女性用下着の形状について、周知著名商品等表示ではないと判断されましたが、不競法2条1項3号の形態模倣であるとして、約2億円の損害賠償が認められました。
原告は,原告商品は形態1)ないし7)を組み合わせたものであり,原告
商品全体の形態と同一又は類似の商品は見当たらないから,他の同種商
品と識別し得る特徴を有すると主張する。
しかし,原告商品の販売が開始された当時,原告商品が備える形態1)
ないし7)の全てを備えるブラジャー又はナイトブラが販売されていたこ
とを認めるに足りる証拠はないものの,前記(1)ウ(ア)のとおり,形態1)
ないし7)のうちの3つ又は4つを備える商品AないしGが存在していた。
そうすると,原告商品の販売開始時点では,既に,原告商品の形態に似
通った商品が複数販売されていたということができる。しかも,前記(ア)
のとおり,原告商品の形態1)ないし7)は,いずれも他の商品とは異なる
顕著な特徴とは認められないから,当該商品には認められないが原告商
品には認められる形態上の特徴により,需要者であるブラジャー又はナ
イトブラの購入に関心がある一般消費者が出所の違いを識別することが
できるとはいえない。そして,形態1)ないし7)を組み合わせることによ
り上記需要者の注意を特に惹くことになる事情も見当たらないことから
すると,形態1)ないし7)を組み合わせた原告商品の形態が他の同種の商
品とは異なる顕著な特徴を有していると認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 周知性について
前記(1)イ(ア)のとおり,原告商品は平成28年9月12日に販売が開始
されたところ,原告商品の形態につき周知性が確立したと原告が主張する
平成29年12月までに約1年4か月,被告商品1の販売が開始された平
成30年10月まででも約2年1か月しか経過していない。そして,前記
(1)ウ(ア)のとおり,原告商品の販売が開始される前から,原告商品が備え
る形態1)ないし7)のうち複数を有するブラジャー又はナイトブラが販売さ
れており,原告商品の形態が原告によって長期間独占的に利用されたとは
認められない。
・・・
商品の形態を比較した場合,問題とされている商品の形態に他
人の商品の形態と相違する部分があるとしても,当該相違部分についての
改変の内容・程度,改変の着想の難易,改変が商品全体の形態に与える効
果等を総合的に判断した上で,その相違がわずかな改変に基づくものであ
って,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体から見て些細な
相違にとどまると評価されるときには,当該商品は他人の商品と実質的に
同一の形態というべきである。
イ 被告商品1について
(ア) 前記(1)アのとおり,被告商品1は,原告商品が備える形態1)ないし7)
を全て備え,別紙3比較写真目録記載の写真のとおり,全体的なデザイ
ンはほぼ同一であるといえる。
被告商品1と原告商品の間には相違点1)が認められるが,別紙2原告
商品目録記載の写真のとおり,原告商品のカップ部の中央に付けられた
リボンはごく小さな装飾にすぎず,そのようなリボンを取り外すという
改変については,その程度はわずかであり,着想することが困難である
とはいえず,商品全体の形態に与える効果もほとんどないといえる。
また,被告商品1と原告商品の間には相違点2)が認められるが,別紙
1被告商品目録記載1の写真のとおり,左右の前身頃を構成する3枚の\n生地のうち最下部にある生地が被告商品全体に占める面積はそれほど大
きいものではなく,他の部分の布地と同系色であってレース生地の存在
が際立つものではない上,別紙3比較写真目録記載の写真のとおり,原
告商品と被告商品1とで,ナイトブラとしての機能を成り立たせるパー\nツの形状及び構成は同一といってよいことからすると,相違点2)は,需
要者であるブラジャー又はナイトブラの購入に関心がある一般消費者に
対し,原告商品よりもレース生地が比較的多いという印象を与えるにと
どまるから,被告商品1の上記部分をレース生地とすることが商品全体
の形態に与える効果は小さいといえる。さらに,前記1(2)イのとおり,
ブラジャーにレース生地を用いること自体ありふれた形態であり,上記
部分を無地の生地からレース生地に置き換える着想が困難であるともい
えない。
そうすると,相違点1)及び2)は,いずれもわずかな改変に基づくもの
であり,商品の全体的形態に与える変化は乏しく,商品全体から見て些
細な相違にとどまるといえるから,被告商品1は原告商品と実質的に同
一の形態であると認めるのが相当である。
(イ) 前記(ア)のとおり,被告商品1と原告商品は実質的に同一の形態であり,
前記前提事実(2)及び(3)アのとおり,被告商品1の販売が開始された平
成30年10月頃に先立つ平成28年9月12日に原告商品の販売が開
始されているところ,本件全証拠によっても,被告が被告商品1を独自
