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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

営業誹謗

平成31(ネ)10023  不正競争行為差止請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 令和元年8月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁は、1審(東京地裁29部)の判断を維持し、意匠権の消尽を認めました。原告は、被告からイヤーパッドを購入し、これを含んだセット物を製造・販売しました。被告は、この行為が、当該イヤーパッドの意匠権侵害だと、拡布しました。原告は、かかる拡布は、不正競争行為に該当すると主張しました。

 (1) 前記1(3)のとおり,控訴人は,本件覚書により,本件子会社との間で,(ア) 本件子会社に対し,控訴人の保有するインコア及びイヤーパッドに係る一切の特許 の使用を許諾し(第5条前段),その許諾に係る対価を請求せず(同条後段),(イ) 本件子会社に対し,控訴人のイヤーパッドを使用した商品の開発及び販売を許諾し, イヤーパッドの供給に協力する(第6条)旨合意したことが認められる。 また,前記1(4)のとおり,原告製品は,控訴人の供給するイヤーパッドを使用し て本件子会社において開発された商品であるものと認められる。 そして,被控訴人は,前記1(5)のとおり,平成28年11月15日付けで原告製 品の製造,販売に係る事業を本件子会社から譲り受け,同事業を継続したというの であり,このことは,本件覚書第9条において控訴人によりあらかじめ承諾された ものである。 そうすると,被控訴人は,本件覚書においてされた本件特許権1に係る特許発明 の実施の許諾に基づいて原告製品を製造し販売していたものと認められる。 また,上記の実施許諾の趣旨が原告製品の製造販売にあることに照らせば,本件 特許権1に係る特許発明の実施許諾の際に,本件意匠権についても黙示に許諾があ ったものと推認される。 以上によれば,被控訴人の原告製品の製造販売は,控訴人の許諾の範囲であり, 控訴人の本件知的財産権を侵害していないというべきである。
(2) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,本件覚書が,平成22年に控訴人と本件子会社との間で締結され た本件実施許諾契約と一体のものとして,作成・合意されたものであると解した上, 被控訴人は,同契約の第6条により,原告製品の開発,販売に関して控訴人に報告 する義務を負っていたにもかかわらず,これを履行しないので,平成29年4月3 日付けの文書(乙7)で催告をし,同月12日に控訴人代表者から本件子会社の代\n表者であるAに宛てて送信されたメール(乙6)により同契約を解除する旨の意思\n表示をし,その結果,本件覚書における許諾の合意も失効した旨主張する。\nしかしながら,前記1で認定した事実関係に照らせば,本件覚書は,平成22年 4月から平成28年3月までに生じた事情を踏まえた上,後の事業譲渡も視野に入 れた上で,控訴人と本件子会社との間に新たな権利関係を設定するために作成され たものというべきであり,その合意の内容に照らしても,本件覚書が本件実施許諾 契約と一体のものとして作成・合意されたものと解することは困難である。 以上の次第であるから,本件実施許諾契約を解除する旨の意思表示をしたことに\nより本件覚書における合意も失効した旨をいう控訴人の主張は,その前提を欠き, 理由がない。
イ 控訴人は,本件覚書と本件実施許諾契約とが一体で,本件子会社又は被控訴 人が同契約に基づく本件報告義務を負うものと認識していたことから,本件覚書に 係る合意には要素の錯誤があるので無効であると主張し,また,法的拘束力のある 契約としては本件実施許諾契約があるだけで,本件覚書に契約としての拘束力はな いという認識の下に本件覚書に押印したものであり,相手方である本件子会社にお いてもこのような控訴人の真意を知っていたから,本件覚書に係る合意は心裡留保 により無効であるとも主張する。 しかしながら,本件覚書による合意においては,当事者双方の意思表示が書面に\nよってされている。控訴人のいう認識の内容は本件覚書の内容との関係では意思表\n示の動機に当たり,この動機が表示され,法律行為の要素になっているとは認めら\nれないから,錯誤無効の主張は理由がない。また,前記アで説示したところに照ら せば,本件覚書の当事者双方において,本件覚書に契約としての拘束力はないとの 認識があったとは認められないから,心裡留保による無効の主張も理由がない。
(3) 小括
以上によれば,被控訴人の原告製品の製造販売は,控訴人の許諾の範囲であり, 控訴人の本件知的財産権を侵害していない。 よって,本件行為において告知され,流布されている事実は,虚偽であると認め られる。
