2024.10.17
令和5(ネ)10111 不正競争行為差止等請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和6年9月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
イス(TRIPP TRAPP)の類似品に対して、商品等表示も認められず、著作権の適用なしと判断された控訴審判決です。知財高裁も同様の判断をしました。\n
そこで検討すると、被告各製品の形態は、別紙「被告各製品の形態」記載
の構成aから構\成fまで(以下、単に「構成 a」などという。)のとおりで
あり、これによると、被告各製品は、本件顕著な特徴を構成している特徴1)
から特徴3)までとの対比において、左右一対の側木の2本脚であり、かつ、
座面板及び足置板が左右一対の側木の間に床面と平行に固定されており(特
徴1))、左右方向から見て、側木が床面から斜めに立ち上がっており、側木
の下端が脚木の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面
に接していることによって、側木と脚木が約66度の鋭角による略L字型の
形状を形成している(特徴2))が、側木の内側に溝は形成されておらず、側
木の後方部分に、固定部材と結合してネジ止めするための円形状の穴が多数
形成され、座面板及び足置板を側木の間で支持する支持部材、支持部材を側
木の間において掛け渡された状態で側木に固定する固定部材及びネジ部材を
備え、2本の側木後方に設けられた穴と固定部材を結合した状態でネジ部材
を閉めることで、支持部材と固定部材によって側木を前後から挟持して押圧
し、支持部材を側木に固定しており(構成f)、原告らの商品等表\示の特徴
3)を備えていないものと認められる。
なお、その他の形態上の諸要素を考慮しても、被告各製品は、側木及び脚
木からなる2本脚、背板、座面板及び足置板、横木のほかネジ部材、支持部
材、固定部材等から構成され、脚木は一直線であるが、側木は一直線ではな\nく、側木の上端部分は床面と垂直に折れ曲がっており、2本脚が、正面視で
床面に垂直で相互に平行となるように配置され、側木と脚木の結合部分から
離れた脚木中央部に横木が配置され、中央部に楕円形の穴が形成されている
背板は側木の最上部に配置され、座面板と足置板は楕円形の短辺を切り落と
したような曲線的形状とされ、ネジ部材、支持部材及び固定部材等により側
木に固定されていることから、被告各製品の形態においては、曲線的な要素
とともに、座面板及び足置板の支持部分に複数の部材が利用され、その安定
性が特徴的となっており、その印象も、原告製品における、直線的な形態が
際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっている。
よって、原告製品全体の形態の特徴である本件顕著な特徴について、被告各
製品は、これを備えていないものと認められる。
(3) したがって、被告各製品は、本件顕著な特徴を備えていないから、取引の
実情の下において、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づ
く印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれ
があるものということはできない。よって、原告らの商品等表示と被告各製\n品の形態が類似すると認めることはできない。
・・・
著作権法2条2項は、「美術の著作物」には「美術工芸品」を含むものとする旨規定しており、同項の美術工芸品は実用的な機能と切り離して独立の美的鑑賞の対象とすることができるようなものが想定されていると考えられるのであって、同項の規定は、それが例示規定であると解した場合でも、いわゆる応用美術に著作物性を認める場合の要件について前記のように解する一つの根拠となるというべきである。\n
(2) 以上を踏まえ、本件について検討すると、原告製品については、特徴1)か
ら特徴3)まで及び側木と脚木をそれぞれ一直線とするデザインという本件顕
著な特徴があり、これにより原告製品の直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象を与えるものとなっていると認められることは、
前記のとおりである。しかし、本件顕著な特徴は、2本脚の間に座面板及び
足置板がある点(特徴1))、側木と脚木とが略L字型の形状を構成する点\n(特徴2))、側木の内側に形成された溝に沿って座面板等をはめ込み固定す
