2019.12.27
平成28(ワ)16912 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月4日 東京地方裁判所
CS関連発明についての特許権侵害事件です。東京地裁40部は、差止、102条2項による損害賠償を認めました。損害賠償額は計算鑑定人が計算しています。総額は不明です。
なお、クレームは「〜情報管理プログラム。」です。
2 争点1−1(被告プログラムにおける架電番号が「架電先の電話器を識別す
る識別情報」に当たるか)について
(1) 証拠(甲6,7)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件不動産サイトにお
ける物件の連絡先への架電等の仕組みは,以下のとおりであると認められる。
ア 本件不動産サイトにおいて,ユーザが特定の不動産物件の詳細情報を選
択すると,例えば,以下の画面のような,当該物件についてのウェブペー
ジが表示され,同ページの下段・右側に「電話」ボタンが表\示される。
イ 上記「電話」ボタンをユーザが選択すると,例えば,次の画面に遷移す
る。同画面には,架電番号が表示されるとともに「このページを開いて\nから10分以内にお電話をお願いいたします。」「上記無料通話番号は,
今回のお問合せ用に発行したワンタイムの電話番号です。」と表示される。\n
ウ ユーザが上記画面に表示された架電番号に架電すると,当該物件を管\n理する不動産業者に宜接通話が繋がるが,一定時間を経過すると,当該
架電番号に架電しでも電話は繋がらず,接続先がない旨の自動音声案内
が流れる。
エ 上記イの画像の表示から,架建言することなく10分以上経過してから,
間一携帯端末で,同一の不動産物件について架電番号を表示すると,例え\nば,以下のとおり,別の架電番号が表示される。\n
オ 上記ウにより繋がらなくなった架電番号は, 53Jのユーザ、端末や商品に
対応した電話番号として再利用し得る。なお,ユーザが,同架電番号に
いったん架電をすると,その後も,同番号は端末上にリダイヤノレのため
再表示され,同時に,別の端末において異なる物件の連絡先として同ー\nの架電番号が表示され得る。\n
(2) 被告は,被告プログラムにおける架電番号が「架電先の電話器を識別する
識別情報J (構成要件(1))に該当しないので,被告プログラムは,構成要件\n(1)を充足しないと主張する。
しかしr識別情報」の意義については,本件明細書等の段落(0019)
には「識別情報とは,架電先に関連付けられることによりその架電先を識別
する情報であj ると記載されているところ,証拠(甲6,7,乙2) によれ
ば,被告プログラムを使用してサービスを提供している本件不動産サイトに
おいては,ユーザが希望する物件を選択すると,当該物件の詳細情報が表示\nされた画面に問合せのための専用電話番号が表示され,当該番号が表\示され
るとその時点で架電番号がロックされた状態となり,その表示から一定期間,\n当該架電番号に架電するとその不動産業者に架電されるとの事実が認められ
る。そうすると,被告プログラムにおける架電番号は,「架電先に関連付け
られることによりその架電先を識別する情報」であり,構成要件(1)にいう
「識別情報」に該当するということができる。
(3) また,原告が行った実験結果(甲8・実施結果1。なお,以下の実験結果
はいずれも被告プログラムを使用している本件不動産サイトを利用したもの
である。)によれば,(i)本件不動産サイトのユーザが,端末を用い,特定
の物件の連絡先画面を表示させると,特定の架電番号が表\示された,(ii)そ
のまま架電せずに前記連絡画面を閉じ,再び物件の連絡先画面を表示させる\nと同じ架電番号が表示された,(iii)ユーザが,異なる端末の電話機能を用い,\n同一の架電番号に架電しても,同一の連絡先である広告主に接続されたとの
事実が認められる。
上記結果は,被告プログラムにおいて,ある端末に特定の物件の連絡先に
繋がる架電番号を表示させると,それにより当該番号と架電先が関連付けら\nれ,それ以降は当該架電番号に対応する連絡先の不動産業者が識別されると
の上記(1)の認定を裏付けるものであり,同結果に照らしても,被告プログ
ラムにおける架電番号は,構成要件(1)にいう「識別情報」に該当するという
ことができる。
(4) これに対し,被告は,架電番号と発信者番号とで架電先を識別するので,
架電番号は,本件発明にいう「識別情報」に当たらないと主張し,端末に表\n示させた架電番号に発信者番号非通知の設定で架電した場合,架電先にも接
続されないという実験結果(乙3)は被告主張を裏付けるものであると主張
する。
しかし,架電前においては,被告プログラムは当該ユーザの発信者番号を
知らないはずであるから,架電前において,同プログラムが架電番号と発信
者番号とで架電先を識別するとは考え難い。上記実験において端末に表示さ\nれた架電番号に架電した場合に架電先に接続されなかったのは,後記のとお
り,被告プログラムが当該架電番号に架電した時点以降,架電番号と発信者
番号とで架電先が識別されていること(この点については当事者間に争いが
ない。)に起因するものと考えるのが相当であって,上記実験結果は,架電
前において表示された架電番号と架電先が関連付けられることを否定するに\n足りるものではない。
むしろ,原告の行った実験結果(甲9)によれば,発信者番号を送信し得
ないパーソナルコンピュータに本件不動産サイトを表\示した場合であっても,
物件の連絡先に繋がる架電番号が表示され,携帯端末から当該番号に架電し\nたところ,当該連絡先に接続したとの事実が認められ,これによれば,被告
プログラムは,架電前の時点において,架電番号により架電先を識別してい
ると推認することが相当である。
(5) 被告は,乙8の実験2の結果は,被告プログラムにおいて,1つの架電番
号が,同時に複数のユーザが複数の架電先に接続するために利用されている
ことを示しているので,当該架電番号のみでは架電先を識別し得ないと主張
する。
しかし,上記実験は,(i)本件不動産サイトのユーザが,端末(1)を用い,
物件1の連絡先画面を表示させると架電番号が表\示された,(ii)端末(1)の電
話機能で当該番号に架電した後,1990台分の仮想端末を用い,それぞれ\n物件2の連絡先画面を表示させた,(iii)その後,上記(i)の時点から10分
以内に,端末(2)で物件2の連絡先画面を表示すると,同一の架電番号が表\示
された,(iV)上記(iii)の後,前記(i)から10分以内に,端末(1)で再び物件
1の連絡先画面を表示すると,同一の架電番号が表\示されたというものであ
ると認められる。
同実験の(iii)において,端末(2)において物件2の連絡先画面が表示された\nのは,上記(i)のとおり,端末(1)により架電をした後であるから,物件2の
連絡先画面が表示された時点においては,物件1の連絡先は,架電番号のみ\nではなく,架電番号と発信者番号とで識別されるようになっており,それゆ
えに,物件2の連絡先画面において同一の架電番号を表示することが可能\に
なったものと考えられる。
そうすると,上記実験も,架電前において表示された架電番号と架電先が\n関連付けられることを否定するに足りるものではないというべきである。
(6) 被告は,乙10の実験結果も,同一の架電番号が同時に複数のユーザによ
って未架電の異なる架電先に架電するための番号として用いられることを示
していると主張する。
ア 乙10の実験は,(i)本件不動産サイトのユーザが,端末(1)を用い,物
件1の連絡先画面を表示させると架電番号Xが表\示され,同番号に架電し
た(午前2時10分),(ii)その後,端末(1)で物件2の連絡先画面を表示\nさせると,架電番号Yが表示された(午前2時10分),(iii)その後,1
994台分の仮想端末を用い,物件3の連絡先画面を表示させ,それぞれ\n架電番号を表示させた,(iV)端末(2)を用い,前記(ii)の表示から10分以\n内に,物件3の連絡先画面を表示させると,架電番号Yが表\示され(午前
2時14分),続いて端末(2)から架電番号Yに架電した(午前2時15
分),(v)端末(3)を用い,前記(ii)の表示から10分以内に,物件4の連\n絡先画面を表示させると,架電番号Yが表\示された(午前2時15分),
(vi)前記(ii)の表示から10分以内に,端末(1)〜(3)において,再度各物件
について架電番号を表示させると,いずれの端末においても架電番号Yが\n表示されたというものであると認められる。\n
イ 上記実験結果のうち,(iv)〜(vi)において端末(1)〜(3)において架電番
号Yが表示されたこと,取り分け,端末(1)において架電番号Yに架電をし
ていないにもかかわらず,端末(1)及び(3)に架電番号Yが表示されたことに\nついては,ある端末(この場合は端末(1))から架電すると,当該端末の発
信者番号が被告プログラムに登録され(この点は争いがない。被告準備書
面9の14頁参照),架電済みの端末に払い出された未架電の架電番号に
ついても,架電番号と発信者番号とで識別されることによるものであると
考えられる。
このことは,原告が行った実験結果(甲15)からも裏付けられる。す
なわち,同実験(甲15・実験A−1,2)は,(i) 本件不動産サイト
のユーザが,端末Aを用い,物件Aの連絡先画面を表示させると,架電番\n号Aが表示された,(i) 端末Aの電話機能で架電番号Aに架電した後,\n端末Aで物件Bの連絡先画面を表示させると,架電番号Bが表\示された,
(iii) 前記(ii)から10分以内に,端末Bの電話機能を用い架電番号Bに\n架電しても,物件Bの連絡先である広告主には接続されなかった,(iv)他
方,前記(iii)の代わり,端末Aの電話機能を用いて架電すれば,物件Bの\n連絡先である広告主に接続されたというものであると認められる。同実験
結果によれば,架電済みの端末に払い出された未架電の架電番号について
も,架電番号と発信者番号とで識別されるものと認めるのが相当である。
そうすると,上記アの(iv)〜(vi)において架電番号Yが表示されたの\nは,その時点において,端末(1)及び(2)については,架電番号Yと各端末の
発信者番号により関連付けが行われていたからであり,同実験結果も,架
電前において表示された架電番号と架電先が関連付けられることを否定す\nるに足りるものではないというべきである。
(7) 以上によれば,被告プログラムにおいて,未架電の端末にのみ架電番号が
表示されている場合には,当該架電番号は,「架電先に関連付けられること\nによりその架電先を識別する情報」であり,構成要件(1)にいう「識別情報」
に該当するということができる。そして,前記判示のとおり,被告プログラ
ムが架電後においては架電番号と発信者番号とで架電先を識別しているとし
ても,このことは被告プログラムが構成要件(1)を充足するとの結論を左右す
るものではないというべきである。
したがって,被告プログラムは,構成要件(1)を充足する。
・・・
(1) 特許法102条2項所定の利益の額について
ア 特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は,
侵害者の侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売すること
によりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した
限界利益の額であり,その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべ
きである(知的財産高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7
日判決参照)。
本件における計算鑑定の結果によれば,被告プログラムについては,平
成25年6月分から平成30年9月分までの間,別紙2−3(1)欄記載の売
上高があり,製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費の額は同
(2)欄記載のとおりであるので,その限界利益の額は同(3)欄記載のとおりで
あると認めることができる。
イ これに対し,原告は,●(省略)●であることを指摘し,別紙2−3(2)
欄記載の変動費に含まれる●(省略)●からの仕入費の額については,そ
の利益相当額50%を控除した額とするべきであると主張する(なお,当
裁判所は,この点に関する原告の主張のうち,●(省略)●が,被告サー
ビスを実質的に運営する共同事業者であって,共同不法行為者に当たるな
どとする主張については,時機に後れた攻撃防御方法を理由とする却下を
した。)。しかし,●(省略)●されるべきものでないことは当然であり,
また,その仕入価格が不当に高額に設定されていたといったような事情を
認めるに足りる証拠もないのであるから,この点に関する原告の主張を採
用することはできない。
ウ 他方,被告は,別紙2−3(2)欄記載の金額のほか,(1)通信回線及び通信
機器設備の利用料,(2)派遣労働者の費用,(3)専用プログラムの開発費も,
変動費又は個別固定費として控除すべきであると主張する。
しかし,証拠(乙30〜32)によれば,上記(1)〜(3)の費用は,被告プ
ログラムにのみ費消されたものではなく,被告の提供する他のサービスに
ついても費消されているものであると認められ,被告プログラムの作成や
販売に直接関連して追加的に必要となった経費であるということはできな
い。
したがって,これを売上高から控除すべきであるとの被告主張は採用し
得ない。
エ もっとも,本件において,原告の請求の対象となる限界利益は,平成2
5年5月26日から平成31年4月30日までの利用に対するものである
のに対し,前記計算鑑定は,平成25年6月分から平成30年9月分まで
の売上を対象とするところ,乙27及び弁論の全趣旨によれば,これら各
月分の売上は,それぞれ前月分の利用に対応することが認められる。そこ
で,平成25年5月の利用については,同年6月分の限界利益の額を日割
り計算し,平成30年9月から平成31年4月までの利用については,平
成30年4月分から同年9月分までの限界利益の額の平均額を採用するの
が相当である。そうすると,特許法102条2項所定の利益の額は,この
計算によって得た別紙2−1(2)欄記載の額に,それぞれの時期における同
2−3(3)欄記載の消費税率を加算した額と計算されることになる。
(2) 推定覆滅事由について
被告は,被告サービスに対する本件発明の寄与率は0%と解すべきである
として,特許法102条2項における推定覆滅事由があり,その割合は10
0%であると主張する。
ア 同条項における覆滅については,侵害者が主張立証責任を負うものであ
り,侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害
する事情がこれに当たると解され,同条1項ただし書の事情と同様,同
条2項についても,これらの事情を推定覆滅の事情として考慮すること
ができるものと解される。(前掲知的財産高等裁判所判決参照)
イ 被告は,被告プログラムの訴求ポイントは,PhoneCookieと
いう独自技術を用い,ウェブと電話から得られるトランザクション情報を
効果的に利用する点であるのに対し,本件発明の特徴点は,補正手続にお
いて付加された構成要件(6)であるから,被告プログラムと本件発明は訴求
ポイントが異なると主張する。
しかし,本件発明は,その構成要件が一体となって所期の効果,すなわ\nち,「架電先を識別するための識別情報を広告情報ごとに動的に割り当て
て,識別情報の再利用を可能とすることにより,識別情報の資源の有効活\n用及び枯渇防止を図る」(段落【0049】)とともに,「ウェブページ
への提供期間や提供回数に応じて動的に識別情報を変化させることにより,
広告効果を時期や時間帯に基づき把握すること」(段落【0050】)を
可能にするものであり,構\成要件(6)が出願審査の過程において補正により
付加されたとしても,同構成要件のみが本件発明の特徴点であると解する\nことはできない。
他方,被告プログラムを使用している本件不動産サイト(甲6)におい
ては,ユーザーによる架電の負担の軽減が課題として掲げられるとともに,
「その時・その人にだけ有効な『即時電話番号』を発行」し,「静的に電
話番号を割り振るのではなく,ユーザーのアクションに応じて動的に電話
番号を割り振」るとの内容を有することが記載されていることが認められ
る。
上記本件不動産サイトに記載された「その時・その人にだけ有効な『即
時電話番号』を発行」し,「動的に電話番号を割り振」ることは,「識別
情報の資源の有効活用及び枯渇防止を図る」などの本件発明の効果を発揮
する上で不可欠な要素であり,被告プログラムにおいてもこうした構成を\n備えた結果,その顧客は本件発明と同様の効果を享受しているものという
ことができる。
被告は,被告サービスの訴求ポイントについて,PhoneCooki
eという独自技術を用い,ウェブと電話から得られるトランザクション情
報を効果的に利用することができる点にあると主張するが,同技術が被告
サービスの売上に貢献したことを具体的に示す証拠はない。
そうすると,被告プログラムがPhoneCookieという独自技術
を用いているとしても,この点を覆滅事由として考慮することはできない
というべきであり,被告がそのために被告を特許権者とする特許技術(特
許第5411290号,特許第5719409号)を使用していることも,
上記結論を左右しない。
ウ 被告は,本件発明のうち架電番号の再利用という部分の機能は,従来技\n術にすぎないと主張する。
しかし,原告が従来技術として挙げるLRU方式は,前記判示のとおり,
使用されてから最も長い時間が経った架電番号から順に利用する方式であ
り,本件特許とはその採用している方式が異なるものであり,本件発明が
従来技術として利用しているものではない上,市場において本件発明と同
様の効果を奏する代替可能な技術として原告の提供するサービスと競合関\n係にあるということはできない。
また,被告は,被告を特許権者とする前記特許明細書に記載された方式
によっても,本件発明を代替することが可能であると主張するが,同方式\nは,架電番号の在庫が尽きた場合に,これを初期化し,その初期化したこ
とを通知するものであり(乙18・段落【0095】),本件特許とはそ
の採用している方式が異なるものであり,本件発明が従来技術として利用
しているものではない上,市場において本件発明と同様の効果を奏する代
替可能な技術として原告の提供するサービスと競合関係にあるということ\nはできない。
以上のとおり,本件発明のうち架電番号の再利用という部分の機能が従\n来技術にすぎないとの被告主張は理由がなく,この点を推定覆滅事由とし
て考慮することもできない。
エ したがって,本件においては,被告が得た利益の全部又は一部について
推定を覆滅する事由があるということはできない。
(3) 小括
前記のとおり,特許法102条2項の「利益」の額は,別紙2−1(2)欄記
載の額に同(3)欄の消費税率を乗じた額であり,同項における推定覆滅事由が
あるとは認められないので,被告が賠償すべき額は,その10%に相当する
弁護士費用相当額を加算し,一円単位に切り捨てた別紙2−1(5)欄のとおり
と計算される。また,弁論の全趣旨によれば,これらの損害の発生日は,遅
くとも,それぞれ同(6)記載の日であると認められるので,各同日から支払済
みまでの遅延損害金の請求をすることができる。
◆判決本文
◆別紙1
◆別紙2
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2019.12.27
令和1(ネ)10052 損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年12月19日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明についての特許侵害事件です。知財高裁(2部)も、1審と同じく、技術的範囲に属しないと判断しました。
ア 控訴人は,構成要件1Aは,画像情報を取得する機能\の有無に限らず,
「画像情報・・・を対応するパターンに変換するパターン変換器」であると主張する。
本件発明1の構成要件1Aは,「画像情報,音声情報および言語を対応するパター\nンに変換するパターン変換器と,パターンを記録するパターン記録器と,」というも
のであるところ,画像情報を取得する機能の有無に限らないという控訴人の主張に\nよると,本件発明1は,パターンに変換する画像情報が取得されたものでない場合
には,パターン変換器は,予め保持している画像情報を対応するパターンに変換す\nるものということになるが,このとき画像情報は,パターンに変換されることも,ま
た,パターンとして記録されることもなく,画像情報として予め保持されていたも\nのということになる。
しかし,本件発明1の特許請求の範囲及び本件明細書等1には,画像情報が,パタ
ーンに変換されることも,また,パターンとして記録されることもなく,予め保持さ\nれたものであるとは読み取ることができる記載はない上,かえって,本件明細書等
1の段落【0017】には,「【課題を解決するための手段】(請求項1に対応)」
として,「この発明における思考パターン生成機は画像情報,音声情報および言語を
パターンに変換する。画像情報は画像検出器により検出され,対象物に応じたパタ
ーンに変換される。・・・」と記載され,画像検出器により検出されるものとされて
いる。
したがって,本件発明1の構成要件1Aが,画像情報を取得する機能\の有無に限
らないとの控訴人の主張を採用することはできない。
そして,本件装置が,外部から入力された表情等に関する画像をパターンに変換\nする機能を有していると認めるに足りる証拠がないことは,原判決「事実及び理由」\nの第4の2(2)イに判示するとおりである。
よって,本件装置が構成要件1Aを充足していると認めることはできない。\n
イ 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載や被控訴人の主
張によると,本件装置内部で生成したパターン化されている画像に関する情報(画
像情報)からディスプレイに表示するための画素データ(画像パターン)に変換され\nていることが分かると主張する。
しかし,構成要件1Aの「パターン変換器」が行うものとして記載された「画像情\n報・・・を対応するパターンに変換する」処理でいうところの「パターン」とは,画
像,音声及び言語に係る事象の特徴を,計算機たる検出器が識別することができる
「1」,「0」等の何らかの信号の組合せに変換したものを意味すると解されること
は,原判決「事実及び理由」の第4の2(1)アが判示するとおりである。
そして,本件装置が,「本件装置内部で生成したパターン化されている画像に関す
る情報から,ディスプレイに表示するための画素データを作成する」としても,この\nことが,画像,音声及び言語に係る事象の特徴を,計算機たる検出器が識別すること
ができる信号の組合せに変換する処理に当たらないことは明らかである。
したがって,控訴人の主張を採用することはできない。
ウ 以上によると,本件製品が構成1Aを充足すると認めることはできない。\n
(3) 争点2−2(構成要件1Bの充足性)について\n
ア 控訴人は,本件製品の紹介ビデオ(甲79)によると,顧客の銀行口座に
関する情報に対応するデータにパターンの変更が行われているから,本件装置はパ
ターンを変更していると主張する。
しかし,「パターン」とは,画像,音声及び言語に係る事象の特徴が計算機たる検
出器が識別することのできる信号の組合せに変換されたものであり,「パターンの
変更」とは,このような信号の組合せ自体を変更するものである(原判決「事実及び
理由」の第4の2(3)ア)。顧客の銀行口座に関する情報に変更が行われているとし
ても,このようなことは,パターンとパターンの結合関係を変更することによって
も行うことができるから,本件装置の内部において,上記のような意味での「パター
ンの変更」が行われていることを示すとは直ちに認められず,控訴人の主張を採用
することはできない。
イ 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載や,本件製品の
紹介ビデオ(甲80)の説明によると,本件装置は「質問」に対し,学習の前と後で
回答内容が更新できるため,「回答内容」についてパターンの変更が実施されている
と主張する。
しかし,本件装置が回答内容を更新しているということは,入力された言語情報
に対応する回答が変更されたということになるが,「言語に係る事象の特徴が変換
された信号の組合せ」が変更されたのか否かは明らかではないから,控訴人の主張
を採用することはできない。
ウ 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)や本件製品の紹介ペー
ジ(甲81)に,「アメリアが文章をパーツに分解して,各単語の役割と,他の単語
との関係を解釈する」とある点について,本件装置は,「文章(=文,パターン)」
を「パーツ(文要素や単語)」に分解するという「変更」を実施していると主張する。
しかし,本件装置が,「文章(=文,パターン)」を「パーツ(文要素や単語)」
に分解するということは,文章を,文要素や単語に分解して認識していることを意
味しているにすぎないとも考えられ,言語の「パターン」を変更しているとは直ちに
認められない。
エ 以上によると,本件装置が構成要件1Bを充足するとは認められない。\n
(4) 争点2−4(構成要件1Dの充足性)について\n
ア 控訴人は,原判決が構成要件1Dについて,「有用と判断した情報のみを\n記録する」として,「のみ」を含むクレーム解釈をしたことが,請求項に記載のない
ことを含めたものであり,誤りがあると主張する。
しかし,「有用と判断した情報のみを記録する」と解釈すべきことは,原判決「事
実及び理由」の第4の2(4)アが判示するとおりであり,控訴人の主張を採用するこ
とはできない。
イ 控訴人は,甲31及び38に「業務に特化した情報を学習するため,業務
に不要な情報での不必要な学習や成長はしない」との記載があることから,本件装
置が有用な情報のみを記録するとの機能を備えていると主張する。\nしかし,価値ある入力した情報のみを記録するということをしなくても,入力さ
れたそれぞれの情報の結合関係を生成しながら知識体系を構築することは可能\であ
る上,本件製品の紹介ビデオ(甲12の図5)には,「全ての質問がアメリアの経験
や知識に加えられる」との説明があるから,「業務に特化した情報を学習するため,
業務に不要な情報での不必要な学習や成長はしない」からといって,本件装置が構\n成要件1Dの「有用な情報のみを記録している」とは認められない。
ウ 控訴人は,本件製品の紹介ビデオの説明(甲12の図5,甲79,80)
やパンフレットの記載(甲11の2)によると,本件装置は,入力した情報の価値を
分析し,有用な情報を自律的に記録していると主張する。
しかし,上記の紹介ビデオの説明やパンフレットの記載は,アメリアが同僚と顧
客のやりとりを観察し,処理マップを自分で作成するというものや顧客に必要な質
問を投げかけ,それに対する顧客の回答に応答するというものであり,それから直
ちに有用な情報を取捨選択し有用な情報のみを記録しているとは認められない上,
本件製品の紹介ビデオ(甲12の図5)には,「全ての質問がアメリアの経験や知識
に加えられる」との説明があるから,本件製品が構成要件1Dの「有用な情報のみを\n記録している」とは認められない。
エ 以上によると,本件装置が構成1Dを充足すると認めることはできない。\n
(5) 争点3(構成要件2C等の充足性)について\n
ア 控訴人は,構成要件2C等の「評価」と「自律的に知識を獲得」ないし「自\n律的に知識を構築」の関係は並列であると主張するが,控訴人の上記主張を採用す\nることができないことは,原判決「事実及び理由」の第4の3(2)ア及びイが判示す
るとおりである。
したがって,構成要件2C等の「評価」と「自律的に知識を獲得」ないし「自律的\nに知識を構築」の関係が並列であるとの控訴人の主張を採用することはできない。\n
イ 控訴人は,前記関係が直列の関係であるとしても,本件装置が構成要件\n2C等を充足すると主張する。
(ア) 意味の評価について
控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載や本件製品の紹介ビデオ
(甲12の図5)の説明などから,本件装置は,「同じ言葉の異なる用法」の中から
「最も文脈にあてはまる用法」がどれかを評価し,知識を構築しており,本件装置\nは,情報(意味)を評価し,知識の獲得を実施していると主張する。
しかし,本件製品のパンフレット(甲11の2の3頁)の「彼女は同じ言葉の異な
る用法を見分けるために文脈をあてはめることで,暗示されている意味を完全に理
解します。」との記載は,本件装置が,文脈をあてはめて言葉の用法を見分けている
というにすぎず,本件装置が情報(意味)を評価した上で,その評価を踏まえて妥当
性が確認された情報を知識として獲得していることを示していると認めることはで
きない。
また,本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると,「全ての質問がアメリア
の経験や知識に加えられる」のであるから,本件装置が,意味を評価した上で,その
評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得していると認めることは
できない。
これに対し,控訴人は,本件製品の紹介ビデオ(甲12の図5)の上記説明につい
て,意味を評価し,その結果に基づいて自律的に有益な知識を獲得する機能を有し,\n全ての質問を知識として加えるというケースはあり得ると主張するが,上記の説明
は,単に全ての質問を知識として加えるという意味に理解するほかなく,本件装置
が意味を評価した上で全ての質問を知識として加えるという意味に理解することは
できないから,控訴人の主張を採用することはできない。
(イ) 新規性の評価について
a 控訴人は,本件製品のパンフレットの(甲11の2)の記載からする
と,本件装置は,遭遇した状況が知識として記録している場面と似ておらず,自分で
問題に対処できないことを識別する機能を有するから,新規性を評価し,知識の獲\n得を実施している旨主張する。
しかし,本件発明2は,「自律的に知識を獲得」するというものであり,人の手を
介することを予定しているものではない。しかるところ,本件製品のパンフレット\n(甲11の2の9頁)には,「自力で問題に対処できない場合,人間の同僚にその問
題を引き継ぎます。」と記載されていて,人間の同僚が介入することが予定されてい\nる上,本件装置がその後同僚の様子を見て特定の状況に対する最善の手順を見つけ
ることがあるとしても,本件製品の紹介ビデオ(甲80)では,「生成した処理ステ
ップの使用を管理者が了承すると,直ぐに彼女は同様の質問に対して自分自身で対
応できるようになります」と記載されていて,管理者が了承しないと,知識として獲
得されないから,本件装置が「自律的に知識を獲得」するということはできない。
仮に,控訴人が主張するように,新しい処理ステップに関しては,本件装置の管理
者が了承する前に,既に生成し,記録しているとしても,本件装置の管理者が了承し
なかった処理ステップまでが知識として獲得されるものではないから,本件装置が
「自律的に知識を獲得」すると認めることはできない。
b なお,本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると,「全ての質
問がアメリアの経験や知識に加えられる」のであるから,本件装置が,新規性を評価
した上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得している
と認めることはできないことは,上記(ア)と同様である。
(ウ) 真偽を評価する機能\n
a 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)や紹介ビデオ(甲
12の図5,甲79,80)には,本件装置が的確な質問を発して,「真実を明らか
にする」機能(=真偽を評価する機能\)を有していることが示されていると主張す
る。
しかし,本件製品のパンフレット(甲11の2)には,「問題の根本を見極めるた
めの的確な質問ができる能力を持った」,「問題を明らかにするために必要な質問を\n投げかけることで,答えを提示することができます。」(6頁)との記載や,「事実
を明らかにするための的確な質問を発し,人間と同じように問題の明確な性質を顕
在化させることができるのです。」(11頁)との記載があるところ,これらの記載
と本件製品の紹介ビデオ(甲79,80)によると,本件装置の質問は,顧客の要望
を明らかにするためのものであって,真偽を判断するためのものであるとは認めら
れないから,本件装置が,真偽を判断した上で,自律的に知識を獲得していると認め
ることはできない。
b 控訴人は,知識に対して論理を当てはめ,プロセス全体の各ステッ
プを自律的に進め,論理的な結論を得るためには,本件装置は,何が真であり,何が
偽であるかを評価する必要があると主張する。
しかし,論理的な結論を得るためには,情報間の結合関係を正確にする必要はあ
るが,必ずしも入力した言語情報の真偽の妥当性を評価する必要性は認められない。
c なお,本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると,「全ての質
問がアメリアの経験や知識に加えられる」のであるから,本件装置が,真偽を評価し
た上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得していると
認めることはできないことは,前記(ア)と同様である。
(エ) 論理の妥当性について
a 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載や,本件製
品の紹介ビデオ(甲79)によると,本件装置は,「積極的に論理を当てはめ」,「事
実を明らかにするための明確な質問を発し」,「問題の明確な性質を顕在化し」,「論
理的な結論を得て」,「事実を明らかにするための的確な質問」及び「回答」を記録
して知識を獲得するという一連の動作を実施していることが分かるから,本件装置
は,情報を評価(論理の妥当性)し,知識の獲得を実施していると主張する。
しかし,「論理的な結論」,「知識に対して積極的に論理を当てはめることにより,
アメリアは問題を解決することもできます。彼女が知っている情報の本体に立ち返
ることで,自然言語で述べられた質問を元に事実を明らかにするための的確な質問
を発し,人間と同じように問題の明確な性質を顕在化させることができるのです。」
との本件製品のパンフレット(甲11の2の11頁)の記載や,アメリアの「質問」
に対する顧客の「回答」が記録された本件製品の紹介ビデオ(甲79)からは,本件
装置が入力した言語情報の論理の妥当性を確認しているとまでは読み取れないし,
また,論理的な結論を得るためには,情報間の結合関係を正確にする必要はあるが,
必ずしも入力した言語情報の論理の妥当性を評価する必要性は認められないから,
控訴人の主張を採用することはできない。
