2023.09.25
令和2(ワ)13317 特許権侵害損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年7月13日 東京地方裁判所
個人発明家がアップルを訴えた事件です。下記別訴の後の販売分に製品に関する不当利得返還請求事件です。製品の一部に関する特許ですが、東京地裁は実施料として「0.5%をくだらない」として、約4400万円の支払いを命じました。関連訴訟と同じ特許ですが、被告は104条の3の主張をして、有効性を争っています。
特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者又は専用実施権者(以
下「特許権者等」という。)が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定
であって、同項による損害は、原則として、侵害品の売上高を基準とし、そ
こに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。そして、特許
法102条4項は、上記料率を認定するに当たって、特許権者等が当該特許
権又は専用実施権(以下「特許権等」という。)の侵害があったことを前提
としてこれを侵害した者との間で合意をするとしたならば、特許権者等が得
ることとなるその対価を考慮することができる旨規定している。
したがって、実施に対し受けるべき料率は、1)当該特許発明の実際の実施
許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実
施料の相場等も考慮に入れつつ、2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発
明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、3)当該特許発明を当該
製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、4)特許権者と侵
害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を踏まえ、特
許権者等が当該特許権等の侵害があったことを前提としてこれを侵害した者
との間で合意をするとしたならば、特許権者等が得ることとなるその対価を
考慮して、合理的な料率を定めるべきである。
なお、被告は、本件各発明は被告各製品を構成する部品の一つであるクリ\nックホイールに関するものにすぎないから、実施料率を乗ずる売上高は、被
告各製品ではなく、クリックホイールの売上高とすべきである旨主張するも
のの、その原価が証拠上必ずしも明らかではない上、本件各発明が被告各製
品を構成する部品の一つであるという事情は、上記において説示した判断基\n準のとおり、本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢
献という上記3)に係る考慮事情において、これを十分に斟酌するのが相当で\nある。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
(2) 当てはめ
前記認定事実、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、上記1)ないし4)
に係る考慮事情として、次の事実を認めることができる。
ア 業界における実施料の相場
証拠(甲35、36)によれば、「ラジオ・テレビ・その他の通信音響
機器」に含まれる「電気音響機械器具」の平成4年度ないし平成10年度
の実施料率(イニシャルなし)の平均値は、5.7%であること、平成1
6年ないし平成20年の電気産業における司法決定ロイヤルティ料率の平
均値は3.0%、最大値は7.0%、最小値は1.0%であることが認め
られる。そして、被告が提出した意見書(乙27)においても、本件各発
明に係るロイヤルティ料率を定めるに当たり比較対象となる契約のロイヤ
ルティ料率は、中央値が2.65%、最小値が1.5%、最大値が4.
0%であることが認められることからすれば、本件各発明に係る電気産業
における近年のロイヤルティ料率は、3%程度と解するのが相当である。
イ 本件各発明の技術内容や重要性
上記1によれば、従来技術においては、接触操作するタッチパネル等の
電子部品と、プッシュ操作するスイッチ等を各々別個の部品として配置し
ていたため、機器の小型化に対して不利であり、かつ、2つの別個の部品
を操作することになり使い勝手も極めて不便であるという課題があった。
このような課題を解決するために、本件各発明は、1)リング状に予め特\n定された軌跡上にタッチ位置検出センサーを配置して軌跡に沿って移動す
る接触点を一次元座標上の位置データとして検出し、2)上記軌跡に沿って
タッチ位置検出センサーとは別個にプッシュスイッチ手段の接点を設ける
ものである。このように、本件各発明は、上記検出とは独立してプッシュ
スイッチ手段の接点のオン又はオフを行うことによって、操作性良く薄型
かつ小型でしかも少ない部品点数で電子機器を構成することができるよう\nにし、もって1つの部品で複数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接
触操作型電子部品を提供するものであり、この点において重要性を有する
ものである。
これに対し、被告は、本件各発明には、iPod Shuffleに採
用された操作ボタン、iPod Touchに採用されたタッチスクリー
ン等の代替手段が存在する旨主張する。
しかしながら、証拠(乙30、31)及び弁論の全趣旨によれば、iP
od Shuffleの操作ボタンにおいては、音量調節等はボタンを押
すことでしかできないものであって、リング状に指を動かして連続的に音
量調節等をすることができず、iPod Touchについては、タッチ
スクリーンを用いるものであって操作の形態が大きく異なり、コストも高
くなるといえるから、これらが直ちに代替手段となるものと認めることは
できない。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
ウ 本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害
の態様
本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献
証拠(甲5、24)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品1について
は、「新しいiPod classicではポケットに40,000曲
を入れることができます。より薄型の総金属製のボディと、さらに洗練
されたユーザインターフェイスにより、iPod classicは、
全てをiPodに入れて持ち歩きたい人に最適です。」と宣伝されてい
ることが認められ、被告製品2についても、「さらにiPodが小さく
なりました。鉛筆ほどの薄さのiPod nanoは、(中略)信じら
れないくらい小さなボディ」、「手の中にすっぽりと収まるミニサイズ。
あざやかなカラー液晶ディスプレイ、親指で操作できるクリックホイー
ルも自慢です。ヘッドフォンをつけたら、さっそくボリュームを上げて
みましょう。iPod nanoが、小さくてもまさにiPodだとす
ぐにわかるはず。」と宣伝されていることが認められる。
その上、証拠(甲21)及び弁論の全趣旨によれば、iPodに搭載
されたクリックホイール自体についても、被告は、「親指ひとつでコン
トロール」、「いつでも完全主義を貫くアップルのエンジニアたちは、
iPodの操作ボタンをホイールの下に移動して『究極のシンプルさ』
を目指しました。それが大好評のクリックホイールです。(中略)耐久
性と感度の良さ、ホイール下側に組み込まれた操作ボタンの使いやすさ
はこれまでどおり。この最小限のスペースを最大限に利用したクリック
ホイールで、iTunesのミュージックコレクションから選んだ最大
1,500曲を親指だけで楽々とスクロールできます。このようによく
考えられた仕組みは、アップル製品ならでは。競合メーカーがどんなに
追いつこうとしても追いつけない部分です。」などとして、特に宣伝し
ていることが認められる。
上記認定事実によれば、本件各発明は、操作性良く薄型でしかも少な
い部品点数で電子機器を構成することができるように、1つの部品で複\n数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接触操作型電子部品を提供す
るものであるところ、被告は、本件各発明の構成の中核であるクリック\nホイールにつき、競合他社の製品と差別化するために特に利用していた
ことが認められる。そうすると、本件各発明を被告各製品に用いた場合
の売上げ及び利益への貢献の程度は、被告各製品の薄型化及び小型化並
びに操作性の向上に寄与するものとして、被告各製品の顧客吸引力の向
上という観点からすれば、少なくないものと認めるのが相当である。
他方、証拠(甲32、乙27)及び弁論の全趣旨によれば、被告各製
品の人気の理由は、上記において説示したとおり、クリックホイールと
いう指先だけで操作できるインターフェイスを搭載し、携帯音楽プレー
ヤの操作性を向上させたことにあるほか、音楽配信サービスであるiT
unes Music Storeに対応するiTunesを、そのま
ま持ち歩くような環境を備えたことや、デザイン、カラーバリエーショ
ン、大容量のハードディスク及び長時間持続するバッテリーという被告
各製品の特長にもあり、これらのほか、「Apple」という極めて高
いブランド価値、被告の宣伝広告等が、被告各製品の売上げに相当程度
貢献したことが認められる。また、操作性については、上記のとおり、
被告自身がクリックホイールによる操作性の向上を宣伝していることか
ら、クリックホイールの貢献は明らかであるものの、クリックホイール
の機能の割当てや本件各発明とは無関係のセンターボタンの果たす役割\nも少なくないものと解される。
そうすると、被告各製品の本体(ハードウェア)の一部であるクリッ
クホイールに係る本件各発明が、被告各製品の売上げに寄与した程度は、
主要なものとはいえない。
侵害の態様
前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は、別件訴訟において、
別件被告各製品の輸入及び販売を行うことが本件特許権の侵害に当たる
旨の第1審判決及び控訴審判決が言い渡された後も、なお別紙別件被告
製品目録記載3の被告製品(本件における被告製品1)を販売し続けた
ことが認められる。したがって、その侵害態様は看過し得ないところが
ある。
エ 特許権者の営業方針等
弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各発明を実施するものではなく、
被告に対し、本件各発明の許諾をする旨の申出をし、被告との間で、その\n交渉をしていたことが認められる。
オ 実施料率の算定
上記認定に係る業界における実施料の相場、本件各発明の技術内容や重
要性、本件各発明を被告各製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や
侵害の態様、特許権者の営業方針等その他の本件に現れた諸事情を踏まえ、
特許権者等が当該特許権等の侵害があったことを前提として、これを侵害
した者との間で合意をするとしたならば特許権者等が得ることとなるその
対価を考慮すれば、実施に対し受けるべき料率は、少なく見積もっても、
0.5%を下らないというべきである。
◆判決本文
関連事件はこちらです。
◆平成19(ワ)2525
◆平成25(ネ)10086
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2023.07.10
令和4(ネ)10070 特許権侵害損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年5月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明についての特許権侵害事件です。1審の東京地裁40部は、無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。控訴人は、請求項17に基づく侵害主張、および訂正の再抗弁を追加しました。知財高裁は、時機に後れた攻撃防御方法には該当しないとして判断自体はおこないましたが、最終的には無効として、控訴棄却しました。
事案に鑑み、争点7(乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁の当否)について、まず判断する。
(1) 時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)イ のとおり、乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁は、時機に後れた攻撃防御方法であるとしてその却下を求めるが、この防御方法の提出が訴訟の完結を遅延させるものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討する。
(2) 無効理由の解消の有無等について
事案に鑑み、仮に、本件訂正が適法であり、本件訂正により本件訂正発明と乙22発明との間に当事者の主張に係る相違点が全て生じるとした場合、乙22発明に基づく進歩性欠如の無効理由が解消されるかをまず検討する。
