イス「TRIPP TRAPP」について、デッドコピーではない場合に、商品等表示に該当するのか、著作権侵害かが争われました。東京地裁(40部)は、前者については、原告らの主張する本件形態的特徴は、そもそもその外延が極めて曖昧であり、原告製品のうち出所表示機能\を発揮する商品等表示部分を明確に特定するものとはいえないと判断しました。また、後者については、著作権侵害についても翻案ではないと判断されました。
最後に、原告製品と被告製品の写真があります。
ア 商品の形態に係る「商品等表示」の特定について\n
不競法2条1項1号又は2号は、他人の周知又は著名な商品等表示(人の\n業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品
又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)と同一又は類似の商品等表\示
を使用等することをもって、不正競争に該当する旨規定している。この規定
は、周知著名な商品等表示の有する出所表\示機能を保護するという観点から、\n周知著名な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤\n認混同させて顧客を獲得する行為を防止し、事業者間の公正な競争等を確保
するものと解される。そして、商品の形態は、特定の出所を表示する二次的\n意味を有する場合があるものの、商標等とは異なり、本来的には商品の出所
表示機能\を有するものではないから、上記規定の趣旨に鑑みると、その形態
が商標等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能\を発揮するよ
うな特段の事情がない限り、商品等表示には該当せず、仮にこれに該当した\n場合であっても、商品の形態は本来的には商品の出所表示機能\を有するもの
ではないのであるから、商品の形態のうち出所表示機能\を発揮する商品等表\n示部分は、取引の実情等によって時間的にも場所的にも変わり得るものとい
える。
そうすると、原告らが商品の形態の商品等表示該当性を主張する場合には、\n商品等表示として権利範囲を画する部分がそれ自体不明確であることに鑑\nみると、商品の形態のうち出所表示機能\を発揮する商品等表示部分を明確に\n特定する必要があるものと解するのが相当である(知的財産高等裁判所平成
17年(ネ)第10068号同17年7月20日判決参照)。
これを本件についてみると、原告らは、主位的に、原告製品全体の形態が
商品等表示に該当する旨主張して、商品の形態のうち出所表\示機能を発揮す\nるという部分を明確に特定していないことからすると、原告らの主位的主張
は、上記において説示したところに照らし、主張自体失当というほかない。
他方、原告らは、予備的に、原告製品の形態のうち、出所表\示機能を発揮す\nるという部分が本件形態的特徴であるという限度で特定して主張している
ため、本件形態的特徴が商品等表示に該当するかどうか、以下検討する。\n
イ 本件形態的特徴の「商品等表示」該当性について\n
前記アのとおり、商品の形態は、特定の出所を表示する二次的意味を有す\nる場合があるものの、商標等とは異なり、本来的には商品の出所表示機能\を
有するものではないから、不競法2条1項1号又は2号の規定の趣旨に鑑み
ると、その形態が商標等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能\
を発揮するような特段の事情がない限り、商品等表示には該当しないという\nべきである。
そうすると、商品の形態は、1)客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特
徴(以下「特別顕著性」という。)を有しており、かつ、2)特定の事業者に
よって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力
な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表\n示するものとして周知であると認められる特段の事情がない限り、不競法2
条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当であ\nる。
そして、不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当すると主張\nされた表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品の形態が\n商品等表示に該当しないときであっても、上記表\示が全体として商品等表示\nに該当するとして、上記一部の商品を販売等する行為まで不正競争に該当す
