2024.11.15
令和6(ネ)10031 不正競争行為差止等請求控訴事件 商標権 民事訴訟 令和6年10月30日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
日本国内のウェブサイトで、海外における「Sushi Zanmai」のお店紹介することが、日本の商標権侵害・不正競争行為に該当するかが争われました。
1審では、商標権侵害を認め、差止、損害賠償(約600万円)が認められました。知財高裁は、商標としての使用ではない、商品等表示でもない、仮に商標としての使用であると考えた場合でも、日本国内で提供される役務についての使用ではないとして、\nこれを取り消しました。
(2) 被告各表示の商標法2条3項8号該当性について\n
前記(1)の本件ウェブサイトの構成と記載内容によれば、以下に述べるとお\nり、本件ウェブサイトは、全体として、被告を含むダイショーグループが東
南アジアにおいて日本食を提供する飲食店チェーンを展開するとともに、そ
こで提供するための鮮度の高い良質な食材を日本から輸出する事業を営んで
いることを紹介するものであると認められるから、被告各表示を付した本件\n各ウェブページについても、本件すし店の「役務に関する広告」に当たると
認めることはできない。
ア 「事業内容」のページ(前記(1)ウ)は、説明項目の記載順が「食材・食
品の輸出/提案」、「加工・流通」、「物産展・地域振興」、最後に1
0の飲食店チェーンの一つに被告各表示を付した「店舗開発・メニュー\n開発」となっており、それぞれ相応な分量の説明と写真があり、冒頭の
「食材・食品の輸出/提案」の末尾は、食材の海外輸出を検討する日本
国内の事業者に向けた呼びかけとなっている。そうすると、これに続く
「加工・流通」、「物産展・地域振興」、「店舗開発・メニュー開発」
は、輸出先の国における流通経路の川下に関する事業内容を順次紹介す
ることにより、海外輸出を検討している国内の事業者に向けて、ダイシ
ョーグループを通じた輸出の利点を記載したものといえる。
イ このような食材の輸出に関連する内容は、前記(1)のとおり本件ウェブサ
イトの随所にみられ、特に「海外輸出をお考えの方」のページ(前記(1)
カ)は、食材の海外輸出を検討する国内事業者に向けたものであること
が明らかである。
ウ これに対し、被告各表示を付した部分は、上記「事業内容」のページに\nおいては、ページの最後に被告各表示と簡潔な説明文及び英文ウェブサ\nイトへのリンクがあるにとどまり、ページ全体に占める割合は少なく、
具体的なメニューの内容、価格、店舗の所在場所といった、一般消費者
に向けて本件すし店の役務の内容を知らせる内容は乏しい(これらの情
報は、リンクされた英文ウェブサイト(乙37)に掲載されていること
が推認される。)。しかも、被告各表示は、ダイショーグループが展開\nしている飲食店チェーンを紹介した部分に掲載されている10種類の飲
食店(その中には簡潔な説明文中にシンガポールやクアラルンプールの
店舗であることが明記されているものもある。)の一つにすぎない。そ
して、同ページの記載内容からも、本件すし店が東南アジアに所在する
ことは比較的容易に読み取ることができる。
トップページ(前記(1)ア)において被告各表示を用いた部分をみても、\n英文ウェブサイトへのリンクがないことを除いては「事業内容」のペー
ジと同じであり、ページ全体に占める割合が多いとはいえず、10種類
の飲食店チェーンの一つとして店舗情報が提供されていることは、前記
「事業内容」のページと同様である。
さらに、上記の「事業内容」のページや「ダイショーグループとは」
のページ(前記(1)イ)をみれば、本件すし店が東南アジアに所在するこ
と、日本法人である被告が国内からの食材の輸出の事業を営んでいるこ
とは、比較的容易に読み取ることができる。
エ これに対し、原告は、本件各ウェブページの被告各表示が、ダイショー\nグループの事業内容として本件すし店の役務を「広く世間に告げ知らせる」
ことを目的として使用されていること、その役務に係る出所表示機能\、自
他商品識別機能等を果たす態様で使用されていることは明らかであるから、\n本件すし店の「役務に関する広告」に該当する旨主張する。
しかし、前記の本件ウェブサイトの構成と記載内容によれば、被告各表\
示を用いた部分が本件すし店の役務を「広く世間に告げ知らせる」とい
う一面があることを全く否定することはできないとしても、全体からみ
ると、本件各ウェブページは日本からの食材の輸出という役務の広告と
いうべきであって、被告各表示を用いた部分は、ダイショーグループが\n展開する他の飲食店チェーンの紹介と併せて、国内の事業者に対し、ダ
イショーグループを通じて輸出した場合の食材の使用先や使用状況を明
らかにし、これにより被告との間で食材の輸出取引を行うための誘因と
する目的で使用されているというべきである。
このような使用態様については、本件すし店の役務に係る出所表示機能\、
自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評価することはで\nきない。
・・・
ク 以上によれば、被告各表示は、その態様に照らし、食材の海外輸出を検\n討する国内事業者に向けた本件各ウェブページの中で、被告の事業を紹
介するために使用されているにすぎず、本件すし店を日本国内の需要者
に対し広告する目的で使用されたものではなく、現にそのような効果が
生じている証拠もない。
したがって、本件ウェブページ掲載行為は、「本件すし店の役務に関
する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為」として商
標法2条3項8号に該当するものということはできない。
(3) 被告各表示と原告各商標権の侵害について\n
仮に、原告が主張するとおり、被告各表示の使用が本件すし店の存在を日\n本国内に広く知らしめるという点において「広告」に該当し、商標的使用に
該当すると考えた場合でも、以下のとおり、被告各表示は、日本国内におけ\nる役務の提供について使用されているものではないから、原告各商標権を侵
害するものではない。
ア すなわち、被告各表示は、日本語で記載された本件各ウェブページに掲\n載されているから、これが本件すし店の広告に該当すると考えたときは、
日本国内において商標法2条3項8号に該当する行為がされたものと一応
いうことができる。
イ しかるところ、前記のとおり、本件各ウェブページは、食材の海外輸出
を検討する国内事業者に向けたものであると認められ、被告各表示は、本\n件各ウェブページの中でダイショーグループが海外で日本の食材を用いた
飲食店チェーンを展開していることを示す際に使用されている。本件各ウ
ェブページには、本件すし店の具体的なメニューの内容、価格など、一般
消費者に向けて本件すし店の役務を知らせる内容は一切記載されておらず、
「事業内容」のページの被告各表示の下のリンクから誘導されるのは英文\nのページのウェブサイトである。
ウ また、証拠(乙17、21)及び弁論の全趣旨によれば、本件すし店は、
日本国外(シンガポール、マレーシア)で飲食物の提供等の役務を提供し
ていることが認められ、シンガポールやマレーシアで商標登録されている
被告各表示(甲8、乙14、15。商標権者はスーパースシである。)は、\n現地でその役務を提供するに当たり、使用されている標章である。本件す
し店が、日本国内で同様の役務を提供している事実は認められない。
エ そうすると、被告各表示は、本件すし店の日本国内における役務の提供\nについて用いられているものではない。被告各表示を見た日本国内の消費\n者が被告各表示により役務の提供の出所を誤認したとしても、本件すし店\nが日本で役務を提供していない以上、その誤認の結果(原告の店であると
誤認して、本件すし店から指定役務の提供を受けること)は、常に日本の
商標権の効力の及ばない国外で発生することになるはずであり、日本国内
で原告各商標権の出所表示機能\が侵害されることはない。なお、証拠(甲
10、11)によれば、クアラルンプールの本件すし店に入店する際、こ
れを原告の支店であると誤認した日本人がいた事実が認められるが、当該
出所の誤認が本件各ウェブページの被告各表示を閲覧した結果生じたもの\nであることを認める証拠はない上、出所の誤認が国外で発生していること
に変わりはないから、当該事実は、前記判断を左右するに足りるものでは
ない。
オ もともと、一国において登録された商標は、他の国において登録された
商標から独立したものとされており(パリ条約6条1項及び3項)、かつ、
いわゆる属地主義の原則により、商標権の効力は、その登録された国内に
限られるものと解される。外国において適法に登録された商標である被告
