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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

肖像権等

令和4(ワ)7920 損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年8月25日  東京地方裁判所

 動画タイトルに被告Aの氏名を用いたYouTube動画が、被告AのGoogleへの申し立てで削除されました。原告は、著作権侵害ではないのに、著作権侵害申\し立てフォームで申し立てを行い、かつ原告への通知をしなかったとして、損害賠償を求めました。裁判所は、顧客吸引力等を利用するパブリシティ権侵害であることは明確として、請求を棄却しました。

他方、作成した動画をユーチューブに投稿し、これを公開して広くその内容 を伝える行為は、投稿者が行う表現活動や事業活動に関わり得るものであって、\nその動画が削除されることで表現活動や事業活動が制限され、投稿者の法律上\n保護される利益が害される場合があるといえる。ユーチューブの利用について は、上記の規約があり、また、グーグルには著作権侵害についての前記のポリ シーがあるところ、権利侵害の通知を行う者が著作権侵害がないにもかかわら ず侵害がされているという情報をグーグルに通知して、それによってグーグル が動画を削除した場合、権利侵害がないにもかかわらず動画を削除されるに至 った者は、本来動画を削除される理由がなくそれが削除され法律上保護される 利益を害されたといえる場合があるといえる。これらによれば、グーグルに対 して権利侵害の通知を行うことは、その内容や態様により、投稿者の法律上保 護される利益を害する違法な行為となる場合があるといえる。
本件通知は、著作権侵害を通知するためのフォームであり、フォームで用意 されていた文言である「私は侵害された著作権の所有者、または当該所有者の 正式な代理人です。」「私は、申し立てが行われたコンテンツの使用が、著作権\nの所有者、代理人、法律によって許可されていないことを確信しています。」と いう記載があり、また、フォームで用意された「著作権者名」、「著作権対象物 のタイトル」についてもそれぞれ記載している。
もっとも、「権利を侵害された作品についての説明」について「その他」とし た上で、「公演の種類」を「氏名」とし、「著作権対象物のタイトル」を「A(ひ らがな併記)」としている。そして、「補足情報」として、権利侵害の内容とし て「パブリシティ権侵害」と明記した上で、「顧客吸引力、宣伝、広告収益目的 のためにタイトルに無断で氏名を使用し、経済的利益を害している。」と記載 している。これらの記載のうち「著作権対象物のタイトル」が人の氏名そのも のであることは明らかであり、「公演の種類」が「氏名」であることや「補足情 報」の記載内容から、これらの記載は、「著作権者名」とされる、Aの氏名その ものを、対象動画のタイトルに用いることで、同人のパブリシティ権を侵害し たと通知していると理解できるものである。
被告Aは、著作権侵害の通知のフォームを利用して本件通知をしたところ、 そのフォームでは、「著作権者名」や「著作権対象物のタイトル」に記入する欄 があり、また、通知をする者が著作権者やその代理人であることなどを表明す\nる定型の文言があるため、上記各欄の記載やその定型の文言が本件通知に含ま れることとなっている。しかし、「著作権対象物のタイトル」や「補足情報」の 上記のような記載からすれば、被告Aは、ユーチューブにおいてパブリシティ 権侵害の通知をする専用のフォームがあったとは認められない状況において、 本件動画のタイトルに被告Aの氏名を用いたことがパブリシティ権侵害である ことを通知する意図で、本件通知をグーグルに送付したと認められる。
本件で、原告は、本件通知は本件動画が通知者の著作権を侵害されている旨 の通知をするものであり、通知者である被告Aには、著作権侵害の有無を事前 に確認する義務があったにもかかわらず、被告Aは、これを怠って原告が著作 権を侵害している旨の虚偽の通知をしたことを請求の原因として主張する。 しかし、ユーチューブにおいてパブリシティ権侵害の通知をするフォームが あったとは認められない状況において、前記 のとおり、被告Aは、本件動画 のタイトルに被告Aの氏名を用いたことが被告Aの顧客吸引力等を利用する パブリシティ権侵害であることを通知する意図で、その旨の記載をするなどし て、本件通知をグーグルに送付したと認められる。そして、本件通知は、著作 権侵害の通知をするフォームを利用したことに伴う記載はあるが、著作権対象 物のタイトルとして氏名のみが記載され、その補足情報の記載が上記のような ものであることからすると、通知者が自らの氏名が対象動画のタイトルに利用 されていることによるパブリシティ権侵害があると通知するものであると理 解できるものである。
前記のとおり、ユーチューブにおいて、グーグルに対し権利侵害の通知を行 うことは、その内容や態様により、投稿者の法律上保護される利益を害する違 法な行為となる場合があるといえる。原告は、本件の請求の原因を上記のとお り主張して被告Aが著作権侵害の有無を調査すべき義務があったと主張する ところ、本件通知の内容や態様が上記のようなものであったことに照らせば、 通知者である被告Aに原告が主張するような著作権侵害の有無を事前に確認 する義務があったとは認められず、同義務違反により原告の法律上保護された 利益が侵害されたことを理由とする原告の請求には理由がない。 なお、グーグルは、本件通知に基づき本件動画を再生できないようにしたが、 被告Aに原告が主張する義務があったとはいえず、被告Aに原告が主張する義 務違反行為があったとは認められないから、同事実は、上記判断を左右するも のではない。