る点(特徴3))からなるものであって、そのいずれにおいても高さの調整が
可能な子供用椅子としての実用的な機能\そのものを実現するために可能な複\n数の選択肢の中から選択された特徴である。また、これらの特徴により全体
として実現されているのも椅子としての機能である。したがって、本件顕著\nな特徴は、原告製品の椅子としての機能から分離することが困難なものであ\nる。すなわち、本件顕著な特徴を備えた原告製品は、椅子の創作的表現とし\nて美感を起こさせるものではあっても、椅子としての実用的な機能を離れて\n独立の美的鑑賞の対象とすることができるような部分を有するということは
できない。また、原告製品は、その製造・販売状況に照らすと、専ら美的鑑
賞目的で制作されたものと認めることもできない。それのみならず、仮に、
原告製品の本件顕著な特徴について、独立の美的鑑賞の対象となり得るよう
な創作性があると考えたとしても、前記のとおり、被告各製品は、本件顕著
な特徴を備えていないから、原告製品の形態が表現する、直線的な形態が際\n立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっているの
であって、被告各製品から原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得する\nことはできない。そうすると、結局、本件において、著作権侵害は成立しないといわざるを得ない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 著作物
>> 周知表示(不競法)
>> 著名表示(不競法)
>> 商品形態
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2024.09. 2
令和3(ワ)29242 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和6年7月17日 東京地方裁判所
著名性は認められましたが、その時期が被告の使用時よりも後であるとされて、不正競争行為とは認定されませんでした。
2 争点1−4(原告表示等が著名になる前から被告表\示等を不正の目的でなく
使用しているか)について
(1) 前記1のとおり、原告表示等が著名な原告の商品等表\示となった時期は、
早くとも令和3年7月頃であったと認められる。
これに対し、前提事実(3)のとおり、被告が被告表示等の使用を始めたのは、令和2年4月以前であるから、被告は、原告表\示等が著名になる前から被告表示等を使用していると認められる。
(2) 不競法19条1項5号(令和6年3月31日以前の行為については令和5
年法律第51号による改正前の同項4号)所定の「不正の目的」とは、不正
の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう(同
項2号)。そこで、前記(1)の被告による被告表示等の使用について、このような目的でなくされたと認められるか否かが問題となる。\nア まず、被告は、被告表示等のうち使用開始が最も遅い被告表\示4の使用
を始めた令和2年4月時点においても、いまだ原告表示等を認識していなかったと主張するので、そのような事実が認められるか否かを検討する。\n
(ア) この点について、D及び被告の従業員であるE(以下「E」という。)
は、上記被告の主張に沿う証言をする(証人D、証人E)。
そこで、上記各証言の信用性について検討すると、前提事実(3)及び前
記1のとおり、被告が被告表示4の使用を始めた令和2年4月時点で、原告表\示等が著名であったとは認められない上、前記1(1)ア(別紙原告
展示一覧表参照)のとおり、原告の作品の展示は、会場が美術館であったり、展示名に「芸術」、「アート」、“DESIGNERS”、“DESIGN”、「遊園地」
との文言が含まれていたりする展示が多く、美術、芸術の分野や遊園地
に関心を有しない者は、原告の作品の展示にも原告表示等にも注意を払わなかった可能\性があるところ、本件証拠上、D及びEが、これらの分野に特に関心を有していたことはうかがわれない。確かに、被告所在地
と同一都道府県内においても、平成27年7月から同年8月にかけて、
「京セラドーム大阪スカイホール」において“Learn & Play! teamLab
Future Park”と題する展示、平成28年3月から同年6月にかけて、
「ひらかたパークイベントホール」において「チームラボアイランド
