2022.12.22
令和3(ワ)24148 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 令和4年11月24日 東京地方裁判所
著作権侵害として、発信者情報の特定のための裁判費用も含めて242万円の損害賠償が認められました。引用であるとの主張は否定されました。
被告は、本件各記事による本件各動画の利用は適法な引用(法 32条 1項)に当たる旨を主張する。しかし、証拠(甲 7)及び弁論の全趣旨によれば、本件各記事は、いずれも、約 30 枚〜60 枚程度の本件各動画からキャプチャした静止画を当該動画の時系列に沿ってそれぞれ貼り付けた上で、各静止画の間に、直後に続く静止画に対応する本件各動画の内容を 1 行〜数行程度で簡単に要約して記載し、最後に、本件各動画の閲覧者のコメントの抜粋や被告の感想を記載するという構成を基本的なパターンとして採用している。各静止画の間には、上記要約のほか、被告による補足説明やコメント等が挟まれることもあるが、これらは、関連する動画(URL のみのものも含まれる。)やスクリーンショットを 1 個〜数個張り付けたり、1 行〜数行程度のコメントを付加したりしたものであり、概ね、各静止画及びこれに対応する本件各動画の内容の要約部分による本件各動画全体の内容のスムーズな把握を妨げない程度のものにとどまる。また、本件各記事の最後に記載された被告の感想は、いずれも十数行〜二十\数行程度であり、本件各動画それぞれについての概括的な感想といえるものである。
以上のとおり、本件各記事は、いずれも、キャプチャした静止画を使用
して本件各動画の内容を紹介しつつそれを批評する面を有するものではあ
る。しかし、本件各記事においてそれぞれ使用されている静止画の数は約
30 枚〜60 枚程度という多数に上り、量的に本件各記事のそれぞれにおい
て最も多くの割合を占める。また、本件各記事は、いずれも、静止画と要
約等とが相まって、4分程度という本件各動画それぞれの内容全体の概略
を記事の閲覧者が把握し得る構成となっているのに対し、本件各記事の最\n後に記載された投稿者の感想は概括的なものにとどまる。
以上の事情を総合的に考慮すると、本件各記事における本件各動画の利
用は、引用の目的との関係で社会通念上必要とみられる範囲を超えるもの
であり、正当な範囲内で行われたものとはいえない。
したがって、本件各記事による本件各動画の利用は、適法な「引用」(法
32条1項)とはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。
イ 争点(2)(時事の事件の報道の抗弁の成否)について
被告は、本件各記事における本件各動画の利用は、社会において有用で
公衆の関心事となりそうな新しい事業を計画している一般企業家が存在す
る事実及びその事業計画に対する投資家の判断・評価という近時の出来事
を公衆に伝達することを主目的とするものであり、時事の事件の報道(法
41 条)に当たる旨を主張する。
しかし、そもそも、本件各動画は、その内容に鑑みると、一般企業家が
投資家に対して事業計画のプレゼンテーションを行い、質疑応答等を経て、
最終的に投資家が出資の可否を決定するプロセス等をエンタテインメント
として視聴に供する企画として制作されたものというべきであって、それ
自体、「時事の事件」すなわち現時又は近時に生起した出来事を内容とする
ものではない。本件各記事は、前記認定のとおり、このような本件各動画
の内容全体の概略を把握し得るものであると共に、これを視聴した被告の
概括的な感想をブログで披歴したものに過ぎず、その投稿をもって「報道」
ということもできない。
したがって、本件各記事は、そもそも「時事の事件の報道」とは認めら
れないから、適法な「時事の事件の報道のための利用」(法 41 条)とはい
えない。この点に関する被告の主張は採用できない。
ウ 争点(3)(権利濫用の抗弁の成否)について
被告は、原告が「切り抜き動画」制作者による本件各動画の拡散を積極
的に利用して原告チャンネルの登録者数の増加を図り、実際にその恩恵を
享受しているにも関わらず、被告に対して本件各動画の著作権を行使する
ことは権利の濫用に当たる旨を主張する。
しかし、証拠(甲 29)及び弁論の全趣旨によれば、原告が利用する「切
り抜き動画」とは、原告が、特定のウェブサイトで提供されるサービスを
通じて、原告チャンネル上の動画をより個性的に編集して自己のチャンネ
ルに投稿することを希望するクリエイターに対し、その収益を原告に分配
すること等を条件に、当該動画の利用を許諾し、その許諾のもとに、クリ
エイターにおいて編集が行われた動画であると認められる。他方、弁論の
全趣旨によれば、被告は、本件各動画の利用につき、原告の許諾を何ら受
けていないことが認められる。
そうすると、原告が「切り抜き動画」の恩恵を受けているからといって、
被告に対する本件各動画に係る原告の著作権行使をもって権利の濫用に当
たるなどと評価することはできない。他に原告の権利濫用を基礎付けるに
足りる事情はない。したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
2 争点(4)(原告の損害及びその額)
(1) 「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」
ア 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、映像の使用料又は映像からキャ
プチャした写真の使用料に関し、以下の事実が認められる。
(ア) 映像からキャプチャした写真の使用料
NHK エンタープライズが持つ映像・写真等に係る写真使用の場合の素
材提供料金は、基本的には、メディア別基本料金及び写真素材使用料に
より定められるところ(更にこの合計額に特別料率が乗じられる場合も
ある。)、使用目的が「通信(モバイル含む)」の場合の基本料金は 5000
円(ライセンス期間 3 年)、写真素材使用料は、「カラー」、「一般写真」、
「国内撮影」の場合、1 カットあたり 2 万円とされている(甲 12)。
なお、共同通信イメージズも写真の利用料金に関する規定を公表して\nいるが(乙 12)、ウェブサイト利用についてはニュースサイトでの使用
に限ることとされていることなどに鑑みると、本件においてこれを参照
対象とすることは相当でない。
(イ) 映像の使用料
・・・・
イ 本件各動画については、前記「切り抜き動画」に係る利用許諾と原告へ
の収益の分配がされていることがうかがわれるものの、その分配状況その
他の詳細は証拠上具体的に明らかでない。その他過去に第三者に対する本
件各動画の利用許諾の実績はない(弁論の全趣旨)。そこで、原告が本件各
動画の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(法 114 条 3
項)を算定するに当たっては、本件各動画の利用許諾契約に基づく利用料
に類するといえる上記認定の各使用料の額を斟酌するのが相当である。