◆判決本文

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令和5(ネ)10025 損害賠償請求控訴事件  その他  民事訴訟 令和5年9月13日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 パブリシティの権利侵害で1審では、各人、数万円の損害賠償でしたが、20万円程度に変更されました。

ウ 以上によると、控訴人らは、本件グループのファンクラブの関係者やファン の混乱を招いたり、迷惑をかけたりすることを防ぐため、被控訴人に対し、同ファ ンクラブの閉鎖時期を、課金システム上の理由から同ファンクラブの会員サービス の課金を停止して同会員サービスの提供を終了することができる時期まで延期する ことについて黙示の許諾をしたと認められ、また、同ファンクラブが存続する限り は、会費を支払った会員に対し、本件グループのメンバーや活動内容等を紹介する 記事を閲覧させるために、本件ファンクラブサイト及び本件ファンクラブサイトに リンクする本件被告サイトにも控訴人らの肖像等を掲載する必要があったといえる ことからすると、控訴人らは、本件ファンクラブサイトの閉鎖が可能となる時期まで、本件被告サイト及び本件ファンクラブサイトに控訴人らの肖像等が掲載されることについても黙示の許諾をしていたと認められる。\n
他方、前記イ2)のとおり、控訴人らは、平成31年4月24日付けの書面におい て、被控訴人に対し、被告が管理するウェブサイトから控訴人らの肖像等を削除す るように求め、また、訂正して引用する原判決第3の1(7)のとおり、控訴人らが、 令和元年8月1日頃、東京地方裁判所に対して被控訴人を相手方として申し立てた仮処分申\立書において、「令和元年8月1日現在も、債務者管理の債権者らグループの旧ホームページが存在しており、契約終了以降も債権者らの肖像権が侵害され続 けている。…そのため、現在も債務者管理の旧ホームページが存在していること自 体も、債権者らの活動の妨害となるといえる。」と記載しており、本件専属契約が終 了したにもかかわらず、被控訴人がホームページ等で控訴人らの肖像等を使用し続 けることに負担を感じていたことなどに照らすと、前記イ4)の控訴人らから被控訴 人に対するファンクラブを閉鎖する旨の告知を延期する旨の通知は、控訴人らが、 課金システムにおける課金停止時期との兼ね合いで、関係者やファンたちのことを 考え、控訴人らにおいて、本件ファンクラブサイトの閉鎖が可能となる時期まで、やむなくファンクラブの閉鎖の時期を延期し、それに伴い本件被告サイト及び本件ファンクラブサイトに控訴人らの肖像等が掲載されることとの限りにおいて黙示の\n許諾をしたものと認められるが、そのようなやむを得ない事情を超えて、控訴人ら において、本件専属契約終了後も、被控訴人が、本件グッズ販売サイトにおいて、 本件グループの公式ショップとして、控訴人らの肖像写真を表示した上で、控訴人らの肖像写真及び控訴人らの肖像等が転写されたグッズを撮影した写真を掲載するとともに当該グッズを販売し続けることを許諾していたと認めるに足りる合理的な\n理由はなく、また、同許諾をうかがわせる事情の存在も認められず、同許諾を認め るに足りる証拠は存在しない。
エ 控訴人らは、被控訴人が、本件専属契約終了後において、控訴人らの肖像等 を利用した目的は、控訴人らの活動を妨害することにあったものであり、被控訴人 による控訴人らの肖像等の利用態様及び目的は不当なものであって、被控訴人が控 訴人らの肖像等を使用する必要性や相当性があったとはいえない旨を主張する。し かしながら、前記ウのとおり、控訴人らも、本件専属契約終了後において、本件フ ァンクラブサイトの突然の閉鎖に伴う混乱を回避する必要があると考えていたこと、 また、少なくともファンクラブが存続する限りはその会費を支払った会員に対し、 本件グループのメンバーや活動内容等を紹介する記事を閲覧させるため、本件ファ ンクラブサイトのみならず、当該サイトに導く機能を有する本件被告サイトにも控訴人らの肖像等を掲載する必要があったことが認められることからすると、被控訴人による令和元年11月30日までの本件被告サイト及び本件ファンクラブサイト\nにおける控訴人らの肖像等の使用につき、控訴人らの黙示の許諾の下で行われたも のといえるから、これらのサイトにおいては、被控訴人が控訴人らの肖像等を使用 する必要性や相当性があったとはいえないとの控訴人らの上記主張は採用できない。 