各表示が当該外国における指定役務の提供を表\示するため本件各ウェブペ
ージ上で使用された場合において、原告各商標権に基づき被告各表示の使\n用差止等を認めることは、実質的にみて、原告各商標の国内における出所
表示機能\等が侵害されていないにもかかわらず、外国商標の当該外国にお
ける指定役務表示のための適法な使用を日本の商標権により制限すること\nと同様の結果になるから、商標権独立の原則及び属地主義の原則の観点か
らみても相当ではないというべきである。
・・・
以上によれば、原告の主張を考慮しても、本件各ウェブページは、日本か
らの食材の輸出という役務の広告というべきであり、仮に被告各表示を本件\nすし店の役務の広告であると考えた場合でも、当該役務は国外で提供される
役務であるから、原告各商標の国内における出所保護機能を害するものでは\nない。
・・・
(1) 前記2のとおり、本件各ウェブページにおいて、被告各表示は、日本から\nの食材の輸出という被告の事業に関連する情報の一つを示すために使用され
ていると認められるから、他人の商品等表示と同一又は類似の商品等表\示を
使用し、出所表示機能\、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されている\nと評価することはできない。また、仮に、被告各表示が、本件すし店の提供\nする役務を表示するために使用されていると考えたとしても、当該役務は日\n本国内の役務ではなく、国外で提供される役務であるから、日本国内におい
て、出所表示機能\、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評\n価することはできない。
そうすると、本件ウェブページ掲載行為は、被告各表示を商品等表\示とし
て「使用」するもの(不競法2条1項1号)に当たらないから、その余の点
を判断するまでもなく、不競法2条1項1号に基づく原告の請求は、理由が
ない。
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1審はこちら。
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2024.10.17
令和5(ネ)10111 不正競争行為差止等請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和6年9月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
イス(TRIPP TRAPP)の類似品に対して、商品等表示も認められず、著作権の適用なしと判断された控訴審判決です。知財高裁も同様の判断をしました。\n
そこで検討すると、被告各製品の形態は、別紙「被告各製品の形態」記載
の構成aから構\成fまで(以下、単に「構成 a」などという。)のとおりで
あり、これによると、被告各製品は、本件顕著な特徴を構成している特徴1)
から特徴3)までとの対比において、左右一対の側木の2本脚であり、かつ、
座面板及び足置板が左右一対の側木の間に床面と平行に固定されており(特
徴1))、左右方向から見て、側木が床面から斜めに立ち上がっており、側木
の下端が脚木の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面
に接していることによって、側木と脚木が約66度の鋭角による略L字型の
形状を形成している(特徴2))が、側木の内側に溝は形成されておらず、側
木の後方部分に、固定部材と結合してネジ止めするための円形状の穴が多数
形成され、座面板及び足置板を側木の間で支持する支持部材、支持部材を側
木の間において掛け渡された状態で側木に固定する固定部材及びネジ部材を
備え、2本の側木後方に設けられた穴と固定部材を結合した状態でネジ部材
を閉めることで、支持部材と固定部材によって側木を前後から挟持して押圧
し、支持部材を側木に固定しており(構成f)、原告らの商品等表\示の特徴
3)を備えていないものと認められる。
なお、その他の形態上の諸要素を考慮しても、被告各製品は、側木及び脚
木からなる2本脚、背板、座面板及び足置板、横木のほかネジ部材、支持部
材、固定部材等から構成され、脚木は一直線であるが、側木は一直線ではな\nく、側木の上端部分は床面と垂直に折れ曲がっており、2本脚が、正面視で
床面に垂直で相互に平行となるように配置され、側木と脚木の結合部分から
離れた脚木中央部に横木が配置され、中央部に楕円形の穴が形成されている
背板は側木の最上部に配置され、座面板と足置板は楕円形の短辺を切り落と
したような曲線的形状とされ、ネジ部材、支持部材及び固定部材等により側
木に固定されていることから、被告各製品の形態においては、曲線的な要素
とともに、座面板及び足置板の支持部分に複数の部材が利用され、その安定
性が特徴的となっており、その印象も、原告製品における、直線的な形態が
際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっている。
よって、原告製品全体の形態の特徴である本件顕著な特徴について、被告各
製品は、これを備えていないものと認められる。
(3) したがって、被告各製品は、本件顕著な特徴を備えていないから、取引の
実情の下において、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づ
く印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれ
があるものということはできない。よって、原告らの商品等表示と被告各製\n品の形態が類似すると認めることはできない。
・・・
著作権法2条2項は、「美術の著作物」には「美術工芸品」を含むものとする旨規定しており、同項の美術工芸品は実用的な機能と切り離して独立の美的鑑賞の対象とすることができるようなものが想定されていると考えられるのであって、同項の規定は、それが例示規定であると解した場合でも、いわゆる応用美術に著作物性を認める場合の要件について前記のように解する一つの根拠となるというべきである。\n
(2) 以上を踏まえ、本件について検討すると、原告製品については、特徴1)か
ら特徴3)まで及び側木と脚木をそれぞれ一直線とするデザインという本件顕
著な特徴があり、これにより原告製品の直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象を与えるものとなっていると認められることは、
前記のとおりである。しかし、本件顕著な特徴は、2本脚の間に座面板及び
足置板がある点(特徴1))、側木と脚木とが略L字型の形状を構成する点\n(特徴2))、側木の内側に形成された溝に沿って座面板等をはめ込み固定す
る点(特徴3))からなるものであって、そのいずれにおいても高さの調整が
可能な子供用椅子としての実用的な機能\そのものを実現するために可能な複\n数の選択肢の中から選択された特徴である。また、これらの特徴により全体
として実現されているのも椅子としての機能である。したがって、本件顕著\nな特徴は、原告製品の椅子としての機能から分離することが困難なものであ\nる。すなわち、本件顕著な特徴を備えた原告製品は、椅子の創作的表現とし\nて美感を起こさせるものではあっても、椅子としての実用的な機能を離れて\n独立の美的鑑賞の対象とすることができるような部分を有するということは
できない。また、原告製品は、その製造・販売状況に照らすと、専ら美的鑑
賞目的で制作されたものと認めることもできない。それのみならず、仮に、
原告製品の本件顕著な特徴について、独立の美的鑑賞の対象となり得るよう
な創作性があると考えたとしても、前記のとおり、被告各製品は、本件顕著
な特徴を備えていないから、原告製品の形態が表現する、直線的な形態が際\n立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっているの
であって、被告各製品から原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得する\nことはできない。そうすると、結局、本件において、著作権侵害は成立しないといわざるを得ない。
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2024.08.26
令和5(ワ)70654 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和6年7月8日 東京地方裁判所
書籍の題号が、不競法2条1項1号又は2号に定める商品等表示に該当するかが争われました。裁判所は、該当しないと判断しました。問題となった題号は「牧野日本植物圖鑑」です。
