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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

パラメータ発明

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和4(行ケ)10081  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟__全文__知的財産裁判例 令和5年7月13日  知的財産高等裁判所

パラメータ特許について、異議申立があり、特許庁は、サポート要件違反として特許を取り消しまし。裁判所は、審決を維持しました。\n

クレームは、「・・・前記バイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に、0.05≦A/B≦0.12を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に、1.0≦A/C≦1.8を満たす・・
本件明細書(【0014】)には、B/(B+S)を構成3の数値範囲(0.5\n≦B/(B+S)≦0.8)とすることにより所与の効果(技量が高いゴルファー やスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なトルクを生み出 し、シャフトがねじれすぎること又はねじれないためにシャフトが折損してしまう ことを防止するとの効果(以下「【0014】記載の効果」という。))が得られ ると記載されているのみであって、【0014】記載の効果が得られる理由は記載 されていないし、B/(B+S)を構成3の数値範囲とすることで被告主張の課題\nを解決できるとする理由も記載されておらず、当該数値範囲のいずれの点において も被告主張の課題を解決できるとする理由も記載されていない。特に、B/(B+ S)の境界値を0.5及び0.8としたときに【0014】記載の効果が得られる 根拠並びに被告主張の課題を解決できるとする根拠については、本件明細書に何ら の記載もない。原告は、本件出願日当時の当業者はストレート層の重量の割合を2 0%以上としておけば、シャフトが曲げにより折損すること(ねじれがないために シャフトが折損すること)を防ぎ得るものと理解できると主張するが、ストレート 層の重量の割合を20%以上とする根拠はなく、本件出願日当時の当業者であって も、当該割合につき20%以上を選択することが容易であるとはいえない。また、 【0014】記載の効果と被告主張の課題との関係及びストレート層の重量の割合 を20%以上とすることと被告主張の課題との関係も不明である。さらに、実施例 1及び比較例1をみても、B/(B+S)を構成3の数値範囲とする理由は理解で\nきない(なお、比較例1におけるバイアス層の重量の割合は40%であり、実施例 1におけるバイアス層の重量の割合は60%であるところ、原告は、B/(B+S) の下限値が0.5であることの根拠を示していない。)。原告が挙げる証拠(甲1 2、21、23)をみても、B/(B+S)を構成3の数値範囲とする理由は理解\nできないし、これらの証拠には、当該数値範囲とすることで被告主張の課題を解決 できるとする理由及び当該数値範囲のいずれの点においても被告主張の課題を解決 できるとする理由は記載されておらず、当該数値範囲とすることで【0014】記 載の効果が得られることについても記載されていない。
以上のとおり、本件明細書の記載に加え、原告が技術常識であると主張する内容 を踏まえても、B/(B+S)を構成3の数値範囲とすることで被告主張の課題を\n解決できるとは理解できず、また、当該数値範囲のいずれの点においても被告主張 の課題を解決できるものと評価することもできない。当該数値範囲により【001 4】記載の効果が得られる理由も不明である。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10020等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年1月23日  知的財産高等裁判所