また、控訴人らは、控訴人らが被控訴人を相手方として申し立てた地位保全仮処分命令申\立事件の申立書において、控訴人らの活動が妨害されるおそれがあるとして、「令和元年8月1日現在も、債務者管理の債権者らグループの旧ホームページが\n存在しており、契約終了以降も債権者らの肖像権が侵害され続けている。」などとの 記載をしていたことをもって、控訴人らの肖像等の掲載を黙示に許諾していたとは いえない旨を主張する。しかしながら、同記載は、本件専属契約の6条及び9条(5) に係る約定が無効であることなどの仮の確認を求める地位保全等仮処分の申立ての主張の一環として記載されているにとどまり、このような事実をもって、同年11月30日までの間、会員向けサービスの提供及び本件被告サイトにおける情報提供\nがされる旨が告知されていたことに対して、控訴人らが、被控訴人に対し、本件被 告サイト及び本件ファンクラブサイトの閉鎖時期に関して特段の異議を述べたとま では評価できず、控訴人らの上記主張は採用できない。
オ 被控訴人は、本件専属契約終了後に、本件グッズ販売サイトにおいて控訴人 らの肖像等を利用したことについても、飽くまで会費を支払ったファンクラブ会員 に対してグッズの在庫を販売するためのものであり、控訴人らの肖像権等の侵害に ならないと主張する。しかしながら、前記アのとおり、控訴人らの肖像権等の使用 に関する約定がされた本件専属契約が終了し、かつ、本件専属契約には契約終了後 の同使用の取扱いに関する約定がないのであるから、控訴人らから被控訴人に対し て別に同使用についての許諾がない場合には、被控訴人による控訴人らの肖像等の 使用は無権原者による使用となるものであって、たとえ本件専属契約中に製造され たグッズを販売するものであり、被控訴人が在庫をさばくために製造済みの同グッ ズを販売して投下資金を回収しようとしたものであったとしても、本件専属契約終 了後には、控訴人らと被控訴人間において何らの取決めがない以上、本件グッズ販 売サイトにおいて控訴人らの肖像等を利用し、控訴人らの肖像等が転写されたグッ ズを販売できるものではない。
カ そして、控訴人らは本件グループのメンバーとして、訂正して引用する原判 決第2の2(2)ウのとおり、アーティスト活動を行っていること、被控訴人において グッズ販売による利益を得ることを目的としていたこと、被控訴人は、本件グッズ 販売サイトにおいて、本件グループの公式ショップとして、控訴人らの肖像写真を 表示した上で、控訴人らの肖像写真及び控訴人らの肖像をイラスト化した画像を転写したグッズを撮影した写真を掲載して、当該グッズを販売していたこと、被控訴人は、控訴人らからの肖像等の使用停止を求める要求があることを知りながら、本\n件専属契約終了後から令和3年12月31日までの相当長期間、控訴人らの許諾な く利用し続けたものであることなどを総合考慮すると、これらは控訴人らの肖像権 等の侵害となるものであって、被控訴人による控訴人らの肖像権等の侵害が社会生 活上受忍の限度を超えるものではないとすることはできない。
(3) 小括
したがって、本件専属契約終了後から令和元年11月30日までの間、被控訴人 が本件被告サイト及び本件ファンクラブサイトにおいて控訴人らの肖像等を掲載し た行為は、不法行為法上違法と評価すべきものとはいえない。他方、本件専属契約 終了後から令和3年12月31日までの間、被控訴人が本件グッズ販売サイトにお いて控訴人らの肖像等を掲載し、控訴人らの肖像等が転写されたグッズを販売した 行為は、不法行為上違法と評価すべきものといえる。
・・・
6 争点4(損害の有無及びその額)について
(1) 控訴人らの肖像権等の侵害による損害について
前記2(2)のとおり、令和元年7月14日以降令和3年12月31日までの2年 5か月18日間という相当の長期間、継続して、被控訴人が本件グッズ販売サイト において本件グループの公式ショップとして控訴人らの肖像等を掲載した行為によ り、控訴人らの意思に反して、控訴人らの肖像等が利用されていたものであり、控 訴人らは精神的な苦痛を受けたものと推認されるところ、その慰謝料は、控訴人ら の本件専属契約終了までの活動内容(訂正して引用する原判決第2の1(2)ウ)、控 訴人らの肖像等の使用が本件グッズ販売サイト及び販売グッズにおける利用という 営利目的によるものであったこと、上記の侵害態様や侵害期間などを考慮すると、 控訴人らそれぞれについて15万円を下らないと認めるのが相当である。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和元年(ワ)30204

