原告の取引先に対して「原告の行為は商標権侵害である」と通知することについて、被告である商標権者に、差止と損害賠償が請求されました。裁判所は商標権侵害ではないが、不正競争行為とはいえないとして請求棄却されました。
・・・別件訴訟において,被告は,JR九州に対しても,原告商品を販売することによって本件各商標権を侵害していることを理由として差止め及び損害賠償を請求しているのであるから,原告に対する訴えを併合していなくとも,JR九州に対する関係での訴訟において請求を理由あらしめるためには,原告各標章を付した商品(原告商品)の販売が本件各商標権を侵害する旨の,原告に対する訴訟の請求原因となる事実を主張することは避けられないのである。したがって,これが反射的に原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知するのと同じ効果を奏しているとしても,その点をとらえて,直ちに不正競争防止法2条1項14号に該当する不正競争であるということはできない。原告の主張は,商標権侵害の場合における流通業者に対する訴訟提起行為は,商標権侵害となる標章を商品に付して流通に置いた業者に対する関係において不正競争防止法2条1項14号の不正競争を構成する潜在的可能\性があることから,これを差し控えるべきことをいうに等しく採用できない。なお,JR九州に対する別件訴訟において,被告が主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであるうえ,被告がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときには,JR九州に対する別件訴訟提起そのものが違法と評価され,同訴訟提起は,適法行為を装って,実質は原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を原告の取引先であるJR九州に告知する効果を意図したものであって,不正競争防止法2条1項14号の不正競争に該当すると解する余地はある。しかしながら,上記1のとおり,原告各標章は本件各商標と類似しているといえるし,被告が本件各商標権の商標権者であり,原告が原告各標章を付した商品(原告商品)をJR九州に販売し,JR九州もまた原告商品を販売している事実は明らかである。また,原告及びJR九州による販売行為が商標権侵害に当たるかについては,原告に対する別件訴訟の受訴裁判所は非類似と判断し,他方,当裁判所は,類似であると認めるものの,商法26条1項2号により商標権侵害といえない旨の判断をしており,結論的には被告の商標権侵害の主張に法律的根拠を欠く点で両裁判所の判断が一致しているとしても,被告がそのことを知りながらであったといえないことはもとより,通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる場合でないことは明らかである。
◆判決本文
2011.09. 8
著作権侵害、不競法違反が存在しないとして、営業誹謗行為(不競法2条1項14号)であると判断されました。
前記前提事実オの本件注意書の記載内容のうち,(ア),(イ),(エ),(ク)及び(ケ)の記載は,反訴被告による反訴被告事業の実施が,反訴原告装置に関する反訴原告の著作権等の権利を侵害する違法なものであることを内容とする記載であると解されるところ,反訴被告による反訴被告事業の実施が,反訴原告の著作権若しくは著作者人格権侵害,不正競争行為又は秘密保持義務違反(債務不履行)のいずれにも当たらないことは前記のとおりであるから,前記(ア),(イ),(エ),(ク)及び(ケ)の記載は虚偽の部分を含むものである。
イ また,本件注意書の記載内容のうち,前記オ(ウ)の記載中で「スペースチューブからの盗作である」と記載された本件イラストは,反訴原告と反訴被告の共同事業として実施された前記前提事実ア記載のイベントにおいて撮影された写真を基に,反訴被告の依頼に基づき描かれたものであると認められるが(甲10の1・2),本件イラストの表現内容が前記前提事実カのとおりのものであることに照らし,本件イラストが反訴原告装置を複製したものに当たらないことは明らかであり,他に本件イラストが反訴原告の権利を侵害するものであることを認めるに足りる証拠はない(なお,反訴原告は,本件イラストが上記のとおり反訴原告装置を撮影した写真を基にして描かれたものであることから,本件イラストが反訴原告の反訴原告装置についての著作権を侵害する旨主張するものであると解されるが,本件イラストは,前記前提事実カのとおり,4人の子供及びその指先や膝先,手首の先などに曲線が描かれたものであり,本件イラストは反訴原告装置を有形的に再製したものでも,反訴原告装置の本質的特徴を感得することができるものでもないことは明らかである。)。したがって,前記(ウ)の記載も虚偽のものに当たる。
ウ さらに,前記オ(オ),(カ)及び(キ)に記載された本件契約の解除の経緯等に関する記載のうち,反訴被告が反訴原告を脅した旨の記載は,前記前提事実イ及びウの反訴原告と反訴被告との間における通知及び回答の各内容に照らし,事実経過に沿わないものであるというべきである。エ 反訴原告と反訴被告は,体験型の展示装置を使用したイベントの実施を行う点で競争関係にあるものと認められるところ,以上のとおり,本件注意書は,前記アないしウの点で,虚偽の内容を含むものであると認められる。そして,本件注意書の前記記載は,反訴被告事業が反訴原告の権利を侵害する違法なものであり,又は,反訴被告が反訴原告を脅すなど不当な経緯により事業をするに至った旨を,本件注意書を見る不特定多数の者に印象付けるものであって,反訴被告の営業上の信用を害するものである。よって,反訴原告による本件注意書のアップロードは,虚偽の事実を流布する行為(不正競争防止法2条1項14号)に当たるものであると認められる。
