特許異議申立にて、サポート要件違反として取り消された特許の取消を求めました。知財高裁はサポート要件違反とした審決を維持しました。発明はゴルフクラブのシャフトで、\n「・・・シャフトのトルクをTq(°)とした場合に、1.6≦Tq≦4.0を満たし、前記バイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に、0.05≦A/B≦0.12を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に、1.0≦A/C≦1.8を満たす」
というパラメータ発明です。
前記(2)アによると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件各発明について、
次のとおりの記載がされているということができる。すなわち、本件各発明は、繊
維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト(以下、単に「シャフト」ということがあ
る。)に関するものである。ゴルフのスコアを良くするためには、打球の飛距離の
安定性及び左右への方向安定性を得ることが非常に重要であり、そのためには、三
つの要素(ボールの初速、打ち出し角度及びスピン量)のばらつきを減少させてこ
れらを安定させる必要があるところ、ボールを打撃する瞬間のシャフトの変形(特
にシャフトの細径部の変形)がこれらの要素の安定性に大きな影響を及ぼすため、
シャフトの細径部のねじり剛性を上げることによりこれらの要素を安定させ得るこ
とが従来から知られていた。しかしながら、単にシャフトの細径部のねじり剛性を
上げると、フィーリングが硬くなったり、ヘッドの返りが極端に悪くなったり、ヘ
ッドのトゥダウンが抑制されすぎて飛距離が小さくなったりするなどのデメリット
が生じるほか、弾性率の高い炭素繊維の使用量を多くしすぎることによるシャフト
の強度の低下を招き、シャフトの折損が生じやすくなるという問題があった。本件
各発明は、このような問題を解決し、特にねじり剛性が高いシャフトにおいても、
スイングの安定性が高く、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右されること
なく飛距離の安定性と方向安定性の双方に優れたシャフト(ねじり剛性の高いシャ
フト(ロートルクのシャフト))を提供することを目的とするものである。本件各
発明は、前記第2の2のとおりの構成とすることにより、プレーヤーの力量に左右\nされることなく、飛距離の安定性及び左右へのばらつきの少ない方向安定性の双方
に優れたシャフトが得られるとの効果を奏する。
以上によると、本件各発明の課題は、「ねじり剛性が高い繊維強化樹脂製のゴル
フクラブ用シャフト(ロートルクの繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト)で
あって、スイングの安定性が高く、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右さ
れることなく飛距離の安定性と方向安定性の双方に優れたものを提供すること」
(以下「本件課題」という。)であると認めるのが相当である。
(4) 決定取消事由の1(構成2ないし5に係るもの)について\n
ア 構成2について\n
(ア) Tq≦4.0°について
a シャフトのトルク(Tq)を4.0°以下とすることにより得られる効果等
に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「トルク(Tq)を4.0°以下と
することによって、ゴルファーの力量が飛距離の安定性や左右への方向安定性に与
える影響を低減させることができ、これらの両立を達成できる傾向にある。」との
記載(【0021】)があり、また、「ねじり剛性が高い繊維強化樹脂製のゴルフ
クラブ用シャフト(ロートルクの繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト)であ
って、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右されることなく飛距離の安定性
と方向安定性の双方に優れたものが得られる」との効果(以下「本件効果」とい
う。)が得られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例
1の各トルク(°)がそれぞれ2.4及び4.8であるとの記載(【表4】)があ\nる。しかしながら、これらの記載は、シャフトのトルクを4.0°以下とすること
によりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、し
たがって、構成2のうちシャフトのトルクを4.0°以下とするとの点については、\n本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を
解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、低トルクのシャフト(ねじり剛性が高いシャフト)が飛距離の安定
性及び方向安定性において優れていることは本件出願日当時の技術常識であり、本
件出願日当時の当業者は実施例1と比較例1との比較から、シャフトのトルクを4.