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令和3(ワ)11118  損害賠償等請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年1月26日  東京地方裁判所

ゲーム内のキャラクターを性玩具に見立てた内容等の記載された同人誌を頒布したことなどが、原告らの名誉を毀損すると共に、原告らのパブリシティ権、肖像権及び名誉感情を侵害するかが争われました。裁判所は、合わせて440万円の損害賠償およびマスクの廃棄などを認めました。

本件同人誌は、本件ゲームの愛好者向け同人誌即売会である本件即売会に おいて販売された同人誌である。その内容も、本件ゲームそれ自体とは異な り、本件キャラクターを性玩具として扱うなどの本件キャラクター描写のよ うな卑猥なイラストやストーリーを含む漫画を主な内容とし、全体としては、 本件ゲームないし本件キャラクターを揶揄する趣旨も含むものと理解される。 しかも、本件同人誌は、随所に原告A個人を揶揄する趣旨のものと理解され るイラストや文言による描写をも含む。本件クレジット表記に「TwiFemis」 として 3 つのツイッターアカウントが挙げられているところ、この語がツイ ッター上でフェミニズムに関する言動を展開する人々又はその現象を指すイ ンターネットスラングであることに鑑みても、本件同人誌は、本件クレジッ ト表記に表\記された者を揶揄する趣旨を強く含むものであることがうかがわ れる。
このような本件同人誌の性質及び内容に鑑みると、一般的な読者の注意と 読み方を基準とした場合に、本件ゲームの制作者である原告らが本件同人誌 の制作に協力したと理解されるとは考え難く、また、本件ゲームの設定が本 件同人誌の内容に沿うものと理解されるともいい難い。 しかし、他方で、本件ガイドラインの内容がやや抽象的なものであり、本 件ゲームに係る二次創作作品が本件ガイドラインにより許容される範囲が必 ずしも明確でないことを併せ考慮すると、上記基準によっても、本件同人誌 の頒布という行為それ自体をもって、このような内容の二次創作作品が本件 ガイドラインにより許容される範囲内に含まれ、許容されるものであるとい う判断を原告会社が行ったという事実を摘示するものと理解されることは合 理的にあり得る。しかも、「SPECIAL THANKS」として本件クレジット表記\nに原告らの名称が明記され、原作として本件ゲームの名称が記されているこ とは、このような理解を強めるものといえる。 この場合、原告会社は、自ら管理するコンテンツである本件キャラクター に対する愛着や敬意の乏しい企業として、その社会的評価が低下すると見る のが相当である。また、原告Aについても、本件ゲームのプロデューサーと して本件ゲームのユーザーの間では著名な人物であることなどに鑑みると、 原告会社とは別に個人としての社会的評価が同様に低下すると見られる。 このことは、本件店舗描写に関しても同様である。
(3) 小括
以上の事情に鑑みると、一般的な読者の普通の注意と読み方を基準とすれ ば、本件キャラクターに対する卑猥な描写をその内容とすると共に、クレジ ット表記に「SPECIAL THANKS」と付して原告らの名称等を記載した本件同 人誌を頒布する行為及び本件店舗描写は、原告らそれぞれの名誉を毀損する ものといえる。これに反する被告の主張は採用できない。
2 本件同人誌の頒布、本件マスクの着用等による原告Aのパブリシティ権侵害 の成否(争点 1-2)について
原告Aは、被告が本件マスクを着用しながら本件同人誌を頒布した行為及び 本件同人誌に本件マスクの写真を掲載した行為につき、原告Aのパブリシティ 権侵害を主張する。肖像等を無断で使用する行為については,1)肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,2)商品等の差別化を図る目的で肖像等を商 品等に付し,3)肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有す る顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害する ものとして,不法行為法上違法となる(最高裁判所平成 24 年 2 月 2 日第一小 法廷判決・民集 66 巻 2 号 89 頁参照)。
