの画像が、乙1の2イラストの画像(本件投稿画像1−1−1)と ともに前記(ア)の文言に添付されている。タイムライン上においては、原判決別紙タ イムライン表示目録記載1のとおり表\示されるなどしており、上記4枚の画像デー タは、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様に応じ\nて、その一部のみが表示されているが、各画像をクリックすると、本件投稿画像1\n−1−1〜1−1−4のとおりの画像が表示される。\n
b 本件投稿画像1−1−4は、被控訴人が作成した女性の横顔のイラストを2 枚含むものであるが、この2枚のイラストのうち1枚は本件被控訴人イラスト1で あり、もう一枚は本件被控訴人イラストと複製又は翻案の関係にあるものと認めら れるから、本件投稿画像1−1−4をそのまま、本件投稿画像1−1−1(乙1の 2イラスト)とともに利用することは、イラストの類似性を検証するために必要で あり、かつ、文章のみで表現するよりも客観性を担保できる態様で利用されている\nということができる。
c 本件投稿画像1−1−2及び1−1−3は、乙1の2イラストと本件被控訴 人イラスト1を重ね合わせた画像であるが、2枚のイラストないし画像の類似性を 検討するに当たり、2枚のイラストを、それぞれのイラストが判別可能な態様で重\nね合わせ表示するのは検証のために便宜でかつ客観性を担保できる態様で利用され\nているということができ、加えて、当該画像には下部分に各イラストの色の濃さを 操作したことを示唆するアプリケーションの画面部分が記載されており、閲覧者を して、これらの画像が、2枚のイラストを重ね合わせたものであることや、色の濃 さが操作されていることが分かるような態様で示されている。本件では、本件投稿 画像1−1−2では乙1の2イラストの方を濃く表示し、本件投稿画像1−1−3\nでは本件被控訴人イラスト2の方を濃く表示しているが、このような表\示方法は、 2枚のイラストを重ね合わせた画像において、それぞれのイラストを判別して比較 するために資するといえる。
d そうすると、本件ツイート1−1の一般の読者にとって、本件ツイート1− 1における被控訴人のイラストの利用態様は、記事の内容を吟味するために便宜で かつ客観性を担保することができるものであるということができる。 そして、上記利用態様からすると、本件ツイート1−1において、被控訴人が作 成したイラストが、独立した鑑賞目的等で利用されているというような事情はなく、 本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストを比較検証する目的を超えて利用がさ れているとはいえない。
e したがって、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用方法は、 前記(ア)の引用の目的である批評のために正当な範囲内で行われていると認めるの が相当である。
(ウ) 証拠(乙5の1〜5、60、63、89、110の1、120の4・5)に よると、第三者が著作権を有するイラストや写真をトレースすることにより、イラ スト等を作成した可能性がある旨の事実を主張する場合に、記事中に、1)問題とな るイラスト等とトレース元と考えられるイラスト等を、比較するためにそのまま又 は比較に必要な部分において示すことや、2)2枚のイラストを重ね合わせて示すこ とは広く行われていることであり、また、前記(イ)のとおり、このように示すことは、 本件ツイート1−1の一般の読者にとって記事の内容を吟味するために便宜でかつ 客観性を担保することができる手法であるということができる。 上記に加え、後記(5)のとおり同一性保持権侵害の観点からも本件ツイート1− 1における被控訴人のイラストの利用が違法ということはできないことに照らすと、 本件ツイート1−1において、被控訴人作成のイラストを添付したことは、公正な 慣行に合致しているということができる。
(エ) そうすると、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用は「引 用」として適法である。
エ 以上によると、本件ツイート1−1の投稿による著作権侵害について、「権 利侵害の明白性」は認められない。
(5) 著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)について
ア 前記(2)のとおり、1)本件ツイート1−1に添付された画像のうち、本件投稿 画像1−1−2及び1−1−3は、本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストを 重ね合わせたものであり、また、2)ツイッターのタイムライン上に表示された本件\nツイート1−1における本件投稿画像1−1−2〜1−1−4は、被控訴人作成の イラストの一部のみが表示されているから、それぞれ、被控訴人のイラストの改変\n又は切除に当たると解する余地がある。
イ しかしながら、1)については、著作物がイラストであって重ね合わせて用い ることで、引用の目的である批評のために便宜でありかつ客観性が担保できること に加え、その利用の目的及び態様に照らすと、著作権法20条2項4号の「やむを 得ないと認められる改変」に当たるといえる。
ウ 次に、2)についてみると、証拠(甲49、乙113〜119、120の1・ 2、121の1・2)によると、ツイッターのタイムライン上の表示は、ツイッタ\nーの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様により決定されるもの\nであって、投稿者が自由に設定できるものではなく、投稿者自身も投稿時点では、 どのような表示がされるか認識し得ないこと、投稿後も、ツイッターの仕様又はツ\nイートを表示するクライアントアプリの仕様が変更されると、タイムライン上の表\ 示が変更されること、ツイートに添付された画像データ自体は当該ツイートを閲覧 したユーザーの端末にダウンロードされており、タイムライン上の画像をクリック すると、画像の全体が表示されることが認められることに照らすと、投稿者が改変\n主体に当たるかという点を措くとしても、タイムライン上の表示が画像の一部のみ\nとなることは、ツイッターを利用するに当たり「やむを得ないと認められる改変」 に当たるというべきである。
エ そうすると、本件ツイート1−1の投稿による著作者人格権侵害(同一性保 持権侵害)について、「権利侵害の明白性」は認められない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和2年(ワ)24492号

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令和4(ワ)12062 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 令和4年11月17日 東京地方裁判所

 ファスト映画の配信について総額5億円の損害賠償が認められました。計算は、ライセンス相当額(著作権法114条3項)です。賠償額を含めて被告は原告の主張を全て認めてます。原告は13名であり、合計するとちょうど5億円というのは偶然なのでしょうね。

弁論の全趣旨によれば、YouTubeの利用者がYouTube上でストリーミング形式により映画を視聴するためには所定のレンタル料を支払う必要があることが認められる。再生対象の映画の著作権者は、当該レンタル料から著作権の行使につき受けるべき対価を得ることを予定しているものと理解されることから、本件において、原告らが本件各映画作品に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、YouTube上で視聴する場合の本件各映画作品それぞれのレンタル価格等を考慮して定める金額に、本件各動画のYouTube上での再生数を乗じて算定するのが相当である。
(2)YouTubeにおける本件各映画作品の各レンタル価格(HD画質のもの)は、1作品当たり400〜500円程度であり、400円を下らないこと、うち30%がYouTubeに対するプラットフォーム手数料に充当されること、本件各動画は、それぞれ、約2時間の本件各映画作品を10〜15分程度に編集したものであるものの、本件各映画作品全体の内容を把握し得るように編集されたものであることは、いずれも当事者間に争いがない。これらの事情を総合的に考慮すると、被告らが本件侵害行為によって得た広告収益が700万円程度であること(当事者間に争いがない)を併せ考慮しても、「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(法114条3項)は、原告らの主張のとおり、本件各動画の再生数1回当たり200円とするのが相当である。

◆判決本文

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令和4(ネ)10011  商号使用差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年9月27日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 会社名を示すロゴについて著作物性無しと判断されました。原審の最後に問題の標章があります。

著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学\n術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)。そ して、商品又は営業の出所を表示するものとして文字から構\成される標章 は、商品又は営業の出所を示すという実用的な目的で作出され、使用され るものであり、その保護は、商標法又は不正競争防止法により図られるべ きものである。文字からなる商標の中には、外観や見栄えの良さに配慮し て、文字の形や配列に工夫をしたものもあるが、それらは、文字として認 識され、かつ出所を表示するものとして、見る者にどのように訴えかける\nか、すなわち標章としての機能を発揮させるためにどのように構\成するこ とが適切かという実用目的のためにそのような工夫がされているもので あるから、通常は、美的鑑賞の対象となるような思想又は感情の創作性が 発揮されているものとは認められない。商品又は営業の出所を表示するも\nのとして文字から構成される標章が著作物に該当する場合があり得ると\nしても、それは、商標法などの標識法で保護されるべき自他商品・役務識 別機能を超えた顕著な特徴を有するといった独創性を備え、かつそれ自体\nが、識別機能という実用性の面を離れて客観的、外形的に純粋美術と同視\nし得る程度の美的鑑賞の対象となり得る創作性を備えなければならない というべきである。
・・・
商標法などの標識法で保護されるべき自他商品・役務識別機能を超えた\n顕著な特徴を有するといった独創性を備え、かつそれ自体が、識別機能と\nいう実用性の面を離れて客観的、外形的に純粋美術と同視し得る程度の美 的鑑賞の対象となり得る創作性を備えるものとは認められないから、著作 権法により保護されるべき著作物に該当するとは認められない。
ア 控訴人は、Bは、控訴人標章に、単なるロゴタイプ・デザインを超えた 美の表現・印象を強く感じ、ウェブでの被控訴人商品の販売に利用したい\nと考えて控訴人標章を模倣したものであり、このことからしても、控訴人 標章には個性があり著作物性があると主張する(前記第3の2(1)〔控訴人 の主張〕ア)。 しかし、Bは、被控訴人商品に関する事業を実施するに当たり、同事業 に対するBの様々な意図や願望を込め、禅宗の僧侶等にも相談するなどし て「アノワ」という語を含む被控訴人商号を考案して商号変更し、さらに そのローマ字表記である「ANOWA」を含む被控訴人商品の名称(「AN\nOWA41」)を考案したものと認められ(乙11)、控訴人標章を被控訴 人商品に使用するために、被控訴人の商号を、控訴人標章の「ANOWA」 の読みである「アノワ」とし、ドメイン名を「ANOWA」を含む「AN OWA41」としたものであることを認めるに足りる証拠はない。 したがって、Bが控訴人標章を模倣したと認めることはできず、控訴人 の上記主張は、その前提を欠き、採用することはできない。
イ 控訴人は、不正競争防止法によればTシャツの柄は保護の対象となるか ら、デザインも保護すべきであり、著作権法によってもデザインを保護す べきであると主張する(前記第3の2(1)〔控訴人の主張〕イ)。 しかし、Tシャツの柄が不正競争防止法による保護の対象となる場合が あるとしても、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するもの\nであるから、著作権法によって当然にデザインの全てが保護されるべきで あるとはいえないし、標章は、Tシャツのデザインと性質を異にするもの であるから、控訴人の上記主張に基づいて、控訴人標章が著作権法により 保護されるということはできない。
ウ 控訴人は、控訴人標章は、文字を用いるものであるが、控訴人のロゴタ イプとしての利用を目的としてデザインされたものであり、控訴人の商号 と一致するアルファベットを強調していること、文字は誰でも使用できる ものであるから文字を強調するロゴタイプ・デザインは全て著作物とはな りえないとする合理的理由はないことを主張する(前記第3の2(1)〔控訴 人の主張〕ウ)。 しかし、控訴人標章は、標章としての機能を発揮させるためにどのよう\nに構成することが適切かという実用目的のために工夫がされているもの\nであり、美的鑑賞の対象となるような思想又は感情の創作性が発揮されて いるものとは認められないから、美術その他の範囲に属する著作物には該 当しないものというべきであり、控訴人の上記主張を採用することはでき ない。
エ 控訴人は、控訴人標章はポスターと等価値であり、著作権法制定当時、 ポスターは著作物又は著作物の複製として扱われるというのが著作権法 の解釈であったから、控訴人標章も著作権法上保護されるべきであると主 張する(前記第3の2(1)〔控訴人の主張〕エ)。 しかし、控訴人標章は、商品又は営業の出所を表示する標章であり、商\n標法や不正競争防止法の保護の対象となる余地があり得るとしても、ポス ターと等価値であるとはいえないから、控訴人の上記主張は、採用するこ とができない。
オ 控訴人は、控訴人標章が一品制作の図又は絵であるとしたら創作性のあ ることは議論の余地がなく、漫画の特徴的な表現を含む一こまを模倣して\nも著作権侵害となるのに、ロゴタイプ・デザイン(量産品の原画)である が故に著作権法の保護の対象とならない、あるいは高度の創作性がなけれ ば著作権法の保護の対象とならないというのは、著作権法上の著作物の定 義に反すると主張する(前記第3の2(1)〔控訴人の主張〕オ)。 しかし、控訴人標章は、商品又は営業の出所を表示する標章であり、商\n標法や不正競争防止法の保護の対象となる余地があり得るとしても、一品 制作の図又は絵や漫画とは性質を異にするから、控訴人の上記主張は、採 用することができない。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆令和2(ワ)19840

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令和3(受)1112 音楽教室における著作物使用に関わる請求権不存在確認請求事件 令和4年10月24日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 知的財産高等裁判所

 音楽教室における演奏について、1審は生徒の演奏も先生の演奏も著作権侵害と判断しましたが、知財高裁は「後者は公衆への演奏、前者は公衆への演奏ではない」と判断しました。最高裁は、「生徒の演奏は演奏権侵害にはならない」と、知財高裁の判断を維持しました。

2 本件は、被上告人らが、上告人を被告として、上告人の被上告人らに対する本件管理著作物の著作権(演奏権)の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権等が存在しないことの確認を求める事案である。本件においては、レッスンにおける生徒の演奏に関し、被上告人らが本件管理著作物の利用主体であるか否かが争われている。
3 所論は、生徒は被上告人らとの上記契約に基づき教師の強い管理支配の下で演奏しており、被上告人らは営利目的で運営する音楽教室において課題曲が生徒により演奏されることによって経済的利益を得ているのに、被上告人らを生徒が演奏する本件管理著作物の利用主体であるとはいえないとした原審の判断には、法令の解釈適用の誤り及び判例違反があるというものである。
4 演奏の形態による音楽著作物の利用主体の判断に当たっては、演奏の目的及び態様、演奏への関与の内容及び程度等の諸般の事情を考慮するのが相当である。
被上告人らの運営する音楽教室のレッスンにおける生徒の演奏は、教師から演奏技術等の教授を受けてこれを習得し、その向上を図ることを目的として行われるのであって、課題曲を演奏するのは、そのための手段にすぎない。 そして、生徒の演奏は、教師の行為を要することなく生徒の行為のみにより成り立つものであり、上記の目的との関係では、生徒の演奏こそが重要な意味を持つのであって、教師による伴奏や各種録音物の再生が行われたとしても、これらは、生徒の演奏を補助するものにとどまる。
また、教師は、課題曲を選定し、生徒に対してその演奏につき指示・指導をするが、これらは、生徒が上記の目的を達成することができるように助力するものにすぎず、生徒は、飽くまで任意かつ自主的に演奏するのであって、演奏することを強制されるものではない。 なお、被上告人らは生徒から受講料の支払を受けているが、受講料は、演奏技術等の教授を受けることの対価であり、課題曲を演奏すること自体の対価ということはできない。
これらの事情を総合考慮すると、レッスンにおける生徒の演奏に関し、被上告人らが本件管理著作物の利用主体であるということはできない。
5 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、いずれも事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

◆判決本文
控訴審はこちら

◆令和2年(ネ)第10022号
1審はこちら

◆平成29(ワ)20502等

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令和3(ワ)30051  損害賠償請求事件  その他  民事訴訟 令和4年9月28日  東京地方裁判所

 放送局における番組中のナレーションが原告ブログに依拠しているかについて、著作物性を立証していないとして、著作者人格権による損害賠償請求が棄却されました。興味深いのは、被告が、既存の文章をほぼ転載したものであることを謝罪する旨の文章をウェブサイトにて掲載している点です。

原告は、被告によって、原告文章を無断転載して制作した本件番組が放送 されたことにより、原告の名誉が毀損される可能性が生じて、原告の平穏な\n日常を阻害され、原告が、これに対応するために金銭的及び時間的な負担を 負い、精神的苦痛を被り、人格権が侵害されたとして、不法行為に基づく損 害賠償を請求するものと理解することができる。そこで、この理解を前提に、 被告による本件番組の放送が原告の「権利又は法律上保護される利益を侵害 した」(民法709条)といえるか否かについて検討する。
前記前提事実(2)及び(3)のとおり、被告が原告文章に依拠して本件ナレー ション等を作成した結果、本件ナレーション等は、原告文章と類似しており、 原告文章中の「以下省略」といった比較的特徴のある表現についてもほぼ同\nじ内容となっている。そして、被告が、本件番組において本件ナレーション 等を流すことについて、原告から事前の了解を得ていたことや、本件番組を 放送するに当たり、原告文章が掲載されている原告ウェブサイトを参照した 旨を表示したことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告の上記行\n為は、公共の放送事業者として不適切なものであったといわざるを得ない。
また、原告が主張するように、原告ウェブサイト中の文章は、分かりやす く面白いものとなるように配慮され、独自性を有していると評価し得ること や、被告が放送法で定められた公共の放送事業者であることからすると、本 件番組を視聴した者が、原告文章を見たとき、被告が無断転載をするはずが ないと考えて、むしろ原告ウェブサイトの方が無断転載をしていると疑う可 能性を否定することはできない。しかし、前記前提事実(4)のとおり、被告は、本件番組が放送された4日後には、本件番組に係るウェブサイトにおいて、本件ナレーション等が既存の文章をほぼ転載したものであることを謝罪する旨の文章を掲載しており、こ れは、上記のような誤解が生じることを防止し得る措置であるといえる。そ して、本件全証拠によっても、実際に、上記のような誤解が広まったとは認 められない。しかも、名誉毀損が成立するためには、人の社会的評価を低下 させる事実を摘示することが必要であるところ、将棋の対局マナーについて 述べた本件ナレーション等において、原告の社会的評価を低下させる事実が 摘示されたとは認められない。そうすると、原告の主張する名誉毀損の可能\n性については、いまだ抽象的なものにとどまるものといわざるを得ない。
また、原告の主張に係る平穏に日常生活を送る利益について、上記のとお り、原告の懸念する誤解が実際に広まったとは認められず、原告の名誉が毀 損される可能性も抽象的なものに留まることに照らせば、被告に対する損害\n賠償請求を可能とする程度に、原告の平穏な日常生活が害されたということ\nはできず、不法行為の成立要件である「権利又は法律上保護される利益」の 「侵害」を認めることはできないというべきである。 なお、被告が原告文章と類似する本件ナレーション等を含む本件番組を放 送したことが原告の権利を侵害するかは、本来、原告文章に著作物性が認め られ、原告文章に係る原告の著作権又は著作者人格権が侵害されたと認めら れるかという観点から検討すべきであるということができる。しかし、原告 は、本件訴訟において、著作権及び著作者人格権が侵害されたことを主張し ないとしていることから、その要件についての具体的な主張立証がされてい ないため、著作権侵害及び著作者人格権侵害の事実を認めることはできない。 (2) 以上によれば、本件番組の放送により、原告の人格権が侵害されたとは認 められず、また、原告文章に係る原告のそのほかの権利が侵害されたと認め

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令和1(ワ)16040  映画上映禁止及び損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年1月27日  東京地方裁判所

 インタビュー形式の映画「主戦場」について、著作権侵害(人格権を含む)に基づいて差止などを求めました。パブリシティの権利の侵害、修士卒論と聞いて了承したが商業映画だったとか、修正主義者のように紹介されたなどの事情もあるようです。裁判所は、原告の請求を認めませんでした。

原告らは,被告Fは,政治プロパガンダ映画である本件映画1を制作し, これを商業映画として有料で一般公開することを計画していたにも関わらず, あたかも真摯な学術研究目的であるかのように装うなど前記第2の4(14)(原 告らの主張)のとおり欺罔行為を行い,原告らをその旨誤信させて原告らに\n取材に応じるという役務を提供させたと主張する(争点7)関係)。また,原 告らは,本件各許諾について,被告Fは,原告らに対する取材映像を利用し て商用映画(本件映画1)を製作しようと考えていたが,原告らに対しては, これを秘し,上智大学大学院の修士課程の一環である卒業制作のための真摯 な学術研究目的の活動であると説明して原告らを欺罔したため,原告らはそ\nの旨誤信して,本件各書面を作成したものであり,本件各書面による本件各 許諾は,詐欺取消し又は錯誤無効により存在しない旨主張する(争点1)−2 関係)。
以下,原告ら主張の被告Fの欺罔行為の有無について,検討する。\n
(2)ア 原告らは,大学院生である被告Fから,卒業制作として大学院に提出す るドキュメンタリー映画の製作に協力してほしいと頼まれたことや,製作 された映画が商用映画になるとは説明を受けていなかったことから,取材 に協力し,また,本件各映像の利用について本件各許諾をした旨の供述等 をする(原告C,原告D,原告E,甲6,7,35〜38,41)。
イ 被告Fが,原告らに対して取材に協力するよう求めた際の説明の内容等 は,原告Eについて前記1(2)ア,原告Cについて同(3)ア,原告Dについて 同(4)ア,原告Bについて同(5)ア,原告Aについて同(6)アのとおりである。 被告Fは上記の際,上智大学大学院の学生であることを述べて,「歴史 問題の国際化」についてドキュメンタリーを作成していてそのために取 材をさせてほしいことを述べた。また,その際,それが学術研究である こと,卒業プロジェクトであることを述べたりもしたこともあった。
(3) ここで,被告Fは,前記依頼の当時,実際に上智大学大学院の学生であっ て,修士論文に代わる映像作品として従軍慰安婦問題に関する映画を作成す ることとし,その映画ではこの問題において重要な役割を果たしていると考 えた者たちに対する取材映像を映画の主たる部分とすることを構想し(前記\n1(1)),この問題において重要な役割を果たしていると考える原告らへの取 材を行い,その際の映像である本件各映像を用いて,本件卒業制作映画を完 成して,これを修士論文に代わるものとして上智大学大学院に提出した(同 (7))。そして,被告Fは,本件卒業制作映画に,音楽,アニメーション,字 幕等を追加し,一部を訂正するなど,軽微な編集を加えて鑑賞性を高めて本 件映画1としたものであり,本件映画1は,本件卒業制作映画と,内容,構\n成において同じであって(前同),本件各書面にいう被告Fが製作する「歴 史問題の国際化に関するドキュメンタリー映画」(前記第2の2(2)イ)に該 当する。
被告Fは,当初から良い映画が製作できた場合には映画祭に応募すること を視野に入れてはいたが(この点は後記(4)で検討する。),上記のとおり, 本件各映像を利用して被告Fが製作した映画である本件卒業制作映画は,実 際に修士論文に代わるものとして大学院に提出されたのであり,本件映画1 も本件卒業制作映画と内容,構成において同じものである。したがって,被\n告Fが,原告らに取材を依頼したり本件各書面の作成を求めたりした際に, 上智大学大学院の学生として行うものであり,学術研究として作成されるも のであることを述べるなどしたこと自体は,被告Fが虚偽を述べたとはいえ ない。
(4) 被告Fは,当初から良い映画が製作できた場合には映画祭等に応募するこ とも視野に入れていた。もっとも,原告らに取材をした時点では,具体的な 映画の配給が決まっていたわけではなく,その後,本件映画1を応募したも ののその上映を断った映画祭もあった(前記1(1),(7))。被告Fは,原告E及び原告Dに対しては,同原告らが,被告Fの開設するユーチューブチャンネルの登録者など欧米の視聴者や研究者,学術世論に対して意見を発信できる場所を提供したいなどとして取材を申し込んでおり(同(2)ア,(4)ア),本件映像が大学への提出以外にも使用されることがあることを述べていた。そして,被告Fは,原告E,原告B及び原告Aとの間では「被告F又はその指定する者が,日本国内外において,映画を配給,上映,展示若しくは公共に送信し,又は,映画の複製物を販売,貸与することができる」旨が記載されている書面を,原告C及び原告Dとの間では「映画の公開前に,同原告らに確認を求める」旨が記載されている書面を交わした(本件各書面)(前記第2の2(2)イ,前記1(2)〜(6))。
原告らが署名押印した本件各書面は,文言上,被告Fが製作する映画につ いて,「配給」,「上映」,「販売」されることがあることや,「公開」さ れることがあることを前提とするものである。原告C書面及び原告D書面は, 原告Cが当初被告Fが示した承諾書案への署名を留保したり,原告Dが過去 にメディアから特定の観点だけを切り取られたりしたことなどを述べて被告 Fと合意書案の修正についてのやりとりをした上で,原告C及び原告Dが署 名押印したものであり,映画が公開される場合における被告Fの義務等が具 体的に定められているものである。本件各書面の上映や公開が,商用として の上映,公開を含まないことをうかがわせる記載はない。 そして,被告Fが,原告らに対して取材を申し込み,また,本件各書面へ\nの署名押印を求めるに当たって,本件各映像を利用して製作する映画が一般 に,場合によっては商用として,公開される可能性が排除されると述べたこ\nとは認められないし,被告Fがその可能性を秘匿したと認められる状況も認\nめられない。
また,その後,被告Fは,本件各映像を利用して製作した本件映画1が映 画祭で上映されたり,日本国内で上映されたりすることについて,自ら事前 に原告らに知らせていた。すなわち,被告Fは,平成30年9月30日には, 本件各映像を利用して製作した本件映画1が釜山国際映画祭において上映さ れる予定であること,将来日本と韓国で更に上映される可能\性があることを 各原告に対して告知し,平成31年2月28日には,本件映画1が日本国内 において上映される予定であることを,各原告に対し事前に告知した(前記\n1(8))。そして,上記の告知に対して,いずれの原告らからも一般に又は商 用として公開されることについて許諾をしていないなどとの抗議がされるこ とはなかった。むしろ,原告D及び原告Bは被告Fに対し祝意を表し,原告\nDは試写会に参加し(同ウ,エ),原告Aは,ツイッターに本件映画1の日 本国内における公開等を宣伝する好意的な投稿をしたほか,試写会に参加し て毎日新聞社の取材に感想を述べるなどした(同オ)。その後,原告らは, 本件映画1の上映中止を求めるようになったが,それは,本件映画1が日本 国内において上映されるようになり,原告らがそれぞれ本件映画1を鑑賞し その内容を認識した後,又は,その内容を認識してから少し経過した後であ る平成31年4月から令和元年5月頃からである(同(8),(9))。
以上のとおり,被告Fは,原告らに取材を依頼した際,製作した映画を映 画祭に応募することも考えていたが,具体的な映画の配給についての話はな かったところ,原告らとの間でも,取材の結果を一般に公開する話が出たこ ともあった。また,原告らと被告Fとの間の本件各書面には,製作した映画 の配給,上映や公開についても記載されていた。本件各書面に記載された映 画の上映や公開が商用での公開を含まないことをうかがわせる記載もない。 被告Fが,取材の依頼の際や本件各書面への署名押印の依頼に当たり,商用 を含む公開の可能性を排除したり,その可能\性を秘していたりしたとは認め られない。また,被告Fは,映画祭や日本国内での本件映画1の上映に先立 ち,その上映を原告らに告知し,原告らもそれに抗議をすることはなかった。 これらによれば, 被告Fが,製作した映画が原告らに対する取材の時点 から一般に,場合によっては商用として公開されることがあることを秘して いたということはできず,被告Fが原告ら主張の欺罔行為を行ったとは認め\nられない。原告らは,本件各映像を利用して製作される映画が一般に,場合 によっては商用として公開される可能性をも認識した上で,被告Fに対し本\n件各許諾をしたものと認められる。
(5) 以上によれば,被告Fが,原告らに対して取材を申し込み,また,本件各\n書面への署名押印を求めるに当たって,原告らが主張する欺罔行為によって\n原告らを欺罔したとは認めるに足りず,本件各許諾をするに当たって原告ら\nに錯誤があったとも認めるに足りない。 したがって,本件各許諾は詐欺により取り消され又は錯誤により無効であ\nるか(争点1)−3),及び,被告Fが,原告らを欺罔して取材に応じるとい\nう役務の提供をさせたか(争点7))について,原告らの主張には理由がない。

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令和4(ネ)10005 損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年6月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 違法ダウンロードサイト「漫画村」に広告を出していた広告代理会社に対して、1審では、1100万円の損害賠償が認められました。知財高裁も同様の判断をしました。

ア 争点1−1(本件行為の幇助行為該当性等)について
・・・
a 控訴人らは、本件行為が本件ウェブサイトの運営者側に対して著作権侵害行 為自体を直接誘発し、又は促進するものではないから幇助行為には当たらないと主 張するが、訂正して引用した原判決の第3の1(2)アのとおり、広告料収入をほとん ど唯一の資金源とするという本件ウェブサイトの実態を踏まえると、本件行為は、 本件ウェブサイトの運営者において、原告漫画のうち既にアップロードしたものの 掲載を継続するとともに、さらにアップロードする対象を追加することを直接誘発 し、また促進するものというのが相当であるから、控訴人らの上記主張は採用する ことができない。 上記に関し、控訴人らは、幇助の適用範囲が広がりすぎて不当であるとも主張す るが、本件ウェブサイトの上記実態を無視して一般論として幇助の範囲が拡大され ることを前提とした主張にすぎず、また、客観的に幇助行為に該当することから直 ちに幇助行為について不法行為責任を問われるものでもないから、控訴人らの上記 主張も前記認定判断を左右するものではない。
b 控訴人らは、本件行為が既にアップロードされていたものについて、公衆送 信権の侵害行為を助長する行為とはいえないと主張するが、訂正して引用した原判 決の第3の1(2)アのとおり、上記主張も採用することができない。また、本件行為 を幇助行為とみることは本件ウェブサイトの運営自体を公衆送信権侵害行為と捉え ることである旨をいう控訴人らの主張や、平成13年最判で認められた幇助の解釈 と整合しないとの控訴人らの主張も、本件において判断の前提とすべき事情の理解 を誤るものであって採用できない。
c 控訴人らは、控訴人らが支払っていた広告料が本件ウェブサイトの運営者の 広告料収入のわずかな割合しか占めるものでなかったと主張するが、同主張の前提 となる割合を証拠上直ちに認めるに足りるかという点をおくとしても、前記のよう に広告料収入がほとんど唯一の資金源であったという本件ウェブサイトの実態に加 え、当該実態に照らすと、最終的に本件ウェブサイトの運営者に支払われる広告料 の金額の多寡にかかわらず広告を本件ウェブサイトに提供するとの行為自体が同運 営者による著作権侵害行為を助長するものであったというべきこと(なお、甲7及 び弁論の全趣旨によると、ウェブサイトの運営者に支払われていた広告料は、掲載 した広告の数等、広告の量によって単純に定められるものではなく、広告として掲 載された商品の広告を見た利用者が商品を購入したことが支払額に影響するなど、 広告の提供の程度と広告料の支払額は直接的に対応するものではなかったことがう かがわれる。また、広告主が拠出した広告料から広告代理店が差し引く手数料等の 額が多くなればなるほど、ウェブサイトの運営者に支払われる広告料が少なくなっ ていたことも容易に推測される。)のほか、後記イで認定判断する控訴人らの主観 的態様に照らしても、控訴人らが主張する前記の事情は、共同不法行為者間の求償 に係る問題にすぎず、被控訴人に対する不法行為責任がないことを基礎づける事情 にはならないというべきである。
・・・
イ 争点1−3(控訴人らの故意又は過失の有無)について
・・・
「(ア) まず、1)平成29年に至るまでの間に、広告収入が違法サイトの収入源と なっていることが大きな問題とされ、広告配信会社の多くにおいても一定の方法で 広告を出したサイトに違法な情報が掲載されていないかを調べるなどの手段を講じ ていたことや、官民共同の取組として、海賊版サイトを削除するという対策を継続 的に行うほか、周辺対策として広告出稿抑止にも重点的に取り組んでいくことが確 認されていたことが指摘できる。そのような状況において、2)本件ウェブサイトに ついては、平成29年4月までの時点で、登録不要で完全無料で漫画が読めるとさ れるサイトであり、検索バナーが必要な程度に大量の漫画が掲載されていることが 一見して分かる状態にあったもので、ツイッター上でも、違法性を指摘するツイー トが複数されていたところであった。また、3)本件ウェブサイトについては、遅く とも平成29年5月10日時点において、日本の著作物について、著作権が保護さ れないという前提で掲載されていること等が閲覧者に容易に分かる状態となってい た。 控訴人エムエムラボは、「MEDIADII」を利用して本件ウェブサイトに広告 の配信を開始するに当たり、本件ウェブサイトの表題及びURLの提示を受け、運\n用チームにおいて、それらを含む情報に基づいて登録の可否を審査して承諾し、手 動で広告の配信設定をしたものであるところ、前記1)〜3)の事情を踏まえると、遅 くとも平成29年5月までの時点で、控訴人らにおいては、本件ウェブサイトに掲 載された多数の漫画が著作権者の許諾を得ることなく掲載されているものであるこ とや、そのように違法に掲載した漫画を無料で閲覧させるという本件ウェブサイト が広告料収入をほぼ唯一の資金源とするものであること、それゆえ控訴人らが本件 ウェブサイトに広告を提供し広告料を支払うことは本件ウェブサイトの運営者によ る著作権侵害行為を支える行為に他ならないことを、容易に推測することができた というべきである。
そうすると、控訴人らは、遅くとも平成29年5月時点で、本件ウェブサイトの 運営者に著作権者との間での利用許諾の有無等を確認して適切に対処すべき注意義 務、又は、そもそもそのような確認をするまでもなく本件ウェブサイトの「MED IADII」への登録を拒絶すべき注意義務(既に本件ウェブサイトの「MEDIA DII」への登録作業を終えていた場合にはそれに係る契約を解除するなどして対応 すべき注意義務)を負っていたというべきであり、それにもかかわらず、本件行為 を遂行したことについて、控訴人らには少なくとも過失があったと認められる。 上記に関し、控訴人らが平成29年5月時点で上記の注意義務を怠り、その後、 安易に本件行為を継続的に遂行していたことは、控訴人グローバルネットが海賊サ イト対策の取組を推進していたJIAAの会員であり、また、「MEDIADII」 の利用規約によると本件ウェブサイトが第三者の著作権を侵害するものである場合 にはその利用に係る契約を解除し得る旨が定められていたにもかかわらず、その後、 同年10月31日に控訴人らの取引先に係る違法サイト「はるか夢の址」の運営者 の逮捕が報道されたり、本件ウェブサイトの違法性が社会的により大きく取り上げ られ、平成30年2月2日には取引先から本件ウェブサイトが海賊版サイトである と記載した上での問合せを受けたといった事情があった中でも、控訴人らにおいて、 本件ウェブサイトへの「MEDIADII」を利用した広告の提供等の当否について 検討したことが一切うかがわれず、かえって、取引先に対し、「漫画村」という名 称を明記しつつ、同年3月2日には本件ウェブサイトへの広告の掲載が可能である\nと回答したり、同月23日には広告の効果がいいという根拠の一つとして本件ウェ ブサイトの保有を挙げたりしていたもので、ようやく同年4月13日に本件ウェブ サイトを名指ししてブロッキングを行うという方針を政府が表明して以降に初めて\n本件ウェブサイトへの配信停止の検討を開始したといった事情によっても裏付けら れているというべきである。」

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◆令和3(ワ)1333

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令和3(ワ)23928  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年4月15日  東京地方裁判所

 写真がトリミングされてSNSに投稿されたことが、同一性保持権および氏名表示権侵害として、約24万円の損害賠償が認められました。複製・公衆送信権侵害などは争われていません。

 前記前提事実(1)のとおり、原告が撮影した原告写真1及び2は「写真の著 作物」(著作権法10条1項8号)に該当するから、原告は、原告写真1及 び2に係る同一性保持権を有するところ、前記前提事実(3)のとおり、被告は、 原告写真1の上下左右を正方形になるようにトリミングして被告写真1を、 原告写真2の上下左右を正方形になるようにトリミングして被告写真2を、 それぞれ作成したものである。 したがって、被告は、原告写真1及び2に係る原告の同一性保持権を侵害 したと認めるのが相当である。
(2) これに対して、被告は、原告写真1及び2の中央位置はそのままにし、イ ンスタグラムの仕様に合わせて正方形にトリミングしたものであり、原告写 真1及び2の創作性及び特徴を害したものではないし、「やむを得ないと認 められる改変」(著作権法20条2項4号)に該当すると主張する。 そこで検討するに、原告写真1及び2は、列車が川に架かる鉄橋を走行す る様子を、列車をほぼ中心に据え、周囲に霧のかかった川及び連なる山々を 配置し、列車と比較して周囲の川及び山を大きく写すような横長の構図で撮\n影されたものであり、これらの点について創作性を認めることができる。そ して、被告写真1及び2は、上記のような原告写真1及び2の上下左右をト リミングして正方形にし、それらに写し出された左右の山を大きく切り取っ たものである。そうすると、被告が被告写真1及び2を作成したことにより、 原告写真1及び2について、その著作者である原告の意に反し、上記のとお り創作性の認められる表現部分に実質的な改変が加えられたことは明らかで\nあって、これが原告写真1及び2の創作性及び特徴を害さないものというこ とはできない。 また、本件全証拠によっても、被告が被告のインスタグラム上のアカウン トにおいて掲載するために原告写真1及び2をトリミングすることについて、 正当な理由を基礎付ける事実は認められないから、被告による上記改変が 「やむを得ないと認められる改変」に該当するとは認められない。
・・・
前記前提事実(1)のとおり、原告が撮影した原告写真1及び2は「写真の著 作物」に該当するから、原告は、原告写真1及び2に係る氏名表示権を有す\nるところ、被告は、前記前提事実(3)のとおり、原告写真1及び2をそれぞれ トリミングして被告写真1及び2を作成した上、前記前提事実(4)のとおり、 被告のツイッター上のアカウントにおいて、原告の氏名を表示することなく\n被告写真1の掲載を含む本件投稿1をし、また、被告のインスタグラム上の アカウントにおいて、原告の氏名を表示することなく被告写真1及び2の掲\n載を含む本件投稿2及び3をしたものである。 したがって、被告は、原告写真1及びに2に係る原告の氏名表示権を侵害\nしたと認めるのが相当である。
(2) これに対して、被告は、原告写真1及び2には原告に著作権があることを 示す原告のウォーターマークの表示はなく、被告がこれを削除したものでは\nないし、被告写真1に記載された「B以下省略」は被告のアカウント名でも 本名でもないから、これによって被告写真1の著作権者が被告であると理解 されるとはいえないと主張する。 しかし、氏名表示権とは、「その著作物の公衆への提供若しくは提示に際\nし、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表\示し ないこととする権利」(著作権法19条1項)をいうところ、前記前提事実
(4)のとおり、被告写真1及び2の掲載を含む本件投稿1ないし3において、 原告の氏名は表示されていなかったものであり、原告写真1及び2に原告の\n氏名が記載されていなかったからといって、原告が、原告写真1及び2を公 衆に提示するに際し、自身の氏名を著作者名として表示しない意思を有して\nいたということはできず、本件全証拠によっても、そのような意思を有して いたとは認められない。

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令和3(ネ)10074  債務不存在確認請求控訴事件  著作権 民事訴訟 令和4年4月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ファイル共有ソフトBitTorrentによる動画のダウンロードについて訴訟です。損害賠償請求不存在確認訴訟です。知財高裁は、1審とほぼ同額の損害賠償を認めました。ファイル共有ソフトによるダウンロードは、分散しているデータをまとめた完全なファイルのダウンロードが完了すると、その後は、シーダー(ダウンロードさせる者)の責任(共同侵害)も課せられます。\n

 イ 一審原告ら(一審原告X6及び一審原告X10を除く。)は、同一審原告らが 本件著作物をアップロードしたことの立証に欠けると主張するが、訂正の上引用し た原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2(4)のとおり、一審被告 は、BitTorrentを利用して本件著作物をアップロード及びダウンロード している者のIPアドレスを特定し、プロバイダから、上記IPアドレスに対応す る契約者の氏名及び住所の開示を受けていることが認められ、証拠(乙13の2・ 3・6・7)によると、プロバイダの回答書にIPアドレス並びに一審原告X2、 一審原告X4、一審原告X3、A、一審原告X7、一審原告X9の氏名及び住所の 記載があり、これら一審原告らの氏名及び住所の開示を受ける過程において、IP アドレスの混同がないことが認められる。なお、Aとの記載が、一審原告X8の行 為に係るものであることについては当事者間に争いがない。また、一審原告X1の 氏名及び住所が記載された株式会社TOKAIコミュニケーションズからの通知書 (乙13の1)には、IPアドレスの記載はないものの、「添付ファイル「接続記録 リスト」 No.49〜58」との記載があり、同記載は、一審被告作成の「調査結果一覧 (株式会社TOKAIコミュニケーションズ)」と題する書面(乙11の1)の49 〜58行目に対応するものと推認され、乙11の1の記載からIPアドレスの特定 ができることから、IPアドレスの混同がないことが認められる。そうすると、前 記(1)のとおり立証がされていないと認められる一審原告X5及び一審原告X11 を除き、一審原告ら(一審原告X6及び一審原告X10を除く。)について、本件著 作物をアップロードしたことについての立証がされていると認めるのが相当である。
(2) 争点1−2(共同不法行為性)について
ア 本件で、一審原告X1らは、本件各ファイルを、BitTorrentを利 用して送信可能な状態におくことで、一審被告の著作権を侵害した。ところで、訂\n正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2(3)のとお り、BitTorrentを利用してファイルをダウンロードする際には、分割さ れたファイル(ピース)を複数のピアから取得することになるところ、後掲の証拠 によると、一部のピアのみが安定してファイルの供給源となる一方で、大半のピア は短時間の滞在時(BitTorrentの利用時)に一時的なファイルの供給源 の役割を担うものとされるが、一審原告X1らは、常にBitTorrentを利 用していたものではないことから、一時的なファイルの供給源の役割を担っていた と考えられること(甲12、15、21)、あるトラッカーが、特定の時点で把握し ているリーチャーとシーダーの数は0〜5件程度と、特定時点における特定のファ イルに着目した場合には必ずしも多くのユーザー間でデータのやり取りがされてい るものではないこと(乙2〜4、8〜10)、BitTorrentを利用したアッ プロードの速度は、ダウンロードの速度よりも100倍以上遅く、また、ファイル の容量に比しても必ずしも大きくなく、例えば本件各ファイルの容量がそれぞれ8. 8GB、7.0GB、2.3GBであるのに照らしても、アップロードの速度は平 均0〜17.6kB/s程度(本件著作物以外の著作物に関するものを含む。)と遅 く、ダウンロードに当たっては、相当程度の時間をかけて、相当程度の数のピアか らピースを取得することで、1つのファイルを完成させていると推認されること(甲 5、6、乙2〜4、6)がそれぞれ認められる。これらの事情に照らすと、Bit Torrentを利用した本件各ファイルのダウンロードによる一審被告の損害の 発生は、あるBitTorrentのユーザーが、本件ファイル1〜3の一つ(以 下「対象ファイル」という。)をダウンロードしている期間に、BitTorren tのクライアントソフトを起動させて対象ファイルを送信可能\化していた相当程度 の数のピアが存在することにより達成されているというべきであり、一審原告X1 らが、上記ダウンロードの期間において、対象ファイルを有する端末を用いてBi tTorrentのクライアントソフトを起動した蓋然性が相当程度あることを踏\nまえると、一審原告X1らが対象ファイルを送信可能化していた行為と、一審原告\nX1らが対象ファイルをダウンロードした日からBitTorrentの利用を停 止した日までの間における対象ファイルのダウンロードとの間に相当因果関係があ ると認めるのも不合理とはいえない。
そうすると、一審原告X1らは、BitTorrentを利用して本件各ファイ ルをアップロードした他の一審原告X1ら又は氏名不詳者らと、本件ファイル1〜 3のファイルごとに共同して、BitTorrentのユーザーに本件ファイル1 〜3のいずれかをダウンロードさせることで一審被告に損害を生じさせたというこ とができるから、一審原告X1らが本件各ファイルを送信可能化したことについて、\n同時期に同一の本件各ファイルを送信可能化していた他の一審原告X1ら又は氏名\n不詳者らと連帯して、一審被告の損害を賠償する責任を負う。 なお、控訴人(一審原告)らは、原判決が、一審原告X1らが送信可能化した始\n期から終期までの期間のダウンロード数をひとまとめで判断したことが不相当であ る旨主張するが、原判決は、当該期間のダウンロード数をもってひとまとめの損害 が生じたと認定したものではなく、1ダウンロード当たりの損害額を認定した上で、 当該期間にダウンロードされた本件各ファイルの数を推定して、推定したダウンロ ード数に応じた損害額を算定しているのであって、この手法は相当である。
イ 控訴人(一審原告)らは、原判決が、一審原告らがBitTorrentの 仕組みを十分認識・理解していたと認定したことについて事実誤認であると主張す\nるところ、訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判 断」の1(2)のとおり、控訴人(一審原告)らは、BitTorrentを利用して ファイルをダウンロードした場合、同時に、同ファイルを送信可能化していること\nについて、認識・理解していたか又は容易に認識し得たのに理解しないでいたもの と認められ、少なくとも、本件各ファイルを送信可能化したことについて過失があ\nると認めるのが相当である。 そうすると、控訴人(一審原告)らが、本件著作物の送信可能化に関し、不法行\n為責任を負うとした原判決の判断は相当である。
(3) 争点2−1(共同不法行為に基づく損害の範囲)について
ア 一審被告は、本件各ファイルが最初にBitTorrentにアップロード されて以降の権利侵害の全てについて、一審原告らが責任を負う旨主張するが、一 審原告らと本件各ファイルをアップロードしている他の一審原告ら又は氏名不詳者 との間に共謀があるものでもないのであるから、一審原告らは、BitTorre ntを利用して本件各ファイルのダウンロードをする前や、BitTorrent の利用を終了した後においては、本件著作物について権利侵害行為をしていないの は明らかである。また、本件各ファイルの送信可能化による損害は、1ダウンロー\nドごとに発生すると考えられるところ、一審原告らがBitTorrentの利用 をしていない時期におけるダウンロードについてまで、一審原告らの行為と因果関 係があるなどということはできない。そうすると、一審原告らは、BitTorr entを利用して本件各ファイルのダウンロードをする前及びBitTorren tの利用を終了した後については、本件著作物の権利侵害について責任を負わない というべきであり、一審被告の上記主張は採用できない。
イ 一審原告X1らによる本件各ファイルのアップロードの終期について、別紙 「損害額一覧表」の「終期」欄記載の日(プロバイダからの意見照会を受けた日)\nと認定できるのは、訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁 判所の判断」2(3)記載のとおりである。これは、一審原告X1らの陳述書(甲15、 20の1)に基づき認定したものであるが、プロバイダからの意見照会を受けたこ とで怖くなり、BitTorrentのクライアントソフトを削除したり、Bit\nTorrentの利用を控えるのは通常の行動であり、上記各陳述書の内容に不自 然な点はない。
ウ 一審原告らは、BitTorrentの利用者が、ファイルのアップロード を24時間継続することはまずないことや、シーダーやピアが数百以上散在してい ることなどを踏まえ、本件の損害額については、例えば原判決の認定する額の10 0分の1などとして算定すべきと主張する。しかしながら、前記(1)及び(2)に判示 したとおり、一審原告X1らは、BitTorrentを利用して本件各ファイル をダウンロードしてから、BitTorrentの利用を停止するまでの間の本件 各ファイルのダウンロードによる損害の全額について、共同不法行為者として責任 を負うと認めることが相当である。また、BitTorrentの仕組みに照らす と、本件各ファイルのダウンロードキャッシュを削除するか、BitTorren tの利用を停止するまでの間は、一審原告X1らの端末にダウンロード済みの本件 各ファイルが送信可能な状態にあったのであるから、一審原告X1らが本件各ファ\nイルのダウンロードキャッシュを削除したこと又はBitTorrentの利用を 停止したことが認められる時点までは、一審原告X1らの不法行為は継続していた と認めるのが相当であり、本件では、一審原告X1らが、別紙「損害額一覧表」の\n「終期」欄記載の日よりも前の特定の日に、本件各ファイルのダウンロードキャッ シュを削除したことを認めるに足りる証拠はない一方で、一審原告X1らが、同別 紙の「終期」に記載の日より後はBitTorrentの利用をしていないことが 認められるから、同日までの間は、一審原告X1らは、本件各ファイルの送信可能\n化による不法行為を継続していたと推認することが相当である。 ところで、一審原告らは、正確なダウンロード数についての立証がない旨指摘す るが、正確なダウンロード数は不明であるものの、一審原告X1らが本件各ファイ ルを送信可能化していた期間におけるダウンロード数は、令和元年10月1日から\n令和3年5月18日までの間にダウンロードされた数から、別紙「損害額一覧表」\nの「5)期間中のダウンロード数」のとおりに推計することができるから、本件にお いては、当該ダウンロード数の限度で立証されているというべきである。

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◆令和2(ワ)1573

◆別紙1

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令和2(ワ)11834  損害賠償等請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年1月27日  大阪地方裁判所

 漏れていたのでアップします。原告のイラストをテレビに自作イラストとして投稿して、放映された事件で、著作権侵害として、34万円の損害賠償が認められました。著作権侵害の場合、特許などと異なり、故意・過失が侵害認定要件となっていますが、「検索サイトによる画像検索等の方法により特定の画像の制作者等を特定することは,特別の専門的知識等がなくとも比較的容易」と判断されています。  原告は,平成28年6月19日,自ら作成した本件イラストを原告筆名の名義で 開設する SNS「ツイッター」のアカウント(以下「原告アカウント」という。) により投稿してこれを公表した。\nまた,原告は,同年10月頃,イラスト集(以下「本件イラスト集」という。) を出版したが,本件イラスト集には掲載されたイラストの著作者名として原告筆名 が表示され,また,本件イラストもこれに掲載されている。\nさらに,本件イラストは,令和元年9月10日以降,「コンビニプリント」と称 するサービスにより,全国のコンビニエンスストアでその複製物を購入し得るよう になっているところ,そのサービス提供に当たり,原告筆名が著作者名として表示\nされている。(以上につき甲5〜8,当裁判所に顕著な事実)
・・・
前提事実(第2の2(2))によれば,原告は,本件イラストの著作者とし て,その著作権及び著作者人格権を有する者と認められる。 にもかかわらず,被告が,本件応募行為等に際し,本件データを原告に無断で 複製していまじんに提供し,また,いまじんに対し本件イラストの著作者が「X 2」である旨を伝えたことにより,本件番組の放送に際してはその旨の表示がさ\nれ,原告の実名又は原告筆名は著作者として表示されなかった。\n
イ 被告の故意又は過失の有無(争点1)
被告は,本件イラストの著作者ではなく,また,その主張を前提としても, SNS を通じて知り合っただけの人物から同人の作品としてデータの提供を受けた にとどまる。 本件応募フォーム,とりわけ本件注意書の記載内容(前記1(1))に鑑みれば, 本件番組がオリジナル作品の制作者本人による応募を前提とするものであること は容易に理解される。また,この趣旨を踏まえれば,仮に制作者本人以外の者が 応募する場合であっても,応募者が制作者本人の承諾等を得た上で応募すべきこ とが求められることも,やはり容易に理解し得る。さらに,日テレ及びその系列 局で本件番組が放送されること及び放送日時等も踏まえれば,本件番組が多くの 視聴者により視聴されることも容易に予想される。\n他方,昨今のインターネットをめぐる状況を踏まえると,SNS その他ウェブサ イト等を通じて,他人が作成したイラスト等の画像データを入手することは事実 上容易であり,また,検索サイトによる画像検索等の方法により特定の画像の制 作者等を特定することは,特別の専門的知識等がなくとも比較的容易である。
以上のような事情を踏まえれば,被告は,本件応募行為等に際し,本件イラス トに係る他人の著作権及び著作者人格権を侵害することのないよう,インターネ ット上の画像検索等の客観性を有する適切な方法により,その著作者ないし著作 権者を確認すべき注意義務を負っていたことが認められる。にもかかわらず,被 告は,その主張を前提としても,単に被告に本件データを提供した人物(P3) に本件イラストが同人の作品であることなどを直接電話等で確認したにとどま る。そうである以上,被告には,本件イラストに係る著作権(複製権)及び著作 者人格権(氏名表示権)の各侵害行為について,少なくとも過失が認められる\n(なお,原告は,複製権侵害につき,明示的には被告の故意を主張するにとどま るが,その主張全体の趣旨から,過失の主張も包むものと理解される。)。これ に反する被告の主張は採用できない。

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令和3(ワ)1333    著作権 令和3年12月21日  東京地方裁判所

 東京地裁47部は、漫画閲覧サイトにおける公衆送信について、被告らの行為が原告漫画の売上減少に寄与した割合は,約1%として、1000万円の損害を認めました。 0.1を乗じているのは、印税(10%)です。

 前記認定のとおり,原告漫画1の累計発行部数(紙媒体による書籍,電子書籍及 び複数巻を一つにまとめた新装版を含む。以下同じ。)は約2000万部,原告漫画 2の累計発行部数は約370万部であり,原告漫画の1冊当たりの販売価格は46 2円であって,原告漫画の売上額は,およそ109億4940万円となるところ, 原告漫画の著作権者であると認められる原告が受けるべき使用料相当額は,原告漫 画の上記のような発行部数等に照らし,同売上額の10パーセントと認めるのが相 当である。 ところで,本件ウェブサイトによる原告漫画が無断掲載されたことにより,原告 漫画の正規品の売上が減少することが容易に推察され,原告漫画においても,発売 日翌日に本件ウェブサイト上にその新作が掲載されていたことによれば,新作が無 料で閲覧できることにより,読者の原告漫画の購買意欲は大きく減退するというべ きである一方,被告らの行為は,本件ウェブサイトによる原告漫画の違法な無断掲 載を,広告の出稿や広告料支払という行為によって幇助したものにとどまること, 原告漫画2の上記累計発行部数は令和2年1月頃までのものであって,本件ウェブ サイトが閉鎖された平成30年4月より後の期間における原告漫画2の売上げに関 して被告らの行為との間の関連性を認めることができないことその他本件に顕れた 一切の事情に照らして検討すれば,被告らの本件における行為が原告漫画の売上減 少に寄与した割合は,約1パーセントと認めるのが相当である。 これらの事情に鑑みると,本件ウェブサイトによる原告漫画に係る著作権(公衆 送信権)侵害行為を被告らが幇助したことと相当因果関係が認められる原告の損害 額は,1000万円(≒109億4940万円×0.1×0.01)と認めるのが 相当である。

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令和3(ネ)10008  謝罪広告等請求控訴事件  その他  民事訴訟 令和3年12月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 芸能人が、私立大学に裏口入学をしたこと等を内容とする記事のネット配信、車内広告などが名誉毀損およびパブリシティ権の侵害であるとしてする出版社を訴えました。1審は440万の損害賠償を認めました。知財高裁はこの判断を維持しました。

当裁判所は,原審裁判所と同じく,一審被告の主張に係る違法性阻却事由は 認められないと判断する。その理由は,次のとおりである。
(1) 民事上の不法行為である名誉毀損については,その行為が公共の利害に関 する事実に係り専ら公益を図る目的に出た場合には,摘示された事実が真実 であることが証明されたときは,右行為には違法性がなく,不法行為は成立 しないものと解するのが相当であり,もし,右事実が真実であることが証明 されなくても,その行為者においてその事実を真実と信じるについて相当の 理由があるときには,右行為には故意もしくは過失がなく,結局,不法行為 は成立しないものと解するのが相当である(最高裁昭和41年6月23日第 一小法廷判決・民集20巻5号1118頁)。 この点について一審被告は,「一審原告の父親が,一審原告を日大に裏口 入学させた」という事実が真実であり,又は真実であると信じるにつき相当 の理由があること,当該事実の摘示が公共の利害に関する事実に係ること, 当該事実の摘示が専ら公益を図る目的でされたことを主張して,名誉毀損に よる不法行為責任を否定する。 以下,検討する。
(2)事実の公共性及び目的の公益性について
この点に関して,一審原告は,単に一審原告が著名人であるという理由だ けで「公共性」を満たすことには全くならないから,本件各記事は,そもそ も公共の利害に関する事実には当たらず,公益を図る目的がないことも明ら かである旨主張する。 しかしながら,一審原告は,もともとは「B」の一員として世に出たが, 本件各証拠によれば,本件各記事等の掲載の時点までには,テレビ番組の司 会者を務めたり,雑誌等のインタビュー記事や自らの著書等において政治や 社会に関する発言を公にしたりしていることが認められるから,一審原告の 経歴や人柄にかかわる事実は,一定程度,不特定多数人が関心を寄せてしか るべき公共の利害に関する事実に当たるというべきである。また,そのよう な人物につき,社会一般では非難の対象となる裏口入学という事実が存在し ていたのであれば,それを広く報道することは,経歴に関する不正を正そう とする行為と認められるから,一定程度,公益を図る目的に出たものという べきである。 したがって,本件各記事等の掲載は,公共の利害に関する事実に係るもの であり,専ら公益を図る目的でされたものと認められる。 もっとも,一審原告が現実に公職に就いたことはない上に,公職への応募 や立候補を企図していることをうかがわせる証拠もないのであるから,公共 の利害に関する程度はさして高いものではない。また,大学への裏口入学と いう事実が仮にあったとしても,未成年の当時のことである上に,一審原告 の現在の活動に対する評価は学歴によって左右される性質のものでもないか ら,公益にかかわる程度は高いものではないというべきである。
(3) 真実性又は真実と信ずるについての相当の理由の存否について
本件各記事等に記載された内容は,本件経営コンサルタントから聴き取っ た内容として編集スタッフがまとめた乙17録取書に依存しているものであ る。しかるに,本件経営コンサルタントについてはその特定は必ずしも十分\nであるとはいえず,また,後述のとおり,乙17録取書に同人の供述内容が 正確に録取されていることの担保はなく,乙17録取書の内容の真実性を基 礎付けるに足りる証拠は乏しく,かえって,乙17録取書の内容には客観的 事実及び証拠に矛盾する点が多い上に,一般的な経験則に照らして不自然な 内容も多い。これらの点に照らすと,乙17録取書の内容に依存している本 件各記事等の内容,特に,「一審原告の父親が,一審原告を日大に裏口入学 させた」という事実が真実であることの証明があったとはいえない。 また,乙17録取書に依存した内容の本件各記事等を公にすることによる 影響(一審原告の社会的評価の低下等)の大きさに比して,実際に一審被告 において行った取材の期間・経過やその内容等は前記1のとおりであって, 後述のとおり,編集スタッフにおいて,本件経営コンサルタントの陳述につ き十分な検討や裏付け取材を行ったとはいえない。そうすると,一審被告に\nおいて,本件各記事等の内容を真実と信じるについての相当な理由があった (以下,このことを「相当性」という。)とは認められない。 以下,当審における一審原告の主張も踏まえて,詳述する。
・・・
オ 小括
上記イないしエに説示したことを考慮すると,一審被告は本件経営コン サルタントの供述(乙17録取書)と矛盾せず積極的にその信用性を基礎 付けるには足りない取材結果のみを積み重ね,それに基づいて本件経営コ ンサルタントの供述が信用できるものと軽信したものといわざるを得ない から,編集スタッフが得た取材結果等は本件各記事等の内容の真実性を裏 付けるものではなく,また,真実と信じるについて相当の理由があると認 めることもできないというべきである。なお,このことは,真実性の証明 の対象事実として,一審被告が主張する事実(すなわち,亡父が本件経営 コンサルタントを通じて裏口入学のための手段を尽くした結果として一審 原告を日芸演劇学科に入学させたという事実)を前提としても,その内容 に照らし,左右されるものではない。

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◆平成30(ワ)26219

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令和2(ワ)1573  債務不存在確認請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年8月27日  東京地方裁判所

 ファイル共有ソフトの使用者に対して、公衆送信権侵害が認められました。\n

ア 以上のとおり,原告X1,原告X2及び原告X3は本件ファイル1を, 原 告X4,原告X6,原告X7及び原告X8は本件ファイル2を,原告X9及 び原告X10は本件ファイル3を,それぞれ,BitTorrentを通じ てダウンロードしたものと認められる(以下,ダウンロードを行ったと認め られる上記各原告を「原告X1ら」という。)。 そして,前記前提事実2(3)のとおり,BitTorrentは,リーチャ ーが,目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても,既に所 持しているファイルの一部(ピース)を,他のリーチャーと共有するために アップロード可能な状態に置く仕組みとなっていることに照らすと,原告X\n1らは,ダウンロードしたファイルを同時にアップロード可能な状態に置い\nたものと認められる。
イ 前記前提事実のとおり,BitTorrentは,特定のファイルをピー スに細分化し,これをBitTorrentネットワーク上のユーザー間で 相互に共有及び授受することを通じ,分割された全てのファイル(ピース) をダウンロードし,完全なファイルに復元して,当該ファイルを取得するこ とを可能にする仕組みであるということができる。\n これを本件に即していうと,原告X1らが個々の送受信によりダウンロー ドし又はアップロード可能な状態に置いたのは本件著作物の動画ファイル\nの一部(ピース)であったとしても,BitTorrentに参加する他の ユーザーからその余のピースをダウンロードすることにより完全なファイ ルを取得し,また,自己がアップロード可能な状態に置いた動画ファイルの\n一部(ピース)と,他のユーザーがアップロード可能な状態に置いたその余\nのピースとが相まって,原告X1ら以外のユーザーが完全なファイルをダウ ンロードすることにより取得することを可能にしたものということができ\nる。そして,原告X1らは,BitTorrentを利用するに際し,その 仕組みを当然認識・理解して,これを利用したものと認めるのが相当である。
以上によれば,原告X1らは,BitTorrentの本質的な特徴,す なわち動画ファイルを分割したピースをユーザー間で共有し,これをインタ ーネットを通じて相互にアップロード可能な状態に置くことにより,ネット\nワークを通じて一体的かつ継続的に完全なファイルを取得することが可能\nになることを十分に理解した上で,これを利用し,他のユーザーと共同して,\n本件著作物の完全なファイルを送信可能化したと評価することができる。\n したがって,原告X1らは,いずれも,他のユーザーとの共同不法行為に より,本件著作物に係る被告の送信可能化権を侵害したものと認められる。\nウ(ア) これに対し,原告らは,アップロード可能な状態に置いたファイルが全\n体のごく一部であり,個々のピースは著作物として価値があるものではな いから,原告らの行為は著作権侵害に当たらないと主張するが,上記イで 判示したとおり,原告X1らによる行為は,他のユーザーと共同して本件 著作物を送信可能化したものと評価できるから,原告らの主張は採用する\nことができない。
(イ) 原告らは,ファイルを送信する側は,自らがファイルをアップロード可 能な状態に置いていることを認識していないことも多いと指摘するが,原\n告X1らは,BitTorrentを利用するに当たって,前記前提事実 (3)イ記載のような手続を踏み,各種ファイルやソフトウェアを入手して\nいる以上,BitTorrentの基本的な仕組みを理解していると推認 されるのであって,とりわけ,BitTorrentにおいて,ユーザー がダウンロードしたファイル(ピース)について同時にアップロード可能\nな状態に置かれることは,その特徴的な点であるから,これを利用した原 告X1らがこの点を認識していなかったとは考え難い。
(ウ) 原告らは,送信可能化権侵害の主張に関し,ユーザー間における本件著\n作物に係るファイルの一部(ピース)の授受を中継した可能性やダウンロ\nードを開始した直後に何らかの事情でダウンロードが停止した可能性が\nあり,原告らが本件著作物を送信可能な状態に置いたと評価することはで\nきないと主張する。 しかし,BitTorrentにおいて,ユーザーがダウンロードした ファイル(ピース)について同時にアップロード可能な状態に置かれるこ\nとは,前記判示のとおりであり,原告X1らがこれを中継したにすぎない ということはできず,また,本件各ファイルのダウンロードの開始直後に ダウンロードが停止したことをうかがわせる証拠もない。
(エ) 原告らは,シーダーとして本件著作物の動画ファイルの配布を行ったも のではなく,原告X6や原告X10の共有比に照らしても,被告の主張す るダウンロード総数の全部や主要な部分を惹起したということはできな いので,民法719条1項前段を適用する前提を欠くと主張する。 しかしながら,そもそも,民法719条1項前段は,個々の行為者が結 果の一部しか惹起していない場合であっても,個々の行為を全体としてみ た場合に一つの加害行為が存在していると評価される場合に,個々の行為 者につき結果の全部につき賠償責任を負わせる規定であるから,仮に個々 の原告がアップロード可能な状態に置いたデータの量が少なく,結果に対\nする寄与が少なかったとしても,そのことは,原告X1らの共同不法行為 責任を否定する事情にはならないというべきである。
エ 以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,原告X1らが本件各フ ァイルをアップロード可能な状態に置いた行為は,本件著作物に係る被告の\n送信可能化権を侵害することになる。\n
2 争点2−1(共同不法行為に基づく損害の範囲)について
(1) 被告は,本件著作物の侵害は,本件各ファイルの最初のアップロード以降継 続しており,社会的にも実質的にも密接な関連を持つ一体の行為であることな どを理由として,原告らがBitTorrentを利用する以前に生じた損害 も含め,令和2年4月2日当時のダウンロード回数について,原告らは賠償義 務を負う旨主張する。しかしながら,民法719条1項前段に基づき共同不法行為責任を負う場合であっても,自らが本件各ファイルをダウンロードし又はアップロード可能な\n状態に置く前に他の参加者が行い,既に損害が発生しているダウンロード行為 についてまで責任を負うと解すべき根拠は存在しないから,被告の上記主張は 採用することはできない。
また,被告は,BitTorrentにアップロードされたファイルは,サ ーバからの削除という概念がないため,永遠に違法なダウンロードが可能であ\nるとして,現在に至るまで損害は拡大している旨主張する。 しかし,前記前提事実(3)ウのとおり,BitTorrentは,ソフトウェ\nアを起動していなければアップロードは行われないほか,BitTorren t上や端末の記録媒体からファイルを削除すれば,以後,当該ファイルがアッ プロードされることはないものと認められる。 そうすると,原告X1らがBitTorrentを通じて自ら本件各ファイ ルを他のユーザーに送信することができる間に限り,不法行為が継続している と解すべきであり,その間に行われた本件各ファイルのダウンロードにより生 じた損害については,原告X1らの送信可能化権侵害と相当因果関係のある損\n害に当たるというべきである。他方,端末の記録媒体から本件各ファイルを削 除するなどして,BitTorrentを通じて本件各ファイルの送受信がで きなくなった場合には,原告X1らがそれ以降に行われた本件各ファイルのダ ウンロード行為について責任を負うことはないというべきである。
(2) アップロードの始期について
ア 以上を前提に検討するに,証拠(甲6)によれば,原告X6については, 遅くとも平成30年6月4日までには本件ファイル2をアップロード可能\nな状態に置いていたことが認められる。
イ 原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X7,原告X8,原告X 9及び原告X10については,BitTorrentを通じて本件各ファイ ルのダウンロードを開始した時期は明らかではないものの,証拠(乙11)に よれば,遅くとも,それぞれ次の各年月日において本件各ファイルをアップ ロード可能な状態に置いていたことが認められる。\n
(ア) 原告X1 平成30年6月12日
(イ) 原告X2 平成30年6月4日
(ウ) 原告X3 平成30年6月2日
(エ) 原告X4 平成30年6月4日
(オ) 原告X7 平成30年6月12日
(カ) 原告X8 平成30年6月13日
(キ) 原告X9 平成30年6月2日
(ク) 原告X10 平成30年6月9日
(3) アップロードの終期について
ア 乙14及び弁論の全趣旨によれば,原告X1らは,それぞれ,別紙「損害 額一覧表」の「終期」欄記載の各年月日に原告ら代理人に相談をしたことが\n認められるところ,同原告らは既にプロバイダ各社からの意見照会を受け, 著作権者から損害賠償請求を受ける可能性があることを認識していた上,上\n記相談の際に,原告ら代理人からBitTorrentの利用を直ちに停止 すべき旨の助言を受けたものと推認することができるから,同原告らは,そ れぞれ,遅くとも同日にはBitTorrentの利用を停止し,もって, 本件各ファイルにつきアップロード可能な状態を終了したものと認めるの\nが相当である。
イ これに対し,原告らは,プロバイダ各社からの意見照会を受けた時点で, 直感的にBitTorrentの利用を停止した旨主張するが,プロバイダ 各社から意見照会を受けたからといって,直ちにBitTorrentの利 用停止という行動に及ぶとは限らず,実際のところ,原告X6は,平成30 年10月19日に受領したものの,少なくとも同年11月頃までBitTo rrentソフトウェアを端末にインストールしていたことがうかがわれ\nる(甲6)。そうすると,プロバイダ各社からの意見照会を受けた時点でB itTorrentの利用を停止したと認めることはできない。
ウ 以上によれば,原告X1らは,それぞれ,別紙「損害額一覧表」の「期間」\n欄記載の期間中に他のユーザーが本件各ファイルをダウンロードしたこと により生じた損害の限度で,賠償義務を負うことになる。
(4) ダウンロード数
ア 本件全証拠によっても,上記各期間中に本件各ファイルがダウンロードさ れた正確な回数は明らかではない。他方で,証拠(乙2〜4,8〜10)に よれば,令和元年10月1日から令和3年5月18日までの595日間にお いて,本件ファイル1については501,本件ファイル2については232, 本件ファイル3については910,それぞれダウンロード数が増加している ことが認められるところ,各原告につき,同期間の本件各ファイルのダウン ロード数の増加率に,前記(2)・(3)において認定したダウンロードの始期か ら終期までの日数(別紙「損害額一覧表」の「日数」欄記載のとおり)を乗\nじる方法によりダウンロード数を算定するのが相当である。この計算方法に基づき算定されたダウンロード数は,別紙「損害額一覧表」の「期間中のダウンロード数」欄記載のとおりである。\n
なお,原告らは,乙2〜4記載のコンプリート数(ダウンロード数)と甲 10記載のコンプリート数が大幅に異なることを根拠に,乙2〜4記載のコ ンプリート数に依拠することは相当ではないと主張するが,コンプリート数 が一致しないのは,参照するトラッカーサーバーが異なることが原因である と考えられ,上記乙2〜4のコンプリート数に特に不自然・不合理な点はな い以上,上記各証拠に記載されたコンプリート数に基づいてダウンロード数 を計算することが相当である。
(5) 基礎とすべき販売価格
ア 原告X1らが本件各ファイルをBitTorrentにアップロード可 能な状態に置いたことにより,BitTorrentのユーザーにおいて,\n本件著作物を購入することなく,無料でダウンロードすることが可能となっ\nたことが認められる。これにより,被告は,本件各ファイルが1回ダウンロ ードされるごとに,本件著作物を1回ダウンロード・ストリーミング販売す る機会を失ったということができるから,本件著作物ダウンロード及びスト リーミング形式の販売価格(通常版980円,HD版1270円)を基礎に 損害を算定するのが相当である。
そして,被告は,DMMのウェブサイトにおいて本件著作物のダウンロー ド・ストリーミング販売を行っているところ,被告の売上げは上記の販売価 格の38%であると認められるので(弁論の全趣旨),本件各ファイルが1回 ダウンロードされる都度,被告は,通常版につき372円(=980×0. 38),HD版につき482円(=1270×0.38)の損害を被ったも のということができる。
イ 本件ファイル3は通常版の動画ファイルのピースであるのに対し,本件フ ァイル1及び2はHD版の動画ファイルのピースであることが認められる ので(弁論の全趣旨),別紙「損害額一覧表」の「価格」欄記載のとおり,\n原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X6,原告X7及び原告X 8については482円,原告X9及び原告X10については372円を基礎 として,損害額を計算することが相当である。
ウ 本件各ファイルをダウンロードしたユーザーの中には有料であれば本件 著作物を購入しなかったものも存在するという原告らの指摘や,BitTo rrentのユーザーと本件著作物の需要者等が異なるという原告らの指 摘も,前記認定を左右するものということはできない。 (6) 以上によれば,原告X1らが被告に対して負うべき損害賠償の額は,それぞ れ,別紙「損害額一覧表」の「損害額」欄記載のとおりとなる(なお,同別紙\n「5)期間中のダウンロード数」は計算結果を小数第2位まで表示したものであ\nり,「損害額」欄は小数第1位で切り捨てたものである。)。
3 争点2−2(減免責の可否)について
原告らは,原告らにおいて複製物を作成しようという意思が希薄であり,客観 的にも本件著作物の流通に軽微な寄与をしたにすぎないことや,原告らとユーザ ーとの間の主観的・経済的な結び付きが存在しないことからすれば,関連共同性 は微弱であるとして,損害額につき大幅な減免責が認められるべきである旨主張 するが,原告らの指摘するような事情をもって,前記認定の損害額を減免責すべ き事情に当たるということはできない。

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令和3(ネ)10046  著作者人格権等侵害行為差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年12月22日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 一審原告から懲戒請求を受けた弁護士である一審被告Yが自らのブログ上に懲戒請求の内容とともに一審原告の主張に対する反論を掲載しました。これらが著作権侵害なのか、また権利濫用なのかが争われました。1審は被告のブログ掲載の削除を認めました。知財高裁は、これを取り消しました。