◆判決本文
不競法2条1項14号の営業誹謗行為に該当するかが争われました。裁判所は、取引先に対し,原告が粉飾決算をしている旨述べた事実については侵害毀損があるとして10万円の賠償を認めました。
以上まとめると,被告らが第三者に告知したと原告の主張する告知行為目録記載の各事実のうち,被告P1が同目録記載3の事実を取引先一,二社に告知したことは認められるが,その余の事実を認めることはできないから,その余の事実を告知したことを内容とする不正競争防止法2条1項14号該当を理由とする不正競争防止法に基づく請求はその余の判断に及ぶまでもなく理由がない。・・・原告が営業秘密であると主張する本件顧客情報は,その一部については存在そのものを認めることができないし,証拠(甲9,甲10)により存在が認定できる認定顧客情報の限度においても,個人被告らとの関係においても,また被告会社との関係においても明確な形で営業秘密として管理されていたものとは認められないから,原告主張に係る本件顧客情報をもって不正競争防止法2条6項にいう「営業秘密」とは認められず,これが営業秘密であることを前提とする不正競争防止法に基づく原告の請求は,その余の判断に及ぶまでもなく理由がないというべきである。・・・ 原告が主張する被告らの不正競争行為のうち認められるのは,被告P1が別紙告知行為目録記載3の事実を取引先の一,二社に告知した事実だけであるが,その告知先が限定されていることに加え,そのことによって原告の取引に具体的に支障が生じたことをうかがわせる事実を認めるに足りる証拠はないから,これによって生じた原告の信用毀損に対する損害賠償の額としては10万円の限度で認定するのが相当である。
◆判決本文
取引先に、特許権侵害告知を行った行為について、不競法2条1項14号の営業誹謗行為に該当するとして、1000万円を超える損害賠償が認められました。
上記認定してきたとおり,被告は,原告商品のブラシ単体,あるいはその製造方法が本件各特許権の技術的範囲に属することを前提に本件各告知行為をしたものであるが,その当時,そのように判断するに至った根拠は明らかにされておらず,またその経緯を認めるに足りる証拠もない。しかも,被告は,本件各告知書面中において,弁理士等の専門家の協力により原告商品が本件各特許権に抵触することが判明したなど,原告商品が本件各特許権の侵害品であることが専門家の判断によって裏付けられたかのような記載しているにもかからず,本件において,現実に専門家に依頼して,その旨の検討をした事実についての具体的な立証を全くしないのであるから,専門家の協力を得たという記載部分でさえ虚偽であった可能性を否定できない。(2) 被告は,原告との従前の取引経緯から原告が本件各特許権を侵害していた可能性に言及して本件各告知行為によって原告に損害を与えたことについて無過失である旨主張しているが,被告のいうところは,結局のところ侵害の可能\性をいうにとどまっていて,それ以上のものではなく,かえって証拠(甲28〜甲31,甲34,甲37〜甲39.甲40の1・2,甲51,原告代表者)及び弁論の全趣旨により認められる取引の経緯からは,被告が原告との取引が打ち切られたことに関連したトラブルを巡って,原告に圧力をかけて交渉を有利に進めるために,原告の警告にもかかわらず,具体的根拠のないまま,本件各告知行為に踏み切ったことさえ認められるところである。(3) そうすると,被告は,本件各告知行為という不正競争防止法2条1項14号に該当する不正競争をするに当たり,それが原告の営業そのものに深刻な影響を与え重大な損害をもたらすことは容易に予見できていたにも関わらず,その点に配慮することなく,むしろ損害を与えることを意図していた疑いさえあると認められるのであるから,原告に損害を与えたことについて過失があることはむしろ明らかであり,被告は,原告に生じた損害を賠償する責任を免れないというべきである。\n
◆判決本文
2011.03. 1
最終的に無効となった特許権侵害について、営業誹謗行為には該当しないと判断されました。
以上のように,特許権者である1審被告が,特許発明を実施するミヤガワらに対し,本件特許権の侵害である旨の告知をしたことについては,特許権者の権利行使というべきものであるところ,本件訴訟において,本件特許の有効性が争われ,結果的に本件特許が無効にされるべきものとして権利行使が許されないとされるため,1審原告の営業上の信用を害する結果となる場合であっても,このような場合における1審被告の1審原告に対する不競法2条1項14号による損害賠償責任の有無を検討するに当たっては,特許権者の権利行使を不必要に萎縮させるおそれの有無や,営業上の信用を害される競業者の利益を総合的に考慮した上で,違法性や故意過失の有無を判断すべきものと解される。しかるところ,前記認定のとおり,本件特許の無効理由については,本件告知行為の時点において明らかなものではなく,新規性欠如といった明確なものではなかったことに照らすと,前記認定の無効理由について1審被告が十分な検討をしなかったという注意義務違反を認めることはできない。そして,結果的に,旭化成建材の取引のルートが1審原告から1審被告に変更されたとしても,本件告知行為は,その時点においてみれば,内容ないし態様においても社会通念上著しく不相当であるとはいえず,本件特許権に基づく権利行使の範囲を逸脱するものとまではいうこともできない。\n
◆判決本文