本件の場合、そもそも、原告Aが本件ゲームの愛好者等の間で著名であると しても、そのことから直ちに同原告の肖像等に顧客吸引力があることにはなら ないところ、この点について、同原告は何ら具体的な主張立証をしない。 この点を措くとしても、本件マスクは、原告Aの写真を顔面に着用できるよ うに山型に湾曲させただけの粗雑な作りのものにすぎない。そのため、本件マ スクやこれを撮影した写真は、同原告の肖像の写真(甲 10)とは相応に異なる 印象を与えるものであり、同原告の肖像それ自体を独立して鑑賞の対象とする 目的で作成されたものとはいい難い。また、本件同人誌における本件マスクの 写真は全 頁程度のうちの 8 頁目にのみ掲載されている(甲 5)。しかも、同 頁の本件マスクの写真は、「本邦初公開!これが【神】のリアルマスクだ――\―\nッ!」との宣伝文句と共に、「古来より人は儀式や祭礼に際し、自らに神格を宿 すために仮面をまとったという・だとすれば神である(省略)のマスクが作ら れるのは人間心理の必然的帰結であろう。」との説明文の記載と共に掲載され ており、これらは、本件同人誌の本編である漫画の内容と直接的には無関係に、 主に原告Aを揶揄する文脈で掲載されているものと理解される。これを踏まえ ると、本件即売会での本件同人誌の頒布にあたり被告が本件マスクを着用して いた点についても、同様に原告Aを揶揄する趣旨で行われたものと理解するの が相当である。
また、本件 3 コマ漫画における原告Aの氏名は、その素材となった別作品の 宣伝用画像(甲 148)の構図に擬して作成した最終コマに表\示されたものであ り、著作者として表示されたものとは理解し得ないと共に、当該コマの上部に\n小さく配置されているに過ぎないこともあって、原告Aの氏名の顧客吸引力の 利用を目的としたものとはいい難い。 そうすると、本件マスクの写真の掲載及び本件即売会での本件同人誌頒布時 における着用並びに本件 3 コマ漫画の氏名の記載は、上記1)〜3)のいずれにも 当たらず、その他専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる 場合に当たるとは認めるに足りない。 したがって、これらの行為は原告Aのパブリシティ権を侵害する違法なもの とはいえない。この点に関する原告Aの主張は採用できない。
3 本件同人誌の頒布、本件マスクの着用等による原告Aの肖像権及び名誉感情 の侵害の成否(争点 1-3)について
(1) 肖像権侵害の成否
人はみだりに自己の容貌,姿態を撮影されないことについて法律上保護さ れるべき人格的利益を有するところ,ある者の容貌,姿態をその承諾なく撮 影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位, 撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮 影の必要性等を総合的に考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会 生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決せられる (最高裁平成 17 年 11 月 日第一小法廷判決・民集 59 巻 9 号 2428 頁参照)。 撮影された写真が雑誌等に掲載されるなどして公開された場合も,同様の判 断枠組みが妥当すると考えられる。 前記 2 のとおり、本件マスクは、原告Aの写真を粗雑な方法で加工したも のであり、原告Aの肖像の写真(甲 10)とは相応に異なる印象を与えるもの ではある。しかし、本件同人誌では本件マスクが原告Aの「リアルマスク」 と紹介されていること、原告Aが本件ゲームの愛好者等の間で著名であるこ と等の事情に照らすと、被告が本件マスクの写真が掲載された本件同人誌を 本件マスクを着用しながら頒布した行為は、原告Aの写真を無断で公開した 場合と同様に理解することができる。また、本件同人誌の内容、とりわけ本 件マスクの紹介の仕方等に照らすと、被告は、専ら原告Aを揶揄する目的で 本件マスクを作成し、これを着用の上、その写真を掲載した本件同人誌を頒 布したといえる。
