2006.08. 1
本件における顧客名簿は、不競法の営業秘密には該当しないと判断されました。
「不正競争防止法上の「営業秘密」は,「秘密として管理されている」ことを要するところ(不正競争防止法2条6項),事業者の事業経営上の秘密一般が営業秘密に該当するとすれば,従業員の職業選択・転職の自由を過度に制限することになりかねず,また,不正競争防止法の規定する刑事罰の処罰対象の外延が不明確となることに照らし,当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていること,及び,当該情報にアクセスできる者が制限されていることを要するものと解するのが相当である。本件においては,本件利用者名簿の電磁的記録情報及び紙媒体のいずれにおいても,当該情報及び媒体自体並びにその収納場所に,「部外秘」等の秘密であることを示す表示が何ら付されていない。また,事務室の扉の施錠は防犯上当然行われる事柄にすぎず,これを理由として原告社員に秘密であることが表\示されているとは到底いえない。そして,電磁的記録情報へのアクセスは,専用のパソコンを使用しているとはいうものの,パソ\コンを起動する際の簡易なパスワードが設定されているにとどまり,そのパスワードも広く社員に知られている。また,紙媒体は,施錠することなくキャビネットに保管されていて,登録ヘルパーも,担当する利用者のファイルは,サービス提供責任者の管理のもと,閲覧することができ,一部の書類は,事業所内から持ち出すことも認められていた。ところで,原告は,介護に関する事項を秘密として扱うべきことは特段の措置を講じていなくても当然に認識できることであり,また,被告両名ら原告の従業員及び登録ヘルパーは,業務上知り得た利用者又は家族の秘密を口外しない旨の雇用契約上の義務を負担し,原告は秘密保持に留意するよう指導教育を行ってきたのであるから,秘密管理性は認められる旨主張する。しかし,かかる雇用契約上の秘密保持義務や指導教育は,利用者のプライバシー保護を念頭におくものと解するのが相当であって,これによって不正競争防止法上の営業秘密性が直ちに導かれるものではなく,原告の主張は採用することができない。したがって,本件利用者名簿に記載された情報の内容や従業員らが秘密保持義務を負担していることを考慮しても,本件利用者名簿の実際の管理状況やアクセスできる者に照らせば,秘密管理性に欠け,これを不正競争防止法上の営業秘密に該当するものということはできない。」
◆平成16(ワ)25672 営業行為差止等請求事件 平成18年07月25日 東京地方裁判所