ア 本件訂正発明1
相違点22−6ないし相違点22−8の容易想到性
相違点22−6ないし相違点22−8は、前記第2の4(1)イ aのと
おり、本件訂正発明1において、1)閲覧者がWebブラウザに対して閲
覧指示を行った段階においては、Webブラウザは閲覧指示に対応する
HTMLをサーバに要求するだけであること(相違点22−6)、2)サー
バはWebブラウザからの要求に従い、画像表示に必要な演算を実行す\nる、HTMLに記述されたJavaScriptをWebブラウザに送信すること
(相違点22−7)、3)WebブラウザがHTMLに記述されたJavaScr
iptを受信する前に表示領域内に表\示する分割画像を特定する演算を行
わないこと(相違点22−8)というものであるのに対し、乙22発明
は、地図データの要求をサーバに送信するまでの間に、ディスプレイに
表示する地図データ(メッシュ地図)を特定する演算を行っているとい\nうものである。
Webブラウザを用いた表示では、閲覧者がWebブラウザに対して\n閲覧指示を行うと、Webブラウザが閲覧指示に対応するHTMLをサ
ーバに要求し、サーバが要求に対応するHTMLをWebブラウザに送
信し、Webブラウザが受信したHTMLに基づいて表示を行うという\n表示ステップを経るというようなプログラム上の取決めがあることは顕\n著な事実であるところ、このようなHTMLを用いるWebブラウザの
処理におけるプログラム上の取決めがある以上、閲覧者がWebブラウ
ザに対して閲覧指示を行った段階では、Webブラウザは閲覧指示に対
応するHTMLをサーバに要求するだけであり、WebブラウザがHT
MLを受信する前の段階では、Webブラウザによって当該HTMLに
基づくいかなる処理も実行されることがないことは、上記取決めから生
じる当然の帰結にすぎない。
そして、JavaScriptは、HTMLに直接記述されるか、あるいはHT
MLによって読み出される外部ファイルに記述されるかのいずれでもよ
いものであることは、本件特許出願時の技術常識と認められるから(甲
46、48、49)、当業者は適宜それを使い分ければよく、Webブラ
ウザにおいてJavaScriptを用いたときにJavaScriptがHTMLに直接記述されることは当業者の自然な選択の一つにすぎず、その選択をした場
合、WebブラウザがHTMLを受信する前に当該HTMLに直接記述
されたJavaScriptを実行しないことはいうまでもない。
そうすると、Webブラウザを採用して動的表示をJavaScriptを用い\nて実行しようとするならば、当業者が適宜になす自然な選択の結果、ほ
ぼ必然的に相違点22−6ないし相違点22−8に係る本件訂正発明1
の構成をとることになるのであって、当該構\成についてとりたてて創意
を発揮する余地はない。そうであるところ、前記2(1)のとおり、本件特
許出願当時において、Webクライアントによる動的表示を行う処理を\nWebブラウザでJavaScriptを用いて行うことは周知慣用技術であり、
そして、この周知慣用技術を適用すればそれに起因して相違点22−6
ないし22−8の本件訂正発明1の構成となるというのであれば、上記\n相違点に係る本件訂正発明1の構成は容易に想到し得るものというほか\nない。
・・・
時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)ア のとおり、被告地図表示方法の本件\n発明17の充足性に関する主張は、時機に後れた攻撃防御方法であると
してその却下を求めるが、この攻撃方法の提出が訴訟の完結を遅延させ
るものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討
する。
相違点22−17−1の容易想到性について
a 本件訂正発明17は、本件訂正発明1について、1)同じ内容の画像
データを2)複数の倍率で有すること、3)各倍率の画像を構成する分割\n画像の画素数は表示倍率に関わらず一定であること、4)分割画像の分
割数は倍率が低い画像ほど少なく、倍率が高い画像ほど多いこととの
限定を付したものであるところ、乙22発明は、上記のような構成を\n有するとは特定されていない。
b 乙10文献には別紙9のとおりの記載がある。これによると、乙10技術として、次のような技術が記載されているものと認められる。
クライアントから要求される画像の指定、表示範囲の指定の変化に\n関わらず、高速かつ一定時間内に高精細画像を表示するためのデータ\n構造を備える高精細画像表\示装置を提供することを目的とするもので
あって(【0006】)、
サーバに格納される画像データのデータ構造が、複数段階の解像度\nの画像を有するものであり(【0024】ないし【0026】、【図2】)、
それぞれ解像度の画像はそれぞれpピクセル×pピクセルのブロッ
クに分割されて保持され、個々のブロックを単位としてアクセスされ
るものであって、個々のブロックを構成する画素数は解像度に関わら\nず同じであり(【0028】、【0029】、【図3】)、
ブロックの分割数は解像度が少ない画像ほど少なく、解像度が高い
画像ほぼ多い状態であり(【図3】)、
クライアント側の表示装置において表\示される表示枠に関連する各\nブロックの画像データを、サーバからクライアントに伝送して表示す\nる技術(【0031】、【0032】)。
c 本件訂正発明1が乙22発明により容易に想到できるものであるこ
とは、前記アにおいて判示したとおりであるところ、乙10技術は、
相違点22−17−1の構成に係る分割画像の格納形態を開示するも\nのであり、本件訂正発明17と乙10技術は、分野を同一とするもの
であって表示領域より大きい画像データを領域分割し、表\示装置に対
応する分割画像を送信して表示することにより表\示を高速化するとい
う機能も共通するものであるから、乙22発明の分割画像の格納形態\nとして、乙10文献記載の分割画像の格納形態を採用して、相違点2
2−17−1に係る本件訂正発明17の構成とすることは容易に想到\nできる。
控訴人らの主張について
控訴人らは、前記第2の4(1)イ e(g)のとおり、乙10技術は、個々
の分割画像(ブロック)を送信しているわけでもないし、同じ画像を複
数の倍率でかつ倍率ごとにそれぞれ複数の領域で分割してサーバから送
信しているわけではないから、乙22発明に乙10技術を適用して本件
訂正発明17の構成とすることは容易に想到できない旨主張するが、乙\n10技術の分割画像の送信手法と分割画像の格納形態とは、特に必須に
結合しているわけではなく、それぞれ独立した技術事項であるから、乙
10技術の送信手法までを乙22発明に適用する必要はなく、乙10の
分割画像の格納形態のみを採用することに阻害要因も見当たらない。
したがって、上記主張を採用することはできない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和1(ワ)21901
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2023.06.29
令和4(ネ)10046 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年5月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁(大合議)は、「サーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能\・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解する」と判断しました。
損害額については、ほぼ伏せ字になっています。102条3項の侵害は料率2%で計算し、それよりも2項侵害の額の方が大きくて最終的に約1100万円の損害賠償が認定さられています。
なお、1審では、特許の技術的範囲には属するが、一部の構成要件が日本国外に存在するので、非侵害と認定されてました。概要だけはすぐにアップされていましたが、全文アップは約1ヶ月かかりました。
ア 被告サービス1のFLASH版における被控訴人FC2の行為が本件発
明1の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に該当するか否
かについて
(ア) はじめに
本件発明1は、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末
装置を備えるコメント配信システムの発明であり、発明の種類は、物の
発明であるところ、その実施行為としての物の「生産」(特許法2条3
項1号)とは、発明の技術的範囲に属する物を新たに作り出す行為をい
うものと解される。
そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介
して、サーバと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(以下「ネットワーク型システム」という。)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構\成要件を充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能\を有す
るようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいう
ものと解される。
そこで、被告サービス1のFLASH版における被控訴人FC2の行
為が本件発明1の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に
該当するか否かを判断するに当たり、まず、被告サービス1のFLAS
H版において、被告システム1を新たに作り出す行為が何かを検討し、
その上で、当該行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当するか及び
当該行為の主体について順次検討することとする。
(イ) 被告サービス1のFLASH版における被告システム1を新たに
作り出す行為について
a 被告サービス1のFLASH版においては、訂正して引用した原判
決の第4の5(1)ウ(ア)のとおり、ユーザが、国内のユーザ端末のブラ
ウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定する(2))と、それに伴い、被控訴人FC2のウェブ
サーバが上記ウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルを
ユーザ端末に送信し(3))、ユーザ端末が受信した、これらのファイ
ルはブラウザのキャッシュに保存され、ユーザ端末のFLASHが、
ブラウザのキャッシュにあるSWFファイルを読み込み(4))、その
後、ユーザが、ユーザ端末において、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押す(5))と、上記SWFフ
ァイルに格納された命令に従って、FLASHが、ブラウザに対し動
画ファイル及びコメントファイルを取得するよう指示し、ブラウザが、
その指示に従って、被控訴人FC2の動画配信用サーバに対し動画フ
ァイルのリクエストを行うとともに、被控訴人FC2のコメント配信
用サーバに対しコメントファイルのリクエストを行い(6))、上記リ
クエストに応じて、被控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイ
ルを、被控訴人FC2のコメント配信用サーバがコメントファイルを、
それぞれユーザ端末に送信し(7))、ユーザ端末が、上記動画ファイ
ル及びコメントファイルを受信する(8))ことにより、ユーザ端末が、
受信した上記動画ファイル及びコメントファイルに基づいて、ブラウ
ザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\と
なる。このように、ユーザ端末が上記動画ファイル及びコメントファ
イルを受信した時点(8))において、被控訴人FC2の動画配信用サ
ーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末はインターネットを利用
したネットワークを介して接続されており、ユーザ端末のブラウザに
おいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\となる
から、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の
全ての構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が新たに作り
出されたものということができる(以下、被告システム1を新たに作
り出す上記行為を「本件生産1の1」という。)。
b これに対し、被控訴人らは、1)被告各システムの「生産」に関連す
る被控訴人FC2の行為は、被告各システムに対応するプログラムを
製作すること及びサーバに当該プログラムをアップロードすることに
尽き、いずれも米国内で完結しており、その後、ユーザ端末にコメン
トや動画が表示されるまでは、ユーザらによるコメントや動画のアップロードを含む利用行為が存在するが、ユーザ端末の表\示装置は汎用ブラウザであって、当該利用行為は、本件各発明の特徴部分とは関係
がない、2)被告システム1において、ユーザ端末は、被控訴人FC2
がサーバにアップロードしたプログラムの記述並びに第三者が被控訴