被告による本件各動画の使用態様は、本件各動画をキャプチャした本件
静止画を本件各記事に掲載したというものである。そうすると、その使用
料相当額の算定に当たっては、映像からキャプチャした写真の使用料を定
める NHK エンタープライズの規定(上記ア(ア))を参照するのが相当とも
思われる。もっとも、当該規定がこのような場合の一般的な水準を定めた
ものとみるべき具体的な事情はない。また、本件各記事は、いずれも、相
秒以上の部分について 500 円(いずれも 1 秒当たりの単価)である(甲 21)。
・・・
当数の静止画を時系列に並べて掲載すると共に、各静止画に補足説明を付
すなどして、閲覧者が本件各動画の内容全体を概略把握し得るように構成\nされたものである。このような使用態様に鑑みると、本件静止画の使用は、
映像(動画)としての使用ではないものの、これに準ずるものと見るのが
むしろ実態に即したものといえる。
そうである以上、原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべき金
銭の額に相当する額(法 114 条 3 項)の算定に当たっては、映像の使用料
に係る各規定(上記ア(イ))を主に参照しつつ、上記各規定を定める主体の
業務や対象となる映像等の性質及び内容等並びに本件各動画ないし原告チ
ャンネルの性質及び内容等をも考慮するのが相当である。加えて、著作権
侵害をした者に対して事後的に定められるべき、使用に対し受けるべき額
は、通常の使用料に比べて自ずと高額になるであろうことを踏まえると、
原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額
(法 114 条 3 項)は、合計 200 万円とするのが相当である。
ウ これに対し、被告は、原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべ
き金銭の額に相当する額は著作権の買取価格を上回ることはないことを前
提とし、本件各動画の著作権の買取価格(3 万円)のうち本件各記事にお
いて静止画として利用された割合(2%)を乗じたものをもって、原告の受
けるべき金銭の額である旨を主張する。
もとより、著作物使用料の額ないし使用料率は、当該著作物の市場にお
ける評価(又はその見込み)を反映して定められるものである。しかし、
その際に、当該著作物の制作代金や当該著作物に係る著作権の譲渡価格が
その上限を画するものとみるべき理由はない。すなわち、被告の上記主張
は、そもそもその前提を欠く。
したがって、その余の点につき論ずるまでもなく、この点に関する被告
の主張は採用できない。
(2) 発信者情報開示手続費用
本件のように、ウェブサイトに匿名で投稿された記事の内容が著作権侵害の不法行為を構成し、被侵害者が損害賠償請求等の手段を取ろうとする場合、権利侵害者である投稿者を特定する必要がある。このための手段として、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律により、発信者情報の開示を請求する権利が認められているものの、これを行使して投稿者を特定するためには、多くの場合、訴訟手続等の法的手続を利用することが必要となる。この場合、手続遂行のために、一定の手続費用を要するほか、事案によっては弁護士費用を要することも当然あり得る。そうすると、これらの発信者情報開示手続に要した費用は、当該不法行為による損害賠償請求をするために必要な費用という意味で、不法行為との間で相当因果関係のある損害となり得るといえる。本件においては、前提事実(5)のとおり、原告は、弁護士費用を含め発信者情報開示手続に係る費用として 167 万 440円を要したが、発信者情報開示手続の性質・内容等を考慮すると、このうち20万円をもって被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
◆判決本文
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2022.12. 9
令和4(ネ)10033 発信者情報開示請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和4年11月29日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
著作権侵害に関する発信者情報開示請求事件です。1審は、ツイート時のログイン時のIPアドレスに加えてそれ以外のツイート時のIPアドレスも、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断しました。これに対して、知財高裁は、「本件各投稿直前のログイン時のIPアドレス及びそのIPアドレスを使用して情報の送信がされた年月日及び時刻の情報を求める限度で理由有り」と、変更しました。
法4条の趣旨は、特定電気通信による情報の流通によって権利の
侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密\nに配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通
信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求す
ることができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の\n権利の救済を図ることにあると解されること(最高裁平成21年(受)第1
049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁参照)
に鑑みると、法4条1項の委任を受けた省令1号ないし8号の規定は、開示
の対象となる「侵害情報の発信者の特定に資する情報」を限定的に列挙した
ものと解される。以上を前提に、本件ログイン時IPアドレス等が省令5号及び8号に該当するかどうかについて判断する。
(2) 認定事実
前記前提事実と証拠(甲32、58ないし63)及び弁論の全趣旨によれ
ば、以下の事実が認められる。
ア 本件各投稿の日時
本件投稿1は、令和2年11月12日午前7時52分にアカウント1を
利用して、本件投稿2は、同月7日午前4時57分にアカウント2を利用
して、本件投稿3は、同年12月18日午後7時3分にアカウント3を利
用して、本件投稿4は、同日午前10時35分にアカウント4を利用して、
本件投稿5は、令和3年3月7日午後5時52分にアカウント5を利用し
て、ツイッターのウェブサイトにそれぞれ投稿された。
イ 本件訴訟に至る経緯等
(ア) 被控訴人は、令和2年11月17日、アカウント1について、控訴
人を債務者とする発信者情報開示仮処分の申立て(東京地方裁判所令和\n2年(ヨ)第22121号)をし、令和3年2月17日、アカウント1
にログインした際のIPアドレスのうち、本件投稿1の直前のログイン
時以降、控訴人が保有するIPアドレス及びそのタイムスタンプの全て
