イス(TRIPP TRAPP)の類似品に対して、商品等表示も認められず、著作権の適用なしと判断された控訴審判決です。知財高裁も同様の判断をしました。\n
そこで検討すると、被告各製品の形態は、別紙「被告各製品の形態」記載
の構成aから構\成fまで(以下、単に「構成 a」などという。)のとおりで
あり、これによると、被告各製品は、本件顕著な特徴を構成している特徴1)
から特徴3)までとの対比において、左右一対の側木の2本脚であり、かつ、
座面板及び足置板が左右一対の側木の間に床面と平行に固定されており(特
徴1))、左右方向から見て、側木が床面から斜めに立ち上がっており、側木
の下端が脚木の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面
に接していることによって、側木と脚木が約66度の鋭角による略L字型の
形状を形成している(特徴2))が、側木の内側に溝は形成されておらず、側
木の後方部分に、固定部材と結合してネジ止めするための円形状の穴が多数
形成され、座面板及び足置板を側木の間で支持する支持部材、支持部材を側
木の間において掛け渡された状態で側木に固定する固定部材及びネジ部材を
備え、2本の側木後方に設けられた穴と固定部材を結合した状態でネジ部材
を閉めることで、支持部材と固定部材によって側木を前後から挟持して押圧
し、支持部材を側木に固定しており(構成f)、原告らの商品等表\示の特徴
3)を備えていないものと認められる。
なお、その他の形態上の諸要素を考慮しても、被告各製品は、側木及び脚
木からなる2本脚、背板、座面板及び足置板、横木のほかネジ部材、支持部
材、固定部材等から構成され、脚木は一直線であるが、側木は一直線ではな\nく、側木の上端部分は床面と垂直に折れ曲がっており、2本脚が、正面視で
床面に垂直で相互に平行となるように配置され、側木と脚木の結合部分から
離れた脚木中央部に横木が配置され、中央部に楕円形の穴が形成されている
背板は側木の最上部に配置され、座面板と足置板は楕円形の短辺を切り落と
したような曲線的形状とされ、ネジ部材、支持部材及び固定部材等により側
木に固定されていることから、被告各製品の形態においては、曲線的な要素
とともに、座面板及び足置板の支持部分に複数の部材が利用され、その安定
性が特徴的となっており、その印象も、原告製品における、直線的な形態が
際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっている。
よって、原告製品全体の形態の特徴である本件顕著な特徴について、被告各
製品は、これを備えていないものと認められる。
(3) したがって、被告各製品は、本件顕著な特徴を備えていないから、取引の
実情の下において、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づ
く印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれ
があるものということはできない。よって、原告らの商品等表示と被告各製\n品の形態が類似すると認めることはできない。
・・・
著作権法2条2項は、「美術の著作物」には「美術工芸品」を含むものとする旨規定しており、同項の美術工芸品は実用的な機能と切り離して独立の美的鑑賞の対象とすることができるようなものが想定されていると考えられるのであって、同項の規定は、それが例示規定であると解した場合でも、いわゆる応用美術に著作物性を認める場合の要件について前記のように解する一つの根拠となるというべきである。\n
(2) 以上を踏まえ、本件について検討すると、原告製品については、特徴1)か
ら特徴3)まで及び側木と脚木をそれぞれ一直線とするデザインという本件顕
著な特徴があり、これにより原告製品の直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象を与えるものとなっていると認められることは、
前記のとおりである。しかし、本件顕著な特徴は、2本脚の間に座面板及び
足置板がある点(特徴1))、側木と脚木とが略L字型の形状を構成する点\n(特徴2))、側木の内側に形成された溝に沿って座面板等をはめ込み固定す
る点(特徴3))からなるものであって、そのいずれにおいても高さの調整が
可能な子供用椅子としての実用的な機能\そのものを実現するために可能な複\n数の選択肢の中から選択された特徴である。また、これらの特徴により全体
