2020.12. 2
令和1(ネ)10081 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年11月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明について、知財高裁(4部)も技術的範囲に属しないと判断しました。
以上の本件発明3の特許請求の範囲(請求項3)の記載及び本件明細書
の記載によれば,構成要件Bの「操作メニュー情報」は,「ポインタの座\n標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力
手段に表示するため」の「画像データ」であり,出力手段に表\示され,利
用者がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解できるよう\nに構成されていることを要するものと解される。\n
イ これに対し控訴人は,構成要件Bの「操作メニュー情報」は,命令の「対\n象」や「内容」のいずれかを,小さな絵で表現したものが,「実行される\n命令結果を利用者が理解できるという動作・作用を目的・目標として構成\nされている画像データ」であって,「画面上のどの座標位置・範囲に表示\nするかという表示位置・範囲に関する情報」を含むものである旨主張する。\n しかしながら,本件発明3の特許請求の範囲(請求項3)の記載中には,
「操作メニュー情報」が「実行される命令結果を利用者が理解できるとい
う動作・作用を目的・目標として構成されている画像データ」であること\nの根拠となる記載は存在せず,控訴人の上記主張は,特許請求の範囲の記
載に基づかないものであるから,採用することができない。
(3) 被告製品における「操作メニュー情報」(構成要件B)の具備の有無につ\nいて
控訴人は,1)被告製品の本件ホームアプリにおける「上ページ一部表示」\n及び「下ページ一部表示」は,その内容や表\示位置からすれば,これを見た
利用者は上ページ又は下ページにスクロールする結果を理解できるといえる
から,利用者が,その表示の有無を視覚的に認識でき,その表\示内容から,
所望の命令を実行した結果についても理解できるような,画像データに当た
り,「操作メニュー情報」に該当する,2)被告製品における「左上領域」(別
紙参考図の図1記載の左側の赤色の点線枠内),「右上領域」(同図1記載
の右側の赤色の点線枠内),「左下領域」(同図2記載の左側の赤色の点線
枠内,同図3のB記載の左側の画像)及び「右下領域」(同図2記載の右側
の赤色の点線枠内,同図3のB記載の右側の画像)は,「操作メニュー情報」
に該当する旨主張する。
ア そこで検討するに,被告製品の構成エ(ウ),(エ),オ(ウ)及び(エ)及び
別紙「乙2の2の説明図」によれば,被告製品においては,1)利用者が,
移動させたいショートカットアイコンをロングタッチし,ドラッグ操作を
することにより当該ショートカットアイコンを移動させ,ロングタッチし
た位置と当該ショートカットアイコンをドラッグしている指等のタッチパ
ネル上の位置が約110ピクセル離れた場合に,その際のページ画面が縮
小表示されるとともに,そのページ画面のページ番号に応じて,当該ペー\nジが上端ページであれば1つ下のページの一部の画像である「下ページ一
部表示」のみが,下端ページであれば1つ上のページの一部の画像である\n「上ページ一部表示」のみが,それ以外のページであればこれらがいずれ\nもIGZO液晶ディスプレイに表示される「縮小モード」となること,2)
「縮小モード」の状態で,「上ページ一部表示」が表\示されているとき,
利用者が当該ショートカットアイコンをドラッグしている指等及びマウス
カーソルの先端の座標位置を「左上領域」又は「右上領域」のいずれかの\n範囲に入れたときは,上ページスクロール1又は上ページスクロール2を
生じさせる命令が実行され,また,「縮小モード」の状態で,「下ページ
一部表示」が表\示されているとき,利用者が当該ショートカットアイコン
をドラッグしている指等及びマウスカーソルの先端の座標位置を「左下領\n域」又は「右下領域」のいずれかの範囲に入れたときは,下ページスクロ
ール1又は下ページスクロール2を生じさせる命令が実行されることが認
められる。
イ しかるところ,被告製品の「上ページ一部表示」及び「下ページ一部表\
示」は,別紙「乙2の2の説明図」の図6等に示すように,「縮小モード」
の状態で,IGZO液晶表示ディスプレイの画面上に表\示される長方形状
上の画像データであるが,その表示には「実行される命令結果」の内容を\n表現し,又は連想させる文字や記号等は存在せず,利用者がその表\示自体
から「実行される命令結果」の内容を理解できるように構成されているも\nのと認めることはできない。
また,利用者が,縮小モードの状態で,1つ上のページ又は1つ下のペ
ージの一部を表示した画像である「上ページ一部表\示」又は「下ページ一
部表示」を見て,「上ページ一部表\示」又は「下ページ一部表示」までド\nラッグすれば,上ページ又は下ページに画面をスクロールさせることがで
きるものと考え,実際にそのように画面をスクロールさせる操作をしたと
しても,それは,「上ページ一部表示」又は「下ページ一部表\示」の表示\n自体から「実行される命令結果」の内容を理解するのではなく,操作の経
験を通じて,画面をスクロールさせることができることを認識するにすぎ
ないものといえる。
したがって,被告製品の「上ページ一部表示」及び「下ページ一部表\示」
は,利用者がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解でき\nるように構成された画像データであるものと認めることはできないから,\n構成要件Bの「操作メニュー情報」に該当しない。\n
ウ 次に,前記アの認定事実によれば,被告製品における「左上領域」,「右
上領域」,「左下領域」及び「右下領域」は,いずれも,被告製品の出力
手段であるIGZO液晶表示ディスプレイの画面上の特定の座標位置で囲\nまれた領域であり,その領域は,画面上に画像データとして表示されてい\nるものではなく,利用者が画面上で認識できるものではない。
したがって,被告製品における「左上領域」,「右上領域」,「左下領
域」及び「右下領域」は,出力手段に表示され,利用者が「実行される命\n令結果」を理解できるように構成されている「画像データ」であるものと\n認めることはできないから,構成要件Bの「操作メニュー情報」に該当し\nない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成30(ワ)8302
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2020.11.21
平成31(ワ)2210 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年8月11日 東京地方裁判所
東京地裁(46部)は、コンピュータ関連発明について、技術的範囲に属すると判断しました。なお、被告は無効理由を主張しましたが、該当しないと判断しています。
本件発明1−1の特許請求の範囲の記載をみると,本件発明1−1は,
「患者を識別するための第1患者識別情報を端末装置より取得する第1
取得部と」(構成要件1−1A),「前記第1患者識別情報と,患者を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2患者識別情報とが一致するか否\nかを判定する第1判定部と」(構成要件1−1B)を有するものであり,第1判定部において第1判定をする。また,「前記第1判定部で一致すると\n判定された場合に,看護師または医師を識別するための第1医師等識別情
報を前記端末装置から取得する第2取得部と」(構成要件1−1D),「前記第1医師等識別情報と,看護師または医師を識別する情報としてあらか\nじめ記憶された第2医師等識別情報とが一致するか否か判定する第2判
定部と」(構成要件1−1E)を有するものであり,第2判定部において第2判定をする。\n
ここで,第1判定と第2判定の関係について,特許請求の範囲には,「前
記第1判定部で一致すると判定された場合に」(構成要件1−1D),第1医師等識別情報が取得されて第2判定がされることが記載されている。こ\nのことから,第1判定で一致すると判定されることが,第2判定がされる
ことの前提であることが記載されているといえる。もっとも,第1判定と
第2判定との時間的な接着性の有無等についての記載はない。
そこで,本件明細書1をみると,本件明細書1には,実施の形態1ない
し4が記載されている。実施の形態1では,第1判定や,第1判定で一致
するとの判定がされて患者の医療情報を出力することについての実施の
形態(構成要件1−1Aないし1−1C)が記載されているが,第1判定で一致するとの判定がされた直後に第2判定がされるとか,第1判定は,\n第2判定がされる都度にされるものであるなど,第1判定と第2判定の時
間的関係やその機会についての記載はない。そして,実施の形態1では,
患者が,患者の手に巻いており識別情報を含むリストバンドのバーコード
を端末装置の撮像部で撮像することによって第1判定がされる(段落【0
045】)。そして,第1判定で一致するとの判定がされた場合には,「患者
用画面」が生成,表示され(段落【0047】ないし【0050】),患者用画面には検査の予\定や患者への注意事項が表示されるなどし(【004\n3】【図7】,患者はその画面を確認することで患者に対して行われる医療
行為等を知ることができ(段落【0019】),その患者用画面に対し,患
者が,例えば,検査ボタンをタッチすると検査名欄や検査説明欄が表示された検査表\示画面が生成,表示されることが記載されている(段落【00\n51】等)。また,第1判定で一致するとの判定がされて患者用画面が表示(ステップS21)されると検査ボタンや手術ボタンの入力を受け付ける\nようになり,その入力がされた場合には対応する画面の表示処理がされるが,入力がされなかったり,上記対応する画面の表\示処理がされたりした後には,患者用画面の表示に戻ることが記載されている(段落【0065】ないし【0068】,【図12】)。\n
実施の形態2は,看護師が患者の医療情報を確認するための看護師専用
画面を表示部に表\示する実施の形態であり,主に構成要件1−1Dないし1−1Fに対応する実施の形態が記載され,特に説明する構\成等以外は実施の形態1と同じであることが記載されている(段落【0088】)。そこ
では,患者用画面が表示部に表\示された後,看護師が,自身のリストバン
ドに記載されたバーコードを撮像部で撮像し,第2判定がされることが記
載されている(段落【0091】)。また,第2判定が一致した場合には医
療スタッフ用画面が表示されるところ,医療スタッフ用画面である看護師専用画面,バイタル画面等の表\示後に終了処理(ステップS120)がされると,患者用画面の処理(ステップS23)に移ることが記載されてい
る(段落【0122】【図26】【図12】)。そこには,上記の他に,第1
判定と第2判定との関係についての記載はない。
また,実施の形態3は主に第1判定に関係する記載であり(ただし,請
求項2に関する形態),実施の形態4は,第2判定に関係する記載である
が,それらの記載も含めて,本件明細書1に,第1判定と第2判定との時
間的接着性についての記載はない。
本件明細書1における背景技術や発明が解決しようとする課題の記載
によれば,医療情報を医療用サーバから取得し,取得した医療情報に基づ
いてピクトグラムを表示する端末装置という従来技術ではセキュリティを確保することが難しかったところ,本件発明1−1は,セキュリティを\n従来技術より向上させることができるというものである(段落【0003】
ないし【0006】)。本件明細書1には,本件発明1−1について,上記
のとおり,従来技術よりセキュリティを向上させることが記載されている
が,その記載のほかには従来技術と比較した優れた効果についての記載は
ない。
以上の特許請求の範囲の記載や本件明細書1の記載に照らせば,第2判
定は,第1判定で一致すると判定された場合にされるものである。しかし,
本件明細書1には,実施の形態として,患者がその手に巻いているリスト
バンドのバーコードを端末装置の撮像部で撮像することによって第1判
定がされ,一致すると判定された場合に患者用画面が表示され,それに対して患者が一定の操作をする形態が記載されている。そして,患者用画面\nの表示後に,医療スタッフがそのリストバンドのバーコードを撮像部で撮像することで第2判定がされ,そこで一致すると判定されると医療スタッ\nフ用画面が表示されるが,その終了処理後は,患者の医療情報を表\示する
患者用画面の表示に戻ることも記載されている。これらに照らすと,本件発明1−1において,第2判定がされるのは,第1判定で一致すると判定\nされた場合ではあるが,第1判定で一致するとされた後に患者による一定
の操作がされ,その後に第2判定がされることや,第1判定で一致すると
判定されて第2判定がされて第2判定で一致するとされて看護師等が必
要とする医療情報を含む表示画面が出力された後に,第1判定で一致すると判定された後と同じ,患者の医療情報を表\示する患者用画面に戻り,その状態から再び第2判定がされることがあり得ることが記載されている
といい得る。
以上によれば,本件発明1−1において,第2判定がされるのは第1判
定で一致すると判定された場合であるが,第1判定がされるのは第2判定
がされる直前に限られるとか,第2判定がされる前にその都度第1判定が
されるとは限られないと解するのが相当である。このように解したとして
も,第1判定がされてそこで一致すると判定されない限り第2判定はされ
ず,第2判定において一致すると判定されない限り看護師等が必要とする
医療情報を含む表示画面が表\示されることはないから,本件明細書1に記
載されたセキュリティの向上という効果を奏するといえる。
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2020.10.12
令和1(行ケ)10148 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年10月7日 知的財産高等裁判所
コンピュータシステム(医薬品相互作用チェックシステム)について、進歩性違反なしとした審決が維持されました。
(3) 原告の主張に対する判断
ア 原告は,「医薬品」の語は,販売名(商品名),一般名あるいは,薬効,
有効成分及び投与経路を特定できるコードを意味するとの本件審決の認定は,リパ
ーゼ事件判決に反していると主張する(前記第3の1(2)ア)。
特許請求の範囲から発明を認定するに当たり,特許請求の範囲に記載された発明
特定事項の意味内容や技術的意義を明らかにする必要がある場合に,技術常識を斟
酌することは妨げられないというべきであり,リパーゼ事件判決もこのことを禁じ
るものであるとは解されない。
そして,本件発明1における「相互マスタ」に登録される「一の医薬品」と「他
の一の医薬品」が,いずれも,販売名(商品名)又は一般名,薬価基準収載用薬品
コードであれば薬効,投与経路・有効成分(7桁のコード)以下の下位の番号によ
って特定されるものなど,具体的に当該医薬品の薬効,投与経路及び有効成分が特
定できるレベルのものを意味すると認められることは,前記(2)ウ(ア)のとおりであ
り,特許請求の範囲の記載や技術常識からこのように判断できるものであることは,
前記(2)ウ(ア)で判断したとおりである。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
イ 原告は,本件審決の要旨認定は,「医薬品」の概念と,「医薬品」を表現\nするデータ(本件明細書の【0040】)を区別する本件明細書の記載と矛盾すると
主張する(前記第3の1(2)イ(ア))。
しかし,「相互マスタ」に登録される「一の医薬品」と「他の一の医薬品」につい
て,具体的に当該医薬品の薬効,投与経路及び有効成分が特定できるレベルのもの
を意味すると判断することは,データの格納の構成について判断しているものであ\nり,本件明細書の【0040】の記載にも沿うものであるから,本件明細書の記載
と矛盾するものではない。
原告は,本件審決の「医薬品」の認定は,「相互作用が発生する医薬品の組み合わ
せ」の概念と,その表現方法,すなわち医薬品の組み合わせを表\現するためのデー
タの概念・種類(薬効コード)を区別している本件特許の請求項2の記載に反する
ものであるとも主張する(前記第3の1(2)イ(ウ))が,同様に,「相互マスタ」に登
録される「一の医薬品」と「他の一の医薬品」について,具体的に当該医薬品の薬
効及び有効成分が特定できるレベルのものを意味すると判断することは,データの
格納の構成について判断しているものであり,本件特許の請求項2の記載にも沿う\nものであるから,本件特許の請求項2の記載と矛盾するものではない。
ウ 原告は,本件審決は,特許請求の範囲に記載のない構成要素を付加して\n「医薬品」の文言を殊更狭く要旨認定をしており,サポート要件違反,実施可能要\n件違反,明確性要件違反の無効理由が存在することを示すものである旨の主張をす
る(前記第3の1(2)イ(オ))が,本件発明1における「相互マスタ」に登録される「一
の医薬品」と「他の一の医薬品」が,いずれも,販売名(商品名)又は一般名,薬
価基準収載用薬品コードであれば薬効,投与経路・有効成分(7桁のコード)以下
の下位の番号によって特定されるものなど,具体的に当該医薬品の薬効,投与経路
及び有効成分が特定できるレベルのものを意味すると認められることは,前記(2)
ウ(ア)のとおりであり,そのように解することから,本件発明1にサポート要件違反,
実施可能要件違反,明確性要件違反があるとは認められないから,原告の上記主張\nを採用することはできない。
エ 原告は,本件審決の理論で相互作用マスタに格納されるデータの概念の
レベルについて解釈を行うと,結局どの概念のレベルまで特定すれば本件発明1の
範囲に含まれ,どの概念のレベルでは当該範囲に含まれないのか判然とせず,発明
の外縁が不明確となると主張する(前記第3の1(3)エ(ウ))。
しかし,既に判示したとおり,本件発明1において,「相互マスタ」に登録される
「一の医薬品」と「他の一の医薬品」について,具体的に当該医薬品の薬効,投与
経路及び有効成分が特定できるレベルのものを意味すると認められるのであり,そ
のように解することが,本件発明1の外縁を不明確にするということはできない。
また,原告は,本件明細書の【0040】が「薬効コード」は「何でもよい」と
していることを指摘するが,この段落の記載は,本件特許の特許請求の範囲の記載
を超えたものを意味していると認めることはできないから,「何でもよい」というの
も,具体的に当該医薬品の薬効,投与経路及び有効成分が特定できるレベルであれ
ば「何でもよい」と述べているにすぎないと認められる。
オ その他の原告の主張を採用することができないことは,既に判示したと
ころから明らかである。
(4) 以上によると,本件審決の一致点及び相違点の認定に誤りはなく,それに
基づく相違点1,2についての容易想到性の判断(前記第2の4(1)ウ)も誤りはな
いから,取消事由1は理由がない。
3 取消理由2(本件発明9の容易想到性の判断の誤り)について
(1) 原告は,本件審決は,本件発明1の要旨認定を誤った結果,請求項1の従
属項である請求項9に係る本件発明9の要旨認定をも誤り,引用例との一致点,相
違点の認定を誤ったと主張する。
しかし,前記2で判示したところによると,本件発明9と甲1発明には,少なく
とも前記第2の4(1)イの相違点1〜4が認められることになる。そして,相違点1
及び2についての容易想到性の判断(前記第2の4(1)ウ)にも誤りがないから,そ
の余の点を判断するまでもなく,本件発明9は,当業者が容易に発明をすることが
できたものとは認められない。
したがって,取消事由2は理由がない。
(2) なお,原告は,本件発明9は,個別マスタを共通マスタと別に設け,個別
マスタを優先して処理する点において,甲1発明と相違するが,本件審決は,この
点の容易想到性の判断を誤ったものであると主張する。
原告の上記主張は,令和元年12月10日付けの原告準備書面(1)において主張さ
れたものではなく,この準備書面に対し,被告らから令和2年2月10日付け被告
ら第1準備書面で反論がされた後の同年3月27日付け原告準備書面(2)において
初めて主張されたものであるから,時機に後れた攻撃防御方法の提出であるが,取
消事由2については,前記(1)のとおり,原告の上記主張について判断するまでもな
く判断することができるので,上記主張は,訴訟の完結を遅延させるものではない。
したがって,上記主張を却下することはしないこととする。
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2020.09. 7
令和2(ネ)10023 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年8月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
モバイル送金・決済サービスについて特許権侵害を主張しましたが、知財高裁(2部)は、1審(東地40部)と同様に、技術的範囲に属しないと判断しました。被控訴人(1審被告)はLINE PAYです。イ号システム、本件特許については1審判決に詳しく説明されています。
「(1) 構成要件A等の「ホワイトカード」及び「使用限度額」の意義\nア 前記1(1)のとおり,本件明細書等では,段落【0002】〜【000
5】において本件発明の課題が説明されているところ,同課題は,クレジットカー
ドについてのものであり,プリペイドカードサービスやデビットカードサービスに
ついてのものではない。そして,段落【0006】において,「以上の課題を解決
するために,本発明は,・・・ホワイトカード使用限度額引き上げシステムを提供
する。」と記載され,さらに,段落【0007】〜【0009】において,上記課
題を解決するための具体的構成が記載されている。これらの記載に,「ホワイト\nカード」の用語は,クレジットカードに関して使用された場合は,「カード会社が
個人向けに発行する最もベーシックなクレジットカード」を意味するものと認めら
れること(乙6,7)を併せ考慮すると,段落【0006】〜【0009】の「ホ
ワイトカード」は,段落【0002】〜【0005】に記載されたカードであるク
レジットカードを意味するものと認められる。
一方で,本件明細書等には「ホワイトカード」がプリペイドカードやデビット
カードを含む旨の記載は存在しないから,本件明細書等の「ホワイトカード」には,
プリペイドカードやデビットカードは含まれないものと解される。
イ 前記1(1)のとおり,本件明細書等には,段落【0002】〜【000
5】で,従来技術として,クレジットカードについて,ユーザの支払能力などに応\nじて所定期間内で使用可能な金額である「使用限度額」が契約時にある程度固定さ\nれ,使用限度額の引上げなどの変更がなかなかできない,あるいは煩雑な手続が必
要となるという課題があること,先行技術であるクレジットカード管理システムに
関する発明の乙8発明は,ユーザの利用実績により使用限度額を変更できるという
ものであるが,同発明によっても,ユーザが他者から送金を受けた場合に使用限度
額を変更することはできないという課題があることが記載され,段落【0006】
で,上記の課題を解決するために,本件発明は,ユーザが他者から送金を受けたこ
とにより使用限度額を引き上げることができるシステムを提供することが記載され
ており,これらの記載からすると,本件発明における「使用限度額」は,従来技術
における「使用限度額」と同様に,クレジットカードの使用限度額を意味するが,
ユーザに対する入金があると所定の手続を経ずに引き上げられるものであると解す
るのが相当である。
したがって,本件発明における「使用限度額」は,ユーザが所定期間内に使用
することのできる金額の上限額を意味し,その額は,ユーザとの契約時には,その
支払能力(信用力)に応じて設定され,「ある程度固定される」ものであるが,そ\nの後,ユーザに対する入金があった場合,所定の手続を経ずに引き上げられるもの
であると認められる。
ウ 以上のとおり,本件発明における「ホワイトカード」はクレジット
カードを意味し,「使用限度額」は,「契約時に設定され,契約時には,ある程度固
定される,所定期間内で使用可能な金額」を意味するものというべきである。\n
(2) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,本件発明の課題について「使用限度額に関しては契約時に
ある程度固定されるため,限度額の引上げなどの変更がなかなかできない,あるい
は煩雑な手続きが必要となる」という従来技術の課題(段落【0003】)は乙8
発明により解決済みであり,本件発明の課題は,他者からの送金の受金等による
ユーザの所持金の増加を速やかに使用限度額に反映させることにある(段落【00
05】)と主張する。
しかし,本件明細書等の段落【0003】と段落【0005】の記載によると,
乙8公報に記載された従来技術は,「予め定められた使用限度額内での利用実績に\n応じて算出変更」することにより使用限度額を変更することを可能にするものであ\nるが,それでは「他者からの送金を受金することなどでユーザの所持金が当該クレ
ジットカード契約時の平均所得以上に増えたとしても,カード会社に逐一連絡など
して所定の手続きを経なければそれが使用限度額に反映され」ないという課題を解
決し得ないことから,本件発明は,本件特許請求の範囲に規定された構成を採用す\nることにより,入金を受け付けた旨の情報に基づいて,所定の手続(煩雑な手続)
を経ることなく,ホワイトカードの使用限度額を引き上げることを可能としたもの\nと認められる。