の開示を命じる仮処分決定(以下「本件仮処分決定1」という。)がされ
た。その後、控訴人は、本件仮処分決定1につき本案の起訴命令の申立\nてをし、同月25日、起訴命令が発せられた。
また、被控訴人は、アカウント2ないし4について、控訴人を債務者
とする発信者情報開示仮処分の申立て(令和2年(ヨ)第22125号)\nをし、同年3月2日、控訴人が保有するログイン情報のうち、侵害情報
の投稿直前のログイン時のIPアドレス及びそのタイムスタンプの開示
を命じる旨の仮処分決定(以下「本件仮処分決定2」という。)がされた。
その後、控訴人は、本件仮処分決定2につき本案の起訴命令の申立てを\nし、同月29日、起訴命令が発せられた。
(イ) 被控訴人は、前記(ア)の各起訴命令を受けて、令和3年3月3日、
原審に本件訴訟を提起した。その後、被控訴人は、同年10月12日、
アカウント5について、発信者情報の開示を求める訴えの追加的変更を
した。
(ウ) 被控訴人は、本件仮処分決定1に基づき、間接強制決定を求める申\n立てをし、同月19日、間接強制決定がされた。
また、被控訴人は、本件仮処分決定2に基づき、間接強制決定を求め
る申立てをし、同月24日、間接強制決定がされた。\n
(エ) 原審は、令和3年11月9日、口頭弁論を終結し、令和4年1月2
0日、原判決を言い渡した。
その後、控訴人は、同年3月4日、本件控訴を提起した。
(オ) 控訴人は、令和4年5月26日、被控訴人に対し、アカウント1に
ついて、本件投稿1の直前のログイン時(日本時間令和2年11月12
日午前7時44分49秒)以降、令和4年5月24日午後3時49分5
0秒までのログイン情報に係るIPアドレス及びタイムスタンプを、ア
カウント2ないし4について、本件投稿2ないし4のそれぞれ直前のロ
グイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ(アカウント2につき令和
2年11月7日午前4時46分29秒時、アカウント3につき令和2年
12月18日午前8時54分54秒時、アカウント4につき令和2年1
2月18日午前8時54分9秒時の各IPアドレス)を開示した。
(3) 本件ログイン時IPアドレス等の省令5号及び8号該当性について
ア 省令5号及び8号の意義について
(ア) 1)前記(1)のとおり、省令5号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アド
レス」は、「侵害情報の発信者の特定に資する情報」を類型化したもの
であること、2)前記(1)の法4条の趣旨に照らすと、被害者の権利行使
の観点から、開示される情報の幅は広くすることが望ましいが、一方で、
発信者情報は個人のプライバシーに深く関わる情報であって、通信の秘
密として保護されるものであることに鑑みると、被害者の権利行使にと
って有益であるが不可欠ではない情報や開示することが相当とはいえ
ない情報まで開示することは許容すべきではないと考えられ、このこと
は、侵害情報の発信者によって行われた通信に係る情報であっても同様
であること、3)省令5号の「侵害情報に係る」との文言を総合考慮する
と、同号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」とは、侵害情報の
送信に使用されたIPアドレス又は侵害情報の送信に関連する送信に
使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために
必要かつ合理的な範囲のものをいうと解するのが相当である。
次に、省令8号の「第5号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた
電気通信設備、…携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定
電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻」との文言に鑑み
ると、省令8号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」とは、「省令
5号」の「アイ・ピー・アドレス」を使用して侵害情報の送信又はその
送信に関連する送信がされた年月日及び時刻をいうものと解するのが相
当である。
(イ) これに対し、被控訴人は、1)ツイッターにおいては、そのセキュリ
ティの高さからログインした者が発信者であるという蓋然性が極めて高
い状況であり、特定のアカウントにログインしている以上、当該ログイ
ンをした者は、発信者と同一人物であることが強く推認されるところ、
法4条の趣旨・規定ぶり、控訴人の提供するサービスの仕組みやセキュ
リティの状況からすれば、ログイン情報等の開示において、発信者と投
稿者との主観的同一性が認められれば足り、通信間の客観的関連性は求
められていないというべきであるから、ツイッターへのログイン時のI
Pアドレス等は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に
該当する、2)本件ログイン時IPアドレス等の全面開示を認めないこと
は、被控訴人の知る権利(憲法21条1項、13条、32条)を侵害し
違憲であり、「権利行使を確保するための手続を国内法において確保」し
なければならないとするWIPO著作権条約14条2項の要請にも反す
るから、憲法適合解釈のもと、法及び総務省令を憲法21条1項、13
条、32条に適合的に解釈し、本件ログイン時IPアドレス等を全面的
に開示すべきである、3)令和4年10月1日に施行される規則において
は、投稿前のログアウト情報や投稿後のログイン情報など論理的に投稿
そのものに供された可能性がない通信情報も含めてアカウント開設から\n閉鎖までの全ての情報が理論上開示され得ることが定められ、開示対象
の発信者情報について、侵害情報の投稿行為との客観的な関連性を求め
ておらず、通信情報が侵害情報の発信者のものと認められる場合には開
示を肯定する立場をとっていることからすると、規則施行前の省令にお
いても、ログイン情報等の開示において、発信者と投稿者との主観的同
一性が認められれば足り、通信間の客観的関連性は求められていないと
いうべきである旨主張する。
しかしながら、1)及び2)については、法4条1項の委任を受けた省令
1号ないし8号の規定は、開示の対象となる「侵害情報の発信者の特定
に資する情報」を限定的に列挙したものと解されるところ、前記(ア)で
説示したとおり、省令5号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」
とは、侵害情報の送信に使用されたIPアドレス又は侵害情報の送信に
関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を
特定するために必要かつ合理的な範囲のものをいうと解するのが相当で