人FC2のサーバにアップロードしたコメント及び被控訴人FC2の
サーバにアップロードした動画(被告システム2及び3においては第
三者のサーバにアップロードした動画)の内容に従って、動画及びコ
メントを受動的に表示するだけものにすぎず、ユーザ端末に動画やコメントが表\示されるのは、既に生産された装置(被告各システム)をユーザがユーザ端末の汎用ブラウザを用いて利用した結果にすぎず、
そこに「物」を「新たに」「作り出す行為」は存在しない、3)乙31
1記載の「一般に、通信に係るシステムはデータの送受を伴うもので
あるため、データの送受のタイミングで毎回、通信に係るシステムの
生産、廃棄が一台目、二台目、三台目、n台目と繰り返されることま
で「生産」に含める解釈は、当該システムの中でのデータの授受の各
タイミングで当該システムが再生産されることになり、採用しがたい」
との指摘によれば、被控訴人FC2の行為は本件発明1の「生産」に
該当しないというべきである旨主張する。
しかしながら、1)については、被控訴人FC2が被告システム1に
対応するプログラムを製作すること及びサーバに当該プログラムをア
ップロードすることのみでは、前記aのとおり、本件発明1の全ての
構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が完成していないと
いうべきである。
2)については、前記aのとおり、被控訴人FC2の動画配信用サー
バ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインターネットを利用し
たネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必要なファイルを受
信することによって、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能\を
備えた被告システム1が新たに作り出されるのであって、ユーザ端末
が上記ファイルを受信しなければ、被告システム1は、その機能を果たすことができないものである。
3)については、上記のとおり、被告システム1は、被控訴人FC2
の動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインタ
ーネットを利用したネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必
要なファイルを受信することによって新たに作り出されるものであり、
ユーザ端末のブラウザのキャッシュに保存されたファイルが廃棄され
るまでは存在するものである。また、上記ファイルを受信するごとに
被告システム1が作り出されることが繰り返されるとしても、そのこ
とを理由に「生産」に該当しないということはできない。
よって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(ウ) 本件生産1の1が特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否か
について
a 特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、
移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が
当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものであると
ころ(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷
判決・民集51巻6号2299頁、最高裁平成12年(受)第580
号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁参
照)、我が国の特許法においても、上記原則が妥当するものと解され
る。
前記(イ)aのとおり、本件生産1の1は、被控訴人FC2のウェブ
サーバが、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルを国内のユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信し、また、被控訴人FC2の動画配\n信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2のコメント配信用サー
バがコメントファイルを、それぞれユーザ端末に送信し、ユーザ端末
がこれらを受信することによって行われているところ、上記ウェブサ
ーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバは、いずれも米国
に存在するものであり、他方、ユーザ端末は日本国内に存在する。す
なわち、本件生産1の1において、上記各ファイルが米国に存在する
サーバから国内のユーザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信
することは、米国と我が国にまたがって行われるものであり、また、
新たに作り出される被告システム1は、米国と我が国にわたって存在
するものである。そこで、属地主義の原則から、本件生産1の1が、
我が国の特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かが問題とな
る。
b ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(以下、単に
「国外」という。)に設置されることは、現在、一般的に行われてお
り、また、サーバがどの国に存在するかは、ネットワーク型システム
の利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵害物件であ
るネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたとしても、当該システムを構\成する端末が日本国内(以下「国内」という。)に存在すれば、これを用いて当該システムを国内で利用するこ
とは可能であり、その利用は、特許権者が当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るものである。そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義\nの原則を厳格に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在することを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解することは、サーバを国外に設置さえす\nれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該システムの発明に係る
特許権について十分な保護を図ることができないこととなって、妥当ではない。他方で、当該システムを構\成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を
生じる事態となり得るものであって、これも妥当ではない。
これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許
権を適切に保護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り
出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについ
ては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構\成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考\n慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができる
ときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解するのが相当
である。
これを本件生産1の1についてみると、本件生産1の1の具体的
態様は、米国に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが
送信され、国内のユーザ端末がこれらを受信することによって行われ
るものであって、当該送信及び受信(送受信)は一体として行われ、
国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システム
1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われたものと観
念することができる。
次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人FC2のサー
バと国内に存在するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ端末は、本件発明1の主要な機能\である動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表\示されるように
するために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能\と構成要件1Gの表\示位置制御部の機能を果たしている。
さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利
用することができるものであって、コメントを利用したコミュニケー
ションにおける娯楽性の向上という本件発明1の効果は国内で発現し
ており、また、その国内における利用は、控訴人が本件発明1に係る
システムを国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得るもので
ある。
以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内
で行われたものとみることができるから、本件発明1との関係で、特
許法2条3項1号の「生産」に該当するものと認められる。
c これに対し、被控訴人らは、1)属地主義の原則によれば、「特許の
効力が当該国の領域においてのみ認められる」のであるから、海外
(国外)で作り出された行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当
しないのは当然の帰結であること、権利一体の原則によれば、特許発
明の実施とは、当該特許発明を構成する要素全体を実施することをいうことからすると、一部であっても海外で作り出されたものがある場合には、特許法2条3項1号の「生産」に該当しないというべきであ\nる、2)特許回避が可能であることが問題であるからといって、構\成要
件を満たす物の一部さえ、国内において作り出されていれば、「生産」
に該当するというのは論理の飛躍があり、むしろ、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の効力を及ぼすという解釈の方が、問題が多い、3)我が国の裁判例においては、
カードリーダー事件の最高裁判決(前掲平成14年9月26日第一小
法廷判決)等により属地主義の原則を厳格に貫いてきたのであり、そ
の例外を設けることの悪影響が明白に予見されるから、仮に属地主義の原則の例外を設けるとしても、それは立法によってされるべきである旨主張する。\n
しかしながら、1)については、ネットワーク型システムの発明に
関し、被疑侵害物件となるシステムを新たに作り出す行為が、特許法
2条3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システム
を構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、前記bに説示した事情を総合考慮して、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生\n産」に該当すると解すべきであるから、1)の主張は採用することがで
きない。
2)については、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否か
の上記判断は、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の効力を及ぼすというものではないから、2)
の主張は、その前提を欠くものである。
3)については、特許権についての属地主義の原則とは、各国の特
許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定めら
れ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意
味することに照らすと、上記のとおり当該行為が我が国の領域内で行
われたものとみることができるときに特許法2条3項1号の「生産」
に該当すると解釈したとしても、属地主義の原則に反しないというべ
きである。加えて、被控訴人らの挙げるカードリーダー事件の最高裁
判決は、属地主義の原則からの当然の帰結として、「生産」に当たる
ためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が、我が国の領域内において完結していることが必要であるとまで判示したものではないと解され、また、我が国が締結した条約及び特\n許法その他の法令においても、属地主義の原則の内容として、「生産」