このように,乙8発明は,「使用限度額に関しては契約時にある程度固定される
ため,限度額の引上げなどの変更がなかなかできない,あるいは煩雑な手続きが必
要となる」という従来技術の課題のうちの一部を「クレジットカードの使用限度額
を利用実績に応じて算出変更する技術」によって解決したにすぎず,本件発明は,
乙8発明により解決できなかった従来技術の「他者からの送金を受金することなど
でユーザの所持金が当該クレジットカード契約時の平均所得以上に増えたとしても,
カード会社に逐一連絡などして所定の手続きを経なければそれが使用限度額に反映
されることは無い」という課題を解決したものであるから,控訴人の上記主張は理
由がない。
◆判決本文
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◆平成30(ワ)13927
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2020.08.24
令和1(ネ)10066 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年6月17日 知的財産高等裁判所(2部) 東京地方裁判所(40部)
コンピュータ関連発明の特許権侵害事件で、1審の被告敗訴部分が取り消されました。理由は乙14から新規性無しです。乙14は1審で時期に後れた攻撃防御として採用されなかった証拠です。個人的には、新規性無しというレベルの証拠があるにもかかわらず、時期に後れたとして、1審判決を出すのは引っかかります。
構成要件6)(「前記識別情報を前記ウェブサーバに向けて送出可能な状\n態から送出不可能な状態へと変化させるステップを,前記ウェブサーバに向けて前\n記識別情報が送出されてから一定期間が満了した場合に,又は前記ウェブサーバへ
アクセスされた回数が基準に達した場合に実行する機能とを」)について\n
(ア) 「一定期間」の始期について
a 乙14では,「ウェブページ・・・を顧客のブラウザに表示させる」\n(段落[0032]),「バートの広告は・・・顧客にのみ表示されることになる」(段落[0033],「広告描画エンジン74は,キャンペーン管理インターフェイス・・・を広告主に表\示する」(段落[0042]),「表示ページ中でバートの広告を順位付\nける」(段落[0045]),「クリックして表示する方法」,「広告は,広告主の完全な電話番号を表\示していないが,その代わりに・・・残りの部分を表示するための\nハイパーリンクを含む。」(段落[0059]),「新聞の告知欄は,消費者がかける電話番号を表示するテレビコマーシャルと同様に」(段落[0070]),「歯科医らは\n同業者よりも上に表示されることを望む場合に高い料金を支払うことができる。広\n告会社は,架電単価が最も高いものから最も低いものへと降順に歯科医を表示する。」\n(段落[0089]),「広告会社は,ウェブサイト上に3つの広告を表示するとき,\n広告に現れる固有の電話番号を動的に割り当てる。」(段落[0090]),「広告主
に対応する広告が少なくとも2つの位置の第1の位置に表示された場合に・・・」\n(請求項11)などにおいては,「表示(display)」は,「情報が画面に映される(it
shows it on its screen)」,「画面に単語や写真等を見せる(to show words,
pictures, etc. on a screen)」,「コンピュータの画面に情報を見せる(to show
information on a computer screen)」などの意味で用いられていることが認めら
れる。
しかし,乙14には,「広告会社は,ウェブサイト上に3つの広告を表示すると\nき,広告に現れる固有の電話番号を動的に割り当てる。」(段落[0090]),
「広告会社は一日中10人の歯科医を何百もの異なるサイトに絶えず表示してい\nる。」(段落[0092])などのように,「表示」について,ユーザ端末等の画面の\nみに情報を映すという意味に限定されず,システム(広告会社)が要求パートナー
のウェブサイトに対して電話番号を割り当てた広告等の情報を提示することをも含
むと理解することができる記載がある。
また,乙14の「一実施形態において,ある特定の広告主の広告がある時間にあ
る特定のウェブサイトにある特定の固有の電話番号と共に表示されたことをシステ\nムが記録する。ますます多くの広告が異なるウェブサイトに表示されるため,一実\n施形態において,システムは割り当てられた電話番号がそれぞれ最後に表示された\nのはいつかを記録する。」(段落[0095])との記載では,「システムが記録す
る」とされていて,システムが,ユーザ端末等の画面に電話番号が割り当てられた
広告が映されたことを把握し,それを記録に反映することについての記載が全くな
いことからすると,ここにいう「表示」は,ユーザ端末等の画面のみに情報を映す\nという意味に限定されず,システム(広告会社)が要求パートナーのウェブサイト
に対して電話番号を割り当てた広告等の情報を提示することを含む意味であると理
解することができる。
そして,構成要件(c)のとおり,乙14発明の要求パートナーの検索エンジン\nは,「検索要求に対する検索結果内に,システムから送信された『固有の電話番号が
挿入された広告』を表示する」ものであり,構\成要件(b),(c)のとおり,要求
パートナーの検索エンジンのウェブサイト等に情報を提示することは,システムが
「固有の電話番号が挿入された広告」を当該要求パートナーへ送信することにより
行われるのであるから,乙14発明において「表示」というときに,システムが,\n「固有の電話番号が挿入された広告」を,要求パートナーのウェブサイトに提示さ
せるために送出するという意味をも含むと理解することができる。また,構成要件\n(d)の「表示されたことを記録し」についても,システムが,「固有の電話番号が\n挿入された広告」を要求パートナーのウェブサイトに提示させるために送出したこ
とを含むと理解することができる。
したがって,乙14発明において,固有の電話番号が再利用のために「電話番号
のプール」に戻されるまでの期間の始期である「表示されてからある一定期間」に\nいう「表示されてから」は,「固有の電話番号が挿入された広告が要求パートナーの\n検索エンジンに送出」されたときを含むものと解することができる。
b これに対し,1審原告は,当業者は,「ウェブページが何時の時点で
ユーザ端末に表示されたか」を把握するためのウェブビーコン等の周知技術を参酌\nして乙14の記載を理解するため,ユーザ端末等に電話番号が表示された時期を容\n易に把握することができるから,乙14における「表示してから」は,文字どおり,\nユーザ端末等に電話番号が表示された時点と解すべきであると主張する。\nしかし,上記aのとおり,乙14には,システムが,ユーザ端末等の画面に電話
番号が割り当てられた広告が映されたことを把握することについて記載も示唆もな
く,また,乙14のシステムは,「固有の電話番号が挿入された広告」を提供した
ことを記録することにより,要求パートナーのウェブサイトに「電話番号が割り当
てられた広告」が提示されたことを把握できるから,乙14発明の出願時に,We
bページ(又は電子メール)上にグラフィックを設置し,利用者が当該Webペー
ジ(又は電子メール)を開いた際に,自社のサーバに対してGET要求をし,どの
IPアドレスのマシンが,いつ,どのWebページにアクセスしたのかについての
情報をトレースすることができるというウェブビーコンなどの技術が周知技術であ
ったとしても,乙14発明がこの技術を用いることを前提としたものであると理解
されるとは認められない。
また,乙14発明は,固有の電話番号を提供するには費用がかかるため,広告及
びウェブサイト毎に固有の電話番号を割り当ててペイ・パー・コールの実績型広告
を実施するための架電トラッキングを実施すると,非常に多くの固有の電話番号,
すなわち非常に多くの費用が必要になるとの課題(段落[0076])に対して,「当
該方法では,電話番号は,ジャスト・イン・タイム方式で広告に動的に割り当てら
れ,所定期間,電話番号が表示されない又は架電されないと,そのとき当該電話番\n号は,割り当て解除されて,再利用される。」(段落[0006])ことにより上記課
題を解決するものである。そうすると,このような乙14発明において,「所定期間」
の始期を,ユーザ端末等に電話番号が表示された時点に限定するような技術的な必\n要性は特に認められない。1審原告は,「一定期間」の始期を「送出されてから」と
する本件発明は,ユーザの動作部分を対象としておらず,サーバの側で完結するも
のであり,「一定期間の始期」がユーザ端末等に「表示されてから」とする乙14発\n明は技術思想が異なると主張するが,乙14発明の上記のような意義を考慮すると,
乙14発明において,システム設計の便宜(一定期間の計測の容易性)よりも,ユ
ーザ側の利益(表示期間の確保)を優先させる必要性は特に認められないから,1\n審原告が主張するような本件発明と乙14発明との技術思想の違いを認めることは
できない。
かえって,乙14発明において,「表示」をユーザ端末等に電話番号が表\示された
時点と解すると,通信エラー等で電話番号が送出されたがユーザ端末等に表示され\nなかった場合には,「一定期間」が進行しないことになり,乙14発明の上記の課題
が解決されないことになる。
したがって,1審原告の上記主張を採用することはできない。
c また,1審原告は,乙14の段落[0059]で引用されている米
国公開公報(甲33)によると,乙14発明の構成要件(c)における「表\示」は,
ユーザの「コンピュータの画面に情報を見せる(to show information on a computer
screen)」という意味を有するものとして使用されていると主張する。
しかし,乙14の段落[0059]には,広告が要求パートナーのウェブサイト
を介してユーザに提示されるに当たり,広告が,広告主の電話番号又は電話番号の
残りの部分を表示するためのハイパーリンクを含んでいる方法が記載されており,\nその中で,甲33に記載されている「クリックして表示する方法」が引用されてい\nるにすぎないから,仮に,甲33の「表示」が1審原告主張の「表\示」の意味のみ
を有するものとして用いられているとしても,甲33の記載をもって乙14の「表\n示」を1審原告主張のように認めるべき事情があるということはできない。
1審原告は,乙14発明の[0078]の「表示された」の解釈について,1審\n原告の主張に沿った内容を記載した意見書(甲32)を提出するが,上記説示に照
らし,この意見書の記載内容を採用することはできない。
d 以上によると,乙14発明においての「表示されてから」とは,要\n求パートナーの検索エンジンに向けて電話番号が「送出」されたときを含むと認め
るのが相当であるから,本件発明と乙14発明には「一定期間」の始期について相
違点がないことになる。
(イ) 「『送出可能な状態』である」ことについて\n
a 前記(2)によると,乙14発明では,エンドユーザから要求パートナ
ー(ある検索エンジンのウェブサイト)に対して検索要求がされると,「ジャスト・
イン・タイム方式」で,未割り当ての電話番号のプール内にある電話番号の中から
「固有の電話番号」となる電話番号が検索要求におけるキーワードと関連付けがさ
れた特定の広告主の広告に対して直前に動的に割り当てられて,その広告に自動的
に挿入されるものであり(段落[0006],[0033]〜[0035]),そのよ
うに「固有の電話番号」が挿入された広告は,検索結果のページ内に表示され,「固\n有の電話番号」は,「表示されてからある一定期間」が経過した場合には,「再利用」\nのために「電話番号のプール」に戻され(段落[0006],[0077]〜[00
81]),また,「問合せをもたらすが架電がない場合」には,この「固有の電話番号」が「表示されてからある一定期間」が経過するまでの「所定期間」の間,「動的に割\nり当てられた電話番号」は「その広告に関連付けられる」(段落[0082])ので
あるから,乙14発明の「固有の電話番号」は,広告情報と関連づけられて送出さ
れ,「表示されてからある一定期間」が経過するまでの「所定期間」の間は,広告情\n報と関連付けられていることが認められる。
b もっとも,乙14の段落[0078]には,固有の電話番号が表示\nされてから一定時間が経過した場合や固有の番号が架電されてから一定時間が経過
した場合,システムは自動的にその番号を再利用し,番号のプールに戻すことがで
きるなどの記載はあるが,乙14には,ある要求パートナー(検索エンジンのウェ
ブサイト)に固有の電話番号が表示された後,番号のプールに戻るまでの間に,当\n該電話番号が,同じ要求パートナー(検索エンジンのウェブサイト)で新たに検索
された際に同一の広告に表示されるのか否かについての明示の記載はない。\nしかし,乙14発明は,固有の電話番号を提供するには費用がかかるため,広告
及びウェブサイト毎に固有の電話番号を割り当ててペイ・パー・コールの実績型広
告を実施するための架電トラッキングを実施すると,非常に多くの固有の電話番号,
すなわち非常に多くの費用が必要になるとの課題(段落[0076])に対して,「当
該方法では,電話番号は,ジャスト・イン・タイム方式で広告に動的に割り当てら
れ,所定期間,電話番号が表示されない又は架電されないと,そのとき当該電話番\n号は,割り当て解除されて,再利用される。」(段落[0006])ことにより上記課
題を解決するものである。
そして,ペイ・パー・コールの実績型広告を実施するための架電トラッキングで
は,支払先を特定するために,架電があった電話番号が,どの検索エンジンのウェ
ブサイトで表示されたものなのかさえ特定できればよいのであるから,同じ検索エ\nンジンのウェブサイトの第2の顧客の検索に対して,第1の顧客の検索によって割
り当てた電話番号とは異なる電話番号を新たに割り当てて表示する必要はなく,同\nじ電話番号を再び割り当てて表示することにより,管理する電話番号の数を減らす\nことは,乙14発明が当然の前提としていると解される。そうでなければ,所定期
間「固有の電話番号」を広告情報と関連付けておく意義が乏しいことになる。1審
原告は,表示されてから一定期間,当該番号が送出不可能\である場合に,当該期間,
同じ要求パートナーや同じコンテキストで同じ番号が表示されないとしても,一定\n期間の長さなどを適宜調整するなどすれば,発明の課題は十分解決することができ\nると主張するが,1審原告が主張する方法をとるよりも,同じ要求パートナーの同
じコンテキストに同じ番号を表示する方が管理する電話番号の数を減らすことに資\nするのであるから,1審原告の主張を採用することはできない。
そうすると,乙14の段落[0078]の記載は,エンドユーザから要求パート
ナーの検索エンジンに対する検索要求に対して,広告に「ジャスト・イン・タイム
方式」でプール内にある電話番号を割り当てるに当たって,同じ要求パートナー又
は同じコンテキストにおいて,広告が表示されてから所定期間内の電話番号は,再\n度「固有の電話番号」として前記「広告」に割り当てられ,前記「所定期間内の電
話番号」が挿入された広告が要求パートナーの検索エンジンに送信されることを示
していると解される。
これに対し,1審原告は,乙14発明において,表示されてから一定期間,電話\n番号が送出不可能であったとしても,すでに送出された電話番号を「ウェブサーバ」\nに表示させ続けることにより,同じ要求パートナーや同じコンテキストについて同\nじ番号を表示することは可能\であるから,乙14発明において,所定の期間,電話
番号が送出可能である必要はない旨主張するが,乙14発明は,ジャスト・イン・\nタイム方式であり,検索された都度,電話番号が割り当てられるものであるから,
1審原告が主張するような構成を採るものであると解することはできない。\n
c 以上によると,乙14発明は,「固有の電話番号」が「表示されてか\nらある一定期間」が経過するまでの「所定期間」の間,識別情報(「固有の電話番号」
は広告情報(「その広告」)と関連づけられており,当該期間内の,エンドユーザか
ら要求パートナーの検索エンジンに対する検索要求に対して,同じ要求パートナー
又は同じコンテキストにおいて,広告に関連付けられた電話番号が挿入された広告
が要求パートナーの検索エンジンに送信され前記エンドユーザに対して表示される\nことになるから,本件発明における,「一定期間」が終了して「送出不可能な状態」\nとなるまで「送出可能な状態」である点は,乙14発明との一致点となる。1審原\n告は,乙14の段落[0078],[0086]及び[0098]の記載から,広告
に「ジャスト・イン・タイム方式」で割り当てられたプール内にある電話番号は,
表示されてから所定期間の間「送信可能\状態」が継続しているとの1審被告の主張
は,本件発明の「一定期間」(構成要件6))と乙14発明の「所定期間」を混同する
ものであると主張するが,乙14発明の「所定期間」については前記aのとおり認
められるのであり,1審原告の主張するところは前記aの判断を左右するものでは
ない。
(ウ) 前記ウによると,乙14発明は,構成要件3)を備えていることが認め
られる。そして,前記(ア),(イ)によると,乙14発明の「一定期間」の始期である
「『固有の電話番号』が『表示されてから』」とは,本件発明の「一定期間」の始期\nである「前記ウェブサーバに向けて前記識別情報が送出されてから」に相当し,乙
14発明には,「『一定期間』の間『送出可能な状態』であること」が記載されてい\nることが認められる。
したがって,乙14発明は,本件発明の構成要件6)を備えていると認められる。
◆判決本文
原審はこちら
◆平成28(ワ)16912
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2020.08.17
平成30(ワ)31428 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年6月30日 東京地方裁判所
JR東海に対する侵害事件です。原告は「座席管理システム」(3995133号)の均等侵害を主張しましたが、第1要件、第2要件を満たさないとして、否定されました。
(3)ア
第1要件にいう特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請
求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する\n特徴的部分であり,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明
の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲
の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部\n分が何であるかを確定することによって認定される(知的財産高等裁判所平
成27年(ネ)第10014号同28年3月25日判決)。
ここで,本件明細書をみると,従来の技術においては,券情報と発券情報
の2つの情報をそれぞれ端末機に対して伝送していたため情報量が2倍に
なり通信回線の負担が2倍になっていた。本件発明は,このような従来の技
術と異なり,「ホストコンピュータ」において,券情報と発券情報という2つ
の情報に基づいて1つの座席表示情報を作成するものであり,それによって,\n端末機へ伝送される情報量が半減されて通信回線の負担が軽減されるとい
う効果を奏するものである(【0002】〜【0007】,【0020】)。
このような本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らせば,本件発明に
おいて,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であ\nる本質的部分は,「ホストコンピュータ」が券情報と発券情報との2つの情
報に基づいて1つの「座席表示情報」を作成する作成手段を有し,そのよう\nにして作成された「座席表示情報」が「ホストコンピュータ」から端末機に\n伝送される点にあるといえる。
被告システムにおいては,券情報と発券情報との2つの情報に基づいて1
つの情報が作成されるサーバーはなく,したがって,それらの2つの情報に
基づいて作成された1つの情報を端末機に伝送するサーバーもない。そうす
ると,本件発明の本質的部分において,本件発明の構成と被告システムの構\
成は異なる。したがって,被告システムが均等侵害の第1要件を充足するこ
とはない。
また,被告システムは,端末機に対して券情報と発券情報という2つの情
報に基づいて作成された1つの情報が伝送されるものではないから,券情報
と発券情報がそれぞれ端末機に伝送されるシステムに比べて通信回線の負
担と端末機の記憶容量及び処理速度を半減するものではない。したがって,
本件発明と同一の作用効果を奏するものではなく,第2要件を満たさない。
イ 原告は,第1要件について,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成\nと被告システムの構成の異なる部分は,サーバーと通信回線の個数に関する\n相違であって,本件発明の本質的部分に関係するものとはいえない旨主張す
る。
しかし,上記アのとおり,券情報と発券情報とに基づく情報が作成され,
そのようにして作成された情報が伝送されるサーバーがあることは,均等侵
害の第1要件にいう本件発明の本質的部分であるといえ,被告システムは,
その本質的部分において,本件発明と異なる。
また,原告は,本件発明の作用効果は,車掌が携帯する端末機に表示され\nる各指定座席の利用状況(自動改札通過情報及び発売実績情報の有無)を車
掌が目視で確認できるようにして,車内改札を本来空席であるはずの座席に
座っている乗客に対して従来のように切符の提示を求めるだけで足りるよ
うにしたものであり,これにより車内改札の省略化を図るというものであり,
被告システムの作用効果と同じである旨主張する。
しかし,前記3(1)のとおり,本件明細書の記載に照らせば,従来技術と比較した本件発明の効果は,券情報と発券情報がそれぞれ端末機に伝送されるシステムに比べて通信回
線の負担と端末機の記憶容量及び処理速度を半減するところにある。したが
って,被告システムが本件発明と同じ作用効果を有するとはいえない。
(4)上記(3)のとおり,被告システムは,少なくとも均等侵害の第1要件,第2要
件を充足せず,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして本件発明\nの技術的範囲に属するものであるということはできない。
◆判決本文
本件特許の訂正審判についての審決取消訴訟事件です。
◆平成28(行ケ)10069
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2020.08.14
平成30(ネ)10085 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月8日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審で差し止めが認められていました。被告が控訴しましたが知財高裁(4部)を控訴棄却されました。サポート要件については原審でも具備していると判断されています。
争点2−1(本件特許は特許法36条6項1号に違反しているか)
控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明には,構成要件Hに対応する「シ\nフト機能」に係る構\成について,「いったんスルー注文」及び「決済トレー
ル注文」と組み合わせた,複数の新規注文の全て及び複数の決済注文の全て
がそれぞれ1回ずつ約定した場合に複数の新規注文の全て及び複数の決済注
文の全てに対応する個数の新たな複数の新規注文及び新たな複数の決済注文
を発注させることしか記載されておらず,構成要件Hに含まれる「シフト機\n能」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせたも\nの以外の構成のものについては記載されていないことからすれば,構\成要件
Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえないから,特許
法36条6項1号所定の要件(以下「サポート要件」という。)に適合する
とはいえない旨主張する。
ア そこで検討するに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載中に
は,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記\n複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたこ
とを検知すると,前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知
の情報を受けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも
さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成す
る」との記載において,「注文情報生成手段」が生成する「所定価格だけ
高い売り注文価格の情報」を含む「売り注文情報」の個数を規定する記載
はないから,当該「売り注文情報」は,複数の場合に限らず,一つの場合
も含むものと理解できる。
イ(ア) 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,1)「シフト機能」につ\nいて,「金融商品取引管理装置1や金融商品取引管理システム1Aにお
いて,既に発注した新規注文と決済注文をそれぞれ約定させたのち,「シ