0°以下とすることにより飛距離の安定性及び方向安定性(比較例1よりも優れた
飛距離の安定性及び方向安定性)が得られるものと理解し得ると主張する。しかし
ながら、原告の上記主張並びに原告が上記技術常識に係る証拠として提出する甲1
2及び21ないし23は、シャフトのトルクを4.0°以下とすることによりなぜ
本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、シャ
フトのトルクを4.0°以下とすることにより本件課題が解決されるとの本件出願
日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成2のうちシャフトのトル\nクを4.0°以下とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の
技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということ
はできない。
c なお、原告は、本件各発明が構造力学に基づく物理学的な発明であって、発\n明の実施方法や作用機序等を理解することが比較的困難な技術分野(薬学、化学等)
に属する発明ではないとして、構成2の境界値の厳密な根拠が本件明細書に記載さ\nれている必要はないと主張するが、本件各発明が構造力学に基づく物理学的な発明\nであることをもって、シャフトのトルクを4.0°以下とすることにより本件課題
が解決される理由を本件明細書の発明の詳細な説明において適切に説明する必要が
ないということはできないから、原告の上記主張を採用することはできない(この
点については、以下の構成2のうちシャフトのトルクを1.6°以上とするとの点\n及び構成3ないし5についても同じである。)。\n
・・・
b 原告は、本件各発明は細径部のトルクを小さくすることが飛距離の安定性及
び方向安定性を高めるとした甲6発明の効果を前提としつつ、更に非熟練ゴルファ
ーにとってのデメリット(フィーリングが硬くなったりヘッドの返り(トゥダウン)
が悪くなったりすること)を克服するとの課題を解決するものであり、加えて、本
件各発明におけるA/Bに係る0.05以上0.12以下との数値範囲が実施例1
におけるA/B(0.08)をほぼ中央値とするものであることも併せ考慮すると、
本件出願日当時の当業者は細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%
以上とすることで、上記のデメリットを回避しつつ、飛距離の安定性及び方向安定
性を高め得るものと理解し得ると主張する。しかしながら、甲6によっても、本件
出願日当時の当業者において、細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の
5%以上とすることにより上記のデメリットを回避しつつ、飛距離の安定性及び方
向安定性を高め得るものと理解し得たとの事実を認めることはできず、その他、そ
のような事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件各発明におけるA/
Bに係る0.05以上0.12以下との数値範囲が実施例1におけるA/B(0.
08)をほぼ中央値とするものであることを考慮しても、原告の上記主張は、細径
側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることによりなぜ本件
課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、細径側バ
イアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることにより本件課題が解
決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成4\nのうち細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とするとの点に
ついては、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決
できると認識できる範囲のものであるということはできない。
オ 原告のその余の主張(決定取消事由の1(構成2ないし5に係るもの)に関\n連するもの)について
(ア) 原告は、低トルクのシャフト(ねじり剛性が高いシャフト)が飛距離の安
定性及び方向安定性において優れているとの技術常識並びにバイアス層を増やすこ
とにより低トルクのシャフトが得られるとの技術常識を有する本件出願日当時の当
業者が本件明細書を読めば、実施例1及び比較例1における各トルクから、トルク
を比較例1のそれよりも有意に小さい4.0°以下とし、実施例1及び比較例1に
おける各バイアス層の割合(B/(B+S))から、バイアス層の割合(B/(B
+S))を比較例1のそれよりも有意に大きい0.5以上とすることにより、比較
例1よりも良好な飛距離の安定性及び方向安定性が得られるであろうことを当然に
理解し得ると主張する。しかしながら、実施例1及び比較例1の記載から、本件出