踊る!美術館と、学ぶ!未来の遊園地」と題する展示、平成30年7月
から同年9月にかけて、「あべのハルカス美術館」において「チームラボ
学ぶ!未来の遊園地」と題する展示がそれぞれされていることが認めら
れる(前記1(1)ア(別紙原告展示一覧表参照))。しかし、最も来館者数の多い「あべのハルカス美術館」における展示についてみても、当該美\n術館は、被告所在地の至近にあるとはいえないし、来館者が●(省略)
●にとどまること、開催場所が美術館であること、展示名に「未来の遊
園地」とあることから、美術や遊園地に関心がない者は、当該展示に関
心を抱かず、注意を払わないと考えられるところ、D及びEも同様であ
った可能性がある。
さらに、「チーム」は、競技・仕事などの分隊との意味を有する英単語
“team”の片仮名表記、「ラボ」は、医療に関わる実験室、研究室、薬品などの製造所の意味を有する英単語“laboratory”の片仮名表記を略したもの又は英単語“labo”の片仮名表記であって、“team”、“laboratory”
及び“labo”は、いずれもよく知られた英単語であること、予防医学支援、労働者派遣事業法に基づく労働者派遣事業等を目的とする会社であ\nる被告(前提事実(1)イ)の商号として、これらの英単語を利用すること
は自然であるといえるから、Dが原告表示等を認識することなく被告表\
示等に思い至ったとしても、特段不合理ではないというべきである。
以上の検討によれば、D及びEの上記各証言は信用することができ、他方、本件全証拠によっても、それらの信用性を否定するに足りる事情は認められない。
(イ) なお、証拠(甲1576)によれば、被告は、被告アカウントから原
告アカウントをフォローしたことが認められるから、その際、原告表示等を認識したと認められるものの、その時期を認めるに足りる証拠はな\nい。しかも、被告アカウントから原告アカウントをフォローするためには、
その前に被告アカウントを作成する必要があるから、被告が当該フォロ
ーの際に原告表示等を認識したとしても、それは被告が被告表\示4の使
用を始めた後ということになる。
(ウ) このほか、被告アカウントから原告アカウントのフォローがされた時
点より前に、被告が原告表示等を認識していたことをうかがわせる証拠がないことを考慮すると、被告は、被告表\示等の使用を始めた時点において、原告表示等を認識していなかったと認めるのが相当である。\n
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 著名表示(不競法)
>> 不正競争(その他)
▲ go to TOP
2024.08.26
令和5(ワ)70654 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和6年7月8日 東京地方裁判所
書籍の題号が、不競法2条1項1号又は2号に定める商品等表示に該当するかが争われました。裁判所は、該当しないと判断しました。問題となった題号は「牧野日本植物圖鑑」です。
(1) 不競法2条1項1号及び2号は、「商品等表示」につき、人の業務に係る\n氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を
表示するものと定義している。そうすると、同各号にいう「商品等表\示」と
は、商品又は営業を表示するものであるから、出所表\示機能を有するものに\n限られるというべきである。そして、書籍には発行者等の表示が付されるの\nが通例であり、書籍の出所は、一般に上記発行者等の表示が示すものである\nから、書籍の題号は、その書籍の内容を示すものにすぎず、出所表示機能\を
有するものとはいえない。
そうすると、書籍の題号は、特段の事情がない限り、同各号にいう「商品
等表示」に該当しないと解するのが相当である。\nこれを本件についてみると、証拠(甲2ないし10、19)及び弁論の全
趣旨によれば、「牧野日本植物圖鑑」という本件題号は、牧野執筆に係る日
本の植物図鑑という書籍の内容を端的に示すものにすぎず、牧野という執筆
者に特徴があるのは格別、書籍の題号としてはありふれたものであるから、
本件題号には出所を示すような顕著な特徴はない。
そして、証拠(乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、一般に題号を同じ
くする書籍であっても、別々の発行者等により発行されているものも少なか
らず存在することが認められる。当該認定に係る取引の実情に鑑みると、本