として実現されているのも椅子としての機能である。したがって、本件顕著\nな特徴は、原告製品の椅子としての機能から分離することが困難なものであ\nる。すなわち、本件顕著な特徴を備えた原告製品は、椅子の創作的表現とし\nて美感を起こさせるものではあっても、椅子としての実用的な機能を離れて\n独立の美的鑑賞の対象とすることができるような部分を有するということは
できない。また、原告製品は、その製造・販売状況に照らすと、専ら美的鑑
賞目的で制作されたものと認めることもできない。それのみならず、仮に、
原告製品の本件顕著な特徴について、独立の美的鑑賞の対象となり得るよう
な創作性があると考えたとしても、前記のとおり、被告各製品は、本件顕著
な特徴を備えていないから、原告製品の形態が表現する、直線的な形態が際\n立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっているの
であって、被告各製品から原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得する\nことはできない。そうすると、結局、本件において、著作権侵害は成立しないといわざるを得ない。
◆判決本文
通帳ケース、長財布の形態は、商品形態模倣(不競法2条1項3号)に該当するとして、約430万円の損害賠償と差止が認められました。判決文の最後に双方の商品が掲載されています。
原告商品1と被告商品1は、通帳ケースの外側のすべての形態(通常全体
の大きさ及び形状、正面外側部に設けられたポケットの形状、大きさ及び位
置、背面部の形状)、マチ部の上面及び側面部のすべての形態(開閉可能なフ\nァスナーの配置)及び内部の形態の大部分(仕切り板の枚数及び大きさ、内
側ポケットの数)において共通しているから、各商品から受ける商品全体と
しての印象が共通し、両商品の商品全体の形態が酷似しているといえる。他
方で、上記のとおり、両商品は、正面側及び背面側の各外装部裏面の裏面ポ
ケットの有無、各外装部裏面の表面に設けられたカード等を収納するための\n小サイズのポケットの数(原告商品1は6個、被告商品1は4個)及び配置
位置(高さ約1ないし2センチメートルの範囲内)の点で相違するが、いず
れも些細な差異であり、商品の全体的形態について需要者に与える印象に影
響するようなものではない。
したがって、原告商品1と被告商品1の形態は実質的に同一であると認め
られる。
イ これに対し、被告は、原告商品1の販売前から同商品内側の特徴を備えた
商品を販売していたことや、被告の従前の販売商品や伊達衿のデザインが存
在することに照らせば、原告商品1はありふれた形態であり、不競法2条1
項3号により保護すべき形態に該当しないと主張する。
証拠(乙1、2)によれば、被告が、令和元年9月3日以降、楽天市場に
おいて、1)外側の平面視で縦幅約12センチメートル、横幅約18.5セン
チメートルの寸法で、厚み約2.5センチメートルの横長四角形状、2)正面
側外装部及び背面側外装部の各裏面(ケースの内部側の面)には、カード等
の小サイズの収納物を上部から挿入可能な小ポケットが4個設けられてい\nる、3)マチ部の上面及び両側面には、ファスナーにより開閉自在の開口部が
設けられており、開口することにより、底部を軸として側面視扇状に正面部
分と背面部分が展開する、4)内部には、上記小ポケットとは別に、仕切板7
枚により等間隔に8個の内側ポケットが設けられている、との原告商品1に
共通又は類似する構成を有する通帳ケースを販売していた事実、及び、令和\n2年9月29日から、外側に入口部分を斜めの形状にしたカードケースを販
売していた事実、がそれぞれ認められる。
しかしながら、原告商品1には、外側部に入口部分が斜めに交差するポケ
ットが設けられており、これは商品の全体的形態について需要者に与える印
象に影響する形態であるところ、上記通帳ケースには当該構成が設けられて\nいない。また、上記カードケースの外側ポケットの入口部分は斜めに交差す
る形態ではない。また、通帳ケース外装に和装の伊達衿(乙32)のデザイ
ンを採用し得るとしても、態様は多様なものが考えられるのであって、その
ことから直ちにそのような通帳ケース自体がありふれたものといえるわけ
でもない。そして、本件記録上、原告商品1の外側ポケットの形態がありふ
れた形態であると認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
(2) 依拠性について
ア 前記前提事実第2の1(2)アのとおり、原告は、遅くとも令和3年6月2