b 控訴人は,本件製品のパンフレット(甲11の2)の記載によると,
本件装置は,論理を適用し(=論理の妥当性を評価し),経験を通して学習している
(=記録している),すなわち,言語情報の論理の妥当性を評価し,経験した内容を
知識として獲得していると主張する。
しかし,本件装置が,「・・・論理を適用し,暗示されている内容を推定し,経験
を通して学び,感情すらも察知」(甲11の2の3頁)するものであるとしても,こ
のことから本件装置が入力した言語情報の論理の妥当性を評価しているとは直ちに
認められないから,控訴人の主張は採用できない。
c 控訴人は,本件製品の紹介ビデオ(甲79)には,本件装置が条件付
き処理を実施していることから,論理的に対応し,情報を記録していると主張する。
しかし,本件装置が,顧客の回答が「はい(yes)」なら,受取人リストに追加し,
回答が「いいえ(no)」なら,受取人リストに追加しないという処理をするとしても,
このことは,顧客の回答に基づいた処理をしていることを示すにすぎず,本件装置
が論理の妥当性を評価しているとは認められない。
d なお,本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると,「全ての質
問がアメリアの経験や知識に加えられる」のであるから,本件装置が,論理性を評価
した上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得している
と認めることはできないことは,前記(ア)と同様である。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成29(ワ)15518
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2019.12. 4
平成30(ネ)1008 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月8日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
外為オンラインVSネースクエアの控訴事件です。1審では差止請求が認められました。知財高裁も同じ判断です。
構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,…さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報\nを含む売り注文情報を生成する」の意義について
(ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載から,構成要件Dの「注文情報生成手段」は,「前記金融商品の買い注文を行うた\nめの複数の買い注文情報」を生成する「買い注文情報生成手段」(構成要件B)と「前記買い注文の約定によって保有したポジションを,\n約定によって決済する売り注文を行うための複数の売り注文情報を
生成」する「売り注文情報生成手段」とから構成され,「売り注文情報」を生成するのは,構\成要件Dの「注文情報生成手段」のうちの「売り注文情報生成手段」であることを理解できるから,構成要件Gの「注文情報生成手段」及び構\成要件Hの「前記注文情報生成手段」は,いずれも「売り注文情報生成手段」を意味するものと理
解できる。
そうすると,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の\n売り注文が約定されたことを検知すると,前記注文情報生成手段は,
前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,前記複数の売り注文
のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注
文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」にいう「前記注文情
報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」,「前
記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価
格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」と
の記載は,「売り注文情報生成手段」が,「前記約定検知手段」の
「前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が
約定された」との「検知の情報を受けて」,当該「最も高い売り注
文価格」よりも「さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含
む売り注文情報を生成する」ことを規定したものであり,「売り注
文情報生成手段」が行う処理を規定したものと解される。
次に,本件明細書には,「シフト機能」による注文は,「新規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文\nや決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯と
は異なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注さ
せる態様の注文形態」であること(【0078】),この「シフト
機能」は,「相場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一\n注文情報や新たな第二注文価格の第二注文情報を生成し,相場価格
を反映した注文の発注を行うことができる」(【0018】)とい
う効果を奏することの開示がある。そして,構成要件Hの文言及び本件明細書の上記記載から,構\成要件Hは,「シフト機能」のうち,\n更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決
済注文」(売り注文)がシフトする構成のものを規定したものであることを理解できる。他方で,本件明細書には,「シフト機能\」のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注
済の「決済注文」(売り注文)がシフトする構成の場合において,新たな「買い注文」の発注やその約定によって,「シフト機能\」の効果等が影響を受け得ることについての記載や示唆はない。
以上の本件発明の特許請求の範囲(請求項1)及び本件明細書の
記載を総合すると,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」,「前記複数の売り注文\nのうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注
文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」とは,「売り注文情
報生成手段」(前記注文情報生成手段)が,「前記約定検知手段」
の「前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文
が約定された」との「検知の情報」を受けたことに基づいて,「さ
らに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生
成する」構成のものであれば,新たな「買い注文情報」の生成や「買い注文」の約定又はその検知に関わりなく,構\成要件Hに含まれるものと解される。
(イ) これに対し控訴人は,(1)本件発明の特許請求の範囲(請求項1)
の記載によれば,構成要件Hの「前記検知の情報を受けて,…さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成\nする」とは,直前の検知の情報を条件として,これに続いて,前記
の売り注文が発生するという意味であって,これらの間に他の処理
が介在する記載はないこと,(2)本件明細書には,従前の新規注文B
1ないしB5及び従前の決済注文S1ないしS5が全部約定したこ
とを検知し,この検知の情報を受けて,新たな新規注文B1ないし
B5及び新たな決済注文S1ないしS5を一括発注するものであり
(【0142】ないし【0154】,図35),「前記検知の情報
を受けて」(構成要件H)と,「さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」(構\成要件H)との間に,他の手続が介在するもの,例えば,新たな新規注文B1ないし
B5と新たな決済注文S1ないしS5とを新規に一括発注せずに,
まずは新たな新規注文B1ないしB5を発注し,その約定を検知し
てから,新たな決済注文S1ないしS5を発注するようなものにつ
いての開示はないこと,(3)本件出願の経過において,被控訴人は,
拒絶理由通知を受けて,本件手続補正書及び本件意見書を提出して,
本件出願に係る旧請求項1に構成要件EないしGを新たに加え,構\
成要件Hを補正する手続補正を行うとともに,本件意見書において,
シフトが生じるための条件として,最も高い売り注文の約定状況の
みを監視することとし,それ以外の処理を監視することを除外する
旨を主張したことを総合すると,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,前記複数の\n売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高
い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成すること」にいう
「前記検知の情報を受けて」とは,「前記相場価格が変動して,前
記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文
価格の売り注文が約定されたことを検知すると」,他の処理を何も
介在せずに,直ちに「前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文
価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り
注文情報を生成する」ことを意味するものと解すべきである旨主張
する。
しかしながら,上記(1)の点については,本件発明の特許請求の範
囲(請求項1)の記載中には,構成要件Hの「前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて」と「前記複数\nの売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ
高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成する」との間に,
「他の処理を何も介在せずに」とか「直ちに」との文言は存在しな
い。
次に,上記(2)の点については,前記(ア)で説示したとおり,構成要件Hは,「シフト機能\」(【0078】)のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決済注文」(売
り注文)がシフトする構成のものを規定したものであるところ,本件明細書には,「シフト機能\」のうち,更に「決済注文」(売り注文)が発注される際に,先に発注済の「決済注文」(売り注文)が
シフトする構成の場合において,新たな「買い注文」の発注やその約定によって,「シフト機能\」の効果等が影響を受け得ることについての記載や示唆はない。また,控訴人が挙げる本件明細書の記載
(【0142】ないし【0154】,図35)は,「発明の実施の
形態の3」に係るものであるが,本件明細書には,「上記の「シフ
ト機能」は,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構\
成において適用することもできる。」こと(【0151】)及び「上
記各実施の形態は本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態
のみに限定されることを意味するものではないことは,いうまでも
ない。」こと【0164】の記載があることに照らすと,控訴人が
挙げる本件明細書の上記記載から構成要件Hを限定解釈すべき理由はない。\n
さらに,上記(3)の点については,被控訴人は,本件手続補正書(乙
14)により,本件出願に係る旧請求項1について,「前記相場価
格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,
最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたことを検知すると,
前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受
けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさら
に所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成
する」(下線は,補正箇所を示す。)と補正し,本件意見書(乙1
5)において,「本願発明においては,一の注文手続で生成された
複数の売り注文情報に基づく複数の売り注文よりも高い売り注文情
報の生成…は,一の注文手続で生成された複数の売り注文情報に基
づく複数の売り注文のうちの最も高い売り注文の約定…が検知され
たことを基準に行われることになります。そのため,システムにお
いては,特定の注文に係る注文情報(相場の移動方向側である,最
も高い買い注文価格の買い注文に係る買い注文情報や,最も低い売
り注文価格の売り注文に係る売り注文情報)の約定状況のみを監視
すれば,新たな注文情報の生成(一の注文手続で生成された中で最
も高い売り注文価格よりも高い売り注文価格の売り注文情報の生成
…を,ただちに生成することができ,システムの情報保持や情報監
視のための負担が大きくなることはありません。これにより,本願
発明においては,新たな注文情報の生成や,その注文情報に基づく
注文の発注等の処理を,システム負荷の軽い,簡易な手順によって
処理することができるという効果を奏します。」と述べたことが認
められるが,他方で,本件手続補正書及び本件意見書は,平成29
年4月11日付けの拒絶理由通知(乙18)において「引用文献1
に記載された発明に引用文献2に記載の技術を適用し,引用文献1
に記載された発明において,繰り返し注文を行う際,相場価格の上
昇傾向に対応して以前の注文価格よりも高い価格の注文情報を生成
するように構成することは,当業者ならば容易に為し得ることである。」との進歩性欠如の指摘を受けて提出されたものであることに\n照らせば,本件手続補正書及び本件意見書は,本件発明が,複数の
売り注文のうち最も高い売り注文価格の売り注文の約定に基づいて,
同注文価格よりも高い価格の売り注文を生成する点に技術的意義を
有し,進歩性を有する旨を主張したものであって,本件意見書の「約
定状況のみを監視すれば」,「ただちに生成する」といった記載か
ら,両者の間に他の処理を介在させる構成や時間的間隔が存在する構\成を本件発明から除外したものということはできない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 構成要件Hの充足性について
(ア) 前記2(3)イ(イ)のとおり,(1)ないし(4)の売り注文のうち,最も高
い注文価格の番号113の売りの指値注文(指定価格114.90
円)が約定した後に,番号113の注文価格より「0.62円」高
い番号96の売りの指値注文(指定価格115.52円)がされて
いることに照らすと,被告サーバにおいては,約定検知手段が複数
の売り注文のうち最も高い売り注文価格の売り注文の約定を検知す
ると,注文情報生成手段が,この検知の情報を受けたことに基づい
て,約定した最も高い売り注文の売り注文価格よりもさらに所定価
格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成したこと
が認められる。
したがって,被告サーバは,構成要件Hを充足するものと認められる。\n
・・・・
控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明には,構成要件Hに対応する「シフト機能\」に係る構成について,「いったんスルー注文」及び「決済トレー\nル注文」と組み合わせた,複数の新規注文の全て及び複数の決済注文の全て
がそれぞれ1回ずつ約定した場合に複数の新規注文の全て及び複数の決済注
文の全てに対応する個数の新たな複数の新規注文及び新たな複数の決済注文
を発注させることしか記載されておらず,構成要件Hに含まれる「シフト機能\」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせたもの以外の構成のものについては記載されていないことからすれば,構\成要件
Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえないから,特許
法36条6項1号所定の要件(以下「サポート要件」という。)に適合する
とはいえない旨主張する。
ア そこで検討するに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載中に
は,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたこ\nとを検知すると,前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知
の情報を受けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも
さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成す
る」との記載において,「注文情報生成手段」が生成する「所定価格だけ
高い売り注文価格の情報」を含む「売り注文情報」の個数を規定する記載
はないから,当該「売り注文情報」は,複数の場合に限らず,一つの場合
も含むものと理解できる。
イ(ア) 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,(1)「シフト機能」について,「金融商品取引管理装置1や金融商品取引管理システム1Aにお\nいて,既に発注した新規注文と決済注文をそれぞれ約定させたのち,「シ
フト機能」による処理を併用した取引を行うことも可能\である。この「シ
フト機能」による注文は,上述した,「いったんスルー注文」や「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例えば後述する「リピートイ\nフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)等に基づいて,新
規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文
や決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異
なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注させる態様
の注文形態である。」こと(【0078】),(2)「シフト機能」は,「相場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場\n価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一注文情報や新たな第二注
文価格の第二注文情報を生成し,相場価格を反映した注文の発注を行う
ことができる」(【0018】)という効果を奏すること,(3)「発明の
実施の形態3」は,「この実施の形態3の金融商品取引管理システムに
おいては,「いったんスルー注文」と「決済トレール注文」とを,「ら
くトラ」による注文と組み合わせ,さらに「シフト機能」を行わせる状態を示す。」(【0138】)ものであるが,「上記の「シフト機能\」は,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構成において適用することもできる。」こと(【0151】)及び「上記各実施の形態\nは本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態のみに限定されるこ
とを意味するものではないことは,いうまでもない。」こと(【016
4】)の記載がある。
上記(1)の記載から,「シフト機能」は,「新規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文や決済注文が発注される\n際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異なる価格や価格帯にシフ
トさせた状態で,新たな注文を発注させる態様の注文形態」であり,シ
フトされる先に発注済の注文には,「新規注文」又は「決済注文」の一
方のみの構成又は双方の構\成が含まれること,先に発注済の一つの注文
の「価格」をシフトさせる構成のものと先に発注済の複数の注文の「価格帯」をシフトさせる構\成のものが含まれることを理解できる。また,上記(1)ないし(3)の記載から,「シフト機能」は,「相場価格を反映した注文の発注を行うことができる」という効果を奏し,「いった\nんスルー注文」,「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例え
ば…「リピートイフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)」
等の注文方法とは別個の処理であること,「シフト機能」にこれらの各種の注文方法のいずれを組み合わせるかは任意であることを理解できる。\n
ウ(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,図35に示す「実施の形態
3」(【0144】ないし【0148】)として,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせたトラップリピートイフダン注文で行われ,\n決済注文S5,S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の
買い注文B5,B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売
り注文S5,S4が再度生成されるが,この時点ではシフトは発生せ
ず,通常のリピートイフダン注文が繰り返され,その後相場価格が変
動して,S1ないしS3の売り注文価格がトレールし,S1ないしS
3が最も高い注文価格の売り注文として同時に約定すると,再度生成
された売り注文S5,S4は約定していないにも関わらずこれをキャ
ンセルして,S1ないしS5のシフトが実行されることが記載されて
いる。上記記載は,構成要件Hに含まれる,「シフト機能\」に「いっ
たんスルー注文」及び「決済トレール注文」を組み合わせた構成の一つであることが認められる。\nまた,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせない場合には,図35において,S2及びS3の売り注文価格がトレールしないため,\nそれぞれの注文情報が生成された時点における価格のとおり,それぞ
れ別々に約定し,その場合,実施の形態3の取引例でS5,S4が約
定した段階ではシフトが生じていないのと同様に,S3,S2が約定
した段階ではシフトが生じず,その後に最も高い売り注文価格の売り
注文であるところのS1が約定した段階でシフトが生じることになる
ことを理解できる。
そうすると,複数の売り注文情報のうち最も高い売り注文価格の売
り注文が約定すると,それよりも所定価格だけ高い売り注文価格の情
報を含む売り注文情報を生成するという構成要件Hに係る構\成は,本
件明細書の上記記載から認識できるから,本件明細書の発明の詳細な
説明に記載されているということができる。
(イ) これに対し控訴人は,図35には,S5,S4が約定した後に再
度S5,S4が生成されることの記載はなく,B5,B4には,直後
に「キャンセル」と記載されていることからすれば,S5,S4が約
定しても,元の買い注文B5,B4と同じ注文価格の買い注文B5,
B4がそもそも生成されないか,生成されてもすぐにキャンセルされ
ていると理解できること,加えて,本件明細書の【0144】ないし
【0147】にも,新たな新規注文B5及びB4は,個別に生成され
るのではなく,(従前の)決済注文の全ての約定((従前の)決済注
文S1ないしS3の約定)を待って,新たな新規注文B1ないしB3
とともに新たな新規注文が一括して生成されることが開示されている
ことからすると,図35には,同図右上のS1ないしS3が同時に約
定し,もって,B5ないしB1及びS5ないしS1の全てが1回ずつ
約定した後に,「シフト機能」によるシフトが行われ,新たなB5ないしB1及びS5ないしS1が一括的に生成される場合が示されてい\nるに過ぎず,B5,B4に対応する決済注文S5,S4が約定すると,
元の買い注文B5,B4と同じ注文価格の買い注文B5,B4が再度
生成されることを看取できない旨主張する。
しかしながら,図35には,明示の記載はないが,決済注文S5,
S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の買い注文B5,
B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売り注文S5,S
4が再度生成され,通常のリピートイフダン注文が繰り返されること
は,「図30に示すように,相場価格64が上昇から下落に転じ,1
ドル=100.60円未満になると,約定情報生成部14は,決済注
文S4,S5を約定させる処理を行う。これにより,(新規注文情報
18114,18115に基づく)新規注文B4,B5と,(決済注
文情報18119,18120に基づく)決済注文S4,S5による
イフダン注文の取引がそれぞれ成立する。これにより,注文情報生成
部16は,元の新規注文B4,B5と元の決済注文S4,S5と同じ,
新たな新規注文B4,B5と元の決済注文S4,S5を生成する。」
(【0132】)との記載に照らしても明らかである。
したがって,控訴人の上記主張は,その前提において,採用するこ
とができない。
エ 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「シフト機能」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせた構\成のもの(実施の形態3)のほか,構成要件Hに含まれる,これ以外の構\成の
もの(最も高い売り注文価格の特定の一の売り注文が約定されたことを検
知すると,前記注文情報生成手段が,更に所定価格だけ高い「一の売り注
文情報」を生成するもの)についての開示があることが認められる。
したがって,構成要件Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであることが認められ,本件発明はサポート要件に適合するものと認\nめられるから,これと異なる控訴人の前記主張は理由がない。
◆判決本文
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2019.11.26
平成30(ワ)12609 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月9日 東京地方裁判所
スマホ用のアプリについての特許侵害事件です。東京地裁29部は、無効理由無し、差止の必要性ありとして請求を認容しました。原告はヤマハ(株)です。被告アプリの名称から、下記サービスがヒットしましたが、これかどうかは不明です。https://www.cbnet.co.jp/archives/1978
本件発明1は,(1)案内音声である再生対象音を表す音響信号と当該案内音声である再生対象音の識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号に応じて放音さ\nれた音響を収音した収音信号から識別情報を抽出する情報抽出手段,(2)情報抽出手
段が抽出した識別情報を含む情報要求を送信する送信手段,(3)情報要求に含まれる
識別情報に対応するとともに案内音声である再生対象音に関連する複数の関連情報
のいずれかを受信する受信手段,(4)受信手段が受信した関連情報を出力する出力手
段としてコンピュータを機能させることにより,赤外線や電波を利用した無線通信に専用される通信機器を必要とせずに,案内音声である再生対象音の識別情報に対\n応する関連情報を利用者に提供することを可能とする(【0005】)。
エ 以上に加えて,本件発明1は,前記送信手段が,当該端末装置にて指定され
た言語を示す言語情報を含む情報要求を送信し,前記受信手段が,情報要求の識別
情報に対応するとともに相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の
言語情報で指定された言語に対応する関連情報を受信するという構成を採用することにより,相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の言語情報で指\n定された言語に対応する関連情報を受信することができ,使用言語が相違する多様
な利用者が理解可能な関連情報を提供できるという効果を奏するものである(【0006】等)。\n
・・・
被告は,(1)乙9公報は,音響IDとインターネットを用いて,放音装置から放音
された音響IDによって識別される識別対象の情報に対し,これと関連する任意の
関連情報をサーバから端末装置に供給できる乙9技術を開示しているところ,本件
発明1も乙9技術を採用するものであり,相違点1−5ないし同1−7は,情報要
求に含まれる情報の内容,複数の関連情報の選択条件,関連情報の内容に係る相違
にすぎず,当業者が適宜設定できるものである旨主張するとともに,(2)当業者は,
乙9発明1に,乙10発明又は乙5公報及び乙10公報記載の周知技術,並びに周
知技術(乙14等)を組み合わせるなどして,相違点1−5ないし同1−7に係る
本件発明1の構成を容易に想到し得た旨主張する。しかしながら,まず,被告の上記(1)の主張については,前記(1)エと同様に,乙9
公報等に音響IDとインターネットを用いた同種の情報提供が開示されていたとし
ても,本件発明1は,その手順や方法を具体的に特定し,使用言語が相違する多様
な利用者が理解可能な関連情報を提供できるという効果を奏するものとした点において技術的意義が認められるものであるから,相違点1−5ないし同1−7に係る\n本件発明1の構成が当業者において適宜設定できる事項であるということはできない。\n
・・・
5 争点6(差止めの必要性は認められるか)について
被告は,本件アプリについて差止めの必要性は認められないとし,その理由とし
て,(1)本件口頭弁論終結時点において,本件アプリに係るサービスは実用化されて
いなかったこと,(2)被告は,平成30年5月以降,本件アプリの配信を中止し,多
言語で情報配信を行う機能を取り除いた本件新アプリを配信しており,本件訴訟の結果によって本件アプリに係る事業を再開するか否かを決定する予\定であること,
(3)被告は,今後,顧客に対し,案内音声である再生対象音の発音内容を表す他国語の関連情報を提供することを禁ずる旨の約束や,案内音声である第1言語の再生対\n象音が表す発音内容を第2言語で表\\現した情報を提供することを禁ずる旨の約束を
する意思があることを主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,本件アプリは,本件発明1の技術的範囲に属
し,本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないから,
前記第2の2(4)のとおり,被告は,少なくとも,平成29年5月頃から平成30年
6月頃まで,本件アプリを作成し,譲渡等及び譲渡等の申出をし,平成28年6月から平成29年3月までの間に3回にわたり本件アプリを使用することによって本\n件特許権1を侵害していたものである。
これらに加えて,被告が本件訴訟において本件アプリが本件発明1の技術的範囲
に属することを否認して争い,本件特許1について特許無効審判により無効にされ
るべきであると主張していること,弁論の全趣旨によれば,被告は,現在も,ウェ
ブサイトに本件アプリの説明や広告を掲載していると認められ,被告が本件アプリ
の作成等を再開することが物理的に不可能な状況にあるとは認められないことなども考慮すると,被告は,今後,本件特許権1を侵害するおそれがあるものというべ\nきであるから,原告が被告に対し,その侵害の予防のため,本件アプリの作成等の差止を求める必要性は認められるものというべきである。\n
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2019.11.18
平成30(行ケ)10178 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年10月24日 知的財産高等裁判所
インターネット上のブログの証拠能力が争われました。アーカイブのウェイバックマシンに保存された資料の公知日の認定が争われました。公知日の認定に誤りなしとして、無効とした審決を維持しました。\n
前記アの記載によれば,甲1は,2017年(平成29年)9月 1 日に
インターネットで検索して表示された「ドラコレ旅日記 GREE のアプリ
「ドラゴンコレクション」を楽しむ管理人の日記」と題する「FC2ブロ
グ」のコピーであること,同ブログは,広告欄の「スポンサーサイト」,
ブログ本文の「11/25 更新情報」,「最新コメント」,「関連記事」等の
各項目で構成されていること,「11/25 更新情報」の項目の右横には「20
11.11.25 23:18 Cat:旅日記」(画像3)との表示があること,同項目欄\nに掲載された記事(本件更新情報)には,「「友情のきずな」キャンペー
ンを開催中です。」,「期間:11/25(金)14:00〜11/29(火)14:00」と
の記載があること(画像4)が認められる。
上記記載から,本件更新情報は,「11/25 更新情報」の項目の右横に表\n示された「2011.11.25 23:18」(2011年11月25日23時18分)
に更新され,保存されたことが認められる。
したがって,本件更新情報は,本件出願前(出願日平成25年9月27
日)の平成23年(2011年)11月25日,電気通信回線を通じて公
衆に利用可能となったものと認められる。\nそうすると,本件決定が本件更新情報に基づいて認定した引用発明1は,
本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に該当す\nるものと認められる。
ウ 原告の主張について
原告は,(1)甲1の「スポンサーサイト」の項目欄の直下には,本件出願
