知財高裁は、育成者権侵害について、侵害品の譲渡数量の70%について販売不可事情ありとした一審判決を維持しました。品種調査の費用も1/2認められました。
控訴人は,1)青果物としてのしいたけ市場において,被控訴人のしい
たけには,99.9%の圧倒的なシェアを占める強力な競合品が存在し
ていたこと,2)漬物製造・販売メーカーである控訴人(侵害者)が従来
の取引を通じて培ってきた小売店における販路と,小売店,問屋の担当
者に対する営業努力による市場開拓の結果がしいたけの販売実績につな
がったこと,3)侵害品は,被控訴人のしいたけに比べて,低価格の個別
包装品であり,一般消費者向けの見た目を備える等品質が良好であった
こと,4)業務用の被控訴人のしいたけと,一般消費者向けの控訴人のし
いたけ(被告各しいたけ)の市場が非同一であることなどを指摘して,
被控訴人には,譲渡数量の全部又はその99.9%に相当する数量を育
成者権者が「販売することができないとする事情」(法34条1項ただ
し書)があったと認めるのが相当であると主張する。
しかしながら,前記1)の市場占有率(非占有率)がそのまま「販売す
ることができないとする事情」(その割合)に反映されるとの考え方は
極論であって採用できないというべきであるし,前記2)の控訴人が漬物
の製造・販売によって築いた信用や販売力というものを殊更しいたけの
市場において重要視することも,その関連性が客観的な証拠に裏付けら
れているとまではいえない以上,採用できない。また,前記3)及び4)の
点も,原判決が認定した70%という割合を超えて「販売することがで
きないとする事情」があったと認めるには足りない。
結局のところ,控訴人が当審で主張する諸点はいずれも原審における
主張の繰り返しにすぎず,採用できないものといわざるを得ない。
(ウ) 被控訴人の主張(当審における主張)について
他方,被控訴人は,正当な権利に基づかない販売(侵害品の販売)を
前提に市場競争力等を論ずること自体失当であるとして,被控訴人は控
訴人による侵害行為がなければ,本件品種に係るしいたけを全部販売し
て1kg当たり152円の利益を上げることができたのであるから,法
34条1項ただし書の「販売することができないとする事情」は皆無で
あった,などと主張する。
しかしながら,侵害行為の前後で控訴人・被控訴人の市場占有率が大
きく変わっていることなどの事情は具体的に示されておらず,ほかに原
判決が認めるよりも更に「販売することができた」と認めるに足る客観
的事情はない。
したがって,この点に関する被控訴人の主張も採用できない。
キ 小括
以上を前提に,本件で認められるべき逸失利益の額を検討すると,次の
とおりとなる。
すなわち,控訴人に本件育成者権侵害の不法行為が成立する期間は平成
24年6月から平成25年1月までの8か月間であり,この間の譲渡数量
(損害額算定の基礎となる譲渡数量)は15万5579.297kgであ
って,これに被控訴人のしいたけ1kg当たりの利益額152円を乗じる
と,その額は2364万8053円となる。
ただし,このうち70%については被控訴人において「販売することが
できないとする事情」があったと認められることから,その7割を減じる
こととすると,本件で認められるべき被控訴人の逸失利益の額は,709
万4415円となる。
・・・
(2) 調査費用
証拠(甲19〜21)によれば,被控訴人は,本件育成者権侵害の事実を
調査するため,1)侵害状況記録書等作成費用11万6260円,2)品種調査
資料作成費用143万9778円及び3)DNA解析費用46万7882円(合
計202万3920円)を支出したものと認められる。しかるところ,本件
においては,法2条5項2号に基づく収穫物に対する権利行使が一部制限さ
れること等の事情に鑑みれば,前記金額のうち,その2分の1に相当する1
01万1960円に限り,控訴人の侵害行為と相当因果関係のある損害と認
めるのが相当である。
(3) 弁護士費用
本件の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害としては,
81万円を認めるのが相当である。
◆判決本文