フト機能」による処理を併用した取引を行うことも可能\である。この「シ
フト機能」による注文は,上述した,「いったんスルー注文」や「決済\nトレール注文」や,各種のイフダン注文(例えば後述する「リピートイ
フダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)等に基づいて,新
規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文
や決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異
なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注させる態様
の注文形態である。」こと(【0078】),2)「シフト機能」は,「相\n場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場
価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一注文情報や新たな第二注
文価格の第二注文情報を生成し,相場価格を反映した注文の発注を行う
ことができる」(【0018】)という効果を奏すること,3)「発明の
実施の形態3」は,「この実施の形態3の金融商品取引管理システムに
おいては,「いったんスルー注文」と「決済トレール注文」とを,「ら
くトラ」による注文と組み合わせ,さらに「シフト機能」を行わせる状\n態を示す。」(【0138】)ものであるが,「上記の「シフト機能」\nは,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構成において適\n用することもできる。」こと(【0151】)及び「上記各実施の形態
は本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態のみに限定されるこ
とを意味するものではないことは,いうまでもない。」こと(【016
4】)の記載がある。
上記1)の記載から,「シフト機能」は,「新規注文と決済注文が少な\nくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文や決済注文が発注される
際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異なる価格や価格帯にシフ
トさせた状態で,新たな注文を発注させる態様の注文形態」であり,シ
フトされる先に発注済の注文には,「新規注文」又は「決済注文」の一
方のみの構成又は双方の構\成が含まれること,先に発注済の一つの注文
の「価格」をシフトさせる構成のものと先に発注済の複数の注文の「価\n格帯」をシフトさせる構成のものが含まれることを理解できる。\nまた,上記1)ないし3)の記載から,「シフト機能」は,「相場価格を\n反映した注文の発注を行うことができる」という効果を奏し,「いった
んスルー注文」,「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例え
ば・・・「リピートイフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)」
等の注文方法とは別個の処理であること,「シフト機能」にこれらの各\n種の注文方法のいずれを組み合わせるかは任意であることを理解できる。
ウ(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,図35に示す「実施の形態
3」(【0144】ないし【0148】)として,シフト機能に決済\nトレール注文を組み合わせたトラップリピートイフダン注文で行われ,
決済注文S5,S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の
買い注文B5,B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売
り注文S5,S4が再度生成されるが,この時点ではシフトは発生せ
ず,通常のリピートイフダン注文が繰り返され,その後相場価格が変
動して,S1ないしS3の売り注文価格がトレールし,S1ないしS
3が最も高い注文価格の売り注文として同時に約定すると,再度生成
された売り注文S5,S4は約定していないにも関わらずこれをキャ
ンセルして,S1ないしS5のシフトが実行されることが記載されて
いる。上記記載は,構成要件Hに含まれる,「シフト機能\」に「いっ
たんスルー注文」及び「決済トレール注文」を組み合わせた構成の一\nつであることが認められる。
また,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせない場合には,\n図35において,S2及びS3の売り注文価格がトレールしないため,
それぞれの注文情報が生成された時点における価格のとおり,それぞ
れ別々に約定し,その場合,実施の形態3の取引例でS5,S4が約
定した段階ではシフトが生じていないのと同様に,S3,S2が約定
した段階ではシフトが生じず,その後に最も高い売り注文価格の売り
注文であるところのS1が約定した段階でシフトが生じることになる
ことを理解できる。
そうすると,複数の売り注文情報のうち最も高い売り注文価格の売
り注文が約定すると,それよりも所定価格だけ高い売り注文価格の情
報を含む売り注文情報を生成するという構成要件Hに係る構\成は,本
件明細書の上記記載から認識できるから,本件明細書の発明の詳細な
説明に記載されているということができる。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成29(ワ)24174
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2020.07.13
令和1(行ケ)10110 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年6月18日 知的財産高等裁判所
債権の決済方法は発明ではないと認定されました。出願人は銀行です。問題のクレームは以下のようにシンプルです。別途分割出願もあります。
【請求項1】
電子記録債権の額に応じた金額を債権者の口座に振り込むための第1の振込
信号を送信すること,
前記電子記録債権の割引料に相当する割引料相当料を前記電子記録債権の債
務者の口座から引き落とすための第1の引落信号を送信すること,
前記電子記録債権の額を前記債務者の口座から引き落とすための第2の引落
信号を送信することを含む,電子記録債権の決済方法。
本願発明の発明該当性について
前記(2)の観点から,本願発明の発明該当性について検討する。
ア(ア) 前記(1)イ(イ)のとおり,本願発明は,従来から利用されている電子
記録債権による取引決済における割引について,債権者をより手厚く保
護するため,割引料の負担を債務者に求めるよう改訂された下請法の運
用基準に適合し,かつ,債務者や債権者の事務負担や管理コストを増大
させることなく,債務者によって割引料の負担が可能な電子記録債権の決済方法を提供するという課題を解決するための構\成として,本願発明に係る構成を採用したものである。一方,本願発明の構\成のうち,「(所定の)金額を(電子記録債権の)債権者の口座に振り込むための振込信号を送信すること」,及び「(所定
の)金額を電子記録債権の債務者の口座から引き落とすための引落信号
を送信すること」は,電子記録債権による取引決済において,従前から
採用されていたものであり,また,「電子記録債権の額を(電子記録債権
の)債務者の口座から引き落とす」ことは,下請法の運用基準の改訂前
後で,取扱いに変更はないものである。
そうすると,本願発明は,「電子記録債権の額に応じた金額を債権者の
口座に振り込む」ことと,「前記電子記録債権の割引料に相当する割引料
相当料を前記電子記録債権の債務者の口座から引き落とす」こととを,
前記課題を解決するための技術的手段の構成とするものであると理解できる。\n
(イ) また,本願明細書には,「本発明」の効果として,「電子記録債権の
割引が行われる場合,債務者や債権者の事務負担や管理コストを増大さ
せることなく,割引料を負担する主体を債務者とすることで,割引困難
な債権の発生を効果的に抑制することが可能となるという効果を奏する」ことが記載されている(前記(1)イ)。
一方,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には,電子記録債権の
決済方法として,「電子記録債権の額に応じた金額を債権者の口座に振
り込むための第1の振込信号を送信すること」,「前記電子記録債権の割
引料に相当する割引料相当料を前記電子記録債権の債務者の口座から
引き落とすための第1の引落信号を送信すること」,「前記電子記録債権
の額を前記債務者の口座から引き落とすための第2の引落信号を送信
すること」が記載されているに過ぎないため,かかる構成を採用することにより,「自然法則を利用した」如何なる技術的手段によって,債務者\nや債権者の事務負担や管理コストを増大させないという効果を奏する
のかは明確でなく,本願明細書にもこの点を説明する記載はない。
なお,本願明細書には,「本発明」の実施形態1及び2の決裁方法は,
割引料の負担主体が債権者と債務者のいずれの場合にも対応すること
ができるため,債権者と債務者は,従来利用してきた電子決済サービス
を引き続き利用することができ,支払業務等の負担の軽減と人的資源を
引き続き有効に活用することができる旨の記載があるが(前記(1)イ(カ)),これは,従来から利用されている電子記録債権による取引決済における割引を対象とする発明であることによって,当然に奏する効果であるものと理解できる。
また,本願明細書に記載された本願発明の効果のうち,「割引困難な債
権の発生を効果的に抑制することが可能となる」という点については,「本発明」の実施形態1及び2に関する本願明細書の【0051】及び\n【0082】の記載(「また,電子記録債権を割引した際の割引料を債務
者が負担する場合,債権者は割引の際に一時的に負担した割引料を債務
者から回収することができる。さらに,割引料相当料の負担を軽減する
ための方策を構築するための動機づけを債務者に対して与えることができるため,支払遅延や割引困難な債権の発生を効果的に抑制すること\nが可能となる。」)に照らすと,かかる効果は,電子記録債権の割引料を債務者が負担する方式に改めたことによる効果であることを理解でき\nる。
(ウ) 以上によれば,本願発明は,電子記録債権を用いた決済方法におい
て,電子記録債権の額に応じた金額を債権者の口座に振り込むとともに,
割引料相当料を債務者の口座から引き落とすことを,課題を解決するた
めの技術的手段の構成とし,これにより,割引料負担を債務者に求めるという下請法の運用基準の改訂に対応し,割引料を負担する主体を債務\n者とすることで,割引困難な債権の発生を効果的に抑制することができ
るという効果を奏するとするものであるから,本願発明の技術的意義は,
電子記録債権の割引における割引料を債務者負担としたことに尽きると
いうべきである。
イ 前記アで認定した技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の
構成及びその構\成から導かれる効果等の技術的意義を総合して検討すれ
ば,本願発明の技術的意義は,電子記録債権を用いた決済に関して,電子
記録債権の割引の際の手数料を債務者の負担としたことにあるといえる
から,本願発明の本質は,専ら取引決済についての人為的な取り決めその
ものに向けられたものであると認められる。
したがって,本願発明は,その本質が専ら人為的な取り決めそのものに
向けられているものであり,自然界の現象や秩序について成立している科
学的法則を利用するものではないから,全体として「自然法則を利用した」
技術的思想の創作には該当しない。
以上によれば,本願発明は,特許法2条1項に規定する「発明」に該当
しないものである。
ウ これに対し原告は,(1)請求項に係る発明が自然法則を利用しているかど
うかは,本願発明の構成要件全体を単位として判断すべきものであるから,本件審決のように,本願発明の一部の構\成要件を単位とした判断には意味がなく,本件審決の判断には誤りがある,(2)仮に,本願発明の一部の構成要件を単位とした判断をする場合であっても,本願発明の各処理の実行は,\n全て信号の送受信によって達成されるところ,信号の送受信は,金融取引
上の業務手順そのものを特定するだけで達成できるものではなく,自然法
則を利用することで初めて達成できるものである,(3)本願発明を全体とし
てみれば,「第1の引落信号」の送信と「第2の引落信号」の送信とを別々
に行うことができる構成を有していることから,「債務者の口座から割引料相当額を引き落とす時期」と「債務者の口座から電子記録債権の額を引き\n落とす時期」とを分けることができ,その結果,債務者が「割引料」と「電
子記録債権の額」とを区別して管理することが容易になり,例えば,「債務
者は,事務的な負担の増大を伴うことなく,一定期間に支払わなければな
らない割引料相当料を容易に,かつ正確に把握することができる。」(本願
明細書【0017】)という効果を奏することができ,また,「第1の引落
信号を送信する」という構成は,債務者が割引料を負担するに当たって,実際の現金を用いなくても電子的な情報のやり取りによって,手続的負担\nを抑制するという効果を奏するから,全体として特許法2条1項の「自然
法則を利用した技術的思想の創作」に該当する,(4)本願発明を「コンピュ
ータソフトウエア関連発明」であるとみても,「第1の引落信号」及び「第2の引落信号」を区別して送信する構\成は,コンピュータ同士の間で行われる必然的な技術的事項を越えた技術的特徴であるから,自然法則を利用
した技術的思想の創作である旨主張する。
まず,上記(1)の点について,本願発明を全体として考察した結果,「自然
法則を利用した」技術的思想の創作には該当しないと判断されることにつ
いては,前記イのとおりである。
上記(2)の点については,前記アのとおり,本願発明において,「信号」を
「送信」することを構成として含む意義は,電子記録債権による取引決済において,従前から採用されていた方法を利用することにあるのに過ぎな\nい。すなわち,前述のとおり,本願発明の意義は,電子記録債権の割引の
際の手数料を債務者の負担としたところにあるのであって,原告のいう「信
号」と「送信」は,それ自体については何ら技術的工夫が加えられること
なく,通常の用法に基づいて,上記の意義を実現するための単なる手段と
して用いられているのに過ぎないのである。そして,このような場合には,
「信号」や「送信」という一見技術的手段に見えるものが構成に含まれているとしても,本願発明は,全体として「自然法則を利用した」技術的思\n想の創作には該当しないものというべきである。
上記(3)の点について,本願明細書の記載(【0017】)によれば,原告
が主張する「債務者は,事務的な負担の増大を伴うことなく,一定期間に
支払わなければならない割引料相当料を容易に,かつ正確に把握すること
ができる。」との効果は,「金融機関」が,「電子的通信手段を用い,割引料
に相当する金額・・・を定期的・・・に算出し,各債務者に対して割引料相当料が
確定したことを定期的に通知する」ことにより奏するものであることを理
解できるところ,上記の構成は,本願発明の構\成に含まれないものである。
また,「債務者の口座から割引料相当額を引き落とす時期」と「債務者の口
座から電子記録債権の額を引き落とす時期」とを分けることにより,債務
者が「割引料」と「電子記録債権の額」を区別して管理することが容易に
なるとの効果については,本願明細書に記載されていないし,本願発明の
特許請求の範囲(請求項1)には,「第1の引落信号を送信すること」と「第
2の引落信号を送信すること」が記載されているに過ぎず,その構成に上記信号を送信する時期や,上記信号に基づきいつどのように引落しが行わ\nれるかを含むものではない。
そして,実際の現金を用いなくても電子的な情報のやり取りによって,
手続的負担を抑制するという効果は,前記ア(イ)で説示したように,電子
記録債権による取引決済における割引を対象とする発明であることによっ
て,当然に奏する効果である。
上記(4)の点については,請求項1には,3つの信号を送信することが記
載されるにとどまり,ソフトウエアによる情報処理が記載されているものではない。したがって,本願発明は,コンピュータソ\フトウエアを利用するものという観点からも,自然法則を利用した技術的思想の創作であると
はいえない。
以上のとおり,原告の上記主張は,いずれも採用することができない。
(3) 小括
以上によれば,本件審決が,本願発明は,特許法2条1項の「自然法則
を利用した技術的思想の創作」とはいえないから,同法29条1項柱書に
規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができないものである
旨判断した点に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
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2020.06.12
令和1(行ケ)10085 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年6月4日 知的財産高等裁判所(3部)
ゲームの特許について進歩性無しとした審決が取り消されました。理由は「「ゲーム上の取決めにすぎない」として,他の公知技術等を用いた論理付けを示さないまま容易想到と判断できない」というものです。出願人は「グリー(株)」です。
相違点6に係る構成が容易想到であると判断するに当たっての審決の論理構\成は,次のとおりである。(1)「手持ちのカード」が他のフィールド又は領域への移動に伴いその数を減
じたときに「手持ちのカード」を補充するという構成を採用するに当たって,どのフィールド又は領域への移動を補充の契機とするかはゲーム上の\n取決めにすぎない。
(2) よって,第7領域への移動をカードの補充の契機とする引用発明の構成を,第3領域(敵ヒーローへの攻撃を行うための領域)への移動を補充の\n契機とする本願発明の構成に変更することは,ゲーム上の取決めを変更することにすぎない。\n(3) よって,引用発明の構成を本願発明における構\成とすることも,ゲーム
上の取決めの変更にすぎず,当業者が容易に想到し得た。
(2) しかしながら,審決の上記論理構成は,次のとおり不相当である。ア 審決は,引用発明の認定に当たって「カード」の種類に言及していない
が,CARTEによれば,第10領域から第11領域へのカードの補充の
契機となるのは,「シャードカード」(深緑の地色に白抜きで円形と三日
月形が表示されているカード)の第11領域から第7領域への移動及び第7領域から第6領域への移動である(00分39秒〜40秒,00分49\n秒〜50秒等)。
そして,「シャードカード」は,専ら「マナ」(カードのセッティング
やスキルの発動に必要不可欠なエネルギー<00分42秒>)を増やすため
に用いられるカードであり,その移動先はシャードゾーン(第7領域)又
はマナゾーン(第6領域)に限られ,敵との直接の攻防のためにアタック
ゾーン(第3領域)又はディフェンスゾーン(第4領域)に移動させられ
ることはない。これに対し,「クリーチャーカード」は,敵のクリーチャ
ーやヒーローとの攻防に直接用いられるものであって,第11領域から適
宜アタックゾーン(第3領域)又はディフェンスゾーン(第4領域)に移
動させられ,攻防の能力を表\す「APの値」及び「HPの値」を有してい
る。
イ このように,引用発明におけるカードの補充は,本願発明におけるそれ
との対比において,補充の契機となるカードの移動先の点において異なる
ほか,移動されるカードの種類や機能においても異なっており,相違点6は小さな相違ではない。そして,かかる相違点6の存在によって,引用発\n明と本願発明とではゲームの性格が相当程度に異なってくるといえる。し
たがって,相違点6に係る構成が「ゲーム上の取決めにすぎない」として,他の公知技術等を用いた論理付けを示さないまま容易想到と判断すること\nは,相当でない。
(3) 被告の主張について
被告は,手持ちのカードの数が減じたときにこれを補充する構成(乙7,乙8)とするかこれを補充しない構\成(乙9,乙10)とするかは,ゲーム制作者がゲームのルールを決める際に適宜決めるべき設計的な事項にすぎな
いから,引用発明において,第3領域(アタックゾーン)にカードを配置し
た場合でも第11領域の手持ちカードが補充されるようにすることは,何ら
技術的な困難性があることではなく,まさに,提供しようとするゲーム性に
応じたゲーム上の取決めにすぎない旨主張する。
しかしながら,相違点6は,ゲームの性格に関わる重要な相違点であって,
単にルール上の取決めにすぎないとの理由で容易想到性を肯定することはで
きないことは,(2)において説示したとおりである。。
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2020.03.18
令和1(行ケ)10072 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年3月17日 知的財産高等裁判所
CS関連発明「ホストクラブ来店勧誘方法及びホストクラブ来店勧誘装置」について、進歩性無しとした拒絶審決が取り消されました。
引用発明の販売促進の対象を「ホストクラブ」のサービスとし,ホストクラブへ
の「来店」の「勧誘」の目的で使用した場合,「仮想現実動画」は,潜在顧客を対象
とした,ホストクラブで提供するサービスを疑似体験する動画となり得ると解され
る。しかしながら,引用例1には,「仮想現実動画」について,「メンタルケア」を行うものとすることや,「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応
じて異なるメンタルケアを行う複数の異なる」仮想現実動画ファイルとすることに
ついて,記載も示唆もない。また,かかる事項が周知であったと認めるに足りる証拠もない。そうすると,引用発明に基づき,相違点2’に係る「潜在顧客の心理状態に応じて
選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホス
トクラブ仮想現実動画ファイル」の構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。\nよって,相違点2’に係る本件補正発明の構成は,当業者が容易に想到し得たもの\nではない。
ウ 相違点4’の容易想到性について
前記イのとおり,相違点2’に係る「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧
客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現
実動画ファイル」の構成を当業者が容易に想到することができたとはいえない以上,\n「異なる心理状態の表記が各々されているとともに潜在顧客の心理状態に応じて選\n択される複数のコマンドボタン」を「各ホストクラブ仮想現実動画ファイル」に「対
応」させることを,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
よって,相違点4’に係る本件補正発明の構成は,当業者が容易に想到し得たも\nのではない。
エ 被告の主張について
被告は,(1)引用発明におけるサービスの販促活動の内容は,広告代理店と広告主
であるサービス提供者との間の取決めに即したものとならざるを得ず,「仮想現実動
画」を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」となる内容として「心理状態に応じ
て選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う」ものとするこ
とは,引用発明の販促活動を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」とすることに
伴って生ずることにすぎず,また,(2)コマンドボタンに動画の内容を表記すること\nは周知技術であるところ,かかる動画の内容としてサービスの「メンタルケア的な
側面」を捉えた表示を行うことも,周知技術の採用に当たって,広告代理店とサー\nビスの提供者との間の取決めに即して,適宜決定すべきことである旨主張する。
しかし,引用例1には,テーマパークへの来場を勧誘したいサービスの提供者が,
テーマパークの魅力を潜在顧客に伝える目的で,来場すると体験できるアトラクシ
ョンを疑似体験するための仮想現実動画を提供することの記載はあるものの,その
際に,当該サービスのメンタルケア的な側面に応じた複数の異なる仮想現実動画を
サーバーに記憶させておき,潜在顧客が疑似体験したいサービスを自由に選択でき
るようにすることや,当該サービスのメンタルケア的な側面を仮想現実動画のタイ
トル等として表記した複数のボタンを設けることの記載はなく,かかる示唆もない。\nそして,引用発明を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」に適用した場合に,
販促支援の内容は,販促支援をする広告代理店とこれを受ける広告主との間の取決
めに即したものとなるとしても,「仮想現実動画」を,「心理状態に応じて選択され
潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なる」ものにする
ことが必然とはいえない。
また,コマンドボタンに動画の内容を表記することが周知技術であるとしても,\n取決めの下でなされる販促活動がかかる周知技術を踏まえたものになることが,必
然とはいえない上,仮にかかる周知技術を適用したとしても,前記ウのとおり,「潜