後の平成29年(2017年)7月21日に制作発表されたゲーム「みん\nなでにゃんこ大戦争」(甲20)の画像が表示されているから,本件更新\n情報が公衆に利用可能となったのは,早くても同日である,(2)甲1におい
ては,少なくとも,ゲーム「みんなでにゃんこ大戦争」の画像が表示され\nた部分,「最新コメント」の項目欄の各コメント部分,「関連記事」の項
目欄の「【バトルイベント】神獣の魂【予告】(2011/12/09)」及び「エ
レボスの坑道結果報告(2011/12/06)」の部分は,平成23年11月25
日より後に書き換えられたものであるから,本件更新情報についても,同
日より後に書き換えられた可能性を否定できない旨主張する。\nしかしながら,上記(1)の点については,甲1の「スポンサーサイト」の
項目欄には,「みんなでにゃんこ大戦争 新機能登場!」の画像の下に「上\n記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。」,「新し\nい記事を書く事で広告が消せます。」と表示されていること,「FC2ブ\nログ」の仕様等を定めた「FC2ブログマニュアル」(甲10)には,「ロ
グの有効期間」の項目に,「(1か月新規投稿がない場合は,記事部にス
ポンサー広告が表示されます。)」との記載があること,平成30年5月\n2日及び平成31年3月13日に甲1の URL を検索した際,本件更新情報
の記載がある一方で,スポンサーサイトの項目欄に表示された画像は,「み\nんなでにゃんこ大戦争 新機能登場!」とは異なる画像が表\示されたこと
(甲11ないし13,乙1)に照らすと,甲1の「スポンサーサイト」の
項目欄に表示される広告は,甲1の URL を検索した時点で1か月以上ブロ
グの更新がされていない場合に,FC2ブログの運営者であるFC2が契
約しているスポンサー広告が表示されるものであって,ブログの記載内容,\n更新日時とは関係しないことが認められる。
また,上記(2)の点については,甲1を構成する「11/25 更新情報」の項
目欄とは異なる他の項目欄に掲載された情報が平成23年11月25日よ
り後に更新された事実があるからといって本件更新情報が同日より後に書
き換えられた可能性があることを基礎付けることはできない。\nしたがって,原告の上記主張は理由がない。
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2019.11.17
平成31(ネ)10034 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月31日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は、コンピュータプログラムにかかる特許について、構成要件FおよびGを有していないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。知財高裁はこれを維持しました。
構成要件Gの「前記上位ノード変数データ」の意義について\n
a 本件発明の構成要件Fの「前記スクリプトは,当該ノードデータに\n含まれる変数データである自ノード変数データと,当該ノードの直系
上位ノードのノードデータに含まれる変数データである上位ノード変
数データを利用した演算を行って,前記自ノード変数データの値を求
める代入用スクリプトを含んでおり」との記載及び構成要件Gの「前\n記表示された木構\造のノードのうちの選択されたノードの前記自ノー
ド変数データ,前記上位ノード変数データ及び前記スクリプトを表示\nするノードデータテーブル表示ステップ」との記載から,本件発明の\n「上位ノード変数データ」は,「当該ノードの直系上位ノードのノー
ドデータに含まれる変数データ」であり,構成要件Fの「前記自ノー\nド変数データの値」を求める「代入用スクリプト」による演算に利用
される「変数データ」であることを理解できる。
次に,本件明細書には,「上位ノード変数データ」に関し,「変数
情報は,各ノードが保持するデータであって,変数名に対応させて記
憶される。記憶される変数は,下位ノードから参照される公開変数と,
自ノード内でのみ使用する限定変数を含む。また,変数の値(「変数
データ」と記述する場合もある。)は,固定値が設定されても,スク
リプトの実行によって演算された値が設定されてもよい。また,UR
Lが設定されてもよい。どのような値が設定されるかは任意である。」
(【0031】),「代入用スクリプトは,自ノードの変数の値を演
算するためのものである。代入用スクリプトは,自ノードの変数の値
である自ノード変数データと,そのノードの直系上位ノードの公開変
数の値である上位ノード変数データを利用して記述することが可能で\nある。」(【0032】),「公開変数表示領域に表\示される公開変
数は,自ノードの公開変数51と,直系上位ノードの公開変数52を
含み,直系上位のノードの公開変数52は,自ノードの公開変数51
と異なる色で表示される(図10では,フォントを変えて示してある。)。\nまた,公開変数には,固定値が入力される公開変数と,代入用スクリ
プトの実行によって計算される公開変数があり,修飾領域に「なし」
あるいは「要計算」を表示することによりに区別される。」(【00\n65】)との記載がある。
そして,図10には,「直系上位ノードの公開変数の値である上位
ノード変数データ」として,「52」に「変数名」及びそれに対応す
る「値」が示されている(例えば,「変数名」の欄「パネル色」・「値」
欄「KW−400」)。
これらの記載によれば,本件明細書には,「上位ノード変数データ」
にいう「変数データ」は,「変数の値」を含むデータであることの開
示があることが認められる。
以上の本件発明の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載によ
れば,構成要件Gの「前記表\示された木構造のノードのうちの選択さ\nれたノードの前記自ノード変数データ,前記上位ノード変数データ及
び前記スクリプトを表示するノードデータテーブル表\示ステップ」に
いう「前記上位ノード変数データ」は,「当該ノードの直系上位ノー
ドのノードデータ」に含まれる「変数の値」を含むデータであると解
される。
b これに対し控訴人は,本件明細書の【0032】における「変数の
値(「変数データ」と記述する場合もある。)」との記載は,「変数
データ」という用語を,文脈によって,変数の値を指す意味で用いる
こともあるという注意書きであると理解できること,「変数データ」
は,変数名と変数の型を意味するというのが,プログラミングに関す
る通常の用語であること(甲24),実質的にも,本件発明が「ノー
ドデータテーブル表示ステップ」において上位ノード変数データを表\
示させる目的は,表示された木構\造の個々のノードに対応付けられた
詳細情報を簡単に表示することができる(【0009】)ことにより,\n文書ファイル(プログラム)の編集を容易にする点にあり,変数名が
分かれば,その目的を達成することができることからすると,本件発
明の「上位ノード変数データ」は,本件明細書において文脈上変数の
値を意味すべき場合を除き,変数名を指すと解すべきである旨主張す
る。
しかしながら,本件明細書には,「上位ノード変数データ」が変数
名のみで構成される場合を含むことについての記載や示唆はない。\nまた,前記aの本件明細書の記載に照らすと,【0032】の「変
数の値(「変数データ」と記述する場合もある。)」との記載は,「変
数データ」は「変数の値」を意味することを示した記載であると解す
るのが自然であり,これが変数の値を指す意味で用いることもあると
いう注意書きであるということはできない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) 被告プログラムにおける「ノードデータテーブル表示ステップ」の\n有無について
a 控訴人は,入力コネクタは,親ボックスから引き渡される値を記憶
する変数が図形化されたものであり,入力コネクタの名称が構成要件\nGにおける「上位ノード変数データ」に該当すること,インスペクタ
及びスクリプトエディタに表示される入力コネクタの名称に関する\n情報の表示は,上位ノード変数データを表\示するものであることから
すると,被告プログラムは,「上位ノード変数データ」を表示する「ノ\nードデータテーブル表示ステップ」を備えている旨主張する。\nしかしながら,前記(ア)a認定のとおり,構成要件Gの「前記上位\nノード変数データ」は,「当該ノードの直系上位ノードのノードデー
タ」に含まれる「変数の値」を含むデータであると認められるところ,
入力コネクタの名称は,「変数の値」であるとはいえないから,控訴
人の上記主張は,その前提を欠くものであり,理由がない。
b 控訴人は,被告プログラムの構成g’に関し,被告プログラムのS\nay Textボックスの「スクリプトエディタ」において「親から
の変数を取得」機能を使う場合,上位ノードであるSayボックスの\n変数から利用可能なものを一覧表\示する機能があるから,被告プログ\nラムは,「上位ノード変数データ」を表示する「ノードデータテーブ\nル表示ステップ」を備えている旨主張する。\n しかしながら,控訴人の上記主張は,「スクリプトエディタ」にお
いて,どのような「上位ノード変数データ」が表示されるのかについ\nて具体的に主張するものではないから,その主張自体理由がない。
c 以上によれば,被告プログラムは,「上位ノード変数データ」を表\n示する「ノードデータテーブル表示ステップ」を備えているものと認\nめることはできないから,構成要件Gの「前記表\示された木構造のノ\nードのうちの選択されたノードの前記自ノード変数データ,前記上位
ノード変数データ及び前記スクリプトを表示するノードデータテーブ\nル表示ステップ」を備えているものと認めることはできない。\n
ウ まとめ
以上のとおり,被告プログラムは,構成要件Gの「木構\造を表示する木\n構造表\示ステップ」及び「ノードデータテーブル表示ステップ」を備えて\nいるものと認められないから,構成要件Gを充足しない。\n
◆判決本文
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◆平成29(ワ)31706
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2019.11. 6
平成30(ワ)7123 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月24日 大阪地方裁判所
CS関連発明についての侵害事件で、大阪地裁21部は技術的範囲に属しないと判断しました。争点は「前記指定地域の外に出た後,再び前記指定地域内に戻っても,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しない」という用語の技術的意義です。
ア そもそも,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の
記載に基づいて定めなければならないとされている(特許法70条1項)。
そこで,本件特許の特許請求の範囲の請求項1をみると,構成要件Eとして,次\nのように記載されている。
「前記広告情報管理サーバは,前記無線通信装置が一旦前記指定地域の外に出た
後,再び前記指定地域内に戻っても,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信
しないこと,を特徴とする無線通信サービス提供システム。」
ここでは,
「前記広告情報管理サーバは,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しな
いこと,を特徴とする無線通信サービス提供システム。」
と記載されるのではなく,「前記無線通信装置が一旦前記指定地域の外に出た後,
再び前記指定地域内に戻っても,」という文言(以下「本件指定地域に関する文言」
という。)がみられる。
このように,構成要件Eには本件指定地域に関する文言がわざわざ付加されてい\nるから,その文言には何らかの意味があるものとして理解すべきであり,構成要件\nEについて本件指定地域に関する文言がない場合と同じ解釈をすることは許されず,
その文言によって本件発明1の構成が特定(限定)されているものと理解するのが\n相当である。
イ そこで,本件指定地域に関する文言の意義について検討すると,ここで
いう「指定地域」とは,構成要件C及びDの記載を踏まえると,広告提供者から入\n手した配信先情報に含まれる,広告提供者が広告情報を配信する地域として指定し
た地域のことである。
そして,構成要件Eは,構\成要件Dにおいて,無線通信装置が少なくとも1回は
広告情報の配信を受けたことを踏まえたものであるから,無線通信装置がその時点
で上記指定地域内に存在していたことが前提となるが,無線通信装置は,その性質
上,(1)その指定地域内に存在し続ける場合((1)の場合)もあれば,(2)指定地域外に
出る場合もあり,後者の場合については,指定地域外に出たままの場合((2)−1の
場合)もあれば,一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻る場合((2)−2の
場合)も想定される。
このうち,指定地域外に出たままの場合((2)−1の場合)に,無線通信装置に同
じ広告情報が送信されないことは明らかであるが(これは構成要件Eによるもので\nはなく,指定地域内の無線通信装置に広告情報を送信するという構成要件Dの構\成
による作用効果である。),指定地域内に存在し続けている場合((1)の場合)及び
一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻った場合((2)−2の場合)には,無
線通信装置に同じ広告情報が送信される可能性がある。\nそうすると,本件指定地域に関する文言は,無線通信装置に同じ広告情報が送信
される可能性がある場合のうち,上記(2)−2の場合だけを記載し,上記(1)の場合を
あえて記載していないことになる。
ウ 以上のことを踏まえると,構成要件Eは,広告情報管理サーバが,特に,\n無線通信装置が一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻った場合に,同じ広
告情報を無線通信装置に送信しないことを特徴とするということを記載したものと
解すべきこととなる。
もっとも,これは,広告情報管理サーバが広告情報を無線通信装置に送信するも
のであること(構成要件C)を踏まえ,同じ広告情報を再送信するかどうかという\n機能ないし作用効果に着目して記載されたものであり,その具体的構\成について,
当該広告情報管理サーバは,単に,同じ広告情報を無線通信装置に再送信しないよ
うにする構成を備えているだけでは足りず,一旦指定地域外に出た後,再び指定地\n域内に戻ったことを把握して,当該無線通信装置に,同じ広告情報を再送信しない
ようにする構成を備えていなければ,構\成要件Eを充足するとはいえないと解すべ
きである。
エ 原告の主張について
(ア) 原告は,本件明細書の【0070】の記載を指摘し,構成要件Eは,\n広告情報管理サーバが,無線通信装置への広告の配信回数が0であるか1であるか
を表す送信済フラグに基づいて,無線通信装置が一旦配信エリアの外に出た後,再\nび配信エリア内に戻った場合には,広告情報を再送しないようにする態様を含むも
のと解すべきであると主張する。
原告の主張のように,構成要件Eが,無線通信装置への広告の配信回数のみによ\nって広告情報を再送信しないようにする態様を含むと解する立場をとると,無線通
信装置が一旦配信エリアの外に出た後,再び配信エリア内に戻った場合だけでなく,
無線通信装置が配信エリア内に存在し続けている場合にも,同じ広告情報が再送信
されなければ構成要件Eを充足することになる。\nしかしながら,「一旦前記指定地域の外に出た後,再び前記指定地域内に戻って
も」という構成要件Eの用語は,一義的に明確というべきであるし,特許請求の範\n囲には,発明を特定するために必要な事項が記載され(特許法36条5項),特許
発明の技術的範囲が,特許請求の範囲の記載に基づいて定められることは前述のと
おりであるから(同法70条1項),前記(2)−1と(2)−2の態様を区別する構成な\nしに,広告情報の配信回数を制限し得ることをもって,構成要件Eを充足すると解\nすることはできない。
(イ) 本件明細書の【0070】では,広告情報管理サーバによる広告情報
(広告メッセージ)の配信方法等について記載されており,広告を配信する際,「個
人情報データベースに項目として本広告メッセージに対応する広告IDを追加し,
送信済フラグを立てる。これにより,同じユーザに対して同一の広告メッセージを
重複して送信することがなくなる。即ち,携帯端末1Aが一旦指定地域の外に出た
後,再び指定地域内に戻っても,この送信済フラグが立っていれば,同じ広告メッ
セージを送信しない。」と記載されている。
この記載のうち,「即ち」よりも前の記載は,個人情報データベースに配信した
広告メッセージに対応する広告IDを追加し,送信済フラグを立てると,その広告
メッセージの配信を受けたユーザーに対しては,同一の広告メッセージを重複して
送信することがなくなるとの当然の機能ないし作用効果を記載したものと解される\nが,「即ち」の後ろの記載は,「携帯端末1Aが一旦指定地域の外に出た後,再び
指定地域内に戻っても,この送信済フラグが立っていれば,同じ広告メッセージを
送信しない。」というものであり,前記イで判示したとおり,携帯端末1Aが指定
地域内に存在し続けており,同一の広告メッセージを重複して受信する可能性があ\nる場合があえて除かれていることから,「即ち」の前の記載と同視し得るものと認
めることはできず,「即ち」の前の記載と後ろの記載とは,本来,「即ち」という
接続詞を用いて接続することのできる関係にはないといわざるを得ない。
したがって,構成要件Eは,【0070】の「即ち」の後ろの記載に対応するも\nのであるが,上記検討したところによれば,「即ち」の前の記載が,構成要件Eの\n意味内容である,あるいは,本件発明1の実施例であるということはできない。
また,【0070】は【0069】の後に記載されているところ,【0069】
では,広告情報管理サーバが,広告配信サービス契約を結んだ全てのユーザの携帯
端末の位置情報を時々刻々更新しており,常にそれら端末の現在位置を把握してい
ることが記載されている。そして,【0070】の「即ち」の後ろでは,無線通信
装置が指定地域内に存在し続けている場合が除かれていることからすると,そこで
は,特に,無線通信装置が一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻った場合
に,同じ広告メッセージを送信しないということを記載したものと読むのが自然で
ある。
以上のことを踏まえると,【0070】の記載内容によって,前記ウの解釈は左
右されないというべきである。
(ウ) 本件特許の出願経過について
・・・・
(d) 原告は,同日,特許庁審査官に対し,意見書を提出し,上記補正
後の特許請求の範囲の請求項1について,その内容を記載した上で,「特に,『前
記広告情報管理サーバは,前記無線通信装置が一旦前記指定地域の外に出た後,再
び前記指定地域内に戻っても,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しない
こと』に特徴付けられるものであります。」「本願発明は,かかる特徴的な構成を\n有機的に関連付けて具備することにより,明細書の段落0070に記載した通り,
『これにより,同じユーザに対して同一の広告メッセージを重複して送信すること
がなくなる。即ち,携帯端末1Aが一旦指定地域の外に出た後,再び指定地域内に
戻っても,この送信済フラグが立っていれば,同じ広告メッセージを送信しない。』
という特有の作用・効果を奏するものであります。」などと説明した。また,原告
は,拒絶理由通知における引用文献との対比の項目でも,上記構成を含む構\成を「最
大の特徴」とした上で,引用文献にはこの構成についての記載や示唆は一切なく,\n補正後の請求項に係る各発明は,引用文献に記載された発明から当業者が容易に発
明することができたものではないと結論付けていた(乙1)。
(e) その後,上記請求項26を本件特許の設定登録時のもの(前記第
2の1(3)ウ参照)と同じ内容に変更する補正がされるなどした後,本件特許につい
て特許査定がされた。
c 前記bで認定した本件特許の出願経過に照らし検討すると,確かに,
構成要件Eは本件明細書に【0070】の記載があることを踏まえて追加されたも\nのであることがうかがわれるが,原告は,上記補正に当たって,構成要件Eの構\成
を「特徴的な構成」などと位置付けた上で,この構\成を含む構成についての記載や\n示唆が引用文献には一切ないことを前提として,これを強調していた。
他方で,乙3の1の1ないし乙4の2によれば,本件特許が出願された平成12
年9月以前から,インターネットを利用した広告情報(バナー広告)の配信サービ
スの分野においては,ユーザー(利用者)に対して同じ広告が配信(表示)される\n回数をコントロール(制限)することによって,「バナーバーンアウト」(広告に
反応がなくなる状態)ないし「バナー飽き(wearout)」を防止し,効果的な宣伝広
告を実現することが広く行われていたと認められる。この点,原告も,乙3の1の
1等で触れられているダブルクリック社の DART や乙4の1,2の公知技術が,広告
の配信回数を管理するものであることを認めている。
そうすると,原告が本件特許の出願経過において,単に,本件特許の出願前から
広く行われ,公知技術でもあった同じ広告の配信回数を管理するという構成による\n機能ないし作用効果を構\成要件Eに記載し,これを本件特許の「特徴的な構成」な\nどとして強調していたとは考え難い。
むしろ,前記認定の原告による本件特許の出願経過における説明内容に加え,本
件特許の出願当時,広く行われ公知とされていた技術を前提とすれば,原告は,特
に,無線通信装置が一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻った場合に,同
じ広告情報を無線通信装置に送信しないようにする構成を強調していたと理解する\nのが自然である。
したがって,先に判示した構成要件Eの解釈は,原告による本件特許の出願経過\nにおける説明等とも整合的ということができ,これに反する原告の主張は採用でき
ない。
◆判決本文
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2019.10.21
平成30(ネ)10006等 特許権侵害行為差止等請求控訴,同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月11日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
ゲームの特許について、約1.7億円の損害賠償が認められました。1審よりも損害賠償額が上がりました。これは1審では、A事件は特許無効と判断されましたが、知財高裁はA事件の特許に無効理由無しと判断したためです。
これに対し控訴人は,本件発明A1の「拡張ゲームプログラムおよび
/またはデータ」は,標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容
を楽しむことが可能となるものであるから(本件明細書Aの【0020】\n等),標準のゲーム内容を置き換えるゲームプログラム及び/又はデー
タを含まないと解され,本件発明A1と公知発明1との間には,相違点
1−1及び1−2のほかに,相違点1−3ないし1−5が存在する旨主
張する。
そこで検討するに,本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記
載によれば,「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は,
「標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラ
クタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および\n/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲー
ムプログラムおよび/またはデータ」であり,「第2の記憶媒体」に「包
含」されるものであって,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装
填され」,「上記ゲーム装置が」「第1の記憶媒体」が「包含する」「所
定のキーを読み込んでいる場合に」,「上記標準ゲームプログラムおよ
び/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの
双方によってゲーム装置を作動させ」ることを理解できる。
一方,上記特許請求の範囲には,「上記標準ゲームプログラムおよび
/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双
方によってゲーム装置を作動させ」た場合に動作する「上記標準ゲーム
プログラムおよび/またはデータ」が,「上記標準ゲームプログラムお
よび/またはデータ」の全部であると限定して解釈すべき根拠となる記
載はない。そして,本件明細書Aの発明の詳細な説明にも,「上記標準
ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムお
よび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ」る場合とは,
「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」の一部しか作動し
ない場合を含まないものであり,「上記標準ゲームプログラムおよび/
またはデータ」の全部が動作することが必要であると解釈すべき根拠と
なる記載はない。
前記(ア)のとおり,本件公知発明1の「勇士の紋章DDII」は,魔洞戦
紀DDIから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以
上であるときには,(1)そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最
初から2となり,(2)神殿で祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。
がんばるのだぞ。」とのメッセージが表示され,アイテム「くさのつゆ」\n及び「しろきのこ」が1つ増える,という動作機能を実行するゲームプ\nログラム及び/又はデータを包含するものである。
そうすると,上記(1)の点は,「勇士の紋章」の標準のゲーム内容であ
ればレベル1からスタートするゲームキャラクタのレベル(乙A4の2・
11枚目,乙A8の1・8頁)をレベル2からスタートできるようにす
るものであり(乙A4の1・8枚目),上記(2)の点は,標準のゲーム内
容であれば金貨(GOLD)で支払わなければ取得できないアイテム(乙
A4の1・13枚目,乙A4の2・8枚目)を神殿で祈ることで取得で
きるようにするものであって(乙A9・2頁,乙A10・3頁),いず
れも新たな機能をゲームキャラクタに持たせるものであるから,これが\n「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」に当たることは明らかである。\nまた,上記(2)の点は,「勇士の紋章」の標準のゲームの内容であれば,
神殿で祈ると「あなたのたたかいが ぶじおわりますよう。あくまに わ
ざわいを!」とのメッセージのみが表示される場面を,神殿で祈ると「ゆ\nうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。」とのメッセージが
表示され,アイテム「くさのつゆ」及び「しろきのこ」が1つ増えると\nいう場面とするものであるから,これが「場面の拡張」に当たることも
明らかである。
以上によれば,本件公知発明1の「勇士の紋章DDII」は,「標準ゲ
ーム機能部分を実行する標準ゲームプログラム及び/又はデータ」に加\nえて,「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」及び「場面の拡張」を\n達成するためのゲームプログラム及び/又はデータ,すなわち,本件発
明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」を包含するも
のといえる。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 他方,被控訴人は,公知発明1における「所定のキー」に相当する「キ
ャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」とは,
(1)魔洞戦紀DDIが装填されたことを示すデータ及び(2)キャラクタ(じ
ゅんく)のレベルが16以上であるセーブデータである旨主張する。
そこで検討するに,証拠(甲A4の1,4の2,13の2)及び弁論
の全趣旨によれば,本件ゲームシステムA1において,まず,勇士の紋
章DDIIを装填し,次いで,「まどうせんきのAメンをいれてください」
というインストラクションに基づき,魔洞戦紀DDIを装填し,キャラ
クタ「じゅんく」を選択した後,再度,勇士の紋章DDIIを装填した場
合には,勇士の紋章においてもキャラクタ「じゅんく」でプレイできる
ことが認められる。
しかしながら,魔洞戦紀DDIを装填することにより当然に,本件発
明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」に相当する,
本件公知発明1の「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」及び「場面\nの拡張」を達成するためのゲームプログラム及び/又はデータと,標準
ゲームプログラム及び/又はデータの双方によって,ファミリーコンピ
ュータが作動されるものではない。前記(ア)及び(イ)のとおり,本件公知
発明1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータと拡張ゲームプ
ログラム及び/又はデータの双方によってファミリーコンピュータを作
動させ」るには,魔洞戦紀DDIから,キャラクタ(じゅんく)のレベ
ルが16以上であるセーブデータを読み込むことが必要であり,かかる
データを読み込んでいない場合には,上記のようにインストラクション
に基づき魔洞戦紀DDIを装填するなどの作業をしたとしても,本件公
知発明1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによって
ファミリーコンピュータを作動させる」こととなる。
以上によれば,上記(1)のデータは,本件公知発明1の「拡張ゲームプ
ログラムおよび/またはデータ」を作動させる条件であるとはいえない
から,本件発明A1の「所定のキー」に相当する本件公知発明1の「キ
ャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」には,
上記(1)のデータは含まれないといえる。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 本件発明A1と本件公知発明1の対比
本件発明A1と本件公知発明1とを対比すると,以下の相違点が存在す
ることが認められる。
(相違点1−1)
一の記憶媒体,二の記憶媒体が,本件発明A1は,「記憶媒体(ただし,
セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対し,本件公\n知発明1は「セーブデータなどを記憶可能なディスク」である点。\n
(相違点1−2)
本件発明A1の「第1の記憶媒体」は,セーブデータを記憶可能な記憶\n媒体を除くから,「所定のキー」はセーブデータを含まないのに対し,本
件公知発明1では,魔洞戦紀DDIに包含される「所定のキー」が,魔洞
戦紀DDIに記憶されたセーブデータであって,魔洞戦紀DDIにセーブ
されたキャラクタのレベルが21であることを示す情報である点。
ウ 相違点の容易想到性について
(ア) 本件公知発明1の技術思想
本件公知発明1の内容に加え,前記アに掲記の各証拠及び弁論の全趣
旨を総合すれば,(1)ディープダンジョン(DD)シリーズの後作「勇士
の紋章」は,前作「魔洞戦紀」の続編であって,両者は,魔洞戦紀にお
いて,魔王が勇剣士に倒され平和を取り戻したものの,勇士の紋章にお
いて,魔王が復活し,勇剣士が再び冒険するという一連のストーリーを
有するゲームであること,(2)「魔洞戦紀」の勇剣士のキャラクタを,「勇
士の紋章」に転送することにより,「魔洞戦紀」の「勇剣士」を,「勇
士の紋章」の「勇士」として復活させることができること,(3)「魔洞戦
紀」において,キャラクタのレベルが16以上であれば,レベル1から
ではなく,レベル2のキャラクタとして「勇士の紋章」でプレイできる
こと,(4)このような場合に,「魔洞戦紀」から転送されたレベル16以
上のキャラクタは,「勇士の紋章」においては「勇剣士の子孫」として
復活すること,(5)「魔洞戦紀」のキャラクタリストは,「魔洞戦紀」に
おいて,特定のキャラクタでゲームをプレイしている途中で中断し,そ
の後,中断した場面からゲームを再開してプレイするために,ディスク
にセーブされたものと解されることが認められる。
上記認定事実によれば,本件公知発明1は,前作と後作との間でスト
ーリーに連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲーム
のキャラクタでプレイしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作
のゲームのプレイを有利にしたりすることによって,前作のゲームをプ
レイしたユーザに対して,続編である後作のゲームもプレイしたいとい
う欲求を喚起し,これにより後作のゲームの購入を促すという技術思想
を有するものと認められる。
(イ) 相違点1−1について
前記(ア)のとおり,本件公知発明1は,キャラクタでプレイするゲーム
において,セーブされたキャラクタを前作のゲームから後作のゲームに
転送するものであり,前作のゲームにおいて,プレイ途中でセーブして,
なおかつ,キャラクタのレベルが16以上である場合に,後作のゲーム
において,ゲームのプレイが有利になるという特典が与えられるもので
ある。
そうすると,本件公知発明1は,少なくとも,前作において,ゲーム
をプレイ途中でセーブするとともに,ゲームをある程度達成した,すな
わち,前作のゲームにおいて,キャラクタのレベルが16以上となるま
でプレイしたという実績があることが,後作においてプレイを有利にす
るための必須の条件であり,「キャラクタ」,「プレイ実績」を示す情
報を前作の記憶媒体にセーブできることが本件公知発明1の前提であっ
て,「キャラクタ」,「プレイ実績」の情報をセーブできない記憶媒体
を採用すると,前作のゲームにおける「キャラクタ」,「プレイ実績」
の情報が記憶媒体に記憶されないこととなり,「前作のゲームのキャラ