以上のような写真の使用目的及び使用態様等に照らすと、本件マスクに係 る被告の各行為は、自己の容貌等の写真をみだりに公開されないことについ ての原告Aの人格的利益を侵害し、その侵害が社会生活上受忍すべき限度を 超えるものというべきであり、不法行為法上違法と認めるのが相当である。 これに反する被告の主張は採用できない。
(2) 名誉感情の侵害
前記のとおり、被告は、専ら原告Aを揶揄する目的で本件マスクを作成し、 これを着用の上、本件即売会にて本件同人誌を頒布した。加えて、本件同人 誌には、原告Aと同定される男性イラストに係る本件男性イラスト描写が掲 載されている(前提事実(3))。また、本件店舗描写についても、本件同人誌の 他の記載と合わせると、「(省略)」などの記載は原告Aを指すことが明確に理 解される。このような被告の行為は、原告Aに対する社会通念上許される限度を超える 侮辱行為であり、原告Aの人格的利益(名誉感情)を侵害する違法なものとし て、不法行為に当たるとするのが相当である。これに反する被告の主張は採用 できない。
4 本件ツイートによる原告らの名誉毀損の成否(争点 2)について
(1) 本件店舗に関する投稿について
被告は、別紙 4 投稿目録(4)のとおり、原告会社の運営する本件店舗を「キ ャバカレー」、「派遣型風俗キャバカ〇ー機関」などと呼んだ上、「キャバカレ ー」が違法風俗店として摘発され、セクキャバ「キャバカレー」経営者であ る「(省略)」が風営法違反の疑いで逮捕されたという内容の画像を、実在す るニュース映像風の画像のように表現して投稿した(前提事実(2)ア)。 一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、被告の上記各投稿は、 原告会社の経営する本件店舗が「違法風俗店」として捜査機関により摘発さ れ、原告Aと同定される者が風営法違反の疑いで逮捕されたという事実を摘 示したものと理解される。これにより、上記各投稿は、これを閲覧した者に おいて、原告らが違法な風俗店を経営し、その代表者である原告Aが逮捕さ\nれたという印象を与えるものであって、原告らの社会的評価をいずれも低下 させるものといえる。 したがって、被告の上記各投稿は、原告らそれぞれの名誉を毀損するもの であり、原告らに対する不法行為に当たると認められる。これに反する被告 の主張は採用できない。
・・・
以上のとおり、被告による本件同人誌の頒布等による原告Aの名誉毀損並 びに本件マスクを着用して本件同人誌を頒布等した行為による同原告の肖像 に係る人格的利益及び名誉感情の侵害は、いずれも同原告に対する不法行為 を構成するものと認められる。また、被告のツイッターにおける本件店舗に\n関する投稿による原告Aの名誉毀損並びに同原告の顔写真等の投稿による同 原告の肖像に係る人格的利益及び名誉感情の侵害は、いずれも原告Aに対す る不法行為を構成するものと認められる。\n他方、本件同人誌の頒布等による原告Aのパブリシティ権の侵害及び被告 のツイッターにおける被差別部落に関する投稿による同原告の名誉権の侵害 は認められない。
(2) 原告会社の請求について
以上のとおり、被告による本件同人誌の頒布等及び被告のツイッターにお ける本件店舗に係る投稿による原告会社の名誉毀損は、いずれも原告会社に 対する不法行為を構成するものと認められる。\n他方、被告のツイッターにおける本件キャラクターの人権等に言及する投 稿、本件キャラクターに関する卑猥な投稿及び被差別部落に関する投稿につ いては、いずれも原告会社の名誉を毀損するものとはいえず、原告会社に対 する不法行為を構成するものとは認められない。\n