在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケ
アを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の構成を当業者が容易\nに想到することができたとはいえない以上,「異なる心理状態の表記が各々されてい\nるとともに潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタン」を「各
ホストクラブ仮想現実動画ファイル」に「対応」させるとの構成を,当業者が容易に\n想到することができたとはいえない。
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2020.03. 9
令和1(ネ)10042 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和2年2月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明の侵害事件です。会計ソフトについて非侵害と判断された1審判断が維持されました。均等侵害も第1要件を満たしていないとして否定されました。
該当特許の公報は以下です。
◆公報
該当特許は無効審判もありますが、2020年1月に、特許は有効と判断されています(無効2018-800140)。
3 争点2(均等論)について
控訴人は,仮に本件発明の構成要件Hは「社会保障給付」が「財源措置(C\n2)」に含まれる構成であると解した場合には,被告製品においては,「社会\n保障給付」が,「財源措置(C2)」に含まれておらず,「純経常費用(C1)」
に含まれている点で本件発明と相違することとなるが,被告製品は,均等の第
1要件ないし第3要件を充足するから,本件発明の特許請求の範囲に記載され
た構成と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属する旨主張するので,\n以下において判断する。
(1) 前記2(2)認定のとおり,被告製品は,少なくとも構成要件B3及びHを\n充足するものと認められないから,被告製品は,構成要件Hの構\成以外に,
構成要件B3の構\成を備えていない点においても本件発明と相違するものと
認められる。
しかるところ,控訴人の主張は,被告製品に構成要件B3の構\成について
も相違部分が存在し,被告製品と本件発明は構成要件B3及びHにおいて相\n違することを前提とするものではないから,その前提において理由がない。
(2)ア 次に,被告製品の第1要件の充足性について,念のため判断する。
本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記1(2)認定の本件
明細書の開示事項を総合すれば,本件発明は,国民が将来負担すべき負債
や将来利用可能な資源を明確にして,政策レベルの意思決定を支援するこ\nとができる「財務諸表を作成する会計処理のためのコンピュータシステム」\nを提供することを課題とし,この課題を解決するために「純資産の変動計
算書」(「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」)
を新たに設定し,当該年度の政策決定による資産変動を明確にできるよう
にしたことに技術的意義があり,具体的には,構成要件B1ないしIの構\
成を採用し,純資産変動額や将来償還すべき負担の増減額を「処分・蓄積
勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」に表示し,当該年\n度の政策決定による資金変動を明確にすることができるようにしたことに
より,国民の資産が当期の予算措置で増えるのか又は減るのか,また,そ\nの財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのかを一
目で知ることができ,政策決定者は純資産変動額を勘案して政策を遂行す
ることができるという効果を奏するようにしたこと(【0002】,【0
005】,【0007】ないし【0010】,【0021】,図1)に技
術的意義があるものと認められる。
そして,本件発明の上記技術的意義に鑑みると,本件発明の本質的部分
は,「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)\n及び損益勘定作成・記録手段」から,国家の政策レベルの意思決定を記録
・会計処理するために,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
(C1〜C4)」を作成・記録する損益外純資産変動計算書勘定作成・記
録手段を備え(構成要件B3),損益外純資産変動計算書勘定作成・記録\n手段の記録は,その期における損益外の純資産増加(C3,C4)と純資
産減少(C1,C2)の2つで構成され,損益勘定(行政コスト計算書勘\n定)の収支尻(貸借差額)である「純経常費用(B7)」が処分・蓄積勘
定(損益外純資産変動計算書勘定)の「純経常費用(C1)」に振替えら
れ(構成要件F),「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」\nの貸方と借方の差額(収支尻)が,「当期純資産変動額(C5)」という
形で,最終的には「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」の「純資産(国民\n持分)(B4)」の部に振り替えられて,「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘\n定)」の借方(左側)と貸方(右側)がバランスし(構成要件G),「処\n分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」の借方側(勘定の左側)
の「財源措置(C2)」は,具体的には社会保障給付やインフラ資産を整
備した際の資本的支出のような損益外で財源を費消する取引を指し(構成\n要件H),処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の貸方側(勘
定の右側)の「資産形成充当財源(C4)」は,財源措置として支出がさ
れた場合,財源は費消されるが,その一部分は,インフラ資産のように将
来にわたって利用可能な資産形成に充当されるため,その支出の時点で政\n府の純資産(国民持分)が何らかの資源が現金以外の形で会計主体として
の政府の内部に残っていると考えることができ,将来世代も利用可能な資\n産が当期どれだけ増加したかを示している(構成要件I)という構\成を採
用することにより,当該年度の政策決定による資金変動を明確にし,国民
の資産が当期の予算措置で増えるのか又は減るのか,また,その財源の内\n訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのかを一目で知るこ
とができ,政策レベルの意思決定を支援することができるようにしたこと
にあるものと認めるのが相当である。
しかるところ,被告製品においては,「資金収支計算書勘定記憶手段及
び閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)及び損益勘定作成・記録手段」から「処\n分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」を作成・
記録する損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段を備えておらず,ま
た,「社会保障給付」が「財源措置(C2)」に含まれていないため,構\n成要件B3及びHを充足せず,当該年度の政策決定による資金変動を明確
にし,財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのか
を一目で知ることができるようにして政策レベルの意思決定を支援するこ
とができるようにするという本件発明の効果を奏するものと認めることは
できない。
したがって,被告製品は, 本件発明の本質的部分を備えているものと認
めることはできず,被告製品の相違部分は,本件発明の本質的部分でない
ということはできないから,均等論の第1要件を充足しない。
よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は,本件発
明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとは認められない。\n
イ(ア) これに対し控訴人は,本件明細書の記載によれば,本件発明の本質
的部分(課題解決原理)は,(1)(C)の処分・蓄積勘定(純資産変動計
算書勘定)が損益外の純資産増加(C3,C4)(貸方)と純資産減少
(C1,C2)(借方)の2つで構成され(構\成要件F),期末にその
貸方と借方の差額(収支尻)が当期純資産変動額(C5)という形で閉
鎖残高勘定(貸借対照表勘定)の純資産(国民持分)(B4)の部に振\nり替えられる(構成要件G)ことで,国民が将来負担すべき負債を明確\nにするという点,(2)(C)の処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書
勘定)の貸方側において,将来世代も利用可能な資産が当期どれだけ増\n加したかを示している(財源が固定資産などに転化したもの,すなわち
税収等の財源が使用されて減少したが,将来世代が利用可能な資産の形\nで増加したと解釈できるものを計上する)資産形成充当財源(C4)の
金額が,将来利用可能な資源を明確にする(構\成要件I)という点,(3)
処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)と資金勘定(資金収支
計算書勘定),閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定),損益勘定(行政コス\nト計算書勘定)との「勘定連絡(勘定科目間の金額の連動)」がプログ
ラムに設定されていることが,政策レベルの意思決定と将来の国民の負
担をコンピュータ・シミュレーションする会計処理を可能にするという\n点にあり,被告製品は,本件発明の本質的部分を備えている旨主張する。
しかしながら,本件発明の本質的部分は前記アのとおり認めるのが相
当であり,また,上記(3)の点については,本件発明は,請求項2に係る
発明とは異なり,「コンピュータ・シミュレーション」を行うことを発
明特定事項とするものではないから,本件発明の本質的部分であるとい
うことはできない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
(イ) また,控訴人は,「財源措置」とは,将来利用可能な資源の増加を\n伴うか否かにかかわらず,「当期に費消する資源の金額」を意味するも
のであり,「純経常費用(C1)」と「財源措置(C2)」を包括する
上位概念であるから,この意味で「純経常費用(C1)」と「財源措置
(C2)」は同質的であり,個別の政府活動が「行政レベルの業務執行
上の意思決定」と「国家の政策レベルの意思決定」のいずれに分類され
たとしても,処分・蓄積勘定(純資産変動計算書勘定)の借方の金額,
すなわち,「当期に費消する資源の金額」には変化はないから,本件発
明の課題解決原理として不可欠の重要部分である処分・蓄積勘定の収支
尻(貸借差額),すなわち「当期純資産変動額」に影響を及ぼすもので
はないことからすると,被告製品の構成要件Hに係る相違部分(被告製\n品においては,「社会保障給付」が,「財源措置(C2)」に含まれて
おらず,「純経常費用(C1)」に含まれている点)は,本件発明の本
質的部分とは無関係な些細な相違にすぎない旨主張する。
しかしながら,本件明細書には,(1)処分・蓄積勘定(損益外純資産変
動計算書勘定)の借方の「純経常費用(C1)」は,「損益勘定(行政
コスト計算書勘定)」の収支尻である「純経常費用」が振り替えられて
計上されるところ(【0026】,【0035】,図1),「損益勘定
(行政コスト計算書勘定)」は,主として行政レベルの業務執行上の意
思決定を対象とするもので,行政コスト(損益)計算区分に計上される
行政コスト(計上損益)は少なければ少ないほど効率的な行政運営であ
ることを意味するものであること(【0036】),(2)処分・蓄積勘定
(損益外純資産変動計算書勘定)の借方の「財源措置(C2)」は,社
会保障給付やインフラ資産を整備した際の資本的支出のような,「損益
外で財源を費消する取引」を指し(【0027】),「財源の使途」(損
益外財源の減少)に属する勘定科目群は,主として国家の政策レベルの
意思決定の対象として,現役世代によって構成される内閣及び国会が,\n予算編成上,どこにどれだけの資源を配分すべきかを意思決定するもの\nであり(【0037】,図2),社会保障給付は,上記勘定科目群の「移
転支出への財源措置」に計上される非交換性の支出(対価なき移転支出)
であること(【0040】)の開示があることに照らすと,本件発明に
おいては,「純経常費用(C1)」と「財源措置(C2)」は同質的な
ものであるとはいえず,「財源措置(C2)」に含まれる社会保障給付
にいくら財源を配分するのかは国家の政策レベルの意思決定の対象であ
るといえるから,控訴人の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成30(ワ)10130
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2020.02.28
平成31(行ケ)10038 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年2月19日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性無効理由無しとした審決が維持されました。原告FC2、被告ドワンゴです。
以上によると,甲2及び3から共通して把握できる技術は,「テレビ放
送の受像機において,メインのテレビ放送の映像とともに,文字放送を受信して文
字放送の文字をプログラム制御によりスクロール表示する際に,メインのテレビ放\n送の映像に文字が含まれている場合,メインのテレビ放送の映像の文字と重ならな
いように文字放送の文字の表示位置を変更してスクロール表\示する技術」であり,
甲19及び25から共通して把握できる技術は,「FlashのActionSc
riptのhitTestを用いることにより,ムービークリップの領域判定を行
う技術」である。
このように,甲2及び3から把握できる技術と,甲19及び25から把握できる
技術は共通するものではないから,甲2,3,19及び25に共通する慣用技術を
把握することはできない。
カ 原告は,甲1発明と甲2等技術は,プログラミングという技術分野に属
するとともに,動画と文字情報とを配信するという技術分野に属することで共通す
るため,甲1発明に甲2等技術を適用する動機付けがあると主張する。
甲1発明は,ライブ映像とライブ閲覧者からのコミュニケーション情報(例えば,
チャット〔テキスト文による情報〕)とを一つの画面でリアルタイムで同期表示する\n機能を有するライブ配信サーバ(構\成1a)と,クライアントであるライブ閲覧者
の複数のライブ閲覧者端末(構成1b)とが,通信ネットワークを介して接続され\nて構成されるライブ配信システム(構\成1c)に関する発明である。そして,甲1
発明の前記ライブ閲覧者端末が再生するマルチメディアコンテンツは,「ライブ映
像データ」であり(構成1a,構\成1a2,構成1a5,構\成1b4),前記ライブ
閲覧者端末が表示する複数のチャット文は,ライブ閲覧者が入力した「テキスト文\nによる情報」(構成1a,構\成1a5,構成1b5)である。\n他方,甲2及び3に記載された技術事項は,上記オ(オ)のとおり,テレビ放送の受
像機において,メインのテレビ放送の映像とともに,文字放送を受信して文字放送
の文字をプログラム制御によりスクロール表示する際に,メインのテレビ放送の映\n像に文字が含まれている場合,メインのテレビ放送の映像の文字と重ならないよう
に文字放送の文字の表示位置を変更してスクロール表\示する技術である。
そうすると,甲1発明は,ライブ配信サーバとライブ閲覧者端末とが通信ネット
ワークを介して接続されて構成されるライブ配信システムに関する発明であるのに\n対して,甲2及び3に記載された技術事項は,テレビの文字放送の受信機の技術で
あるから,両者は,その前提となるシステムが異なる。
また,甲1発明と甲2及び3に記載された技術事項とは,文字を表示する点では\n共通するものの,表示される文字は,甲1発明では,ライブ閲覧者が入力するチャ\nット文であるのに対し,甲2及び3に記載された技術事項は,メインのテレビ放送
の映像に含まれる文字と文字放送の文字であるから,対象とする文字が異なる。
したがって,甲1発明と甲2及び3に記載された技術とは,技術が大きく異なる
といえるのであり,プログラミングに関するものであることや動画と文字情報を配
信するものであるということ,文字と文字の重なり合いが生じないようにする技術
であることだけでは,甲1発明に甲2及び3に記載された技術を適用する動機付け
があると認めることはできないから甲1発明に甲2及び3に記載された技術を適用
して本件特許発明1を容易に発明することができたとはいえない。
また,甲19及び25には,文字列情報の表示位置の制御については何ら開示さ\nれていないから,甲1発明に甲19及び25に記載された技術を適用して本件特許
発明1を容易に発明することができたとはいえない。
キ 原告は,甲1発明と甲2等技術は,視認性の低下という課題が共通する
と主張するが,前記のとおり,甲1発明は視認性の低下という課題を有しないため,
甲1発明と甲2等技術が課題において共通するとは認められない。
ク 以上によると,その余の点を判断するまでもなく,甲1発明に甲2等技
術を適用して本件特許発明1を容易に発明をすることができたと認められないから,
本件審決の判断に誤りはない。
◆判決本文
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2020.02.28
平成31(行ケ)10039 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年2月19日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性無効理由無しとした審決が維持されました。原告FC2、被告ドワンゴです。
上記(1)によると,本件特許発明は,「放送されたテレビ番組などの動画に
対してユーザが発言したコメントをその動画と併せて表示するシステム」という背\n景技術を前提とし(段落【0002】),「コメントの読みにくさを低減させる」とい
う課題を解決するための発明であり(段落【0005】),動画を再生するとともに,
前記動画上にコメントを表示する表\示装置であって,前記コメントと,当該コメン
トが付与された時点における,動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画\n再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記
憶部と,前記動画を表示する領域である第1の表\示欄に当該動画を再生して表示す\nる動画再生部と,前記再生される動画の動画再生時間に基づいて,前記コメント情
報記憶部に記憶されたコメント情報のうち,前記動画の動画再生時間に対応するコ
メント付与時間に対応するコメントを前記コメント情報記憶部から読み出し,当該
読み出されたコメントを,前記コメントを表示する領域である第2の表\示欄に表示\nするコメント表示部とを有し,前記第2の表\示欄のうち,一部の領域が前記第1の
表示欄の少なくとも一部と重なっており,他の領域が前記第1の表\示欄の外側にあ
り,前記コメント表示部は,前記読み出したコメントの少なくとも一部を,前記第\n2の表示欄のうち,前記第1の表\示欄の外側であって前記第2の表示欄の内側に表\
示することを特徴とするものであり(段落【0006】),本件特許発明により,「オ
ーバーレイ表示されたコメント等が,動画の画面の外側でトリミングするようにし\nて,コメントそのものが動画に含まれているものではなく,動画に対してユーザに
よって書き込まれたものであることが把握可能となり,コメントの読みにくさを低\n減させることができる」(段落【0012】)という効果を奏するものであることが
認められる。
(3) 本件特許発明における「コメント」について検討すると,本件特許発明1
は,「(1A)動画を再生するとともに,前記動画上にコメントを表示する表\示装置
であって,(1B)前記コメントと,当該コメントが付与された時点における,動画
の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と\nを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部と,」を構成要件としている。\n構成要件1Bによると,「コメント」が付与された時点で,「動画の最初を基準と\nした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間」が記憶されるこ\nとになるから,「コメント」は,それが表示される表\示装置において,動画を再生す
る時に付与され,付与された時点の動画再生時間が,コメント付与時間としてコメ
ント情報記憶部に記憶されるものであると解される。そして,「コメント」は,「動
画を再生するとともに,前記動画上にコメントを表示する表\示装置」(1A)におい
て,動画を再生する時に付与されるものであるから,コメントを付与する者は,表\n示装置において,動画を再生して閲覧するユーザであることを読み取ることができ
る。
そうすると,本件特許発明における「コメント」とは,表示装置において,動画\nを閲覧するユーザが,動画の再生開始後の任意の時点に,動画に対して付与するも
のと解することができる。
・・・・
これに対し,原告は,相違点1について,甲1の「テキスト」は,ユ
ーザが発言するものが排除されることはなく,「コメント」を含むから,本件審決の
相違点1の認定には誤りがあると主張する。
甲1には,ユーザとの双方向の情報伝達が行える環境が整ってきたとの記載はあ
る(段落【0002】)ものの,甲1発明は,前記ア認定のとおりのものであって,
動画コンテンツ作製者側が「動画コンテンツ」の個々の動画に応じて,または1つ
の動画内でも個々の場面に応じて表示されるように予\め作成した「データコンテン
ツ」が,「動画コンテンツ」とともに「コンテンツ」を構成し,その「データコンテ\nンツ」はインターネットのホームページのデータに対応するものであり,代表的に\nはテキストや静止画を含み,場合によっては音声などのデータを含むものであるか
ら,甲1発明の「テキスト」とは,コンテンツ作製者側が「動画コンテンツ」の個々
の動画に応じて,または1つの動画内でも個々の場面に応じて指定した「テキスト」
であり,ユーザの投稿したテキストデータをその構成に含むとは認められない。\n原告は,甲1について,ユーザからのコメントが付与されたデータコメントを配
信することも予定されているというべきであると主張するが,甲1発明の「データ\nコンテンツ」は上記認定のとおりのものであって,そこにユーザからのコメントが
含まれると認めることはできない。
また,原告は,インターネットで公開されるインタラクティブなサービスではテ
キスト情報の送受信を行う場合,ユーザが投稿したコメントの送受信に容易に拡張
可能であることは当業者の常識であるとも主張するが,甲1発明が前記のような内\n容であり,甲1には,ユーザがコメントを投稿することについての記載があるとは
認められないことからすると,甲1発明がユーザが送信したコメントをその構成に\n含むものであると認めることはできない。
さらに,原告は,甲22,24及び25はユーザが送信したデータをテキストデ
ータと表記しているから,「テキスト」であることをもって「コメント」を排除する\nと解することはできないと主張するが,上記のとおり,甲1発明は,ユーザが送信
したデータをその構成に含むものではなく,原告の指摘することは,上記判断を左\n右するものではない。
したがって,本件特許発明1と甲1発明の相違点として,相違点1を認めること
ができる。
・・・
本件特許発明1における「コメント」は,表示装置において,ユーザ\nが動画を再生している時に付与され,表示装置から,ユーザによりいつでも付与可\n能であるのに対し,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」は,コンテン\nツ作製者側で「データコンテンツ」として予め作成されたものであって,ユーザに\nより表示装置で付与されるものではないし,表\示装置において再生している時に付
与されるものでもない。
したがって,本件特許発明1における「コメント」と,甲1発明における「デー
タコンテンツ」の「テキスト」とは,ユーザによる付与が可能か否か,付与を行う\n装置,付与を行う時において異なり,このように異なる「データコンテンツ」の「テ
キスト」を「コメント」に置き換えることは,甲1発明の前提となる装置構成の変\n更を必要とするものであって,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」を
ユーザが付与する「コメント」に容易に置き換えることができるものとは認められ
ない。
よって,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」を「コメント」に置き
換えることは,当業者が容易に想到し得た事項とはいえない。
(イ) これに対し,原告は,甲1の段落【0002】の記載や,WEB2.