に当たるためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が我が国の領域内において完結していることが必要であることを示した規定は存在しないことに照らすと、3)の主張は採用する
ことができない。
したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(エ) 被告システム1(被告サービス1のFLASH版に係るもの)を
「生産」した主体について
a 被告システム1(被告サービス1のFLASH版に係るもの)は、
前記(イ)aのとおり、被控訴人FC2のウェブサーバが、所望の動画
を表示させるための被告サービス1のウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信し、ユーザ端末のブラウザのキャッシュに保存された上記SWF\nファイルによる命令に従ったブラウザからのリクエストに応じて、被
控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2
のコメント配信用サーバがコメントファイルを、それぞれユーザ端末
に送信し、ユーザ端末がこれらを受信することによって、新たに作り
出されたものである。そして、被控訴人FC2が、上記ウェブサーバ、
動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設置及び管理しており、
これらのサーバが、HTMLファイル及びSWFファイル、動画ファ
イル並びにコメントファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末によ
る各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介することなく、
被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、
自動的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生
産」した主体は、被控訴人FC2であるというべきである。
この点に関し、被告システム1が「生産」されるに当たっては、
前記(イ)aのとおり、ユーザが、ユーザ端末のブラウザにおいて、所
望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定すること(2))と、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押すこと(5))が必要とされるところ、上記のユ
ーザの各行為は、被控訴人FC2が設置及び管理するウェブサーバに
格納されたHTMLファイルに基づいて表示されるウェブページにおいて、ユーザが当該ページを閲覧し、動画を視聴するに伴って行われる行為にとどまるものである。すなわち、当該ページがブラウザに表\示されるに当たっては、前記のとおり、被控訴人FC2のウェブサーバが当該ページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末
に送信し、ユーザ端末が受信したこれらのファイルがブラウザのキャ
ッシュに保存されること(4))、また、動画ファイル及びコメントフ
ァイルのリクエストについては、上記SWFファイルによる命令に従
って行われており(6))、上記動画ファイル及びコメントファイルの
取得に当たってユーザによる別段の行為は必要とされないことからす
れば、上記のユーザの各行為は、被控訴人FC2の管理するウェブペ
ージの閲覧を通じて行われるものにとどまり、ユーザ自身が被告シス
テム1を「生産」する行為を主体的に行っていると評価することはで
きない。
b これに対し、被控訴人らは、1)米国に存在するサーバが、ウェブペ
ージのデータ、JSファイル(FLASH版においてはSWFファイ
ル)、動画ファイル及びコメントファイルを送信することは、被控訴
人FC2が行っているのではなく、インターネットに接続されたサー
バにプログラムを蔵置したことから、リクエストに応じて自動的に行
われるものであり、因果の流れにすぎない、2)日本(国内)に存在す
るユーザ端末が、上記ウェブページのデータ、JSファイル(SWF
ファイル)、動画ファイル及びコメントファイルを受信することは、
ユーザによるウェブページの指定やウェブページに表示された再生ボタンをユーザがクリックすることにより行われ、ユーザの操作が介在しており、また、仮に被控訴人FC2が1)の送信行為を行っていると
しても、特許法は、「譲渡」と「譲受」、「輸入」と「輸出」、「提供」
と「受領」を明確に区分して規定している以上、被控訴人FC2が上
記受信行為を行っていると解すべきではない旨主張する。
しかしながら、1)については、前記aのとおり、被控訴人FC2
が、ウェブサーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設
置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファイル及びSW
Fファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送
信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操
作を介することなく、被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプ
ログラムの記述に従い、自動的に行われるものであることからすれば、
被告システム1を「生産」した主体は、被控訴人FC2であるという
べきである。
また、2)については、前記aのとおり、ウェブページの指定やウ
ェブページに表示された再生ボタンをクリックするといったユーザの各行為は、被控訴人FC2の管理するウェブページの閲覧を通じて行われるにとどまるものであり、ユーザ端末による上記各ファイルの受\n信は、上記のとおりユーザによる別途の操作を介することなく自動的
に行われるものであることからすれば、上記各ファイルをユーザ端末
に受信させた主体は被控訴人FC2であるというべきである。
したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(オ) 小括
以上によれば、被控訴人FC2は、本件生産1の1により、被告シス
テム1を「生産」(特許法2条3項1号)したものと認められる。
・・・
8 争点8(控訴人の損害額)について
(1) 特許法102条2項に基づく損害額について
ア 主位的請求関係について
控訴人は、被控訴人らが、本件特許権の設定登録がされた令和元年5月
17日から令和4年8月31日までの間、被告各システムを生産し、被
告各サービスを提供することによって、●●●●●●●●●●円を売り
上げ、これにより被控訴人らが得た利益(限界利益)の額は、●●●●
●●●●●●円を下らず、このうち令和元年5月17日から同月31日
までの分(5月分)の売上高は●●●●●●●●円、限界利益額は●●
●●●●●●円を下らないと主張する。
しかしながら、控訴人が上記主張の根拠として提出する甲24によって、
上記の売上高及び限界利益額を認めることはできず、他にこれを認める
に足りる証拠はない。
したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
イ 予備的請求関係について
(ア) 本件生産1ないし3により「生産」された被告システム1ないし3
で提供された被告各サービスの割合
前記4のとおり、被控訴人FC2は、本件生産1により被告システム
1を、本件生産2により被告システム2を、本件生産3により被告シス
テム3を「生産」し、本件特許権を侵害したものであり、本件生産1な
いし3は、いずれも、サーバがユーザ端末に動画ファイル及びコメント
ファイルを送信し、ユーザ端末がこれらを受信することによって行われ
るものである。
しかるところ、被告各サービスで配信される動画でコメントが付され
ているものの数は限られており、令和3年1月11日の時点において、
被告サービス1で公開された●●●●●●●●個の動画のうち、コメン
トが付された動画は●●●●●●●個であり(乙85)、その割合は●
●●●パーセントであったこと、被告各サービスは、日本語以外の言語
でもサービスが提供されているものの、そのユーザの大部分は国内に存
在すること(甲9、弁論の全趣旨)からすれば、被告各サービスのうち、
本件生産1ないし3で「生産」された被告システム1ないし3によって
提供されたものの割合は、本件特許権が侵害された全期間にわたって●
●●パーセントと認めるのが相当である。
(イ) 被控訴人FC2の利益額(限界利益額)
a 被告サービス1関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和4年8月31日まで
の期間の被告サービス1の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等\n一覧表の「限界利益額」欄の「被告サービス1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●●円であることが認められる。このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産1により「生産」\nされた被告システム1によって提供されたものの割合は、前記(ア)の
とおり、●●●パーセントであるから、本件生産1による売上高は、
●●●●●●●●●●●円(●●●●●●●●●●●●円×●●●●
●)と認められ、被控訴人FC2が本件生産1により得た限界利益額
は、別紙7−2限界利益額算定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産1」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●円と認められる。
b 被告サービス2関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和2年10月31日
までの期間の被告サービス2の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス2」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等一\n覧表の「限界利益額」欄の「被告サービス2」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●円であることが認められる。このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産2により「生産」\nされた被告システム2によって提供されたものの割合は、前記(ア)の
とおり、●●●パーセントであるから、本件生産2による売上高は、
●●●●●●円(●●●●●●●●円×●●●●●)と認められ、被
控訴人FC2が本件生産2により得た限界利益額は、別紙7−2限界
利益額算定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産2」欄記載のとおり、合計●●●●●●円と認められる。
c 被告サービス3関係
乙84によれば、令和元年5月17日から令和2年10月31日
までの期間の被告サービス3の売上高は、別紙6売上高等一覧表の「売上高」欄の「被告サービス3」欄記載のとおり、合計●●●●●●円であること、その限界利益額は、別紙7−1限界利益額等一覧表\の「限界利益額」欄の「被告サービス3」欄記載のとおり、合計●●●●●●円であることが認められる。
このうち、本件特許権の侵害行為である本件生産3により「生産」
された被告システム3によって提供されたものの割合は、前記(ア)の
とおり、●●●パーセントであるから、本件生産3による売上高は、
●●●●円(●●●●●●円×●●●●●)と認められ、被控訴人F
C2が本件生産3により得た限界利益額は、別紙7−2限界利益額算
定表の「限界利益内訳」欄の「本件生産3」欄記載のとおり、合計●●●●円と認められる。
d まとめ
(a) 前記aないしcによれば、被控訴人FC2が本件生産1ないし
3により得た限界利益額は、別紙7−2限界利益額算定表の「限界利益額(消費税相当分(10%)を含む)」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●●●円と認められる。\n なお、被控訴人FC2は、仮に、本件において被控訴人FC2に
対する損害賠償の支払が命ぜられるとしても、消費税上輸出免税
の対象になる旨主張するが、被控訴人FC2による被告各サービ
スの提供が輸出取引に当たることを認めるに足りる証拠はないか
ら、被控訴人FC2の上記主張は理由がない。
(b) 以上のとおり、被控訴人FC2が本件生産1ないし3により得
た限界利益額は、合計●●●●●●●●●●●円であり、この限
界利益額は、特許法102条2項により、控訴人が受けた損害額
と推定される(以下、この推定を「本件推定」という。)。
(ウ) 推定の覆滅について
被控訴人らは、被告各サービスにおいて、本件各発明のコメント表示機能\が、システム全体の機能の一部であり、顧客誘引力を有していないことは、本件推定の覆滅事由に該当する旨主張する。\n そこで検討するに、被告各サービスで配信されている動画で、その売