パラメータを含む特許について、無効審決が取り消されました。

クレーム1は「・・外力に対して鋼管杭に生じる曲率が大きい少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分を、前記鋼管杭の直径Dと前記鋼管杭の全塑性モーメントに対応する曲率φpが、φp≧4.39×10−3/Dという関係を満足するものとし、・・・」でした。
(3) 相違点3Aに係る容易想到性についての検討
前記1に認定した本件各発明の概要によると、本件発明3の相違点3Aに係る構\n成は、杭の全塑性の要求性能を満足させようとする際に試みる板厚又は径の増加に\n伴う建設コストの増加との課題に対し、鋼管杭の局所的な変形性能を上げることに\nより解決を図るべく、変形性能の指標として曲率φpを用い、少なくとも陸側に対\n面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ変形性能の\n高い鋼管杭を用いて、当該鋼管杭が地中部において曲率φpを越えないようにした ものである。
ここで、前記(2)のとおり、甲1発明が属する鋼管杭式桟橋においては、鋼管杭に 高強度鋼管を採用することは周知技術であって、また、本件出願日当時、技術1)(直 杭式横桟橋の性能照査では、杭に発生する応力、杭の支持力、変形量を適切に設定\nして検討すること、杭の断面力は深さ方向に変化し、地中部の深いところでは小さ くなるのが一般的であるため、経済性の観点から鋼管杭の板厚又は鋼種を変更する ことがあること)、技術2)(鋼管杭に生じる軸力及び曲げモーメントに応じて杭の曲 げ剛性を低下させて解析を行うこと)、技術3)(杭の断面力は、深さ方向に変化し、 地中部の深いところで小さくなるため、経済性の観点からは鋼管杭の板厚及び材質 を地中部の発生断面力に応じて変更することが望ましいこと)、技術4)(計画水深が 深い岸壁では、強度の大きいSTK490の鋼管杭を用いている例が多くなるこ と)、技術5)(陸側の地中部において下杭よりも上杭の板厚を大きくすること)及び 技術6)(鋼管杭の部材として、一般に用いられているSKK400及びSKK49 0よりも基準降伏点の高い鋼管杭が、高支持力杭が普及し始めている建築分野にて 商品化されていること)等の技術が公知であったことが認められるが、いずれの技 術によっても、杭の全塑性の要求性能を満足させつつ建設コストの増加を回避する\nため、甲1発明の「鋼管杭」を、変形性能の指標として曲率φpを用いた上で、少\nなくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分 にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該部分での発生曲率が曲率φ\npを越えないようにすることは導出できないといわざるを得ないし、このような構\n成を得ることが甲1発明及び上記周知技術又は各公知技術に接した当業者が通常行 うべき試行錯誤の範囲内のものということもできない。 したがって、当業者であっても、甲1発明の「鋼管杭」につき、相違点3Aに係 る構成にすることが容易想到であったということはできず、本件発明3は、甲1発\n明並びに上記周知技術及び各公知技術に基づいて当業者が容易に発明することがで きたものということはできない。
(4) 相違点3Bに係る容易想到性についての検討
本件発明3の相違点3Bに係る構成は、前記(3)のとおり、杭の全塑性の要求性能\nを満足させようとする際に試みる板厚又は径の増加に伴う建設コストの増加との課 題に対し、鋼管杭の局所的な変形性能を上げることにより解決を図るべく、変形性\n能の指標として曲率φpを用い、鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分に\nのみ変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該鋼管杭が地中部において全塑性モーメン\nトに対応する曲率を越えないようにしたものである。 甲13発明の「鋼管杭」は、少なくとも陸側の鋼管杭の地中部は、φ1300m m×16tのSKK490からなる上杭の下方にφ1300mm×13tのSKK 400からなる下杭で構成されており、技術3)及び4)によると、上杭部分の強度は 下杭部分よりも大きいといえる。しかし、前記(3)と同様に、前記周知技術及び公知 技術(技術1)〜6))によっても、杭の全塑性の要求性能を満足させつつ建設コスト\nの増加を回避するため、上杭と下杭とからなる甲13発明の「鋼管杭」を、変形性 能の指標として曲率φpを用いた上で、少なくとも陸側に対面して配置された鋼管\n杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭\nを用いて、当該部分での発生曲率が曲率φpを越えないようにすることは導出でき ないといわざるを得ないし、このような構成を得ることが甲13発明及び上記周知\n技術又は各公知技術に接した当業者が通常行うべき試行錯誤の範囲内のものという こともできない。 したがって、当業者であっても、甲13発明の「鋼管杭」につき、相違点3Bに 係る構成にすることが容易想到であったということはできず、本件発明3は、甲1\n3発明並びに上記周知技術及び各公知技術に基づいて当業者が容易に発明すること ができたものということはできない。
(5) 被告の主張について
ア 被告は、「杭の断面力(曲げモーメントを含む概念である。)は深さ方向に変 化するため、深さや発生断面力に応じ杭の材質・鋼種を変更することがある」との 周知技術が認定でき(技術1)、3)参照)、これは典型的には降伏強度の異なる鋼管杭 を用いることである上、「強度の観点のみならず経済性の観点から鋼管杭の板厚及 び鋼種をその設置位置や部位ごとに変更すること」、「杭全体のうち、大きい曲げモ ーメントがかかる部分についてだけ高降伏強度の鋼管杭を用いること」、「杭に生じ る曲げモーメントが大きい箇所において全塑性モーメントに達しないように設計す ることが望ましいこと」がいずれも技術常識であり、鋼管杭の設計に際しどのくら いの降伏強度の鋼管杭とするかは周知技術に基づき適宜設計されるものだから、相 違点3A又は3Bに係る構成は、周知技術又は技術常識から導出し得る旨主張する。\nしかし、本件審決が説示するとおり、被告は、「強度の観点のみならず経済性の観 点から鋼管杭の板厚及び鋼種をその設置位置や部位ごとに変更すること」や「杭全 体のうち、大きい曲げモーメントがかかる部分についてだけ高降伏強度の鋼管杭を 用いること」が技術常識であることをいかなる証拠の記載から認定できるかを具体 的に指摘していない上、仮に、これらが技術常識であるとしても、これらを組み合 わせる動機付けや、組み合わせた結果からどのようにして相違点3A又は3Bに係 る構成が導出されるかにつき、技術的視点に基づいた具体的な主張をしていない。\nそして、前記のとおり、周知技術及び公知技術(技術1)〜6))によっても、甲1発 明の「鋼管杭」又は甲13発明の「鋼管杭」を、相違点3A又は3Bに係る構成に\nすることは導出できず、そのような構成を得ることが、当業者が通常行うべき試行\n錯誤の範囲内ということもできない。