3 本件知的財産権に係る消尽の成否について
念のため,消尽の成否についても検討を加える。
(1) 特許権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には,当該特許製 品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力 は,当該特許製品を使用し,譲渡し,又は貸し渡す行為等には及ばず,特許権者は, 当該製品について特許権を行使することは許されないものと解される(最高裁平成 7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299 頁,最高裁平成18年(受)第826号同19年11月8日第一小法廷判決・民集6 1巻8号2989頁参照)。このように解するのは,特許製品について譲渡を行う都 度特許権者の許諾を要するとすると,市場における特許製品の円滑な流通が妨げら れ,かえって特許権者自身の利益を害し,ひいては特許法1条所定の特許法の目的 にも反することになる一方,特許権者は,特許発明の公開の代償を確保する機会が 既に保障されているものということができ,特許権者から譲渡された特許製品につ いて,特許権者がその流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存 在しないためである。そして,この趣旨は,意匠権についても当てはまるから,意匠 権の消尽についてもこれと同様に解するのが相当である。
(2)前記1(6)のとおり,被控訴人は,本件知的財産権を有する控訴人から,本件 知的財産権の実施品である被告製品(イヤーパッド)を購入し,これを,原告製品で あるイヤホン,無線機本体,原告製品を媒介するコネクターケーブル及びPTTス イッチボックスと併せて,それぞれ別個のチャック付ポリ袋に入れ,原告製品の保 証書及び取扱説明書とともに一つの紙箱の中に封かんした上で販売しているという のである。 このような事実関係に照らすと,被控訴人は,原告製品に被告製品を付属させて 販売していたものであり,被告製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたも のとはいえず,控訴人から被控訴人に対する被告製品の譲渡によって,被告製品に ついては本件知的財産権は消尽するものと解される。そうすると,控訴人において は,もはや被控訴人に対して本件知的財産権を行使することは許されないから,被 控訴人において原告製品を製造等する行為は,控訴人の有する本件知的財産権を侵 害するものではないというべきである。
(3) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,消尽の根拠となる特許製品の「譲渡」とは,典型的には,権利者が 特許製品を市場の流通に置くことをいい,特許製品が市場の流通に置かれたといえ るか否かは,1)権利者である特許製品の譲渡人が十分な対価を得ているか,2)当該 特許製品が転々流通することを権利者が想定していると認められるか,3)権利者で ある特許製品の譲渡人と譲受人との関係,4)特許製品の性質等を考慮して,個々の 譲渡内容を精査して判断する必要があると主張する。そして,本件事実関係の下に おいては,特許製品が市場の流通に置かれたものではないので,消尽の根拠となる 特許製品の「譲渡」がないと主張する。 しかしながら,特許権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合におい て消尽が認められ,特許権者は,当該製品について特許権を行使することは許され ないものと解されることの根拠は,前記のとおり,第一義的には,特許製品につい て譲渡を行う都度特許権者の許諾を要するとすると,市場における特許製品の円滑 な流通が妨げられ,かえって特許権者自身の利益を害し,ひいては特許法1条所定 の特許法の目的にも反することになるということにある。そうだとすると,消尽の 効果が生じるか否かを,第三者には知り得ない,譲渡人と譲受人間における事情に 係らせることは,消尽を認める趣旨に沿わないものというべきである。控訴人の主 張は理由がない。
イ なお,控訴人は,譲渡により消尽の効果が生じた場合であっても,譲渡に錯 誤無効があり,又は解除がされたときは,消尽の効果は失われるとも主張し,本件 がそのような場合に当たるとも主張する。 しかし,本件において控訴人が錯誤無効や解除を主張しているのは本件覚書につ いてであり,消尽の根拠となっている被告製品の譲渡についてではないから,消尽 の効果を争う主張としては,それ自体失当というべきである。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成30(ワ)6962