件題号に接した需要者又は取引者が、これを書籍の出所を示すものとして直
ちに理解するものとはいえない。
これらの事情を踏まえると、本件題号は、出所表示機能\を有するものとは
いえず、上記特段の事情があるものと認めることはできない。
したがって、本件題号は、不競法2条1項1号又は2号にいう「商品等表\n示」に該当するものと認めることはできない。
のみならず、被告書籍についてみると、仮に「牧野日本植物圖鑑」という
牧野執筆に係る植物図鑑が全国的に知られていたという立場を採用したとし
ても、本件全証拠によっても、原告が本件図鑑を出版していた事実までも全
国的に知られているものとして著名であると認めるに足りない。
他方、仮に、原告が本件図鑑を出版していた事実が、一部の専門家や研究
者の間で周知であるという立場を採用したとしても、前記前提事実及び証拠
(甲19)によれば、被告書籍の表紙には、本件題号の左下欄に「三四郎書\n館」という発行所を示す表示が付されていることからすると、被告書籍に接\nした需要者又は取引者は、被告書籍の発行所が、原告ではなく「三四郎書館」
であると理解するのは明らかである。
そうすると、被告書籍の出版は、本件図鑑との混同を生じさせる行為とは
いえないことは、明らかである。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 周知表示(不競法)
>> 著名表示(不競法)
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2024.05. 1
令和3(ワ)11358 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和6年3月19日 東京地方裁判所
被告は、魚介類及び水産加工品の輸出入等の事業を行う会社で、日本での食材の仕入れ及び東南アジアのダイショーグループ各社への輸出を行っていました。ダイショーグループは、シンガポール・マレーシア・インドネシアなどで「寿司」、「和食レストラン」などの店舗を展開していました。本件各ウェブページは、日本語によって記載された主に日本国内の取引者及び需要者に向けたウェブページであり、被告が管理していること、本件各ウェブページには、スーパースシが展開する本件すし店に関するものとして被告各表示が掲載されていました。裁判所は、指定商品・役務が類似する、&商標も類似するとして、差止と約600万円の損害賠償を認めました。また、不正競争行為にも該当すると判断されています。
原告は「すしざんまい」です。
ア 本件各掲載行為のうち本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為について\n
前提事実(1)イ及びウ、(4)ア、証拠(甲4、23ないし25)並びに弁
論の全趣旨によれば、原告各商標の指定役務は「すしを主とする飲食物
の提供」であること、被告は、魚介類及び水産加工品の輸出入等の事業
を行う株式会社であり、日本での食材の仕入れ及び東南アジアのダイシ
ョーグループ各社への輸出を行っていること、ダイショーグループは、
シンガポール・マレーシア・インドネシアなどで「寿司」、「和食レスト
ラン」などの店舗を展開していること、本件各ウェブページは、日本語
によって記載された主に日本国内の取引者及び需要者に向けたウェブペ
ージであり、被告が管理していること、本件各ウェブページには、スー
パースシが展開する本件すし店に関するものとして被告各表示が掲載さ\nれており、被告各表示とともに「手頃な価格で幅広い客層が楽しめる回\n転寿司。厳選した食材と豊富なメニューで、人気を集めています。」と
の説明が掲載されていることが認められる。
このような事情からすれば、本件各ウェブページにおける被告各表示\nは、すしを主とする飲食物の提供を行う本件すし店を紹介するために掲
載されたものであり、「すしを主とする飲食物の提供」と類似の役務に
係るものといえるから、原告各商標の指定役務と被告各表示に係る役務\nとは類似するものといえる。
そして、被告が本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は、\n「役務に関する広告…を内容とする情報に標章を付して電磁的方法によ
り提供する行為」(商標法2条3項8号)に該当するといえ、被告は原
告各商標を「使用」したものと認められる。
被告の主張について
被告は、被告各表示はスーパースシがマレーシアにおいて展開する本\n件すし店に関するものにすぎず、被告自身は「すしを主とする飲食物の