クタで,後作のゲームをプレイする」,「前作のキャラクタのレベルが
16以上であると,後作において拡張ゲームプログラムを動作させる」
という本件公知発明1を実現することができなくなることは明らかであ
る。
したがって,仮に,被控訴人の主張するとおり,ゲームプログラム及
び/又はデータを記憶する媒体としてCD−ROMを用いることが本件
特許Aの出願前において周知技術であり,また,同一タイトルのゲーム
をCD−ROMやROMカセットに移植することが一般的に行われてい
る事項であったとしても,本件公知発明1において,記憶媒体を,ゲー
ムのキャラクタやプレイ実績をセーブできない「記憶媒体(ただし,セ
ーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更する動機付けはな\nく,そのような記憶媒体を採用することには,阻害要因がある。
以上のとおりであるから,本件公知発明1において,相違点1−1に
係る本件発明A1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たもの\nであるとは認められない。
(ウ) 相違点1−2について
前記(イ)と同様の理由により,本件公知発明1において,相違点1−2
に係る本件発明A1の構成を採用することは,動機付けを欠き,むしろ\n阻害要因があるというべきであるから,当業者が容易に想到し得たもの
であるとは認められない。
(エ) 被控訴人の主張について
これに対し被控訴人は,相違点1−1及び1−2は,本件訂正Aによ
り,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」から「セーブデータを
記憶可能な記憶媒体」が除かれ,その結果,「所定のキー」からセーブ\nデータが除かれたこと(「除くクレーム」とされたこと)により生じた
ものであることを前提として,除くクレームとする訂正により,形式的
に主引用発明との間に相違点が存在すると認められる場合は,(1)相違点
に係る構成によって,技術的観点から主引用発明と異なる作用効果が存\n在するか否かを検討し,(2)技術的意義が認められない場合には,実質的
な相違点とはいえず新規性が否定されると解すべきであり,(3)技術的意
義が認められた場合には,当業者において適宜なし得る設計事項に過ぎ
ないか否かを検討し,設計事項に過ぎない場合には,進歩性が否定され
ると解すべきであるところ,本件訂正Aは,シリーズ化された一連のゲ
ームソフトを買い揃えていくことにより,豊富な内容のゲームを楽しむ\nことができるようにするという本件発明A1の課題との関係では,技術
的な解決手段を示したものとはいえず,技術的意義がないものであって,
本件発明A1の作用効果や技術的思想は,本件訂正Aの前後で変わらな
いから,相違点1−1及び1−2は,実質的に相違点とはいえず,少な
くとも,当業者が適宜なし得る設計事項である旨主張する。
しかしながら,前記(イ)及び(ウ)のとおり,本件公知発明1において,
相違点1−1及び1−2に係る本件発明A1の構成を採用することは,\n動機付けを欠き,むしろ阻害要因があるというべきものである。
また,本件発明A1において,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶
媒体」を「セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く」ものとすること\nは,前作のプレイ実績にかかわらず,後作において拡張ゲームプログラ
ム及び/又はデータによってゲームを楽しむことができるという作用効
果を奏するものであって,技術的意義を有するものであることからする
と,相違点1−1及び1−2は,実質的な相違点であるといえるし,当
業者が適宜なし得る設計事項であるとは認められない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
(オ) 小括
以上のとおり,本件公知発明1において,相違点1−1及び1−2に
係る本件発明A1の構成とすることには,動機付けがなく,むしろ阻害\n要因があるため,当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
したがって,本件発明A1は,当業者が本件公知発明1に基づき容易
に発明をすることができたものであるとは認められない。
・・・・
特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき
金銭の額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改
正前は「その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する
額の金銭」と定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では
侵害のし得になってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除
された経緯がある。
特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許
が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最
低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの
実施料の返還を求めることができないなど様々な契約上の制約を受ける
のが通常である状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術
的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許
権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契約上の制約
を負わない。そして,上記のような特許法改正の経緯に照らせば,同項
に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施
許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特
許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受ける
べき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろ
うことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,(1)当該特許発明の実際の
実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界に
おける実施料の相場等も考慮に入れつつ,(2)当該特許発明自体の価値す
なわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,(3)当
該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の
態様,(4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に
現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
(イ) 認定事実
a 本件特許Aについての実際の実施許諾契約の実施料率は,本件訴訟
に現れていない。
そして,証拠(乙A115,116,乙B28)及び弁論の全趣旨
によれば,以下の事実が認められる。
(a) 株式会社帝国データバンクが「知的財産の価値評価を踏まえた特
許等の活用の在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価
値及びロイヤルティ料率に関する実態把握〜(平成22年3月)」
(乙B28。本件調査報告書)を作成するに当たって行った,特許
権に関するロイヤルティ率情報のアンケート(以下「本件アンケー
ト」という。)の結果を記載した表2−2には,技術分類を「家具,\nゲーム」とする特許のロイヤルティ料率の平均は2.5%(最大値
4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%)(件数14件)と
記載されている。
(b)本件調査報告書には,本件アンケート調査結果の回答及び集計に
当たっての前提条件について,(1)ライセンス・アウト(ライセンス
を与える側)の立場での回答であること,(2)国内同業他社へのライ
センスを想定していること,(3)通常実施権(ライセンス提供先を独
占的にする訳ではなく,複数の者とライセンスを行うことができる
形態)によるライセンスを想定していること,(4)正味販売高に対す
る料率を想定していること,(5)特殊な事情(エンタイアマーケット
バリュールール(特許技術が製品の一部に使われているだけだとし
ても,侵害された部品を含む製品全体の単価に基づいて損害額を計
算するルール)によるロイヤルティ算定,契約相手の事情など)を
捨象したケースであること,(6)ロイヤルティ料率相場はカテゴリ選
択肢で回答であるが,集計時には各選択肢の中央値をロイヤルティ
料率として集計を行ったことが記載されている。
(C) 経済産業省知的財産政策室編の「ロイヤルティ料率データハンド
ブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」(平
成22年8月31日発行)の「II 各国のロイヤルティ料率」には,
(1)ロイヤルティ算定方式として最も広く採用されているのは,定率
方式であり,そのロイヤルティは,「対象製品の販売価格×ロイヤ
ルティ料率」として算定されること,(2)販売価格の対象となるロイ
ヤルティベースには,総販売価格,純販売価格(正味販売価格),
小売価格等が使用されるが,実務面では,純販売価格(正味販売価
格)が採用されることが比較的多いとされること,(3)純販売価格(正
味販売価格)は,総販売価格から一定の費用項目を控除した残額と
して定義され,控除費用項目としては,一般的に,輸送費,保険料,
倉庫保管費用,リベート,包装梱包費等,販売地によって変動する
可能性のある費用項目が中心となるが,業界慣行や製品種類等によ\nって異なることが記載されている。
b 前記(1)アのとおり,本件発明A1は,ゲームプログラム及び/又は
データを記憶する記憶媒体を所定のゲーム装置に装填してゲームシス
テムを作動させる方法であって,上記記憶媒体は,少なくとも,所定
のゲームプログラム及び/又はデータと,所定のキーとを包含する第
1の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラム及び/又はデータに加
えて所定の拡張ゲームプログラム及び/又はデータを包含する第2の
記憶媒体とが準備され,上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填
されるとき,上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合
には,上記標準ゲームプログラム及び/又はデータと上記拡張ゲーム
プログラム及び/又はデータの双方によってゲーム装置を作動させる
ことにより,ユーザにとっては,一回の購入金額が適正なシリーズも
のの記憶媒体を買い揃えてゆくことによって,最終的に極めて豊富な
内容のゲームソフトを入手したのと同じになり,メーカにとっては,\n膨大な内容のゲームソフトを,ユーザが購入しやすい方法で提供でき\nるという効果をもたらすものである。
このように,本件発明A1は,ゲームシステム作動方法の発明であ
り,その構成及び効果は上記のとおりであるところ,イ−9号方法等\nは本件発明A1の技術的範囲に属するものであり,イ−9号製品等は,
ゲーム装置に装填してゲームを実行するためのゲームソフトであって,\n本件発明A1の「第2の記憶媒体」に相当する,同発明を実施するた
めに不可欠の物である。そして,前記(1)イのとおり,イ−9号製品等
は,本編ディスク(第1の記憶媒体)から所定のキーを読み込むこと
により,アペンドディスク(第2の記憶媒体)に記録された標準のゲ
ームプログラム及び/又はデータに加えて,拡張ゲームプログラム及
び/又はデータを作動させることができるものであるから,本件発明
A1は,イ−9号製品等にとって,相応の重要性を有するものといえ
る。
また,家庭用ゲーム機などの情報処理装置を対象としたシステム作
動方法に関し,本件発明A1の上記技術についての代替技術が存在す
ることはうかがわれない。
c(a) 前記bのとおり,本件発明A1は,イ−9号製品等に記録された
拡張ゲームプログラム及び/又はデータを作動するに当たり不可欠
な技術であるところ,家庭用ゲーム機本体に装着してゲームを楽し
むゲームソフトにおけるゲームキャラクタのもつ機能\,場面,音響
が豊富であることは,通常,需要者の購入動機に影響を与えるもの
といえる。
そして,被控訴人は,イ−9号製品等を販売するに当たり,製品
解説書(甲A5,7,8,10,11)において,MIXJOY機
能について紹介し,前作のディスク(本編ディスク)があると本作\n(アペンドディスク)とのMIXJOYを楽しむことができ,前作
のシナリオを本作のキャラクタでプレイしたり,前作では特定のキ
ャラクタとのみ迎えることができたエンディングを全てのキャラク
タと迎えることができたりする旨を説明している。
これらの事情を考慮すると,本件発明A1をイ−9号製品等に用
いることにより被控訴人の売上げ及び利益に貢献するものと認めら
れる。
・・・
a 前記(イ)のとおり,本件訴訟において本件特許Aの実際の実施許諾
契約の実施料率は現れていないところ,本件特許Aの技術分野が属す
る分野の近年の統計上の平均的な実施料率が,本件アンケート結果で
は2.5%(最大値4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%)
であり,同実施料率は正味販売高に対する料率を想定したものである
ことが認められる。そして,このことを踏まえた上,侵害品に係るゲ
ームソフトにおいては,ゲームのキャラクタや内容,販売方法の工夫\n等が,その売り上げに大きく貢献していることは否定できないとはい
え,本件発明A1に係る技術も,売上げの向上に相応の貢献をしてい
ると認められることや,本件発明A1の代替となる技術は存在しない
こと,控訴人と被控訴人は競業関係にあることなど,本件訴訟に現れ
た事情を考慮すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められ
るべき,本件での実施に対し受けるべき料率(以下「本件実施料率A」
という。)は,消費税相当額を含む被控訴人の正味販売価格に対し,
3.0%を下らないものと認めるのが相当である。
b 被控訴人は,別紙1「販売開始日一覧表」記載の販売開始日から本\n件特許権Aの存続期間満了日までのイ−9号製品等の売上高(被控訴
人の卸売価格)が,別紙7「売上高(補正後)」の「売上高」欄記載
のとおりであると主張するところ,イ−9号製品等の売上高(被控訴
人の卸売価格)が上記金額を超えるものであることを認めるに足りる
証拠はない。そこで,同金額に消費税相当額(5%)を加えた金額を,
実施料算定の基礎となる価格とするのが相当である。
もっとも,前記(イ)c(C)のとおり,イ−9号製品等のうちには,本件
発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに,1\n個ないし5個の当該ゲームソフトと同一シリーズのゲームソ\フト(記
憶媒体)が含まれるパッケージ商品も存在するところ,これらのゲー
ムソフトは,本件発明A1についての本件特許権Aを侵害するもので\nはなく,かつ,イ−9号製品等に含まれなくとも,単体で販売の対象
となる商品である。また,前記(イ)a(b)のとおり,本件調査報告書には,
本件アンケート調査結果の回答及び集計に当たっての前提条件につい
て,特殊な事情(エンタイアマーケットバリュールール(特許技術が
製品の一部に使われているだけだとしても,侵害された部品を含む製
品全体の単価に基づいて損害額を計算するルール)によるロイヤルテ
ィ算定,契約相手の事情など)を捨象したケースであることが記載さ
れている。そうすると,侵害品以外のゲームソフトの価格に相当する\n部分については,本件実施料率Aを乗じるべき販売価格から控除する
のが相当というべきであるから,イ−9号製品等の販売価格を侵害品
であるゲームソフトとそれ以外のゲームソ\フトとの合計数で除したも
のをもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当である。
また,前記(イ)c(C)のとおり,イ−19及び23(2)号製品には,本件
発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに,「最\n強データ収録CD−ROM」やグッズが同梱されているものもあるが,
上記CD−ROMは,ゲームソフトで使用するデータ(キャラクタの\n能力値等が最大の状態のデータ)が記録されているに過ぎず,それら\nが単独で商品として流通するものではないから,当該製品の販売価格
全体をもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当であ
る。
他方,イ−39号製品(「遥かなる時空の中で3十六夜記 プレミ
アムBOX」(希望小売価格9800円))は,同日付で発売された
イ−35号製品(「遥かなる時空の中で3十六夜記」(希望小売価格\n4980円))に対して,4820円高く価格が設定され,その製品
の相違は同梱グッズのみであって,イ−39号製品に含まれる同梱グ
ッズの価格は,おおむね同製品の2分の1に相当するものといえるか
ら,同製品の販売価格の2分の1を本件実施料率Aを乗ずべき売上高
とするのが相当である。
さらに,イ−40号製品(「遥かなる時空の中でプレミアムBOX
コンプリート」)は,本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当する
ゲームソフトのほかに,これと同一の「遥かなる時空の中でシリーズ」\nのゲームソフト5個が含まれるところ,同製品についても,イ−39\n号製品と同様に,同梱グッズの価格は,これと対応するゲームソフト\nの価格のおおむね2分の1に相当するものといえる。そうすると,同
製品の販売価格の12分の1をもって,本件実施料率Aを乗ずるべき
売上高とするのが相当である。
c 以上によれば,本件特許権Aの侵害について,特許法102条3項
により算定される損害額は,別紙10のとおり計算され,その合計額
は1億1667万3710円となる。
(エ) 控訴人の主張について
控訴人は,(1)本件発明A1及びA2は,イ号製品のユーザにおいて実
施されるゲームシステム作動方法であること,イ号製品のような本件特
許権Aの間接侵害を構成する製品の製造販売に関する特許権者の許諾は,\n当該製品がユーザに販売されることを当然の前提とすることなどから,
実施料率算定の基礎となるイ−9号製品等の売上高は,被控訴人の卸売
価格ではなく小売価格とすべきである,(2)イ−9号製品等に同梱される
アイテムがある場合でも,イ号製品は,同梱されたアイテムを含む製品
全体で一個の商品(販売単位)であり,製品の販売等行為全体が一個の
特許権侵害を構成するから,イ−9号製品等の販売価格全体が本件実施\n料率Aに乗ずべき価格となる旨主張する。
しかしながら,上記(1)の点については,控訴人の主張を裏付けるに足
りる客観的な証拠はない。前記(イ)aのとおり,本件特許Aの技術分野が
属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率は,正味販売高に対する
料率を想定したものであることからすると,実施料算定の元となる売上
高は,被控訴人のイ−9号製品等の販売価格,すなわち卸売価格とする
のが相当である。
上記(2)の点については,前記(ウ)bのとおり,イ−9号製品等のうち,
本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフト以外のゲー\nムソフトを含むものや,同梱されたグッズが,商品構\成や価格構成上,\n明らかにゲームソフトとは別の価値を有するもの,すなわち,別個の商\n品として扱われていると判断し得るものについては,これらのゲームソ\nフト及びグッズの価格に相当する金額を本件実施料率Aを乗ずべき価格
から控除するのが相当である。
控訴人の主張するその余の点も,前記(ウ)の判断を左右するものでは
ない。
(オ) 被控訴人の主張について
被控訴人は,(1)実施料率算定の基礎となるべき正味販売価格に消費税
相当額は含まれない,(2)本件調査報告書によれば,「家具,ゲーム」の
技術分野には,「ビデオゲーム」のような全体の一部に特許発明が実施
されているもの以外に,「家具」,「カードゲーム,盤上ゲーム,ルー
レットゲーム;小遊技動体を用いる室内用ゲーム」も含まれるため,本
件特許Aの実施料率は,上記実施料率の平均値(2.5%)より低くな
る,(3)同梱グッズについても,別紙7「売上高(補正後)」記載のとお
り,そのアイテム数に応じて売上高を補正すべきである,(4)本件発明A
1は,セーブデータを「所定のキー」とする方法,「拡張ゲームプログ
ラム等」の一部を「所定のキー」とする方法,第2の記憶媒体に「拡張
ゲームプログラム等」のみを記憶する方法により,同発明と同様の作用
効果を奏しながら,同発明を回避することができる,(5)控訴人は,競業
者と特許クロスライセンス契約を締結し,「ライセンスなどの特許権の
有効活用を促進」するとしたプレスリリースを公開しており(乙A83
の1〜3),むしろ開放的ライセンスポリシーを採用している,(6)イ号
製品は,武将やステージを新規に追加するものというよりは,「違った
遊びを提供するという概念で開発」されたものであり,本編ディスクで
はプレイできなかったモードを提供することが主眼となった製品であっ
て,それ単体でも十分楽しめる内容である反面,MIXJOYをするこ\nとで可能となるのは,本編ディスクでプレイできたモードやシナリオを\nアペンドディスクでもプレイできるというものであり,MIXJOYを
行う場面は限定されている旨主張する。
しかしながら,上記(1)の点については,消費税相当額も被控訴人の販
売価格の一部としてそれに含まれているものであるから,損害額の算定
に当たって消費税相当額を控除すべき理由はない。
上記(2)の点については,前記(イ)a(a)のとおり,本件アンケート結果
を記載した,本件調査報告書の表2−2には,技術分類を「家具,ゲー\nム」とする特許のロイヤルティ料率の平均は2.5%であり,件数は1
4件である旨が記載されているものの,アンケート回答者の保有する特
許の内容,特許の実施品について,具体的な記載はない。したがって,
本件調査報告書の記載からは,本件特許Aの実施料率が,上記実施料率
の平均値より低くなると認めることはできない。
上記(3)の点については,前記(イ)c(C)のとおり,イ−9号製品等に同梱
されているグッズは,本件発明A1の「第2の記憶媒体」に相当するゲ
ームソフトの付属物というべきものであって,単独で商品として流通す\nるものではないから,イ−39及び40号製品に同梱されたグッズを除
き,当該製品の販売価格全体をもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上
高とするのが相当である。
上記(4)の点については,i)前記(5)ウ(エ)のとおり,本件発明A1にお
いて,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」を「セーブデータを
記憶可能な記憶媒体を除く」ものとすることは,前作のプレイ実績にか\nかわらず,後作において拡張ゲームプログラム及び/又はデータによっ
てゲームを楽しむことができるという技術的意義を有するものであり,
セーブデータを「所定のキー」とする方法は,本件発明A1と同様の作
用効果を奏するものではなく,また,記憶媒体をセーブデータを記憶可
能なものにした場合は,大量の記憶容量を有し,安価で大量生産が可能\
なCD−ROM,DVD−ROM等の読み出し専用メモリーを用いるこ
とができなくなること,ii)本件発明A1は,第1の記憶媒体に記憶され
た「所定のキー」を読み込むだけで,第2の記憶媒体に記録された標準
ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによりゲーム装置を作動さ
せるものであって,装置の作動中に第1の記憶媒体を入れ換え可能なも\nのであるが,「拡張ゲームプログラム等」の一部を「所定のキー」とす
る方法では,標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによるゲ
ーム装置の作動中に,第1の記憶媒体を装填し続ける必要があること,
iii)第2の記憶媒体に「拡張ゲームプログラム等」のみを記憶する方法
では,第2の記憶媒体単体で,標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプ
ログラムによりゲーム装置を作動させることができないことから,これ
らの方法が本件発明A1の代替技術であるとはいえない。
上記(5)の点については,たとえ,特許権者が開放的ライセンスポリシ
ーを有しているとしても,そのことは,特許権侵害者に対して事後的に
定めるべき実施料率を下げる理由にはならないものというべきである。
上記(6)の点については,前記(イ)c(a)のとおり,本件発明A1により
ゲームキャラクタのもつ機能,場面,音響が豊富になるという効果は,\n通常,需要者の購入動機に影響を与えるものであるといえ,イ−9号製
品等においても,MIXJOY機能により,前作のシナリオを本作のキ\nャラクタでプレイしたり,前作では特定のキャラクタとのみ迎えること
ができたエンディングを全てのキャラクタと迎えることができたりする
ものであって,被控訴人は製品解説書でかかる機能を紹介し,宣伝して\nいるものである。そうすると,本件発明A1は,これをイ−9号製品等
に用いることにより被控訴人の売上及び利益に相応の貢献をするものと
認められるものであって,イ−9号製品等が単体でも十分楽しめるもの\nか否かという点や,MIXJOYを行う場面が限定されているか否かと
いう点は,上記判断を左右するものではない。
被控訴人の主張するその余の点も,前記(ウ)の判断を左右するもので
はない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆判決本文
判決理由は、A、B事件にそれぞれ分けられています。
◆A事件
◆B事件
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2019.10.18
平成29(ワ)44181 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月18日 東京地方裁判所
東京地裁(40部)は、構成要件11D等における「送信先」としては、「ドメイン」を含まないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。均等侵害も第1要件を満たさないと判断されました。問題の構成要件における特定は、「受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段」というものです。原告キヤノンITソ\リューションズ(株)代理人鮫島弁護士、被告デジタルアーツ(株)代理人大野聖二弁護士です。
原告は,制御ルールのリストの例示である【図5】の「条件定義部」の
「受信者」欄に,「*@zzz.co.jp」が定められており,これはドメインを表\nすものであるから,「送信先」には電子メールアドレスのみならず,ドメ
インを含むと主張する。
しかし,前記のとおり,本件明細書等1には,制御ルールに関し,「「条
件定義部」は,「発信者(送信元)」,「受信者(宛先)」,「その他条
件」から構成される。…「受信者(宛先)」には,メール送受信端末11\n0から取得する電子メールの宛先(To,Cc,Bcc)の電子メールア
ドレス(受信者情報) が設定されている」(段落【0040】),「「発
信者(送信元)」,「受信者(宛先)」には,それぞれ電子メールアドレ
スを複数設定することができ,アスタリスクなどのメタ文字(ワイルドカ
ード)を使うことによって任意の文字列を表すこともできる」(段落【0\n041】)と記載されており,これらの記載によれば,上記「*@zzz.co.jp」
は,ドメインを意味するのではなく,「*」に任意の文字列を含み,ドメイ
ン名を「zzz.co.jp」とする複数の電子メールアドレスを意味するという
べきである。
原告は,「*@zzz.co.jp」がドメインを意味することは,複数の特許文献
(甲24,30〜32,乙15)などの記載からも裏付けられると主張す
るが,特許請求の範囲や発明の詳細な説明において使用される言葉の意義
は各発明により異なることから,構成要件11D等の「送信先」の意義は\n本件特許に係る特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に基づいて
解釈されるべきである。本件明細書等1の「*@zzz.co.jp」がドメインを意
味すると解し得ないことは上記判示のとおりであり,原告の挙げる他の文
献等の記載は上記結論を左右するものではない。
(イ) 原告は,本件明細書等の段落【0061】及び【図4】のステップS4
02には,「受信者」の「宛先」単位で電子メールの分割をすることを記
載しているが「受信者」の「宛先」にはドメインも含まれると主張する。
しかし,段落【0061】には「各宛先(受信者)のそれぞれを単一の
宛先としたエンベロープをそれぞれ生成する」と記載されているところ,
同エンベロープの生成を説明する【図12】には,送信先(受信者) の電
子メールアドレスとして設定されている「A」,「B」,「C」のそれぞ
れを単一の宛先とするエンベロープ情報をそれぞれ生成することが図示
されているのであるから,同段落の「各宛先(受信者)」とは電子メール
アドレスを意味するというべきである。
(ウ) 原告は,本件明細書等1の段落【0003】に記載の従来技術である乙
15公報における「宛先」には「電子メールアドレス」又は「ドメイン」
であることが記載されており,本件発明1において分割する単位をドメイ
ンとしてもこの従来技術の課題を解決することができると主張する。
そこで,乙15公報をみるに,その段落【0032】には,【図2】の
「項目203,205にあっては,アカウントを*として,ドメインのみ
を指定するとした設定も可能である」と記載されているが,ここにいう項\n目203は送信メールの一時保留機能を利用する場合であって,一時保留\nせずに,即配信したいメールアドレスの即配信リストを設定する項目であ
り,同図の項目205は,全ての送信保留中メールを本人(送信者)に配
送する場合であって,配送を希望しない送信保留中メールを本人(送信者)
に送信しないメールアドレスの送信不要リストを設定する項目である(段
落【0030】)。【図2】
このように,項目203及び同205は即配信又は送信不要リストを設
定するためのものであるから,段落【0032】の趣旨は,一時保留せず
に即配信したいメールアドレスの即配信リスト(項目203)や,送信保
留中メールを本人(送信者)に送信しないメールアドレスの送信不要リス
ト(項目205)に,任意のドメイン名を有する複数のメールアドレスを
一括して設定することも可能であることを述べたものにすぎず,電子メー\nルの「宛先」にドメインが含まれることを示すものということはできない。
そうすると,同段落の記載をもって従来技術である乙15公報における
「宛先」に「ドメイン」が含まれると解することはできないので,原告の
上記主張は前提において採用し得ないというべきである。
(エ) 原告は,電子メールをドメイン単位で分割する場合でも本件発明1の課
題を解決し得ると主張する。
しかし,電子メールをドメイン単位で分割するとなると,同一ドメイン
の複数の電子メールのうち,一つのみの送出を保留すべきような場合に上
記課題を解決し得ないことは,前記判示のとおりである。
原告は,本件発明1はいかなる場合でも電子メールの送出制御を効率的
に行うことを課題と設定しているのではないと主張するが,本件発明1が
その課題を解決し得ない構成を含むとは考え難く,特許請求の範囲及び本\n件明細書等1の記載に照らしても,「送信先」にドメインを含むとは解し
得ないことも,前記判示のとおりである。
エ 以上のとおり,構成要件11D等における「送信先」は「電子メールアド\nレス」のみを指し,「ドメイン」を含まないと解することが相当である。
・・・・
特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書
記載の従来技術との比較から認定されるべきであるところ(知財高裁平成2
7年(ネ)第10014号同28年3月25日判決),本件明細書等1には,
従来技術の「複数の送信先が記載された電子メールに対しては,誤送信の可
能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメー\nル送信までもが保留,取り消しがされることとなる」(段落【0004】)
という課題を解決するため,電子メールに設定された複数の送信先を個々の
送信先に分割し,記憶手段に記憶されている制御ルール等に従って,電子メ
ールの送出に係る制御内容を決定し,決定された制御内容に従って電子メー
ルの送信制御を行うなどの構成を備えることにより,「ユーザによる電子メ\nールの誤送信を低減可能とすると共に,宛先に応じた電子メールの送出制御\nを行うことにより効率よく電子メールを送出させることができる」(段落【0
008】)などの効果を奏するものである。
イ 原告は,本件特許1の特許メモ(乙9)などを根拠に,本件発明1の本質
的部分は,「送出制御内容を,電子メールの送信元と送信先とに対応付けた
制御ルールと,分割された電子メールの送信先と送信元とに従って,分割さ
れた送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定すること」(構\n成要件11E)にあると主張する。
しかし,本件発明1の従来技術として挙げられているのは乙15公報であ
り,本件明細書等1に記載されている課題は「複数の送信先が記載された電
子メールに対しては,誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれ\nば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされるこ
ととなる」というものであるところ,同課題を解決するためには,電子メー
ルに設定された複数の送信先を電子メールアドレスごとに分割した上で,制
御ルールを適用することが不可欠である。そうすると,構成要件11D等に\n係る構成は本件発明1の本質的部分というべきである。\n 原告は,特許メモ(乙9)の記載を根拠とするが,同メモには,本件特許