あり、また、省令8号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」とは、
「省令5号」の「アイ・ピー・アドレス」を使用して侵害情報の送信又
はその送信に関連する送信がされた年月日及び時刻をいうものと解する
のが相当であるから、ツイッターへのログイン時のIPアドレス等であ
れば、省令5号及び8号に該当しないものであっても、法4条1項の「当
該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するということはできない。
そして、前記(ア)のとおり、前記(1)の法4条の趣旨に照らすと、被害
者の権利行使にとって有益であるが不可欠ではない情報や開示すること
が相当とはいえない情報まで開示することは許容すべきではないと考え
られ、このことは、侵害情報の発信者によって行われた通信に係る情報
であっても同様である。
また、控訴人が挙げる憲法の規定やそれらの趣旨を考慮したとしても、
被控訴人に、法律に定められていない発信者情報の開示を求める権利が
あると解することもできない。
次に、3)については、ログイン情報に相当する「侵害関連通信」につ
いて規定する規則5条柱書によれば、「法第五条第三項の総務省令で定め
る識別符号その他の符号の電気通信による送信は、次に掲げる識別符号
その他の符号の電気通信による送信であって、それぞれ同項に規定する
侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」と規定し、ログイン情報
の開示において「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に限定
しており、被控訴人が述べるように、開示対象の発信者情報について、
侵害情報の投稿行為との客観的な関連性を求めておらず、通信情報が侵
害情報の発信者のものと認められる場合には開示を肯定する立場をとっ
ているとまでいうことはできない。
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2022.12. 5
令和4(ネ)10019 発信者情報開示請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和4年10月19日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は、同一性保持権侵害と判断しましたが、知財高裁(2部)は「引用」に該当し、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に該当すると判断しました。リツイート最高裁判決(最判令和2年7月21日)とは結論、逆ですが、あの事件はリツートの元自体の侵害があったので、その意味では、事案が異なります。
イ 控訴人は、前記アの本件被控訴人イラスト1の利用について、「引用」に当
たり適法であると主張するので検討するに、適法な「引用」に当たるには、1)公正
な慣行に合致し、2)報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われ
るものでなければならない(著作権法32条1項)。
ウ(ア) 本件ツイート1−1をみると、前記(2)のとおり、乙1の2イラストと本件
被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像2枚とともに、「これどうだろう ww」「ゆ
るーくトレス? 普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」と
の文言が投稿されており、これは、被控訴人作成の本件被控訴人イラスト1が、乙
1の2イラストをトレースして作成されたものである旨を主張するものであって、
本件被控訴人イラスト1を検証し、批評しようとするものであると認められるから、
本件投稿者1が本件被控訴人イラスト1を用いた目的は、批評にあるといえる。
(イ)a 次に、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用方法をみ
ると、乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせて表示しているも\nの(本件投稿画像1−1−2、1−1−3)と、本件被控訴人イラスト1を含む複
数の被控訴人作成イラストを並べて表示しているもの(本件投稿画像1−1−4)\nがあり、これらの画像が、乙1の2イラストの画像(本件投稿画像1−1−1)と
ともに前記(ア)の文言に添付されている。タイムライン上においては、原判決別紙タ
イムライン表示目録記載1のとおり表\示されるなどしており、上記4枚の画像デー
タは、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様に応じ\nて、その一部のみが表示されているが、各画像をクリックすると、本件投稿画像1\n−1−1〜1−1−4のとおりの画像が表示される。\n
b 本件投稿画像1−1−4は、被控訴人が作成した女性の横顔のイラストを2
枚含むものであるが、この2枚のイラストのうち1枚は本件被控訴人イラスト1で
あり、もう一枚は本件被控訴人イラストと複製又は翻案の関係にあるものと認めら
れるから、本件投稿画像1−1−4をそのまま、本件投稿画像1−1−1(乙1の
2イラスト)とともに利用することは、イラストの類似性を検証するために必要で
あり、かつ、文章のみで表現するよりも客観性を担保できる態様で利用されている\nということができる。
c 本件投稿画像1−1−2及び1−1−3は、乙1の2イラストと本件被控訴
人イラスト1を重ね合わせた画像であるが、2枚のイラストないし画像の類似性を
検討するに当たり、2枚のイラストを、それぞれのイラストが判別可能な態様で重\nね合わせ表示するのは検証のために便宜でかつ客観性を担保できる態様で利用され\nているということができ、加えて、当該画像には下部分に各イラストの色の濃さを
操作したことを示唆するアプリケーションの画面部分が記載されており、閲覧者を
して、これらの画像が、2枚のイラストを重ね合わせたものであることや、色の濃
さが操作されていることが分かるような態様で示されている。本件では、本件投稿
画像1−1−2では乙1の2イラストの方を濃く表示し、本件投稿画像1−1−3\nでは本件被控訴人イラスト2の方を濃く表示しているが、このような表\示方法は、
2枚のイラストを重ね合わせた画像において、それぞれのイラストを判別して比較
するために資するといえる。
d そうすると、本件ツイート1−1の一般の読者にとって、本件ツイート1−
1における被控訴人のイラストの利用態様は、記事の内容を吟味するために便宜で
かつ客観性を担保することができるものであるということができる。
そして、上記利用態様からすると、本件ツイート1−1において、被控訴人が作
成したイラストが、独立した鑑賞目的等で利用されているというような事情はなく、