2日から、第三者が自由に閲覧可能なECサイトである楽天市場で原告商品\n1を販売しており、被告において容易に原告商品1にアクセス可能であった\nといえ、証拠(甲22、23)によれば、実際に、被告代表者が令和3年8\n月7日に原告商品1を購入した事実が認められる。また、前記前提事実第2
の1(3)アのとおり、被告商品1の販売開始時期は原告商品1の販売開始か
ら約8か月後の令和4年2月25日である。
以上によれば、被告商品1は原告商品1に依拠して製造販売されたと認め
られる。
イ これに対し、被告は、原告商品1の販売前から同商品と同様の内部の形態
を有する通帳ケースを販売していたことや、原告の取締役が原告商品1の販
売前に被告の販売する通帳ケースを購入したことから、被告商品1は原告商
品1に依拠していないなどと主張する。
しかしながら、上記(1)イで検討したとおり、原告商品1と同商品の販売
前に被告が販売していた通帳ケースとは需要者に与える印象に影響を与え
る形態である外装部の形態が相違しているから、両商品の内部の形態が同一
又は類似することや原告の取締役による購入履歴がある旨の被告主張の事
情を踏まえても、依拠性に係る上記判断は左右されない。
◆判決本文
2024.02. 8
使い捨ての衛生マスクについて、外箱のパッケージデザインのセットとして、不競法2条1項3号の商品形態と認定されました。ただ、発生した損害には相当因果関係がないとして損害賠償請求は棄却されました。
1 被告商品の形態は原告商品の形態と実質的に同一か(争点1)について
甲1によれば、原告商品と被告商品の形態等は次のとおりである。
ア 原告商品及び被告商品は、50枚の不織布製の使い捨てマスクが青色の紙
製の直方体のパッケージに入ったものである。原告商品及び被告商品のパッ
ケージの上面(以下「上面」という。)は、いずれも縦長の長方形に構成さ\nれており、上部に商品名、中部にマスクを斜め方向から見た図(商品の説明
をするポップアップが二つ付されている。)、下部に商品の特徴が掲載されて
いる。パッケージの側面のうち、略正方形の面(以下「略正方形面」という。)
には、いずれも、商品名とその特徴が掲載されている。いずれのパッケージ
も、パッケージの側面のうち、長方形の面は、横長に構成されており、その\nうち一方(以下「長方形面1」)については左半分に前記略正方形面とほぼ
同様の記載が、右半分にマスクを斜め方向から見た図が掲載されており、他
方の面(以下「長方形面2」という。)には、左側に商品の特徴及び基本情
報が、右側に使用上の注意事項、保管上の注意事項及び販売元が記載されて
いる。
イ 原告商品と被告商品のパッケージの上面のデザインは、中部のマスクの色
合いが被告商品の方が若干青みかかっており、被告商品のみに小さく「※イ
ラストはイメージです」という文言が付されている点、下部の商品の特徴を
列挙している4つのブロックを貫く青線の太さ及び濃さが多少異なる点を
除いて、基本的に同じデザイン(マスクの形状についても差異が認められな
い。)になっている。上面の上部についても、上から順に、各商品のロゴ、
商品の特徴、「肌にやさしい素材」、「99%カットフィルターでブロック」、
商品の名称となっている点は共通しており、ロゴ、商品の特徴(原告商品は
「−耳にやさしい−」、被告商品は「個包装 携帯に便利」との記載)、商品
名(原告商品は「らくらくマスク」、被告商品は「不織布マスク」)に異なる
部分があるが、文字のデザインは基本的に同じである。
ウ 略正方形面については、原告商品、被告商品のいずれも、上から、前記イ
記載の各上部の記載(ただし、片面について被告商品は商品名の欄に「らく
らくマスク」と記載されている。)があり、基本的に上面の下部分と同じデ
ザインとなっている。
エ 長方形面1については、原告商品、被告商品のいずれも、左側が略正方形
面と基本的に同じデザインで、右側は上面の中部分と基本的に同じデザイン
になっている。
オ 長方形面2については、原告商品、被告商品のいずれも、左上の商品特徴
を記載した4つのブロックを貫く線が、原告商品が白抜きで被告商品が青抜
きである点及び販売元に関する記載と商品バーコードの有無以外の点は、記
載内容が同一である(商品は、原告商品と被告商品のいずれも「らくらくマ
スク」とされている。)。
不正競争防止法2条4項所定の商品の形態とは、「需要者が通常の用法に従
った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の
形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感」である。