の出願時の複数の公知文献に本件発明1に係る構成が記載されているかど\nうかが記載されているにすぎず,本件発明1の従来技術として挙げられた乙
15公報との対比がされているものではなく,また,本件発明1の本質的部
分の所在を検討するものでもないので,同メモに基づいて,本件発明1の本
質的部分が構成要件11Eに係る構\成にあるということはできない。
◆判決本文
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2019.10.17
平成31(行ケ)10056 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年10月8日 知的財産高等裁判所
外為オンラインVSマネースクエアHDの侵害訴訟(平成29(ワ)2417)の対象特許(6154978号)についての無効審決取消訴訟です。無効理由無しとした審決が維持されました。
これに対し原告は,(1)甲1には,複数の売り注文の中で最も高い売り注
文価格の売り注文が約定されたことを注文情報生成部の約定検知手段が検
知する構成が開示されていること(【0146】,【0147】,図7A,\n図19),(2)甲2の記載事項([0085],図6,図7)によれば,甲2
発明の1は,1回限りのイフダンオーダー(繰り返さないLOCK注文)
を前提として,「相場価格が上昇する状況」にあると予想した投資家が,\n上昇する相場に追従するように,従前のものより所定価格だけ増加させた
イフダンオーダーを生成することを繰り返すことで,利益を得ることを可
能にした発明であるといえること,(3)甲1発明は,「複数の売り注文のう
ちいずれかの売り注文が約定されたことを検知すると,同じ売り注文価格
の情報を含む売り注文情報を再度生成するものであって,相場価格が一定
の範囲内で変動する状況で利益を得ることを目的とする発明」であり,甲
2発明の1の従来技術に相当するものであるから,甲2発明の1は,甲1
発明に相当する発明に甲2発明の1を適用することを示唆していること,
(4)甲1発明と甲2発明の1とは,金融商品の取引に関する技術分野に属し
ている点で技術分野が共通すること,「顧客に利益をもたらす装置を提供
する」という目的(課題)が共通し,イフダンオーダーを利用することに
よって機会喪失のリスクを低減するという機能においても共通することに\n照らすと,甲1及び甲2に接した当業者は,甲1発明における「約定検知
手段が,複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が約定
されたことを検知」した場合の「注文情報生成手段」の動作について,甲
2発明の1の「従前のものより所定価格だけ増加させたイフダンオーダー
を生成する」という動作を適用する動機付けがあるから,甲1発明におい
て,「約定検知手段が,複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の
売り注文が約定されたことを検知」した場合に「複数の売り注文のうち最
も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を
含む売り注文情報」を生成する動作とする構成(相違点1−1に係る本件\n発明1の構成)とすることを容易に想到することができたものである旨主\n張する。
しかしながら,上記(1)の点については,原告の指摘する甲1の記載は,
第一〜第五の注文情報群181s21〜181s25のうち,いずれの第
二注文(181u21〜181u25)が約定した場合においても,当該
第二注文を含む注文情報群を再度生成することを示したものであり,特に
最も高い売り注文価格の売り注文が約定した場合(181u25)に着目
した処理を記載したものではないし,前述のとおり,甲1には,本件明細
書記載の「シフト機能」(【0078】)に関する記載や示唆はない。\n 上記(2)及び(3)の点については,甲2には,甲2発明の1が,1回限りの
イフダンオーダー(繰り返さないLOCK注文)を前提として,「相場価
格が上昇する状況」にあると予想した投資家が,上昇する相場に追従する\nように,従前のものより所定価格だけ増加させたイフダンオーダーを生成
することを繰り返すことで,利益を得ることを可能にした発明であること\nの開示があるものといえるが,他方で,甲2には,複数のイフダンオーダ
ーによるLOCK処理を行うことについての記載も示唆もないことに照ら
すと,甲1発明が甲2発明の1の従来技術に相当するものであるとはいえ
ないし,甲2発明の1が,甲1発明に相当する発明に甲2発明の1を適用
することを示唆しているということもできない。また,甲1には,複数の
イフダンオーダー(複数の売り注文)のうち,「最も高い売り注文価格の
売り注文」が約定されたことを検知すると,注文情報生成手段が「前記複
数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い
売り注文価格の情報を含む売り注文情報」を生成するという構成(構\成要
件1H)についての記載も示唆もない。
そうすると,甲1及び甲2に接した当業者においては,甲1発明と甲2
発明の1が,金融商品の取引に関する技術分野に属している点で技術分野
が共通し,イフダンオーダーを利用することにより,利便性を高めるなど
の機能面においても共通すること(上記(4))を勘案しても,甲1発明にお
ける「約定検知手段が,複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の
売り注文が約定されたことを検知」した場合の「注文情報生成手段」の動
作について,甲2発明の1における「インクリメントオプション」に係る
構成あるいは原告のいう「従前のものより所定価格だけ増加させたイフダ\nンオーダーを生成する」という動作を適用する動機付けがあるものと認め
ることはできない。また,甲2発明の1の上記構成は,相違点1−1に係\nる本件発明1の構成全部を含むものではないから,甲1発明に甲2発明の\n1の上記構成を組み合わせることを試みたとしても,当業者が,甲1発明\nにおいて,相違点1−1に係る本件発明1の構成とすることを容易に想到\nすることができたものと認めることはできない。
◆判決本文
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◆平成29(ワ)2417
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2019.10.16
平成30(ワ)24717 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月17日 東京地方裁判所(46部)
ゼンリンに対する地図表示に関する特許侵害事件です。争点は、構\成要件D、Fの「各ページを適宜に分割して区画化し,…住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載」を具備していない、さらに均等侵害についても第1要件を満たさないと判断されました。
特許請求の範囲の「各ページを適宜に分割して区画化し,…住宅建物の所
在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画
の記号番号と一覧的に対応させて掲載」という記載(構成要件D,E及びF)\nに照らせば,構成要件Dの「適宜に分割して区画化」とは,ページの特定の\n部分に記号番号を付し番地とこれに対応するページの特定の部分を一覧的
に示したりすることができるよう,検索すべき領域の地図のページを分割し,
認識できるようにすることといえる。
そして,本件発明は, 前記1(2)のとおり、地図上に公共施設や著名ビル等
以外の住宅及び建物は番地のみを記載するなどし,全ての建物等が所在する
番地について,記載ページと当該ページ内で分割された区画のうち当該番地
が記載された区画を一覧的に対応させて掲載した索引欄を設けることによ
って,簡潔で見やすく迅速な検索を可能にする住宅地図の提供を可能\にする
というものであり,本件発明の地図の利用者は,索引欄を用いて,検索対象
の建物等が所在する地番に対応する,ページ及び当該ページにおける複数の
区画の中の該当の区画を認識した上で,当該ページの該当区画内において,
検索対象の建物等を検索することが想定されている。そのためには,当該ペ
ージについて,それが線その他の方法によって複数の区画に分割され,利用
者が該当の区画を認識することができる必要があるといえる。そうすると,
本件明細書に記載された本件発明の目的や作用効果に照らしても,本件発明
の「区画化」は,ページを見た利用者が,線その他の方法及び記号番号によ
り,検索対象の建物等が所在する区画が,ページ内に複数ある区画の中でど
の区画であるかを認識することができる形でページを分割することをいう
といえる。
また 前記(2)のとおり、本件明細書には発明の実施の形態において,本件
発明を実施した場合における住宅地図の各ページの一例として別紙「本件明
細書図2」及び「本件明細書図5」が示されているところ,これらの図にお
いては,いずれも道路その他の情報が記載された長方形の地図のページが示
されたうえで,そのページが,ページ内にひかれた直線によって仕切られて
複数の区画に分割されており,その複数の区画にそれぞれ区画番号が付され
ている。また,本件明細書図4の索引欄には,番地に対応する形でページ番
号及び区画番号が記載されており,利用者は,検索対象の建物の番地から,
索引欄において当該建物が掲載されているページ番号及び区画番号を把握
し,それらの情報を基に,該当ページ内の該当区画を認識して,その該当区
画内を検索することにより,目的とする建物を探し出すことが記載されてい
る(【0028】)。ここでは,上記の特許請求の範囲の記載や発明の意義に
従った実施の形態が記載されているといえる。
加えて,本件明細書には,本件発明の「区画化」の用語を定義した記載は
なく,【0017】ないし【0032】及び別紙「本件明細書図1」ないし
「本件明細書図5」で記載された実施形態以外には本件発明の実施形態の具
体的記載はない。なお,後記イのとおり,本件明細書の【0033】【00
37】に記載された地図は,本件発明の実施形態を記載したものとはいえな
い。
したがって,本件明細書における発明の実施の形態に係る記載からしても,
構成要件Dの「適宜に分割して区画化」とは,ページを見た利用者が,線そ\nの他の方法及び記号番号により,検索対象の建物等が所在する区画が,ペー
ジ内に複数ある区画の中でどの区画であるかを認識することができる形で
ページを分割することをいうと解される。
イ これに対し,原告は,本件明細書(【0033】【0037】)は,本件発明
の実施形態として,コンピュータが自動的に区画を探し出し,当該区画を画
面中央に配置し,当該区画内にある所望の建物をユーザが直接認識できる電
子住宅地図(全戸氏名入り電子住宅地図)を開示しており,このような構成\nを備える電子住宅地図では,ユーザが視覚的に地図内の位置を分かりやすく
探せるように仕切り線を設ける必要はないから,「区画化」もまたユーザが
目に見える形で仕切る構成に限定されない旨主張する。\n確かに,本件明細書には,全戸氏名入り電子住宅地図として「戸番地(住
所地番及び号)をキーとして,電子電話帳11の氏名データと,住所入り電
子住宅地図12のポリゴンデータとを連結する。」(【0035】),「この全戸
氏名入り電子住宅地図14は,パソコン13のキーボードから氏名を入力す\nれば,その人物の居住する建物を中心にした地図がパソコン13の表\示装置
に表示され,その人物の居住する建物にマークが付されて,そのマークが点\n滅する。」(【0037】)との記載がある。
しかし,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,上記【0037】
記載の動作に対応する構成の記載はない。また,本件明細書には,「公官庁\nや住宅関係の企業では,今まで通り氏名入りの住宅地図を必要とする場合も
考えられる。そのような場合でも,…全戸氏名入りの住宅地図を作成するこ
とができる。」(【0033】)との記載があるところ,上記記載中の「今まで
通り氏名入りの住宅地図」とは,「建物表示に住所番地ばかりではなく,居\n住者の氏名も全て併記」された「従来の住宅地図」(【0002】)を指すと
解されること,【0037】の全戸氏名入り電子住宅地図14においては,
利用者がパソコン13のキーボードから氏名を入力することによりその人\n物が居住する建物を検索する場合,マークの付された建物に表示された氏名\nを視認することによって検索の目的とする建物との同一性を確認するもの
と理解できることからすると,全戸氏名入り電子住宅地図14は,「全戸」
の氏名が表示された地図であるものと認められる。そうすると,全戸氏名入\nり電子住宅地図14は,構成要件Bの「検索の目安となる公共施設や著名ビ\nル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名及び建物名称の記載を
省略し」の構成を備えていない。\n
したがって,本件明細書記載の全戸氏名入り電子住宅地図14は,本件発
明の実施形態に含まれるとは認めることはできない。なお,本件発明の出願
経過によれば,本件特許出願の願書に最初に添付した明細書(乙8の2,8
の3)記載の特許請求の範囲は旧請求項1ないし11からなり,旧請求項7
ないし11には,「全戸氏名入り電子住宅地図作成方法」に係る発明の記載
があり,発明の詳細な説明中の【0014】ないし【0016】に旧請求項
7ないし11を引用した記載部分があったが,同年10月21日付けの手続
補正(乙9)により,旧請求項1の文言を補正し,旧請求項2ないし11及
び【0014】ないし【0016】を削除する補正がされたこと,上記補正
後の請求項1は,拒絶査定不服審判請求と同時にされた平成13年6月7日
付けの手続補正により本件発明の特許請求の範囲記載の請求項1と同一の
記載に補正されたこと(乙10)に照らすと,本件明細書の【0033】な
いし【0038】記載の全戸氏名入り電子住宅地図14に関する記載は,平
成11年10月21日付けの手続補正により削除された旧請求項7ないし
11記載の「全戸氏名入り電子住宅地図作成方法」に係る発明の実施形態で
あると認められる。
以上によれば,本件明細書記載の全戸氏名入り電子住宅地図14が本件発
明に含まれることを前提とする原告の上記主張は採用することができない。
・・・・
原告は,仮に縮尺レベル「50m」「60m」「70m」の被告地図が,各ペー
ジに線その他の方法及び記号番号を付されていない点において構成要件Dと相違\nするとしても,縮尺レベル「50m」「60m」「70m」の被告地図は,均等の
成立要件(第1要件ないし第3要件)を満たしているから,本件発明と均等なも
のとして,本件発明の技術的範囲に属する旨主張する。
前記2(1)のとおり,本件発明の技術的意義は,検索の目安となる建物を除く建
物名称や居住者氏名の記載しないため,高い縮尺度で地図を作成することにより
小判で,薄い,取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することや(構成要件B\n及びC),地図の更新のために氏名調査等の労力を要しないことによって廉価な住
宅地図を提供することを可能にするとともに,地図上に公共施設や著名ビル等以\n外の住宅及び建物は番地のみを記載し,地図のページを適宜に分割して区画化し
たうえで,全ての建物等の所在する番地を,当該番地の記載ページ及び記載区画
を特定する記号番号と一覧的に対応させた索引欄を付すことによって,簡潔で見
やすく迅速な検索を可能にする住宅地図を提供すること(構\成要件DないしF)
を可能にする点にあるものと認められる。\n
しかしながら、被告地図においては前記2(1)で認定したとおり,地図を記載した各ページを線その他の方法及び記号番号によりユーザの目に見える形で複
数の区画に仕切られていないため,ユーザが所在番地の記載ページ及び区画の記
号番号の情報から検索対象の建物等の該当区画を探し,区画内から建物を探し出
すことができないから,迅速な検索が可能であるということはできない。\nしたがって,縮尺レベル「50m」「60m」「70m」の被告地図は,本件発
明の本質的部分を備えているものとは認めることができず,同被告地図の相違部
分は,本件発明の本質的部分でないということはできないから,均等の第1要件
を充足しない。よって,その余の点について判断するまでもなく,縮尺レベル「50m」「60m」「70m」の被告地図は,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとは認められないから,本件発明の技術的範囲に属すると認めることはで\nきない。
◆判決本文
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2019.09.13
平成30(ネ)10071 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年9月11日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
「人脈関係登録システム」(CS関連発明)について、1審では第1要件を満たしていないと判断されましたが、知財高裁(3部)も同様に、均等の第1要件を満たさないとして判断しました。1審被告は、DMMです。
このような乙2の記載によれば,サーバーコンピューター330
とクライアントコンピューター370がワールドワイドウェブ36
0を介して接続され,サーバーコンピューター330に登録された
ユーザーによって入力される連絡相手情報を含むユーザー情報デー
タベース340が設けられた構成において,1)メンバーA(本件各
発明における第一の登録者)がメンバーB(本件各発明における第
二の登録者)に任意の許可レベルでリンクされ,メンバーBがメン
バーC(本件各発明における第三の登録者)に任意の許可レベルで
リンクされる場合に,メンバーCがメンバーBに友人の友人許可を
与え,メンバーBもメンバーAに友人の友人許可を与える場合には,
メンバーAは,メンバーCについての友人の友人通知を受信する資
格があること,2)「友人テーブル」がユーザー(本件各発明におけ
る登録者)を互いに関連付け,3)「友人の友人システム」によって,
第1のユーザー(本件各発明における第一の登録者)は,第1のユ
ーザーと同じ都市に住んでいるか,又は第1のユーザーが所属する
グループに所属する連絡相手の連絡相手の名前を探索でき,第1の
ユーザーが友人の友人探索を実行し,友人の友人である第2のユー
ザー(本件各発明における第三の登録者)の場所を特定した後に,
第1のユーザーは第1のユーザーの個人アドレス帳に第2のユーザ
ーを追加するために,第2のユーザーにリンクすることができ,4)
第1のユーザーが第2のユーザーを指定すると,第2のユーザーは,
第1のユーザーが第2のユーザーに「リンクした」という通知を受
信し,5)第2のユーザーがリンクに応じることを選択する場合には,
第2のユーザーはデータフィールド許可を設定して第1のユーザー
のために個人情報等の閲覧を許可することの通知を送信し,この通
知を受信したときに,第1のユーザーの個人アドレス帳に第2のユ
ーザーの職業や個人情報等を表示する構\成の記載がある。
c 以上のとおりの本件優先日当時の従来技術に照らせば,より広範で
深い人間関係を結ぶことを積極的にサポートする人間関係登録システ
ムを提供するとの課題について,上記のような解決手段が存在したも
のということができる。
ウ このように,本件明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載
されているところは,優先権主張日の従来技術に照らして客観的に見て
不十分なものであるから,本件明細書に記載されていない上記イ(イ)のと
おりの従来技術も参酌して従来技術に見られない特有の技術的思想を構\n成する特徴的部分を認定すべきことになる。
そして,上記イ(イ)のとおりの従来技術に照らせば,本件各発明は,主
要な点においては,従来例に示されたものとほぼ同一の技術を開示する
にとどまり,従来例が未解決であった技術的困難性を具体的に指摘し,
その困難性を克服するための具体的手段を開示するものではないから,
本件各発明の貢献の程度は大きくないというべきであり,上記従来技術
に照らし,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する部分につ\nいては,本件各発明の特許請求の範囲とほぼ同義のものとして認定する
のが相当である。
エ そうすると,被告サーバが構成要件1D及び2Dの構\成を備えていない
のは前記1に説示のとおりであるから,被告サーバは本件各発明の本質
的部分の構成を備えるということはできず,均等の第1要件を充足しな\nい。
オ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は,引用発明は具体的にはネットワークを通じて連絡相手情
報を管理する発明であって,相互に情報を交換し合うことによって新
たに人間関係を締結するというソーシャルネットワーキングサービス\n(SNS)の発明ではないから,本件各発明とは技術思想が根本的に
異なるものであり,本件各発明の本質的部分を認定するに当たり参照
されるべき従来技術ではないと主張する。
しかし,本件明細書にはソーシャルネットワーキングサービス(SN\nS)であることの記載はなく,上記イに説示したところに照らせば,本
件各発明と引用発明は,いずれも共通の人間関係を結んでいる登録者の
検索を可能とし,新たに人間関係を結び,これを登録することができる\n発明である点で共通するものであるから,本件各発明の従来技術として
引用発明を参照することができるというべきである。
(イ) 控訴人は,本件各発明の構成のうち,従来技術に見られない特有の\n技術的思想を構成する特徴的部分は,「登録者が互いにメッセージを\n送信し合うことによって人間関係を結ぶ(友達になる)という意思が
合致した場合(合意が成立した場合)に,当該登録者同士を関連付け
て記憶するという技術を前提として,共通の人間関係を結んでいる登
録者(友達の友達)の検索を可能とし,新たに人間関係を結ぶことが\nできるようにすることによって,より広範で深い人間関係を結ぶこと
ができるという構成」にあると主張する。\nしかし,従来技術との比較において本件各発明の貢献の程度は大きく
なく,本件各発明の本質的部分は特許請求の範囲とほぼ同義のものと認
定すべきことは上記イ及びウに説示したとおりである。
(ウ) 控訴人は,2人の個人が互いに人間関係を結んでいるかどうかは,
多分に個人の主観的な評価を伴う問題であって,引用発明において個
人情報の閲覧を許可したからといって,人間関係を結ぶことを承諾し
たということにはならないと主張する。しかし,引用発明は,第1の
ユーザーが第2のユーザーをリンクすると,第2のユーザーはその旨
の通知を受信し,リンクに応じる場合は第2のユーザーが第 1 のユーザ
ーにデータフィールド許可を設定でき,第2のユーザーは第1のユー
ザーに個人情報許可,仕事情報許可,経路交差通知許可などを与える
ことができるのであり,これは,人間である第1のユーザーと人間で
ある第2のユーザーが関係を結ぶことに他ならないから,第1のユー
ザーと第2のユーザーが人間関係を結ぶものと理解することができる。
(エ) さらに,控訴人は,乙2の【0072】,【0073】に「友人の
友人システム」という表現は存在するものの,その実質は,自己の個\n人アドレス帳に他のメンバーが登録されている場合に,当該他のメン
バーの個人アドレス帳の中を検索するというものにすぎず,「友人」
とは,本件各発明における当事者間の合意によって結ばれるところの
「人間関係」とは別物であると主張するが,本件各発明において「人
間関係を結ぶ」ことの意義について,引用発明における構成を除外す\nることを示す記載はなく,引用発明において,第1のユーザーがリン
クし,第2のユーザーがリンクに応じることにより,人間関係が結ば
れるといえることについては,上記説示のとおりである。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成29(ワ)22417
本件特許権の別被告(ミクシィ)の事件があります。
こちらも、1審、控訴審とも非侵害と判断されています。
◆平成29(ネ)10072
◆平成28(ワ)14868
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2019.08. 7
平成30(行ケ)10131等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年7月22日 知的財産高等裁判所
無効と判断された請求項についての判断が、相違点の認定の誤りがあるとして、取り消されました。
以上によれば,本件発明1と引用発明3の一致点及び相違点は次のとお
りであると認められる。
(ア) 対比
a 前記ア(イ)のとおり,本件発明1の「相互作用マスタ」は,「一の医
薬品」及び「他の一の医薬品」が販売名(商品名)か一般名かこれを
特定するコードや,薬効,有効成分及び投与経路を特定することがで
きるコードのレベルの概念で統一して格納され,1)A薬品から見たB
薬品の相互作用が発生する組み合わせについての情報と,2)B薬品か
ら見たA薬品の相互作用が発生する組み合わせについての情報とは,
データとして個々別々のものとして格納され,また,1)A薬品から見
たB薬品に関する相互作用が発生する組み合わせについての情報と,
3)A薬品から見たC薬品の相互作用が発生する組み合わせについての
情報とも,データとして個々別々のものとして格納されるものである。
これに対し,前記イ(ア)のとおり,引用発明3の相手テーブル部の一般
名コード,薬効分類コード,BOXコードの各欄には,必ずしもすべ
てにコードが格納されているとは限らない。
したがって,引用発明3の「医薬品相互作用チェックテーブル10
5」と,本件発明1の「相互作用マスタ」とは,「一の医薬品から見
た他の医薬品の相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する相互
作用をチェックするためのマスタ」である点で共通するが,本件発明
1が「一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と,前記他の一の医
薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で,相互作用
が発生する組み合わせを格納する」のに対し,引用発明3では,「一
の医薬品から見た他の医薬品の一般名コード,薬効分類コード,BO
Xコードかの少なくともいずれかについて,相互作用が発生する組み
合わせを格納し,また,他の一の医薬品から見た医薬品の一般名コー
ド,薬効分類コード,BOXコードかの少なくともいずれかについて,
相互作用が発生する組み合わせを格納する」点で相違する。
b 本件発明1は「自己医薬品と相手医薬品との組み合わせ」と,
「相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせ」についての合
致の有無を判断するものであるのに対し,前記第2の3ウ(ア)及び上
記イ(イ)によれば,引用発明3は,1)医薬品相互作用チェックテーブル
105において,「自己テーブル部」に,「自己医薬品」に係る「一
般名コード」,「薬効分類コード」,「BOXコード」が存在するか
をそれぞれ検索し,2)いずれかのコードが存在していれば,処方医薬
品相互作用チェックテーブルTの形態で「一時記憶テーブル110」
に記憶し,3)「一時記憶テーブル110」に記憶したデータの「相手
テーブル部」に,「相手医薬品」に係る「一般名コード」,「薬効分
類コード」,「BOXコード」が存在するかをそれぞれ検索し,4)い
ずれかのコードが存在していれば,「自己医薬品」と「相手医薬品」
とが相互作用を有する組み合わせが存在すると判断するものである。
そうすると,引用発明3の「検索処理」と本件発明1の「相互
作用チェック処理」とは,いずれも,「入力された新規処方データ
の各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし,自己医薬品と相手
医薬品の組み合わせについて,相互作用をチェックするためのマ
スタに基づいて相互作用をチェックするための処理」を実行する
点で共通するものの,引用発明3の「検索処理」は,自己医薬品
と相手医薬品と間で,一般名コード,薬効分類コード,BOXコ
ードのいずれかの組み合わせが存在すれば相互作用を有する組み
合わせであると判断するものであり,自己医薬品と相手医薬品と
の組み合わせと相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと
の,医薬品の組み合わせ同士の合致を判断しているとはいえない
から,本件発明1の「自己医薬品と相手医薬品との組み合わせと
相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせが合致するか否か
を判断することにより,相互作用チェック処理を実行する」「相
互作用チェック処理」とは相違する。
(イ) 一致点及び相違点
以上によれば,本件発明1と引用発明3は,次の一致点において一致
し,前記第2の3(2)ウ(ウ)記載の相違点4−1のほか次の相違点におい
て相違することが認められる。
a 一致点
「一の医薬品から見た他の医薬品の相互作用が発生する組み合わせを個
別に格納する相互作用をチェックするためのマスタを記憶する記憶手
段と,
入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品
とし,自己医薬品と相手医薬品の組み合わせについて,上記マスタに
基づいて相互作用をチェックするための処理を実行する制御手段と,
前記制御手段による自己医薬品と相手医薬品の間の相互作用をチェ
ックするための処理の結果を,表示する表\\示手段と,
を備えたことを特徴とする医薬品相互作用チェック装置」
b 相違点
〔相違点4−8〕
相互作用をチェックするためのマスタが,本件発明1では,「一の
医薬品から見た他の一の医薬品の場合と,前記他の一の医薬品から見
た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で,相互作用が発生する
組み合わせを格納する」のに対し,引用発明3では,「一の医薬品か
ら見た他の医薬品の一般名コード,薬効分類コード,BOXコードか
の少なくともいずれかについて,相互作用が発生する組み合わせを格
納し,また,他の一の医薬品から見た医薬品の一般名コード,薬効分
類コード,BOXコードかの少なくともいずれかについて,相互作用
が発生する組み合わせを格納する」点。
〔相違点4−9〕
相互作用をチェックするための処理が,本件発明1では,自己医薬
品と相手医薬品との組み合わせと相互作用マスタに登録した医薬品の
組み合わせが合致するか否かを判断するのに対し,引用発明3では,
「自己テーブル部」に「自己医薬品の一般名コードが存在するか」,
「自己医薬品の属する薬効分類コードが存在するか」,「自己医薬品
に付与されたBOXコードが存在するか」をそれぞれ検索して,いず
れかのコードが存在していれば,処方医薬品相互作用チェックテーブ
ルTの形態で一時記憶テーブル110に記憶し,一時記憶テーブル1
10に記憶したデータの「相手テーブル部」に,「相手医薬品の一般
名コードが存在するか」,「相手医薬品の属する薬効分類コードが存
在するか」,「相手医薬品に付与されたBOXコードが存在するか」
をそれぞれ検索して,いずれかのコードが存在していれば,「自己医
薬品」と「相手医薬品」とが相互作用を有する組み合わせが存在する
と判断するものである点。
エ 以上のとおりであるから,審決は,本件発明1と引用発明3の相違点の
認定に際し,相違点4−8,4−9を看過したものであり,相違点の認定
の誤りがあるというべきである。
◆判決本文
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2019.08. 2
平成30(行ケ)10166 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年6月20日 知的財産高等裁判所
対戦ゲームについて進歩性なしとした拒絶審決が維持されました。
前記2(1)〜(3)のとおり,周知技術Aは,引用文献1が属する対戦型コ
ンピュータゲームの分野における周知技術である。
そして,前記2(2),(3)のとおり,引用文献3には,プレイヤキャラクタと敵キャ
ラクタの強さのバランスをとることを目的とし,プレイヤキャラクタの強さに応じ
た強さの敵キャラクタを出現させることで,プレイヤキャラクタに対して強すぎた
り弱すぎたりすることのないようにして,ゲームの興味を持続させる効果を生じさ
せることが記載され,また,引用文献4には,ユーザの競技レベルに相応しい他の
ユーザを対戦相手とすることを目的とし,ユーザの競技レベルに応じた競技レベル
の対戦相手を選択することで,相手が弱すぎたり強すぎたりすることがなくなり,
各ユーザは実力が伯仲した相手との対戦を楽しむことができるという効果を生じさ
せることが記載されていることからすると,周知技術Aは,ゲームに抽出されるキ
ャラクタやプレーヤのレベルをキャラクタやプレーヤのレベルに合わせることによ
り,ゲームを楽しいものとするという技術思想に基づくものであると認められると
ころ,引用発明1も,前記3(1)で認定したとおり,支援すべきプレイヤの支援度合
いに応じた人数の第三者勢力を登場させて,プレイヤ同士の操作経験に基づく優劣
のアンバランスを調整することにより,拮抗かつ緊張感のあるゲームとするという
技術思想に基づくものであると認められるから,周知技術Aと引用発明1とは共通
の技術思想を有しているといえる。
したがって,引用発明1及び周知技術Aは,技術分野及び技術思想が共通するか
ら,引用発明1に周知技術Aを適用する動機付けはあるというべきである。
(イ) 原告は,引用文献3,4に記載された技術は,いずれも,第3者登場
型に属する対戦アクションゲームに関する技術ではないし,また,第1のプレーヤ
キャラクタの情報及び第2のプレーヤキャラクタの情報の組合せに基づいて第3者
キャラクタが抽出されるというものでもないから,本願発明とは技術分野を異にす
ると主張する。
しかし,前記(ア)のとおり,引用発明1に周知技術Aを適用することの動機付けは
認められるというべきであり,動機付けが認められるためには,第三者登場型対戦
ゲームであるという点の共通性は必要ないというべきである。
したがって,周知技術Aが第三者登場型対戦ゲームではないことを前提とする原
告の上記主張は理由がない。
エ(ア) ところで,相違点1は,第3者キャラクタを抽出してマッチングさせ
る設定処理に関して,本願発明は,「複数のキャラクタの中から,第3者キャラクタ
を抽出」しているのに対して,引用発明1は,「NPC人数を増減設定」している点
である。すなわち,本願発明と引用発明1とは,第3者キャラクタを抽出してマッ