0という技術常識によると,「テキスト」を利用者からの情報伝達を可能とする「コ\nメント」に置換することができる旨主張する。
しかし,甲1には,ユーザがコメントを投稿することについての記載は全くなく,
段落【0002】の記載があり,誰もがウェブサイトを通して自由に情報を発信で
きるように変化したウェブの利用状態であるWeb2.0が知られていたとしても,
甲1発明の「データコンテンツ」をユーザが付与する「コメント」に置き換えるこ
とが容易であるとは認められない。
(ウ)a 原告は,甲22に基づき,動画配信において,その魅力を高めるた
めに,コンテンツ作製側で,個々の動画に応じて,または,1つの動画内でも個々
の場面において指定される「テキスト」を利用者からの情報伝達を可能とする「コ\nメント」に置換することには十分な動機付けがあると主張する。\n甲22は,発明の名称を「ストリーミング配信方法」とする発明の公開特許公報
であり,「動画コンテンツをネットワークを介して利用者端末にストリーミング配
信するストリーミングサーバと,ストリーミング配信中の動画コンテンツに関連付
けられたウェブ掲示板又はチャット領域をネットワークを介して利用者端末に提供
するウェブサーバと,動画コンテンツの配信を受け,ウェブ掲示板又はチャット領
域のテキスト書込部にテキストデータからなるメッセージを書き込む利用者端末と
からなるストリーミング配信システムにおいて,ストリーミングサーバは,ウェブ
サーバの書込ログファイルに格納されたテキストデータを収集し,収集されたテキ
ストデータをストリーミング配信中の動画コンテンツに重畳し,テキストデータの
重畳された動画コンテンツを利用端末に配信するストリーミング配信システム」を
採用することにより,「利用者は,非常に便利であり,会場の客席の様な雰囲気を味
わうことができる」技術(以下,「甲22技術」という。)が記載されていることが
認められる。
他方,甲1発明は,「ネットワーク環境」をユーザへのデータコンテンツの配信に
用いたものであり,「データコンテンツ」を双方向に情報伝達するものではないから,
甲22技術があることをもって,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」
をユーザが付与する「コメント」に置換する動機付けがあるということはできない。
b 原告は,動画とユーザが入力した文字データ(コメント)を同期表\n示させることは,本件原出願日の時点において慣用技術であった(甲26〜34)
から,甲1発明に当該慣用技術を適用して甲1の「テキスト」を「コメント」に置
換することは容易であると主張する。
甲26〜34には,映像を見ながらユーザがリアルタイムでテキストによるコミ
ュニケーションを行う技術(以下,「甲26等技術」という。)が開示されているこ
とが認められる。
しかし,甲1発明は,「ネットワーク環境」をユーザへのデータコンテンツの配信
に用いたものであり,「データコンテンツ」を双方向に情報伝達するものではないか
ら,原告の主張する甲26等技術が慣用技術であるとしても,甲1発明の「データ
コンテンツ」の「テキスト」をユーザが付与する「コメント」に置換する動機付け
があるとは認められない。
c 原告は,動画と同時に表示するデータコンテンツはユーザが指定す\nるのでなければ,コンテンツ作製者側で指定するのが通常であり,甲22や甲26
〜34には,甲 1 発明における「コンテンツ作製者側で,個々の動画に応じて,ま
たは,1つの動画内でも個々の場面に応じて相応しいデータコンテンツおよび表示\n態様が指定される」ことの記載も示唆もないということはできないと主張する。
しかし,甲26〜34は,ユーザがデータコンテンツを指定することを前提とし
たものであるから,原告の主張は失当である。原告は,甲33「コメントを表示す\nる際には,入力する際に指定された場所を指し示すように,指定された場所毎にコ
メントを表示する,映像コメント入力・表\示方法を提案する。」(段落【0008】),甲34「提供された増補は,配置の命令と,持続時間の命令とを有してもよい」(段
落【0006】)の記載も指摘するが,いずれもユーザ側が指定する場合に関する記
載であるから,甲1発明における「コンテンツ作製者側で,個々の動画に応じて,
または,1つの動画内でも個々の場面に応じて相応しいデータコンテンツおよび表\n示態様が指定される」が記載又は示唆されていると読み取ることはできない。
なお,甲22技術の内容は,コンテンツ作製者側が,利用者端末から収集したテ
キストデータを,ストリーミング配信中の動画コンテンツに重畳し,テキストデー
タの重畳された動画を利用者端末に配信するものであるが,このような甲22技術
があるからといって,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」を「コメン
ト」に置換する動機付けがあるとはいえないことは,前記(1)イ(ウ)aのとおりであ
る。
◆判決本文
原告被告の異なる別特許の審取事件です。
こちらも無効理由無しとした審決が維持されています。
◆平成31(行ケ)10038
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2020.02.25
平成30(ワ)12609 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年10月9日 東京地方裁判所
原告は、ヤマハです。技術的範囲に属する、無効理由無しと判断されました。被告は本件アプリを設計変更して、本件新アプリに変更しましたが、本件アプリについては引き続き差止請求が認められました。
被告は,(1)乙2公報は,音響IDとインターネットを用いて,放音装置から放音
された音響IDによって識別される識別対象の情報に対し,これと関連する任意の
関連情報をサーバから端末装置に供給できる乙2技術を開示しているところ,本件
発明1も乙2技術を採用するものであり,相違点1−1ないし同1−4は,識別対
象,複数の関連情報の選択条件,関連情報の内容に係る相違にすぎず,当業者が適
宜設定できるものである旨主張するとともに,(2)当業者は,乙2技術を乙4課題の
解決に応用して,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成を容易に想到し得た旨主張する。\n
しかしながら,まず,被告の上記(1)の主張については,前記1(2)認定のとおり,
本件発明1は,コンピュータを,(i)放音される「案内音声である再生対象音」と
「当該案内音声である再生対象音の識別情報」を含む音響を収音して識別情報を抽
出する情報抽出手段,(ii)サーバに対し,抽出した識別情報とともに「端末装置に
て指定された言語を示す言語情報」を含む情報要求を送信する送信手段,(iii)「前
記案内音声である再生対象音の発音内容を表」し,情報要求に含まれる識別情報に対応するとともに「相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求\nの言語情報で指定された言語に対応する関連情報」を受信する受信手段,(iV)受信
手段が受信した関連情報を出力する出力手段として機能させるプログラムの発明であり,乙2公報等に音響IDとインターネットを利用するという点で本件発明1と\n同様の構成を有する情報提供技術が開示されていたとしても,その手順や方法を具体的に特定し,使用言語が相違する多様な利用者が理解可能\な関連情報を提供できるという効果を奏するものとした点において技術的意義が認められるものであるか
ら,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成が当業者において適宜設定できる事項であるということはできない。\nまた,被告の上記(2)の主張については,前記イのとおり,乙4公報に,発明が解
決しようとする課題の一つとして,システムを複数の言語に対応させること(以下,
単に「乙4発明の課題」という。)が記載されているものの,以下のとおり,乙2
発明1を乙4発明の課題に組み合わせる動機付けは認められず,仮に,乙4発明の
課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなどして乙2発明1の構\成に変更を加え
たとしても相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成に到達しないから,採用することができない。\n
(ア) 乙2発明1を乙4発明の課題を組み合わせる動機付け
a 前記のとおり,乙2発明1は,放送中のテレビ番組に関連した情報を提供す
る情報提供システムに用いられる携帯端末装置に関するものであり,放送中のテレ
ビ番組の場面を識別する音声信号である音響IDを用い,ID解決サーバを介して
当該場面に関連する情報を取得するものであるのに対し,前記イ(イ)のとおり,乙
4発明は,利用者が携帯する携帯型音声再生受信器を用いた美術館や博物館等の展
示物に係る音声ガイドサービスに関するものであり,展示物に固有のIDを赤外線
等の無線通信波によって発信し,携帯受信器が発信域に入ると上記IDを受信し,
展示物の音声ガイドが自動的に再生されるものであり,サーバに接続してインター
ネットを介して情報を取得する構成を有しないから,両発明は,想定される使用場面や発明の基本的な構\成が異なっており,乙2発明1を乙4発明の課題に組み合わせる動機付けは認められない。
b 被告は,(1)乙4発明は,放音装置を利用した情報提供技術という乙2技術と
同じ技術分野に属するものであること,(2)乙2技術は汎用性の高い技術であり,
様々な放音装置を含むシステムに利用されていたこと(乙11ないし13),(3)端
末装置とサーバとの通信システムを利用する情報提供技術は周知のものであったこ
と(乙2,5,6,8,11ないし13等)などによれば,当業者において,乙2
技術を乙4課題の解決に応用する動機付けがある旨主張する。
しかしながら,乙2発明1と乙4発明がいずれも放音装置を利用した情報提供技
術であるという限りで技術分野に共通性が認められ,また,本件優先日1当時,音
響IDとインターネットを利用し,又は端末装置とサーバとの通信システムを利用
する情報提供技術が乙2公報以外の公開特許公報に開示されていたとしても,いず
れも乙4発明とは想定される使用場面や発明の基本的な構成が異なることは前記のとおりであり,乙4発明の課題の解決のみを取り上げて乙2発明1を適用する動機\n付けがあると認めるに足りない。
(イ) 乙2発明1に対する乙4発明等の適用
また,以下のとおり,乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなどして乙2発明1の構\成に変更を加えたとしても,本件発明1の構成に到達しない。\n前記第2の2(2)ア(ウ)認定の特許請求の範囲,前記(1)認定の本件明細書1の発明
の詳細な説明,図面,弁論の全趣旨に照らすと,本件発明1は,概要,以下のとお
りのものであると認められる。
ア 本件発明1は,端末装置の利用者に情報を提供する技術に関する(【0001】)。
イ 従来から,美術館や博物館等の展示施設において利用者を案内する各種の技
術が提案されていたが,各展示物の識別符号が電波や赤外線で発信装置から送信さ
れるものであったため,電波や赤外線を利用した無線通信のための専用の通信機器
を設置する必要があった。本件発明1は,そのような問題を踏まえてされたもので
あり,無線通信のための専用の通信機器を必要とせずに多様な情報を利用者に提供
することを目的とする(【0002】,【0004】)。
ウ 本件発明1は,(1)案内音声である再生対象音を表す音響信号と当該案内音声である再生対象音の識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号に応じて放音さ\nれた音響を収音した収音信号から識別情報を抽出する情報抽出手段,(2)情報抽出手
段が抽出した識別情報を含む情報要求を送信する送信手段,(3)情報要求に含まれる
識別情報に対応するとともに案内音声である再生対象音に関連する複数の関連情報
のいずれかを受信する受信手段,(4)受信手段が受信した関連情報を出力する出力手
段としてコンピュータを機能させることにより,赤外線や電波を利用した無線通信に専用される通信機器を必要とせずに,案内音声である再生対象音の識別情報に対\n応する関連情報を利用者に提供することを可能とする(【0005】)。
エ 以上に加えて,本件発明1は,前記送信手段が,当該端末装置にて指定され
た言語を示す言語情報を含む情報要求を送信し,前記受信手段が,情報要求の識別
情報に対応するとともに相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の
言語情報で指定された言語に対応する関連情報を受信するという構成を採用するこ\nとにより,相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の言語情報で指
定された言語に対応する関連情報を受信することができ,使用言語が相違する多様
な利用者が理解可能な関連情報を提供できるという効果を奏するものである(【0\n006】等)。
2 本件アプリの広告等について
証拠(甲6,7)によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告作成の「Sound Insight(サウンドインサイト)」と題す
る本件アプリを用いたシステムに関する広告(甲6。以下「本件広告」という。)
には,次のとおり記載されていた。
ア (1)「映像・音声にのせて,情報配信」,(2)「動画・音楽などの音に人間には
聞こえない音波信号(音波ID)を埋め込み,テレビ・サイネージ・スピーカー等
から再生し,スマートフォンアプリで音波信号(音波ID)を受信する事により,
紐づいた情報をスマートフォン上に自動表示」,(3)(音波信号に紐づく情報を表示\nする手順の一つとして)「映像・音声に重畳した音波信号を発する」
イ (1)「音で情報を配信」,(2)「『Sound Insight』は,人には聞
こえない音波信号(音波ID)を使い,映像や音に合わせてアプリを連動できます。
利用者が信号音を意識することなくスマートフォン上に情報を表示します。」\n
ウ 「多言語で配信可能 日本語のほか,英語,中国語,台湾語,韓国語,ロシ
ア語など多言語で情報配信できます。」
エ (使用例の一つとして)「バスの車内案内では 多国語で停留所情報や地域
の情報を案内できます。」
(2) 本件アプリのダウンロード用のウェブサイト(甲7。「本件ダウンロードサ
イト」という。)には,次のとおり記載されていた。
「『サウンドインサイト』は,空港,駅,電車,バスなどの様々な場所に設置さ
れた各種スピーカーから送信された音波を,専用アプリをインストールしたスマー
トフォンで受信することで,関連する情報を自動で表示させることのできるサービ\nスです。・・・『サウンドインサイト』の活用により,・・・外国人観光客へ空港・駅などのアナウンスに関連する情報を多言語で情報提供する『言語支援用途』・・・などで活
用いただくことができます。」
3 争点1(本件アプリは本件発明1の技術的範囲に属するか)について
(1)争点1−1(本件アプリは構成要件1Bを充足するか)について\n
ア 構成要件1Bに対応する本件アプリの構\成に係る事実認定
(ア) 前記第2の2(5)ア(ア)のとおり,本件アプリは,スピーカー等の放音装置か
ら,識別情報であるIDコードを表す音響IDを含む音響が放音されると,これを\n収音し,当該音響IDからIDコードを検出するものとしてスマートフォンを機能\nさせるものであるところ,前記2(1)のとおり,本件広告には,「映像・音声にのせ
て」,「動画・音楽などの音」に埋め込んで,「映像・音声に重畳」させて音響I
Dを放音することが記載されているほか,使用例の一つとして,バスの車内案内で
は多言語で停留所情報等を提供することができることが記載されていること,同(2)
のとおり,本件ダウンロードサイトには,本件アプリは,空港,駅,電車,バス等
に設置された放音装置から送信された音波を,スマートフォンで受信することで,
関連する情報を自動で表示させることのできるサービスを提供するものであること\nが記載されていることなどからすると,被告から音響IDの提供を受けた顧客にお
いて,案内音声を識別するものとしてIDコードを使用し,これを案内音声ととも
に放音装置から放音することは,本件アプリにつき想定されていた使用形態の一つ
であるというべきである。そうすると,本件アプリは「案内音声と当該案内音声を
識別するIDコードを含む音響IDとを含有する音響を収音し,当該音響からID
コードを抽出する情報抽出手段」(構成1b)を備えていると認めるのが相当であ\nる。
(イ) 被告は,本件アプリが構成1bを備えていることを否認し,その理由として,\n(1)被告サービスにおいて,被告は,放音される音響やIDコードの識別対象を決定
しておらず,これらを選択,決定しているのは顧客であって,いずれも「案内音声」
に限られるものではないこと,(2)本件アプリの利用場面の中で,最も多くの需要が
見込まれているのは商品説明の場合であるが,商品説明において,放音装置から音
声が発せられることは必須ではなく,かえって,音声が放音されるとスマートフォ
ンに表示される情報を理解する妨げになることを主張する。\nしかしながら,被告の上記(1)の主張は,構成要件1B所定の音響が放音されない\n場合があることを指摘するにとどまるものであり,前記(ア)のとおり,本件広告に
おいても,案内音声を収音する使用形態を回避させるような記述はなく,むしろ,
そのような使用形態を想定したものとなっていたというべきであるから,前記認定
を覆すに足りないというべきである。
また,被告の上記(2)の主張について,本件アプリにつき最も多くの需要が見込ま
れていたのが商品説明の場面であったとしても,被告において,そのような使用形
態に特化したものとして本件アプリを広告宣伝していたものでもなく,前記認定を
覆すに足りない。
イ 構成要件1Bに係るあてはめ\n
以上の認定を踏まえて検討すると,構成1bの「案内音声」は,本件発明1の\n「案内音声である再生対象音を表す音響信号」に対応し,構\成1bの「案内音声を
識別するIDコードを含む音響ID」は,本件発明1の「案内音声である再生対象
音の識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号」に対応する。
そして,本件発明1は,コンピュータを所定の手段として機能させるプログラム\nに係る発明であり,構成要件1Bは,放音された所定の音響を収音した収音信号か\nら識別情報を抽出する情報抽出手段を規定するものであるから,構成要件1B所定\nの音響が放音された場合に,これを収音し,識別信号を抽出する手段としてコンピ
ュータを機能させるプログラムであれば,これと異なる用途でコンピュータを機能\
させ得るとしても,又は音響が放音されない場面があるとしても,同構成要件を充\n足すると解すべきところ,本件アプリは,同所定の音響を収音し,当該音響からI
Dコードを抽出するものとしてスマートフォンを機能させるものであるから,放音\nされる音響やIDコードの識別対象を選択しているのが顧客であり,音響が放音さ
れない使用方法が選択され得るとしても,構成要件1Bを充足する。\n
(2)争点1−2(本件アプリは構成要件1Dを充足するか)について\n
ア 構成要件1Dの「関連情報」の言語の解釈\n
(ア) 構成要件1Dは,「関連情報」について,「前記案内音声である再生対象音\nの発音内容を表す関連情報であって,前記情報要求に含まれる識別情報に対応する\nとともに相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求の言語情報
で指定された言語に対応する関連情報」と規定しているから,「関連情報」の言語
は,相異なる言語に対応するものの中から情報要求の言語情報で指定された言語に
対応するものと解すべきである。
(イ) 被告は,「関連情報」は,第1言語で発音される案内音声の発音内容を第1
言語で表した文字列であると解すべきであるとし,その理由として,原告が本件訂\n正審判請求1の際に訂正事項が明細書の記載事項の範囲内であることを示す根拠と
して本件明細書1の【0041】を挙げていたことを指摘するが,構成要件1Dは\n上記のとおりのものであるから,「関連情報」が案内音声の言語と同一のものであ
ると解するのは文言上無理がある。また,同段落には,第2言語に翻訳することな
く,第1言語の指定文字列のまま関連情報Qとする実施例が開示されているが,こ
れは第1実施形態の変形例の一つ(態様1)にすぎず,原告が本件訂正審判請求1
の際に同段落を指摘したからといって,当該実施例の態様に限定して「関連情報」
の言語について解釈するのは相当でない。
イ 構成要件1Dに対応する本件アプリの構\成に係る事実認定
(ア) 前記第2の2(5)ア(ウ)及び同イのとおり,本件アプリは,管理サーバから,
リクエスト情報に含まれるIDコード及びアプリ使用言語の情報に対応する情報の
所在を示すものとして送信されるアクセス先URLを受信するものとしてスマート