上高に貢献しているものの多くはアダルト動画であり(甲4の1及び2、
9、11、弁論の全趣旨)、動画上にコメントが表示されることが視聴の妨げになることは否定できないこと、令和3年1月11日の時点において、被告サービス1で公開された●●●●●●●●個の動画のうち、\nコメントが付された動画は●●●●●●●個であり(乙85)、その割
合は●●●●パーセントにとどまっていることに照らすと、被告各サー
ビスにおいて、コメント表示機能\が果たす役割は限定的なものであって、
被告各サービスの多くのユーザは、コメント表示機能\よりも動画それ自
体を視聴する目的で利用していたものと認められる。そして、本件各発
明の技術的な特徴部分は、コメント付き動画配信システムにおいて、動
画上にオーバーレイ表示される複数のコメントが重なって表\示されるこ
とを防ぐというものであり(前記1(2)イ)、その技術的意義自体も、上
記システムにおいて限られたものであると認められる。
以上の事情を総合考慮すると、被告各サービスの利用に対する本件各
発明の寄与割合は●●と認めるのが相当であり、上記寄与割合を超える
部分については、前記(イ)d(b)の限界利益額と控訴人の受けた損害額
との間に相当因果関係がないものと認められる。
したがって、本件推定は、上記限度で覆滅されるものと認められるか
ら、特許法102条2項に基づく控訴人の損害額は、上記限界利益額の
●割に相当するものであり、別紙4−2認容額内訳表の「特許法102条2項に基づく損害額」欄記載のとおり、合計●●●●●●●●●円と認められる。\n
(2) 特許法102条3項に基づく損害額について(予備的請求関係)
ア 特許法102条3項に基づく控訴人の損害額については、1)株式会社帝
国データバンク作成の「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の
在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤルテ
ィ料率に関する実態把握〜」(本件報告書)の「II).我が国のロイヤルテ
ィ料率」の「1.技術分類別ロイヤルティ料率(国内アンケート調査)」
の「(2) アンケート調査結果」には、「特許権のロイヤルティ料率の平均
値」について、「全体」が「3.7%」、「電気」が「2.9%」、「コンピ
ュータテクノロジー」が「3.1%」であり、「III).各国のロイヤルティ
料率」の「1.ロイヤルティ料率の動向」には、国内企業のロイヤルテ
ィ料率アンケート調査の結果として、産業分野のうち「ソフトウェア」については「6.3%」であり、「2.司法決定によるロイヤルティ料率調査結果」の「(i)日本」の「産業別司法決定ロイヤルティ料率(20
04〜2008年)」には、「電気」の産業についての司法決定によるロ
イヤルティ料率は、平均値「3.0%」、最大値「7.0%」、最小値
「1.0%」(件数「6」)であるとの記載があること、2)前記(1)イ(ウ)
のとおり、本件各発明の技術的な特徴部分は、コメント付き動画配信シ
ステムにおいて、動画上に複数のコメントが重なって表示されることを防ぐというものであり、その技術的意義は高いとはいえず、被告各サービスの購買動機の形成に対する本件各発明の寄与は限定的であること、\nその他本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると、本件生産1ないし3
による売上高に実施料率2パーセントを乗じた額と認めるのが相当であ
る。
そして、本件生産1ないし3による売上高(消費税相当分(10パー
セント)を含む。)の合計額は、●●●●●●●●●●●円(●●●●●
●●●●●●円+●●●●●●円+●●●●円(前記(1)イ(イ)aないし
c記載の本件生産1ないし3の各売上高に消費税相当分(10パーセン
ト)を加えた額の合計額))と認められるから、●●●●●●●●円(●
●●●●●●●●●●円×0.02)となる。
これに反する控訴人及び被控訴人らの主張はいずれも採用することが
できない。
イ そして、控訴人の特許法102条2項に基づく損害額の主張と同条3項
に基づく損害額の主張は、選択的なものと認められるから、より高額な
前記(1)イ(ウ)の同条2項に基づく損害額合計●●●●●●●●●円が本
件の控訴人の損害額と認められる。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和元年(ワ)25152
関連事件はこちら
◆平成30(ネ)10077
1審です。
◆平成28(ワ)38565
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2023.06.22
令和1(行ケ)10114 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年9月24日 知的財産高等裁判所
漏れていたのでアップします。動画配信における視聴者からのギフトの処理(CS関連発明)について、審判で進歩性無しと判断されました。知財高裁も同様です。
「・・・(D1)前記動画を視聴する視聴ユーザから前記動画の配信中に前記動画へ
の装飾オブジェクトの表示を要求する第1表\示要求がなされ,(D2)前記動画の配信中に前記動画の配信をサポートするサポーター又は前記アクターによって前記装飾オブジェクトが選択された場合に,(D3)前記装飾オブジェクトに設定されている装着位置情報に基づいて定められる前記キャラクタオブジェクトの部位に関連づけて、(D4)前記装飾オブジェクトを前記動画に表示させる,(A)動画配信システム。」というクレームです。\n
原告は,甲2には,視聴者から配信者へギフトを贈ること(ユーザーギ
フティング)が動画配信中に行われるとの記載はないので,引用発明に甲
2記載の技術を追加したとしても「動画配信中に行われた表示要求に応じ\nて,装飾オブジェクトを表示する」という本願発明の構\成には至らない旨
主張する。しかしながら,甲2には,CGキャラクターへのユーザーギフティング
を動画配信中に行うことについての記載はないものの,これを排除する旨
の記載もなく,この点は,配信時間の長さ,ギフト装着のための準備,予\n想されるギフトの数等を踏まえて,配信者が適宜決定し得る運用上の取り
決め事項といえるから,甲2のユーザーギフティング機能において,CG\nキャラクターが装着するための作品を贈る時期は,配信開始前に限定され
ているとはいえない。したがって,引用発明に上記ユーザーギフティング
機能を追加することによって,相違点1に係る「前記動画を視聴する視聴\nユーザから前記動画の配信中に前記動画への装飾オブジェクトの表示を要\n求する第1表示要求がなされ」るという構\成を得ることができる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ なお,原告は,甲2記載のCGキャラクター「東雲めぐ」が登場する実
際の番組において,ユーザーギフティングが配信開始前に締め切られてい
ること(甲9の2,甲10)を指摘する。しかしながら,そのことは,当
該番組における運用上の取り決め事項として,ユーザーギフティングの時
期を配信開始前と定めたことを示すにとどまり,上記アの判断を左右しな
い。
(3) 動機付けについて
ア 甲2には,配信も可能なVRアニメ作成ツール「AniCast」にユーザー
ギフティング機能を追加することが記載されている。一方,引用発明は,\n声優の動作に応じて動くキャラクタ動画を生成してユーザ端末に配信する
ものであるから,引用発明も「配信も可能なVRアニメ作成ツール」とい\nえる。また,ユーザーギフティング機能のような新たな機能\を追加することに
よって,動画配信システムの興趣が増すことは明らかである。
そうすると,当業者にとって,「配信も可能なVRアニメ作成ツール」\nである引用発明に対して,甲2記載の技術であるユーザーギフティング機
能を追加することの動機付けがあるといえる。\n
イ 原告は,甲1には創作したギフトを配信者に贈ることの開示はないから,
引用発明に甲2記載のユーザーギフティング機能を組み合わせる動機付け\nはない旨主張する。しかしながら,動画配信システムの興趣を増すことは当該技術分野において一般的な課題であると考えられるから,甲1自体にユーザーギフティ
ング機能又はこれに類する技術の開示又は示唆がないとしても,引用発明\nを知った上で甲2の記載に接した当業者は,興趣を増す一手段として甲2
記載のユーザーギフティング機能を引用発明に適用することを動機付けら\nれるといえる。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
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2023.05.30
平成29(ネ)10043 特許権侵害差止等請求承継参加申立控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年1月31日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
かなり前の事件ですが、漏れていたのでアップします。コンピュータ関連発明について、被告製品には構成要件C「格納手段」がないとして、非侵害と判断されました。間接侵害も否定されました。
問題の請求項は以下です。
A ユーザテレビ機器(22)上で動作する双方向テレビ番組ガイドシステムであって,
B 該システムは,複数の番組を格納するためのユーザ指示を受信したことに応答して,デジタル格納デバイス(31)に格納されるべき該複数の番組をスケジューリングする手段と,
C 双方向テレビ番組ガイドを用いて,該ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段と,
D 該複数の番組をデジタル的に格納したことに応答して,該双方向テレビ番組ガイドを用いて,該デジタル格納デバイス(31)に複数の番組データをデジタル的に格納する手段であって,該複数の番組データのそれぞれは,該複数の番組のうちの1つに関連付けられている,手段と,
E 該双方向テレビ番組ガイドを用いて,該デジタル格納デバイス(31)に格納された該複数の番組のリストをディスプレイに表示する手段と,
F 該デジタル格納デバイス(31)に格納された該複数の番組のリストから,該デジタル格納デバイス(31)に格納された番組のユーザ選択を受信する手段と,
・・・
J 該双方向テレビ番組ガイドを用いて,現在スケジューリングされている該複数の番組のうちの該選択された番組に対して,選択された番組リスト項目情報画面を該ユーザテレビ機器(22)に表示する手段であって,該選択された番組リスト項目情報画面は,該選択された番組に関連付けられた番組データの1つ以上のフィールドと,1つ以上のユーザフィールドとを含む,手段と,
K 該1つ以上のユーザフィールドにユーザ情報を入力する機会をユーザに提供する手段と
L を備えた,システム。
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 控訴人は,構成要件Cは,「双方向テレビ番組ガイド」を用いて,「デジタ\nル格納デバイス」に複数の番組をデジタル的に格納する「手段」を備えていれば,
充足することになるものであって,「デジタル格納デバイス」自体を必須の構成要素\nとして規定するものではないと主張するが,本件発明は,デジタル格納部を含むユ
ーザテレビ機器を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに係る発明であるから,
被告物件(液晶テレビ製品)が本件発明の技術的範囲に属するというためには,被
告物件が「番組をデジタル的に格納可能な部分」を含むことが必要であることは,\n
前記1のとおり補正して引用する原判決が認定説示するとおりである。
すなわち,本件発明に係る特許請求の範囲は,「ユーザテレビ機器(22)上で動
作する双方向テレビ番組ガイドシステムであって」(構成要件A),・・・「双方向テ\nレビ番組ガイドを用いて,該ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納
デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段と,」(構成要件C)・・・「を備えた,システム」(構\成要件L)と記載されているから,本件発明の双方向テ
レビ番組ガイドシステムは,ユーザテレビ機器に含まれるデジタル格納デバイスに
番組をデジタル的に格納(録画)する手段という構成を含むものである。\nそして,本件明細書には,「本発明は・・・番組および番組に関連する情報用のデ
ジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに関する。」(【0001】)
として,双方向テレビ番組ガイドシステムが「デジタル格納部を備えた」ものであ
る旨が記載されている。また,従来技術として,「番組ガイド内で選択された番組を
独立型の格納デバイス(典型的にはビデオカセットレコーダ)に格納することを可
能にする双方向番組ガイド」(【0004】)が指摘され,その操作に関し,「ビデオ\nカセットレコーダの操作には通常は,ビデオカセットレコーダ内の赤外線受信器に
結合される赤外線送信器を含む操作経路が用いられる。」(【0004】)と記載され
ており,「独立型の格納デバイス」を用いる従来技術について記載されている。その
上で,従来技術の課題として「独立型のアナログ格納デバイスを用いると,デジタ