(1) 不競法2条1項1号及び2号は、「商品等表示」につき、人の業務に係る\n氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を
表示するものと定義している。そうすると、同各号にいう「商品等表\示」と
は、商品又は営業を表示するものであるから、出所表\示機能を有するものに\n限られるというべきである。そして、書籍には発行者等の表示が付されるの\nが通例であり、書籍の出所は、一般に上記発行者等の表示が示すものである\nから、書籍の題号は、その書籍の内容を示すものにすぎず、出所表示機能\を
有するものとはいえない。
そうすると、書籍の題号は、特段の事情がない限り、同各号にいう「商品
等表示」に該当しないと解するのが相当である。\nこれを本件についてみると、証拠(甲2ないし10、19)及び弁論の全
趣旨によれば、「牧野日本植物圖鑑」という本件題号は、牧野執筆に係る日
本の植物図鑑という書籍の内容を端的に示すものにすぎず、牧野という執筆
者に特徴があるのは格別、書籍の題号としてはありふれたものであるから、
本件題号には出所を示すような顕著な特徴はない。
そして、証拠(乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、一般に題号を同じ
くする書籍であっても、別々の発行者等により発行されているものも少なか
らず存在することが認められる。当該認定に係る取引の実情に鑑みると、本
件題号に接した需要者又は取引者が、これを書籍の出所を示すものとして直
ちに理解するものとはいえない。
これらの事情を踏まえると、本件題号は、出所表示機能\を有するものとは
いえず、上記特段の事情があるものと認めることはできない。
したがって、本件題号は、不競法2条1項1号又は2号にいう「商品等表\n示」に該当するものと認めることはできない。
のみならず、被告書籍についてみると、仮に「牧野日本植物圖鑑」という
牧野執筆に係る植物図鑑が全国的に知られていたという立場を採用したとし
ても、本件全証拠によっても、原告が本件図鑑を出版していた事実までも全
国的に知られているものとして著名であると認めるに足りない。
他方、仮に、原告が本件図鑑を出版していた事実が、一部の専門家や研究
者の間で周知であるという立場を採用したとしても、前記前提事実及び証拠
(甲19)によれば、被告書籍の表紙には、本件題号の左下欄に「三四郎書\n館」という発行所を示す表示が付されていることからすると、被告書籍に接\nした需要者又は取引者は、被告書籍の発行所が、原告ではなく「三四郎書館」
であると理解するのは明らかである。
そうすると、被告書籍の出版は、本件図鑑との混同を生じさせる行為とは
いえないことは、明らかである。
◆判決本文
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2024.06. 6
令和4(ワ)4104 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和4年12月23日 東京地方裁判所
漏れていたのでアップします。取引の際にそもそも製品の形態自体に着目して購入しない場合には、不競法2条1項1号の商品等表示には該当しないと判断されました。\n
(1) 不競法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示(人の業務に係る氏名、\n商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示\nするものをいう。以下同じ。)と同一又は類似の商品等表示を使用等する\nことをもって、不正競争に該当する旨規定している。この規定は、周知な
商品等表示の有する出所表\示機能を保護するという観点から、周知な商品\n等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧\n客を獲得する行為を防止し、事業者間の公正な競争等を確保するものと解
される。そして、商品の形態は、特定の出所を表示する二次的意味を有す\nる場合があるものの、商標等とは異なり、本来的には商品の出所表示機能\
を有するものではないから、上記規定の趣旨に鑑みると、その形態が商標
等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能\を発揮するような特
段の事情がない限り、商品等表示には該当しないというべきである。そう\nすると、商品の形態は、1)客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴
(以下「特別顕著性」という。)を有しており、かつ、2)特定の事業者に
よって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強
力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所
を表示するものとして周知(以下「周知性」という。)であると認められ\nる特段の事情がない限り、不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当し\nないと解するのが相当である。
そして、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のも\nのと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止するという同号の上記趣旨
目的に鑑みると、商品の形態が、取引の際に出所表示機能\を有するもので
はないと認められる場合には、特定の出所を表示するものとして特別顕著\n性又は周知性があるとはいえず、上記商品の形態は、不競法2条1項1号
にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。\n
(2) これを本件についてみると、前記認定事実によれば、1)本件製品は、中
圧B供給用ガス遮断弁であるところ、その国内における需要者は、ガスボ
イラーメーカーやガスバーナーメーカーの専門業者約30社に限られ、一
般消費者が店頭において商品を見比べて購入するという性質の製品ではな
いこと、2)本件製品は、その性質上、高度の安全性が求められる製品であ
り、不具合があると、多大な損失が生ずる可能性があるため、需要者であ\nる専門業者は、購入に当たって、製品の安全性、信頼性を重視しているこ
と、3)現に、需要者は、2〜3年かけてテストを繰り返しながら慎重に製
品の採否を検討するのであり、その検討のためには、製品内部の動作や構\n造についても詳細な情報を要求するのが通例であること、4)被告製品自
体、原告製品の機能やアフターサービスに対する需要者の要望を受けて、\n原告製品の互換品として開発されるに至ったものであること、5)被告製品
の価格は、約50万円と高額であり、原告製品も同程度であると推認され
ること、6)原告自身、原告製品に関する宣伝広告に当たって、原告製品の
形態上の特徴それ自体を強調しておらず、被告においても、被告製品の形
態をセールスポイントとするものではないこと、以上の事実が認められ
る。
上記認定事実によれば、本件製品の需要者は、約30社の専門業者に限
られるのであり、当該専門業者は、長期間費やし製品をテストするなどし
て、専ら安全性、信頼性の観点から本件製品を購入していることが認めら
れることからすると、需要者である本件製品の専門業者は、取引の際にそ
もそも製品の形態自体に着目して本件製品を購入するものとはいえない。
上記認定に係る本件製品の取引の実情に鑑みると、原告製品の形態は、
一定程度の周知性があるとしても、出所表示機能\を有するものではなく、
不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当であ\nる。
仮に、原告製品の形態が商品等表示に該当するという見解に立ったとし\nても、上記認定に係る本件製品の取引の実情を踏まえると、需要者である
本件製品の専門業者は、長期間費やし製品をテストするなどして、専ら安
全性、信頼性の観点から本件製品を購入しているのであるから、当該需要
者において原告製品と被告製品の誤認混同が生じないことは、明らかであ
る。
したがって、被告が被告製品を製造又は販売する行為は、不競法2条1
項1号の不正競争行為に該当するものと認めることはできない。
◆判決本文
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2024.05.26