チングさせる設定処理に関して,当該第3者キャラクタが,複数のレベルのキャラ
クタの中からレベルの合うキャラクタが抽出されるのか,それとも,同一のレベル
のキャラクタが抽出され,その人数を増減させることによりレベルを合わせるのか
の点で相違するのであるから,第3者キャラクタを抽出してマッチングさせる設定
処理に関して,引用発明1の「NPC人数を増減設定」するという構成(同一のレ\nベルのキャラクタが抽出され,その人数を増減させることによりレベルを合わせる
という構成)に代えて,周知技術Aの「複数の種類のキャラクタ又はプレーヤの中\nから,キャラクタ又はプレーヤのレベルに応じて特定のキャラクタ又はプレーヤを
抽出すること」という構成にすることで,本願発明の構\成となるものと認められる。
(イ) 原告は,本願発明の課題は,「対戦者同士の操作経験に基づくゲーム優
劣のアンバランスを第3者キャラクタを登場させることにより調整する従来技術が,
対戦ゲームとしての面白みに欠ける」ことであり,プレーヤのレベル等に応じた相
手側キャラクタを抽出するというものではないから,引用発明1及び周知技術1と
は課題が異なる旨主張するが,本願発明の課題が上記のとおりであるとしても,引
用発明1に周知技術Aを適用することが困難となるということはできず,また,引
用発明1に周知技術Aを適用すると,本願発明の構成となるのであるから,原告の\n上記主張は理由がない。
オ 以上より,引用発明1に周知技術Aを適用して,本願発明を容易に想到
することができるというべきである。
カ なお,原告は,本願発明は,第3者キャラクタの参戦により従来にない
白熱した対戦ゲームを楽しむことができるという各引用文献に記載の発明の作用効
果とは異なる格別の作用効果を奏する旨主張するが,同効果は,引用発明1に周知
技術Aを適用した発明にも認められる作用効果であって,格別のものとはいえない
から,原告の上記主張は理由がない。
◆判決本文
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2019.08. 2
平成31(ネ)10019 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年7月19日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明について均等主張も否定されました。1審では、構成要件Dについて均等主張をしていませんでした。控訴審では構\成要件Dの均等侵害を主張しましたが、第1要件を満たしていないと判断されました。被控訴人(1審被告)はYAHOO(株)です。
本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記(2)の本件明細
書の開示事項を総合すると,本件発明の技術的意義は,従来の住宅地図に
おいては,建物表示に住所番地及び居住者氏名も全て併記されていたため,\n肉眼でも判別可能な実用性を確保するために縮尺度を低いものにする必要\nがあり,これに伴って全体として地図の大型化や大冊化を招き,この大型
化や大冊化が氏名の記載変更作業の実地調査に係る人件費と相俟って住宅
地図を高価格なものとし,更に氏名の公表を希望しない住人についても住\n宅地図に氏名を登載してしまうこととなるため,プライバシーの保護とい
う点からも問題を有し,また,従来の住宅地図の付属の索引は,住所の丁
目及びそれぞれの丁目に該当するページだけが掲載されていたため,「目
的とする居住地(建物)を探し出す作業」(検索)が,煩雑で面倒であり,
迅速さに欠け,非能率な作業となっていたという課題があったことから,\n本件発明の住宅地図は,この課題を解決するため,検索の目安となる公共
施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については,居住人氏名や建物
名称の記載を省略し,住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すること
により,縮尺度の高い,広い鳥瞰性を備えた構成の地図とし(構\成要件B
及びC),地図の各ページを適宜に分割して区画化した上で,地図に記載
の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建物の記載ページ及び記載区画を特
定する記号番号と一覧的に対応させた付属の索引欄を設ける構成(構\成要
件DないしF)を採用することにより,小判で,薄い,取り扱いの容易な
廉価な住宅地図を提供することができ,また,上記索引欄を付すことによ
って,全ての建物についてその掲載ページと当該ページ内の該当区画が容
易に分かるため,簡潔で見やすく,迅速な検索の可能な住宅地図を提供す\nることができるという効果を奏することにあるものと認められる。
イ この点に関し控訴人は,本件発明の技術的思想(技術的意義)は,「検
索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については
居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみ
を記載すると共に,縮尺を圧縮して」(本件発明の構成要件B及び構\成要
件Cの前半)という構成により,「記載スベースを大きく必要とせず」(本\n件明細書の【0039】),これにより「広い鳥瞰性を備えた地図を構成」\n(構成要件Cの後半)する点にある旨(前記第2の4(1)エの「当審におけ
る控訴人の主張」(ア))を主張する。
しかしながら,発明の技術的意義は,明細書に開示された従来技術の課
題について,特許請求の範囲の記載及び明細書の記載に基づいて,当該発
明がその課題の解決手段として採用した構成及びその構\成による効果を踏
まえて認定すべきものと解されるところ,控訴人の上記主張は,本件明細
書において,従来の住宅地図の付属の索引には,住所の丁目及びそれぞれ
の丁目に該当するページだけが掲載されていたため,「目的とする居住地
(建物)を探し出す作業」(検索)が,煩雑で面倒であり,迅速さに欠け,
非能率であるという課題があったこと(【0003】),本件発明は,上\n記課題を解決するための手段として,地図の各ページを適宜に分割して区
画化した上で,地図に記載の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建物の記
載ページ及び記載区画を特定する記号番号と一覧的に対応させた付属の索
引欄を設ける構成(構\成要件DないしF)を採用したことにより,全ての
建物についてその掲載ページと当該ページ内の該当区画が容易に分かるた
め,簡潔で見やすく,迅速な検索を可能としたという効果を奏すること(【0\n039】)の開示があることを考慮しないものであるから,採用すること
ができない。
・・・
控訴人は,仮に本件発明の構成要件Dの「区画化」の構\成が,地図が記載
されている各ページについて,記載されている地図を線その他の方法によっ
て仕切って複数の区画に分割し,その各区画を特定する番号又は記号番号を
付し,利用者が,線その他の方法及び記号番号により,当該ページ内にある
複数の区画の中の当該区画を認識することができる形で複数の区画に分割す
ることを意味するものと解し,また,仮に構成要件Fの「索引欄に…住宅建\n物の所在する番地を前記地図上における…記載ページ及び記載区画の記号番
号と一覧的に対応させて掲載した」との構成が,索引欄に所在番地の記載ペ\nージ及び区画の記号番号がユーザの目に見える形で掲載される構成に限られ\nると解した場合には,被告地図は,各ページに線その他の方法及び記号番号
が付されていない点及び「特定の緯度・経度を含む地点データと縮尺レベル
19ないし20を含むURL」が画面に「一覧的に」表示されていない点で\n本件発明と相違することとなるが,被告地図は,均等の成立要件(第1要件
ないし第3要件)を満たしているから,本件発明と均等なものとして,本件
発明の技術的範囲に属する旨主張する。
しかしながら,前記1(3)ア認定の本件発明の技術的意義に鑑みると,本件
発明の本質的部分は,検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住
宅及び建物については,居住人氏名や建物名称の記載を省略し,住宅及び建
物のポリゴンと番地のみを記載することにより,縮尺度の高い,広い鳥瞰性
を備えた構成の地図とし(構\成要件B及びC),地図の各ページを適宜に分
割して区画化した上で,地図に記載の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建
物の記載ページ及び記載区画を特定する記号番号と一覧的に対応させた付属
の索引欄を設ける構成(構\成要件DないしF)を採用することにより,小判
で,薄い,取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することができ,また,
上記索引欄を付すことによって,全ての建物についてその掲載ページと当該
ページ内の該当区画が容易に分かるため,簡潔で見やすく,迅速な検索の可
能な住宅地図を提供することができる点にあるものと認められる。\n
しかるところ,被告地図においては,前記2(1)ウ及び(2)認定のとおり,
地図を記載した各ページを線その他の方法及び記号番号によりユーザの目に
見える形で複数の区画に仕切られておらず,索引欄に住宅建物の所在番地の
記載ページ及び区画の記号番号がユーザの目に見える形で掲載されていない
ため,構成要件D及びFを充足せず,ユーザが所在番地の記載ページ及び区\n画の記号番号の情報から検索対象の建物の該当区画を探し,区画内から建物
を探し当てることができないから,このような索引欄を利用した迅速な検索
が可能であるということはできない。\nしたがって,被告地図は,本件発明の本質的部分を備えているものと認め
ることはできず,被告地図の相違部分は,本件発明の本質的部分でないとい
うことはできないから,均等論の第1要件を充足しない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成29(ワ)34450
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2019.07. 3
平成30(行ケ)10146 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年6月27日 知的財産高等裁判所(4部)
パチンコ機の発明について進歩性なしとした拒絶審決が、取り消されました。理由は動機付けがないというものです。
前記(1)の記載事項によれば,本願明細書には,本願発明に関し,次のよ
うな開示があることが認められる。
ア 遊技性を向上させるために,貯留部に遊技領域を流下する遊技球そのも
のを物理的かつ一時的に保持して,遊技球の流下タイミングを遅延させる
ように構成し,遊技者が手元のボタンを押下することで貯留した遊技球が\n落下可能となるようにした従来のパチンコ機は,例えば,大当たり遊技中\nに遊技者がボタンを操作すれば,貯留部内の遊技球が大入賞口に向かって
一気に放出されるため,多くの遊技球を大入賞口に入賞させることができ
たが,遊技球を物理的に貯留する手段を設ける必要があるため,部品点数
が多くなり,コストが嵩むといった課題があり,また,遊技球が流下する
領域を狭めることとなり,好ましくなく,その一方で,大当たり遊技中に
単に遊技球を発射して大入賞口内に入賞させるだけでは,遊技の面白みに
欠けるという実情があった(【0004】,【0006】)。
イ 「本発明」は,上記実情に鑑み,推奨する遊技球のルートを遊技者が容
易に打ち分けることができ,遊技性を向上させることのできるパチンコ機
を提供することを目的とし,この目的を達成するための手段として,遊技
領域に打ち出された遊技球が特別電動役物へ向かう,少なくとも2つのル
ートが前記遊技領域内に設けられ,前記2つのルートは,共に遊技球が物
理的に貯留されることなく流下可能に構\成されていると共に,一方のルー
トに比べて他方のルートの方が,遊技球が遊技領域に打ち出されてから前
記特別電動役物に到達するまでの時間が短くなるように構成され,前記一\n方のルートは前記遊技領域のうち主に左側の領域が用いられ,前記他方の
ルートは前記遊技領域のうち主に右側の領域が用いられ,前記一方のルー
トを流下する遊技球を検知する第1遊技球検知センサと,前記他方のルー
トを流下する遊技球を検知する第2遊技球検知センサと,前記大入賞口に
入賞した遊技球を検出する大入賞口検知センサと,前記2つのルートのう
ち推奨するルートを遊技者に報知する推奨ルート報知手段と,をさらに備
え,大当たり遊技制御手段は,前記大入賞口を開放するよう前記特別電動
役物を作動させた後に,前記大入賞口にM個(ただし,Mは自然数)の遊
技球が入賞したことを条件に前記大入賞口を閉鎖するよう前記特別電動役
物を作動させるラウンド遊技を複数回行う内容の前記大当たり遊技を提供
し,前記推奨ルート報知手段は,遊技球が前記他方のルートを流下してい
る状態で,前記第2遊技球検知センサが所定個数の遊技球を検知した後に,
前記一方のルートを推奨するルートとして遊技者に報知するようにした構\n成を採用した(【0007】,【0009】)。
これにより「本発明」は,推奨する遊技球のルートを遊技者が容易に打
ち分けることができ,遊技性を向上させることのできるパチンコ機を提供
することができるという効果を奏する(【0011】)。
・・・
被告は,引用発明と引用例2に記載された事項は,共に遊技球を流下さ
せるルートが複数あり,そのうち片方のルートに遊技球を発射させた方が
有利となる状態がある遊技機に関する発明又は技術であり,技術分野が共
通しているといえるから,引用発明に引用例2に記載された事項を適用す
る手がかりがあり,引用発明に引用例2に記載された事項を適用すること
ができることからすると,当業者は,引用発明のパチンコ遊技機に,引用
例2に記載された事項を適用して,相違点2及び3に係る本願発明の構成\nとすることを容易に想到することができたものであるから,これと同旨の
本件審決の判断に誤りはない旨主張する。
そこで検討するに,引用例1には,引用発明において,「一方のルート」
に相当する「遊技球滞留部32」を流下する遊技球を検知する遊技球検知
センサ及び「他方のルート」に相当する「遊技球流下部31」を流下する
遊技球を検知する遊技球検知センサを設けることについての記載や示唆は
ない。また,引用例1には,遊技球が「遊技球流下部31」を流下してい
る状態で,当該遊技球を検知する遊技球検知センサが所定個数の遊技球を
検知した後に,「遊技球滞留部32」を推奨するルートとして遊技者に報
知する手段を設けることについての記載や示唆はない。
次に,前記2(2)イ認定のとおり,引用例1には,「本発明」は,遊技者
が可変入賞装置の入賞口の開放前に,報知装置による入賞口の開放の予告\nに基づいて,まず「遊技球滞留部」を狙って遊技球を発射し,次に「遊技
球流下部」を狙って遊技球を発射する打ち分けを可能とし,これにより「遊\n技球滞留部」からの遊技球と「遊技球流下部」からの遊技球とが合流して,
可変入賞装置に入賞することとなるため,時間の経過に応じて遊技球を打
ち分けることにより,可変入賞装置への大量の入賞を狙うことを可能とし\nた効果を奏すること(【0009】,【0011】)の開示があるところ,
その実施形態である引用発明においては,大入賞口が10秒後に開放され
ることを予告する報知用ランプ17aと大入賞口を開放する5秒前に点灯\nする報知用ランプ17bとを設け,遊技者は,報知用ランプ17aの点灯
により大入賞口が10秒後に開放されることを知ったとき,「遊技球滞留
部32」を狙って遊技球を発射し,「遊技球滞留部32」に複数の遊技球
を滞留させ,大入賞口を開放する5秒前に報知ランプ17bが点灯するこ
とにより,「遊技球流下部31」を狙って遊技球を発射し,合流地点に設
けられた可変入賞装置11の大入賞口に,短時間で大量の遊技球が入賞す
るようにした構成(構\成e,g)を備えている。このように引用発明は,
大入賞口が開放されるまでの時間を報知用ランプ17a又は17bの点灯
により報知することにより,時間の経過に応じて遊技球を打ち分けること
を可能とした発明であるといえる。\n
一方,前記(1)イ認定のとおり,引用例2には,第1の方向側の遊技領域
(例えば,左側の遊技領域)及び第2の方向側の遊技領域(例えば,右側
の遊技領域)にそれぞれ通過ゲート,始動口等が設け,右打ちをすべき遊
技状態のときに,左側の遊技領域に設けられた左通過ゲートに遊技球が通
過すると,左打ちが行われていると判定して,液晶表示装置に右打ちを促\nす画像を表示させ,左打ちをすべき遊技状態(通常遊技状態)のときに,\n右側の遊技領域に設けられた右通過ゲートに遊技球が通過すると,液晶表\n示装置に左打ちを促す画像を表示させていた従来の遊技機においては,遊\n技者が遊技状態に合わせて正しい方向側の遊技領域に遊技球を発射させる
発射操作を行っているにもかかわらず,たまたま少量の遊技球が誤った方
向側の遊技領域を流下し,誤った方向側の遊技領域に設けられた通過ゲー
トや始動口等を通過してしまったときに,正しい方向側の遊技領域に遊技
球を発射させることを促すことが報知され,正しい方向側の遊技領域に遊
技球を発射させている遊技者に煩わしさや不快感を与えるという問題があ
ったため(【0007】),「本発明」は,第2の方向側の第2通過領域
を進入した遊技球を検出する第2通過領域検出手段により検出された検出
回数の計数を行う第2通過領域計数手段によって予め定められた検出回数\nが計数されると,報知手段により第1の方向側の遊技領域に遊技球を発射
することを促す発射操作情報の報知を行わせる構成を採用し,これにより,\n現在の遊技状態と各遊技領域に設けられた通過領域に遊技球が進入した回
数(検出回数)を参照して発射操作情報の報知を行うので,たまたま少量
の遊技球が誤った方向側の遊技領域を流下したとしても誤差として判定で
きるため,遊技者の発射操作に対応したより正確な発射操作に関する報知
を行うことができ,快適な遊技を行わせることができるという効果を奏す
ること(【0008】,【0018】)の開示がある。このように引用例
2記載の遊技機は,第1の方向側の遊技領域(左側の遊技領域)を流下す
る遊技球を検出する検出手段,第2の方向側の遊技領域(右側の遊技領域)
を流下する遊技球を検出する検知手段及び第1の方向側又は第2の方向側
の遊技領域に遊技球を発射することを促す発射操作情報の報知手段を備え,
報知手段による報知を現在の遊技状態と各遊技領域に設けられた検出手段
によって検出された遊技球が進入した回数(検出回数)を参照して行うこ
とにより,遊技者が正しい方向側の遊技領域に遊技球を発射させる発射操
作を行っているにもかかわらず,たまたま少量の遊技球が誤った方向側の
遊技領域を流下したとしても誤差として判定し,正しい方向側の遊技領域
に遊技球を発射することを促す発射操作情報の報知を行わないようにして,
遊技者に煩わしさや不快感を与えることのないようにしたものといえる。
そうすると,引用発明と引用例2記載の遊技機は,共に遊技球を流下さ
せるルートが複数あり,そのうち片方のルートに遊技球を発射させた方が
有利となる状態がある遊技機において,上記有利となる状態となった場合
にその有利な方向の遊技領域に遊技球を発射することを促す報知を行うこ
とに関する発明又は技術である点において,技術分野が共通しているとい
えるが,他方で,引用発明では,遊技者が可変入賞装置の入賞口(大入賞
口)の開放前に,大入賞口が開放されるまでの特定の時間を報知装置によ
り予告(報知)することにより,有利な方向の遊技領域に遊技球を発射す\nることを促すものであるのに対し,引用例2記載の遊技機は,遊技者が有
利な方向(正しい方向側)の遊技領域に遊技球を発射させる発射操作を行
っているにもかかわらず,たまたま少量の遊技球が誤った方向側の遊技領
域を流下したとしても誤差として判定し,正しい方向側の遊技領域に遊技
球を発射することを促す発射操作情報の報知を行わないようにしたもので
あり,報知の目的及びタイミングが異なるものと認められる。
また,引用発明において引用例2記載の遊技機の構成(本件審決認定の\n引用例2に記載された事項)を適用することを検討したとしても,具体的
にどのように適用すべきかを容易に想い至ることはできないというべきで
ある。そうすると,引用例1及び引用例2に接した当業者は,大入賞口が開放
されるまでの特定の時間を報知装置により予告(報知)する引用発明にお\nいて,報知の目的及びタイミングが異なる引用例2記載の遊技機の構成(本\n件審決認定の引用例2に記載された事項)を適用する動機付けがあるもの
と認めることはできない。したがって,当業者は,引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて,相違点2及び3に係る本願発明の構成を容易に想到することができ\nたものと認めることはできないから,被告の上記主張は理由がない。
◆判決本文
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2019.06.25
平成30(ワ)10130 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成31年4月24日 東京地方裁判所(29部)
CS関連発明の侵害事件です。会計ソフトについて非侵害と判断されました。均等も第1要件を満たさないと判断されました。
該当特許の公報は以下です。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4831955/B4E648E4A31FB8F27049717998C719922F602DAF55832B56FBCB639C750A8DAC/15/ja
該当特許は無効審判もありますが、審決は見れない状態です(無効2018-800140)
ア 特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なか
った技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想
に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にあることに照らすと,特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のう\nち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。\n
イ これを本件についてみると,前記のとおり,本件発明は,従来の現金主義に
基づく公会計では,政策レベルの意思決定に利用することは困難であったことに鑑
みて,国民が将来負担するべき負債や将来利用可能な資源を明確にして,政策レベルの意思決定を支援することができる会計処理方法及び会計処理を行うためのプロ\nグラムを記録した記憶媒体を提供することを課題とし,その課題を解決するための
手段として,純資産の変動計算書勘定を新たに設定し,当該年度の政策決定による
資産変動を明確にするとともに,将来の国民の負担をシミュレーションすることが
できる会計処理方法を提案するものである。
そして,前記のとおり,本件発明の処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘
定)は,国家の政策レベルの意思決定を記録,会計処理するために設定された勘定
であるのに対し,資金収支計算書勘定は,従来の公会計において単式簿記システム
で扱ってきた資金(現金及び現金同等物)の受入と払出を記録するものであり,閉
鎖残高勘定(貸借対照表勘定)及び損益勘定(行政コスト計算書勘定)も,企業会計における複式簿記・発生主義会計として用いられてきたものであるから,本件発\n明の課題解決手段である当該年度の政策決定による資産変動の明確化や将来の国民
の負担のシミュレーションは,国家の政策レベルの意思決定を対象とする処分・蓄
積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)によって行われるものと解するのが相当で
ある。その上で,本件発明は,資金収支計算書勘定と閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定),損益勘定(行政コスト計算書勘定)と処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計\n算書勘定),処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)と閉鎖残高勘定(貸
借対照表勘定)の各勘定連絡を前提として,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)に,当該年度における純資産増加(C3,C4)及び純資産減少(C1,\nC2)並びにこれらの差額(収支尻)である純資産変動額(C5)が表示される構\
成を採用しており,将来の国民の負担をシミュレーションするためには資産変動の
内訳も認識される必要があると認められることにも照らせば,本件発明の課題解決
手段である当該年度の政策決定による資産変動の明確化や将来の国民の負担のシミ
ュレーションは,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)に表示される純資産増加(C3,C4)及び純資産減少(C1,C2)並びにこれらの差額(収支\n尻)である純資産変動額(C5)によって行われるものと解するのが相当である。
また,上記のような解釈は,本件発明によるシミュレーションに関する本件明細
書の説明とも整合する。すなわち,本件明細書には,「次に,本発明の特徴である
シミュレーションについて説明する。損益外純資産変動計算書には,行政コストと,
当期に費消する財源措置で国民の純資産として将来に残る資産の科目からなる財源
措置とそれ以外の科目からなる財源措置と,当期に調達する財源で国民の純資産と
して将来に残る資産の科目からなる財源とそれ以外の科目からなる財源と,国民の
純資産として将来に残る資産の原因別増減額と,再評価による差額と,国民の純資
産として将来に残る資産の原因別増減額充当のために手当てされた財源と,会計処
理により,それらから導き出された現役世代の負担額と,将来世代の負担額,赤字
公債相当額,建設公債相当額などの金額が表の中に表\示される。」(【0069】),
「本発明によるシミュレーションは,現役世代の負担額と,将来世代の負担額,赤
字公債相当額,建設公債相当額などの金額に,目標とするべき金額を設定して,行
政コストや財源措置をどのように調整すれば目標とするべき金額が達成できるかを
演算するための手順を予め複数のプログラムとして設定する。」(【0070】)などとして,本件発明によるシミュレーションについて,損益外純資産変動計算書に表\示される行政コスト,財源措置,財源及び資産の原因別増減額等から導き出される
現役世代の負担額,将来世代の負担額,赤字公債相当額及び建設公債相当額等によ
って行われることが説明されており,本件発明の課題解決手段である当該年度の政
策決定による資産変動の明確化や将来の国民の負担のシミュレーションが処分・蓄
積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)に表示される純資産増加(C3,C4)及び純資産減少(C1,C2)並びに純資産変動額(C5)によって行われるという\n上記の解釈と整合する。
そうすると,本件発明に係る特許請求の範囲の記載のうち,国家の政策レベルの
意思決定に係る会計処理を対象とする処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘
定)を採用した上で,同勘定に表示される純資産減少(C1,C2)を構\成する勘
定科目の内容を具体的に規定する構成要件Hは,本件発明の課題解決手段を具体化する特有の技術的思想を構\成する特徴的部分であると認めるのが相当である。したがって,本件発明に係る特許請求の範囲の記載のうち,社会保障給付等の損
益外で財源を費消する取引を「財源措置(C2)」に含める構成(構\成要件H)は,
本件発明の本質的部分であると認められる。
ウ この点,原告は,社会保障給付を処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書
勘定)の「財源措置(C2)」に含める構成は,本件発明の非本質的部分であるとし,その理由として,1)本件発明の技術的思想の中核をなす特徴的原理は,純資産
変動計算書勘定の存在,4つの勘定の勘定連絡の設定,自動仕訳と勘定連絡を通じ
政策レベルの意思決定と将来の国民の負担をシミュレーションできる会計処理方法
のプログラミングにあり(本件明細書【0008】,【0010】,【0021】,
【0031】参照),社会保障給付を行政コスト計算書に計上する被告製品の構成は,本件発明の特徴的原理と無関係であること,2)社会保障給付を処分・蓄積勘定
(損益外純資産変動計算書勘定)の借方の財源措置に計上する構成を,損益勘定(行政コスト計算書勘定)に計上する構\成に置換したとしても,損益勘定(行政コスト計算書勘定)は処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)に振り替えら
れるから,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の借方と貸方の差額
(収支尻)に示されている損益外の純資産変動額は同額となり,純資産変動額や将
来償還すべき負担の増減額を財務諸表の中に表\示することにより当該年度の政策決
定による資産変動を明確にするとともに,将来の国民の負担をシミュレーションで
きるという同一の作用効果を奏することなどを主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件発明は,国家の政策レベルの意思決定を対象
とするものとして,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)という新たな
勘定を設定するものであり,当該年度の政策決定による資産変動の明確化や将来の
国民の負担のシミュレーションを通じた政策レベルの意思決定の支援は,処分・蓄
積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)によって実現されるものと解するのが相当
であり,本件明細書においても,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
以外の勘定を用いて将来の国民の負担のシミュレーション等が行われることは説明
されていない(原告が指摘する本件明細書【0031】は,適切な勘定連絡を設定
することがシミュレーションをする前提として必要になることを説明するものであ
り,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)以外の勘定を用いてシミュレ
ーションを行うことを説明するものとは認められない。)。
そうすると,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の借方に計上され
る金額の総額及び貸借差額が結果的に同一になるとしても,処分・蓄積勘定(損益
外純資産変動計算書勘定)以外の勘定を参照しなければ,国家の政策レベルの意思
決定に関する勘定科目(社会保障給付を含む)及びその金額が明らかにならないよ
うな構成は,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)を通じて国家の政策レベルの意思決定を支援する本件発明とは作用効果が異なるというべきである。\n
エ また,原告は,従来技術に対する本件発明の貢献の程度は大きいから,本件
発明の本質的部分は,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の導入に
より,将来世代に対して負担が現実的に先送りされた金額や将来利用可能な資源の増加額を可視化する」という構\成要件Hを上位概念化したものであって,被告製品は,そのような構成を備えていると主張する。原告の主張は必ずしも明確でないが,従来技術に対する本件発明の貢献の程度に\n照らし,本件発明の構成のうち,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の設定以外のものは非本質的部分であると主張する趣旨であれば,本件出願日前に\n頒布された刊行物である乙12文献において,資金収支計算書勘定,貸借対照表勘定及び行政コスト計算書勘定に加えて,納税者,すなわち,国民の資産の変動を明\nらかにするための勘定として,財源措置・納税者持分増減計算書勘定を設ける構成が示されていることに照らし,少なくとも,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計\n算書勘定)の設定のみを従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると認めることはできないから,採用することができない。\n
オ そこで,被告製品をみると,被告製品では,前記のとおり,社会保障給付が
行政コスト計算書に計上されており,純資産変動計算書には,行政コスト計算書の
収支を基礎付ける勘定科目(社会保障給付を含む)及びその金額が示されていない
ことが認められ,「純経常費用(C1)と並んで財源措置(C2)という項目もあ
るが,これは具体的に言えば社会保障給付や…を指しており」(構成要件H)を充足するとはいえないから,本件発明と本質的部分において相違する。したがって,\n被告製品は,均等の第1要件を満たすとはいえない。
◆判決本文
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2019.04.12
平成29(ワ)31706 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成31年3月27日 東京地方裁判所
東京地裁29部は、コンピュータプログラムにかかる特許について、構成要件FおよびGを有していないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。
そこで,被告プログラムが「木構造」を有するか,すなわち,被告プログラムを\n使用して表示されるフローダイアグラムの親子関係が示されている部分が「木構\
造」であるかについて検討する。
原告は,前記イ(イ)の1)から4)までのSayボックスの接続関係について,木構\n造,すなわち階層リードで接続され,ノードの親子関係が示されている部分である
と主張するのでこれをみると,前記イ(イ)のとおり,Sayボックスについて,S
ayボックスのonStartコネクタから出発して,SayボックスのonSt
oppedコネクタに接続されているのであり,SayボックスのonStart
コネクタ及びonStoppedコネクタは,いずれも,Sayボックスの構成要\n素である以上,Sayボックスのフローダイアグラムにおけるボックスの接続関係
