2017.11. 7
秘密管理性を満たしていないとして、営業秘密とは認定されませんでした。
本件得意先・粗利管理表(甲9)につき,原告は,原告代表\者のパソコ\nン内に入れられており,他の従業員はアクセスできない状態であったので,
秘密として管理されていたと主張する。
しかし,被告・被告会社代表者甲は,本件得意先・粗利管理表\について
も従業員のパソコンからアクセスすることができたと供述しており,従業\n員全てがアクセスすることができないような形で同管理表が保管されてい\nたことを客観的に示す証拠はないから,上記原告の主張は採用できない。
また,原告は,本件得意先・粗利管理表を印刷したものを定例会議の際\nの資料として配布していたが,その際には「社外持出し禁」と表示した書\n面(甲16の1枚目)とともに配布したと主張する。
しかし,被告・被告会社代表者甲は,本件得意先・粗利管理表\につき打
ち合わせの際などに紙媒体で渡されたことはあるが,「社外持出し禁」と
表示した書面とともに本件得意先・粗利管理表\が配布されたことはないと
供述しており,定例会議が開催された際に本件得意先・粗利管理表が「社\n外持出し禁」などの表示が付された甲16の1枚目と同様の書面とともに\n従業員に配布されていたことを裏付ける証拠はないから,上記原告の主張
は採用できない。かえって,本件得意先・粗利管理表(甲9)自体には\n「社外持出し禁」などの表示が一切付されていないことからすると,本件\n得意先・粗利管理表は,定例会議などの打ち合わせの際に,「社外持出し\n禁」という表示を付すことなく,配布されていたと認めるのが相当である。
ウ 以上によれば,本件機密情報が記載された本件得意先・粗利管理表,本\n件規格書,本件工程表,本件原価計算書は,いずれも,原告において,そ\nの従業員が秘密と明確に認識し得る形で管理されていたということはでき
ない。
これに対し,原告は,原告のような小規模な会社においては,その事業遂
行のために取引に関する情報を共有する必要があるから,従業員全てが機密
情報に接することができたとしても,秘密管理性が失われるわけではないと
主張する。しかし,原告における本件機密情報の上記管理状況によれば,原
告の会社の規模を考慮しても,同情報が秘密として管理されていたというこ
とはできない。
また,原告は,従業員全員から入社時において業務上知り得た情報を漏え
い,開示しない旨の誓約書兼同意書を徴求していた上,原告代表者は,会議\nの際などに本件機密情報を漏えい,開示してはならないことを従業員に伝え
ていたと主張する。しかし,従業員全員から秘密保持を誓約する書面の提出
を求めていたとの事実は,本件機密情報が秘密として管理されていなかった
との上記認定を左右するものではなく,また,原告代表者が定例会議等の際\nに本件機密情報を漏えい,開示してはならないと従業員に伝えていたとの主
張を客観的に裏付けるに足る証拠はない。
エ したがって,本件得意先・粗利管理表,本件規格書,本件工程表\,本件
原価計算書に記載された情報は,被告甲が秘密保持義務を負う機密情報に
は当たらない。
◆判決本文
準拠法なども争点となりましたが、そもそも不競法2条6項の営業秘密には該当しないと判断されました。
前記前提事実等のとおり,本件文書1は,原告製品の製品概要,
仕様等が記載された16丁の書面であり,また,本件文書2は,表紙はなく,原告\n製品の露光に関する内容(光源の配置,露光量に関するシミュレーション等)が記
載された4丁の書面であって,いずれも原告が中国企業に対して原告製品を販売す
る目的で台湾の代理店及び中国企業に提供したものと認められる。また,その内容
も,被告が自社の製品に取り入れるなどした場合に原告に深刻な不利益を生じさせ
るようなものであるとは認められない。そして,被告は,原告の競合企業であり,
同様の営業活動を行っていたものであるから,被告が営業活動の中で原告が営業し
ている製品の情報を得ることは当然に考えられるのであり,その一環として,本件
各文書を取得することは不自然とはいえず,被告が通常の営業活動の中で取得する
ことは十分に考えられるものである(なお,原告は,競合他社の情報について開示\nを受けること自体が異常事態であり,競争者が少ない光配向装置メーカーの業界で
は殊更異常と認識すべきであるとも主張するが,競争者が少ないからこそ,他社の
製品に関する情報に接する機会が多いという側面も考えられるのであるから,原告
の上記主張は,直ちには採用することができない。)。
(2)また,原告と被告が競業関係にあるとしても,原告が取引先との間で本件各
文書に関する秘密保持契約を締結したか否か,本件各文書に記載された内容が取引
先の守秘義務の対象に含まれるか否かについて,被告が直ちに認識できたとは認め
られないし,本件各文書のConfidentialの記載をもって,直ちに契約
上の守秘義務の対象文書であることが示されているものともいえない。
(3)したがって,被告が本件各文書を取得した時点で,守秘義務違反による不正
開示行為であること又は不正開示行為が介在したことを疑うべき状況にあったと認
めることはできず,被告に不競法2条1項8号所定の重大な過失は認められない。