◆判決本文

こちちに争点となった表記があります。\n

◆判決本文

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令和4(ネ)10024  映画上映禁止及び損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年9月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

インタビュー形式の映画「主戦場」について、著作権侵害(人格権を含む)に基づいて差止などを求めました。1審は、原告の請求棄却、知財高裁も同じ判断です。

ア 控訴人らは、同一性保持権侵害の被侵害利益は、著作者の名誉感情であ るとし、被控訴人Yが、慰安婦問題というデリケートな問題を扱った本件 利用映像等5の一部を切り出し、音声を削除し、ナレーションを加えるこ とは、控訴人X2が客観的証拠もなく偏った主張を述べているにすぎない かのような印象を与えかねないし、また、本件利用映像等6は、控訴人X 2が著作者である本件外部映像等6のうち、日本における人種差別につい てことさらに騒ぎ立てる者がいることを述べた部分のみが利用されてい て、控訴人X2が、日本に人種差別が存在すると指摘すること自体を批判し ているかのような印象を与えかねないから、いずれも通常の著作者であれ ば名誉感情を害されるものであり、控訴人X2の同一性保持権を侵害する 旨主張する。
イ しかしながら、仮に同一性保持権侵害の被侵害利益に著作者の名誉感情 が含まれるとしても、それによっておよそ一切の改変が著作者の名誉感情 を侵害し、同一性保持権の侵害となると解すべき根拠はなく、著作物の性 質や利用行為の態様等を考慮して、同一性保持権侵害の有無を考慮すべき である。
本件利用映像等5、6は、ユーチューブ上の映像である本件外部映像等 5、6の一部である。ユーチューブ上の映像は、無料でいつでもだれでも 閲覧することができ、どの映像を見るかはもとより、映像の全部を見るの か一部を見るのか、映像のどの部分を見るのかを、閲覧者が自由に選択し て見ることができるという性質を有する。 本件利用映像等5、6は、本件利用映像等2、3の後、本件利用映像等 4が3秒間表示された後に表\示されるものであるところ、本件利用映像等 2、3には、左上部に「YouTube」という表示があり、「X2´」という著作 者名が表示されており、被控訴人Yは、本件利用映像等5に先立って、イ\nンターネット上の投稿でビデオを見つけた旨のナレーションを入れてお り、本件映画1のエンドクレジットの「利用した映像及び写真の出所」に、 控訴人X2の氏名、本件外部映像等5、6の題名、ユーチューブに投稿され た動画であることの記載があるから、本件映画1を見る者にとって、本件 外部映像等5、6がユーチューブ上の映像の一部であることは明らかであ り、著作者名や題名から本件外部映像等5、6を検索することは容易に可 能である(乙38)。\n
本件利用映像等5、6は、被控訴人Yが慰安婦問題に関心を有するよう になったきっかけとなった動画を作成した人物であり、本件映画1中のイ ンタビューの対象ともなっている控訴人X2がどのような人物であるかを 紹介することを目的とするものであり、控訴人X2の主張を誤って伝えるも のであるとは認められない。 その他、原判決第3の9(1)イないしエ(原判決68頁19行目から70 頁14行目まで)、同(2)イないしエ(原判決70頁23行目から72頁9行 目まで)に記載された事情も考慮すると、被控訴人らが本件利用映像等5、 6を利用して本件映画1を製作、上映することは、控訴人X2の名誉感情を 害するとは認められず、本件利用映像等5、6の作成は、いずれも「やむ を得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)であり、控訴人X 2の著作者人格権を侵害するものとは認められない。

◆判決本文

原審はこちら。

◆令和1(ワ)16040

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