本件懲戒請求書は,一審原告が,弁護士会に対し,一審被告Yに対する 懲戒請求をすること,及び懲戒請求に理由があること等を示すために,本 件懲戒請求の趣旨・理由等を記載したものであって,利用者に鑑賞しても らうことを意図して創作されたものではないから,それによって財産的利 益を得ることを目的とするものとは認められず,その表現も,懲戒請求の\n内容を事務的に伝えるものにすぎないから,全体として,著作物であるこ とを基礎づける創作性があることは否定できないとしても,独創性の高い 表現による高度の創作性を備えるものではない。\n
イ 一審原告自身の行動及びその影響
本件産経記事は,一審原告による本件懲戒請求の後,産経新聞のニュー スサイトに掲載されたものであって,本件懲戒請求書の「懲戒請求の理由」 の第3段落全体(4行)を,その用語や文末を若干変えるなどした上で, かぎ括弧付きで引用していることに加え,証拠(甲2,乙2,6)及び弁 論の全趣旨を総合すれば,一審原告は,産経新聞社に対し,一審被告Yの 氏名に関する情報を含め,本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を自 ら提供したものと推認される。 そうすると,一審原告は,産経新聞社に対し,本件懲戒請求書又はその 内容に関する情報を提供し,それに基づいて,本件懲戒請求書の一部を引 用した本件産経記事が産経新聞のニュースサイトに掲載され,その結果, 後記(2)のとおり,一審被告Yが,ブログにより,本件懲戒請求書に記載さ れた懲戒請求の理由及び本件産経記事の内容に対して反論しなければな らない状況を自ら生じさせたものということができる。
ウ 保護されるべき一審原告の利益
前記2のとおり,本件懲戒請求書は公表されたものとは認められないか\nら,一審原告は,本件懲戒請求書に関して,公衆送信権により保護される べき利益として,公衆送信されないことに対する財産的利益を有しており, 公表権により保護されるべき利益として,公表\されないことに対する人格 的利益を有していたものと認められる。 しかし,本件懲戒請求書の性質・内容(前記ア)を考慮すると,一審原 告が本件懲戒請求書に関して有する財産的利益及び人格的利益は,もとも とそれほど大きなものとはいえない上,一審原告自身の行動及びその影響 (前記イ)を考慮すると,保護されるべき一審原告の上記利益は,一審原 告自身の自発的な行動により,少なくとも産経新聞のニュースサイトに本 件産経記事が掲載された時以降は,相当程度減少していたものと認めるの が相当である。
(2) 一審被告Yによる本件記事1と本件リンクの目的について 前記第2の2(前提事実)によれば,本件記事1の目的は,本件産経記事 により,一審被告Yに対する本件懲戒請求の事実が報道され,一審被告Yに 対する批判的な論評がされたことから,一審被告Yが,自らの信用・名誉を 回復するため,本件懲戒請求の理由及びそれを踏まえた本件産経記事の報道 内容に対して反論することにあったものと認められる。 ところで,弁護士に対する懲戒請求は,最終的に弁護士会が懲戒処分をす ることが確定するか否かを問わず,懲戒請求がされたという事実が第三者に 知られるだけで請求を受けた弁護士の業務上又は社会上の信用や名誉を低下 させるものと認められるから,懲戒請求が弁護士会によって審理・判断され る前に懲戒請求の事実が第三者に公表された場合には,最終的に懲戒をしな\nい旨の決定が確定した場合に,そのときになってその事実を公にするだけで は,懲戒請求を受けた弁護士の信用や名誉を回復することが困難であること は容易に推認されるところである。したがって,弁護士が懲戒請求を受け, それが新聞報道等によって弁護士の実名で公表された場合には,懲戒請求に\n対する反論を公にし,懲戒請求に理由のないことを示すなどの手段により, 弁護士としての信用や名誉の低下を防ぐ機会を与えられることが必要である と解すべきである。
本件においては,前記(1)イのとおり,一審原告が一審被告Yに対する懲戒 請求をしたことに加え,一審原告が本件懲戒請求書又はその内容に関する情 報を自ら産経新聞社に提供したため,一審被告Yに対して本件懲戒請求がさ れたことが報道され,広く公衆の知るところになったのであるから,一審被 告Yが,公衆によるアクセスが可能なブログに反論文である本件記事1を掲\n載し,本件懲戒請求に理由のないことを示し,弁護士としての信用や名誉の 低下を防ぐ手段を講じることは当然に必要であったというべきである。した がって,本件記事1を作成,公表し,本件リンクを張ることについて,その\n目的は正当であったものと認められる。
(3) 本件リンクによる引用の態様の相当性について
ア 上記(1)及び(2)のとおり,一審被告Yは,本件リンクにより,本件懲戒請 求書の全文(ただし,本件懲戒請求書のうち,一審原告の住所の「丁目」 以下及び電話番号が墨塗りされているもの。)を本件記事1に引用したも のであるが,本件においては,一審原告が自ら産経新聞社に本件懲戒請求 書又はその内容を提供し,産経新聞のニュースサイトに本件産経記事が掲 載されたため,一審被告Yは,弁護士としての信用及び名誉の低下を防ぐ ために,ブログに反論文である本件記事1を掲載し,懲戒請求に理由のな いことを示すことが必要となった。 確かに,本件懲戒請求書は未公表の著作物であり,本件産経記事には本\n件懲戒請求書の一部が引用されていたものの,その全体が公開されていた ものではないが,懲戒請求書の理由の欄には,その全体にわたって,懲戒 請求を正当とする理由の主張が記載されていたから(甲2),一審被告Yと しては,本件記事1において本件懲戒請求書の要旨を摘示して反論しただ けでは,自分に都合のよい部分のみを摘示したのではないかという疑念を 抱かれるおそれもあったため,その疑念を払拭し,本件懲戒請求の全ての 点について理由がないことを示す必要があり,そのためには,本件懲戒請 求書の全部を引用して開示し,一審被告Yによる要旨の摘示が恣意的でな いことを確認することができるようにする必要があったものと認められ る。 また,一審被告Yは,本件記事1に本件懲戒請求書自体を直接掲載する のではなく,本件懲戒請求書のPDFファイルに本件リンクを張ることに よって本件懲戒請求書を引用しており,本件懲戒請求書が,本件記事1を 見る者全ての目に直ちに触れるものでなく,本件懲戒請求書の全文を確認 することを望む者が本件懲戒請求書を閲覧できるように工夫しており,本 件懲戒請求書が必要な限りで開示されるような方策をとっているという ことができる。 さらに,本件記事 1 は,本件懲戒請求書とは明確に区別されており,本 件懲戒請求に理由のないことを詳細に論じるものであって,その反論の前 提として本件懲戒請求書が引用されていることは明らかであり,仮に主従 関係を考えるとすれば,本件記事1が主であり,本件懲戒請求書はその前 提として従たる位置づけを有するにとどまる。 そして,前記(1)のとおり,一審原告が本件懲戒請求書に関して有する, 公衆送信権により保護されるべき財産的利益,公表権により保護されるべ\nき人格的利益は,もともとそれほど大きなものとはいえない上,一審原告 自らの行動により,相当程度減少していたから,本件懲戒請求書の全部が 引用されることにより一審原告の被る不利益も相当程度減少していたと 認められるばかりか,一審原告は,自らの行為により,本件懲戒請求書又 はその内容を産経新聞社に提供し,本件産経記事の産経新聞のニュースサ イトへの掲載を招来したものであり,一審原告の上記行為は,本件懲戒請 求があったこと及び本件懲戒請求書の内容を世間に公にするという点に おいて,一審被告Yの弁護士としての信用及び名誉に関して非常に大きな 影響を与えるものであったと認められる。 イ 以上の点を考慮するならば,一審被告Yが,本件リンクを張ることによ って本件懲戒請求書の全文を引用したことは,一審原告が自ら産経新聞社 に本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を提供して本件産経記事が産 経新聞のニュースサイトに掲載されたことなどの本件事案における個別的 な事情のもとにおいては,本件懲戒請求に対する反論を公にする方法とし て相当なものであったと認められる。
(4) 権利濫用の成否
前記(1)のとおり,一審原告が本件懲戒請求書に関して有する,公衆送信権 により保護されるべき財産的利益,公表権により保護されるべき人格的利益\nは,もともとそれほど大きなものとはいえない上,一審原告自身の行動によ り,相当程度減少していたこと,前記(2)のとおり,本件記事1を作成,公表\nし,本件リンクを張ることについて,その目的は正当であったこと,前記(3) のとおり,本件リンクによる引用の態様は,本件事案における個別的な事情 のもとにおいては,本件懲戒請求に対する反論を公にする方法として相当な ものであったことを総合考慮すると,一審原告の一審被告Yに対する公衆送 信権及び公表権に基づく権利行使は,権利濫用に当たり,許されないものと\n認めるのが相当である。
(5)当事者の主張に対する判断
ア 一審原告の主張について
(ア) 一審原告は,一審原告が本件懲戒請求書又はその内容に関する情報 を産経新聞社に提供し,本件懲戒請求書の一部が本件産経記事に引用さ れたとしても,一審原告の公表権を保護すべき必要性が全くなくなった\nわけではなく,他方,一審被告Yは,本件懲戒請求書の要旨又はその一 部を引用することにより一審原告の懲戒請求に対して反論することが可 能であり,本件懲戒請求書の全部を引用する必要がなかったにもかかわ\nらず,これを全部引用して公表したのであるから,一審原告の一審被告\nYに対する公表権の行使は権利濫用に当たらないと主張する。\n しかし,前記(1)ウのとおり,一審原告が本件懲戒請求書に関して公衆 送信権により保護されるべき財産的利益,公表権により保護されるべき\n人格的利益は,もともとそれほど大きなものとはいえない上,一審原告 自身の行動により相当程度減少していたものと認められる。他方,前記 (3)のとおり,一審被告Yは,一審原告が産経新聞社に本件懲戒請求書又 はその内容を提供し,産経新聞のニュースサイトに本件産経記事が掲載 されたため,弁護士としての信用及び名誉の低下を防ぐために,本件懲 戒請求書の全文を引用して開示した上で反論する必要があったものであ るから,それらを比較衡量すれば,後者の必要性が前者の必要性をはる かに凌駕するというべきであるから,たとえ一審原告の公表権を保護す\nべき必要性が全くなくなったわけではないとしても,一審原告の一審被 告Yに対する公表権の行使は権利濫用に該当するというべきである。\nしたがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 一審原告は,本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を産経新聞 社に提供するという一審原告の行為と,本件リンクを張るという一審被 告Yの行為とは,行為の性質やそれによって閲覧可能となる範囲・程度\nが異なり,本件懲戒請求書の内容が拡散する規模は,本件リンクを張る 行為の方が,本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を産経新聞社に 提供する行為よりも圧倒的に大きいから,一審原告による公衆送信権及 び公表権の行使は権利濫用に当たらないと主張する。\n しかし,本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を産経新聞社に提 供するという一審原告の行為は,産経新聞又はそのニュースサイトによ って本件懲戒請求に関する情報が報道されることを意図してされたもの と容易に推認され,実際,産経新聞のニュースサイトに本件産経記事が 掲載されたものであり,産経新聞が大手の一般紙であって,法律に興味 を有する者に限らず広く公衆がその新聞又はニュースサイトを閲読する ものであることからすると,一審原告の上記行為は,一審被告Yに対す る本件懲戒請求があったこと及び本件懲戒請求書の内容を世間に公にす るという点において,一審被告Yの弁護士としての信用及び名誉に関し て非常に大きな影響を与えるものであったと認められるから,本件懲戒 請求書の内容が拡散する規模において,本件リンクを張る行為の方が, 本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を産経新聞社に提供するとい う一審原告の行為よりも大きいということはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和2(ワ)4481等

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令和3(ワ)15819  発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年12月10日  東京地方裁判所

 ログインに関する本件発信者情報がプロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断されました。

前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ る。
ア ツイッターの利用者がツイート等の投稿を行うには,事前にアカウントを 登録した上,ユーザー名,パスワード等を入力し,当該アカウントにログイ ンすることが必要である。そのため,アカウントの使用者は,ツイッターの 仕組み上,当該アカウントにログインした者とされている。
イ ツイッター社により開示された本件IPアドレス等の使用期間(令和3年 3月15日から同年5月7日まで)においても,本件各アカウントは,いず れも,昼夜を問わず頻繁にログインされるなど,継続的に使用されている。 (甲2ないし6,12)。
「権利の侵害に係る発信者情報」該当性
上記認定事実によれば,ツイッターの上記仕組み及び本件各アカウントの使 用状況を踏まえると,本件各アカウントにログインした者が本件各投稿をする ことによって,下記2において説示するとおり,原告の権利を侵害したものと 認めるのが相当であり,これを覆すに足りる的確な証拠はない。そうすると, ログインに関する本件発信者情報は,上記侵害の行為をした発信者を特定する 情報であるといえるから,「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するものと いえる。 これに対し,被告は,本件発信者情報が本件アカウントにログインした者の 情報にすぎず,本件各投稿を行った本件発信者の情報そのものではないことか らすると,本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に該当しない旨 主張する。 しかしながら,本件発信者情報は本件各投稿を行った本件発信者の情報であ るといえることは,上記において説示したとおりであり,被告の主張は,その 前提を欠く。のみならず,プロバイダ責任制限法4条の趣旨は,特定電気通信 による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバ シー,表現の自由,通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通\n信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し て発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより,加害者の 特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにある(最高裁平成21年\n(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676 頁参照)。そうすると,アカウントにログインした者が,権利の侵害に係る情 報を送信したものと認められる場合には,侵害情報の送信時点ではなく,アカ ウントにログインした時点における発信者情報であっても,「権利の侵害に係 る発信者情報」に該当するものと認めるのが相当である。

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令和3(ワ)3208  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年11月9日  大阪地方裁判所

 プログラムの著作権侵害として、10億円を超える損害額が認定され、一部として6000万円の損害賠償が認められました。原告プログラムはAUTOCADです。

(1) 著作権法114条3項に基づく使用許諾料相当の損害について
ア 証拠(甲1,2,4〜9,18,乙2,3[各枝番を含む。])及び弁論の全 趣旨によれば,原告製品は,オンラインストア等で顧客に対し販売されていること, 原告製品には,永久ライセンス版と,使用期間を1か月,1年,3年に制限したサ ブスクリプション版が存在するところ,これらの動作種別は,ライセンス認証時に 原告から送付される認証コードの種別により決せられることが認められるが,被告 は,前記認定のとおり,本件海賊版製品の落札者に対し,本件海賊版製品と共に, ライセンス認証を回避する不正なプログラム,及びインターネットに接続せずにイ ンストールをすること等を指示するマニュアル等を添付して,落札者をして前記ラ イセンス認証システムを無効化させ,これによって,落札者は,使用期間の制限な く本件海賊版製品を使用することが可能になったことが認められる。\nこれらの事実関係に照らすと,原告製品の永久ライセンス版の定価をもって,原 告が原告製品の著作権の行使につき受けるべき価額であると認めるのが相当である。
イ これに対し,被告は,原告製品の定価をもって著作権法114条3項の使用 料相当額とすることは,最低限の賠償額を保障した同3項の趣旨及び文理に反する 旨を主張する。しかし,被告販売行為により,落札者は,もともとの原告製品の使 用期間制限の有無や期間にかかわらず,使用期間の制限なく本件海賊版製品を使用 することが可能となるのであり,これによって,原告は,被告販売行為がなければ\n得られたであろう永久ライセンス版の定価の額に相当する額を得られなかったこと になるし,被告販売行為の態様は,本件海賊版製品をライセンス認証を回避しつつ インストールすることができるよう販売するという悪質なものであり,その違法性 は高く,市場への影響も大きい。 被告は,原告製品の定価と原告製品の使用料相当額として受けるべき金銭の額と は別である旨を主張するが,原告製品のようなアプリケーションプログラムの販売 価格は,その本質において著作物の使用許諾に対する対価というべきであるから, 前述のとおり,原告製品の定価をもって,著作権法114条3項が定める著作権の 行使につき受けるべき金銭の額と見ることができるのであり,被告の主張は理由が ない。
また,被告は,原告製品と動作環境との適合性や進化するセキュリティソフトと\nの相性の問題等があるため,本件海賊版製品を期間の制限なく使用できることはあ り得ないことから,原告製品の永久ライセンス版の価格を使用許諾料の基準とする のは相当でないこと,あるいは,原告製品の期間契約には,1か月,1年及び3年 の各期間設定があるところ,契約期間が長くなれば割安になることから,原告製品 のうち永久ライセンス版が設定されていないものについて1年ライセンス版の価格 を使用許諾料の基準とするのは相当でないことを主張する。しかし,前述したとお り,被告販売行為により,落札者は,もともとの原告製品の使用期間制限の有無や 期間にかかわらず,使用期間の制限なく本件海賊版製品を使用することが可能とな\nるのであり,その時点で原告には原告製品の永久ライセンス版の定価相当額の損害 が発生したというべきであって,その後,動作環境等により本件海賊版製品を使用 できなくなる可能性があることやもともとの原告製品には期間制限があることなど\nの事情は,損害額の算定には影響しないと解するのが相当である。
ウ 証拠(甲2の1〜2の18)及び弁論の全趣旨によれば,原告製品の永久ラ イセンス版の定価は,別紙2−1「原告損害一覧表1」及び同2−2「原告損害一\n覧表2」の各「原告製品価格」欄記載の価格をくだらないことが認められ,被告販\n売行為による原告の損害は,同各「原告損害」欄記載の合計10億5509万67 50円をくだらない。
(2) 弁護士費用相当の損害について
被告販売行為と相当因果関係のある弁護士費用は,原告が主張する弁護士費用1 億0550万円をもって相当と認める。

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令和3(ネ)10047  損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年10月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 自ら作詞作曲した楽曲を含めてライブハウスでの演奏利用許諾の申込みをJASRACにしましたが、そのライブハウスが著作権使用料相当額の清算が未了であることを理由に拒否されました。裁判所は、著作権等管理事業法16条の「正当な理由」に当たると判断し、請求を棄却した1審判断を維持しました。

(ア) 控訴人X1は,被控訴人は形式的な権利者にすぎないから,利用申\n込みを拒否するに当たり,実質的な権利者である委託者や受益者の意思 を確認すべき義務があり,本件利用申込み1の対象楽曲には控訴人X1\nの作詞及び作曲に係る本件3曲が含まれていたから,通常の委託者であ れば許諾を望むと考えられるにもかかわらず,控訴人X1及びブラステ ィーの意思の確認を怠った旨主張する。
しかし,まず,引用する原判決の第2の2(6)エ(補正後のもの)のと おり,被控訴人は,本件著作権契約によりその権限を得たブラスティー から本件3曲の楽曲の著作権の信託譲渡を受けており,形式的にも実質 的にも本件3曲の著作権者であることから,被控訴人が「形式的な権利 者」であるとする控訴人X1の上記主張はそもそも当を得ない。 また,この点を措くとしても,被控訴人は,著作者等から委託を受け て多数の楽曲の著作権等を集中的に管理しており,委託者もこうした管 理の実態を前提として楽曲の委託をしているから,利用者からの申込み\nを拒絶することについて「正当な理由」があるか否かは,個々の委託者 の利害や実情にとどまらず,著作権等に関する適正な管理と管理団体業 務への信頼の維持の必要性等についても勘案した上で,利用者からの演 奏利用許諾の申込みを許諾することが通常の委託者の合理的意思に反す\nるか否かの観点から判断されるべきことは前記アで説示したとおりであ る。そして,本件においては,通常の委託者の合理的意思に照らし,同 申込みを拒絶することについて「正当な理由」があると認められること\nは,前記イで説示したとおりであり,その結論は,本件利用申込み1に\n本件3曲が含まれているか否かによって左右されるものではないから, 受託者である被控訴人が本件3曲に関して委託者兼受益者であるブラス ティーの意向を確認すべき義務があったとはいえず,まして本件3曲に 関する本件約款上の受益者でもない控訴人X1の意向を確認すべき義務 があったとは到底いえない。
(イ) 控訴人X1は,本件利用申込み1は別件訴訟を有利にするためにA\nらの呼びかけに応じたものではなく,Aらとも親しい関係にはないし, 本件店舗は控訴人X1がライブ演奏を行う1つの店にすぎず,平成28 年4月6日に本件店舗で被控訴人管理楽曲を演奏した際は1曲140円 を供託した上で演奏しており,著作権侵害に加担していないなどと主張 する。 しかし,前示のとおり,本件利用申込み1は,著作権の管理に係る被\n控訴人の方針や別件一審判決を不服とし,ライブ演奏の予約済みの出演\n者等に被控訴人管理楽曲を演奏する場合には出演者が被控訴人に利用申\n込みをするようホームページで公表された後にされたものであり,また,\n控訴人X1は,本件店舗に21回の出演歴があり,別件一審判決直後も 無許諾で被控訴人管理楽曲を演奏していたこと等を踏まえると,控訴人 X1の主観的意図はともかく,外形的,客観的に見れば,同申込みは,\n無許諾で長期間にわたって被控訴人管理楽曲を使用してきた本件店舗の 運営に賛同し,支援するものと受け止められてもやむを得ないものであ る。なお,本件全証拠を精査しても,平成28年4月6日に開催された 本件店舗のライブ演奏に当たって,控訴人X1が被控訴人管理楽曲の演 奏使用料を供託したとの事実を認めることはできない(本件店舗の経営 者らに被控訴人管理楽曲の使用料を手渡したとしても,それが供託に当 たるものではないことはいうまでもない。)。
エ また,控訴人X1は,当審においてそれぞれ以下のとおり主張するが, いずれも理由がない(なお,前記イ及びウと重複する部分は説示しない。)。
(ア) 控訴人X1は,前記第2の4(1)ア(ア)のとおり,被控訴人は,係争 中の店舗における演奏を予定する第三者からの演奏利用許諾の申\込み については一切受け付けない方針の下,本件利用申込み1について「正\n当な理由」の審査を行うことなく,本件店舗が使用料未清算であるとい った理由のみで拒否したものであり,こうした拒否は,使用料を徴収す るための私的制裁措置であって独占禁止法19条で禁止される優越的 地位の濫用に当たる旨主張する。
確かに,被控訴人は,被控訴人管理楽曲の利用許諾を得ることなく営 業の一環として演奏した店舗との間では,その店舗が過去の楽曲の使用 料を清算しなければ,新たに被控訴人管理楽曲に係る演奏の利用許諾を しないこととしており,また,その店舗において無許諾の利用があり, 楽曲の使用料の清算が未了であれば,第三者からその店舗における被控 訴人管理楽曲の利用の申込みがあっても,その楽曲の利用がその店舗の\n営業の一環として行われるものである限り,利用の許諾をしない取扱い をしている(前記認定事実1(4)イ)が,楽曲の演奏の利用許諾の申込み\nについて拒否したことに「正当な理由」があるか否かは,演奏利用許諾 の申込みの時点における事情を踏まえた事後的な法律判断というべきで\nあり,演奏利用許諾の申込みを拒否した際に示した理由に拘束されるも\nのではない。そして,本件においては,上記申込みの時点でAらと被控\n訴人間には著作権侵害等に係る裁判が係属しており,被控訴人は,平成 22年9月24日以降,職員を本件店舗のライブに客として派遣し,ラ イブ名,演奏曲目や演奏時間等の実態調査等をしており,また,本件店 舗のホームページ等を調査することを通じて,控訴人X1の本件店舗の 出演歴や本件申込みがされた経緯等を把握していたことが認められるの\nであり(前記認定事実1(2),(3)ア,イ,(4)ア),このような事情を踏 まえると,本件利用申込み拒否1に「正当な理由」があることは,現に\n拒否時に示された理由等にかかわらず,揺らぎ得ない。そして,本件利 用申込み拒否1に「正当な理由」がある以上,それが私的制裁措置であ\nって優越的地位の濫用に当たるなどという控訴人X1の上記主張も当を 得ないというほかない。
なお,控訴人X1は,前記第2の4(1)ア(イ)のとおり,被控訴人が控 訴人X1による本件利用申込み1を拒否した当時,別件訴訟の判決は確\n定していなかったにもかかわらず,被控訴人は,本件店舗の経営者らが 被控訴人管理楽曲の使用料相当額を清算していないものと決めつけて控 訴人X1による被控訴人管理楽曲の演奏利用許諾の申込みを拒否してお\nり,こうした被控訴人による拒否は優越的地位の濫用であり,本件約款 における受託者としての忠実義務にも反するとも主張する。しかし,債 権者は,事実的,法律的根拠があれば,判決の確定を待つことなく,債 務者との間の権利義務関係があることを前提とした措置を執ることはで きる(判決の確定により債権が存在しないことが明らかとなったときは, その措置により生じた損害を賠償すべきことは無論である。)ところ, 被控訴人による措置が事実的,法律的根拠を明らかに欠いているといっ た事情は見当たらない(後に別件訴訟はAらの敗訴で確定している。)。 したがって,被控訴人が講じた措置は優越的地位の濫用に当たらず,受 益者との関係で忠実義務に反するものでもない。
(イ) また,控訴人X1は,前記第2の4(1)イのとおり,控訴人X1が被 控訴人管理楽曲の利用料の支払を申し出て音楽著作物の演奏利用許諾を\n求めているのであるから,受託者である被控訴人がこれを拒否すること は信託法上の忠実義務に反する旨主張する。
しかし,前記アで説示したとおり,被控訴人が多数の委託者からの委 託を受けて楽曲に係る著作権等を集中的に管理しており,委託者も広く 楽曲の利用がされることを期待して被控訴人による楽曲の集中管理を前 提とした委託をしている以上,被控訴人による楽曲全体の著作権等に関 する適正な管理と管理団体としての業務全般の信頼の維持という観点を 軽視することは相当でない。そして,本件利用申込み1がされた経緯や\n時期等を踏まえると,控訴人X1が使用料の支払を申し出て被控訴人管\n理楽曲の演奏利用の許諾を求めたとしても,これに許諾を与えることは, 本件店舗の運営姿勢を是認し,安定的な著作権の管理,使用料の徴収に 支障を生じさせることにつながりかねないものであるといわざるを得ず, 通常の委託者の合理的意思に反するものであって,被控訴人の管理団体 としての業務の信頼を損ねかねないものである(なお,本件のような状 況下においては,支払がされる確実性についての信頼関係も希薄になら ざるを得ないと解される。)。控訴人X1の上記主張は,個別の委託者 兼受益者の実情を重視して本件利用申込み1を拒否することが特定の楽\n曲の委託者兼受益者の信託法上の忠実義務に反するというものであって, 被控訴人による多数の楽曲に係る著作権等の集中管理の実態を見ないも のというほかなく,当を得ない。

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令和2(ワ)25127 「オーサグラフ世界地図」の共同著作権確認請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年6月4日  東京地方裁判所

 共同著作者である確認訴訟について、裁判所は訴えの利益無しとして、訴えを却下しました。

 確認の訴えは,即時確定の利益がある場合,すなわち,現に,原告の有する 権利又は法的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため,被告に対し て確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許される。したがって,そ れが許されるためには,仮に原告の権利又は法的地位に危険又は不安が存在す るとしても,その危険又は不安が被告に起因し,かつ,対象となる権利又は法 的地位について確認判決をすることでその危険又は不安が解消されなければな らないというべきである。
しかし,本件においては,Bによる講義の内容が「オーサグラフ世界地図は Bが発明したものである」というものとなったこと,上記講義と同内容の論文 が学術論文誌に掲載されたこと,本件ウェブサイト内に本件地図とともに本件 地図はBが発明したものである旨の説明文が掲載されたことについて,それら が被告に起因するものであることを認めるに足りる証拠はない。また,被告は, 本件地図に係る著作権又は著作者人格権が自らにあるとは主張しておらず,今 後,被告がこのような主張をすることをうかがわせる事情も認められない。そ うすると,原告の有する権利又は法的地位に存在する危険又は不安が被告に起 因するものであるとはいえない。
さらに,被告が,自らは本件地図の作成に関与しておらず,本件地図に関し て原告及びBのいずれかにいかなる権利が帰属するかを判断し得ないとも主張 していることに照らせば,そのような被告に対して確認判決を得ることにより, 原告の有する権利又は法的地位への危険又は不安を取り除くことができるとは 考え難い。そして,前記前提事実(3)のとおり,原告は,別件訴訟において,B に対し,本件地図と同じくオーサグラフ図法により作成された別件各地図が原 告及びBを発明者とする共同著作物であることの確認を求め(本件と同様に, 原告及びBが別件各地図に係る著作権及び著作者人格権を有することの確認を 求めるものと解される。),これに対して,Bは,別件各地図はBが単独で作 成したものであると主張して争っているが,原告と被告との間で本件地図に係 る著作権及び著作者人格権の帰属を確定したところで,原告とBとの間におい て別件各地図に係る著作権及び著作者人格権の帰属を確定することはできない。 このことは,Bが被告の設置する慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准 教授であり(前記前提事実(1)イ),被告とBは雇用関係にあると認められるこ とを考慮しても変わりはない。さらに,前記前提事実(2)のとおり,本件ウェブ サイトはBが管理運営しており,被告が本件ウェブサイトの内容を変更するこ とができるとは認められないから,被告に対して確認判決を得たとしても,本 件ウェブサイト内において,本件地図につき当該判決に従った取扱いがされる ことが期待できるとはいえない。そうすると,本件において原告の権利又は法 的地位について確認判決をすることにより,原告の権利又は法的地位に存在す る危険又は不安が解消されるとは認められないというべきである。 そのほかに,原告と被告との間で,本件地図に係る原告の権利又は法的地位 に危険又は不安が存在し,これを除去するために被告に対して確認判決を得る ことが必要かつ適切であることをうかがわせる事情は認められない。 したがって,原告と被告との間で原告及びBが本件地図に係る著作権及び著 作者人格権を有することを確認することについては即時確定の利益が認められ ないから,本件においては確認の利益が認められない。

◆判決本文

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令和2(ワ)27196 損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年4月23日  東京地方裁判所

 写真の著作物の著作権侵害について、損害賠償額として約40万円が認められました。なお、1.5倍の主張については根拠無しと判断されています。

 前記アないしウの事情を踏まえて,著作権法114条3項の損害額を検 討すると,前記ア及びイのとおり,本件料金表における使用料を一応の参\n考としつつ,一般紙と機関紙としての性質の違いに加え,原告における有 償での使用許諾の実績や使用料規定の存在が認められないことからは,聖 教新聞の記事や写真等の使用については本件料金表よりも低額の使用料が\n想定され,他方で,前記ウのとおり,本件掲載行為については使用料の増 額要素があることも考慮すれば,前記1の自動公衆送信権侵害についての 著作権法114条3項の損害額は,それぞれ以下のとおり認定するのが相 当であり,その合計額は32万円と認められる。
・・・
 原告は,被告による著作権侵害の態様が悪質であるとして,著作権法114条3項の損害を算定にするに当たっては,本件料金表における使用料相当額のさらに1.5倍した額を基準とすべきであると主張する。\nしかし,前記エの損害額の認定は,原告に有償での使用許諾実績等がないこと,本件料金表の金額,本件各画像の使用点数や使用期間,被告による本件各画像の掲載態様等,本件訴訟に現れた一切の事情を総合考慮した上で,著作権法114条3項を適用したものであるところ,この認定を超えて,本件料金表\における使用料を1.5倍した額を基準とすべき合理的な理由は見当たらない。

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令和2(ネ)1006 不当利得返還等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年5月17日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審の東京地裁はプログラムの著作権侵害として20万円の支払いを認めました。控訴しましたが棄却されました。

 控訴人は,平成25年9月以降のやり取りにおいて被控訴人学園か ら提案された120万円には著作権に対する対価は含まれていなかった ものであり,控訴人と被控訴人学園との間で本件システムの開発に係る 委託費用は月額約32万円と合意されていたことからすれば,著作権侵 害行為によって生じた控訴人の損失は160万円を下らない旨主張し, また,著作権法114条1項又は同条3項に基づいて算定しても,同損 失は160万円を下らない旨主張する。 (イ) まず,控訴人と被控訴人学園との間のやり取り又は合意に関する主 張について検討するに,仮に,上記やり取りにおける被控訴人学園の提 案が,本件システムに係るプログラムの著作権を取得する対価を含む趣 旨ではなかったとしても,前記認定事実のとおり,平成24年12月か ら平成25年3月までの本件システムの開発費用は105万円であっ たこと,この支払がされた時点において,本件プログラムは本件システ ムの半分程度を完成させたものであったことに加え,上記提案のほかに 控訴人及び被控訴人学園が本件プログラムの対価について具体的な金 額を協議したと認めるに足りる証拠はないことや,本件における被控訴 人学園による本件プログラムの著作権等侵害行為の態様等,本件に現れ た一切の事情を考慮すると,被控訴人学園による著作権侵害行為につい て,本件プログラムの著作権の利用料相当額としての利益を受け,控訴 人に損失を及ぼした金額は,20万円と認めるのが相当であり,これを 超える利益及び損失が生じたものと認めるに足りる的確な証拠は存し ない。また,控訴人と被控訴人学園との間において,本件システムの開発に 係る委託費用を月額約32万円とする合意が成立したと認めるに足りる 証拠は存しない。そうすると,控訴人と被控訴人学園との間のやり取り又は合意を根拠 として,控訴人に160万円の損失が生じたと認めることはできない。
(ウ) 次に,著作権法114条に基づく控訴人の主張について検討するに, 同条1項に基づく主張については本件プログラムの譲渡等に係る控訴 人の利益の額につき,同条3項に基づく主張については本件システムと は異なるシステムであるWebClassのライセンス料を基に利用 料相当額を算定することにつき,それぞれ具体的な根拠を欠くというべ きである。 そうすると,著作権法114条1項又は同条3項を根拠として,控訴 人に160万円の損失が生じたと認めることはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)36168
被告学園は,前記4の著作権侵害行為につき,本来原告に支払うべき金 銭を支払っていないから,その金銭の額に相当する額の利益を受け,原告 に同額の損失を及ぼしたと認められる。そこで,以下,上記の額(利用料 相当額)がいくらであるのかについて検討する。 原告は,被告学園から,平成24年12月から平成25年3月までの本 件システムの開発費用として,105万円を受け取った(前記1(4))。こ れは,前記3のとおり,著作権の対価ではなく,それまでの労務の対価と して支払われたものであったが,原告が上記の金銭を受け取った時点で, 本件プログラムは,本件システムの半分程度を完成させたにとどまるもの であった(前記1(5))。Cは,同年10月頃,原告に対し,本件システム の残りの開発に係る開発費用として,120万円を支払うことを提案して おり(前記1(14)),当該提案がされた経緯や提案された金額からすれば, これは,残り半分程度の本件システム開発に係る労務の対価に加えて,被 告学園が原告から本件システムに係るプログラムの著作権を取得する対価 を含む趣旨での提案であったものと推認することができる。 以上に加え,上記提案のほかに原告と被告学園が本件プログラムの対価 の具体的な金額について協議したと認めるに足りる証拠はないこと,前記 4の被告学園の本件プログラムの著作権等侵害の態様等,本件に現れた一 切の事情を考慮すると,被告学園が前記4の著作権侵害行為について,本 件プログラムの著作権の利用料相当額としての利益を受け,原告に損失を 及ぼした金額は20万円と認めるのが相当である。 イ 原告は,平成25年4月1日から同年10月15日までの本件システム の開発に係る委託費用相当額の損失をも被ったと主張して,被告らに対し 同額の不当利得の返還を請求するので,以下検討する。 前記1(4)ないし(6),(11)ないし(14)の経緯に照らせば,被告らは上記 期間に対応する本件システムの開発の成果物を受領していないし,原告と 被告らとの間において,上記期間に係る本件システムの開発の委託費用の 支払を合意したとも認められない(むしろ原告は,被告学園に対し,Bへ の本件圧縮ファイルの送付以降の開発費用等の支払は不要であると伝えて いる。)。そうすると,被告らにおいて,原告による平成25年4月1日 から同年10月15日までの対応する本件システムの開発に係る利益を受 けたと認めることはできない。 また,前記2,3のとおり,本件プログラムの著作権は原告に帰属して おり,被告らは,本件プログラムの著作権を取得しておらず,本件全証拠 によってもこれを利用する権原を取得したとも認められないから,被告ら は原告の許諾なく本件プログラムを利用することはできない。そうすると, 被告らにおいて,原告に本件プログラムを作成させた対価を支払う必要は ないというべきであり,その支払を免れたことによる利益を受けたとは認 められない。 したがって,原告が被告らに対して委託費用相当額の不当利得返還請求 権を有しているとは認められず,原告の上記主張は理由がない。

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平成30(ワ)38486  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年3月24日  東京地方裁判所

コンピュータプログラムの著作権侵害として約6600万円の損害賠償が認められました。著作権侵害による損害額は,本件プログラムが違法に複製されたパソコンごとに,その使用期間に応じたライセンス料相当額と認定されています。\n

イ 被告会社による著作権侵害について
本件プログラムをパソコンにインストールすることは,本件プログラムを\n有形的に再製するものとして,本件プログラムの複製に該当するところ(著 作権法2条1項15号),前記1(1)ないし(3)によれば,本件平成20年契約 においては,平成20年9月の一時期を除き,パソコン1台分についてのみ\n本件プログラムのインストールすることが許諾されていたと認められるから, 前記アのとおり,被告会社において,本件平成20年契約の締結当初から本 件旧プログラムをインストールしていた1台に加え,平成26年3月以降, 合計10台のパソコンに本件旧プログラムをインストールしたことは,本件\n旧プログラムの著作権(複製権)の侵害に該当する。なお,被告会社は,平 成20年の契約の内容として,1つのライセンスの契約で,インストールす るパソコン台数を問わずに本件プログラムが使用できるとの合意が成立して\nいたと主張するが,前記2(3)イのとおり,当該主張は採用することができな い。 また,被告会社は,自ら複製権侵害行為を行っているから,上記10台に 複製された本件旧プログラムについて,その使用する権原を取得した時に著 作権侵害の事実について知っていたものと認められ,これを使用する行為は, 著作権法113条2項により,本件旧プログラムの著作権を侵害する行為と みなされる。
(2) 争点2−2(著作権侵害による損害額)について
ア 前記(1)の著作権侵害の態様と,本件平成20年契約においてライセンス 数に応じた本件旧プログラムの複製,すなわちライセンス数に応じた台数 のパソコンへのインストールが許諾されていたことからすれば,前記(1)の 著作権侵害による損害額は,本件旧プログラムが違法に複製されたパソコ\nンごとに,その使用期間に応じたライセンス料相当額と認めるのが相当で ある。 本件旧プログラムの平成30年3月までの使用期間は,平成26年3月 にインストールされた2台につき各49か月,平成28年9月にインスト ールされた1台につき19か月,同年10月にインストールされた5台に つき各18か月,平成29年12月にインストールされた1台につき4か 月,平成30年1月にインストールされた1台につき3か月の累計214 か月となる。 そして,このうち,平成26年3月分については,当時の消費税率に基 づいた1台当たり月額4万4100円(4万2000円×1.05)とし て,平成26年4月分ないし平成30年3月分については,当時の消費税 率に基づいた1台当たり月額4万5360円(4万2000円×1.08) として,それぞれ算定すると,次のとおり,損害額合計は970万452 0円と認められる。
4万4100円×2か月+4万5360円×212か月=970万4520円
イ(ア) 原告は,著作権侵害の不法行為に基づく損害額の算定に当たっても, 債務不履行に基づく場合と同様に,本件プログラムが複製されたパソコ\nンの台数ではなく,本件プログラムを使用した医師会数を基準としてラ イセンス料相当額を算定すべきと主張する。 しかしながら,前記1(4)のとおり,被告会社は,本件旧プログラムを 使用するに当たり,医師会ごとにバックアップデータを作成し,作業し たい医師会に合わせて,その都度使用するバックアップデータを切り替 えることにより,本件旧プログラムをインストールした1台のパソコン\nで複数の医師会に係る作業を行っていたところ,このような被告会社の 行為が本件旧プログラムを有形的に再製するもの,すなわち複製とは認 められないし,違法な複製がされたことを前提とする著作権法113条 2項のみなし侵害に該当するともいえない。 そうすると,前記(1)の著作権侵害行為と相当因果関係のある損害とし て,医師会数を基準としたライセンス料相当額の損害が発生したとは認 められないから,原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 被告らは,原告のホームページに記載された料金表(乙7)に基づい\nて,前記アのライセンス料相当額を算定すべきと主張する。 しかしながら,前記2(4)イで検討したとおり,本件平成20年契約に おけるライセンス料相当額を算定にするに当たって,原告のホームペー ジに記載された通常の料金表(乙7)が適用されるとは認められないから, 同料金表に基づいて算定するのは相当ではなく,被告らの上記主張は採\n用することができない。

◆判決本文

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平成31(ワ)2597等  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年1月26日  東京地方裁判所

 おみくじについての著作権侵害について、114条1項に基づく損害賠償が認定されました。販売不可事情による減額もなしです。

 原告は,本件文書1を一部改変したおみくじを寺院に対して販売しており (甲10,乙7の1,2,弁論の全趣旨),その販売価格は1枚当たり120 円である(甲11の1,2)。そのおみくじについて,印刷,用紙及び折り畳 みを印刷業者に依頼した場合に要する費用が1枚当たり約41円以下であ って(甲12),その他の販売に要する経費を考慮してもその販売により追 加的に必要となった経費は1枚当たり50円を上回ることはないと認めら れるから,原告における本件文書1を一部改変したおみくじの1枚当たりの 利益額は70円を下回ることはないと認められる。
・・・
以上によれば,著作権法114条1項に基づく原告の損害額は,以下の計 算式のとおり,572万8590円となる。
(計算式)
70円(単位数量当たりの原告利益)×(81117枚+720枚+0枚)(被告の譲渡数量)=572万8590円
原告は,著作権侵害について,予備的に著作権法114条2項に基づく額\nを主張するが,原告の主張するおみくじ1枚当たりの被告の利益額が同条1 項に基づく主張における原告の利益額よりも小さいことなどから,予備的な\n主張が著作権法114条1項に基づく損害額よりも大きくなるとは認めら れない。
カ 著作者人格権侵害による損害額
本件文書1において,その内容が真逆になるような内容の改変がされるこ とは,おみくじについての表現の本質的部分についての改変であるといえる\nことに加え,その他,本件にあらわれた の著作者人格権侵害について原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は5 0万円をもって相当であると認める。

◆判決本文

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平成30(ワ)5948  損害賠償請求事件  著作権 令和3年1月21日  大阪地方裁判所

 舟券購入のプログラムについて著作物性、翻案かが争われました。裁判所はこれを認め、約1.4億円の損害額を認めました。ただ請求が一部請求したため1400万の損害賠償額です。

 プログラムに著作物性があるというためには,指令の表現自体,そ\nの指令の表現の組合せ,その表\現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があ り,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表\現上の創 作性が表れていることを要するといわなければならない(知財高裁平成21年\n(ネ)第10024号同24年1月25日判決・判例時報2163号88頁)。
イ そこで検討するに,前記1(5)で認定したところによれば,原告プログラム は,市販のプログラム開発支援ソフトウェアである Microsoft Visual Studio を使用 して Microsoft Visual Basic 言語で記述されているから,ソースコードを個別の行\nについてみれば,標準的な構文やありふれた指令の表\現が多用されており,独創的 な関数等は用いられていない。 しかしながら,前記(5)イについては,一定の画面表示を得るために複数の記述\n方法が考えられるところ,一定の意図のもとに特定の指令を組み合わせ,独自のメ ソッドを作成して独自の構\成で記述しており,同ウ及びエについては,一定の処理 方式を選択すること自体はアイデアにすぎないが,やはり,一定の結果を得るため にどのように指令を組み合せ,どの範囲で構造体を設定し,配列・構\造化するかに は様々な選択肢が考えられるところ,その具体的な記述は,一定の意図のもとに特 定の指令を組み合わせ,多数の構造体を設定し,配列・構\造化した独自のものにな っている。
また,同オについては,HTML データから一定の情報を抽出する指令の記述は 選択の幅があるところ,メンテナンス性を考慮して独自の記述をしていることが認 められ,同カについても,人間が情報を入力してログインや舟券購入の操作をする ことを想定して作成されている投票サイトのサーバーに,人間の操作を介さずに必 要なデータを送信してログインや舟券の購入を完了するための指令の表現方法は複\n数考えられるところ,複数の方式を適宜使い分けて記述し,一連の舟券購入動作を 構成していることが認められる。\nそうすると,前記イないしカのソースコードには表\現上の創作性があるといえ, これらを組み合わせて構成されている原告プログラムにも,表\現上の創作性が認め られるというべきである。
ウ 被告ら(被告エーワンを除く。以下同じ。)は,原告プログラムの機能は,\n原告プログラムを利用せずに競艇公式ウェブサイト等により実行できると主張する が,競艇公式ウェブサイト等で人間の動作として情報を得たり舟券の購入をしたり することと,原告プログラムにより情報を得たり自動的に舟券を購入したりするこ とは異なるから,原告プログラムに創作性がないとする理由にはならない。 また,被告らは,原告プログラムが利用しているデータが競艇公式ウェブサイト で公知であると主張するが,プログラムに入力される変数であるレース情報等のデ ータが公知であるか否かはプログラムの著作物性とは関係がなく,失当である。 さらに,被告らは,原告プログラムのうち自動運転機能の部分は,既存のソ\ース コードを単純作業により組み合わせたものであり,「Boat Advisor」等の類似のソ\nフトウェアが多数存在すると主張する。しかしながら,前記のとおり,原告プログ ラムは,独自の指令の組合せ,構造体等の設定,構\成によって記述されており,あ りふれたものとはいえず,証拠(乙2)をみても,「Boat Advisor」はレース予\n想,データ分析を主たる機能とするソ\フトウェアであり,原告プログラムのように 舟券を自動購入するものであるとは認められず,原告プログラムがありふれたソー\nスコードによって構成されているものとはいえない。\n原告プログラムに著作物性がないとの被告らの主張は,採用できない。
(2) 争点2(被告プログラムは,原告プログラムを複製又は翻案したものか) について
ア 前記1(3)で認定したところによれば,被告プログラムは,被告P4がP7 より入手した原告プログラムについて,被告P3において逆コンパイルを行うと共 に難読化を解除し,期待値と称する機能を追加した以外は,逆コンパイルによって\n得られた原告プログラムの機能をそのまま利用したものであるから,少なくともそ\nのまま利用した部分において,被告プログラムは,原告プログラムを複製したもの ということができる。
イ また,前記1(6)で認定したところによれば,被告プログラムは,少なくと も,原告プログラムの BoatRaceCom.DLL 及び Kcommon.DLL を複製して作成され たことが明らかである。 さらに,被告プログラムは,原告プログラムと画面表示やモジュール名がほぼ同\nじであること,マニュアルに記載された機能が原告プログラムとほぼ同一であるこ\nとも,上記アの結論と合致する。
ウ 被告らは,被告プログラムは,被告プログラム独自のアルゴリズムで算出さ れた期待値(人気指数)に基づく予想をユーザーに提供するものであって,その部\n分に創作性があり,原告プログラムとは全く異なるものであると主張する。 被告らが主張する期待値の機能については,本件の証拠によっても判然とはしな\nいが,仮に,より勝率が高くなることが期待される買目を計算して推奨し,舟券を 自動購入する機能を追加した点で,被告プログラムは原告プログラムと異なる旨を\nいう趣旨であるとしても,原告プログラムが元々有する買目設定の機能を強化,発\n展させたものと理解し得るものであると共に,既に認定したとおり,被告プログラ ムは,期待値の機能を追加した以外の部分については,原告プログラムを複製した\nものをそのまま利用しているとされるのであり,全体として,被告プログラムは, 原告プログラムの本質的特徴を直接感得し得るものであるから,少なくとも翻案に あたることは明らかというべきであり,被告プログラムの作成は,原告プログラム についての原告らの著作権を侵害するものである。 なお,被告らは,被告プログラムに「買目切捨」や「保険買目」など,原告プロ グラムにはない機能があると主張するが,被告P3において,期待値の機能\以外は 原告プログラムと異なる機能はないと供述していること,前記のとおり,マニュア\nルや画面が同じであること,原告プログラムにも同一の機能があることから,当該\n主張は上記結論を左右するものではない。
・・・
前記1の(2)ないし(4)によれば,P7は1本20万円を原告らに支払って取 得した原告ソフトウェアを1本50万円から80万円で約30本販売したこと,被\n告P5は,被告エーワンの名義で,被告ソフトウェア約70本を1本60万円から\n100万円で販売し,その中に,平成28年5月2日のP8に対する100万円の 売買が含まれること,以上の事実が認められる。なお,被告ガルヒが被告ソフトウ\nェアを販売するためのセキュリティ認証キーを140個用意したことは前記1の (4)で認定したとおりであるが,これに対応する140本の被告ソフトウェアが販\n売されたと認めるに足りる証拠はない。
イ 以上によれば,被告らは,被告ソフトウェアを少なくとも70本販売し,う\nち少なくとも1本は平成28年5月2日に100万円で販売し,その余は少なくと も1本60万円で販売したと認めるのが相当であり,ここから控除すべき経費等の 主張はないから,被告ソフトウェアの販売により被告らが受けた利益は,少なくと\nも4240万円であると認められる。 そうすると,著作権法114条2項により,原告らの受けた損害額は4240万 円,著作権を共有する原告各人について2120万円ずつと推定される。 また,損害のうち100万円(各50万円)は,平成28年5月2日に被告ソフ\nトウェアが販売されたことによるものであり,被告エーワンを含む被告らは,同日 から遅滞の責を負う。その余については販売時期が不明であり,前記のとおり,被 告ソフトウェアが3から4か月間販売されていたことからすれば,遅くとも同年9\n月2日までには,その余の損害すべてに係る侵害行為が行われたと認められるか ら,原告らのその余の損害について,被告らは,同日から遅滞の責を負うものと認 められる。

◆判決本文

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令和2(ネ)10022  音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年3月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 やっと判決文がアップされました。音楽教室における演奏について、1審は生徒の演奏も先生の演奏も著作権侵害と判断しましたが、知財高裁は前者は公衆への演奏ではないと判断しました。2小節以内の演奏について演奏権が及ぶのか、演奏権の消尽、録音物の再生に係る実質的違法性阻却事由、権利濫用については音楽教室側の主張は認められませんでした。 双方が上告受理申立をしているとのことです。

 (ウ) 本件について
 前記(ア)及び(イ)によると,演奏権の行使となるのは,演奏者が,1) 面前にいる個人的な人的結合関係のない者に対して,又は,面前にいる 個人的な結合関係のある多数の者に対して,2)演奏が行われる外形的・ 客観的な状況に照らして演奏者に上記1)の者に演奏を聞かせる目的意思 があったと認められる状況で演奏をした場合と解される。 本件使用態様1ないし4のとおり,控訴人らの音楽教室で行われた演 奏は,教師並びに生徒及びその保護者以外の者の入室が許されない教室 か,生徒の居宅であるから,演奏を聞かせる相手方の範囲として想定さ れるのは,ある特定の演奏行為が行われた時に在室していた教師及び生 徒のみである。すなわち,本件においては,一つの教室における演奏行 為があった時点の教師又は生徒をとらえて「公衆」であるか否かを論じ なければならない。 オ 以下,前記の基本的考え方を前提に,教師による演奏行為及び生徒によ る演奏行為がそれぞれ「公衆に直接(中略)聞かせることを目的として」 行われたものに当たるかについて検討する。
(2) 教師による演奏行為について
ア 教師による演奏行為の本質について
引用に係る原判決の第2の3(1)アのとおり,控訴人らは,音楽を教授す る契約及び楽器の演奏技術等を教授する契約である本件受講契約を締結 した生徒に対して,音楽及び演奏技術等を教授することを目的として,雇 用契約又は準委任契約を締結した教師をして,その教授を行うレッスンを 実施している。 そうすると,音楽教室における教師の演奏行為の本質は,音楽教室事業 者との関係においては雇用契約又は準委任契約に基づく義務の履行とし て,生徒との関係においては本件受講契約に基づき音楽教室事業者が負担 する義務の履行として,生徒に聞かせるために行われるものと解するのが 相当である。
・・・
(ウ) これに対して,控訴人らは,前記第2の5(1)ア(ア)のとおり,教師 がレッスンで演奏(録音物の再生を含む。)するかどうか,どのような演 奏をどの程度するかについて教師の裁量に任されているから,控訴人ら は教師の演奏を管理・支配していないし,音楽教室における教師の楽曲 の演奏は,未完成又は不完全な演奏であり,また,1回1回全て異なる ものであるから,音楽教室事業者が管理・支配できるものではない旨主 張する。 しかしながら,教師は,控訴人らとの雇用契約又は準委任契約に基づ き,その義務の履行として演奏技術等を生徒に教授するのであって,履 行方法に選択肢を有するとしても,履行しない自由を有してはおらず, その履行に当たって一定の裁量があるとしても,本件受講契約において 控訴人らが生徒に対し負担する義務を履行するために必要なレッスンを 行う義務を負うこと自体には何ら変わりはないのであるから,教師がレ ッスンの進行について裁量を有することは,教師がした演奏の主体が控 訴人らであるとする前記判断を左右するものではない。
また,教師が未完成又は不完全な形で毎回異なるように演奏するのは, その技量が不足するためではなく,生徒への演奏技術等の教授のために 敢えてしていることであって,まさしく控訴人らとの間の雇用契約又は 準委任契約に基づく義務の履行に適ったことをしているにほかならない。 したがって,演奏内容の完成度若しくは完全度又は再現性は,教師が, 控訴人らとの雇用契約又は準委任契約に基づく義務の具体的履行方法と してどのような演奏手法を用いたかということを意味するにすぎず,教 師のした演奏の主体が控訴人らであるとする前記判断を左右するもので はない。 そのほかに控訴人らが教師の演奏行為に係る演奏主体について主張す る点は,いずれもその前提を異にする,あるいは理由がないものである から,前記判断を左右し得ない。
エ 「公衆に直接(中略)聞かせることを目的として」について
(ア) 前記(1)エ(ア)のとおり,演奏権の行使に当たるか否かの判断は,演 奏者と演奏を聞かせる目的の相手方との個人的な結合関係の有無又は 相手方の数において決せられるところ,この演奏者とは,著作権者の保 護と著作物利用者の便宜を調整して著作権の及ぶ範囲を合目的な領域 に設定しようとする著作権法22条の趣旨からみると,演奏権の行使に ついて責任を負うべき立場の者,すなわち演奏の主体にほかならない。 そうすると,前記ウ(イ)のとおり,音楽教室における演奏の主体は,教 師の演奏については控訴人ら音楽教室事業者であり,教師の演奏行為に ついて教師が「公衆」に該当しないことは当事者間に争いがなく,生徒 に聞かせるために演奏していることは明らかであるから,実際の演奏者 である教師の演奏行為が「公衆」に直接聞かせることを目的として演奏 されたものであるといえるかは,規範的観点から演奏の主体とされた音 楽教室事業者からみて,その顧客である生徒が「特定かつ少数」の者に 当たらないといえるか否かにより決せられるべきこととなる。
(イ) そこで検討するに,引用に係る原判決の第2の3(1)アによると,生 徒が控訴人らに対して受講の申込みをして控訴人らとの間で受講契約を締結すれば,誰でもそのレッスンを受講することができ,このような音\n楽教室事業が反復継続して行われており,この受講契約締結に際しては, 生徒の個人的特性には何ら着目されていないから,控訴人らと当該生徒 が本件受講契約を締結する時点では,控訴人らと生徒との間に個人的な 結合関係はなく,かつ,音楽教室事業者としての立場での控訴人らと生 徒とは,音楽教室における授業に関する限り,その受講契約のみを介し て関係性を持つにすぎない。そうすると,控訴人らと生徒の当該契約か ら個人的結合関係が生じることはなく,生徒は,控訴人ら音楽事業者と の関係において,不特定の者との性質を保有し続けると理解するのが相 当である。
したがって,音楽教室事業者である控訴人らからみて,その生徒は, その人数に関わりなく,いずれも「不特定」の者に当たり,「公衆」にな るというべきである。音楽教室事業者が教師を兼ねている場合や個人教 室の場合においても,事業として音楽教室を運営している以上は,受講 契約締結の状況は上記と異ならないから,やはり,生徒は「不特定」の 者というべきである。
・・・・
オ 小活
以上によれば,教師による演奏については,その行為の本質に照らし, 本件受講契約に基づき教授義務を負う音楽行為事業者が行為主体となり, 不特定の者として「公衆」に該当する生徒に対し,「聞かせることを目的」 として行われるものというべきである。
(3) 生徒による演奏行為について
ア 生徒による演奏行為の本質について 引用に係る原判決の第2の3(1)ア及び前記(2)アに照らせば,控訴人らは, 音楽を教授する契約及び楽器の演奏技術等を教授する契約である本件受 講契約を締結した生徒に対して,音楽及び演奏技術等を教授することを目 的として,雇用契約又は準委任契約を締結した教師をして,その教授を行 うレッスンを実施している。 そうすると,音楽教室における生徒の演奏行為の本質は,本件受講契約 に基づく音楽及び演奏技術等の教授を受けるため,教師に聞かせようとし て行われるものと解するのが相当である。なお,個別具体の受講契約にお いては,充実した設備環境や,音楽教室事業者が提供する楽器等の下で演 奏することがその内容に含まれることもあり得るが,これらは音楽及び演 奏技術等の教授を受けるために必須のものとはいえず,個別の取決めに基 づく副次的な準備行為や環境整備にすぎないというべきであるから,音楽 教室における生徒の演奏の本質は,あくまで教師に演奏を聞かせ,指導を 受けることにあるというべきである。 また,音楽教室においては,生徒の演奏は,教師の指導を仰ぐために専 ら教師に向けてされているのであり,他の生徒に向けてされているとはい えないから,当該演奏をする生徒は他の生徒に「聞かせる目的」で演奏し ているのではないというべきであるし,自らに「聞かせる目的」のものと もいえないことは明らかである(自らに聞かせるためであれば,ことさら 音楽教室で演奏する必要はない。)。被控訴人は,生徒の演奏技術の向上の ために生徒自身が自らの又は他の生徒の演奏を注意深く聞く必要がある とし,書証(乙57の58頁)や証言(原審証人Q15頁)を援用するが, 自らの又は他の生徒の演奏を聴くことの必要性,有用性と,誰に「聞かせ る目的」で演奏するかという点を混同するものといわざるを得ず,採用し 得ない。
・・・
ウ 演奏主体について
(ア) 前述したところによれば,生徒は,控訴人らとの間で締結した本件 受講契約に基づく給付としての楽器の演奏技術等の教授を受けるためレ ッスンに参加しているのであるから,教授を受ける権利を有し,これに 対して受講料を支払う義務はあるが,所定水準以上の演奏を行う義務や 演奏技術等を向上させる義務を教師又は控訴人らのいずれに対しても負 ってはおらず,その演奏は,専ら,自らの演奏技術等の向上を目的とし て自らのために行うものであるし,また,生徒の任意かつ自主的な姿勢 に任されているものであって,音楽教室事業者である控訴人らが,任意 の促しを超えて,その演奏を法律上も事実上も強制することはできない。 確かに,生徒の演奏する課題曲は生徒に事前に購入させた楽譜の中か ら選定され,当該楽譜に被告管理楽曲が含まれるからこそ生徒によって 被告管理楽曲が演奏されることとなり,また,生徒の演奏は,本件使用 態様4の場合を除けば,控訴人らが設営した教室で行われ,教室には, 通常は,控訴人らの費用負担の下に設置されて,控訴人らが占有管理す るピアノ,エレクトーン等の持ち運び可能ではない楽器のほかに,音響設備,録音物の再生装置等の設備がある。しかしながら,前記アにおい\nて判示したとおり,音楽教室における生徒の演奏の本質は,あくまで教 師に演奏を聞かせ,指導を受けること自体にあるというべきであり,控 訴人らによる楽曲の選定,楽器,設備等の提供,設置は,個別の取決め に基づく副次的な準備行為,環境整備にすぎず,教師が控訴人らの管理 支配下にあることの考慮事情の一つにはなるとしても,控訴人らの顧客 たる生徒が控訴人らの管理支配下にあることを示すものではなく,いわ んや生徒の演奏それ自体に対する直接的な関与を示す事情とはいえない。 このことは,現に音楽教室における生徒の演奏が,本件使用態様4の場 合のように,生徒の居宅でも実施可能であることからも裏付けられるものである。以上によれば,生徒は,専ら自らの演奏技術等の向上のために任意か\nつ自主的に演奏を行っており,控訴人らは,その演奏の対象,方法につ いて一定の準備行為や環境整備をしているとはいえても,教授を受ける ための演奏行為の本質からみて,生徒がした演奏を控訴人らがした演奏 とみることは困難といわざるを得ず,生徒がした演奏の主体は,生徒で あるというべきである。
(イ) これに対して,被控訴人は,引用に係る原判決の第3の2〔被告の 主張〕(1)エ(イ)及び(ウ)並びに前記第2の5(2)ア(ウ)のとおり,音楽教 室における生徒の演奏は,1)控訴人らとの間で締結した本件受講契約に おけるレッスンの一環としてされるものであり,レッスンの受講と無関 係に演奏するものではないこと,2)教師の指導の下,教育効果の観点か ら必要と考えられる場合にその限度でされること,3)本件受講契約によ って特定されたレッスンで使用される楽譜において課題曲として指定 された音楽著作物を,教師の指導・指示の下で演奏することを原則とす るものであること,4)控訴人らが費用を負担して設営した教室において, 控訴人らの管理下にある音響設備,録音物の再生装置等,録音物,楽器 等を利用してされるものであること,5)音楽教室事業が音楽著作物を利 用せずに楽器の演奏技術を教授することは不可能であることに照らすと,本件受講契約に基づき支払う受講料の中に,音楽著作物の利用の対\n価部分が含まれていることに照らせば,生徒の演奏についても音楽教室 事業者である控訴人らによる管理・支配及び利益の帰属が認められ,演 奏の主体は控訴人らである旨主張する。
しかしながら,上記1)ないし4)において控訴人が主張する事情から直 ちに,生徒が任意にする演奏の主体を音楽教室事業者であると評価する ことができないことは,前記説示から明らかである。なお,被控訴人は, 前記第2の5(2)ア(イ)のとおり,カラオケ店における客の歌唱の場合と 同一視すべきである旨主張するが,その法的位置付けについてはさてお くにしても,カラオケ店における客の歌唱においては,同店によるカラ オケ室の設営やカラオケ設備の設置は,一般的な歌唱のための単なる準 備行為や環境整備にとどまらず,カラオケ歌唱という行為の本質からみ て,これなくしてはカラオケ店における歌唱自体が成り立ち得ないもの であるから,本件とはその性質を大きく異にするものというべきである。 さらに,上記5)において被控訴人が主張する事情については,レッス ンにおける生徒の演奏についての音楽著作物の利用対価が本件受講契 約に基づき支払われる受講料の中に含まれていることを認めるに足り る証拠はないし,また,いずれにしても音楽教室事業者が生徒を勧誘し 利益を得ているのは,専らその教授方法や内容によるものであるという べきであり,生徒による音楽著作物の演奏によって直接的に利益を得て いるとはいい難い。 したがって,被控訴人の上記主張はいずれも採用できない。
(ウ) そのほかに被控訴人らが生徒の演奏行為に係る演奏主体について 主張する点は,いずれもその前提を異にする,あるいは理由がないもの であるから,前記判断を左右し得ない。
エ 小括
以上のとおり,音楽教室における生徒の演奏の主体は当該生徒であるか ら,その余の点について判断するまでもなく,生徒の演奏によっては,控 訴人らは,被控訴人に対し,演奏権侵害に基づく損害賠償債務又は不当利 得返還債務のいずれも負わない(生徒の演奏は,本件受講契約に基づき特 定の音楽教室事業者の教師に聞かせる目的で自ら受講料を支払って行わ れるものであるから,「公衆に直接(中略)聞かせることを目的」とするも のとはいえず,生徒に演奏権侵害が成立する余地もないと解される。)。 なお,念のために付言すると,仮に,音楽教室における生徒の演奏の主 体は音楽事業者であると仮定しても,この場合には,前記アのとおり,音 楽教室における生徒の演奏の本質は,あくまで教師に演奏を聞かせ,指導 を受けることにある以上,演奏行為の相手方は教師ということになり,演 奏主体である音楽事業者が自らと同視されるべき教師に聞かせることを 目的として演奏することになるから,「公衆に直接(中略)聞かせる目的」 で演奏されたものとはいえないというべきである(生徒の演奏について教 師が「公衆」に該当しないことは当事者間に争いがない。また,他の生徒 や自らに聞かせる目的で演奏されたものといえないことについては前記 アで説示したとおりであり,同じく事業者を演奏の主体としつつも,他の 同室者や客自らに聞かせる目的で歌唱がされるカラオケ店(ボックス)に おける歌唱等とは,この点において大きく異なる。)。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成29(ワ)20502等

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令和2(ネ)597  著作権侵害差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年1月21日  大阪高等裁判所

 1審は請求棄却でしたが、大阪高裁は、別のレシピブックを作成することについて黙示の許諾はなかったとして、著作権侵害と判断しました。一部の写真については著作物性が否定されています。

 原告制作物1を含む原告レシピブック1に係るデザイン制作委託契約 においては,契約書は作成されておらず,成果物の著作権の帰属や利用 に関する明示的な合意は存在しない。また,原告レシピブック1の発注 から納品に至る交渉経過等の詳細は明らかでない。
控訴人代表者は,同種の夏用レシピブックにつき,次の夏まで常識的な範囲で増刷することを許諾すると伝えたことがあったとか,レシピ\nブックに掲載された素材等を別の媒体で使うときは連絡があればほぼ快 諾しており,追加料金を生じるとは限らないなどと供述している(控訴 人代表者本人)。また,控訴人は,播磨喜水の依頼を受けて,シェフコラボレシピブック等に掲載した写真及びレシピ情報等を用いてレシピ\nカードを制作するなど,一旦納品した成果物の一部を他の制作物に用い ることもあったことが認められる(甲43〜50,控訴人代表者本人)。このように,レシピブック等に掲載した写真や情報が,レシピブック\n以外の媒体において控訴人に制作を依頼せずに使用されることもありう ると解されていたことが窺われるものの,新たな制作物において使用す る場合の具体的な権利関係が明確に決められていたとは認め難く,控訴 人と播磨喜水との間の個別のデザイン制作委託契約の趣旨,内容等から, 控訴人の著作物である原告制作物1に関する利用許諾についての当事者 の合理的意思を解釈する必要がある。
原告レシピブック1は,播磨喜水の取扱商品をレシピ情報の提供と組 み合わせて紹介することによって,宣伝広告,販売促進に役立て,さら にはブランドイメージの向上を図るものとして,播磨喜水が制作を依頼 し,控訴人が制作したものと解される。そして,播磨喜水の事業遂行に おいて,原告レシピブック1の内容と整合する範囲で,その成果物の一 部をそのまま使用する場合については,播磨喜水のブランドイメージの 形成,向上を企図した宣伝広告や販売促進活動における使用として,播 磨喜水はもちろん,控訴人も想定していたとみるのが合理的である。 しかし,被告制作物1は,原告制作物1(成果物である原告レシピ ブック1の出来上がった料理の写真である。)を「2017 SUMMER」と 明記された平成29年夏期用のチラシの背景に使用したものであり,そ の制作目的は同じとはいえない。 また,控訴人のデザイナーであるP2は,被告制作物1を発見し,平 成29年6月6日,P1に対し,LINEを通じて抗議をしており(甲 19:「事前にご相談がありましたら問題になりませんでしたが,この 件は著作物の無断使用になります。困りましたね。」という内容),控 訴人は,本件提訴後,これが被控訴人による最初の著作権侵害であると 主張し,控訴人代表者もその旨供述している(甲39,控訴人代表\者本 人21頁)。 これに対し,当時,被控訴人代表者のP1は,控訴人から原告制作物1の使用について,許諾があったという反論をしておらず,むしろ,播\n磨喜水がチラシ等を作成しようとする都度,ブランディング名目で常に 事前相談を求められることについて,不満を有していたことが認められ る(甲19,乙34)。
以上によると,前述したとおり,播磨喜水において,その事業活動の 一環として,控訴人が制作した成果物又はその一部をその作成目的に 従って,そのまま別の機会に利用する場合はともかく,成果物を構成する素材である原告制作物1(写真)を,事前の許諾を得ずにこれを異な\nる目的で利用することまで許諾していたと認めることはできない。
エ 抗弁1についてのまとめ
被控訴人による被告制作物1の制作は,控訴人の利用許諾を得ずに原 告制作物1をそのまま,制作目的の異なる制作物(原判決別紙被告制作 物目録記載2のチラシ)の背景に印刷し,これを複製するものであって, 原告制作物1の著作権を侵害する行為であると認められる。
・・・・
原告制作物5−2の著作物性については,いずれも,3種類の商品(播 磨喜水の白,黒,赤)を右下角斜め上方から撮影した写真であり,その撮影 方法は,商品を紹介する写真としてありふれた表現である。
・・・・
(イ) 損害額について
証拠(甲7の8,甲44の1〜44の5,甲45の1,甲50)及び 弁論の全趣旨によれば,原告制作物1を含む原告レシピブック1(12 頁から成り,5種類の料理写真及びそのレシピ情報,表紙写真,及びその料理写真,商品写真,商品の値段その他の情報,通信販売案内等を掲\n載するもの)の制作に係るオリジナルレシピブランディング料及び撮 影・スタイリング・フードコーディネイト料が100万円であったこと, 控訴人においては,同種のレシピブックに掲載した料理の1つのレシピ 情報と写真を1枚のレシピカードとして基づいてレシピカードを制作す る費用が1枚2万5000円とされていたことが認められ,控訴人は, レシピカードの上記制作費用が複製の使用料であると主張する。 これらを踏まえ,原告制作物1(写真1枚)に対する使用料としては, 2万5000円と認めるのが相当である。 また,事案の内容,認容額その他諸般の事情を考慮し,控訴人が負担 した弁護士費用のうち2500円につき,本件による損害として相当と 認める。
(ウ) 以上によれば,原告制作物1に係る著作権侵害による損害賠償請求は, 2万7500円(及び遅延損害金)の支払を求める限度で理由があるが, その余は理由がない。

◆判決本文
原審はこちら。

◆平成29(ワ)12572


◆原告および被告作品

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令和2(ワ)2403 著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年12月23日  東京地方裁判所

 写真の著作物の複製・公衆送信があったとして、約30万円の損害賠償が認められました。損害の算定根拠は、「fotoQuote」というサイトにおける料金表です。\n

 本件写真は,原告が,天候の良好な平成23年3月2日の日中に,インドの世界遺産であるエローラ石窟群のカイラーサ寺院を被写体として選択し,日陰となる箇所が極力少なくなるように配慮しつつ,同寺院の正面を斜め上方から,同寺院の主要な建物を 中心に据え,その全体がおおむね収まるように撮影したものであることが認め られる。 そうすると,本件写真は,原告が撮影時期及び時間帯,撮影時の天候,撮影 場所等の条件を選択し,被写体の選択及び配置,構図並びに撮影方法を工夫し,\nシャッターチャンスを捉えて撮影したものであるから,原告の個性が表現され\nたものということができる。したがって,本件写真は原告の思想又は感情を創 作的に表現した「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当し,本件写真を創\n作した原告は「著作者」(同項2号)に該当するので,本件写真に係る著作権 及び著作者人格権を有する。
・・・
前記2(3),3のとおり,本件画像は,飲食店業等を目的とする会社である 被告がその事業のために本件サイトに掲載したものであり,本件画像の掲載 期間は,約5年に及ぶ。また,証拠(甲6ないし8)によれば,原告は,自 身の写真のライセンスに当たっては,通常,「fotoQuote」の料金 表(甲7)を使用していること,同料金表\によれば,世界市場のウェブ広告 にハーフページ(300×600ピクセル)の大きさの写真を5年間使用さ せる内容のライセンス料は,地域をアジアに限定しても,1989米ドルを 下らないこと,令和2年8月20日(本件の訴え提起の前日)時点における 米ドル・円相場の仲値が1ドル106.10円であることが認められる。さ らに,証拠(甲3の1)によれば,本件画像は,400×300ピクセルの 大きさで使用されていたことが認められる。そうすると,本件写真を営利目 的で使用する場合,原告は,21万1032円でその利用を許諾することと していたものと認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 以上に加え,本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件写真に係る原告 の著作権(複製権,自動公衆送信権)の行使につき受けるべき金銭の額に相 当する額(著作権法114条3項)は,21万1032円と認めるのが相当 である。 また,上記の諸事情に鑑みれば,本件写真に係る原告の著作者人格権(氏 名表示権)が侵害されたことにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料\nは5万円,弁護士費用相当額の損害は5万円とそれぞれ認めるのが相当であ る。
(2) これに対し,被告は,原告が損害の算定根拠とする「fotoQuote」 の料金表は,あくまで営利目的の広告等として写真が使用された場合に適用\nされるものであり,被告は非営利公益目的で本件写真を使用したものである から,これを算定根拠とすることはできないと主張する。 しかし,前記2(3)のとおり,本件画像は,飲食店業等を目的とする会社で ある被告がその事業のために本件サイトに掲載したものであり,被告が本件 画像を利用したのは営利目的であったというべきであるから,被告の上記主 張は前提を欠く。

◆判決本文

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令和2(ワ)1667  著作権侵害損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年10月23日  東京地方裁判所

 訴外Bからサーバの運営権を購入した会社に対して、カメラマンが写真の著作物の著作権侵害を理由に114万円の損害賠償を求めました。裁判所は、過失は認めたものの、ライセンス料の算定基準に根拠がないとして、14万円の損害賠償を認めました。

 証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば,本件サイトには本件各写真を含 め多数の写真が掲載されており,これらの写真は,「写真の著作物」(著作権 法10条1項8号)又はそれに該当し得るものであったと認めることができ る。そして,被告は,本件各写真を含めた写真をインターネット上で公開す る以上,その著作権又は著作者人格権を侵害していないことについて調査, 確認する義務があったといえる。ところが被告は,本件各写真が著作権,著 作者人格権を侵害していないかについて調査,確認をせずに本件各写真をイ ンターネット上に公開して公衆送信等しており,被告には,少なくとも過失 があったといえる。
(2) 被告は,本件サイト売買を行ったウェブサイトには,「買い手は基本的に 著作権に触れているかどうか把握することは難しい」,「一般的には損害賠償 請求等は,サイトを売った人と著作権違反の警告を出した人の間で行われる」 との記載があり,サイト売買の通例では買い手である被告には損害賠償の支 払義務がなく,また,被告が本件サイトを購入した平成28年2月1日時点 で,掲載されている画像は3万8000点以上にも及び,これらの著作権の 有無を確認するのは実質的に不可能であり,被告には調査義務はないと主張\nする。 しかし,他人の写真を利用する場合にはその著作権又は著作者人格権を侵 害する可能性があるから,被告は,本件各写真を公衆送信等する以上,前記\nの調査,確認をする義務があったといえる。被告が指摘する記載等がウェブ サイトにあったことや本件サイトに多数の写真が掲載されていたことなど被 告が指摘する事情によってこのことは左右されず,被告の上記主張は採用す ることはできない。なお,被告が本件サイト売買を行ったウェブサイトには, 「サイト購入時,著作権には注意すること」,「サイトを購入する時あるいは 売却する時もそうですが,著作権が問題となってトラブルになることがあり ます。使用されている文章や画像,イラスト,アイディアが他の人のマネを していることがあります。」などと記載され(乙1),サイト売買の対象とな るウェブサイトには著作権法上の問題があるものが含まれ得ることが明記さ れていた。
3 争点(5)(損害額)について
(1) 公衆送信権侵害について
ア 証拠(甲7)によれば,協同組合日本写真家ユニオン作成の使用料規程 である本件規程は,同組合が管理の委託を受けた写真の著作物の利用にか かわる使用料を定めるものであり,一般利用目的(宣伝広告を目的とせず, 記事と共に,事柄を説明するために写真の著作物を利用する場合)でウェ ブページの最初のページ以降のページに写真を掲載する使用料は,12か 月以内で2万5000円,1年を超える場合の次年度以降の使用料は1年 当たり1万円とされている。 原告は結婚式における写真撮影を業とするカメラマンであり,本件各写 真は,原告が,依頼を受けて結婚式場において撮影したものであり(前記 前提事実(1)ア,同(2)),カメラマンである原告が業務により作成したもの といえる。そうすると,原告が本件各写真の著作権の行使につき受けるべ き金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)の算定に当たっては, 本件規程の内容を参酌するのが相当である。そして,本件規程の内容に加 えて,被告が遅くとも平成30年12月5日頃までには本件各写真の原告 の公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害したこと,本件各写真は令和 2年2月17日に本件各ページから削除されたことその他の本件各写真の 使用態様等に鑑みれば,原告が本件各写真の公衆送信につき受けるべき金 銭の額(著作権法114条3項)は,本件各写真1枚当たり4万円と認め るのが相当である。
イ この点について,原告は,1)撮影した写真1枚当たり8万円で売却して おり(甲6),本件のような長期間の無断使用はその4倍が相当であるこ と,2)本件規程の商用広告目的の写真の使用料が12か月以内で5万円で あることを考慮して損害額を算定すべきであるなどと主張する。 しかしながら,「ご請求書」と題する甲6号証には,「広告写真使用料」 として8万円と記載されているが,当該写真がどのような写真か明らかで はない上に,この1件の利用許諾例の外に原告の写真の使用料を裏付ける 証拠は見当たらないことなどからすれば,本件各写真の使用料が1枚当た り8万円であると認めることはできず,他に原告の上記1)の主張を認める に足りる証拠はない。
また,本件規程の「商用広告目的」とは,「写真に写された物品等を宣 伝するために広告として利用する場合」をいうとされている(本件規程の 第3条)ところ,本件各写真は,結婚式に関係する文章が記載されるなど した本件各ページに掲載されたものであり(前記前提事実 ア,イ),い ずれも本件各写真に写された物品等を宣伝するために広告として本件各ペ ージに掲載されたものとはいえず,本件各写真の使用は,上記「商用広告 目的」には当たらず,原告の上記2)の主張も採用することはできない。したがって,原告の上記主張はいずれも採用することはできない。

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令和2(ネ)10018  損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和2年10月6日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 著作権侵害の損害額についてPV数に基づく損害を9割控除した点について、1審原告が不服をとして控訴していました。知財高裁は、1審の判断を維持しました。

 一審原告の主張は,原判決が法114条1項ただし書に基づき,本件各漫 画のPV数に本件各同人誌の利益額を乗じた額から9割を控除したことにつ いて,原判決の認定判断の不当を種々の観点からいうものである。 しかしながら,一審原告の主張は採用することができない。その理由は, 次のとおりである。
ア 公衆送信行為による著作権侵害の事案において,法114条1項本文に 基づく損害額の推定は,「受信複製物」の数量に,単位数量当たりの利益 の額を乗じて行うものとされている。そして,本件のように,著作権侵害 行為を組成する公衆送信がインターネット経由でなされた事案の場合, 「受信複製物の数量」とは,公衆送信が公衆によって受信されることによ り作成された複製物の数量を意味するのであるから(法114条1項本 文),単に公衆送信された電磁データを受信者が閲覧した数量ではなく, ダウンロードして作成された複製物の数量を意味するものと解される。と ころが,本件においては,公衆が閲覧した数量であるPV数しか認定する ことができないのであるから,法114条1項本文にいう「受信複製物の 数量」は,上記PV数よりも一定程度少ないと考えなければならない。 また,本件において,一審被告会社は,本件各ウェブサイトに本件各漫 画の複製物をアップロードし,無料でこれを閲覧させていたのに対し,一 審原告は,有体物である本件各同人誌(書籍)を有料で販売していたもの であり,一審被告会社の行為と一審原告の行為との間には,本件各漫画を 無料で閲覧させるか,有料で購入させるかという点において決定的な違い がある。そして,無料であれば閲覧するが,書籍を購入してまで本件各漫 画を閲覧しようとは考えないという需要者が多数存在するであろうことは 容易に推認し得るところである(原判決27頁において認定されていると おり,本件各同人誌の販売総数は,本件各ウェブサイトにおけるPV数の 約9分の1程度にとどまっているが,これも,本件各漫画の顧客がウェブ サイトに奪われていることを示すというよりは,無料であれば閲覧するが, 有料であれば閲覧しないという需要者が非常に多いことを裏付けていると 評価すべきである。)。
イ そうすると,本件各漫画をダウンロードして作成された複製物の数(法 114条1項の計算の前提となる数量)は,PV数よりも相当程度少ない ものと予想される上に,ダウンロードして作成された複製物の数の中にも,\n一審原告が販売することができなかったと認められる数量(法114条1 項ただし書に相当する数量)が相当程度含まれることになるのであるから, これらの事情を総合考慮した上,法114条1項の適用対象となる複製物 の数量は,PV数の1割にとどまるとした原判決の判断は相当である。こ の点につき,一審原告は種々主張しているが,上記の点に照らし,その主 張を採用することはできない。
(2) 一審被告らの主張は,法114条1項に基づく損害額の認定を行うこと自 体の不当をいうものであるが,PV数と受信複製物数の違いを念頭に置いた 上で,更に一審原告が販売できないとする事情を考慮して損害額算定の基礎 となる数量を算定し,これに一審原告の利益額を乗じる手法が不合理である とすべき事情は見当たらないから,法114条1項に基づく損害額の認定は 相当であり,「損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事 実の性質上極めて困難であるとき」として法114条の5を適用する必要は ない。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成30(ワ)39343

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平成30(ワ)39343  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年2月14日  東京地方裁判所

 著作権侵害において、公衆送信された数量に,原告の単位数量あたりの利益額を乗じた額を求め,これに販売不可事情を考慮して,数量(9割)を控除した額が損害として認められました。

 被告会社の運営する本件各ウェブサイトは,本件各漫画のような同人誌に 限らず,アニメ,ゲーム,小説など多様なジャンルの作品を掲載し,甲9の 1に「1万冊以上全部無料で読めちゃう」と記載されているように,多量の 作品を無料で閲覧し得ることを特徴とするサイトであると認められる(甲9, 42)。このため,本件各漫画のような同人誌の愛好者にとどまらず,多数 の者が同サイトを訪問し,その際に,購入する意図なく掲載作品を閲覧する ことも少なくないものと推測される。
他方,本件各漫画は,その内容等にも照らし,その需要者の範囲は限定さ れている上,その販売形態は即売会による販売と同人誌の通信販売を手がけ る出版社による委託販売によるものであり,即売会による販売が全体の約3 分の1を占める(甲56)。また,その販売数は,作品の発売後数か月間の 販売数が多く,その後の月間販売数は急激に減少するという傾向が看取され, 一定数の販売が継続するものではない(甲52〜55)。 そして,本件各漫画のPV数と同各漫画の販売実績(甲56)を比較する と,本件各漫画のPV数の合計が11万7318(上記認定に係る1冊分の PV数の合計は7万6738)であるのに対し,本件各漫画の販売総数は8 513冊であり,1冊分のPV数をとってみても,その販売総数はPV数の 約9分の1程度であると認められる。 以上のとおり,本件各ウェブサイトによる閲覧と原告による本件各漫画の 販売とでは,その需要者の範囲,閲覧又は販売する作品の数及び種類等が大 きく異なるほか,本件各漫画は販売直後に多くが販売される傾向にあること や,本件各ウェブサイトは無料で閲覧を可能にするものであり,作品を購入\nする意図なくその内容を閲覧する需要者は少なくないものと考えられ,実際 のところ,同一の漫画についてPV数と販売実績には大きな差があることな どに照らすと,本件各漫画のPV数のうち,原告が販売し得たと認め得る数 量は,その1割であると認めるのが相当である。 638/089638

◆判決本文

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令和1(ワ)231 損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年1月31日  東京地方裁判所

 動画サイトにてストリーミング配信された動画データについて、再生数カウンタの数はどのような方法で計測したものか不明であることなどから、40万円の損害賠償が認められました。