◆判決本文
不競法9条の「相手方から入手した秘密情報」には該当しないとして、控訴人(一審原告)の請求を棄却しました。
(1)ア 控訴人は,被控訴人による本件秘密情報の使用が本件契約9条2項に違
反すると主張するところ,同条項で目的外使用が禁止されるのは「相手方から入手
した秘密情報」であるから,まず,本件秘密情報が(被控訴人が)控訴人から入手
した秘密情報に当たるかを検討する。
イ 前記認定事実によれば,控訴人代表者は,前職の常光勤務当時から,金\nコロイドイムノクロマト法による各種診断薬の輸入販売等に従事したほか,病院等
に勤務する共同研究者らと共に,イムノクロマト法による血清フェリチン迅速測定
法の研究を行い,既に平成17年9月には同研究についての学会報告を行っていた
ことが認められる。そして,控訴人代表者が設立した控訴人が,平成19年には生\n研との間で同社による検査薬及び機器の研究開発等のコンサルタントを引き受ける
旨の研究開発コンサルタント等契約を締結する一方,被控訴人は,平成22年8月
には生研との間で金コロイドイムノクロマト法を用いるPOCT(Point R
eader)機器試薬の研究開発についての共同開発契約を締結し,同年9月には
控訴人との間で同社に対し上記機器の基本プログラム開発等を委託する旨の開発委
託契約を締結し,平成23年6月には控訴人との間で同社に対し本件事業に関する
コンサルタント,同社が保有するノウハウの提供等の業務を委託する旨の本件旧契
約を締結し,同年9月には控訴人との間で同社に対し上記POCTについて糖化ヘ
モグロビン測定キットに対応する専用診断薬の開発(本件開発)を委託することを
目的とする本件開発委託覚書を締結したことが認められる。
これらの事実によれば,控訴人及び被控訴人においては,金コロイドイムノクロ
マト法による血清フェリチンの測定機器及び診断薬の開発について,控訴人代表者\nが最も豊富な知識と経験を有していたものであり,金コロイドイムノクロマト法に
よる血清フェリチン試薬であるPSフェリチン500及びPSフェリチン100の
開発に当たっても,これに従事した控訴人及び被控訴人の従業員の中で,控訴人代
表者が中心的な役割を果たしたものと推認することができる。\nしかしながら,控訴人と被控訴人との間において,PSフェリチン500及びP
Sフェリチン100についての開発委託契約又は共同研究開発契約は締結されてお
らず,控訴人及び被控訴人が共に従事したPSフェリチン500及びPSフェリチ
ン100の開発に伴う知的財産権やノウハウの帰属に関する明示的な合意は見当た
らない。かえって,控訴人と被控訴人との間で締結された書面による合意では,本
件旧契約,本件開発委託覚書,本件契約のいずれにおいても,控訴人がした発明等
であっても,特許等を受ける権利やこれに基づく産業財産権の帰属については,控
訴人及び被控訴人の共有(ただし,持分は別途協議)とするものとされており,知
的財産権については控訴人及び被控訴人の共有とすることが基本的な両者の認識で
あったと窺われる。
そうすると,控訴人と被控訴人との間の合意を根拠として,PSフェリチン50
0及びPSフェリチン100の開発に伴う知的財産権やノウハウが控訴人のみに帰
属し,被控訴人がこれを使用することができないものであって,PSフェリチン5
00及びPSフェリチン100の製造手順書に含まれる本件秘密情報が,(被控訴人
が)控訴人から入手した秘密情報に当たるということはできない。
ウ また,前記認定事実によれば,PSフェリチン500及びPSフェリチ
ン100の開発に従事した被控訴人従業員(本件駐在員)は,控訴人事業所に駐在
していたものと認められるが,本件旧契約,本件契約の下で,被控訴人が金コロイ
ドイムノクロマト法を用いるPOCT(Point Reader)機器及びその
専用試薬を商品化し販売を促進していくという本件事業を行うために,人材が十分\nでない控訴人従業員と共に開発に従事したものと認められ,本件駐在員に対する指
揮命令権が控訴人にあったとは認められないし,控訴人のために労働に従事させて
いたとも認められない。前記イのとおり,上記開発の現場において,金コロイドイ
ムノクロマト法による血清フェリチンの測定機器及び診断薬の開発について最も豊
富な知識と経験を有していたのは控訴人代表者であったことからすれば,控訴人代\n表者が,本件駐在員に対し,上記開発において行う個別具体的な実験や作業につい\nて指示を行うことが少なからずあったことが推認されるものの,そのような現場に
おける個別具体的な作業の指示が控訴人の本件駐在員に対する指揮命令権を直ちに
基礎付けるものということはできないし,控訴人も自認するとおり,本件駐在員で
あったC,Dらは,デザインレビューという名目で,たびたび被控訴人事業所に呼
び出されて説明を求められたことがあったほか,Cは,被控訴人の上司から控訴人
代表者とのディスカッションで決まった実験内容に即して今後の開発行為を進める\nように指示を受けていたのであり(甲88),控訴人事業所駐在前と同様に,被控訴
人の指揮命令権になお服していたことが認められる。