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平成30(ネ)10068等  損害賠償請求控訴事件同附帯控訴事件  不正競争  民事訴訟 平成31年4月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 控訴人(一審原告)は、米国法人の製造する医薬部外品を日本にネット販売していました。被控訴人(一審被告)は、日本における独占販売代理店でしたが、原告の商品が真正品ではなく,その販売が薬事法に違反しているなどとホームページに掲載しました。 控訴人(一審原告)は、不競法2条1項15号の不正競争行為であるとして、損害賠償を求めました。
一審の東京地裁(40部)は、33万円の請求を認めましたが、双方が控訴しました。知財高裁(2部)は、被控訴人(一審被告)敗訴部分を取り消していますが、損害額は妥当としました。取り消した原因は、被控訴人(一審被告)は原告に対して弁済をしたとので、損害賠償債権は消滅したというものです。

 ア 本件記載1〜3は,平成27年記事中の記載であるところ,平成27年 記事の内容からすると,同記事を閲読した者が,普通の注意と読み方によって本件 記載1,2の部分を理解すると,同部分には,控訴人が,本件サイトにおいてジョ レン本社の商品を販売しているが,同商品はジョレン本社の商品の真正品ではない こと(同事実を,以下「本件事実1)」という。)が摘示されており,本件事実1)と 共に,控訴人の商品の仕入先が不明であること,控訴人は,ジョレン本社と取引が ないこと,控訴人が販売している商品の価格は極端に安価であること,被控訴人は, ジョレン本社に報告し,控訴人は,販売の中止を求められたが,販売を継続してい ること,控訴人の店舗は,本件サイト上に記載された住所にはないこと,ジョレン 本社では控訴人には大変困っていること(これらの事実を併せて,以下「本件事実 2)」という。)が摘示されており,また,控訴人は,厚生労働省の許認可を受けず に上記商品を販売しており,同行為は薬事法に違反すること(以下「本件事実3)」 という。)が摘示されていると理解するものと認められる。 そして,本件事実1),3)は,同記載を閲読した者に対し,控訴人は,ジョレン社 の商品の真正品でない商品を販売しており,また,同販売行為は薬事法に違反して いると認識させるのであるから,本件記載1,2の掲載によって,控訴人の社会的 評価は低下し,控訴人の信用,名誉が毀損されたというべきである。
・・・
本件記載4は,平成26年記事中の記載であるところ,平成26年記 事を閲読した者が,普通の注意と読み方によって,本件記載4を理解すると,同記 載部分には,最近,顧客からの報告で,商品を,香港経由でアメリカに入れ,本件 商品の真正品と告知して,カリフォルニアなどから,発送している業者を発見した ことが摘示されていると理解するものと認められる。そして,本件記載4では,そ のような業者が控訴人であるとは特定されておらず,また,平成26年記事全体の 記載を考慮しても,上記業者が控訴人であると認識することはできない。 したがって,本件記載4が掲載されたことによって,控訴人の社会的評価が低下 するということはできないから,本件記載4の掲載は控訴人の信用,名誉を毀損す るとは認められない。
(イ) 本件記載5は,平成26年記事中の記載であるところ,平成26年記 事を閲読した者が,普通の注意と読み方によって,本件記載5を理解すると,同記 載部分には,パッケージ,説明書,容器が日本語表記であり,国内発送であること\nを確認し,ジョレンジャパン,日本真正品などの表記のある店舗で本件商品の真正\n品を購入すべきことが摘示されていると理解するものと認められる。 ところで,平成26年記事には,「たとえ,アメリカ真正品であってもパッケー ジが英語表記の物は,保証は致しかねます。」との記載もあり,同記載からすると,\n本件商品については,「アメリカ真正品」も販売されており,パッケージや説明書 等が英語表記であったり,また,日本の正規代理店以外の店舗で販売された本件商\n品の中には「アメリカ真正品」も含まれていると理解することができる。そうする と,平成26年記事を閲読した者は,控訴人商品が,パッケージや説明書等が英語 表記であったり,日本の正規代理店で販売されていないとしても,「アメリカ真正\n品」であると認識することが考えられるから,本件記載5から,直ちに控訴人商品 が真正品ではないと認識するとは認められないし,他に,本件記載5について控訴 人の社会的評価を低下させる記載があるとは認められない。 したがって,本件記載5が掲載されたことによって,控訴人の社会的評価が低下 するということはできないから,本件記載5の掲載は控訴人の信用,名誉を毀損す るとは認められない。
・・・・
ア 本件記載6は,薬事法上の許認可を有しない者が,インターネット等で, 本件商品を並行輸入により販売することは薬事法違反となるという内容であり,同 記事を閲読した者も,そのように理解するものと認められる。 そして,本件記載6が含まれる冒頭記事には,控訴人が薬事法上の許認可を有し ていないことについては一切記載されておらず,控訴人が薬事法上の許認可を有し ないことが本件ウェブページの閲読者に知られていると認めるに足りる証拠もない から,冒頭記事を閲読した者に,控訴人が控訴人商品を販売することが薬事法に違 反することになると認識されることはなく,したがって,本件記載6の掲載により, 控訴人の信用,名誉が毀損されたと認めることはできない。
・・・
本件記載1,2を掲載して本件事実3)を摘示した行為によって,控訴人が被った 損害の額は,上記掲載がインターネット上に公開する方法で行われたこと,その公 開された期間(約1年4か月間)等諸般の事情を考慮すると,30万円と認めるの が相当であり,また,上記行為と相当因果関係の認められる弁護士費用は3万円と 認めるのが相当である。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成28(ワ)15812