るとすれば、出所表示機能\を発揮しない商品形態までをも保護することにな
るから、上記規定の趣旨に照らし、かえって事業者間の公正な競争を阻害す
るというべきである。のみならず、不競法2条1項1号又は2号により使用
等が禁止される商品等表示は、登録商標とは異なり、公報等によって公開さ\nれるものではないから、その要件の該当性が不明確なものとなれば、表現、\n創作活動等の自由を大きく萎縮させるなど、社会経済の健全な発展を損なう
おそれがあるというべきである。
そうすると、不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当すると\n主張された表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態\nが商品等表示に該当しないときは、上記表\示は、全体として不競法2条1項
1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。\nこれを本件についてみると、前記認定事実、検証の結果(検証調書参照)
及び前記認定に係る子供用椅子の販売状況によれば、原告製品は、1)左右一
対の側木の2本脚であり、かつ、座面板及び足置板が左右一対の側木の間に
床面と平行に固定されている点(特徴1))、2)左右方向から見て、側木が床
面から斜めに立ち上がっており、側木の下端が、脚木の前方先端の斜めに切
断された端面でのみ結合されて直接床面に接していることによって、側木と
脚木が約66度の鋭角による略L字型の形状を形成している点(特徴2))と
いう本件形態的特徴のほか、3)座面板と足置板を側木内側にはめ込んで固定
することによって、これらの部材を直接固定し、その余の固定部材を省いた
点(特徴3))、4)前後方向からみて、座面板、足置板、横木及び背板と、側
木が垂直に交わっており、側木内側の小さな略半円形状の溝部分を除き、直
線的要素が強調されている点(特徴4))、5)左右方向からみて、側木につい
ては、これを一直線とし、その上端の2隅を直角とし、脚木についても、こ
れを一直線とし、その先端側と後端側の各2隅の角度を略左右対称とした点
(特徴5))、6)上下方向からみて、身体に接触する曲線状の背板並びにこれ
に対応する座面板及び足置板の後部波状部分を除き、座面板と足置板の前部
を直線状の形状とし、その2隅を直角とした点(特徴6))に特徴があるもの
と認められる。
そうすると、原告製品は、これらの各特徴を全て組み合わせることによっ
て、身体に接触する背板部分及びこれに対応する座面板及び足置板の後部波
状部分を除き、側木、脚木、横木、座面板、足置板及び背板という椅子を構\n成すべき最小限の要素を直線的に配置し、究極的にシンプルでシャープな印
象を与える直線的構成美を空間上に形成したという限度において、形態とし\nての特徴があるものと認められる。
他方、本件形態的特徴は、図面又は写真で特定されるものではなく(意匠
法6条、24条、意匠法施行規則3条各参照)、上記にいう特徴1)及び特徴
2)を文字で特定されるにとどまるものである。そのため、本件形態的特徴は、
それ自体複数の商品形態を含むところ、本件形態的特徴には、原告らが主張
するとおり被告各製品が含まれるほか、側木が曲線を含む形態、座面板や足
置板が曲線の形態その他の直線的構成美を欠く多種多様な形態を含むもの\nであるから、原告製品が形成する直線的構成美を欠く非類似の商品形態を広\n範かつ多数含むものである。しかも、原告らの主張によれば、本件形態的特
徴(特徴1)及び特徴2))は、本件形態的特徴のみに限るというのではなく、
例えば特徴3)が付加された形態も、本件形態的特徴に含むというものである
から、本件形態的特徴は、座面板と足置板を固定するための複雑な部材を採
用する形態その他の究極的にシンプルな構成美を欠く多種多様な形態を含\nむものである。
したがって、本件形態的特徴は、そもそもその外延が極めて曖昧であり、
商品形態が商品等表示として認められる場合を限定する不競法2条1項1\n号又は2号の上記趣旨目的に鑑みると、原告らは、原告製品のうち出所表示\n機能を発揮する商品等表\示部分を明確に特定するものとはいえない。
のみならず、原告らにおいて本件形態的特徴をそのまま具備すると主張す
る被告各製品についてみても、被告各製品は、座面板及び足置板を固定する