(1) 証拠(甲2,4,10〜12)によれば,1)本件サイトの「再生数」は 「9896」との表示がされていること,2)本件著作物の収録時間は120 分であるが,甲4の2には,アップロードされた動画の再生時間が21分0 5秒であるかのような記載があり,被告が自認する限度でも,その再生時間 は50分にすぎないこと,3)本件著作物は,原告のグループ会社が運営する ウェブサイトにおいて有料でインターネット配信されており,これをストリ ーミングで視聴する際の料金が300円(平成28年6月21日時点)とさ れていること,4)原告は,第三者に対し,著作物のストリーミング配信を 「売上総額(消費税抜き)」の38%で許諾した例があることの各事実を認 めることができる。
(2) 原告は,被告がアップロードした動画の再生回数が9896回であること から,これに前記のストリーミング料金である300円の38%を乗じた1 12万8144円が使用料相当損害額であると主張するが,本件サイトに表\n示された「再生数」が,無料会員によるごく短い時間のサンプル動画の視聴 も含まれるのかどうかも含め,どのような方法に基づいて計測されたかは明 らかではない。 また,上記のとおり,本件著作物の収録時間は120分であるのに対し, 被告がアップロードした動画の再生時間は,被告の自認する限りでも50分 であり,その再生時間は本件著作物の収録時間より相当程度短かったものと 認められる。 さらに,原告が使用料率の証拠として提出する契約書等は,平成15年4 月のコンテンツ提供基本契約書に基づき平成21年3月に交わされた覚書で あり,その契約時期は本件著作物のアップロードより相当程度以前のもので あり,その数も1例にすぎないので,これを基礎として本件著作物の利用料 率を定めることは相当ではなく,加えて,上記のストリーミング料金が消費 税を含む金額かどうかも明らかではない。 以上によれば,原告が主張する再生回数,ストリーミング料金及び利用料 率を基礎とし,その計算式に基づいて算定された損害が原告に生じたと直ち に認めることはできないが,他方,上記(1)の認定事実(本件サイトに表示\nされた再生回数,被告がアップロードした動画の再生時間,ストリーミング 料金の額,過去の契約例など)に加え,本件に現れた諸事情を全て総合する と,その損害額は40万円と認めるのが相当である。 なお,被告は,本件著作物は他サイトからの引用であり,著作権侵害の故 意・過失がなかったようにも主張するが,被告は他人の著作物を自らアップ ロードしたのであるから,被告に少なくとも過失があると認められることは 明らかである。

◆判決本文

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令和1(ワ)30272  発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年6月25日  東京地方裁判所

 発信者情報1(氏名又は名称)は保有していない、発信者情報2は、法4条1項の「発信者情報」に当たらないとして、発信者情報開示請求が棄却されました。

 被告が本件発信者情報1(氏名又は名称)を保有しているかを検討するため, 本件サービスに係る会員登録の情報内容についてみるに,証拠(甲11)によ れば,本件サービスの利用規約には,本件サービスの会員登録希望者は,本件 サービスの利用規約の全てに同意した上,同利用規約及び被告が定める方法に より会員登録をする旨の定めがある(同利用規約第4条1.)ことが認められ るにとどまり,同利用規約(甲11)の内容を全て精査しても,会員登録時に 登録すべき情報内容についての定めはなく,本件サービスを利用するためには 会員登録希望者ないし利用者がその氏名又は名称を登録する必要があることを うかがわせる定めも見当たらない。そうすると,本件登録者において,本件サ ービスの利用規約の定めに従い,本件発信者情報1(氏名又は名称)を登録し て被告に提供したと認めることはできず,その他,被告が本件発信者情報1 (氏名又は名称)を保有していると的確に認めるに足りる証拠はない。 したがって,被告が本件発信者情報1(氏名又は名称)を保有しているとは 認められない。 この点,原告は,本件サービスを利用してホームページ等を作成するために は,電子メールアドレス等のほかに,氏名又は名称を登録することが必要であ る旨主張する。しかし,本件の具体的事案に即して本件サービスの利用規約の 定めについて具体的に検討しても,本件登録者において,本件発信者情報1を 登録して被告に提供したと認めることができないことは,上記説示のとおりで ある。原告の上記主張は,推測の域を出るものではないというほかなく,採用 することができない
2 争点(2)本件発信者情報は法4条1項の「発信者情報」に当たるか)につい て
(1) 前記1で判示したとおり,本件発信者情報のうち本件発信者情報1(氏 名又は名称)については,被告がこれを保有しているとは認められないから, 本件発信者情報1の開示を求める原告の請求は,争点(2)について判断する までもなく,既に理由がない。 そこで,争点(2)に関しては,本件発信者情報2(電子メールアドレス) の開示を求める原告の請求について判断する。
(2) 法4条1項は,開示請求の対象となる「当該権利の侵害に係る発信者情 報」とは,「氏名,住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であ って総務省令で定めるものをいう。」と規定し,これを受けて省令は,その ような情報の一つとして「発信者の電子メールアドレス」と規定する(省令 3号)ところ,法2条4号は,「発信者」とは,「特定電気通信役務提供者 の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不 特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し,又は当該特定電気通 信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信され るものに限る。)に情報を入力した者をいう。」と規定する。 しかして,法が,2条4号により「発信者」を上記のように文言上明記し た趣旨は,法において,他人の権利を侵害する情報を流通過程に置いた者を 明確に定義することにより,それ以外の者であって当該情報の流通に関与し た者である特定電気通信役務提供者の私法上の責任が制限される場合を明確 にするところにある。そうすると,法4条1項を受けた省令3号の「発信者 の電子メールアドレス」の「発信者」についても,法2条4号の規定文言の とおりに,特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体 (当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。) に情報を記録し,又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入 力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した本 人に限られると解するのが相当である。
(3) そこで,これを前提に,本件について検討する。 前記のとおり,被告が,本件発信者情報2(本件登録者の電子メールア ドレス)を保有していることから,本件登録者は,本件サイトを開設した 際に,被告に対し,電子メールアドレスを提供したといえるものの,前記 1の説示に照らせば,氏名又は名称の提供をしたものとは認められない。 このように,本件サイトの開設に当たり本人情報として氏名又は名称が 提供されず電子メールアドレス等が提供されているような場合,本件登録 者が,真に本件登録者本人の電子メールアドレスを被告に提供したことに は合理的疑いが残るところである。 この点,証拠(甲11)をみても,本件サービスの利用規約には,本件サ ービスの会員は,本件サービスを利用する際に設定する登録情報に虚偽の情 報を掲載してはならない旨定められている(同利用規約第3条2.)ことが 認められるものの,他方,同利用規約(甲11)の内容を全て精査しても, 登録情報の内容が当該会員本人の情報であることを確認するための方法を定 めた定めはなく,かえって,登録情報に虚偽等がある場合や登録された電子 メールアドレスが機能していないと判断される場合には,被告において,本\n件サービスの利用停止等の措置を講じることができる旨の定めが存する(同 録希望者が他人の情報や架空の情報を登録するおそれのあることがうかがわ れるところである。特に,本件の場合,本件サイトは平成13年頃開設され たものである(甲1)ところ,本件サイトには,原告がその頃以降に創作し たほぼ全てのメールマガジンが原告に無断で転載されている(甲2)ことに 照らせば,本件サイトはそのような違法な行為のために開設されたものであ ることがうかがわれるから,本件登録者が本件サイトを開設する際に他人の 電子メールアドレスや架空の電子メールアドレスを登録した可能性を否定し\n難いといわざるを得ない。 そして,その他,本件登録者が本件サービスを利用して本件サイトを開設 する際に登録した電子メールアドレスが本件登録者本人のものであると認め るに足りる証拠はなく,本件登録者が本件サイトを開設する際に登録した電 子メールアドレスが本件登録者本人のものであると認めることは困難という べきである。 そうすると,被告の保有する電子メールアドレス(本件発信者情報2)は, 法2条4項にいう「特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記 録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限 る。)に情報を記録し,又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装 置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力 した者」の電子メールアドレスであるとはいえず,ひいては,省令3号の

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平成30(ワ)18151  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年6月25日  東京地方裁判所

 著作権について独占的利用権を有するとして、損害賠償請求をしましたが、独占的利用権を有していないとして請求は棄却されました。

 かかる事実経過に鑑みれば,そもそも原告は,本件原告ライセンス契約に 基づいて,本件キャラクターを付すなどにより本件キャラクターを利用した 商品を日本において独占的に販売するなど,自ら当該商品化権を専有してい るという事実状態を生じさせているものではない上,本件原告ライセンス契 約に至る状況等をみても,被告が本件TXBB契約等を通じ日本における当 該キャラクター商品の販売を継続していたという状態であるのに,権利者と されるSMFにおいて,本件原告ライセンス契約により原告の利用権の専有 を確保したと評価される行為がされたとはいえず(SMFは,被告ないしT XBB等に対し,権利侵害に係る警告,利用行為の差止請求や損害賠償請求, 原告からサブライセンスを受けるよう求める通告等をいずれも行っておらず (前記(2)ケ),また,本件訴訟提起の前後を通じても,原告が被告とサブラ イセンス契約の締結交渉を企図する中で,原告から求めがあったにもかかわ らず,原告が本件キャラクターの独占的利用権を有することを書面などによ り明確にする等の具体的な対応を一切とらず,さらに,被告に対し,利用権 を被告と原告の双方に設定した,いわば二重譲渡の状態にあることを認めつ つ被告の利用権を優先させるかのような姿勢を見せていた(前記(2)コ,サ)。), かえって,SMFは,上記契約の更新期前の時期には,被告との間で被告へ の利用権設定に向けての交渉や被告映画の販売交渉等に係る合意を行い,ま た,訴外香港法人に対し本件キャラクターの利用権を付与するなどの状態と なっていたものである。
そうすると,このような本件事案における事実状態をもってしては,権利 者とされるSMFによって,利用権者たる原告の利用権の専有を確保したと 評価されるに足りる行為が行われたとはいえず,SMFによって,原告が, 現にSMFから唯一許諾を受けた者として当該キャラクター商品を市場にお いて販売している状況に準じるような客観的状況が創出されているなど,原 告が契約上の地位に基づいて上記商品化権を専有しているという事実状態が 存在しているということはできないというべきである。 したがって,原告は,被告に対し,独占的利用権が侵害されたとして損害 賠償請求をすることはできないというほかない。
(4) これに対し,原告は,SMFの代表者であったCが,その陳述書(甲7)\nにおいて,原告に独占的利用権を与えたこと,及び本件TXBB契約に基づ いて被告が本件キャラクターを利用する権利はないことを言明していること などから,原告の独占的利用権の侵害による被告の不法行為が成立する旨を 主張する。
しかしながら,前記のとおり,原告において本件TXBB契約が終了した 旨を主張する平成26年12月31日以降,現時点に至るまで,SMFから 被告に対し,本件キャラクターの利用につき警告や法的措置が何ら取られて いないこと,本件訴訟提訴後の平成30年において,被告の組合員の職務執 行者であるDに対し,本件TXBB契約が終了した旨を明確に主張していな いこと,上記Cの陳述書(甲7)以外に,原告に対する本件キャラクターの 独占的利用権の付与を積極的に認める姿勢を明らかにした形跡が全く見当た らないことなどからすれば,権利者とされるSMFにおいて,原告への利用 権設定に当たりその専有を確保したと評価されるに足りる行為を行い上記に 準じる客観的状況を創出しているといえないことに変わりはなく,同人が契 約上の地位に基づいて上記商品化権を専有しているという事実状態が存在し ているということはできないとの前記判断を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない(なお,本件の経 緯に鑑みれば,仮に,SMFが,被告に対し,本件TXBB契約の存続を否 定する趣旨の主張に及ぶことがあったとしても,そのことから,SMFにお いて,原告への利用権設定に当たりその専有を確保したと評価されるに足り る行為を行い上記に準じる客観的状況を創出しているといえることになるも のではなく,原告が契約上の地位に基づいて上記商品化権を専有していると いう事実状態が存在しているということができない本件事案の下において, 原告の被告に対する,独占的利用権が侵害されたことを理由とする損害賠償 請求が肯定されることにはならない。)。

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平成29(ワ)20502等  音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認事件  著作権  民事訴訟 令和2年2月28日  東京地方裁判所(40部)

 音楽教室における演奏について、著作権侵害を構成すると判断しました。
不存在確認訴訟ですので、原告は場合分けをして判断を求めました。東京地裁はすべて、否定しました。主な論点は、「公衆」「聞かせることを目的」「2小節以内の演奏について演奏権が及ぶか」「演奏権の消尽」、「録音物の再生に係る実質的違法性阻却事由」「権利濫用」です。

上記(ア)ないし(オ)のとおり,原告らの音楽教室で演奏される課題曲の 選定方法,同教室における生徒及び教師の演奏態様,音楽著作物の利用 への原告らの関与の内容・程度,著作物の利用に必要な施設・設備の提 供の主体,音楽著作物の利用による利益の帰属等の諸要素を考慮すると, 原告らの経営する音楽教室における音楽著作物の利用主体は原告らで あると認めるのが相当である(なお,原告ら(別紙C)の経営する個人 教室は,生徒の居宅においてレッスンを行っているので,著作物の利用 に必要な施設・設備についての管理・支配は認められないが,原告ら(別 紙C)は原告ら自身が教師として課題曲の選定,レッスンにおける演奏 等をしているので,同原告らが利用する音楽著作物の利用主体は同原告 らであると認められる。)。
・・・
このように,原告らの音楽教室におけるレッスンは,教師が演奏を行って 生徒に聞かせることと,生徒が演奏を行って教師に聞いてもらうことを繰り 返す中で,演奏技術の教授が行われるが,このような演奏態様に照らすと, そのレッスンにおいて,原告ら音楽教室事業者と同視し得る立場にある教師 が,公衆である生徒に対して,自らの演奏を注意深く聞かせるため,すなわ ち「聞かせることを目的」として演奏していることは明らかである。

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平成30(受)1412  発信者情報開示請求事件 令和2年7月21日  最高裁判所第三小法廷  判決  棄却  知的財産高等裁判所

 アップし忘れましてました。
 発信者情報開示事件です。1審では、リツイートはインラインリンクであるので、著作権侵害、人格権侵害に該当しないと判断され、請求は棄却されました。知財高裁(2部)は、著作者人格権侵害があったとして、一部の発信者情報について開示を認めました。最高裁(第3小)も人格権侵害は認めましたが、著作権侵害は否定しました。

 自動公衆送信の主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ,情報 を自動的に送信できる状態を作り出す行為を行う者と解されるところ(最高裁平成 23年1月18日判決・民集65巻1号121頁参照),本件写真のデータは,流 通情報2(2)のデータのみが送信されていることからすると,その自動公衆送信の 主体は,流通情報2(2)の URL の開設者であって,本件リツイート者らではないと いうべきである。著作権侵害行為の主体が誰であるかは,行為の対象,方法,行為 への関与の内容,程度等の諸般の事情を総合的に考慮して,規範的に解釈すべきで あり,カラオケ法理と呼ばれるものも,その適用の一場面であると解される(最高 裁平成23年1月20日判決・民集65巻1号399頁参照)が,本件において, 本件リツイート者らを自動公衆送信の主体というべき事情は認め難い。控訴人は, 本件アカウント3〜5の管理者は,そのホーム画面を支配している上,ホーム画面 閲覧の社会的経済的利益を得ていると主張するが,そのような事情は,あくまでも 本件アカウント3〜5のホーム画面に関する事情であって,流通情報2(2)のデー タのみが送信されている本件写真について,本件リツイート者らを自動公衆送信の 主体と認めることができる事情とはいえない。また,本件リツイート行為によって, 本件写真の画像が,より広い範囲にユーザーのパソコン等の端末に表\示されること となるが,我が国の著作権法の解釈として,このような受け手の範囲が拡大するこ とをもって,自動公衆送信の主体は,本件リツイート者らであるということはでき ない。さらに,本件リツイート行為が上記の自動公衆送信行為自体を容易にしたと はいい難いから,本件リツイート者らを幇助者と認めることはできず,その他,本 件リツイート者らを幇助者というべき事情は認められない。
(ウ) 控訴人は,自動公衆送信にも放送にも有線放送にも当たらない公衆 送信権侵害も主張するが,前記(ア)のとおり自動公衆送信に当たることからすると, 自動公衆送信以外の公衆送信権侵害が成立するとは認められない。
(3) 複製権侵害(著作権法21条)について
前記(2)イのとおり,著作物である本件写真は,流通情報2(2)のデータのみが送 信されているから,本件リツイート行為により著作物のデータが複製されていると いうことはできない。したがって,複製権侵害との関係でも,控訴人が主張する「 ブラウザ用レンダリングデータ」あるいは HTML データ等を「侵害情報」と捉える ことはできず,「ブラウザ用レンダリングデータ」あるいは HTML データ等が「侵 害情報」であることを前提とする控訴人の複製権侵害に関する主張は,採用するこ とができない。
(4) 公衆伝達権侵害(著作権法23条2項)について
著作権法23条2項は,「著作者は,公衆送信されるその著作物を受信装置を用 いて公に伝達する権利を専有する。」と規定する。 控訴人は,本件リツイート者らをもって,著作物をクライアントコンピュータに 表示させた主体と評価すべきであるから,本件リツイート者らが受信装置であるク\nライアントコンピュータを用いて公に伝達していると主張する。しかし,著作権法 23条2項は,公衆送信された後に公衆送信された著作物を,受信装置を用いて公 に伝達する権利を規定しているものであり,ここでいう受信装置がクライアントコ ンピュータであるとすると,その装置を用いて伝達している主体は,そのコンピュ ータのユーザーであると解され,本件リツイート者らを伝達主体と評価することは できない。控訴人が主張する事情は,本件写真等の公衆送信に関する事情や本件ア カウント3〜5のホーム画面に関する事情であって,この判断を左右するものでは ない。そして,その主体であるクライアントコンピュータのユーザーが公に伝達し ているというべき事情も認め難いから,公衆伝達権の侵害行為自体が認められない。 このように公衆伝達権の侵害行為自体が認められないから,その幇助が認められる 余地もない。
(5) 著作者人格権侵害について
ア 同一性保持権(著作権法20条1項) 侵害
前記(1)のとおり,本件アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている\n画像は,流通情報2(2)の画像とは異なるものである。この表示されている画像は,\n表示するに際して,本件リツイート行為の結果として送信された HTML プログラム や CSS プログラム等により,位置や大きさなどが指定されたために,上記のとおり 画像が異なっているものであり,流通情報2(2)の画像データ自体に改変が加えら れているものではない。 しかし,表示される画像は,思想又は感情を創作的に表\現したものであって,文 芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものとして,著作権法2条1項1号にいう 著作物ということができるところ,上記のとおり,表示するに際して,HTML プロ グラムや CSS プログラム等により,位置や大きさなどを指定されたために,本件ア カウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3〜5のよ\nうな画像となったものと認められるから,本件リツイート者らによって改変された もので,同一性保持権が侵害されているということができる。 この点について,被控訴人らは,仮に改変されたとしても,その改変の主体は, インターネットユーザーであると主張するが,上記のとおり,本件リツイート行為 の結果として送信された HTML プログラムや CSS プログラム等により位置や大きさ などが指定されたために,改変されたということができるから,改変の主体は本件 リツイート者らであると評価することができるのであって,インターネットユーザ ーを改変の主体と評価することはできない(著作権法47条の8は,電子計算機に おける著作物の利用に伴う複製に関する規定であって,同規定によってこの判断が 左右されることはない。)。また,被控訴人らは,本件アカウント3〜5のタイム ラインにおいて表示されている画像は,流通情報2(1)の画像と同じ画像であるから, 改変を行ったのは,本件アカウント2の保有者であると主張するが,本件アカウン ト3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は,控訴人の著作物である本\n件写真と比較して改変されたものであって,上記のとおり本件リツイート者らによ って改変されたと評価することができるから,本件リツイート者らによって同一性 保持権が侵害されたということができる。さらに,被控訴人らは,著作権法20条 2項4号の「やむを得ない」改変に当たると主張するが,本件リツイート行為は, 本件アカウント2において控訴人に無断で本件写真の画像ファイルを含むツイート が行われたもののリツイート行為であるから,そのような行為に伴う改変が「やむ を得ない」改変に当たると認めることはできない。
イ 氏名表示権(著作権法19条1項)侵害\n
本件アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像には,控訴人\nの氏名は表示されていない。そして,前記(1)のとおり,表示するに際して HTML プ ログラムや CSS プログラム等により,位置や大きさなどが指定されたために,本件 アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3〜5の\nような画像となり,控訴人の氏名が表示されなくなったものと認められるから,控\n訴人は,本件リツイート者らによって,本件リツイート行為により,著作物の公衆 への提供又は提示に際し,著作者名を表示する権利を侵害されたということができ\nる。
ウ 名誉声望保持権(著作権法113条6項)侵害
本件アカウント3〜5において,サンリオのキャラクターやディズニーのキャラ クターとともに本件写真が表示されているからといって,そのことから直ちに,「\n無断利用してもかまわない価値の低い著作物」,「安っぽい著作物」であるかのよ うな誤った印象を与えるということはできず,著作者である控訴人の名誉又は声望 を害する方法で著作物を利用したということはできない。そして,他に,控訴人の 名誉又は声望を害する方法で著作物を利用したものというべき事情は認められない から,本件リツイート者らは,控訴人の名誉声望保持権(著作権法113条6項 )を侵害したとは認められない。
(6) なお,控訴人は,本件アカウント2,4及び5の各保有者が自然人として は同一人物であり,又はこれらの者が共同して公衆送信権を侵害した旨主張するが, そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
(7)「侵害情報の流通によって」(プロバイダ責任制限法4条1項1号)及び 「発信者」(同法2条4号)について
前記(5)ア,イのとおり,本件リツイート行為は,控訴人の著作者人格権を侵害す る行為であるところ,前記(5)ア,イ認定の侵害態様に照らすと,この場合には,本 件写真の画像データのみならず,HTML プログラムや CSS プログラム等のデータを 含めて,プロバイダ責任制限法上の「侵害情報」ということができ,本件リツイー ト行為は,その侵害情報の流通によって控訴人の権利を侵害したことが明らかであ る。そして,この場合の「発信者」は,本件リツイート者らであるということがで きる。
(8) 争点(2)について
本件アカウント2の流通情報2(3)及び(4)については,流通情報3〜5と同様に, 流通情報2(2)の画像が改変され,控訴人の氏名が表示されていないということが\nできるから,著作者人格権の侵害があるということができる。しかし,本件アカウ ント1の流通情報1(6)及び(7)については,流通情報1(3)の画像と同じものが表示\nされているから,著作者人格権の侵害があると認めることはできない。これらにつ いて著作権の侵害を認めることができないことは,流通情報3〜5と同様である。

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◆平成28(ネ)10101

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◆平成27(ワ)17928

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令和1(ワ)60 損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和元年11月18日  大阪地方裁判所

 漫画を違法アップロードしていた個人に対して、連帯して約1.6億円の損害賠償が認められました。裁判所は「電子書籍の価格構造における出版社の利益率は,配信プラットフォームの違いに応じた代表\的な複数の事例の中で,最も低いもので45%である」と認定しました。編集著作者としての講談社が原告です。一部の被告は欠席裁判でした。

 証拠(甲2,13)及び弁論の全趣旨によれば,原告が原告各雑誌を販売してい ること,その本体価格は別紙著作物目録の「本体価格(円)」欄にそれぞれ記載の とおりであることが認められる。 また,証拠(甲25の1〜25の4)によれば,平成27年〜平成30年にそれ ぞれ発行された調査報告書には,電子書籍の価格構造における出版社の利益率は,\n配信プラットフォームの違いに応じた代表的な複数の事例の中で,最も低いもので\n45%であることが認められる。本件各違法アップロード行為の対象となった原告 各雑誌に係る販売利益率がこの割合を下回ることをうかがわせる事情はないから, これが45%であるものとして算定することには十分な合理性がある。\n
(ウ) 逸失利益額
各雑誌に係るファイルごとのダウンロード数並びに雑誌ごとの本体価格及び販売 利益率を乗じると,1億5032万8192円となる。他方,被告P3は,「販売 することができないとする事情」(著作権法114条1項ただし書)について,何 ら主張立証していない。したがって,本件各違法アップロード行為による原告の逸 失利益額は,同額であると認められる。
イ 弁護士費用相当損害額
原告の逸失利益額(上記ア)その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,被告 らの本件各違法アップロード行為と相当因果関係に立つ弁護士費用相当損害額は, 1503万2819円と認めるのが相当である。

◆判決本文

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平成30(ワ)7538  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年1月14日  大阪地方裁判所(21部)

 ブロンズ像の複製の使用料相当額について、過去の実績である40%は認められませんでしたが、それでも、6作品で6000万円を超える損害額が認定されました。。

 著作権法114条3項は,「著作権者…は,故意又は過失によりその著作権 …を侵害した者に対し,その著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する 額を自己が受けた損害の額として,その賠償を請求することができる。」旨規定し, 使用料相当額の請求を認めるところ,これは,民法709条,著作権法114条1 項及び2項の主張立証が困難な場合であっても,著作権者に最低限の損害賠償を保 証する趣旨であると解されている。 著作権の許諾は,多くの場合,特許権の実施許諾契約の場合に見られるように, 実施権者が,自らの製品の一部に当該特許発明を用いて製造するといった態様では なく,許諾を受けた者が,当該著作物をそのままの形で使用する態様が採られ,他 の著作物による代替も予定されていない。また,本件のような著名な芸術家による\n高価な芸術作品の複製に関する許諾の場合には,大量の複製品の製造及び流通は通 常予定されておらず,許諾を受けた者が制作する複製品の品質の評価が,著作者で\nある芸術家の評価に直接影響することから,許諾に際し,慎重な選考が行われたり, 複製品の製造数量が限定されたり,複製品の価格設定を著作権者が行ったり,比較 的高い料率が設定されたりすることが考えられる。 そうすると,このような場合において,「その著作権…の行使につき受けるべき 金銭の額」,すなわち許諾料相当額は,相手方又は第三者との間における当該著作 権に係る許諾契約における許諾料や,その算定において用いられた事情,あるいは 業界慣行等一般的相場を基礎として,著作物の種類及び性質や,当該著作権の許諾 を受けた者において想定される著作物の利用方法等を考慮し,個別具体的に合理的 な許諾料の額を定めるべきである。
(2)ア 本件において,前記1(4)のとおり,平成元年から平成23年までの間に, 本件各ブロンズ像について,各作品の販売価格を基礎としてその約10ないし4 0%の額の許諾料にて複製の許諾がなされていたこと,具体的な許諾料は,複製品 の制作者との協議の上で最終的に訴外直樹が決定しており,減額はされなかったこ と,前記1(5)のとおり,作品の販売価格についても訴外直樹が原則として値引きを 行わせなかったこと,平成18年ころにおける各作品の販売価格は,上記許諾料が 定められた際に基礎とされた販売価格とほぼ同水準であったこと等が認められる。
イ 一方で,許諾料相当額を算定するにあたっては,許諾を得た者が実際に支払 った許諾料の水準や,著作権が侵害された平成16年ころから平成28年ころまで の間に,許諾を得て複製された訴外直樹の作品が販売された数量,価格を考慮する 必要があるが,平成18年に原告が訴外直樹の著作権を相続した後,どの程度許諾 料を得たかについての証拠は提出されていないし,前記1(5)の平成18年の回顧展 の後に,訴外直樹の作品が,どのような価格で,どのような数量販売されたかにつ いての証拠も提出されていない。 また,「大将の椅子」について,平成23年以降は許諾を受けた者が倒産したた め製造販売されず,他の者に対する許諾もなされていないこと,令和元年における オークションにおける最低入札価格が68万円とされているところ,オークション が中古市場であることや最低入札価格と実際の販売価格との間には相当程度の開き が生じ得ることを考慮しても,同作品につき以前の販売価格(450万円)又はこ れに近い価格で取引が行われているかについては,不明といわざるを得ないし,前 記1(4)アの合意は,訴外直樹と業者との間で,平成元年から平成9年にかけてなさ れたものであることを総合すると,前記1(4)で合意された金額が,著作権侵害期間 である平成16年ころから平成28年ころまでの許諾料相当額としてそのまま妥当 するとすることは困難である。
ウ 他方,前記1(3)のとおり,被告は,無断で製造した本件各ブロンズ像の複製 品を,単価15万円から60万円程度という安価で販売し,鋳造及び着色業者に対 して,1体当たり15万円程度の対価を支払っていることから,複製品の製造によ り得た利益は多額とはいえないと考えられるし,被告から廉価で品質の劣る複製品 を購入した者は,それが禁止されていれば,直ちに高価な正規品を購入したであろ うとの関係も認め難い。 しかし,本件のように,著作権者の側が,一定の水準以下では複製も,複製品の 販売も認めないとしている場合に,無断で複製を行った者がこれを廉価で販売する ことで,侵害者の利益に合わせて許諾料相当額の水準を大きく下落させることは, 前記(1)で述べた,著作権法114条3項の趣旨を没却することになり,相当でない というべきである。
(3) 以上より,本件各ブロンズ像の許諾料相当額については,前記1(4)で認定し た,訴外直樹が,本件各ブロンズ像の販売価格を基礎として,許諾を受ける者との 協議の上で決定した価格を出発点としつつも,前記(2)イで検討した事情を総合して, 以下のとおり,侵害時期に対応する本件各ブロンズ像の許諾料相当額は,前記1(4) の各許諾料の半額とするのが相当であると考えられる。
(1) 「クリスマス・イブ」(小) 30万円
(2) 「パリ祭」 75万円
(3) 「初舞台」 40万円
(4) 「大将の椅子」 90万円
(5) 「トルコの貴婦人」 75万円
(6) 「トスカーナの女」 125万円
(4)まとめ
したがって,上記許諾料に,それぞれ,前記第2の1(2)及び第3の2のとおりの販売数を乗じると,合計6290万円となるところ,これが訴外直樹又は原告の損害額と認められる。
(計算式)30万円×39体+75万円×20体+40万円×16体+90万円×17体+75万円×11体+125万円×5体=6290万円

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平成31(ネ)10018  損害賠償請求本訴,使用料規程無効確認請求反訴控訴事件  著作権  民事訴訟 令和元年10月23日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 著作権侵害について、知財高裁3部は、1審よりも損害額を減額しました。事後的に定められるべき金銭の額としては,「・・・本件基本合意・・・をベースとし,そこに定められた額の約1.5倍が妥当」と基準を示しました。

 以上のとおり,被控訴人は,地上テレビジョン放送事業者から管理 委託を受けた著作権及び著作隣接権の有線放送権に基づき再放送の利用 許諾をするに当たり,ほぼ全てのケーブルテレビ事業者との間で,3者 契約又は2者契約の方式により年間の包括的利用許諾契約を締結し,3 者契約の場合は本件基本合意に基づき,2者契約の場合は本件使用料一 覧(2者契約)に基づき定められた使用料額をケーブルテレビ事業者か ら徴収していることが認められる。 一方,被控訴人と3者契約又は2者契約の方式により年間の包括的利 用許諾契約を締結したケーブルテレビ事業者のうち,本件基本合意に基 づく減額措置(3者契約の場合)又は本件使用料一覧(2者契約)に基 づく減額措置(2者契約の場合)を受けることが可能であるにもかかわ\nらず,減額措置を受けずに,本件使用料規程に定められた区域内再放送 の使用料(1世帯1ch当たり年額120円)及び区域外再放送の使用 料(1世帯1ch当たり年額600円)を支払っている事業者は存在し ない。 そして,控訴人は,適法に同意を得て,又は総務大臣による同意裁定 を得て,毎日放送等6社の地上テレビジョン放送を同時再放送している ものであり,ケーブルテレビ連盟の会員でもあることから,仮に控訴人 が希望すれば,被控訴人との間で,本件基本合意に基づく3者契約又は 本件使用料一覧(2者契約)に基づく2者契約を締結することが可能で\nあって,その場合の再放送使用料は,上記減額措置の適用を受けて,区 域内再放送につき1世帯1ch当たり年額24円(3者契約)又は28 円(2者契約),区域外再放送につき1世帯1ch当たり年額120円 (3者契約)又は144円(2者契約)であり,平成26年度の再放送 使用料については,使用料の50%が軽減されるものと認められる(弁 論の全趣旨)。
以上のような,被控訴人とケーブルテレビ事業者との間で締結された 同時再放送に係る利用許諾契約の内容,控訴人による本件有線放送権の 利用の態様等の事実を考慮すると,上記利用許諾契約の締結に当たり適 用された実績が全くない,本件使用料規程の「年間の包括的利用許諾契 約によらない場合」(3条(2))又は「年間の包括的利用許諾契約を結ぶ 場合」(3条(1))が,著作権法114条4項の「使用料規程のうちその 侵害の行為に係る著作物等の利用の態様について適用されるべき規定」 に該当するものとは認めらない。
(イ) これに対し被控訴人は,(1)使用料規程による使用料の算出方法が複 数あるときは各方法により算出した額のうち最も高い額を請求すること ができるとする著作権法114条4項を設けた趣旨に鑑みれば,「最も 高い額」となる算出方法による許諾実績がなくとも,同項の適用は妨げ られない,(2)実際にも,被控訴人は,著作権等管理事業を開始した平成 26年度以降,年間の包括的利用許諾契約によって区域外再放送を許諾 するに当たり,累計12社(平成27年度10社,同28年度9社,同 29年度9社)の有線テレビジョン放送事業者につき,本件減額措置を 施さずに,有料視聴世帯数に地上テレビジョン放送1波当たり年額60 0円を乗じた額の使用料を徴収している旨主張する。
まず,上記(1)の点について,著作権法114条4項は,同条3項により損害の賠償を請求する場合において,当該著作権等管理事業者が定め る使用料規程により算出した金額をもって,同条3項に規定する金銭の 額とする旨を定めるものである。そして,同条3項は,不法行為による 著作権等侵害の際に著作権者等が請求し得る最低限度の損害額を法定し た規定であるところ,不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じ た現実の損害を填補することを目的とするものであるから,現実の損害 が発生しなかった場合には,それを理由とする賠償請求をすることがで きないことは自明である。 これを本件についてみるに,前記(ア)のとおり,被控訴人は,ほぼ全て のケーブルテレビ事業者との間で,3者契約又は2者契約の方式により 年間の包括的利用許諾契約を締結し,3者契約の場合は本件基本合意に 基づき,2者契約の場合は本件使用料一覧(2者契約)に基づき定めら れた使用料額をケーブルテレビ事業者から徴収しており,これらの事業 者のうち,本件基本合意に基づく減額措置又は本件使用料一覧(2者契 約)に基づく減額措置を受けることが可能であるにもかかわらず,これ\nを受けずに,それよりも遥かに高額な,本件使用料規程3条(1)又は(2)に 定められた区域内再放送及び区域外再放送の使用料を支払っている事業 者は存在しない。被控訴人と控訴人との交渉の過程においても,本件基 本合意に基づく3者契約又は本件使用料一覧(2者契約)に基づく2者 契約によることが,当然の前提とされていたものである。
そして,このような被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の同時再 放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額,控訴人による本件 有線放送権の利用の態様,控訴人と被控訴人の間の再放送同意に係る利 用許諾契約に関する交渉経緯(前記ア(エ))等によれば,本件における使 用料相当額の算定に当たって,実際の利用許諾契約において用いられた 例がなく,かつ,上記減額措置を受ける場合と比較して使用料が遥かに 高額となる,本件使用料規程3条(1)又は(2)による場合の算定方法を用い ることは,被控訴人に生じた現実の損害の算定方法としてはおよそ非現 実的というべきであり,相当でない。 次に,上記(2)の点について,被控訴人が,累計12社の有線テレビジ ョン放送事業者との間で,本件使用料規程に基づき,区域外再放送の使 用料を1世帯1ch当たり年額600円とする年間の包括的利用許諾契 約を締結し,同規程に基づき算定された金額を徴収していることについ ては,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。また,被控訴人の 主張によれば,上記12社はいずれも重複波等の区域外再放送を行った 者であるところ,前記認定の被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の 同時再放送に係る利用許諾契約の締結状況に照らすと,上記12社は, 本件基本合意に基づく3者契約又は本件使用料一覧(2者契約)による 2者契約を締結した上で,本件基本合意(1)(3)の定めに基づき,「有料視 聴世帯数×1世帯1chあたり年額600円×区域外再放送(重複波等) ch数」の使用料を支払ったものであると推認される。そして,上記1 2社において,本件基本合意に基づく減額措置(3者契約の場合)又は 本件使用料一覧(2者契約)に基づく減額措置(2者契約の場合)を受 けることが可能であるにもかかわらず,減額措置を受けずに,本件使用\n料規程に定められた区域外再放送の使用料を支払っていることを認める に足りる証拠はない。 したがって,被控訴人の上記各主張を採用することはできない。
ウ 被控訴人は,控訴人が本件有線放送権を侵害したことにより被控訴人が 受けた損害の額として,著作権法114条3項及び4項により算定される 損害額を主張するところ,前記イのとおり,本件において著作権法114 条4項を適用して,本件使用料規程3条(1)又は(2)に基づいて被控訴人の損 害の額を算定することは,相当でない。そこで,同条3項により算定され る被控訴人の損害の額について,以下検討する。 同条3項は,著作権及び著作隣接権侵害の際に著作権者,著作隣接権者 が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定である。また,同項所定の 「その著作権…又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当 する額」については,平成12年法律第56号による改正前は「その著作 権又は著作隣接権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額」と 定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得にな ってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。 そして,かかる法改正の経緯に照らせば,著作権及び著作隣接権侵害をし た者に対して事後的に定められるべき,これらの権利の行使につき受ける べき金銭の額は,通常の利用許諾契約の使用料に比べて自ずと高額になる であろうことを考慮すべきである。
これを本件についてみると,前記イ(ア)の被控訴人とケーブルテレビ事 業者との間の同時再放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額, 控訴人による本件有線放送権の利用の態様等の事実に加えて,控訴人と被 控訴人の間の再放送同意に係る利用許諾契約に関する交渉経緯など,本件 訴訟に現れた事情を考慮すると,著作権及び著作隣接権侵害をした者に対 して事後的に定められるべき,本件での利用に対し受けるべき金銭の額は, 被控訴人とケーブルテレビ事業者との間における再放送使用料を現実に 規律していると認められる本件基本合意及び本件使用料一覧(2者契約) をベースとし,そこに定められた額を約1.5倍した額である,区域内再 放送につき1世帯1ch当たり年額36円及び区域外再放送につき1世 帯1ch当たり年額180円とし,平成26年度についてはその半額を下 らないものと認めるのが相当である。

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平成31(ネ)10018  損害賠償請求本訴,使用料規程無効確認請求反訴控訴事件  著作権  民事訴訟 令和元年10月23日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 著作権侵害について、知財高裁3部は、1審よりも損害額を減額しました。事後的に定められるべき金銭の額としては,「・・・本件基本合意・・・をベースとし,そこに定められた額の約1.5倍が妥当」と基準を示しました。

 以上のとおり,被控訴人は,地上テレビジョン放送事業者から管理 委託を受けた著作権及び著作隣接権の有線放送権に基づき再放送の利用 許諾をするに当たり,ほぼ全てのケーブルテレビ事業者との間で,3者 契約又は2者契約の方式により年間の包括的利用許諾契約を締結し,3 者契約の場合は本件基本合意に基づき,2者契約の場合は本件使用料一 覧(2者契約)に基づき定められた使用料額をケーブルテレビ事業者か ら徴収していることが認められる。 一方,被控訴人と3者契約又は2者契約の方式により年間の包括的利 用許諾契約を締結したケーブルテレビ事業者のうち,本件基本合意に基 づく減額措置(3者契約の場合)又は本件使用料一覧(2者契約)に基 づく減額措置(2者契約の場合)を受けることが可能であるにもかかわ\nらず,減額措置を受けずに,本件使用料規程に定められた区域内再放送 の使用料(1世帯1ch当たり年額120円)及び区域外再放送の使用 料(1世帯1ch当たり年額600円)を支払っている事業者は存在し ない。 そして,控訴人は,適法に同意を得て,又は総務大臣による同意裁定 を得て,毎日放送等6社の地上テレビジョン放送を同時再放送している ものであり,ケーブルテレビ連盟の会員でもあることから,仮に控訴人 が希望すれば,被控訴人との間で,本件基本合意に基づく3者契約又は 本件使用料一覧(2者契約)に基づく2者契約を締結することが可能で\nあって,その場合の再放送使用料は,上記減額措置の適用を受けて,区 域内再放送につき1世帯1ch当たり年額24円(3者契約)又は28 円(2者契約),区域外再放送につき1世帯1ch当たり年額120円 (3者契約)又は144円(2者契約)であり,平成26年度の再放送 使用料については,使用料の50%が軽減されるものと認められる(弁 論の全趣旨)。
以上のような,被控訴人とケーブルテレビ事業者との間で締結された 同時再放送に係る利用許諾契約の内容,控訴人による本件有線放送権の 利用の態様等の事実を考慮すると,上記利用許諾契約の締結に当たり適 用された実績が全くない,本件使用料規程の「年間の包括的利用許諾契 約によらない場合」(3条(2))又は「年間の包括的利用許諾契約を結ぶ 場合」(3条(1))が,著作権法114条4項の「使用料規程のうちその 侵害の行為に係る著作物等の利用の態様について適用されるべき規定」 に該当するものとは認めらない。
(イ) これに対し被控訴人は,(1)使用料規程による使用料の算出方法が複 数あるときは各方法により算出した額のうち最も高い額を請求すること ができるとする著作権法114条4項を設けた趣旨に鑑みれば,「最も 高い額」となる算出方法による許諾実績がなくとも,同項の適用は妨げ られない,(2)実際にも,被控訴人は,著作権等管理事業を開始した平成 26年度以降,年間の包括的利用許諾契約によって区域外再放送を許諾 するに当たり,累計12社(平成27年度10社,同28年度9社,同 29年度9社)の有線テレビジョン放送事業者につき,本件減額措置を 施さずに,有料視聴世帯数に地上テレビジョン放送1波当たり年額60 0円を乗じた額の使用料を徴収している旨主張する。
まず,上記(1)の点について,著作権法114条4項は,同条3項により損害の賠償を請求する場合において,当該著作権等管理事業者が定め る使用料規程により算出した金額をもって,同条3項に規定する金銭の 額とする旨を定めるものである。そして,同条3項は,不法行為による 著作権等侵害の際に著作権者等が請求し得る最低限度の損害額を法定し た規定であるところ,不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じ た現実の損害を填補することを目的とするものであるから,現実の損害 が発生しなかった場合には,それを理由とする賠償請求をすることがで きないことは自明である。 これを本件についてみるに,前記(ア)のとおり,被控訴人は,ほぼ全て のケーブルテレビ事業者との間で,3者契約又は2者契約の方式により 年間の包括的利用許諾契約を締結し,3者契約の場合は本件基本合意に 基づき,2者契約の場合は本件使用料一覧(2者契約)に基づき定めら れた使用料額をケーブルテレビ事業者から徴収しており,これらの事業 者のうち,本件基本合意に基づく減額措置又は本件使用料一覧(2者契 約)に基づく減額措置を受けることが可能であるにもかかわらず,これ\nを受けずに,それよりも遥かに高額な,本件使用料規程3条(1)又は(2)に 定められた区域内再放送及び区域外再放送の使用料を支払っている事業 者は存在しない。被控訴人と控訴人との交渉の過程においても,本件基 本合意に基づく3者契約又は本件使用料一覧(2者契約)に基づく2者 契約によることが,当然の前提とされていたものである。
そして,このような被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の同時再 放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額,控訴人による本件 有線放送権の利用の態様,控訴人と被控訴人の間の再放送同意に係る利 用許諾契約に関する交渉経緯(前記ア(エ))等によれば,本件における使 用料相当額の算定に当たって,実際の利用許諾契約において用いられた 例がなく,かつ,上記減額措置を受ける場合と比較して使用料が遥かに 高額となる,本件使用料規程3条(1)又は(2)による場合の算定方法を用い ることは,被控訴人に生じた現実の損害の算定方法としてはおよそ非現 実的というべきであり,相当でない。 次に,上記(2)の点について,被控訴人が,累計12社の有線テレビジ ョン放送事業者との間で,本件使用料規程に基づき,区域外再放送の使 用料を1世帯1ch当たり年額600円とする年間の包括的利用許諾契 約を締結し,同規程に基づき算定された金額を徴収していることについ ては,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。また,被控訴人の 主張によれば,上記12社はいずれも重複波等の区域外再放送を行った 者であるところ,前記認定の被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の 同時再放送に係る利用許諾契約の締結状況に照らすと,上記12社は, 本件基本合意に基づく3者契約又は本件使用料一覧(2者契約)による 2者契約を締結した上で,本件基本合意(1)(3)の定めに基づき,「有料視 聴世帯数×1世帯1chあたり年額600円×区域外再放送(重複波等) ch数」の使用料を支払ったものであると推認される。そして,上記1 2社において,本件基本合意に基づく減額措置(3者契約の場合)又は 本件使用料一覧(2者契約)に基づく減額措置(2者契約の場合)を受 けることが可能であるにもかかわらず,減額措置を受けずに,本件使用\n料規程に定められた区域外再放送の使用料を支払っていることを認める に足りる証拠はない。 したがって,被控訴人の上記各主張を採用することはできない。
ウ 被控訴人は,控訴人が本件有線放送権を侵害したことにより被控訴人が 受けた損害の額として,著作権法114条3項及び4項により算定される 損害額を主張するところ,前記イのとおり,本件において著作権法114 条4項を適用して,本件使用料規程3条(1)又は(2)に基づいて被控訴人の損 害の額を算定することは,相当でない。そこで,同条3項により算定され る被控訴人の損害の額について,以下検討する。 同条3項は,著作権及び著作隣接権侵害の際に著作権者,著作隣接権者 が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定である。また,同項所定の 「その著作権…又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当 する額」については,平成12年法律第56号による改正前は「その著作 権又は著作隣接権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額」と 定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得にな ってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。 そして,かかる法改正の経緯に照らせば,著作権及び著作隣接権侵害をし た者に対して事後的に定められるべき,これらの権利の行使につき受ける べき金銭の額は,通常の利用許諾契約の使用料に比べて自ずと高額になる であろうことを考慮すべきである。
これを本件についてみると,前記イ(ア)の被控訴人とケーブルテレビ事 業者との間の同時再放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額, 控訴人による本件有線放送権の利用の態様等の事実に加えて,控訴人と被 控訴人の間の再放送同意に係る利用許諾契約に関する交渉経緯など,本件 訴訟に現れた事情を考慮すると,著作権及び著作隣接権侵害をした者に対 して事後的に定められるべき,本件での利用に対し受けるべき金銭の額は, 被控訴人とケーブルテレビ事業者との間における再放送使用料を現実に 規律していると認められる本件基本合意及び本件使用料一覧(2者契約) をベースとし,そこに定められた額を約1.5倍した額である,区域内再 放送につき1世帯1ch当たり年額36円及び区域外再放送につき1世 帯1ch当たり年額180円とし,平成26年度についてはその半額を下 らないものと認めるのが相当である。

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平成31(ネ)10035等  著作権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件  著作権  民事訴訟 令和元年9月18日  知的財産高等裁判所  静岡地方裁判所

 カラオケ店舗において、顧客が楽器演奏をすることができました。かかるカラオケ店舗の行為が著作権侵害かが争われました。知財高裁は、演奏権侵害と認定しました。1審はアップされていません。

 被控訴人は使用料規程により使用料を得ているのであるから,使用料規 程に従って算出される使用料相当額をもって,被控訴人の損害と認めるのが 相当である。 これに対し,控訴人らは,使用料規程のうち,入場料もなく無償で行わ れる著作物の演奏に対しても使用料を徴収する規定は,著作権法による保護 の範囲を超えており,憲法上の表現の自由及び幸福追求権などの権利を過度\nに制約するもので,公序良俗に反し無効であるし,本件におけるSUQSU Qでの演奏活動は著作権法の規制の範囲外のものであり,無償の範疇にあっ たと主張する。しかし,演奏権が及ばない場合については著作権法38条1 項が規定するとおりであり,使用料規程の内容に照らし,一般に演奏権が及 ぶ場合について使用料を規定したものであることは明らかであり,著作権の 保護範囲に関する控訴人らの主張は独自の見解であって採用できない。また, 控訴人らの行為が著作権法38条1項により演奏権が及ばない場合に該当し ないことは上記2(7)において説示したとおりであり,控訴人らの行為が著 作権法の規制の範囲外であるとの控訴人らの主張は失当である。 さらに,控訴人らは,使用料規程は具体性,合理性を欠くものであるこ とを主張する。しかし,使用料規程には,社交場として定義される施設にお いて,椅子又は座席以外の客席(客にダンスをさせるための場所を含む。) については面積を1.5m2で除した数を座席数とみなすことを含めた座席数 の算出方法,標準単位料金の算出方法(客1人あたりにつき通常支払うこと を必要とされる税引き後の料金相当額(いずれの名義をもってするかを問わ ない))が定められており,十分に具体性がある。また,著作権等管理事業\n者において締結する著作物の利用許諾契約の性質上,このような座席数及び 標準単位料金を基準に使用料を定めることにも合理性があるというべきであ る。 また,控訴人らは,損害額の算定に当たり,包括的利用許諾契約を締結 する場合の規定によるべきであるとか,本件店舗における生演奏はカラオケ と異ならないから使用料規程の別表7(2)記載の表中の2の区分が適用され\nるべきであるなどと主張するが,いずれも採用できない。
・・・
以上によれば,現SUQSUQに係る平成28年11月1日から 令和元年7月8日までの使用料相当額は139万3548円であり, 弁護士費用としては1割である13万9355円をもって相当と認め るから,その合計額は153万2903円である。
(ウ) 令和元年7月9日以降の損害ないし損失に係る請求について 将来の給付を求める訴えは,あらかじめその請求をする必要がある場 合に限り認められるところ(民訴法135条),継続的不法行為に基づ き将来発生すべき損害賠償請求権については,たとえ同一態様の行為が 将来も継続されることが予測される場合であっても,損害賠償請求権の\n成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具 体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定するこ とができ,かつ,その場合における権利の成立要件の具備については債 権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき 新たな権利成立阻却事由の発生として捉えてその負担を債務者に課する のは不当であると考えられるようなものは,将来の給付の訴えを提起す ることのできる請求権としての適格を有しないものと解するのが相当で ある(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決民集35巻10号13 69頁,最高裁平成19年5月29日第三小法廷判決集民224号39 1頁等参照)。 以上によれば,現SUQSUQにおける,控訴審の口頭弁論終結日の 翌日である令和元年7月9日以降の不法行為に基づく損害賠償請求ない し不当利得返還請求に係る訴えは不適法であり,却下を免れない。
(5) 控訴人らの主張について
控訴人らは,被控訴人による実態調査の方法そのものに大きな問題があ り,その調査結果の信憑性は低いと主張するが,そのようにいえないことは 前記1において引用した訂正された原判決説示のとおりである。 使用料規程によれば,座席の配置,実際の売上げや来店者数や椅子の利 用状況により使用料額が変動するものではないから,これらの点についての 控訴人らの主張は採用できない。また,控訴人らの主張する補助椅子がどの ような椅子を指すのかは明らかではないが,甲10,24,25,41,4 2からは,本件店舗の各店の座席数は31〜40席であったものと認めら れ,これを覆すに足りる証拠はない。 控訴人らは,平成29年11月21日から同年12月11日にかけての 利用状況や営業時間についての主張をするが,いずれもこれを裏付ける的確 な証拠はなく,上記認定を左右するものではない。 控訴人らのその余の主張も採用できない。
4 小括
以上によれば,被控訴人の拡張後の請求は,(1)差止請求,(2)金銭請求 のうち,i)控訴人Xにつき,平成20年6月18日から平成28年10月31 日までの著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償金合計から既払金を控除した 残額470万4605円(このうち51万3523円の限度で控訴人Yと連帯 して)及びこれに対する不法行為以後である同年12月14日から支払済みま で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,ii)控訴人Yにつき,平 成27年12月7日から平成28年10月31日までの著作権侵害の不法行為 に基づく損害賠償金51万3523円及びこれに対する不法行為以後である同 年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支 払(うち,51万3523円及びこれに対する平成28年12月14日から支 払済みまで年5分の割合による金員の限度で控訴人Xと連帯支払),iii)控 訴人らにつき,連帯して,同年11月1日から令和元年7月8日(控訴審口頭 弁論終結日)までの不法行為についての損害賠償金153万2903円の支払 を求める限度で理由があり,同月9日から管理著作物の使用終了に至るまでの 不法行為に基づく損害賠償金又は不当利得金の将来請求に係る部分は不適法で あり,その余の請求は理由がないことになる。
したがって,原判決中,(1)の差止請求を認容した部分,(2)iii)の控 訴人らに対する請求について,令和元年7月9日以降に生ずべき損害賠償金又 は不当利得金の支払を求める訴えを却下した部分は相当である。(2)の i)の 控訴人Xに対する請求に関する部分については,470万4605円(このう ち51万3523円の限度で控訴人Yと連帯して)及びこれに対する平成28 年12月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を超え て認容するのは相当でないから,本件控訴に基づき変更すべきことになる。 (2)の ii)の控訴人Yに対する請求に関する部分については,51万352 3円及びこれに対する同年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割 合による遅延損害金の支払(うち,51万3523円及びこれに対する平成2 8年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で控訴人X と連帯支払)を,(2)の iii)の控訴人らに対する請求のその余の部分につい ては,153万2903円の連帯支払を命じるべきであるから,本件附帯控訴 に基づき変更すべきことになる。また,仮執行宣言については,被控訴人が求 める限度で付するのが相当である。

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平成31(ネ)10018  損害賠償請求本訴,使用料規程無効確認請求反訴控訴事件  著作権  民事訴訟 令和元年10月23日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 有線放送業者が、著作権管理団体に対して、「使用料規程及びこれに基づく本件基本合意は,地域もしくは使用者の立場によって視聴料に大きな価格差をつけるものとして、無効」と主張して争いました。裁判所は1審と同じく、不合理とはいえないと判断しましたが、損害賠償額については減額しました。

 以上のとおり,被控訴人は,地上テレビジョン放送事業者から管理 委託を受けた著作権及び著作隣接権の有線放送権に基づき再放送の利用 許諾をするに当たり,ほぼ全てのケーブルテレビ事業者との間で,3者 契約又は2者契約の方式により年間の包括的利用許諾契約を締結し,3 者契約の場合は本件基本合意に基づき,2者契約の場合は本件使用料一 覧(2者契約)に基づき定められた使用料額をケーブルテレビ事業者か ら徴収していることが認められる。 一方,被控訴人と3者契約又は2者契約の方式により年間の包括的利 用許諾契約を締結したケーブルテレビ事業者のうち,本件基本合意に基 づく減額措置(3者契約の場合)又は本件使用料一覧(2者契約)に基 づく減額措置(2者契約の場合)を受けることが可能であるにもかかわ\nらず,減額措置を受けずに,本件使用料規程に定められた区域内再放送 の使用料(1世帯1ch当たり年額120円)及び区域外再放送の使用 料(1世帯1ch当たり年額600円)を支払っている事業者は存在し ない。
 そして,控訴人は,適法に同意を得て,又は総務大臣による同意裁定 を得て,毎日放送等6社の地上テレビジョン放送を同時再放送している ものであり,ケーブルテレビ連盟の会員でもあることから,仮に控訴人 が希望すれば,被控訴人との間で,本件基本合意に基づく3者契約又は 本件使用料一覧(2者契約)に基づく2者契約を締結することが可能で\nあって,その場合の再放送使用料は,上記減額措置の適用を受けて,区 域内再放送につき1世帯1ch当たり年額24円(3者契約)又は28 円(2者契約),区域外再放送につき1世帯1ch当たり年額120円 (3者契約)又は144円(2者契約)であり,平成26年度の再放送 使用料については,使用料の50%が軽減されるものと認められる(弁 論の全趣旨)。 以上のような,被控訴人とケーブルテレビ事業者との間で締結された 同時再放送に係る利用許諾契約の内容,控訴人による本件有線放送権の 利用の態様等の事実を考慮すると,上記利用許諾契約の締結に当たり適 用された実績が全くない,本件使用料規程の「年間の包括的利用許諾契 約によらない場合」(3条(2))又は「年間の包括的利用許諾契約を結ぶ 場合」(3条(1))が,著作権法114条4項の「使用料規程のうちその 侵害の行為に係る著作物等の利用の態様について適用されるべき規定」 に該当するものとは認めらない。
(イ) これに対し被控訴人は,(1)使用料規程による使用料の算出方法が複 数あるときは各方法により算出した額のうち最も高い額を請求すること ができるとする著作権法114条4項を設けた趣旨に鑑みれば,「最も 高い額」となる算出方法による許諾実績がなくとも,同項の適用は妨げ られない,(2)実際にも,被控訴人は,著作権等管理事業を開始した平成 26年度以降,年間の包括的利用許諾契約によって区域外再放送を許諾 するに当たり,累計12社(平成27年度10社,同28年度9社,同 29年度9社)の有線テレビジョン放送事業者につき,本件減額措置を 施さずに,有料視聴世帯数に地上テレビジョン放送1波当たり年額60 0円を乗じた額の使用料を徴収している旨主張する。 まず,上記(1)の点について,著作権法114条4項は,同条3項によ り損害の賠償を請求する場合において,当該著作権等管理事業者が定め る使用料規程により算出した金額をもって,同条3項に規定する金銭の 額とする旨を定めるものである。そして,同条3項は,不法行為による 著作権等侵害の際に著作権者等が請求し得る最低限度の損害額を法定し た規定であるところ,不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じ た現実の損害を填補することを目的とするものであるから,現実の損害 が発生しなかった場合には,それを理由とする賠償請求をすることがで きないことは自明である。
これを本件についてみるに,前記(ア)のとおり,被控訴人は,ほぼ全て のケーブルテレビ事業者との間で,3者契約又は2者契約の方式により 年間の包括的利用許諾契約を締結し,3者契約の場合は本件基本合意に 基づき,2者契約の場合は本件使用料一覧(2者契約)に基づき定めら れた使用料額をケーブルテレビ事業者から徴収しており,これらの事業 者のうち,本件基本合意に基づく減額措置又は本件使用料一覧(2者契 約)に基づく減額措置を受けることが可能であるにもかかわらず,これ\nを受けずに,それよりも遥かに高額な,本件使用料規程3条(1)又は(2)に 定められた区域内再放送及び区域外再放送の使用料を支払っている事業 者は存在しない。被控訴人と控訴人との交渉の過程においても,本件基 本合意に基づく3者契約又は本件使用料一覧(2者契約)に基づく2者 契約によることが,当然の前提とされていたものである。 そして,このような被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の同時再 放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額,控訴人による本件 有線放送権の利用の態様,控訴人と被控訴人の間の再放送同意に係る利 用許諾契約に関する交渉経緯(前記ア(エ))等によれば,本件における使 用料相当額の算定に当たって,実際の利用許諾契約において用いられた 例がなく,かつ,上記減額措置を受ける場合と比較して使用料が遥かに 高額となる,本件使用料規程3条(1)又は(2)による場合の算定方法を用い ることは,被控訴人に生じた現実の損害の算定方法としてはおよそ非現 実的というべきであり,相当でない。
次に,上記(2)の点について,被控訴人が,累計12社の有線テレビジ ョン放送事業者との間で,本件使用料規程に基づき,区域外再放送の使 用料を1世帯1ch当たり年額600円とする年間の包括的利用許諾契 約を締結し,同規程に基づき算定された金額を徴収していることについ ては,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。また,被控訴人の 主張によれば,上記12社はいずれも重複波等の区域外再放送を行った 者であるところ,前記認定の被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の 同時再放送に係る利用許諾契約の締結状況に照らすと,上記12社は, 本件基本合意に基づく3者契約又は本件使用料一覧(2者契約)による 2者契約を締結した上で,本件基本合意(1)(3)の定めに基づき,「有料視 聴世帯数×1世帯1chあたり年額600円×区域外再放送(重複波等) ch数」の使用料を支払ったものであると推認される。そして,上記1 2社において,本件基本合意に基づく減額措置(3者契約の場合)又は 本件使用料一覧(2者契約)に基づく減額措置(2者契約の場合)を受 けることが可能であるにもかかわらず,減額措置を受けずに,本件使用\n料規程に定められた区域外再放送の使用料を支払っていることを認める に足りる証拠はない。 したがって,被控訴人の上記各主張を採用することはできない。
ウ 被控訴人は,控訴人が本件有線放送権を侵害したことにより被控訴人が 受けた損害の額として,著作権法114条3項及び4項により算定される 損害額を主張するところ,前記イのとおり,本件において著作権法114 条4項を適用して,本件使用料規程3条(1)又は(2)に基づいて被控訴人の損 害の額を算定することは,相当でない。そこで,同条3項により算定され る被控訴人の損害の額について,以下検討する。
同条3項は,著作権及び著作隣接権侵害の際に著作権者,著作隣接権者 が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定である。また,同項所定の 「その著作権…又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当 する額」については,平成12年法律第56号による改正前は「その著作 権又は著作隣接権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額」と 定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得にな ってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。 そして,かかる法改正の経緯に照らせば,著作権及び著作隣接権侵害をし た者に対して事後的に定められるべき,これらの権利の行使につき受ける べき金銭の額は,通常の利用許諾契約の使用料に比べて自ずと高額になる であろうことを考慮すべきである。 これを本件についてみると,前記イ(ア)の被控訴人とケーブルテレビ事 業者との間の同時再放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額, 控訴人による本件有線放送権の利用の態様等の事実に加えて,控訴人と被 控訴人の間の再放送同意に係る利用許諾契約に関する交渉経緯など,本件 訴訟に現れた事情を考慮すると,著作権及び著作隣接権侵害をした者に対 して事後的に定められるべき,本件での利用に対し受けるべき金銭の額は, 被控訴人とケーブルテレビ事業者との間における再放送使用料を現実に 規律していると認められる本件基本合意及び本件使用料一覧(2者契約) をベースとし,そこに定められた額を約1.5倍した額である,区域内再 放送につき1世帯1ch当たり年額36円及び区域外再放送につき1世 帯1ch当たり年額180円とし,平成26年度についてはその半額を下 らないものと認めるのが相当である。 そこで,かかる算定方式に基づく使用料について検討する。
・・・・
(ウ) 上記のとおり,控訴人が平成26年4月1日から平成30年3月3 1日までの間に本件有線放送権を侵害した行為につき,本件有線放送権 の行使につき受けるべき金銭の額に相当する4293万1238円が, 被控訴人の受けた損害の額となる(著作権法114条3項)。 エ 以上のとおりであるから,著作権法114条3項により算定される損害 額に弁護士費用を加えた金額が,被控訴人の損害額と認められる。 そして,控訴人の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は,前記ウ により算定される損害額の約1割に当たる429万円を下らないと認め るのが相当であるから,被控訴人の損害額は,4722万1238円(4 293万1238円+429万円)である。
したがって,被控訴人は控訴人に対し,上記4722万1238円のほ か,うち2006万8931円(平成26年度及び同27年度分の使用料 相当額(合計1824万8931円)と弁護士費用相当額(182万円) の合計)に対する平成28年9月10日から支払済みまでの遅延損害金, 及び,うち2715万2307円(平成28年度及び同29年度分の使用 料相当額(合計2468万2307円)と弁護士費用相当額(247万円) の合計)に対する平成30年4月1日から支払済みまでの遅延損害金の支 払を求めることができる。
なお,控訴人は,被控訴人を供託者とし,平成26年度ないし同29年 度の地上テレビジョン放送及びその番組の著作権,著作隣接権の使用料と して,4回にわたり,合計584万1772円を供託しているが(甲16, 18,32,乙75),これらの金額は,上記のとおり認定される本件有 線放送権の侵害に係る損害賠償額の1割ないし2割程度にすぎない。また, 上記供託金額は,本件基本合意において区域内再放送の使用料として定め られた「1世帯1chあたり年額24円」を,区域外再放送の使用料にも 用いて算定した金額であるところ,かかる算定方法は控訴人独自のもので あって,採用し難いものである。 したがって,控訴人による上記の各供託は,これを有効と解することは できない。
オ これに対し控訴人は,区域内再放送と区域外再放送のいずれについても, 本件基本合意で定められた区域内再放送の使用料に基づくのが相当であり, 有料視聴世帯数に対し,1世帯1ch当たり年額24円を乗じた金額から 15%を値引きしたものが損害額となる旨主張する。 しかしながら,本件有線放送権の侵害による被控訴人の損害賠償額を算 定するに当たっては,被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の同時再放 送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額等を考慮するのが相当 であることについては,前記イ(ア)及びウのとおりである。 一方,被控訴人と3者契約又は2者契約を締結したケーブルテレビ事業 者にあって,本件基本合意又は本件使用料一覧(2者契約)に定められた 区域外再放送の使用料の算定方式に反して,1世帯1ch当たりの区域外 再放送の使用料として,区域内再放送と同額しか支払っていない者は存在 しない。 したがって,このような実情を考慮すれば,控訴人の上記主張を採用す ることはできない。

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1審はこちらです。

◆平成28(ワ)28925等

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平成30(ワ)5427  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和元年10月3日  大阪地方裁判所(21部)

 作成してもらったウェブサイトを依頼会社が別のサーバに移転して公開しました。これについて、本件の場合、著作権は被告が有するとして、著作権侵害とはならないと判断しました。

 本件において,原告は,被告ウェブサイトの公衆送信等の差止め及び削除,並び に金員の支払を求めているが,その根拠とするところは,一般不法行為等によるも のを除けば,原告ウェブサイトが原告の著作物であることであり,さらにその理由 として主張するところは,原告が原告ウェブサイトを創作的に制作したこと,及び 原告と被告ピー・エム・エーの契約により,原告ウェブサイトの著作権は原告に属 する旨合意されたことである。 これに対し,被告らは,原告ウェブサイトの著作権は,被告ピー・エム・エーに 帰属するとの黙示の合意があること,原告が原告ウェブサイトを制作したことによ ってその著作権が原告に帰属することはないこと,原告ウェブサイトの著作権を原 告に帰属させる旨を原告との間で合意した事実はないことを主張し,仮に原告に原 告ウェブサイトの著作権が認められるとしても,本件の経緯において,原告が被告 らに対し,原告ウェブサイトの著作権を主張することは,権利の濫用に当たる旨を 主張する。 そこで,まず,原告が原告ウェブサイトを制作したことにより,原告ウェブサイ トが原告の著作物と認められるか,次に,原告と被告ピー・エム・エーとの合意に より,原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属すると認められるか,そして,仮に 原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属する場合に,原告が被告らに対し,著作権 を行使することが権利の濫用に当たるかにつき検討する。
(2) 原告ウェブサイトの制作による著作権の帰属
ア 前記認定したところによれば,被告ピー・エム・エーは,旧ウェブサイトを 訴外彩登に制作させ,訴外ユウシステムに管理を委託していたところ,集客力の向 上のために,まず旧ウェブサイトの本件サーバの移管を原告に委託し,さらにその 保守業務を原告に委託した後,本件制作業務委託契約により,旧ウェブサイトを, スマートフォンやタブレットに対応できるようにするなど,全面的にリニューアル することを求めたことが認められるのであって,原告ウェブサイトの制作は,原告 の発意によるものではなく,被告ピー・エム・エーの委託に基づくものであり,原 告が自ら使用することは予定せず,被告ピー・エム・エーの企業活動のために使用\nすることが予定されていたものということができる。\n
イ 上述のとおり,原告ウェブサイトは,元々被告ピー・エム・エーが訴外彩登 に制作させた旧ウェブサイトを,本件サーバへの移管後にリニューアルしたもので, 前記認定したところによれば,原告ウェブサイトのデザイン,記載内容や色調の基 礎となったのは,リニューアル前の旧ウェブサイトであることが認められる。 また,前記認定したところによれば,原告は,原告ウェブサイトを制作するにあ たり,ワードプレス専用のプラグインやフォント,写真を購入したり,ワードプレ スを利用して,原告ウェブサイトが利用しやすく顧客吸引力があるように構成した\nものと認められるが,一方で,原告ウェブサイトは,被告ピー・エム・エーの株式 スクールとしての企業活動を紹介するものであって,その内容は,基本的に被告ピ ー・エム・エーに由来するというべきであるし,原告が,被告ピー・エム・エーか ら,その従業員を通じ,仕様や構成について指示及び要望を聞いて制作したもので\nあることは,前記認定のとおりである。
ウ 原告と被告ピー・エム・エーは,以上の内容・性質を有する原告ウェブサイ トの制作について,本件制作業務委託契約を締結し,例えば原告ウェブサイトの権 利を原告に留保して,原告が被告ピー・エム・エーに使用を許諾し使用料を収受す るといった形式ではなく,原告ウェブサイトの制作に対し,対価324万円を支払 う旨を約したのであるから,原告が原告ウェブサイトを制作し,被告ピー・エム・ エーのウェブサイトとして公開された時点で,その引渡しがあったものとして,原 告ウェブサイトに係る権利は,原告が制作したり購入したりした部分を含め,全体 として被告ピー・エム・エーに帰属したと解するのが相当である。 上記解釈は,原告ウェブサイト制作後も,原告が被告ピー・エム・エーに保守業 務委託料の支払を求めていることとも合致する。すなわち,原告ウェブサイトが原 告のものであれば,被告ピー・エム・エーがその保守を原告に委託することはあり 得ず,原告ウェブサイトが被告ピー・エム・エーのものであるからこそ,代金を支 払ってその保守を原告に委託したと考えられるからである。 また,上述のとおり,原告ウェブサイトは,被告ピー・エム・エーの企業として の活動そのものを内容とするものであるから,原告がこれを自ら利用したり,第三 者に使用を許諾したり,あるいは第三者に権利を移転したりすることはおよそ予定\nされていないというべきであるから,原告ウェブサイトについての権利が原告に帰 属するとすべき合理的理由はない。さらに,原告ウェブサイトについての権利が原 告に帰属するとすれば,被告ピー・エム・エーは,原告の許諾のない限り,原告ウ ェブサイトの保守委託先を変更したり,使用するサーバを変更するために原告ウェ ブサイトのデータを移転したりすることはできないことになるが,そのような結果 は不合理といわざるを得ない。
エ 以上より,原告が原告ウェブサイトを制作したことを理由に,原告ウェブサ イトの著作権が原告に帰属すると考えることはできず,原告ウェブサイトの著作権 は,被告ピー・エム・エーに帰属するものと解すべきである。
(3) 合意による著作権の帰属
ア 本件保守業務委託契約において,同契約に基づいて,原告が制作したウェブ サイトの著作権その他の権利が原告に帰属する旨の規定(14条2項)があること は前記認定のとおりである。 しかしながら,本件保守業務委託契約は,訴外彩登が制作した旧ウェブサイトを 本件サーバに移管した後に,その保守業務を被告ピー・エム・エーが原告に委託す る際に締結されたものであって,原告がウェブサイトを制作完成することは予定さ\nれていないから,上記条項が何を想定したものかは不明といわざるを得ないし,同 条項が,その後に締結された本件制作業務委託契約に当然に適用されるとも解され ない。
イ 本件制作業務委託契約については,被告ピー・エム・エー名義で作成された 本件注文書の「仕様」欄に,「全面リニューアル後の成果物の著作権その他の権利 は,制作者のP1に帰属するものとする。」と記載がある。 しかしながら,被告P3本人の尋問の結果によっても,被告ピー・エム・エーが, 原告と上記記載に係る合意を成立させる趣旨で,本件注文書に上記記載をしたとは 認められないし,他に,原告と被告ピー・エム・エーとの間で上記記載に係る合意 が成立したと認めるに足りる証拠は提出されていない。
ウ 原告ウェブサイトの制作の対価を324万円と定める本件制作業務委託契約 において,制作後の原告ウェブサイトの権利が原告に帰属するとすることが不合理 であることは前記(2)で述べたとおりであり,あえてそのように合意するとすれば, その合意は明確なものでなければならず,本件においてそのような合意が成立した と明確に認めるに足りる証拠がないことは上記ア及びイのとおりであるから,被告 ピー・エム・エーと原告の合意によって,原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属 したと認めることはできない。
(4) 権利の濫用
ア 本件の事実関係を前提とすると,仮に,原告ウェブサイトの一部に,原告の 著作物と認めるべき部分が存在する場合であったとしても,以下に述べるとおり, 原告が,その部分の著作権を理由に,被告ウェブサイトに対する権利行使をするこ とは,権利の濫用に当たり許されないというべきである。
イ すなわち,前記認定したところによれば,原告は,原告ウェブサイト制作後, その保守管理を行っていたこと,被告ピー・エム・エーは,平成29年秋の時点で, 原告に対する支払を遅滞し,本件サーバの更新料も支払っていなかったこと,本件 サーバを使用継続するには,同年11月30日に最低1万2960円(12か月分) を支払う必要があったが,被告ピー・エム・エーはこれを徒過したこと,同年12 月12日,本件サーバは凍結され,原告ウェブサイトの利用ができなくなったこと, 被告ピー・エム・エーはその直後に原告に13万8240円を振り込み,原告ウェ ブサイトを復旧するよう原告に依頼したこと,本件サーバの規約によれば,原告ウ ェブサイトのようなドメインが失効した場合,利用期限日から30日以内であれば, 更新費用を支払えば復旧可能であること,原告は,同月13日,被告P4に対し,\n原告ウェブサイトのデータは失われ,復旧するには再度制作する必要があり,その 費用は434万円余であると伝えたこと,被告ピー・エム・エーは,原告の提案を 断って,P6に,原告ウェブサイトの復旧を依頼したこと,P6は,原告ウェブサ イトのデータを利用して被告ウェブサイトを作成し,平成30年1月ころ公開した こと,以上の事実が認められる。 原告本人尋問及び被告P3本人尋問の結果を総合しても,原告が被告ピー・エム・ エーに対し,本件サーバの更新費用を怠った場合のリスクについて,適切に警告し, 期限を徒過しないよう十分注意したとは認められないし,原告ウェブサイトの利用\nができなくなった直後に被告ピー・エム・エーが金員を原告に振り込み,本件サー バの規約ではデータの使用が可能な期限内であるのに,原告が,データが失われ復\n旧もできないと説明したことが適切であったことを裏付ける事情や,復旧のために 434万円余もの高額の費用が必要であると説明したことの合理的理由は見出し難 い。かえって証人P6は,サーバが凍結された場合,サーバ会社に料金を支払えば すぐ復旧することができ,特に作業等をする必要はない旨を証言している。 前記認定したところによれば,原告ウェブサイトは,新たな顧客のために,被告 ピー・エム・エーの事業内容を紹介するのみならず,すでに顧客,会員となった者 に対するサービスの提供も行っているのであるから,原告ウェブサイトの停止は, 被告ピー・エム・エーの企業としての活動を停止することであり,その制作・保守・ 管理を行った原告は,当然にこれを了解していた。
ウ 前記イで述べたところによれば,原告ウェブサイトが停止するまでの原告の 行為は,その保守・管理を受託した者として不十分であったというべきであるし,\n原告ウェブサイトの停止後の原告の行為は,原告ウェブサイトの停止が被告ピー・ エム・エーを窮地に追い込むことを知りながら,これを利用して,データは失われ た,復旧できないと述べて,法外な代金を請求したものと解さざるを得ない。 上述のとおり,原告ウェブサイトの停止は企業としての活動の停止を意味し,既 に検討したとおり,原告ウェブサイトの著作権は全体として被告ピー・エム・エー に帰属すると解されるのであるから,被告ピー・エム・エーが,法外な代金を請求 された原告との信頼関係は失われたとして,原告の十分な了解を得ることなく,原\n告ウェブサイトのデータを移転するようP6に依頼したとしても,やむを得ないこ とであると評価せざるを得ない。
エ これらの事情を総合すると,仮に,原告ウェブサイトの一部に原告の著作権 を認めるべき部分が存在していたとしても,本件の事情において,原告がその著作 権を主張して,被告ウェブサイトの利用等に対し権利行使することは,権利の濫用 に当たり許されないというべきである。
(5) 本件動画ウェブサイトについて
前記認定事実のとおり,本件動画ウェブサイトは,被告ピー・エム・エーがソー\nシャルキャストのサービスを利用して提供していた授業の動画を,被告インタース テラーが引き継いだ後に,サブドメインを変更したウェブページであって,原告ウ ェブサイト及び被告ウェブサイトとは,内容も形式も全く異なるものである。 また,原告ウェブサイトと上記動画はもともと関連付けられていなかったところ, 本件サーバ凍結後,原告ウェブサイトから会員専用ウェブページを閲覧することが できなくなったため,被告ウェブサイト上において,「ログイン」ボタンを押すと 上記動画に遷移するよう設定され,サブドメインの変更に伴いリンク先も本件動画 ウェブサイトに変更されたものである。 したがって,仮に原告ウェブサイトの一部に原告の著作権が認められる場合であ っても,本件動画ウェブサイトの設定が,原告の著作権(複製権又は翻案権)侵害 となる余地はないといわざるを得ない。

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平成31(ネ)10035等  著作権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件  著作権  民事訴訟 令和元年9月18日  知的財産高等裁判所  静岡地方裁判所

 飲食店での店員による演奏サービスが著38条の例外に該当するかが争われました。知財高裁は例外には該当しないとした1審判決を維持しました。

著作権法38条1項は,1)営利を目的とせず,2)聴衆又は観衆から料 金を受けない場合で,3)実演家等に対して報酬が支払われない場合には, 演奏権が及ばないことを規定するところ,1)の非営利目的とは,当該利 用行為が直接的にも間接的にも営利に結びつくものでないことをいうも のと解される。 上記1に認定した事実によれば,控訴人らは本件店舗の各店における バンド演奏によりバンド音楽を好む客の来集を図っているものというべ きであるから,本件店舗の各店におけるバンド演奏による管理著作物の 利用行為が,直接的にも間接的にも営利に結びつくものでなかったとい うことはできない。したがって,本件店舗の各店におけるバンド演奏に ついて,同条の規定する,演奏権が及ばない場合に当たるとはいえない。 控訴人らは,現SUQSUQにおけるセット代金は飲食代金であると か,演奏する者がスタッフによる無料サービスであるなどと主張して, 非営利性を主張するが,飲食店での客寄せのための演奏であることは自 認しており,間接的に営利に結びつくものでなかったといえないことは 明らかである。

