2024.10.17
令和6(ラ)10002 発信者情報開示命令申立却下決定に対する即時抗告 その他 令和6年10月4日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
台湾のプロバイダーが日本国内でサービスを提供している場合に、裁判管轄が争われました。原審は「管轄があるとはいえない」と判断しましたが、知財高裁(4部)はこれを取り消しました。
プロバイダ責任制限法9条1項3号は、我が国の裁判所が発信者情報開示命
令の申立てについて管轄権を有する場合として、同項1号及び 2 号に掲げるも
ののほか、日本において事業を行う者を相手方とする場合において、申立てが\n当該相手方の日本における業務に関するものであるときを定めている。
ところで、近年における情報流通の国際化の現状を考えると、インターネッ
ト上の国境を越えた著作権侵害に対する司法的救済に支障が生じないよう適切
な対応が求められている。地域的・国際的にオープンな性格を有するインター
ネット接続サービスの特性を踏まえると、当該サービスを提供する事業者の業
務が「日本における」ものか否かを形式的・硬直的に判断することは適切でな
く、その利用の実情等に即した柔軟な解釈・適用が必要になると解される。
こうした点を踏まえて、以下具体的に検討する。
2 相手方が「日本において事業を行う者」といえるか
一件記録によれば、相手方は台湾に所在し、電気通信業を営む法人であるも
のの、日本国内において、主に台湾からの旅行者のために国際ローミングサー
ビスを提供しており、日本の空港等では日本から台湾への旅行者向けにSIM
カードを販売していることが認められる。そうすると、相手方は、「日本におい
て事業を行う者」に当たるということができる。
3 「申立てが当該相手方の日本における業務に関するもの」といえるか\n一件記録によれば、本件各投稿がされたサイトである「BOOTH」は、日
本語が使用される日本向けのサイトであって、相手方が台湾で提供するインタ
ーネット接続サービスが、当該サイトのサーバに接続され、その結果、本件各
投稿がされたこと、本件各投稿のうちの一部の投稿(甲4の1)には、「お初の
オリジナルTL漫画です。よろしくお願いします」、「追加支援のお方ありがと
うございます。今後もよろしくお願いします。」との流ちょうな日本語による記
載があることが認められ、本件各投稿は、日本人向けに提供されているSIM
カードその他の相手方の日本人向けサービスを利用して行われた可能性が高い\nといえる。
そして、上記のとおり、当裁判所は、相手方に対して反論等の提出を求めた
ものの、期限を過ぎても相手方からの応答はなかったのであり、本件において、
上記判断を覆すに足りる証拠もない。
以上によると、本件各投稿は、実質的に見て日本に居住する日本人向けとし
か考えられないようなインターネット接続サービスを利用して行われたといえ
る。そのような場合に、あえて国内のプロバイダを経由することなく、外国に
業務の本拠を置くプロバイダが利用されたからといって、当該業務が「日本に
おける」ものでないとして我が国の国際裁判管轄を否定するのは相当でない。
本件申立ては、「申\立てが当該相手方の日本における業務に関するもの」に当た
るというべきである。
4 以上のとおり、本件申立ては、日本において事業を行う者を相手方とし、当該相手方の日本における事業に関する訴えであると認められるから、プロバイダ責任制限法9条1項3号により、日本の裁判所に国際裁判管轄があるというのが相当である。そうすると、国際裁判管轄がないことを理由に抗告人の本件申\立てを却下した原決定は相当ではなく、本件抗告は理由がある。よって、原決定を取り消し、原審において更に審理を尽くさせるため本件を東京地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。
◆判決本文
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2024.07.16
令和6(ネ)10011 令和6年6月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
ビットトレントのUNCHOKE通信に関する発信者情報開示請求について、1審は請求を棄却しましたが、知財高裁は、これを取消し、開示請求を認めました。
(2) 以上のとおり、本件各発信者は、本件複製ファイルのピースを保有してい
たこと、これが自動公衆送信の可能な状態にあったことは認められるが、当\n該ピースが再生可能なものか、著作物としての表\現の本質的特徴を直接感得
できるものかどうかは明らかでない。被控訴人は、そのような情報を自動公
衆送信し得るようにしても送信可能化権の侵害が明白とはいえない旨主張す\nるので、以下検討する。
ア 著作物たるファイルの自動公衆送信において、元のファイル(デジタル
データ)を分割したり暗号化するなどして送信するという仕組みも想定さ
れるところ、そのような形で自動公衆送信の対象となったデータだけを取
り上げた場合、デジタルデータの特性もあって、映像その他のファイルと
して復元・再生できないことも、十分あり得るものと考えられる。このよ\nうなもの全てについて、当然に公衆送信権の侵害が認められるものでない
としても、少なくとも、送信されるデータが著作物性の認められる元のフ