フォンを機能させるものであり,管理サーバには,1個のIDコードに対応させて,\n6個までのアプリ使用言語に対応するURLを記憶することができるところ,前記
2(1)のとおり,本件広告には,日本語のほか,英語,中国語,台湾語,韓国語,ロ
シア語など多言語で情報配信できることが記載されており,使用例の一つとして,
バスの車内案内では多言語で停留所情報等を提供することができることが記載され
ていること,同(2)のとおり,本件ダウンロードサイトには,外国人観光客に対して,
空港・駅等のアナウンスに関連する情報を多言語で情報提供する用途に用いること
ができることが記載されていることなどからすると,顧客において,リクエスト情
報に含まれるIDコードに対応する案内音声の発音内容を表す情報について,当該\n案内音声とは異なる言語に対応する複数の情報を管理サーバに記憶させ,リクエス
ト情報に含まれるアプリ使用言語に対応する情報をスマートフォンに送信するよう
にすることは,本件アプリにつき想定されていた使用態様の一つであるというべき
である。そうすると,本件アプリは,「前記案内音声の発音内容を表す関連情報で\nあって,前記リクエスト情報に含まれるIDコードに対応するとともに,6個まで
のアプリ使用言語に対応する複数の情報のうち,前記リクエスト情報のアプリ使用
言語に対応する情報を受信する受信手段」(構成1d)を備えていると認めるのが\n相当である。
(イ) 被告は,本件アプリが構成1dを備えていることを否認し,その理由として,\n
(1)被告サービスにおいて,被告は,本件スマートフォンが受信する情報を決定して
おらず,これを選択,決定しているのは顧客であって,構成要件1D所定のものに\n限られないこと,(2)被告は,本件アプリに係る実証実験において,本件アプリを用
いて「案内音声である再生対象音の発音内容」を関連情報として出力したことはな
く,外国語に翻訳した内容を関連情報として出力したこともないこと,(3)被告は,
今後,顧客に対し,案内音声である再生対象音の発音内容を表す他国語の関連情報\nを提供することを禁ずる旨の約束をする意思があることを主張する。
しかしながら,被告の上記(1)の主張は,本件スマートフォンの受信する情報が構\n成要件1D所定の情報ではない場合があることを指摘するにとどまるものであり,
前記(ア)のとおり,本件広告及び本件ダウンロードサイトにおいても,案内音声の
発音内容を表し,リクエスト情報に含まれるアプリ使用言語に対応する情報を受信\nする使用形態を回避させるような記述はなく,むしろ,そのような使用形態を想定
したものとなっていたというべきであるから,被告の実証実験では同構成要件所定\nの情報を受信しなかったこと(上記(2)),被告が今後も同構成要件所定の使用態様\nで本件アプリを使用しないことを約束する意思を有していること(上記(3))を併せ
考慮しても,前記認定を覆すに足りないというべきである。
ウ 構成要件1Dに係るあてはめ\n
構成要件1Bにおいて規定するとおりにコンピュータを機能\させるものであれば,
同構成要件を充足するとの前記(1)イにおける検討と同様に,構成要件1D所定の情\n報を受信する手段としてコンピュータを機能させるプログラムであれば,受信する\n情報が同構成要件所定のものではない場面があるとしても,同構\成要件を充足する
と解すべきところ,本件アプリは,構成1dを備えており,スマートフォンを「前\n記案内音声の発音内容を表す関連情報であって,前記リクエスト情報に含まれるI\nDコードに対応するとともに,6個までのアプリ使用言語に対応する複数の情報の
うち,前記リクエスト情報のアプリ使用言語に対応する情報を受信する受信手段」
として機能させるものであるから,本件スマートフォンが受信する情報を選択して\nいるのが顧客であるとしても,構成要件1Dを充足する。\n
4 争点4(本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものか)につい
て
(1) 争点4−1(本件発明1は乙2公報により進歩性を欠くか)について
・・・
(イ) 乙2発明1
前記(ア)によれば,乙2発明1は,放送中のテレビ番組に関連した情報を提供す
る情報提供システムに用いられる携帯端末装置に関するものであり(【000
1】),テレビ番組の場面を識別する音声信号である音響IDを用い,ID解決サ
ーバを介して当該場面に関連する情報を取得することを容易にした携帯端末装置等
を提供することを目的とするものであって(【0005】等),本件発明1に対応
する構成として,次の各構\成を有すると認められる。
「携帯端末装置を,
放送中のテレビ番組の放送音声と重畳して放音される,当該番組の場面を識別す
る音声信号である音響IDを収音し,前記音響IDからIDコードにデコードする
情報抽出手段,
携帯端末装置に記憶されたIDコードをID解決サーバに送信する送信手段,
前記IDコード及び前記ID解決サーバが当該IDコードを受信した時刻に基づ
いて当該ID解決サーバによりID/URL対応テーブルにおいて検索された対応
するURLを受信し,放送されたテレビ番組の場面に関連する情報を当該URLで
指示されるコンテンツサーバから受信する受信手段,及び,
前記受信手段が受信した情報を携帯端末装置上で表示する出力手段として機能\させるプログラム。」
(ウ) 乙2発明1と本件発明1の対比
乙2発明1と本件発明1を対比すると,これらは,次のaの点で一致し,少なく
とも,次のbの点で相違すると認められる。
a 一致点
「コンピュータを,再生対象音を表す音響信号と識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号に応じて放音された音響を収音した収音信号から識別情報を抽出する情報抽出手段,前記情報抽出手段が抽出した識別情報を含む情報要求を送信する送信手段,\n前記情報要求に含まれる識別情報に対応する関連情報を受信する受信手段,および,
前記受信手段が受信した関連情報を出力する出力手段として機能させるプログラム。」\n
b 相違点
(a) 相違点1−1(構成要件1B)\n
本件発明1では,「案内音声・・・を表す音響信号」と「当該案内音声である再生対\n象音の識別情報」が放音されるのに対し,乙2発明1では,「放送中のテレビ番組
の放送音声」と「当該番組に対応し,当該番組の場面を識別する音声信号である音
響ID」が放音される点
(b) 相違点1−2(構成要件1C)\n
本件発明1では,端末装置からサーバに送信される「情報要求」に含まれる情報
は,「識別情報」と「当該端末装置にて指定された言語を示す言語情報」であるの
に対し,乙2発明1では,携帯端末装置からID解決サーバに送信される情報は
「IDコード」のみであり,「端末装置にて指定された言語を示す言語情報」は含
まれない点
(c) 相違点1−3(構成要件1D(1))
本件発明1では,端末装置が受信する「関連情報」は,「案内音声である再生対
象音の発音内容を表す」のに対し,乙2発明1では,「放送されたテレビ番組の場\n面」に関連する内容を表す点\n
(d) 相違点1−4(構成要件1D(2))
本件発明1では,端末装置が受信する「関連情報」は,「相異なる言語に対応す
る複数の関連情報のうち,前記情報要求の言語情報で指定された言語に対応する関
連情報」であるのに対し,乙2発明1では,携帯端末装置がこれに対応する情報を
受信しない点
(エ) 相違点に関する被告の主張について
a 相違点1−1(構成要件1B)\n
被告は,乙2発明1の「IDコード」は,番組と同時に,番組の放送音声という
「再生対象音」も識別しているから,「再生対象音の識別情報」が放音される点で
は本件発明1と相違しない旨主張する。
しかしながら,乙2公報に「この音響IDは,放送中の番組に対応するものであ
り,放送音声に重畳されて放音される。」(【0014】)と記載されており,I
D/URL対応テーブルを示す図4においても,受信時間帯に対応する番組の「シ
ーン」が特定されていること(【0025】)などからすると,乙2発明1の「ID
コード」は,放送中の番組に対応し,当該番組の場面を識別する音声信号であって,
番組の放送音声を識別するものではないから,本件発明1の「再生対象音の識別情
報」に対応する構成を有するものとは認められない。\n
b 相違点1−2(構成要件1C)\n
被告は,乙2発明1では,ユーザがボタンスイッチを押した時刻は「端末装置に
て指定された・・・情報」に該当するから,「端末装置にて指定された・・・情報」が「言
語を示す言語情報」であるか「ボタンスイッチの操作タイミングを示す情報」であ
るかの点でのみ本件発明1と相違する旨主張する。
しかしながら,乙2公報に「番組を視聴しているユーザ6は,番組を視聴し興味
ある場面が映し出されると,スマートフォン2を操作する(たとえばボタンを押下
する)。このときの操作により,スマートフォン2は記憶していたIDコードをI
D解決サーバ4に送信する。」(【0014】)と記載されていることなどからする
と,乙2発明1において,携帯端末装置から送信される情報はIDコードのみであ
り,ID解決サーバは当該IDコード及び受信時刻で対応するURLを検索するも
のであるから,本件発明1の「端末装置にて指定された・・・情報」に対応する構成を\n有するとは認められないというべきである。
c 相違点1−3(構成要件1D(1))
被告は,乙2発明1で,携帯端末装置が受信する情報は,番組の特定の場面に対
応する放送音声に関連するものであるから,端末装置が受信する「関連情報」が
「再生対象音」である点では本件発明1と相違しない旨主張する。
しかしながら,乙2公報に「この対応するURLは,ユーザ6がスマートフォン
2を操作したときに放送されていた(テレビ1の画面に映し出されていた,または
音声で再生されていた)場面に関連する情報を提供するインターネットサイトのU
RLである。」(【0014】)と記載されていることなどからすると,乙2発明1
において,携帯端末装置が受信する情報は,放送されたテレビ番組の場面に関連す
るものであり,放送音声に関連する情報であるとは認められない。
d 相違点1−4(構成要件1D(2))
被告は,乙2発明1では,番組中の相異なる場面に対応する「複数の関連情報」
が存在し,そのうち選ばれた情報を受信しているから,「関連情報」が対応してい
るのが「言語」であるか「場面」であるかの点でのみ本件発明1と相違する旨主張
する。
しかしながら,乙2発明1において,携帯端末装置が受信する放送中の番組の場
面に関する情報は「相異なる言語に対応する」ものでもないから,ID解決サーバ
に番組内の相異なる場面に対応する情報が複数記憶されていたとしても,これを構\n成要件1Dの「相異なる言語に対応する複数の関連情報」との構成に対応するもの\nと認めることはできない。
イ 乙4発明の内容等に係る事実認定
・・・
(イ) 乙4発明の概要
前記(ア)によれば,乙4公報には,概要,次のとおりの内容の乙4発明が開示さ
れていると認められる。
すなわち,乙4発明は,利用者が携帯する携帯型音声再生受信器を用いた美術館
や博物館等の展示物に係る音声ガイドサービスに関するものであり(【000
1】),(1)電波によって情報を伝達する従来技術によると,対象物以外のガイド音
声を受信して利用者に誤った情報を提供するおそれがあったこと(【0005】)
を踏まえ,展示物に固有のIDを赤外線等の無線通信波によって発信するID発信
機を展示物ごとに一定の間隔で設置し,利用者が携帯する携帯受信器が発信域に入
ると上記IDを受信し,展示物の音声ガイドが自動的に再生される構成を採用する\nことにより,情報提供するIDの受信範囲を限定することが容易になり,隣接する
対象展示物との混信を回避した音声ガイドシステムを可能とするという作用効果を\n奏するものであり(【0008】ないし【0010】,【0014】),また,(2)
そのシステムを複数の言語に対応させようとすると,多数のチャンネルの割当てが
必要となり,その選択操作を利用者が行う必要があったこと(【0007】)を踏
まえ,多言語に翻訳された音声ガイドのデータを携帯受信器に蓄積し,その中から
再生する言語を選択するという構成を採用することにより,多くの外国人利用者に\nも携帯受信器を操作することなくガイド音声を提供することができるという作用効
果を奏するものである(【0012】,【0020】)。
ウ 乙5発明の内容等に係る事実認定
・・・
(イ) 乙5発明の概要
前記(ア)によれば,乙5公報には,概要,次のとおりの内容の乙5発明が開示さ
れていると認められる。
すなわち,乙5発明は,公共の場所等に掲載された文書等の掲載物を様々な言語
に翻訳して提供する情報提供装置等に関するものであり(【0001】),文書の
内容を様々な言語で利用者に正しく提供することを主たる課題とし(【000
6】),2次元コードと複数の言語に対応する言語コードをその内容として含むコ
ード画像をユーザ端末装置によって読み取り,ユーザにおいて所望の言語を選択す
るなどして,インターネットを介して,文書等の掲載物の翻訳ファイルにアクセス
というものである(【0015】,【0025】,【0035】,【0038】)。
エ 容易想到性についての判断
被告は,(1)乙2公報は,音響IDとインターネットを用いて,放音装置から放音
された音響IDによって識別される識別対象の情報に対し,これと関連する任意の
関連情報をサーバから端末装置に供給できる乙2技術を開示しているところ,本件
発明1も乙2技術を採用するものであり,相違点1−1ないし同1−4は,識別対
象,複数の関連情報の選択条件,関連情報の内容に係る相違にすぎず,当業者が適
宜設定できるものである旨主張するとともに,(2)当業者は,乙2技術を乙4課題の
解決に応用して,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成を容易に想\n到し得た旨主張する。
しかしながら,まず,被告の上記(1)の主張については,前記1(2)認定のとおり,
本件発明1は,コンピュータを,(i)放音される「案内音声である再生対象音」と
「当該案内音声である再生対象音の識別情報」を含む音響を収音して識別情報を抽
出する情報抽出手段,(ii)サーバに対し,抽出した識別情報とともに「端末装置に
て指定された言語を示す言語情報」を含む情報要求を送信する送信手段,(iii)「前
記案内音声である再生対象音の発音内容を表」し,情報要求に含まれる識別情報に\n対応するとともに「相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求
の言語情報で指定された言語に対応する関連情報」を受信する受信手段,(iV)受信
手段が受信した関連情報を出力する出力手段として機能させるプログラムの発明で\nあり,乙2公報等に音響IDとインターネットを利用するという点で本件発明1と
同様の構成を有する情報提供技術が開示されていたとしても,その手順や方法を具\n体的に特定し,使用言語が相違する多様な利用者が理解可能な関連情報を提供でき\nるという効果を奏するものとした点において技術的意義が認められるものであるか
ら,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成が当業者において適宜設\n定できる事項であるということはできない。
また,被告の上記(2)の主張については,前記イのとおり,乙4公報に,発明が解
決しようとする課題の一つとして,システムを複数の言語に対応させること(以下,
単に「乙4発明の課題」という。)が記載されているものの,以下のとおり,乙2
発明1を乙4発明の課題に組み合わせる動機付けは認められず,仮に,乙4発明の
課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなどして乙2発明1の構\成に変更を加え
たとしても相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成に到達しないから,\n採用することができない。
(ア) 乙2発明1を乙4発明の課題を組み合わせる動機付け
a 前記のとおり,乙2発明1は,放送中のテレビ番組に関連した情報を提供す
る情報提供システムに用いられる携帯端末装置に関するものであり,放送中のテレ
ビ番組の場面を識別する音声信号である音響IDを用い,ID解決サーバを介して
当該場面に関連する情報を取得するものであるのに対し,前記イ(イ)のとおり,乙
4発明は,利用者が携帯する携帯型音声再生受信器を用いた美術館や博物館等の展
示物に係る音声ガイドサービスに関するものであり,展示物に固有のIDを赤外線
等の無線通信波によって発信し,携帯受信器が発信域に入ると上記IDを受信し,
展示物の音声ガイドが自動的に再生されるものであり,サーバに接続してインター
ネットを介して情報を取得する構成を有しないから,両発明は,想定される使用場\n面や発明の基本的な構成が異なっており,乙2発明1を乙4発明の課題に組み合わ\nせる動機付けは認められない。
b 被告は,(1)乙4発明は,放音装置を利用した情報提供技術という乙2技術と
同じ技術分野に属するものであること,(2)乙2技術は汎用性の高い技術であり,
様々な放音装置を含むシステムに利用されていたこと(乙11ないし13),(3)端
末装置とサーバとの通信システムを利用する情報提供技術は周知のものであったこ
と(乙2,5,6,8,11ないし13等)などによれば,当業者において,乙2
技術を乙4課題の解決に応用する動機付けがある旨主張する。
しかしながら,乙2発明1と乙4発明がいずれも放音装置を利用した情報提供技
術であるという限りで技術分野に共通性が認められ,また,本件優先日1当時,音
響IDとインターネットを利用し,又は端末装置とサーバとの通信システムを利用
する情報提供技術が乙2公報以外の公開特許公報に開示されていたとしても,いず
れも乙4発明とは想定される使用場面や発明の基本的な構成が異なることは前記の\nとおりであり,乙4発明の課題の解決のみを取り上げて乙2発明1を適用する動機
付けがあると認めるに足りない。
(イ) 乙2発明1に対する乙4発明等の適用
また,以下のとおり,乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなど\nして乙2発明1の構成に変更を加えたとしても,本件発明1の構\成に到達しない。
a 相違点1−1(構成要件1B)\n
(a) 前記のとおり,乙4発明は,展示物ごとに設置されたID発信機から赤外線
等の無線通信波によって展示物に固有のIDが発信されるものであり,「案内音声
・・・を表す音響信号」を放音するものではなく,「当該案内音声である再生対象音の\n識別情報」を含む音響信号を放音するものでもないから,乙4発明の構成を参照し\nて乙2発明1の構成に変更を加えたとしても,相違点1−1に係る本件発明1の構\
成に到達しない。
(b) 被告は,乙4発明の音声ガイドは「案内音声」に相当するから,「案内音声」
を識別する構成を採用することは容易であった旨主張するが,上記のとおり,乙4\n発明のIDは展示物を識別するものであり,当該展示物に係る音声ガイドを識別す
るものではないから,乙4発明は「案内音声」を識別する構成を開示するものでは\nない。
b 相違点1−2(構成要件1C)\n
前記のとおり,乙4発明は,サーバに接続してインターネットを介して情報を取
得するという構成を有しないものであり,端末装置からサーバに「識別情報」と\n「当該端末装置にて指定された言語を示す言語情報」が送信されることはないから,
乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照して乙2発明1の構\成に変更を加
えることによって,相違点1−2に係る本件発明1の構成に到達することはない。\n
c 相違点1−3(構成要件1D(1))
前記のとおり,乙4発明は,サーバに接続してインターネットを介して情報を取
得するという構成を有しておらず,IDによって識別される展示物のガイド音声を\n再生するものであって,端末装置が「案内音声である再生対象音の発音内容を表す」\n情報を受信することはないから,乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照\nして乙2発明1の構成に変更を加えることによって,相違点1−3に係る本件発明\n1の構成に到達することはない。\n
d 相違点1−4(構成要件1D(2))
前記のとおり,乙4発明は,多言語に翻訳された音声ガイドのデータを携帯受信
器に蓄積し,その中から再生する言語を選択することによって,IDによって識別
される展示物のガイド音声を所定の言語で再生するという構成を有するものの,サ\nーバに接続してインターネットを介して情報を取得するという構成を有していない\nから,端末装置が「相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求
の言語情報で指定された言語に対応する関連情報」を受信することはなく,乙4発
明の構成を参照して乙2発明1の構\成に変更を加えることによって,相違点1−4
に係る本件発明1の構成に到達することはない。\n
・・・
5 争点6(差止めの必要性は認められるか)について
被告は,本件アプリについて差止めの必要性は認められないとし,その理由とし
て,(1)本件口頭弁論終結時点において,本件アプリに係るサービスは実用化されて