原告商品及び被告商品につき、パッケージの中の不織布製の多数枚(50枚)
のマスクは、その性状からもそれぞれのマスク単体ではなくパッケージに入っ
た状態で流通し、販売されて消費者がこれを購入することが予定されており、\n原告商品及び被告商品のパッケージ全体は、中に入ったマスクと一体となって
「商品」を構成し、そのパッケージのデザインは、商品の「模様、色彩」に当\nたるとするのが相当と解する。
前記 で認定したとおり、原告商品と被告商品は、そのパッケージの基本的
なデザインが同じであるほか、マスクの写真に付されたポップアップのデザイ
ン及び説明文言、商品特徴の説明文言及び配置、商品の特徴を列挙している4
つのブロックを青色の線が貫くデザイン等の細かい点まで一致している。原告
商品と被告商品のパッケージは、商品名やロゴ、販売元に関する記載等につい
て一部異なる点があるものの、それらの記載等が商品全体において占める部分
は非常に小さく、全体的な印象に与える影響は限定的であり、原告商品と被告
商品の形態は実質的に同一であるというべきである。
被告は、原告商品のパッケージのデザインがありふれたものである旨主張す
る。
原告商品のパッケージにおける個々の模様のデザイン、説明文言等は、その
それぞれに着目すると同種商品に同じデザイン、文言等が記載されているもの
もある(乙4〜9)。しかし、原告商品のパッケージは多数の具体的な模様、表\n示等からなり、それらを組み合わせたデザインがありふれたものであることを
認めるに足りる証拠はなく、原告商品のパッケージのデザインが全体としてあ
りふれたデザインであるとは認めるには足りない。
2 被告商品は原告商品に依拠したものか(争点2)について
被告商品は原告商品の後に発売されたものであり(前提事実 、 )、前記1で
認定したとおり、原告商品と被告商品のパッケージは細部まで一致している。ま
た、原告商品のマスクの画像に付されたポップアップの誤記(「側は肌にやさし
い滑らか素材」との記載について、原告は、「内側は肌にやさしい滑らか素材」と
すべきであったところ誤植したと述べる。)が被告商品にもそのままあり(被告
商品の記載も「側は肌にやさしい滑らか素材」との記載である。)、被告商品では、
商品名として、上面及び長方形面1、略正方形面の一方では「不織布マスク」と
記載されているものの、略正方形面の他方及び長方形面2では「らくらくマスク」
(原告商品の商品名)と記載されていて、これらは、いずれも原告商品の記載を
そのまま利用してしまい、変更することを失念したものと推認できることを考慮
すると、被告商品は原告商品に依拠して製造されたものと認められる。
3 故意、過失(争点3)について
弁論の全趣旨によれば、被告は、別会社にデザインまで含めた商品の内容につ
いて指示を出し、被告商品の製造を委託したことが認められる。前記2で認定し
たとおり、被告商品は原告商品に依拠してデザインされ、製造されたものである。
原告商品のデザインに依拠したパッケージデザインを具体的に発案した者は必
ずしも明らかではないが、被告商品の内容について最終的な決定権を有するのは
被告であったといえ、原告商品に依拠してこれと実質的に同一の被告商品を販売
したことについて、被告には少なくとも過失があったというべきである。
4 損害及び因果関係(争点4)について
証拠によれば次の事実が認められる。
・・・・
イ 本件取引会社は、令和2年10月16日付けで、原告に対し本件売買契約
を解除する旨記載された契約解除通知書(以下「本件通知書」という。)を
送付した。本件通知書には、「貴社と締結いたしました商品売買契約につき
まして、下記の理由をもちまして、本書面をもって解除いたします。」と記
載され、下記の記載があった。当時、被告商品を999円/箱で販売してい
る小売店が存在した。原告は、本件通知書の内容を了承して、本件売買契約
は履行されなかった。(甲5、6、15)
記
「1.雑貨店で同じ包装の商品が安く売られていることが判明しました。
2.雑貨店の定価(税別999円/箱)は貴社からご提示いただいた価格
(税込1400円/箱)よりも低いことが判明しました。
3.貴社は当該商品売買契約(判決注:本件売買契約)の第8条に違反し
ました。」
以上
原告は、被告商品が販売されたことが原因で本件売買契約が解除されたので、
本件売買契約に基づく履行利益(売買代金から経費を控除した額)が損害に当
たると主張する。
前記 で認定したとおり、本件取引会社は、被告商品が、本件売買契約にお
