種苗法33条に基づく差止事件は個人的は初めてみました。登録品種と同じとはいえないとして棄却されました。
ところで,種苗法においては,育成者権の及ぶ範囲について,「品種登録を受けている品種(以下「登録品種」という。)及び当該登録品種と特性により明確に区別されない品種」を「業として利用する権利を専有する。」と定める(同法20条1項本文)のみで,育成者権の権利範囲の解釈について特許法70条のような規定は置かれていない。
しかし,種苗法において「品種」とは,「重要な形質に係る特性」(特性)の全部又は一部によって他の植物体の集合と区別することができ,かつ,その特性の全部を保持しつつ繁殖させることができる一の植物体の集合」(同法2条2項)とされ,「農林水産大臣は,農業資材審議会の意見を聴いて,農林水産植物について農林水産省令で定める区分ごとに,第二項の重要な形質を定め,これを公示する」(同条7項)と定められていること,また,品種登録の要件として,「品種登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた他の品種と特性の全部又は一部によって明確に区別されること」(同法3条1項1号,明確区別性),「同一の繁殖の段階に属する植物体のすべてが特性の全部において十分に類似していること」(同項2号,均一性),「繰り返し繁殖させた後においても特性の全部が変化しないこと」(同項3号,安定性)の要件を全て満たして初めて新品種としての登録が認められ,農林水産大臣は,品種登録出願につき前条(品種登録出願の拒絶)第1項の規定により拒絶する場合を除いて品種\n
登録をしなければならない」(同法18条1項)とされている。そして,品種登録の際には,「品種登録は品種登録簿に次に掲げる事項を記載してするものとする。・・・四 品種の特性)」(同条2項),「農林水産大臣は,第1項の規定による品種登録をしたときは・・・農林水産省令で定める事項を公示しなければならない。」(同条3項)とされており,これらの種苗法に掲げられた諸規定を総合して解釈すれば,新たな品種として登録を認められた植物体とは,特性(重要な形質に係る特性)において,他の品種と明確に区別され,特性(重要な形質に係る特性)において均一であり,特性(重要な形質に係る特性)において変化しないことという要件を満たした植物体であって,その特性(重要な形質に係る特性)は品種登録簿により公示されることになっているのであるから,品種登録簿の特性表に掲げられた重要な形質に係る特性は,当該植物体において他の品種との異同を識別するための指標であり,これらの点において他の品種と明確に区別され,安定性を有するものでなければならないものというべきである。\nそして,上記の点は,農水省解説において採用されているところの,登録品種と侵害が疑われる品種が「同一品種であるか否かを判断するには,常に植物自体を比較する必要がある」という現物主義(原告は,この立場によるべきであると主張している。)の下でも,妥当するといわなければならない。すなわち,育成者権の侵害を認めるためには,少なくとも,登録品種と侵害が疑われる品種の現物を比較した結果に基づいて,後者が,前者と,前者の特性(特性表記載の重要な形質に係る特性)により明確に区別されない品種と認められることが必要であるというべきである(なお,「明確に区別される」かどうかについては,特性表\に記載された数値又は区分において,その一部でも異なれば直ちに肯定されるものではなく,相違している項目,相違の程度,植物体の種類,性質等をも勘案し,総合し
て判断すべきである。仮に,品種登録簿の特性表に記載された特性をもって,特許権における特許請求の範囲のごとく考える立場〔以下「特性表\主義」という。〕によるとすれば,侵害が疑われる品種について,(登録品種の現物ではなく)登録品種の品種登録簿の特性表記載の特性と比較して,登録品種と明確に区別されない品種と認められるか否かを検討すれば足りることになるが,その場合においても,「明確に区別される」かどうかを総合的に判断すべきことは同様である。)。\n
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本件鑑定書の「5.考察」では,3菌株(K1株,K2株,G株)を用いて行った菌糸性状試験の調査項目の一部に有意差が認められるとしているにもかかわらず,その有意差が本件登録品種の特性と異なるのか,異なるとすればそれはどの程度かについて,何らの見解も示しておらず,有意差が認められるにもかかわらず,「3菌株は遺伝的に別の特性を有すると
は言えない」との結論が導かれた理由は,不明であるといわざるを得ない。
また,本件鑑定書の「5.考察」では,栽培試験の結果について,K1株においては子実体発生を確認できなかったとして,K2株とG株の比較について言及するものの,本件鑑定嘱託における鑑定嘱託事項である「品種登録原簿に記載された重要な形質に係る特性と異なるか否か,異なる場合にはその異なる程度(明確に区別できる程度か否か)について判定する」ことは,行われていない。
したがって,鑑定嘱託の結果に基づいて,G株(被告会社の販売に係る被告製品から抽出した種菌の栽培株)に係る品種がK1株(本件登録品種の種菌として種苗センターに寄託されたものの栽培株)に係る品種と「特性により明確に区別されない」と認めることはできないし,G株に係る品種がK2株(原告が本件登録品種の種菌として保有していたと主張するものの栽培株)に係る品種と「特性により明確に区別されない」と認めることもできない。
◆判決本文