提供」を行っていないことなどから、被告各表示に係る役務は、原告各\n商標の指定役務である「すしを主とする飲食物の提供」とは類似してお
らず、また、被告が原告各商標を「使用」したとはいえないと主張する。
そこで検討すると、商標法は、「商標を保護することにより、商標の
使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、
あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」と定めており、こ
の目的を達成するため、商標は、標章をある者の商品又は役務に付する
ことにより、その商品又は役務の出所を表示する機能\(出所表示機能\)
や、取引者及び需要者が同一の商標の付された商品又は役務には同一の
品質を期待しており、商標がその期待に応える作用をする機能(品質保\n証機能)を有するものと解される。本件においては、前記 で説示した
とおり、本件各ウェブページは主に日本国内の取引者及び需要者に向け
たウェブページであり、かつ、被告各表示は「すしを主とする飲食物の\n提供」という役務に係るものといえるから、被告各表示がマレーシアの\n本件すし店に係るものであったとしても、本件各ウェブページに被告各
表示を掲載した行為は、日本における原告各商標の出所表\示機能及び品\n質保証機能を害し、ひいては、上記の商標法の目的にも反するものであ\nるといえる。
そして、被告各表示が被告自身の事業に関するものではなかったとし\nても、本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は被告が行った\nものと認められ、上記のとおり、そのような被告の行為によって日本に
おける原告各商標の出所表示機能\及び品質保持機能が害されている以上、\n被告が原告各商標を「使用」していないと評価することはできない。
そうだとすれば、被告の上記主張はいずれも役務の類否や使用行為の
有無を左右するものではないというべきである。
・・・・
被告は、被告各表示はスーパースシがマレーシアにおいて展開する本\n件すし店に関するものにすぎず、被告自身は「すしを主とする飲食物の
提供」を行っていないことなどから、被告各表示に係る役務は、原告各\n商標の指定役務である「すしを主とする飲食物の提供」とは類似してお
らず、また、被告が原告各商標を「使用」したとはいえないと主張する。
そこで検討すると、商標法は、「商標を保護することにより、商標の
使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、
あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」と定めており、こ
の目的を達成するため、商標は、標章をある者の商品又は役務に付する
ことにより、その商品又は役務の出所を表示する機能\(出所表示機能\)
や、取引者及び需要者が同一の商標の付された商品又は役務には同一の
品質を期待しており、商標がその期待に応える作用をする機能(品質保\n証機能)を有するものと解される。本件においては、前記 で説示した
とおり、本件各ウェブページは主に日本国内の取引者及び需要者に向け
たウェブページであり、かつ、被告各表示は「すしを主とする飲食物の\n提供」という役務に係るものといえるから、被告各表示がマレーシアの\n本件すし店に係るものであったとしても、本件各ウェブページに被告各
表示を掲載した行為は、日本における原告各商標の出所表\示機能及び品\n質保証機能を害し、ひいては、上記の商標法の目的にも反するものであ\nるといえる。
そして、被告各表示が被告自身の事業に関するものではなかったとし\nても、本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は被告が行った\nものと認められ、上記のとおり、そのような被告の行為によって日本に
おける原告各商標の出所表示機能\及び品質保持機能が害されている以上、\n被告が原告各商標を「使用」していないと評価することはできない。
そうだとすれば、被告の上記主張はいずれも役務の類否や使用行為の
有無を左右するものではないというべきである。
イ 本件各掲載行為のうち本件各アカウント写真として被告表示2を掲載し\nた行為について
前提事実(1)ウ、証拠(甲20、21)及び弁論の全趣旨によれば、スー
パースシは、マレーシアにおいて本件すし店を展開していること、本件各