本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストを比較検証する目的を超えて利用がさ
れているとはいえない。
e したがって、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用方法は、
前記(ア)の引用の目的である批評のために正当な範囲内で行われていると認めるの
が相当である。
(ウ) 証拠(乙5の1〜5、60、63、89、110の1、120の4・5)に
よると、第三者が著作権を有するイラストや写真をトレースすることにより、イラ
スト等を作成した可能性がある旨の事実を主張する場合に、記事中に、1)問題とな
るイラスト等とトレース元と考えられるイラスト等を、比較するためにそのまま又
は比較に必要な部分において示すことや、2)2枚のイラストを重ね合わせて示すこ
とは広く行われていることであり、また、前記(イ)のとおり、このように示すことは、
本件ツイート1−1の一般の読者にとって記事の内容を吟味するために便宜でかつ
客観性を担保することができる手法であるということができる。
上記に加え、後記(5)のとおり同一性保持権侵害の観点からも本件ツイート1−
1における被控訴人のイラストの利用が違法ということはできないことに照らすと、
本件ツイート1−1において、被控訴人作成のイラストを添付したことは、公正な
慣行に合致しているということができる。
(エ) そうすると、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用は「引
用」として適法である。
エ 以上によると、本件ツイート1−1の投稿による著作権侵害について、「権
利侵害の明白性」は認められない。
(5) 著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)について
ア 前記(2)のとおり、1)本件ツイート1−1に添付された画像のうち、本件投稿
画像1−1−2及び1−1−3は、本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストを
重ね合わせたものであり、また、2)ツイッターのタイムライン上に表示された本件\nツイート1−1における本件投稿画像1−1−2〜1−1−4は、被控訴人作成の
イラストの一部のみが表示されているから、それぞれ、被控訴人のイラストの改変\n又は切除に当たると解する余地がある。
イ しかしながら、1)については、著作物がイラストであって重ね合わせて用い
ることで、引用の目的である批評のために便宜でありかつ客観性が担保できること
に加え、その利用の目的及び態様に照らすと、著作権法20条2項4号の「やむを
得ないと認められる改変」に当たるといえる。
ウ 次に、2)についてみると、証拠(甲49、乙113〜119、120の1・
2、121の1・2)によると、ツイッターのタイムライン上の表示は、ツイッタ\nーの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様により決定されるもの\nであって、投稿者が自由に設定できるものではなく、投稿者自身も投稿時点では、
どのような表示がされるか認識し得ないこと、投稿後も、ツイッターの仕様又はツ\nイートを表示するクライアントアプリの仕様が変更されると、タイムライン上の表\
示が変更されること、ツイートに添付された画像データ自体は当該ツイートを閲覧
したユーザーの端末にダウンロードされており、タイムライン上の画像をクリック
すると、画像の全体が表示されることが認められることに照らすと、投稿者が改変\n主体に当たるかという点を措くとしても、タイムライン上の表示が画像の一部のみ\nとなることは、ツイッターを利用するに当たり「やむを得ないと認められる改変」
に当たるというべきである。
エ そうすると、本件ツイート1−1の投稿による著作者人格権侵害(同一性保
持権侵害)について、「権利侵害の明白性」は認められない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和2年(ワ)24492号
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2022.04.23
令和3(ワ)5668 発信者情報開示請求事件 著作権 令和4年1月20日 東京地方裁判所
著作権侵害がなされたツイート時のログイン時のIPアドレスに加えて、それ以外のツイート時のIPアドレスも、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するかが争われました。東京地裁は該当すると判断しました。
1 争点1(本件ログイン時IPアドレス等の「権利の侵害に係る発信者情報」
(法4条1項)該当性)について
(1) 原告が本件において開示を求める本件発信者情報は,本件各投稿に利用さ
れた本件各アカウントを保有する者の電話番号及び電子メールアドレスのほか,本
件各アカウントにログインした際に割り当てられたIPアドレス及びそのタイムス
タンプに係る情報であり,原告の本件各写真に係る公衆送信権侵害行為を構成する\n情報の送信時に割り当てられたIPアドレス及びそのタイムスタンプではない。そ
こで,本件ログイン時IPアドレス等のようなログインする際に割り当てられたI
Pアドレス及びそれが割り当てられたタイムスタンプが,法4条1項所定の「権利
の侵害に係る発信者情報」に該当するかが問題となる。
(2) 法4条1項は,特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害
されたとする者が開示関係役務提供者に対して開示を請求することのできる情報と
して,「権利の侵害に係る発信者情報」と規定しており,権利侵害行為そのものに使
用された発信者情報に限定した規定ではなく,「係る」という,関係するという意義
の文言が用いられていることからしても,「権利の侵害に係る発信者情報」は,権利
侵害行為に関係する情報を含むと解するのが相当である。そして,法4条の趣旨は,
特定電気通信(法2条1号)による情報の流通には,これにより他人の権利の侵害
が容易に行われ,その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し,匿名で情報の発
信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという,他の情
報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ,特定電気通信による情報の流通に
よって権利の侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバシー,表現の自由,通信\nの秘密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通信の用に供される特定電気通
信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求すること