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平成31(ネ)10026  損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和元年8月7日  知的財産高等裁判所  横浜地方裁判所  川崎支部

 書籍における素材の配列について,創作性を有する行為ではないとして、編集著作物に該当しないと判断されました。原審はアップされていません。

 控訴人は,編集著作物において素材の選択,配列を決定した者は問題 とならず,配列を行ったのは控訴人であるなどと主張する。しかしなが ら,控訴人の主張が,決定権限を持たずに素材の配列に関与した者,例 えば,単なる原案,参考案の作成者や,相談を受けて参考意見を述べた 者までがおよそ編集著作者となるというものであるとすれば,そのよう な主張は,著作者の概念を過度に拡張するものであって,採用すること はできない。また,本件において本件書籍の分類項目を設け,選択され た作品をこれらの分類項目に従って配列することを決定したのが被控訴 人であることは先に引用した原判決認定のとおりであって,当審におけ る控訴人の主張を踏まえてもかかる認定は左右されない。
イ また,控訴人は,被控訴人の前件訴訟における訴訟行為を捉えて,本 件において被控訴人は自分自身が編集著作者であると主張することは許 されないなどと主張する。 しかしながら,そもそも控訴人が前提とするところの,前件訴訟にお いて被控訴人が編集著作者でないと自白し,本件書籍が編集著作物であ れば控訴人が編集著作者であると認めたなどとする事実関係を裏付ける 証拠はないから,控訴人の主張はその前提を欠くものである。かえって, 控訴人による本件訴訟は,前件訴訟においてAが敗訴したことを受けて, 原告を控訴人とするとともに,Aは控訴人の代理人であったなどとして, 実質的には前件訴訟と同様の事実関係の主張を繰り返すものに過ぎず, 前件訴訟の蒸し返しであるといわざるを得ない。 上記の控訴人の主張は採用できない。
(3) 以上によれば,控訴人が決定し,Aに行わせたとする事務自体,本件書 籍における素材の配列について,創作性を有する行為であったとはいえな いから,控訴人が本件書籍の編集著作者であるとは認められない。

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平成28(ワ)8552  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 平成31年4月18日  大阪地方裁判所(21部)

 Tシャツに描かれた猫のイラストについて、著作権侵害が認められました。損害額について「法114条3項の著作権の行使につき受けるべき金銭の額を算定するに当たっては,特段の事情のない限り,販売店に対する卸売価格ではなく,販売店における小売価格を基準とするのが相当である・・」と判断しています。
 まず,原告イラストと被告イラスト1ないし4は,丸まって眠っている猫を 上方から円形状にほぼ収まるように描くとともに,片前足と片後ろ足と尻尾をほぼ 同じ位置でまとめて描きつつ,耳や片後ろ足を若干円形状から突出して描いている 点で共通している。これらの共通点は,前記1で認定した原告イラストの創作性が 認められる表現上の特徴部分そのものであり,上記各被告イラストの表\現上の特徴 は,原告イラストのそれと共通しているといえる。 他方,原告イラストでは猫の目の周囲が黒いのに,上記各被告イラストはそうで はないが,全体からすると微差にとどまるものというべきである。 また,上記各被告イラストでは,猫の胴体部分に波様の紋様が描かれており,原 告イラストの雲様の紋様とは異なっているが,前述のとおり,原告イラストの表現\n上の特徴は,上半分に猫と分かるよう描かれた模様が徐々に変化して抽象的な紋様 につながり,猫の片前足の付け根の模様が,下半分の紋様にも使われるなど,猫を 描いた部分と抽象的な紋様とが連続的,一体的に構成され,全体として略円形状の\nマークのような印象を与える点にあると解され,上記各被告イラストは,これらを すべて有していると認められるが,下半分の抽象的な紋様にどのようなものを用い るかは表現上の本質的特徴といえるものではない。\n以上より,原告イラストと上記各被告イラストとの上記共通点に照らせば,上記 各被告イラストは,原告イラストを有形的に再製したものと認めることができる。
イ 被告イラスト5ないし8について
上記アで認定した原告イラストと被告イラスト1ないし4の共通点は,被告 イラスト5ないし8にも認められる。 他方,被告イラスト5ないし8には,猫の前足が2本とも描かれる一方で,ひげ が描かれておらず,抽象的な紋様が唐草様であるといった相違点もみられるが,そ れらの前足は片後ろ足や尻尾とほぼ同じ場所にまとめて描かれており,前記1で認 定した原告イラストの表現上の特徴は維持されているといえるし,ひげの有無等の\n相違点は微差であり,抽象的な紋様の相違は本質的ではない。 以上より,上記各被告イラストは,原告イラストを有形的に再製したものと認め ることができる。
ウ 被告イラスト9ないし12について
上記アで認定した原告イラストと被告イラスト1ないし4の共通点は,被告 イラスト9ないし12にも認められる。 他方,被告イラスト9ないし12には,猫の前足が2本とも描かれ,そのうち左 前足が円形状の外に突出しているという相違点や,足裏(肉球)が見えるように描 かれている(したがって,猫が両前足を上げているように描かれている)という相 違点等が認められる。 しかし,右前足は片後ろ足や尻尾とほぼ同じ場所にまとめて描かれており,前記 1で認定した原告イラストの表現上の特徴が基本的に維持されているということが\nできるし,左前足が円形状から突出しているものの,耳や片後ろ足の円形状からの 突出の程度は原告イラストと同程度にすぎず,丸まって眠っている猫を上方から描 き,猫を描いた部分と抽象的紋様の部分が連続的,一体的に構成され,全体として\n略円形状のマークのように見えるという原告イラストの基本的な特徴は維持されて おり,上記相違点によって,原告イラストの表現上の本質的な特徴を感得できなく\nなるものとは認められない。 以上より,上記各被告イラストは,原告イラストの表現上の本質的な特徴の同一\n性を維持しつつ,一部を変更したものと認めることができる。
エ 被告イラスト13ないし16について
被告イラスト13ないし16は,被告イラスト5ないし8と類似している点 が多く,被告イラスト13ないし16では,顔の傾きや2本の前足の重ね具合,片 後ろ足が円形状の中に収められている点等が異なっているものの,ひげが描かれて いる点で原告イラストに近く,全体として前記イの判断が妥当するといえる。 したがって,上記各被告イラストは,原告イラストを有形的に再製したものと認 めることができる。
オ 被告イラスト17ないし20について
被告イラスト17ないし20は,そもそも丸まって眠っている猫を描いたも のではなく,前記1で認定した原告イラストの表現上の特徴との共通点がみられな\nい。したがって,上記各被告イラストは原告イラストを有形的に再製したものとは 認められないし,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めること\nもできない。
・・・・
 原告は,要旨,被告の卸売先である販売店の小売価格に,原告が利用するT シャツ販売サイトに準じた使用料率を乗じて,著作権法114条3項の損害の額を 算定すべきであると主張するのに対し,被告は,被告の販売店に対する販売金額(基 準卸値,卸売価格)に,より一般的な使用料率を乗じ,さらに販売店から返品され たものについては控除して,これを算定すべきであると主張する。
イ 被告に販売店から返品された商品の売上げを含むことの当否 著作権法114条3項に基づく損害を算定する基礎となる譲渡数量に,被告 が販売店から返品を受けた商品の数を含むべきか,換言すれば,使用料率を乗じる 売上額から返品分に係る売上額を控除すべきかについて,当事者間に争いがある。 しかし,被告は返品を受けた被告商品を含めて製造し,その時点で原告イラスト についての原告の複製権又は翻案権の侵害が発生し,それを販売店に販売すること によって一旦売上げが計上されたのであるから,被告が製造し,販売店に販売した 被告商品の数をもって上記譲渡数量と認めるのが相当であり,返品を受けた商品の 数(売上げ)を控除すべき旨の被告の主張は採用することができない。 この点については,被告が提出する乙14の第6条において,ジャージやTシャ ツに関する商品化権許諾契約の対価(使用料)は使用料単価に「製造数量」を乗じ て算定することとされ,その「製造数量」には見本品,試供品その他販売,頒布を 目的としない商品についても含まれるものとされており(同1条3項),まさに製 造された商品の数量によって使用料を算定することが定められている。被告商品は 上記契約の対象とされるジャージやTシャツと同じ種類の物品であるから,乙14 の上記条項は,被告商品についても,製造され,販売店に販売された商品の数量(売 上げ)をもとに使用料を算定することを正当化する根拠になると考えられる。
ウ 使用料率
(ア) 原告の主張について
まず,原告は自らがデザイナー登録してTシャツ等を販売しているサイト における報酬割合(甲24の2)や報酬パーセンテージ(甲45)を引用したり, 原告が実際に支払を受けていた報酬額と販売価格とを対比したりして,本件では少 なくとも25%の使用料率が相当であると主張している。 しかし,原告がデザイナー登録しているサイトは,前記1(1)で認定したとおり, デザイナー等を応援することをコンセプトとしたものであったり,デザイナーが自 らデザインしたイラストを付したTシャツを販売したりするためのサイトとしての 性質も有しており,原告イラストあるいは原告の作品自体を入手することを目的と して購入する者が多いと考えられるのに対し,被告による商品の販売態様は,主と して,ショッピングモールに店舗を構えるなどして,多種多様な商品を販売する販\n売店(量販店)に対して商品を販売するというものであり,販売態様が大きく異な っている。 また,原告がデザイナー登録しているサイトにおいては,上記性質上,必ずしも 一般的に,商品登録の際に多くの販売(売上げ)が見込まれるという性質のものと まで認めることはできないのに対し,被告は上記のような量販店に商品を販売する ことから,被告商品の製造販売を開始する時点で,ある程度の販売数(売上げ)が 見込まれるのが一般的と推認される。 このように,商品の販売実態も,原告が引用している販売サイトの例と,被告の 例とでは大きく異なっているから,上記のように著作物が複製等された商品が量販 店に対して販売され,かつ,ある程度の販売数(売上げ)が見込まれる本件におい て,「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を算定するに当た り,商品の販売態様や販売実態の異なる原告主張の販売サイトの報酬割合等を参考 にすることは相当でないといわざるを得ない。なお,原告は甲46ないし48の例 も引用しているが,その実態は以上検討した例と変わるものではなく,甲46ない し48にも以上の判示が同じく妥当する。
(イ) 本件の使用料率
a 上記(ア)の判示を踏まえると,本件では,著作物が複製等された商品 が量販店に対して販売され,かつ,ある程度の販売数(売上げ)が見込まれる場合 を前提とした使用料率によるのが相当であるところ,そのような契約の例としては, 被告が引用している乙14の契約の例が挙げられ,被告商品の販売態様・販売実態 と同じ例と認められるから,本件の使用料率を算定にするに当たって,これを参考 にするのが相当である。
b また,乙14の契約は,乙17ないし19(甲54の1ないし3も 参照)の各商品について商品化権を許諾した契約であるから,これらとは商品にお ける著作物の使用割合等が異なれば,当然,使用料単価(使用料率)も異なってく るものと考えられる。したがって,本件において乙14の契約の例を参考にするに 当たっては,被告商品における原告イラストを複製又は翻案した被告イラスト(被 告イラスト17ないし20を除く。以下同じ。)の使用割合,ないし売上げへの寄 与を考慮すべきである。 そのような観点から被告商品を見てみると,被告商品においては,被告イラスト のみを単独で付したようなものはなく,被告において作成した他のデザイン,他の 紋様と組み合わせる形で,全体的なデザインの一部として被告イラストが使用され ており,例えば,被告商品4,16,18及び21のように,被告イラストが比較 的目立つように付されている商品がある一方で,被告商品5のように被告イラスト が見えにくい商品や,被告商品19のように別のイラストの方が相当目立つ形で付 されている商品等があり,商品における被告イラストの使用割合は相当異なってい る。 したがって,本件の使用料率を認定するに当たっては,原告イラストを複製又は 翻案した被告イラストの商品における使用割合(大きさや数)を考慮するのが相当 であり,その際には,乙14で使用料単価(使用料率)が定められた乙17ないし 19の各商品においては,キャラクターが比較的大きく描かれていることを踏まえ つつ,相当な使用料率を認定すべきと考えられる。
c 被告の主張について
被告は,被告商品では被告のオリジナルな図柄も描かれていることを指 摘しているが,そのことは乙17ないし19の各商品においても同じであるから, 乙14を参考にする場合には,上記bで述べた被告商品における被告イラストの使 用割合の中で考慮すれば足りると考えられる。 また,被告は,被告イラストごとに,原告イラストと関連する程度に応じて使用 料率を考慮すべき旨を主張しているが,被告イラストは原告イラストを複製又は翻 案したもので,前記2の判示によれば,原告イラストの表現上の本質的な特徴を強\nく感得することができるものと認められるから,上記被告が主張する点を,使用料 率の認定に当たり考慮する必要はないというべきである。 さらに,被告は乙14の契約の例が国民的人気を誇るキャラクターについての契 約であることを強調しているが,乙14の契約においてどのような点を考慮して使 用料単価(使用料率)が定められたのかは不明であるし,また乙14の契約は商品 の小売価格が1万1000円ないし1万7000円であることを前提としたもので あるところ,被告商品の小売価格は,一部1万円を超えるものがあるものの,大半 は7000円程度であり,安い商品では5000円を下回っている(甲6ないし1 4,16ないし18,弁論の全趣旨)から,乙14の契約の例では,結果的に使用 料単価が高く設定されているとみることもでき,本件で乙14の契約の例よりも使 用料率を低くすべき事情があるとまでいうことはできない。
d 小売価格と卸売金額のいずれをもとに算定すべきか 著作権法114条3項の著作権の行使につき受けるべき金銭の額を算定 するに当たっては,特段の事情のない限り,販売店に対する卸売価格ではなく,販 売店における小売価格を基準とするのが相当であるが,その場合においても,被告 が当初販売店に卸売りした際に予定していた価格(定価,標準価格)に固定するの\nではなく(原告はそれを前提とする主張をする。),被告商品においては,季節の 変わり目に被告商品を値下げして販売することもやむを得ないと解されるから,販 売店が値下げして販売した場合には,その値下げ後の価格をもとに算定するのが相 当である。 そして,本件では,被告商品が販売店において,実際にいくらで販売されたかを 認めるに足りる証拠はないが,被告の卸売金額から逆算して販売店での販売価格を 認定することができ,被告は,販売店がこの金額で被告商品を販売することを前提 に,販売店に卸売りしたのであるから,この販売店での販売価格に基づき,原告が 受けるべき金銭の額を算定するのが相当である。 被告が販売店に対して卸売りした被告商品に係る卸売金額(返品分を含む。)は, 別紙「損害額(販売店関係)計算表(裁判所認定)」の「販売店関係の売上額(円) …4)」欄記載のとおりであるところ(乙12,13),被告は販売店に卸売りする に当たり,原則として小売価格を基準卸値の2倍の金額に設定していること(弁論 の全趣旨)を踏まえると,販売店における販売額は,その金額の2倍に相当する金 額(同別紙の「販売店における販売額(円)」欄記載のとおり)と認めることができ る。 以上に対し,被告が通販サイトにおいて小売りした被告商品については,被告が 実際に販売した金額(別紙「損害額(通販サイト関係)計算表(裁判所認定)」の\n「通販サイト関係の売上額(円)」欄記載の金額。乙13)をもとに算定することに なる。
e 上記a及びbで判示した諸事情を考慮しつつ,乙14を参考にする と,本件の使用料率は次の通り認定するのが相当である(別紙「損害額(販売店関 係)計算表(裁判所認定)」及び「損害額(通販サイト関係)計算表\(裁判所認定)」 の「使用料率」欄参照)。
(a) 被告イラストの使用割合,ないし売上げへの寄与が比較的高いもの 小売価格の5%被告商品4,16,18,21
(b) 被告イラストの使用割合,ないし売上げへの寄与が比較的小さいもの 小売価格の3%
被告商品19
(c) 被告イラストの使用割合,ないし売上げへの寄与が極めて小さい もの 小売価格の2%
被告商品5
(d) 被告イラストの使用割合,ないし売上げへの寄与が平均的なもの 小売価格の4%
上記(a)ないし(c)記載の商品以外のもの
f 上記d及びeをもとに著作権法114条3項に基づく損害の額を算 定すると,次のとおりとなる。
(a) 被告が販売店に販売した商品に係る分 別紙「損害額(販売店関係)計算表(裁判所認定)」の右下欄記載の\nとおり,合計121万9681円となる。
(b) 被告が通販サイトにおいて小売価格で販売した商品に係る分 別紙「損害額(通販サイト関係)計算表(裁判所認定)」の右下欄記\n載のとおり,合計3889円となる。
(c) 以上より,著作権法114条3項に基づく損害は,合計122万 3570円である。
(2) 慰謝料
本件で認定した被告の行為態様が,原告イラストを複製又は翻案した被告イラ ストを多種多様な衣類等に付して幅広く販売し,被告商品の写真を被告が運営する ホームページにアップロードするというものであること,原告イラストと被告イラ ストとが類似又は酷似しているにもかかわらず,被告は,本件訴訟で著作権侵害等 を争っていること,他方で,被告は,被告イラストを商業的に利用しているのであ って,原告イラストを揶揄したりすることを目的に翻案等しているのではないこと, 以上の点を指摘することができるのであり,その他の本件に現れた一切の事情を総 合すると,原告の著作者人格権侵害による慰謝料は30万円と認めるのが相当であ る。 原告イラストは以下です http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/670/088670_option1.pdf 被告イラストおよび対比は以下です http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/670/088670_option2.pdf

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平成30(ネ)10081等  不正競争行為差止等請求控訴事件等  不正競争  民事訴訟 令和元年5月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁(2部)は、マリカー事件について、中間判決をしました。論点は色々ありますが、1審の判断がほぼそのままとなっています。

 一審被告らは,一審被告会社は,「マリカー」の標準文字からなる本件商標を 有しており,「マリカー」という標章を使用する正当な権限を有するから,仮に 被告標章第1の使用行為が不正競争行為に該当するとしても,差止請求や損害賠 償請求は認められない旨主張する。 しかし,本件商標の登録出願がされたのは平成27年5月13日であるところ, 前記4(2)で検討したとおり,その頃までには,原告文字表示マリオカート及び「M ARIO KART」表示は日本国内で著名となっており,かつ原告文字表\示マリカーも, 「マリオカート」を示すものとして,日本国内の本件需要者の間で周知になってい て,かつ後記8のとおり,一審被告会社の代表者である一審被告Yはそのことを知\nっていたものと認められる。
これに加え,1)一審被告会社が設立当初の商号を敢えて「株式会社マリカー」と していたこと,2)平成28年11月15日当時に品川第1号店において配布されて いた本件チラシには,「マリオのコスプレをして乗ればリアルマリオカート状 態!!」と記載されていたこと(甲3,4),3)平成28年8月12日当時に品川 第1号店サイト1には,「みんなでコスプレして走れば,リアルマリカーで楽しさ 倍増」と記載されるとともに,「マリオ」のコスチュームを着用した人物の写真が 同記載に併せて掲載され,また,平成29年2月23日当時に品川第1号店サイト 1に「みんなでコスプレして走れば,リアルマリカーで楽しさ倍増」と記載されて いたこと(甲6の1,甲35),4)平成29年2月23日当時に,河口湖店サイト に「スーパーマリオのコスプレをして乗れば,まさにリアルマリオカート状態!!」 と記載されていたこと(甲6の2),5)後記6認定のとおり,一審原告の著名な商 品等表示である原告表\現物に類似する被告標章第2のコスチュームを用いた宣伝行 為や本件各コスチュームを用いた本件貸与行為が行われ,特に,平成27年11月 2日にアップロードされた本件動画1(甲42の1,甲43の1)の0:05秒時 点には「MARIOKART」という英語の音声が収録され,かつ同音声について,「マリ オカート」の日本語字幕が付けられていたことも考え併せると,一審被告会社は, 周知又は著名な原告文字表示及び「MARIO KART」表示が持つ顧客吸引力を不当に利\n用しようとする意図をもって本件商標に関する権利をゼント社より取得したものと 推認することができる。
したがって,一審被告会社が,一審原告に対し,本件商標に係る権利を有すると 主張することは権利の濫用として許されないというべきであり,一審被告らの上記 主張は理由がない。
なお,一審被告らは,原告文字表示マリカーは本件需要者である訪日外国人の間\nでは周知ではないと主張するが,これまで検討してきたとおり,本件需要者は訪日 外国人に限られないから,一審被告らの主張はその前提を欠いており,採用するこ とができない。

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1審はこちらです。

◆平成29(ワ)6293

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平成30(ワ)2082  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 平成31年3月25日  大阪地方裁判所

 結婚式の記録ビデオは映画の著作物であり、著作権は、実際にビデオ撮影した者が有するのか、プロデュースした者が有するのかが争われました。裁判所は、プロデュースした者であると判断しました。映画の著作物についての著作権は、特別規定があります。「その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物に参加することを約束しているときは、当該映画製作者」に著作権が帰属する(著29条1項)。」 個人的には、このようなケースって、映画の著作物として扱うべきか?を考えると、ちょっと違うのではないかと思います。

  本件記録ビデオは,被告P2らの挙式等の様子を撮影・編集したビデオで あり,そのサムネイル画像(甲38)も参酌すると,挙式等が進行する状況に応じ た撮影対象の選択や構図等に創作的工夫が施されていると認められるから,著作権\n法2条3項に規定する「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせ る方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物」であり,同法10条1項7\n号所定の「映画の著作物」に当たると解される。
そして,前記1で認定した事実によれば,挙式等の撮影については基本的には原 告の裁量に委ねられており,原告は様々な工夫をして撮影をしたと認められるから, 原告は,原告撮影ビデオについて,「映画の著作物の全体的形成に創作的に関与した 者」(著作権法16条)としてその著作者であると認められ,本件記録ビデオはその 複製著作物又は二次的著作物である。
(2) そこで,被告らが主張する著作権法29条1項の適用の有無について検討 する。 著作権法29条1項にいう「映画製作者」とは,「映画の著作物の製作に発意と責 任を有する者」をいい(同法2条1項10号),映画の著作物を製作する意思を有し, 同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,同著作物の製 作に関する経済的な収入・支出の主体となる者のことをいうと解される。 前記1で認定した事実のとおり,本件では,被告Beeは,社内の人間だけでは 撮影業務をこなせないことから複数の外部業者に撮影業務を委託するようになり, 原告はその外部業者の一人であったことからすると,被告Beeは,各婚礼のビデ オ撮影業務の担当を各外部業者に割り振って委託することにより,全体としての婚 礼ビデオの製作業務を統括して行っていたといえる。 また,エフ・ジェイホテルズから委託を受けて,新郎新婦から婚礼ビデオ製作の 申込みを受け,その意向を聴取して打合せをするのは被告Beeであり,婚礼ビデ\nオを完成させて納品するのも被告Beeである。また,被告Beeは,原告による 撮影に不備があった場合の新郎新婦に対する責任も負担している。そうすると,婚 礼ビデオを適切に製作し,納品する義務は,エフ・ジェイホテルズからの委託の下, 被告Beeが負っていたといえる。 加えて,現場での撮影業務自体は基本的には原告の裁量と工夫に委ねられていた が,被告Beeも,新郎新婦に特段の意向がある場合には原告にそれを伝えて撮影 の指示を行っており,原告の裁量等も被告Beeからの指示という制約を受けるも のであったほか,被告Beeは,婚礼ビデオを完成させるに当たり編集作業を行い, その中では,被告Beeが独自に製作した「プロフィールビデオ」等の上映シーン を加工し,そのBGMを音源から採取して差し込むなど,独自の演出的な編集も行 っているから,製作するビデオの内容を最終的に決定していたのは被告Beeであ るといえる。
そして,被告Beeは,原告に対して撮影料と交通費を支払っているほか,それ 以外の製作費用も負担しているから,本件記録ビデオの製作に関する経済的な収 入・支出の主体となっているのは原告ではなく被告Beeである。なお,被告Be eは,本件記録ビデオに収録された楽曲についての著作権使用料等の支払をしてい ないが,原告は,本件記録ビデオに収録された楽曲の著作権使用料は被告Beeが 負担することとなっていたと主張しており,この主張は,上記のとおり本件記録ビ デオの製作に関する経済的な収入・支出の主体が被告Beeであることと符合する (この点については,被告Beeも,別件の福岡地方裁判所小倉支部に提起された 事件で原告の上記主張を争うに当たり,結婚式の様子を撮影したビデオ等に結婚式 の映像とともに式場で流された音楽が収録された場合に,その音楽について日本音 楽著作権協会等に対して著作権使用料を支払うべき義務があるかは法律上確定され ているものではなく,支払義務があるとしても,それを原告が支払った場合には求 償権の問題が発生すると主張するにとどまり〔乙3,7〕,日本音楽著作権協会等に 対する支払義務がある場合にそれを被告Beeが負担すべきことを特段争っていた わけではないと認められる。)。 以上からすると,本件記録ビデオの製作に発意と責任を有する者は,被告Bee であり,被告Beeは「映画製作者」に当たると認めるのが相当である。 そして,原告は,被告Beeから委託を受けて原告撮影ビデオの撮影をしたので あるから,被告Beeに対して本件記録ビデオの製作に参加することを約束したも のといえる。 したがって,著作権法29条1項により,本件記録ビデオの著作権は被告Bee に帰属するから,原告は著作権を有しない。 これに対し,原告は,ビデオ撮影に当たっての自己の負担や工夫をるる主張する が,それらは,原告が著作者であることを基礎付けるものであっても,被告Bee が映画製作者であることを否定するに足りるものではない。
(3) したがって,原告は本件記録ビデオの著作権を有しないから,その著作権に 基づく請求は理由がない。
4 争点5(著作者人格権侵害のおそれの有無)について
(1) 同一性保持権についてみると,本件記録ビデオは原告撮影ビデオを編集し たものであるが,前記1で認定した事実からすると,原告は,被告Beeが原告撮 影ビデオを適宜編集することを承諾していたと認められるから,本件記録ビデオは 原告の同一性保持権を侵害して製作されたものではない。 したがって,仮に被告らが本件記録ビデオを複製,頒布するとしても,意に反す る改変を行うことにはならないから,同一性保持権の侵害は生じない。

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平成29(ワ)781  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 平成30年4月19日  大阪地方裁判所

 漏れていたのでアップします。原告は,訴外P1から取得したマスターテープ1の音源にミキシング等を行って,本件マスターテープ2を制作し,それに基づいて本件CDを制作・販売しており、原告は,上記ミキシング等をしたことにより,自らが本件音源についてのレコード製作者であると主張しました。裁判所は、原始的なレコード製作者であることは否定しましたが、譲渡を受けたと判断しました。

 著作権法2条1項6号は,レコード製作者を「レコードに固定されている音を最初に固定した者」と定義しているところ,「レコードに…音を…固定」とは,音の媒体たる有体物をもって,音を機械的に再生することができるような状態にすること(同項5号も参照),すなわち,テープ等に音を収録することをいう。そうすると,レコード製作者たり得るためには,当該テープ等に収録されている「音」を収録していることはもとより,その「音」を「最初」に収録していることが必要である。
ところで,著作権法96条は,「レコード製作者は,そのレコードを複製する権利を専有する。」と定めているところ,ある固定された音を加工する場合であっても,加工された音が元の音を識別し得るものである限り,なお元の音と同一性を有する音として,元の音の「複製」であるにとどまり,加工後の音が,別個の音として,元の音とは別個のレコード製作者の権利の対象となるものではないと解される。本件では,上記(2)の音楽CDの制作工程からすると,販売される音楽CDに収録されている最終的な音源は,ミキシング等の工程で完成するものの,ミキシング等の工程で用いられる音は,そこで初めて録音されるものではなく,既にレコーディングの工程で録音されているものである。そして,レコーディングの工程により録音された音を素材としてこれを組み合わせ,編集するというミキシング等の工程の性質(上記(2)イ及びウ)からすると,ミキシング等の工程後の楽曲において,レコーディングの工程で録音された音が識別できないほどのものに変容するとは考え難く,現に,本件マスターテープ2に収録されている音が,本件マスターテープ1に収録されている音を識別できないものになっているとは認められない。そうすると,本件音源についてのレコード製作者,すなわち本件音源の音を最初に固定した者は,レコーディングの工程で演奏を録音した者というべきであるから,原告がミキシング等を行ったことによりそのレコード製作者の権利を原始取得したとは認められない。
これに対し,原告は,ミキシング等の工程後の楽曲は,レコーディングの工程で録音された音とは全く別物になり,その楽曲こそが販売されるレコードの音であるから,レコード製作者はミキシング等の工程を行った者であると主張する。確かに,ミキシングの工程は,楽曲の仕上がりやサウンドを大きく左右する重要な工程であって,多額の費用を投下する場合もあると考えられる。しかし,前記のとおりミキシング等は,レコーディングの工程で録音されたマルチチャンネルの音を組み合わせ,編集するものであって,その目的上,元の音を識別できないほどに変容させることは考え難いから,原告の上記主張は採用できない。
(4) 原告によるレコード製作者の権利の承継取得の有無について
ア 前記認定のとおり,本件音源に係る演奏のレコーディングは米国で行われたから,その音源たる本件マスターテープ1の音源は,米国法の下では録音物として著作権により保護される(米国著作権法102条)が,日本法の下では,著作権法8条4号ロにより,保護されるレコードとして,レコード製作者の権利により保護される。本件では,日本国内において被告が本件音源を複製した行為が問題とされていることから,原告が本件マスターテープ1の音源について日本法の下でのレコード製作者の権利を有しているか否かが問題となるところ,原告は,自己がレコード製作者として本件音源の権利を原始取得したものでないとしても,P1から本件マスターテープ1の音源の権利を承継取得したと主張している。
イ そこで,まず,P1が本件マスターテープ1の音源についてのレコード製作者の権利を有していたか否かについて検討すると,確かに,前記認定の「ベースマガジン5月号」の編集部の記事では,P1は録音スタジオのエンジニアであるとされているから,通常はP1自身がレコード製作者であるとは考え難く,また,同記事ではP1がレコード製作者の権利を買い取った旨の消息筋の意見が記載されているものの,明確な裏付けがあるわけではない。また,甲12のKCCスタジオの録音記録も,日付の記載が空欄であるなど,どの時点のものか判然としない。しかし,P1は,本件音源のレコーディング時のマスターテープ(本件マスターテープ1)を所持しているところ,マスターテープは,その商業上の重要性からすると,通常はそれを複製して商業用レコードを製作する権利を有する者が所持するはずのものである。そして,原告は,P1から本件マスターテープ1を取得して本件CDを制作し,20年以上にわたり販売しているところ,ジャコが世界的に著名なベーシストでありながら,それまではスタジオ録音によるソロアルバムが2枚しかなか\nった状況にあって,本件CDが幻のサードアルバムとも位置付けられ(甲8・45頁),本件音源は米国で制作された本件映画にも使用されたことからすると,本件CDはベース業界においては相応に知られていたと推認されるから,本件音源について他に権利を有する者がいれば,原告に対してクレームが寄せられてしかるべきであるが,そのような事実は認められない。もっとも,前記認定のとおり,ジャコの遺族が関係するジャコ社は,本件音源について100%の著作権(米国著作権の趣旨と解される。)を有することを保証した上でスラング社に対してその使用を許諾しているが,本件原盤許諾契約書においても,本件映画に表記するクレジットは「“Birth of Island” Written and Performed by Jaco Pastorius」とされており,これによれば,ジャコは,日本法の下では,著作権と実演家の権利を有する立場にとどまり,レコード製作者の権利を有する立場には通常はない上,ジャコ社が本件マスターテープ1と同様のマスターテープを別途所持しているといった事情もうかがわれないから,ジャコ社がジャコの遺族が関係する会社であるとしても,本件マスターテープ1の音源のレ コード製作者としての権利を有していることの根拠は不明というほかない。
以上に加え,前記の「ベースマガジン5月号」の編集部の記事において,P1が本件音源の権利を取得した経緯がそれなりに記されていることや,本件契約書においてP1がマスターレコーディングの権利を有することを保証していることを併せ考慮すると,本件楽曲に係る本件音源については,P1が日本法の下でのレコード製作者の権利を有していたと認めるのが相当である。
ウ そして,原告は,そのP1から本件契約書によりマスターレコーディングに関する全ての権利を独占的に譲り受けたのであるから,本件マスターテープ1の音源について日本法の下でのレコード製作者の権利を承継取得し,本件音源についての同権利も有すると認められる。

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平成28(ワ)28925等  損害賠償請求事件(本訴),使用料規程無効確認請求事件(反訴)  著作権  民事訴訟 平成31年2月1日  東京地方裁判所

 有線放送業者が、著作権管理団体に対して、「使用料規程及びこれに基づく本件基本合意は,地域もしくは使用者の立場によって視聴料に大きな価格差をつけるものとして、無効」と主張して争いました。裁判所は「区域内再放送と区域外再放送の使用料の差が不合理とはいえない」と判断しました。

(ウ) 次に,本件使用料規程における使用料の差違が合理性を有するかにつ いて検討する。
a 本件使用料規程は著作権等管理事業法13条に基づいて文化庁長官 に届出のされたものであるが,同法は,著作物の利用の円滑性確保と いう観点から著作物等管理事業者に対して,使用料規程の作成,届 出義務を定めている。そして,同法は,使用料規程作成に当たって の利用者又はその団体から予め意見を聴取する努力義務と,使用料\n規程を届け出た場合における使用料規程の概要の公表義務を定め,\n恣意的な使用料規程の作成を防止するとともに(同法13条),使 用料規程において不相当に高額な使用料の額が設定され著しく利用 者の利益を害する場合などには,文化庁長官が一定の要件の下で, 業務改善命令(同法20条)による是正措置を講じることとされて いる。このように,同法においては,使用料規程の不合理な使用料 の規定の是正を図るための規定が置かれているところ,本件におい ては,文化庁長官による原告に対する業務改善命令がなされた等の 事実はうかがわれない。
b また,日本音楽著作権協会,日本シナリオ作家協会,日本文芸著作 権保護同盟,日本放送作家組合,日本芸能実演家団体協議会の権利者\nの5団体は,昭和50年以降,個々のケーブルテレビ事業者に再放送 の許諾を与えており,その際に用いられた使用料の算定式は,区域外 再放送と区域内再放送の使用料に6倍の差を設けるものであって,上 記団体の一部については,現在も同様の算定式に基づいて使用料の徴 収が行われているとの事実が認められる(弁論の全趣旨)。
c さらに,地上基幹放送事業者は,それぞれの放送対象地域内におい て放送を行っているところ,有線テレビジョン放送事業者の提供する 区域外再放送は,視聴者にとってはその区域においては当然には視聴 することのできない番組の視聴が可能になるものであるため,強い顧\n客吸引力を有していることがうかがわれ(甲25),さらに日本放送 協会の受信料が1波・1世帯当たり年額6800円であること(甲2 0)なども考慮すると,本件使用料規程の定める使用料が不合理に高 額であるということはできず,また区域外再放送と区域内再放送の使 用料及びその間の差(5倍)が不合理であるということはできない。
d これに対し,被告は,放送事業者が区域内再放送に比べて区域外再 放送の場合に多額の費用を投じている事情もなく,有線放送テレビジ ョン事業者は,放送対象地域を越えて飛び出している電波を受信して 再放送を行なっているにすぎず,大阪を中心にすると徳島県は兵庫県 北部や京都府北部と距離的に変わらないなどと主張する。 しかし,総務省が平成25年に行った調査によれば,被告が讀賣テ レビの区域外再放送を行っている徳島県板野郡北島町,松茂町及び上 板町のいずれにおいても,電界強度が放送法関係審査基準の基準値未 満であり,画質についても継続的に良好な受信が可能であるとまでは\nいえない状態であったとの事実が認められる(乙6)。また,毎日放 送等の親局(大阪局)の放送エリアには上記3町は含まれず,その中 継局の放送エリアにも同各町は含まれていない(甲24)。
以上によれば,区域外と区域内で電波の受信状況は必ずしも同一と いうことはできず,放送事業者が区域内再放送に比べて区域外再放送 の場合に多額の費用を投じる必要がないと認めるに足りる証拠もない。
e 被告は,水道事業等の公共事業においては料金について原価主義の 考え方が採られていることに鑑みても,区域内再放送と区域外再放送 とを区別する合理的な理由はないと主張する。 しかし,原告の行う管理事業は水道事業のような公営事業ではなく, また,水道法においては,水道事業者の定める供給規程が「料金が、 能率的な経営の下における適正な原価に照らし公正妥当なものである\nこと。」との要件に適合しなければならないと定められている(同法 14条1項1号)のに対し,著作権等については再放送使用料を原価 に基づいて設定すべきことが義務付けられているものではない。 このように,水道等の公益事業と原告の行う管理事業とは,その根 拠法令,制度趣旨,使用料の算定の方法等が異なっているのであり, 水道事業等の公共事業との対比において本件使用料規程の合理性を判 断することは相当ではない。
f 被告は,徳島県は,関西広域連合の一員であるところ,徳島県鳴門 市の視聴者が隣接する兵庫県南あわじ市の視聴者の5倍から50倍の 視聴料を払わなければならないのは不合理であると主張する。 しかし,前記判示のとおり,放送法は放送対象地域の内と外で明確 に区別をしており,区域内再放送と区域外再放送とで一定の異なる 扱いをすること自体は法が予定している以上,隣接した市町村であ\nったとしても,放送対象地域が異なる場合には視聴料が異なるのは やむを得ないというべきである。そして,本件使用料規程における 使用料の額及び区域内再放送と区域外再放送の使用料の差が不合理 とはいえないことは前記判示のとおりである。 なお,被告は,本件使用料規程の年間の包括的利用許諾契約によ らない場合の区域外再放送の使用料(年間で計算すると1200円) と本件基本合意の区域内再放送の使用料(年間24円)とを対比し て,50倍の格差があると主張するが,本訴の請求は本件使用料規 程の算式によるものであるから,区域内再放送と区域外再放送の使 用料の格差の合理性については,同規程の同一種別についての料金 を比較して判断すべきであり,本件使用料規程と本件基本合意のし かも異なる種別における料金を比較することは相当ではない。
g 被告は,関東広域圏,中京広域圏,近畿広域圏のケーブルテレビの 視聴者は全体の約73%にのぼっていることなどを指摘し,再放送の 同意につき公平・公正な使用料は1世帯1ch当たり年額24円であ り,この金額を超える使用料には合理的な理由がないと主張する。 しかし,後記のとおり,本件基本合意は,本件使用料規程第4条に 基づき減額措置を定めるものであり,しかも年額24円という使用料 はその中でも最も低い金額であるから,同金額を超える使用料が合理 性を欠くということはできない。本件使用料規程における使用料の 額が不合理とはいえないことは前記判示のとおりである。
h 以上のとおり,本件使用料規程における使用料の額及び区域内再 放送と区域外再放送の使用料の差が不合理ということはできない。
(エ) 被告は,年間の包括的利用許諾契約を締結する場合と締結しない場 合を分けて使用料を設定することは不合理であると主張する。
しかし,年間の包括的利用許諾契約を結んだ場合には毎月使用料を 徴収する等の事務処理が軽減されることを考慮すると,年間の包括的 利用許諾契約を締結しない場合の使用料を一定程度高く設定するこ とは合理的であり,また,その使用料が年間の包括的利用許諾契約 を締結する場合と比較して不合理に高額であるということはできな い。
したがって,年間の包括的利用許諾契約を締結する場合と締結し ない場合を分けて使用料を設定することが不合理であるということ はできない。

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平成30(ワ)27253  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 平成31年3月13日  東京地方裁判所(29部)

 お菓子のパッケージのイラストについて、著作権の譲渡権侵害について、同一性の程度が高いとして、被告に注意義務違反があったとして過失が認定されました。

 被告らは,いずれも加工食品の製造及び販売等を業とする株式会社であり,業として,被告商品を販売していたのであるから,その製造を第三者に委託していたとしても,補助参加人等に対して被告イラストの作成経過を確認するなどして他人のイラストに依拠していないかを確認すべき注意義務を負っていたと認めるのが相当である。 また,前記認定のとおり,本件イラストと被告イラストの同一性の程度が非常に 高いものであったことからしても,被告らが上記のような確認をしていれば,著作 権及び著作者人格権の侵害を回避することは十分に可能\であったと考えられる。に もかかわらず,被告らは,上記のような確認を怠ったものであるから,上記の注意 義務違反が認められる。

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平成29(ワ)16958  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 平成31年2月28日  東京地方裁判所

 英会話のDVDが複製・翻案が争われた事件です。東京地裁46部は、一部の表現については創作性を認め、36万円の損害賠償を認めました。
 原告DVDと被告DVDの項目アにおける共通点である動画に社名を 表示することは,アイデアである。\n他方,項目イ及びウにおける原告DVDと被告DVDの共通点は,白い 扉を抜け,その先に英会話を学ぶ動機となるフレーズと共に写真が現れる というもので密接に関係するものといえるところ,英会話の宣伝,紹介用 のDVDにおいて,教材を利用することで新しい状況となることについて, 紺色の背景とする白い扉やその奥に広がる宇宙で表現するとともに,教材\nにより達成できる状況について,扉の奥に,その状況を表しているともいえる写真を英会話を学習する動機を示すフレーズとともに複数回示すこ\nとで表現しているものといえ,その表\現は,全体として,個性があり,創 作性があるといえる。 項目エにおける原告DVDと被告DVDの共通点のうち,英会話の宣伝, 紹介用のDVDにおいて,外国人と話している様子を用いる点はアイデア であり,そこにおける問いかけの表現は通常よく使用される,ありふれた\n表現といえる。\n項目オにおける原告DVDと被告DVDの共通点は,教材を学ぶことで 状況が変わることを,二度にわたる太陽の光を含む空の情景で示し,また, 自社の商品を用いることで交流の範囲が広がることなどを人物が写った 多数の写真を自社商品の周りを回転させることなどで表現しているもの\nといえ,その表現は,全体として,個性があり,創作性があるといえる。\n以上によれば,イントロダクションの部分の原告DVDと被告DVDは, 少なくとも,項目イ,ウ及びオにおいて表現上の創作性がある部分におい\nて共通するといえる。そして,上記共通する内容に項目イ,ウ及びオの内 容等を考慮すれば,上記部分の原告DVDの表現上の本質的な特徴を被告\nDVDから直接感得することができると認められる。
イ 受講者インタビュー(その1)(項目カ)
前記前提事実 及び証拠(甲5,6)によれば,原告DVDと被告DVD は,当該部分において,「(商品名)を始めた人の中にはすでに新しいステー ジへと人生を開いていった人たちがたくさんいらっしゃいます」という音声 が流れ,その後,海外で活躍する女性を紹介し,その女性へのインタビュー の様子となる点,「英語を話す原点になったのが(商品名)だったのです」と いう音声が流れるとともに,同趣旨が赤色の文字テキストで表示される点な\nどが共通する。 他方,原告DVDと被告DVDの当該部分において,登場人物やインタビューの内容,表現は異なっている。\n上記共通点のうち,英会話教材の宣伝,紹介用の動画において,海外で活 躍する受講者を紹介した上でその受講者へのインタビューの様子を用いる ことや,その受講者の活躍の契機となったのが自社の教材であるという説明 をすることは,アイデアであるといえるし,また,それらを上記のような順 序で構成することは,通常行われることといえ,これらをもって表\現上の創 作性があるとはいえない。また,「(商品名)を始めた人の中にはすでに新し いステージへと人生を開いていった人たちがたくさんいらっしゃいます」, 「英語を話す原点になったのが(商品名)だったのです」との部分について, 英会話教材を宣伝,紹介する際に,教材による学習によって自らの状況が変 わったことを新たなステージへと人生を開くと表現することや,その契機等\nとなった商品を原点と表現することはありふれたものであるといえ,いずれ\nも創作性があるとは認められない。 したがって,受講者インタビュー(その1)の部分の原告DVDと被告D VDの共通点は,いずれもアイデアなどの表現それ自体でない部分又は表\現 上の創作性が認められない部分に関するものであるといえる。
・・・・
エ その他受講者インタビュー(項目ク)
前記前提事実 及び証拠(甲5,6)によれば,原告DVDと被告DVD は,当該部分において,受講者への複数のインタビューの様子である点,「人 生が変わりました」との文字テキストが表示される点で共通している。\n 他方,原告DVDと被告DVDの当該部分において,登場人物やインタビ ューの内容,表現は異なっている。\n上記共通点のうち,英会話教材の宣伝,紹介用の動画において,受講者と される人物のインタビューの様子を用いることはアイデアであるといえる。 また,「人生が変わりました」という文字テキストは,表現であるということ\nができるとしても,教材を宣伝,紹介する場面で,教材による学習によって 自らの状況が変わったことを人生が変わると表現することは,ありふれた表\ 現であるといえ,創作性があるとは認められない。そして,インタビューの 様子に文字テキストを組み合わせることについても,普通に行われることで あり,このことをもって表現上の創作性があるとはいえない。\nしたがって,その他受講者インタビューの部分の原告DVDと被告DVD の共通点は,いずれもアイデアなどの表現それ自体でない部分又は表\現上の 創作性が認められない部分に関するものであるといえる。
オ 商品紹介(項目ケ)
前記前提事実 及び証拠(甲5,6)によれば,原告DVDと被告DVDは,当該部分において,まず,画面上部が光り,雲が浮かんでいる空の 様子となった後,画面の上方から階段が伸びてきて,階段を下から見上げ る構図となり,その後,空を背景に,最下段の階段の側面に英語学習のス\nテップのフレーズが表示され,そのフレーズの読み上げが終わると一段上\nの階段の側面が拡大されると同時に,その階段の側面に次の英語学習のス テップのフレーズが右からスライドして表示されるとともに,そのフレー\nズがナレーションされ,それを7回繰り返して,7つ目の英語学習のステ ップが表示されると,側面にフレーズが記載された階段が最下段まで表\示 されるという点で共通している。また,各階段の側面に表示されるフレー\nズは,原告DVDでは1)「聞くことを習慣化する」,2)「単語やフレーズの 音がキャッチできるようになる」,3)「言っていることが理解でき短い言 葉で反応できるようになる」,4)「短い言葉で自分の意思を伝えられるよ うになる」,5)「簡単な会話のキャッチボールができるようになる」,6)「言 葉のキャッチボールが長く続くようになる」,7)「意識せずに自然に外国 人との会話が楽しめるようになる」であるのに対し,被告DVDでは1)「流 して聞くことを習慣化する」,2)「単語,フレーズの音が聞き取れるように なる」,3)「言っていることが分かり,短いフレーズで返事ができるように なる」,4)「短いフレーズで自分の言いたいことが伝えられるようになる」, 5)「簡単な会話のキャッチボールができるようになる」,6)「言 葉のキャッチボールが長く続くようになる」,7)「意識せずに自然に外国 人との会話が楽しめるようになる」であるのに対し,被告DVDでは1)「流 して聞くことを習慣化する」,2)「単語,フレーズの音が聞き取れるように なる」,3)「言っていることが分かり,短いフレーズで返事ができるように なる」,4)「短いフレーズで自分の言いたいことが伝えられるようになる」, 5)「簡単な会話のキャッチボールができるようになる」,6)「言葉のキャッ チボールが長く続けられる」,7)「意識せず,自然に外国人との会話が楽し めるようになる」であり,その内容,表現はほぼ共通している。\n 他方,原告DVDでは,階段は側面も含めて青色であり,フレーズが白 色の文字で表示されるのに対し,被告DVDでは,階段は側面を含めて白\n色であり,フレーズが青色の文字で表示される。また,原告DVDと被告\nDVDにおいて,階段の背景はいずれも白色の雲がある青空であるが,具 体的な光景は異なる。
(イ)項目ケの部分の原告DVDと被告DVDの上記 の共通点は,空に浮か んだ階段を下から見上げる構図とすることによって,階段を上っていくイ\nメージを抱かせ,階段と英語学習のステップが結び付くものであり,原告 DVDと被告DVDでほぼ共通するフレーズの内容に照らしても,一定の 段階を踏んで英語学習を進めることができるなどのイメージを与えるも のである。そのようなステップが7段階あり,その内容がほぼ同一である ことをも考慮すると,この共通点は,作成者の個性が現れており,全体と して創作的な表現であると認められる。\nそして,上記共通する内容に項目ケの内容等を考慮すれば,項目ケの原 告DVDの表現上の本質的な特徴を被告DVDから直接感得することが\nできると認められる。
・・・・
原告は,原告DVDと被告DVDが,1)イントロダクション,2)受講者イン タビュー,3)商品紹介,4)商品特徴の説明,5)開発者等のインタビュー,6)商 品特徴の説明,7)エンディングという全体的な構成が類似することも主張する\nので,以下,検討する。
ア 前記前提事実 及び証拠(甲5,6)によれば,原告DVDと被告DVD は,いずれも,1)イントロダクション(項目アないしオ),2)受講者インタビ ュー(項目カないしク),3)商品紹介(項目ケ),4)商品特徴の説明(項目コ ないしシ),5)開発者等のインタビュー(項目ス),6)商品特徴の説明(項目 チ及びツ),7)エンディング(項目テ,ト)という構成を有するということが\nできる。なお,上記各項目においては, 基 本的に,使われている写真,光景,登場人物やインタビューを受けた者が話 す内容などは異なる。
イ 原告DVDと被告DVDは,いずれも英会話教材の宣伝,紹介用のもので あり,このようなDVDにおいて,宣伝の対象である商品の購入等を促すと いう目的のために,商品の内容や特徴,商品を利用した場合の効果,サポー ト体制の説明をすることは,ごく一般的であるといえる。そして,商品の内 容,特徴や商品を利用した場合の効果を説明するために,受講者や開発者に 対するインタビューを用いることも,一般的であるといえる。 原告DVDと被告DVDの全体的な構成は,前記アのとおり,原告が主張\nする7つという少なくない要素において一致するが,その各要素は,上記の とおり,同種の目的を有するDVDにおいては,いずれもごく一般的といえ るものである。また,原告DVD及び被告DVDにおけるそれらの各要素の 順序について,特別の印象を与えるようなものであるとはいえない。これら を考慮すると,原告DVDと被告DVDの原告主張の全体的な構成について,\nそその各要素が共通する点をもって創作的な表現であるとは認められない。\nまた,前記 のとおり,被告DVDは,複数の部分において,原告DVD の表現上の本質的な特徴を感得することができる。しかし,それらの本質的\nな特徴を感得することができる表現について,英会話教材の宣伝,広告用の\n動画における表現としては関連するとはいえるが,それ以上にそれらが表\現 上及び内容上,相互に密接に関連しているものとはいえない。このことに, 全体的な構成の各要素が同種の目的を有するDVDにおいてごく一般的な\nものであること,被告DVDには,原告DVDの表現上の本質的な特徴を感\n得することができるとはいえない部分も多いこと(前記 )を考慮すると, 被告DVDに原告DVDの表現上の本質的な特徴を感得することができる\n部分があるとしても,原告DVD全体についての表現上の本質的な特徴を被\n告DVDから感得することができるとまではいえない。
(4)小括
以上によれば,被告DVDは,少なくとも,項目イ,ウ,オ,ケ,テ及びト において,原告DVDの表現上の本質的特徴を被告DVDから直接感得するこ\nとができる。 そして,対照表」及び「DVDスクリプト内容対照表\」における共通点の内容等及び弁 論の全趣旨に照らし,被告DVDは,原告DVDに依拠して作成されたものと いえる。 これらのことに,前記のとおり,原告DVDと被告DVDでは,画面自体は 異なり,原告DVDの表現に一定の修正,増減,変更等が加えられて別の表\現 となっていることなどから,被告DVDは,少なくとも,上記各項目において, 原告DVDを翻案したものと認められる。
2 争点2(編集著作物としての複製権,翻案権侵害の有無)及び争点3(言語の 著作物としての複製権,翻案権及び譲渡権侵害の有無)について
原告の主位的な主張のうち,編集著作物としての侵害の主張は,別紙「DVD の内容の対照表」の「イントロダクション」などの標題によって区切られた部分\nを一つの素材として,その選択と配列について創作性を有すると主張するもので ある。しかし,この主張は,少なくとも,前記1(3)の全体的な構成に関する類似\nの主張において述べたところと同様の理由により,理由がない。また,原告は, 予備的に,原告DVDに含まれるスクリプト部分の言語の著作物の侵害を主張す\nるところ,共通するスクリプトは,事実を述べるものか,英会話教材の宣伝,紹 介用の動画において,ありふれたものということができ,その順序にも表現上の\n創作性があるとは認められないから,原告の主張は理由がない。

◆判決本文

両当事者は、宣伝のキャッチフレーズについて著作権侵害を争っていましたが、こちらは1審、2審とも著作物性無しと判断しています。

◆平成27(ネ)10049

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平成29(ワ)10909等  損害賠償等請求事件(本訴),損害賠償請求反訴事件(反訴)  著作権  民事訴訟 平成31年2月15日  東京地方裁判所

 ポータルサイトの開発,運営の事業を共同で営んでいた被告に対し,原告は、被告が経費を過大に計上するなどして原被告間の契約に基づく収益の分配をしなかったとして、未収益金および損害賠償を求めました。被告は、原告がプログラムを消去したとして反訴請求をしています。東京地裁40部は、原告の主張を認め、約4200万円の支払いを命じました。

 ア 以上のとおり,被告が本件業務契約に基づかずに各経費を算入したこと により,本来分配すべき金員を理由もなく減額し,その分,本来原告が分 配を受けるべき金員を支払わなかったということができるのであるから, 原告は,被告に対して,未払収益分配金の支払を求めることができる。
イ 被告の原告に対する平成28年4月分から平成29年3月分までの未払 収益分配金は(下記4))は,別紙2のとおりである(式:(1)本件事業か らの収益金−2)算入すべき経費)÷2)−3)既払収益分配金)。 なお,平成29年2月及び同年3月における本件事業からの収益金は, グーグルからの売上げについては,平成29年2月が304万1745円, 同年3月が355万2469円であったと認められ(甲9の12,乙12 の1),その他の売上げについては,平成28年2月から平成29年1月 までの月平均売上金額に基づいて計算すると,別紙3のとおりであると認 められる。そして,同各月について計上すべき経費は,別紙1−11及び 1−12記載の各金額に前記第4の1(2)セのとおりマネタイズパート ナーのコンサルティング費用5万4000円をそれぞれ加えた金額である ので,同各月の被告の未払収益分配金は,別紙2のとおりの金額(小数点 一位は切下げ)となる。
(4) したがって,原告は,被告に対し,平成28年4月分から平成29年3 月分までの未払収益分配金として1148万2957円及びこれに対する 遅延損害金の支払を求めることができる。
・・・・
 前記判示のとおり,被告は,原告に対し,本件業務契約に基づく収益分 配金の支払義務を履行しなかったのであるから,原告による債務不履行を 理由とする同契約の解除は有効であるということができる。 債務不履行解除に伴う逸失利益について,原告は,平成28年4月分か ら平成29年3月分までの収益分配金を基礎として5年間は同程度の収益 を上げることができたと主張する。 この点について,逸失利益の算定の基礎については,原告の主張すると おり,本件解除の直前である平成28年4月から平成29年3月までの収 益分配金に基づいて算定することが相当である。他方,逸失利益を認める 期間については,本件事業の売上げが平成27年頃に比べると減少してい ること,本件事業のようなポータルサイトは同様のサービスを提供する事 業者が出現するなどして比較的短期間で事業環境が変化する可能性がある\nことなども考慮し,2年間と認めることが相当である。 したがって,原告の被告に対する債務不履行に伴う逸失利益は3039 万7348円となる。 (計算式)1519万8674円(別紙2の3)及び4)の合計額)×2年 =3039万7348円

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平成30(ネ)10066  損害賠償等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成31年1月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ウェブサイトにおいて,書籍を他人の著作物である旨を表示されたことが,氏名表\示権の侵害に当たるかが争われました。原判決は,「氏名表示権は,著作者が原作品に,又は著作物の公衆への提供,提示に際し,著作者名を表\示するか否か,表示するとすれば実名を表\示するか変名を表示するかを決定する権利であるところ,被控訴人のホームページにおいて,本件各書籍の公衆への提供,提示がされているとはいえないから,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の請求には理由がない」と判断しました。なお、時期に後れた攻撃防御であるとの申\立ては認められませんでした。
1 時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて
本件は,平成29年12月20日に東京簡易裁判所に訴えが提起され,平成30 年2月9日に東京地方裁判所に移送され,3回の弁論準備手続期日を経て,同年6 月21日の口頭弁論期日において弁論が終結されたところ,弁論の全趣旨によると, 東京地方裁判所は,同年3月30日,控訴人(一審原告)訴訟代理人に対し,被侵 害利益が公表権(著作権法18条),氏名表\示権(著作権法19条),同一性保持 権(同法20条)又は著作権法に定めのない権利利益であるのか,具体的に明らか にすることなどを求めるファックス文書を送付したこと,控訴人(一審原告)訴訟 代理人は,同年4月25日,被侵害利益は「氏名表示権(著作権法19条)」であ\nる旨を記載した同日付け原告第1準備書面を東京地方裁判所に提出し,同書面は同 日の第1回弁論準備手続期日において陳述されたことが認められる。そうすると, 控訴人は,被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の 著者であると偽られない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権の主張を, 遅くとも原審の口頭弁論終結日である平成30年6月21日までにすることが可能であったといえるから,これを当審において初めて主張することは「時機に後れて\n提出した攻撃又は防御の方法」(民訴法157条1項)に該当することが認められ る。 しかし,控訴人は,本件の控訴審の第1回口頭弁論期日(平成30年11月21 日)において,被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三 者の著者であると偽られない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権の主張 をしたものであって,本件は,第2回口頭弁論期日において弁論が終結されたこと からすると,上記の時点における上記主張により,訴訟の完結を遅延させることと なると認めるに足りる事情があったとはいえない。 したがって,上記主張に係る時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立ては,認め\nられない。
・・・
証拠(甲1,甲1の2)及び弁論の全趣旨によると,本件書籍1は,D VD付きの書籍であり,書籍には,写真,イラスト,文章等が,DVDには映像が 掲載されていることが認められる。そして,前記アのとおり,本件書籍1の奥付に は,控訴人以外の多くの個人又は団体の名が,様々な立場から本件書籍1の成立に 関与したものとして記載されていること,「監修」が「書籍の著述や編集を監督す ること」(広辞苑第7版)を意味することからすると,本件書籍1が編集著作物で あるとしても,前記アの記載から,その編集著作物の著作者が,控訴人であると推 定すること(著作権法14条)はできず,著作者が控訴人であるとは認められない。 また,その他に,控訴人が,本件書籍1につき,素材の選択又は配列によって創 作性を発揮したものと認めるに足りる主張・立証はない。 この点について,控訴人は,株式会社ビックスとの間における作業過程に照らし てみても,控訴人が実態として編集著作物の著作者となる旨主張する。 しかし,控訴人が主張する本件書籍1への控訴人の関与については,控訴人の陳 述書(甲8)以外の証拠はなく,また,上記陳述書によっても,「明確に覚えてい ない」というのであって,控訴人が,「監修」,すなわち,書籍の著述や編集を監 督することを超えて編集著作物の著作者と評価し得る作業を行ったことを認めるこ とはできないから,控訴人の上記主張は,採用できない。 したがって,控訴人が本件書籍1の編集著作者であるとは認められない。
そうすると,本件書籍1については,控訴人の主張する被侵害利益は,その根拠 を欠くから,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に対する被侵害 利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の著者であると偽ら れない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権が存するとは認められない。

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平成29(ワ)27374  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 平成30年12月11日  東京地方裁判所(47部)

 歌手の覚せい剤報道において、歌手から送られてきた未発表の楽曲を放送したことが、著41条の時事の事件の報道のための利用に該当するのかが争われました。裁判所は、41条には該当しないとして、110万円の損害を認定しました。
 1 本件楽曲は未公表の著作物であったか(争点(1)ア)について
(1)前記前提事実(3)エのとおり、本件楽曲は、被告Bが本件番組内で本件録音 データを再生した時点より前に,公衆に提供又は提示されていなかったから, 本件楽曲は法18条1項にいう「著作物でまだ公表されていないもの」に当\nたる。 この点,被告らは,原告が芸能リポーターである被告Bに対して本件録音\nデータを提供したことは公衆に提示したものと同視し得るから,本件楽曲は 本件番組内で放送された時点で「著作物でまだ公表されていないもの」には\n当たらない旨主張する。 しかしながら,法にいう「公衆」とは飽くまでも不特定多数の者又は特定 かつ多数の者をいう(法2条5項参照)のであって,被告B個人が公衆に当 たると解する余地はない。したがって,原告が被告Bに対して本件録音デー タを提供したことにより,本件楽曲が公表されたものとは認められない。\n2 公衆送信及び公表につき黙示の許諾があったか(争点(1)イ)について 証拠(甲7,乙A4)及び弁論の全趣旨によると,原告が被告Bに対して 本件録音データを提供した経緯について,次の事実が認められる。 ア 原告は,平成27年12月上旬頃,自らが執筆した自叙伝の原稿につい て芸能リポーターである被告Bの感想等を聞くため,知人を介して被告B\nの連絡先を入手した。そして,原告は,被告Bと電話で連絡を取り,その 感想等を求める趣旨であることを伝えた上,被告Bに対して上記原稿のデ ータをメールで送付した。
イ その後,原告は,被告Bと電話で連絡を取り,被告Bが上記原稿を読ん だ感想等を聞いた。その際,原告が被告Bに自らが音楽活動を行っている ことを伝え,自らが創作した曲を聴いた感想等を聞かせてほしいと頼んだ ところ,被告Bは,この依頼を承諾した。 (なお,原告は,被告Bに感想等を求めた際に,提供する楽曲を公表し\nないように求めた旨主張し,その陳述書(甲7)には,これに沿う部分が あるが,被告Bの陳述書(乙A4)にはこれに反する記載がある上,当該 主張は原告の平成30年3月6日付け準備書面で初めてされたものであっ て,それ以前はかかる明示的な求めはないことを前提とした主張がされて いたという経緯も考慮すると,原告の上記主張及び陳述部分は採用できな い。)
ウ そこで,原告は,平成27年12月22日,被告Bに対し,本件録音デ ターをメールで送信した。 被告らは,原告は音楽活動を再開したことが被告Bによってテレビ放送等 で告知されることを期待して本件録音データを提供したものであるから,本 件楽曲を公衆送信及び公表することを黙示に許諾したというべきであると主\n張する。 しかしながら, 上記(1)の認定事実によれば,原告は,本件楽曲を聴いた 被告Bの感想等を聞くために,被告Bに対して本件録音データを提供したに すぎないから,原告が本件録音データを提供したことをもって,本件楽曲を 公衆送信ないし公表することを黙示に許諾したとは認められない。被告Bが\n芸能リポーターであるからといって,それのみでは上記説示を左右しない。\n
3 被告らによる公衆送信行為は法41条所定の時事の事件の報道のための利用 に当たるか (争点(1)ウ)について 被告らは,本件楽曲は,1)視聴者に対して原告による覚せい剤使用の事実 の真偽を判断するための材料を提供するという点において「警視庁が原告を 覚せい剤使用の疑いで逮捕する方針であること」という時事の事件を構成す\nるものであるし,2)原告が執行猶予期間中に更生に向けて行っていた音楽活\n動の成果物であるという点において「原告が有罪判決後の執行猶予期間中に\n音楽活動を行い更生に向けた活動をしていたこと」という時事の事件を構成\nするものである旨主張する。 上記1)の主張について検討するに,前記前提事実(3)イおよびウによれば,本 件楽曲は,警視庁が原告に対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予\n定であることやこれに関連する報道がされた際に放送されたものであると認 められるところ,警視庁が原告に対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求 する予定であることが時事の事件に当たることについては,当事者間に争い\nがない。しかしながら,本件楽曲は,警視庁が原告に対する覚せい剤使用の疑いで 逮捕状を請求する予定であるという時事の事件の主題となるものではないし,\nかかる時事の事件と直接の関連性を有するものでもないから,時事の事件を 構成する著作物に当たるとは認められない。これに反する被告らの主張は採\n用できない。
次に,上記2)の主張について検討する。
ア 前記前提事実(3)イおよび乙B第1号証によると,以下の事実が認められる。 警視庁が原告に対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定で\nあることやこれに関連する報道がされた放送時間は,コマーシャルや他 のニュースが放送された時間を除くと約62分間であった。 このうち,本件録音データの再生に伴って原告の音楽活動に言及があ った時間は,午後3時31分頃から同36分頃までの約5分間であるが, うち約3分間はコマーシャルが放送された時間であった。具体的内容は, 別紙本件楽曲放送部分に記載のとおりである。 すなわち,本件番組の司会者は,「うーん。で,ASKA さんが,来月 ですか,新曲を YouTube で・・・。」「まあ,発表されるってことで,B\nさんが・・・」と切り出し,被告Bは,この発言を受けて,「実は,昨 年送ってきた曲がありますんで,コマーシャルの後にちょっとお伝えし たいと思います。」と発言した。 コマーシャルの放送後,被告Bは,「これ,送られてきたんで。えー, 去年の 12 月 22 日で,まあ,タイトルとしては『20年東京オリンピ ック曲』っていうふうについてたんです。」と説明した上で本件録音データを再生した。本件司会者は,本件楽曲を聴いた感想として,「今ま での曲調とは全然違いますよね。」,「どっちかというと幻想的な。」 と発言し,被告Bも,この感想に同調し,「ちょっと違う感じしますよ ね。まあ,きれいなメロディではあると思いますけど。」と発言した。 また,本件司会者は,「こういうのを作って,来月 YouTube で発表し\nようと。音楽活動に向けて動こうと。」と発言し,被告Bも,「そうで すね,この時点では,ご本人もいろいろブログを自分で書いているん で。」などと発言して,本件録音データの再生を止めた。 そして,本件録音データの再生が終わるとすぐに,本件番組の司会者 その他の出演者は,再び,警視庁が原告を覚せい剤使用の疑いで逮捕す る方針であることを話題にし,それぞれ意見を述べるなどした。 また,上記 以外の部分でも,原告の音楽活動に関する部分がある (14:23頃,14:29頃,14:33頃,15:08頃)ものの, その内容は,上記 と同様に,原告が,2020年のオリンピックのテ ーマソングとして作曲した本件楽曲を被告Bに送付し,来月,YouTube でアルバムを発売したり,友人のライブに出たりといった音楽活動に向 けて動こうとしている,ということを断片的に紹介する程度にとどまっ ている。
イ 上記認定事実によれば,本件番組中における原告の音楽活動に関する 部分は,警視庁が原告を覚せい剤使用の疑いで逮捕する予定であること\nを報道する中で,ごく短時間に,原告が2020年のオリンピックのテ ーマソングとして作曲した本件楽曲を被告Bに送付し,来月,YouTube で 新曲を発表するなど音楽活動に向けて動こうとしている,ということを\n断片的に紹介する程度にとどまっており,本件楽曲の紹介自体も,原告 がそれまでに創作した楽曲とは異なる印象を受けることを指摘するにす ぎないもので,これ以上に原告の音楽活動に係る具体的な事実の紹介は ないものであるから,このような放送内容に照らせば,本件番組中にお ける原告の音楽活動に関する部分が「原告が有罪判決後の執行猶予期間\n中に音楽活動を行い更生に向けた活動をしていたこと」という「時事の 事件の報道」に当たるとは,到底いうことができない。
4 被告らによる公衆送信行為は法32条1項所定の引用に当たるかエ)について
前記1で判示したとおり,原告が被告Bに対して本件録音データを提供した ことにより,本件楽曲が公表されたものとは認められず,本件番組の放送時に\nおいて本件楽曲は未公表の著作物であったと認められるから,被告らによる本\n件楽曲の公衆送信行為は法32条1項所定の引用には当たらない。
5 正当業務行為等により公表権侵害の違法性が阻却されるか(争点(1)オ)につ いて
被告らは,本件楽曲の公表は,原告が逮捕されそうであるという差し迫っ\nた状況において,有罪判決後の原告の音楽活動や更生に向けた活動等を具体 的に報道するとともに,視聴者に対して原告による覚せい剤使用の事実の真 偽を判断するための材料を提供するという目的で行われたものであり,その 具体的事情の下では,法41条の趣旨の準用,正当業務行為その他の事由に より違法性が阻却される旨主張する。 しかしながら,本件番組では原告の音楽活動にごく簡単に触れたに止まり, それに係る具体的な事実の紹介がないことは前記3で説示したとおりである し,本件楽曲が原告による覚せい剤使用の事実の真偽を判断するための的確 な材料であるとも認められないから,被告らの上記主張は,その前提を欠く ものであり採用できない。 また,被告Bは,原告が逮捕見込みであるとの報道に関連して,原告が更 生していることを示すために,本件録音データの一部のみを再生したもので あるから,芸能リポーターとしての正当な業務行為として違法性がない旨主\n張する。 しかしながら,原告の音楽活動に係る具体的な事実の紹介がないまま,本 件録音データの一部を再生したからといって,原告が更生していることを具 体的に示すことにはならないから,被告Bの上記主張も,その前提を欠くも のであり採用できない。
6 被告Bは公衆送信権及び公表権の侵害主体となるか カ)について
前記前提 Bは,本件番組の生放送中に出演者として本件楽曲の録音データ(本件録音データ)の一部を再生し,被告讀賣テレビは本件番組を放送したのであるところ,前記1ないし5の説示を踏まえれば,被告らは共同して原告が本件楽曲につき有する公衆送信権及び公表権を侵害したものと認められる。これに対し,被告Bは,被告讀賣テレビによる放送の履行補助者にすぎなかった旨主張するところ,その趣旨は判然としないものの,上記説示に照らして採用できない。
7 故意・過失の存否
被告Bはいわゆる芸能リポーターを業とし,被告讀賣テレビは基幹放送事\n業を業とするものであるから,被告らは,放送番組中において楽曲を再生し 放送する場合には著作権や著作者人格権の侵害がないように十分注意すべき\n高度の注意義務を負っているというべきところ,原告が本件楽曲を公衆送信 及び公表することを黙示に許諾したとは認められないにもかかわらず,その\n認識を欠いて本件楽曲を公衆送信及び公表することが許されると誤信した点\nなどにおいて,少なくとも過失があったと認められる。これに反する被告ら の主張は採用できない。 なお,原告は,本件楽曲を公表した際の本件番組の司会者と被告Bとのや\nり取りや本件番組の放送終了後の上記両名の言動を見れば,被告らが本件楽 曲を公衆送信及び公表することにつき原告の同意がないことを認識していた\nことは明らかであるから,被告らには故意がある旨主張する。 しかし,本件楽曲を公表した際の本件番組の司会者と被告Bとのやり取り\nは前記3(3)ア(イ) で認定したとおりであるところ,これらのやり取りを見ても, 上記両名が本件楽曲を公表することにつき原告による黙示の許諾がないこと\nを認識していたことはうかがわれない。また,証拠(乙A4)及び弁論の全 趣旨によれば,原告が本件番組の放送翌日に,被告Bに対して電話で本件楽 曲を放送したことを抗議した際,被告Bは,原告が本件楽曲を公表すること\nに同意していると認識していた旨の弁明をしていないものの,原告の抗議は 未発表であった本件楽曲を公表\したことを明示的に指摘したものではなかっ たことが認められるから,被告Bが上記のような弁明をしなかったからとい って,本件楽曲を公表することにつき原告の同意がないことを認識していた\nとは認められない。さらに,弁論の全趣旨によれば,本件番組の司会者と被 告Bは,平成28年12月23日に放送された番組内で,原告に対して謝罪 していることが認められるものの,その謝罪が未発表の本件楽曲を公表\した ことに対するものであったと認めるに足りる証拠はない。 その他,被告らが,本件楽曲を公表することにつき原告の同意がないと認\n識していたことや公衆送信権ないし公表権侵害の故意を有していたことを認\nめるに足りる証拠はないから,被告らの故意に係る原告の主張は採用できな い。
8 損害の有無およびその額(争点(3))について
(1)法114条3項による損害金
ア 証拠(甲3)によると,一般社団法人日本音楽著作権協会が,使用料規 程において,放送及び当該放送の録音に音楽著作物を利用する場合の使用 料について,年間の包括的利用許諾契約を締結する方法と1曲1回当たり の使用料を積算する方法とを定めているところ,著作権侵害による損害額 を算定するに当たっては,音楽著作物の継続的な利用を前提とする前者の 方法を基準とするではなく,1曲1回の利用ごとに使用料が発生すること を前提とする後者の方法を基準とするのが合理的であり,これに反する被 告らの主張は採用できない。 イ 上記使用料規程によれば,全国放送の場合,1曲1回当たりの使用料は, 利用時間が5分までは6万4000円,その後利用時間が5分を超えるご ろ,本件番組において本件楽曲が放送された時間は約1分間であった(前 記前提事実 )から,その相当対価額は6万4000円と認めるのが相 当である。
公表権侵害による慰謝料\n
前記2(1)及び3(3)で認定した各事実並びに証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によれば,本件楽曲は平成32年(2020年)に開催される東京オリンピ ックのテーマ曲として応募することを目的として創作されたものであり,原 告としては,本件楽曲を聴いた感想を聞くために,被告Bに対して本件録音 データを提供したにすぎなかったにもかかわらず,本件番組(日本テレビ系 列28社により放送されている。)において本件楽曲が放送されたことによ り,原告は本件楽曲を創作した目的に即した時期に本件楽曲を公表する機会\nを失ったこと,しかも,本件楽曲は,本件番組において,警視庁が原告に対 する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定であるという報道に関連す\nる一つの事情として紹介されたことにより,本件番組の司会者及び被告Bの 発言と相まって,本件番組の視聴者に対して原告が本件楽曲を創作した目的 とは相容れない印象を与えることとなったことが認められる。 なお,原告は,本件番組において,原告が覚せい剤の使用により精神的に 異常を来したかのような報道をされたことにより,原告の音楽家としてのイ メージを毀損され,精神的苦痛を受けた旨主張し,その陳述書(甲7)には これに沿う陳述部分があるが,本件における慰謝料請求は飽くまで本件楽曲 に係る公表権侵害を理由とするものであるから,上記認定のとおり,公表\権 侵害の方法・態様として評価し得る事情の限度で考慮するにとどめるのが相 当である。 これらの事情に加え,本件で顕れた一切の事情を併せ考慮すると,被告ら による公表権侵害に対する慰謝料の額は100万円と認めるのが相当である。\n

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平成30(ネ)10023  著作権侵害差止等本訴請求,損害賠償反訴請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成30年8月23日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ドキュメンタリー映画中に、ニュース動画を用いたことが引用に当たるかが争われました。知財高裁は引用には該当しないとした1審判断を維持しました。
 控訴人は,本件映画において,本件使用部分においても,エンドクレジ ットにおいても何ら出所表示をすることなく本件各映像を利用したことが「公正な慣行」に合致しないとして引用の抗弁(著作権法32条1項)を\n認めなかった原判決の認定判断に誤りがあると主張する。 よって検討するに,本件映画において,被控訴人が報道用として編集管 理する本件各映像がその著作権者である被控訴人の名称を全く表示することなく,無許諾で複製して使用されている事実は当事者間に争いがないと\nころ,もともと出所の明示は引用者に課された著作権法上の義務(著作権 法48条1項1号)である上に,本件の場合,本件映画中の控訴人製作部 分と本件使用部分とは,原判決が指摘するとおり,画面比や画質の点にお いて一応区別がされているとみる余地もあり得るとはいえ,映画の中で, これらの部分が明瞭に区別されているわけではなく,その区別性は弱いも のであるといわざるを得ないから,本件使用部分が引用であることを明ら かにするという意味でも,その出所を明示する必要性は高いものというべ きである。また,本件のようなドキュメンタリー映画の場合,その素材と して何が用いられているのか(その正確性や客観性の程度はどのようなも のであるか)は,映画の質を左右する重要な要素であるといえるから,こ の観点からしても,素材が引用である場合には,その出所を明示する必要 性が高いものと考えられる。他方,本件においては,引用する側(本件映 画)も引用される側(本件各映像)も共に視覚によって認識可能な映像であって,字幕表\示等によって出所を明示することは十分可能\であり,かつ,そのことによって引用する側(本件映画)の表現としての価値を特に損なうものとは認められない。これらのことに,原判決が指摘する「公正な使\n用(フェア・ユース)の最善の運用(ベスト・プラクティス)についての ドキュメンタリー映画作家の声明」(乙17)の内容等を併せ考えると, 適法引用として認められるための要件という観点からも,本件映画におい て本件各映像を引用して利用する場合には,その出所を明示すべきであっ たといえ,出所を明示することが公正な慣行に合致し,あるいは,条理に 適うものといえる。そして,このことは,本件映画の総再生時間が2時間 を超えるのに対し,本件各映像を使用する部分(本件使用部分)が合計3 4秒にとどまるといった事情や,本件各映像が番組として編集される前の 映像であるといった事情によっては左右されない。 したがって,控訴人が何ら出所を明示することなく被控訴人が著作権を 有する本件各映像を本件映画に引用して利用したことについては,(単に 著作権法48条1項1号違反になるというにとどまらず)その方法や態様 において「公正な慣行」に合致しないとみるのが相当であり,かかる引用 は著作権法32条1項が規定する適法な引用には当たらない。よって,こ れと同旨をいう原判決の認定判断に誤りがあるとは認められない。 イ これに対し,控訴人は,1)「公正な慣行」の立証責任を利用者の側に負 わせるべきではない,2)本件における引用の抗弁の成否に関しては,被控 訴人が本件各映像の利用を許諾しなかった理由(不許諾理由)こそが考慮 されてしかるべきである,3)エンドクレジットへの掲載は賛辞を意味する という「公正な慣行」が存在するため,控訴人としては,許諾申請が拒否された以上,被控訴人の許諾があったかのような記載を避ける必要があっ\nた,4)そもそも出所を明示していないことを理由に引用の抗弁を退けるこ と自体が誤りである,などと主張する。 しかしながら,次のとおり,上記各主張はいずれも採用できない。 上記1)について,著作権法32条1項は,飽くまで著作権行使の制限規 定である以上,その適用については,基本的に適用を主張する側が要件充 足の主張立証責任を負うものと解するのが相当である