アカウントは、本件すし店に係るアカウントであることが認められるが、
本件全証拠によっても、被告が本件各アカウントを管理していると認める
ことはできない。
したがって、本件各アカウント写真の掲載行為については、被告が行っ
たものと認めることができないから、被告が原告各商標を「使用」したと
はいえない。
なお、本件では、不競法違反に関して被告が原告各表示と類似の商品等\n表示を「使用」(不競法2条1項1号)したといえるか(争点2−3)も\n問題となっているが、上記で説示したとおり、本件各アカウント写真の掲
載行為は被告が行ったとは認められないから、被告が原告各表示と類似の\n商品等表示を「使用」したともいえない。\n
・・・
商標法38条2項による損害額の算定について
商標法38条2項は、商標権者等が侵害行為による損害の額を立証するこ
とが困難であることから、その立証を容易にするために設けられたものであ
ると解される。そうすると、同項の適用が認められるためには、侵害者によ
る侵害行為がなかったならば商標権者等が利益を得られたであろうという事
情が存在する必要があるものと解される。
証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、原告はマレーシアにおいてすし
店を展開していないことが認められるところ、本件全証拠によっても、日本
国内における原告すし店とマレーシアにおける本件すし店の市場が競合する
と認めることはできないから、被告による侵害行為(本件各ウェブページに
被告各表示を掲載した行為)がなかったならば原告(原告すし店)が利益を\n得られたであろうという事情が存在すると認めることはできない。
したがって、本件では、商標法38条2項を適用することはできない。
(2) 商標法38条3項よる損害額の算定について
ア 前提事実(5)のとおり、平成26年から令和5年までの被告の本件すし
店に対する売上げは合計1億4475万8151円である。
そして、証拠(甲44、乙3)及び弁論の全趣旨によれば、株式会社
帝国データバンク作成の「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用
の在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤル
ティ料率に関する実態把握〜」には、商標権における使用料率(ロイヤ
ルティ料率)全体の平均値は2.6パーセント、第43類「飲食物の提
供及び宿泊施設の提供」に関する平均値は3.8パーセントであると記
載されていることが認められる。
この点について、前提事実(1)のとおり、被告は、スーパースシを含め
たダイショーグループ各社に対して、日本で仕入れた食材の輸出を行っ
ているところ、被告が本件各ウェブページに被告各表示を掲載すること\nによって本件すし店(スーパースシ)の売上げが増加した場合、それに
伴って被告の本件すし店に対する売上げ(輸出)も増加する関係にある
ものと認められる。
他方で、前記(1)で説示したとおり、日本国内における原告すし店とマ
レーシアにおける本件すし店の市場が競合すると認めることはできない
ことに照らすと、本件各ウェブページへの被告各表示の掲載が被告の売\n上げに与えた影響は限定的なものであったことがうかがわれる。
このような事情に加え、本件各ウェブページにおける被告各表示は遅\nくとも平成26年12月頃から相当長期にわたって掲載されていたと認
められること(前提事実(4)及び弁論の全趣旨)及び商標権侵害があった
場合に事後的に定められるべき登録商標の使用に対し受けるべき金銭の
額は通常の使用料と比べて高額となることを考慮すると、被告による原
告各商標の使用に対し原告が受けるべき金銭の額に相当する額を算定す
るための使用料率については、3.8パーセントと認めるのが相当であ
る。
そうすると、上記の金銭の額は、被告の本件すし店に対する売上げで
ある1億4475万8151円に使用料率3.8パーセントを乗じた5
50万0809円であると認められる。
イ これに対し、原告は、前記アの金銭の額を算定するに当たっては、被
告が被告各表示を被告各ウェブサイトに掲載することにより自己の取引\n上の信頼を高めて事業全般に及ぶメリットを享受していることから、被
告の全売上高をその基礎とすべきであると主張する。
しかしながら、上記の金銭の額を算定する際に基礎とすべきは、侵害
行為に関する売上高であると解されるところ、別紙被告ウェブページ目
録記載のとおり、本件各ウェブページに掲載された被告各表示は本件す\nし店に関するものであり(甲4及び弁論の全趣旨)、それを超えて被告の
