会社とプログラマーとの関係が雇用契約なのか、請負契約なのかが争われました。
概括的な記載しかない発注書では請負としての実質を備えたものとはいえないと判断されました。今回は問題になってませんが、職務発明かどうかも同様にもめそうですね。
上記認定事実を踏まえて,控訴人と被控訴人の間の契約の性質が,請負
契約であるのか,雇用契約等であるのかについて検討するに,控訴人と被
控訴人との間で締結された本件基本契約の各条項(甲1)をみる限りは,
その内容が請負を内容とするものであることは否定できないところであ
る。
しかしながら,使用者と労働者との間における労働契約の存否について
は,明示された契約の形式のみによることなく,その労務供給形態の具体
的実態に照らし事実上の使用従属関係があり,当該使用従属関係を基盤と
する契約を締結する旨の当事者間に客観的に推認される黙示の意思の合致
があるか否かにより判断されるべきものといえる。特に,本件では,被控
訴人が控訴人に現に雇用されていた状況の下で,控訴人代表者からの提案\nにより,当該雇用関係が解消され,本件基本契約の締結に至ったという経
過があるところ,一般に,労働者の立場にある者が使用者から上記のよう
な提案を受けた場合,これを容易に拒絶し難いであろうことは,推察し得
るところである。また,この時点において,被控訴人が,労働関係法令に
よって保護される労働者としての地位をあえて放棄し,リスクの高い個人
事業者の地位を選択し,控訴人との契約を請負契約に切り替えようとする
積極的な理由は認め難いのであり,これらの事情を勘案すれば,被控訴人
が真にその自由意思によって控訴人との雇用契約関係を解消し,請負を内
容とする本件基本契約を締結したと断ずることには疑問がある。してみる
と,本件においては,控訴人と被控訴人の間で本件基本契約が締結された
事実があるからといって,当該契約に規定された各条項どおりの契約が成
立したものと直ちに断ずることはできないのであり,本件基本契約の各条
項に従った請負契約の成立が認められるためには,本件基本契約締結以後
の被控訴人による労務提供の実態や報酬の労務対価性等が,それ以前の雇
用関係の下におけるものと異なっており,真に請負契約としての実質を備
えたものであることが認められる必要があるのであって,そうでない限り
は,従前と同様の雇用契約関係が継続しているものと解するのが,客観的
事実から推認される当事者間の黙示の意思に適合するものというべきであ
る。
イ そこで,上記認定事実に基づき考察するに,まず,被控訴人による労務
提供の実態をみると,業務の内容,勤務場所,勤務時間,業務遂行上の指
揮監督の状況において,本件基本契約締結の前後で格別の相違は見られな
い。また,本件基本契約締結以後の業務においては,その勤務時間からし
て,被控訴人が控訴人以外の業務を受注し得る状況にはなく,現に,その
実績もないのであり,業務の専属性は高いものといえるし,そのような状
況もあって,被控訴人が控訴人から求められた業務を断る自由(諾否の自
由)があったとは考えにくい。そのほか,本件基本契約締結以後の業務に
おいても,被控訴人が使用する主要な機材(パソコン)は控訴人所有のも\nのであり,業務上使用する名刺も控訴人の社員用のものであって,いずれ
も本件基本契約締結以前と異ならない。
他方,報酬の労務対価性に関しては,報酬の決め方や支払方法が,前記
(1) 本件基本契約締結の前後で相違していることが認められる。しかしながら,控訴人発行の発注書の記載には,「業務の内容」として,「開発業務」との概括的な記載しかなく,その対価である「委託料」についても総額が記載されるのみである。一般に,請負契約において発注書等で請け負うべき業務の内容やその対価の額を定める場合に
は,業務内容の詳細やそれに対応した対価の額の内訳を記載し,当事者間
の認識を明確化し,後の紛争防止を図るのが通常といえるのであり,これ
からすれば,上記のような概括的な記載しかない発注書によって報酬の額
を定める方法は,業務の成果と報酬との具体的な対応関係が明らかではな
く,真に請負としての実質を備えたものと評価することは困難である。む
しろ,上記発注書の記載は,「本契約の発効日」から「業務の完了期日」
まで,控訴人における「開発業務」に従事すること全般に対する対価を定
めたもの(すなわち,雇用契約上の報酬額を,それが,労働基準法の定め
に合致するかどうかはともかくとして,月々の給与としてではなく,不定
期の期間ごとに区切って,その都度定めたもの)と理解することが可能で\nあるといえる。
以上によれば,本件基本契約締結以後の被控訴人による労務提供の実態
や報酬の労務対価性等をみても,それ以前の雇用関係の下におけるものと
異なるものではなく,真に請負契約としての実質を備えたものであること
が認められるとはいえないから,控訴人と被控訴人の間の契約の性質は,
本件基本契約締結以後においても,それ以前と同様の雇用契約のままで
あったと解するのが相当である。そして,そうである以上,本件基本契約
のうち,雇用契約の性質に反する条項は,その効力を有しないものという
べきである。
ウ 他方,控訴人は,控訴人と被控訴人の間では,本件案件に係る成果物が
特定されており,被控訴人は控訴人に対し特定の成果物提出義務を負って
いた旨(すなわち,控訴人と被控訴人の間の契約は請負契約である旨)を
主張し,これを示す事情として,A社ス案件及びC社ア案件について,被