◆判決本文

原審は以下のように判断しました。

◆平成28(ワ)37339
(3) 本件映画と本件各映像(本件使用部分)との関係についてこれをみると,本 件映画は,資料映像・資料写真とインタビューとから構成されるドキュメンタリー映画であり,その中で資料映像として使用されている本件各映像は,テレビ局であ\nる原告の従業員が職務上撮影した報道映像である。 そして,本件映画のプロローグ部分のうち,被告制作部分は,画面比が16:9 の高画質なデジタルビデオ映像であり,他方,本件使用部分は,画面比が4:3で あり,被告制作部分に比して画質の点で劣っているから,被告制作部分と本件使用 部分とは,一応区別されているとみる余地もある。
しかし,本件映画には,本件使用部分においても,エンドクレジットにおいても, 本件各映像の著作権者である原告の名称は表示されていない。被告は,上記のとおり本件映画において原告の名称を表\示しない理由について,映像の出所は劇場用映画などからの引用の場合以外は表記しないとか,資料写真の出所は写真家の名前を伝える必要がある場合に限って表\記するなど,制作上の方針を主張するにとどまり,本件映画のようなドキュメンタリー映画の資料映像として 報道用映像を使用するに際し,当該使用部分においても,映画のエンドクレジット においても著作権者の名称を表示しないことが,「公正な慣行」に合致することを認めるに足りる社会的事実関係を何ら具体的に主張,立証しない。被告が提出する\n乙第17号証は,「公正な使用(フェア・ユース)の最善の運用(ベスト・プラク ティス)についてのドキュメンタリー映画作家の声明」であり,フェアユースに関 する規定を有する米国著作権法を念頭に置いたものであるが,同声明においても, 「歴史的シークエンスにおける著作物の利用」に関し,「この種の利用が公正であ るという主張を支持するためには,ドキュメンタリー作家は以下の点を示すことが できねばならない。」として,「素材の著作権者が適切に明確化されている。」と されており,何らかの方法により素材の著作権者を明確化することを求めているの である。
実質的にみても,資料映像・資料写真を用いたドキュメンタリー映画において, 使用される資料映像・資料写真自体の質は,資料の選択や映画全体の構成等と相俟って,当該ドキュメンタリー映画自体の価値を左右する重要な要素というべきであ\nるし,テレビ局その他の報道事業者にとって,事件映像等の報道映像は,その編集 や報道手法とともに,報道の質を左右する重要な要素であり,著作権法上も相応に 価値が認められてしかるべきものであるから(著作権法10条2項が,報道映像に つき著作物性を否定する趣旨でないことは,その規定上明らかである。),ドキュ メンタリー映画において資料映像を使用する場合に,そのエンドクレジットにすら 映像の著作権者を表示しないことが,公正な慣行として承認されているとは認め難いというべきである。\nそうすると,総再生時間が2時間を超える本件映画において,本件各映像を使用 する部分(本件使用部分)が合計34秒にとどまることを考慮してもなお,本件映 画における本件各映像の利用は,「公正な慣行」に合致して行われたものとは認め られない。 したがって,著作権の行使に対する引用(著作権法32条1項)の抗弁は成立し ない。

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平成28(ワ)32742  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 平成30年6月19日  東京地方裁判所(47部)

 いろいろ争点はありますが、写真について、著作物性が否定されました。ただ、文章について複製権・翻案権侵害が認められました。損害額は、販売不可事情を考慮して、114条1項(原告単価利益*被告販売数)の7割と認定されました。
 制作工程写真は,別紙「制作工程写真目録」記載のとおり,故一竹によ る「辻が花染」の制作工程の各場面を撮影したものであるところ,これら 制作工程写真の目的は,その性質上,いずれも制作工程の一場面を忠実に 撮影することにあり,そのため,被写体の選択,構図の設定,被写体と光\n線との関係等といった写真の表現上の諸要素はいずれも限られたものとな\nらざるを得ず,誰が撮影しても同じように撮影されるべきものであって, 撮影者の個性が表れないものというべきである。したがって,制作工程写\n真は,いずれも著作物とは認められない。これに反する原告らの主張は採 用できない。
イ 美術館写真について
美術館写真は,別紙「美術館写真目録」記載のとおり,一竹美術館の外 観又は内部を撮影したものであるところ,これら美術館写真の目的は,そ の性質上,いずれも一竹美術館の外観又は内部を忠実に撮影することにあ り,そのため,被写体の選択,構図の設定,被写体と光線との関係等とい\nった写真の表現上の諸要素はいずれも限られたものとならざるを得ず,誰\nが撮影しても同じように撮影されるべきものであって,撮影者の個性が表\nれないものである。したがって,美術館写真は,いずれも著作物とは認め られない。これに反する原告らの主張は採用できない。
(2) 制作工程文章の著作物性について
制作工程文章は,別紙「制作工程文章目録」記載のとおり,「辻が花染」 の各制作工程を説明したものである。その目的は,各制作工程を説明するこ とにあるため,表現上一定の制約はあるものの,制作工程文章が,同様に「辻\nが花染」の制作工程について説明した故一竹作成の文章(甲41)とも異な っていることに照らしても,各制作工程文章の具体的表現は,その作成者の\n経験を踏まえた独自のものとなっており,作成者の個性が表現されていると\nいえるから,制作工程文章は全体として創作性があり,著作物と認められる。 これに反する被告の主張は採用できない。
(3) 旧HPコンテンツの著作物性について
旧HPコンテンツは,別紙「旧HPコンテンツ目録」記載のとおりであり, 旧HPコンテンツ1は「辻が花染」の歴史的説明,旧HPコンテンツ2は故 一竹と「辻が花染」との関わり,旧HPコンテンツ3はフランス芸術文化勲 章シュヴァリエ章勲章メッセージの和訳,旧HPコンテンツ4はスミソニア\nン国立自然史博物館からの感謝状の和訳である。旧HPコンテンツ1及び2 はいずれも歴史的事実に関する記述ではあるものの,その事実の取捨選択, 表現の仕方には様々なものがあり得,その具体的表\現には筆者の個性が表れ\nているといえるから,創作性があり,著作物と認められる。また,旧HPコ ンテンツ3及び4はいずれも仏語ないし英語の翻訳であるが,翻訳の表現に\nは幅があり,用語の選択や訳し方等その具体的表現に翻訳者の個性が表\れて いるといえるから,創作性があり,著作物と認められる。これに反する被告 の主張は採用できない。
複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再 製することをいうところ(著作権法2条1項15号参照),著作物の複製と は,既存の著作物に依拠し,これと同一のものを作成し,又は,具体的表現\nに修正,増減,変更等を加えても,新たに思想又は感情を創作的に表現する\nことなく,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が\n既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作\n成する行為をいうものと解すべきである。また,翻案とは,既存の著作物に 依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表\ 現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現する\nことにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接\n感得することができる別の著作物を創作する行為をいうものと解すべきであ る(最高裁判所平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷 判決・民集55巻4号837頁参照)。 被告作品集130−131頁(甲9)と制作工程文章を別紙「原被告作品 対比表」記載1のとおり比較対照すると,被告作品集130−131頁の制\n作工程に関する各文章は,制作工程文章1ないし7及び9の各文章と全く同 一か,又はほとんど同一であり,一部改変され,相違点はあるものの,全体 として制作工程文章の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる。\nよって,被告は被告作品集130−131頁において制作工程文章1ないし 7及び9を複製ないし翻案したものと認められ,複製権ないし翻案権を侵害 する。そして,上記改変は著作者の意に反する改変といえるから,同一性保 持権を侵害する。 これに対して,被告は,両各文章は創作性のない部分について同一性を有 するにすぎず,複製にも翻案にも当たらないと主張するが,上記のとおり, 制作工程文章の創作的部分において同一性が認められるから,被告の主張は 採用できない。
原告らは,被告作品集の販売に係る損害額について原告作品集の利益額 に基づき114条1項の適用があると主張するのに対し,被告はこれを争 うため,以下検討する。
(ア) 原告作品集の販売主体及び原告らの販売能力
原告作品集の奥付には「(C)1998 (株)一竹辻が花」と記載され,原告作 品集は訴外一竹辻が花のウェブサイトにおいて販売されていることが認 められる(甲8,29)ところ,訴外一竹辻が花(昭和59年5月8日 に「株式会社オピューレンス」から商号変更)は平成22年まで原告A が代表者を務めていた会社であり(甲50の1及び2),原告工房も含\nめて実質的には原告Aらの経営によるものと認められ,その販売主体は 実質的には原告らとみることができる。また,原告作品集の制作には, 故一竹を引き継いで「辻が花染」を制作する原告Aの関与が大きいもの と考えられることも併せ考慮すれば,原告らには原告作品集の販売能力\nがあると認められる。 これに対し,被告は,そもそも原告らが原告作品集を販売しておらず, 販売能力がないから,被告作品集への114条1項の適用の基礎を欠く\nと主張するが,上記説示に照らして採用できない(なお,被告は,原告 作品集の奥付に「制作(株)便利堂」と記載されていること(甲8)も 指摘するが,この点は販売能力とは関係がない。)。
(イ) 原告作品集と被告作品集の代替性
原告作品集と被告作品集は,その大部分において,着物作品(部分を 含む。)を1頁に大きく配置して紹介するとともに,観賞の対象とする ものであり,そのほかの部分においても,故一竹の略歴,制作工程の説 明,美術館の紹介が記載されており,内容は類似するものと認められる (甲9,51)。また,上記内容の共通性に照らして,着物作品の観賞 を主としつつ,故一竹と「辻が花染」について理解を深めるという利用 目的・利用態様も基本的には同一であると認められる。そうすると,後 記のとおり,販売ルートの違いはあるものの,両作品集には代替性が認 められる。被告は,内容,利用目的・利用態様及び販売ルートの相違か ら,原告作品集と被告作品集には代替性がないと主張するが,上記説示 に照らして採用できない。
(ウ) 以上からすれば,被告作品集の販売に係る損害額について原告作品集 の利益額に基づき著作権法114条1項の適用があるというべきである。
イ 原告らが販売することができないとする事情(推定覆滅事情)
被告は,販売市場の相違,被告の営業努力,被告作品集の顧客吸引力に より,被告作品集の譲渡数量の全数について販売することができないとす る事情があると主張する。 そこで検討するに,原告作品集は訴外一竹辻が花のウェブサイトにおい てインターネット上で販売されている(甲29)のに対し,被告作品集は 一竹美術館のショップ内で販売されており(前記前提事実(4)ア),顧客層 に一定の違いがあると考えられること,また,被告作品集は,美術館のシ ョップにおいてまさに一竹作品等を観賞した者に対して販売されているこ とにより,販売態様の異なる原告作品集とは顧客誘引力に違いがあると考 えられること,以上の事情を踏まえると,被告作品集の30%については, 原告らが販売することができないとする事情があったと認めるのが相当で ある。

◆判決本文

問題となった著作物は以下です。

◆別紙1

◆別紙2

◆別紙3

◆別紙4

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平成29(ワ)39658  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 平成30年6月7日  東京地方裁判所

 イラストについて公衆送信権侵害の損害額として30万円が認められました。ただ、侵害と指摘されても、そのタイミングで通常のライセンス料を払えばすむなら、誰も最初からまじめに契約しようとは考えないですよね。損害賠償が得べかりし利益の補償という考え方は分かりますが、著作権侵害が故意の場合には、懲罰的賠償を可能とするとかできないんでしょうか。
 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,1)原告は,平成29年6月頃,ウェ ブサイト上に掲載する漫画の制作依頼を受けたところ,この依頼において, 掲載期間を1年間(2年目以降も掲載する場合には契約更新を行う。)とし, 原稿料は,漫画本編は1頁当たり2万円,カラー扉絵は4万円との条件を示 されたこと(甲12),2)原告は,平成28年頃,書籍の表紙用のカラーイラ\nスト(スーツを着て,ペンとメモ帳を持った女性のイラスト)及び当該書籍 中の扉絵4点を制作したところ,原稿料は,表紙のイラストについて3万円,\n扉絵について3000円であったこと(甲14の1・2),3)原告は,平成2 9年の年賀状用のカラーイラスト(餅と鳥を組み合わせたイラスト)を制作 したところ,原稿料は2万4000円であったこと(甲15の1・2),以上 の事実が認められる。 これらの事実に加え,本件各イラストの内容(前提事実 ),本件サイトは インターネットメディア事業を行うことなどを目的とする被告が運営し,そ の閲覧数に応じて被告が収入を得るものであること(弁論の全趣旨),その 他本件における諸事情を総合すると,本件各イラストの使用に対し受けるべ き金額は1年当たり3万円とするのが相当である。 そして,弁論の全趣旨によれば,被告が本件サイト上に本件各イラストを 掲載していた期間は,平成26年7月31日から平成29年6月8日までで あると認められるから,原告が,本件各イラストの使用に対し受けるべき金 銭の額は合計27万円(1年当たりの使用料3万円×3点×3年分)となる。 イ これに対し,原告は,原告が制作するイラストの使用料は1年当たり10 万円を下らないと主張し,原告本人の陳述書中にも同旨の記載がある(甲1) が,上記アの認定事実に照らし,原告の主張は採用することはできない。
ウ 他方,被告は,ツイッターのサービス利用規約上,ツイート自体を埋め 込む方法によって他のウェブサイトに掲載することが認められている点 を損害額の算定において考慮すべきであると主張するが,被告の主張を前 提としても,本件における被告の掲載行為が適法となる余地はなく,上記 に述べた本件サイトの性質等に照らしても,被告の上記主張は採用するこ とができない。 また,被告は,本件各イラストが掲載されていた本件サイトのPV数は 公開後約2か月間に集中しており,その後はほとんど閲覧されていないか ら,掲載期間全部を損害額算定の根拠することは不当であると主張する。 しかしながら,本件において原告が受けるべき金員の額は,被告による本 件各イラストの掲載行為の内容等を踏まえて算定すべきであるから,被告 の上記主張は採用することができない。
さらに,被告は,原告が本件訴訟提起前に被告に対し本件各イラストの 著作権侵害による損害賠償金として9万円(1点3万円×3点)を請求し ていたこと,上記ア1)について,漫画の原稿料にはストーリー制作作業に 対する対価も含まれると考えられること,同2)について,書籍の表紙とな\nるイラストと本件各イラストでは完成度が異なることから,いずれも本件 各イラストの使用料相当額の算定資料としては適切ではなく,むしろ,本 件各イラストの性質上,同2)の書籍の扉絵の原稿料(1点3000円)が 算定資料になり得る事例であり,本件各イラストは3点(描かれた場面の 数は合計14枚)であり,構図も3種類程度しかないこと等を踏まえると,\n本件各イラストの使用料は高くても1回2〜3万円程度であると主張す る。
しかしながら,本件訴訟提訴前に一定の金額を提示したとしてもその金 額が直ちに本件各イラストの使用料相当額であるとはいえない。また,本 件各イラストにおいては,複数の場面が多色カラーで描かれ,各場面に合 わせた説明文も記載されており,これらの場面設定や説明文についても原 告が創作していることを踏まえると,本件各イラストの使用料相当額が, 漫画や書籍の表紙の原稿料と比べて低額になるとはいえず,被告の主張は\n採用することができない。被告は,被告が本件各イラストの掲載によって得た利益は2500円程度に過ぎないとも主張するが,本件サイトの性質等を踏まえても,上記ア で認定した本件各イラストの使用に対し受けるべき金銭の額が不相当で あるとはいえない。

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平成28(ネ)10101  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成30年4月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 発信者情報開示事件です。1審では、リツイートはインラインリンクであるので、著作権侵害に該当しないと判断され、請求は棄却されました。知財高裁(2部)は、著作者人格権侵害があったとして、一部の発信者情報について開示を認めました。
 前記(1)のとおり,本件アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている\n画像は,流通情報2(2)の画像とは異なるものである。この表示されている画像は,\n表示するに際して,本件リツイート行為の結果として送信された HTML プログラム や CSS プログラム等により,位置や大きさなどが指定されたために,上記のとおり 画像が異なっているものであり,流通情報2(2)の画像データ自体に改変が加えら れているものではない。 しかし,表示される画像は,思想又は感情を創作的に表\現したものであって,文 芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものとして,著作権法2条1項1号にいう 著作物ということができるところ,上記のとおり,表示するに際して,HTML プロ グラムや CSS プログラム等により,位置や大きさなどを指定されたために,本件ア カウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3〜5のよ\nうな画像となったものと認められるから,本件リツイート者らによって改変された もので,同一性保持権が侵害されているということができる。 この点について,被控訴人らは,仮に改変されたとしても,その改変の主体は, インターネットユーザーであると主張するが,上記のとおり,本件リツイート行為 の結果として送信された HTML プログラムや CSS プログラム等により位置や大きさ などが指定されたために,改変されたということができるから,改変の主体は本件 リツイート者らであると評価することができるのであって,インターネットユーザ ーを改変の主体と評価することはできない(著作権法47条の8は,電子計算機に おける著作物の利用に伴う複製に関する規定であって,同規定によってこの判断が 左右されることはない。)。
また,被控訴人らは,本件アカウント3〜5のタイム ラインにおいて表示されている画像は,流通情報2(1)の画像と同じ画像であるから, 改変を行ったのは,本件アカウント2の保有者であると主張するが,本件アカウン ト3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は,控訴人の著作物である本\n件写真と比較して改変されたものであって,上記のとおり本件リツイート者らによ って改変されたと評価することができるから,本件リツイート者らによって同一性 保持権が侵害されたということができる。さらに,被控訴人らは,著作権法20条 4項の「やむを得ない」改変に当たると主張するが,本件リツイート行為は,本件 アカウント2において控訴人に無断で本件写真の画像ファイルを含むツイートが行 われたもののリツイート行為であるから,そのような行為に伴う改変が「やむを得 ない」改変に当たると認めることはできない。
イ 氏名表示権(著作権法19条1項)侵害
本件アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像には,控訴人\nの氏名は表示されていない。そして,前記(1)のとおり,表示するに際して HTML プ ログラムや CSS プログラム等により,位置や大きさなどが指定されたために,本件 アカウント3〜5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3〜5の\nような画像となり,控訴人の氏名が表示されなくなったものと認められるから,控\n訴人は,本件リツイート者らによって,本件リツイート行為により,著作物の公衆 への提供又は提示に際し,著作者名を表示する権利を侵害されたということができ\nる。
・・・
(7) 「侵害情報の流通によって」(プロバイダ責任制限法4条1項1号)及び 「発信者」(同法2条4号について
前記(5)ア,イのとおり,本件リツイート行為は,控訴人の著作者人格権を侵害す る行為であるところ,前記(5)ア,イ認定の侵害態様に照らすと,この場合には,本 件写真の画像データのみならず,HTML プログラムや CSS プログラム等のデータを 含めて,プロバイダ責任制限法上の「侵害情報」ということができ,本件リツイー ト行為は,その侵害情報の流通によって控訴人の権利を侵害したことが明らかであ る。そして,この場合の「発信者」は,本件リツイート者らであるということがで きる。

◆判決本文

一審はこちらです。

◆平成27(ワ)17928

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平成29(ワ)29099  損害賠償等請求事件  著作権  民事訴訟 平成30年4月26日  東京地方裁判所(46部)

 法人格なき社団である「・・高等学校応援団山紫会」を著作権の譲受人として、差止および損害賠償が認められました。著作権法では、社団・財団も「法人」に含まれるとされています(2条6項)。
 上記1のとおり,本件写真の撮影者はAであるから,Aが本件写真の著作者であり,著作権者であったと認められる。そして,証拠(甲3の1,甲4)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成29年4月19日,Aから本件写真に係る著作権及び被告に対する本件不法行為に基づく損害賠償請求権(同日までに発生した請求権)を譲り受けたと認められる。

◆判決本文

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平成27(ワ)21897等  著作権侵害行為差止等請求事件,損害賠償請求反訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年3月28日  東京地方裁判所

 データが入れられる前のデータベースシステムは、著作権法で保護されるデータベースではないと判断されました。
 原告は,原告が平成16年8月10日に完成させた同日版「eBASEserv er」は,1)合計22個の辞書がそれぞれ様々な辞書情報を備えており,データベ ースの体系的な構成の中で各データ項目と紐付けられて辞書網を構\成している点に 創作性が認められ,2)個々の辞書が,それ単独でも,体系的構成及び情報の選択に\nおいて創作性が認められるから,それ自体が,データベースの著作物と認められる べき旨主張する。 原告の主張によれば,「eBASEserver」は,食品の商品情報を広く事 業者間で連携して共有する方法を実現するためのデータベースを構築するためのデ\nータベースパッケージソフトウェアであって,食品の商品情報が蓄積されることに\nよりデータベースが生成されることを予定しているものである。そうすると,この\nような食品の商品情報が蓄積される前のデータベースパッケージソフトウェアであ\nる「eBASEserver」は,「論文,数値,図形その他の情報の集合物」(著 作権法2条1項10号の3)とは認められない。 原告は,「eBASEserver」に搭載されている辞書情報を「情報」と捉 え,この集合物をもって「データベース」と主張するものとも解されるが,原告の 主張によっても,これらの辞書ファイルは,商品情報の登録に際して,当該商品情 報のうち特定のデータ項目を入力する際に参照されるものにすぎないのであって, 辞書ファイルが備える個々の項目が,「電子計算機を用いて検索することができる ように体系的に構成」(著作権法2条1項10号の3)されていると認めることは\n困難である。 したがって,「eBASEserver」は,著作権法上の「データベース」に 当たるものとは認められないから,その創作性につき検討するまでもなく,データ ベースの著作物ということはできない。

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平成29(ワ)25465  著作者人格権確認等請求事件  著作権  民事訴訟 平成30年3月26日  東京地方裁判所

 「かっぱえびせん」の「やめられない,とまらない」のキャッチフレーズを考えたのは自分であるとの確認を求めましたが、訴えの利益がないとして却下されました。
 原告は,本件訴えにおいて,原告が本件CMを制作した事実の確認を求めている。 しかし,確認の訴えは,原則として,現在の権利又は法律関係の存在又は不存在 の確認を求める限りにおいて許容され,特定の事実の確認を求める訴えは,民訴法 134条のような別段の定めがある場合を除き,確認の対象としての適格を欠くも のとして,不適法になるものと解される(最高裁昭和29年(オ)第772号同3 6年5月2日第三小法廷判決・集民51号1頁,最高裁昭和37年(オ)第618 号同39年3月24日第三小法廷判決・集民72号597頁等参照)。 したがって,本件訴えのうち,原告が本件CMを制作した事実の確認を求める訴 えは不適法である。 なお,事案に鑑み付言するに,仮に,原告が,本件CMを制作した事実ではなく, 原告が本件CMにつき著作権ないし著作者人格権を有することの確認を求めたとし ても,確認の訴えは,現に,原告の有する権利又はその法律上の地位に危険又は不 安が存在し,これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切で ある場合に,その確認の利益が認められるところ(最高裁昭和27年(オ)第68 3号同30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁参照),前 記前提事実(第2,2),証拠(甲18ないし20,23ないし25,19,乙1, 2)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,アストロミュージックから許諾を受けて 本件キャッチフレーズを使用しているにとどまり,本件CMについて被告が著作権 ないし著作者人格権を有するなどとは主張していないから,原告が有する権利又は 法律上の地位に存する危険又は不安を除去するために,本件CMの著作権ないし著 作者人格権の存否につき被告との間で確認判決を得ることが必要かつ適切であると は認め難く,結局,確認の利益を欠くものとして不適法というほかない。
2 争点3(被告は,原告に対し,原告が本件キャッチフレーズを考えた本人で あるとの事実を被告の社内報に掲載する旨を約したか)について
原告は,被告が原告に対し,原告が本件キャッチフレーズを考えた本人であると の事実を被告の社内報に掲載する旨を約したと主張し,同事実を被告の社内報に掲 載するよう請求するところ,同主張は,原告と被告との間で,被告が同掲載義務を 負うことを内容とする契約が成立した旨を主張するものと解される。 そこで検討するに,原告と被告代表者が平成23年6月頃面会したこと,その後\n程なくして,原告と被告の宣伝課長が面会し,原告の写真を撮影したことは,当事 者間に争いがない。 しかし,原告本人尋問の結果によっても,原告と被告の宣伝課長との面会の場に おいては,被告の社内報に,誰がどのような内容の記事を作成し,いつまでに掲載 するのかなど,記事の掲載をどのように実現させていくかについては,何ら明確に 合意しなかったというのである。そうすると,仮に,原告本人が供述する事実関係 が認められたとしても,それのみをもっては,被告が行うべき給付義務の内容が具 体的に定まっていたとはいえず,原告と被告との間に,法的拘束力を有する契約と して,被告に履行を強制し得るまでの合意があったと評価することは困難である。 また,原告本人尋問の結果によっても,被告のホームページへの掲載が話題とな った形跡はおよそうかがえないから,原告と被告との間に,この点に関する契約が あったとみる余地はない。 したがって,被告の社内報及びホームページに,原告が本件キャッチフレーズを 考えた本人であるとの事実を掲載することを求める原告の請求には理由がない。

◆判決本文

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平成27(ワ)21897等  著作権侵害行為差止等請求事件,損害賠償請求反訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年3月28日  東京地方裁判所

 データが蓄積される前のプログラムについては、データベースの著作物とは認められませんでした。
 原告は,原告が平成16年8月10日に完成させた同日版「eBASEserv er」は,1)合計22個の辞書がそれぞれ様々な辞書情報を備えており,データベ ースの体系的な構成の中で各データ項目と紐付けられて辞書網を構\成している点に 創作性が認められ,2)個々の辞書が,それ単独でも,体系的構成及び情報の選択に\nおいて創作性が認められるから,それ自体が,データベースの著作物と認められる べき旨主張する。 原告の主張によれば,「eBASEserver」は,食品の商品情報を広く事 業者間で連携して共有する方法を実現するためのデータベースを構築するためのデ\nータベースパッケージソフトウェアであって,食品の商品情報が蓄積されることに\nよりデータベースが生成されることを予定しているものである。そうすると,この\nような食品の商品情報が蓄積される前のデータベースパッケージソフトウェアであ\nる「eBASEserver」は,「論文,数値,図形その他の情報の集合物」(著 作権法2条1項10号の3)とは認められない。 原告は,「eBASEserver」に搭載されている辞書情報を「情報」と捉 え,この集合物をもって「データベース」と主張するものとも解されるが,原告の 主張によっても,これらの辞書ファイルは,商品情報の登録に際して,当該商品情 報のうち特定のデータ項目を入力する際に参照されるものにすぎないのであって, 辞書ファイルが備える個々の項目が,「電子計算機を用いて検索することができる ように体系的に構成」(著作権法2条1項10号の3)されていると認めることは\n困難である。 したがって,「eBASEserver」は,著作権法上の「データベース」に 当たるものとは認められないから,その創作性につき検討するまでもなく,データ ベースの著作物ということはできない。

◆判決本文

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平成29(ネ)233等  損害賠償 著作権使用料請求控訴事件,同附帯控訴事件  著作権  民事訴訟  平成29年12月28日  大阪高等裁判所(8部)

 コンサートの企画運営会社に対して、損害賠償が認められました。被告は実はゴーストライターがいたというS氏です。請求原因は、全ろうの作曲者といううたい文句が虚偽だったというものです。 控訴審では、損害賠償額は、1審よりも、減額されました。理由は、「実施していれば通常得られたであろう利益であれば,不法行為に基づく損害賠償における損害として請求することができる」というものです。
 被控訴人は,この損害項目について,中止された本件公演を実施して いれば被控訴人が得られたであろう利益であるとの趣旨の主張をするが, それは,契約上の履行利益の賠償を求めるものであるから,控訴人が主 張するとおり,不法行為による損害賠償における損害としては請求する ことができない。しかし,同じ逸失利益であっても,前記のとおり,被 控訴人が同時期に他の公演を企画・実施していれば通常得られたであろ う利益であれば,不法行為に基づく損害賠償における損害として請求す ることができると解され,被控訴人の主張はこの趣旨を含むものと解さ れる。
・・・・
以上のとおりであるが,被控訴人が,実施された本件公演から算定し たと主張する,中止した公演の公演利益(4か月分の逸失利益)が42 84万0846円であることからすると,被控訴人の平成21年9月か ら平成24年8月までの間の各年度の4か月分の公演利益と同程度以下 であるということができる(後述するとおり,当裁判所の算定結果に よっても,中止した公演の公演利益は3003万4702円に過ぎな い。)。したがって,中止された本件公演を実施していれば得られたで あろう公演利益をもって,被控訴人が同時期に他の公演を企画・実施し ていれば通常得られる利益として損害を算定することとする。

◆判決本文

◆1審はこちらです。 平成26(ワ)9552等

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平成28(ワ)23604  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 平成29年11月30日  東京地方裁判所

 お菓子などの商品パッケージデザインについて、改変については承諾があったと判断されました。
 上記(1)ア及びウの認定事実によれば,被告が原告に依頼したのは食品製造 会社等が商品の包装において使用するデザインであること,そのような包装 デザインについては,原告が被告に提出した後に被告が顧客である食品製造 会社等にデザインを提案するが,その後,顧客が被告に対して修正等の指示 を出すことがあり,その場合,被告は顧客の承諾等を得るまでデザインを修 正し,複数回の修正がされることも多いこと,原告は被告から包装デザイン の依頼を受けるようになる前から,デザイン会社から顧客に包装デザインが 提出された後に顧客の指示によりデザインの修正が必要となることがあるこ とやこうした場合に原告に連絡がなければ,原告以外の者が修正を行うこと になることを認識していたことを認めることができる。また,前記(1) 認定事実によれば,原告が被告に提出したデザインはその後被告が修正する ことができた。そうすると,原告が作成し被告に提出していた包装デザイン については,その提出後に顧客の指示等により修正が必要となることが当然 にあり得るというものであったのであり,かつ,原告は,このことを認識し, また,原告以外の者が上記デザインの修正をすることができることも認識し ていたといえる。他方,原告と被告間で,原告が被告にデザインを提出した 後の顧客の指示等による上記修正について,何らかの話がされたり,合意が されたりしたことを認めるに足りる証拠はない。 そして,前記(1)オの認定事実によれば,原告は,写真の使用権につき意識 していて,一般に著作権に関する権利関係が生じ得ることを理解していたこ とがうかがわれるところ,前記(1)エ,カ〜コの認定事実のとおり,原告は, 原告以外の者によって原告デザインに何らかの改変がされたことを認識して いながら,被告から依頼されて継続的に包装デザインを作成して被告に提出 し,更には被告に対して新たな仕事を依頼し,デザイン料の改定を求めるな どの要求はしたものの,改変について何らの異議を唱えず,又は,被告にお いてデザインを改変したことを明示的に承諾するなどしていた。原告が改変 を承諾していなかったにもかかわらず原告デザインの改変に対して被告に異 議を唱えることができなかった事情やデザインの改変を真意に反して承諾し なければならなかった事情を認めるに足りる証拠はない。 以上によれば,原告は,被告からの依頼に基づいて作成された原告デザイ ンにつき,被告による使用及び改変を当初から包括的に承諾していたと認め ることが相当である。
(3) これに対し,原告は,1)原告と被告の間で契約書を作成しておらず,注文 書,請求書等においても著作権に関する記載がないこと,2)デザイン料は1 点当たり1万5000円程度であって改変の許諾を前提とするものと考え難 いこと,3)原告はデザイン作成のたびに修正等がある場合は依頼をするよう に伝えていたこと,4)被告が原告の著作権を侵害した包装デザインを見つけ る都度,原告がこれを購入して写真撮影して証拠化していたこと,5)原告が 異議を述べなかったのは,早く納品するため,仕事の依頼を減らされた状況 において原告が被告との関係を悪化させないようにするためという事情によ ることを主張し,また,6)デザインの作成等の仕事を多数依頼することを条 件に承諾していたとの趣旨を供述し(原告本人〔22〜24〕),包括的な改 変の承諾を否定する。 上記1)については,著作権に関する承諾等は必ずしも文書によりされるも のとは限らないから,そうした記載がされた文書がなければ改変の承諾がな いと解することはできない。上記2)については,本件の証拠上,改変を前提 とする場合の通常のデザイン料が明らかでなく,原告の主張する評価を採用 し難い。上記3)については,前記(1)イ及びウの認定事実によれば,原告は, 被告にデザインの原案を提出した段階で修正等があれば連絡するよう伝えて いたものであって,顧客に対する提示案が固まるまでの間に修正等がある場 合にその作業を原告に依頼するよう求めていたにすぎないから,上記提示案 が固まった後の改変についても原告の承諾が必要であったと直ちに認めるこ とはできない。上記4)については,仮にそのとおりであるとしても,前記(1) エの認定事実によれば,原告以外の者による改変を平成25年8月〜9月頃 までに把握したのであるから,原告が改変を問題と考えていたのであれば, その証拠化後に何らかの異議を唱えるのが通常であるというべきであるとこ ろ,前記(1)エ〜コの認定事実のとおり,本件訴訟の提起に至るまで,原告は 改変について何らの異議を唱えていない。上記5)及び6)については,前記(1) エの認定事実によれば,平成25年8〜9月頃から仕事量が激減してその状 況が好転しなかったものであり,また,証拠(乙106の1及び2)によれ ば,遅くとも平成28年1月頃からは仕事量とデザイン料の不均衡を理由に 被告からの依頼を断るようになったと認められ,異議を述べる障害となる事 由が解消ないし軽減したということができるにもかかわらず,原告は,デザ イン料の改定を求めるなど被告に対して書面をもって一定の要求をする一方 で,原告デザインの改変について本件訴訟の提起に至るまで何らの異議も唱 えていない。

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平成29(ネ)10061  著作者人格権侵害差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成29年10月13日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 建築の著作物について、共同著作者とは認定できないとした1審判断が維持されました。
 控訴人は,原判決が,本件建物外観(外装スクリーン部分に限られない。 以下同じ。)の設計に関し,控訴人代表者の創作的関与並びに共同創作の意\n思及び事実を認めず,また,本件建物外観を控訴人外観設計の二次的著作物 とも認めなかったのは誤りであるとして,要旨,次のとおり主張する。 ア 控訴人設計資料(甲7,7の2)及び控訴人模型(甲8)から成る控訴 人外観設計(外装スクリーン部分に限られない。以下同じ。)は,控訴人 設計資料により平面上で具体的に表現され,かつ,控訴人模型により立体\n物として具体的に表現されており,二次元での平面表\現としても,当該平 面及び模型から観念される立体表現としても,単なるアイデアではなく,\n具体的な表現である。
イ そして,控訴人外観設計は,具体的な立体形状の組亀甲柄を建築物の外 観に適用したことその他多くの点(本質的特徴部分)において,表現上の\n個性が発揮されているから,創作性を有するものであり,表現としてあり\nふれているとはいえない。
ウ したがって,控訴人外観設計は,それ自体,「建築の著作物」(著作権 法10条1項5号)であるとともに,形状,色彩,線及び明暗で思想又は 感情を表現したものであるから,「美術の著作物」(同項4号)又は単な\nる「美術」(同法2条1項1号)の範囲に属する「著作物」にも該当する。 エ 本件建物外観は,控訴人外観設計に表現された建物の本質的特徴を感得\nすることができるものであって,控訴人外観設計に基づいて制作されたも のであるところ,控訴人と被控訴人竹中工務店は,控訴人の設計を被控訴 人竹中工務店が引き継ぐ形において,共同で本件建物の外観を設計したと いえるので,本件建物外観は共同著作物である。万が一,共同著作物では ないとしても,被控訴人竹中工務店は,控訴人外観設計の本質的特徴を複 製又は翻案する形で本件建物外観を設計したから,本件建物外観は控訴人 外観設計を原著作物とする二次的著作物に当たる。
(2) しかしながら,控訴人の主張は採用できない。理由は次のとおりである。 ア まず,控訴人(控訴人代表者)は,控訴人設計資料を作成するに当たり,\n外装スクリーン部分以外は全て被控訴人竹中工務店作成に係る資料を流用 しており,手を加えていない事実を自認している。したがって,控訴人外 観設計のうち外装スクリーンを除くその余の部分については,そもそも控 訴人代表者の創作的関与を認める余地がない。\nイ 次に,外装スクリーン部分について,控訴人設計資料及び控訴人模型に 基づく控訴人代表者の提案内容が「建築の著作物」の創作に関与したと認\nめ得るだけの具体性ある表現といえないことは,原判決が指摘するとおり\nであって,控訴理由を踏まえてもその認定判断は覆らない。 控訴人は,控訴人代表者の上記提案が「実際建築される建物に用いられ\nる組亀甲柄より大きいイメージ」として作成されていた点に関し,たとえ そうであったとしても,「具体的な建物の外観が視覚的に,一般人にとっ て看取可能な形で図面上表\現されていれば,それは具体的な表現である(か\nら,上記提案がアイデアにすぎないことの根拠にはならない)」などとも 主張するが,格子の大きさ一つ取っても,その大きさ次第で,いくらでも 集合体としての外観デザインが変わり得ることは後記のとおりであるから, 控訴人が想定していた現実の外観は,控訴人設計資料及び控訴人模型をも ってしては,いまだ「視覚的に,一般人にとって看取可能な形で図面上表\ 現されていた」といえず,その主張はやはり採用できないといわざるを得 ない。
ウ また,仮に,控訴人設計資料及び控訴人模型に現れた外装スクリーン部 分の表現そのもの(図案)に関して,「建築の著作物」に限らず,何らか\nの著作物性(創作性)を認め得るとしても,(外装スクリーンに関する) 控訴人代表者の提案と現実に完成した本件建物の外観とでは,2層3方向\nの連続的な立体格子構造(組亀甲柄)が採用されている点と,せいぜい色\n(白色)が共通するのみであり,少なくとも立体格子の柄や向き,ピッチ, 幅,隙間,方向が相違することは原判決が認定するとおりであるところ, 実際に本件建物の外観を撮影した写真(甲5の1・2)と控訴人設計資料 及び控訴人模型とを見比べてみても(あるいは,乙2の比較図面を参照し ても),例えば,個々の格子を意識させるものであるかどうか(本件建物 は全体として細かい編み込み模様になっており,遠目に見ると個々の格子 をそれほど意識させない態様であるのに対し,控訴人代表者の提案は,個々\nの格子が大きく,格子を構成する直線も際立っており,遠目に見てもその\n存在を意識させるとともに,六角形のデザインがより強調される態様とな っている。),編み込み模様の編み目の向き(本件建物は横方向を意識さ せるのに対し,控訴人代表者の提案は縦方向を意識させる。),外装スク\nリーンの裏側にある建物自体の骨格を意識させるかどうか(本件建物の外 装スクリーンは編み目が細かく,裏側にある建物自体の骨格を意識させな いのに対し,控訴人代表者の提案のそれは編み目が粗く,裏側にある建物\n自体の骨格が透けて見えてその存在を意識させる。)などの点において大 きく異なっており,全体としての表現や見る者に与える印象が全く異なる\nことは明らかといえる。 この点,控訴人は,控訴理由書等において,立体格子のピッチ,幅,隙 間や,向き,方向などの相違は,いずれも本件建物の外観(見た目)に特 段の違いをもたらすとはいえず,表現の本質的特徴を違えるほどの違いと\nはいえない旨主張するが,同じ組亀甲柄を採用したデザインでも,上記の 諸要素等の違い(格子自体のデザインはもちろん,その大きさや配置,組 み合わせ方等の違い)により,様々な表現があり得ることは,本件で提出\nされている関係各証拠(甲30〜34,乙12,13など。乙号証は枝番 号を含む。)からも明らかといえるし,実際に本件建物外観と控訴人代表\n者の提案とで表現が大きく異なることは前記のとおりであるから,採用で\nきない。
エ そうすると,結局のところ,外装スクリーン部分に関し本件建物外観と 控訴人代表者の提案とで共通するのは,ほぼ2層3方向の連続的な立体格\n子構造(組亀甲柄)を採用した点に尽きるのであって,それ自体はアイデ\nアにすぎない(前記のとおり,建物の外観デザインに組亀甲柄を採用する としても,その具体的表現は様々なものがあり得るのであるから,組亀甲\n柄を採用するということ自体は,抽象的なアイデアにすぎない。)という べきであるから,控訴人代表者が本件建物外観について創作的に関与した\nとは認められないし,控訴人代表者の提案が本件建物の原著作物に当たる\nとも認められない。
(3) 以上によれば,原判決が,本件建物外観の設計に関し,控訴人代表者の創\n作的関与並びに共同創作の意思及び事実を認めず,かつ,本件建物外観を控 訴人外観設計の二次的著作物とも認めなかったことは相当であり,その認定 判断に誤りはない。

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平成29(ネ)10042  損害賠償請求控訴事件(本訴),著作権侵害差止等請求控訴事件(反訴)  著作権  民事訴訟 平成29年10月5日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 控訴審でも、アンケート項目について、著作物性(編集著作物を含む)が否定されました。
 著作権法は思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作\n権法2条1項1号),複製に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して作 成された物の共通する部分が著作権法によって保護される思想又は感情の創作的な 表現に当たることが必要である。
1審原告追加部分は,本件1審被告ファイルに対し,1)「ご希望時間」欄 を新設して同欄内に午前10時から午後5時30分までの30分刻みの表示をし,\n2)「住所・TEL」欄を「住所」欄と「電話番号」欄に分け,住所欄に「〒」の表\n示をし,3)「事故発生状況」欄の空白部分の代わりに「□その他」を新設し,4)「 あなた」欄の「□自動車運転」「□自動車同乗」を併せて「□自動車(□運転,□ 同乗)」とするとともに,「□バイク運転」「□バイク同乗」を併せて「□バイク (□運転,□同乗)」とし,5)「初診治療先」「治療先2」「治療先3」欄をそれ ぞれ「治療先1/通院回数」「治療先2/通院回数」「治療先3/通院回数」とした 上で,それぞれの欄内に「病院名: /通院回数: 回」の表示をし,6)「自賠責 後遺障害等級」「簡単な事故状況図をお書きください。」「受傷部位に印をつけて ください。」の各欄を設けた上,「受傷部位に印をつけてください。」欄に人体の 正面視図及び後面視図を設け,7)相談者の「保険会社・共済名」欄内のチェックボ ックス及び選択肢を削除し,「加害者の保険」「保険会社名」の各欄を「加害者の 保険会社名」欄にするとともに同欄内のチェックボックス及び選択肢を削除したも のである。これに対し,1審被告アンケート1及び2は,いずれも上記6)の人体の 正面視図及び後面視図のデザインが1審原告追加部分と異なるが,その他の点は上 記1)から7)の点において1審原告追加部分と同一の記載がされている。 まず,1審原告追加部分と1審被告アンケート1及び2に共通する上記1) の点については,相談希望者から必要な情報を聴取するという本件1審原告ファイ ルの目的上,相談の希望時間を聴取することは一般的に行われることで,そのため に「ご希望時間」欄を設けて欄内に一定の時間を30分ごとに区切った時刻を掲記 することは一般的にみられるありふれた表現であるから,著作者の思想又は感情が\n創作的に表現されているということはできない。\nまた,1審原告追加部分と1審被告アンケート1及び2に共通する上記2)〜5)及 び7)の点は,いずれも,本件1審被告ファイルの質問事項欄を統合又は分割し,あ るいは,各質問事項欄内の選択肢やチェックボックスなどを相談者が記載しやすい ように追加又は変更したものであり,いずれも一般的にみられるありふれた表現で\nあるから,著作者の思想又は感情が創作的に表現されているということはできない。\nさらに,1審原告追加部分と1審被告アンケート1及び2に共通する上記6)の点 については,相談希望者から必要な情報を聴取するという本件1審原告ファイルの 目的に照らすと,事故状況や被害状況を聴取するために,自賠責後遺障害等級を質 問事項に設け,事故状況図や受傷部位を質問事項に入れ,受傷部位について正面視 及び後面視の各人体図を設けて印を付けるよう求めたことは,いずれも一般的に見 られるありふれた表現であるから,著作者の思想又は感情が創作的に表\現されてい るということはできない。 以上によると,1審原告追加部分と1審被告アンケート1及び2の共通する部分 は,いずれも著作権法によって保護される思想又は感情の創作的な表現には当たら\nないから,1審被告アンケート1及び2は1審原告追加部分の複製には該当しない というべきである。なお,1審原告追加部分と1審被告アンケート1及び2では, 正面視及び後面視の各人体図のデザインが異なるから,人体図について1審被告ア ンケート1及び2が1審原告追加部分の複製に該当することはない。 1審原告は,1審被告において1審原告追加部分に著作物性があることを認めて いるから,この点について裁判上の自白が成立し,裁判所を拘束すると主張するが, 本件訴訟において,1審被告が1審原告追加部分の著作物性を自認したものとは認 めることができないから,1審原告の上記主張は失当である。
5 争点8(本件1審被告ファイルの編集著作物性の有無)について
ある編集物が編集著作物として著作権法上の保護を受けるためには,素材 の選択又は配列によって創作性を有することが必要である(著作権法12条1項)。
(2) 本件1審被告ファイルには,「氏名・フリガナ」,「年齢・性別・職業」, 「住所・TEL」,「メールアドレス」,「事故日」,「事故発生状況」,「あな た」(判決注:相談希望者),「加害者」,「受傷部位」,「傷病名」,「症状」, 「治療経過」,「初診治療先」,「治療先2」,「治療先3」,「あなたの保険」, 「保険会社・共済名」,「加害者の保険」,「保険会社名」の欄が順に設けられ, それぞれ左欄には上記の各項目タイトルが,右欄には各項目に対応する情報を記載 する体裁となっていること,これらの各欄に引き続いて,「相談内容・お問い合わ せ」欄が設けられ,その下に情報を記載するための空白が設けられていることが認 められる。また,本件1審被告ファイルの「事故発生状況」,「あなた」,「加害 者」,「受傷部位」,「傷病名」,「治療経過」,「あなたの保険」,「保険会社 ・共済名」,「加害者の保険」,「保険会社名」の右欄には,複数の選択肢とそれ に対応したチェックボックスが設けられていることが認められる。
(3) まず,相談者から相談に先立ち交通事故に関する必要な情報を把握すると いう本件1審被告ファイルの性質上,1)相談者個人特定情報,2)交通事故の具体的 状況,3)相談者の受傷及び治療の状況並びに4)事故関係者の保険加入状況に関する 情報のほか,5)具体的な相談希望内容についての情報を収集する必要があることは, 当然のことであると考えられる。本件1審被告ファイルは,「氏名・フリガナ」, 「年齢・性別・職業」,「住所・TEL」,「メールアドレス」,「事故日」,「 事故発生状況」,「あなた」,「加害者」,「受傷部位」,「傷病名」,「症状」, 「治療経過」,「初診治療先」,「治療先2」,「治療先3」,「あなたの保険」, 「保険会社・共済名」,「加害者の保険」,「保険会社名」の欄を順に設け,これ らの各欄に引き続いて,「相談内容・お問い合わせ」欄を設け,その下に情報を記 載するための空白を設けているが,これらの事項は,上記の本件1審被告ファイル の性質上,当然に設けられるべき項目であって,その順番も,上記1)から5)の順に, それぞれの必要項目を適宜並べたに過ぎないというほかないから,これらの項目を 上記のとおり設けたことによって,素材の選択又は配列による創作性があるという ことはできない。 また,上記のような本件1審被告ファイルの性質上,これらの事項に関連する具 体的な項目の選択についても自ずと限定されるところ,本件1審被告ファイルのチ ェックボックスを付した各項目は,いずれもありふれたものというほかなく,その ような項目を適宜並べたものというほかないから,素材の選択又は配列による創作 性があるということはできない。この点について,1審被告は,特に,「事故発生 状況」及び「傷病名」の項目の選択について主張するが,「事故発生状況」につい ての「□追突」,「□正面衝突」,「□出合い頭衝突」,「□信号無視」,「□無 免許」,「□飲酒」という項目及び「傷病名」についての「□脳挫傷」,「□捻挫 挫傷」,「□打撲」,「□脱臼」,「□骨折」,「□靱帯損傷」,「□醜状痕」, 「□偽関節変形」,「□神経症状」,「□CRPS」,「□機能障害」,「□神経\n麻痺」,「□筋損傷,「□その他( )」という項目は,交通事故において は通常見られる事故態様及び傷病名であって,素材の選択又は配列による創作性が あるということはできない。なお,1審被告が主張するように,事故現場の図面や 「事故当日の天候」,「道路の見とおしの状況」,「道路状況」,「標識や信号機 の有無や場所」,「交通量」などを記載させることも考えられるが,これらの項目 は,事故態様そのものである「□追突」,「□正面衝突」,「□出合い頭衝突」, 「□信号無視」,「□無免許」,「□飲酒」といった項目に比べて必要性が高いと はいえず,上記の事故現場の図面や「事故当日の天候」等の項目がないことは,素 材の選択又は配列による創作性があることを基礎づけるということはできない。 さらに,チェックボックスを,上記のような項目と組み合わせて配置したからと いって,素材の選択又は配列による創作性が認められるものではない。 そして,他に本件1審被告ファイルにおいて素材の選択又は配列による創作性が あると認めるに足りる証拠はないから,本件1審被告ファイルが編集著作物に当た るとは認められない。

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平成28(ワ)37610  発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 平成29年7月20日  東京地方裁判所(46部)

 著作権侵害を理由として発信者情報の開示が認められました。被告は、動画の引用であると反論しましたが、裁判所はこれを否定しました。
 被告は,本件発信者動画は本件楽曲の著作権を本件原告動画が侵害して いることを示して批評する目的で本件原告動画の一部を引用したもので あり,その引用は公正な慣行に合致し,正当な範囲内で行われたから,本 件投稿行為は著作権法32条1項の適法な引用であると主張する。 イ そこで,まず,本件発信者動画における本件原告動画の利用が被告の主 張する上記批評目的との関係で「正当な範囲内」(著作権法32条1項) の利用であるという余地があるか否かにつき検討する。 前提事実 ア,イのとおり,1)本件発信者動画は冒頭から順に本件冒頭 部分(約3分38秒),本件楽曲使用部分(約2分18秒)及び本件楽曲 動画(約4分4秒)から構成され,2)本件楽曲使用部分以外に本件原告動 画において本件楽曲が使用された部分がない。ここで,本件原告動画にお いて本件楽曲が使用されている事実を摘示するためには,本件楽曲使用部 分又はその一部を利用すれば足り に照らしても,本件原告動画において本件楽曲が使用されている事実を摘 示するために本件冒頭部分を利用する必要はないし,上記の事実の摘示と の関係で本件楽曲部分の背景等を理解するために本件冒頭部分が必要で あるとも認められない。そうすると,仮に本件発信者に被告主張の批評目 的があったと認められるとしても,本件発信者動画における本件冒頭部分 も含む本件原告動画の上記利用は目的との関係において「正当な範囲内」 の利用であるという余地はない。 この点につき,被告は,本件楽曲使用部分が本件原告動画に含まれるこ とを示すために本件冒頭部分を利用したと主張する。しかし,上記各部分 の内容(前提事実 ア)に照らせば,本件楽曲使用部分が本件原告動画に 含まれると判断するために本件冒頭部分の利用が必要であると認めるこ とはできない。

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平成28(ワ)16088  著作権侵害損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 平成29年3月23日  東京地方裁判所

 原告が著作権者であるとの立証がないと判断されました。
 原告は,原告商品の製造を委託するに当たりBが作成した原画を被告に 交付した旨主張するが,そうであるとすれば,原告があぶらとり紙の名称 を変更した時点ないし被告との取引を中止した時点で,被告に対して上記 原画の返還を求め,あるいはその保管状況を問い合わせるなどの行動をと るべきものと解される。ところが,本件の証拠上,原告がそのような行動 をとったことはうかがわれず,B が作成したという原画の存在自体定かで ないといわざるを得ない。 なお,被告商品の原画に関しては,被告が「ふるや紙」の文字は書家の 書いた色紙(乙10)によるものであると主張するのに対し,原告は,色 紙の作成者に関する被告の主張が変遷し,作成時期も不明であるので,被 告の主張は失当であるとする。被告の主張が変遷したことは原告指摘のと おりであるが,本件著作物がBの作成であると認められない以上,この点 は本件の結論に影響するものでない。 イ 被告商品は遅くとも平成12年から販売され,また,被告は被告デザイ ンに酷似する「ふるや紙」の文字を用いたあぶらとり紙を平成3年から販 売していたが(前記前提事実(2)イ),原告は,平成27年12月に B が被 告に対して書面を送付するまで,被告に対して本件著作権の侵害その他何 らの異議を唱えていない(甲5,7,弁論の全趣旨)。この点につき,原 告は被告商品の存在を認識していなかった旨主張するが,原告は(所在地 は省略)で土産物店を経営する会社であり(前記前提事実⑴ア),また, 被告商品は原告の主張によれば20年間にわたり毎年100万冊が販売さ れていたというのであるから,その存在に気付かなかったというのは不自 然と解さざるを得ない。
ウ 本件著作物を表紙デザインに用いた原告商品は雑誌で紹介されるなどし\nて広く販売されており(前記前提事実(2)ウ),A は平成5年3月に本件著 作物のうち左下の文字を除いた部分からなる商標の商標登録出願をしたが (甲33),原告は,翌年8月頃,商品の名称を「ふるや紙」から「ゆと り紙」に変更した(前記前提事実(2)ウ)。この変更の理由につき,原告は, 他社が「ふるや紙」という名称のあぶらとり紙を販売し,原告商品との誤 認混同が生じたためである旨主張するが,原告商品が「ふるや紙」として 広く知られており,A が考案したという名称につき商標登録出願をしたと いうのであれば,他社に対して商品名の変更を求めることなく,自らが変 更することは不合理と解される。 (3) したがって,原告の主張はいずれも失当であり,原告が本件著作物の著作 権者であると認めることはできない。

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平成28(ワ)7393  損害賠償請求事件  不正競争  民事訴訟 平成29年3月21日  大阪地方裁判所

 引用の目的が正当な範囲内で行なわれるものとはいえないとして、複製・公衆送信侵害と認定されました。
 別紙対比表1,2の「被告侵害部分」で特定された原告コンテンツの各記載\nは,その内容や記載の順序,文体等に照らし原告の個性が表出されているものと認\nめられるから,これらはいずれも原告の思想又は感情を創作的に表現したものとし\nて著作権法上の著作物であるということができ,したがって原告は,その作成者と してその著作権(複製権,公衆送信権)を有するものと認められる。 そして,別紙対比表1,2記載のとおり,被告は,原告コンテンツをそのまま自\nらの本件ウェブページに転載したものであり,不特定多数の者が本件ウェブサイト にアクセスして本件ウェブページを自由に閲覧することができるものであることか らすると,被告は,原告の複製権及び公衆送信権を侵害したものというべきである。
(2) 被告は,これら記載の掲載行為は著作権法32条1項の「引用」に該当する 旨主張する。 しかし,被告が引用した原告コンテンツの一部の傍らには,本件記載のようなコ メントが付されているのであって,既に説示したとおり,これらコメントを付す行 為は,原告製品ひいては原告を批評するという公益を図る目的でされたものとは認 められず,むしろ原告製品ひいては原告の信用を毀損する目的でされた違法な行為 というべきものであり,また売主の説明責任を果たすための正当な行為と認めるこ ともできないことからすれば,その引用が「公正な慣行に合致するもの」とも「引 用の目的上正当な範囲内で行なわれる」ものともということはできない。 したがって,被告による原告コンテンツの掲載行為を,著作権法32条1項の「引 用」として適法と認めることはできない。 なお,被告は,原告コンテンツはそれ自体経済的価値を有するものとして市場で 取引されるものではないなどと主張するが,その指摘はそうであるとしても,これ をもって「引用の目的上正当な範囲内で行なわれ」たということはできない。

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平成26(ワ)9552等  損害賠償請求事件(本訴),著作権使用料請求事件(反訴)  著作権  民事訴訟 平成28年12月15日  大阪地方裁判所

 コンサートの企画運営会社に対して、5000万円を超える損害賠償が認められました。被告は実はゴーストライターがいたというS氏です。請求原因は、全ろうの作曲者といううたい文句が虚偽だったというものです。
 (1) 原告は,被告が公表していた,本件楽曲が被告自ら作曲した作品であるこ\nと,被告が全ろうの中,苦労をして絶対音感を頼りに作曲した状況がいずれも虚偽 であり,このような虚偽の説明を前提に原告に本件公演の実施を許可し,さらには 公演を増やすよう申し入れるなどして本件公演の実施に深く関与した行為が,不法\n行為である旨主張し,被告は,原告が主張するいずれの事実も虚偽ではないし,そ もそも本件楽曲に関する明確な著作物利用契約まで成立したとはいえないまま本件 公演が行われたのであるから被告に告知義務違反もないなどとしてこれを争ってい る。
(2) そこでまず,本件公演を行うに当たっての原告及び被告の認識を検討する に,前記認定事実によれば,原告が被告に対して本件交響曲公演の提案をした平成 25年3月頃までに,被告が平成11年頃に全ろうとなり,耳鳴り,偏頭痛,頭鳴 症等に悩まされながら,内側からの音を記譜することにより作曲活動を行ったとい う経緯が,全国紙や雑誌,全国放送のテレビ番組等で度々取り上げられるなどした ことから,そのような被告の作曲家としての人物像や作曲の状況が公衆にも相当知 られるところとなり,それとともに,著名レコード会社から発売されている本件交 響曲のCDもクラシック音楽においては異例の売上げとなっていたことが認められ る。このような経緯に加え,本件公演の広告の内容からすると,国内外の音楽家の 演奏会の企画・主催等を行うことを業とする原告が,全国で30回以上の本件楽曲 の演奏会を企画するに当たっては,作曲者とされていた被告のこのような人物像や 作曲状況を前提とし,この点が広く知られていることが重要な事情となっていたも のと認められ,仮にこれらの事情が事実でなかった場合には,本件公演を企画しな かったであろうと認められる。そして,被告においても,自らが多数のメディアに 取り上げられていた状況等を認識した上で,原告に対して公演回数の増加を強く要 求したことからして,原告からの本件交響曲公演の提案が,被告が公表していた被\n告の人物像や作曲状況を前提とし,それを重視していたものであることについて, 当然承知していたものと認められる。
(3) 次に,前記(2)の前提とされた状況について検討する。
ア まず,被告の聴力については,本件交響曲が作曲された時期に作成された 平成14年診断書では,感音性難聴を原因とする聴覚障害により身体障害2級に該 当するとされている。しかし,脳波の反応による客観的な検査が行われた平成26 年診断書においては,右が40デシベル,左が60デシベルで脳波の反応が確認さ れているところ,専門医の意見によれば,これは,ある領域においては右が30デ シベル,左が50デシベル程度の聴力があることを示しているものであること,被 告自身も3年前から聴力が戻っていると述べていることから,平成26年2月頃に おいて,被告は軽度から中等度の難聴にあったが,全ろうといえるような状況では なかったと認められる。このような被告の状態に加えて,平成14年診断書に記載 されているような100デシベルを超えるような感音性難聴の場合,自然に改善す ることは現在の医学的知見ではあり得ないとの専門医の意見や,平成11年8月頃 に聞こえない状況になかったことがうかがえることからすると,平成14年診断書 の記載はこれを採用することができず,平成14年当時,高度の感音性難聴が被告 にあったとは認められない。また,平成14年診断書の結果は,軽度から中等度の 難聴に加え機能性難聴(心因性難聴又は難聴であることを偽る詐聴)を合併したも\nのと考えられるとの専門医の意見からしても,平成11年以降,被告が全ろうの状 態で作曲していたという事実を認めることはできない。この点について,被告の妻 である証人P5は,平成13年末頃までに被告は全ろうに近い状態となったと証言 するが,上記に照らし,採用できない。 したがって,平成11年以降,被告が軽度から中等度の難聴であったことは事実 であるといえても,全ろうの音が聞こえない状態であった点は事実でなかったとい える。
イ また,被告は,全ろうの状態で,耳鳴り,偏頭痛,頭鳴症等に耐えなが ら被告自身が内から聞こえる音を記譜して本件交響曲を作曲したと公表していた\nが,前記認定事実によれば,被告が本件交響曲について関与したのは,本件指示書 を渡すなどしてP2に指示を与え,また,被告が本件交響曲における鐘の音を入れ たことにとどまる。また,ピアノ・ソナタ第2番についても,モチーフの選択やそ\nの順序等について指示をしていたにとどまる。したがって,被告が上記の状況で本 件楽曲を自ら作曲したとの点も,事実でなかったといえる。 この点について,証人P5は,被告は平成15年に完成した本件交響曲について もシンセサイザーでメロディーを作りオーケストレーションもしており,それを録 音したものを聴いたことがあるなどと証言し,陳述(乙22)している。しかし, 被告がP2に作曲を依頼したことを発表した直後の会見において被告が述べていた\nのは,本件指示書等による指示をしたことのみであり,シンセサイザーによる作曲 については何ら触れられておらず(甲172),むしろ,被告には絶対音感がなく, オーケストラ曲を作ることができなかったことから設計図を示してP2に音符を書 いてもらった旨を述べていたことからすると,証人P5の上記証言は直ちにこれを 採用することはできず,その他,本件楽曲につき,鐘の音以外のメロディー等を被 告が作成してP2に提供したことを裏付ける証拠は提出されておらず,そのような 事実を認めることはできない。 また,同証人は,近年のドキュメンタリー映画の中で被告が自ら新曲を作曲する 過程が描かれたと陳述し(乙22),その楽曲の「音楽著作権使用料支払いに関する 覚書」も提出されている(乙23)。しかし,それは,当該楽曲についてのことであ るにとどまり,それをもって本件楽曲の作曲過程についての前記の認定判断が左右 されるものではない。
(4) 以上のとおり,被告が公表し,多数のメディアで紹介されていた被告の人\n物像や作曲状況は,原告が本件公演を企画するに当たっての重要な前提事情であり, それが事実でない場合には,原告が本件公演を企画・実施することはなかったもの であるが,被告は,そのような事情を知りながら,本件公演を実施することを了承 したにとどまらず,特定の指揮者の選定や公演回数の増加を強く要求するなど,本 件公演の企画に積極的に関与したといえる。これに加え,上記の前提事情が事実で ないことが公となった場合には,それまでの新聞や雑誌の掲載,テレビの番組放映 等の数,これらに対する反響の大きさからして公演を実施することができなくなり, 予定公演数の多さから原告に多大な損害が発生するであろうことは,容易に思い至\nることができたものであったといえることを併せ考慮すると,本件公演の企画に対 する上記のような関与をするに当たり,被告において,これまで公表していた被告\nの人物像や作曲状況が事実とは異なることを原告にあらかじめ伝え,その内包され るリスクを告知する義務があったものというべきである。したがって,被告がこの 義務に反して事実を告げず,原告が多額の費用をかけ,多数の人が携わることとな る全国公演を行うことを了承し,さらには公演数を増やすように強く申し入れるな\nどして本件公演の企画に積極的に関与し,それにより原告に本件公演を企画・実施 するに至らせた行為は,原告に対する不法行為を構成すると評価するのが相当であ\nる。
・・
ア 前記のとおり,本件公演は,平成26年2月2日までのものが実施され, 同月23日以降のものは中止された。このことから,原告は,被告の不法行為によ り被った損害として,平成26年2月23日以降中止した本件公演に係る損害を主 張している。 しかし,本件において被告の原告に対する不法行為として捉えられるのは,被告 が,告知義務に違反して,原告が多額の費用をかけ,多数の人が携わることとなる 全国公演を行うことを了承し,さらには公演数を増やすように強く申し入れるなど\nして本件公演の企画に積極的に関与し,それにより原告に本件公演を企画・実施す るに至らせた行為であり,このような被告の行為がなければ,原告はそもそも本件 公演を企画・実施しなかったと認められるものである。このような不法行為の内容 からすると,原告の損害として捉えるべきは,本件公演を企画・実施しなかった場 合と比べて,本件公演を企画・実施したことの全体によって生じた損害(実施分も 含めて損益通算した損害)であると解するべきであって,中止された公演のみに着 目し,その中止による損害のみを損害として主張する原告の上記主張は採用できな い。他方,被告は,公演中止によって生じた損害と実施された公演から生じた利益 との損益相殺を主張するところ,上記のとおり,原告の損害としては本件公演の企 画・実施の全体から生じた損害を通算して把握すべきであるから,被告の損益相殺 の主張自体は採用できないが,この主張は,実質的には上記で述べたのと同趣旨を いうものと解される。

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平成27(ネ)10123  著作権侵害差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成28年12月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 映画の著作物について、書籍の著作物の翻案であると判断されました。原審では、一部の表現について翻案ではないと判断されていましたが、知財高裁(第2部)は、翻案と認めました。判決文も50ページと長いのですが、後ろに対比表が付加されており総ページ数200ページを超えています。
(ア) 別紙対比表4−1のエピソ\ード3において,本件著作物1と本件映画 とは,「翻案該当性」欄記載のとおり,2)公園に駆け付けた元恋人(婚約者)が被控 訴人(主人公)の様子に驚いて,誰かに何かされたのかと聞いたこと,3)被控訴人 (主人公)はうなずくことしかできなかったこと,4)元恋人(婚約者)が,被控訴 人(主人公)が性犯罪被害を受けたことを知ってやり場のない怒りで手近な物に当 たる様子,5)被控訴人(主人公)が元恋人(婚約者)に対して「ごめんなさい」と 謝り続けたこと,及びその著述(描写)の順序が共通し,同一性がある。 なお,被控訴人は,「翻案該当性」欄記載のとおり,1)被控訴人(主人公)が元恋 人(婚約者)に助けを求めたことも,本件著作物1と本件映画とで共通する点とし て主張するが,本件著作物1では,被控訴人が元恋人に電話を掛け,電話越しに異 変を察知した元恋人が被控訴人の状況を確認しようとし,その場にいることを命じ たという,助けを求める具体的な場面が著述されているのに対し,本件映画では, 婚約者が息を切らしながら走っていることの描写と上記2)〜5)のやりとりを通じて, 主人公が元恋人に助けを求めたことが暗に表現されているのであるから,言語の著\n作物と映画の著作物との表現形態の差異を考慮しても,本件著作物1における被控\n訴人が元恋人に助けを求める場面の著述と共通する描写が,本件映画においてなさ れているものと認めることはできない。 (イ) そして,前記(ア)の本件著作物1の著述中の同一性のある部分(以下「本 件著作物1−3の同一性ある著述部分」という。)は,それぞれの著述だけを切り離 してみれば,事実の記載にすぎないようにも見えるものの,本件著作物1−3の同 一性ある著述部分全体としてみれば,自ら助けを求めた元恋人から尋ねられたにも かかわらず,性犯罪被害に遭った事実を告げることができず,うなずくことと「ご めんなさい」を繰り返すことしかできない性犯罪被害直後の被害女性の様子と,助 けを求められて駆け付けたにもかかわらず,何も助けることができなかったという やり場のない怒りを,大声を出すことと物にぶつけるしかない元恋人の様子とを対 置して,短い台詞と文章によって緊迫感やスピード感をもって表現することで,単\nに事実を記載するに止まらず,被害に遭った事実を口に出すことの抵抗感や,被害 に遭ってしまった悔しさ,やるせなさ,被害者であるにもかかわらず込み上げてく る罪悪感をも表現したものと認められる。\nそうすると,本件著作物1−3の同一性ある著述部分は,被控訴人が被害を受け た当事者としての視点から,前記2)〜5)の各事実を選択し,被害直後の被控訴人の 状況や元恋人とのやりとりを格別の修飾をすることなく短文で淡々と記述すること によって,被控訴人の感じた悔しさ,やるせなさ,罪悪感等を表現したものとみる\nことができ,その全体として,被控訴人の個性ないし独自性が表れており,思想又\nは感情を創作的に表現したものと認められる。\n

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◆原審はこちら。平成24ワ964

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平成28(ワ)34083  著作隣接権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 平成28年12月20日  東京地方裁判所

 カラオケ店舗において,カラオケ歌唱を行う様子を動画撮影し,これをYouTubeにアップロードした行為が,レコード製作者の送信可能化権を侵害するとして、差止が認められました。
 原告は,業務用通信カラオケ機器の製造販売等を業とする株式会社であり, 業務用通信カラオケ機器「DAM」シリーズの販売を行っている。 原告は,平成28年8月17日に発売された女性ボーカルグループ「Li ttle Glee Monster」のCDシングル「私らしく生きてみ たい/君のようになりたい」に含まれる楽曲「私らしく生きてみたい」のカ ラオケ用音源(以下「本件DAM音源」という。)を作成した。原告は本件 DAM音源につきその音を最初に固定したレコード製作者として送信可能\n化権(著作権法96条の2)を有する。 被告は,カラオケ店舗において,DAMの端末を利用して,上記楽曲のカ ラオケ歌唱を行い,その際に自身が歌唱する様子を動画撮影し,本件DAM 音源の音が記録された動画を同年9月7日にインターネット上の動画共有サイトである「YouTube」にアップロードした。

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平成28(ラ)10009  保全異議申立決定に対する保全抗告事件  著作権  民事仮処分 平成28年11月11日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 判例百選について、編集著作物の著作者かが争われました。知財高裁は、著作者であるとした判断を破棄しました。第3部の判断です。
著作者とは著作物を創作する者をいい(法2条1項2号),著作物とは, 思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は\n音楽の範囲に属するものをいう(同項1号)。編集著作物とは,編集物 (データベースに該当するものを除く。)でその素材の選択又は配列に よって創作性を有するものであるところ(法12条1項),著作物とし て保護されるものである以上,その創作性については他の著作物の場合 と同様に理解される。 そうである以上,素材につき上記の意味での創作性のある選択及び配 列を行った者が編集著作物の著作者に当たることは当然である。 また,本件のように共同編集著作物の著作者の認定が問題となる場合, 例えば,素材の選択,配列は一定の編集方針に従って行われるものであ るから,編集方針を決定することは,素材の選択,配列を行うことと密 接不可分の関係にあって素材の選択,配列の創作性に寄与するものとい うことができる。そうである以上,編集方針を決定した者も,当該編集 著作物の著作者となり得るというべきである。 他方,編集に関するそれ以外の行為として,編集方針や素材の選択, 配列について相談を受け,意見を述べることや,他人の行った編集方針 の決定,素材の選択,配列を消極的に容認することは,いずれも直接創 作に携わる行為とはいい難いことから,これらの行為をしたにとどまる 者は当該編集著作物の著作者とはなり得ないというべきである。
イ もっとも,共同編集著作物の作成過程において行われたある者の行為が, 上記のいずれの場合に該当するかは,当該行為を行った者の当該共同編 集著作物の作成過程における地位や権限等を捨象した当該行為の客観的 ないし具体的な側面のみによっては判断し難い例があることは明らかで ある。すなわち,行為そのものは同様のものであったとしても,これを 行った者の地位,権限や当該行為が行われた時期,状況等により当該行 為の意味ないし位置付けが異なることは,世上往々にして経験する事態 である。 そうである以上,創作性のあるもの,ないものを問わず複数の者によ る様々な関与の下で共同編集著作物が作成された場合に,ある者の行為 につき著作者となり得る程度の創作性を認めることができるか否かは, 当該行為の具体的内容を踏まえるべきことは当然として,さらに,当該 行為者の当該著作物作成過程における地位,権限,当該行為のされた時 期,状況等に鑑みて理解,把握される当該行為の当該著作物作成過程に おける意味ないし位置付けをも考慮して判断されるべきである。 これに対し,抗告人は,著作者性の判断に当たっては,当該行為が行 われた状況や立場といった背景事情を捨象し,もっぱら創作的表現のみ\nに着目して判断されなければならない旨主張するけれども,複数人の関 与の下に著作物が作成される場合の実情にそぐわないというべきであり, この点に関する抗告人の主張は採用し得ない。
ウ 以上を踏まえ,前記認定事実に基づき,以下検討する。
・・・
エ このように,少なくとも本件著作物の編集に当たり中心的役割を果たし たB教授,その編集過程で内容面につき意見を述べるにとどまらず,作 業の進め方等についても編集開始当初からE及びB教授にしばしば助言 等を与えることを通じて重要な役割を果たしたというべきA教授及び抗 告人担当者であるEとの間では,相手方につき,本件著作物の編集方針 及び内容を決定する実質的権限を与えず,又は著しく制限することを相 互に了解していた上,相手方も,抗告人から「編者」への就任を求めら れ,これを受諾したものの,実質的には抗告人等のそのような意図を正 しく理解し,少なくとも表向きはこれに異議を唱えなかったことから,\nこの点については,相手方と,本件著作物の編集過程に関与した主要な 関係者との間に共通認識が形成されていたものといえる。しかも,相手 方が本件原案の作成作業には具体的に関与せず,本件原案の提示を受け た後もおおむね受動的な関与にとどまり,また,具体的な意見等を述べ て関与した場面でも,その内容は,仮に創作性を認め得るとしても必ず しも高いとはいえない程度のものであったことに鑑みると,相手方とし ても,上記共通認識を踏まえ,自らの関与を謙抑的な関与にとどめる考 えであったことがうかがわれる。 これらの事情を総合的に考慮すると,本件著作物の編集過程において, 相手方は,その「編者」の一人とされてはいたものの,実質的にはむし ろアイデアの提供や助言を期待されるにとどまるいわばアドバイザーの 地位に置かれ,相手方自身もこれに沿った関与を行ったにとどまるもの と理解するのが,本件著作物の編集過程全体の実態に適すると思われる。
(4) そうである以上,法14条による推定にもかかわらず,相手方をもって 本件著作物の著作者ということはできない。

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◆前審はこちら 平成28年(モ)第40004号

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平成28(ネ)10041  著作権侵害差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成28年10月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁は、ライブハウスでの演奏について、オリジナル曲の演奏についても、JASRACにて管理対象としている以上、支払い義務があると判断しました。ライブハウスが実行主体であるとの判断も維持しました。
3 争点2(オリジナル曲の演奏による著作権侵害の成否)について
(1) 1審被告らは,自ら制作したオリジナル曲を演奏することは,1審原告に著 作権管理を信託している著作者自身が許諾しているのであるから,不法行為に当た らないと主張する。 しかし,前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(7) イ)のとおり,1審原告と著作権信託契約を締結した委託者は,その契約期間中, 全ての著作権及び将来取得する全ての著作権を,信託財産として1審原告に移転し ているから,1審原告管理著作物の著作権者は,1審原告である。そうすると,利 用者が誰であっても,1審原告の許諾を得ずに1審原告管理著作物を利用した場合 には,当該利用行為は著作権侵害に当たるといわざるを得ない。 このことは,著作権信託契約約款11条が,自作曲の自己利用に関し,著作物の 関係権利者の全員の同意を得た自己利用(委託者がその提示につき対価を得る場合 を除く。)については,あらかじめ受託者の承諾を得て,管理委託の範囲について の留保又は制限をすることができると定めていることからも,裏付けられるところ である。 以上のとおり,演奏者が1審原告に著作権管理を信託した楽曲を演奏する場合で あっても,1審原告の許諾を得ない楽曲の演奏が,1審原告の著作権侵害に当たる ことは明らかであり,1審原告には使用料相当額の損害の発生が認められるから, 著作権侵害の不法行為が成立する。
(2) 1審被告らは,1審原告が著作者自身の演奏申込みも認めない違法な運用を\n行いながら,無許諾を理由に著作者自身の演奏の不法行為責任を追及することは, 管理委託契約の趣旨に反するものであり,許されないと主張する。 しかし,著作者が自ら演奏することを許諾している場合であっても,著作物につ いてのその余の関係権利者の得るべき使用料を分配する必要があることからすれば, 著作者自身の演奏行為について演奏の不法行為責任を追及して使用料相当額を徴収 することが,管理委託契約の趣旨に反するとはいえず,1審被告らの主張は理由が ない
。 (3) したがって,1審被告らの上記主張は採用することができない。
4 争点3(1審被告らの故意又は過失の有無)について
(1) 1審被告らは,前記2(2)の各事実を認識していた上に,前記1の認定事実 (引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(4)ア)のとおり,1審被告らは, 本件店舗を開いた後は,1審原告に著作権料を支払わなければならないことを認識 していたのであるから,著作権侵害主体であることの認識があったことは明らかで あり,1審被告らには著作権侵害の故意又は過失があったというほかない。 (2) 1審被告らは,本件店舗における演奏曲目や出演者が権利者から許諾を得た かどうかを知らないから故意がない旨主張する。 しかし,著作権侵害の故意の有無の判断に当たっては,他人が権利を有する楽曲 を利用していることの認識があれば足り,具体的な楽曲名や権利者の認識までは要 しない。また,1審被告らが1審原告管理著作物の利用許諾契約を締結していない こと及び本件店舗における多くのライブにおいて,具体的な数はともかく,1審原 告管理著作物が演奏されていることについては当事者間に争いがないところ,ライ ブハウスの出演者自らが1審原告から許諾を得ることは一般的ではなく,前記1の 認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(4)ア)のとおり,1審 被告Y2も,本件店舗以外のライブハウスに出演したことがありながら,1審原告 から許諾を得たことはなかったことに照らすと,本件店舗における演奏曲目や出演 者が権利者から許諾を得たかどうかの認識は,本件における1審被告らの主観的要 件の判断を左右するものではない。
(3) また,1審被告らは,著作権侵害の故意は,直接主体たる出演者の各演奏行 為時に存在していなければならず,その内容は,当該出演者が他人の著作物を無許 諾で演奏していること及び場の提供によって1審被告らも共同で当該楽曲を演奏し ていることの各認識ないし認容でなければならないと主張する。 しかし,1審被告らは,各出演者による演奏行為当時,著作権侵害主体であるこ とを基礎付ける事実を認識し,1審被告ら又は本件店舗は1審原告との間で1審原 告管理著作物の利用許諾契約を締結することなく,当該出演者が他人の著作物を演 奏していたのであるから,規範的な侵害主体としての故意に欠けるところはないと いうべきである。

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◆原審はこちら 平成25(ワ)28704/a>

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平成27(ワ)482  販売差止等請求事件 平成28年9月28日  東京地方裁判所