いなかったこと,(2)被告は,平成30年5月以降,本件アプリの配信を中止し,多
言語で情報配信を行う機能を取り除いた本件新アプリを配信しており,本件訴訟の\n結果によって本件アプリに係る事業を再開するか否かを決定する予定であること,\n(3)被告は,今後,顧客に対し,案内音声である再生対象音の発音内容を表す他国語\nの関連情報を提供することを禁ずる旨の約束や,案内音声である第1言語の再生対
象音が表す発音内容を第2言語で表\現した情報を提供することを禁ずる旨の約束を
する意思があることを主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,本件アプリは,本件発明1の技術的範囲に属
し,本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないから,
前記第2の2(4)のとおり,被告は,少なくとも,平成29年5月頃から平成30年
6月頃まで,本件アプリを作成し,譲渡等及び譲渡等の申出をし,平成28年6月\nから平成29年3月までの間に3回にわたり本件アプリを使用することによって本
件特許権1を侵害していたものである。
これらに加えて,被告が本件訴訟において本件アプリが本件発明1の技術的範囲
に属することを否認して争い,本件特許1について特許無効審判により無効にされ
るべきであると主張していること,弁論の全趣旨によれば,被告は,現在も,ウェ
ブサイトに本件アプリの説明や広告を掲載していると認められ,被告が本件アプリ
の作成等を再開することが物理的に不可能な状況にあるとは認められないことなど\nも考慮すると,被告は,今後,本件特許権1を侵害するおそれがあるものというべ
きであるから,原告が被告に対し,その侵害の予防のため,本件アプリの作成等の\n差止を求める必要性は認められるものというべきである。
◆判決本文
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2020.02. 6
平成31(行ケ)10021 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年1月29日 知的財産高等裁判所
マネースクエアHDの特許権について、訂正を認めないとの審決がなされましたが、知財高裁はこれを取り消しました。被告は外為オンラインです。
(2) 訂正事項1−1ないし1−3の特許法126条5項の要件の適合性の判
断の誤りについて
原告は,本件審決が,本件訂正のうち,本件訂正前の請求項1の記載を本
件訂正後の請求項1に訂正する訂正事項1−1(請求項1の記載を引用する
請求項2,請求項2の記載を引用する請求項3ないし5,及び請求項1ない
し5の記載を引用する請求項7も同様に訂正),本件訂正前の請求項2の記
載を本件訂正後の請求項2に訂正する訂正事項1−2(請求項2の記載を引
用する請求項3ないし5,及び請求項2ないし5の記載を引用する請求項7
も同様に訂正)及び本件訂正前の請求項6の記載を本件訂正後の請求項6に
訂正する訂正事項1−3は,本件訂正前の「売買取引開始時に,成行注文を
行うとともに,該成行注文を決済するための指値注文を有効とし」との事項
について,当該事項が「前記注文情報生成手段」によるものであり,「該成
行注文を決済するための指値注文」だけでなく,「前記成行注文を決済する
ための逆指値注文」についても有効とするとの事項を追加したものであるが,
当該訂正事項については,願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の
範囲内においてしたものとはいえず,新規事項を追加するものであるから,
本件訂正は,特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定
に適合しないと判断したのは誤りである旨主張するので,以下において判断
する。
・・・
以上によれば,本件明細書には,「本発明」の「一の実施形態」とし
て,「注文情報生成手段」である「注文情報生成部16」が,「第一の
注文情報群」の生成をする際に,「第一の注文情報群」に含まれる「第
一注文」及び「第二注文」についてそれぞれ有効及び無効の設定を行い,
「約定情報生成手段」である「約定情報生成部14」が「第一の注文情
報群」に含まれる「第一注文51a」に基づく「成行注文」の約定処理
を行った時点で,その「成行注文」を決済するための「第二注文」(指
値注文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」に変更する処理を
行うことの開示があることが認められる。
そうすると,本件明細書には,「注文情報生成手段」(「注文情報生
成部16」)が,「第一の注文情報群」の生成をする際に,「第一の注
文情報群」に含まれる注文情報の有効/無効の設定を行う技術的事項の
開示があるものと認められる。
また,「本発明」の上記実施形態においては,「注文情報生成手段」
(「注文情報生成部16」)が,「第一の注文情報群」に含まれる「第
一注文51a」の「成行注文」を決済するための「第二注文」(指値注
文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」に変更する処理は,「約
定情報生成手段」(「約定情報生成部14」)によって行われ,「注文
情報生成手段」(「注文情報生成部16」)が行うものではないが,本
件明細書には,「上記実施形態は本発明の例示であり,本発明が上記実
施の形態に限定されることを意味するものではないことは,いうまでも
ない。」(【0076】)との記載があることに照らすと,「本発明」
は,「第一注文」の「成行注文」を決済するための「第二注文」(指値
注文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」に変更する処理は,
「約定情報生成手段」(「約定情報生成部14」)が行う形態のものに
限定されないことを理解できる。
イ 本件訂正後の特許請求の範囲(請求項1)には,・・・
上記記載によれば,訂正事項1−1により,本件訂正前の「売買取引開
始時に,成行注文を行うとともに,該成行注文を決済するための指値注文
を有効とし」との事項について,「該成行注文を決済するための指値注文」
だけでなく,「前記成行注文を決済するための逆指値注文」についても有
効とするとの事項を追加したものであり,本件訂正発明1においては,「注
文情報生成手段」が「売買取引開始時」に「成行注文を行うとともに,該
成行注文を決済するための指値注文および前記成行注文を決済するための
逆指値注文を有効とし」とする処理を行うことを理解できる。
しかるところ,前記ア認定のとおり,(1)本件訂正前の請求項1には,「注
文情報生成手段」が「売買取引開始時」に「成行注文を行うとともに,該
成行注文を決済するための指値注文を有効とし」との処理を行うことの記
載があり,本件明細書の【0009】には,本件訂正前の請求項1と同内
容の記載があること,(2)本件明細書には,「注文情報生成手段」(「注文
情報生成部16」)が,「第一の注文情報群」の生成をする際に,「第一
の注文情報群」に含まれる注文情報の有効/無効の設定を行う技術的事項
の開示があること,(3)本件明細書に記載された「本発明」の「一の実施形
態」では,「第一の注文情報群」に含まれる「第一注文51a」の「成行
注文」を決済するための「第二注文」(指値注文)及び「逆指値注文」を
「無効」から「有効」に変更する処理は,「約定情報生成手段」(「約定
情報生成部14」)によって行われ,「注文情報生成手段」(「注文情報
生成部16」)が行うものではないが,本件明細書の【0076】の記載
に照らすと,「本発明」は,「第一注文」の「成行注文」を決済するため
の「第二注文」(指値注文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」
に変更する処理は,「約定情報生成手段」(「約定情報生成部14」)が
行う形態のものに限定されないことを理解できることからすると,本件訂
正後の請求項1の「前記注文情報生成手段」は「売買取引開始時に,成行
注文を行うとともに,該成行注文を決済するための指値注文および前記成
行注文を決済するための逆指値注文を有効とし」との構成は,本件出願の\n願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面すべての記載事項を総合
することにより導かれる技術的事項の関係において,新たな技術的事項を
導入するものではないものと認められるから,訂正事項1−1は,本件出
願の願書に添付した明細書等に記載された事項の範囲内においてしたもの
であって,新規事項の追加に当たらないものと認められる。
したがって,訂正事項1−1は特許法126条5項の要件に適合するも
のと認められる。同様に,訂正事項1−2及び1−3は同項の要件に適合
するものと認められる。
ウ これに対し,被告は,・・・
訂正事項1−1に係る本件訂正は,本件出願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものではなく,新たな技術的事項を導入する
ものであるから,新規事項の追加に当たる旨主張する。
しかしながら,前記ア(ア)認定のとおり,本件訂正前の請求項1の記載
から,本件発明1においては,「注文情報生成手段」が主体となって「売
買取引開始時」に「成行注文を行うとともに,該成行注文を決済するため
の指値注文を有効とし」との処理を行うことを理解できるものであり,ま
た,本件訂正前の請求項1に「注文情報生成手段」が上記処理を行うこと
の記載があるかどうかの問題とその記載があることを前提とした場合にサ
ポート要件に違反することになるかどうかの問題とは,別異の問題である
から,上記(1)の点は採用することができない。
また,前記イ認定のとおり,本件明細書には,「注文情報生成手段」(「注
文情報生成部16」)が,「第一の注文情報群」の生成をする際に,「第
一の注文情報群」に含まれる注文情報の有効/無効の設定を行う技術的事
項の開示があること及び本件明細書の【0076】の記載に照らすと,「本
発明」は,「第一注文」の「成行注文」を決済するための「第二注文」(指
値注文)及び「逆指値注文」を「無効」から「有効」に変更する処理は,
「約定情報生成手段」(「約定情報生成部14」)が行う形態のものに限
定されないことを理解できるから,上記(2)の点は採用することができない。
したがって,訂正事項1−1に係る本件訂正は,本件出願の願書に添付
した明細書等に記載した事項の範囲内でしたものではなく,新規事項の追
加に当たるとの被告の主張は理由がない。
(3) 小括
以上のとおり,訂正事項1−1ないし1−3は特許法126条5項の要件
に適合するものと認められるから,訂正事項1−1ないし1−3が同項に適
合しないことを理由に本件訂正は認められないとした本件審決の判断は誤り
である。かかる判断の誤りは,無効理由の存否の審理の対象となる発明の要
旨の認定の誤りに帰することになるから,審決の結論に影響を及ぼすもので
ある。
◆判決本文
本件の対象特許とは、下記の侵害事件の対象特許です。
◆平成29(ネ)10027
◆平成27(ワ)4461
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2020.02. 5
平成30(ワ)4901 不当利得返還請求事件 特許権 民事訴訟 令和2年1月23日 大阪地方裁判所
CS関連発明について、技術的範囲に属するものの、特29-2の規定により権利行使不能と判断されました。\n
以上より,乙12−1発明は,1つ又は複数の画像をカメラやネットワーク
を通じて入手し,1つ又は複数の電話番号に対応付けてこれらの画像を記憶し,当
該電話番号から着呼があったときに,これらの画像を切り替えて表示させ,これに\nより,発信者を識別しやすくするという効果を有する,無線携帯端末に関する発明
であるということができる。
(3) 本件発明1と乙12−1発明との対比
ア 乙12−1発明に係る無線携帯端末において,1つの電話番号に2つの画像
を対応付けて記憶させた場合,当該電話番号から着呼があった際,2つの画像が,
時刻や着呼の回数等による一定の規則性に従って表示される。このとき,特定の着\n呼時に表示されない方の画像については,当該電話番号との対応関係を維持したま\nま,画像メモリに記憶され続けており,「表示選択がOFF」にされているといえ\nる(前記2(3)参照。)。乙12−1発明における「メモリ」及び「画像メモリ」は,
それぞれ本件発明1における「電話帳データメモリ」及び「画像データメモリ」に
対応する。
イ そうすると,本件発明1と乙12−1発明との間には,(1)本件発明において
は,画像をメモリ番号に対応付けているが,乙12発明においては,画像を電話番
号に対応付けている点(相違点(1)),(2)本件発明1においては,新たに入手・記憶
された第2画像が優先的に表示されるが,乙12発明においては,新たに入手・記\n憶された画像が優先的に表示されるか否か不明である点(相違点(2)),という相違
点が存するとも考えられるため,これらの相違点が設計上の微差にすぎないか,実
質的な相違点であるかについて,以下検討する。
ウ 相違点(1)について
本件特許1の出願当時,携帯電話やハンドフリー電話の分野においては,携帯電
話等の端末において,特定の電話番号をメモリ番号に対応付けて記憶させることは,
複数の名前や電話番号を含む情報を整理するなどの目的に広く使われる,周知の技
術であったことが認められる(乙13ないし15)。
そうすると,画像を,ある電話番号と対応付けられたメモリ番号に対応付けて記
憶させるか,それとも,直接,当該電話番号と対応付けて記憶させるかという違い
は,設計上の微差にすぎないというべきである。
エ 相違点(2)について
乙12−1発明において,ある特定の電話番号に対して既に1つ又は複数の画像
が対応付けられて記憶されている場合において,新たな画像をカメラやネットワー
クを通じて入手し,当該電話番号に対応付けて記憶させたとして,当該電話番号か
ら着呼があった際,当然に,その新たな画像が優先的に着信画面に表示されるよう\nになるということはできない。
しかし,乙12の段落【0032】の記載(「複数の画像を一つの電話番号と対
応させ,着呼毎に変えたり,時間によって変えたり,着呼時に順番に出したりする
こともできる。」)によれば,乙12−1発明は,複数の画像を一つの電話番号に
対応付ける機能部を有しており,これを使用して,当該電話番号の着呼に応じて,\n複数の画像から一つの画像を選択しており,かかる選択を,着呼毎に変更したり,
時間に応じて変更したり,一回の着呼に対して複数の画像を順番に変更したりする
ことにより,様々な表示を行っているものと認められる。\nしたがって,乙12−1発明において,電話番号と対応する複数の画像からどの
画像を選択するかということは任意に設定することが可能であり,複数の画像のう\nち,新たに入手した画像を優先的に選択することや,上記機能部において,これま\nで記憶されていた複数の画像のうち,表示しない画像と当該電話番号との対応付け\nを削除するか否かということは,必要に応じて,当業者が適宜選択し得る設計的事
項である。また,かかる選択をしたことに伴う顕著な効果も認められない。
よって,乙12−1発明において,複数の画像のうち,新たに入手した画像を選択
して表示し,これまで記憶されていた複数の画像と当該電話番号との対応付けを削\n除せずに,これまで記憶されていた複数の画像と当該電話番号との対応関係を維持
することは,当業者が適宜選択し得る設計的事項であるといえ,奏せられる効果に
著しい差も認められない。したがって,相違点(2)についても,設計上の微差にすぎ
ないということができる。
(4) まとめ
以上より,本件発明1は,実質的に,乙12−1発明と同一であるから,特許法
29条の2により特許を受けることができないものであって,同法123条1項2
号の無効理由があり,特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。
◆判決本文
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2020.01.24
平成30(ワ)8302 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年11月14日 東京地方裁判所
CS関連発明について、特許侵害事件です。原告(会社)の本人訴訟です。東京地裁47部は、構成要件Fを充足しないと判断しました。
前記(1)の記載によると,次のとおり認められる。
ア 本件各発明以前にも,コンピュータシステムにおけるシステム利用者の
入力行為を支援する従来技術としては,マウスを右クリックすることによ
り,マウスが指し示している画面上のポインタ位置に応じた操作コマンド
のメニューが表示される「コンテキストメニュー」や,画面上でマウスポ\nインタがウィンドウの枠やファイルのアイコンなどに重なった状態でマ
ウスの左ボタンを押し,そのままの状態でマウスを移動させ,別の場所で
マウスの左ボタンを離すマウス操作である「ドラッグ&ドロップ」などが
あった。しかして,「コンテキストメニュー」には,マウスの左クリックを
行うまではメニューが画面に表示され続け,また,利用者が間違って右ク\nリックを押してしまった場合には,利用者の意に反して画面上に表示され\nてしまうので不便であるなどの課題があり,また,「ドラッグ&ドロップ」
には,継続的な動作,例えば,移動させる位置を決めないで徐々に画面を
スクロールさせていくような動作に適用させるのが難しいという課題が
あったところである(段落【0001】〜【0005】)。
イ 本件各発明は,このような課題を解決するため,入力手段における命令
ボタンが利用者によって押されてから,離されるまでの間に,ポインタの
位置を移動させる命令を受信すると,画像データである操作メニュー情報
を出力手段に表示させ,入力手段における命令ボタンが利用者によって離\nされると,出力手段に表示されていた操作メニュー情報の表\示を終了させ
ることにより,普段は画面上に操作メニュー情報を表示させずに,利用者\nにとって必要な場合に簡便に表示させることを可能\にするという構成を\n採用したものといえる(段落【0022】,【0023】,【0051】)。そ
して,スムーズな画面操作を可能とするため,操作メニュー情報が表\示さ
れている状態において,これをポインタで指定した場合,すなわち,実行
される命令結果を利用者が理解できるように出力手段に表示した画像デ\nータである操作メニュー情報が占める座標位置の範囲にポインタの座標
位置が入った場合に,「操作メニュー情報にポインタが指定された場合に
実行される命令」として特定された,例えば,出力手段に表示される画面\n(ビュー)をスクロールさせるような命令など,コンピュータシステムに
対する命令が実行され,操作メニュー情報が占める座標位置の範囲に,ポ
インタの座標位置が入らなくなるまで当該実行を継続するという構成を\n採用したものといえる(段落【0009】,【0012】,【0013】,【0
016】,【0023】,【0051】)。
ウ 以上のような,本件各特許請求の範囲の記載文言及び本件明細書の各記
載によれば,本件各発明は,コンピュータシステムにおけるシステム利用
者の入力行為を支援するため,「コンテキストメニュー」や「ドラッグ&ド
ロップ」における,操作メニュー情報が利用者に意に反して表示されるこ\nとに関わる課題や,移動先を決めないで画面をスクロールさせるような継
続的な動作に関わる課題を解決すべく,操作メニュー情報については,普
段は画面上に表示させずに,利用者にとって必要な場合に簡便に表\示させ
るという構成を採用し,その上で,物理的に操作メニュー情報が占める座\n標位置の範囲にポインタの座標位置が入っているときに,コンピュータシ
ステムに対する命令が実行されるようにして,スムーズな画面操作が可能\nとなるという構成を採用したものといえる。このような構\成を採用した以
上,構成要件B,E,F及びGの「操作メニュー情報」とは,利用者にと\nって,その表示,非表\示を明確に認識できることが前提となっており,物
理的に操作メニュー情報が占める座標位置の範囲が明確になっている必
要があることは明らかである。
そうすると,構成要件B,E,F及びGの「操作メニュー情報」につい\nては,利用者にとっての,視覚的な見地からの,命令内容の表示や実行の\n簡便性を実現する構成を意味するものであるものといえ,そのような見地\nに照らし,同「操作メニュー情報」とは,利用者が,その表示の有無を視\n覚的に認識でき,その表示内容から,所望の命令を実行した結果について\nも理解できるような,画像データである必要があるものと解するのが相当
である。
そして,構成要件Fの,(1)「操作メニュー情報がポインタにより指定さ
れる」と「操作メニュー情報に関連付いている命令」を「実行」する,及
び(2)「操作メニュー情報がポインタにより指定されなくなるまで当該実行
を継続する」との文言については,画像データである操作メニュー情報の
座標位置が利用者に視覚的に認識できることを前提に,(1)画面上に表示さ\nれた画像データである操作メニュー情報が占める座標位置の範囲に,ポイ