ができるものとすることにより,加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を\n図ることにあると解され(最高裁平成22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻
3号676頁参照),かかる趣旨からすると,権利侵害行為そのものの送信時点では
なく,その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっ
ても,それが当該侵害情報の発信者のものと認められる場合には,「権利の侵害に係
る発信者情報」に当たると解すべきである。
被告は,ログイン行為と侵害情報そのもの送信行為とは全く異なる性質のもので
あること等を理由に,法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」には,ログイ
ン時のIPアドレス等を含まないと主張する。
しかし,ログイン時のIPアドレス等であっても,当該ログインが侵害情報の発
信者のものと認められる場合には,当該ログイン時のIPアドレス等は侵害情報の
送信行為との関連性を有するということができ,したがって,当該ログインに係る
IPアドレス等も法4条1項所定の発信者情報に当たるといえるのであるから,被
告の上記主張は採用することができない。
また,被告は,法4条1項の委任を受けた省令8号が「侵害情報が送信された年
月日及び時刻」と規定していることやログイン情報の送信が1対1の電気通信であ
って,「特定電気通信」(法2条1号)に該当しないことからすると,ログイン時の
タイムスタンプは開示が認められる発信者情報に該当せず,また,省令5号は省令
8号と整合的に解釈すべきであるから,省令5号にいうIPアドレスも侵害情報の
送信時に割り当てられたIPアドレスのみをいうのであって,ログイン時に割り当
てられたIPアドレスを含まないとも主張する。
しかし,省令5号及び8号に開示の対象となる発信者情報の特定を委任した法4
条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」は,権利侵害行為そのものの送信時点で
はなく,その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であ
っても,それが当該侵害情報の発信者のものと認められるものをも含むと解するこ
とができることは前記説示のとおりである。また,省令5号は,法4条1項所定の
発信者情報に該当するIPアドレスにつき,「侵害情報に係る」と規定しており,侵
害情報の送信の際に割り当てられたIPアドレスに限定する規定ぶりとはなってい
ないことからすれば,ログインの際に割り当てられたIPアドレスも「侵害情報に
係るアイ・ピー・アドレス」に該当するというべきである。そして,IPアドレス
の開示を受けるだけでは発信者を特定することが不可能ないし極めて困難であって,\n発信者の特定には,当該IPアドレスを割り当てられた年月日及び時刻(タイムス
タンプ)を必要とすることからすれば,省令8号の規定するタイムスタンプは,ロ
グインの際のIPアドレスが割り当てられた電気通信設備からのログイン情報の発
信時のものを含むと解するのが相当であるというべきであって,被告の上記主張は
採用することができない。また,本件各投稿は不特定の者の投稿・閲覧が認められ
るツイッター上にされたものであり,不特定の者によって受信されることを目的と
する電気通信の送信といえることに照らし,「特定電気通信」該当性を否定する被告
の上記主張も採用の限りではない。
(3) 続いて,本件ログイン時IPアドレス等から把握される発信者情報が本件
各投稿の発信者のものと認められるかどうかを検討する。
弁論の全趣旨によれば,被告が提供するツイッターを利用するには,まず,アカ
ウントを作成する必要があり,アカウントの作成には,ユーザID及びパスワード
の設定が必要となること,ツイッターを利用する際は,ユーザID及びパスワード
を入力して当該アカウントにログインすることが必要であり,当該アカウントの管
理者はスマートフォン等の各種デバイスを利用してツイッターにログインして当該
アカウントにツイート(投稿)していることが認められる。このようなツイッター
の仕組みを踏まえると,法人や団体においてその営業や事業に利用する場合を除き,
複数人が共有して特定のアカウントを利用する可能性は極めて乏しく,また,本件\nにおいて複数人が本件各アカウントを共有して使用していることをうかがわせる事
情は見当たらない。そうすると,本件各アカウントはそれぞれ特定の個人が利用し
ていたものであるというべきであり,本件各アカウントにそれぞれログインした者
と本件各投稿の各発信者とは同一の者であると認められ,本件IPアドレス等から
把握される発信者情報が本件各投稿の発信者のものということができる。
被告は,本件各投稿がされる前のログイン情報もさることながら,本件各投稿が
された後の情報であって,本判決確定の時点で被告が保有する本件各アカウントへ
のログインの際のIPアドレス等から把握される情報(最新ログイン時の情報)ま
でをも「権利の侵害に係る発信者情報」ということはできないと主張する。
しかし,前記認定したツイッターの仕組みからすれば,本件各投稿を本件各アカ
ウントの設定者がこれを第三者に譲渡したことがうかがわれるなどの特段の事情の
ない限り,本件各投稿と開示を求めるログイン時の情報との前後関係,その時間的
間隔の程度等を考慮することなく,本件各アカウントにログインした際のIPアド
レス等は,本件各投稿による権利の侵害に係る発信者の特定に資する情報に該当す
るというべきであるところ,本件全証拠に照らしても,上記特段の事情の存在はう
かがわれない。
以上からすると,本件各アカウントにログインした際のIPアドレス等の情報は,
最新のログインの時のIPアドレス等も「権利の侵害に係る発信者情報」に当たる
というべきである。
そして,被告は,原告の著作権を侵害する本件各投稿に係る侵害情報の発信者と
同一の者によるものと認められる各通信を媒介し,その際に割り当てられた本件ロ
グイン時IPアドレス等を保有する特定電気通信役務提供者であるから「開示関係
役務提供者」に当たるということができる
◆判決本文
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2022.04. 4
令和3(ワ)6266 著作権侵害等に基づく発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和4年3月30日 東京地方裁判所
被告は、プロ責法の「開示関係役務提供者」には該当しないとして、発信者情報の開示請求が否定されました。
プロバイダ責任制限法は、4条1項において、「開示関係役務提供者」の
意義について「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる
特定電気通信役務提供者」と定め、「特定電気通信による情報の流通によっ
て自己の権利を侵害されたとする者」は、「侵害情報の流通によって当該開
示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであ」り(同項1号)、
かつ、「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使
のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由が
あるとき」(同項2号)に限り、開示関係役務提供者に対し、当該開示関係
役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報の開示を請求するこ
とができる旨を規定し、また、同条2項において、開示関係役務提供者がそ
のような請求を受けた場合には、原則として発信者の意見を聴かなければな
らない旨を規定する。
これらの規定の趣旨は、発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の自\n由、通信の秘密に関わる情報であり、正当な理由がない限り第三者に開示さ
れるべきものではなく、また、これが一旦開示されると開示前の状態への回
復は不可能となることから、発信者情報の開示請求につき厳格な要件を定め\nた上で、開示請求を受けた開示関係役務提供者に対し、上記のような発信者
の利益の保護のために、発信者からの意見聴取を義務付けて、開示関係役務
提供者において、発信者の意見も踏まえてその利益が不当に侵害されること
がないように十分に意を用い、当該開示請求が同条1項各号の要件を満たす\nか否かを慎重に判断させることとしたものと解される。
こうした「開示関係役務提供者」の意義及びプロバイダ責任制限法の定め
の趣旨に鑑みれば、「開示関係役務提供者」については厳格に解すべきであ
って、ある特定電気通信役務提供者が「開示関係役務提供者」に当たるとい
うためには、当該特定電気通信役務提供者が用いる特定電気通信設備が侵害
情報の流通に供されたことが必要であると解すべきである。
(2) 判断
ア 被告TOKAIについて
(ア) 本件ツイート1の投稿について
原告らが被告TOKAIに対して開示を求める契約者の情報である本
件発信者情報1は、令和2(2020)年6月29日15時56分35
秒(UTC)頃及び同年8月16日7時49分52秒(UTC)頃に被
告TOKAIから(IPアドレスは省略)という発信元IPアドレスを
割り当てられていた契約者に関するものである。
この点、本件ツイート1が投稿されたのは、同年6月29日17時4
5分(JST。これをUTCに換算すると同日8時45分となる。)で
あるから、本件発信者情報1のうち、同日15時56分35秒(UTC)
頃に関するものは、本件ツイート1の投稿から7時間余り後のものであ
り、同年8月16日7時49分52秒(UTC)頃に関するものは、同
投稿から48日余り後のものである。したがって、被告TOKAIから
上記発信元IPアドレスを割り当てられた通信によるログインの状態下
で、本件ツイート1の投稿に係る通信がされたものと認めることはでき
ない。
また、証拠(甲35、36、39、40、乙5の1)によれば、(I
Pアドレスは省略)というIPアドレスに係るドメインには「t−co
m.ne.jp」という文字列が含まれていたと認められるから、被告
TOKAIが割り当てるIPアドレスに係るドメインには、この「t−
com.ne.jp」という文字列が含まれるものと推認される。そし
て、当該文字列を含むドメインに係るIPアドレスが割り当てられた通
信によって本件アカウントにログインされた時刻は、その大半が17時
台から23時台までの間(いずれもUTC)であって、8時台(UTC)
は見当たらない。したがって、本件ツイート1が投稿された令和2(2
020)年6月29日8時45分(UTC)頃に、被告TOKAIの電
気通信設備を経由する通信によって本件アカウントにログインがされた
ものと認めることはできない。
かえって、証拠(甲40)によれば、本件ツイート1の投稿の直前の
ログインに係る通信は「amazonaws.com」を含むドメイン
のものであると認められ、これは、本件ツイート1の投稿に係る通信が、
被告TOKAIの電気通信設備以外の電気通信設備を経由してなされた
ことをうかがわせる事情といえる。
以上によれば、被告TOKAIが用いる電気通信設備が本件ツイート
1の投稿に供されたことは認められないから、本件ツイート1の投稿に
ついて、被告TOKAIが「開示関係役務提供者」に該当するとは認め
られない。
・・・
ウ 原告らの主張について
(ア) 原告らは、侵害情報の投稿の通信に用いられた電気通信設備とログイ
ンの通信に用いられた電気通信設備が同一であれば、当該電気通信設備
を用いる特定電気通信役務提供者は「開示関係役務提供者」に該当する
旨を主張する。しかし、仮に原告らの解釈を前提にしても、前記ア及び
イのとおり、本件各ツイートが被告らの電気通信設備を経由して投稿さ
れたとは認められないから、侵害情報の投稿の通信に用いられた電気通
信設備とログインの通信に用いられた電気通信設備が同一であるとは認
められない。したがって、原告らの上記主張は理由がない。
さらに、原告らは、侵害情報の投稿の通信に用いられた電気通信設備
が厳密に特定できなくとも、そのいずれかの電気通信設備を用いて投稿
されたことが明らかであれば、権利侵害を受けた者の権利回復を図ると
いう観点からも、立証責任を緩和して、いずれの経由プロバイダに対す
る発信者情報開示請求についても認められるべきであるとも主張する。
しかし、前記(1)のとおり、プロバイダ責任制限法4条1項は、情報の
発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件\nの下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特
定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することを認め
たものと解されるから、権利侵害を受けた者の権利回復を図るという観
点のみを根拠として、その者の立証責任を緩和し、複数の経由プロバイ
ダのうちいずれかの経由プロバイダの電気通信設備を用いて投稿された
ことさえ立証されれば、いずれの経由プロバイダに対しても発信者情報
開示請求が認められると解するというのは、相当でないというべきであ
る。原告らの主張は独自の見解というほかはなく、採用の限りではない。
(イ) 原告らは、さくらインターネット株式会社やアマゾンジャパン合同会
社が管理する通信網を経由した本件アカウントへのログイン(「sak
ura.ne.jp」や「amazonaws.com」の文字列を含
むドメインによるIPアドレスが割り当てられた通信によるログインを
指すと解される。)は、本件ツイート1及び2の投稿者とは異なる別事