願日当時の当業者において、トルクを比較例1のそれ(4.8°)よりも有意に小
さい角度とすること及びバイアス層の割合(B/(B+S))を比較例1のそれ
(0.4)よりも有意に大きい値とすることにより、比較例1よりも良好な飛距離
の安定性及び方向安定性を示すであろうと推測し得るとしても、当該当業者におい
て、トルクを具体的に(1.6°以上)4.0°以下とすること及びバイアス層の
割合(B/(B+S))を具体的に0.5以上(0.8以下)とすることにより、
本件課題を解決できると認識できるとは認められない。
(イ) 原告は、本件出願日当時の当業者は本件明細書の記載により、本件各発明
の構成要件を充足し、その他の条件につき当該当業者が技術常識の範囲内で決定し\nたシャフトであれば、その飛距離及び方向が比較例1のシャフトにおける飛距離及
び方向と比較してより安定したものとなることを容易に理解し得ると主張する。し
かしながら、前記アないしエにおいて説示したところに照らすと、仮に本件各発明
の課題が飛距離及び方向において比較例1のシャフトよりも安定したシャフトを得
ることであるとしても、実施例1及び比較例1を含む本件明細書の発明の詳細な説
明の記載により、本件出願日当時の当業者において、本件各発明の構成要件を充足\nするシャフトであれば当該課題を解決できると認識できると認めることはできない
というべきである。
◆判決本文
進歩性違反なしとした審決が維持されました。
(3) 相違点1の容易想到性について
ア 相違点1のうち、甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換
する動機付けがあることについては、一次判決の拘束力が及び、当事者間
に争いもない。
イ 甲1発明と甲5文献記載事項の組合せにより、相違点1のうち、本件数
値範囲を容易に想到することができるかについて
甲5発明は、前記(2)のとおり、甲1発明における塩素剤の添加により
トリハロメタン類が生成されるという課題があることを前提として、工
業用海水冷却水系にあらかじめ過酸化水素剤を特定の濃度で分散させた
後、塩素剤を特定の濃度で添加するという解決手段を採用しているので
あり、かつ、各特定の濃度について、過酸化水素剤は「0.01〜2mg
/l」、塩素剤は「トリハロメタン類の生成を防止しうる濃度又はそれ以
下の濃度」である「使用される過酸化水素の1モル当り、0.03〜0.
8モル(ただし、有効塩素として)に相当する濃度で、かつ、海水冷却水
に対して0.01〜1.0mg/l(ただし、有効塩素として)」として
いるのである(別紙3の【請求項1】及び【請求項2】参照)。そうする
と、甲5発明は、甲1発明における上記課題を、それ自体で解決しており、
かつ、塩素剤の使用を前提としているのであるから、当業者において、甲
1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に甲5
発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえない。
また、甲5文献は、二酸化塩素の添加を想定していないから、二酸化塩
素の特定の濃度割合を開示するものでもない。
したがって、当業者が、甲1発明と甲5文献の組合せにより、相違点1
のうち、本件数値範囲を容易に想到することができるとはいえない。
原告は、前記第3の1(1)ウ のとおり、甲5文献の実施例の16ない
し20には、甲1発明における有効塩素発生剤濃度及び過酸化水素濃度
を、それぞれ「0.02〜0.4mg/L」及び「0.18〜1.05m
g/L」とすることで、充分な海生生物の付着防止効果が得られること
が開示されており、当業者が、これについて本件換算(有効塩素発生剤濃
度を2.6で除する。)により、有効塩素発生剤から置換した二酸化塩素
の濃度を「0.01〜0.15mg/L」という範囲とすることは容易で
ある旨主張する。
甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に
甲5発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえないことは前記
のとおりであるから、そもそも原告の上記主張は前提を異にするもの
というべきであるが、この点は措くにしても、以下の理由で原告の主張
はいずれにしても採用し得ない。
甲5文献の【表3】及び【表\4】には、過酸化水素溶液と有効塩素発生
剤として次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用して、両者の併用によるムラ
サキイガイの成長度合いを調査するため、実施例16ないし20では別
紙3の図1(過酸化水素の拡散器あり)、比較例21ないし24では別紙
3の図2(過酸化水素の拡散器なし)の塩化ビニル管のモデル水路を用
いて、塩化ビニル管に海水を一過式に通水する方法で試験を行い、ムラ
サキイガイの殻長を計測して、試験前後の殻長差より成長度合いを求め
た結果が示されている。
実施例16では過酸化水素0.35ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.
