2024.08.21
令和5(行ケ)10098 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年5月14日 知的財産高等裁判所
数値限定発明について、進歩性違反なしとした審決が取り消されました。被告(特許権者)は、動機付けがないと主張しましたが、裁判所は設計事項と判断しました。
ア 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕(1)アのとおり、相違点2が設計事
項であるとは認められない旨主張する。
しかし、前記(1)イのとおり、本件明細書の記載からは、「(A)成分以外
の界面活性剤」という意味での(G)成分は、含まれていてもよいという
位置付けの成分であって、重要性が高くなかったものであり、本件発明1
で特定された(G)成分に含まれるG−2、G−2’及びG−3について
も、本件防臭効果評価において、これらの成分を用いた実施例が他の実施例に比べて優れた防臭効果を得られていないことからすれば、本件発明1
において、(G)成分を一般式(I)又は一般式(II)に特定したことに
格別な技術的意義があるとは認められず、少なくとも、ノニオン界面活性
剤((G)成分)の含有量を、甲1発明における含有量の範囲内で検討し、
「20〜25質量%」としたことは、当業者における設計事項であると認
められる。したがって、被告の上記主張は採用することができない。
イ 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕(2)イのとおり、甲1発明における
ノニオン界面活性剤成分を本件発明1の(G)成分に置き換える動機付け
がない旨主張する。
しかし、甲1発明のNI(7EO)と、本件発明1の(G)成分の式(I
I)で表される化合物とは、一般式において共通し、R4(炭素数12及び\n14の天然アルコール由来の炭化水素)の部分においてのみ異なるが(前
記2(2)イ)、炭素数12及び14の天然アルコール由来の炭化水素は、甲1
発明のNI(7EO)のRである「C12からC15のアルキル鎖」に包
含されるものであることが明らかであり、かつ、天然アルコール由来の炭
化水素と合成アルコール由来の炭化水素とで、いずれか一方が他方よりも
衣料用洗浄剤の組成物に適しているとの技術常識があるとは認められな
いから(前記(1)ア、ウ)、甲1発明のNI(7EO)において、「C12か
らC15のアルキル鎖」の原料として、天然アルコール(炭素数12及び
14の直鎖アルコール)を選択する動機付けがなかったとはいえず、相違
点2に係る構成を想到し得ないとも解されない。\nしたがって、被告の上記主張は採用することができない。
ウ 被告は、相違点1に関し、甲1発明において(C)成分の含有量を特定
することによって本件各発明に係る特定の洗浄剤組成物に至る動機付けはないと主張する。この点、甲1発明において(C)成分に相当する成分であるMGDA(T
rilon M)について、甲1は、製剤の抗菌効果を向上させる添加剤
の一つであるとしており(別紙3「文献の記載」1(5))、MGDAのような
添加剤の使用はDCPPによる殺菌効果を高めるものであると記載して
いる(別紙3「文献の記載」1(8))。
そうすると、甲1発明において、DCPPによる殺菌効果ないし抗菌効
果を高め、臭気の抑制効果を高めるのに十分となるように、その含有量を\n甲1発明の範囲(0.1〜5wt%)内で設定し、0.1ないし1.5質
量%にすることは当業者が適宜なし得たことにすぎないというべきであ
り、甲1発明の上記数値範囲の中から本件発明1の(C)成分の割合を選
択する動機付けがないとはいえず、相違点1に係る構成を想到し得ないと\nも解されない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
エ 被告は、相違点3に関し、相違点3が設計事項にすぎないとはいえない
とか、甲1発明においてA/C比を調整することによって本件発明1に係る特定の洗浄剤組成物に想到する動機付けはないなどと主張する。
しかし、上記ウのとおり、甲1の記載によれば、甲1発明において(C)
成分に相当するものであるMGDAは、DCPPによる殺菌効果を向上さ
せるための添加剤として配合され、その含有量の範囲が示されているので
あるから、その含有量の範囲内で数値の範囲を選択することは、当業者の
設計事項であるといえる。また、甲1発明には(A)成分に相当するアニ
オン界面活性剤が配合されているところ、甲31(別紙3「文献の記載」
7)、甲33(別紙3「文献の記載」8)には、それぞれ別紙3「文献の記
載」7及び8のとおりの記載が存在し、これらの記載によれば、アニオン
界面活性剤は、衣類の洗浄の成分であり、他の成分による消臭効果を向上
させる効果も有することが、本件出願日時点における技術常識であったと
認められるから、甲1発明のアニオン界面活性剤の含有量を、その洗浄等
の効果を高めるのに十分なように、甲1発明における範囲内(合計で12\n〜32wt%)で検討することも、当業者の設定事項であるといえる。
そうすると、(A)成分と(C)成分を甲1発明に記載の各含有量の数値
範囲内で設定した結果として、A/C比を最小で2.4、最大で320(前
記2(4)ア)の範囲内である「10〜100」とすることも、当業者にとっ
て格別の創意工夫を要するとはいえず、当業者の設計事項であるといえる
し、A/C比を「10〜100」とする動機付けがないともいえないから、
相違点3に係る構成を想到し得ないとは解されない。\n
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2024.03.23
令和4(ワ)9521 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月26日 大阪地方裁判所
熱可塑性樹脂組成物について、構成要件1B「・・・分子量700以上・・」について、第1要件充足せずとして、均等侵害が否定されました。ちなみに、被告製品「分子量699」であり、「700」という数値に臨界的意義はありません。
該当特許はこちらです。
◆特許4974971
ア 本件各発明は、耐熱性透明材料として好適な熱可塑性樹脂組成物と、当該
組成物からなる樹脂成形品ならびに樹脂成形品の具体的な一例である偏光
子保護フィルム、樹脂成形品の製造方法に関する発明である(【0001】)。
アクリル樹脂の透明度の低下を防止するためにUVAを添加する方法が
公知であったが、成形時の発泡やUVAのブリードアウト、UVAの蒸散に
よる紫外線吸収能の低下との問題につき、従来技術として、アクリル樹脂に組み合わせるUVAとして、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物およびベンゾフェノン系化合物が用いられていた(【0003】、【00\n05】、【0006】)。しかし、これらの従来技術として例示されたアクリル
樹脂(【0006】記載の特許文献)には、いずれも分子量が700以上のU
VAは開示されていなかった。
イ 本件各発明は、従来技術の化合物には、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂との相溶性に課題があり、高温成形時の発泡やブリードアウトの発生の抑制が不十\分であったことから、これらの課題を克服するため(【0007】、【0008】)、樹脂組成物を構成要件1B記載の構\成とし、その製造方法を構成要件6B記載の構\成とし(【0009】、【0010】)、これにより11
0゜C)以上という高いTgに基づく優れた耐熱性や高温成形時における発泡
及びブリードアウトの抑制、UVAの蒸散による問題発生の減少との効果を
奏することとなった(【0015】)。
ウ したがって、本件各発明の本質的部分は、ヒドロキシフェニルトリアジン
骨格を有する、分子量が700以上のUVAが、主鎖に環構造を有する熱可塑性アクリル樹脂と相溶性を有することを見出したことにより、110゜C)以
上という高い優れた耐熱性や高温成形時における発泡及びブリードアウト
の抑制、UVAの蒸散による問題発生の減少という効果を有する樹脂組成物
を提供することを可能にした点にあると認められる。
エ 数値をもって技術的範囲を限定し(数値限定発明)、その数値に設定する
ことに意義がある発明は、その数値の範囲内の技術に限定することで、その
発明に対して特許が付与されたと考えられるから、特段の事情のない限り、
その数値による技術的範囲の限定は特許発明の本質的部分に当たると解す
べきである。
上記検討によれば、分子量を「700以上」とすることには技術的意義が
あるといえるうえ、本件において、上記特段の事情は何らうかがえない。
オ そうすると、被告UVAの分子量が「700以上」ではないとの相違点は、
本件各発明の本質的部分に係る差異であるというべきであるから、被告製品
及び被告方法について、均等の第1要件が成立すると認めることはできず、
均等侵害は成立しない。
カ 原告は、本件各発明におけるUVAの分子量である「700」に厳格な技
術的意義はなく、本件各発明の本質的部分は、分子量が十分に大きいという上位概念であると主張する。 しかし、このような上位概念化は、前述の数値限定発明の技術的意義に関
する考え方と相容れず権利範囲を不当に拡大するものである。また、本件証
拠上、本件各発明におけるUVAの分子量が十分に大きいということが当業者にとって自明であるとも認められないし、分子量が十\分に大きいことと、被告UVAの分子量との比較における本件各発明の数値の臨界的意義との
関係は何ら明らかにされていない。
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2024.01.19
令和4(行ケ)10081 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟__全文__知的財産裁判例 令和5年7月13日 知的財産高等裁判所
ゴルフシャフトの数値限定発明(バラメータ)について、サポート要件違反とした審決が維持されました。
a バイアス層の合計重量(B(g))をバイアス層の合計重量とシャフト全体
にわたって位置するストレート層(以下、単に「ストレート層」という。)の合計
重量の和(B(g)+S(g))の50%以上とすることにより得られる効果等に
関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明のゴルフクラブ用シャフトは、
シャフトに使用するバイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置
するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦
0.8・・・(1)を満たすことが重要である。(1)は、技量が高いゴルファー
やスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なトルクTq(°)
を生み出す要素を示している。つまり、(1)を満たさないゴルフクラブ用シャフ
トは、シャフトが捩じれすぎたり、または捩じれないがためにシャフトが折損して
しまう原因につながる。」との記載(【0014】)があり、また、本件効果が得
られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例1における
各B/(B+S)がそれぞれ0.6及び0.4であるとの記載(【表4】)がある。\nしかしながら、これらの記載は、本件各発明におけるB/(B+S)に係る0.5
との数値が実施例1における0.6及び比較例1における0.4の中間値であるこ
とを含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重
量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切
に説明するものとはいえず、したがって、構成3のうちバイアス層の合計重量をバ\nイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とするとの点につ
いては、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本
件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、バイアス層の重量の割合を大きくすることでシャフトのトルクを小
さくできることは自明であり本件出願日当時の技術常識であるとして、本件出願日
当時の当業者は実施例1と比較例1との比較から、バイアス層の合計重量をバイア
ス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上としておけば、その他
の条件を技術常識の範囲内で適宜調整して決定することで、容易にTq≦4.0°
の構成(構\成2)が得られるものと理解し得ると主張する。しかしながら、バイア
ス層の重量の割合を大きくすることでシャフトのトルクを小さくできることが本件
出願日当時の技術常識であったとしても、原告の上記主張は、実施例1と比較例1
を比較する点を含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート
層の合計重量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかに
ついて適切に説明するものとはいえず、その他、バイアス層の合計重量をバイアス
層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とすることにより本件課
題が解決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、
構成3のうちバイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計\n重量の和の50%以上とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当
時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるという
ことはできない。
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2023.07.20
令和4(行ケ)10081 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年7月13日 知的財産高等裁判所
特許異議申立にて、サポート要件違反として取り消された特許の取消を求めました。知財高裁はサポート要件違反とした審決を維持しました。発明はゴルフクラブのシャフトで、\n「・・・シャフトのトルクをTq(°)とした場合に、1.6≦Tq≦4.0を満たし、前記バイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に、0.05≦A/B≦0.12を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に、1.0≦A/C≦1.8を満たす」
というパラメータ発明です。
前記(2)アによると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件各発明について、
次のとおりの記載がされているということができる。すなわち、本件各発明は、繊
維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト(以下、単に「シャフト」ということがあ
る。)に関するものである。ゴルフのスコアを良くするためには、打球の飛距離の
安定性及び左右への方向安定性を得ることが非常に重要であり、そのためには、三
つの要素(ボールの初速、打ち出し角度及びスピン量)のばらつきを減少させてこ
れらを安定させる必要があるところ、ボールを打撃する瞬間のシャフトの変形(特
にシャフトの細径部の変形)がこれらの要素の安定性に大きな影響を及ぼすため、
シャフトの細径部のねじり剛性を上げることによりこれらの要素を安定させ得るこ
とが従来から知られていた。しかしながら、単にシャフトの細径部のねじり剛性を
上げると、フィーリングが硬くなったり、ヘッドの返りが極端に悪くなったり、ヘ
ッドのトゥダウンが抑制されすぎて飛距離が小さくなったりするなどのデメリット
が生じるほか、弾性率の高い炭素繊維の使用量を多くしすぎることによるシャフト
の強度の低下を招き、シャフトの折損が生じやすくなるという問題があった。本件
各発明は、このような問題を解決し、特にねじり剛性が高いシャフトにおいても、
スイングの安定性が高く、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右されること
なく飛距離の安定性と方向安定性の双方に優れたシャフト(ねじり剛性の高いシャ
フト(ロートルクのシャフト))を提供することを目的とするものである。本件各
発明は、前記第2の2のとおりの構成とすることにより、プレーヤーの力量に左右\nされることなく、飛距離の安定性及び左右へのばらつきの少ない方向安定性の双方
に優れたシャフトが得られるとの効果を奏する。
以上によると、本件各発明の課題は、「ねじり剛性が高い繊維強化樹脂製のゴル
フクラブ用シャフト(ロートルクの繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト)で
あって、スイングの安定性が高く、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右さ
れることなく飛距離の安定性と方向安定性の双方に優れたものを提供すること」
(以下「本件課題」という。)であると認めるのが相当である。
(4) 決定取消事由の1(構成2ないし5に係るもの)について\n
ア 構成2について\n
(ア) Tq≦4.0°について
a シャフトのトルク(Tq)を4.0°以下とすることにより得られる効果等
に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「トルク(Tq)を4.0°以下と
することによって、ゴルファーの力量が飛距離の安定性や左右への方向安定性に与
える影響を低減させることができ、これらの両立を達成できる傾向にある。」との
記載(【0021】)があり、また、「ねじり剛性が高い繊維強化樹脂製のゴルフ
クラブ用シャフト(ロートルクの繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト)であ
って、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右されることなく飛距離の安定性
と方向安定性の双方に優れたものが得られる」との効果(以下「本件効果」とい
う。)が得られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例
1の各トルク(°)がそれぞれ2.4及び4.8であるとの記載(【表4】)があ\nる。しかしながら、これらの記載は、シャフトのトルクを4.0°以下とすること
によりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、し
たがって、構成2のうちシャフトのトルクを4.0°以下とするとの点については、\n本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を
解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、低トルクのシャフト(ねじり剛性が高いシャフト)が飛距離の安定
性及び方向安定性において優れていることは本件出願日当時の技術常識であり、本
件出願日当時の当業者は実施例1と比較例1との比較から、シャフトのトルクを4.
0°以下とすることにより飛距離の安定性及び方向安定性(比較例1よりも優れた
飛距離の安定性及び方向安定性)が得られるものと理解し得ると主張する。しかし
ながら、原告の上記主張並びに原告が上記技術常識に係る証拠として提出する甲1
2及び21ないし23は、シャフトのトルクを4.0°以下とすることによりなぜ
本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、シャ
フトのトルクを4.0°以下とすることにより本件課題が解決されるとの本件出願
日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成2のうちシャフトのトル\nクを4.0°以下とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の
技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということ
はできない。
c なお、原告は、本件各発明が構造力学に基づく物理学的な発明であって、発\n明の実施方法や作用機序等を理解することが比較的困難な技術分野(薬学、化学等)
に属する発明ではないとして、構成2の境界値の厳密な根拠が本件明細書に記載さ\nれている必要はないと主張するが、本件各発明が構造力学に基づく物理学的な発明\nであることをもって、シャフトのトルクを4.0°以下とすることにより本件課題
が解決される理由を本件明細書の発明の詳細な説明において適切に説明する必要が
ないということはできないから、原告の上記主張を採用することはできない(この
点については、以下の構成2のうちシャフトのトルクを1.6°以上とするとの点\n及び構成3ないし5についても同じである。)。\n
・・・
b 原告は、本件各発明は細径部のトルクを小さくすることが飛距離の安定性及
び方向安定性を高めるとした甲6発明の効果を前提としつつ、更に非熟練ゴルファ
ーにとってのデメリット(フィーリングが硬くなったりヘッドの返り(トゥダウン)
が悪くなったりすること)を克服するとの課題を解決するものであり、加えて、本
件各発明におけるA/Bに係る0.05以上0.12以下との数値範囲が実施例1
におけるA/B(0.08)をほぼ中央値とするものであることも併せ考慮すると、
本件出願日当時の当業者は細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%
以上とすることで、上記のデメリットを回避しつつ、飛距離の安定性及び方向安定
性を高め得るものと理解し得ると主張する。しかしながら、甲6によっても、本件
出願日当時の当業者において、細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の
5%以上とすることにより上記のデメリットを回避しつつ、飛距離の安定性及び方
向安定性を高め得るものと理解し得たとの事実を認めることはできず、その他、そ
のような事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件各発明におけるA/
Bに係る0.05以上0.12以下との数値範囲が実施例1におけるA/B(0.
08)をほぼ中央値とするものであることを考慮しても、原告の上記主張は、細径
側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることによりなぜ本件
課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、細径側バ
イアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることにより本件課題が解
決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成4\nのうち細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とするとの点に
ついては、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決
できると認識できる範囲のものであるということはできない。
オ 原告のその余の主張(決定取消事由の1(構成2ないし5に係るもの)に関\n連するもの)について
(ア) 原告は、低トルクのシャフト(ねじり剛性が高いシャフト)が飛距離の安
定性及び方向安定性において優れているとの技術常識並びにバイアス層を増やすこ
とにより低トルクのシャフトが得られるとの技術常識を有する本件出願日当時の当
業者が本件明細書を読めば、実施例1及び比較例1における各トルクから、トルク
を比較例1のそれよりも有意に小さい4.0°以下とし、実施例1及び比較例1に
おける各バイアス層の割合(B/(B+S))から、バイアス層の割合(B/(B
+S))を比較例1のそれよりも有意に大きい0.5以上とすることにより、比較
例1よりも良好な飛距離の安定性及び方向安定性が得られるであろうことを当然に
理解し得ると主張する。しかしながら、実施例1及び比較例1の記載から、本件出
願日当時の当業者において、トルクを比較例1のそれ(4.8°)よりも有意に小
さい角度とすること及びバイアス層の割合(B/(B+S))を比較例1のそれ
(0.4)よりも有意に大きい値とすることにより、比較例1よりも良好な飛距離
の安定性及び方向安定性を示すであろうと推測し得るとしても、当該当業者におい
て、トルクを具体的に(1.6°以上)4.0°以下とすること及びバイアス層の
割合(B/(B+S))を具体的に0.5以上(0.8以下)とすることにより、
本件課題を解決できると認識できるとは認められない。
(イ) 原告は、本件出願日当時の当業者は本件明細書の記載により、本件各発明
の構成要件を充足し、その他の条件につき当該当業者が技術常識の範囲内で決定し\nたシャフトであれば、その飛距離及び方向が比較例1のシャフトにおける飛距離及
び方向と比較してより安定したものとなることを容易に理解し得ると主張する。し
かしながら、前記アないしエにおいて説示したところに照らすと、仮に本件各発明
の課題が飛距離及び方向において比較例1のシャフトよりも安定したシャフトを得
ることであるとしても、実施例1及び比較例1を含む本件明細書の発明の詳細な説
明の記載により、本件出願日当時の当業者において、本件各発明の構成要件を充足\nするシャフトであれば当該課題を解決できると認識できると認めることはできない
というべきである。
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2023.05.19
令和4(行ケ)10003 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年4月27日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決が維持されました。
(3) 相違点1の容易想到性について
ア 相違点1のうち、甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換
する動機付けがあることについては、一次判決の拘束力が及び、当事者間
に争いもない。
イ 甲1発明と甲5文献記載事項の組合せにより、相違点1のうち、本件数
値範囲を容易に想到することができるかについて
甲5発明は、前記(2)のとおり、甲1発明における塩素剤の添加により
トリハロメタン類が生成されるという課題があることを前提として、工
業用海水冷却水系にあらかじめ過酸化水素剤を特定の濃度で分散させた
後、塩素剤を特定の濃度で添加するという解決手段を採用しているので
あり、かつ、各特定の濃度について、過酸化水素剤は「0.01〜2mg
/l」、塩素剤は「トリハロメタン類の生成を防止しうる濃度又はそれ以
下の濃度」である「使用される過酸化水素の1モル当り、0.03〜0.
8モル(ただし、有効塩素として)に相当する濃度で、かつ、海水冷却水
に対して0.01〜1.0mg/l(ただし、有効塩素として)」として
いるのである(別紙3の【請求項1】及び【請求項2】参照)。そうする
と、甲5発明は、甲1発明における上記課題を、それ自体で解決しており、
かつ、塩素剤の使用を前提としているのであるから、当業者において、甲
1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に甲5
発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえない。
また、甲5文献は、二酸化塩素の添加を想定していないから、二酸化塩
素の特定の濃度割合を開示するものでもない。
したがって、当業者が、甲1発明と甲5文献の組合せにより、相違点1
のうち、本件数値範囲を容易に想到することができるとはいえない。
原告は、前記第3の1(1)ウ のとおり、甲5文献の実施例の16ない
し20には、甲1発明における有効塩素発生剤濃度及び過酸化水素濃度
を、それぞれ「0.02〜0.4mg/L」及び「0.18〜1.05m
g/L」とすることで、充分な海生生物の付着防止効果が得られること
が開示されており、当業者が、これについて本件換算(有効塩素発生剤濃
度を2.6で除する。)により、有効塩素発生剤から置換した二酸化塩素
の濃度を「0.01〜0.15mg/L」という範囲とすることは容易で
ある旨主張する。
甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に
甲5発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえないことは前記
のとおりであるから、そもそも原告の上記主張は前提を異にするもの
というべきであるが、この点は措くにしても、以下の理由で原告の主張
はいずれにしても採用し得ない。
甲5文献の【表3】及び【表\4】には、過酸化水素溶液と有効塩素発生
剤として次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用して、両者の併用によるムラ
サキイガイの成長度合いを調査するため、実施例16ないし20では別
紙3の図1(過酸化水素の拡散器あり)、比較例21ないし24では別紙
3の図2(過酸化水素の拡散器なし)の塩化ビニル管のモデル水路を用
いて、塩化ビニル管に海水を一過式に通水する方法で試験を行い、ムラ
サキイガイの殻長を計測して、試験前後の殻長差より成長度合いを求め
た結果が示されている。
実施例16では過酸化水素0.35ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.
40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm。小数点3桁以
下四捨五入。以下同じ)、実施例17では過酸化水素0.35ppm、次
亜塩素酸ナトリウム0.07ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.0
3ppm)、実施例18では過酸化水素0.70ppm、次亜塩素酸ナト
リウム0.40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm)、
実施例19では過酸化水素1.05ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.2
0ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.08ppm)、実施例20で
は過酸化水素0.18ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.02ppm(本
件換算をすると二酸化塩素0.01ppm)で試験が行われているとこ
ろ(なお、溶媒が比重1の水である場合には、ppmとmg/Lの数値は
同等。)、確かに、これらの実施例については、本件換算をすれば、相違
点1に係る本件特許発明1の構成のうち、二酸化塩素0.01〜0.15mg/L、過酸化水素0.18〜1.05mg/Lとなるような組合せが\n開示されているといえる。しかしながら、これらは、甲5発明の実施例で
あり、その課題解決手段である過酸化水素の拡散器を備えたことを前提
とするものであって、当業者が、このような拡散器を備えないまま、実施
例16ないし20に係る本件換算後の二酸化塩素濃度と過酸化水素濃度
の数値のみを甲1発明に単純に適用しようと考えるとは認められない。
かえって、過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムの添加量が同じである、
実施例18と比較例23を比較すると、1m3/hの海水を一過式に通水
し、その間両薬剤を所定濃度になるように24時間添加し、40日間試
験をした後におけるムラサキイガイの成長度(殻長mm)が、実施例18
では、注入点から0.5、4、8、16、24、48mのいずれの距離で
も0.1mmであったのに対し、比較例23では、1.0mmから4.5
mmの範囲となっており、ムラサキイガイの成長度抑制結果において、
比較例23が実施例18より劣ることが示されているから、当業者は、
甲5発明のような改良がされる前の甲1発明について、甲5文献に記載
の数値範囲のみを適用しようとすると、比較例23のような結果しか得
られないと認識することになるといえる。
仮に、原告が、甲1発明において、甲5文献に記載の数値範囲を、過酸
化水素の拡散手段等、甲5発明の特定手段と併せて適用することの容易
想到性をも主張しているのであるとすれば、それは、甲5発明に基づき
本件数値範囲の容易想到性を主張しているのに等しい。そして、甲5発
明に基づき本件数値範囲が容易想到であるとの主張が採用できないこと
は後記3のとおりである。
◆判決本文
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2023.05.19
令和4(行ケ)10003 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年4月27日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決が維持されました。
(3) 相違点1の容易想到性について
ア 相違点1のうち、甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換
する動機付けがあることについては、一次判決の拘束力が及び、当事者間
に争いもない。
イ 甲1発明と甲5文献記載事項の組合せにより、相違点1のうち、本件数
値範囲を容易に想到することができるかについて
甲5発明は、前記(2)のとおり、甲1発明における塩素剤の添加により
トリハロメタン類が生成されるという課題があることを前提として、工
業用海水冷却水系にあらかじめ過酸化水素剤を特定の濃度で分散させた
後、塩素剤を特定の濃度で添加するという解決手段を採用しているので
あり、かつ、各特定の濃度について、過酸化水素剤は「0.01〜2mg
/l」、塩素剤は「トリハロメタン類の生成を防止しうる濃度又はそれ以
下の濃度」である「使用される過酸化水素の1モル当り、0.03〜0.
8モル(ただし、有効塩素として)に相当する濃度で、かつ、海水冷却水
に対して0.01〜1.0mg/l(ただし、有効塩素として)」として
いるのである(別紙3の【請求項1】及び【請求項2】参照)。そうする
と、甲5発明は、甲1発明における上記課題を、それ自体で解決しており、
かつ、塩素剤の使用を前提としているのであるから、当業者において、甲
1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に甲5
発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえない。
また、甲5文献は、二酸化塩素の添加を想定していないから、二酸化塩
素の特定の濃度割合を開示するものでもない。
したがって、当業者が、甲1発明と甲5文献の組合せにより、相違点1
のうち、本件数値範囲を容易に想到することができるとはいえない。
原告は、前記第3の1(1)ウ のとおり、甲5文献の実施例の16ない
し20には、甲1発明における有効塩素発生剤濃度及び過酸化水素濃度
を、それぞれ「0.02〜0.4mg/L」及び「0.18〜1.05m
g/L」とすることで、充分な海生生物の付着防止効果が得られること
が開示されており、当業者が、これについて本件換算(有効塩素発生剤濃
度を2.6で除する。)により、有効塩素発生剤から置換した二酸化塩素
の濃度を「0.01〜0.15mg/L」という範囲とすることは容易で
ある旨主張する。
甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に
甲5発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえないことは前記
のとおりであるから、そもそも原告の上記主張は前提を異にするもの
というべきであるが、この点は措くにしても、以下の理由で原告の主張
はいずれにしても採用し得ない。
甲5文献の【表3】及び【表\4】には、過酸化水素溶液と有効塩素発生
剤として次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用して、両者の併用によるムラ
サキイガイの成長度合いを調査するため、実施例16ないし20では別
紙3の図1(過酸化水素の拡散器あり)、比較例21ないし24では別紙
3の図2(過酸化水素の拡散器なし)の塩化ビニル管のモデル水路を用
いて、塩化ビニル管に海水を一過式に通水する方法で試験を行い、ムラ
サキイガイの殻長を計測して、試験前後の殻長差より成長度合いを求め
た結果が示されている。
実施例16では過酸化水素0.35ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.
40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm。小数点3桁以
下四捨五入。以下同じ)、実施例17では過酸化水素0.35ppm、次
亜塩素酸ナトリウム0.07ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.0
3ppm)、実施例18では過酸化水素0.70ppm、次亜塩素酸ナト
リウム0.40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm)、
実施例19では過酸化水素1.05ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.2
0ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.08ppm)、実施例20で
は過酸化水素0.18ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.02ppm(本
件換算をすると二酸化塩素0.01ppm)で試験が行われているとこ
ろ(なお、溶媒が比重1の水である場合には、ppmとmg/Lの数値は
同等。)、確かに、これらの実施例については、本件換算をすれば、相違
点1に係る本件特許発明1の構成のうち、二酸化塩素0.01〜0.15\nmg/L、過酸化水素0.18〜1.05mg/Lとなるような組合せが
開示されているといえる。しかしながら、これらは、甲5発明の実施例で
あり、その課題解決手段である過酸化水素の拡散器を備えたことを前提
とするものであって、当業者が、このような拡散器を備えないまま、実施
例16ないし20に係る本件換算後の二酸化塩素濃度と過酸化水素濃度
の数値のみを甲1発明に単純に適用しようと考えるとは認められない。
かえって、過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムの添加量が同じである、
実施例18と比較例23を比較すると、1m3/hの海水を一過式に通水
し、その間両薬剤を所定濃度になるように24時間添加し、40日間試
験をした後におけるムラサキイガイの成長度(殻長mm)が、実施例18
では、注入点から0.5、4、8、16、24、48mのいずれの距離で
も0.1mmであったのに対し、比較例23では、1.0mmから4.5
mmの範囲となっており、ムラサキイガイの成長度抑制結果において、
比較例23が実施例18より劣ることが示されているから、当業者は、
甲5発明のような改良がされる前の甲1発明について、甲5文献に記載
の数値範囲のみを適用しようとすると、比較例23のような結果しか得
られないと認識することになるといえる。
仮に、原告が、甲1発明において、甲5文献に記載の数値範囲を、過酸
化水素の拡散手段等、甲5発明の特定手段と併せて適用することの容易
想到性をも主張しているのであるとすれば、それは、甲5発明に基づき
本件数値範囲の容易想到性を主張しているのに等しい。そして、甲5発
明に基づき本件数値範囲が容易想到であるとの主張が採用できないこと
は後記3のとおりである。
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2022.06.30
令和2(行ケ)10143 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年6月23日 知的財産高等裁判所
数値限定発明についてサポート要件違反などを理由にした無効審判が請求されました。審決は無効理由無しと判断しました。裁判所も同様です。
ウ 原告は、本件発明の「引張弾性率」の数値範囲は、「250〜600MP
a」であるが、「250MPaから500MPaまで」の範囲については、
実施例による裏付けを欠いているから、本件明細書の発明の詳細な説明の
記載から、本件発明の「引張弾性率」の数値範囲うち、少なくとも上記範
囲については、本件発明の課題を解決できると認識することはできないと
して、本件発明はサポート要件に適合しない旨主張する。
しかしながら、前記イ(ア)bのとおり、本件明細書の【0039】の記載
から、「MD方向の引張弾性率」が、「250MPa以上」であれば、「鋸刃
でフィルムをカットするために力を加える際、フィルムのMD方向への延
びを抑制でき、鋸刃がフィルムに食い込みやすくでき、カット性が向上」
し、「600MPa以下」であれば、「フィルムが軟らかく、鋸刃の形状に
沿ってフィルムをきれいにカットでき、切断端面に多数の裂け目が発生す
るのを抑制できる」ことから、「本実施形態のラップフィルム」(本件発明)
の「MD方向の引張弾性率」を「250〜600MPa」の範囲としたこ
とを理解できる。また、本件明細書には、MD方向の引張弾性率が「51
0MPa」ないし「540MPa」の範囲の本件発明の実施例(実施例1
ないし6)では、「裂けトラブル抑制効果」の評価結果が「◎」又は「○」、
「カット性」の評価結果がいずれも「◎」であったことが示されており、
「塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムのフィルム切断刃によるカット
性を維持しつつ、巻回体からのフィルム引き出し時、及び化粧箱の中に巻
き戻ったフィルム端部の摘み出し時の裂けトラブルを低減する」という本
件発明の効果が確認されている。
一方、本件明細書には、「250MPaから500MPaまで」の範囲に
ついては実施例の記載がないが、上記【0039】の記載が不合理である
ことをうかがわせる証拠はないから、上記【0039】の記載から、上記
範囲のものについても、本件発明の上記効果を奏するものと理解できる。
以上によれば、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、
本件発明の「引張弾性率」の「250〜600MPa」の数値範囲全体に
わたり、本件発明の上記効果を奏するものと認識できるものと認められる
から、上記効果を奏する塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを提供する
という本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められる。
したがって、原告の上記主張は理由がない。
エ 原告は、1)「低温結晶化開始温度」の「塩化ビニリデン系樹脂」への影
響について、公然知られた知見がないことを踏まえると、当業者は、本件
明細書の発明の詳細な説明の記載から、「低温結晶化開始温度」を「40〜
60度」の数値範囲とすることにより、本件発明が裂けトラブル抑制効果
を奏することを認識することができない、2)本件明細書の記載によれば、
本件発明の「低温結晶化開始温度」は、「流通・保管時」の値と解されるが、
一方で、本件明細書の記載において、ラップフィルムが製造された後の「流
通・保管時」の低温結晶化開始温度の挙動は一切明らかではないし、「製造
時」から「流通・保管時」を経て、低温結晶化開始温度を「40〜60度」
に調節する方法についても明らかではないこと、本件明細書記載の実施例
1ないし6は、いずれも「流通・保管時」の条件が「28度に設定した恒
温槽にて1ヶ月間保管したもの」という特定の条件におけるものであり、
それ以外の「流通・保管時」の条件下においては、低温結晶化開始温度が
「40〜60度」の範囲になるとは限らないこと、本件明細書の記載から
は、ラップフィルムの製造後の「流通・保管時」における流通・保管条件
なども不明であり、かつ、それらの流通・保管条件による「低温結晶化開
始温度」の挙動に与える影響も不明であることからすると、当業者は、本
件明細書の記載に基づいて、ラップフィルムの低温結晶化開始温度が、「流
通・保管時」において、「40〜60度」に属するかどうかを予測すること\nができないから、裂けトラブルの抑制やカット性の向上という本件発明の
課題を解決することができると認識することも困難であるとして、本件発
明は、サポート要件に適合しない旨主張する。
しかしながら、1)については、前記イ(イ)bで説示したとおり、本件明細
書の記載から、本件発明の「低温結晶化開始温度」の意味、「低温結晶化開
始温度」を「40〜60度」の範囲に制御することにより、「巻回体からの
フィルム引き出し時、及び化粧箱の中に巻き戻ったフィルム端部の摘み出
し時の裂けトラブル」の発生を抑制する機序を理解できるから、原告主張
の1)は、採用することができない。
次に、2)については、本件明細書の【0044】には、「ラップフィルム
製造後にガラス転移温度以下である−30度で保管した場合」、「すなわち、
ラップフィルムが製造後に全く熱を受けていないとみなせる場合の低温
結晶化開始温度は40度」であったことの記載がある。この記載から、低
温結晶化開始温度は、ラップフィルムが製造された後、外部から熱を受け
ることによって「40度」から変化するものと理解できる。そして、本件
明細書の実施例1ないし6は、製造直後のラップフィルムの巻回体を2
8度に設定した恒温槽で1か月保管したものであるが、低温結晶化開始温
度が43度から53度までの範囲にあり、本件発明の数値範囲を満たすも
のである。
そして、上記各実施例の上記の保管条件は、「ラップフィルムの出荷後の
流通、及び家庭での保管を想定」した(【0059】)ものであり、この条
10件の設定自体は、出荷後の流通及び家庭での保管を想定したものとして自
然なものである。
そうすると、当業者は、上記【0044】及び【0059】の記載と上
記各実施例の記載から、ラップフィルムが出荷後の流通及び家庭での保管
の過程で熱を受けると、低温結晶化開始温度が40度から上昇することを
理解し、上記各実施例の上記保管条件のみならず、他の保管条件であって
も、一般的な流通及び家庭での保管の条件(温度及び保管する時間)の範
囲に沿うものであれば、低温結晶化開始温度が「40〜60度」の範囲内
に収まるラップフィルムを作成することができると認識できると認めら
れる。
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2018.03. 1
平成29(行ケ)10121 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年2月14日 知的財産高等裁判所(2部)
進歩性ありとした審決が取り消されました。理由は、引用文献に記載の数値を本件の範囲とする動機付けありというものです。
引用文献の【0027】には,はんだ合金に,Biを添加することで,さらに温
度サイクル特性を向上させることができ,添加するBiの量は,1.5〜5.5質
量%が好ましいことが記載されている。したがって,引用発明1〜3のビスマスの
量を,上記好ましい量の範囲内である,4.8質量%を超過し,5.5質量%まで
の範囲とする動機付けがあるといえる。
そして,本件発明2〜8においてビスマスの含有割合が所定の範囲内であること
の効果は,「優れた耐衝撃性を得ることができ,また,比較的厳しい温度サイクル条
件下に曝露した場合においても,優れた耐衝撃性を維持することができる」(本件明
細書【0031】)ことにある。引用発明1〜3においてビスマスの含有割合を上記
好ましい範囲内とすることの効果は,温度サイクル特性を向上させること(引用文
献【0027】)であるが,ここにいう温度サイクル特性とは,「−40℃から+1
25℃の温度サイクル試験を3000サイクル近く繰り返しても,微量なはんだ量
のはんだ接合部にもクラックが発生せず,また,クラックが発生した場合において
も,クラックがはんだ中を伝播することを抑制」する(引用文献【0021】)とい
う性質である。温度サイクル試験後のはんだ接合部にクラックが発生せず,クラッ
クが発生してもその伝播を抑制する効果が高まれば,厳しい温度サイクル条件下の
耐衝撃性も高まるものといえる。そして,厳しい温度サイクル条件下の耐衝撃性が
高ければ,そのような厳しい条件下にない場合の耐衝撃性も高いことが予想される。\nしたがって,本件発明2〜8におけるビスマスの含有割合を所定の範囲内とするこ
との上記効果は,引用発明1〜3のビスマスの量を4.8質量%を超過し,5.5
質量%までの範囲とする上記効果と比較して,格別顕著な効果であるとはいえない。
以上より,引用発明1〜3において,Bi:3.2質量%の数値を,相違点2に
係る,「4.8質量%を超過し,5.5質量%まで」の範囲の本件発明2〜8の構成\nとすることは,当業者が容易になし得たものである。
イ 相違点4について
引用文献の【0028】には,はんだ合金に,Coを添加することで,Niの効
果を高めることができ,添加する量は,0.001〜0.1質量%が好ましいこと
が記載されている。したがって,引用発明4〜6にコバルトを添加し,その量を0.
001質量%〜0.1質量%とする動機付けがあるといえる。
本件発明2〜8においてコバルトの含有割合が所定の範囲内であることの効果は,
「優れた耐衝撃性を得ることができ,また,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝
露した場合においても,優れた耐衝撃性を維持することができる」(本件明細書【0
037】)ことにある。そして,引用発明4〜6においてコバルトの含有割合を上記
好ましい範囲内とすることの効果は,Niの効果を高めること,すなわち,はんだ
付け界面付近に発生する金属間化合物層の金属管化合物を微細化して,クラックの
発生を抑制するとともに,一旦発生したクラックの伝播を抑制する働きをする(引
用文献【0024】,【0028】)という効果を高めることである。クラックの発生
を抑制し,一旦発生したクラックの伝播を抑制すれば,耐衝撃性がより優れ,これ
が維持されるといえる。したがって,本件発明2〜8におけるコバルトの含有割合
が所定の範囲内であることの効果は,引用発明4〜6においてコバルトを添加し,
その含有割合を0.001質量%〜0.1質量%とすることの効果と比較して,格
別顕著なものであるとはいえない。
以上より,引用発明4〜6にコバルトを添加し,その量を0.001質量%〜0.
1質量%として,相違点4に係る,「コバルトの含有割合が,0.001質量%以上
0.1質量%以下(本件発明6については0.003質量%以上0.01質量%以
下)」の本件発明2〜8の構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。\n ウ 被告の主張について
被告は,本件発明2〜8と,引用発明1〜6との間には,ビスマスの含有量又は
コバルトの含有量について明確な相違点があり,これを容易想到とする理由はない,
と主張する。
しかし,前記ア及びイのとおり,引用発明1〜3において相違点2に係る構成を\n採用すること,及び引用発明4〜6において相違点4に係る構成を採用することの\n動機付けがあり,本件発明2〜8のビスマスの含有量及びコバルトの含有量につい
て格別顕著な効果があるともいえないから,引用発明1〜6に相違点2及び4の構\n成を採用することは,容易想到である。
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2016.12.14
平成27(行ケ)10150 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成28年12月6日 知的財産高等裁判所
数値限定発明について、実施可能性違反なしとした審決が維持されました(知財高裁3部)。
特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,「その発
明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすること
ができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。\nその趣旨は,特許制度が,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当
該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであることに鑑み,その制
度趣旨が損なわれることがないよう,発明の詳細な説明に当該請求項に係る
発明について当業者が実施できる程度に明確かつ十分な記載を求めるとした\n点にある。
そして,特許法上の実施とは,1)物の発明にあっては,その物の生産,使
用等をする行為であり,2)物を生産する方法の発明にあっては,その方法に
より生産した物の使用等をする行為であるから(特許法2条3項1号,3号),
実施可能要件を満たすためには,それぞれ,明細書及び図面の記載並びに出\n願当時の技術常識に基づき,当業者が,1)当該物を生産できかつ使用できる
ように具体的に記載すること,2)当該方法により物を生産できかつ使用でき
るように具体的に記載することが必要である。
本件訂正発明は,同1,3,5,7,8が炭酸飲料という物の発明であり,
同9が炭酸飲料の製造方法という物の生産方法に関する発明であるから,こ
れらの発明が実施可能要件を満たすためには,それぞれ,上記1)又は2)を満
たす必要がある。
(2) かかる実施可能要件に関し,原告は,「可溶性固形分」,「高甘味度甘味\n料によって付与される甘味の全量」及び「甘味量」の技術的意義が本件訂正
明細書の記載から把握できず,また,甘味の相対比が不明確であるため,甘
味の相対比に基づいた本件訂正発明における「全甘味量」,「高甘味度甘味
料によって付与される甘味の全量」及び「スクラロースによって付与される
甘味量」の数値範囲も不明確であって,そのような不明確な数値範囲の技術
的意義も理解できないため,実施例で用いられている甘味料以外の甘味料を
使用して,植物成分を10〜80重量%,及び炭酸ガスを2ガスボリューム
より多く含む炭酸飲料を調製する場合に,甘味料をどの程度の量添加すれば,
「植物成分由来の重い口当たりと炭酸ガスに起因する苦味や刺激を軽減」し
た炭酸飲料が得られるのか不明であるから,本件訂正発明を実施する際に,
本件訂正明細書の記載及び本件出願時の技術常識を考慮しても,当業者に期
待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものであり,
実施可能要件が満たされていないと主張する。\n(3) そこで検討するに,まず,本件訂正発明の「砂糖甘味換算」及び「砂糖甘
味換算量」という文言の意味が不明確であるとはいえず,本件訂正発明にお
ける砂糖甘味換算量は,必要に応じて,換算又は測定可能なものといえるこ\nとは,前記1(取消事由5)で検討したとおりである。
また,植物成分,炭酸ガス及び可溶性固形分の含量,甘味量,並びに高甘
味度甘味料によって付与される甘味の全量については,それぞれの数値範囲
を逸脱した場合に,本件訂正発明の課題が解決できない旨が本件訂正明細書
に十分記載されており,換言すれば,それらの数値範囲内であれば,当業者\nは,本件訂正発明の課題が解決できると理解するものといえ,また,そのよ
うな理解を妨げるような本件出願当時の技術常識があったとは認められない
こと,他方で,スクラロースによって付与される甘味量については,その数
値範囲を逸脱した場合に,本件訂正発明の課題が解決できないことまでが本
件訂正明細書に記載されているわけではなく,単に,その数値範囲が好まし
い旨が本件訂正明細書に記載されているのみであるが,この記載に接した当
業者は,その数値範囲を少々逸脱した場合でも本件訂正発明の課題が解決で
きるであろうと理解するといえること,換言すれば,その数値範囲内であれ
ば,当業者は,本件訂正発明の課題が当然解決できると理解するといえ,ま
た,そのような理解を妨げるような本件出願当時の技術常識があったともい
えないことは,前記4(取消事由3)で検討したとおりである。
そして,本件出願時の技術常識からみて,本件訂正発明の炭酸飲料を調製
するに当たり,果物又は野菜の搾汁を10〜80重量%の割合とすること(請
求項1の構成要件(1)),炭酸ガスを2ガスボリュームより多くすること(同
(2)),全甘味量を砂糖甘味換算で8〜14重量%とすること(同(4)),高
甘味度甘味料によって付与される甘味の全量を,砂糖甘味換算で全甘味量の
25重量%以上とすること(同(6)),全ての高甘味度甘味料によって付与さ
れる甘味の全量100重量%のうち,スクラロースによって付与される甘味
量を,砂糖甘味換算量で50重量%以上とすること(同(7))自体が,当業者
にとって困難なことであるとは認められず,可溶性固形分含量を屈折糖度計
で測定して4〜8度のものとすること(同(3))も,当業者にとって困難な操
作であるとは認められない。
さらに,前記のとおり,本件訂正明細書には,実施例1として,ぶどう果
汁含有量50重量%,炭酸ガス3.0ガスボリューム,スクラロース0.0
065重量%,可溶性固形分含量5.1度の「グレープ炭酸飲料」を,実施
例2として,りんご果汁,レモン果汁及び人参の搾汁を合わせて31重量%,
炭酸ガス2.5ガスボリューム,スクラロース0.0075重量%及びアセ
スルファムカリウム0.0035重量%,可溶性固形分含量4.5度の「果
汁入り炭酸飲料」を,実施例4として,リンゴ果汁33重量%,炭酸ガス2.
6ガスボリューム,スクラロース0.0067重量%,可溶性固形分含量6.
0度の「アップル炭酸アルコール飲料」を,それぞれ調製したことが,具体
的に記載されている(前記1(1)ス〜ソ)。また,本件訂正明細書には,甘味\n料について多数の例示があるとはいえ(同ケ),スクラロースと組み合わせ
る高甘味度甘味料について具体的に例示されており(同)コ),搾汁とすべき
果物や野菜についても具体的に例示されている(同カ)。
以上を考慮すれば,本件訂正発明の(方法で)炭酸飲料を調製するに当た
り,当業者が特段の困難な操作を要するとは認められず,また,その調製に
当業者の過度の試行錯誤を要するとも認められない。
よって,当業者は,本件訂正発明の(方法で)炭酸飲料を作ることができ
るというべきであり,「(当該方法により)物を生産でき…る」の要件を満
たすといえる。
(4) また,そのようにして作られた本件訂正発明の数値範囲を満たす炭酸飲料
は,本件訂正発明の課題を解決する,すなわち,果汁等の植物成分と炭酸ガ
スの両者を含有する飲料であって,植物成分の豊かな味わいと炭酸ガスの爽
やかな刺激感(爽快感)をバランス良く備えた植物成分含有炭酸飲料である
といえる一方,そのような理解を妨げるような本件出願当時の技術常識があ
ったとも認められない。
よって,本件訂正発明の数値範囲を満たす炭酸飲料は,技術上の意義のあ
る態様で使用することができるというべきであり,「物を…使用できる」の
要件も満たすといえる。
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2015.11. 6
平成27(ワ)1025 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 平成27年10月29日 東京地方裁判所
サントリーVSアサヒのノンアルコールビールについての特許権侵害事件です。成分を特定した特許について、進歩性なしとして無効(特104条の3)と判断されました。
請求項は「エキス分の総量が0.5重量%以上2.0重量%以下であるノンアルコールのビールテイスト飲料であって,pHが3.0以上4.5以下であり,糖質の含量が0.5g/100ml以下である,前記飲料。」です。
公然実施発明1は,本件特許の優先日当時,我が国におけるノンアルコールのビールテイスト飲料の中で販売金額が最も大きかったが,その一方で,消費者から,コク(飲み応え)がない,物足りない,味が薄いといった評価を受けていた。(乙10,34〜36) ノンアルコールのビールテイスト飲料については,本件特許の優先日以前から,濃厚感,旨味感,モルト感,ボリューム感やコク感を欠くという問題点が指摘されており,これらを解消して飲み応えを向上させるため,穀物の摩砕物にプロテアーゼ処理を施して得られる風味付与剤,麦芽溶液を抽出して得られる香味改善剤又は香料組成物,植物性タンパク分解物や麦芽抽出物,麦芽エキス,清酒由来のエキスを用いる風味向上剤,茶葉の水又はエタノール抽出物といった添加物を用いる技術が周知となっていた。(乙14〜16,25〜27) 本件明細書におけるエキス分の総量とは,アルコール度数が0.005%未満の飲料の場合,脱ガスしたサンプルをビール酒造組合国際技術委員会(BOCJ)が定めるビール分析法に従って測定したエキス値(重量%をいう(段落0022)。上記(イ)の風味付与材料等はいずれもこの方法の測定対象となるエキス分に当たる。(甲2,乙2)
上記事実関係によれば,公然実施発明1に接した当業者において飲み応えが乏しいとの問題があると認識することが明らかであり,これを改善するための手段として,エキス分の添加という方法を採用することは容易であったと認められる。そして,その添加によりエキス分の総量は当然に増加するところ,公然実施発明1の0.39重量%を0.5重量%以上とすることが困難であるとはうかがわれない。そうすると,相違点に係る本件発明の構成は当業者であれば容易に想到し得る事項であると解すべきである。\nなお,飲料中のエキス分の総量を増加させた場合にはpH及び糖質の含量が変化すると考えられるが,エキス分には糖質由来のものとそれ以外のものがあり(本件明細書の段落【0020】,【0033】参照),pHにも多様のものがあると解されることに照らすと,公然実施発明1にエキス分を適宜(例えば,非糖質由来で酸性又は中性のものを)加えてその総量を0.5重量以上としつつ,pH及び糖質の含量を公然実施発明1と同
程度のもの(本件発明の特許請求の範囲に記載の各数値範囲を超えないもの)とすることに困難性はないと解される。
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2015.06.29
平成26(行ケ)10186 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年6月25日 知的財産高等裁判所
数値限定発明について、値を変更することは設計事項であるとして、拒絶審決が維持されました。
本願発明における「44〜156デシテックス」という糸のサイ
ズと,引用発明における「17〜33デシテックス」という糸のサイズとは,共に,
市場で普及している20〜400デシテックスという範囲内にあり(乙2〜5,弁
論の全趣旨),両発明は,一般的な糸のサイズを利用しているにすぎないから,この
範囲内にある糸のサイズの変更には,格別,技術的な意義はなく,当業者にとって,
予定した収縮率等に応じて適宜設定できるものといえる。したがって,デシテック\nスの範囲を本願発明の範囲の数値まですることは,当業者が容易に想到できる事項
である。
そこで,デシテックスの変更と同時に,延伸率を本願発明の範囲内に設定できる
かについて,検討する。まず,回復張力の大きさは,商業的に許されている収縮率
に依存するものというべきであるところ,収縮率は,衣類の種類,すなわち,生地
が使用される用途に応じて,許容範囲は異なるものであり,特に,セーターなどに
使用されるゆったりとした生地においては,大きな収縮率が許容されると解されて
いる(弁論の全趣旨)。したがって,原告が主張し,引用発明が前提とするように,
すべての生地について,収縮率の上限値として7%が必ずしも要求されているとは
いえない。そして,大きな収縮率を想定した場合には,許容される延伸率もまた大
きくなることになるところ,本願発明における延伸率である2.5倍という上限値
は,一般的な糸の使用を前提とすれば,その糸の太さにかかわらず,本願出願時に
おいて特別に高い値ではない(乙5)。現に,引用文献(甲4及び5)の実施例1で,
本願発明に入るデシテックス数の44デシテックスで,商業上許容される範囲の収
縮率を実現する上で,延伸率として2.7倍を選択していることからすれば,2.
7倍よりも小さい2.5倍以下という延伸率を設定することに,技術的困難性はな
い。そうすると,引用発明において想定されている収縮率は,本願出願時の技術水
準上,限界値であったわけではないから,引用発明のデシテックスを大きくするの
と同時に,延伸率を大きくすること自体に阻害要因はないし,その場合における「2.
5倍以下」という数値設定も,当業者が容易になし得る程度の設計事項といえる。
したがって,上記相違点は,当業者であれば,容易に想到できるものである。
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2014.10. 1
平成25(ワ)25813 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 平成26年9月25日 東京地方裁判所
数値限定の発明について進歩性有りとして、差止が認められました。
以上を踏まえて判断するに,まず,本件発明は,ハンドルに設けられたマッサージ用のボールで顔,腕等の肌をマッサージすることにより,血流を促したりして美しい肌を実現することができる美容器に関するものであるから(前記1(2)ア),その効果を評価する基準としては主として個々人の使用感によらざるを得ず,官能評価によること自体があいまいであるとすることはできない。\nそして,上記認定の本件明細書の記載によれば,1) 本件発明の構成要件Cの一対のボール支持軸の開き角度及び構\成要件Dの一対のボール外周面間の間隔は,いずれも小さくなると肌の摘み上げ効果が強く,大きくなると同効果が弱くなるものであり,一定の範囲で好ましい摘み上げ効果を発揮すること,2) 原告が,側方投影角度,ボールの直径等の条件を固定してボール支持軸の開き角度又はボール外周面間の間隔のみを変化させる官能評価を行ったところ,ボール支持軸の開き角度については,70度の場合が最も良好で,これより広く又は狭くすると徐々に効果が下がるが,40〜120度の範囲ではおおむね3分の1以上の者が「良い」と感じ,また,ボール外周面間の間隔については,実施する体の部位によって異なるものの,11mm又は12〜15mmの場合が最も良好で,これより広く又は狭くすると徐々に効果が下がるが,8〜25mmの範囲ではおおむね3分の1以上の者が「良い」と感じていることが認められる一方,支持軸の開き角度及び外周面間の間隔が構\成要件C及びDの数値範囲を満たすにもかかわらず本件発明の効果が奏されない場合があることをうかがわせる証拠はない。
そうすると,本件発明は,支持軸の開き角度及び外周面間の間隔の双方を一定の範囲に限定し,これを他の構成要件と組み合わせることによって所定の効果を発揮するようにしたものと理解することができるのであって,本件の関係各証拠上,数値限定による異質な又は優れた効果がないことを理由に進歩性を欠くとの被告の主張を採用することはできないと解すべきである。\n
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2013.03. 8
平成24(行ケ)10221 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年02月27日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決が、動機づけ有りとして取り消されました。
引用発明1の洗浄剤混合物は,グルタミン酸二酢酸塩類,グリコール酸塩,陰イオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤を含んでおり,本件発明1の洗浄剤組成物と組成において一致し,かつ,各成分量は,本件発明1において規定された範囲内である。このように,引用発明1の洗浄剤混合物は,本件発明1の規定する3つの成分をいずれも含み,かつ,その成分量も本件発明1の規定する範囲内であることに照らすと,単に,グリコール酸ナトリウムが主成分の一つであると規定したことをもって,容易想到でなかったということはできない。この点,被告は,甲1文献では,グリコール酸ナトリウムは,洗浄剤の有効成分と認識されず,精製して除去されるべき不純物として記載されているのであるから,本件発明1の相違点1に係る構成は,容易想到ではないと主張する。確かに,仮に,本件発明1の洗浄剤組成物が引用発明1と対比して異なる成分から構\成されるような場合であれば,両発明に共通する成分である「グリコール酸ナトリウム」が,単なる不純物にすぎないか否かは,発明の課題解決の上で,重要な技術的な意義を有し,容易想到性の判断に影響を与える余地があるといえる。しかし,本件においては,前記のとおり,本件発明1と引用発明1とは,その要素たる3成分が全く共通するものであるから,「グリコール酸ナトリウム」が単なる不純物ではないとの知見が,直ちに進歩性を基礎づける根拠となるものではないといえる。
(イ)被告の付加的な主張について
被告は,相違点2については容易想到ではないとも主張する。しかし,被告の上記主張は,以下のとおり,採用することはできない。甲1文献には,同文献における金属イオン封鎖剤組成物の封鎖作用は,通常の洗浄剤媒体のアルカリ性のレベルに相当するpH8〜11において最大であることが確認された旨の記載があり,実施例3では,pH10のアンモニア性緩衝液において,甲1文献における金属イオン封鎖剤組成物の効果が確認されている。そうすると,たとえ上記pH8〜11に関する記述が界面活性剤を含む洗浄剤混合物について記載したものではないとしても,甲1文献の記載から,上記金属イオン封鎖剤組成物を含有する引用発明1の洗浄剤混合物においても,pH8〜11において洗浄作用が最大になると理解することは,容易に想到できる事項である。そして,このpHの数値範囲は,本件発明1におけるpH10〜13と,pH10〜11において重なっている。したがって,甲1文献に接した当業者が,その洗浄能力が高まるように調整して,引用発明1のpHを10〜13にするのは,容易であるといえる。よって,この点に関する審決の判断に誤りはない。\nエ 以上のとおり,審決は,相違点1を本件発明1と引用発明1の相違点であると認定した上で,相違点1が容易想到でないとした判断に,誤りがある。
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2010.03.11
平成20(行ケ)10235 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月14日 知的財産高等裁判所
36条違反により無効であるとした審決が取り消されました。リパーゼ最高裁判決にも触れています。
以上のとおり,当業者であれば,本件訂正明細書の記載から,本件発明に係る共沸混合物様組成物の全範囲が空調用又はヒートポンプ用の冷媒として使用できることが理解可能であって,実施例4として記載されていた具体例が本件訂正によって本件発明の対象外となってもなお,本件発明が実施可能\要件に欠けることはないというべきである。(5) 審決は,実施例4の記載からは,訂正後の請求項1に記載された共沸混合物様組成物について,すべての範囲に渡ってCOP 等の性能が同等又は優れているとはいえず,また他に具体的な性能\評価の記載もないから,本件訂正明細書には,本件発明について当業者が実施することができる程度に発明の目的,構成及び効果が発明の詳細な説明中に記載されているとすることはできないとしている。しかし,本件発明は,前記(1) ウ記載のとおり,その組成範囲が限定された組成物であって,本件訂正明細書において,同組成物が共沸混合物様に挙動し,かつ,同組成物が空調用又はヒートポンプ用の冷媒として使用可能であることが開示されている。本件発明は,共沸混合物様に挙動する組成物の組成範囲を開示した点において既に新規性があるものであって,「すべての範囲に渡ってCOP 等の性能が同等又は優れている」ことの開示が必要であるとまではいえない。(6) 被告は,本件訂正明細書には,本件発明の具体的な性能評価(温度勾配が0.3°C未満であること,難燃性を有すること,空調用又はヒートポンプ用に適した熱力学的性能\を有すること)は記載されていない旨主張する。しかし,そもそも,温度勾配については,本件発明を特定するために必要な記載事項とはいえない。・・・・・・被告は,最高裁平成3年3月8日判決(いわゆるリパーゼ事件判決)を引用して,請求項1の後段の「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧」について,それが誤記であるとしても,それは同判決が判示するような「一見して誤記であることが明らかな場合」には当たらないと主張し,また,誤記ではないとしても,「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない」場合にも当たらないと主張するので,念のために,所論の判例との関係につき付言することとする。上記判示のとおり,本件発明の請求項1の文言は,前段では,組成物の物質の名称が特定の数値(重量パーセント)とともに記載され,後段では,特定の温度における特定の数値の蒸気圧が記載されており,それぞれの用語自体としては疑義を生じる余地のない明瞭なものであるが,組成物の発明であるから,構成としては前段の記載で必要かつ十\分であるのに,後者は,さらにこれを限定しているようにも見えるものの,真実,要件ないし権利の範囲として更に付された限定であるとすれば,その帰結するところ,権利範囲が極めて限定され,特許として有用性がほとんどない組成物となり,極限的な,いわば点でしか成立しない構成の発明であるという不可思議な理解に,当業者であれば容易に想到することが必定である。そうすると,本件発明の請求項1の記載に接した当業者は,前段と後段との関係,特に後段の意味内容を理解するために,明細書の関係部分の記載を直ちに参照しようとするはずである。そうであってみれば,本件発明の請求項1の記載に接した当業者は,後段の「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧を有する」の記載に接し,その技術的な意義を一義的に明確に理解することができないため,明細書の記載を参照する必要に迫られ,これを参照した結果,その意味内容を上記判示のように理解するに至るものということができる。したがって,本件発明の請求項1の解釈に当たって明細書の記載を参照することは許され,上記の判断には,所論のような,判例の趣旨に反するところはなく,被告のこの点に関する主張は採用することができない。
(3) 以上のとおり,本件発明における請求項1の「32°Fにて約119.0 psiaの蒸気圧を有する」との記載(後段記載)は,「真の共沸混合物が有する蒸気圧」を記載したにとどまり,本件発明の対象はあくまで「約35.7〜約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3〜約50.0重量%のジフルオロメタン」との組成範囲の記載(前段記載)によって定まると解釈すべきことになるから,本件発明の前段記載と後段記載は実質的に矛盾しないことになり,本件特許には,審決が説示したような実施可能要件違反はない。\n
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2010.01. 8
平成20(ワ)38425等 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成21年12月21日 東京地方裁判所
104条の3により、請求が認められませんでした。
前記(1)で認定したように,乙20公報の記載内容を知る当業者は,乙22公報の記載自体からも,フレームサイズが294 mm ×427 mm のような大型ペリクルでも,ピンと張った状態でペリクル膜をたるみなくフレームに貼り付けることが要求されるものであり,その結果,ペリクル膜の張力によりフレームに歪みが生じ,その歪みは,フレームサイズが大きくなるにつれて増大するという技術課題が開示されているものと理解できる。他方,前記(2)で認定したように,長辺及び短辺を有する方形状の枠体において,長辺の撓みを減少させるために長辺の幅のみを広くすることは,技術常識であって,当業者が当然のこととして知るところである。そうすると,公知となっている,大型ペリクルにおいてフレームサイズが大きくなるにつれてフレームの歪みが増大するという上記の技術課題を解決する観点から,長辺の撓みを減少させるために長辺の幅のみを増大させるという上記の技術常識を当てはめて,ペリクル膜の張力による歪みに応じ,長辺の幅を短辺の幅よりも広くすることは,当業者が容易に想到することができたものであるといえる。したがって,前記相違点のうち,「長辺の幅」が「短辺の幅」よりも大きいという本件発明の構成は,乙22発明に,当業者の技術常識を適用することにより,当業者が容易に想到し得たものというべきである。\n
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2009.12. 1
平成21(行ケ)10085 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年11月30日 知的財産高等裁判所
数値限定発明について、設計事項であるとして進歩性なしとした審決が維持されました。
原告は,本願補正発明は,第1伸縮域の最大伸長時における伸長応力を0.2〜2.0N/25mmの範囲に,第2伸縮域の最大伸長時における伸長応力を0.1〜0.6N/25mmの範囲に,それぞれ設定したことにより格別の効果を奏するものであるから,伸長応力をこれらの範囲に設定することは,当業者が適宜決め得る設計的事項ではない,と主張する。しかし,原告の上記主張は,理由がない。すなわち,本願補正発明が,第1伸縮域の最大伸長時における伸長応力を0.2〜2.0N/25mmの範囲に,第2伸縮域の最大伸長時における伸長応力を0.1〜0.6N/25mmの範囲に,それぞれ設定するのは,おむつのずれ落ちや,必要以上の強い締め付けを効果的に防止し,締め付け力を局所的に集中させず,漏れを防ぎ,吸収性コアがしわになりにくくするためであり(甲4,段落【0024】),引用例1記載の発明も,使い捨てパンツ型おむつのずれ落ちを効果的に防止し,締め付け力を局所的に集中させず,漏れを防ぎ,吸収性コアがしわになりにくくするためのものである(甲1,段落【0006】,【0007】)。そして,パンツ型の使い捨ておむつのずれ落ちや,締め付け力,漏れ,吸収性コアのしわのより方は,その用途(幼児用か大人用か,失禁用か)や素材によっても相違すると考えられるから,当業者であれば,ずれ落ちを効果的に防止し,締め付け力を局所的に集中させず,漏れを防ぎ,吸収性コアがしわになりにくくするため,使い捨てパンツ型おむつの用途や吸収性コアの素材などの相違に対応して,締め付け機能を有する弾性体の伸長応力を適宜調整することは当然に行うと予\想される事項であり,その調整による効果も当業者の予想の範囲内であるといえるから,第1伸縮域,第2伸縮域の伸長応力を本願補正発明で特定した範囲内の伸長応力とすることは,当業者が適宜決め得る設計的事項であるということができる。よって,これと同旨の審決の判断に誤りがあるとはいえない。\n
◆判決本文
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2009.10.13
平成20(ワ)25354 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
数値限定発明について、104条の3で権利行使不能と判断されました。\n
「・・・乙1発明の「軽量微小素材粉末」として適当な含水のもの(WEタイプ)を使用した場合の水の添加量「52.1〜78重量%」を,本件特許発明の「65〜85重量%」と変更することについての格別の技術的意義は,本件明細書からは見い出せない。そうすると,本件特許発明において水の添加量を「65〜85重量%」としたことは,乙1発明の「軽量微小素材粉末」として適当な含水のものの添加量の数値範囲を好適なものに変更したにすぎず,当業者が適宜行う範囲内のことというほかない。」
◆平成20(ワ)25354 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
平成21年09月11日 東京地方裁判所
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2009.10.13
平成20(行ケ)10490 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年09月17日 知的財産高等裁判所
数値限定発明について、進歩性なしとはいえないとして無効審決(特許維持)がなされましたが、これが取り消されました。
「本件明細書には,本件発明1における数値範囲の臨界的意義についての具体的な記載はされておらず,また,塩素原子含有量は,上限値である10ppm以下だけが記載され,下限値が特定されていないものであって,これらによれば,本件発明1における塩素原子含有量の数値限定の意義は,塩素原子がポリカーボネート樹脂中に少なければ少ないほど,塩素原子の影響による半導体ウエーハの汚染を低減でき,本件発明1の目的達成に適しているというものにすぎないといわざるを得ない。」
◆平成20(行ケ)10490 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年09月17日 知的財産高等裁判所
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2008.02.24
◆平成17(行ケ)10506 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年02月21日 知的財産高等裁判所
数値限定発明について、審決では、無効審判は成り立たないと判断されましたが、裁判所は、技術的意義が認められないとして無効審判不成立との審決を取り消しました。
「そうすると,誘電体バリア放電ランプの寿命が約1000時間とされる(甲8,29頁右欄「3.3 寿命」の欄)ところ,使用当初の特定OH基の割合が0.36以上か否かにかかわらず,数10時間程度の照射で0.36以下という本件発明1の要件を満たすことになるので,本件発明を特定するに当たり,特定OH基の割合を0.36以下と規定したことは,使用につれて変化する特定OH基の割合について,単に,使用中のある時点(寿命と対比して,使用開始から相当短い時点)の数値を特定したにすぎないことになり,真空紫外光の石英ガラス自身による吸収を良好に抑えるとともに紫外線照射によるダメージを軽減することができるといった,本件明細書記載の格別の技術的意義を生ずるような特定とはいえず,単なる設計的事項以上のものということはできない。」
◆平成17(行ケ)10506 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年02月21日 知的財産高等裁判所
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2006.06. 5
◆平成17(ワ)785 特許権侵害差止等請求事件 平成18年05月25日 東京地方裁判所
数値限定発明に関する特許権侵害について、裁判所は進歩性無しとして請求を棄却しました。
「物質のある性状を発見したことを契機としてある発明がなされた場合,その発明の進歩性の判断については,物質のある性状を発見することの困難性も含めて,課題の解決手段の容易性の判断をすべきである。しかし,活性炭が昇温により空気を放出し,冷却すると再び空気を吸着することは,次の文献の記載から明らかなように,・・・・記載されているところからすれば,活性炭の一種である引用発明の炭素質吸着剤(本件内服用吸着剤)が昇温により空気を放出することは,当業者であれば通常予想し得る範囲内の事項であり,また,これを実験等により確認することは何ら困難なことではない。」
◆平成17(ワ)785 特許権侵害差止等請求事件 平成18年05月25日 東京地方裁判所
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2005.09.27
◆H17. 9.26 知財高裁 平成17(行ケ)10222 特許権 行政訴訟事件
数値限定発明の進歩性について、進歩性無しとした審決を取り消しました。
裁判所は、「本件発明は,ストレッチフィルムがストレッチ包装に適した特性を発揮するための要件として要件Bを規定し,これを塩素を含有しない樹脂からなる積層フィルムにおいて実際に達成したものであるから,少なくとも,積層フィルムからなるストレッチフィルムにおいて要件Bのパラメータに着目すべき動機付けが存在し,かつ,要件Bを達成するための具体的な手段が当業者に知られていなければ,要件Bの構成に至ることが容易であるとはいえないのである。仮に,乙5,6及び乙8が,それぞれ,乙4の実施例1及び乙7の実施例1の正確な追試であったとしても,乙4〜8からは,せいぜい乙4や乙7の実施例に記載されたストレッチフィルムがたまたま要件Bを満たすものであるといえるだけであって,要件Bのパラメータとストレッチ包装における特性との関連性及び要件Bを達成するための具体的な手段が,本件出願前に知られていたことにはならない。」
◆H17. 9.26 知財高裁 平成17(行ケ)10222 特許権 行政訴訟事件
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2004.12.25
◆H16.12.22 東京高裁 平成16(行ケ)81 特許権 行政訴訟事件
数値限定の発明についての進歩性無しとの審決が、高裁でも維持されました。
裁判所は、「補正発明において,比(R/D)の下限値を0.0005とした理由は,摩擦トルク,負荷容量,剛性,製作精度を考慮した結果であり,また,軸とスリーブの熱膨張,ディスクとブラケット間の抵抗を考慮した結果であると認められる。そうすると,補正発明において,下限値の限定は,要は,軸径を定めた場合に,クリアランスをどの程度のものとすれば実用化に支障を来さないかの観点でなされているのであり,このような限定は,実験等により,当業者が格別の創意を要することなく決定できるものというべきである。
確かに,小型化するに当たって,単に寸法を小さくすればよいというものではないことは,原告主張のとおりである。しかし,前記のとおり,摩擦トルクの低減に軸径Dが関係すること,剛性の向上に半径隙間Rの値が関係し,しかも,R/D比に連関することは,刊行物2,刊行物3により既に知られていたのであり,数値を限定するに当たって明確な指針が存在していたのであるから,実験的に好適な範囲を求めることは容易になし得たというべきである。」と判断しました。
◆H16.12.22 東京高裁 平成16(行ケ)81 特許権 行政訴訟事件
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2004.12. 9
◆H16.12. 8 東京高裁 平成15(行ケ)576 特許権 行政訴訟事件
歯車の加工における数値限定について、進歩性無しと判断されました。
原告は、「ドライカットはウエットカットよりも耐摩耗性において著しく劣るため,ドライカットの実用化は不可能である」という技術常識?@及び「切削速度を高速化するほど,工具の耐摩耗性は低くなる」という技術常識?Aが存在し,高速化が自明の課題であるというだけで,これを引用例1のドライカットにおいて実現することまでもが当業者が容易に想到し得ることであるとした審決の判断は,上記技術常識を無視したものであって,誤りである」と主張しました。しかし、裁判所は、「上記記載において,TiAlN被覆をした高速度工具鋼製ホブにおける耐摩耗性の向上が示唆されていることからすれば,当業者は,高速度工具鋼製ホブの刃部にTiAlN被覆を施すことによって,ドライカットの切削速度を高速化することができる技術的可能性を理解するというべきである。さらに,原告の指摘する上記(ウ)の点については,その主張に係る公知文献の中には高速度工具鋼のドライカットにおいて切削速度が120m/minを超えるものが見当たらないとしても,そのことから直ちに,「高速度工具鋼製ホブを使用する場合,ドライカットはウエットカットよりも耐摩耗性において著しく劣るため,ドライカットの実用化は不可能である」という原告主張の技術常識?@の存在が裏付けられるとはいえない。」と判断しました。
◆H16.12. 8 東京高裁 平成15(行ケ)576 特許権 行政訴訟事件
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2003.06. 3
◆H15. 5.30 東京高裁 平成14(行ケ)119 特許権 行政訴訟事件
数値限定発明について、数値限定の意義を何ら検討することなく,単に公知発明がその数値限定の値を含んでいるという理由で新規性無しとした判断が争われました。裁判所は、特許庁の判断を取り消しました。
裁判所は、「 ・・・との記載から求めて,φC=1〜8.57eとして代入し,その結果が0.080〜0.682となることは前示のとおりである。そうすると,引用例の唯一の実施例は,本件発明の条件式の数値が0.080〜0.682の範囲内のものであるとしか特定することができず,この数値範囲の中から更に特定した数値の実施例は開示されていない。これに対し,本件発明の条件式から得られる具体的な実施例は,条件式の数値が0.20〜0.30の範囲となる実施例であり,引用例の実施例はこの条件式の数値範囲のものとはいえないから,両者が一致することを前提とする被告の主張は失当である。被告引用に係る東京高裁昭和56年10月20日判決・取消集〔昭和56年〕169頁は,当該「本件発明」が当該「引用発明」より広い概念の発明である事案に関するものである上,当該「本件発明」の条件式から得られる具体的な実施例と当該「引用例」の実施例とその一部が一致していることのみを理由としたものではなく,両発明の作用効果に格別の差異がないことをも理由としてその同一性を判断したものであって,事案を異にし,本件に適切ではない。」
◆H15. 5.30 東京高裁 平成14(行ケ)119 特許権 行政訴訟事件
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