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平成30(ワ)6962  不正競争行為差止請求事件  不正競争  民事訴訟 平成31年2月20日  東京地方裁判所(29部)

 原告は、被告からイヤーパッドを購入し、これを含んだセット物を製造・販売しました。被告は、この行為が、当該イヤーパッドの意匠権侵害だと、拡布しました。原告は、かかる拡布は、不正競争行為に該当すると主張しました。東京地裁29部は、権利は消尽しているので、侵害ではないとして不正競争行為に該当すると判断しました。争点は、報告義務に違反して被告製品を販売した場合は、正当行為でないので消尽するのか?という点です。
 特許権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には,当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力は,当該特許製品を使用し,譲渡し,又は貸し渡す行為等には及ばず,特許権者は,当該特許製品がそのままの形態を維持する限りにおいては,当該製品について特許権を行使することは許されないものと解される(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁,最高裁平成18年(受)第826号同19年11月8日第一小法廷判決・民集61巻8号2989頁参照)。そして,このように解するのは,特許製品について譲渡を行う都度特許権者の許諾を要するとすると,市場における特許製品の円滑な流通が妨げられ,かえって特許権者自身の利益を害し,ひいては特許法1条所定の特許法の目的にも反することになる一方,特許権者は,特許発明の公開の代償を確保する機会が既に保障されているものということができ,特許権者から譲渡された特許製品について,特許権者がその流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないためであり,この趣旨は,意匠権についても当てはまるから,意匠権の消尽についてもこれと同様に解するのが相当である。
(2)前記第2の2の前提事実(3)のとおり,原告は,本件知的財産権を有する被告か ら,本件知的財産権の実施品である被告製品を購入しているところ,証拠(甲12〜 15)によれば,原告は,被告から購入したイヤーパッドである被告製品を,原告製 品であるイヤホン,無線機本体,原告製品を媒介するコネクターケーブル及びPTT スイッチボックスと併せて,それぞれ別個のチャック付ポリ袋に入れ,原告製品の保 証書及び取扱説明書とともに一つの紙箱の中に封かんした上で販売していると認め られ,そうであれば,原告製品に被告製品を付属させて販売していたにすぎないと認 められるのであり,被告による被告製品の譲渡によって被告製品については本件知的 財産権は消尽すると解される。 よって,原告が原告製品を製造等する行為は,被告の有する本件知的財産権を侵害 しない。
(3)この点,被告は,原告は,本件報告義務に違反して被告製品を販売したものであって,当該販売は不適法な拡布に当たるから,本件知的財産権は消尽しないと主張 する。しかしながら,本件報告義務違反によって消尽の効果が直ちに覆されるといえるかについての判断は措くとして,被告の上記の主張は,原告による契約上の義務違反を いうものにすぎず,本件知的財産権を有する被告によって被告製品が拡布,すなわち 適法に流通に置かれた事実を争うものではないから,被告の上記主張は,その前提を 欠き,採用することができない。
(4)そうすると,原告は,本件知的財産権を侵害していないから,本件行為におい て告知され,流布されている原告が本件知的財産権を侵害している旨の事実は,虚偽 であると認められる。

◆判決本文

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平成29(ワ)9834  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 平成31年1月31日  大阪地方裁判所