は,Sayボックスから出発してSayボックスに戻る閉路として表示されている\nことになり,木構造であるとはいえない。\nその他,階層リードで接続され,ノードの親子関係が示されている部分が全て木
構造であることを認めるに足りる証拠もない。\nそうであれば,被告プログラムは,「木構造」を有しているとはいえず,したが\nって,「木構造表\示ステップ」(構成要件G)を充足しないというべきである。\n
エ(ア) この点,原告は,「木構造」の意義について,ノード(点)とエッジ\n(線)から構成される図として表\示されるものであって,閉路を含まない概念であ
るとした上で,前記イ(イ)でみたSayボックスの構成は,閉路ではないと主張す\nる。すなわち,被告プログラムのSayボックスのフローダイアグラムにおいて,
3)Say Textボックスの出力コネクタから1)Sayボックスの入力コネクタ
に直接リードが接続されている場合には,SayボックスからSayボックスに戻
る閉路であるといえるが,3)Say Textボックスの出力コネクタは,4)Sa
yボックスの出力コネクタに接続されており,1)Sayボックスの入力コネクタと
4)Sayボックスの出力コネクタは異なるものとして表示されているのであるから\n閉路ではない旨主張する。
しかしながら,「木構造」はコネクタの接続関係ではなく,ノード間の接続関係\nを表示するものであり,被告プログラムにおいて,それはボックス間の接続関係を\n表示するものであるところ,別紙6の図2は,別紙6の図1に表\示されたフローダ
イアグラムのうち,Sayボックスの構成要素を表\示した図であって,前記認定の
とおり,SayボックスのonStartコネクタとSayボックスのonSto
ppedコネクタはいずれもSayボックスの構成要素であるから,Sayボック\nスのonStartコネクタとSayボックスのonStoppedコネクタの表\n示位置が離れているとしても,Sayボックスから出発してSayボックスへ戻る
接続関係がないとみることはできない。よって,原告の上記主張はその前提を欠き,
採用することができない。
(イ) また,原告は,出力コネクタであるonStoppedは,ボックスの動
作が終了したことを示すにすぎず,Say TextボックスのonStoppe
dコネクタから出力されたデータは,Sayボックスを経由して流れることはない
から,Sayボックスのフローダイアグラムは,データの流れの観点からみても閉
路ではない旨主張する。しかしながら,証拠(乙30,31)及び弁論の全趣旨に
よれば,Say TextボックスのonStoppedコネクタから出力された
データは,Sayボックスを経由していることが認められるから,原告の主張はそ
の前提を欠き,採用できない。
オ 小括
以上のとおり,被告プログラムは,「木構造表\示ステップ」(構成要件G)を充\n足しない。
(2) 争点1−4(被告プログラムは,「自ノード変数データ,前記上位ノード変
数データ及び前記スクリプトを表示するノードデータテーブル表\示ステップ」(構\n成要件G)を充足するか)について
ア 「ノードデータテーブル表示ステップ」及び「ノード変数データ」の意義について\n
まず,「ノードデータテーブル表示ステップ」の意義について検討すると,「テ\nーブル」は,表,一覧表\を意味するところ,本件明細書等(【0046】,【00
55】,【0057】,【0065】,【0066】,【図6】,【図10】)に
おいて,「ノードデータテーブル」に相当するデザインテーブルは,自ノード変数
データ及び全ての直系上位ノード変数データを表示する領域(【図6】における公\n開変数表示領域)と,代入用スクリプトを表\示する領域を含む一覧表になっており,\n「図6に示した状態で,表示された木構\造及びノードデータの編集が可能であり」\n(【0054】),「ノードデータとして1まとまりになっている」(【005
5】)と記載されていることにも照らせば,「ノードデータテーブル」とは,「ノ
ードデータ」の一覧表であり,上位ノード変数データ,自ノード変数データ及び代\n入用スクリプトを同時に表示するものと解するのが一般的かつ自然である。\n次に,ノードデータテーブルが表示する「ノード変数データ」の意義について検\n討すると,本件明細書等には,「変数の値(「変数データ」と記述する場合もあ
る。)」(【0031】),「ノードの直系上位ノードの公開変数の値である上位
ノード変数データ」(【0032】)と記載されており,これと異なる解釈を導く
ような説明がされていることは認められないから,「ノード変数データ」は,変数
の値を意味すると解するのが自然かつ合理的である。
イ この点,原告は,「テーブル」の意義について,本件明細書等に「デザイン
テーブル20は,ツリービューア10に表示されたノードのうちの選択されたノー\nドが有する情報を表示する領域であり」(【0046】)と記載されているから,\n「テーブル」(構成要件G)は,情報を表\示する領域を意味すると主張する。しか
しながら,この記載はデザインテーブルの性質を説明するものにすぎず,「テーブ
ル」の意義を一般的意味より広く解釈すべきことを示唆する記載とみることはでき
ないから,原告の同主張は採用することができない。
また,原告は,「ノード変数データ」の意義について,本件特許の請求項1及び
請求項9並びに本件明細書等の記載(【0008】【0017】)には,「前記自
ノード変数データの値」という文言があり,「変数データ」は,「変数データの
値」と区別して用いられているから,「ノードデータテーブル表示ステップ」にお\nいて,変数の値を表示することは必要ではなく,また,上位ノード変数データと自\nノード変数データとを同時に表示することも必要ではないと主張するが,同主張は,\n前記認定に照らして採用することができない。
ウ 被告プログラム
(ア) 被告プログラムの構成g\n
まず,原告は,被告プログラムのフローダイアグラム画面上のインスペクタに表\n示された入力コネクタの名称が「上位ノード変数データ」に当たると主張している
ところ,入力コネクタの名称は変数の値ではないから,「上位ノード変数データ」
に当たると認めることはできない。よって,被告プログラムは,「上位ノード変数
データ」「を表示するノードデータテーブル表\示ステップ」を充足しない。
(イ) 被告プログラムの構成g’\n
また,原告は,被告プログラムのSay Textボックスのスクリプトエディ
タにおいて親からの変数の取得機能を使う場合,上位ノードであるSayボックス\nの変数のうち利用可能なものを一覧表\示させることができる機能があるから,被告\nプログラムは,「上位ノード変数データ」「を表示するノードデータテーブル表\示
ステップ」を充足すると主張する。
この点,Say Textボックスにおいて親からの承継を選択した場合,別紙
3−1被告プログラム説明書図19のとおり,インスペクタ上に,Say Tex
tボックスの変数Speed(%)の値が表示されるが,これはSay Text
ボックスにおいて表示されるものであるから自ノード変数を表\示しているものと認
められ,「上位ノード変数データ」を表示しているとみることはできない。よって,\n被告プログラムは,一覧表として「自ノード変数データ」及び「上位ノード変数デ\nータ」を同時に表示しているということはできない。\nさらに,原告は,別紙6の図3のように,上位ノード変数と代入用スクリプトを
同時に表示することができる旨主張するが,同図の表\示形態を一覧表とみることは\nできない上,同図では,上位ノードの名称が表示されているにとどまり,上位ノー\nド変数の値が表示されていると認めることはできないから,「ノード変数データ」\nを一覧表として表\示しているということはできず,原告の同主張は採用することが
できない。
加えて,本件全証拠によっても,behavior.xar内に,親からの承継
の機能に関して,自ノード変数データ及び上位ノード変数データを利用した演算を\n行って自ノード変数データの値を求める「代入用スクリプト」があると認めるに足
りる証拠はないから,被告プログラムは,「前記スクリプトを表示するノードデー\nタテーブル表示ステップ」を充足すると認めることはできない。\nエ 以上のとおり,被告プログラムは,「自ノード変数データ,前記上位ノード
変数データ及び前記スクリプトを表示するノードデータテーブル表\示ステップ」
(構成要件G)を充足しない。\n
◆判決本文
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2019.03.29
平成30(ネ)10060 損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成31年3月20日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
UI関連の発明について、1審では、新規性無しの無効理由ありとして請求棄却されました。1審では、訂正審判がなされ審決が確定しましたが、時期に後れた主張であるして、口頭弁論は再開しませんでした。知財高裁は、構成要件Fが不明瞭のため要件を具備しないと判断されました。被告はAppleです。
まず,構成要件Fの「入力」との文言の意味について検討する。
(ア) 本件明細書には,構成要件Fの「入力」の意味を直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらない。\n他方で,本件明細書には,複数の箇所で「入力」との文言が使用され
ているところ,例えば,段落【0008】の「摩擦力による入力を,直
接的または間接的に検出する」のように「物理的な力を加えること」と
の意味や,段落【0012】の「図14は,…文字を入力する例を示し
た図である。」のように「コンピュータに情報を与えること」との意味
など,同一の文言であるにもかかわらず文脈によって異なる意味で使用
されている。
なお,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び【006
2】の記載に基づいて,本件発明の「『当該変更結果を当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に\n記憶させる』とは,(背景の変更などの)変更結果を,(フォルダYに
保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味しているといえる。」と判断しているが,これは構\成要件Fの「入力」
は「コンピュータに情報を与えること」を意味すると解したものといえ
る。
(イ) この点について,控訴人は,構成要件Fの「入力」は,「力入力検出手段」により検出された当該表\示対象に対する「力入力」,すなわち「物理的な力を加えること」を意味すると主張する。
しかし,この解釈は,構成要件H,A及びDでは,「物理的な力を加えること」として「力入力」との文言が明示的に使用されているにもか\nかわらず,構成要件Fでは敢えて「入力」のように異なる文言が使用されていることと整合しない。\n
また,構成要件Fの「入力」は,「当該変更結果」,すなわち,「保持された表\示対象以外の表\示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」を目的語としていると解し得るところ,こ
の場合に「入力」を「物理的な力を加えること」と解釈することは不自
然である。さらに,「として」は,前に置かれた語を受けて,その状態,
資格,立場等であることを表す語であるところ,「入力」を「物理的な力を加えること」と解すると,「入力として・・・記憶させる」との文言が\n意味するところを理解できないというべきである。
(ウ) 控訴人は,本件訂正審決が「当該変更結果を当該表示対象に対する入力として・・・記憶部に記憶させる」とは,「(背景の変更などの)変更結\n果を,(フォルダYに保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味している」と判断したことを指摘して,当該判断\nは控訴人の上記主張と整合するとも主張する。
しかし,「物理的な力を加えること」と「コンピュータに情報を与え
ること」とは別個の概念であるから,構成要件Fの「入力」を「物理的な力を加えること」と解した上で,本件訂正審決の判断のように「コンピュータに情報を与えること」との意味をも有すると直ちに理解することは困難である(物理的な力が加わったことをコンピュータに検出させる場合には,両者の意味が重なっているともいい得るが,本件においては,上記説示のとおり,少なくとも「物理的な力を加えること」と解することは不自然であるから,両者の意味が重なっている場合と断ずることもできない。)。\n
(エ) 以上によれば,控訴人の主張によっては,構成要件Fの「入力」の意味を一義的に理解することは困難であるというほかない。\n
イ 仮に,構成要件Fの「入力」を,本件訂正審決が判断したように,「コンピュータに情報を与えること」と解したとしても,次のとおり,構\成要件Fの意義は依然として不明確であるというべきである。
(ア) 構成要件Fの「当該表\示対象」は,構成要件Cの「前記位置入力手段にて検出された位置の表\示対象」をいうと解される。本件明細書には,この「表示対象」の意味についても,直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらないものの,発明の詳細な説明の記載に照らせば,アイコン等(【0021】),アイコンや文字列等(【0029】),アイコンや文字,記号,図形,立体表\示対象など(【0035】)がこれに当たるものと解される。
しかし,表示画面にアイコン等を表\示させ,利用者が当該表示画面に接触した位置を検出し,当該接触位置に応じて処理を行う入出力装置においては,表\示画面に表示するアイコン等のデータそのもの(例えば,スマートフォンの画面に表\示されているカメラ様の画像データ)と,当該アイコン等と紐づけされた実体(例えば,カメラアプリケーション)
とは,別個のものとされていることが多いと解されるところ,本件明細
書の記載を精査しても,本件発明における「表示対象」が具体的にどのようなものであるのかは明らかといえない。\n
(イ) また,上記ア(イ)のとおり,構成要件Fの「当該変更結果」は,「保持された表\示対象以外の表示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」と解し得るところ,「相対的に変更させた結果」についても,背景として設定されている画像が移動したピクセル数や,保持された表示対象と重なることとなったアイコン等の有無及びその種類など,さまざまなものがあり得る。\n そして,構成要件Fによれば,この「相対的に変更させた結果」は,「当該表\示対象」に対する情報として与えるものであるが,ある対象に与え得る情報は,当該対象がアプリケーションかデータかや,その実装方法によっても大きく異なるものと解される。
そうすると,上記(ア)のとおり,「当該表示対象」が具体的に意味するところが明らかでない上に,「相対的に変更させた結果」の意味内容も特定されていないことを考え合わせると,「当該変更結果を当該表\示対象に対する入力として記憶部に記憶させる」の意義も明らかでないというべきである。
(ウ) この点に関し,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び
【0062】の記載に基づいて,「当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に記憶させる」とは,「表\示要素『B』のデータをフォルダXからフォルダYに移動させて保存することを意味している」と判断した。しかし,本件訂正審決の説示においても,「表示要素『B』のデータ」がいかなるデータであるのかが具体的に特定されているとはいい難い。\n また,本件明細書の段落【0035】記載の「フォルダX」及び「フォルダY」と段落【0062】記載の「WINDOW1」及び「WINDOW2」の関係も明らかでなく,いかなる情報が「相対的に変更させた結果」に該当し,「フォルダXからフォルダYに移動させ」ると理解することになるのかについても具体的な指摘がされているとはいえない。
ウ 以上検討したところによれば,結局のところ,構成要件Fの意義は不明確というべきである。そして,構\成要件Fの意義が不明確である以上,被告各製品が構成要件Fを充足すると認めることはできない。\n
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成29(ワ)14142
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2019.02.14
平成29(ワ)34450 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成31年1月31日 東京地方裁判所(46部)
CS関連発明について、構成要件Dを有していないとして、非侵害の認定がされました。被告はヤフー株式会社です。
前記(1)によれば,本件発明の意義は以下のとおりであると認められる。
従来の住宅地図は,建物表示に住所番地だけでなく居住者氏名も全て併記さ\nれていたため,氏名を記載するためのスペースを確保するために住宅地図の縮
尺を高くすることができず,そのため,地図の大きさも比較的大きくする必要
があるとともに,地図に氏名が記載されることによるプライバシー侵害や利用
者の検索への支障を生じたり,地図の更新作業のための調査に膨大な労力と人
件費がかかったりするという課題があった。また,住宅地図に付されている索
引についても,住所のうち丁目と,それぞれの丁目に該当するページが掲載さ
れているだけであったため,同一の丁目の中で番地が異なっている多くの建物
の中から目的とする建物を探し出す必要があった。
本件発明は,居住者氏名を記載しないため,高い縮尺度で地図を作成するこ
とにより小判で,薄い,取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することや,
地図の更新のために氏名調査等の労力を要しないことによって廉価な住宅地
図を提供することを可能にするとともに,地図上に公共施設や著名ビル等以外\nは住宅番地のみを記載し,地図のページを適宜に分割して区画化したうえで建
物の所在する番地と記載ページと記載区画の記号番号を一覧的に対応させた
索引欄を付すことによって,簡潔で見やすく迅速な検索を可能にする住宅地図\nを提供することを可能にするものである。\n
2 争点1−4(構成要件D(「該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画\n化し」)についての文言侵害の有無)
後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 被告地図プログラムは,ユーザが,インターネット上の「https:/
/以下省略」のURLにアクセスし,所定の操作をするなどすると,ユーザ
の端末にインストールされているWebブラウザを介して,ユーザ端末のデ
ィスプレイに地図を表示できるようにしたプログラムである。\n被告地図プログラムにより表示される地図では,縮尺レベルが1〜20の\n20段階に分かれており,縮尺レベル20が最も詳細(縮尺率が小さい)な
もので,縮尺レベル1が最も広域(縮尺率が大きい)なものである。各縮尺レベルに応じて,地図用のデータが存在する。
りディスプレイの画面に表示さ\nれる地図の画面表示等は,別紙「被告地図プログラムの構\成(分説)」記載の
とおりである。(以上につき,甲13ないし19,乙1,22,弁論の全趣旨)
イ 被告地図において,市区町村名,町名,丁目及び番の表示の右側に〔地図〕\nと表示された部分等にはハイパーリンクが設定されており,そのハイパーリ\nンクに係るURLは,冒頭に「https://以下省略」と記載され,そ
の後の記載がパラメータであることを示す「?」が記載された後に,「lat
=…&lon=…&ac=…&az=…」及び「z=…」という記載を含む
ものである。前記のlat,lon,ac,azが示す各値は,それぞれ当
該地点に係る緯度,経度,都道府県及び市区町村の住所コード,町,丁目,
番又は号の番号を示し,zが示す値は縮尺レベルを示す。ユーザがディスプ
レイ画面上で当該ハイパーリンクをクリックすると,その緯度経度を含む地点データと縮尺データを含むURLが被告地図の地図提供サーバに送信さ
れる。地図提供サーバが,この地点データに係る地点を含み,かつ,縮尺デ
ータに係る縮尺のメッシュ地図を地図データベースサーバから読み出し,ユ
ーザのパソコンに送信することにより,ユーザのディスプレイ画面上におい\nて当該緯度経度を中心とした所定の縮尺の地図が表示される。(甲4ないし\n19,弁論の全趣旨)
ウ インターネットに接続した状態で被告地図をユーザのディスプレイ画面
に表示し,その後,インターネットの接続を停止した上で地図表\示画面をス
クロールさせると,地図が表示されない部分が画面上に表\示される。(甲3
4,弁論の全趣旨)
エ 被告地図プログラムにおける縮尺レベル19の縮尺は,概ね1/1250
から1/2857の範囲であり,被告地図における縮尺レベル20の縮尺は,
概ね1/615程度である。(甲33,乙1,弁論の全趣旨)
(2)本件明細書には、前記1(1)記載のほか、(発明の実施の形態)として以下
の記載がある。なお,以下の図1ないし5は,それぞれ,本判決別紙本件明細
書図1ないし5である。
ア 段落【0017】
・・・
(3)構成要件Dの「適宜に分割して区画化」について\n
構成要件Dの「適宜に分割して区画化」の意義について,特許請求の範囲の\n「各ページを適宜に分割して区画化し,…住宅建物の所在する番地を前記地図
上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対
応させて掲載」という記載(構成要件D,E及びF)に照らせば,構\成要件D
の「適宜に分割して区画化」とは,記号番号を付すことや番地と対応する区画
を一覧的に示すことができる区画を作成することが可能となるように,検索す\nべき領域の地図のページを分割し,認識できるようにすることといえる。
そして,本件発明は, 前記1(2)のとおり、地図上に公共施設や著名ビル等以
外は住宅番地のみを記載するなどし,全ての建物が所在する番地について,掲
載ページと当該ページ内で分割された該当区画を一覧的に対応させて掲載し
た索引欄を設けることによって,簡潔で見やすく迅速な検索を可能にする住宅\n地図の提供を可能にするというものであり,本件発明の地図の利用者は,索引\n欄を用いて,検索対象の建物が所在する地番に対応する,ページ及び当該ペー
ジにおける複数の区画の中の該当の区画を認識した上で,当該ページの該当区
画内において,検索対象の建物を検索することが想定されている。そのために
は,当該ページについて,それが線その他の方法によって複数の区画に分割さ
れ,利用者が該当の区画を認識することができる必要があるといえる。そうす
ると,本件明細書に記載された本件発明の目的や作用効果に照らしても,本件
発明の「区画化」は,ページを見た利用者が,線その他の方法及び記号番号に
より,検索対象の建物が所在する区画が,ページ内に複数ある区画の中でどの
区画であるかを認識することができる形でページを区分することをいうとい
える。
前記(2)のとおり、本件明細書には、発明の実施の形態において,本件発明を
実施した場合における住宅地図の各ページの一例として別紙「本件明細書図2」
及び「本件明細書図5」が示されているところ,これらの図においては,いず
れも道路その他の情報が記載された長方形の地図のページが示されたうえで,
そのページが,ページ内にひかれた直線によって仕切られて複数の区画に分割
されており,その複数の区画にそれぞれ区画番号が付されている。また,本件明細書図4の索引欄には,番地に対応する形でページ番号及び区画番号が記載
されており,利用者は,検索対象の建物の番地から,索引欄において当該建物
が掲載されているページ番号及び区画番号を把握し,それらの情報を基に,該
当ページ内の該当区画を認識して,その該当区画内を検索することにより,目
的とする建物を探し出すことが記載されている(段落【0028】)。ここでは,
上記の特許請求の範囲の記載や発明の意義に従った実施の形態が記載されて
いるといえる。そして,「区画化」の意義に関係して,他の実施の形態は記載さ
れていない。
以上によれば,構成要件Dの「区画化」とは,地図が記載されている各ペー\nジについて,記載されている地図を線その他の方法によって仕切って複数の区画に分割し,その各区画に記号番号を付すことであり,索引欄を利用すること
で,利用者が,線その他の方法及び記号番号により,当該ページ内にある複数
の区画の中の当該区画を認識することができる形で複数の区画に分割するこ
とを意味すると解するのが相当である。
原告は,被告地図において,縮尺レベル19の住宅地図及び縮尺レベル20
の住宅地図がそれぞれ構成要件Dの「該地図を記載した各ページ」に該当する\nと主張した上で,被告地図のデータは,画面に表示されるときに区分された形\nでその一部が表示されるから構\成要件Dの「適宜に分割して区画化」されると
主張するとともに,「メッシュ化」され,また,複数のデータとして管理されて
いるから構成要件Dの「適宜に分割して区画化」することになると主張する。\nしかし,仮に,縮尺レベル19の住宅地図及び縮尺レベル20の住宅地図が
それぞれ構成要件Dの「該地図を記載した各ページ」に該当するとしても,利\n用者は,画面に表示されている地図を見ているのであって,線その他の方法及\nび記号番号により,ページにある複数の区画の中で,検索対象の建物が所在す
る地番に対応する区画を認識することができるとはいえない。被告地図におい
て「メッシュ化」がされていて,また,被告地図に係るデータが複数のデータ
として管理されているとしても,被告地図プログラムの構成(分説)及び前記\nアないしウに照らし,利用者は,「メッシュ化」されている範囲や区分された
データを通常認識しないだけでなく,それらに対応する記号番号を認識するこ
とはない。したがって,被告地図において,線その他の方法及び記号番号によ
り,ページにある複数の区画の中で,検索対象の建物が所在する地番に対応す
る区画を認識することができるとはいえない。そうすると,前記 に照らし,
被告地図において,「各ページ」が,「適宜に分割して区画化」されているとは
いえない。
これらによれば,被告地図について,構成要件Dの「適宜に分割して区画化」\nがされているとは認められない。
◆判決本文
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2019.02. 1
平成27(ワ)8974 特許権侵害差止等請求事件 特許権 平成30年12月13日 大阪地方裁判所
論点はいろいろありますが、主観的間接侵害における多用途品に対して差止請求が認められました。
(4) 被告表示器A,被告製品3の製造,販売等の行為についての直接侵害の成否
ア 被告表示器Aはプログラマブル表\示器であり,被告製品3はそれらにイ
ンストールするソフトウェアであり,前提事実(前記第2の2(4)エ)のとおり,被
告表示器Aは被告製品3のソ\フトウェアがなければ作動せず,被告製品3のソフトウェアは被告表\示器においてのみ有効に機能する関係にあると認められるから,ユ\nーザがそれらの一方のみを使用することはないといえる。このため,原告は,1)被
告表示器Aと被告製品3は,その販売形態にかかわらず,実質的には常にセット販売されていると評価すべきものであり(セット販売理論),また,2)被告製品3のソフトウェアはユーザの下で必ず被告表\示器にインストールされるのであるから,ユーザは被告の道具としてインストールを行うにすぎない(道具理論)として,被告
表示器Aと被告製品3の各製造,販売等は,同一機会でされるものであるか否かを問わず,被告製品3のOSがインストールされた被告表\示器Aの製造,販売等と同視すべきであると主張する。
イ 被告表示器A,被告製品3は,それらが個別に販売される場合はもとより,同一の機会に販売される場合であっても,被告製品3の基本機能\OS及び拡張/オプション機能OSのうちの回路モニタ機能\等部分のインストールがいまだされ
ない状態であるから,それらは直接侵害品(実施品)としての構成を備えるに至っておらず,それを備えるにはユーザによるインストール行為が必要である。\nこのような場合,確かに,ユーザの行為により物の発明に係る特許権の直接侵害
品(すなわち実施品)が完成する場合であっても,そのための全ての構成部材を製造,販売する行為が,直接侵害行為と同視すべき場合があることは否定できない。\nしかし,構成部材を製造,販売する行為を直接侵害行為(すなわち実施品の製造,販売行為)と同視するということは,ユーザが構\成部材から実施品を完成させる行為をもって構成部材の製造,販売とは別個の生産行為と評価せず,構\成部材の製造,
販売による因果の流れとして,構成部材の製造,販売行為の中に実質的に包含されているものと評価するということであるから,そのように評価し得るためには,製\n造,販売された構成部材が,それだけでは特許権の直接侵害品(実施品)として完成してはいないものの,ユーザが当然に予\定された行為をしてそれを組み合わせる
などすれば,必ず発明の技術的範囲に属する直接侵害品が完成するものである必要
があると解するのが相当である。換言すれば,ユーザの行為次第によって直接侵害
品が完成するかどうかが左右されるような場合には,構成部材の製造,販売に包含され尽くされない選択行為をユーザが行っているのであるから,構\成部材を製造,販売した者が間接侵害の責任を負うことはあっても,直接侵害の責任を負うことは
ないと解すべきである。
ウ このような観点から本件の事実関係について検討すると,前記(2)キ(イ)
で認定した事実によれば,被告表示器Aにおいて回路モニタ機能\等を使用するため
には,ユーザが,被告製品3をインストールしたパソコンで,動作設定を「回路モニタ」とする拡張機能\スイッチが配置されたプロジェクトデータを作成する必要があり,拡張/オプション機能OSのうちの回路モニタ等部分が転送対象として自動的に選択されるのも,ユーザが上記のようなプロジェクトデータを作成した場合の\nみであると認められる。これを換言すれば,そもそもユーザによって上記のような
プロジェクトデータが作成されず,したがってこれが被告表示器Aにインストールされない場合には,ユーザが敢えて拡張/オプション機能\OSのうちの回路モニタ等部分を転送対象として選択しない限り,被告表示器Aに回路モニタ機能\等が備わることはないのである。
また,被告製品1−2については一部の機種では,そもそも回路モニタ機能等を使用できない。また,回路モニタ機能\等が使用可能な機種についても,これを使用\nするためにはオプション機能ボードを購入して設置する必要がある。そして,そもそもこれはオプションの部材であるから,ユーザがこれを購入して設置することが\n当然に予定されていると認めることはできないし,乙17及び18によれば,回路モニタ機能\等に対応している被告製品1−2を購入した者のうち,オプション機能\nボードを購入しなかった者が相当程度存したと認められる(原告は,乙17及び1
8は裏付け証拠がないから信用性を欠く旨主張するが,記載内容は一定の具体性を持っており,その内容が不合理であることをうかがわせる事情も認められず,かえ
って,オプション機能ボードがまさにオプション品であることからすると,相当程度の者が購入しないというのは合理的であるから,具体的な割合はともかく,少な\nくともオプション機能ボードを購入しなかった者が相当程度存したと認められるという限度ではその信用性を認めるのが相当である。)。\nなお,被告製品1−1では,回路モニタ機能等が標準装備されているが,前記(2)
ア(オ)での認定のとおり,被告製品1−1は他の点でも被告製品1−2にない機能を有しており,特にラダー編集機能\は,甲5のカタログでも回路モニタ機能等と並ん\nで強調されているものであることからすると,被告製品1−1を購入する者が須く
回路モニタ機能等を使用することを当然の前提としてこれを購入するとまで認めることは困難である。そして,これらの事情は,被告表\示器2Aについても妥当すると考えられる。
以上のことを踏まえると,被告が販売した被告表示器Aや被告製品3だけでは,直ちに本件発明1の直接侵害品(実施品)が完成するわけではないし,ユーザが被\n告表示器Aを被告製のPLCに接続した上で,被告製品3の拡張/オプション機能\
OSのうちの回路モニタ機能等部分をインストールすることが必ず予\定された行為
であると認めることもできない。したがって,ユーザの行為によって直接侵害品が
完成するかどうかが左右されるような場合に該当するといわざるを得ない。
エ 以上に対し原告は,被告が被告製品1や2等のカタログにおいて,回路
モニタ機能等を強調していることや,被告表\示器Aが他の被告製品と比べて高額で
あること等からすると,本件発明1を全く実施しないという使用態様が被告表示器Aと被告製品3のユーザの下で経済的,商業的又は実用的な使用形態としてあると\nは認められないと主張している。
しかし,前記ウで述べた事情からすると,カタログで強調されているからといっ
て,ユーザが必ず回路モニタ機能等を使用するとまで認めることはできない。原告は,他の回路モニタ機能\等を使用できない被告製品(被告製品1−3等)との価格差も指摘するが,当該他の機種では回路モニタ機能等を使用することはできないものの,前記認定の被告表\示器Aと他の機種との画面サイズや機能の違いを踏まえる\nと,被告表示器Aを購入する者が回路モニタ機能\等を使用することを当然の前提としてこれを購入するものであるとまで認めることもできない。
なお,原告は,他社が回路モニタ機能等を使用できない廉価な製品を販売していること(甲23,24)を指摘しているが,それと被告表\示器Aや被告製品3とでは回路モニタ機能等以外の機能\が異なっており,またハード面での差異や購入後の
サポートの内容も異なっていること(甲5,23,乙17)などを踏まえると,原
告のこの指摘によって上記事情が基礎付けられるともいえない。
以上より,本件発明1を全く実施しないという使用態様が,被告表示器Aと被告製品3の経済的,商業的又は実用的な使用形態でないと認めることはできないから,\n原告の上記主張は採用できない。なお,原告は東京地裁平成13年10月31日判
決を引用しているが,本件と事案を異にするから,本件には妥当しないというべき
である。
オ 以上より,直接侵害の成立は認められない。したがって,仮に被告表示器Aと被告製品3の販売行為を実質的にセット販売と評価し得るとしても,その販\n売行為をもって本件特許権1の直接侵害行為と評価することはできない。
(5) 以上より,被告による被告表示器Aと被告製品3の製造,販売等の行為は本件特許権1の直接侵害行為に該当しない。\n
カ 主観的要件について
(ア) 特許法101条2号においては,「発明が特許発明であること」(主観
的要件1))及び発明に係る特許権の直接侵害品の生産に用いる「物がその発明の実
施に用いられること」(主観的要件2))を知りながら,その生産,譲渡等をすること
が間接侵害の成立要件として規定されている。
(イ) 主観的要件1)について
a 被告は,本件発明1(本件特許1に係る発明)の存在を知った時期