ァイルの一部を構成するピースであり、かつ、これらピースを集積するこ\nとで元のファイルに復元・再生することが可能なシステムの一環としてピ\nースの送受信が行われていると認められる場合には、当該ピースの送信を
もって公衆送信権の侵害があったと評価すべきである。
このような全体像を踏まえることなく、個々の公衆送信の対象となった
ピースを断片的に取り上げて、著作権(公衆送信権)の侵害が認められる
ためには当該ピース自体での再生が可能で、表\現の本質的特徴を直接感得
できることが必要であるとする解釈は、「木を見て森を見ない」議論とい
わざるを得ず、公衆送信権の保護を形骸化させるものといわざるを得ない。
以上の議論は、送信可能化権の侵害についても妥当するものと解される。\n
イ これを本件について見るに、ビットトレントネットワークは通常一つの
シーダーから始まるところ、本件動画と本件複製ファイルのハッシュ値が
一致することから、本件複製ファイルは本件動画を複製したものであるこ
と、本件各発信者の保有するピースは本件複製ファイルを細分化したもの
であることが認められる。本件各発信者は、ビットトレントネットワーク
を形成するピアとして、本件複製ファイルの必要なピースを転送又は交換
し合うことで、最終的に本件複製ファイルを構成する全てのピースを取得\nするという目的に沿って、そのシステムの一環として、ピースの送受信を
行っているものである。
そうすると、以上のようなビットトレントネットワークの仕組みの下で
本件複製ファイルのピースの送受信が行われている本件においては、当該
ピース自体での再生が可能とはいえず、それだけでは表\現の本質的特徴を
直接感得できないとしても、公衆送信権、送信可能化権の侵害の成立を妨\nげないというべきである。
3 争点3(本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)につい
て
(1) 基本的な視点
ア プロバイダ責任制限法5条1項が発信者情報の開示請求を規定している
趣旨は、特定電気通信(同法2条1号)による侵害情報の流通は、これに
より他人の権利の侵害が容易に行われ、ひとたび侵害があれば際限なく被
害が拡大する一方、匿名で情報の発信が行われた場合には加害者の特定す
らできず被害回復も困難となるという、他の情報の流通手段とは異なる特
徴があることを踏まえ、侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、
表現の自由及び通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通\n信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に
対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、
加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解さ\nれる。
ところで、令和3年法律第27号による改正により、従前の発信者情報
開示請求に加え、「特定発信者情報」の開示請求制度が創設された。これ
は、個別の書き込みごとのIPアドレス等が記録されることが多い従来型
の電子掲示板等とは異なり、サービスにログインした際のIPアドレス等
(ログイン時情報)は記録されているものの投稿した際のIPアドレス等
を記録していないタイプのSNSサービスが現れ、そのような場合のログ
イン時情報の開示につき、従来の発信者情報開示請求の枠組みで対応でき
るか解釈上の疑義が生じていたことを踏まえ、立法的な解決を図ったもの
である。上記改正法は、ログイン時情報を含む特定発信者情報についても
開示請求の道を開く一方、その対象となる「侵害関連通信」(プロバイダ
責任制限法5条3項、同法施行規則5条)は、それ自体としては権利侵害
性のない通信であることを踏まえ、一定の補充的な要件を求めることとし
たものである(プロバイダ責任制限法5条1項)。
このような改正法の趣旨も踏まえると、それ自体として権利侵害性のな
い通信を「特定発信者情報以外の発信者情報の開示請求」の手続に安易に
乗せるような運用は、上記改正後のプロバイダ責任制限法5条の予定する\nところではないと解される。
イ 他方、本件においては、送信可能化権が有する特殊な性格についても、\n十分な配慮が必要となる。すなわち、著作権法は、公衆送信権を著作権の\n支分権と定めるところ(同法23条1項)、インターネットのウェブサイ
ト等における公衆送信は、自動公衆送信(同法2条1項9号の4)として
行われることになる。ここでは、閲覧者(公衆)からの閲覧請求信号に応
じてサーバから情報が送信されるが、そのような自動公衆送信が実際に行
われたかどうかを著作権者が把握するのは困難である。そこで、現実の送
信の前段階における準備行為である「送信可能化」を公衆送信権の侵害行\n為類型に含めることとし(同法23条1項括弧書き)、もって権利保護の
実効化を図ったものである。送信可能化権の侵害を理由とする発信者情報開示請求の解釈適用においても、送信可能\化権の上記の意義が没却されないよう留意が必要である。
(2) 以上を踏まえて検討するに、UNCHOKE通信は、送信可能化がされた\nことを前提として、相手方ピアが保有するピースのアップロード(そのピー
スを欲するピアにとってはダウンロード)が可能であることを伝えるもので\nあり、それ自体によって侵害情報の流通がされるわけでないことはもとより、