令和4(ワ)70009 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和6年5月15日 東京地方裁判所
神棚の形状について、周知の商品形態なので、不正競争行為であると主張しましたが、周知性無しと判断されました。
(2) 原告が主張する原告神棚板の特徴1)から7)のうち、特徴7)は、商品の機能を\nいうものであり、また、特徴6)も金具の形状を問題とするものではなく商品の
機能をいうものといえる。このような機能\自体が商品の形態による商品等表示\nとなることはないと解される。
特徴1)から5)のうち、特徴1)から3)は壁面に取り付け可能な棚としては基本\n的な形態のものであることがうかがわれ、また、特徴4)、5)も、商品の一部分
の特徴で、かつ、それぞれの形態自体は独特のものとはいえないことがうかが
われる。もっとも、本件証拠上、原告神棚板の販売が開始された平成16年よ
り前の同種の商品の形態についての証拠はない。しかし、仮に、特徴1)から5)
の組合せが他の同種の商品と異なる顕著な特徴であったと認められるとしても、
後記(3)のとおり、原告神棚板の特徴1)から5)の組合せが原告の出所を示すもの
として周知になったことはなく、遅くとも令和2年10月までに原告神棚板の
形態が原告の出所を示すものとして周知となっていたとの原告の主張には理由
がない。
(3) 原告が主張する原告神棚板の特徴が原告の出所を示すものとして周知になっ
ていたか否かについて検討する。
平成27年4月には、NHKの番組で原告神棚板が取り上げられた。しかし、
他に、全国的なテレビ番組で原告神棚板が取り上げられたことがあったことを
認めるに足りず、この一回の放送によって、原告神棚板の特徴1)から5)の組合
せが原告の出所を示すものとして需要者に周知になったとはいえない。また、
原告の神棚が写っている写真が、日刊紙、雑誌等に掲載されたことが認められ
るが、それらは合計数回であり、これらによって、原告神棚板の特徴1)から5)
の組合せが原告の出所を示すものとして需要者に周知になったとはいえない。
さらに、原告神棚板は、ホームセンター、神具店、仏具店、神社、原告の直
営店及びオンラインショップで販売されていた。主な販売先であるホームセン
ターでは、原告の商品が多く取り扱われ(原告代表者は、ホームセンターの実\n店舗での原告の神棚、神具の展示、販売のシェアは70%を下回ることはなく、
80%を超えていると推計している。甲122)、原告の商品が、まとまって
展示、販売されている店舗もあった。しかし、原告は、神棚や関係する商品と
して多種類の商品を販売していて、ホームセンターでもそのような多種類の商
品が販売されていた。原告神棚板は、原告が販売する複数の種類の神棚のうち
の一つであり、その展示、販売に際しても、多種類の商品の中の一つとして展
示、販売されているのであって、原告神棚板の上記特徴が他の同種の商品とは
異なることを述べる宣伝文言によって強調されて展示、販売されていることも
認めるには足りない。これらからすると、原告神棚板の展示、販売によって、
原告神棚板の特徴1)から5)の組合せが原告の出所を示すものとして需要者に周
知になったとはいえない。
また、前記1(3)によれば、原告が主張する特徴1)から5)のうちの複数の特徴
を備える神棚板も販売されていて、原告が主張する特徴のいくつかやその組合
せについては原告が長期間独占的に使用していたと認めることもできない。
以上によれば、原告神棚板について、各報道や公刊物の記載、展示、販売に
よって原告神棚板の特徴1)から5)の組合せが原告の出所を示すものとして需要
者に周知になったとは認められず、また、報道等の回数の少なさや、展示、販
売の際も多種類の商品の一つとして展示、販売されているにすぎないことから
も、関係する事情を総合して考慮しても、原告神棚板の特徴1)から5)の組合せ
が、原告の出所を示す表示として周知になったことはないと認められる。\n
◆判決本文
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2024.05. 1
令和3(ワ)11358 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和6年3月19日 東京地方裁判所
被告は、魚介類及び水産加工品の輸出入等の事業を行う会社で、日本での食材の仕入れ及び東南アジアのダイショーグループ各社への輸出を行っていました。ダイショーグループは、シンガポール・マレーシア・インドネシアなどで「寿司」、「和食レストラン」などの店舗を展開していました。本件各ウェブページは、日本語によって記載された主に日本国内の取引者及び需要者に向けたウェブページであり、被告が管理していること、本件各ウェブページには、スーパースシが展開する本件すし店に関するものとして被告各表示が掲載されていました。裁判所は、指定商品・役務が類似する、&商標も類似するとして、差止と約600万円の損害賠償を認めました。また、不正競争行為にも該当すると判断されています。
原告は「すしざんまい」です。
ア 本件各掲載行為のうち本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為について\n
前提事実(1)イ及びウ、(4)ア、証拠(甲4、23ないし25)並びに弁
論の全趣旨によれば、原告各商標の指定役務は「すしを主とする飲食物
の提供」であること、被告は、魚介類及び水産加工品の輸出入等の事業
を行う株式会社であり、日本での食材の仕入れ及び東南アジアのダイシ
ョーグループ各社への輸出を行っていること、ダイショーグループは、
シンガポール・マレーシア・インドネシアなどで「寿司」、「和食レスト
ラン」などの店舗を展開していること、本件各ウェブページは、日本語
によって記載された主に日本国内の取引者及び需要者に向けたウェブペ
ージであり、被告が管理していること、本件各ウェブページには、スー
パースシが展開する本件すし店に関するものとして被告各表示が掲載さ\nれており、被告各表示とともに「手頃な価格で幅広い客層が楽しめる回\n転寿司。厳選した食材と豊富なメニューで、人気を集めています。」と
の説明が掲載されていることが認められる。
このような事情からすれば、本件各ウェブページにおける被告各表示\nは、すしを主とする飲食物の提供を行う本件すし店を紹介するために掲
載されたものであり、「すしを主とする飲食物の提供」と類似の役務に
係るものといえるから、原告各商標の指定役務と被告各表示に係る役務\nとは類似するものといえる。
そして、被告が本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は、\n「役務に関する広告…を内容とする情報に標章を付して電磁的方法によ
り提供する行為」(商標法2条3項8号)に該当するといえ、被告は原
告各商標を「使用」したものと認められる。
被告の主張について
被告は、被告各表示はスーパースシがマレーシアにおいて展開する本\n件すし店に関するものにすぎず、被告自身は「すしを主とする飲食物の
提供」を行っていないことなどから、被告各表示に係る役務は、原告各\n商標の指定役務である「すしを主とする飲食物の提供」とは類似してお
らず、また、被告が原告各商標を「使用」したとはいえないと主張する。
そこで検討すると、商標法は、「商標を保護することにより、商標の
使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、
あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」と定めており、こ
の目的を達成するため、商標は、標章をある者の商品又は役務に付する
ことにより、その商品又は役務の出所を表示する機能\(出所表示機能\)
や、取引者及び需要者が同一の商標の付された商品又は役務には同一の
品質を期待しており、商標がその期待に応える作用をする機能(品質保\n証機能)を有するものと解される。本件においては、前記 で説示した
とおり、本件各ウェブページは主に日本国内の取引者及び需要者に向け
たウェブページであり、かつ、被告各表示は「すしを主とする飲食物の\n提供」という役務に係るものといえるから、被告各表示がマレーシアの\n本件すし店に係るものであったとしても、本件各ウェブページに被告各
表示を掲載した行為は、日本における原告各商標の出所表\示機能及び品\n質保証機能を害し、ひいては、上記の商標法の目的にも反するものであ\nるといえる。
そして、被告各表示が被告自身の事業に関するものではなかったとし\nても、本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は被告が行った\nものと認められ、上記のとおり、そのような被告の行為によって日本に