事業全体に関するものであると認めるに足りる証拠はないから、原告の
上記主張は採用できない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 誤認・混同
>> 役務
>> 類似
>> 商標その他
>> 周知表示(不競法)
>> 著名表示(不競法)
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2024.02. 9
令和5(ワ)73 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 令和5年12月14日 大阪地方裁判所
厚底ソールの形状について、特別顕著性なし、周知性なしとして、不競法2条1項1号の周知商品等表\示に該当しないと判断されました。具体的なソール形状などは不明です。\n
原告ソール1が、合成樹脂を用いた厚底ソ\ールであり、原告主張の特徴1な
いし特徴4の形態を備えていること、一部の溝の形状が略コの字状となってい
ることについては、当事者間に争いがない。そこで、これらの形態やその組み
合わせが、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴といえるか、以下検討
する。
ア 合成樹脂を用いた厚底のソールであるとの形態について\n証拠(乙20)によれば、イタリアのVibram社(ソールのメーカー)\nが、原告商品1の販売の相当前である昭和59年(1984年)にカジュア
ルシューズ向けの合成樹脂(EVA)製の超軽量ソールの製造を開始したこ\nとが認められるところ、合成樹脂製のソールの厚みを厚くすることが製造技\n術上困難であるような事情は見当たらない(令和5年7月時点では、複数の
他社から合成樹脂製の厚底ソールを使用した婦人靴が販売されていた(乙2\n1、22)。)。そうすると、合成樹脂を用いた厚底ソールである形態が、従来\nの同種商品と異なる形態とはいえない。
イ 特徴1(靴底裏面に複数の縦溝1及び横溝2、3を有することで、裏面視
において全体として略格子状のイメージを奏すること)について
証拠(乙7の1、7の3ないし7の6)によれば、原告商品の販売開始前
に、複数の他社から靴底裏面に複数の縦溝と横溝が施されて全体として略格
子状の形態の靴底の意匠登録出願がされ、その後、いずれも意匠登録がされ
たことが認められるから、特徴1の形態はありふれた形態というべきである。
また、ソールの溝の深さを深くすることによって排水機能\や防滑機能が実現\nされることは一般的な知見といえる(乙8)から、特徴1の形態は技術的機
能に由来する形態といえる。\n
ウ 特徴2(靴底裏面の前方部分に、i)左右一対の2本の前記縦溝1と、i
i)左右端から形成され前記各縦溝1とそれぞれ交差し、先端(中央側端部)
同士が対向する左右3対の前記横溝2と、iii)前記左右3対の横溝2よ
りもつま先側において左端から右端にかけて形成される横溝3とが配され
ていること)について
証拠(乙7の1、7の4、7の5)によれば、原告商品の販売開始前に、
複数の他社から靴底裏面の中央より前方(つま先)部分に概ね2本の縦溝と、
左右端から形成され上記縦溝と交差し、先端同士が対向する左右3ないし5
対の横溝と、同横溝よりつま先側において左端から右端に形成される横溝と
が配された靴底の意匠登録出願がされ、その後いずれも意匠登録されたこと
が認められる。また、上記横溝の数を原告ソール1の「横溝2」のように3\n対とすることに特別な意義があると解する理由は見当たらない。そうすると、
特徴2の形態は、ありふれた形態というべきである。また、特徴2の形態は、
上記イと同様の理由から、技術的機能に由来する形態ともいえる。\n
エ 特徴3(靴底裏面において、つま先部分から指の付け根に相当する部分に、
横方向に伸びる畝状の複数の段部4を有し、この段部4が、後方につれて裏
面側に傾斜するテーパー面4aを有すること)について
証拠(乙7の4、7の6、10の1、10の5)によれば、原告商品の販
売開始前に、複数の他社から、1)つま先から指の付け根付近に複数の横方向
の段部が配され、2)この段部が後方につれて裏面側に傾斜するテーパー面を
有する靴底の意匠登録出願がされ、その後いずれも意匠登録されたことが認
められる(ただし、乙7の4の登録意匠の靴底には、上記2)の構成は含まれ\nていない。)。そうすると、特徴3に係る形態は、ありふれた形態というべき
である。