当該通信が送信可能化惹起行為(著作権法2条1項9号の5イ、ロ)に当た\nるともいえない(この点は、原判決が14頁1行目〜3行目で判断するとお
りである。)。しかし、送信可能化権の侵害とは、将来に向けて想定される自動公衆送信の準備が整ったことをもって公衆送信権の侵害類型と位置付けられたもので\nあるから、自動公衆送信が可能な状態が継続している限り、その違法状態は\n継続していると解するのが相当である。著作権法2条1項9号の5イ、ロは、
上記のような違法状態を招来するいわば入口としての行為を定義したものに
すぎない。
このような送信可能化権の特性に照らすと、送信可能\化権の侵害を理由に
発信者情報の開示を求める場合において、「権利の侵害に係る発信者情報」
(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)を、送信可能化惹起行為そのものの\n通信に係る発信者情報に限定して解釈する必要はないし、それが適切ともい
えない。送信可能化が完了し、その後引き続き送信可能\な状態が継続してい
る限り、そのような状態であることを直接的に示す通信であれば、当該通信
に係る発信者情報を「権利の侵害に係る発信者情報」と認めることができる
というべきである。そのように解さないと、著作権法が送信可能化権の侵害\nを公衆送信権の侵害行為類型として認めた趣旨が没却されることになりかね
ない。他方、開示の対象とする発信者情報を上記の限度にとどめれば、情報
の発信者のプライバシー、通信の秘密等が不当に損なわれることにはならな
いと解される。
SNSでの投稿により名誉毀損等の権利侵害が生ずるような場合であれば、
侵害情報の流通そのものに係る当該投稿に係る通信以外についてまで「権利
の侵害に係る発信者情報」の範囲を安易に拡張解釈すべきではないが、本件
をこれと同列に論ずることはできない。
(3) 以上の枠組みに基づいて検討するに、上述したビットトレントネットワー
クの仕組み(上記第3の1(3)ウ)、本件調査会社による調査結果(同(4)イ)
に照らすと、本件におけるUNCHOKE通信は、本件複製ファイルを共有
するビットトレントネットワークに参加した本件各発信者において、その保
有するピースにつき送信可能化が完了し、引き続き自動公衆送信が可能\な状
態にあることを明らかにする通信にほかならない。そうすると、UNCHO
KE通信をもって特定された本件各通信に係る発信者情報は、「権利の侵害
に係る発信者情報」に該当するというべきである。
◆判決本文
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2024.06. 4
令和5(ネ)10110 発信者情報開示請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和6年5月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
発信者情報開示請求について、主な争点は、(争点1)「権利が侵害されたことが明らかである」(プロ責法5条1項1号)か、(争点2)本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(同5条1項柱書)に当たるかでした。1審はいずれも該当しないとして請求を棄却しましたが、知財高裁は、これを取り消しました。
(1) 前提事実(訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」の第2の2)によると、
共有対象となる特定のファイルに対応して形成されたビットトレントネットワークに
ピアとして参加した端末は、他のピアとの間でハンドシェイクの通信を行って稼働状
況やピース保有状況を確認した上、上記特定のファイルを構成するピースを保有する\nピアに対してその送信を要求してこれを受信し、また、他のピアからの要求に応じて
自身が保有するピースを送信して、最終的には上記特定のファイルを構成する全ての\nピースを取得する。
そして、証拠(甲5〜9、11)及び弁論の全趣旨によると、ビットトレントネッ
トワークで共有されていた本件複製ファイルが本件動画の複製物であること、原判決
別紙動画目録記載の各IPアドレス及びポート番号の組合せは、本件監視ソフトウェ\nアが、本件複製ファイルを共有しているピアのリストとしてトラッカーから取得した
ものであること、同目録記載の発信日時は、上記IPアドレス及びポート番号を割り
当てられていた各ピアが、本件監視ソフトウェアとの間で行ったハンドシェイクの通\n信において応答した日時であることがそれぞれ認められる。
そうすると、上記各ピアのユーザーは、その対応する各発信日時までに、本件動画
の複製物である本件複製ファイルのピースを、不特定の者の求めに応じて、これらの
者に直接受信させることを目的として送信し得るようにしたといえ、他のピアのユー
ザーと互いに関連し共同して、本件動画の複製物である本件複製ファイルを、不特定
の者の求めに応じて、これらの者に直接受信させることを目的として送信し得るよう
にしたといえる。これは、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動
公衆送信装置である各ピアの端末の公衆送信用記録媒体に本件複製ファイルを細分化
した情報である本件複製ファイルのピースを記録し(著作権法2条1項9号の5イ)、