40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm。小数点3桁以
下四捨五入。以下同じ)、実施例17では過酸化水素0.35ppm、次
亜塩素酸ナトリウム0.07ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.0
3ppm)、実施例18では過酸化水素0.70ppm、次亜塩素酸ナト
リウム0.40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm)、
実施例19では過酸化水素1.05ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.2
0ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.08ppm)、実施例20で
は過酸化水素0.18ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.02ppm(本
件換算をすると二酸化塩素0.01ppm)で試験が行われているとこ
ろ(なお、溶媒が比重1の水である場合には、ppmとmg/Lの数値は
同等。)、確かに、これらの実施例については、本件換算をすれば、相違
点1に係る本件特許発明1の構成のうち、二酸化塩素0.01〜0.15mg/L、過酸化水素0.18〜1.05mg/Lとなるような組合せが\n開示されているといえる。しかしながら、これらは、甲5発明の実施例で
あり、その課題解決手段である過酸化水素の拡散器を備えたことを前提
とするものであって、当業者が、このような拡散器を備えないまま、実施
例16ないし20に係る本件換算後の二酸化塩素濃度と過酸化水素濃度
の数値のみを甲1発明に単純に適用しようと考えるとは認められない。
かえって、過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムの添加量が同じである、
実施例18と比較例23を比較すると、1m3/hの海水を一過式に通水
し、その間両薬剤を所定濃度になるように24時間添加し、40日間試
験をした後におけるムラサキイガイの成長度(殻長mm)が、実施例18
では、注入点から0.5、4、8、16、24、48mのいずれの距離で
も0.1mmであったのに対し、比較例23では、1.0mmから4.5
mmの範囲となっており、ムラサキイガイの成長度抑制結果において、
比較例23が実施例18より劣ることが示されているから、当業者は、
甲5発明のような改良がされる前の甲1発明について、甲5文献に記載
の数値範囲のみを適用しようとすると、比較例23のような結果しか得
られないと認識することになるといえる。
仮に、原告が、甲1発明において、甲5文献に記載の数値範囲を、過酸
化水素の拡散手段等、甲5発明の特定手段と併せて適用することの容易
想到性をも主張しているのであるとすれば、それは、甲5発明に基づき
本件数値範囲の容易想到性を主張しているのに等しい。そして、甲5発
明に基づき本件数値範囲が容易想到であるとの主張が採用できないこと
は後記3のとおりである。
◆判決本文
進歩性違反なしとした審決が維持されました。
(3) 相違点1の容易想到性について
ア 相違点1のうち、甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換
する動機付けがあることについては、一次判決の拘束力が及び、当事者間
に争いもない。
イ 甲1発明と甲5文献記載事項の組合せにより、相違点1のうち、本件数
値範囲を容易に想到することができるかについて
甲5発明は、前記(2)のとおり、甲1発明における塩素剤の添加により
トリハロメタン類が生成されるという課題があることを前提として、工
業用海水冷却水系にあらかじめ過酸化水素剤を特定の濃度で分散させた
後、塩素剤を特定の濃度で添加するという解決手段を採用しているので
あり、かつ、各特定の濃度について、過酸化水素剤は「0.01〜2mg
/l」、塩素剤は「トリハロメタン類の生成を防止しうる濃度又はそれ以
下の濃度」である「使用される過酸化水素の1モル当り、0.03〜0.