ける単価(1400円/箱)よりも安価に販売されていることを指摘して、本
件通知書を送付したことが認められる。
しかし、本件通知書には、本件売買契約8条に違反したとの記載はあるもの
の、同条のいずれの項に違反したとも特定されていない。この点について、原
告は、本件売買契約は8条 で規定されている「信用状態の悪化」があったた
め解除されたと主張する。しかし、一般的に取引契約における解除原因として
規定される「信用状態の悪化」は、当事者の支払能力等の経済的信用を問題と\nする趣旨で用いられるところ、原告にそのような事情があったことはうかがえ
ず、また、被告商品の販売がこれに関連するとも認められない。仮に「信用状
態の悪化」を、当事者が信頼関係を損なう背信的行為をしたこと(道義的信用
が悪化したこと)を意味するとしても、その趣旨からして少なくとも原告に帰
責性のある事情があることが前提とされるところ、被告が原告商品の形態を模
倣して販売したことは、原告に何の帰責性もない。その他、原告において「信
用状態の悪化」が認められる事情が生じたことを認めるに足りる証拠はなく、
本件売買契約8条のその余の条項に当たる事情があったことを認めるに足り
る証拠もない。原告は、原告代表者の配偶者の陳述書(甲15)を提出し、そ\nこには、令和2年10月、本件取引会社の販売先が原告商品と同じパッケージ
のマスクを見かけ、本件取引会社は、原告は本件取引会社に1400円/箱の
卸価格で提案したのに、店で999円で売られていることがありえないことだ
と怒っていて、これは本件売買契約8条に違反するので、キャンセルするなど
と電話連絡をして、その後本件通知書が送付され、原告は、原告商品と被告商
品の販売価格に乖離があったためやむを得ずキャンセルを了承することとし
たとの記載がある。
この陳述書によっても、本件取引会社は、本件取引会社へ
の販売価格よりも低廉な価格で商品が販売されていたことを問題視している
ことはうかがえるが、それにより、結局本件取引会社が何を問題としていたの
かは必ずしも明らかではなく、原告が原告商品を本件取引会社以外の者に対し
ては本件取引会社に対する価格よりも廉価で販売していたと誤解した可能性\nもうかがわれないではない。原告が本件取引会社以外の者に対して廉価販売し
たと誤解したことについては誤解を解くべき話といえる。なお、被告商品の販
売が本件取引会社による原告商品の販売数量に影響を与えることはあり得る
ものの、そもそも本件売買契約では当該商品について本件取引会社に対しての
み販売することが定められてはおらず(甲4)、他社が同種の商品を販売した
こと自体を本件取引会社は問題視できるものではない。これらによれば、本件売買契約については、契約において定められた解除理由は存在しなかったというべきであり、これが履行されなかったのは、原告と本件取引会社との間の合意によるものといえる。
被告商品を販売することは不正競争行為であり、被告は、これにより原告に
生じたといえる損害を賠償する義務がある。もっとも、侵害者は、侵害行為が
他社間の契約の存続に影響を与えることを当然に予見できるものではなく、ま\nた、他社間の契約の内容は当該他者間で自由に定められるもので侵害者がその
内容を通常は知ることはできず、侵害者にその契約の履行利益を前提とする損
害を負担させることは当事者間の衡平に反する場合があるといえる。少なくと
も本件のように、原告と第三者との間に解除権の発生原因がないが、両者間の
合意によってこれを履行せず、また、本件売買契約における販売価格も当時の
相場に比べて高額といえるような場合(甲11は、マスクの平均価格は、令和
2年4月24日には1枚当たり78円だったが、その後急速に値下がりし、同
年8月13日には1枚当たり12円だったとする。被告の侵害行為の時点(前
記第2の2 )では、本件売買契約のマスクの単価は上記平均価格に比べて相
当に高かった。原告は本件売買契約によって相当多額の利益を得られたはずで
あると主張している(前記第2の3 ))、本件で原告が主張する損害は、通常
生ずべき損害には当たらず、また、被告にはその発生が予見できなかったもの\nということが相当である。
以上の事情を考慮すると、本件において原告が主張する損害は、被告商品の
販売との間の因果関係を欠くというべきであり、被告がそれを賠償すべきであ
るとは認められない。なお、原告は、本件において不正競争防止法5条に基づ
く主張はしない旨述べた(令和5年9月12日付け原告第3準備書面)。
◆判決本文
双方のパッケージデザインはこちらです。
◆判決本文