おける原告各商標の出所表示機能\及び品質保持機能が害されている以上、\n被告が原告各商標を「使用」していないと評価することはできない。
そうだとすれば、被告の上記主張はいずれも役務の類否や使用行為の
有無を左右するものではないというべきである。
・・・・
被告は、被告各表示はスーパースシがマレーシアにおいて展開する本\n件すし店に関するものにすぎず、被告自身は「すしを主とする飲食物の
提供」を行っていないことなどから、被告各表示に係る役務は、原告各\n商標の指定役務である「すしを主とする飲食物の提供」とは類似してお
らず、また、被告が原告各商標を「使用」したとはいえないと主張する。
そこで検討すると、商標法は、「商標を保護することにより、商標の
使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、
あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」と定めており、こ
の目的を達成するため、商標は、標章をある者の商品又は役務に付する
ことにより、その商品又は役務の出所を表示する機能\(出所表示機能\)
や、取引者及び需要者が同一の商標の付された商品又は役務には同一の
品質を期待しており、商標がその期待に応える作用をする機能(品質保\n証機能)を有するものと解される。本件においては、前記 で説示した
とおり、本件各ウェブページは主に日本国内の取引者及び需要者に向け
たウェブページであり、かつ、被告各表示は「すしを主とする飲食物の\n提供」という役務に係るものといえるから、被告各表示がマレーシアの\n本件すし店に係るものであったとしても、本件各ウェブページに被告各
表示を掲載した行為は、日本における原告各商標の出所表\示機能及び品\n質保証機能を害し、ひいては、上記の商標法の目的にも反するものであ\nるといえる。
そして、被告各表示が被告自身の事業に関するものではなかったとし\nても、本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は被告が行った\nものと認められ、上記のとおり、そのような被告の行為によって日本に
おける原告各商標の出所表示機能\及び品質保持機能が害されている以上、\n被告が原告各商標を「使用」していないと評価することはできない。
そうだとすれば、被告の上記主張はいずれも役務の類否や使用行為の
有無を左右するものではないというべきである。
イ 本件各掲載行為のうち本件各アカウント写真として被告表示2を掲載し\nた行為について
前提事実(1)ウ、証拠(甲20、21)及び弁論の全趣旨によれば、スー
パースシは、マレーシアにおいて本件すし店を展開していること、本件各
アカウントは、本件すし店に係るアカウントであることが認められるが、
本件全証拠によっても、被告が本件各アカウントを管理していると認める
ことはできない。
したがって、本件各アカウント写真の掲載行為については、被告が行っ
たものと認めることができないから、被告が原告各商標を「使用」したと
はいえない。
なお、本件では、不競法違反に関して被告が原告各表示と類似の商品等\n表示を「使用」(不競法2条1項1号)したといえるか(争点2−3)も\n問題となっているが、上記で説示したとおり、本件各アカウント写真の掲
載行為は被告が行ったとは認められないから、被告が原告各表示と類似の\n商品等表示を「使用」したともいえない。\n
・・・
商標法38条2項による損害額の算定について
商標法38条2項は、商標権者等が侵害行為による損害の額を立証するこ
とが困難であることから、その立証を容易にするために設けられたものであ
ると解される。そうすると、同項の適用が認められるためには、侵害者によ
る侵害行為がなかったならば商標権者等が利益を得られたであろうという事
情が存在する必要があるものと解される。
証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、原告はマレーシアにおいてすし
店を展開していないことが認められるところ、本件全証拠によっても、日本
国内における原告すし店とマレーシアにおける本件すし店の市場が競合する
と認めることはできないから、被告による侵害行為(本件各ウェブページに
被告各表示を掲載した行為)がなかったならば原告(原告すし店)が利益を\n得られたであろうという事情が存在すると認めることはできない。
したがって、本件では、商標法38条2項を適用することはできない。
(2) 商標法38条3項よる損害額の算定について
ア 前提事実(5)のとおり、平成26年から令和5年までの被告の本件すし
店に対する売上げは合計1億4475万8151円である。
そして、証拠(甲44、乙3)及び弁論の全趣旨によれば、株式会社
帝国データバンク作成の「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用
の在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤル
ティ料率に関する実態把握〜」には、商標権における使用料率(ロイヤ
ルティ料率)全体の平均値は2.6パーセント、第43類「飲食物の提
供及び宿泊施設の提供」に関する平均値は3.8パーセントであると記
載されていることが認められる。
この点について、前提事実(1)のとおり、被告は、スーパースシを含め
たダイショーグループ各社に対して、日本で仕入れた食材の輸出を行っ
ているところ、被告が本件各ウェブページに被告各表示を掲載すること\nによって本件すし店(スーパースシ)の売上げが増加した場合、それに
伴って被告の本件すし店に対する売上げ(輸出)も増加する関係にある
ものと認められる。
他方で、前記(1)で説示したとおり、日本国内における原告すし店とマ
レーシアにおける本件すし店の市場が競合すると認めることはできない
ことに照らすと、本件各ウェブページへの被告各表示の掲載が被告の売\n上げに与えた影響は限定的なものであったことがうかがわれる。
このような事情に加え、本件各ウェブページにおける被告各表示は遅\nくとも平成26年12月頃から相当長期にわたって掲載されていたと認
められること(前提事実(4)及び弁論の全趣旨)及び商標権侵害があった
場合に事後的に定められるべき登録商標の使用に対し受けるべき金銭の
額は通常の使用料と比べて高額となることを考慮すると、被告による原
告各商標の使用に対し原告が受けるべき金銭の額に相当する額を算定す
るための使用料率については、3.8パーセントと認めるのが相当であ
る。
そうすると、上記の金銭の額は、被告の本件すし店に対する売上げで
ある1億4475万8151円に使用料率3.8パーセントを乗じた5
50万0809円であると認められる。
イ これに対し、原告は、前記アの金銭の額を算定するに当たっては、被
告が被告各表示を被告各ウェブサイトに掲載することにより自己の取引\n上の信頼を高めて事業全般に及ぶメリットを享受していることから、被
告の全売上高をその基礎とすべきであると主張する。
しかしながら、上記の金銭の額を算定する際に基礎とすべきは、侵害
行為に関する売上高であると解されるところ、別紙被告ウェブページ目
録記載のとおり、本件各ウェブページに掲載された被告各表示は本件す\nし店に関するものであり(甲4及び弁論の全趣旨)、それを超えて被告の
事業全体に関するものであると認めるに足りる証拠はないから、原告の
上記主張は採用できない。
◆判決本文
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2024.02.19
令和5(ワ)70139 著作権侵害差止請求事件 著作権 民事訴訟 令和5年12月7日 東京地方裁判所
木枯し紋次郎の作者の遺族が、口に長い竹の楊枝をくわえた長脇差を携えた渡世人の図形について、木枯し紋次郎をイメージさせるとして、著作権侵害、不競法2条1項1号該当性を争いました。裁判所は、抽象的アイデアであると判断しました。
さらに念のため、本件渡世人に係る記述自体をみても、原告ら主張に係る
本件渡世人は、1)通常より大きい三度笠を目深にかぶり、2)通常よりも長い
引き回しの道中合羽で身を包み、3)口に長い竹の楊枝をくわえ、4)長脇差を
携えた渡世人というものである。そして、証拠(乙1ないし15)及び弁論
の全趣旨によれば、渡世人が、三度笠を目深にかぶり、引き回しの道中合羽
で身を包み、長脇差を携えていたというのは、江戸時代の渡世人の姿として
ありふれた事実をいうものであり、口に長い竹の楊枝をくわえるという部分
を更に加えたとしても、これがアイデアとして独自性を有するかどうかは格