又はこのような自動公衆送信用記憶媒体にビットトレントネットワーク以外の他の手
段によって取得した本件複製ファイルが記録されている自動公衆送信装置である各ピ
アの端末について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続を行った(同号ロ)
といえるから、本件動画につき控訴人が有する送信可能化権が侵害されたことが明ら\nかである。
(2) 被控訴人は、各ピアのユーザーが送信可能化権を侵害したことが明らかという\nには、当該ピアのユーザーのピース保持率が100%又はこれに近い状態に達してい
ることを要すると主張する。しかし、上記(1)のとおり、ビットトレントネットワーク
に参加した各ピアは、共有対象となったファイルの一部であるピースをそれぞれ保有
してこれを互いに送受信し、最終的には当該ファイルを構成する全てのピースを取得\nすることが可能な状態を作り出しているのであるから、各ピアのユーザーは、他のピ\nアのユーザーと互いに関連し共同して、当該ファイルを自動公衆送信し得るようにす
るものといえる。そして、ハンドシェイクの通信に応答したピアは、当該ファイルの
一部であるピースを保有してこれを自身の端末に記録し、他のピアの要求に応じてこ
れを送信する用意があることを示したものと認められるから、その保有するピースの
多寡にかかわらず、上記送信可能化行為を他のピアと共同して担ったものと評価でき\nる。被控訴人の主張は採用することができない。
・・・・
(1) 前記1(1)のとおり、原判決別紙動画目録記載のIPアドレス、ポート番号及び
発信日時により特定される通信は、各ピアが本件監視ソフトウェアとの間で行ったハ\nンドシェイクの通信において応答した通信であって、他のピアとの間で本件複製ファ
イルのピースを送受信し、又は本件複製ファイルを記録した端末をネットワークに接
続する通信そのものではない。このような通信に係る発信者情報(本件各発信者情報)
も、法5条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるかが問題となる。
(2) そこで検討すると、法5条1項は、開示を請求することができる発信者情報
を「当該権利の侵害に係る発信者情報」とやや幅を持たせたものとし、「当該権利の
侵害に係る発信者情報」のうちには、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害
関連通信に係るものとして総務省令で定めるもの。)を含むと規定しているところ、
特定発信者情報に対応する侵害関連通信は、侵害情報の記録又は入力に係る特定電気
通信ではない。上記の各規定の文理に照らすと、「当該権利の侵害に係る発信者情報」
は、必ずしも侵害情報の記録又は入力に係る特定電気通信に係る発信者情報に限られ
ないと解するのが合理的である。
また、法5条の趣旨は、特定電気通信による情報の流通には、これにより他人の権
利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情
報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという、他
の情報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ、特定電気通信による情報の流通
によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信\nの秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信
設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することがで
きるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図るこ\nとにあると解される(最高裁平成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小
法廷判決・民集64巻3号676頁参照)。なお、令和3年法律第27号による改正
により、特定発信者情報の開示請求権が新たに創設されるとともに、その要件は、特
定発信者情報以外の発信者情報の開示請求権と比して加重されている。その趣旨は、
SNS等へのログイン時又はログアウト時の各通信に代表される侵害関連通信は、こ\nれに係る発信者情報の開示を認める必要性が認められる一方で、それ自体には権利侵
害性がなく、発信者のプライバシー及び表現の自由、通信の秘密の保護を図る必要性\nが高いことから、侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内において開示を認
めることにあると解される。
さらに、著作権法23条1項は、著作権者が専有する公衆送信を行う権利のうち、
自動公衆送信の場合にあっては送信可能化を含むと規定する。その趣旨は、著作権者\nにおいて、インターネット等のネットワーク上で行われる自動公衆送信の主体、時間、
内容等を逐一確認し、特定することが困難である実情に鑑み、自動公衆送信の前段階
というべき状態を捉えて送信可能化として定義し、権利行使を可能\とすることにある
と解される。
ビットトレントによるファイルの共有は、対象ファイルに対応したビットトレント