ンタの座標位置が入った場合に,特定の命令を実行し,(2)操作メニュー情
報が占める座標位置の範囲に,ポインタの座標位置が入らなくなるまで当
該実行が継続され,入らなくなった場合には,当該実行が継続されないこ
とを意味し,かかる動作状況を満たす命令であることをもって,「操作メニ
ューに関連付いている命令」に当たるものと解するのが相当である。
(3) 「操作メニュー情報」(構成要件B,E,F,G)の充足性\n
ア 以上を前提に,まず,「操作メニュー情報」(構成要件B,E,F,G)\nの充足性につき検討するに,被告製品の構成のエ(イ)ないし(エ)及び\nオ(イ)ないし(エ)のとおり,本件ホームアプリにおける上ページ一部
表示及び下ページ一部表\示(以下「上ページ一部表示等」という。)は,画\n像データであり,その内容や表示位置からすれば,これを見た利用者は上\nページ又は下ページにスクロールする結果を理解できるといえるから,利
用者が,その表示の有無を視覚的に認識でき,その表\示内容から,所望の
命令を実行した結果についても理解できるような,画像データに当たるも
のというべきであって,「操作メニュー情報」を充足するものと認められる。
イ これに対し,被告は,上ページ一部表示等は,単にホーム画面が縮小表\
示されることによって当該ホーム画面の隣のホーム画面が見えているに
すぎず,実行される命令を表す文字も,矢印表\示等何らかの操作ができる
ことを示す絵や記号も表示されておらず,表\示自体から上ページ又は下ペ
ージにスクロールするといった実行される命令結果を理解できる画像で
はない旨を主張する。
しかし,被告製品の構成エ(イ)及びオ(イ)のとおり,上ページ一部\n表示等が表\示されるのは,利用者が移動させたいショートカットアイコン
をロングタッチして,ドラッグ操作をして同アイコンを移動させる等して,
縮小モードになった状態であることからすれば,同アイコンを移動したい
利用者が,1つ上のページ又は1つ下のページの一部を表示した画像であ\nる上ページ一部表示等を見て,上ぺージ又は下ページが存在することのみ\nならず,上ページ一部表示等までドラッグすれば,上ページ又は下ページ\nに画面をスクロールさせることができるものと理解することも可能とい\nうべきである。
以上によれば,被告の上記主張は採用することができない。
ウ 他方,原告は,上ページ一部表示等のみならず,「左上領域」「右上領域」\n又は「左下領域」「右下領域」(以下「左上領域等」という。)も「操作メニ
ュー情報」に該当する旨を主張する。
しかし,左上領域等は,被告製品の構成エ(ウ)及びオ(ウ)のとおり,\n特定の座標位置で囲まれた領域にすぎず,利用者が,その表示の有無を視\n覚的に認識でき,その表示内容から,所望の命令を実行した結果について\nも理解できるような,画像データに当たるものとは認められない。前記ア
の説示に照らしても,左上領域等が,「操作メニュー情報」に当たるとは認
められず,同説示のとおり,「操作メニュー情報」に該当するのは,上ペー
ジ一部表示等に限られるというべきである。\n以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 「操作メニュー情報がポインタにより指定される」と「操作メニュー情報
に関連付いている命令」を「実行」する,及び「操作メニュー情報がポイン
タにより指定されなくなるまで当該実行を継続する」(構成要件F)の充足性\n ア 被告製品においては,被告製品の構成のエ(ウ)(エ)及びオ(ウ)(エ)\nのとおり,左上領域等の占める座標位置の範囲に,原告が「ポインタの座
標位置」に当たると主張(前記第2の3(2)[原告の主張]イ)する「当該
ショートカットアイコンをドラッグしている指等のタッチパネル上の位
置」又は「当該ショートカットアイコンをドラッグしているマウスカーソ\nルの先端の位置」の座標位置(以下「指等及びマウスカーソルの先端の座\n標位置」という。)が入った場合に「上ページスクロール1」,「上ページス
クロール2」,「下ページスクロール1」,「下ページスクロール2」を生じ
させる命令(以下,併せて「ページスクロール命令」という。)が実行され,
左上領域等の占める座標位置の範囲に指等及びマウスカーソルの先端の\n座標位置が入らなくなるまでページスクロール命令が継続され,入らなく
なった場合には当該実行が継続されないことが認められる。
しかし,前記(3)のとおり,被告製品において,「操作メニュー情報」に
該当するのは上ページ一部表示等であるところ,証拠(甲19,乙11〜\n13)によれば,上ページ一部表示等が占める座標位置の範囲と左上領域\n等の占める座標位置の範囲とは必ずしも一致せず,上ページ一部表示等は,\n左上領域等と一部重なる座標位置に表示されているにすぎないことが認\nめられる。このため,(1)上ページ一部表示等が占める座標位置の範囲に,\n指等及びマウスカーソルの先端の座標位置が入っていても,その位置が左\n上領域等の占める座標位置の範囲外であればページスクロール命令が実
行されず,また,(2)上ページ一部表示等が占める座標位置の範囲に,指等\n及びマウスカーソルの先端の座標位置が入っていなくとも,その位置が左\n上領域等の占める座標位置の範囲内であればページスクロール命令が実
行・継続されることとなる。
このような被告製品の動作状況から検討すると,ページスクロール命令
の実行や継続は,指等及びマウスカーソルの先端の座標位置が,利用者が\nその範囲を視覚的に認識することができない,左上領域等の占める座標位
置の範囲に入っているかどうかによるものであり,これが肯定されれば,
指等及びマウスカーソルの先端の座標位置が上ページ一部表\示等の占め
る座標位置の範囲に入っていなくても,ページスクロール命令が実行され
継続されるものである一方,上記が否定されれば,指等及びマウスカーソ\nルの先端の座標位置が上ページ一部表示等の占める座標位置の範囲に入\nっていても,ページスクロール命令は実行され継続されないこととなるも
のである。
すなわち,被告製品においては,指等及びマウスカーソルの先端の座標\n位置が,偶々,上ページ一部表示等と左上領域等が重なる部分の占める座\n標位置の範囲に入った場合に限って,ページスクロール命令が実行・継続
されているにすぎないものである。これに照らせば,ページスクロール命
令については,飽くまで利用者が視覚的に認識できない左上領域等の範囲
において実行・継続されるものであって,上ページ一部表示等の範囲にお\nいて実行・継続されるものではないのであるから,上ページ一部表示等に,\nページスクロール命令が関連付いているとまでは認めるに足りないとい
うほかない。
したがって,上記のとおりの被告製品の構成は,構\成要件Fの「操作メ
ニュー情報がポインタにより指定される」と「操作メニュー情報に関連付
いている命令」を「実行」する,及び「操作メニュー情報がポインタによ
り指定されなくなるまで当該実行を継続する」という文言(構成要件F)\nを充足するとは認められない。
イ 原告の主張について
(ア) まず,原告は,上ページ一部表示等のみならず左上領域等も「操作\nメニュー情報」に相当する旨主張するが,前記(3)に説示したとおり,左
上領域等は,「操作メニュー情報」には当たるとはいえない。
(イ) また,原告は,上ページスクロール1が生じるのは,処理手段が上ペ
ージスクロール1を行うプログラムを実行していることを意味するとこ
ろ,同プログラムは上ページ一部表示が表\示されていないと実行されな
いから,上ページ一部表示と同プログラムとは関連付いている旨主張す\nる。
しかし,前記説示のとおり,本件発明の構成要件F(「関連付いている」)\nについては,画像データである操作メニュー情報の座標位置が利用者に
視覚的に認識できることを前提に,(1)画面上に表示された画像データで\nある操作メニュー情報が占める座標位置の範囲に,ポインタの座標位置
が入った場合に,特定の命令を実行し,(2)操作メニュー情報が占める座
標位置の範囲に,ポインタの座標位置が入らなくなるまで当該実行が継
続され,入らなくなった場合には,当該実行が継続されないことを意味
し,かかる動作状況を満たす命令であることをもって,「操作メニューに
関連付いている命令」に当たるものと解するのが相当であるところであ
る。しかして,被告製品においては,指等及びマウスカーソルの先端の\n座標位置が,偶々,上ページ一部表示等と左上領域等が重なる部分の占\nめる座標位置の範囲に入った場合に限って,ページスクロール命令が実
行されているにすぎないものであって,ページスクロール命令について
は,飽くまで利用者が視覚的に認識できない左上領域等の範囲において
実行・継続されるものであり,上ページ一部表示等の範囲において実行・\n継続されるものではないというのである。
以上によれば,原告の上記指摘をもって,直ちに,上ページ一部表示\nと上記プログラムとが関連付いており,上ページ一部表示等の有無とペ\nージスクロール命令の実行の可否が関連付いているとまで認めることは
できず,他に,両者の関連付けを推認させるに足りる事情も見当たらな
い。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 原告は,構成要件Fの「操作メニュー情報がポインタにより指定さ\nれなくなるまで当該実行を継続する」には,「終了」といった記載はない
から,操作メニュー情報がポインタにより指定されなくなった際に当該
実行が終了することまで求めてはおらず,実行がいつ終了するかは同構\n成要件とは関係がない旨を主張する。
しかし,上記(2)ウで述べたとおり「操作メニュー情報がポインタによ
り指定されなくなるまで当該実行を継続する」とは,操作メニュー情報
がポインタにより指定されている場合に当該実行が継続されることのみ
ならず,操作メニュー情報がポインタにより指定されなくなった場合に
は当該実行が継続されなくなることまで意味するものと解すべきところ,
前記アで述べたとおり,被告製品において,指等及びマウスカーソルの\n先端の座標位置が上ページ一部表示等の占める座標位置の範囲に入って\nいない場合であっても,左上領域等の占める座標位置に入っていればペ
ージスクロール命令の実行が継続されるものである以上,被告製品は上
記の構成要件を充足しないというべきである。なお,原告の主張する「実\n行」の「終了」が何を意味するか必ずしも判然としないが,仮に,上記
構成要件の解釈として,操作メニュー情報がポインタにより指定されて\nいる場合に当該実行を継続することのみを意味し,操作メニュー情報が
ポインタにより指定されなくなった場合に当該実行が継続されないこと
までは含んでいないとする旨を主張する趣旨であるとしても,そもそも
そのような解釈は,本件各特許請求の範囲の文言及び本件明細書の記載
に照らし,上記構成要件の解釈として失当と言わざるを得ない。\n
◆判決本文
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2020.01.13
平成31(行ケ)10005 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年9月19日 知的財産高等裁判所
周知技術を適用する動機付けなしとして、CS関連発明について、知財高裁2部は、拒絶審決を取り消しました。
前記2(1)のとおり,引用文献1には,「近年,コンテンツマネジメントシステム
(以下,CMS(Content Management System)という)
によりウェブアプリケーションとして公開するコンテンツを構築し,管理すること\nが行われている(例えば,特許文献1参照)。ところで,近年,ネイティブアプリケ
ーションをダウンロードしてインストールすることができるスマートフォンが普及
している。スマートフォンのユーザは,ネイティブアプリケーションをインストー
ルする場合,アプリケーションを提供する所定のアプリケーションサーバにアクセ
スし,所望のネイティブアプリケーションを検索する。しかしながら,CMSによ
って構築されるウェブアプリケーションは,ウェブサイトとして構\築されるため,
検索サイトの検索結果として表示されることがあるものの,アプリケーションサー\nバから検索することができない。したがって,アプリケーションサーバにおいてネ
イティブアプリケーションを検索したユーザに,CMSにより開発したウェブアプ
リケーションを利用してもらうことができないという問題がある。これに対して,
CMSによって構築したウェブアプリケーションと同等の機能\を有するネイティブ
アプリケーションを開発し,当該ネイティブアプリケーションをアプリケーション
サーバにアップロードすることも考えられる。しかしながら,ネイティブアプリケ
ーションを新規に開発するには,多大な開発工数が必要であった。本発明は,ネイ
ティブアプリケーションを容易に生成することができるアプリケーション生成装置,
アプリケーション生成システム及びアプリケーション生成方法を提供することを目
的とする。」(段落【0002】,【0004】〜【0007】)と記載されており,同記載からすると,引用発明は,CMSによって構築されるウェブアプリケーション\nは,アプリケーションサーバから検索することができないため,アプリケーション
サーバにおいてネイティブアプリケーションを検索したユーザに,CMSにより開
発したウェブアプリケーションを利用してもらうことができないこと及びCMSに
よって構築したウェブアプリケーションと同等の機能\を有するネイティブアプリケ
ーションを新規に開発するには,多大な開発工数が必要となることを課題とし,同
課題を解決するためのネイティブアプリケーションを生成する装置であることが認
められる。
引用発明は,上記課題を解決するために,前記(1)アで認定したとおり,既存のウ
ェブアプリケーションのロケーションを示すアドレスや所望の背景画像を示すアド
レス等の情報を入力するだけで,当該ウェブアプリケーションの表示態様を変更し\nて,同ウェブアプリケーションが表示する情報を表\示するネイティブアプリケーシ
ョンを生成できるようにしたものと認められる。
イ 被告は,携帯通信端末の動きに伴う動作を行うネイティブアプリケーシ
ョンを生成すること,特に,PhoneGapに係る技術が周知であると主張する。
(ア) 前記アのとおり,引用発明は,アプリケーションサーバにおいて検索で
きるネイティブアプリケーションを簡単に生成することを課題として,同課題を,
既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入力するだけで,同ウェブア
プリケーションが表示する情報を表\示できるネイティブアプリケーションを生成す
ることができるようにすることによって解決したものであるから,ブログ等の携帯
通信端末の動きに伴う動作を行わないウェブアプリケーションの表示内容を表\示す
るネイティブアプリケーションを生成しようとする場合,生成しようとするネイテ
ィブアプリケーションを携帯通信端末の動きに伴う動作を行うようにする必要はな
く,したがって,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネ
イティブ機能を実行するためのパラメータ」とする必要はない。もっとも,引用文\n献1の段落【0024】には,ブログ等と並んで「ゲームサイト」が掲げられてお
り,ゲームにおいては,加速度センサにより横画面と縦画面が切り替わらないよう
に制御する必要がある場合が考えられる(引用文献5参照)が,ウェブアプリケー
ションとして提供されるゲームは,(1)常に携帯通信端末の表示画面を固定する必要\nがあるとはいえないこと,(2)加速度センサにより,携帯通信端末の姿勢に対応した
画面回転表示を制御する機能\は携帯通信端末側に備わっており,端末側の操作によ
って,表示画面を固定することができ,そのような操作は一般的に行われているこ\nと,(3)引用文献1の段落【0024】の「ゲームサイト」は,携帯通信端末の表示\n画面を固定する必要のないブログ,ファンサイト,ショッピングサイトと並んで記
載されており,また,引用文献1には,加速度センサについて何らの記載もないこ
とからすると,当業者は,上記の「ゲームサイト」の記載から,パラメータを「携
帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行するためのパラメータ」とすることの必\n要性を認識するとまではいえないというべきである。
また,引用発明によって生成されるネイティブアプリケーションは,HTMLや
JavaScriptで記述されるウェブページを表示できるから,引用発明によ\nり,乙4に記載されたHTML5 APIのGeolocationを用いて携帯
通信端末の動きに伴う動作を行うウェブアプリケーションの表示内容を表\示するネ
イティブアプリケーションを生成しようとする場合も,生成されるネイティブアプ
リケーションは,設定情報に含まれているウェブアプリケーションのアドレスに基
づいて,同ウェブアプリケーションに対応するウェブページを取得し,取得したウ
ェブページのHTMLやJavaScriptの記述に基づいて,同ウェブアプリ
ケーションの内容を表示でき,したがって,ネイティブアプリケーションの生成に\n際して,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネイティブ
機能を実行させるためのパラメータ」とする必要はない。\nさらに,被告主張周知技術に係る各種文献にも,引用発明の上記の構成の技術に\nおいて,「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に\n応じて設定ファイルを設定することの必要性等については何ら記載されていない
(甲2〜5,7,8,乙1〜3)。
(イ) 前記アのとおり,引用発明は,簡易にネイティブアプリケーションを生
成することを課題として,既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入
力するだけで,当該ウェブアプリケーションが表示する情報を表\示するネイティブ
アプリケーションを生成できるようにしたのであり,具体的には,前記(1)アのとお
り,入力しようとするウェブアプリケーションのロケーションを示すアドレス及び
表示態様に基づいて,テンプレートアプリケーション111に含まれる設定情報の\n内容を書き換えるだけで目的とするウェブアプリケーションの表示する情報を表\示
できるネイティブアプリケーションを生成でき,テンプレートアプリケーション1
11に含まれるプログラムファイル113については,新たにソースコードを書く\n必要はないところ,証拠(甲3,5,7,乙1〜3)によると,PhoneGap
によってネイティブアプリケーションを生成するためには,HTMLやJavaS
cript等を用いてソースコード(プログラム)を書くなどする必要があるもの\nと認められるから,引用発明に,上記のように,新たにソースコードを書くなどの\n行為が要求されるPhoneGapに係る技術を適用することには阻害事由がある
というべきである。
被告は,(1)PhoneGapでは,PhoneGapのプラグインの仕組みを使
って,GPSなど端末のネイティブ部分にアクセス可能であり,端末のGPS機能\
にアクセスすることで,GPSで取得した端末の現在位置が中心となるように地図
を表示することが可能\となるから,引用発明において地図表示アプリケーションを\n生成する際に,PhoneGapのフレームワークを採用することで,ネイティブ
機能であるGPS機能\が利用可能となり,携帯通信端末の動きに伴う動作を設定可\n能となり,また,(2)AndroidManifest.xmlに「android:
screenOrientation =”landscape”」の1行を追加し
たり(Androidの場合),「Landscape Right」又は「Lan
dscape Left」のアイコンを選択すること(iOSの場合)で,スマー
トフォンの画面を横画面に固定可能となり,縦画面に固定する設定を施す場合,A\nndroidManifest.xmlに「android:screenOri
entation =”portrait”」の1行を追加したり(Android
の場合),「portrait」のアイコンを選択すること(iOSの場合)で,ス
マートフォンの画面を縦画面に固定可能となるから,引用発明において,アプリケ\nーションを生成する際に,PhoneGapのフレームワークを利用することで,
「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に応じて,\n携帯通信端末において実行される「アプリケーションの,携帯通信端末の動きに伴
う動作」を規定する設定ファイルを備えることとなると主張する。
しかし,上記のとおり,引用発明にPhoneGapの技術を適用することの動
機付けはないから,被告の上記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
(ウ) 以上からすると,引用発明に,被告主張周知技術を適用することの動機
付けは認められないというべきである。
◆判決本文
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