ために、支持部材、丸みを帯びた固定部材及び略円形のネジ部材を設ける構\n成を採用し、特徴3)を有するものではない。そのため、被告各製品は、需要
者に対し、椅子全体として安定して使いやすい印象を与えるものの、複雑な
上記構成によって、究極的にシンプルな印象を与える直線的構\成美を欠くも
のといえる。しかも、被告各製品は、前後方向からみると、背板中央に楕円
形の大きな穴が形成されており、かつ、固定部材を側木にネジ止めするため、
側木には円形状の穴が多数形成されていることからすると、被告各製品は、
直線的でシャープな印象を明らかに損なうものである。さらに、被告各製品
は、左右方向からみても、側木上部が床面と略垂直方向に折れ曲がっており、
一直線の側木で構成される原告製品の直線的でシャープな印象とは、全体と\nして大きく異なる印象を与えている。加えて、被告各製品は、上下方向から
みても、座面板及び足置板の前部及び後部が端部から緩やかな曲線状に形成
されており、椅子全体として柔らかい印象を与えるものであるから、座面板
及び足置板の前部が直線で構成される原告製品の直線的でシャープな印象\nとは明らかに異なるものである。
これらの印象の相違を踏まえると、被告各製品は、座面板及び足置板の固
定において複数の部材を利用する点において、原告製品のような究極的にシ
ンプルな印象を与えるものではなく、かつ、曲線的形状を数多く含む点にお
いて、原告製品のような直線的でシャープな印象を与えるものではない。
したがって、直線的構成美を造形表\現する原告製品の高いデザイン性に鑑
みると、少なくとも被告各製品の形態は、究極的にシンプルでシャープな印
象を与える直線的構成美を欠くものであるから、原告らの出所を表\示するも
のであると認めることができないことは明らかである。
以上によれば、本件形態的特徴に含まれる被告各製品の形態は、明らかに
原告製品の商品等表示に該当しないことからすると、本件形態的特徴は、全\n体として不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと認\nめるのが相当である。
◆判決本文
赤い靴底のハイヒールで有名なルブタンが赤い靴底の販売差止、損害賠償を求めました。1審は請求棄却、知財高裁も同じく、混同なし、です。
このように、被告商品と原告商品は、価格帯が大きく異なるものであ
って市場種別が異なる。また、女性用ハイヒールの需要者の多くは、実
店舗で靴を手に取り、試着の上で購入しているところ、路面店又は直営
店はいうまでもなく、百貨店内や靴の小売店等でも、その区画の商品の
ブランドを示すプレート等が置かれていることが多いので、ブランド名
が明確に表示されているといえ、しかも、それぞれの靴の中敷きにはブ\nランドロゴが付されていることから、仮に、被告商品の靴底に付されて
いる赤色が原告表示と類似するものであるとしても、こうした価格差や\n女性用ハイヒールの取引の実情に鑑みれば、被告商品を「ルブタン」ブ
ランドの商品であると誤認混同するおそれがあるといえないことは明
らかというべきである。
また、普段は被告商品のような手ごろな価格帯の女性用ハイヒールを
履く需要者の中には、場面に応じて原告商品のような高級ブランド品を
購入することもあると考えられるが、こうした需要者は、原告商品が高
級ブランド(控訴人らが主張するように「ルブタン」がラグジュアリー
ブランドであり、日本だけではなく世界中の著名人や芸能人が履くとい\nうイメージがあればなおさらである。)であることに着目し、試着の上で
慎重に購入するものと考えられるから、被告商品が原告商品とその商品
の出所を誤認混同されるおそれがあるとはいえない。
なお、原告商品及び被告商品ともに、公式オンラインショップだけで
はなく、二次流通品を含め、ECサイトで販売されていることもあり、
原告商品の二次流通品の中には価格帯が大きく下げられて販売される
こともあるが、公式オンラインショップでの売上げ実績は全体の売上げ
規模からして僅少であって(そのことは、需用者の多くが実際に商品を
試着して購入していることを示すものである。)、それぞれのブランド専
用のサイトであるし、また、公式オンラインショップ以外のサイトでは、
商品の画像だけではなく、商品の詳細な説明において、ブランドや靴の
状態が説明されているから、こうした流通形態があり、仮に、被告商品
の靴底に付されている赤色が原告表示と類似するものであるとしても、\n被告商品が原告商品と誤認混同のおそれがあるとはいえない。
エ 加えて、近時では、高価格帯のブランドが価格帯の異なるブランドとコ
ラボレーションした商品が販売されることもあるが、その商品にはそれぞ