 契約による著作権の独占的利用権は認めたものの、差止の代位行使までは意図していないと判断されました。
 しかるところ,原告会社は,原告会社が本件各著作物の著作権者に送付した本件 契約書案(甲41)には,「第三者が著作物の権利を侵害した場合には,これに対 処します。」との条項があって,同条項は,原告会社が,著作権者に対して,第三 者が著作物の利用をした場合にはその排除を求めることができる旨の債権を有して いることを前提とするものといえるから,原告会社は,著作権者に代位して,著作 権の侵害行為の差止め及び廃棄を求めることができると主張する。 確かに,本件契約書案には,原告会社が主張するとおり,「第三者が著作物の権 利を侵害した場合には,これに対処します。」との記載があるが,著作権者が原告 会社に対して差止請求権及び廃棄請求権を行使すべき義務を負担する旨の条項はな く,本件著作物5ないし同28の2(同11,同12の1,同12の2,同15, 同16,同17,同21の1,同21の2を除く。)の各著作権者が,原告に対し て,第三者が侵害行為を行った場合に,当該著作権者において差止請求権や廃棄請 求権を行使すべき義務を負担しているものとは認められない。他に,原告会社が, 上記各著作権者に対して何らかの債権を有していることを認めるに足りる証拠はな い。そうすると,債権者代位権(民法423条)の法意を用いて,各著作権者が有 する差止請求権及び廃棄請求権を原告会社が代位行使することができるものと認め ることは困難である。 なお,前記のとおり,本件契約書案には,「第三者が著作物の権利を侵害した場 合には,これに対処します。」との記載があり,著作権者が,著作権に基づく差止 請求権及び廃棄請求権を原告会社に行使させることを容認する趣旨を読み取る余地 もあるが,仮にそのような合意の成立が認められるとしても,非弁護士の法律事務 の取扱い等を禁止する弁護士法72条や,訴訟信託を禁止する信託法10条,著作 権等管理事業者に種々の義務を負わせた著作権等管理事業法等の趣旨からして,か かる合意に基づく請求を認めることはできないというべきである。

◆判決本文

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平成28(ネ)10019  著作権侵害差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成28年6月29日  知的財産高等裁判所  知的財産高等裁判所

「怪獣ウルトラ図鑑 [復刻版]」のイラストについて、使用許諾があったと判断しました。
 控訴人は,原書籍の存在すら知らず,被控訴人の担当者から本件書籍の内容の提 示も受けていないから,原書籍に掲載され,本件書籍での使用許諾を求められてい るのが本件イラストであるとは知らなかった,むしろ,本件書籍での使用について 許諾を求められているイラストは,本件イラストのような「特集ページ」に掲載さ れたものではなく,「記事ページ」に掲載されたものであると理解していたなどと して,控訴人と被控訴人との間では,前提とする許諾の目的物が異なっていたから, 意思の合致はなく,控訴人と被控訴人との間で本件イラストの使用につき許諾が成 立することはない旨主張する。 しかし,前記(1)のとおり,被控訴人が,本件書籍が秋田書店が発行した「怪獣ウ ルトラ図鑑」の復刻版であることを明示した上で,控訴人に対し,原書籍に収録さ れたイラストの本件書籍における再使用についての許諾を求めたのに対し,控訴人 が,原書籍に収録されたイラストの内容,あるいは本件書籍に収録される予定のイ\nラストの内容について何らの質問も確認もすることなく,被控訴人に対し,本件書 籍におけるイラスト使用許諾料の振込口座を指定し,その支払を受けたことからす れば,控訴人は,原書籍に収録された控訴人作成に係るイラストについて使用を許 諾したものと認められるから,被控訴人と控訴人との間において,許諾の対象が一 致していなかったということはできない。

◆判決本文

◆原審はこちらです。平成26年(ワ)第34145号

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平成27(ワ)13760  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 平成28年4月21日  東京地方裁判所

 配信サイトに違法アップロードした場合のストリーミングは複製には該当しないとして114条1項の損害額は否定されました。
 原告は,1)ストリーミングの再生回数が受信複製物の数量に当たること,2)本件動画サイトにおけるストリーミングの再生回数はダウンロードの回数と同視できることなどからすれば,本件著作物1及び2の本件動画サイトにおけるストリーミングの再生回数が著作権法114条1項にいう受信複製物の数量となる旨主張する。 (2) そこで判断するに,受信複製物とは著作権等の侵害行為を組成する公衆送 信が公衆によって受信されることにより作成された著作物又は実演等の複 製物をいうところ(同項),本件においてはダウンロードを伴わないストリ ーミング配信が行われたにとどまり,本件著作物1又は2のデータを受信し た者が当該映像を視聴した後はそのパソコン等に上記データは残らないと\nいうのであるから,受信複製物が作成されたとは認められないと解するのが 相当である。 また,前記前提事実(2)のとおり,本件動画サイトは動画をストリーミン グ配信するウェブサイトであるところ,証拠(甲19,20)及び弁論の全 趣旨によれば,本件動画サイトにアップロードされた動画をダウンロードす ることは不可能ではないが,そのためには特殊なソ\フトウェアを利用するな どの特別の手段を用いる必要があることが認められる。 以上によれば,本件著作物1及び2の本件動画サイトにおけるストリーミ ングによる動画の再生回数が受信複製物の数量に当たるということはでき ないし,これをダウンロードの回数と同視することもできない。
・・・・・
本件著作物1は,平成25年10月5日に本件動画サイトに有料動画と してアップロードされ,同月6日時点における「再生数」は1万3292 回と表示されていた。本件著作物2は,同月4日に本件動画サイトに有料\n動画としてアップロードされ,同年11月29日時点における「再生数」 は2万4539回と表示されていた。\n本件動画サイトの会員でない者が有料動画を視聴しようとするとサンプ ル動画が数秒間再生されるところ,上記の「再生数」にはこのサンプル動 画の再生数も含まれる。本件著作物1及び2に係る「再生数」の内訳は不 明である。 被告がアップロードした本件著作物1及び2のデータは,平成26年3 月頃までに本件動画サイトから削除された。(甲4,5,乙3,8,12) イ 本件著作物1は,動画配信サイト「DMM.com」にて有料でインタ ーネット配信されており,その価格は,平成25年10月5日時点におい て,HD版ダウンロードとHD版ストリーミングのセットが2480円, ダウンロードとストリーミングのセットが1980円,HD版ストリーミ ング(7日間)が390円であった。また,本件著作物2も同様に配信さ れており,その価格は,同年11月29日時点において,HD版ダウンロ ードとHD版ストリーミングのセットが2980円,ダウンロードとスト リーミングのセットが2480円,DVDトースターが2800円であっ た。 インターネット配信の上記各価格は,配信時期やキャンペーンの実施等 によって変動し,本件著作物1に係る平成28年1月15日時点のHD版 ストリーミング(7日間)が273円,本件著作物2に係る平成27年9 月28日時点のHD版ストリーミング(同)が300円となっていた。 (甲2,3,13,乙2,15) ウ 原告(変更前の商号は株式会社北都)は,取引先との間で,コンテンツ 提供基本契約を締結し,取引先に対して原告の映像等のコンテンツの配信 を許諾しているところ,ある取引先との契約では,原告がその対価として ●(省略)●を受け取ることが定められている。 (甲17,25)
(2) 原告は,1)本件著作物1及び2が本件動画サイトにおいて上記「再生数」 に記載の回数配信され,2)これらが正規に配信された場合の価格はそれぞれ 372円,2362円であり,3)この場合原告は●(省略)●を受領できた として,著作権法114条3項に基づく損害賠償を請求する。しかし,上記 の事実関係によれば,1)上記「再生数」の正確性を裏付ける証拠が何ら提出 されていない上,全体の再生回数のうち有料のストリーミング配信の回数は, 事柄の性質上,無料のサンプル動画の再生回数より大幅に少ないと考えられ る。また,2)本件著作物1及び2のストリーミング配信の正規の価格は時期 等によって変動するがおおむね1本当たり270〜390円程度であり,さ らに,3)原告は自らが使用許諾をした場合の対価につき契約条項の大半を抹 消した契約書の写し(甲17)を提出するのみであり,現実にいかなる収入 を得ていたかは明らかでない。本件におけるこれらの事情を総合すれば,被 告による本件著作物1及び2の公衆送信権の侵害に対して原告が著作権の行 使につき受けるべき金銭の額は,それぞれ50万円とするのが相当である。

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平成28年(モ)第40004号保全異議申立事件(基本事件・平成27年(ヨ)第22071号仮処分命令申\\立事件)

 編集著作物の翻案が争われました。翻案であるとして仮処分を認めた決定を認可しました。対象は判例百選です。この事件も将来、判例百選に載るんでしょうね。
 そこで,上記イの判断を前提に,本件において,債権者が本件著作物の編集 著作者であるとの推定を覆す事情が疎明されているか否かについて検討する。 前記1(4)で認定した事実によると,1)債権者は,執筆者について,特定の実務家 1名を削除するとともに新たに別の特定の実務家3名を選択することを独自に発案 してその旨の意見を述べ,これがそのまま採用されて,本件著作物に具現されてい ること,2)本件著作物については,当初から債権者ら4名を編者として『著作権判 例百選[第4版]』を創作するとの共同の意思の下に編集作業が進められ,編集協 力者として関わったD教授の原案作成作業も,編者の納得を得られるものとするよ うに行われ,本件原案については,債権者による修正があり得るという前提でその 意見が聴取,確認されたこと,3)このような経緯の下で,債権者は,編者としての 立場に基づき,本件原案やその修正案の内容について検討した上,最終的に,本件 編者会合に出席し,他の編者と共に,判例113件の選択・配列と執筆者113名 の割当てを項目立ても含めて決定,確定する行為をし,その後の修正についても, メールで具体的な意見を述べ,編者が意見を出し合って判例及び執筆者を修正決定, 再確定していくやりとりに参画したことを指摘することができる。そして,執筆者 の執筆する解説は,本件著作物の素材をなしているところ,その執筆者の選定につ いては,とりわけ実務家を含めると選択の幅が小さくないこと,債権者が推挙した 当該3名の人選について,誰が選択しても同じ人選になるようなものとはいえない ことに照らせば,債権者による上記1)の素材の選択には創作性があるというべきで ある。その上,上記3)の確定行為の対象となった判例,執筆者及び両者の組合せの 選択並びにこれらの配列には,もとより創作性のあるものが多く含まれているとこ ろ,債権者が編者としての確定行為によりこれに関与したとみられるのである。そ うすると,上記1)ないし3)を総合しただけでも(その余の債権者主張事実の有無に ついて認定・判断するまでもなく),他の共同著作者の範囲はともかくとして,債 権者が本件著作物の編集著作者の一人であるとの評価を導き得るところ,本件にお いて,前記イの推定を覆す事情が疎明されているということはできない。 したがって,債権者は,編集著作物たる本件著作物の著作者の一人であるという べきである。

エ これに対し,債務者は,前記ウ1)に関し,(ア) 執筆者を推挙しただけでその 執筆者に判例を割り当てていない段階では,編集著作物の素材である解説の特定を していないから,素材の原料の提案にすぎず,素材の選択には当たらない,(イ) 債 権者の推挙した上記3名は,東京地裁知財部の部総括判事,元知財高裁判事の弁護 士及び著作権分野で高い実績を有し第3版においても執筆者になっていた弁護士で あるから,極めて「ありふれた」人選であって,創作性は全くない,(ウ) 仮に3名 の候補者を選択したのみで創作的な表現として著作権が生じるとすると,以後,同\n一の3名を選択することが複製に当たり著作権侵害となってしまう旨,前記ウ2)に 関し,(エ) 共同創作の「意思」があっても,何ら著作者性を基礎付ける事情とはな らない旨,前記ウ3)に関し,(オ) 著作権法においては,自ら物理的に創作的表現を\n表出していない者は,著作者たり得ないところ,著作者の認定においては,あくま\nでそのような客観的な創作的表現行為の有無のみが問題となるのであり,「立場」\nや「肩書」は何の意味も持たないし,「最終的な確定権限を有する者」というよう な行為者の権限を考慮することも許されない(当該権限を要件とするような解釈に 基づいて著作者の認定をすることは,同法2条1項2号,1号に反する。),(カ) 本 件編者会合における決定に参加したことは,他人が世に現出した表現について最終\n的に公表すべき表\\現であることを事後的に承認したにすぎず,本件著作物の作成に 創作的関与をしたとの評価にはつながらない,(キ) 本件編者会合後の修正について は,債権者は他者のした提案を一部事後承認したにすぎず,上記(カ)と同様に,本件 著作物の作成に創作的関与をしたとの評価にはつながらない,(ク) 債権者の前記ウ 3)の行為を債権者が本件著作物の編集著作者の一人であることの根拠とすることは, 「それまで表現されたものとして存在しなかったものを初めてつくり出す行為」を\nしていない者を著作者とすることであるから,同法2条1項2号,1号の文理に反 するし,著作物が創作され公表されるまでの間に関与する多数の者(学術論文の査\n読者から果てはマスコット・キャラクターを採択する会議に至るまでありとあらゆ る「確定者」)にいたずらに著作者の外延が拡大されてしまいかねない,(ケ) 債権 者の本件編者会合における承認及びその後の一部承認を創作的関与に含めて考える ことは,智恵子抄事件最高裁判決に反する旨をそれぞれ主張した上,(コ) 本件著作 物の編集に関し,債権者は,極めて限定的な関与しかしていないから,債権者が本 件著作物の編集著作者の一人であるとの評価は導き得ない,(サ) 債権者の関与して いない部分は,債権者の関与した箇所と分離して利用することができるから,同項 12号の共同著作物の要件(分離利用不可能性の要件)を満たさないなどと主張す\nる。
しかしながら,上記(ア)の点については,本件著作物において,執筆者の執筆する 解説が本件著作物の素材をなしていることは前記ウで説示したとおりであるところ, 本件著作物においてそのような解説を執筆する者を,いずれの判例を割り当てるか とは独立に選定することは可能であり,その場合,執筆者を推挙した段階で,「当\n該執筆者がいずれかの判例について執筆する解説」が観念されるから,これが素材 の選択におよそ当たらないということはできない。また,いずれにせよ,判例と執 筆者の組合せが特定されていなかったからといって,本件著作物における「執筆者 の執筆する解説」という素材の選択に関して債権者が寄与したことが否定されるも のではない。
上記(イ)の点については,本件著作物における解説の執筆者として,学者を選ぶか 実務家を選ぶか,実務家にしても裁判官にするか弁護士にするかについて,選択の 幅は大きく,裁判官や裁判官OBについても知財高裁・地裁知財部経験者の人数は 決して少なくないこと,現に第4版に関するそれまでの執筆者の案(本件原案のほ か,A教授が列挙した候補者の案なども含む。)では当該3名が含まれていなかっ たこと(前記1(4)ウないしカ),第3版や本件雑誌にもa判事とb弁護士は入って いないこと(別紙「著作権判例百選判例変遷表」,甲2の3),B教授は,当初,\nb弁護士を執筆者として追加することに消極の意見を表明していたこと(前記1(4) ク)などに照らすと,当該3名について,誰が選択しても同じ人選になるようなも のとはいえず,「ありふれた」人選などということもできない。
上記(ウ)の点については,ここでの執筆者3名というのは,本件著作物の執筆者と なった113名の中の一部であるところ,前記ウの判断は,当該3名を選択したの みで直ちに創作的な表現として独立の編集著作権が生じるとするものではなく,あ\nくまでも本件著作物全体の表現(素材の選択及び配列)について創作性が認められ\nる場合に,これを構成する一部の創作への関与(換言すれば,債権者が関与した部\n分が上記創作性を有する表現を形成する一部をなしているか)を問題とするもので\nあるし,また,債権者の当該行為時点について見ても,執筆者110名から1名を 削除し3名を加えて112名とする場合の当該3名の選択が問題となっているので ある。さらに,前記ウの判断は,必ずしも同1)の行為のみで編集著作者となり得る と判断しているわけではなく,同1)ないし3)を総合して編集著作者となり得ると判 断しているのであって,債権者が,同3)の行為をしているほかに,自ら同1)の行為 もしていることを,全体として評価すべきところである。
上記(エ)の点については,前記ウ2)の事情は,同3)の債権者の行為の前提となるも のであるから,同1)ないし3)があいまって全体として債権者の編集著作者性を基礎 付ける事情になるということができる。
上記(オ)の点については,本件のように共同編集著作物の著作者の認定が問題となる事案においては,編集著作物の完成に向けられた表現(素材の選択・配列)の創\n作に係る複数の者の一連の行為(一瞬の物理的な行為のみではない。)を全体とし て観察し,そのような一連の編集過程への実質的な関与の有無やその位置付け等を 総合的に検討して,一定の規範的な評価をすることは,避けられないものと解され る。そして,それ自体としては同じように見える行為についても,どのような状況 (コンテクスト)において,どのような立場(一貫して編集の主体とされ,内容に ついて決定権や責任を有する者としての行為なのか,アドバイスを求められた外部 の第三者としての行為なのか,事務的な補助者としての行為なのか等々)でそれを 行ったのかということにより,その行為の社会的な意味合いや位置付けは異なり得 るのであって,そのことが事実認定及び法的評価にも影響するのは当然というべき である。上記のような意味での行為者の立場を全く捨象して単純に裸の作為(「物 理的な」創作的表現表\\出行為)のみを取り出すことは,実態にそぐわない編集著作 者の認定をすることにつながりかねず,相当ではない。既に認定,説示したところ からすれば,本件著作物の編集過程において,債権者が,素材の選択及び配列に関 する実質的な権限を有しそれに基づき実質的な関与をしたことは明らかであって, 単に名義を貸しただけとか,単に名目的な「肩書」のみを有して形だけ関わったと いったケースとは明らかに異なる。なお,編集著作物の素材の選択・配列の確定に 関し行為者がどのような権限を有していたかという点も,編集著作者の認定に当たっ て一つの事情となり得るものであって,これを考慮すること(もとよりこれを「要 件」とするものではない。)が許されないということはない。 上記(カ)ないし(ク)の点については,当該編集著作物の編集過程において,当該者自 身が当該創作的表現を「物理的にこの世に現出させる」独自の提案作成行為をしな\nかった場合においても,当初から当該者を含めた複数の者を編者として当該編集著 作物を創作するとの共同の意思の下に共同作業をしている他の者が先行して「物理 的にこの世に現出させる」提案をした部分について,当該者が,それを修正するこ ともできたのに検討の上修正せずに,当該部分をそのとおり採用する決定に加わっ たという行為は,創作への関与として一概に無視することはできない。前記1(4) で認定した事実経過に照らすと,債権者は,本件著作物の編集過程に客観的・外形 的に関与しているのみならず,素材の選択及び配列について実質的な中身を思考し これに基づき上記行為をしているとみられるものであって,前記ウ3)の債権者の行 為は,著作物の形成ないし創作性の形成への「客観的な事実行為としての実質的な 関与」に当たるということができる。本件著作物の「創作」については,本件著作 物の完成に向けた一連の編集過程が開始される前には「それまで表現されたものと\nして存在しなかったもの」を,同編集過程が完了し本件著作物が完成した時点で「初 めてつくり出す行為」であり,その「創作」の主体が債権者を含めた複数の者とな るとみられるのであって,これが著作権法2条1項2号,1号の文理に反するとい うことにはならない。また,既に認定,説示したところに従って,債権者の同3)の 行為を債権者が本件著作物の編集著作者の一人であることの根拠としたとしても, 著作物が創作され公表されるまでの間に関与する多数の者にいたずらに著作者の外\n延が拡大することにはならない(単に名前を貸して形式的に権威付けをしただけの 者や,債務者が例に挙げる「学術論文の査読者」等,もともと創作する側の主体と は異なる立場から関与したり,表現内容の形成・変更の直接の決定権を有していな\nい者などは,共同著作者の一人とは認められない。)。「認定」ということの性質上, 個々の事案に合致した認定をして「共同編集著作者」の範囲を適切に画するほかは ないし,かえって,常に「最も早く物理的に表出した者が誰か」のみに着目すると\nいうことでは,本件のような事案で実態にそぐわない結論を導いてしまいかねない。 上記(ケ)の点については,智恵子抄事件最高裁判決は,当該個別事案における認定 を示した事例判例であって,本件における債権者のような者を編集著作者と認めて はならないとの判断を何ら含意しているものではないから,前記ウ3)に係る判断が 同最高裁判決に「反する」ということはない。 上記(コ)の点については,前記ウ1)の行為と,同2)を前提とした同3)の行為を総合 した場合に,債権者の関与が「極めて限定的」で編集著作者の一人との評価を導き 得ないものであるということはできない。 上記(サ)の点については,前記ウ3)の債権者の行為は,本件著作物全体に係ってい るし,同1)の債権者による素材の選択も,前示のとおり,他の素材の選択及び組合 せとあいまって全体の編集著作物を構成しているものであるから,債権者の関与部\n分のみを分離して個別に利用することはできない。本件著作物は,著作権法2条1 項12号の「二人以上の者が共同して創作した著作物であって,その各人の寄与を 分離して個別的に利用することができないもの」に当たるというべきである。 以上によると,債務者の上記各主張によって,債権者が本件著作物の編集著作者 であるとの推定を覆すことはできない。
(2) 翻案該当性ないし直接感得性(争点2)について
ア 前記1(5),(6)で認定した事実によると,1)判例の選択については,本件著作 物の収録判例と本件雑誌の収録判例とで97件が一致しており(そのうち94件は 審級も含めて全く同一であり,3件は審級のみ異なり対象事件が同一である。), 割合的には,本件著作物の収録判例113件のうち約86%が本件雑誌にも維持さ れ,かつ,当該一致部分が本件雑誌の収録判例116件のうち約84%を占めてい ること,2)執筆者(執筆者の執筆する解説)の選択については,本件著作物におけ る執筆者と本件雑誌における執筆者とで93名が一致しており,割合的には,本件 著作物の執筆者113名のうち約82%が本件雑誌にも維持され,かつ,当該一致 部分が本件雑誌の執筆者117名のうち約79%を占めていること,3)判例と執筆 者(執筆者の執筆する解説)の組合せの選択については,本件著作物における組合 せと本件雑誌における組合せとで83件が一致しており,割合的には,本件著作物 における判例と執筆者の組合せ113件のうち約73%が本件雑誌にも維持され, かつ,当該一致部分が本件雑誌における判例と執筆者の組合せ117件のうち約7 1%を占めていること,4)判例及びその解説(以下,併せて「判例等」という。) の配列については,本件著作物の判例等と本件雑誌の判例等とで合計83件の配列 (順序)が一致しており,割合的には,本件著作物の判例等113件のうち約73% の判例等の配列(順序)が本件雑誌にも維持され,かつ,当該一致部分が本件雑誌 の判例等117件のうち約71%を占めていること,5)判例等の配列を位置付ける 項目立てについても,本件著作物の大項目及び小項目の立て方と本件雑誌の大項目 及び小項目の立て方とでその大半が一致していることを指摘することができる。そ うすると,本件著作物と本件雑誌とで判例等の選択及び配列が全体として類似して いることは明らかであって,本件著作物の判例等の選択・配列の大部分が本件雑誌 にも維持されていることが確認できるとともに,本件雑誌の判例等の選択・配列を 見たときに本件著作物のそれに由来する上記各一致部分の全部又は一部を優に感得 することができる。 そして,本件著作物及び本件雑誌に掲載される判例と執筆者の執筆する解説が編 集著作物たる本件著作物及び本件雑誌の素材であるところ,その表現(素材の選択\n又は配列)の選択の幅(個性を発揮する余地)を考えると,『判例百選』の性格上, 判例の選択や判例等の配列に係る選択の幅はある程度限られるものの,執筆者の選 択すなわち誰が執筆する解説を載せるかという選択の幅は決して小さくない上,ど の判例の解説の執筆者として誰を選ぶかに係る選択の幅は極めて広いというべきで ある。そうすると,上記1)ないし5)で指摘した,本件著作物と本件雑誌とで表現(素\n材の選択又は配列)上共通する部分には,創作性を有する表現部分が相当程度ある\nものということができる(なお,編集著作物における素材の選択及び配列に係る上 記各一致部分の組合せ全体に創作性を認めることもできると考えられる。)。 以上の事情を総合すれば,本件著作物と本件雑誌とで創作的表現が共通し同一性\nがある部分が相当程度認められる一方,本件雑誌が,新たに付加された創作的な表\n現部分により,本件著作物とは別個独立の著作物になっているとはいい難い。 このように検討したところによると,本件雑誌の表現からは,本件著作物の表\\現 上の本質的特徴を直接感得することができるというべきである。
イ そして,前記1で認定したとおり,本件雑誌が本件著作物の改訂版として作 成されているものであることなどに照らすと,編集著作物たる本件雑誌が本件著作 物に依拠して編集されたことは明らかである。
ウ 以上によれば,編集著作物たる本件雑誌を創作する行為は,本件著作物に依 拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表\\現に修正, 増減,変更等を加えて,新たに思想を創作的に表現することにより,これに接する\n者が本件著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を\n創作する行為,すなわち本件著作物の翻案に該当し,本件雑誌は本件著作物を原著 作物とする二次的著作物に該当する。 また,他人の著作物を素材として利用しても,その表現上の本質的な特徴を感得\nさせないような態様においてこれを利用する行為は,原著作物の同一性保持権を侵 害しないと解すべきであるが(最高裁平成6年(オ)第1028号同10年7月1 7日第二小法廷判決・判時1651号56頁等参照),本件雑誌における本件著作 物の利用は,このような同一性保持権侵害の要件をも満たすということができる。 (3) 本件著作物を本件原案の二次的著作物とする主張の当否(争点3)について 債務者は,本件著作物は本件原案を原著作物とする二次的著作物にすぎないとし た上で,二次的著作物の著作権者が権利を主張できるのは新たに付加された創作的 部分に限られるところ,本件著作物において本件原案に新たに付加された創作的表\n現が本件雑誌において再製されているとは認められない旨主張する。 しかしながら,前記1で認定した事実に前記(1)で説示したところを総合すると, 本件原案は,最終的な編集著作物たる雑誌『著作権判例百選[第4版]』の完成に 向けた一連の編集過程の途中段階において準備的に作成された一覧表の一つであり,\nまさしく原案にすぎないものであって,その後編者により修正,確定等がされるこ とを当然に予定していたもの(編者が検討するための叩き台,提案)であったこと\nは明らかであり,実際,本件原案作成後,その予定どおり,債権者を含む編者によ\nりその修正等がされ,最終的に編集著作物の素材の選択・配列が確定されて本件著 作物として完成されるに至ったものである。そうすると,本件においては,その完 成の段階で,債権者を共同著作者の一人に含む共同著作物が成立したとみるのが相 当である一方,途中の段階で本件原案が独立の編集著作物として成立したとみた上 で本件著作物について本件原案を原著作物とする二次的著作物にすぎないとするこ とは相当ではない(なお,債務者は,最終作品の作成過程において準備的に作成さ れたものが,第三者によりコピーされ,最終作品の完成後に無断でネット上で公開 されてしまった場合に,当該準備的に作成されたものも最終作品とは別個の著作物 としての保護を受けることを指摘する。しかし,そのような事例において,第三者 によるコピーの時点で,当該準備的に作成されたものがそれ自体著作物性を肯定し 得るものであったならば,それを著作物とする著作権又は著作者人格権の行使を第 三者との関係で肯認することができるとしても,本件のように,既に完成された最 終作品の翻案が問題となっているケースにおいて,当該最終作品を,同作品の完成 に向けて準備的に作成されていた原案の一つを原著作物とする二次的著作物にすぎ ないとして,最終作品に基づく権利行使を制約することは,相当でないことに変わ りはない。)。 したがって,債務者の上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。

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平成26(ワ)22603  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 平成28年2月16日  東京地方裁判所

 無償配布のカタログにおける著作権侵害について、損害額が争われました。裁判所は2項侵害は否定したものの、3項に基づく損害を認めました。
 原告は,著作権法114条2項にいう「利益」には消極的利益も含まれることを前提に,少なくとも原告カタログの作成費用が被告の「利益」に該当すると主張する。 そこで判断するに,同項は,著作権侵害行為による侵害者の利益額を権利者の損害額と推定することによって損害額の立証負担の軽減を図る趣旨の規定であるから,同項所定の「利益」は「損害」に対応するものであることが前提となると解される。ところが,原告は被告による著作権侵害行為の有無にかかわらず原告カタログの作成費用の負担を免れないのであるから,原告カタログの一部を複製して被告カタログを作成したことにより被告が当該部分に関する作成費用の支出を免れたとしても,そのために原告に原告カタログの作成費用に相当する額の損害が生じたということはできない。そうすると,上記の支出を免れたことによる被告の利益は,同項所定の「利益」となり得ないというべきである。 イ 同条3項に基づく損害 原告は,原告カタログも被告カタログも無償で頒布されていることを踏まえると,原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の損害が発生しており,その額は原告が原告カタログの複製を許諾する対価,すなわち,原告カタログの作成費用に基づいて算定されるべきであると主張する。 そこで判断するに,前記前提事実(1)のとおり,原告と被告は共に米国コーラー社の我が国における販売代理店であって,競合関係にあるから,原告が原告カタログの全部又は一部の複製を被告に対して許諾することは通常考えられないところである。そうすると,被告による前記複製権及び譲渡権の侵害行為により原告に損害が発生したとみることができるから,原告は被告に対し著作権の行使につき受けるべき金銭の額の損害賠償を請求し得ると解するのが相当である。 しかし,原告カタログ及び被告カタログはいずれも顧客に無償で配布されるものであり,そのような製品カタログの使用料等を算定する基準が明らかでないことに照らすと,上記損害額を立証するために必要な事実を立証することは,その性質上極めて困難であるというべきである。 そこで,著作権法114条の5に基づき相当な損害額を検討するに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,1)原告カタログは2年ごとに改訂されること(甲3,4,19),2)原告は原告カタログの作成のために500万円程度の費用を要したこと(甲9,21〜114,117,乙19。なお,原告は原告カタログの作成費用につき他社への依頼分256万2000円,従業員の作業等分461万7677円の合計717万9677円を要したと主張するところ,後者については,従業員等が多大な労力を費やしたことは認められるものの,これにより人件費が増加するなど現実の出費が生じたことを示す証拠はないので,約半分の限度で相当と認める。),3)被告は,平成25年10月31日に被告カタログ3000部の納品を受け,翌11月1日開催の記念パーティーで約200部配布するなどした後,原告から警告を受けたため被告カタログの回収及び廃棄に努めたが,約650部は配布先から回収されていないこと(甲8,乙12〜15),4)被告は平成26年3月31日に被告カタログと内容の異なる新たなカタログの納品を受けたこと(乙18),5)被告カタログの作成費用(他社への依頼分)は278万2500円であったこと(乙12),以上の事実が認められる。 上記事実関係によれば,原告は無償配布する原告カタログの作成費用を2年間の営業活動により回収することを企図していたと解されるところ,被告カタログの配布期間中これを妨げられたとみることができる。これに加え,被告カタログの作成部数及び原価(1冊当たり約927円),被告カタログには被告表現4など原告カタログと異なる部分が少\nなからず存在すること(甲3,5)を考慮すると,原告の損害額は120万円であると認めるのが相当である。
ウ 他の損害について
原告は,原告の顧客を奪われたことによって営業上の利益が得られなくなったことも損害に当たると主張する。しかし,被告が現に原告の顧客を奪って原告に営業上の損害を被らせたことをうかがわせる証拠がないことに照らすと,上記イの損害に加えて,そのような損害が生じたと認めることはできない。

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平成26(ワ)6310  商標権侵害差止等請求  民事訴訟 平成28年2月8日  大阪地方裁判所

 著作権侵害について、売り上げの70%が限界利益として認められました。
 ウ 著作権法114条2項にいう「利益」とは,侵害による売上高から,そ の販売に追加的に要した費用を控除した額(限界利益)と解するのが相当 であり,侵害品の売上げによって追加的に要しなかった経費は控除すべき ではない。 本件においては,少なくとも,複写権使用料として5%,文具費(主と して紙代)として10%,発送・通信費として15%を経費として控除す べきことについて,原告らは明らかに争っておらず,このとおり認められ る。 被告は,さらに,複写機リース料等も経費として控除すべきであり,利 益率は15%であると主張するが,その裏付けは何ら提出されておらず, 被告主張に係る経費が追加的に必要となった直接経費に該当すること及び それら経費が被告主張の率であることを認めるに足りる証拠はない。 よって,本件における利益率は,前記争いのない経費を控除した70% と認めるのが相当である。
以上より,平成16年8月1日以降本件訴訟提起日である平成26年7 月8日に至るまでの間に,P2及び被告が著作権侵害により得た利益の額 は1001万6482円と認められ,原告会社については著作権法114 条2項に基づき同額の損害が生じたものと推定される。
(計算式)(1円未満四捨五入)
144 万円×(9 年+342 日/365 日)×0.7=1001 万6482 円
また,被告による侵害行為と相当因果関係が認められる弁護士費用は, 原告らの主張どおり,75万円と認めるのが相当である。 したがって,原告会社に生じた損害は,合計1076万6482円と認 められる。

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平成26(ネ)10038  著作権侵害差止請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成28年1月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 データベースの著作権侵害について、114条1項侵害(権利者の単価利益*侵害者の販売数)により2億円強の損害が認定されました。1審も1億円を超えていました。
甲77によれば,データメンテナンス契約に基づくデータメンテナ ンス料は,平成19年10月までは月額5000円,同年11月以降は 月額6000円であったことが認められる。 (イ) 甲69によれば,1審原告の平成18年度のデータメンテナンスに 関する売上高は10億4742万9000円であったこと,その変動経 費は,仕入高(8387万6000円),残債(−8000円),販売 手数料(165万5000円),販促費/リース料S(0円),販促費 /その他(344万3000円),外注費(6604万9000円), 物流費4385万4000円),インセンティブ(423万円),広告 宣伝費(225万1000円),その他管理費(1億4457万400 0円)であったことが認められる。 この点,データメンテナンス契約に係る利益相当額の損害については, 著作権法114条の適用はないものと解され,その損害額の算定に当た っては,売上高から変動経費だけでなく固定費も控除されるべきである。 そして,上記の売上高,変動経費額,メンテナンス料の値引き取引も 行われていたことその他諸般の事情を考慮すると,データメンテナンス 契約に基づくメンテナンス料に対する利益は,メンテナンス料が月額5 000円であるか,6000円であるかを問わず,月額3000円と認 めるのが相当である。
(ウ) 以上を前提に,1審原告のデータメンテナンス契約に係る利益相当 額の損害額を算定すると,次のとおりとなる。 a 平成18年6月から平成21年12月末までの間に販売された被告 CDDBに係る損害 別表2のとおり,上記期間において販売された被告システム(当初\n版)は22本,被告システム(2006年版)は61本である。 そして,別表2によれば,平成19年4月から平成23年4月まで\nの49か月間に販売された被告システム(現行版)は333本であり, 平均して1か月当たり6.79本の被告システム(現行版)が販売さ れたものと認められるから,平成19年4月から平成21年12月末 までの33か月間に販売された被告システム(現行版)は224本(6. 79×33=224)と認められる。そうすると,平成18年6月か ら平成21年12月末までの間に販売された被告システム(当初版, 2006年版及び現行版)は,307本(22本+61本+224本) と認められる。 したがって,上記販売本数に対するデータメンテナンス契約に係る 利益相当額の損害額は,1105万2000円である。 計算式 3000円×12か月×307本=1105万2000円 b 平成22年1月から平成22年12月末までの間に販売された被告 システムに係る損害 上記期間において販売された被告システム(現行版)は81本(6. 79×12=81)となる。そして,この期間においては,その販売 時期を問わず,平成22年12月末までに発生したデータメンテナン ス契約に係る利益相当額が著作権侵害と相当因果関係のある損害とな る一方で,販売時期によって損害の発生期間が12か月に満たないも のがあることを勘案すると,その損害額は,上記販売本数に対する1 年分のデータメンテナンス契約に係る利益相当額の半額と認めるのが 相当である。したがって,上記損害額は,145万8000円と算定 される。 計算式 3000円×12か月×81×0.5=145万8000円 c 合計 前記a及びbの合計額は,1251万円である。

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◆1審はこちらです。平成21(ワ)16019
 

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平成27(ワ)14747  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 平成27年12月9日  東京地方裁判所

 雑誌に掲載された写真の著作権侵害が争われ、約20万円の損害賠償が認められました。
 被告は,原告各写真の著作者は各ヘアドレッサーである旨主張する。 なるほど原告各写真においては,独特のヘアスタイル,化粧,衣装等を施して所定のポーズを取っているモデルの写真も含まれている。 しかし,原告各写真については,前記(1)で検討したとおり,被写体の組み合わせや配置,構図やカメラアングル,光線・印影,背景等に創作性があるというべきであり,原告各写真の被写体のうちの,独特のヘアスタイルや化粧等を施されたモデルに関連して,別途何らかの著作物として成立する余地があるものとしても,前記(1)のとおりの原告各写真の内容によれば,原告各写真は,被写体を機械的に撮影し複製したものではなく,カメラマンにより創作されたものというべきである。 そうすると,原告各写真の著作者はカメラマンであって,ヘアドレッサーではないというべきである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
イ 被告は,カメラマンが創作行為を行なっていたとしても,各ヘアドレッサーも同様に創作的表現を行なっているのであり,その場合,原告各写真は,ヘアドレッサーとカメラマンとの共同著作物となる旨主張し,それに沿う証拠として平成27年10月27日付け被告代表\者の陳述書(乙20)を提出する。 平成27年10月27日付け被告代表者の陳述書(乙20)には,「美容業界誌紙は一般美容師が学ぶための作品(髪の形,髪の色,髪の流れ,髪の質感・・・等が相まって新しいスタイルは出来上がります。)を一段レベルの高い美容師に依頼して創作してもらい,それを撮影して誌面に掲載します。この美容師に著作権が有るのは当然であります。場合によっては,カメラマンにも応分の著作権があるかもしれません。しかし,主な著作権は創作した美容師が持っていると言わざるを得ません。もし著作権が美容師側にないとなると,我々の仕事は成り立ちません。」とあるところ,被告は,原告各写真の具体的な創作過程に基づいてヘアドレッサーとカメラマンとの共同制作意思等について主張立証をするわけではないが,原告各写真の創作性は,前記(1)で検討したとおり,被写体の組み合わせや配置,構図やカメラアングル,光線・印影,背景等に創作性があるところ,こうした点について,ヘアドレッサーとカメラマンとの間には原告各写真について共同著作物となるための要件である共同創作の意思が存するものとは認められないというべきである。\n

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平成27(ワ)731 著作権  民事訴訟 平成27年9月24日  大阪地方裁判所

 コレクションしている錦絵(浮世絵版画)及び肉筆絵巻の写真映像・画像の無断複製について争われました。江戸時代及び明治時代に制作されたものですので、著作権はありませんでした。
 そもそも原告が商慣習又は商慣習法で保護されると主張する利益は,著作権法の保護しようとしている利益と全く一致しているものであるところ,著作権法は,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を与え,その権利の保護を図り,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,その発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その権利の範囲,限界を明確にしているところであるから,著作権法が保護しようとしているのと同じ利益であり,しかも著作権法が明確に保護範囲外としている利益を保護しようとする慣習は,著作権制度の趣旨,目的に明らかに反するものであって,それが存在するとしても,そこから進んで,これを法規範として是認し難いものである。

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平成26(ワ)2839  報酬請求事件  その他  民事訴訟 平成27年8月20日  大阪地方裁判所

 プログラムのサポート契約について、自動延長の規定があっても、更新を妨げるやむを得ない事由がある場合には更新を拒絶することができると判断されました。なお、本件は、付記弁理士には訴訟代理権が認められない種類の事件について、訴状に弁理士が記載されていましたが、裁判所は非弁行為ではないと判断しました。
 被告は,争点(1) に関する被告の主張のとおり,本件訴えの提起が違法行為 により行われたと主張する。 しかし,本件訴状は,当初,頭書記載の原告訴訟代理人弁護士3名のほか, 「弁理士P3」の名義で作成され,記名及び押印がなされていたものの,訴訟 委任状では,上記3名の弁護士のみが訴訟代理人と定められており,その後, 訴状訂正申立書により「弁理士P3」との記載が削除されたことは,当裁判所\nに顕著である。 かかる経緯からすると,訴状作成時において,誤って「弁理士P3」との記 名及び押印がされたことがうかがえるものの,それ以上に,P3弁理士が弁護 士法72条に違反する行為を行ったり,他の訴訟代理人弁護士が非弁提携をし たり,あるいは恩田弁護士が有印私文書偽造・同行使を行ったりしたことが疑 われるものではない。
・・・・
本件契約においては,契約書上,契約終了の3か月以前に,原告,被告 及び技研のいずれからも相手方に対して書面にて解約の申入れを行い協議\nの上合意した場合を除き,更に1年間自動延長するとの条項(本件更新条 項)が設けられている。この条項を文言どおり解するならば,当事者間の 合意がない限り,本件契約は永続的に自動更新され,各当事者は契約上の 義務を負い続けることになる。 しかしながら,ソフトウェア製品の開発,保守,ライセンス契約を締結\nする事業者が,このような事態を想定するとは通常は考え難いことである。 また,本件契約の契約期間については,前記認定のとおり,被告が当初 1年と提示し,その後原告から10年との提示があり,これに対して被告 が5年又は7年を提示し,最終的に5年との合意がなされたものである。 そして,このような経緯に関し,原告は,投下資本回収のために10年の 契約期間を提示していたが,本件更新条項が存在するゆえに,原告の要求 は実質的に満たされたものと判断して契約期間を5年と定めたと主張し, 被告は,契約長期化のリスクとエンドユーザーに対するサポート打切りの リスクを考慮し,5年を提案して原告が了解したものであって,本件更新 条項は契約期間を1年と提示した際の名残にすぎない,とそれぞれ主張し ている。 かかる経緯並びに原告及び被告の主張からすると,5年という契約期間 は,原告ら及び被告の双方が,契約期間の長短についてのリスクをそれぞ れ勘案した上で交渉を行い,その上で定められたものであって,原告らも 被告も,契約期間の定めを契約上の重要な利害関係事項であると考えてい たと認められる。にもかかわらず,本件更新条項を前記のようにその文言 どおりに解する場合には,永続的に自動更新されることとなり,契約期間 の定めは全く無意味なものとなる。また,同時に,契約更新期間を1年ご ととしたことも全く無意味なものとなる。 これらの点を勘案すれば,5年という契約期間については,約定の期間 が満了するまで契約を継続させるという強い拘束力を有するものとして定 めたと認めるのが相当であるが,その後の1年間ごとの更新を定める本件 更新条項については,特段の交渉対象とされなかったことからしても,そ のような強い拘束力を有するものとして定められたと認めるのは相当でな いというべきである。 そして,本件サポート契約は,原告が被告のために開発した本製品につ いて,維持改良を行うことを内容とするものであるから,委任契約に類似 した継続的契約の性質を有するものと解するべきところ,やむを得ない事 由があるときに当事者は契約を解除することができるとする民法651条 の趣旨を考慮すると,少なくとも,更新を妨げるやむを得ない事由がある 場合には更新を拒絶することができると解するのが相当である。

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平成25(ワ)23293  契約無効確認等請求事件  商標権  民事訴訟 平成27年8月31日  東京地方裁判所

 マイケルジャクソンからの委任状の有効性について争われました。裁判所は無効と判断しました。
 このように,亡マイケルの氏名及び肖像の使用については,本件各POAと内容面で抵触する2件の契約が既に締結されていたのであるから,本件各POAを取り交わそうとするのであれば,既に存在している契約の存在を確認した上で,これらの契約をどう扱うのかが共に約定されるのが通常である(現に,シグナチュアズ契約においては,亡マイケルとシグナチュアズとの間で過去に締結された契約が具体的に特定された上で,これを変更する趣旨でシグナチュアズ契約が締結されたことが明記してある。)。被告A,被告MJAR及び被告MJWの主張によれば,本件各POAの取り交わしに至る交渉段階において,亡マイケルの代理人としてG弁護士が交渉に当たっていたというのであるから,なおさらこの点への言及がされるのが自然である。 ところが,本件各POAは,既存の2件の契約(シグナチュアズ契約及びMJJ契約)には何らの言及もなく,これらの契約との抵触関係を回避しようとした形跡もうかがわれないのであるから,その成立過程には重大な疑義があるというべきである。

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平成26(ネ)10004  損害賠償等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成27年6月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 プロ野球のカードゲームについて、2選手の画像は著作権侵害と判断されました。損害賠償については、利益の総額については約1500万円ですが、2選手のカードによって得られた額の立証責任は控訴人(著作権者)にあるとして、8%を控訴人の損害と認めました。また2項侵害について、2選手のカードによる利益額の認定が争われましたが、裁判所は、総額のうち2選手分がいくらかの立証責任は著作権者側にあると判断しました。
 前記イaのとおり,両ゲームの中島選手の選手カードをみると,本体写真のポー ズ及び配置,多色刷りで本体写真を拡大した二重表示部分の存在,部位や位置関\n係,背景の炎及び放射線状の閃光の描き方という具体的な表現が同一であり,これ\nによって中島選手の力強いスイングによる躍動感や迫力が伝わってくるものであっ て,両選手カードは,表現上の本質的特徴を同一にしているものと認められ,ま\nた,その表現上の本質的特徴を同一にしている部分において思想又は感情の創作的\n表現があるものと認められる。\nこれに対し,中島選手の前記相違点のうち,1)及び2)は前記のとおり表現上の本\n質的な特徴とはいえないし(2)のチームカラーは氏名の表記下部のごく一部にすぎ\nず,目も惹かない。),3)二重表示の写真の大きさの程度の違いは,いずれもカー\nドのほぼ中央部分に,本体写真よりも大きく拡大された頭部が選手カードの縁まで はみ出すように配置され,本体写真の頭部の上方にあり,腰よりも上の上半身のみ が本体写真の右上部に配置されるという点では共通していることや,選手カードが 表示されるのは主に携帯電話の画面上であることも考慮すると,全体の印象を左右\nするような大きな違いとはいえない。また,4)の二重写真の色味や5)炎の色味の違 い及び閃光を強調する楕円形状の有無の違いはあるものの,控訴人ゲームの選手 カードの炎も中央部は黄色であり,閃光も一部黄色であり,閃光という表現自体輝\nく印象を与えるものといえるから,金色を基調とした被控訴人ゲームの選手カード と大きく相違する印象を与えるものとはいえず,また,楕円形状の有無も閃光の明 るさの程度の違いを認識させるものにすぎないから,これらの相違点が上記共通点 から受ける印象を凌駕するものとはいえない。なお,被控訴人は,閃光(後光)の 具体的な本数や密度も違うと主張するが,これらも閃光の明るさの程度の違いを認 識させるものにすぎず,視覚的には差異を生じさせるものとはいえない。 したがって,被控訴人ゲームの中島選手の選手カードは,控訴人ゲームの同選手 カードと同一のものとはいえず,別の写真を使用し,全体として金色を基調とした 色味に変更することで,新たな表現を加えたものといえるから,複製に当たるもの\nとは認められないものの,控訴人ゲームの同選手カードを翻案したものと認められ る。 b ダルビッシュ選手の選手カードについて 両ゲームのダルビッシュ選手の選手カードについても,前記イbのとおり,本体 写真のポーズ及び配置,多色刷りで本体写真を拡大した二重表示部分の存在,部位\nや位置関係,背景の炎及び放射線状の閃光の描き方という具体的な表現が共通であ\nり,これによってダルビッシュ選手の力強い投球動作による躍動感や迫力が伝わっ てくるものであって,両選手カードは,表現上の本質的特徴を同一にしているもの\nと認められ,また,その表現上の本質的特徴を同一にしている部分において思想又\nは感情の創作的表現があるものと認められる。\n
・・・
 被控訴人ゲームの配信開始から選手カードの表現が変更される平成23年8月18日から同月26日までの9日間に,被控訴人ゲームにおけるレアパックの販売に\nより被控訴人が得た利益が1541万5312円であることは争いがない。 ところで,著作権法114条2項は,著作権を侵害した者が「その侵害の行為に より」利益を受けているときは,その利益の額を著作権者が受けた損害の額と推定 するものである。レアパックは,開けてみるまでどのカードが入っているか分から ないものであり,したがってレアパックの販売とは,本件2選手カード以外のカー ドの販売にも当たるものであるが,本件では,本件2選手カードの著作権侵害のみ が認められるから,上記レアパックの販売利益のうち,本件2選手カードによって 得られた利益に相当する額のみが当該著作権侵害の行為により被控訴人が受けてい る利益に当たるというべきであり,その点の立証責任は控訴人にあるものとして, 判断する。
この点,乙93,99及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人ゲームの配信開始当 時,レアパックにより入手できる選手カードは,希少性に応じて,キラ,グレー ト,スター,スーパースター,レジェンド,レジェンド+に分類される合計996 枚であったことが認められる。しかし,1)レジェンド及びレジェンド+の存在につ いては,被控訴人のホームページ等では公開されておらず,被控訴人ゲーム上の利 用者のサークルトピックス(利用者同士の質問板)の一部の記載でのみ確認できる 状態であったから(乙99,弁論の全趣旨),利用者の大多数が知っていたとは認 められず,またこれらのカードが当たる確率も相当低いものと認識されていたと考 えられるから,利用者がレジェンド及びレジェンド+を期待してレアパックを購入 した可能性は低いというべきこと,2)レアパックを購入する利用者は,グレードの より高いカード(すなわち,スター,スーパースター)の入手を期待しているのが 通常であること,3)スターカードは143枚,スーパースターカードは61枚の合 計204枚が存在したものであるが(乙93),これに該当する選手として被控訴 人ホームページやプレスリリースにおいて配信時に公開されていたのは各球団1 名,合計12名のみで,そのうち2名が中島選手及びダルビッシュ選手であり(甲 131,弁論の全趣旨),ゲームの利用を開始する者は,他の利用者の口コミや, Mobageの新着表示やゲームランキングなどで被控訴人ゲーム名が表\示される のを見て開始することが多いとしても(乙101),上記のとおりの広報がされて いることからすれば,これを見て被控訴人ゲームの内容を確認した利用者も相当程 度いると推認されること,4)上記2選手は人気の高い選手であり,特にダルビッシ ュ選手の選手カードについては,利用者が被控訴人ゲームを初めて利用する際のチ ュートリアル(ゲームの練習)において必ず一度付与され,チュートリアル終了後 に保有カードから削除されるものであり(乙99),利用者がレアパックを購入し てスーパースターの選手カードを入手したいという気持ちを誘発するために利用さ れていること,5)前記レアパックの販売利益は,配信開始のごく初期の9日間の売 上のみについてのものであること,からすれば,前記レアパックの販売利益のうち 少なくとも8%が,本件2選手カードの販売により被控訴人が受けた利益と認める のが相当である。 したがって,著作権法114条2項により控訴人が受けた損害の額と推定される 額は,123万3225円(1541万5312円×0.08)である。

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◆原審はこちら 平成23(ワ)29184

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平成27(ネ)10039  損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成27年6月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 プログラムを複製および公衆送信の損害額として、1審の550万が1000万円に増額されました。1審は、3項侵害の実施料率として50%と認定しました。知財高裁は、直接販売する場合には,定価から10パーセントを値引きしたことを根拠に、90%と認定しました。
 控訴人は,控訴人が有する本件ソフトウェアのプログラムの著作権の侵害\n行為を行った被控訴人に対し,著作権法114条3項に基づき,本件ソフト\nウェアのプログラムの「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する 額」を自己が受けた損害額として,その損害賠償を請求することができる。 控訴人は,著作権法114条3項に基づく控訴人の損害額は,本件商品の 販売数量56本に本件ソフトウェアの標準小売価格19万9500円(消費\n税込み)を乗じた合計1117万2000円と認定すべきである旨主張す る。
ア そこで検討するに,前記1(1)の認定事実と証拠(甲1ないし3,8, 9,10,16)及び弁論の全趣旨によれば,1)控訴人は,本件ソフトウ\nェアを業務用パッケージソフトウェア製品(甲2)として顧客に直接販売\nし,又は販売店,代理店を通じて販売していること,2)本件ソフトフェア\nの使用許諾書(甲10)には,「本製品(プログラム,データおよびマニ ュアル)については,使用許諾契約を設けており,お客様が本契約書に同 意された場合のみご使用いただけます。」,「弊社はお客様に,同封され たプログラム又はデータ一式を単一のコンピュータ(すなわち単一中央処 理装置)で使用する権利を付与します。したがって2台以上のコンピュー タで本製品を使用する場合,使用する台数分だけ,本製品を購入する必要 があります。また,本製品をネットワークを通じて,あるコンピュータか ら他のコンピュータに送ることは許されません。」(「2.使用権」), 「弊社が本製品に関してお客様へ付与している権利は使用権のみで,お客 様は本製品の第三者への譲渡はできません。」(「3.譲渡の禁止」), 「お客様は本製品の全部または一部を複製することはできません。」(「 4.複製等の禁止」)などの記載があること,3)控訴人は,本件ソフトフ\nェアの定価を19万9500円(消費税込み)と定めていること,4)控訴 人が顧客に対して営業担当者経由の直接販売又はオンライン販売をする 場合には,定価から10パーセントを値引きした17万9550円(消費 税込み)で販売していたこと(甲16),5)控訴人は,オンライン販売を しているが,ダウンロード販売は行っていないことが認められる。 上記認定事実によれば,本件ソフトウェアの定価は,本件ソ\フトウェア の使用許諾料に相当するものであり,控訴人は,顧客(ユーザー)に対し 直接販売(オンライン販売を含む。)をする場合の本件ソフトフェアの使\n用許諾料を定価から10パーセント控除した17万9550円に設定し ていることが認められる。
イ これに加えて,被控訴人による本件ソフトフェアのプログラムの著作権\n(複製権及び送信可能化権)の侵害行為の態様は,故意により,本件ソ\フ トウェアのプログラムをデッドコピーし,そのアクティベーションの設定 を無効化するプログラムを組み込んだ本件商品を本件ソフトウェアと同\n一の商品としてインターネットオークションサイトに出品し,本件商品の プログラムをインターネット上のウェブサイトにアップロードし,落札者 に対し,ダウンロード販売をしたというものであり,その違法性が高いこ と及びその市場への影響等諸般の事情を総合考慮すると,本件において, 控訴人が,被控訴人の上記侵害行為について,本件ソフトウェアのプログ\nラムの上記著作権の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する額」(著 作権法114条3項)は,本件ソフトフェアの定価19万9500円から\n10パーセントを控除した17万9550円に,本件商品の販売数量56 本を乗じた1005万4800円と認めるのが相当である。
・・・・
(2) 控訴人は,これに対し,著作権法114条3項の「受けるべき金銭の額に 相当する額」の算定に当たり,使用許諾を受けて使用している者と,使用許 諾を受けずに無断使用している者とを,必ずしも同一に論じる必要はなく, むしろ,客観的に見て両者が同等・公平の負担をしたと考えられる金額こそ が,「受けるべき金銭の額に相当する額」に該当するから,事後的な許諾料 相当額による損害賠償として,被控訴人による本件ソフトフェアのプログラ\nムの著作権の侵害行為に対し控訴人が受けるべき金銭に相当する額は,少な くとも本件ソフトウェアの正規品価格(標準小売価格)19万9500円を\n基礎に算定した金額を下ることはないなどと主張する。 しかしながら,前記(1)ア認定のとおり,控訴人は,本件ソフトフェアを顧\n客に直接販売をする場合の使用許諾料を定価(19万9500円)から10 パーセントを控除した17万9550円としており,仮に控訴人が被控訴人 が落札者に販売した本件商品と同等の数量の本件ソフトウェアを顧客に直接\n販売(使用許諾)したとしても,上記金額を上回る使用許諾料を得ることは できなかったことを考慮すると,控訴人の上記主張は採用することができな い。

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◆1審はこちらです。平成26(ワ)33433

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平成25(ネ)10109  損害賠償等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成27年4月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は差し止めおよび損害賠償請求を棄却しましたが、知財高裁は、差止および約370万円の損害賠償を認めました。
 被控訴人は,控訴人及び被控訴人との間で,本件契約書が一旦は作成されたものの,その後,これを有効な契約書として扱わないことが確認され,本件契約書の作成日である昭和61年8月6日のわずか1週間後には,被控訴人とBとの間で本件原著作物3に係る著作権使用契約(乙3)が締結されていることからすれば,この頃,生長の家,控訴人,被控訴人及び日本教文社の4者による協議により,本件カセットテープに係る著作権は亡Aの相続人らに帰属し,その印税は亡Aの相続人らが受領するとの調整がされ,控訴人及び被控訴人がこれを受け入れたものと認められるべきである旨主張する。 しかしながら,上記著作権使用契約(乙3)は,被控訴人とBとの間の契約にすぎず,控訴人がその当事者となっているものではないし,また,かかる契約の締結に控訴人が関与していた,あるいは,これを了承していたなどの事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって,被控訴人がBとの間で昭和61年8月13日に著作権使用契約(乙3)を締結したとの事実から,控訴人と被控訴人との間で本件許諾契約が成立したとの事実を認めることはできない。
(イ) また,被控訴人は,被控訴人において,本件カセットテープの発行を公然と開始し,継続してきたが,控訴人は,本件カセットテープの複製・頒布が行われていることを認識していながら,被控訴人に対してその印税の支払を請求したことはないこと,控訴人において,被控訴人が本件カセットテープの印税を亡A又はその相続人らに対して支払っていることを知りながら,これに異議を述べず,むしろ,生長の家の常任理事会への本件カセットテープの複製計画案の提出及び同計画案の承認の経過に照らせば,被控訴人における上記印税の取扱いを承認していたものといえること,からすれば,控訴人と被控訴人との間で,本件許諾契 約が黙示に成立したものと認められるべきである旨主張する。 しかしながら,被控訴人による亡A又はその相続人らに対する金銭の支払は,被控訴人の行為であって,控訴人が行ったものではない。被控訴人から控訴人に対し,本件カセットテープの印税が亡A又はその相続人らに対して支払われていることを報告した上で,被控訴人の上記取扱いについて,控訴人から了承を得ていたとの事実を認めるに足りる証拠はない。 そして,前記1認定のとおり,控訴人は,亡Aの相続人らとの間で,昭和63年3月22日付け「確認書」(甲7)を作成し,本件原著作物について,亡Aから控訴人に著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む)の譲渡があったことを原因とする著作権譲渡登録(甲2ないし4)を経た後は,1)日本教文社との間で,昭和63年7月頃以降順次,本件原著作物について,契約書(乙28の1ないし10)を作成して,書籍ごとに出版使用許諾契約を締結し,2)本件原著作物を海外において録音物として複製・頒布することにつき,著作権の無償使用を許諾することに関しても,生長の家ブラジル伝道本部との間で,平成11年9月頃及び平成12年10月頃,契約書(甲53ないし55の各枝番)を作成して,著作権無償使用(複製・頒布)許諾契約を締結し,3)本件原著作物1を録音物(コンパクトディスク)として複製・頒布することにつき,被控訴人から印税の支払を受けて,著作権の使用を許諾することに関しても,被控訴人との間で,平成16年10月20日及び平成18年8月11日,契約書(甲9,10)を作成して,著作権使用契約を締結し,4)平成18年頃以降,被控訴人に対し,本件カセットテープの複製・頒布について,著作権使用契約を締結することを求め,被控訴人との間で契約書案の提示など交渉を行っていたのであるから,これらの経過に照らすと,控訴人が契約書を作成することなく,黙示的に本件原著作物に係る著作権の使用を許諾するとは考え難い。 したがって,被控訴人の主張するこれらの事実をもって,黙示の本件許諾契約が成立していたものと認めるのは困難である。

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◆原審はこちら平成23(ワ)37319

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平成25(ワ)32114  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 平成27年2月26日  東京地方裁判所

 共有持ち分者が単独でライセンスしたことは不法行為に該当するとして、約1000万円の損害賠償が認められました。
 前記前提事実によれば,被告会社は,平成14年8月7日に凸版印刷との間で本件許諾契約を締結して,同社に対して本件製作物等に本件作品を使用することを許諾する本件許諾をし,同社は本件許諾に基づいて本件複製行為をしたことが認められる。前記1認定の事実によれば,本件作品の著作権について,原告と被告乙がそれぞれ2分の1の共有持分権を有しているのであるから,その行使は原告と被告乙の合意によることを要するところ(著作権法65条2項),本件許諾に関してかかる合意がされたことを認めるに足りる証拠はないから,被告会社が本件許諾を行う権原を有していたとはいえず,これに基づく本件複製行為により原告の本件著作権の共有持分権が侵害されたと認められる。そして,他人が著作権を有する著作物について利用許諾をする場合,誰が著作権者であるかを十分に調査すべきであるところ,証拠(甲2,3,14)によれば,本件作品の著作権が原告と被告乙との共有であることは,被告乙が当時被告会社の取締役を務めていたことからしても,これを容易に知り得たといえるのに,被告会社はDがこの件を掌握しているなどと軽信して本件許諾をした\nと認められるから,被告会社には,凸版印刷に本件複製行為をさせたことについて過失がある。 また,前記前提事実に加え,証拠(乙12)及び弁論の全趣旨によれば,Dの理事長を務めていた被告乙は,本件作品の著作権が原告と被告乙との共有であることを認識しながら,原告に同意を得ることなく,被告会社が凸版印刷との間で本件許諾契約締結を締結することを承諾し,Dは,平成14年12月30日に被告会社から「作品使用料及び監修料」として630万円の支払を受けたことが認められるから,被告乙にも,本件複製行為をさせたことについて少なくとも過失がある。被告らは,被告乙は本件許諾契約とは無関係であるなどと主張するが,被告乙が本件許諾契約を締結した被告会社の取締役であったことや,同人が本件許諾契約の締結を承諾しこれに基づく金員を受領したDの理事長を当時務めていたことからして,被告らの上記主張は採用することができない。 したがって,被告らには,原告に対する共同不法行為が成立する。

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平成26(ワ)33433  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 平成27年2月12日  東京地方裁判所

 被告が欠席した裁判ではありますが、3項侵害の実施料率として、50%と認定されました。
 原告は,自己の請求額が相当である理由として,原告が本件ソフトウェアの商品を販売する場合に購入者が通常支払う金額は1本当たり19万9500円であるから違法行為を行った被告にも同額を負担させることが正義にかなうこと,著作権法114条4項が同条3項に「規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない」としていること,標準小売価格をもって使用料相当額であると認めた裁判例があること等を主張する。\nしかしながら,少なくとも,被告の販売価格(インターネットオークション への出品価格は4980円)ではなく著作権者の標準小売価格を前提として相当な実施料率を乗じて使用料相当額を算定することは,違法行為を助長し正義に反するということには何らならない。また,著作権法114条4項の規定は同条3項の規定する損害を超える損害の賠償を別途請求することを認める規定であり,原告の主張するような同条3項の解釈を支えるものではない。さらに,原告が挙げる裁判例は,被告が原告の著作物であるプログラムを末端ユーザーとして違法に使用したと認定された事案であって,本件ソフトウェアの違法複製版をダウンロード販売した本件とは事案が異なる。原告の主張は,いずれも採用することができない。\n
5 実施料率の認定については,本件において原告が第三者に本件ソフトウェアの使用許諾をしているか否かが明らかでないため,実施料率の一般的水準を一応の目安として算定すべきところ,顕著な事実である社団法人発明協会研究センター編集の「実施料率【第5版】」(社団法人発明協会発行)及び経済産業省知的財産政策室編「ロイヤルティ料率データハンドブック」(財団法人経済産業調査会発行)記載のソ\フトウェア等の技術分野における実施料率に関する統計データ(特に,上記「実施料率【第5版】」中のソフトウェアを含む「電子計算機・その他の電子応用装置」の技術分野における外国技術導入契約の実施料率に関する統計データによれば,平成4年度から平成10年度までのイニシャル・ペイメント条件がない契約における実施料率の平均は33.2パーセントとされていること)に加えて,被告による侵害行為の態様が本件ソ\フトウェアのアクティベーションを無効化して実質的に同一のプログラムを販売したという悪質なものであることなど本件に現れた一切の事情を考慮すれば,実施料率を50パーセントと認めるのが相当である。

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平成24(ワ)32339 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成26年06月26日 東京地方裁判所

キャバクラでの生演奏について、3店で1500万円超の損害賠償が認められました。トータルの金額は大きいですが、計算の基礎となった一日あたりの著作権使用料は2000円程度/店でした。
 前記1認定の事実によれば,被告ら3社は,本件各店舗において,その営業のために不特定多数の客に直接聞かせる目的で,業者から派遣されたピアニストに演奏楽曲リストに記載の原告管理楽曲などをピアノで演奏させたのであるから,これにより原告の著作権を侵害したものである。そして,ピアニストの演奏する曲目に演奏楽曲リストに記載の原告管理楽曲が多数含まれていることに加え,社交場実態調査の結果に照らすと,本件店舗1)及び2)については本件仮処分決定まで,本件店舗3)については閉店まで演奏楽曲リストに記載の原告管理楽曲(又はその二次的著作物)が少なくとも1日に10曲は演奏されていたと認めるのが相当である。被告らは,ピアニストの多くは本件各店舗においてジャズを自己流にアレンジして即興演奏をし,演奏されるのは原告管理楽曲の二次的著作物ではなく,全く別の新たな著作物であったと主張するが,原告担当者の社交場実態調査において演奏された曲目が判明していることや陳述書等の証拠(甲21の1及び2,乙6,7,証人D)において,Bら演奏者が原曲をそのまま,あるいはアレンジを加えて演奏した後にアドリブを加えていくとの趣旨を述べていることからすると,ピアニストが演奏した原告管理楽曲については,部分的に原曲そのまま,あるいは編曲したその二次的著作物が演奏されたものと認められる。被告らの上記主張は,採用することができない。被告らは,本件各店舗において,音楽の演奏等と収益とは関係がなく,設置されたピアノはインテリアとしての要素が圧倒的に強いなどと主張するが,本件各店舗がキャバクラであり,ピアノを設置して演奏している以上,これにより店の雰囲気作りをして,これを好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図していたことは明らかというべきである。被告らの上記主張は,採用することができない。また,被告らは,派遣されたピアニストが演奏していた原告管理楽曲はせいぜい1日4曲程度であったと主張するが,社交場実態調査の結果に照らして,たやすく採用し難い。

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平成26(ワ)845 損害賠償請求事件 その他 民事訴訟 平成26年06月12日 大阪地方裁判所

 ヘルプファイル中に原告の著作権表示がなされていましたが、このことをもって著作権が譲渡されたとはいえないとして、プログラムのソ\ースコードの引き渡し義務なしと判断しました。
 原告の主張は,本件委託契約に基づき,本件ソフトウェア及び本件ソ\ースコードの著作権の譲渡が合意され,これに伴い,ソースコードの引渡義務も発生するというものである。前記1(2)によると,被告が,本件ソースコードを制作したものであり,本件ソ\ースコードの著作権は原始的に被告に帰属していると認めることができる。その一方で,前記1(2)(3)の見積書等,原告と被告との間で取り交わされた書面において,本件ソフトウェアや本件ソ\ースコードの著作権の移転について定めたものは何等存在しない。前記1のとおり,被告は,原告に対し,本件ソースコードの開示や引渡しをしたことはなく,原告から本件ソ\ースコードの引渡しを求められたが,これに応じていない。また,原告にしても,平成23年11月に至るまで,被告に対し,本件ソースコードの提供を求めたことがなかっただけでなく,前記1(7)のとおり,原告担当者は,被告に,本件ソースコードの提供ができるかどうか問い合わせているのであり,原告担当者も,上記提供が契約上の義務でなかったと認識していたといえる。以上によると,被告が,原告に対し,本件ソ\ースコードの著作権を譲渡したり,その引渡しをしたりすることを合意したと認めることはできず,むしろ,そのような合意はなかったと認めるのが相当である。なお,この点について,原告は,継続的契約であったから本件ソースコードの引渡しを求める必要がなかったと反論するが,後記(3)のとおり,継続的契約であることを前提とする主張には理由がない。
(2)ヘルプファイルにおける著作権表示と甲第15号証\n
原告は,前記1(5)の事情から,本件ソースコードについても原告が権利を取得した旨を主張するが,本件パッケージソ\フトウェアのヘルプファイルに示された著作権表示をもって,本件ソ\ースコードの著作者を推定するものとはいえない。また,本件ソースコードの著作権が原始的に被告に帰属し,かつ,これが原告に移転していないことは上記(1)のとおりであり,上記ヘルプファイルに示された著作権表示をもって,原告が本件ソ\ースコードに対する権利者であることの根拠とすることはできない。また,甲第15号証の電子メールにおいて,被告は,上記ヘルプファイルの表示を了承した旨記載しているが,このことをもって,被告が原告に対し本件ソ\ースコードや本件ソフトウェアの著作権を原告に譲渡・処分する旨の意思表\示をしたとみることはできない。せいぜい,被告が,原告に対し,本件ソフトウェアを複製することを許諾していることを表\示するのみというべきである(乙2)。
(3)継続的契約関係の下における損害発生防止(減少)義務
原告は,ソフトウェア開発の当初から,被告において,本件ソ\フトウェアを継続的にアップデートすることが予定されており,このような継続的契約関係においては,損害発生防止ないし減少義務の履行として,本件ソ\ースコードの引渡義務を負うと主張する。しかし,前記1(3)における一連の取引は,発注の都度,原被告間に個別の業務委託契約が成立し,被告の納品した成果物に対し,検収を経て原告が報酬を支払うことによって本旨履行が終了したものというべきであり,それ以上のものとは認められないというべきである(継続的契約におけるような,基本契約の締結があったことを認めるに足りる証拠は何らない。)。また,前記1(3)キのとおり,被告は,本件ソフトウェアが最新のオペレーションシステムに対応していないことを言明しており,永続的なアップデートの約束がされたことと相容れない状況となっている。すなわち,本件委託契約は,事実上継続して取引があったにすぎず,継続的契約関係とも認められない(保守契約が結ばれたことさえ,これを認めるに足りない。)から,被告が,原告のいうような損害発生防止,軽減義務を負うこともない。原告の上記主張には理由がない。\n

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平成25(ワ)13369 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟 平成26年05月27日 東京地方裁判所

猫の写真の著作物について著作権侵害と認定されました。興味深いのは目をくりぬく行為について、著作財産権侵害が66万程度に対して、人格権侵害の損害が200万円という認定です。
 原告は,(1) 原告写真の現物又はコピーに猫の目の部分をくり抜く加工を施す行為,(2) これらを並べて本件各パネルを作成し,さらに本件各パネルを組み合わせて本件看板を作成する行為が原告の翻案権を侵害する旨主張するので,以下,検討する。(1) 証拠(甲1〜5,7〜11)及び弁論の全趣旨によれば,原告写真は,いずれも猫そのもの(別表のNo.1〜43等)又は猫を含む風景(同44〜73等)を被写体とした写真であること,被告アンダーカバーは,写真集に掲載された原告写真又はそのコピーに,猫の顔の部分を中心に切り取るか(別紙「訴状別表\の見方」のシール番号1,2,5,7,8,9等),又は猫のほぼ全身部分を切り取った(同3,4,6,10等)上,更にその目の部分をくり抜く加工を施したことが認められる。これらの加工はいずれも定型的で単純な行為であり,これによって新たな思想又は感情が創作的に表現されたということはできない。したがって,この点について原告写真の翻案権侵害をいう原告の主張は失当というべきである。(2) 証拠(甲6〜11)及び弁論の全趣旨によれば,本件看板は,目の部分をくり抜いた猫の写真ないしその複製物を色彩あるいは大きさのグラデーションが生じるように多数(正確な数についての主張はないが,全部で数百枚に及ぶことは明らかである。別紙「訴状別表の見方」の添付写真1)参照)並べてコラージュとしたものであり,全体として一個の創作的な表現となっていると認められる一方,これに使用された原告写真又はそのコピーのそれぞれは本件看板の全体からすればごく一部であるにとどまり,本件看板を構\成する素材の一つとなっているということができる。そうすると,本件看板に接する者が,原告写真の表現上の本質的な特徴(原告が,それぞれの原告写真を撮影するに当たり,被写体の選択,シャッターチャンス,アングル,レンズ・フィルムの選択等を工夫することにより,原告の思想又は感情が写真上に創作的に表\現されたと認められる部分。ただし,原告写真の表現上の本質的な特徴がどこに存在するかについて原告による具体的な主張はない。)を直接感得することができるといえないと解すべきである。したがって,本件各パネル又は本件看板の作成行為が原告の翻案権を侵害すると認めることはできない。\n
2 争点(2)(被告三越伊勢丹の責任の有無)について
(1) 原告は,まず,被告三越伊勢丹が被告アンダーカバーによる著作権及び著作者人格権の侵害行為を幇助したと主張する。そこで判断するに,原告は本件看板の作成行為及び本件売場への設置行為について著作権及び著作者人格権の侵害があると主張するところ,まず,本件看板の作成は被告アンダーカバーにより行われたものであって,作成行為自体に被告三越伊勢丹が関与したことをうかがわせる証拠はない。また,本件看板を本件売場に設置し,これを訪れた買物客らに見える状態に置くことは,それ自体として原告写真についての原告の著作権又は著作者人格権の侵害となるものではない(著作権法25条参照)。なお,原告は,本件各パネルを本件売場において組み立てて本件看板とする行為が著作権又は著作者人格権を侵害するものであって,被告三越伊勢丹はこれを幇助したとも主張するが,上記行為は複数のパネルを順番に並べるという単純な行為であって(甲6〜11参照),これを独立の侵害行為とみることは相当でない。したがって,被告三越伊勢丹が被告アンダーカバーによる著作権等の侵害行為を幇助したと認めることはできない。 (2) 原告は,次に,被告三越伊勢丹には百貨店としてテナントに対して適切な管理監督をする条理上の義務があり,また,本件の状況下において被告アンダーカバーが著作権について明確な処理をしたか否かを精査する義務等があるところ,これらを怠ったことに不法行為責任を負う旨主張する。そこで判断するに,百貨店を経営する会社がテナントに対して著作権法に反する行為をしないよう適切な管理監督をする義務を負い,これに反したときは第三者に対して損害賠償責任を負うと解すべき根拠は見いだし難い。また,本件の関係各証拠上,被告三越伊勢丹が被告アンダーカバーによる著作権及び著作者人格権侵害の事実を知り,又はこれを容易に知り得たとは認められないから,原告の主張するような精査等の義務を負うと解することもできない。(3) したがって,原告の主張はいずれも採用することができず,被告三越伊勢丹に対する原告の請求は理由がない。
3 争点(3)(原告の損害額)について
以上によれば,被告アンダーカバーは,コピー使用分の66枚につき原告の複製権を侵害し,現物使用分及びコピー使用分により本件看板を作成した行為につき原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害したものであり,これらの行為につき被告アンダーカバーには少なくとも過失があると認められる。そこで,これにより原告が被った損害額について,以下,検討する。
(1) 著作権侵害について
ア 原告は,著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)につき,1)ポジフィルムの買取り(紛失)料金相当額として,又は,2)原告写真を看板等に使用する場合の使用料10万円の5倍に当たる額として,1枚当たり50万円が相当であると主張する。イ そこでまず原告の上記1)の主張についてみるに,原告は,同主張の根拠として,原告の意に反するような使用態様はポジフィルムを買い取った場合にのみ許されるからである旨主張している。しかし,原告の意に反する使用態様であることについては後記のとおり著作者人格権の侵害に係る慰謝料額の認定に当たり考慮すべき事柄である上,ポジフィルムを買い取ったとしても意に反した使用が許されることになるわけでない。したがって,原告の上記1)の主張は失当というべきである。ウ 次に原告の上記2)の主張についてみるに,原告は原告写真を看板に使用する場合の使用料は1枚当たり1回につき10万円となるべきであると主張するところ,後掲の証拠(ただし,書証の枝番の記載は省略する。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,写真の使用を第三者に許諾している業者又は写真家のインターネットサイトには,ディスプレイや看板に本件と同様の大きさの写真を用いる場合の使用料を,1枚当たり5万円(3か月まで。甲12),4万8000円(3か月まで。甲13),3万5000円(1年間。犬猫の写真を専門とする写真家のもの。乙2),5万円(乙5),3万円(乙6)と設定しているものがあることが認められる。しかし,これらの使用料は,証拠(甲12,13,乙2,5,6)及び弁論の全趣旨によれば,いずれも使用を許諾された写真を一個の作品として,すなわち写真に現れた創作的な表現を直接感得し得る態様で看板等に用いることにより,写真それ自体が有する顧客吸引力を利用することを予\定して定められたものと認められる。これに対し,本件看板においては,多数の猫の顔写真を用いたコラージュ看板を作成するための素材として使用されたものであって,個々の原告写真が一個の作品として使用されるものではない。したがって,上記認定の使用料は,本件における損害額算定の参考になるにとどまり,これを直接の基準とすることは相当でないと解される。そして,上記のような原告写真の使用の態様と,本件看板は,我が国有数の百貨店において多数の買物客らの目を引くように設置されたものであるが,その設置期間が約2か月にとどまったことなど本件に現れた諸事情を総合考慮すると,本件における原告写真の使用料は1枚当たり1回につき1万円と認めるのが相当である。エ 原告は,さらに,本件においては使用料の5倍に相当する額を請求できると主張する。しかし,著作権法114条3項は,著作権の行使につき受けるべき金銭の額を損害額とする旨規定しているのであり,違約金ないし懲罰的損害賠償請求を認めたものではない。したがって,原告の主張を採用することはできない。オ 以上に対し,被告アンダーカバーは,1枚当たりの使用料は5833円とすべきであり,2回使用された原告写真については使用料が逓減されるべきと主張するが,使用料を1万円と解すべきことは上記で判断したとおりである。また,証拠(甲12,13,乙2,5,6)及び弁論の全趣旨によれば,第三者に写真の使用を許諾している業者又は写真家の中には2回目以降の使用料を減額する者がいると認められるものの,減額することが一般的であると認めるに足りる証拠はない。したがって,被告アンダーカバーの上記主張を採用することはできない。カ 以上によれば,被告アンダーカバーが原告の複製権を侵害したことによる原告の損害額は,66万円(1万円×66枚)と認めるのが相当である。
(2) 著作者人格権侵害について
被告アンダーカバーは,原告写真の現物又はコピーを使用して本件看板を作成して原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害したものであるところ,同一性を侵害された原告写真が多数に及ぶ上,その改変行為は猫の目の部分をくり抜くという嗜虐的とも解し得るものであって,その性質上,原告の意に大きく反するということができる。また,証拠(甲1〜5,14,15)及び弁論の全趣旨によれば,原告は専ら猫や犬を被写体として撮影する写真家であり,原告写真が収録された写真集は,原告が長い年月を掛けて,世界各地を旅して作成したものであり,さらに,改変された写真の中には原告自身の飼い猫のものもあることが認められる。これらのことからすれば,被告アンダーカバーの著作者人格権侵害により原告が被った精神的損害は甚大なものであって,本件看板の設置期間が約2か月であること,被告アンダーカバーが原告に対し謝罪の意を表\していることといった事情を考慮しても,本件における慰謝料の額は200万円をもって相当というべきである。