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令和4(行ケ)10081  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟__全文__知的財産裁判例 令和5年7月13日  知的財産高等裁判所

 ゴルフシャフトの数値限定発明(バラメータ)について、サポート要件違反とした審決が維持されました。

a バイアス層の合計重量(B(g))をバイアス層の合計重量とシャフト全体 にわたって位置するストレート層(以下、単に「ストレート層」という。)の合計 重量の和(B(g)+S(g))の50%以上とすることにより得られる効果等に 関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明のゴルフクラブ用シャフトは、 シャフトに使用するバイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置 するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦ 0.8・・・(1)を満たすことが重要である。(1)は、技量が高いゴルファー やスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なトルクTq(°) を生み出す要素を示している。つまり、(1)を満たさないゴルフクラブ用シャフ トは、シャフトが捩じれすぎたり、または捩じれないがためにシャフトが折損して しまう原因につながる。」との記載(【0014】)があり、また、本件効果が得 られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例1における 各B/(B+S)がそれぞれ0.6及び0.4であるとの記載(【表4】)がある。\nしかしながら、これらの記載は、本件各発明におけるB/(B+S)に係る0.5 との数値が実施例1における0.6及び比較例1における0.4の中間値であるこ とを含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重 量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切 に説明するものとはいえず、したがって、構成3のうちバイアス層の合計重量をバ\nイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とするとの点につ いては、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本 件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、バイアス層の重量の割合を大きくすることでシャフトのトルクを小 さくできることは自明であり本件出願日当時の技術常識であるとして、本件出願日 当時の当業者は実施例1と比較例1との比較から、バイアス層の合計重量をバイア ス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上としておけば、その他 の条件を技術常識の範囲内で適宜調整して決定することで、容易にTq≦4.0° の構成(構\成2)が得られるものと理解し得ると主張する。しかしながら、バイア ス層の重量の割合を大きくすることでシャフトのトルクを小さくできることが本件 出願日当時の技術常識であったとしても、原告の上記主張は、実施例1と比較例1 を比較する点を含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート 層の合計重量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかに ついて適切に説明するものとはいえず、その他、バイアス層の合計重量をバイアス 層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とすることにより本件課 題が解決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、 構成3のうちバイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計\n重量の和の50%以上とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当 時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるという ことはできない。

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令和4(行ケ)10081  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年7月13日  知的財産高等裁判所

 特許異議申立にて、サポート要件違反として取り消された特許の取消を求めました。知財高裁はサポート要件違反とした審決を維持しました。発明はゴルフクラブのシャフトで、\n「・・・シャフトのトルクをTq(°)とした場合に、1.6≦Tq≦4.0を満たし、前記バイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に、0.05≦A/B≦0.12を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に、1.0≦A/C≦1.8を満たす」 というパラメータ発明です。