れのブランドのロゴが付されており(前記1 エ)、その商品がコラボレー
ション商品であることが需用者にとって一目で分かるようになっている
(そうでなければ、コラボレーション商品として企画し、販売する意味は
ないともいえよう。)。そうすると、仮に、被告商品の靴底に付された赤色
が原告表示に類似するとしても、被告商品にはそうしたコラボレーション\n商品であることを示すようなロゴはないから、需要者が、被告商品が控訴
人らのライセンス商品又は控訴人らとの間で何らかの提携関係を有する
商品であると誤認混同するおそれがあるともいえない。
これに対して、控訴人らは、前記第2の3 ウ aのとおり、被告商品も
原告商品と同じ高価格帯の商品であることを前提として、店舗又はオンライ
ンショップで原告商品と被告商品の双方が販売されていることがあり得ると
し、ブランド毎に区別して展示されていない場合等では、需要者が販売され
ているブランド名を意識しないまま購入することがあり得る旨主張する。
しかし、原告商品は最低でも8万円、10万円を超えるものも少なくない
のに対して、被告商品は、1万6000円から1万7000円の価格帯であ
るから、これだけの価格差がある商品形態において、仮に店舗又はオンライ
ンショップで原告商品と被告商品が並べて陳列されており、一部店舗でブラ
ンド毎に区別して展示されていないことがあるとしても、実店舗では、靴の
デザイン性だけではなく、実際に手に取って試着することが多く、ECサイ
トでは、ブランド名や商品の状態が詳細に説明されているといった取引の実
情に鑑みれば、需要者が、被告商品の靴底に原告赤色と類似する色を使用し
ているからといって、被告商品の出所が「ルブタン」のブランドであると誤
認混同するとはいえない。したがって、控訴人らの主張は理由がない。
以上のとおり、仮に、被告商品の靴底に付された赤色が原告表示に類似す\nるとしても、原告表示を付した原告商品であると誤認混同するおそれ(広義\nの混同を含む。)があるとはいえないから、原告表示が不競法2条1項1号に\n規定する「他人の商品等表示」に該当するか否かについて判断するまでもな\nく、被告商品の販売等が同号の「不正競争」に当たるとはいえない。
そうすると、被告商品の販売等が不競法2条1項1号の「不正競争」に当
たることを前提とした控訴人らの請求は、その前提を欠くものであるから、
その他の争点について判断するまでもなく理由がない。
3 争点2(原告表示の周知著名性)について\n
前記1の認定事実によれば、控訴人Xは、会社を設立以後、全世界に店舗
を展開して、原告表示を付した高価格帯の女性用ハイヒール(原告商品)を\n販売し、数多くの著名人や芸能人に愛用され、また、日本でも、平成10年\n以降は路面店等のショップで販売が開始されて、年間30億円を超える売り
上げを誇り、数多くの雑誌、メディア等で原告表示は「レッドソ\ール」とし
て取り上げられ、一定の需要者には「靴底が赤い」女性用ハイヒールは「ル
ブタン」のブランドを指すものと認識されているといえる。
しかし他方で、靴底が赤色の女性用ハイヒールは、原告商品以外にも少な
からず我が国においては流通しており(前記1 )、女性用ハイヒールの靴底
に赤色を付した商品形態を控訴人らが独占的に使用してきたものとはいえな
い。
また、本件アンケートは、東京都、大阪府、愛知県に居住し、特定のショ
ッピングエリアでファッションテム又はグッズを購入し、ハイヒール靴を履
く習慣のある20歳から50歳までの女性を対象としたものであるが、本件
アンケート結果によると、靴底が赤いハイヒール靴を見たことがないものを
含め、原告表示を「ルブタン」ブランドであると想起した回答者は、自由回\n答と選択式回答を補正した結果で51.6%程度にとどまる(なお、本件ア
ンケート調査結果では、赤いハイヒール靴を見たことがある人に限定して認
識率を評価するのが適切であるとするが、本件アンケート調査は、主要都市
で、しかも、ファッション関係にそれなりに関心のあるハイヒール靴を履く
習慣のある女性を対象としたものであり、その当否についても疑義がある上、
そこから更にこうした限定を付すことは明らかに相当でない。)。この結果に
よれば、原告表示は、一定程度の需要者に商品出所を認識されているとはい\nえるが、それが著名なものに至っているとまでは評価することができない。
そうすると、原告表示が不正競争防止法2条1項2号に規定する「他人の\n著名な商品等表示」であるとはいえないから、そうであることを前提とした\n
◆判決本文
1審はこちら
◆平成31(ワ)11108