に開発したことをうかがわせる事情は認められないことからすると,被
告は原告商品の形態に依拠して被告商品1を作り出したと推認するのが
相当である。
(ウ) 以上によれば,被告商品1は,原告商品の「商品の形態」を「模倣し
た商品」であると認められる。
・・・
また,被告商品2と原告商品の間には相違点5)が認められるが,別紙
1被告商品目録記載2の写真のとおり,被告商品2も,被告商品1と同
様,レース生地の色合いが他の部分の布地と同系色であって,レース生
地の存在が際立つものではなく,被告商品2では,被告商品1よりレー
ス生地が多く用いられているものの,そのレース生地が肩紐部や背部と
いった比較的注目することが多くないと考えられる部分に用いられてお
り,一方で,同写真と別紙2原告商品目録記載の写真を見比べると,原
告商品と被告商品2とで,ナイトブラとしての機能を成り立たせるパー\nツの形状及び構成はほぼ同一であるといえることからすると,この改変\nが商品全体の形態に与える効果は大きくないというべきである。さらに,
前記1(2)イのとおり,ブラジャーにレース生地を用いること自体ありふ
れた形態であり,被告商品2の相違点5)に係る部分を無地の生地からレ
ース生地に置き換える着想が困難であるとはいえない。
被告商品2と原告商品の間には相違点6)が認められるが,ホックが4
段階であるか3段階であるかの違いにすぎず,ホックを連結する段階数
を増やすという改変を着想することは容易であり,そのような改変が商
品全体の形態に与える効果は小さいといえる。
そうすると,相違点3)ないし6)は,いずれもわずかな改変に基づくも
のであり,商品の全体的形態に与える変化は大きくなく,商品全体から
見て些細な相違にとどまるといえるから,被告商品2は原告商品と実質
的に同一の形態であると認めるのが相当である。
(イ) 前記(ア)のとおり,被告商品2と原告商品は実質的に同一の形態であり,
前記前提事実(2)及び(3)イのとおり,被告商品2の販売が開始された平
成31年2月頃に先立つ平成28年9月12日に原告商品の販売が開始
されているところ,本件全証拠によっても,被告が被告商品2を独自に
開発したことをうかがわせる事情は認められないことからすると,被告
は原告商品の形態に依拠して被告商品2を作り出したと推認するのが相
当である。
・・・
不競法5条2項の侵害者が侵害行為により受けた利益の額は,侵害者の侵
害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売することによりその製
造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額で
あると解するのが相当である。
辞任前の被告訴訟代理人が作成した一覧表(甲54)によれば,被告が被\n告商品1を販売したことにより,1億5794万円の売上げがあり,商品原
価として2650万円,カード決済料金として552万7900円及び送料
原価として2650万円を要したこと,被告が被告商品2を販売したことに
より,1億4254万5320円の売上げがあり,商品原価として2873
万7640円,カード決済料金として498万9086円及び送料原価とし
て2391万7000円を要したことが認められる。
そして,弁論の全趣旨
によれば,上記の商品原価,カード決済料金及び送料原価は,いずれも被告
各商品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費と認められる。
他方で,上記一覧表(甲54)には,被告商品1につき広告費として73\n20万5070円,人件費420万円及び販売システム費用789万700
0円,被告商品2につき広告費として7063万0834円,人件費630
万円及び販売システム費用712万7266円を要したかのような記載があ
る。しかし,被告が上記広告費を支出してどのような内容の広告をしたのか,
それが被告各商品に係るものであったかは,証拠上明らかではないし,上記
人件費及び販売システム費用がいかなる目的で支出されたかも証拠上明らか
でないから,これらの費用は,被告各商品の製造販売に直接関連して追加的
に必要となった経費とは認められない。
したがって,被告が被告商品1を販売したことによる利益の額は9941
万2100円(=1億5794万円−2650万円−552万7900円−
2650万円)であると,被告商品2を販売したことによる利益の額は84
90万1594円(=1億4254万5320円−2873万7640円−
498万9086円−2391万7000円)であると,それぞれ認められ
る。
(2) 本件訴訟に現れた全ての事情を勘案すると,本件訴訟の弁護士費用相当の
損害額は,被告商品1につき994万1210円,被告商品2につき849
万0159円と認めるのが相当である。
(3) したがって,被告が被告各商品を販売したことにより原告が被った損害額
は,合計2億0274万5063円である。
◆判決本文