ル格納デバイスが番組ガイドと関連付けられる場合に実施され得るようなより高度
な機能が不可能\になる。」(【0004】)と記載され,これを受けて,本発明の目的
を「デジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイドを提供すること」(【0005】)と記載している。以上に加え,「番組ガイドと関連付けられたデジタル格納デバイス
の使用は,独立型のアナログ格納デバイスを用いて行われ得る機能よりも,より高\n度な機能をユーザに提供する。」(【0009】)という記載を併せ考慮すると,本件\n発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能であった高度な機能\をユーザに
提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイスを備え
ることを目的としたものと認められる。
以上によると,被告物件が構成要件Cを充足するというためには,「番組をデジタ\nル的に格納可能な部分」を含むこと(内蔵すること)が必要というべきである。\nこれに対し,控訴人は,本件明細書の【図2】及び【0016】によると,本件
発明には,「デジタル格納デバイス」が「ユーザテレビ機器」に外部インターフェー
スを介して接続されるような構成も当然に含むように説明されていると主張するが,\n控訴人指摘の「デジタル格納デバイス31は,セットトップボックス28内に内蔵
されるか,または出力ポートおよび適切なインターフェースを介してセットトップ
ボックス28に接続された外部デバイスであり得る。」(【0016】)との記載は,
「ユーザテレビ機器22の例示的構成を示す」【図2】からも明らかなとおり,「ユ\nーザテレビ機器」の一部を構成する「セットトップボックス」内に内蔵するか,「セ\nットトップボックス」に外付けするかを記載するにとどまり,「ユーザテレビ機器」
に外付けする構成を当然に含むものということはできない。かえって,「ユーザテレ\nビ機器22の例示的構成」において,「オプション」とされている「第2の格納デバ\nイス32」(【0014】)については,「第2の格納デバイス32がユーザテレビ機
器22に内蔵されていない場合」(【0017】)との記載が認められるところ,「デ
ジタル格納デバイス」については,これと同旨の記載は見当たらない。
また,控訴人は,本件明細書の【図3】及び【0080】には,デジタル格納デ
バイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フロッピーディスク又は録画可能な\n光ディスク)である場合が説明されていると主張するところ,控訴人指摘の【00
80】には,「デジタル格納デバイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フロッ
ピーディスクまたは録画可能な光ディスク)である場合」との記載がある。しかし,\n本件明細書には,「デジタル格納デバイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フ
ロッピーディスクまたは録画可能な光ディスク)を用いる場合」(【0085】)との\n記載もあるほか,「デジタル格納デバイスは,光格納デバイスまたは磁気格納デバイ
ス(例えば,書き込み可能なデジタル映像ディスク,磁気ディスク,もしくはハー\nドドライブまたはランダムアクセスメモリ(RAM)等を用いたデバイス)であり
得る。」(【0008】),「第2の格納デバイス32は,任意の適切な種類のアナログまたはデジタル番組格納デバイス(例えば,ビデオカセットレコーダ,DVDディ
スクに録画する能力を有するデジタル映像ディスク(DVD)プレーヤ等)であり\n得る。」(【0014】),「デジタル格納デバイス31は,書き込み可能な光格納デバイス(例えば,記録可能\なDVDディスクの処理が可能なDVDプレーヤ),磁気格\n納デバイス(例えば,ディスクドライブまたはデジタルテープ),または他の任意の
デジタル格納デバイスであり得る。」(【0015】),「デジタル格納デバイス49において用いられるリムーバブル格納媒体」(【0082】),「例えばデジタル格納デバイス49がフロッピーディスクドライブであり,選択された番組を有するディスク
がドライブ内に無い場合」(【0084】),「デジタル格納デバイス49内のリムーバブルデジタル格納媒体上に格納する」(【0104】)との記載もあり,これらの記載
によると,本件明細書においては,「デジタル格納デバイス」は,「リムーバブル格
納媒体」(フロッピーディスク,DVDディスク等)と区別されるものであり,「リ
ムーバブル格納媒体」を処理することが可能な機器(フロッピーディスクドライブ,\nDVDプレーヤ等)を指すことが多いものと認められる。そうすると,控訴人指摘
の【0080】の上記記載から,直ちに本件発明にはデジタル格納デバイスがリム
ーバブル録画媒体である場合が含まれるということはできない。
(2) 控訴人は,間接侵害を主張するところ,被告物件である液晶テレビ製品は,
単に放送を受信するだけで,いずれもそれ自体に録画できるメモリー部分(デジタ
ル格納部)を備えておらず,録画先としては,外付けのUSBハードディスクやレ
グザリンク対応の東芝レコーダーとされており,これらを被告物件に接続すること
によって初めて,被告物件で受信した番組を上記ハードディスク等に録画すること
が可能であるから,デジタル格納部を被告物件に内蔵させる余地はない。そうする\nと,被告物件は,デジタル格納デバイスを含むユーザテレビ機器を備えた双方向テ
レビガイドシステムの「生産に用いる物」ということができない。
また,前記(1)のとおり,本件発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能\nであった高度な機能をユーザに提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステム\nがデジタル格納デバイスを備えることを目的としたものであり,従来技術に見られ
ない特徴的技術手段は,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイス
を備えること,すなわち,これを内蔵することにあるというべきである。そうする
と,被告物件は,デジタル格納デバイスを内蔵するものではないから,本件発明に
よる「課題の解決に不可欠なもの」であるとはいえない。
したがって,被控訴人による被告物件の製造,輸入,販売及び販売の申出は特許\n法101条2号所定の間接侵害に当たらない。これに対する控訴人の主張が理由のないものであることは,既に説示したところ
から明らかである。
なお,被控訴人は,控訴人の間接侵害の主張が時機に後れた攻撃防御方法に当た
る旨を主張するが,控訴理由書において,既に提出済みの証拠に基づき判断可能な\n主張をしたものであるから,訴訟の完結を遅延させるものとまではいえず,上記主
張を時機に後れた攻撃防御方法として却下することはしない。
◆判決本文
原審はこちら
◆平成28(ワ)37954
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2023.05.29
令和5年5月26日 知財高裁特別部判決 令和4(ネ)10046号
知財高裁は、「サーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能\・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解する」というものです。
なお、1審では、特許の技術的範囲には属するが、一部の構成要件が日本国外に存在するので、非侵害と認定されてました。\n
ア ネットワーク型システムの「生産」の意義
本件発明1は、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末装置を備え
るコメント配信システムの発明であり、発明の種類は、物の発明であるところ、そ
の実施行為としての物の「生産」(特許法2条3項1号)とは、発明の技術的範囲に
属する物を新たに作り出す行為をいうものと解される。
そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介して、サー
バと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(ネットワー\nク型システム)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構成要件\nを充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有
機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能\を有する
ようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいうものと解され
る。
イ 被告サービス1に係るシステム(被告システム1)を「新たに作り出す行為」
被告サービス1のFLASH版においては、ユーザが、国内のユーザ端末のブラ
ウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指\n定すると、被控訴人Y1のウェブサーバが上記ウェブページのHTMLファイル及
びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末が受信した、これらのファイ
ルはブラウザのキャッシュに保存され、その後、ユーザが、ユーザ端末において、
ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押すと、上\n記SWFファイルに格納された命令に従い、ブラウザが、被控訴人Y1の動画配信
用サーバ及びコメント配信用サーバに対しリクエストを行い、上記リクエストに応
じて、上記各サーバが、それぞれ動画ファイル及びコメントファイルをユーザ端末
に送信し、ユーザ端末が、上記各ファイルを受信することにより、ブラウザにおい
て動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\となる。このように、ユ
ーザ端末が上記各ファイルを受信した時点において、被控訴人Y1の上記各サーバ
とユーザ端末はインターネットを利用したネットワークを介して接続されており、
ユーザ端末のブラウザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが\n可能となるから、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の全\nての構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が新たに作り出されたものと
いうことができる(以下、被告システム1を新たに作り出す上記行為を「本件生産
1の1」という。)。
ウ 被告システム1を「新たに作り出す行為」(本件生産1の1)の特許法2条3項
1 号所定の「生産」該当性
特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、移転、効
力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内にお
いてのみ認められることを意味するものであるところ、我が国の特許法において
も、上記原則が妥当するものと解される。
本件生産1の1において、各ファイルが米国に存在するサーバから国内のユー
ザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信することは、米国と我が国にまた
がって行われるものであり、また、新たに作り出される被告システム1は、米国
と我が国にわたって存在するものである。そこで、属地主義の原則から、本件生
産1の1が、我が国の特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かが問題と
なる。
ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(国外)に設置されるこ
とは、現在、一般的に行われており、また、サーバがどの国に存在するかは、ネ
ットワーク型システムの利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵
害物件であるネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたと\nしても、当該システムを構成する端末が日本国内(国内)に存在すれば、これを\n用いて当該システムを国内で利用することは可能であり、その利用は、特許権者\nが当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るも
のである。
そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格
に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在するこ\nとを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解するこ
とは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該
システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができないこととな\nって、妥当ではない。他方で、当該システムを構成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を生じる事態となり得るものであって、\nこれも妥当ではない。
これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許権を適切に保
護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が、特許法2条
3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素\nの一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、
当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果\nたす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、\nその利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該
行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3
項1号の「生産」に該当すると解するのが相当である。
これを本件生産1の1についてみると、本件生産1の1の具体的態様は、米国
に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ
端末がこれらを受信することによって行われるものであって、当該送信及び受信
(送受信)は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信すること
によって被告システム1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われ
たものと観念することができる。
次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人Y1のサーバと国内に存在
するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ\n端末は、本件発明1の主要な機能である動画上に表\示されるコメント同士が重な
らない位置に表示されるようにするために必要とされる構\成要件1Fの判定部の
機能と構\成要件1Gの表示位置制御部の機能\を果たしている。
さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利用することが
できるものであって、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の
向上という本件発明1の効果は国内で発現しており、また、その国内における利
用は、控訴人が本件発明1に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益に影
響を及ぼし得るものである。
以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内で行われた
ものとみることができるから、本件発明1との関係で、特許法2条3項1号の「生
産」に該当するものと認められる。
これに対し、被控訴人らは、1)属地主義の原則によれば、「特許の効力が当該国
の領域においてのみ認められる」のであるから、国外で作り出された行為が特許
法2条3項1号の「生産」に該当しないのは当然の帰結であること、権利一体の
原則によれば、特許発明の実施とは、当該特許発明を構成する要素全体を実施す\nることをいうことからすると、一部であっても国外で作り出されたものがある場
合には、特許法2条3項1号の「生産」に該当しないというべきである、2)特許
回避が可能であることが問題であるからといって、構\成要件を満たす物の一部さ
え、国内において作り出されていれば、「生産」に該当するというのは論理の飛躍
があり、むしろ、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、\n我が国の特許法の効力を及ぼすという解釈の方が、問題が多い、3)我が国の裁判
例においては、カードリーダー事件の最高裁判決(最高裁平成12年(受)第5
80号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)等によ
り属地主義の原則を厳格に貫いてきたのであり、その例外を設けることの悪影響
が明白に予見されるから、仮に属地主義の原則の例外を設けるとしても、それは\n立法によってされるべきである旨主張する。
しかしながら、1)については、ネットワーク型システムの発明に関し、被疑侵
害物件となるシステムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」
に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバ\nが国外に存在する場合であっても、前記 に説示した事情を総合考慮して、当該
行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3
項1号の「生産」に該当すると解すべきであるから、1)の主張は採用することが
できない。
2)については、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かの上記判断は、
構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の\n効力を及ぼすというものではないから、2)の主張は、その前提を欠くものである。
3)については、特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その
成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該
国の領域内においてのみ認められることを意味することに照らすと、上記のとお
り当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときに特許法2
条3項1号の「生産」に該当すると解釈したとしても、属地主義の原則に反しな
いというべきである。加えて、被控訴人らの挙げるカードリーダー事件の最高裁
判決は、属地主義の原則からの当然の帰結として、「生産」に当たるためには、特
許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が、我が国の領域内に\nおいて完結していることが必要であるとまで判示したものではないと解され、ま
た、我が国が締結した条約及び特許法その他の法令においても、属地主義の原則
の内容として、「生産」に当たるためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物\nを新たに作り出す行為が我が国の領域内において完結していることが必要である
ことを示した規定は存在しないことに照らすと、3)の主張は採用することができ
ない。したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
エ 被告システム1の「生産」の主体
被告システム1は、前記イのプロセスを経て新たに作り出されたものであるとこ
ろ、被控訴人Y1が、被告システム1に係るウェブサーバ、動画配信用サーバ及び
コメント配信用サーバを設置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファ
イル及びSWFファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送
信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介するこ
となく、被控訴人Y1がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、自動
的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生産」した主体は、
被控訴人Y1であるというべきである。
オ まとめ
以上によれば、被控訴人Y1は、本件生産1の1により、被告システム1を「生
産」(特許法2条3項1号)し、本件特許権を侵害したものと認められる。
◆判決要旨
1審はこちら。
◆令和元年(ワ)25152
関連事件はこちら
◆平成30(ネ)10077
1審です。
◆平成28(ワ)38565
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2023.04. 4
令和4(行ケ)10092 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年3月27日 知的財産高等裁判所
知財高裁は、ゲームプログラムについて、新規事項である&進歩性なしとした判断は誤りであるとして、拒絶審決を取り消しました。
当初明細書等及び第2次補正後の明細書等に記載の発明の技術的意義は、前
記2(1)イ及び(2)記載のとおり、ユーザの強さの段階を基準として所定範囲内の
強さの段階にある対戦相手を抽出することにより、従来のように対戦相手をラ
ンダムに抽出する場合に比べて、対戦相手間の強さに大差が出て勝敗がすぐに
ついてしまう戦いの数を低減することができ、また、対戦相手の強さに一定の
ばらつきを含ませて対戦ゲームの難度を変化させ、ユーザのゲームに対する興
味を増大させることにある。
そして、「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユーザ」の「強さ」に、
攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテム数等が含まれることが
本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間に争いがない(本件審決第
2の2(2)イ(ウ)〔本件審決12頁〕参照)。
上記のような、対戦ゲームにおいて、強さに大差のある相手ではなく、ユー
ザに適した対戦相手を選択するという発明の技術的意義に鑑みれば、当初明細
書等記載の「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りると解するのが相当で\nあり、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」とすることは、発明の一実施形態
としてあり得るとしても、技術常識上「強さ」に含まれる要素の中から、あえ
て体力、俊敏さ、所持アイテム数等を除外し、「強さ」を「攻撃力と防御力の合
計値」に限定しなければならない理由は見出すことができない。言い換えれば、
「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定するか否かは、発明の技術的
意義に照らして、そのようにしてもよいし、しなくてもよいという、任意の付
加的な事項にすぎないと認められる。
そうすると、当初明細書等には、「強さ」の実施形態として、文言上は「攻撃
力及び防御力の合計値」としか記載されていないとしても、発明の意義及び技
術常識に鑑みると、第2次補正により、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」
に限定せずに、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータ」と補正したことによって、さらに技術的事項が追加されたも\nのとは認められず、第2次補正は、新たな技術的事項を導入するものとは認め
られない。そうすると、第2次補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内
においてされたものであると認められ、特許法17条の2第3項の規定に違反
するものではないというべきである。
したがって、本件審決が、第1次補正発明の「強さ」について、第2次補正
により「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」と補正したことは新たな技術的事項を導入するものである\nとして、第2次補正は特許法17条の2第3項の規定に違反すると判断して第
2次補正を却下した(本件審決第2)のは誤りであると認められ、本件審決に
は、原告主張の取消事由が認められる。
4 被告の主張に対する判断
(1) 被告は、当初明細書等の記載から、「強さ」が「攻撃力及び防御力の合計値」
に限定されるものであることは明らかである旨主張する(前記第3〔被告の
主張〕2(1)ア)。
しかし、前記3のとおり、「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユ
ーザ」の「強さ」に、攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテ
ム数等が含まれることが本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間
に争いがない。そして、当初明細書等に、「強さ」について「攻撃力及び防御
力の合計値」と記載された箇所があるとしても、発明の技術的意義に鑑みれ
ば、「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りるものと解され、「強さ」から\n「攻撃力及び防御力の合計値」以外の要素を除外する理由は見出されない。
対戦ゲームには様々な形態があり得るものであり、技術常識に照らすと、ゲ
ームの形態に応じて勝敗に影響する「強さ」についても種々のパラメータが
想定されるものと認められ、段落【0028】に記載の「攻撃力及び防御力
等」における「等」や図2(b)における「…」が、「強さ」の要素のうち、
攻撃力及び防御力以外の体力、俊敏さ、所持アイテム数等の要素を示すと解
することは十分に可能\である。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(2) また、被告は、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」という第2次補正後の請求項1、7及び8の\n文言によっては、「強さ」にどのようなパラメータが包含されるのかが具体的
に特定できず、第三者に不測の不利益を生じると主張する(前記第3〔被告
の主張〕2(1)イ)。
確かに、対戦ゲームには様々の形態があり得るものであり、技術常識に照
らすと、ゲームの形態に応じて勝敗に影響する「強さ」についても種々のパ
ラメータが想定されるものと認められる。
しかし、各形態のゲームにおいてどのような「強さ」のパラメータを設定
するのが適当かは、当業者であれば適宜判断し得るものと推認され、ユーザ
の強さを基準として所定範囲内の強さを有する他のユーザを対戦相手として
選択することにより、ユーザのゲームに対する興味の低下を防ぐという発明
の技術的意義に照らせば、ある形態の対戦ゲームにおいて「強さ」にどのよ
うなパラメータが含まれるかは、当業者であれば想定し得るものと推認され
る。そうすると、「強さ」が「攻撃力と防御力の合計値」に限定されていない
としても、第三者に不測の不利益をもたらすものとは認められない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(3) 被告は、第2次補正によって「強さ」が広範な概念へと拡張され、新たな
技術的事項を追加するものとなったこと、「数値が高い程前記対戦ゲームを
有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」という第2次補正後の請求項1、7及び8の文言には、どのようなパラメータが包含されるの\nかが具体的に特定できず、第三者に不測の不利益をもたらすことから、第2
次補正は認めるべきでない旨主張する(前記第3〔被告の主張〕3)。
しかし、前記(1)及び(2)において述べたとおり、被告の上記主張は採用する
ことができない。
(4) また、被告は、当初明細書等の記載から、「強さ」が「攻撃力及び防御力の
合計値」に限定されるものであることは明らかであると主張するが(前記第
3〔被告の主張〕4)、前記(1)のとおり、このような被告の主張は採用するこ
とができない。
◆判決本文
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2023.01.25
令和4(行ケ)10013 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年1月18日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について進歩性なしと判断されました。本人出願・本人訴訟です。多くの分割出願があります。
【請求項1】は以下です
コンピュータによって実行される方法であって、
サービスの要求を受けるステップと、
前記要求を処理するために指示情報を使用するステップと、を含み、
前記指示情報が認証情報に基づいて設定された情報であり、
25 前記認証情報が物品から取得される情報であり、
前記物品が前記認証情報を利用者に提供する物品である、方法。
上記記載によれば、引用発明においては、利用者が、自分が所持する携
帯電話機1に店舗ID、暗証番号、決裁(決済)方法、商品の購入金額を
入力し、QR決裁証明鍵発行要求として認証サーバ41に送信し、QR決
裁証明鍵発行要求を受信した認証サーバ41は、店舗及び利用者の認証処
理を行い、認証が認められる場合、決済方法の情報を含むQR決裁証明鍵
を生成し、これを携帯電話機1に送信し、その後、利用者が店舗において
購入希望商品の発注を行う際、店舗端末22に付属したQRコード読取装
置21は、携帯電話機1の表示部11に表\\示されたQR決裁証明鍵120
1を読み取るとともに、携帯電話機1の正面あるいは側面に印刷された標
識19,20から携帯電話製造番号と携帯電話番号を読み取り、その読取
結果を店舗端末22に転送し、店舗端末22は、携帯電話機1から読み
取った携帯電話製造番号、携帯電話番号及びQR決裁証明鍵1201を決
裁承認要求として認証サーバ41に送信し、認証サーバ41が、携帯電話
製造番号及び携帯電話番号が正当か否かを利用者情報DB44の登録内
容と照合して調べ、この結果、いずれか一方の番号が未登録のものである
か、登録された番号と異なる場合には、不正利用であるものと判断し不正
利用情報データベースに登録した後、不正利用メッセージを店舗端末22
及び携帯電話機1に送信し、一方、携帯電話製造番号及び携帯電話番号の
両方が正当なものであり、しかも店舗端末22から受信したQR決裁証明
鍵1201の情報(全部または一部)が自分自身で発行した正規のもので
あると認められた場合には、認証サーバ41は詳細決裁承認を店舗端末2
2に返信し、店員が、利用者本人に購入意思を確認した上で、決済処理が
行われていることを理解できる。
しかるところ、前記アのとおり、引用発明において、認証サーバ41が
「決済承認要求」(引用例1記載の「決裁承認要求」。以下同じ。)を受け付
けることは、本願発明の「サービスの要求を受けるステップ」に相当する
ものである。そして、認証サーバ41は、決裁承認要求を受け付けると、
決裁承認要求に含まれる携帯電話製造番号及び携帯電話番号の両方が正
当であることを利用者情報DB44の登録内容と照合して確認し、かつ、
QR決裁証明鍵が自ら発行した正規のものであると認めた場合、決裁承認
要求に係る決裁承認を店舗端末22に返信していることからすれば、認証
サーバ41が、利用者情報登録DB44に登録された携帯電話機1の携帯
電話製造番号及び携帯電話番号と紐づけて自らが発行したQR決裁証明
鍵の情報を管理し、店舗端末22から送信された決裁承認要求に含まれる
携帯電話製造番号、携帯電話番号及びQR決裁証明鍵の情報が上記情報と
一致する場合には、決裁承認の処理を行い、そうでない場合には、決裁承
認の処理を行わない制御を行うための情報を有していることは自明であ
り、また、利用者情報登録DB44に登録された携帯電話製造番号及び携
帯電話番号が携帯電話機1から取得されたことも自明である。
そうすると、かかる制御を行うための情報は、「コンピュータ」である認
証サーバ41が、「サービスの要求」としてのQR決裁承認要求を認めるか
否かを処理するために使用する情報であって、「物品」である携帯電話機1
から取得される「認証情報」である携帯電話製造番号及び携帯電話番号に
基づいて設定された情報であるといえるから、本願発明の「指示情報」に
相当するものと認められる。
以上によれば、引用例1に接した当業者は、引用発明において、かかる
制御を行うための情報を有しているものと理解するから、相違点1に係る
本願発明の構成(「(QR決裁承認要求に係る)前記要求を処理するために指示情報を使用するステップ」の構\成)及び相違点2に係る本願発明の構\n成(「前記指示情報が認証情報に基づいて設定された指示情報」であるとの
構成)とすることを容易に想到することができたものと認められる。\n
◆判決本文
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2023.01.12
令和4(行ケ)10039 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年12月21日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性無しとした審決が維持されました。出願人はぐるなびです。
ア 前記(1)のとおり、相違点3は、施設端末に予約内容を通知した後、ユーザー\n端末に第2施設の情報を通知する処理を行うことにつき、本願補正発明では、前記
施設端末からの返信を有効に受け付ける期間として予め設定された待機期間内に前\n記施設端末からの返信がない場合であるのに対し、引用発明では、施設端末から受
信する予約結果情報の予\約登録可否の結果がNGであった場合である点で相違する
というものである。
イ ところで、施設の予約は、利用日又は利用日時を指定して行うものであり、\n予定される利用日又は利用日時よりも前に予\約を完了するという本来的な要請があ
る。そして、引用発明は、ある特定の施設の予約を目的とするものではなく、利用\n者の希望する条件に合致した複数の施設を対象とし、一つの施設の予約ができなか\nった場合に、別の施設の予約をすることが可能\であるような施設予約システムにお\nける予約方法であるところ、前記2(1)イのとおり、引用発明における施設予約シス\nテムは、「施設予約情報サーバ30から、当該予\約情報に基づく、自動的、あるいは
宿泊施設の予約担当者により判断される予\約登録可否(OKかNG)の予約結果情\n報を受信し、」「受信した予約結果情報の予\約登録可否の結果がNGであった場合」
に、次の候補となる施設の検索をしてユーザーに送信して、ユーザーが別の施設の
予約を行うものとされているから、施設端末に当たる「施設予\約情報サーバ」から
の予約結果情報の受信は、宿泊施設の予\約担当者による判断の時期によっては、相
当程度に遅くなる場合も想定され、その間に、当初の検索条件に合致する別候補の
施設の予約枠が埋まってしまうこともある。\nそうすると、引用発明には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者\nの希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができ\nないおそれがあるといえる。
ウ 次に、前記2(2)イの引用文献2記載技術をみると、宿泊施設の仮予約におい\nて、「ホテル端末103が宿泊可否の通知を一定時間経過(タイムアウト)しても行
わなかった場合、ホテル端末103に対して、キャンセルの通知を送信し、次のホ
テルへ空き問い合わせ情報を送信する」ものであるから、甲2には、施設端末が、
一定時間を経過しても予約可否の回答をしなかった場合には、キャンセルとして扱\nい(以下「タイムアウト処理」という。)、次の施設に問い合わせるという技術が開
示されているといえる。そして、予定される利用日又は利用時間よりも前に、タイ\nムアウト処理をして、次の施設に問合せをすることで、最初に問合せをした施設か
らの回答を待っていたために、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者\nの希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができ\nなくなるという事態を回避するのに、一定の効果があると認められる。
エ ところで、引用発明と引用文献2記載技術とは、複数の施設を対象とした施
設予約システムにおける施設予\約方法という共通の技術分野に属するものであって、
第1施設に対して予約可否の問合せを行い、第1施設から予\約不可の返信を受けた
場合には第1施設に類似する他の施設を抽出するという手法も共通するところ、前
記イのとおり、引用発明において、第1施設から予約可否の返信が長時間送信され\nない場合には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件\nに合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができないおそれがあ\nるところ、上記本来的な要請を満たすために、第1施設からの予約可否の返信を長\n時間待ち続けるという事態を回避しようとすることは、当業者であれば当然に着想
するものと認められるから、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を
適用する動機付けがあるといえる。
そして、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を適用すると、引用
発明は、施設端末からの返信を有効に受け付ける期間としてあらかじめ設定された
待機期間内に前記施設端末からの返信がない場合には、予約結果情報の予\約登録可
否の結果がNGであった場合と同様に、予約内容に基づいて第1施設を除く一又は\n複数の第2施設を抽出し、前記抽出された一又は複数の前記第2施設の情報を前記
ユーザー端末に通知する処理を行うことになる。
そうすると、相違点3に係る構成は、引用発明に引用文献2記載技術を適用する\nことより、当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。
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