業者が提供する、本件アカウントと連携したツイッター専用アプリケー
ションを用いて本件アカウントにログインしたものであって、上記投稿
者による通信ではないと主張する。しかし、本件全証拠によっても、原
告が主張する上記事実は認められないから、本件各ツイートの投稿の通
信に関する前記ア及びイの認定を何ら左右するものではない。
(ウ) したがって、原告らの前記(ア)及び(イ)の主張はいずれも採用すること
ができず、その他原告らが種々主張するところを十分に考慮しても、前\n記(2)ア及びイの認定を左右するには至らない。
◆判決本文
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2022.01. 6
令和3(ワ)12332 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和3年10月15日 東京地方裁判所
ログインに関する本件発信者情報がプロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断されました。
上記認定事実によれば,本件アカウントにログインした者が本件各投稿をす
ることによって,下記2において説示するとおり,原告の権利を侵害したもの
と認めるのが相当である。そうすると,ログインに関する本件発信者情報は,
上記侵害の行為をした発信者を特定する情報であるといえるから,「権利の侵
害に係る発信者情報」に該当するものと認めるのが相当である。
これに対し,被告は,本件発信者情報が本件アカウントにログインした者の
情報にすぎず,本件各投稿を行った本件発信者の情報ではないことからすると,
本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に該当しないと主張する。
しかしながら,本件発信者情報は本件各投稿を行った本件発信者の情報であ
るといえることは,上記において説示したとおりであり,被告の主張は,その
前提を欠く。のみならず,プロバイダ責任制限法4条の趣旨は,特定電気通信
による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバ
シー,表現の自由,通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通\n信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し
て発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより,加害者の
特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにある(最高裁平成21年\n(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676
頁参照)。そうすると,アカウントにログインした者が,権利の侵害に係る情
報を送信したものと認められる場合には,侵害情報の送信時点ではなく,アカ
ウントにログインした時点における発信者情報であっても,「権利の侵害に係
る発信者情報」に該当するものと認めるのが相当である。そうすると,被告の
主張は,上記判断を左右するに至らない。
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2022.01. 3
令和3(ワ)15819 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和3年12月10日 東京地方裁判所
ログインに関する本件発信者情報がプロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断されました。
前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ
る。
ア ツイッターの利用者がツイート等の投稿を行うには,事前にアカウントを
登録した上,ユーザー名,パスワード等を入力し,当該アカウントにログイ
ンすることが必要である。そのため,アカウントの使用者は,ツイッターの
仕組み上,当該アカウントにログインした者とされている。
イ ツイッター社により開示された本件IPアドレス等の使用期間(令和3年
3月15日から同年5月7日まで)においても,本件各アカウントは,いず
れも,昼夜を問わず頻繁にログインされるなど,継続的に使用されている。
(甲2ないし6,12)。
「権利の侵害に係る発信者情報」該当性
上記認定事実によれば,ツイッターの上記仕組み及び本件各アカウントの使
用状況を踏まえると,本件各アカウントにログインした者が本件各投稿をする
ことによって,下記2において説示するとおり,原告の権利を侵害したものと
認めるのが相当であり,これを覆すに足りる的確な証拠はない。そうすると,
ログインに関する本件発信者情報は,上記侵害の行為をした発信者を特定する
情報であるといえるから,「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するものと
いえる。
これに対し,被告は,本件発信者情報が本件アカウントにログインした者の
情報にすぎず,本件各投稿を行った本件発信者の情報そのものではないことか
らすると,本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に該当しない旨
主張する。
しかしながら,本件発信者情報は本件各投稿を行った本件発信者の情報であ
るといえることは,上記において説示したとおりであり,被告の主張は,その
前提を欠く。のみならず,プロバイダ責任制限法4条の趣旨は,特定電気通信
による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバ
シー,表現の自由,通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通\n信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し
て発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより,加害者の
特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにある(最高裁平成21年\n(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676
頁参照)。そうすると,アカウントにログインした者が,権利の侵害に係る情
報を送信したものと認められる場合には,侵害情報の送信時点ではなく,アカ
ウントにログインした時点における発信者情報であっても,「権利の侵害に係
る発信者情報」に該当するものと認めるのが相当である。
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