別、著作権法で保護されるべき創作的表現という観点からすれば、その記述\n自体は明らかにありふれたものである。仮に、本件渡世人に対しその後本件
テレビ作品で加えられた表現をもって二次的著作物とする原告らの主張に立\nって、「通常より大きい」三度笠で、「通常よりも長い」道中合羽で身を包
んでいるという記述を加えて更に検討したとしても、これらの記述も同じく
極めてありふれたものであり、原告らの上記主張の当否を判断するまでもな
く、本件渡世人に係る上記記述は、全体として、ありふれた事実をありふれ
た記述で江戸時代の渡世人をいうものにすぎず、これを創作的表現であると\n認めることはできない。
・・・・
不正競争防止法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」とは、人の業務\nに係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営
業を表示するものをいう。\nこれを本件についてみると、原告ら主張に係る商品等表示とは、前記1)ない
し4)の特徴を備えた本件渡世人に係る表示をいうところ(第1回口頭弁論調書\n参照)、本件渡世人がありふれた江戸時代の渡世人をいうにすぎないことは、
上記において説示したとおりであり、本件渡世人に係る表示は、そもそも不正\n競争防止法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」に該当するものとはい\nえない。
仮に、原告らの主張が、本件渡世人の図柄又は写真に「紋次郎」という名称
が付された表示をいうものとしても、商品等表\示として具体的な特定を欠くの
みならず、一般に「紋次郎」という名称は、本件書籍、本件漫画作品、本件テ
レビ作品及び本件映画作品に登場する中心人物を示す、いわゆるキャラクター
に関する識別情報であり、本来的に商品又は営業の出所表示機能\を有するもの
ではない。そして、本件全証拠をもっても、原告ら主張に係る上記表示が、キ\nャラクターに関する識別情報を超えて、原告らの営業を表示する二次的意味を\n有するものと認めるに足りず、まして原告ら主張に係る上記表示が、原告らの\n営業等を表示するものとして周知著名であるものとは、本件全証拠\nを踏まえても、明らかに認めるに足りない。
のみならず、証拠(乙20ないし28)及び弁論の全趣旨によれば、被告図
柄は昭和52年に、「紋次郎いか」は昭和57年に、「げんこつ紋次郎」は平
成20年に、それぞれ商標登録を受け、被告がこれらの商標を付するなどして
被告商品を販売し、その信用を長年にわたり蓄積してきた実情及び実績を踏ま
えると、仮に原告らの主張に立ったとしても、原告らの営業等と誤認混同を生
ずるおそれを直ちに認めることはできず、これを覆すに足りる証拠はない。
そうすると、仮に上記キャラクターに関する識別情報に一定の財産的価値が
化体していたとしても、実在の人物としてパブリシティ権侵害をいうなら格別、
被告が被告図柄を付して被告商品を製造販売する行為は、不正競争防止法2条
1項1号又は2号に掲げる「不正競争」に該当するものとはいえない。
したがって、原告らの主張は、いずれも採用することができない。
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2024.02.15
令和5(ワ)70276 不正競争行為差止請求事件 不正競争 民事訴訟 令和6年1月30日 東京地方裁判所
エッセイの題号について、周知商品等表示かが争われました。裁判所は、周知性が認められないとして請求棄却しました。\n
(2) 原告表示の周知性について\n
ア 原告書籍の需要者について
原告書籍の需要者については、証拠(甲 5、9、10、15)及び弁論の全趣旨によれ
ば、原告書籍が一般的な書店及び書籍販売サイトで販売されていること、電子書籍
の有料配信が行われていること、原告書籍の新聞広告が全国紙、地方紙及びスポー
ツ紙に広く掲載されたこと、一般向けのウェブ記事で紹介されたことなどに鑑みる
と、原告書籍は、広くノンフィクション・エッセイに関心を有する者を需要者とす
るとみるのが相当である。これに反する被告の主張は採用できない。
イ 原告書籍の販売実績等について
原告書籍の販売実績に関し、原告は、シリーズとしての原告書籍の累計発行部数
は 46 万部以上である旨を主張する。これを裏付けるに足りる的確な証拠はないも
のの、令和 4 年 月 31 日付け「DIAMOND online」の記事(甲 の 1)では、同
年 4 月時点での原告書籍(コミカライズ版 2 作を含む。)の発行部数は累計 40.4 万
部とされ、また、原告書籍 1(交通誘導員ヨレヨレ日記)は「7 万 6000 部のベスト
セラー」と紹介されている。令和 2 年 8 月 29 日付け「幻冬舎 GOLD ONLINE」の
記事(甲 の 2)にも、原告書籍 1 につき、「昨年 7 月に発刊するや、1 年余りで
7 万 6000 部を突破した。」と紹介されている。さらに、令和 4 年 月 6 日付け「中央公論.jp」の記事(甲 の 3)では、原告書籍の累計発行部数は 4万部と紹介さ
れている。なお、書籍の一般的な流通形態に鑑みると、販売実績は、発行部数以下
ではあるものの、これに比較的近い数字であることが合理的に推認される。また、
原告書籍は、インターネット上で電子書籍として販売ないし有料配信されているこ
ともうかがわれる。
ウ 原告書籍の宣伝広告等について
前記のとおり、原告書籍についてはインターネット上に複数の紹介記事が掲載さ
れているほか、証拠(甲 9)及び弁論の全趣旨によれば、別紙「原告書籍の広告実
績」のとおり、令和元年 7 月〜令和 年 4 月の間、毎月のように原告書籍に関する
新聞広告が全国紙、地方紙及びスポーツ紙に広く掲載されていたことが認められる。
もっとも、新聞広告につき仔細にみると、令和 2 年 1 月までは原告書籍 1 のみの
広告であり、原告書籍 2 以降は、それぞれの書籍が発売されるたびに個別に又は既
刊の原告書籍と共に広告が掲載された。その広告には「3 段 8 割」がかなりの割合
を占めるところ、「3 段 8 割」とは、新聞の 1 面下部にある文字だけの書籍広告欄を
指すものと理解される(甲 の 3)。「全 段」、「段 2 割」といった広告も少なからず見受けられるが、これらは基本的に原告書籍を含む原告の発行する複数の書籍
を一括して掲載したものとみられる。その具体的態様は必ずしも詳らかではないも
のの、仮に令和 年 3 月 2 日付け読売新聞に掲載された広告(甲 8)と類似するも
のであるとすると、原告書籍の各表紙と共通する一部のイラスト及びコメントは掲\n載されているものの、掲載された原告書籍の全てにつき、原告書籍の表紙(甲 3)
にみられる原告表示の要素全部が掲載されてはいない。上記広告掲載の直近に発売\nされた原告書籍 12 については、原告書籍 12 の表紙(甲 3)と同一書体による題号
並びに同一内容のイラスト及びコメントが示されているものの、原告書籍 12 の表\n紙とは配置(コメントの一部につき、縦書きか、横書きか)が異なり、表紙が白色\nを基調とするものであることをうかがわせる記載等はなく、さらに、原告書籍 12 の
表紙には存在しない読者等のコメントの記載がある。すなわち、「全 段」の新聞広
告において、原告表示の表\紙における要素の全て(1)〜4))が表紙と同じ配置で掲\n載されていることを認めるに足りる証拠はない。
エ 以上の事情を総合的に考慮すると、原告書籍については、仮に原告主張のと
おりシリーズ累計発行部数が 46 万部であったとしても、その需要者が広くノンフ
ィクション・エッセイに関心を有する者であることをも踏まえると、原告書籍それ
自体が周知といえるほどの販売実績があるとまではいい難い。その点を措くとして
も、その販売期間はシリーズを通算しても 4 年半程度に過ぎず、原告表示につき原\n告によって長期間独占的に使用されたものとは認められない。また、その宣伝広告
の実情等をみても、極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者で
あるノンフィクション・エッセイに関心を有する者において、原告表示をもって、\nこれを有する原告書籍の出所が特定の事業者である原告(ないし「原告書籍の発行
者」)であることを表示するものとして周知になっていたとは認められない。\n以上より、原告表示は、一般消費者にとって、原告書籍の出所として原告を表\示
するものとして周知になっているものとはいえないから、「商品等表示」に該当する\nとはいえず、また、「需要者の間に広く認識されている」ということもできない。
◆判決本文