は,本件第1特許の特許請求の範囲を本件発明1に係る構成要件のように訂正することを認めるとの審決(甲20)がされたことを知った平成28年11月16日で\nあると主張している。
そこで,まず,特許発明について特許請求の範囲の訂正があった場合には,訂正後の特許請求の範囲に係る発明を知った時に主観的要件1)を満たすことになるのか,
それとも,訂正前の特許請求の範囲に係る発明を知っていれば,特許請求の範囲が
訂正された後の発明との関係でも,主観的要件1)を満たすことになるのかを検討す
る。
特許法101条2号が主観的要件1)を間接侵害の要件とした趣旨は,同号の対象
品は適法な用途にも使用することができる物であることから,部品等の販売業者に
対して,部品等の供給先で行われる他人の実施内容についてまで,特許権が存在す
るか否かの注意義務を負わせることは酷であり,取引の安全を害するとの点にある。
他方,特許請求の範囲等の訂正は,特許請求の範囲の減縮や誤記等の訂正等を目的
とするものに限られ(特許法126条1項),特許請求の範囲等の訂正は,願書に
(最初に)添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にお
いてしなければならず(同条5項),かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変
更するものであってはならないとされている(同条6項)。そして,特許請求の範囲
等の訂正をすべき旨の審決が確定したときは,その訂正後における特許請求の範囲
により特許権の設定の登録がされたものとみなされる(同法128条)。
以上のように,特許請求の範囲の訂正が認められる場合が上記のように限定され
ていることを踏まえると,訂正前の特許請求の範囲に係る特許発明を知っていれば,
特許請求の範囲が訂正された後の特許発明との関係でも,主観的要件1)を満たすこ
とになると解するのが相当である。このように解しても,特許法101条2号が主
観的要件1)を求めた趣旨に反するわけではないし,第三者にとって不意打ちとなる
こともないからである。
なお,本件第1特許の特許請求の範囲の訂正も誤記の訂正及び特許請求の範囲の
減縮を目的とするもので,その他の訂正の要件も満たしており(甲19の1ないし
20),被告製品3は本件発明1の技術的範囲に属する以上,上記訂正前の本件発明
1の技術的範囲にも属することは明らかである。
b 本件では,被告は訂正前の本件発明1の存在を知っていたことを自認しているものの,その時期は原告からの警告書を受領した平成25年4月2日で
あると主張している。これに対し,原告は被告が訂正前の本件発明1の存在をその
登録時の平成17年7月22日から知っていたと主張していることから,以下,被
告が平成25年4月2日よりも前に訂正前の本件発明1の存在を知っていたかを検
討する。
(a) 証拠(甲1,5,34,乙1ないし3,19,20)及び弁論の
全趣旨によれば,次の事実が認められる。
・・・
確かに,上記(a)の4)と5)の事実だけを見れば,原告の主張は理解し得ないわけで
はないが,表示されたラダー回路の接点・コイルの指定による検索機能\\\自体は,被
告自身が平成8年12月以降,販売している「MELSEC QnA」という汎用シーケンサにおいて採用されていたのであり,GOT900で初めて採用された機
能とは認められない。そして,GOT900では,「MELSEC QnA」とは異なり,タッチパネル
によって接点・コイルを指定するものとされており,これは変更点であり,訂正前
の本件発明1との共通点ではあるが,このような変更がされたのは,そもそもの操
作方法が「MELSEC QnA」ではキーボードであったのに対し,GOT90
0ではタッチパネルが採用されていたためとみることも可能である。したがって,上記事実から,被告が本件第1特許の出願を知っていたことが推認されるとまでい\nうことはできない。
そして,GOT1000でワンタッチ回路ジャンプ機能が採用されたのは,GOT900においてタッチパネル上で接点・コイルを指定して検索する機能\能\\が採用さ\nれていたことの延長線上にあるものと見ることも決して不合理ではない。
以上のような事実関係に照らせば,被告が本件第1特許の登録時に訂正前の本件
発明1の存在を知っていたとまで推認することはできない。そして,平成25年4
月2日にされた原告から被告への警告書の送付以外に,被告が訂正前の本件発明1
の存在を認識し得たことをうかがわせる事情は認められない。
なお,原告は,被告と原告はトヨタからの受注を獲得すべくしのぎを削っていた
こと(甲32)や,原告や被告が他社との契約において,納入品の製作・納入に当
たり,第三者の特許権等を侵害しないよう,万全の注意を払うべき旨が明記されて
いること(甲41)を指摘しているが,これらは一般的な事項にすぎず,上記具体
的な事実関係に照らせば,被告が訂正前の本件発明1を知っていたことを推認させ
る事実になるとはいえない。
したがって,被告が平成25年4月2日より前に訂正前の本件発明1の存在を知
っていたと認めることはできない。
c 以上より,被告が訂正前の本件発明1の存在を知ったのは平成25年4月2日であると認められる。
(ウ) 主観的要件2)について
a 被告は,被告製品3には本件発明1を実施しない実用的他用途が存
在しており,また基本的に販売代理店に対して被告製品3を販売しているにすぎな
いから,被告製品3がユーザの下で本件発明1の実施に用いられることを知らない
と主張している。
b まず,どのような場合に主観的要件2)を満たすものと考えるべきか,
すなわち,適法な用途にも使用することができる物の生産,譲渡等が特許「発明の
実施に用いられることを知りながら」したといえるのはどのような場合かについて
検討する。
そもそも,特許法101条2号の間接侵害は,適法な用途にも使用することがで
きる物(多用途品)の生産,譲渡等を間接侵害と位置付けたものであるが,その成
立要件として,主観的要件2)を必要としたのは,対象品(部品等)が適法な用途に使用されるか,特許権を侵害する用途ないし態様で使用されるかは,個々の使用者
(ユーザ)の判断に委ねられていることから,当該物の生産,譲渡等をしようとす
る者にその点についてまで注意義務を負わせることは酷であり,取引の安全を著し
く欠くおそれがあることから,いたずらに間接侵害が成立する範囲が拡大しないよ
うに配慮する趣旨と解される。
このような趣旨に照らせば,単に当該部品等が特許権を侵害する用途ないし態様
で使用される一般的可能性があり,ある部品等の生産,譲渡等をした者において,そのような一般的可能\性があることを認識,認容していただけで,主観的要件2)を
満たすと解するのでは,主観的要件2)によって多用途品の取引の安全に配慮するこ
ととした趣旨を軽視することになり相当でなく,これを満たすためには,一般的可
能性を超えて,当該部品等の譲渡等により特許権侵害が惹起される蓋然性が高い状況が現実にあり,そのことを当該部品等の生産,譲渡等をした者において認識,認\n容していることを要すると解するべきである。
他方,主観的要件2)について,部品等の生産,譲渡等をする者において,当該部
品等の個々の生産,譲渡等の行為の際に,当該部品等が個々の譲渡先等で現実に特
許発明の実施に用いられることの認識を必要とすると解するのでは,当該部品等の
譲渡等により特許権侵害が惹起される蓋然性が高い状況が現実にあることを認識,
認容している場合でも,個別の譲渡先等の用途を現実に認識していない限り特許権
の効力が及ばないこととなり,直接侵害につながる蓋然性の高い予備的行為に特許権の効力を及ぼすとの特許法101条2号のそもそもの趣旨に沿わないと解される。\n以上を勘案すると,主観的要件2)が認められるためには,当該部品等の性質,その客観的利用状況,提供方法等に照らし,当該部品等を購入等する者のうち例外的
とはいえない範囲の者が当該製品を特許権侵害に利用する蓋然性が高い状況が現に
存在し,部品等の生産,譲渡等をする者において,そのことを認識,認容している
ことを要し,またそれで足りると解するのが相当であり,このように解することは,
「その物がその発明の実施に用いられることを知りながら」との文言に照らしても
不合理な解釈ではない。
ア 本件の間接侵害への特許法102条1項の適用の可否
上記認定事実のとおり,本件では,被告製品3はプログラム(ソフトウェア)\nであるのに対し,原告の製品は表示器(ハードウェア)に予\めプログラム(ソフト\nウェア)がインストールされた完成品であるという相違がある。このことも踏まえ,
被告は,間接侵害には特許法102条1項は適用されないと主張している。
特許法102条1項本文は,侵害者が「侵害の行為を組成した物」を「譲渡した
・・数量」に,特許権者等が「その侵害行為がなければ販売することができた物」の
「単位数量当たりの利益の額」を乗じて得た額を,特許権者等が受けた損害の額と
することができる旨を定める。この規定は,侵害行為がなければ特許権者等が利益
を得たであろうという関係があり,そのために特許権者等に損害が発生したと認め
られることを前提に,特許権者等の損害額の立証負担を軽減する趣旨に基づくもの
であるが,そこに定める損害額の算定方法からすると,これにより算定される損害
の額は,特許権者等の「その侵害行為がなければ販売することができた物」の逸失
販売利益に係る損害の額であることを前提にしており,さらに,侵害者の「侵害の
行為を組成した物」の譲渡行為と特許権者等の「その侵害行為がなければ販売する
ことができた物」の販売行為とが同一の市場において競合する関係にあることも前
提としているものと解される。
他方,物の発明に係る間接侵害が対象とするのは,実施品の「生産に用いる物」
の譲渡等であり,実施品を構成する部品だけでなく,実施品を生産するための道具\nや原料等の譲渡等もこれに含まれるから,必ずしも侵害者の間接侵害品の譲渡行為と特許権者等の製品(部品等のこともあれば完成品のこともある)の販売行為とが
同一の市場において競合するとは限らない。そして,本件のように間接侵害品が部
品であり,特許権者等が販売する物が完成品である場合には,前者は部品市場,後
者は完成品市場を対象とするものであるから,両者の譲渡・販売行為が同一の市場
において競合するわけではない。しかし,この場合も,間接侵害品たる部品を用い
て生産された直接侵害品たる実施品と,特許権者等が販売する完成品とは同一の完
成品市場の利益をめぐって競合しており,いずれにも同じ機能を担う部品が包含さ\nれている。そうすると,完成品市場における部品相当部分の市場利益に関する限り
では,間接侵害品たる部品の譲渡行為は,それを用いた完成品の生産行為又は譲渡
行為を介して,特許権者等の完成品に包含される部品相当部分の販売行為と競合す
る関係にあるといえるから,その限りにおいて本件のような間接侵害行為にも特許
法102条1項を適用する素地がある。
したがって,本件では,以上の考え方に基づき各要件の解釈をすることを前提に,特許法102条1項の適用を肯定するのが相当である。
イ 「侵害の行為がなければ販売することができた物」について
(ア) この要件に該当する「物」について,原告は,プログラム(ソフトウ\nェア)を表示器(ハードウェア)にインストールした原告の製品全体であると主張\nするのに対し,被告は,原告がハードウェアとソフトウェアを別個に販売していな\nいことから,原告の製品はソフトウェアである被告製品3と競合関係にないとして,\n原告の製品が「侵害の行為がなければ販売することができた物」に当たらないと主
張している。
しかし,前記アで述べたところからすると,本件のような間接侵害の場合の「侵
害の行為がなければ販売することができた物」とは,特許権者等が販売する完成品
のうちの,侵害者の間接侵害品相当部分をいうものと解するのが相当である。
(イ) これを本件についてみると,原告の製品では回路モニタ機能や「追い\nかけモニタ機能」及び「ズームアップ検索機能\」が使用可能で,これは被告製品3\nで使用可能な回路モニタ機能\やワンタッチ回路ジャンプ機能(本件発明1の構\成要
件1E及び1Fの構成を充足する機能\)と同様の機能であって,これが原告の製品\nに予めインストールされているプログラム(ソ\フトウェア)による機能であること\nは明らかである。したがって,原告の製品と被告製品3を用いた完成品とは,その
ようなソフトウェアが格納又はインストールされているという点で共通していると\nいうことができるから,原告の製品は,被告製品3を用いた完成品と市場で競合する物であるということができる。
そうすると,本件での「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは,
原告の製品全体のうちの,被告製品3に対応するプログラム(ソフトウェア)部分\nである。
ウ 「譲渡数量」(侵害者が譲渡したその侵害の行為を組成した物の数量)に
ついて
本件では被告による被告製品3の生産,譲渡等の行為について間接侵害の成
立が認められるから,被告製品3が「その侵害の行為を組成した物」に該当する。
なお,原告は被告表示器Aもこれに含まれると主張して,原告の製品(完成品)\nの単位利益に乗じるものとして被告表示器Aの販売数を問題としているが,被告表\
示器Aの製造,販売について間接侵害が成立しないことは,前記3(1)及び(2)エ(ア)
で判示したとおりであり,そうである以上,特許法102条1項の適用に当たって,
被告表示器Aが「その侵害の行為を組成した物」に該当することはないというべき\nである。
そして,原告は,被告製品3を「その侵害の行為を組成した物」とする場合の予\n備的な主張として,被告製品3の販売数を譲渡数量としているところ,平成25年
4月1日から平成29年12月末までの被告製品3の販売数は,合計●(省略)●
台である(前記(2)ウ)。
被告が本件発明1(本件特許1)の存在を知ったのは平成25年4月2日であり,
同日以降の被告製品3の譲渡等について間接侵害が成立することから,上記認定の販売数から同月1日の販売数を控除する必要がある。本件の主張立証から同日の販
売数は明らかでないから,同月の販売数(●(省略)●台)を4月の日数である3
0で除した●(省略)●台(1台未満は四捨五入)を同月1日の販売数と認めるほ
かない。したがって,同月2日から平成29年12月末までの被告製品3の販売数
は,合計●(省略)●台と認められる。
なお,被告は,間接侵害が成立するのは主観的要件を具備して行った被告製品3
の生産,譲渡等のみであり,その立証がされていないと主張しているが,被告の行
為が間接侵害の主観的要件を具備していることは,前記3(2)カで判示したとおりで
ある。
エ 侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益
額について
(ア) 原告の製品全体の平成25年度の1台当たりの限界利益額が●(省略)
●円であることは,当事者間に争いがなく(前記(2)イ),その他の年度についても同様と推認されるところ,上記イで認定したとおり,「侵害の行為がなければ販売す
ることができた物」に当たるのは原告の製品のうちのプログラム(ソフトウェア)\n部分であるから,原告の製品のうちソフトウェア部分の限界利益額をもって「単位\n数量当たりの利益額」に当たるとみるべきことになる。
(イ) この点に関し,被告は,自らの製品のカタログ(甲5)記載の表示器\n(被告製品1−1)とソフトウェア(被告製品3−1)の参考標準価格を参考にし\nて,原告の製品のうちソフトウェア部分の限界利益額を算出すべき旨主張している。\nこれに対し,原告は被告が被告表示器の価格を高く設定し,ソ\フトウェアである被
告製品3の価格を低く設定するビジネスモデルをとっているから,被告の価格設定
を参考とすべきではなく,本件発明1の価値の高さに鑑み,ソフトウェア部分の寄\n与度は9割を下らないと主張する趣旨と解される。
被告製品1−1の参考標準価格は22万円から53万円,被告製品1−2の参考
標準価格は22万円から43万円であるのに対し,被告製品3−1の参考標準価格
は,単体ライセンス品で●(省略)●万円,200ライセンスまで登録可能なサイ\nトライセンス品で4万円である(前記2(2)ア(カ),(キ)参照)。このように,サイト
ライセンス品と単体ライセンス品との価格差がわずかであり,被告表示器のような\n生産設備に用いる装置の場合,通常は複数台が購入され,その場合にはサイトライ
センス品が購入されると考えられることからすると,通常の場合には,被告表示器\n1台当たりに必要なソフトウェア費用が極めて安価になり,原告が指摘するようなソ\フトウェアで利益を上げないビジネスモデルが存在している可能性もある。その\nため,サイトライセンス価格や実際の被告表示器1台当たりのソ\フトウェア費用
(被告の主張によっても平成26年における被告表示器Aの販売台数は被告製品3\nの販売枚数の約60倍であるから被告主張のとおり単価は500円となる。)を参考
として,被告表示器の参考標準価格と比較する場合には,ソ\フトウェアの価値が不
当に低く算定されることになり,相当でないと考えられる。しかし,単体ライセン
ス品の参考標準価格を用いる場合には,被告表示器1台のみを購入する場合が想定\nされるから,この場合にはソフトウェアによる採算も軽視されないはずであるし,\n単体ライセンス品の参考標準価格は●(省略)●万円であるから,被告表示器のよ\nうなハードウェアと被告製品3のようなソフトウェアに要する一般的な原価の差も\n考えると,ハードウェアとソフトウェアの価値が相応に反映されていると考えられ\nる。
他方,原告は,原告の製品における本件発明1の寄与度が9割を下らないと主張
するが,前記1の認定・判示によれば,従来技術を参酌して導かれる本件発明1の
特徴的技術手段は,表示されたラダー回路の出力要素を指定して入力要素を検索す\nるに当たり,出力要素の指定をタッチにより行うという点にすぎないから,製品全
体に対するその寄与度は9割を大きく下回ると考えられる。
以上からすると,本件で原告の製品の利益におけるソフトウェア部分の利益を算\n定するには,被告表示器1Aと被告製品3−1の参考標準価格を参考にして原告の\n製品におけるソフトウェア部分の限界利益額を算定するほかないというべきである。\nこれを参考にして被告表示器1Aと被告製品3−1の合計額に占める被告製品3\n−1の価格割合を算定すると,被告表示器1A(ただし,被告製品1−2のうちそ\nもそも回路モニタ機能等を使用できない機種及び生産を終了した機種は除く。)のカ\nタログ記載の参考標準価格は,平均すると●(省略)●円(税抜)であり(甲5),
被告製品3−1の通常の単体ライセンス品の参考標準価格は●(省略)●万円であ
る(税抜)から,被告製品3−1の価格の全体に占める割合は,●(省略)●%(0.1%未満四捨五入)と認められる。
なお,被告は被告製品1−1の参考標準価格の平均値をもとに算定しているが,
被告製品3−1がインストールされて回路モニタ機能等が使用され得る被告製品に\nは被告製品1−2も含まれるから,被告製品1−2の参考標準価格も参考にすべき
である。また,被告は1枚の被告製品3が約60台の被告表示器Aにインストール\nされていることを前提に,被告製品3の価格を500円として算定しているが,そ
のような場合の価格が被告製品3の価値を反映したものであるのかについては前記
のとおり問題があるから,被告製品3−1の通常の単体ライセンス品の参考標準価
格である●(省略)●万円をもって同製品の価格であると認めるのが相当である。
(ウ) 以上より,原告の製品のうちソフトウェア部分の限界利益額(1台当\nたりの金額)は,上記(ア)記載の金額に●(省略)●%を乗じた4118円と認めら
れる。
オ 「販売することができないとする事情」の有無
(ア) まず,被告は被告製品3と原告の製品とが競合することはないから,
原告の譲渡数量の全部について,原告が販売することができない事情が存在すると
主張しているが,この主張に理由がないことは,前記アで認定・判示したとおりで
ある。
(イ) 次に,被告は,被告製品3を購入した者の全てが回路モニタ機能を使\n用しているわけではないとか,回路モニタ機能を使用するのにオプション機能\ボー
ドの設置が必要な被告製品1−2を購入した者のうちオプション機能ボードを購入\nしたのは約4分の1にとどまり,実際に回路モニタ機能等を使用していないユーザ\nはさらに多く存在すると主張する。
特許法101条2号に係る間接侵害品たる部品等は,特許権を侵害しない用途な
いし態様で使用することができるものである。そして,そのような部品等の譲渡は,譲渡先での使用用途ないし態様のいかんを問わず間接侵害行為を構成するが,実際\nに譲渡先で特許権を侵害する用途ないし態様で使用されていない場合には,譲渡先
の顧客は当該特許発明の価値に吸引されて当該部品等を購入したわけではないから,
間接侵害品の売上げに当該特許権が寄与しておらず,そのような譲渡先については,
間接侵害行為がなければ特許権者の製品が販売できたとはいえないことになる。し
たがって,特許権者等の損害額の算定に当たっては,そのような事情は,特許法1
02条1項ただし書の事由を構成すると解するのが相当である。\nこれを本件についてみると,先に2(4)イ(イ)で述べたとおり,乙17及び18に
よれば,回路モニタ機能等に対応している被告製品1−2を購入した者のうち,オ\nプション機能ボードを購入しなかった者が相当程度存したと認められ,被告製品1\n−1や被告表示器2Aのユーザが須く回路モニタ機能\等を目的にこれらを選ぶとま
で認めることは困難である。このように譲渡先が回路モニタ機能等を利用しない場\n合があることは,特許法102条1項ただし書の事由として考慮すべきであるが,
その程度が明らかでないから,その考慮は極めて限定的になし得るにとどまるとい
うべきである。
(ウ) 次に,被告は,1)原告がPLC用表示器の市場において意味のあるシ\nェアを有していないこと,2)原告の製品のソフトウェアに占める本件発明1の貢献\n度(寄与度)は高くても0.1%を上回ることはないこと,3)原告が宣伝広告活動において「追いかけモニタ機能」や「ズームアップ検索機能\」を重視していなかっ
たことを指摘している。
a 特許法102条1項ただし書の「販売することができないとする事
情」は,侵害行為がなければ特許権者等の製品を侵害品と同じ数量だけ販売できた
との相当因果関係を阻害する事情を対象とするものである。
b そして,被告の主張1)について,前記(2)エ認定の事実によれば,プ
ログラマブル表示器について,原告のシェア(販売数量)と被告のシェア(販売数\n量)との間には,非常に大きな差異があったと認められるところ,シェアの格差に
は,製品の魅力以外にも,営業力やブランド力等の差異も多分に影響するものであ
るから,原告と被告のシェアに大きな格差があるという事情は,このような営業力
やブランド力等の差異という観点から,「販売することができないとする事情」を基
礎付ける1つの事情にはなるといえる。
c また,原告のシェアが小さいという上記の被告の主張1)は,被告以
外の他社の同種製品(競合品)が市場に多数存在しているから,被告製品3が販売
されなかったとしても,被告の製品が吸収した需要は他社の競合品が吸収し,原告
の製品の売上増加にはつながらないとの趣旨を含み,また,同様に上記の被告の主
張2)は,本件発明1の価値が低いから,被告製品3が販売されなかったとしても原
告の製品の売上増加にはつながらないとの趣旨と解される。
この点については,一般に侵害者の侵害品は特許発明の作用効果を奏するものと
して顧客吸引力を有する製品であるから,それと同等の機能ないし効果を奏するも\nのでなければ,特許発明の実施品に対抗して需要を吸収し得る競合品として重視す
ることができない。しかし,前記1の認定・判示によれば,従来技術を参酌して導
かれる本件発明1の特徴的技術手段は,表示されたラダー回路の出力要素を指定し\nて入力要素を検索するに当たり,出力要素の指定をタッチにより行うという点にす
ぎない。また,前記1で認定したとおり,従来製品として,モニタ上に表示される\n異常種類のうち特定のものをタッチして指定すると,その指定された異常種類に対
応する異常現象の発生をモニタしたラダー回路が表示され,さらにそのラダー回路\nの接点をタッチしてコイルを検索することができ,1回前に検索されたラダー図と
前回路の検索もできる構成を備える製品(乙11のもの)や,同様の製品において\n異常種類の原因となるコイルの指定や接点の指定をタッチパネル上の入力画面でデ
バイス名又はデバイス番号を入力して行う製品(被告のGOT900)も存在して
いた。そうすると,本件発明1に係る機能をすべて使用することができる製品が被\n告の製品以外に存在していなかったとしても,上記のような製品は存在しており,
そのような製品でも,異常現象の発生時にラダー回路図面集を参照しなくても真の
異常原因を特定したり,原因の特定のために次々にラダー回路を読み出していった
りすること自体は可能であり,それほど複雑な操作を要するものではないと認められるから,原告の製品とほぼ同様の機能\を備えたものであるといえる。
また,原告の製品が,上記の本件発明1の特徴的技術手段を備えるか否かも必ず
しも明らかでない。
したがって,本件では,競合品の存在により,被告製品3が販売されなかったと
きに原告の製品が同じだけ販売されたとの相当因果関係は,かなり大きな程度で阻
害されると認めるのが相当である。
d また,上記被告の主張3)は,原告の製品において本件発明1の機能\nは重要なものではないから,被告製品3が販売されなくとも,需要者が原告の本件
発明1の機能に惹かれて原告の製品を購入することがないとの趣旨と解される。\nしかし,原告は,カタログに甲26の図を掲載することに加え,各製品の主な特
徴の1つとして,「異常発生時,画面操作のみで問題箇所まで追いかけることができ
る」ということを記載していたのであるから,実際に重要な機能として位置付けら\nれており,そして,これらの機能を顧客に対してアピールしていたと認められ,こ\nの点については被告の上記主張は採用できない。
(エ) 以上のことを踏まえると,本件では,被告製品3が販売されなかった
ときに原告の製品が同じだけ販売されたとの相当因果関係は,かなり大きな程度で
阻害されると認められる。
しかし,本件における被告製品3の譲渡数量は,前記のとおり●(省略)●枚で
あるが,被告によれば,平成26年の被告表示器Aの販売台数は被告製品3の約6\n0倍であるというのであるから,少なくとも被告製品3は1枚当たり約60台の被
告表示器Aにインストールされたといえる。これに対し,原告の製品は,表\示器に
ソフトウェアがインストールされた完成品であり,前記エで認定したそのソ\フトウ
ェア相当部分の単位利益の額は,表示器1台のソ\フトウェア相当部分の利益額であ
り,その販売数量も表示器の販売数量と同じになるべきものである。そうすると,\n本件において,「販売することができないとする事情」として,侵害行為がなければ
特許権者等の製品を侵害品と同じ数量だけ販売できたとの相当因果関係を阻害する
事情の程度を判断するに当たっては,このような数量ベースの差を考慮すべきであ
り,原告の製品のソフトウェア部分の数量ベースから見ると,いわば被告製品3の\n販売数量が実質的には約60倍ある関係にあることになるから,そのことを踏まえ
て,被告製品3の販売行為がなければ原告の製品のソフトウェア部分を被告製品3\nの販売数量と同じ数量だけ販売できたとの相当因果関係がどの程度阻害されるかを
検討すべきである。
そして,このような考慮に基づく場合には,前記(イ)及び(ウ)で述べた諸事情を考
慮するとしても,本件において,被告製品3の譲渡数量●(省略)●枚の全部又は
一部を「販売することができないとする事情」があるとは認められない。
カ 譲渡数量に単位数量当たりの利益を乗じた額
上記ウないしオの判断を踏まえると,特許法102条1項に基づく原告の損
害額は,次のとおり,●(省略)●円と認められる。
(計算式) ●(省略)●台×4118円=●(省略)●円
(4) 原告の特許法102条2項に基づく主張について
ア 特許法102条2項は,侵害者が侵害行為により受けた利益の額を特許
権者等が受けた損害の額と推定すると定めるところ,この規定の趣旨は先に同条1
項について述べたのと同様であると解される。したがって,先に同条1項について
述べたのと同様の考え方の下に,本件において同条2項の適用を肯定するのが相当
である。
イ 侵害者が侵害の行為により受けた利益の額
(ア) これについて,原告は,被告による被告表示器Aの販売利益も含めて\n特許法102条2項の損害推定が働くと解すべきと主張している。
しかし,特許法102条2項は「その者(注:侵害者)がその侵害の行為により
利益を受けているときは,その利益の額」を特許権者等が受けた損害の額と推定す
ると規定しているところ,本件で原告の本件特許権1の侵害が認められたのは,被
告による被告製品3の生産,譲渡等であり,被告表示器Aの製造,販売については\n間接侵害の成立は否定されたから,被告による被告表示器Aの販売利益が上記「利\n益の額」に含まれないことは明らかである。これに反する原告の主張は条文の文言
に照らして採用できない。
(イ) 原告は被告製品3について,販売数や平均売価,限界利益率を推計し
て主張しているが,これらを認めるに足りる証拠がないことは,前記(2)ウで判示し
たとおりである。そこで,被告の利益額は,被告が開示した販売額(売上額)及び
限界利益率をもとに算定するほかない。
a 被告製品3の売上額
前記(2)ウで認定した別紙「被告製品3の販売数量・販売額」記載の販売
額等をもとに,被告が本件発明1(本件特許1)の存在を知った平成25年4月2
日から平成29年12月末までの売上額(販売額)を認定すると,次のとおり,●
(省略)●円と認められる(平成25年4月1日の販売数を●(省略)●枚とみる
ことにつき,前記(3)ウ参照)。
(計算式) ●(省略)●円−●(省略)●円(平成25年4月1日から同年9
月末までの販売数)×●(省略)●(同年4月2日から同年9月末までの販売数)
÷●(省略)●(同年4月1日の販売数を含んだもの)=●(省略)●円(計算過
程で生ずる1円未満の端数は四捨五入)
b 被告の限界利益率
前記(2)ウで認定した被告の限界利益率は,●(省略)●%である(別紙
「被告の変動費の内訳,加重平均値及び限界利益率」の(3)参照)。
c 被告の利益額
上記a及びbによれば,●(省略)●円と認められる。なお,これによ
れば,被告製品3の1枚当たりの利益額は,●(省略)●円である(計算式:●
(省略)●円÷●(省略)●台=●(省略)●円)。これは,前記原告の製品のソフ\nトウェア部分の単位利益額の約●(省略)●倍である。
ウ 推定覆滅事由について
(ア) 原告は被告製品3につき本件発明1の寄与度を50%と主張している
のに対し,被告はこれを1万分の1と主張するとともに,被告製品3の特徴的技術
手段の顧客への訴求力が極めて低いとか,本件発明1の技術的・商業的な価値は高
くないなどと主張している。
ここで考えるべき寄与度は,製品の顧客吸引力上の寄与度であるから,被告が主
張するようなデータ量などという物理的な側面に着目することは相当でないが,先
に特許法102条1項ただし書について述べたところ((3)オ(ウ)b,c)と同様,
本件発明1の特徴的技術手段は,表示されたラダー回路の出力要素を指定して入力\n要素を検索するに当たり,出力要素の指定をタッチにより行うという点にすぎず,
異常発生時のラダー回路の検索機能を備えた競合品も存在していたことに加え,被\n告製品3は回路モニタ機能等以外の様々な機能\を使用可能とするプログラム(描画\nソフトを含む。)が格納されていることからすると,被告製品3における本件発明1の寄与度は相当程度に低いということはできる。\nしかし,そうであるとしても,原告が原告の製品のソフトウェア部分をどの程度\n販売することができたかについては,先に特許法102条1項について述べたとこ
ろ(前記(3)オ(エ))と同様,被告製品3と原告の製品のソフトウェア部分とでは,\n数量ベースが異なり,被告製品3の販売数量が,原告の製品のソフトウェア部分の\n数量ベースから見ると実質的には約60倍ある関係にあることを踏まえる必要があ
る。
(イ) 他方,単位数量当たりの限界利益の額の差も推定覆滅に影響するとこ
ろ,その点については,被告製品3が原告の製品のソフトウェア部分の約●(省略)\n●倍大きいこと(逆にいえば,原告の製品のソフトウェア相当部分が被告製品3の\n約●(省略)●%にとどまること)も考慮する必要がある。
(ウ) 以上の事情を踏まえると,推定覆滅率は●(省略)●%と認めるのが
相当である。
(エ) 以上より,特許法102条2項に基づく原告の損害額は,次のとおり,●(省略)●円と認められる。ただし,前記(3)で認定した同条1項に基づく原告の
損害額(●(省略)●円)の方が高いことから,その額を認容することとする。
(計算式) ●(省略)●円×●(省略)●=●(省略)●円
(5) 弁護士費用
原告は本件訴訟の追行等を原告訴訟代理人に委任したところ(当裁判所に顕著
な事実),被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は,430万円と
認めるのが相当である。
(6) 以上より,原告の損害額は合計4702万8368円と認められる。
9 争点7(本件特許権1又は3の間接侵害を理由とする被告製品3及び4の生
産,譲渡等の差止め及び廃棄を命じることの可否)
(1) 被告による被告製品3の製造,販売及び同製品に係るコンピュータ・プロ
グラムの使用許諾について,本件特許権1の間接侵害(特許法101条2号)が成
立するから,被告製品3(被告製品3に係るソフトウェアを記録した媒体と解され\nる。)の生産,譲渡及び同製品に係るコンピュータ・プログラムの使用許諾について
の差止めを認容すべきである。
また,被告製品3の製品は本件特許権1の侵害の行為を組成した物に当たり,ま
た被告は現在に至るまで被告製品3を生産,譲渡等していることに照らせば,同製
品が同特許権を侵害する用途として使用されるおそれがあるから,その侵害の予防\nのために同製品の廃棄を命じる必要性・相当性が認められる。
(2) なお,被告は,被告製品3には適法な用途があるから,その生産,譲渡等
を全面的に差し止め,廃棄を命じるのは過剰である旨主張する。
しかし,被告製品3に適用な用途があるとしても,被告製品3が本件発明1の特
徴的技術手段を担う不可欠品であり,その譲渡等により特許権侵害が惹起される蓋
然性が高い状況が現実にあり,そのことを被告において認識,認容していると認め
られる以上,その生産,譲渡等を全面的に差し止め,その廃棄を命じるのが,多用途品であっても侵害につながる蓋然性の高い行為に特許権の効力を及ぼすこととし
た特許法101条2号の趣旨に沿うものというべきであるし,そのように解しても,
被告は,被告製品3から本件発明1の技術的特徴手段を除去する設計変更をすれば
間接侵害を免れるのであるから,被告製品3の生産,譲渡等の差止め命令及び廃棄
命令が過剰な差止め・廃棄命令であるとは解されない(なお,被告製品3にこのよ
うな設計変更をした場合でも,製品名が変わらない場合には,差止判決の対象外と
するために請求異議訴訟を経ることが必要になるが,そのような起訴責任を転換す
る負担を被告が負うことはやむを得ないというべきである。)。
◆判決本文
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