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平成22(ワ)27449  著作権 民事訴訟 平成26年05月30日 東京地方裁判所

 鑑定対象となった原画のコピーを添付することは32条の引用であると判断されました。
 上記観点から,本件行為につき,著作権法32条1項所定の「引用」としての利用として許されるか否かについて検討する。前記1(5)認定のとおり,Dの作品に関する鑑定証書を作成するに当たり,鑑定証書に対象となった原画のカラーコピーを添付することについて,被告は,鑑定証書はそこに添付されたカラーコピーの原画が真作であることを証するために作成されるものであることから,鑑定証書の鑑定対象となった原画を,多数の同種画題が存する可能性のある中で特定し,かつ,当該鑑定証書自体が偽造されるのを防止する目的で行っていると認められること,そして,その目的達成のためには,鑑定の対象である原画のカラーコピーを添付することが最も確実であることから,これを添付する必要性,有用性が認められること,著作物の鑑定の結果が適正に保存され,著作物の鑑定業務の適正を担保することは,贋作の存在を排除し,著作物の価値を高め,著作権者等の権利の保護を図ることにもつながるものであることなどを併せ考慮すると,著作物の鑑定のために当該著作物の複製を利用することは,著作権法の規定する引用の目的に含まれるというべきである。そして,本件行為について,原画を複製したカラーコピーは,ホログラムシールを貼\\付した表面の鑑定証書の裏面に添付され,表\\裏一体のものとしてパウチラミネート加工されており,原画をカラーコピーした部分のみが分離して利用に供されることは考え難く,鑑定証書自体も,絵画の所有者の直接又は間接の依頼に基づき1部ずつ作製されたものであり,絵画と所在を共にすることが想定されているということができ,これら鑑定証書が原画とは別に流通している実態があることについての的確な証拠もないことに照らせば,鑑定証書の作製に際して,原画を複製したカラーコピーを添付することは,その方法ないし態様としてみても,社会通念上,合理的な範囲内にとどまるものというべきである。しかも,以上の方法ないし態様であれば,原画の著作権を相続した原告らの許諾なく原画を複製したカラーコピーが美術書等に添付されて頒布された場合などとは異なり,原告らが絵画の複製権を利用して経済的利益を得る機会が失われるなどということも考え難い。以上を総合考慮すれば,被告が,鑑定証書を作製するに際して,その裏面に本件コピーを添付したことは,著作物を引用して鑑定する方法ないし態様において,その鑑定に求められる公正な慣行に合致したものということができ,かつ,その引用の目的上でも,正当な範囲内のものであると認めるのが相当である。そうすると,本件行為は著作権法32条1項所定の「引用」として適法なものであるということができる。
(3)ア この点に関して原告らは,被告が著作権者である遺族の許諾なく行う本件行為は公正な慣行に合致するものではないから,適法引用の要件を充たさない旨主張する。しかし,前記1(6)で認定したとおり,被告の作成する鑑定証書と同程度の大きさの鑑定証書を発行し,絵画のコピーを添付するとの取扱いについては,著作権者の許諾を得ているとするところとそうでないとするところもみられるほか,許諾を得ているとするところでも,結局許諾のないままに行っているとするものもあることなどからすると,原画のカラーコピーを鑑定証書に添付するにつき,著作権者である遺族の許諾を得て鑑定証書に本件コピーを添付するという公正な慣行が存在すると認めることはできないというべきである。

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平成24(ワ)268 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟 平成25年12月20日 東京地方裁判所

カタログに美術作品を複製したことは、著作権法の引用には当たらないと判断されました。
 被告は,本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たる旨主張するが,その主張の趣旨は,本件カタログにおける美術作品の作者,題号等の取引に必要な情報の記載が引用表現であり,美術作品の写真(複製物)が被引用著作物であると主張するものと解される。 そこで検討するに,著作権法32条1項は,「公表された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定するから,他人の著作物を引用して利用することが許されるためには,引用して利用する方法や態様が,報道,批評,研究等の引用するための各目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであり,かつ,引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要である。 本件カタログにおいて美術作品を複製する目的は,本件オークションにおける売買であることは明らかである。他方,本件カタログには,美術作品の写真に合わせて,ロット番号,作家名,作品名,予想落札価格,作品の情報等が掲載されるが(乙17),実際の本件カタログ(枝番号を含めて甲148〜279,乙19)をみても,写真の大きさの方が上記情報等の記載の大きさを上回るものが多く,上記の情報等に眼目が置かれているとは解し難い。また,本件カタログの配布とは別に,出品された美術作品を確認できる下見会が行われていることなどに照らすと,上記の情報等と合わせて,美術作品の写真を掲載する必然性は見出せない。 そうすると,本件カタログにおいて美術作品を複製するという利用の方法や態様が,本件オークションにおける売買という目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとは認められない。また,公正な慣行に合致することを肯定できる事情も認められない。 したがって,被告の主張は理由がない。

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平成24(ワ)33533 著作権侵害差止等請求事件 著作権 平成25年10月30日 東京地方裁判所

 いわゆる自炊業者(スキャン代行業者)に対する差止および損害賠償が認められました。著30条の適用は否定されました。
 複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であり,その複製の実現に当たり枢要な行為をしている者が複製の主体であるということができる(最高裁平成23年1月20日第一小法廷判決・最高裁平成21年(受)第788号・民集65巻1号399頁参照。)。これを本件についてみると,本件における複製の対象は,利用者が提供する書籍であり,問題とされる複製行為は,書籍をスキャナーで読み取って電子化されたファイルを作成することにあるところ,本件事業における一連の作業は,前記第2,1(8)記載のとおり,利用者においてインターネットのウェブサイトから書籍の電子化を申し込み,直接被告会社らの指定する場所にこれを郵送等するか,あるいは,書籍の販売業者等から直接被告会社らの指定する場所に郵送等し,これを受領した被告会社らにおいて,書籍を裁断するなどしてスキャナーで読み取り,書籍の電子ファイルを作成して,完成した電子ファイルを利用者がインターネットを通じてダウンロードするか,電子ファイルを格納したDVDないしUSB等の送付を受ける,というものである。これら一連の作業をみると,書籍を受領した後に始まる書籍のスキャナーでの読込み及び電子ファイルの作成という複製に関連する行為は,被告会社の支配下において全ての作業が行われ,その過程に利用者らが物理的に関与することは全くない。上記によれば,本件事業において,書籍をスキャナーで読み取って電子化されたファイルを作成するという複製の実現に当たり枢要な行為を行っているのは被告会社らであるということができる。そうすると,本件事業における複製行為の主体は被告会社らであり,利用者ではないというべきである。
 (2) 次に本件事案に著作権法30条1項が適用されるか否かにつき検討する。著作権法30条1項は,著作権の目的となっている著作物は,個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは,同項1号ないし3号に定める場合を除き,その使用する者が複製することができる旨規定している。そうすると,同条項にいう「その使用する者が複製する」というためには,使用者自身により複製行為がされるか,あるいは使用者の手足とみなしうる者によりこれがされる必要があるというべきところ,既に検討したとおり,被告タイムズ及び被告ビー・トゥ・システムズは,本件事業における複製の主体であって,使用者自身でも,使用者の手足とみなしうる者でもないのであるから,本件においては,著作権法30条1項にいう「その使用する者が複製する」の要件を満たすとはいえず,したがって,同条が適用されるものではないと認めるのが相当である。

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◆スキャン代行業者に対する他の事件はこちらです。平成24(ワ)33525 平成25年9月30日 東京地裁 文

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平成25(ネ)10040 損害賠償請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成25年09月30日 知的財産高等裁判所

 著作権侵害および著作者人格権侵害が認定されました。被告は人権擁護団体のようです。原告はプライバシー侵害(受刑者として公表された)が気にさわったでしょうか?\n
 事件の経緯は下記です。
刑務所に収容されている受刑者が自己作成の絵画を被告に預けたところ、被告はこれを展示すると共に、展示会のパンフレットに同絵画の複製を掲載して頒布。また、パンフレットに本件絵画とともに受刑者があることとその氏名を掲載。
 前記第2の2(3)において認定したとおり,第1審被告は,本件パンフレットに本件絵画を掲載するに当たり,著作者として第1審原告の氏名を表示しているところ,これは,本件絵画の公衆への提供に際し著作者名を表\示しないこととすることを内容とする第1審原告の氏名表示権を侵害するものである。なお,第1審原告は,前記第2,2(3),同(4)及び前記1(1)のとおり,「アンデパンダン展」が「救援」誌上の絵画の展示会であると認識して,本件絵画を含む複数の絵画を第1審被告に送付した際に,それらの絵画を「匿名」又は変名で掲載することを第1審被告に求めたことはなかったこと,その後本件展示会の開催直前に,第1審被告からの手紙により,展示会が「救援」誌上ではなく,公開のギャラリーで行われることを知ったことから,急遽,自己の氏を表示せず,「(第1審原告の名)」のみの表\示とすることを申し入れたことに照らせば,第1審原告は,「救援」誌上の展示会を前提として,第1審被告に送付した本件絵画を含む各絵画について,その著作者名として自己の氏名を表\示する意思を有していたものにすぎず,公開のギャラリーにおいて本件絵画を展示する際や,一般に頒布される予定の本件パンフレットに本件絵画等を掲載するに際し,著作者としてその氏名を表\示することを承諾していたものと認めることはできない(本件パンフレットについては,本件絵画のカラーコピーを掲載することが複製権侵害となることは,前記2のとおりである。)。そして,他に第1審原告が,第1審被告において本件パンフレットに本件絵画を掲載するに当たり,著作者として第1審原告の氏名を表示することを承諾していたことを認めるに足りる証拠もない。さらに,上記に認定判断したところに加え,本件証拠上,第1審被告が,第1審原告に対し,本件パンフレットに本件絵画を掲載するに当たり,著作者として第1審原告の氏名を表\示することの承諾を得ようとした形跡もうかがえないことも併せ考えると,第1審被告には,本件パンフレットに本件絵画の著作者として第1審原告の氏名を表示することによる氏名表\示権の侵害について,少なくとも過失があるものと認められる。 なお,氏名表示権は著作者人格権の一つであるところ,著作者人格権は,著作者の精神的活動の所産として創作された著作物と著作者との人格的なつながりに基づいて,当該著作物の上に存する著作者の人格的利益を保護するものであり,特に氏名表\示権は,著作者が著作物の創作者であることを表示し,あるいは,表\示しない利益を保護するためのものであるから,かかる著作者の利益は,一般人が,著作物とは無関係に有する,自己が受刑者であることを公表されないことについての利益(プライバシー)とは異なる性質のものである。本件においては,この受刑者であることを公表\されないことについての第1審原告の利益は,法19条の氏名表示権で保護されるべき著作者の利益とは別個のプライバシー侵害の問題として,別途,後記4において判断することとする。\n

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平成25(ヨ)20003 工作物設置続行禁止仮処分申立事件 著作権 民事仮処分 平成25年09月06日 大阪地方裁判所 

 庭園内に工作物を設置することについて、裁判所は、やむを得ないと認められる改変(著20条2項同4号)に該当するとして、設置続行禁止(仮処分)を認めませんでした。
 既に述べたとおり,本件庭園は,自然の再現,あるいは水の循環といったコンセプトを取り入れることで,美的要素を有していると認められる。しかしながら,本件庭園は,来客がその中に立ち入って散策や休憩に利用することが予定されており,その設置の本来の目的は,都心にそのような一角を設けることで,複合商業施設である新梅田シティの美観,魅力度あるいは好感度を高め,最終的には集客につなげる点にあると解されるから,美術としての-24-鑑賞のみを目的とするものではなく,むしろ,実際に利用するものとしての側面が強いということができる。また,本件庭園は,債務者ほかが所有する本件土地上に存在するものであるが,本件庭園が著作物であることを理由に,その所有者が,将来にわたって,本件土地を本件庭園以外の用途に使用することができないとすれば,土地所有権は重大な制約を受けることになるし,本件庭園は,複合商業施設である新梅田シティの一部をなすものとして,梅田スカイビル等の建物と一体的に運用されているが,老朽化,市場の動向,経済情勢等の変化に応じ,その改修等を行うことは当然予定されているというべきであり,この場合に本件庭園を改変することができないとすれば,本件土地所有権の行使,あるいは新梅田シティの事業の遂行に対する重大な制約となる。以上のとおり,本件庭園を著作物と認める場合には,本件土地所有者の権利行使の自由との調整が必要となるが,土地の定着物であるという面,また著作物性が認められる場合があると同時に実用目的での利用が予\定される面があるという点で,問題の所在は,建築物における著作者の権利と建築物所有者の利用権を調整する場合に類似するということができるから,その点を定める著作権法20条2項2号の規定を,本件の場合に類推適用することは,合理的と解される。
イ 模様替え
本件工作物の設置は,本件庭園の既存施設であるカナルや花渦を物理的に改変せずに行うものであることから,著作権法20条2項2号が定める中では,「模様替え」に相当すると解される。債権者は,建築基準法の解釈として,本件工作物の設置は「模様替え」に当たらない旨を主張するが,本件庭園は建築物そのものではなく,著作権法の定めを建築基準法と同一に考える必要もないから,債権者の主張は採用できない。
ウ 著作権法20条2項2号のあてはめ
本件への適用を考えるに,著作権法20条は,1項において,著作者が,その著作物について,意に反して変更,切除その他の改変を受けず,同一性を保持することができる旨を定めた上で,2項2号において,建築物の増築,改築,修繕又は模様替えによる改変については,前項の規定を適用しない旨を定めている。著作権法は,建築物について同一性保持権が成立する場合であっても,その所有者の経済的利用権との調整の見地から,建築物の増築,改築,修繕又は模様替えによる改変について,特段の条件を付することなく,同一性保持権の侵害とはならない旨を定めているのであり,これが本件庭園の著作者と本件土地所有者の関係に類推されると解する以上,本件工作物の設置によって,本件庭園を改変する行為は,債権者の同一性保持権を侵害するものではないといわざるをえない。
エ 債権者の主張について
(ア) 債権者は,著作権法20条2項2号が適用されるためには,1)経済的,実用的な観点から必要な範囲の増改築であること,2)個人的な嗜好に基づく恣意的な改変ではないことが必要であり,本件工作物の設置は,そのいずれの要件も欠くから,同号は適用されない旨を主張する。しかしながら,同号の文言上,そのような要件を課していないことに加え,著作物性のある建築物の所有者が,同一性保持権の侵害とならないよう増改築等ができるのは,経済的,実用的な観点から必要な範囲の増改築であり,かつ,個人的な嗜好に基づく恣意的な改変ではない場合に限られるとすることは,建築物所有者の権利に不合理な制約を加えるものであり,相当ではない。 以上によれば,同号の文言に特段の制約がない以上,建築物の所有者は,建築物の増築,改築,修繕又は模様替えをすることができると解されるのであり,その理は,債権者と債務者の関係にも類推されるというべきである。債務者の主張はこの理をいうものとして理由があり,これに反する債権者の主張は採用できない。 (イ) もっとも,建築物の所有者は建築物の増改築等をすることができるとしても,一切の改変が無留保に許容されていると解するのは相当でなく,その改変が著作者との関係で信義に反すると認められる特段の事情がある場合はこの限りではないと解する余地がある。債権者が,本件工作物の設置はP2個人のプロジェクトのモニュメントであり,実用性,経済性,必要性を欠くと主張する点も,その趣旨を述べたものとして理解することもできるが,前記1で述べたところに照らすと,なお採用できないというべきである。すなわち,本件庭園は,複合商業施設である新梅田シティと一体をなすものであり,市場動向や流行に従って,その設備を適宜に更新していく必要があることは,債権者も理解していたはずであること,債権者は,本件庭園の設計当初から,旧花野について,将来新たな建築がされることを予見していたこと,平成18年改修の際も,一定の改変は受忍するともとれる趣旨を述べていること,債務者は,本件工作物を設置する場所の検討に当たって,一応,債権者の意見を聴取し,一定程度反映させていること,以上の点を指摘することができるのであって,これらを総合すると,本件工作物の設置について,本件庭園の著作者である債権者との関係で,信義に反すると認められる特段の事情があるとまではいえない。\n
オ まとめ
以上によれば,本件工作物の設置は,著作者である債権者の意に反した本件庭園の改変にはあたるものの,著作権法20条2項2号が類推適用される結果,同一性保持権の侵害は成立しないことになる。

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平成24(ワ)36678 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成25年09月12日 東京地方裁判所

 著作権侵害は認められたものの、損害額は10万円と認定されました。
 前記1(1)認定の事実に弁論の全趣旨を総合すれば,被告は,平成24年6月から平成25年1月中旬まで,約20社に対し,被告資料を用いて「EFO CUBE」の営業を行い,そのうちの2社と「EFO CUBE」の提供に関する契約を締結して,平成24年11月及び12月に各月15万6500円,平成25年1月から3月までに各月14万3500円の合計74万3500円の売上げを計上したが認められる。この事実によれば,被告は,上記2社との契約が終了するまでの間,毎月14万3500円の売上げを計上することができ,仮に上記2社との契約が2年間継続するとすれば,この間に合計347万円の売上げを計上することができることになると認められるが,被告資料は,「EFO CUBE」の営業において補助的な役割を有するにとどまる上,被告各記載は7頁で,全18頁の被告資料の約38.8%に相当するにすぎないから,これらの事情を併せ考えると,原告が受けた損害の額は10万円と認めるのが相当である。原告は,被告の売上げ1億6800万円に10%を乗じた額が原告が受けた損害の額であると主張するが,上記被告の売上げは,「EFO CUBE」を2年間提供することによる売上げであって,被告資料を用いたことによるものではなく,また,原告の原告各記載の著作権の行使について売上げの10%を下らない額を受けることができることを認めるに足りる証拠はないから,原告の上記主張は,採用することができない。

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平成24(ワ)32409等 損害賠償本訴,著作権確認等反訴請求事件 著作権 民事訴訟 平成25年08月29日 東京地方裁判所 

 契約解除に基づき、著作権侵害が認められました。本人訴訟です。ただし、著作権者は150万円の既払い料について、発注者へ返還せよと判断されています。
 原告は,著作権法112条2項に基づき,侵害の停止又は予防に必要な措置として,本件作品からの本件風景映像動画の削除を請求する。ところで,同項によれば,この請求は,独立してすることはできず,侵害の停止又は予\防の請求に附帯してしなければならないが,原告は,複製,頒布の停止又は予防を請求していない。そうであるから,独立してした上記請求に係る訴えは,不適法である。\n
・・・
上記イの事情に鑑みれば,被告の上記主張に沿う甲8及び乙1はたやすく採用することができず,他に原告が各々の季節の「扉」に使用するものを除き風景の映像動画を収録することを承諾して本件契約を締結したことを認めるに足りる証拠はない。なお,甲8には,「サンプルとして送付いただいたDVD−Rに含まれる映像素材も,『Virtual Trip 山野草』に使用したい旨をA1様にご相談したところ,A1様からは『どうぞ,お任せします』と快諾をいただきました」との記載があるが,乙1にはこれに沿う記載がなく,また,上記イのとおり,原告は,各々の季節の「扉」に4点の風景の映像動画を収録することを承諾していたにとどまるから,原告がこれを超えて風景の映像動画を使用することを承諾するとは考え難いのであって,甲8の上記部分をもって,原告が「扉」に使用するものを除き風景の映像動画を収録することを承諾したと認めることもできない。
エ そうすると,被告は,本件作品に本件風景映像動画を収録することによって,原告の本件風景映像動画に対する著作権(複製権及び頒布権)を侵害するものと認められる。
・・・
原告は,本件風景映像動画の著作権行使の適正使用料金を受けることができたとして,主な映像ライブラリーにおける著作権フリーのHD動画の一般市場相場にその4倍の違約料金を加算した,1点当たり4万5000円の損害を受けたと主張する。本件契約は,原告が,被告に対し製作した録音録画物の著作権等を譲渡してその自由な利用を許諾し,被告から対価として150万円の支払を受けるというものである。本件作品には,原告が製作した山野草の映像動画が448点収録されているから,原告は,山野草の映像動画1点に対し3348円(円未満切捨て)の支払を受けたものということができる。そして,原告が本件作品に本件風景映像動画を収録することを許諾する場合もこれと同様の条件によるものと考えられる。そうであれば,原告が本件作品に本件風景映像動画を収録することを許諾する場合に,主な映像ライブラリーにおける著作権フリーのHD動画の一般市場相場の使用料金を受けることができたということはできず,さらにその4倍の違約料金を加算した額の使用料金を受けることができたということもできない。イ 前記アに判示したように,原告は,本件作品に本件風景映像動画を収録することを許諾する場合に,本件契約と同様の条件ですると考えられる。そして,これを点数でみるとすれば,原告は,1点当たり3348円として52点の合計17万4096円の支払を受けることになるが,それぞれの映像動画には長短があることに鑑みると,尺数によって算定するのが相当であり,これによれば,原告は,9分8秒分に相当する23万5935円(円未満切捨て)の支払を受けることができたと認められる。ウ そうすると,原告は,本件風景映像動画の著作権の行使について23万5935円を受けることができたのであり,これを自己が受けた損害の額として,その賠償を請求することができる。

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平成22(ワ)12214 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟 平成25年07月18日 大阪地方裁判所

 テロップ製作業者が使用許諾契約無しに使用したフォントを用いて作成されたテロップについて、放送局およびDVD作成業者を訴えましたが、裁判所は請求を退けました。
 原告は,本件タイプフェイスをデータ形式にした本件フォントが,一揃いのタイプフェイスとしてはもちろんのこと,一文字単位でも法的な保護に値する利益を有する旨主張する。本件タイプフェイスの具体的形態は,前記第2の1(4) のとおりであって,著作権法2条1項1号の著作物に該当するものとは認められず(最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2481頁参照),原告も,著作権法に基づく保護を求めているものではないが,本件フォントをテレビ放送等に使用することは,上記法律上保護された利益を侵害するものとして,不法行為に当たると主張する。しかしながら,著作権法による保護の対象とはならないものの利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解されるが(最高裁平成23年12月8日第一小法廷判決・民集65巻9号3275頁参照),本件フォントを使用すれば,原告の法律上保護される利益を侵害するものとして直ちに不法行為が成立するとした場合,本件タイプフェイスについて排他的権利を認めるに等しいこととなり,このような主張は採用できない。イ 原告は,前記アの主張とは別に,本件フォントに係るライセンスビジネスという営業上の利益が侵害された旨の主張もするところ,本件フォントをテロップに使用したテレビ番組が放送されたのは,被告らが,本件フォントソフトを使用してテロップを製作し,あるいは本件フォント成果物をテロップに使用したことにより,故意又は過失による不法行為が成立し,これによって,原告の営業上の利益が侵害された,あるいは,本件フォントに係る使用許諾契約上の地位が侵害された旨を主張すると趣旨と解される。そこで,次項以下では,前記認定事実に照らし,原告のかかる利益を侵害する不法行為が成立するか否かにつき,検討することとする(なお原告は,本件訴訟において,本件フォントを本件編集室のパソ\コンに複製されたことで,本件フォントソフトの販売利益を失った旨の主張はしないことを明確にしている。平成25年5月1日付け原告最終準備書面9頁)。\n
・・・
タイプフェイスあるいはフォントが,一定の財産的価値があるものとして有償取引の対象となっていることは原告主張のとおりであるものの,これらは歴史的,文化的に形成されてきた文字との同一性の範囲内にあるものとして流通しているのであるから,フォント成果物の流通過程において,前者の使用権限の有無を確認すべき義務があるとすれば,その流通に制約が課されることとなり,文字を使用した情報伝達やコミュニケーション自体を阻害するおそれが生じる。(エ) 本件番組は,別法人である放送事業者,編集担当者,番組制作業者及びテロップ製作業者などが,業務を分担する形で制作されているが,このような場合,一般には,各人が受注した範囲で権利の処理を行い,必要な許諾を得るものとされており,特段の理由のない限り,それを前提として各人の業務を遂行することが許されると解される。イ また,原告は,原告の主張する利益の要保護性と被告らによる本件フォントの使用態様とを対比して,被告らの行為は,社会的に相当な範囲を逸脱し,悪質であるとして,不法行為の成立を主張するが,被告らの故意が認められないことは前述のとおりであり,以下の事情を総合すると,被告らが,本件フォントが使用された本件番組等に関与した事実を前提としてもなお,これを違法と評価することはできず,この点からも不法行為に関する原告の主張は採用できないというべきである。

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平成24(ワ)24571 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟 平成25年07月16日 東京地方裁判所

 政治的傾向ないし思想的立場からの一面的な評価を受けるおそれを生じさせるものであって,原告の著作者人格権を侵害すると判断されました。
 本件似顔絵は,原告が昭和天皇及び今上天皇の似顔絵を創作的に描いたものであって,美術の範囲に属するものであるから,原告は,これにつき著作権及び著作者人格権を有するものと認められる。(2) 前記前提事実(6)のとおり,被告が本件似顔絵の写真を投稿した画像投稿サイトの投稿内容は,被告により特にブロックされた者以外の者において自由に閲覧することができる設定とされていたところ,被告は,これに上記写真をアップロードしたのであるから(本件行為1),これにより,原告が本件似顔絵について有する著作権(公衆送信権)を侵害したものというべきである。(3) また,前記前提事実(4)によれば,被告は,自作自演の投稿であったにもかかわらず,被告が本件似顔絵を入手した経緯については触れることなく,あたかも,被告が本件サイト上に「天皇陛下にみんなでありがとうを伝えたい。」「陛下プロジェクト」なる企画を立ち上げ,プロのクリエーターに天皇の似顔絵を描いて投稿するよう募ったところ,原告がその趣旨に賛同して本件似顔絵を2回にわたり投稿してきたかのような外形を整えて,本件似顔絵の写真を画像投稿サイトにアップロードしたものである(本件行為1)。本件似顔絵には,「C様へ」及び「A」という原告の自筆のサインがされていたところ,「C様」は,被告が本件サイトにおいて使用していたハンドルネームであった(乙2の1・2,弁論の全趣旨)。上記の企画は,一般人からみた場合,被告の意図にかかわりなく,一定の政治的傾向ないし思想的立場に基づくものとの評価を受ける可能性が大きいものであり,このような企画に,プロの漫画家が,自己の筆名を明らかにして2回にわたり天皇の似顔絵を投稿することは,一般人からみて,当該漫画家が上記の政治的傾向ないし思想的立場に強く共鳴,賛同しているとの評価を受け得る行為である。しかも,被告は,本件サイトに,原告の筆名のみならず,第二次世界大戦時の日本を舞台とする『特攻の島』という作品名も摘示して,上記画像投稿サイトへのリンク先を掲示したものである。そうすると,本件行為1は,原告やその作品がこのような政治的傾向ないし思想的立場からの一面的な評価を受けるおそれを生じさせるものであって,原告の名誉又は声望を害する方法により本件似顔絵を利用したものとして,原告の著作者人格権を侵害するものとみなされるということができる。\n

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平成24(ワ)24571 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟 平成25年07月16日 東京地方裁判所

 漫画家が書いた似顔絵を無断で画像投稿サイトに投稿したことは,原告の著作権を侵害し,かつ,その名誉又は声望を害する方法で著作物を利用する行為として原告の著作者人格権を侵害すると判断されました。
 前記前提事実(4)によれば,被告は,自作自演の投稿であったにもかかわらず,被告が本件似顔絵を入手した経緯については触れることなく,あたかも,被告が本件サイト上に「天皇陛下にみんなでありがとうを伝えたい。」「陛下プロジェクト」なる企画を立ち上げ,プロのクリエーターに天皇の似顔絵を描いて投稿するよう募ったところ,原告がその趣旨に賛同して本件似顔絵を2回にわたり投稿してきたかのような外形を整えて,本件似顔絵の写真を画像投稿サイトにアップロードしたものである(本件行為1)。本件似顔絵には,「C様へ」及び「A」という原告の自筆のサインがされていたところ,「C様」は,被告が本件サイトにおいて使用していたハンドルネームであった(乙2の1・2,弁論の全趣旨)。 上記の企画は,一般人からみた場合,被告の意図にかかわりなく,一定の政治的傾向ないし思想的立場に基づくものとの評価を受ける可能性が大きいものであり,このような企画に,プロの漫画家が,自己の筆名を明らかにして2回にわたり天皇の似顔絵を投稿することは,一般人からみて,当該漫画家が上記の政治的傾向ないし思想的立場に強く共鳴,賛同しているとの評価を受け得る行為である。しかも,被告は,本件サイトに,原告の筆名のみならず,第二次世界大戦時の日本を舞台とする『特攻の島』という作品名も摘示して,上記画像投稿サイトへのリンク先を掲示したものである。 そうすると,本件行為1は,原告やその作品がこのような政治的傾向ないし思想的立場からの一面的な評価を受けるおそれを生じさせるものであって,原告の名誉又は声望を害する方法により本件似顔絵を利用したものとして,原告の著作者人格権を侵害するものとみなされるということができる。
(4) 以上のとおり,本件行為1は,原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権を違法に侵害するものであり,被告にはそのことについての故意があったと認められる。

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平成24(ワ)10890 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 平成25年07月16日 大阪地方裁判所

 パンフレットをウェブページに表示することが引用と認められました。\n
 著作権法32条1項によると,公表された著作物は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で引用して利用することができると規定されている。引用の目的上正当な範囲内とは,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要であり,具体的には,他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか,その方法や態様,利用される著作物の種類や性質,当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならない。
(2) 本件掲載行為が引用に当たること
別紙ウェブページ記載のとおり,本件パンフレットの表紙(本件イラストを含む。)は,被告岡山県の事業である「新おかやま国際化推進プラン」を紹介する目的で掲載されたものであることが明らかである。その態様も,前記2(2)イ(イ)のとおり,被告岡山県の事業を広報するという目的に適うものであり,本件パンフレットの表紙に何らの改変も加えるものでもない。しかも,このような本件掲載行為の目的,態様等からすると,著作権者である原告P1の利益を不当に害するようなものでもない。以上に述べたところからすれば,本件掲載行為は,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるということができ,「公正な慣行」に合致するということもできるから(原告もこのことについては明示的に争わない。),適法な引用に当たると解するのが相当である。
(3) 原告らの主張について
原告らは,1)本件掲載行為に係る別紙ウェブページの記載(被引用物)が著作物ではないこと,2) 原告らの著作権が表示されていないこと,3)主従関係にはないこと,4)本件掲載行為が同一性保持権を侵害することからすれば,引用は成立しない旨主張して争っている。このうち上記1)の主張について検討すると,旧著作権法30条1項第2では「自己ノ著作物中」に引用することが必要とされていたものの,同改正後の著作権法32条1項では明文上の根拠を有しない主張である。その点はさておくとしても,別紙ウェブページの記載は相当な分量のものであり,内容・構成に創作性が認められる(選択の幅がある)ことからすれば,その著作物性を否定することは困難である。上記2)の主張について検討すると,本件パンフレットの表紙には原告P1の氏名の表\示がないものの,後記4のとおり,このことは原告P1の氏名表示権を侵害するものではない。そうすると,本件パンフレットの表\紙は無名の著作物であり,著作権法48条2項により出所の表示の必要がないから,上記2)の主張にも理由がない。上記3)の主張については,前記2(2)イ(ウ)のとおり,別紙ウェブページにおける本件パンフレットの表紙の記載はウェブページ全体の中ではごく一部であり,主従関係にあるものと認められるから,上記3)の主張も採用できない。上記4)の主張に理由がないことは,後記4で述べるとおりである。よって,原告らの主張はいずれも採用できない。なお,別紙ウェブページ記載の態様からすれば,本件パンフレットの表紙の部分は,他のウェブページの記載と明瞭に区別することができる。\n

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平成24(ワ)13494 著作者人格権等侵害行為差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成25年06月28日 東京地方裁判所

 警告書、苦情申告書、答弁書をブログに掲載されたことが、公衆送信権侵害となるのかが争われました。苦情申\告書、答弁書については著作物性が認められました。ただし、差止のみで、損害賠償請求については認められませんでした。
 (ア) 前記前提事実(2)アのとおり,原告文書1は,原告が,南洋株式会社(通知人)の代理人として,平成23年10月4日,被告Y1に宛てて送付した通知書であり,表題,日付等の記載の後に,通知人の代理人として通知を行う旨及び被告Y1の作成するブログ内に通知人に関し事実に反する内容の記事が掲載されている旨を記載し,上記記事のURLを表\示し,さらに,上記記事の内容が事実に反し通知人の名誉・信用を著しく害し多大な損害が発生しているものである旨,上記記事の削除を求め,削除に応じない場合には仮処分申立てや損害賠償請求等の必要な法的措置をとらざるを得ない旨,以後問合せは通知人本人ではなく通知人代理人にされたい旨を記載したものである。上記原告文書1の本文部分は,上記URLの表\示部分を含めても17行,URLの表示部分を除けば13行からなるものである。
(イ) 原告文書1は,上記のとおり,前提となる事実関係を簡潔に摘示した上で,これに対する法的評価及び請求の内容等を短い表現で記載したものにすぎない。原告文書1の体裁,記載内容,記載順序,文章表\現は,いずれも内容証明郵便による通知書として一般的にみられるものであり,ありふれたものというべきであるから,原告文書1において何らかの思想又は感情が表現されているとしても,上記思想又は感情が創作的に表\現されているものとは認められない。この点,原告は,原告文書1は,用語や言い回しを厳選し,最も適切な表現を慎重に吟味して作成されたものであり,作成者の個性が表\れていると主張するが,原告の主張するような点を原告文書1から表現として感得することはできず,上記主張を採用することはできない。
(ウ) したがって,原告文書1に著作物性は認められない。
イ 原告文書2について
(ア) 前記前提事実(2)イのとおり,原告文書2は,原告が東京行政書士会会長宛てに提出した平成23年10月17日付けの苦情申告書であり,A4版5ページからなる文書である。原告文書2は,表\題,日付等の記載の後に,苦情の趣旨及び苦情の理由を記載し,さらに「第3 最後に」として,「申告者は,…多くの行政書士の方々が本当に真摯に依頼者のために業務に取り組まれていることをよく存じあげております。そのような中で,本件の苦情対象行政書士のごとく,行政書士法違反の非違行為を行う行政書士がごく少数でも存在することは,行政書士全体の社会的信用を貶めるものであり,適正に業務をされておられる大多数の行政書士の方々にも多大な悪影響を及ぼすものであると思います。」などと記載し,東京行政書士会に調査,対応を求める旨と,状況の改善がない場合には対象行政書士の東京都知事に対する懲戒を申\し立てる所存である旨などを記載したものである。
(イ) 原告文書2は,上記のとおり,行政書士会に対する苦情申告書であり,その文書の性質上,当然に記載すべき項目(日付,申\告者等の形式的記載事項や,申告すべき苦情の内容,事実関係の記載,上記事実関係の法的評価,非違行為に該当する考える理由等)を含むものであるということができる。しかし,苦情の内容,事実関係,その法的評価等に関する点については,記載すべき内容が形式的かつ一律に定まるものではなく,これらをどのような順序で,どのような表\現により,どの程度記載するかについては,様々な可能性があるものというべきである。そうすると,原告文書2は,上記のとおり表\現について様々な可能性がある中で,記載の順序や内容,文章表\現を工夫したものということができるのであって,このような点に,作成者の個性の表出がみられるものというべきであり,思想又は感情を創作的に表\現したものに当たるということができる。
(ウ) したがって,原告文書2には著作物性が認められる。 ウ 原告文書3
(ア) 前記前提事実(2)ウのとおり,原告文書3は,被告Y1が東京弁護士会に対し請求した原告の懲戒請求につき,原告が,平成23年11月16日,東京弁護士会綱紀委員会宛てに提出した答弁書であり,事件番号,表題,日付等の形式的記載事項の表\示の後に,請求の趣旨に対する答弁,懲戒請求に至る経緯及び理由に対する認否,被調査人(原告)の主張を記載したものである。被調査人(原告)の主張においては,同人が作成した「かなめくじ」に関するブログ記事が,請求者(被告Y1)の事務所(「かなめ行政書士事務所」)を指したものではないことなどを示す事情として,「かなめくじ」というキャラクターを制作した経緯(「かなめくじ」とは有機物的な気色悪いキャラクターであり,これを「くそキモキャラ」と呼ぶこと,「かなめくじ」とは,「蚊」と「なめくじ」を合体させたものであること,人に嫌悪感をもよおす生き物のうちから,制作が容易でシンプルなデザインであり,かつ,グッズ化に向きやすい形状・性質のものであって,動作や動きの再現が容易であるなどの条件を満たすものとして,軟体動物をモチーフに選んだ上で,これに蚊の羽を合体させることにしたこと,「蚊」と種々の軟体動物の名称を組み合わせてみた結果,語感の響き等から「かなめくじ」を選ぶに至ったことなど)が詳細に記載されている。
(イ) 原告文書3は,上記のとおり,懲戒請求手続において東京弁護士会綱紀委員会宛てに提出された答弁書であり,その文書の性質上,当然に記載すべき項目(表題,日付等の形式的記載事項や,懲戒請求理由に対する認否等)を含むものであるということができる。しかし,これらのうち,懲戒請求に至る経緯及び理由に対する認否,被調査人(原告)の主張については,記載すべき内容が形式的かつ一律に定まるものではなく,どのような順序で,どのような表\現により,どの程度記載するかにつき様々な可能性があり得ることは原告文書2と同様であるところ,原告文書3は,これらの点について工夫がみられ,特に被調査人(原告)の主張の内容及び表\現はこの種文書において一般的なものとはいい難いものというべきである。そうすると,原告文書3には,作成者の個性が 表現として表\れているものとみることができる。
(ウ) したがって,原告文書3は思想又は感情を創作的に表現したものに当たり,著作物性が認められる。
(3) 小括
以上のとおり,原告文書1には著作物性が認められないから,原告文書1に係る原告の請求(被告各ブログにおける原告文書1を掲載して使用することの差止請求及び損害賠償請求)については,その余の点について検討するまでもなく理由がない。したがって,原告文書2及び3についてのみ,以下の争点につき検討する。

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平成25(ワ)1918 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 平成25年05月17日 東京地方裁判所

 米国法人の原告の著作権侵害について、準拠法はわが国著作権法と認定されました。
 文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)5条(2)によれば,著作物の保護の範囲は,専ら,保護が要求される同盟国の法令の定めるところによるとされるから,我が国における著作権の有無等については,我が国の著作権法を準拠法として判断すべきである。我が国とアメリカ合衆国(以下「米国」という。)は,ベルヌ条約の同盟国であるところ,本件各作品の著作者は,米国法人である原告であると認められるから(甲1の1ないし37),我が国において著作権法による保護を受ける(著作権法6条3号,ベルヌ条約5条(1),2条(1))。なお,著作権侵害を理由とする損害賠償請求の法的性質は不法行為であり,法の適用に関する通則法17条により準拠法を決定するべきであるところ,本件において,同条にいう「加害行為の結果が発生した地」は日本国内であると認められるから,我が国の法律がその準拠法となる。

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平成22(ワ)38003 出版差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成25年03月01日 東京地方裁判所

 本件著作物の一部については、著作者であるとして、氏名表示権侵害を認めました。\n
 原告は,本件著作物が亡Wと原告X4の共同著作物であり,仮にそうでなくとも,亡Wの原稿を原著作物とする原告X4の二次的著作物であるから,本件著作物を分冊化した分冊Iの著作者名として原告X4の名が表示されていないことは,原告X4の氏名表\示権を侵害すると主張する。この点,前記第2,2(3)のとおり,本件著作物については,亡Wがその執筆を始め,本件著作物のうち第I部「古典物理学」の部分(第5章「相対性理論」を除く。)の大半の原稿を完成間近とし,第II部「量子物理学入門」の原稿構成等のメモを途中まで制作したところで死亡したことから,その後,原告X4が,上記「相対性理論」の章を新たに執筆し,上記「量子物理学入門」の部分は,亡Wの上記原稿構\成等のメモを基に執筆し,その他の部分は,適宜内容の加除訂正を行って,本件著作物を完成させたことが認められるところ,前記第2,2(2)アの事実に,証拠(略)及び弁論の全趣旨を併せ考慮すると,本冊の第I部「古典物理学」(832頁分)のうち,原告X4が新たに執筆した第5章「相対性理論」の部分が24頁分(809頁ないし832頁)であること,第1章から第4章まで(3頁から808頁まで)は,亡Wがその原稿をほぼ仕上げていたものの,その部分に対して,原告X4が用紙24枚分の加除訂正を行ったこと,原告X4による上記加除訂正の中には,新たに図や数式を用いながら微分法とそれに関する関数の性質について解説した「微分法について」と題する記述(第I部・第1章「力学」の「1.2.1 直線運動における速度と加速度」の項の中にあり,本冊の13頁から約3頁分に相当する部分。)を挿入したり,従前の式に微分法の式を付加したり,図の座標軸を加筆して,本文中にその図の説明を書き加えたり,不適切な図を正しい図に修正したり,元の原稿になかった新たな見解や新たな説明を付加したり,いくつかの文章について,その一部を削除し,あるいは加筆して,文章の表現を正確又は分かりやすくしたり,十\数箇所の「長円」との表現を全て「楕円」との表\現に改めるなど,単なる誤字脱字の修正にとどまらず,文章や図などの具体的な表現について加除訂正がなされた部分が多数あること,第II部「量子物理学入門」について,そのうち亡Wの原稿構成等のメモが遺されていたのは,前半部分(第1章「量子力学入門」の始めから第2章「変換理論」の途中までであり,おおむね本冊の833頁から918頁に相当する部分。)だけであり,しかも,そのメモは手書きで,そこに記された文章はなお推敲の途上にあって,原稿として未完成であったこと,そのため,原告X4はそのメモにかなりの加筆修正を加えながら,前半部分の原稿を仕上げたこと,亡Wのメモが存在しなかった後半部分(第2章「変換理論」の途中から第3章「場の量子論から」の終わりまでであり,おおむね本冊の919頁から986頁に相当する部分。)については,全ての原稿を原告X4が新たに執筆したこと,以上の各事実が認められる。これらの事実によれば,本件著作物の創作における原告X4の寄与は,亡Wの創作した著作物を単に監修したという程度にとどまるものではなく,むしろ,原告X4は,亡Wの遺稿に基づきつつ,本件著作物の全体にわたって具体的な表\現の創作に寄与したものと解するのが相当である。したがって,原告X4は,本件著作物について,少なくとも当該創作部分の著作者としての権利を有するものと認めるのが相当である。
 (2) この点に関し原告らは,原告X4の権利が,主位的に,共同著作物に係る著作権であると主張し,予備的に,二次的著作物に係る著作権であると主張する。この点,前記のとおり,原告X4が上記創作を行ったのは,亡Wの死後であるから,上記各部分は,原告X4が単独で創作したものであって,亡Wがその創作に関与したことはない。しかも,原告X4は,亡Wの死後に,本件著作物の執筆を依頼されたものであるから,亡Wの生前に,亡Wと原告X4とが,互いに共同で本件著作物を創作することを合意していたこともない。そして,仮に亡Wが,自己の死後に,その遺稿をもとにして第三者が本件著作物を完成させることを望んでいたとしても,亡Wが,その第三者が原告X4となることを知っていたわけではない以上,亡Wにおいて,原告X4と共同して本件著作物を創作する意思を有していたと認めることはできないというべきである。そうすると,本件著作物が,亡Wと原告X4とが共同して創作した共同著作物であると認めることはできない。しかし,上記のとおり,原告X4は,本件著作物について,少なくとも上記創作部分を新たに執筆しているから,その部分については本件著作物を翻案することにより創作した二次的著作物と認められるものである。したがって,原告X4は,少なくとも本件著作物について二次的著作物の著作者としての権利を有するものと認めるのが相当である。\n

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平成23(ワ)40129 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 平成25年01月31日 東京地方裁判所

 著作権登録してあるにもかかわらず、著作物性無しと裁判所に認定されたと、文化庁長官を訴えました。当然、請求棄却です。
 原告は,原告が本件各登録申請を行った際,文化庁長官は,本件担当職員をして,原告に対し,本件各登録をしたからといって著作権の権利者という地位は保証されない等の説明をさせるべき職務上の法的義務を負っていたのに,これを怠った違法があると主張する。しかしながら,文化庁長官がかかる義務を負うことにつき定めた法令はないし,仮に文化庁長官が「著作物でないもの」や「著作物かどうか不明なもの」を著作権登録しているという事実を認識しているとしても,これにより文化庁長官が上記のような義務を負うこととなるわけではなく,その他文化庁長官がかかる義務を負うことを認め得る根拠もない。したがって,原告の主張は,前提を欠くものであって,採用することができない。
(2) 原告は,文化庁長官の行為が違法であるとして,文化庁長官が著作物ではない本件図柄について著作権登録原簿に登録をした,文化庁長官が原告に告知,弁解,防御の機会を与えることなく原告の著作権を没収した,などと主張するが,原告の主張は,独自の見解に立つものであって,失当というほかない。

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平成23(ワ)32584 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟 平成24年12月21日 東京地方裁判所

 著作権侵害について、準拠法は日本と判断し、約7万円の損害賠償を認めました。弁護士費用は一般的には10%ですが、今回は5万円です。
1 準拠法について
(1) 本件では,本件写真の著作物性,著作者及び著作権者について争いがあるが,文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)5条(2)によれば,著作物の保護の範囲は,専ら,保護が要求される同盟国の法令の定めるところによるから,我が国における著作権の帰属や有無等については,我が国の著作権法を準拠法として判断すべきである。我が国とアメリカ合衆国は,ベルヌ条約の同盟国であるところ,本件写真は,アメリカ合衆国において最初に発行されたものと認められ(前提事実(2)),後記2のとおり,その著作物性と同国の国民である原告Aが著作者であることが認められるから,同国を本国とし,同国の法令の定めるところにより保護されるとともに(ベルヌ条約2条(1),3条(1),5条(3)(4)),我が国においても著作権法による保護を受ける(著作権法6条3号,ベルヌ条約5条(1))。(2) また,本件では,原告Aは,原告会社に対し,本件独占的利用許諾権を付与した(前提事実(3))のであるから,このような利用許諾契約の成立及び効力については,当事者が契約当時に選択した地の法を準拠法とし(法の適用に関する通則法7条),他方,選択がないときは,契約当時において契約に最も密接な関係がある地の法が準拠法である(法の適用に関する通則法8条1項)。そして,本件独占的利用許諾権の付与が譲渡と同じ法的性質であると解したとしても,譲渡の原因関係である債権行為については同様に解するのが相当である。そこで検討するに,本件独占的利用許諾権の付与は,原告Aがハワイ州公証人の面前において自ら署名した宣誓供述書をもって行ったものであり(前提事実(3)),その相手方である原告会社が同州に所在する会社であることも併せると,アメリカ合衆国ないしハワイ州の法を選択したものと解するのが相当である。そして,アメリカ合衆国著作権法101条は,「『著作権の移転』とは,著作権または著作権に含まれるいずれかの排他的権利の譲渡,モゲージ設定,独占的使用許諾その他の移転,譲与または担保契約をいい,その効力が時間的または地域的に制限されるか否かを問わないが,非独占的使用許諾は含まない。」と規定するから,本件独占的利用許諾権の付与は同条にいう「著作権の移転」に含まれる。また,同法204条(a)は,「著作権の移転は,法の作用によるものを除き,譲渡証書または移転の記録もしくは覚書が書面にて作成され,かつ,移転される権利の保有者またはその適法に授権された代理人が署名しなければ効力を有しない。」と規定するが,原告Aは,自ら署名した宣誓供述書をもって,本件独占的利用許諾権を付与したのであるから(前提事実(3)),本件独占的利用許諾権の付与は効力を有すると解される。加えて,原告Aは,本件独占的利用許諾権の付与以前に,原告会社との間で非独占的代理店契約を締結しており(前提事実(3)),前同様にアメリカ合衆国ないしハワイ州の法を選択したものと解されるが,これらの法に照らし,非独占的代理店契約の成立及び効力を否定する根拠は見当たらないから,本件独占的利用許諾権によって変更された非独占的利用許諾権以外の条項については,なお効力を有するものと解される。(3) そして,著作権侵害を理由とする損害賠償請求の法律関係の性質は,不法行為であるから,その準拠法は法の適用に関する通則法17条によるべきであり,「加害行為の結果が発生した地」は,我が国における著作権侵害による損害が問題とされているのであるから,我が国と解するのが相当である。
・・・
被告は,本人尋問において,本件写真をダウンロードした経緯について,概ね次のとおり供述する。まず,インターネットの検索サイトであるYahoo!から「ハワイ」を入力して画像を検索し,その検索結果(乙25)から本件写真を選択した。本件写真(1)を選択すると,新しい画面(乙28)が表示されたので,その画面下部に記載された壁紙LinkのURLをクリックした。そうすると,壁紙Linkのサイトの画面(乙29)が表\\示され,その下部のURLをクリックすると,別の画面(乙30)が表示された。そして,その画面に表\\示された本件写真(1)をクリックすると,更に別の画面(乙31)が表示され,そこには「デザイナーズ壁紙は海外のショップでフリーの素材として販売していたものを収集したもの,及び,海外のネット上で流通しているものを収集したものです。無料ダウンロードした写真壁紙は個人のデスクトップピクチャーとしてお楽しみください。また,掲載の作品をホームページ素材として,お使いいただく場合にはリンクをお願い致します。」と記載されていたので,フリー素材,無料であると誤信した。本件写真(2)も同様の手順であり,上記の記載と同様の記載があった。(2) しかしながら,被告は,本件提起前の永田弁護士との交渉において,永田弁護士に送付した文書には,「この写真の提供先は,ヤフーの画像からハワイと入力して,頂きました。写真には,名前のサインも入力されていないことを確認して『一期一会』のポエムにのせました」(甲13の1),「ヤフーを検索し,画像から趣味のブログ更新の為,ハワイのキーワードを入力しました。画像も持ち主が写真家様と知らず,(サインの記入もなかった為)写真家様の画像との認識もないまま 軽率にも 趣味のブログにて写真家様の画像を掲載してしまった事を心から謝罪させて頂きます。」(甲19の1),「私も2度とYahoo!画像から趣味のブログへの写真を掲載致しません。」(甲21)と記載しているのみであって,永田弁護士に対し,本件写真が壁紙Linkの記載からフリー素材であると誤信した旨を述べていない(被告本人)。そうすると,被告が上記(1)の手順で本件写真をダウンロードしたとは容易に認めることができないし,上記の各記載に照らすと,被告は,壁紙Linkの記載を閲覧することなく,Yahoo!の画像検索結果から本件写真をダウンロードした蓋然性が高いというべきである。(3) もっとも,被告が上記(1)の手順で本件写真をダウンロードしたとしても,上記(1)の「海外のショップでフリーの素材として販売していたもの」あるいは「海外のネット上で流通しているもの」との記載は,一定程度の注意をもって読めば,壁紙Linkが本件写真の利用許諾を受けていないことについて理解ができるものである。(4) そうすると,被告は,本件写真の利用について,その利用権原の有無についての確認を怠ったものであって,本件写真をダウンロードして複製したこと及びアップロードしてブログに掲載し公衆送信したこと(複製権及び公衆送信権の侵害)について,過失があると認められる。

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平成22(ワ)28318等 委託料請求事件 その他 民事訴訟 平成24年10月15日 東京地方裁判所

 本の製作の受託者が、著作権侵害の疑いの強い本を委託者に納入したことによる損害賠償請求事件です。裁判所は、債務不履行があったとして、委託者に生じた損害賠償を認めました。
 上記(1)において認定した事実によれば,本件委託契約においては,原告と被告の担当者との間で,初心者を読者として想定した陸海空の自衛隊が分かるような内容を基本線とし,マニアックな内容も入れたムック本を制作するという基本的な内容についての合意がされた。しかし,その後の制作の経緯及び著作権侵害の指摘を受けた後の原告の説明内容によれば,実際の編集・制作作業は専ら原告によって行われ,参照図書の選択及びその参照方法,本件ムック本の全体の構成,各章の編成方法等は原告によって決定され,校正作業も原告に委ねられたものと認められる。上記のような事実関係に照らせば,原告は,本件ムック本の制作において当然行われるべき,類似図書との対比による著作権侵害のおそれの回避作業を,被告から委ねられていることを前提とした作業をしているものと認められ,本件委託契約において,原告は,委託者である被告に対し,合理的にみて著作権侵害の疑いがある書籍を編集・制作しない義務を負っていたものと認めるのが相当である。
 イ そこで,原告が上記義務を履行したものといえるかについて検討する。本件ムック本と「自衛隊100科」は,いずれも自衛隊に関する情報を提供することを目的とする出版物であるから,「自衛隊100科」に記載された客観的な情報が本件ムック本において記述されていたとしても,それだけでは直ちに不自然であるとはいえない。しかしながら,別紙対照表1をみるに,本件ムック本の記載のうち,「自衛隊100科」の著作権侵害と指摘された箇所は多数である上,表\現が異なる部分もあるものの,語句を入れ替えた程度にすぎない部分も多い。そうすると,著作権侵害と指摘された箇所の大部分が客観的な情報に関する記述であることを考慮したとしても,当該箇所は「自衛隊100科」に依拠したものと認めるのが相当であり(上記(1)ウのとおり,原告は,本件ムック本の原稿データの編集・制作に当たり,「自衛隊100科」を参考としたことを認めている。),本件ムック本は合理的にみて著作権侵害の疑いがある書籍であったというべきである。そして,このような合理的にみて著作権侵害の疑いがある書籍については,紛争が生じるおそれがあるために,通常の形態での販売が困難であることは明らかであり,実際に,本件ムック本については,防衛弘済会と被告との間で紛争が生じ,被告は本件ムック本の出荷を停止している。そうすると,本件ムック本については,最終的に表現において類似性が認められないために著作権侵害とされない箇所があるとしても,合理的にみて著作権侵害の疑いがある書籍であったから,本件ムック本の原稿データを編集・制作した原告は本件委託契約の債務の本旨に従った履行をしていない(不完全履行)というべきである。\n

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平成23(ワ)14347 著作権侵害停止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成24年09月28日 東京地方裁判所

 司法書士試験の予備校で使用する教科書について、著作物性が否定されました。競業避止義務違反の債務不履行も否定されました。
 ア 著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定しているのであって,当該作品等に思想又は感情が創作的に表\現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表\現上の創作性がないものについては,著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならない。そして,当該作品等が,「創作的」に表現されたものであるというためには,厳密な意味で作成者の独創性が表\現として現れていることまでを要するものではないが,作成者の何らかの個性が表現として現れていることを要するものであって,表\現が平凡かつありふれたものである場合には,作成者の個性が表現されたものとはいえず,「創作的」な表\現ということはできないというべきである。イ 前記(1)ア(ア)ないし(ウ)のとおり,原告書籍は,司法書士試験合格を目指す初学者向けのいわゆる受験対策本であり,同試験のために必要な範囲で民法の基本的概念を説明するものであるから,民法の該当条文の内容や趣旨,同条文の判例又は学説によって当然に導かれる一般的解釈等を簡潔に整理して記述することが,その性質上不可避であるというべきであり,その記載内容,表現ぶり,記述の順序等の点において,上記のとおり民法の該当条文の内容等を簡潔に整理した記述という範囲にとどまらない,作成者の独自の個性の表\れとみることができるような特徴的な点がない限り,創作性がないものとして著作物性が否定されるものと解される。
ウ(ア) 以上を前提に,まず,原告書籍のうち,別紙対比表1の記述内容についてみると,前記(1)イ(ア)のとおり,別紙対比表1は,失踪宣告取消の効果について解説したものであり,具体的には,「失踪宣告取消の効果/失踪宣告が取消されると,その宣告は初めからなかったものと扱われる/→死亡したものとみなされたことから発生した法律関係は/原則,全部復元する(失踪宣告前の状態に戻す)/→相続財産・生命保険金の返還,婚姻関係の復活/→しかし/これを貫くと失踪宣告を信じていた者は不測の損害を被る/→そこで/復元に一定の制限を設ける/a失踪宣告を直接の原因として財産を取得した者/→「現に利益を受ける限度」で返還すればよい(32II)/ex.相続人・生命保険金受取人・受遺者(遺贈を受けた者)」(判決注:「/」は改行を示す。以下同じ。)などと記述し,その具体例を図示するなどして説明したものである。(イ) 上記記述は,内容において,該当条文(ここでは民法32条)の規定内容,趣旨,効果等として一般的に理解されるところを記載したものにすぎない。また,表現ぶりにおいても,簡潔かつ平易な表\現であるということができるものの,上記イでみた原告書籍の性質上,このような表現ぶりは,ありふれたものであるというべきである。さらに,その記述の順序をみても,失踪宣告取消に関する原則論について述べた上で,上記原則を貫いた場合に生じる不都合について述べ,上記原則の修正としての例外規定の内容及び具体例について述べたものであり,格別の特徴があるものとはいうことができない。また,上記説明において具体例を挙げることも,原告書籍の性質上ありふれたものであるところ,上記具体例の内容をみても,父の失踪宣告が取り消された場合において,子が失踪宣告により得た相続財産1000万円中,残存500万円,生活費300万円,競馬等の遊興費200万円のどの範囲を現存利益として返還すべきかを示すというものであり,上記具体例の内容に,「1000万」を長方形で囲み,財産の流れを矢印で示すなどという表\現上の工夫点を加えて見たとしても,独自の工夫といえる点はなく,ありふれたものというべきである。
(ウ) これに加えて,原告は,太字,アンダーライン,付点等による強調,枠囲み,矢印の使用,余白の取り方,イラストの使用等に表現上の特徴があるとも主張する。この点,原告は,原告書籍中,被告書籍と実質的に同一であると考える部分を,原告書籍マーカー部分として特定した旨主張しており,請求の趣旨において,被告書籍マーカー部分の複製等の差止めを求めていることなども考慮すれば,原告書籍マーカー部分につき,著作権侵害を主張するものであると解される。そもそも,ある作品等の一部につき,複製等がされたとして著作権侵害を主張する場合においては,当該作品等の全体が上記の意味における著作物に該当するのみでは足りず,侵害を主張する部分自体が思想又は感情を表\現したものに当たり,かつ,当該部分のみから,作成者の個性が表現として感得できるものであることを要するものと解するべきであるから,原告書籍においても,その全体が著作物に該当するのみでは足りず,侵害を主張する部分(原告書籍マーカー部分)について,著作物に該当することを主張すべきものと解される。そうすると,原告書籍マーカー部分に含まれない部分である余白の取り方等に関し,著作物性を主張することは,原告の請求内容とは整合しないものというべきであるが,この点を措くとしても,強調のために太字,アンダーライン等を使用し,区切りやまとまりを示すために枠囲みや矢印を使用するということ自体はありふれたものである。また,具体的に強調されている部分等をみても,原告書籍は,「ただし,現存利益で足りるのは善意者のみ」との記述中の「善意者」の部分を強調するなど,作成者において,司法書士試験対策として重要であると考えた記述部分を強調していると思われるものであるところ,どの部分を重要であると考え,強調するかという点は思想又はアイデアに属するものであると考えられる上,これを表\現であるとみたとしても,原告書籍の性質上,その記述の一部を強調するということはありふれたものであるというべきである。また,どの部分を強調するかという強調部分の選択においても,一般に重要であると解されるところを選択したものにすぎず,特段,特徴的なところは見いだせない。区切り,囲みについても同様であり,問題意識,理由付け,結論等,それぞれ分けることができると考えられる部分を区切り,又は一定のまとまりがあると考える部分を囲むということ自体は思想又はアイデアに属するものであると考えられる上,これを表現であるとみたとしても,その選択及び方法に特徴的なところは見出すことができない。
・・・
本件競業避止義務条項の内容は前記前提事実(2)エのとおりであって,被告につき,業務委託契約期間終了後1年間,原告と競合関係に立つ企業等への一切の関与及び競業事業の開業を禁ずるものであるところ,前記前提事実(2)アのとおり,被告は,原告との間で業務委託関係にあった者にすぎず,業務委託関係終了後は,本来,他企業への関与又は事業の実施を自由に行うことができるべきものである。そうすると,本件競業避止義務条項は,業務委託関係終了後における被告の職業選択の自由に重大な制約を新たに加えようとするものということができるから,このような条項が有効とされるためには,原告が確保しようとする利益の性質及び内容に照らし,競業行為の制約の内容が必要最小限度にとどまっており,かつ,これにより被告が受ける不利益に対し,十分な代償措置が執られていることを要するものと解するのが相当である。(2) そこで本件につき,これらの点を検討すると,原告は,本件競業避止義務条項により保護されるべき原告の利益として,原告の構築した受験指導方法・体制(「LEC体系」)に係るノウハウ,多大な投資を行うことによって育成した講師という無形資産,原告の貢献によって作成された著作物の著作権を挙げる。しかし,上記各利益のうち,ノウハウに関する点については,その具体的内容自体明白ではなく,競業避止義務により保護されるべき利益に当たると認めるに足りない。原告代表\者作成の書籍においては,「LEC体系」という文言が用いられ,「LECでは合格自体が目的」,「講師に『身分・肩書き』はいらない」などの記載があるが(甲66),上記書籍によっても,ノウハウの具体的内容は明らかではない。また,原告が講師の育成に努めたものであるとしても,これにより当該講師が習得した知識・技能等が,原告の営業秘密たる技術又はノウハウ等に係るものである場合は別論,一般的な知識・技能\にとどまる場合には,当該講師が原告との関係終了後に上記知識・技能を使用することは本来自由であるから,これを制限することは,自由競争を制限することに他ならず不当なものというべきであるところ,本件において,原告が被告に対し,原告の営業秘密たる技術又はノウハウ等を開示し,被告がこれを習得したと認めるに足りる主張及び立証はない。更に,著作権については,これを保護するために必ずしも競業避止義務による必要はないものであり,これを保護利益とするためには,その必要を基礎づけるだけの特段の事情が必要であると解されるところ,その特段の事情についての主張立証もない。そうすると,原告の主張する保護利益については,いずれも競業避止義務により保護されるべきものと認めるだけの,主張立証がない(前提事実(4)のとおり,被告は被告サイト上において,被告書籍マーカーを含む被告書籍を無償で配信しているものであるが,被告書籍マーカー部分に相当する原告書籍マーカー部分に著作物性が認められないことは前記のとおりであり,上記の点を,著作権を保護利益とみるべき根拠とすることはできない。)他方,本件競業避止義務による制約の内容は,前記前提事実(2)エのとおり,本件契約終了後1年間であって,一般的な競業避止義務条項に比較して長期とは認められないものの,競業が禁止される地理的範囲を問わず,原告と競合関係に立つ企業への一切の関与及び起業を禁ずるというものである。これは,原告と被告との関係が,契約の更新期間を1年間とする業務委託契約に基づくものにすぎず,前記のとおり,原告に保護利益が存することの主張立証がないことも考慮すれば,広範にすぎ,かつ,被告に対し重大な不利益を課すものであるということができる。それにもかかわらず,被告に対し,契約関係終了前後を通じて,何らの代償措置も執られていないことは,原告も自認するところである(被告に対し,年額約1100万円の報酬が払われた時期があったとしても,これは,主として被告の実施した講義の対価〔1時間当たり6000円ないし1万円〕であって,その中には本件講義ノートの著作権が原告に譲渡されることの対価が含まれていることにも照らせば,これをもって競業避止義務の代償措置と認めることはできない。)。
(3) そうすると,本件競業避止義務条項による制約が,必要最小限度のものとは認められず,代償措置も執られていない以上,本件競業避止義務条項は,合理的理由なく過大な負担を被告に一方的に課すものとして,公序良俗に反し,無効であると認められる。(4) したがって,被告は原告に対し競業避止義務を負うものではなく,被告に,本件競業避止義務違反の債務不履行は認められない。

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平成22(ワ)36664等 著作権侵害差止等請求事件 著作権 平成24年09月27日 東京地方裁判所

 著作権譲渡は認められないとして、損害賠償が認められました。
 原告が,昭和52年ころ,電通の担当者から,被告寿屋の餃子・焼売の商品のパッケージに使用するイラストの制作を依頼され,墨一色で描いた5枚のイラスト(本件各イラスト)を制作し,それらの原画(本件原画)を電通に引き渡し,その際,電通から,少なくとも10万円を超える報酬を受け取ったこと,原告が,同年ころ,電通の担当者から,本件原画を基に着色をするなどして制作された被告イラスト1−1,2−1,3,4−1及び5−1の校正刷りを示され,色等の仕上がりを確認し,これらのイラストを被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することを承諾したことは,前記1(2)認定のとおりである。しかしながら,原告が電通に対して上記報酬の支払を受けて本件各イラストの原作品である本件原画を引き渡したことは,本件原画の所有権の譲渡の事実をうかがわせる事情には当たるものの,著作物の原作品の所有権と当該著作物の著作権とは別個の権利であり,原作品の所有権は,その有体物の面に対する排他的支配権能であるにとどまり,無体物である著作物自体を直接排他的に支配する権能\ではないから,著作物の原作品の所有権が譲渡されたからといって直ちに著作権が譲渡されたことになるものではなく,原告が電通に対し本件各イラストの著作権を譲渡したことを直ちに裏付けることにはならない。また,原告が電通から支払を受けた具体的な報酬額は本件証拠上明らかではなく,その報酬額から本件各イラストの著作権譲渡の事実を推認することもできない。

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平成23(ワ)8228 出版差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成24年03月29日 東京地方裁判所 

 挿絵の著作物について著作権の黙示の譲渡があったとは認められないとして、増刷分について損害賠償が認められました。
 このような本件第1書籍の制作に至る経緯や,原告らは本件以前に絵本の挿絵を制作した経験がなかったことなどの事情を考慮すると,Bが原告らに本件第1原画の制作を依頼した当時,Bから絵本の増刷の有無等の話がされず,画家たちからも絵本の増刷予定の有無等について特段確認をしなかったとしても,格別不自然であるとはいえない。したがって,被告代表\者の上記供述は,これに反する前掲各証拠に照らし採用することができない(なお,被告代表者は,平成20年5月に被告代表\者の経営する幼稚園の新園舎の落成式があり,原告A2がそのお祝いに訪れた際,Bから,本件第1書籍をようやく増刷することができるようになった旨の話があり,同原告もこれを喜んでいたとも供述するものの,B及び原告A2は,この事実を否定しており,他に同事実を認めるに足りる証拠はないので,同供述を採用することもできない。また,被告代表者は,Bは本件増刷に関与しており,本件増刷の事実を当初から認識していたとも供述するが,仮に,Bが本件増刷に関与していたとしても,本件増刷が行われたのは本件第1書籍の出版から3年以上後のことであり,Bが本件増刷をするに当たって,原告らにその事実をあらかじめ伝えていたことなどを認めるに足る証拠もない以上,上記事実は,原告らが被告に対して本件原画の著作権を黙示的に譲渡した事実を推認するに足るものとはいえず,上記認定を左右するものではない。)。・・・・
 (2) 上記(1)アの事実関係によれば,本件第1原画の制作に当たって,原告らが被告に対して上記原画の著作権を黙示的に譲渡したと認めることはできない。

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平成22(ワ)34705 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 平成24年03月22日 東京地方裁判所

 SLのビデオ撮影について、テレビ放映の目次の許諾はないと判断しました。
 以上のとおりであるから,被告オスカ企画による本件テレビ番組の制作,被告オスカ社による本件テレビ番組の販売及び販売先のテレビ局による本件テレビ番組の放送につき,原告の許諾を得ていたと認めることはできない。また,前記認定のとおり,本件テレビ番組がテレビで放送された当時,本件ビデオ映像は,まだ公表されていなかったものであり,かつ,同番組には,撮影者である原告の氏名は表\示されていなかったことが認められる。したがって,原告は,被告オスカ企画が,原告の意に反して本件ビデオ映像を編集し,本件ビデオ映像の一部を利用して本件テレビ番組を制作したことにより,本件ビデオ映像に係る原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害されたものと認められる。また,原告は,被告オスカ社が,本件テレビ番組がテレビで放送されることを目的として,同番組をテレビ局に販売し,その後同番組がテレビで放送されたことにより,本件ビデオ映像に係る原告の著作権(頒布権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権及び公表\権)を侵害されたものと認められる。

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◆平成22年(ネ)第10046号/a>

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平成21(ワ)34012 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成24年02月23日 東京地方裁判所

 (株)グリーが、(株)ディー・エヌ・エーの「釣りゲータウン」についての著作権侵害、不競法違反による差し止め、損害賠償を求めました。東京地裁は、翻案権侵害を認めました。なお、魚の引き寄せ画面を掲載する行為は、不競法の商品等表示には該当せず、また、寄与度を30%と認定して、被告利益の額の3割の2億を損害として認定しました。
 (4) 携帯電話機用釣りゲームにおける魚の引き寄せ画面は,釣り針に掛かった魚をユーザーが釣り糸を巻くなどの操作をして引き寄せる過程を,影像的に表現した部分であり,この画面の描き方については,i)水面より上や水面,水面下のうちどの部分を,どのような視点から描くか,ii)仮に,水面下のみを描くこととした場合,魚の姿や魚の背景をどのように描くか,iii)魚が釣り針に掛かった時から,魚が釣り上げられる又は魚に逃げられるまでの間,魚にどのような動きをさせ,どのような場合に魚を引き寄せやすいようにするか(ユーザーが釣り糸を巻くタイミングをどのように表現するか)などの点において,様々な選択肢が考えられる。原告作品は,この魚の引き寄せ画面について,上記(2)ア(エ)のような具体的表現を採用したものであり,特に,水中に三重の同心円を大きく描き,釣り針に掛かった魚を黒い魚影として水中全体を動き回らせ,魚を引き寄せるタイミングを,魚影が同心円の所定の位置に来たときに引き寄せやすくすることによって表\した点は,原告作品以前に配信された他の釣りゲームには全くみられなかったものであり(甲3),この点に原告作品の製作者の個性が強く表れているものと認められる。他方,被告作品の魚の引き寄せ画面は,上記のとおり原告作品との相違点を有するものの,原告作品の魚の引き寄せ画面の表\現上の本質的な特徴といえる,「水面上を捨象して,水中のみを真横から水平方向の視点で描いている点」,「水中の中央に,三重の同心円を大きく描いている点」,「水中の魚を黒い魚影で表示し,魚影が水中全体を動き回るようにし,水中の背景は全体に薄暗い青系統の色で統一し,水底と岩陰のみを配置した点」,「魚を引き寄せるタイミングを,魚影が同心円の一定の位置に来たときに決定キーを押すと魚を引き寄せやすくするようにした点」についての同一性は,被告作品の中に維持されている。したがって,被告作品の魚の引き寄せ画面は,原告作品の魚の引き寄せ画面との同一性を維持しながら,同心円の配色や,魚影が同心円上のどの位置にある時に魚を引き寄せやすくするかという点等に変更を加えて,新たに被告作品の製作者の思想又は感情を創作的に表\現したものであり,これに接する者が原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものと認められる。また,これらの事実に加えて,被告作品の製作された時期は原告作品の製作された時期の約2年後であること,被告らは被告作品を製作する際に原告作品の存在及びその内容を知っていたこと(甲1の1,2)を考慮すると,被告作品の魚の引き寄せ画面は,原告作品の魚の引き寄せ画面に依拠して作成されたものといえ,原告作品の魚の引き寄せ画面を翻案したものであると認められる。
 (5) これに対し,被告らは,原告が魚の引き寄せ画面に関して原告作品と被告作品とで同一性を有すると主張する部分は,いずれも,単なるアイデア又は平凡かつありふれた表現にすぎず,創作的表\現とはいえないと主張する。しかしながら,原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面の共通点は,単に,「水面上を捨象して水中のみを表示する」,「水中に三重の同心円を表\示する」,「魚の姿を魚影で表す」などといったアイデアにとどまるものではなく,「どの程度の大きさの同心円を水中のどこに配置し」,「同心円の背景や水中の魚の姿をどのように描き」,「魚にどのような動きをさせ」,「同心円やその背景及び魚との関係で釣り糸を巻くタイミングをどのように表\すか」などの点において多数の選択の幅がある中で,上記の具体的な表現を採用したものであるから,これらの共通点が単なるアイデアにすぎないとはいえない。
・・・
 エ 以上のとおり,原告作品と被告作品の画面における素材の選択と配列について両作品が類似する点は,原告が主張画面であると主張する画面と非主要画面であると主張する画面のいずれも,アイデアないし表現上の創作性のない部分において類似するにすぎない。これに加えて,原告の主張する原告作品の主要画面の遷移には上記のとおり創作性が認められないことなどを併せ考えると,被告作品と原告作品における画面の選択と配列及び画面の素材の選択と配列に上記のような類似点があることは,被告作品が原告作品の翻案物であることを何ら根拠付けるものではないというべきである。\n

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平成22(ネ)10024 損害賠償請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成24年02月14日 知的財産高等裁判所

 JASRAC以外の著作権等管理事業者による、カラオケの著作権使用料請求事件です。委託が終了しているか、損害額について争われました。
 TMA社からの解約(解除)通知が発せられたのが平成18年(2006年)7月20日ころであり,契約終了時とされたのがそれから8か月余を経過した平成19年(2007年)3月31日であるから,係属中の損害賠償請求訴訟を一審原告からTMA社に承継させるための猶予期間としては十\分であると解することができ,一審原告は平成19年3月31日の経過により,TMA・原告契約に基づく本件著作権と一審被告に対する損害賠償債権(請求権)の管理権限を全て失ったと認めるのが相当である。この結論は,その後一審原告が,原権利者の一部の者から確認書B(甲75,甲80の1〜44(欠番部分を除く。))及び確認書D(甲145の1の1ないし甲145の62の1,甲150の1,甲151の1,甲152の1,甲153の1,甲158の1,甲160の1,甲161の1)を取得したことを考慮しても,影響を受けるものではない。一審原告は,平成19年(2007年)3月31日を経過しても上記管理権を失わないと主張するが,これを採用することができない。
・・・以上によれば,本件著作権の管理権限については,本件訴訟の対象たる損害賠償請求権も含め,TMA・原告契約によるものは,一審原告はこれを一切有しないというべきである。
・・・
 以上のとおり,一審原告の本訴請求のうち,直接契約に係る部分については,直接契約の締結が認められた部分につき請求を認容し,TMA社を介した部分については,一審原告が対象楽曲の著作権の管理権限を失ったものと認められるため,この部分に関する請求を棄却することとし,その損害額の算定方法については,JASRAC規程の個別課金方式を採用することとする。そうすると,一審原告の本訴請求のうちその認容金額は原判決より少ないこととなるので,一審原告の控訴(A事件)は全て理由がなく,逆に,一審被告の控訴(B事件)は一部理由があることになる。よって,A事件についての一審原告の控訴を棄却し,B事件について一審被告の控訴に基づき原判決を変更することとして,主文のとおり判決する。

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平成23(ネ)10063 プログラム著作権使用料等請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成24年02月29日 知的財産高等裁判所

 裁判所は、プログラムの著作物性について「疑義はあるが、争点ではないので」と、損害額のみについて判断しました。1審と同じく、双方本人訴訟です。
 プログラムに著作物性があるというためには,プログラムの全体に選択の幅が十分にあり,かつ,それがありふれた表\現でなく,作成者の個性,すなわち,表現上の創作性が表\れていることを要するところ,本件証拠上,本件プログラムが著作物性を備えるものであるといえるかについては疑義がある。しかし,前記のとおり,当審における争点は,専ら損害の額であるので,本件プログラムに著作物性があることを前提として,損害の額について検討すると,本件プログラムは,平成18年以前に作製されたものであること(甲1),本件契約に基づく本件プログラムの利用料等は,1か月2万8380円であったこと,本件プログラムと同様の機能を有する他のプログラムについて,インターネットで無料配布されたり,相当低廉な価格で提供されるものもあること(弁論の全趣旨),被控訴人が同社のインターネットホームページ上で本件プログラムを利用したのは,平成22年5月28日頃から同年6月頃までと平成23年3月28日頃から同年4月7日までの比較的短期間であることなどからすれば,本件で控訴人が被った損害の額は,原判決が認容した合計10万円を超えるものとは認められない。この点に関し,控訴人は,本件プログラムは無料若しくは安価である同様のプログラムにはない,初心者でも容易に設置でき,改造もしやすく,頻繁に変更される上位ドメイン管理データベースに追随しやすく設計されているという特徴があると主張するが,無料若しくは安価である同様のプログラムに比して,本件プログラムが控訴人が主張する優位性を備えていると認めるに足りる客観的な証拠はない。また,被控訴人の申\出により本件契約が締結され,本件プログラムの使用が特別に許諾されたという控訴人主張の事実は,損害の額に係る上記認定を左右するに足りるものではないし,本件での控訴人の損害の額が,被控訴人の平成22年度の売上額の1%に相当するとみるべき根拠もない。

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平成21(ワ)18463 著作権確認等請求事件 著作権 民事訴訟 平成24年02月16日 大阪地方裁判所