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2024.02. 9
令和5(ワ)73 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和5年12月14日 大阪地方裁判所
厚底ソールの形状について、特別顕著性なし、周知性なしとして、不競法2条1項1号の周知商品等表\示に該当しないと判断されました。具体的なソール形状などは不明です。\n
原告ソール1が、合成樹脂を用いた厚底ソ\ールであり、原告主張の特徴1な
いし特徴4の形態を備えていること、一部の溝の形状が略コの字状となってい
ることについては、当事者間に争いがない。そこで、これらの形態やその組み
合わせが、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴といえるか、以下検討
する。
ア 合成樹脂を用いた厚底のソールであるとの形態について\n証拠(乙20)によれば、イタリアのVibram社(ソールのメーカー)\nが、原告商品1の販売の相当前である昭和59年(1984年)にカジュア
ルシューズ向けの合成樹脂(EVA)製の超軽量ソールの製造を開始したこ\nとが認められるところ、合成樹脂製のソールの厚みを厚くすることが製造技\n術上困難であるような事情は見当たらない(令和5年7月時点では、複数の
他社から合成樹脂製の厚底ソールを使用した婦人靴が販売されていた(乙2\n1、22)。)。そうすると、合成樹脂を用いた厚底ソールである形態が、従来\nの同種商品と異なる形態とはいえない。
イ 特徴1(靴底裏面に複数の縦溝1及び横溝2、3を有することで、裏面視
において全体として略格子状のイメージを奏すること)について
証拠(乙7の1、7の3ないし7の6)によれば、原告商品の販売開始前
に、複数の他社から靴底裏面に複数の縦溝と横溝が施されて全体として略格
子状の形態の靴底の意匠登録出願がされ、その後、いずれも意匠登録がされ
たことが認められるから、特徴1の形態はありふれた形態というべきである。
また、ソールの溝の深さを深くすることによって排水機能\や防滑機能が実現\nされることは一般的な知見といえる(乙8)から、特徴1の形態は技術的機
能に由来する形態といえる。\n
ウ 特徴2(靴底裏面の前方部分に、i)左右一対の2本の前記縦溝1と、i
i)左右端から形成され前記各縦溝1とそれぞれ交差し、先端(中央側端部)
同士が対向する左右3対の前記横溝2と、iii)前記左右3対の横溝2よ
りもつま先側において左端から右端にかけて形成される横溝3とが配され
ていること)について
証拠(乙7の1、7の4、7の5)によれば、原告商品の販売開始前に、
複数の他社から靴底裏面の中央より前方(つま先)部分に概ね2本の縦溝と、
左右端から形成され上記縦溝と交差し、先端同士が対向する左右3ないし5
対の横溝と、同横溝よりつま先側において左端から右端に形成される横溝と
が配された靴底の意匠登録出願がされ、その後いずれも意匠登録されたこと
が認められる。また、上記横溝の数を原告ソール1の「横溝2」のように3\n対とすることに特別な意義があると解する理由は見当たらない。そうすると、
特徴2の形態は、ありふれた形態というべきである。また、特徴2の形態は、
上記イと同様の理由から、技術的機能に由来する形態ともいえる。\n
エ 特徴3(靴底裏面において、つま先部分から指の付け根に相当する部分に、
横方向に伸びる畝状の複数の段部4を有し、この段部4が、後方につれて裏
面側に傾斜するテーパー面4aを有すること)について
証拠(乙7の4、7の6、10の1、10の5)によれば、原告商品の販
売開始前に、複数の他社から、1)つま先から指の付け根付近に複数の横方向
の段部が配され、2)この段部が後方につれて裏面側に傾斜するテーパー面を
有する靴底の意匠登録出願がされ、その後いずれも意匠登録されたことが認
められる(ただし、乙7の4の登録意匠の靴底には、上記2)の構成は含まれ\nていない。)。そうすると、特徴3に係る形態は、ありふれた形態というべき
である。
オ 特徴4(靴底裏面において、踵に相当する部分に、横方向に伸びる畝状の
複数の段部5を有し、この段部5が、後方につれて表面側に傾斜するテーパ\nー面5aを有すること)について
証拠(乙7の4、10の5)によれば、原告商品の販売開始前に、複数の
他社から、靴底裏面の踵に相当する部分に横方向に伸び、後方につれて表面\n側に傾斜するテーパー面を有する複数の段部が配された靴底の意匠登録出
願がされ、その後いずれも意匠登録されたことが認められる。そうすると、
特徴4に係る形態は、ありふれた形態というべきである。
カ 一部の溝の形状が略コの字状となっているとの形態について
当該形態は、原告の主張によっても、原告代表者の名字の頭文字「F」を\nなぞったデザインの一つにすぎない。また、当該形態が施された範囲は、親
指から薬指にかけた部分及び小指部分であって、原告ソール1全体の約6分\nの1程度と非常に狭く(甲5)、需要者が着目するとは解し難い。
キ 以上によれば、原告ソール1の形態は、客観的に他の同種商品とは異なる\n顕著な特徴を有するとはいえないから、原告ソール1の形態に特別顕著性が\nあると認めることはできず、原告の主張は理由がない。
(3) 周知性又は著名性について
なお、周知性について、念のため検討する。
原告は、原告商品の販売開始後、1)平成30年以降に複数の展示会に原告商
品を出展したことや、2)多数の業界雑誌や業界外雑誌に原告商品が紹介された
こと、3)国内直営店舗や複数のECサイトで原告商品が販売されたこと、4)平
成28年以降の原告の靴製品の売上高が伸び、業界内で上位となったことなど
から、原告ソール1が令和2年秋頃には周知になったと主張する。\n しかしながら、そもそも原告主張の原告商品の販売開始時期をその通り認定
できないことは前記のとおりであるが、原告ソール1の需要者は、婦人靴の購\n入を検討する一般消費者(及びその取引業者)であるところ、当該需要者は、
靴全体のデザイン(中でも人目を引くアッパーの部分)や着用感に着目し、仮
にソールに注意を払うとしても、その注意はおおむね機能\的な観点で向けられ
るものと解され、ソールの形態や材質それ自体から出所を認識するとの一般的\nな経験則は認め難いものと解されるから、原告主張の事情は直ちに原告ソール\n1が周知であることを基礎づけるものではない。
その上で検討すると、上記1)については、各展示会に原告商品が出展された
としても、原告ソール1がどのように展示されていたかは明らかではない。\n上記2)については、令和2年5月号から令和4年1月号の業界雑誌「フット
ウェア・プレスFW」には原告ソール1の画像が掲載されているが(甲22の\n2ないし22の22)、同誌は一般消費者向けの媒体としての性質は薄いもの
と認められるうえ、原告商品が掲載された業界外雑誌(甲26、28、30(い
ずれも枝番を含む。))は、大半において通信販売の媒体としてのものであって、
商品それ自体を紹介するものとは性質を異にするうえ、原告ソール1は掲載さ\nれておらず、掲載されている場合でも掲載範囲は小さく(甲24の1ないし2
4の4、26の1ないし26の4、28の1、28の2、30の1、30の2、
32)、需要者が原告ソール1の形態に着目するとは解し難い。\n上記3)については、原告の国内直営店舗数は10店舗にとどまる(甲53)。
また、複数のECサイトに原告ソール1を用いた商品が掲載されているが、原\n告ソール1の画像が掲載されていない例も多数存在するうえ、掲載されている\n場合も、複数の商品画像中の3枚目以降に掲載されているから、需要者が原告
ソール1の形態に着目するとはいえない。また、ECサイトに掲載された原告\nソール1を用いた商品は、原告とは異なる他社ブランド名で販売されているも\nのが多く、このような掲載方法によって、掲載されたソールが原告のソ\ールで
あると需要者が認識するとはいえない(甲44の1ないし47の6、弁論の全
趣旨)。
上記4)については、原告の主張を前提としても、業界内における売上高が
極めて上位にあるものとはいえない。
以上によれば、原告ソール1の形態が周知であると認めることはできず、\n他に、本件証拠上、原告ソール1の形態が周知性又は著名性を有すると認め\nるに足りる証拠はない。
◆判決本文
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2024.02. 8
令和5(ワ)3171 損害賠償請求事件 その他 民事訴訟 令和5年12月11日 東京地方裁判所
芸能事務所が契約解除となったタレントの写真をホームページに掲載することは、\nパブリシティ権、肖像権の侵害とはならず、不競法2条1項1号の不正競争行為にも該当しないと判断されました。