 ウェブサイトにおける表現が、不正競争行為(営業誹謗)であると判断されました。\n
 ア 本件ウェブページ1及び2の閲覧者について
 本件ウェブページ1及び2が掲載された被告ウェブサイトは,不特定多数の一般 人に対して公開されているが,本件ウェブページ1及び2を含む本件連載が「50 周年記念サイト」内のコンテンツであること,被告代表者の自伝であること,社内\n報における連載記事の再掲であること等から,本件ウェブページ1及び2の閲覧者 の多くは,被告の事業内容,あるいは被告代表者の業績や人柄に関心を抱く者,具\n体的には被告の関係者や取引業者,競争相手,油圧式杭圧入引抜機を使用した工事 を行う工事業者といった当該業界の者が中心になると考えられる。 したがって,これらの者が,本件掲載文1ないし3に接した際,本件連載中の他 の記事と合わせてどのような認識を持つかについて検討すべきことになる。
イ 当該業界の認識について
平成29年当時,油圧式杭圧入引抜機の製造販売事業を行う会社は,高知県 内においては原告及び被告以外には存在しなかったこと,昭和54年から55年頃 まで,土佐機械工業がサイレントパイラーの部品の製造の下請けをしていたこと,P3が垣内商店でサイレントパイラーの図面作成等に関与した後,土佐機械工業を 経て原告に勤務していること,被告が土佐機械工業に対し同社の製品は被告の発明 の技術的範囲に属する旨を通告したことは前記1で認定したとおりであり,原告の 資本金が2300万円であるのに対し,被告の資本金が80億5567万0215 円であること(甲1,5)を考慮すると,被告代表者であるP1が,本件掲載文1\nないし3として,「当社の下請けで加工を任せていた高知の小さな会社」,「この 会社は平然とコピー機を製造している」,「当社の機械のコピー機をせっせとつく っている件の会社」と記載した際に,土佐機械工業又は原告を指す意図でしたこと は明らかである。 そして,上記各事情は,当該業界の者にとっては知り得ることであったと考えら れるし,前記1で認定したところによれば,被告と土佐機械工業及び原告との間に は,長年にわたって特許権等に関する紛争があり,これらの事情は,当該業界の者 にとって周知であったとされるのであるから,当該業界の者は,本件掲載文1ない し3に記載されている会社が土佐機械工業及びその事業を承継した原告を指すとい うことを容易に理解するものと解されるし,現に,原告の取引先は,本件ウェブペ ージ1及び2に接して原告のことを指すものと理解し,原告に連絡しているのであ る。
(イ)被告は,本件掲載文3について,原告ではなく中央自動車興業を指すもので あると主張する。しかし,「件の会社」という表現は,以前に言及された会社を指す表\現であると解するのが当然であるところ,中央自動車興業は本件連載において本件掲載文3以前に一度も言及されておらず(乙35,被告代表者),中央自動車興業が高知県内\nに本店又は支店を有していたことはないことから(甲28),第28回である本件 ウェブページ2の「件の会社」については,直前の第27回である本件ウェブペー ジ1にある「平然とコピー機を製造販売している高知の小さな会社」を受けた表現\nと解するのが相当であり,逆に,これを中央自動車興業と解する余地はないといわ ざるを得ない。
(2)「コピー機」との表現について\n
ア 「コピー」という表現は,一般には,同一性を保ちつつ,転写,複製,演奏\n等を行うことと解され,権利者の許諾を得ずに著作物,商標,意匠あるいは商品形 態についてのコピーをした場合,多くの場合に権利侵害が成立することから,コピ ー品の製造販売や輸入が違法であることは,一般的な警告の対象とされている(甲 21ないし26,33ないし35,乙22)。 特許権との関係でコピーという表現が使われることは多くはないが,上述した同\n一性の保持を前提とすると,相手方の製品が自身の製品のコピーであると表現する\nことができるのは,外観,構造等が同一,あるいは区別し得ない程度に類似してい\nるような場合か,少なくとも,相手方の製品が,自身の有する特許発明の技術的範 囲に属し,特許権侵害が肯定されるような場合に限られると解される。 そうすると,外観等が類似はしていても,全体としては同一とはいえない場合や,機能や基本となる原理が類似していても,特許発明の技術的範囲に属するのではな\nい場合に,これをコピーと表現した場合,本来は特許法その他の法律により違法と\nされる範囲外の行為について,違法との印象を与える内容を告知することになる。