前記(2)アによると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件各発明について、 次のとおりの記載がされているということができる。すなわち、本件各発明は、繊 維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト(以下、単に「シャフト」ということがあ る。)に関するものである。ゴルフのスコアを良くするためには、打球の飛距離の 安定性及び左右への方向安定性を得ることが非常に重要であり、そのためには、三 つの要素(ボールの初速、打ち出し角度及びスピン量)のばらつきを減少させてこ れらを安定させる必要があるところ、ボールを打撃する瞬間のシャフトの変形(特 にシャフトの細径部の変形)がこれらの要素の安定性に大きな影響を及ぼすため、 シャフトの細径部のねじり剛性を上げることによりこれらの要素を安定させ得るこ とが従来から知られていた。しかしながら、単にシャフトの細径部のねじり剛性を 上げると、フィーリングが硬くなったり、ヘッドの返りが極端に悪くなったり、ヘ ッドのトゥダウンが抑制されすぎて飛距離が小さくなったりするなどのデメリット が生じるほか、弾性率の高い炭素繊維の使用量を多くしすぎることによるシャフト の強度の低下を招き、シャフトの折損が生じやすくなるという問題があった。本件 各発明は、このような問題を解決し、特にねじり剛性が高いシャフトにおいても、 スイングの安定性が高く、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右されること なく飛距離の安定性と方向安定性の双方に優れたシャフト(ねじり剛性の高いシャ フト(ロートルクのシャフト))を提供することを目的とするものである。本件各 発明は、前記第2の2のとおりの構成とすることにより、プレーヤーの力量に左右\nされることなく、飛距離の安定性及び左右へのばらつきの少ない方向安定性の双方 に優れたシャフトが得られるとの効果を奏する。
以上によると、本件各発明の課題は、「ねじり剛性が高い繊維強化樹脂製のゴル フクラブ用シャフト(ロートルクの繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト)で あって、スイングの安定性が高く、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右さ れることなく飛距離の安定性と方向安定性の双方に優れたものを提供すること」 (以下「本件課題」という。)であると認めるのが相当である。
(4) 決定取消事由の1(構成2ないし5に係るもの)について\n
ア 構成2について\n
(ア) Tq≦4.0°について
a シャフトのトルク(Tq)を4.0°以下とすることにより得られる効果等 に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「トルク(Tq)を4.0°以下と することによって、ゴルファーの力量が飛距離の安定性や左右への方向安定性に与 える影響を低減させることができ、これらの両立を達成できる傾向にある。」との 記載(【0021】)があり、また、「ねじり剛性が高い繊維強化樹脂製のゴルフ クラブ用シャフト(ロートルクの繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト)であ って、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右されることなく飛距離の安定性 と方向安定性の双方に優れたものが得られる」との効果(以下「本件効果」とい う。)が得られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例 1の各トルク(°)がそれぞれ2.4及び4.8であるとの記載(【表4】)があ\nる。しかしながら、これらの記載は、シャフトのトルクを4.0°以下とすること によりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、し たがって、構成2のうちシャフトのトルクを4.0°以下とするとの点については、\n本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を 解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、低トルクのシャフト(ねじり剛性が高いシャフト)が飛距離の安定 性及び方向安定性において優れていることは本件出願日当時の技術常識であり、本 件出願日当時の当業者は実施例1と比較例1との比較から、シャフトのトルクを4. 0°以下とすることにより飛距離の安定性及び方向安定性(比較例1よりも優れた 飛距離の安定性及び方向安定性)が得られるものと理解し得ると主張する。しかし ながら、原告の上記主張並びに原告が上記技術常識に係る証拠として提出する甲1 2及び21ないし23は、シャフトのトルクを4.0°以下とすることによりなぜ 本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、シャ フトのトルクを4.0°以下とすることにより本件課題が解決されるとの本件出願 日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成2のうちシャフトのトル\nクを4.0°以下とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の 技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということ はできない。
c なお、原告は、本件各発明が構造力学に基づく物理学的な発明であって、発\n明の実施方法や作用機序等を理解することが比較的困難な技術分野(薬学、化学等) に属する発明ではないとして、構成2の境界値の厳密な根拠が本件明細書に記載さ\nれている必要はないと主張するが、本件各発明が構造力学に基づく物理学的な発明\nであることをもって、シャフトのトルクを4.0°以下とすることにより本件課題 が解決される理由を本件明細書の発明の詳細な説明において適切に説明する必要が ないということはできないから、原告の上記主張を採用することはできない(この 点については、以下の構成2のうちシャフトのトルクを1.6°以上とするとの点\n及び構成3ないし5についても同じである。)。\n
・・・
b 原告は、本件各発明は細径部のトルクを小さくすることが飛距離の安定性及 び方向安定性を高めるとした甲6発明の効果を前提としつつ、更に非熟練ゴルファ ーにとってのデメリット(フィーリングが硬くなったりヘッドの返り(トゥダウン) が悪くなったりすること)を克服するとの課題を解決するものであり、加えて、本 件各発明におけるA/Bに係る0.05以上0.12以下との数値範囲が実施例1 におけるA/B(0.08)をほぼ中央値とするものであることも併せ考慮すると、 本件出願日当時の当業者は細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5% 以上とすることで、上記のデメリットを回避しつつ、飛距離の安定性及び方向安定 性を高め得るものと理解し得ると主張する。しかしながら、甲6によっても、本件 出願日当時の当業者において、細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の 5%以上とすることにより上記のデメリットを回避しつつ、飛距離の安定性及び方 向安定性を高め得るものと理解し得たとの事実を認めることはできず、その他、そ のような事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件各発明におけるA/ Bに係る0.05以上0.12以下との数値範囲が実施例1におけるA/B(0. 08)をほぼ中央値とするものであることを考慮しても、原告の上記主張は、細径 側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることによりなぜ本件 課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、細径側バ イアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることにより本件課題が解 決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成4\nのうち細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とするとの点に ついては、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決 できると認識できる範囲のものであるということはできない。
オ 原告のその余の主張(決定取消事由の1(構成2ないし5に係るもの)に関\n連するもの)について
(ア) 原告は、低トルクのシャフト(ねじり剛性が高いシャフト)が飛距離の安 定性及び方向安定性において優れているとの技術常識並びにバイアス層を増やすこ とにより低トルクのシャフトが得られるとの技術常識を有する本件出願日当時の当 業者が本件明細書を読めば、実施例1及び比較例1における各トルクから、トルク を比較例1のそれよりも有意に小さい4.0°以下とし、実施例1及び比較例1に おける各バイアス層の割合(B/(B+S))から、バイアス層の割合(B/(B +S))を比較例1のそれよりも有意に大きい0.5以上とすることにより、比較 例1よりも良好な飛距離の安定性及び方向安定性が得られるであろうことを当然に 理解し得ると主張する。しかしながら、実施例1及び比較例1の記載から、本件出 願日当時の当業者において、トルクを比較例1のそれ(4.8°)よりも有意に小 さい角度とすること及びバイアス層の割合(B/(B+S))を比較例1のそれ (0.4)よりも有意に大きい値とすることにより、比較例1よりも良好な飛距離 の安定性及び方向安定性を示すであろうと推測し得るとしても、当該当業者におい て、トルクを具体的に(1.6°以上)4.0°以下とすること及びバイアス層の 割合(B/(B+S))を具体的に0.5以上(0.8以下)とすることにより、 本件課題を解決できると認識できるとは認められない。
(イ) 原告は、本件出願日当時の当業者は本件明細書の記載により、本件各発明 の構成要件を充足し、その他の条件につき当該当業者が技術常識の範囲内で決定し\nたシャフトであれば、その飛距離及び方向が比較例1のシャフトにおける飛距離及 び方向と比較してより安定したものとなることを容易に理解し得ると主張する。し かしながら、前記アないしエにおいて説示したところに照らすと、仮に本件各発明 の課題が飛距離及び方向において比較例1のシャフトよりも安定したシャフトを得 ることであるとしても、実施例1及び比較例1を含む本件明細書の発明の詳細な説 明の記載により、本件出願日当時の当業者において、本件各発明の構成要件を充足\nするシャフトであれば当該課題を解決できると認識できると認めることはできない というべきである。