オ 特徴4(靴底裏面において、踵に相当する部分に、横方向に伸びる畝状の
複数の段部5を有し、この段部5が、後方につれて表面側に傾斜するテーパ\nー面5aを有すること)について
証拠(乙7の4、10の5)によれば、原告商品の販売開始前に、複数の
他社から、靴底裏面の踵に相当する部分に横方向に伸び、後方につれて表面\n側に傾斜するテーパー面を有する複数の段部が配された靴底の意匠登録出
願がされ、その後いずれも意匠登録されたことが認められる。そうすると、
特徴4に係る形態は、ありふれた形態というべきである。
カ 一部の溝の形状が略コの字状となっているとの形態について
当該形態は、原告の主張によっても、原告代表者の名字の頭文字「F」を\nなぞったデザインの一つにすぎない。また、当該形態が施された範囲は、親
指から薬指にかけた部分及び小指部分であって、原告ソール1全体の約6分\nの1程度と非常に狭く(甲5)、需要者が着目するとは解し難い。
キ 以上によれば、原告ソール1の形態は、客観的に他の同種商品とは異なる\n顕著な特徴を有するとはいえないから、原告ソール1の形態に特別顕著性が\nあると認めることはできず、原告の主張は理由がない。
(3) 周知性又は著名性について
なお、周知性について、念のため検討する。
原告は、原告商品の販売開始後、1)平成30年以降に複数の展示会に原告商
品を出展したことや、2)多数の業界雑誌や業界外雑誌に原告商品が紹介された
こと、3)国内直営店舗や複数のECサイトで原告商品が販売されたこと、4)平
成28年以降の原告の靴製品の売上高が伸び、業界内で上位となったことなど
から、原告ソール1が令和2年秋頃には周知になったと主張する。\n しかしながら、そもそも原告主張の原告商品の販売開始時期をその通り認定
できないことは前記のとおりであるが、原告ソール1の需要者は、婦人靴の購\n入を検討する一般消費者(及びその取引業者)であるところ、当該需要者は、
靴全体のデザイン(中でも人目を引くアッパーの部分)や着用感に着目し、仮
にソールに注意を払うとしても、その注意はおおむね機能\的な観点で向けられ
るものと解され、ソールの形態や材質それ自体から出所を認識するとの一般的\nな経験則は認め難いものと解されるから、原告主張の事情は直ちに原告ソール\n1が周知であることを基礎づけるものではない。
その上で検討すると、上記1)については、各展示会に原告商品が出展された
としても、原告ソール1がどのように展示されていたかは明らかではない。\n上記2)については、令和2年5月号から令和4年1月号の業界雑誌「フット
ウェア・プレスFW」には原告ソール1の画像が掲載されているが(甲22の\n2ないし22の22)、同誌は一般消費者向けの媒体としての性質は薄いもの
と認められるうえ、原告商品が掲載された業界外雑誌(甲26、28、30(い
ずれも枝番を含む。))は、大半において通信販売の媒体としてのものであって、
商品それ自体を紹介するものとは性質を異にするうえ、原告ソール1は掲載さ\nれておらず、掲載されている場合でも掲載範囲は小さく(甲24の1ないし2
4の4、26の1ないし26の4、28の1、28の2、30の1、30の2、
32)、需要者が原告ソール1の形態に着目するとは解し難い。\n上記3)については、原告の国内直営店舗数は10店舗にとどまる(甲53)。
また、複数のECサイトに原告ソール1を用いた商品が掲載されているが、原\n告ソール1の画像が掲載されていない例も多数存在するうえ、掲載されている\n場合も、複数の商品画像中の3枚目以降に掲載されているから、需要者が原告
ソール1の形態に着目するとはいえない。また、ECサイトに掲載された原告\nソール1を用いた商品は、原告とは異なる他社ブランド名で販売されているも\nのが多く、このような掲載方法によって、掲載されたソールが原告のソ\ールで
あると需要者が認識するとはいえない(甲44の1ないし47の6、弁論の全
趣旨)。
上記4)については、原告の主張を前提としても、業界内における売上高が
極めて上位にあるものとはいえない。
以上によれば、原告ソール1の形態が周知であると認めることはできず、\n他に、本件証拠上、原告ソール1の形態が周知性又は著名性を有すると認め\nるに足りる証拠はない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 周知表示(不競法)
>> 著名表示(不競法)
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP