2015.11. 6
サントリーVSアサヒのノンアルコールビールについての特許権侵害事件です。成分を特定した特許について、進歩性なしとして無効(特104条の3)と判断されました。
請求項は「エキス分の総量が0.5重量%以上2.0重量%以下であるノンアルコールのビールテイスト飲料であって,pHが3.0以上4.5以下であり,糖質の含量が0.5g/100ml以下である,前記飲料。」です。
公然実施発明1は,本件特許の優先日当時,我が国におけるノンアルコールのビールテイスト飲料の中で販売金額が最も大きかったが,その一方で,消費者から,コク(飲み応え)がない,物足りない,味が薄いといった評価を受けていた。(乙10,34〜36) ノンアルコールのビールテイスト飲料については,本件特許の優先日以前から,濃厚感,旨味感,モルト感,ボリューム感やコク感を欠くという問題点が指摘されており,これらを解消して飲み応えを向上させるため,穀物の摩砕物にプロテアーゼ処理を施して得られる風味付与剤,麦芽溶液を抽出して得られる香味改善剤又は香料組成物,植物性タンパク分解物や麦芽抽出物,麦芽エキス,清酒由来のエキスを用いる風味向上剤,茶葉の水又はエタノール抽出物といった添加物を用いる技術が周知となっていた。(乙14〜16,25〜27) 本件明細書におけるエキス分の総量とは,アルコール度数が0.005%未満の飲料の場合,脱ガスしたサンプルをビール酒造組合国際技術委員会(BOCJ)が定めるビール分析法に従って測定したエキス値(重量%をいう(段落0022)。上記(イ)の風味付与材料等はいずれもこの方法の測定対象となるエキス分に当たる。(甲2,乙2)
上記事実関係によれば,公然実施発明1に接した当業者において飲み応えが乏しいとの問題があると認識することが明らかであり,これを改善するための手段として,エキス分の添加という方法を採用することは容易であったと認められる。そして,その添加によりエキス分の総量は当然に増加するところ,公然実施発明1の0.39重量%を0.5重量%以上とすることが困難であるとはうかがわれない。そうすると,相違点に係る本件発明の構成は当業者であれば容易に想到し得る事項であると解すべきである。\nなお,飲料中のエキス分の総量を増加させた場合にはpH及び糖質の含量が変化すると考えられるが,エキス分には糖質由来のものとそれ以外のものがあり(本件明細書の段落【0020】,【0033】参照),pHにも多様のものがあると解されることに照らすと,公然実施発明1にエキス分を適宜(例えば,非糖質由来で酸性又は中性のものを)加えてその総量を0.5重量以上としつつ,pH及び糖質の含量を公然実施発明1と同
程度のもの(本件発明の特許請求の範囲に記載の各数値範囲を超えないもの)とすることに困難性はないと解される。
◆判決本文
数値限定発明について、値を変更することは設計事項であるとして、拒絶審決が維持されました。
本願発明における「44〜156デシテックス」という糸のサイ
ズと,引用発明における「17〜33デシテックス」という糸のサイズとは,共に,
市場で普及している20〜400デシテックスという範囲内にあり(乙2〜5,弁
論の全趣旨),両発明は,一般的な糸のサイズを利用しているにすぎないから,この
範囲内にある糸のサイズの変更には,格別,技術的な意義はなく,当業者にとって,
予定した収縮率等に応じて適宜設定できるものといえる。したがって,デシテック\nスの範囲を本願発明の範囲の数値まですることは,当業者が容易に想到できる事項
である。
そこで,デシテックスの変更と同時に,延伸率を本願発明の範囲内に設定できる
かについて,検討する。まず,回復張力の大きさは,商業的に許されている収縮率
に依存するものというべきであるところ,収縮率は,衣類の種類,すなわち,生地
が使用される用途に応じて,許容範囲は異なるものであり,特に,セーターなどに
使用されるゆったりとした生地においては,大きな収縮率が許容されると解されて
いる(弁論の全趣旨)。したがって,原告が主張し,引用発明が前提とするように,
すべての生地について,収縮率の上限値として7%が必ずしも要求されているとは
いえない。そして,大きな収縮率を想定した場合には,許容される延伸率もまた大
きくなることになるところ,本願発明における延伸率である2.5倍という上限値
は,一般的な糸の使用を前提とすれば,その糸の太さにかかわらず,本願出願時に
おいて特別に高い値ではない(乙5)。現に,引用文献(甲4及び5)の実施例1で,
本願発明に入るデシテックス数の44デシテックスで,商業上許容される範囲の収
縮率を実現する上で,延伸率として2.7倍を選択していることからすれば,2.
7倍よりも小さい2.5倍以下という延伸率を設定することに,技術的困難性はな
い。そうすると,引用発明において想定されている収縮率は,本願出願時の技術水
準上,限界値であったわけではないから,引用発明のデシテックスを大きくするの
と同時に,延伸率を大きくすること自体に阻害要因はないし,その場合における「2.
5倍以下」という数値設定も,当業者が容易になし得る程度の設計事項といえる。
したがって,上記相違点は,当業者であれば,容易に想到できるものである。
◆判決本文