そうすると,本件駐在員が派遣労働者として,控訴人のためにPSフェリチン5
00及びPSフェリチン100の開発に従事したものとはいえないから,本件駐在
員が派遣労働者であることを根拠として,PSフェリチン500及びPSフェリチ
ン100の開発に伴う知的財産権やノウハウが控訴人のみに帰属し,被控訴人がこ
れを使用することができないものであって,PSフェリチン500及びPSフェリ
チン100の製造手順書に含まれる本件秘密情報が,(被控訴人が)控訴人から入手
した秘密情報に当たるということはできない。
エ 以上によれば,本件秘密情報が(被控訴人が)控訴人から入手した秘密
情報に当たるということはできないから,その余の点を判断するまでもなく,被控
訴人の本件秘密情報の使用が本件契約9条2項に違反する旨の控訴人の主張は,理
由がない。
◆判決本文
◆原審はこちら。平成26(ワ)22625
靴の木型について、営業秘密の3要件について満たしていると判断されました。
前記1(1)で認定した事実によると,1)原告においては,従業員から,原告に関す
る一切の「機密」について漏洩しない旨の誓約書を徴するとともに,就業規則で「会
社の営業秘密その他の機密情報を本来の目的以外に利用し,又は他に漏らし,ある
いは私的に利用しないこと」や「許可なく職務以外の目的で会社の情報等を使用し
ないこと」を定めていたこと,2)コンフォートシューズの木型を取り扱う業界にお
いては,本件オリジナル木型及びそのマスター木型のような木型が生命線ともいう
べき重要な価値を有することが認識されており,本件オリジナル木型と同様の設計
情報が化体されたマスター木型については,中田靴木型に保管させて厳重に管理さ
れていたこと,3)原告においては,通常,マスター木型や本件オリジナル木型につ
いて従業員が取り扱えないようにされていたことを指摘することができる。これら
の事実に照らすと,本件設計情報については,原告の従業員は原告の秘密情報であ
ると認識していたものであり,取引先製造受託業者もその旨認識し得たものである
と認められるとともに,上記1)の誓約書所定の「機密」及び就業規則所定の「営業
秘密その他の機密情報」に該当するものとみられ,原告において上記1)の措置がと
られていたことは秘密管理措置に当たるといえる。
なお,原告における木型の管理状況に関し,被告三國らは,原告は,原告の事務
所内やその裏口の屋外に木型を放置していたことがしばしばあり,また,原告の従
業員が,被告三國が貸与を受け返却した木型について特段の管理を行っていた事実
もないなどと主張し,被告Aiもこれに沿った供述等をする。しかしながら,証拠
(甲60,原告代表者〔7〜8頁〕)及び弁論の全趣旨によれば,原告の事務所の\n屋外に置かれていた木型は,原告が,開発段階で没にした木型を廃棄前に置いてい
たにすぎないものと認められる。また,前記1(1)イで認定したとおり,原告におい
ては,中田靴木型からの納品書のほか,木型番号,サイズ及び台数を記載した木型
台数管理表で,木型の台数等を管理していたことなどに照らすと,被告Aiの上記
供述等によって直ちに上述の秘密管理性を否定することはできず,他に,秘密管理
性を否定するほどの事情もうかがわれない。
以上によれば,本件設計情報は,秘密として管理されていたものというべきであ
る。
イ 非公知性について
前記1(1)で認定した事実によると,本件オリジナル木型及びそのマスター木型自
体を一般に入手することはできなかったものと認められるが,被告三國らは,市販
されている本件原告婦人靴から,その靴に用いた木型を再現して本件設計情報(形
状・寸法)を容易に把握することができる旨主張し,その証拠として,パテを流し
込んで再現木型を作成したとする乙A第7・第8号証を提出する。
しかしながら,前記1(1)イで認定したとおり,靴の皮革は柔軟性を有するため,
市場に出回っている革靴から,その靴の製造に用いた木型と全く同一の形状・寸法
の木型を再現しその設計情報を取得することはできない。乙A第7・第8号証の再
現木型が元の木型と正確に同一の形状・寸法であることの立証はない上,かえって,
被告Aiの本人尋問の結果(7頁)によると,1割程度は再現できていないという
のである。さらに,被告Ai自身,別件訴訟の本人尋問において,「流通している
靴から木型を作成するのは,木型の寸法を忠実に再現しない限りは容易にできる。」
旨の供述をしており(乙A9〔15頁〕),これは,「木型の寸法を忠実に再現」
することは困難であることを自認するものといえる。
そうすると,原告主張の方法により元の木型と全く同一の形状・寸法の木型を容
易に再現することはできないというべきであり,他に,特段の労力等をかけずに本
件設計情報を取得することができるとの事情はうかがわれないから,本件設計情報
は,公然と知られていないもの(非公知)であったということができる。
ウ 有用性について
前記1(1)で認定した事実によると,本件設計情報については,コンフォートシュー
ズの製造に有用なものであることは明らかであるから,本件設計情報は,生産方法
その他の事業活動に有用な技術上の情報であったということができる。
◆判決本文