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◆平成19(行ケ)10298 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年03月26日 知的財産高等裁判所

   パラメータ発明(数値限定発明)について、進歩性無しとした審決を取り消しました。
  「審決は,「ボビンに巻かれた断面が長円のコイルの短軸側の巻外径 Wと,コイルの内側の断面積と同じ断面積の仮想円柱鉄心の直径dとの比率 (d/W)として検討する場合にも,かかる比率を適正な範囲に設定すべき ことは明らかであるといえる。そして,かかる比率は,当業者が実験的に最 適な特性が得られるものとして,適宜選定し得るものであると共に,本願発 明の「d=(0.4〜0.8)W」という数値限定の範囲内と範囲外とで, 有利な効果の差異が顕著であるともいえないから,かかる数値限定に臨界的 意義を見出すこともできない。」(4頁34行〜5頁6行)とし,仮想円柱鉄 心の直径dとコイルの短軸側の巻外径Wとの比を基にして本願発明と引用発 明を比較している。しかし,本願発明は,既に検討したとおり,d=(0. 4〜0.8)Wの関係を持たせた上,固定鉄心及び可動鉄心の断面における 長軸または長辺の長さaと短軸または短辺の長さbとの比率を,1.3≦a /b≦3.0とすることで巻線の幅(W−b)が増加することになり固定鉄 心及び可動鉄心の断面における長軸または長辺の長さaと短軸または短辺の 長さbとの比率a/b=1のものよりも吸引力が大きくなることに着目した ものである。 したがって,本願発明は,長円にした際に,単に吸引力を発揮することを 目的としたものではなく,コイルの巻外径Wが一定であることを前提として, かつ同じ鉄心断面積であっても円よりも吸引力が大きくなるようにしたもの であり,単に鉄心の断面形状を円から長円にしたものではなく,また?@d= (0.4〜0.8)Wとの点,?A1.3≦a/b≦3.0との点のいずれの 数値限定についても,既に検討したとおりそれなりの技術的意義を有するも のであるから,単に臨界的意義を見出すことができないとのみすることは妥 当ではない。」

◆平成19(行ケ)10298 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年03月26日 知的財産高等裁判所

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