ネットワークを形成し、これに参加した各ピアが、細分化された対象ファイルのピー
スを互いに送受信して徐々に行われるから、その送受信に係る通信の数は膨大に及ぶ
ことが推認できる。しかるところ、ピースを現実に送受信した通信に係るものでなく
ては「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないとすると、ビットトレントネット
ワークにおいて著作物を無許諾で共有された著作権者が侵害の実情に即した権利行使
をするためには、ネットワークを逐一確認する多大な負担を強いられることとなり、
前記のとおり法5条が加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることとし\nた趣旨や、著作権法23条1項が自動公衆送信の前段階というべき送信可能化につき\n権利行使を可能とした趣旨にもとることになりかねない。\n
他方、ハンドシェイクの通信は、その通信に含まれる情報自体が権利侵害を構成す\nるものではないが、専ら特定のファイルを共有する目的で形成されたビットトレント
ネットワークに自ら参加したユーザーの端末がピアとなって、他のピアとの間で、自
らがピアとして稼働しピースを保有していることを確認、応答するための通信であり、
通常はその後にピースの送受信を伴うものである。そうすると、ハンドシェイクの通
信は、これが行われた日時までに、当該ピアのユーザーが特定のファイルの少なくと
も一部を送信可能化したことを示すものであって、送信可能\化に係る情報の送信と同
一人物によりされた蓋然性が認められる上、当該ファイルが他人の著作物の複製物で
あり権利者の許諾がないときは、ログイン時の通信に代表される侵害関連通信と比べ\nても、権利侵害行為との結びつきはより強いということができ、発信者のプライバシ
ー及び表現の自由、通信の秘密の保護を図る必要性を考慮しても、侵害情報そのもの\nの送信に係る特定電気通信に係る発信者情報と同等の要件によりその開示を認めるこ
とが許容されると解される。
以上によると、本件各発信者情報は、法5条1項にいう「当該権利の侵害に係る発
信者情報」に当たると解するのが相当である。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和5(ワ)70029
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2024.02.23
令和5(ワ)70028 発信者情報開示請求事件 著作権 民事訴訟 令和5年12月22日 東京地方裁判所
発信者情報開示請求が棄却されました。理由は、ファイル共有ソフトであるBitTorrentによるファイル共有行為について、”UNCHOKEの通信がされたとされる時点では公衆送信可能\となったとは認められないというものです。同様の判決は、他にもあります(令和4(ワ)23937号、令和5(ワ)70041号など)。
以上のような本件調査会社の説明を前提とし、本件調査結果について本件調
査会社の説明のとおりの事実が認められる場合、本件各通信をしたピアにおい
ては、「UNCHOKE」の通信をする時点より前の時点で、既に本件動画のフ
ァイルの少なくとも一部が複製されて当該ピアに記録された上で、当該ピアが
インターネットに接続されビットトレントのネットワークにも接続されるな
どして、本件動画のファイルのピースが他のピアに自動公衆送信(アップロー
ド)し得る状態になっていたこととなる。
そして、既に述べたとおり、ある行
為により自動公衆送信し得るようにされた著作物について、別途、著作権法2
条1項9号の5のイ又はロに該当する行為がされたときに再び「送信可能化」\nに該当する行為がされたといえると解されるが、本件においては、「UNCH
OKE」の通信がされたとされる時点において、本件動画について、更に、同
号のイ又はロに該当する何らかの行為が行われたことを認めるに足りない。
なお、特定電気通信による情報の流通によって権利が侵害されたことに関し、そ
れ自体では権利侵害性のない通信について、プロバイダ責任制限法は、「侵害
関連通信」(プロバイダ責任制限法5条3項)を総務省令で定めるとして、その
範囲を明らかにしている。特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び
発信者情報の開示に関する法律施行規則5条は、侵害関連通信として複数の通
信を定めるところ、そこに上記の「UNCHOKE」に該当する通信が規定さ
れているとは認められず、また、「UNCHOKE」の通信時点において、本件
調査会社の端末に対して本件動画のファイルのピースが送信(自動公衆送信)
されているともいえない。
(3) 原告は、本件各通信が「UNCHOKE」の通信であると特定した上で、本
件各通信に係る発信者情報についてプロバイダ責任制限法5条1項に基づき
その開示を請求しているところ、以上に述べたところによれば、本件調査結果
に至る手法と本件調査会社の説明に基づく「UNCHOKE」の通信の内容に
よると、直ちに本件各通信に係る情報の流通によって、公衆送信権が侵害され
たと認めることはできない。また、その他、本件各通信に係る情報の流通によ
って、公衆送信権が侵害されたことを認めるに足りる事情の主張、立証はない。
◆判決本文
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