 漢字検定(漢検)の問題集に関する著作権帰属確認訴訟です。裁判所は、日本漢字能力検定協会が編集著作権を有すると判断しました。
 著作権法15条1項にいう「法人等の発意に基づく」とは,当該著作物を創作することについての意思決定が,直接又は間接に法人等の判断により行われていることを意味すると解され,発案者ないし提案者が誰であるかによって,法人等の発意に基づくか否かが定まるものではない。つまり,本件対策問題集の制作が原告の判断で行われたのであれば,「原告の発意に基づく」といえるのであって,最初に作成を思いついた人物や企画を出した人物が,原告の主張するようにP3(分野別シリーズ)あるいは大栄企画(ハンディシリーズ)であったか,あるいは被告らが主張するようにP2であったかは,この点を左右しない。また,前記1(2),(3)のとおり,原告は,日本漢字能力検定及びこれに係る書籍の発行を業務としているところ,日本漢字能\力検定の主催者として行う「書籍の発行」業務とは,書籍の販売のみならず,主催者(出題者)としてのノウハウを生かした書籍の制作業務を当然含んでいるものと考えられる。そうしたところ,ステップシリーズについては,5級から7級の改訂版(本件書籍16〜18)について,執筆要項が原告名義で作成され(甲57),外部業者との編集会議に出席していたのも原告の従業員らであるし(甲59),3級及び4級の改訂二版(本件書籍14,15)についても,見積依頼書(甲60),執筆要項(甲64),編集要項(甲65),組版にあたっての指示文書(甲76)等の外部業者に渡す書面が,原告名義で作成されている。さらに,分野別シリーズ5級及び6級(本件書籍26,27)に係る執筆要項(甲88),編集要項(甲89),見積依頼書(甲91,92)や,ハンディシリーズ5級及び6級(本件書籍32,33)に係る執筆要項(甲93),編集要項(甲94),印刷会社に対する発注書(甲109,110)等も,同様に原告名義で作成されている。したがって,本件対策問題集のうちこれら9冊(本件書籍14〜18,26,27,32,33)の作成は,原告の意思によって行われたものと認められる。そして,本件対策問題集のうち上記9冊以外のものについては,執筆要項などの証拠が残っていなかったものの,いずれも3種類のシリーズに属する問題集であることや,上記9冊のうち最も早く制作されたステップシリーズ5級から7級の改訂版(平成9年10月1日発行)と,最も遅く制作されたステップシリーズ3級及び4級の改訂二版(平成21年3月20日発行)との間の時期に制作されたものであることからして,上記9冊と同様に,原告の意思により作成されたものと考えられるところ,これに反する証拠もない。一方,上記編集作業について被告オークが関与したことを窺わせる事情は,編集プロダクションとの業務委託契約を締結したというだけであり,それ以上に,被告オークが上記編集作業に関与したことを認めるに足る証拠はない。以上のとおりであるから,本件対策問題集の制作に係る意思決定は,原告の判断により行われていたといえ,本件対策問題集は,原告の発意に基づき制作されたものと認められる。

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平成23(ネ)10009 著作権侵害差止等請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成24年01月31日 知的財産高等裁判所

 まねきTVの差し戻し判決です。知財高裁は、侵害であると認定しました。部門が4部から3部に変わってます。
 公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能\しか有しない場合であっても,当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たる。また,自動公衆送信の主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり,当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。本件について,各ベースステーションは,インターネットに接続することにより,入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的にデジタルデータ化して送信する機能を有するものであり,本件サービスにおいては,ベースステーションがインターネットに接続しており,ベースステーションに情報が継続的に入力されている。被告は,ベースステーションを自ら管理するテレビアンテナに接続し,当該テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力されるように設定した上,ベースステーションをその事務所に設置し,管理しているから,ベースステーションに本件放送の入力をしている者は被告であり,ベースステーションを用いて行われる送信の主体は被告である。そして,何人も,被告との関係等を問題にされることなく,被告と本件サービスを利用する契約を締結することにより同サービスを利用することができ,送信の主体である被告からみて,本件サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たるから,ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり,ベースステーションは自動公衆送信装置に当たる。したがって,インターネットに接続している自動公衆送信装置であるベースステーションに本件放送を入力する行為は,本件放送の送信可能\化に当たる。
・・・・
 被告は,ベースステーションを「自ら管理するテレビアンテナ」に接続していないと主張する。確かに,被告が自らテレビアンテナを管理している事実は認められないが,被告の事務所内のアンテナ端子を経由してテレビアンテナから放送波を継続的に受信できる状態にしていることに変わりはないから,テレビアンテナを被告自身が管理しているかどうかは,本件における結論を左右するものではない。また,被告は,本件放送がベースステーションに継続的に入力されるようにする「設定」やベースステーションの「管理」を行っていない旨主張する。しかし,被告の主張は失当である。上記認定の事実に加え,被告は,事務所内にベースステーションを設置した後,電源が入っているかを確認し,夏季に空調を28°Cに設定する(乙19)等の行為をしているから,被告は,「設定」や「管理」を行っていると評価すべきである。

◆判決本文

◆最高裁の判決はこちらです
1審はこちらです
    ◆平成19(ワ)5765号

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平成23(ネ)10011等 著作権侵害差止等請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成24年01月31日 知的財産高等裁判所

 ロクラクIIの差し戻し判決です。知財高裁は具体的事案を検討して侵害と認定しました。部門が4部から3部に変わってます。
 最高裁判所は,「放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(サービス提供者)が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能\を有する機器(複製機器)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。」,「複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当である」等と判示して,本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等について,更なる審理を尽くさせる必要があるとした。当裁判所は,審理の結果,本件サービスにおける,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮すると,被告は,放送番組等の複製物を取得することを可能にする本件サービスにおいて,その支配,管理下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能\を有する機器に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合におけるサービス提供者に該当し,したがって,被告は,本件放送番組等の複製の主体であると認定,判断すべきであると解した。その理由は,以下のとおりである。
・・・
 上記認定した事実に基づいて判断する。まず,ロクラクIIは,親機ロクラクと子機ロクラクとをインターネットを介して1対1で対応させることにより,親機ロクラクにおいて受信した放送番組等を別の場所に設置した子機ロクラクにおいて視聴することができる機器であり,親機ロクラクは,設置場所においてテレビアンテナを用いて受信した放送番組等をハードディスクに録画し,当該録画に係るデータをインターネットを介して,子機ロクラクに送信するものであって,ロクラクIIは,親子機能を利用するに当たり,放送番組等を複製するものといえる。また,被告は,上記のような仕組みを有するロクラクIIを利用者にレンタルし,月々,賃料(レンタル料)を得ている(なお,被告は,第1審判決前の時点において,一般利用者に対し,親機ロクラクと子機ロクラクの双方を販売していたとは認められないのみならず,同判決後の時点においても,親機ロクラクと子機ロクラクのセット価格が39万8000円と高額に設定されていることからすれば,親機ロクラクと子機ロクラクの双方を購入する利用者は,ほとんどいないものと推認される。)。そして,日本国内において,本件サービスを利用し,居住地等では視聴できない他の放送エリアの放送番組等を受信しようとする需要は多くないものと解されるから,本件サービスは,主に日本国外に居住する利用者が,日本国内の放送番組等を視聴するためのサービスであると解される。さらに,本件サービスは,利用者が,日本国内に親機ロクラクの設置場所(上記のとおり,電源供給環境のほか,テレビアンテナ及び高速インターネットへの接続環境を必要とする。)を確保すること等の煩わしさを解消させる目的で,サービス提供者が,利用者に対し,親機ロクラクの設置場所を提供することを当然の前提としたサービスであると理解できる。そして,被告は,本件モニタ事業当時には,ほとんどの親機ロクラクを被告本社事業所内に設置,保管し,これに電源を供給し,高速インターネット回線に接続するとともに,分配機等を介して,テレビアンテナに接続することにより,日本国外に居住する利用者が,日本国内の放送番組等の複製及び視聴をすることを可能にしていたことが認められる。また,被告は,本件サービスにおいて,当初は,親機ロクラクの設置場所として,被告自らハウジングセンターを設置することを計画していたこと,ところが,被告は,原告NHKらから,本件サービスが著作権侵害等に該当する旨の警告を受けたため,利用者に対し,自ら或いは取扱業者等をして,ハウジング業者等の紹介をし,ロクラクIIのレンタル契約とは別に,利用者とハウジング業者等との間で親機ロクラクの設置場所に係る賃貸借契約を締結させるとの付随的な便宜供与をしたこと,親機ロクラクの設置場所に係る賃料については,被告自ら又は被告と密接な関係を有する日本コンピュータにおいて,クレジットカード決済に係る収納代行サービスの契約当事者になり,本件サービスに係る事業を継続したことが認められる。上記の複製への関与の内容,程度等の諸要素を総合するならば,i)被告は,本件サービスを継続するに当たり,自ら,若しくは取扱業者等又はハウジング業者を補助者とし,又はこれらと共同し,本件サービスに係る親機ロクラクを設置,管理しており,また,ii)被告は,その管理支配下において,テレビアンテナで受信した放送番組等を複製機器である親機ロクラクに入力していて,本件サービスの利用者が,その録画の指示をすると,上記親機ロクラクにおいて,本件放送番組等の複製が自動的に行われる状態を継続的に作出しているということができる。したがって,本件対象サービスの提供者たる被告が,本件放送番組等の複製の主体であると解すべきである。
・・・
 以上のとおり,被告は,本件サービスを継続するに当たり,自ら,若しくは取扱業者等又はハウジング業者を補助者とし,又はこれと共同し,本件サービスに係る親機ロクラクを設置,管理しており,その管理支配下において,テレビアンテナで受信した放送番組等を複製機器である親機ロクラクに入力していて,本件サービスの利用者が,その録画の指示をすると,上記親機ロクラクにおいて,本件放送番組等の複製が自動的に行われる状態を作出しているということができる。したがって,本件対象サービスの提供者たる被告が,本件放送番組等の複製の主体であると解すべきである。

◆判決本文

◆最高裁判決はこちらです。 

1審・仮処分はこちらです
    ◆平成19(ワ)17279号
    ◆平成18(ヨ)22046号

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平成21(あ)1900 著作権法違反幇助被告事件 平成23年12月19日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所

 刑事事件です。ファイル共有ソフトであるWinnyの配布が、著作権法違反幇助罪に該当しないとした高裁判決は結論において妥当すると判断されました。
 刑法62条1項の従犯とは,他人の犯罪に加功する意思をもって,有形,無形の方法によりこれを幇助し,他人の犯罪を容易ならしむるものである(最高裁昭和24年(れ)第1506号同年10月1日第二小法廷判決・刑集3巻10号1629頁参照)。すなわち,幇助犯は,他人の犯罪を容易ならしめる行為を,それと認識,認容しつつ行い,実際に正犯行為が行われることによって成立する。原判決は,インターネット上における不特定多数者に対する価値中立ソフトの提供という本件行為の特殊性に着目し,「ソ\フトを違法行為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供する場合」に限って幇助犯が成立すると解するが,当該ソ\フトの性質(違法行為に使用される可能性の高さ)や客観的利用状況のいかんを問わず,提供者において外部的に違法使用を勧めて提供するという場合のみに限定することに十\分な根拠があるとは認め難く,刑法62条の解釈を誤ったものであるといわざるを得ない。
  (2) もっとも,Winnyは,1,2審判決が価値中立ソフトと称するように,適法な用途にも,著作権侵害という違法な用途にも利用できるソ\\フトであり,これを著作権侵害に利用するか,その他の用途に利用するかは,あくまで個々の利用者の判断に委ねられている。また,被告人がしたように,開発途上のソフトをインターネット上で不特定多数の者に対して無償で公開,提供し,利用者の意見を聴取しながら当該ソ\フトの開発を進めるという方法は,ソフトの開発方法として特異なものではなく,合理的なものと受け止められている。新たに開発されるソ\フトには社会的に幅広い評価があり得る一方で,その開発には迅速性が要求されることも考慮すれば,かかるソフトの開発行為に対する過度の萎縮効果を生じさせないためにも,単に他人の著作権侵害に利用される一般的可能\性があり,それを提供者において認識,認容しつつ当該ソフトの公開,提供をし,それを用いて著作権侵害が行われたというだけで,直ちに著作権侵害の幇助行為に当たると解すべきではない。かかるソ\フトの提供行為について,幇助犯が成立するためには,一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要であり,また,そのことを提供者においても認識,認容していることを要するというべきである。すなわち,ソ\フトの提供者において,当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,その公開,提供を行い,実際に当該著作権侵害が行われた場合や,当該ソ\フトの性質,その客観的利用状況,提供方法などに照らし,同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソ\フトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で,提供者もそのことを認識,認容しながら同ソフトの公開,提供を行い,実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り,当該ソ\フトの公開,提供行為がそれらの著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り,当該ソフトの公開,提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である。\n

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平成22(受)1884 著作権侵害差止等請求事件 平成24年01月17日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄差戻し 知的財産高等裁判所

原審は、映画の著作物について、著作権存続期間が満了した判断して複製したことについて、高裁は過失無しとして損害賠償請求を棄却しました。これに対して最高裁は、この過失なしとの判断は誤りと判断しました。
 原審は,要旨,次のとおり判断して,上告人の損害賠償請求を棄却した。旧法下の映画については,映画を製作した団体が著作者になり得るのか,どのような要件があれば団体も著作者になり得るのかをめぐって,学説は分かれ,指導的な裁判例もなく,本件各監督が著作者の一人であったといえるか否かも考え方が分かれ得るところである。このような場合に,結果的に著作者の判定を誤り,著作権の存続期間が満了したと誤信したとしても,被上告人に過失があったとして損害賠償責任を問うべきではない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 旧法下の映画の著作者については,その全体的形成に創作的に寄与した者が誰であるかを基準として判断すべきであるところ(最高裁平成20年(受)第889号同21年10月8日第一小法廷判決・裁判集民事232号25頁),一般に,監督を担当する者は,映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与し得る者であり,本件各監督について,本件各映画の全体的形成に創作的に寄与したことを疑わせる事情はなく,かえって,本件各映画の冒頭部分やポスターにおいて,監督として個別に表示されたり,その氏名を付して監督作品と表\\示されたりしていることからすれば,本件各映画に相当程度創作的に寄与したと認識され得る状況にあったということができる。他方,被上告人が,旧法下の映画の著作権の存続期間に関し,上記の2(7)アないしウの考え方を採ったことに相当な理由があるとは認められないことは次のとおりである。すなわち,独創性を有する旧法下の映画の著作権の存続期間については,旧法3条〜6条,9条の規定が適用される(旧法22条ノ3)ところ,旧法3条は,著作者が自然人であることを前提として,当該著作者の死亡の時点を基準にその著作物の著作権の存続期間を定めるとしているのである。旧法3条が著作者の死亡の時点を基準に著作物の著作権の存続期間を定めることを想定している以上,映画の著作物について,一律に旧法6条が適用されるとして,興行の時点を基準にその著作物の著作権の存続期間が定まるとの解釈を採ることは困難であり,上記のような解釈を示す公的見解,有力な学説,裁判例があったこともうかがわれない。また,団体名義で興行された映画は,自然人が著作者である旨が実名をもって表示されているか否かを問うことなく,全て団体の著作名義をもって公表\\された著作物として,旧法6条が適用されるとする見解についても同様である。最高裁平成19年(受)第1105号同年12月18日第三小法廷判決・民集61巻9号3460頁は,自然人が著作者である旨がその実名をもって表示されたことを前提とするものではなく,上記判断を左右するものではない。そして,旧法下の映画について,職務著作となる場合があり得るとしても,これが,原則として職務著作となることや,映画製作者の名義で興行したものは当然に職務著作となることを定めた規定はなく,その旨を示す公的見解等があったこともうかがわれない。加えて,被上告人は,本件各映画が職務著作であることを基礎付ける具体的事実を主張しておらず,本件各映画が職務著作であると判断する相当な根拠に基づいて本件行為に及んだものでないことが明らかである。そうすると,被上告人は,本件行為の時点において,本件各映画の著作権の存続期間について,少なくとも本件各監督が著作者の一人であるとして旧法3条が適用されることを認識し得たというべきであり,そうであれば,本件各監督の死亡した時期などの必要な調査を行うことによって,本件各映画の著作権が存続していたことも認識し得たというべきである。以上の事情からすれば,被上告人が本件各映画の著作権の存続期間が満了したと誤信していたとしても,本件行為について被上告人に少なくとも過失があったというほかはない。\n

◆判決本文

◆原審はこちらです。平成21(ネ)10050

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平成22(ワ)11439 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成23年12月15日 大阪地方裁判所

 取扱説明書が編集著作物かが争われました。裁判所は、創作性なしと判断しました。また、デッドコピーの不法行為についても否定しました。
 もっとも,本件のような製品の取扱説明書においては,その性質上,次のような内容や表記方法が要求され,かつ,広く採用されていると考えられる。したがって,製品の取扱説明書に係る編集著作物性を判断するにあたっては,これらの内容や表\記方法は,原則としてありふれた表記であるということができる。(ア) 製品の概要(機能,構\造,部品やその名称),取扱方法,発生しうるトラブルやその対処方法,注意ないし禁止事項などを,文章や図面・イラストによって説明する。(イ) 説明内容を示すタイトルを付けたり,説明内容の重要度に応じて,文字の大きさや太さに変化を付ける,強調のための文字飾りを付す,注意を促すマークを付すなどする。(ウ) 説明内容を理解しやすくするため,説明文の近くに,製品を簡単にデフォルメしたイラストや,製品そのものの写真を掲載する。(2) 原告各取扱説明書の創意工夫について原告は,原告各取扱説明書に表現された創意工夫として,i)図面,記号,マーク,具体例の使用,ii)各種団体公認の表記,iii)取扱説明書の趣旨及び安全上の遵守事項の記載の先行,iv)文字サイズ,文字飾り,インパクトのある単語,マークによる強調,v) イラスト図面・記号の使用,記載場所,大きさ等の工夫を挙げる。しかしながら,取扱説明書においては,一般に,わかりやすく伝える,安全性を図るといった点が要求されるため,前記(1)イのような内容・表記が広く採用されているものであるから,上記i),iv),v)の工夫は,通常行われているありふれたものといえる。また,上記i)及びiv)と,v)のうち記載場所以外の要素は,既に選択・配列された要素に係る表記上の工夫であって,そもそも,「素材の選択」にも「素材の配列」にも該当しない。また,上記ii)については,原告各製品のアピールポイントの1つであるが,アピールすべきポイントが限られると,これらの要素を取扱説明書に記載する素材として選択することやその配列は,自ずと限定されることになり,創作性があるとは認められない。さらに,上記iii)については,設置方法,使用方法,取扱説明書の趣旨(取扱説明書の説明),安全上の遵守事項を,どのような順序で配列するかについてであるが,まず,取扱説明書の趣旨が最初に述べられることは当然である。取扱説明書の中心となるべき,設置方法と使用方法については,製品は使用の前に設置する必要があることから,上記の順に配列されるべきである。安全上の遵守事項の記載位置については選択の余地があるが,通常,設置方法,使用方法の前か後という選択しか考えられず,しかも,その内容が重要であることから,前に記載されることはむしろ普通であると考えられる。
・・・・
原告は,原告各取扱説明書が,様々な創意工夫をし,多大な時間と労力を費やして作成されたものであるから,これらをデッドコピーした被告各取扱説明書を,原告が営業活動を行う地域で頒布することは,取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を逸脱し,法的保護に値する原告の営業活動を侵害するものだと主張する。しかしながら,被告各取扱説明書は,対象製品から独立して頒布されるものではなく,その点は原告各取扱説明書も同様であるところ,被告らが,既に取引が成立した製品に取扱説明書を付して交付することが,同様の行為を行っている原告との関係において,自由な競争の範囲を超える行為であるとは認めがたい。

◆判決本文

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平成23(ネ)10008 損害賠償請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成23年12月22日 知的財産高等裁判所

 デジタルチューナのみ搭載のHDDレコーダが著30条2項の私的録音録画補償金の支払いについて争われました。1審では、対象になるとしつつも、法的な支払い義務がないとして、権利者側の請求を棄却しました。これに対して、控訴審では、そもそも対象とならないと判断されました。
 上記のような審議録の記載を総合し,かつ,施行令1条1項1〜3号の規定ぶりにかんがみると,録音について規定された「アナログデジタル変換が行われた」との要件は,多様な録音源(ソース)のうちの主要なものを念頭に置きつつ,対象となる録音機器と媒体の規格に合わせて必要な標本化周波数を特定するために規定されたものと解することができる。アナログデジタル変換が行われた場所が録音機器の内部である必要があるか否かについての文言上の限定はないが,当該録音機器の規格またその対象録音媒体の規格に沿ったアナログデジタル変換が行われることが必要であるということができるのである。施行令1条に,録画についての特定機器が2項として追加された際における「アナログデジタル変換が行われた」との意義についてみても,上記の録音の場合と異なる事情はなく,「アナログデジタル変換が行われた」との要件は,録音・録画機器におけるデジタル録音・録画媒体が採用している標本化周波数を定義づけるために用いられてきたとみるべきである。すなわち,当該録音・録画機器によって録音・録画がされるために所定のアナログデジタル変換が行われることが規定されてきたというべきである。\n

◆判決本文

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平成21(受)602 著作権侵害差止等請求事件 平成23年12月08日 最高裁判所第一小法廷 判決 その他 知的財産高等裁判所

 地裁は著作権侵害なし、高裁は「我が国が未承認国である北朝鮮に対してベルヌ条約上の義務を負担するか否かの問題に帰着するとし,その検討の結果,ベルヌ条約により我が国が北朝鮮の著作物を保護する義務を負うとは認められないから,北朝鮮の著作物は著作権法6条3号所定の著作物に該当しないと判断したことは正当」とした上、「著作物は人の精神的な創作物であり,多種多様なものが含まれるが,中にはその製作に相当の費用,労力,時間を要し,それ自体客観的な価値を有し,経済的な利用により収益を挙げ得るものもあることからすれば,著作権法の保護の対象とならない著作物については,一切の法的保護を受けないと解することは相当ではなく(なお,被控訴人は,著作権法により保護されない著作物の利用については不法行為法上の保護が及ばないとするのが立法者意思である旨主張するが,かかる立法事実を認めることはできない。),利用された著作物の客観的な価値や経済的な利用価値,その利用目的及び態様並びに利用行為の及ぼす影響等の諸事情を総合的に考慮して,当該利用行為が社会的相当性を欠くものと評価されるときは,不法行為法上違法とされる場合があると解するのが相当である。」と判断しました。
 最高裁は、自由競争の範囲を逸脱し,1審原告の営業を妨害するものであるとは到底いえないとして、不法行為に基づく損害も否定しました。
 著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしている。同法により保護を受ける著作物の範囲を定める同法6条もその趣旨の規定であると解されるのであって,ある著作物が同条各号所定の著作物に該当しないものである場合,当該著作物を独占的に利用する権利は,法的保護の対象とはならないものと解される。したがって,同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。
3 これを本件についてみるに,本件映画は著作権法6条3号所定の著作物に該当しないことは前記判示のとおりであるところ,1審原告X1が主張する本件映画を利用することにより享受する利益は,同法が規律の対象とする日本国内における独占的な利用の利益をいうものにほかならず,本件放送によって上記の利益が侵害されたとしても,本件放送が1審原告X1に対する不法行為を構成するとみることはできない。仮に,1審原告X1の主張が,本件放送によって,1審原告X1が本件契約を締結することにより行おうとした営業が妨害され,その営業上の利益が侵害されたことをいうものであると解し得るとしても,前記事実関係によれば,本件放送は,テレビニュース番組において,北朝鮮の国家の現状等を紹介することを目的とする約6分間の企画の中で,同目的上正当な範囲内で,2時間を超える長さの本件映画のうちの合計2分8秒間分を放送したものにすぎず,これらの事情を考慮すれば,本件放送が,自由競争の範囲を逸脱し,1審原告X1の営業を妨害するものであるとは到底いえないのであって,1審原告X1の上記利益を違法に侵害するとみる余地はない。したがって,本件放送は,1審原告X1に対する不法行為とはならないというべきである。\n

◆判決本文
1審、2審はこちらです。

◆平成20年(ネ)第10012号著作権侵害差止等請求控訴事件

◆東京地裁平成18年(ワ)第5640号著作権侵害差止等請求事件

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平成23(ワ)22642 発信者情報開示請求事件 平成23年11月29日 東京地方裁判所 

 P2Pを用いて違法公衆送信をしている者を特定するための発信者情報をISPに対して開示請求しました。裁判所はこれを認めました。判決主文は、「平成22年6月26日14時51分9秒ころに「123.227.37.239」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名,住所及び電子メールアドレスを開示せよ。」というものです。
 本件確認試験の結果等によれば,「P2P FINDER」による検索結果,すなわち本件調査結果については,その信用性を疑わせるような事情は見当たらず,信頼を置くことができるものと認められる。したがって,本件調査結果に基づき,前記第2の3[原告らの主張](1)アないしトの事実,すなわち,i) 本件各利用者は,原告各レコードを複製し,この複製に係るファイル(本件各ファイル)をコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置した上,当該コンピュータを,被告のインターネット接続サービスを利用して,被告からIPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続したこと,ii) そして,本件各利用者は,Gnutella互換ソフトウェアにより,本件各ファイルを,インターネットに接続している,本件各利用者からみて不特定の他の同ソ\フトウェア利用者(公衆)からの求めに応じて,インターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態にしたこと(すなわち,原告らの原告各レコードに係る送信可能化権を侵害したこと),が認められる。\n

◆判決本文

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平成20(ワ)11762 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成23年01月28日 東京地方裁判所

 プログラム著作物について、差止、損害賠償が認められました。問題となったプログラムは、被告が原告在職中に作成したものでした。なお、翻案の差止は認められず、実施料相当額は10%と判断されました。
ウ これに対し,被告らは,原告プログラムにおいては,画面上の構成要素を貼\り付け,ボタン等を配置するために必要なプログラムなど,開発ツールであるMicrosoft社の「Visual Studio.net」によって自動生成された部分が相当の分量に及んでおり,これらの部分には創作性がないとした上で,原告プログラムのうちのMainForm.csの原告ソースコードに含まれる各関数を分析すると,別紙5において☆,○又は□の印を記載したものについては,自動生成コードが相当割合を占めることから,創作性が認められない旨を主張する。しかしながら,MainForm.csの原告ソースコードについては,そこに含まれる各関数における自動生成コードの占める割合が被告ら主張のとおりであることを前提にしたとしても,少なくとも別紙5において△の印が記載された合計10の関数については,被告ら自身が汎用的でないコードからなるものであることを認めており,創作性が認められることに実質的な争いはないものといえる。また,別紙5において□の印が記載された合計164の関数についても,被告らは,自動生成コードの割合が1割程度にすぎないこと,すなわち,9割程度が自動生成コードではないことを認めているのであり,これらの関数については,少なくとも自動生成コードが相当割合を占めることを理由として創作性を否定することはできないというべきである。この点,被告らは,これらの関数について,汎用的プログラムの組合せであることを理由として創作性が否定されるかのごとく主張するが,汎用的プログラムの組合せであったとしても,それらの選択と組合せが一義的に定まるものでない以上,このような選択と組合せにはプログラム作成者の個性が発揮されるのが通常というべきであるから,被告らの上記主張は採用できない。してみると,被告らの上記主張を前提としても,MainForm.csの原告ソースコードについては,そこに含まれる298の関数のうちの約6割(174/298)において,自動生成コードが1割以下にとどまっており,それ以外のコードは,その選択と組合せにおいてプログラム作成者の個性が発揮されていることが推認できるというべきであるから,プログラム著作物としての創作性を優に肯定することができる。エさらに,後記(2)イで認定するとおり,原告プログラムは,主として被告A1がその開発及びプログラミング作業を行ったものであるから,原告プログラムの内容等を最も知悉する者は被告A1にほかならないところ,それにもかかわらず,被告らは,原告プログラムの一部であるMainForm.csの原告ソースコードについて,別紙5に記載した印に基づいて前記第3の1(2)ア記載の程度の概括的な主張をしてその創作性を争うにとどまっており,それ以外の原告プログラムの創作性については,具体的理由に基づいてこれを争う旨の主張は行っていない。しかも,被告A1は,その本人尋問において,自らが行った原告プログラムにおけるソースコードの記述方法について,様々な創意工夫がされていることを自認する供述もしている。前記イ及びウで述べたことに加え,上記のような被告らの訴訟対応や被告A1の本人尋問における供述をも総合すれば,原告プログラムが,全体として創作性の認められるプログラム著作物であることは,優にこれを認めることができる。
・・・
原告は,被告らに対し,原告プログラムに係る翻案権に基づき,被告プログラムの翻案の差止めを求めている。そこで,被告らが,被告プログラムの翻案行為を現に行い,又は,これを行うおそれがあると認められるか否かにつき検討するに,まず,被告らが,被告プログラムを改変する行為を現に行っているとの事実を認めるに足りる証拠はない。また,被告プログラムを翻案する行為には,広範かつ多様な態様があり得るものと考えられる。ところが,原告の上記請求は,差止めの対象となる行為を具体的に特定することなく,上記のとおり広範かつ多様な態様を含み得る「翻案」に当たる行為のすべてを差止めの対象とするものであるところ,このように無限定な内容の行為について,被告らがこれを行うおそれがあるものとして差止めの必要性を認めることはできないというべきである。したがって,被告らに対し,原告プログラムに係る翻案権に基づいて被告プログラムの翻案の差止めを求める原告の請求は理由がない。
・・・
そこで,上記会費収入を前提として,原告が原告プログラムについての著作権の行使につき受けるべき金銭の額(使用料相当額)を算定するに,i)社団法人発明協会発行の「実施料率【第5版】」(甲24)に記載されたソフトウェアを含む「電子計算機・その他の電子応用装置」の技術分野における外国技術導入契約において定められた実施料率に関する統計データによれば,平成4年度から平成10年度までのイニシャル・ペイメント条件がない契約における実施料率の平均は33.2パーセントとされ,特にソ\フトウェアにおいて高率契約の割合が高いとされていること,ii)原告プログラムは,原告において,多大な時間と労力をかけて開発されたものであり,かつ,原告の業務の中核となる重要な知的財産であって,競業他社にその使用を許諾することは,通常考え難いものであること,iii)他方,証拠(乙13,被告A1)によれば,被告会社においては,その会員に対し,被告ソフトを公衆送信して使用させることのみならず,被告会社が野村総研から購入した株価や銘柄に関するデータに種々の処理を施したものを提供するサービスや会員に対して電子メールで種々のアドバイスを送信するメールサービスも行っていることから,会員から得られる会費の中には,これらのサービスに対する対価に相当する部分も含まれており,本来,上記会費収入の全額が実施料率算定の基礎となるものではないことといった事情のほか,原告ソ\フト及び被告ソフトの内容,被告らによる侵害行為の態様及びそれに至る経緯,原告と被告らとの関係など本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば,被告らによる平成19年1月から平成22年8月までの著作権侵害について,原告が受けるべき使用料相当額は,上記(ア)の会費収入合計額2045万1200円の約10パーセントに当たる200万円と認めるのが相当である(なお,被告らによる著作権侵害について,原告が受けるべき使用料相当額は,原告の原告ソフトの表\示画面に係る著作権侵害の主張が認められる場合でも,上記金額を超えるものとはいえない。)。

◆判決本文

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平成21(ワ)40387 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 平成22年12月27日 東京地方裁判所 

 デジタルチューナのみ搭載のHDDレコーダが著30条2項の私的録音録画補償金の支払いについて争われました。裁判所は対象になるとしつつも、法的な支払い義務がないとして、権利者側の請求を棄却しました。
 被告は,法30条2項の私的録音録画補償金制度の趣旨について,私的録音・録画が,従来のように「零細なもの」であれば補償金制度は不要であったのに,デジタル技術の発達普及等によって,「広範かつ大量,さらに高品質の複製」としてされ得る状況となりつつあったことが,著作権者等への代償措置として私的録音録画補償金制度が導入された主たる根拠であるとの前提に立った上で,デジタル放送においては,著作権保護技術によって複製を制限することが可能であり,現に,地上デジタル放送においては,平成16年4月5日からコピー・ワンス,さらに平成20年7月4日からダビング10による複製の制限が行われており,このような著作権保護技術の下では,広範かつ大量に高品質の複製は行われ得ないことになるのであるから,かかる著作権保護技術が導入されたデジタル放送のみを録画することが可能\な「アナログチューナー非搭載DVD録画機器」には,前記のような私的録音録画補償金制度の趣旨は妥当しないとし,この点を,アナログチューナー非搭載DVD録画機器が特定機器に含まれないことの根拠として主張する。しかしながら,被告の上記主張は,以下のとおり採用することができない。(a) まず,被告の上記主張が,著作権保護技術によって複製が制限された状況下における私的録音又は私的録画の場合には,およそ法30条2項の私的録音録画補償金制度の趣旨が妥当しないことを前提とするものであるとすれば,以下に述べるとおり,私的録音録画補償金制度が導入された平成4年法改正に係る経過に照らし,そのような前提自体が誤りといわざるを得ない。
・・・
以上のような平成4年法改正に係る経過からすれば,同改正においては,少なくともデジタル録音機器に関しては,既に著作権保護技術によって複製の制限が行われているという実態を踏まえ,これと両立する制度として私的録音録画補償金制度が導入されたものと認められる。したがって,著作権保護技術によって複製が制限された状況下における私的録音又は私的録画の場合には,およそ法30条2項の私的録音録画補償金制度の趣旨が妥当しないとはいえない。
 このように,法104条の5においては,特定機器の製造業者等において「しなければならない」ものとされる行為が,具的的に特定して規定されていないのであるから,同条の規定をもって,特定機器の製造業者等に対し,原告が主張するような具体的な行為(すなわち,特定機器の販売価格に私的録画補償金相当額を上乗せして出荷し,利用者から当該補償金を徴収して,原告に対し当該補償金相当額の金銭を納付すること(以下「上乗せ徴収・納付」という。))を行うべき法律上の義務を課したものと解することは困難というほかなく,法的強制力を伴わない抽象的な義務としての協力義務を課したものにすぎないと解するのが相当である。そして,このような解釈は,法104条の5の文言において,あえて「協力」という抽象的な文言を用いることとした立法者の意思にも適合するものといえる。すなわち,仮に立法者において原告が主張するように特定機器の販売価格に私的録画補償金相当額を上乗せして出荷し,利用者から当該補償金を徴収して,指定管理団体に対し,当該補償金相当額の金銭を納付することを特定機器の製造業者等に法律上義務づける意思があったのであれば,そのような具体的な作為義務の内容を特定して規定すれば足りたのであり,かつ,そのような規定とすることが立法技術上困難であるともいえないのに,そのような規定とすることなく,あえて「協力」という抽象的な文言を用いるにとどまったということは,特段の事情がない限り,立法者には,上記のような法律上の具体的な作為義務を課す意思がなかったことを示すものということができる。イ以上のとおり,法104条の5が規定する特定機器の製造業者等の協力義務は,原告が主張するような法律上の具体的な義務と解することはできないものというべきである。

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平成22(ネ)10046 損害賠償等請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成22年11月10日 知的財産高等裁判所 

 いわゆる100均で廉価販売されたDVDについての著作権侵害について、原審の判断が一部変更されました。原審は著作権料相当額を8%とし、返品数を除いた販売数、さらに過失相殺がなされましたが、知財高裁は、5%、複製数から判断しました。
  本件映像は,先に指摘したとおり,知人である控訴人の父親から控訴人の今後について相談を受けたBが,控訴人に対し,動画撮影を勧め,控訴人が海外に出掛ける際に,厚意で,オスカ企画所有の機材とDVテープを無償で貸し出したことを契機として,撮影されたものである。その上,BやAは,控訴人が動画撮影技術を習得するために,控訴人が撮影した映像について,アドバイスをしたり,控訴人が渡航する際,渡航費用を援助するなど(丙3),厚意で便宜を提供していたものである(なお,控訴人は,原審における本人尋問において,渡航費用に関しては,機材を借りる際など,いつも控訴人が補助参加人を訪問していたが,補助参加人から交通費をもらっておらず,それが積み重なっていたことを考慮して,小遣い程度としてBが支払ったものだと思うと供述するが,機材を無償で貸与する際の交通費についてまで,補助参加人が負担する格別の必要性は存しないものであり,控訴人のかかる供述は不自然である。)。また,本件映像は,控訴人の趣味の一環として撮影されたものであり,控訴人,補助参加人及びオスカ企画において,当初は商品として利用することは想定されておらず,控訴人も,機材を返却する際に映像を見たことがあったほかは,本件映像の説明書を作成するため,本件VHSテープの送付を依頼するまでは,本件映像を閲覧しておらず,かつ,本件DVD販売に係る紛争が発生するまで,本件DVテープの引渡しなどを一切請求していなかったものである。さらに,本件DVDに収録された映像のうち,ハワイの映像については,控訴人が撮影したものではない。以上からすると,補助参加人及びオスカ企画が関与して制作された本件DVDについて,販売枚数1枚当たりの控訴人が受けるべき著作権料相当額は,販売価格の5パーセントと認めるのが相当である。(エ) 被控訴人における本件DVDの販売枚数は6581枚であり,原判決は,かかる枚数について控訴人の損害を算定しているが,本件映像の複製権侵害は,納品された9984枚において生じているものであって,控訴人が受けるべき著作権料相当額は,9984枚について算定すべきである。(オ) したがって,本件映像の著作権の行使につき控訴人が受けるべき金銭の額に相当する額は,199万6800円であると認められる。(計算式)4000円×5パーセント×9984枚=199万6800円・・・以上のとおり,被控訴人による本件DVDの販売と相当因果関係がある控訴人の損害額は,合計329万6800円となる。

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◆原審はこちらです。平成20(ワ)36380平成22年04月21日東京地裁

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平成21(ワ)4331 損害賠償請求事件 その他 民事訴訟 平成22年10月21日 東京地方裁判所

 パブリシティ権侵害の損害額として、著作権法114条の推定規定の類推は認められませんでした。
 原告は,パブリシティ権侵害による損害額の立証については,著作権法114条2項及び同条3項を類推適用すべきであると主張する。しかしながら,前記1(1)のとおり,パブリシティ権とは,人格権に由来するものであって,同項の適用される著作財産権とは性質を異にするものである。したがって,本件における原告の損害を算定するに当たって,著作権法114条2項及び3項を類推適用することはできないというべきであり,原告の主張を採用することはできない。被告らが原告に無断で本件雑誌を出版,販売したことにより原告が被った損害額は,原告が本件雑誌の出版に当たり,原告の氏名及び原告写真の使用を許諾した場合に,原告が通常受領すべき金員に相当する額と解するのが相当である。
(2) 原告の損害
証拠(乙15の1〜3,乙16の1〜3,乙17の1〜3,乙18の1・2,乙19の1・2,乙20の1・2,乙21)及び弁論の全趣旨によれば,本件雑誌の単価は580円(消費税込み。なお,消費税分を除いた本体価格は552円。)であり,その販売部数は4万1275冊であることが認められる。これに対し,原告は,本件雑誌の販売部数は少なくとも5万9000冊であると主張するものの,本件雑誌が被告らの主張する販売部数(4万1275冊)以上に販売されたことを認めるに足りる証拠はない。また,証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば,原告の韓国におけるマネジメント会社である韓国法人キーイーストは,平成20年7月30日,日本法人であるアイピーフォー株式会社との間で,原告の名称及び肖像写真等を使用したカレンダー商品(壁掛けカレンダー,卓上カレンダー)を日本において生産,販売及び販売促進活動を行うことを非独占的に許諾すること,その許諾料を壁掛けカレンダー1点につき●(省略)●,卓上カレンダー1点につき●(省略)●とする旨を合意したことが認められる。上記認定の本件雑誌の単価,販売部数,原告が原告の名称及び肖像写真等を使用したカレンダーを日本において生産,販売等することを許諾した際の許諾料のほか,前記1で認定した原告の氏名,肖像の有する顧客吸引力の強さ,本件雑誌における原告の氏名,肖像の使用態様,本件雑誌中でパブリシティ権を侵害する部分の割合等を総合的に考慮すると,本件雑誌の出版,販売による原告の損害額を400万円と認めるのが相当である。

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平成22(ネ)10052 損害賠償請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成22年10月13日 知的財産高等裁判所

 鑑定書に添付した絵画のコピーについて1審は侵害と判断しましたが、知財高裁は引用であり、非侵害と判断しました。
 「そこで,前記見地から,本件各鑑定証書に本件各絵画を複製した本件各コピーを添付したことが著作権法32条にいう引用としての利用として許されるか否かについて検討すると,本件各鑑定証書は,そこに本件各コピーが添付されている本件各絵画が真作であることを証する鑑定書であって,本件各鑑定証書に本件各コピーを添付したのは,その鑑定対象である絵画を特定し,かつ,当該鑑定証書の偽造を防ぐためであるところ,そのためには,一般的にみても,鑑定対象である絵画のカラーコピーを添付することが確実であって,添付の必要性・有用性も認められることに加え,著作物の鑑定業務が適正に行われることは,贋作の存在を排除し,著作物の価値を高め,著作権者等の権利の保護を図ることにもつながるものであることなどを併せ考慮すると,著作物の鑑定のために当該著作物の複製を利用することは,著作権法の規定する引用の目的に含まれるといわなければならない。そして,本件各コピーは,いずれもホログラムシールを貼付した表\面の鑑定証書の裏面に添付され,表裏一体のものとしてパウチラミネート加工されており,本件各コピー部分のみが分離して利用に供されることは考え難いこと,本件各鑑定証書は,本件各絵画の所有者の直接又は間接の依頼に基づき1部ずつ作製されたものであり,本件絵画と所在を共にすることが想定されており,本件各絵画と別に流通することも考え難いことに照らすと,本件各鑑定証書の作製に際して,本件各絵画を複製した本件各コピーを添付することは,その方法ないし態様としてみても,社会通念上,合理的な範囲内にとどまるものということができる。しかも,以上の方法ないし態様であれば,本件各絵画の著作権を相続している被控訴人等の許諾なく本件各絵画を複製したカラーコピーが美術書等に添付されて頒布された場合などとは異なり,被控訴人等が本件各絵画の複製権を利用して経済的利益を得る機会が失われるなどということも考え難いのであって,以上を総合考慮すれば,控訴人が,本件各鑑定証書を作製するに際して,その裏面に本件各コピーを添付したことは,著作物を引用して鑑定する方法ないし態様において,その鑑定に求められる公正な慣行に合致したものということができ,かつ,その引用の目的上でも,正当な範囲内のものであるということができるというべきである。
イ この点につき,被控訴人は,著作権法32条1項における引用として適法とされるためには,利用する側が著作物であることが必要であると主張するが,「自己ノ著作物中ニ正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト」を要件としていた旧著作権法(明治32年法律第39号)30条1項2号とは異なり,現著作権法(昭和45年法律第48号)32条1項は,引用者が自己の著作物中で他人の著作物を引用した場合を要件として規定していないだけでなく,報道,批評,研究等の目的で他人の著作物を引用する場合において,正当な範囲内で利用されるものである限り,社会的に意義のあるものとして保護するのが現著作権法の趣旨でもあると解されることに照らすと,同法32条1項における引用として適法とされるためには,利用者が自己の著作物中で他人の著作物を利用した場合であることは要件でないと解されるべきものであって,本件各鑑定証書それ自体が著作物でないとしても,そのことから本件各鑑定証書に本件各コピーを添付してこれを利用したことが引用に当たるとした前記判断が妨げられるものではなく,被控訴人の主張を採用することはできない。
ウ なお,控訴人が本件各絵画の鑑定業務を行うこと自体は,何ら被控訴人の複製権を侵害するものではないから,本件各絵画の鑑定業務を行っている被控訴人がこれを独占できないことをもって,著作権者の正当な利益が害されたということができるものでないことはいうまでもない。
(3) 小括したがって,控訴人が本件各鑑定証書を作製するに際してこれに添付するため本件各コピーを作製したことは,これが本件各絵画の複製に当たるとしても,著作権法32条1項の規定する引用として許されるものであったといわなければならない。

◆判決本文

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平成21(ワ)6194 譲受債権請求承継参加申立事件 著作権 民事訴訟 平成22年09月30日 東京地方裁判所

 ウルトラマン映画に関する争いです。タイ最高裁の判決との関係についても触れています。
 被告は,タイ最高裁判決により,タイ王国において脱退原告が本件契約に基づくウルトラマン映画及びウルトラマンキャラクターの利用権を有しないことが確認され,本件契約に基づく脱退原告のいかなる権利主張も禁じられたものであるから,脱退原告は,タイ王国において過去及び将来のいかなる時点においても,ウルトラマン映画等について第三者にライセンスを付与して利益を得る機会はなかったと主張する(なお,前記(1)アのとおり,本件ライセンス契約i)の対象地域にはタイ王国が含まれている。)。しかしながら,上記タイ最高裁判決は,本件契約書が偽造されたものであり,本件契約の成立は認められないとの判断を前提とするものであり,かかる判断は,我が国における確定判決である東京高裁判決及び本件訴訟における当裁判所の前記認定と全く相反するものである。そして,本件契約の成否及び本件契約の内容に関する当裁判所の前記認定に従えば,本件独占的利用権を有する脱退原告が,タイ王国において本件著作物ないし旧ウルトラマンキャラクターのライセンス事業を行うことは,何ら違法なものではなく,そうである以上,被告による本件ライセンス契約i)の締結等により,脱退原告は上記ライセンス機会を失ったものと認めるのが相当であり,被告の上記主張は理由がない。

◆判決本文

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平成21(ワ)35164 著作権移転登録請求事件 著作権 民事訴訟 平成22年09月03日 東京地方裁判所

 プログラム著作権の帰属が争われました。権利の特定はSOFTICの登録番号でなされていました。権利の特定が容易となるというプログラム登録制度の意義が活用されています。

◆判決本文

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平成22(ネ)10033 損害賠償等請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成22年08月04日 知的財産高等裁判所

 図書館の蔵書について貸与権侵害が争われた控訴審にて、侵害しないとした1審判断が維持されました。また、情を知ってについても理由が追加されました。
 しかしながら,著作物の複製物を公衆に貸与する「貸与権」については,映画の著作物の複製物の「頒布権」に含まれる「貸与」を除くと,昭和59年改正法により新設された権利であって,それまでは,著作物の複製物を公衆に貸与することは自由とされていたものである。そして,昭和59年改正法によって,新しい権利として「貸与権」が設けられた際に付加された平成16年改正法により削除される前の著作権法附則4条の2において,経過措置が設けられ,書籍又は雑誌(主として楽譜により構成されているものを除く。)については,当分の間,貸与権の規定は適用されないこととされ,貸本業者が所持する書籍又は雑誌に限らず,書籍又は雑誌の貸与一般について貸与権の規定が適用されないとされたものである。その後の平成16年改正法により,上記附則4条の2は削除されて経過措置が廃止され,書籍又は雑誌の公衆への貸与についても貸与権の規定が適用されることになったが,平成16年改正法附則4条において,同年8月1日において現に公衆への貸与の目的をもって所持されている書籍又は雑誌(主として楽譜により構\成されているものを除く。)の貸与については,同改正前の著作権法附則4条の2の規定は,その施行後もなおその効力を有するとされたものである。以上によると,平成16年改正法によって削除された附則4条の2の経過措置の制定は,貸本業をいきなり規制することには理解が得られにくいことをも理由とするものであったとしても,昭和59年改正法による規制までは,書籍又は雑誌を貸与することは自由であったもので,同改正法によっても,同経過措置により,主として楽譜により構成されているものを除き,書籍又は雑誌を貸与することは自由のままとされ続けたものであるから,平成16年8月1日において現に公衆への貸与の目的をもって所持されている書籍又は雑誌(主として楽譜により構\成されているものを除く。)の貸与については,この経過措置の規定がなおその効力を有するとされる場合の貸与権が及ばない書籍又は雑誌の範囲は,貸本業者が所持する書籍又は雑誌に限定されると解すべき理由はなく,控訴人の主張は採用することができない。
・・・・
著作権法113条1項2号の「情を知って」とは,取引の安全を確保する必要から主観的要件が設けられた趣旨や同号違反には刑事罰が科せられること(最高裁平成6年(あ)第582号同7年4月4日第三小法廷決定・刑集49巻4号563頁参照)を考慮すると,単に侵害の警告を受けているとか侵害を理由とする訴えが提起されたとの事情を知るだけでは,これを肯定するに足らず,少なくとも,仮処分,判決等の公権的判断において,著作権を侵害する行為によって作成された物であることが示されたことを認識する必要があると解されるべきところ,本件において,本判決以前に,そのような公権的判断が示された事情はうかがわれず」

◆判決本文

 

◆原審はこちらです。平成20(ワ)32593平成22年02月26日

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平成21(ワ)27691 損害賠償 著作権 民事訴訟 平成22年06月17日 東京地方裁判所 

 出版物の図表の著作物性が争われました。裁判所は、ありふれた選択手法であり、編集著作物としての創作性がないと判断しました。

◆判決本文

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平成21(ネ)10050 著作権侵害差止等請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成22年06月17日 知的財産高等裁判所

 旧著作権法下における映画の著作権の存続期間について、本事案については創作に関与した者であると判断しました。
 旧著作権法6条は,著作物の存続期間を定めた規定であるものと解されるが,同条につき,さらに,法人等の団体が著作者となり得ることを前提とした規定であると解することも可能である。そして,新著作権法における職務著作の規定の実質的な根拠とされた,法人等における著作物の創作実態及び利用上の便宜の必要性等の事情(甲5の80ないし81頁参照)は,旧著作権法の下においても,程度の差こそあれ存在していたものと推認できることからすれば,同法6条によって,直ちに,著作者として表\示された映画製作会社がその映画の著作者となると帰結されるものでないとしても,旧著作権法の下において,実際に創作活動をした自然人ではなく,団体が著作者となる場合も一応あり得たものというべきである。特に,映画制作においては,非常に多くの者が関与し,その外延が不明なことが通常であり,それら多数の者の複雑な共同作業によって映画が完成するものであるが,その関与者の関与の時期,程度,態様等も,映画によって千差万別であって,このような性質を有する映画については,映画会社がその著作者となり,原始的にその著作権を取得したものと観念するのが,各関与者の意図に合致する場合もあったものと想像され,新著作権法15条1項所定の要件と同様の要件を備え,映画会社が原始的に著作者となるべきものと認める映画も相当数あったのではないかと思われる。(5) この見地から,本件各映画についてみるに,新著作権法15条1項所定の要件が充たされているかは,具体的には,・・・前記(2)アないしウのとおり,本件映画1,3の各オープニングの冒頭部分において,新東宝の標章や「新東宝映画」との表示がされ,各ポスターにも,新東宝の標章とともに,「新東宝興業株式会社配給」ないし「新東宝の良心特作」との記載があり,・・も大きく表\示されていることを考慮すると,原告や新東宝が,自社の制作名義の下に本件各映画を公表したとはいい得るが,自社を著作者とした映画として公表\したとまでいい得るか,必ずしも断じ難いものがある。そのほかの要件については,本件では,必要な証拠が十分に提出されていないため,確たることは不明であるといわざるを得ない。そうすると,旧著作権法下において,本件各映画が著作物として保護を受けることは明らかであるところ,その著作者としては,原告ないし新東宝と本件各監督を含む多数の自然人とのいずれと認めるのが合理的であるかについては,新著作権法15条1項の要件が証拠不十\分のため,認められないとすれば,本件各映画の著作権は,本件各監督を含む多数の自然人に発生したものといわざるを得ない。そして,本件各監督を含む多数の自然人が著作者であると認めた場合には,いったん本件各監督等が各映画の著作権を取得しながら,その後,映画公開までの間に,原告又は新東宝に同著作権を黙示的に譲渡したと認められるかが問題となるところ,前記(2)セのとおり,新東宝・原告間では,著作権譲渡につき正式な契約書が存在するにもかかわらず,本件各監督と原告ないし新東宝との間の著作権の移転については,何ら証拠が提出されていない。しかしながら,監督については,前記(2)シで認定したように,原告は,テレビ放送への利用許諾等で対価を得た場合,原告もその会員である社団法人日本映画製作者連盟と,本件各監督もその組合員であった協同組合日本映画監督協会との間の申合せに従い,監督等に対し追加報酬を支払い,また,原告が放送への利用許諾等をした際には,協同組合日本映画監督協会に対しその旨を通知し,同協会は,監督等の組合員に対しその旨を連絡していることを考えると,映画製作会社は映画監督につき著作者の一人として処遇していることが窺われる。以上のように考えると,映画監督に限っては,映画公開までの間に原告又は新東宝に対し監督を務めることとなった法律関係に基づいて,自己に生じた著作権を譲渡したものと認定することができる。\n

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平成22(行コ)10001 情報非開示処分取消等請求控訴事件 その他 行政訴訟 平成22年05月27日 知的財産高等裁判所

 委託者には著作権は譲渡されていないと判断されました。
 一般的に,著作権は,不動産の所有者や預金の権利者が権利発生等についての出捐等によって客観的に判断されるのと異なり,著作物を創作した者に原始的に帰属するものであるから(著作権法2条1項2号,同法17条),ソフトウェアの著作権の帰属は,原則として,それを創作した著作者に帰属するものであって,開発費の負担によって決せられるものではなく,システム開発委託契約に基づき受託会社によって開発されたプログラムの著作権は,原始的には受託会社に帰属するものと解される。また,旧岡三証券とOISとの間の本件委託業務基本契約(甲22)に基づくデータ処理業務は,上記認定の内容からすれば,情報処理委託契約であると解されるところ,情報処理委託契約は,委託者が情報の処理を委託し,受託者がこれを受託し,計算センターが行う様々な情報処理に対し,顧客が対価を支払う約定によって成立する契約であって,著作権の利用許諾契約的要素は含まれないと解される。本件においては,前記認定のとおり,旧岡三証券とOIS間において,昭和55年7月1日に締結された本件委託業務基本契約にも,著作権の利用許諾要素は全く含まれていないが,それは上記の理由によりいわば当然であり,また,証拠(甲61,62,70ないし73)によれば,そのような場合でも,委託者が,受託者に対し,システム開発料として多額の支出をすることは,一般的にあり得ることと認められるから,単に開発したソ\\フトウェアが主に委託者の業務に使用されるものであるとの理由で,委託者がその開発料を支払っていれば,直ちにその開発料に対応して改変された著作物の著作権が委託者に移転されるということにはならないことは明らかである。著作権はあくまで著作物を創作した者に原始的に帰属するものであるから,例えば,日本ユニシスとOISとの間の平成15年10月1日付「アウトソーシング・サービス委託契約書」(乙61)において,その第9条2項に,日本ユニシスが保有するプログラムをOISが改良した場合の改良後のプログラムの著作権法27条及び28条の権利を含む著作権が日本ユニシスに帰属する旨が合意されているように,その譲渡にはその旨の意思表\\示を要することは,他の財産権と異なるものではない。したがって,本件においても,上記のような明示の特約があるか,又はそれと等価値といえるような黙示の合意があるなどの特段の事情がない限り,旧岡三証券が本件ソフトウェアの開発費を負担したという事実があったとしても,そのことをもって,直ちに,その開発費を負担した部分のソ\\フトウェアの著作権が,その都度,委託者である旧岡三証券に移転することはないというべきである。そして,本件全証拠を精査しても,一度原始的にOISに帰属した本件ソフトウェアの著作権が,旧岡三証券がその開発費用を支出した都度,本件譲渡契約前にOISから旧岡三証券に対して黙示的に譲渡されていたことなどの特段の事情を認めるに足りる証拠はない。\n

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平成20(ワ)32593 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟 平成22年02月26日 東京地方裁判所 

 図書館の蔵書について貸与権侵害が争われました。裁判所は、貸与権が法定される以前から蔵書していたので、貸与権の規定が適用されないと判断しました。
   「当裁判所は,仮に本件韓国語著作物が原告の原告著作物に係る複製権及び翻訳権・翻案権を侵害するものであったとしても,被告らがそれぞれ設置する図書館等において,本件韓国語著作物を利用者に閲覧・謄写させたり,貸し出したりすることが,原告の著作権(二次的著作物に係る貸与権)の侵害には該当しないと判断する。その理由は,以下のとおりである。(1) 貸与権の規定貸与権の規定(著作権法26条の3)は,昭和59年改正法により設けられた規定であるが(当時の条文は26条の2。),同改正法により付加された著作権法附則4条の2により,書籍又は雑誌(主として楽譜により構成されているものを除く。)の貸与による場合には,当分の間,適用しないこととされた。その後,平成16年改正法(平成17年1月1日施行。)により,上記附則4条の2は削除され,平成17年1月1日から書籍及び雑誌の貸与にも貸与権の規定が適用されることになったが,同改正法附則4条により,同法の公布の日(平成16年6月9日)の属する月の翌々月の初日において現に公衆への貸与の目的をもって所持されている書籍又は雑誌(主として楽譜により構\成されているものを除く。)の貸与については,上記附則4条の2の規定は平成16年改正法の施行後もなおその効力を有するとされ,平成16年8月1日において現に公衆への貸与の目的で所持されていた書籍又は雑誌(主として楽譜により構成されているものを除く。)の貸与については,引き続き貸与権の規定は適用されないこととされた。(2) 上記経過規定を本件に当てはめると,被告東京大学は平成11年5月19日(東洋文化研究所図書館),平成13年3月9日(文学部図書館)に,被告東京学芸大学は平成12年2月4日に,被告大阪大学は平成15年12月18日に,被告筑波大学は平成10年11月25日に,被告九州大学は平成12年7月24日に,被告青山学院は平成12年9月18日に,被告専修大学は平成16年4月8日に,被告日韓文化交流基金は平成11年4月6日に,それぞれ本件韓国語著作物を購入し,そのころ,それぞれが設置する図書館等に本件韓国語著作物を所蔵し,現在に至っているが,被告らが設置する図書館等における本件韓国語著作物の貸出し等の状況は上記第2の2(3),(4)のとおりである(乙イ1の1,2,乙イ2〜7,乙ロ3,4,弁論の全趣旨)。そうすると,被告らが設置する図書館等で所蔵する本件韓国語著作物は,いずれも平成16年8月1日の時点において現に公衆への貸与の目的をもって所持されていた書籍であり,かつ,本件韓国語著作物は主として楽譜により構成されているものでないことは明らかであるから,平成16年改正法附則4条,同改正法により削除される前の著作権法附則4条の2により,その貸与につき貸与権の規定は適用されないこととなる。したがって,被告らが所蔵する本件韓国語著作物については貸与権の規定が適用されず,本件韓国語著作物に係る著作者の貸与権が及ばない以上,仮に原告が本件韓国語著作物の原著作物の著作者であったとしても,二次的著作物である本件韓国語著作物に係る原告の貸与権が及ぶことはなく(著作権法28条),原告の二次的著作物に係る貸与権の侵害に該当することはないため,原告の著作権侵害に基づく各請求は失当である。\n

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平成21(ワ)6604 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 平成22年03月30日 東京地方裁判所

 写真の著作物について、許諾権の範囲を超えた貸与があったとして、貸与権侵害が認められました。「逆版」のデュープフィルムの作成についての同一性保持権侵害は否定されました。
 著作者は,その著作物をその複製物の貸与により公衆に提供する権利を専有する(著作権法26条の3)。ここに「公衆」とは,同法2条5項が「公衆」には,「特定かつ多数の者を含むものとする。」と定めていることから,複製物の貸与を受ける者が,不特定又は特定多数の者であれば,公衆への貸与に該当するものと解される。上記事実によれば,アマナイメージズは被告の受託者として,第三者(三晃堂)に写真の使用を許諾したものであり,三晃堂は,広く一般に写真の貸出業を行う写真エージェンシーであるアマナイメージズにとって,不特定の者に該当すると認められる(アマナイメージズが,本件写真の使用許諾先を三晃堂(特定の者)に限定していたとの事実は認められない。)。そして,アマナイメージズにとって,三晃堂は不特定の者に該当するのであるから,アマナイメージズに対して,本件写真の使用許諾行為を委託した被告にとっても,三晃堂は不特定の者に該当すると認めるのが相当である。したがって,被告が,アマナイメージズに委託して,本件写真を第三者に貸し出した行為は,本件写真に係る原告の著作権(貸与権)の侵害に当たる。・・・(1)原告は,被告が本件写真について「逆版」のデュープフィルムを作成したとして,被告の上記行為が本件写真に係る原告の著作者人格権(同一性保持権)の侵害に当たる旨主張する。・・・本件委託契約(乙1)においては,写真のデュープ方法を特に指定したり,制限したりする約定はなかったことが認められる。以上の事実によれば,原被告間において,本件委託契約上,デュープフィルムの作成方法として,オリジナルフィルムとデュープフィルムの乳剤面同士を密着させてデュープする方法を採ることが制限されていたと解することはできず,被告が本件写真のデュープフィルムを上記の方法により作成したことは,本件委託契約に基づき原告から許諾された範囲内の行為であったと認めるのが相当である。また,そもそも,被告の作成したデュープフィルムによっても,像が左右正向きとなるようにプリントすること(本件写真で言えば,甲4の状態)も,左右逆向きとなるようにプリントすること(本件写真で言えば,甲5の状態)も問題なくできるのであるから,オリジナルフィルムとはベース面と乳剤面とが逆となり,ノッチコードの位置が逆となるデュープフィルムを作成しただけでは,本件写真に改変を加えた(像を左右逆とする改変を加えた)ということはできない。

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平成18(ワ)5689等 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成22年03月31日 東京地方裁判所

 プログラムの著作権・商標権侵害が認められました。あと、国際裁判管轄が争われてます。
 原告コンセプトは,第2事件について,ソースコードライセンス契約(乙5の1,2)5.4条の定めを根拠として,我が国に国際裁判管轄が認められないと主張し,訴えの却下を求めている。原告アシュラは,この主張に対し,時機に後れた防御方法であり,民事訴訟法157条1項により却下されるべきである旨の申立てをするが,国際裁判管轄の有無は裁判所が職権で調査すべき事項であるから,その主張が時機に後れたことを理由として,これを却下することはできない。そこで,第2事件について我が国の国際裁判管轄を検討する。第2事件は,前記第2の1(2)のとおり,原告アシュラが,原告コンセプトに対し,プログラム著作権及び商標権に基づき,原告コンセプトが販売する製品,マニュアルの販売等の差止め,廃棄等を求めるとともに,不法行為(著作権侵害,商標権侵害)による損害賠償又は不当利得返還を求める事案である。原告アシュラとファモティクとの間に締結されたソースコードライセンス契約(乙5の1,2)5.4条には「この契約に基づくいかなる訴訟も,カリフォルニア州の連邦又は州裁判所に起こされるものとし,ライセンシーは,この契約により対人裁判管轄権に服する。」旨の規定があるが,同契約の当事者は原告アシュラとファモティクであるから,上記規定は,原告アシュラがファモティクに対し,又はファモティクが原告アシュラに対し,同契約上の紛争に基づく訴訟を提起する場合の裁判管轄について合意したものであって,契約当事者以外の第三者との間に係属すべき訴訟の管轄について定めたものであるとは解されない。そして,同契約5.8条によれば,ファモティクは,原告アシュラの書面による事前同意なしに同契約上の地位を譲渡することができないものとされているから,原告コンセプトが同契約上のライセンシーとしての地位をファモティクから適法に譲り受けたものということはできず,原告コンセプトとファモティクを同視することはできない以上,上記5.4条の規定を理由として,第2事件について我が国の国際裁判管轄が否定されるということはできない。ところで,国際裁判管轄については,これを直接規定する法規もなく,また,よるべき条約も,一般に承認された明確な国際法上の原則も,いまだ確立していないのが現状であるから,当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念により,条理に従って決定するのが相当である(最高裁昭和56年10月16日第二小法廷判決・民集35巻7号1224頁参照)。そして,我が国の民事訴訟法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは,原則として,我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき,被告を我が国の裁判権に服させるのが相当であるが,我が国で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には,我が国の国際裁判管轄を否定すべきである(最高裁平成9年11月11日第三小法廷判決・民集51巻10号4055頁参照)。これを第2事件についてみると,同事件は,外国法人である原告アシュラが進んで我が国の裁判権に服するとして我が国の裁判所に提起した訴訟であるところ,他方,被告である原告コンセプトは東京都千代田区を本店の所在地とする日本法人であるから,我が国に普通裁判籍(民事訴訟法4条4項)があるが,我が国の国際裁判管轄を否定すべき上記特段の事情があるとは認められない。したがって,第2事件に係る訴えについては,我が国に国際裁判管轄を認めるのが相当であり,原告コンセプトの上記本案前の主張は理由がない。

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平成22(ネ)10047 著作権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成22年03月25日 知的財産高等裁判所 

 仏像の首をすげ替えた行為について、著作権侵害であると認めたものの、原状回復までは認められませんでした。
 当裁判所は,i)被告光源寺による本件観音像の仏頭部のすげ替え行為は,著作者であるRが生存しているとしたならばその著作者人格権(同一性保持権,法20条)の侵害となるべき行為であり,ii)法113条6項所定の「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当し,侵害とみなされるべき行為であり,iii)法60条のただし書等により許される行為には当たらないと判断する。したがって,原告はRの遺族として,法116条1項に基づいて,法115条に規定するRの名誉声望を回復するための適当な措置等を求めることができると解される。そして,当裁判所は,すべての事情を総合考慮すると,法115条所定のRの名誉声望を回復するためには,被告らが,本件観音像の仏頭のすげ替えを行った事実経緯を説明するための広告措置を採ることをもって十分であり,法112条所定の予\防等に必要な措置を命ずることは相当でないと判断するものである。その理由は,以下のとおりである。

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平成20(ワ)32148 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 平成22年01月27日 東京地方裁判所 

 編集著作物であることが否定されました。
 原告は,原告各図表が,原告が長年の実績と経験を基に相当の労力を費やして初めて取得することができるデータを,原告が独自の創意工夫を凝らして編集して作成したものであるから,編集著作物に該当すると主張する。しかしながら,原告は,原告が編集著作物と主張する原告各図表\に凝らしたとする「素材の選択又は配列」についての「独自の創意工夫」の具体的な内容について,主張立証するものでなく,前記(1)ないし(9)において認定したとおり,原告各図表と同様の素材を選択し,原告各図表\と同様の配列をした図表は,従前から数多く存在していることが認められる。そうすると,当該データの収集に相当の労力を要したり困難性が認められるか否かはさておくとしても,原告各図表\自体は,いずれもありふれた一般的な素材を選択し,一般的な配列をしたものにすぎないといわざるを得ず,これらが編集著作物であると認めることはできない。したがって,原告の前記主張は,採用することができない。なお,原告は,原告各図表で使用したデータが,収集に相当な労力を伴うものであり,たやすく収集できるものではない旨るる主張するところ,仮に,編集著作物における素材それ自体に価値が認められたり,素材の収集に労力を要するものであったとしても,素材それ自体が著作物として保護されるような場合を除き,それらの素材や労力が著作権法により保護されるものではない。したがって,仮に,原告がデータの収集に相当の労力を費やし,その保有するデータに一定の価値を認め得るものであるとしても,当該データ自体に著作物性が認められるものでない以上,それらの労力やデータが,原告各図表\の編集著作物としての著作物性を根拠付けるものとはなり得ず,原告の前記主張は,失当である。

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◆平成16年07月15日 第一小法廷判決 平成15年(受)第1793号、1794号 謝罪広告等請求事件

 事件の概要としては、以下のようなものです。
 被上告人は、上告人の作成した漫画本の批判本にて、上告人の漫画を一部引用しました。上告人は、著作権法にいう引用に当たらず、著作権侵害であるとの批判をおこないました。被上告人は、かかる批判が、名誉毀損に該当するとして損害賠償等を求めました。高裁では著作権侵害でないので、『事実』に該当せず、名誉毀損に当たると判断しました。上告人は、意見ないし論評に当たるので名誉毀損は成立しないと主張していました。  

 最高裁は、「法的な見解の表明それ自体は,それが判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても,そのことを理由に事実を摘示するものとはいえず,意見ないし論評の表\明に当たるものというべきである。」として、原判決を破棄しました。

 

◆平成16年07月15日 第一小法廷判決 平成15年(受)第1793号、1794号 謝罪広告等請求事件

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◆H16. 6.11 東京地裁 平成15(ワ)11889 著作権 民事訴訟事件

 原告のHP上の著作物を無断で放映されたとして、損害賠償が認められました。争点の1つは、全国ネットで放映された回数をどのように認定するかでした。
 

◆H16. 6.11 東京地裁 平成15(ワ)11889 著作権 民事訴訟事件

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◆H16. 1.28 東京地裁 平成14(ワ)18628 不正競争 民事訴訟事件

1)製品名「携帯接楽7」は、登録商標「常時接楽」と類似するのか、また、2)かかる商標権侵害であるとして警告したことを取引業者に通知したことは不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に該当するのか(虚偽事実の告知行為)、3)プログラム「携帯接楽7」は、プログラム「常時接楽」の著作権を侵害しているのか、4)かかる著作権侵害であるとして警告したことを取引業者に通知したことは不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に該当するのか(虚偽事実の告知行為)に該当するのかが争点となりました。

裁判所は、1)については全体として識別力発揮するものであるとして非類似、2)については該当せずとしましたが、3)については著作権侵害無し、4)については、著作権を有していないのにおこなった警告とのことで不正競争行為に該当すると判断しました。

「当裁判所は,以下の理由から,被告の上記告知行為は不正競争行為には当たらないと解する。 すなわち,?@前示のとおり,原告標章は本件商標に類似するものではないが,「常時接楽」(本件商標)と「携帯接楽」(原告標章)とは,両者とも造語である「接楽」の部分が共通し,異なるのはいずれも一般名詞である「常時」及び「携帯」の部分であることからすれば,被告が,原告標章が本件商標に類似するとして,原告商品1の発売が本件商標権の侵害となると判断したことには,相応の根拠があること,?A被告の上記告知行為は,本件通知書を原告に送付した後に,その内容を特定の取引先に説明するために行われたものであること,告知の内容は,被告が本件商標権を有すること及び本件商標と原告標章とを具体的に示して両者が類似する点を指摘し,概要その点に限られていたことに照らすと,被告の上記の告知行為は,その態様及び内容において,社会通念上,著しく不相当と解することはできないこと,?B被告の上記告知行為の対象は,多数の小売店に対してではなく,大手の流通卸業者であるソフトバンクコマース社等の2社に限られていたこと,?C同2社は,いずれも,大手のパソコンソ\フト製品の流通卸業者であるため,上記告知に係る商標権侵害に関しては,当然に訴訟の相手方になることも想定できる立場の者であること等の諸事情が認められる。これらの諸事情を総合考慮すると,被告が行った上記告知行為は,本件商標権に基づく権利行使の目的で行われた行為であると評価して差し支えない。したがって,被告の上記告知行為は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為には当たらないと解される。・・・  ・・・前記(1)認定のとおり,原告商品2のプログラムは,AMI社が携快電話6のプログラムのソースコードに改良を加えて製作したものであるが,本件合意書3項によれば,携快電話6のソ\ースコードの著作権はAMI社に帰属し,AMI社は,携快電話6のソースコードを「自由に付加開発し,他に開示することができる」のであるから,被告が携快電話6のプログラム(オブジェクトコード)の著作権を有するとしても,原告商品2のプログラムが被告の著作権を侵害して製作されたものということはできない。」

   

◆H16. 1.28 東京地裁 平成14(ワ)18628 不正競争 民事訴訟事件

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◆H15.10.30 大阪地裁 平成14(ワ)1989等 著作権 民事訴訟事件

 高級注文住宅が建物の著作物または不競法に規定する商品形態か、また、そのパンフレットは写真の著作物かが争われました。
 裁判所は、建物の著作権侵害、不競法による保護は認めませんでした。
  「原告建物は、前記認定によれば、通常の一般住宅が備える美的要素を超える美的な創作性を有し、建築芸術といえるような美術性、芸術性を有するとはいえないから、著作権法上の「建築の著作物」に該当するということはできない。」「原告建物と被告建物は、その外観において相違があり、形態が同一ないし実質的に同一であるとはいえないから、被告建物が原告建物を模倣した商品であると認めることはできない」。
   なお、パンフレットについては「被告写真は原告写真に依拠して原告写真を複製して作成されたものである」と写真の著作権侵害と判断しました。  

◆H15.10.30 大阪地裁 平成14(ワ)1989等 著作権 民事訴訟事件

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◆H15.10.23 大阪地裁 平成14(ワ)8848 著作権 民事訴訟事件

プログラムを違法複製して授業をしていたコンピュータスクールとその代表取締役が、複製権侵害などを問われました。争点は複製数と損害額です。
前者(複製数)については、「本件プログラムのインストールを直接確認できたコンピュータはもとより、そのインストールの痕跡があるコンピュータについても、本件プログラムの複製の事実を推認させるものということができる」と認定しました。
また、後者については、原告は、”標準小売価格の2倍”を主張しましたが、裁判所は、”不法行為による損害賠償の制度は、直接にそのようなことを目的とするものではない・・・プログラムの違法複製について、原告らの主張(プログラムの正規品購入価格より高額の金銭を支払うべきものとすること)を根拠付けるような実定法上の特別規定があるわけではないし、そのような内容の社会規範が確立していると認めるべき証拠もない。・・・一方、被告らは・・・卸売価格相当額である旨を主張するが、違法行為を行った被告らとの関係で、適法な取引関係を前提とした場合の価格を基準としなければならない根拠を見い出すことはできない。”として、”原告らが受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条2項)としては、本件プログラムの標準小売価格を基準として算定すべき”としました。

  ほぼ同様の判断をおこなったLEC事件です。
◆H13. 5.16 東京地裁 平成12(ワ)7932 著作権 民事訴訟事件

     こちらはLEC事件とは違う判断をおこなった事件です。
◆H14.10.31 東京地裁 平成13(ワ)22157 著作権 民事訴訟事件

          

◆H15.10.23 大阪地裁 平成14(ワ)8848 著作権 民事訴訟事件

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◆H15. 3. 6 東京地裁 平成14(ワ)26691 著作権 民事訴訟事件

 野球の打撃理論等に関する文書である原告著作物を被告に送付し,被告はこれを利用してプロ野球の公式戦等において競技を行っているものであるので、これを著作権侵害として損害賠償を請求した事件です。
 裁判所は、「仮に,原告の主張するように,原告著作物に記載されている野球の打撃理論等を被告が公式戦等の試合において実践したとしても,当該行為は著作権法にいう著作者の権利を侵害するものではない。けだし,・・・具体的な表現を離れた単なる思想又はアイデア自体は,著作権法上の保護の対象とはされていないからである(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。そして,本件において,原告が著作権侵害として主張する内容は,単に,被告が原告著作物に記載された内容を参考にして競技をしたというにとどまるものであって,原告著作物の具体的な表現を利用したものとはいえない。」と判断しました。

◆H15. 3. 6 東京地裁 平成14(ワ)26691 著作権 民事訴訟事件

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◆H15. 2. 7 名古屋地裁 平成14(ワ)2148 著作権 民事訴訟事件

  著作権法では、公衆とは、不特定多数の場合だけでなく、特定人でも多数の場合を含むと規定しています。受講生に対し社交ダンスを教授するに際して著作物を再生する行為が,「公に演奏し」に該当するかが争われました。 裁判所は該当すると判断しました。
「受講生が公衆に該当するか否かは,前記のような観点から合目的的に判断されるべきものであって,音楽著作物の利用主体とその利用行為を受ける者との間に契約ないし特別な関係が存することや,著作物利用の一時点における実際の対象者が少数であることは,必ずしも公衆であることを否定するものではないと解される上,?@上記認定のとおり,入会金さえ支払えば誰でも本件各施設におけるダンス教授所の受講生資格を取得することができ,入会の申込みと同時にレッスンを受けることも可能\であること,?A一度のレッスンにおける受講生数の制約は,ダンス教授そのものに内在する要因によるものではなく,当該施設における受講生の総数,施設の面積・・・・によって左右され,これらの要素いかんによっては,一度に数十名の受講生を対象としてレッスンを行うことも可能\と考えられることなどを考慮すると,受講生である顧客は不特定多数の者であり,同所における音楽著作物の演奏は公衆に対するものと評価できる。」

 

◆H15. 2. 7 名古屋地裁 平成14(ワ)2148 著作権 民事訴訟事件

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◆H14.11.28 東京高裁 平成14(ネ)1351 著作権 民事訴訟事件

 中古ゲームソフトについては頒布権が消尽するという判断がなされましたが、中古ビデオについても同様に適用されるが争われました。地裁の判断をそのまま認めました。

 

◆H14.11.28 東京高裁 平成14(ネ)1351 著作権 民事訴訟事件

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◆H14.11.28 東京高裁 平成14(ネ)1351 著作権 民事訴訟事件

  映画の著作物の頒布権と権利消尽の原則との関係について,中古ソフト頒布事件と(最高裁平成13年(受)第952号)の考え方をそのまま採用しました。
「本件各ビデオソフトは,配給制度による上映により公衆に提示することを目的としていない点において,家庭用テレビゲーム機用ソ\フトウェアと同じであり,市場における商品の円滑な流通を確保するなど,上記最高裁判決が挙げる(ア),(イ)及び(ウ)の観点からみた場合にも,家庭用テレビゲーム機用ソフトウェアと変わるところはない。上記最高裁判決の権利消尽の原則についての説示は,本件各ビデオソ\フトにも当てはまるというべきである。・・・・仮に,ビデオソフトについて,控訴人ら主張のような取引慣行があったとしても,その取引慣行が,法的確信に裏付けられた慣行として確立するに至っているといった特段の事情がない限り,このような取引慣行がビデオソ\フトの頒布権と権利消尽の原則との関係についての解釈を左右することはないというべきである。」と述べました。

 

◆H14.11.28 東京高裁 平成14(ネ)1351 著作権 民事訴訟事件

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◆H14.10.31 東京地裁 平成13(ワ)22157 著作権 民事訴訟事件

 プログラムを不正複製して販売していた会社が訴えられましたが、利益としては、LEC事件の判断は採用されませんでした。
  「(1)原告らは,著作権法114条1項にいう「利益」は,侵害品の販売等による積極的利益に限られず,財産の減少を免れたといった消極的利益をも含むものであり,本件において,被告は自ら本件ゲームソフトを無許諾で複製することにより,真正品のゲームソ\フトを市場において正規小売価格で購入することを免れたのであるから,正規小売価格と同額の利益を得たと主張する。なるほど,著作権法114条1項にいう「利益」については,積極的利益に限らず,消極的利益がこれに該当する場合があり得るものであるが,本件のように,著作物を無断で複製した者が当該複製物を販売している場合には,上記の「利益」が,侵害者が当該複製物の販売によって得た現実の利益,すなわち複製物の売上高から製造等に要した費用を控除した金額を意味するものであることは,同項の条文の文言上明らかというべきである。原告らが引用するLEC事件第1審判決は,パーソナルコンピュータ用のビジネスソ\フトウェアを無許諾で複製した者がこれを自ら使用していたという事案についての判断である。同事件においては,侵害者は複製品の販売を行っておらず,専ら自社 における事務処理において使用することにより利益を得ていたものであって,当該複製ソフトウェアを使用して事務処理を行うことにより得た利益を具体的な金額として算定することが困難であることから,仮に当該複製ソ\フトウェアを使用したことにより得た営業上の利益又は免れた人件費の支出の額がこれを上回る額であったとしても,真正品の小売価格をもって「利益」の上限とする趣旨の判断を示したものである。上記のとおり,LEC事件は本件とは全く事案を異にするものであって,LEC事件第1審判決を引用する所論は,独自の見解というほかはなく,採用することができない。」と述べました

 

◆H14.10.31 東京地裁 平成13(ワ)22157 著作権 民事訴訟事件

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