1 争点1(パブリシティ権侵害の有無)について
(1)肖像等を無断で使用する行為は、1)肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象
となる商品等として使用し、2)商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等
に付し、3)肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する
顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害する
ものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である(最高裁平成
21年(受)第2056号同24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2
号89頁)。
これを本件についてみると、前提事実並びに証拠(甲11、乙1、7)及
び弁論の全趣旨によれば、芸能プロダクションである被告は、被告に所属す\nるタレントを紹介するために、そのホームページにおいて、他の所属タレン
トと併せて原告の氏名及び肖像写真(本件写真等1)をトップページに掲載
するとともに、原告のプロフィール及び肖像写真(本件写真等2)を所属タ
レントのページに掲載したことが認められる。
上記認定事実によれば、被告は、所属タレントを紹介する被告のホームペ
ージにおいて、原告が被告に所属する事実を示すとともに、原告に関する人
物情報を補足するために、本件写真等を使用したことが認められる。
そうすると、本件写真等は、商品等として使用されるものではなく、商品
等の差別化を図るものでもなく、商品等の広告として使用されるものともい
えない。
したがって、被告が本件写真等を使用する行為は、専ら原告の肖像等の有
する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず、パブリシティ権を侵害
するものと認めることはできない。
(2)これに対し、原告は、本件写真等の掲載は原告の肖像写真等を写真集等に
利用する行為と同視し得ると主張し、また、被告が取引先を介して原告の肖
像写真等を広告等に利用する行為と同視し得る旨主張する。
しかしながら、本件写真等は、被告が所属タレントを紹介するために使用
されたにすぎないことは、上記において説示したとおりである。
そうすると、本件写真等が写真集等や広告等に利用されたといえないこと
は明らかである。したがって、原告の主張は、いずれも採用することができ
ない。
2 争点2(肖像権侵害の有無)について
(1)肖像は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するも
のとして、みだりに自己の容ぼう等を撮影等されず、又は自己の容ぼう等を
撮影等された写真等をみだりに公表されない権利を有すると解するのが相当\nである(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷
判決・刑集23巻12号1625頁、最高裁平成15年(受)第281号同
17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁、前掲最高
裁平成24年2月2日判決各参照)。他方、人の容ぼう等の撮影、公表が正\n当な表現行為、創作行為等として許されるべき場合もあるというべきである。\nそうすると、容ぼう等を無断で撮影、公表等する行為は、1)撮影等された
者(以下「被撮影者」という。)の私的領域において撮影し又は撮影された
情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではない\nとき、2)公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合におい\nて、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するもの
であるとき、3)公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合\nにおいて、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を\n超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるときなど、
被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超える場合に限り、
肖像権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当で
ある。
(2)これを本件についてみると、前記認定事実によれば、被告は、所属タレン
トを紹介する被告のホームページにおいて、原告が被告に所属する事実を示
すとともに、原告に関する人物情報を補足するために、本件写真を使用した
ものである。そして、証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真
の内容は、白色無地の背景において、原告の容ぼうを中心として正面から美
しく原告を撮影したものであることが認められる。
そうすると、本件写真は、私的領域において撮影されたものではなく、原
告を侮辱するものでもなく、平穏に日常生活を送る原告の利益を害するもの
ともいえない。
したがって、被告が本件写真を使用する行為は、原告の肖像権を侵害する
ものと認めることはできない。
これに対し、原告は、自らの意思に反して芸能事務所の所属タレントとし\nて肖像が利用された場合には、精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超
える場合に当たる旨主張する。しかしながら、原告は、肖像権侵害を主張す
るものの、肖像に化体しこれに紐づけられた法律上保護される利益(民法7
09条参照)を具体的に特定して主張するものではなく、主張自体失当とい
うほかない。仮に、原告の主張を前提としても、前記前提事実によれば、本
件契約に係る解除が有効であるとする別件訴訟の棄却判決が、令和5年4月
18日に確定したところ、被告は、同日には、自社のホームページから、本
件写真を削除したことが認められる。そうすると、原告の主張を十分に斟酌\nしても、本件契約の解除の有効性が訴訟で争われていた事情を考慮すれば、
その間に本件写真を掲載した行為が、受忍限度を超える侮辱ということはで
きず、その他に、原告主張に係る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を
超えることを裏付ける的確な証拠はない。したがって、原告の主張は、採用
することができない。
3 争点3(不正競争防止法2条1項1号該当性)について
不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」とは、人の業務に係る氏\n名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示\nするものをいう。
これを本件についてみると、原告の氏名又は肖像は、原告を示す人物識別情
報であり、本来的に商品又は営業の出所表示機能\を有するものではない。そし
て、前記前提事実によれば、原告は、芸能プロダクションである被告に所属す\nる一タレントであったにすぎず、原告自身がプロダクション業務等を行ってい
た事実を認めるに足りない。そして、本件全証拠をもっても、原告の氏名又は
肖像が、その人物識別情報を超えて、原告自身の営業等を表示する二次的意味\nを有するものと認めることはできず、まして、原告の氏名及び肖像が、タレン
トとしての原告自身の知名度とは別に、原告自身の営業等を表示するものとし\nて周知であるものとは、明らかに認めるに足りない。
したがって、原告の氏名又は肖像が周知な商品等表示に該当するものと認め\nることはできない。
これに対し、原告は、原告の氏名又は肖像が商品の出所又は営業の主体を示
す表示である旨主張するものの、原告は、芸能\プロダクションである被告に所
属する一タレントであったにすぎず、本件全証拠によっても、原告自身が営業
等の主体である事実を認めるに足りないことは、上記において説示したとおり
である。したがって、原告の主張は、不正競争防止法2条1項1号にいう「商
品等表示」を正解するものとはいえず、採用することができない。\n
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