控訴人が,甲10及び11工数見積表,その前提となる詳細見積書(甲6\n6の2,67の2),それらをスケジュール化した甲12開発計画及び顧
客向けの見積試算表(甲70の2)や見積資料(甲72の2)を作成して\nいた事実を挙げる。
しかし,被控訴人が,控訴人の受注したA社ス案件及びC社ア案件につ
いて,開発責任者又はプログラマーとして開発業務に当たっていた以上,
これらの案件において想定される最終的な成果物を把握し,この点につい
て控訴人との共通認識があったことは当然のことであり,このことは,控
訴人と被控訴人の間の契約が,請負であるか,雇用であるかに関わらない
ことである。また,控訴人の要求に応じて,これらの案件に係る工数見積
表等の資料を作成することは,開発責任者等としての業務の範囲内のこと\nと考えられるのであり,このことも,控訴人と被控訴人の間の契約が,請
負であるか,雇用であるかに関わらないことといえる。
したがって,控訴人の上記主張は,控訴人と被控訴人の間の契約の性質
いかんに関わる事情を指摘するものではないから,これによって上記イの
判断が左右されるものではない。
◆判決本文
ドメインzenshin.gr.jpについて不正競争行為として、約2200万円の損害賠償が認められました。不競法5条2項により推定が一部覆滅された部分について,同条3項を適用した使用料相当額の損害賠償請求は1審と同様、認められませんでした。
一審原告は,不正競争防止法5条2項により推定が一部覆滅された部
分について,同条3項を適用して使用料相当額の損害賠償請求をするこ
とができると主張する。しかし,補正して引用した原判決「事実及び理
由」中の第4の7 及び において算定した同条2項により推定される
損害額は,平成23年12月17日から平成26年8月8日までの一審
被告の前記不正競争行為の全体によって生じた一審原告の損害(逸失利
益)額を算定したものであり,推定が覆滅された一部について改めて同
項3項による損害額を算定し,その合算額を損害額とすることは,同一
の侵害行為を二重に評価して損害額を算定することを意味するものであ
り,許されないといわなければならない。一審原告の上記主張は,採用
することができない。
◆判決本文
◆原審はこちら。平成27(ワ)2504
その他、当該ドメインを巡っては下記事件があります。
◆平成28(ネ)2241
◆この事件の原審はこちら。平成27(ワ)2505等
2017.02. 8
プログラマーに対する競業避止条項について、本件については、被告の自由を過度に制限するものとして,公序良俗に反し無効と判断されました。
前記前提事実(2)アのとおり,本件競業避止条項は,本件基本契約期間
中及びその終了後12か月間,原告の業務内容と同種の行為を被告が行う
ことを禁じるものである。そして,上記事実関係によれば,原告と被告は
継続的に被告が原告の業務を行う関係にあり,本件基本契約上,被告は原
告の営業秘密を扱ってソフトウェアの開発を行う立場にあるから,原告に\nおいては,被告がこうした営業秘密その他原告の業務を通じて得た知識を
用いることにより原告に不利益が生じることを防止する必要性があると解
される。そうすると,原告が被告に対し,原告の業務を行う期間中及び終
了後一定期間につき,本件機密保持契約上の義務に加え,被告が原告以外
のために同種の業務を行うことを禁止する旨の約定をすることは不合理で
ないということができる。一方,本件競業避止条項により,被告は営業の
自由,職業選択の自由を制限されることになり,しかも,本件基本契約は
期間が定められず,双方の同意があった場合にのみ解除されるとされるの
で(前記前提事実(2)ア),本件競業避止条項を文言どおり解した場合に
は事実上無期限に競業避止義務を負うことになりかねない。したがって,
被告が競業を禁止される期間は,原告における上記必要性の程度に応じ合
理的な範囲に限られると解するのが相当である。
このような観点からみると,本件基本契約においては発注書によって具
体的な成果物及び期間を指定して業務を発注することが予定されており,\n競業避止の範囲も発注書の規定により画されていること(前記前提事実(2)
ア 及び ),業務の完了から期間が経過するに従い被告が前記知識を用
いることによる原告の不利益が減少すると解されることに照らすと,被告
が原告の発注による業務に従事している期間及び更なる発注が見込まれる
期間は上記の必要性が存続するということができる一方,これが見込まれ
なくなったときは上記の必要性は失われると考えられる。そして,被告が
本件案件等の業務を平成25年12月29日以降行っていない上,平成2
6年1月に原告事務所のカードキーを原告側に返却したこと(前記(3)ア
),原告が同年11月に被告に対して仮処分命令の申立てをしたこと\n(前記前提事実(4))を勘案すると,遅くとも原告が本件訴訟を提起した平
成27年6月(当裁判所に顕著)には上記の必要性が失われたとみるべき
である。そうすると,本件競業避止条項は,現時点において,被告の自由
を過度に制限するものとして,公序良俗に反し無効であると解するのが相
当である。
ウ これに対し,原告は,取引関係が当事者の合意によって終了すれば本件
基本契約も解約されるから,本件競業避止条項は期限が付されており,公
序良俗違反に当たらないと主張するが,以上に説示したところに照らし,
失当というべきである。
◆判決本文