イ 本件について見るに,原告の製品は,被告のサイレントパイラーと同じ圧入 原理を利用する油圧式杭圧入引抜機であるが,この基本原理自体は,サイレントパ イラーの開発以前である昭和35年から公知であったものであるし,原告の製品の 形状は,サイレントパイラーの形状と一部類似することが認められるが,油圧式杭 圧入引抜機という機械の機能を発揮するためにはある程度決まった構\造・形状を採 らざるを得ないと合理的に推測できるのであって,他の会社がかつて製造していた 油圧式杭圧入引抜機も,サイレントパイラーと主要な構造や形状が類似していたこ\nとが認められる。また,サイレントパイラーの図面作成に携わったことのあるP3 らが,その後土佐機械工業へ転職したことが認められるが,同社は油圧式杭圧入引 抜機の開発に際し,被告の有する特許権等の権利を侵害するおそれがないか弁理士 と相談して調査したとされることは前記認定のとおりである。 そして,被告の特許申請については拒絶査定が確定し,土佐機械工業において杭\n打込引抜機についての特許を取得していることは既に認定したとおりであって,本 件において,土佐機械工業または原告が自らの杭打込引抜機を製造販売することが, 特許権を含む被告の何らかの排他的権利を侵害すると認めるに足りる事実の主張, 立証はなされていない。
ウ 以上によれば,被告は,原告の製品が,被告の製品をコピーしたものである と表現し得る場合ではないにもかかわらず,本件掲載文1ないし3において,原告\nの製品を「コピー機」と記載したものであるから,これは,虚偽の事実に当たると いうべきであるし,既に検討したところに照らし,競争関係にある原告の営業上の 信用を害する行為に当たるというべきである。
エ 被告は,本件連載が被告代表者の自伝であるという性質から,主観的であり\n価値判断を含む記載であることが考慮されるべきであって,本件ウェブページ1及 び2の全体の表現ぶりや,本件掲載文2の「当社が発明した機械ではあるが,一社\nで市場を完全に独占するのはやはり罪悪である。」,「業界の小さな“鬼っ子”にむしろ感謝している。」等の表現から,「コピー機」を作っているとする会社を否\n定的に評価するものではないと主張する。 しかし,本件連載を通じ,被告代表者がサイレントパイラーを発明したことが強\n調されており,本件ウェブページ1においても,「世界ではじめて杭圧入機を実用 化し,世の中になかった「圧入業界」をつくり」との記載がある中で,本件掲載文 2及び3においては,「平然とコピー機を製造している」,「当社の機械のコピー 機をせっせとつくっている」との表現がなされているのであるから,「コピー機」\nという表現が,被告の発明品であるサイレントパイラーの技術を,被告の権利を侵\n害し,あるいは,違法な手段で盗用・模倣したという否定的な文脈で用いられてい ることは明らかであり,この表現に接した者は,原告の製品が被告の製品の模造品や模倣品,違法な権利侵害品であるとの印象を受けるものと認められる。\n上記被告の主張を採用することはできない。
(3) 「引き抜かれた」との表現について\n
本件ウェブページ2の前半は,昭和58年頃,被告の取引先の一つが会社更生手 続開始決定を受けたことをきっかけに,被告代表者が被告の営業担当者に対して社\n外への外出を禁止するという措置を執り,これに反発した営業幹部の多くが退職し, その一部は「件の会社」に引き抜かれたというものであり,被告代表者の措置に反\n発した営業幹部の退職が先行し,引抜きにより退職したとするものではない。 しかしながら,本件ウェブページ1の記載を前提に本件ウェブページ2を見た場 合,本件掲載文3の「当社の機械のコピー機をせっせと作っている件の会社」は土 佐機械工業又はその事業を承継した原告と解されることは前記認定のとおりである し,「コピー機をせっせと作っている件の会社」という否定的表現の中で「引き抜\nかれた」という表現が用いられれば,これに接する者は,土佐機械工業又は原告が,\n違法,不当な手段を用いて,被告の従業員を転籍させたとの印象を抱くものと解さ れる。 本件において,昭和58年1月31日付けで退職した被告の従業員が,土佐機械 工業に転職したとの事実は認められないし,土佐機械工業又は原告が被告の従業員 に対して違法・不当なはたらきかけをしたという事実も認められないから,被告が,本件掲載文3に「件の会社に引き抜かれた」と記載したことは,競争関係にある原 告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知したことになる。

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