8モル(ただし、有効塩素として)に相当する濃度で、かつ、海水冷却水
に対して0.01〜1.0mg/l(ただし、有効塩素として)」として
いるのである(別紙3の【請求項1】及び【請求項2】参照)。そうする
と、甲5発明は、甲1発明における上記課題を、それ自体で解決しており、
かつ、塩素剤の使用を前提としているのであるから、当業者において、甲
1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に甲5
発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえない。
また、甲5文献は、二酸化塩素の添加を想定していないから、二酸化塩
素の特定の濃度割合を開示するものでもない。
したがって、当業者が、甲1発明と甲5文献の組合せにより、相違点1
のうち、本件数値範囲を容易に想到することができるとはいえない。
原告は、前記第3の1(1)ウ のとおり、甲5文献の実施例の16ない
し20には、甲1発明における有効塩素発生剤濃度及び過酸化水素濃度
を、それぞれ「0.02〜0.4mg/L」及び「0.18〜1.05m
g/L」とすることで、充分な海生生物の付着防止効果が得られること
が開示されており、当業者が、これについて本件換算(有効塩素発生剤濃
度を2.6で除する。)により、有効塩素発生剤から置換した二酸化塩素
の濃度を「0.01〜0.15mg/L」という範囲とすることは容易で
ある旨主張する。
甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に
甲5発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえないことは前記
のとおりであるから、そもそも原告の上記主張は前提を異にするもの
というべきであるが、この点は措くにしても、以下の理由で原告の主張
はいずれにしても採用し得ない。
甲5文献の【表3】及び【表\4】には、過酸化水素溶液と有効塩素発生
剤として次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用して、両者の併用によるムラ
サキイガイの成長度合いを調査するため、実施例16ないし20では別
紙3の図1(過酸化水素の拡散器あり)、比較例21ないし24では別紙
3の図2(過酸化水素の拡散器なし)の塩化ビニル管のモデル水路を用
いて、塩化ビニル管に海水を一過式に通水する方法で試験を行い、ムラ
サキイガイの殻長を計測して、試験前後の殻長差より成長度合いを求め
た結果が示されている。
実施例16では過酸化水素0.35ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.
40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm。小数点3桁以
下四捨五入。以下同じ)、実施例17では過酸化水素0.35ppm、次
亜塩素酸ナトリウム0.07ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.0
3ppm)、実施例18では過酸化水素0.70ppm、次亜塩素酸ナト
リウム0.40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm)、
実施例19では過酸化水素1.05ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.2
0ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.08ppm)、実施例20で
は過酸化水素0.18ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.02ppm(本
件換算をすると二酸化塩素0.01ppm)で試験が行われているとこ
ろ(なお、溶媒が比重1の水である場合には、ppmとmg/Lの数値は
同等。)、確かに、これらの実施例については、本件換算をすれば、相違
点1に係る本件特許発明1の構成のうち、二酸化塩素0.01〜0.15\nmg/L、過酸化水素0.18〜1.05mg/Lとなるような組合せが
開示されているといえる。しかしながら、これらは、甲5発明の実施例で
あり、その課題解決手段である過酸化水素の拡散器を備えたことを前提
とするものであって、当業者が、このような拡散器を備えないまま、実施
例16ないし20に係る本件換算後の二酸化塩素濃度と過酸化水素濃度
の数値のみを甲1発明に単純に適用しようと考えるとは認められない。
かえって、過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムの添加量が同じである、
実施例18と比較例23を比較すると、1m3/hの海水を一過式に通水
し、その間両薬剤を所定濃度になるように24時間添加し、40日間試
験をした後におけるムラサキイガイの成長度(殻長mm)が、実施例18
では、注入点から0.5、4、8、16、24、48mのいずれの距離で
も0.1mmであったのに対し、比較例23では、1.0mmから4.5
mmの範囲となっており、ムラサキイガイの成長度抑制結果において、
比較例23が実施例18より劣ることが示されているから、当業者は、
甲5発明のような改良がされる前の甲1発明について、甲5文献に記載
の数値範囲のみを適用しようとすると、比較例23のような結果しか得
られないと認識することになるといえる。
仮に、原告が、甲1発明において、甲5文献に記載の数値範囲を、過酸
化水素の拡散手段等、甲5発明の特定手段と併せて適用することの容易
想到性をも主張しているのであるとすれば、それは、甲5発明に基づき
本件数値範囲の容易想到性を主張しているのに等しい。そして、甲5発
明に基づき本件数値範囲が容易想到であるとの主張が採用できないこと
は後記3のとおりである。
◆判決本文