日本国内のウェブサイトで、海外における「Sushi Zanmai」のお店紹介することが、日本の商標権侵害・不正競争行為に該当するかが争われました。
1審では、商標権侵害を認め、差止、損害賠償(約600万円)が認められました。知財高裁は、商標としての使用ではない、商品等表示でもない、仮に商標としての使用であると考えた場合でも、日本国内で提供される役務についての使用ではないとして、
これを取り消しました。
(2) 被告各表示の商標法2条3項8号該当性について
前記(1)の本件ウェブサイトの構成と記載内容によれば、以下に述べるとお
り、本件ウェブサイトは、全体として、被告を含むダイショーグループが東
南アジアにおいて日本食を提供する飲食店チェーンを展開するとともに、そ
こで提供するための鮮度の高い良質な食材を日本から輸出する事業を営んで
いることを紹介するものであると認められるから、被告各表示を付した本件
各ウェブページについても、本件すし店の「役務に関する広告」に当たると
認めることはできない。
ア 「事業内容」のページ(前記(1)ウ)は、説明項目の記載順が「食材・食
品の輸出/提案」、「加工・流通」、「物産展・地域振興」、最後に1
0の飲食店チェーンの一つに被告各表示を付した「店舗開発・メニュー
開発」となっており、それぞれ相応な分量の説明と写真があり、冒頭の
「食材・食品の輸出/提案」の末尾は、食材の海外輸出を検討する日本
国内の事業者に向けた呼びかけとなっている。そうすると、これに続く
「加工・流通」、「物産展・地域振興」、「店舗開発・メニュー開発」
は、輸出先の国における流通経路の川下に関する事業内容を順次紹介す
ることにより、海外輸出を検討している国内の事業者に向けて、ダイシ
ョーグループを通じた輸出の利点を記載したものといえる。
イ このような食材の輸出に関連する内容は、前記(1)のとおり本件ウェブサ
イトの随所にみられ、特に「海外輸出をお考えの方」のページ(前記(1)
カ)は、食材の海外輸出を検討する国内事業者に向けたものであること
が明らかである。
ウ これに対し、被告各表示を付した部分は、上記「事業内容」のページに
おいては、ページの最後に被告各表示と簡潔な説明文及び英文ウェブサ
イトへのリンクがあるにとどまり、ページ全体に占める割合は少なく、
具体的なメニューの内容、価格、店舗の所在場所といった、一般消費者
に向けて本件すし店の役務の内容を知らせる内容は乏しい(これらの情
報は、リンクされた英文ウェブサイト(乙37)に掲載されていること
が推認される。)。しかも、被告各表示は、ダイショーグループが展開
している飲食店チェーンを紹介した部分に掲載されている10種類の飲
食店(その中には簡潔な説明文中にシンガポールやクアラルンプールの
店舗であることが明記されているものもある。)の一つにすぎない。そ
して、同ページの記載内容からも、本件すし店が東南アジアに所在する
ことは比較的容易に読み取ることができる。
トップページ(前記(1)ア)において被告各表示を用いた部分をみても、
英文ウェブサイトへのリンクがないことを除いては「事業内容」のペー
ジと同じであり、ページ全体に占める割合が多いとはいえず、10種類
の飲食店チェーンの一つとして店舗情報が提供されていることは、前記
「事業内容」のページと同様である。
さらに、上記の「事業内容」のページや「ダイショーグループとは」
のページ(前記(1)イ)をみれば、本件すし店が東南アジアに所在するこ
と、日本法人である被告が国内からの食材の輸出の事業を営んでいるこ
とは、比較的容易に読み取ることができる。
エ これに対し、原告は、本件各ウェブページの被告各表示が、ダイショー
グループの事業内容として本件すし店の役務を「広く世間に告げ知らせる」
ことを目的として使用されていること、その役務に係る出所表示機能、自
他商品識別機能等を果たす態様で使用されていることは明らかであるから、
本件すし店の「役務に関する広告」に該当する旨主張する。
しかし、前記の本件ウェブサイトの構成と記載内容によれば、被告各表
示を用いた部分が本件すし店の役務を「広く世間に告げ知らせる」とい
う一面があることを全く否定することはできないとしても、全体からみ
ると、本件各ウェブページは日本からの食材の輸出という役務の広告と
いうべきであって、被告各表示を用いた部分は、ダイショーグループが
展開する他の飲食店チェーンの紹介と併せて、国内の事業者に対し、ダ
イショーグループを通じて輸出した場合の食材の使用先や使用状況を明
らかにし、これにより被告との間で食材の輸出取引を行うための誘因と
する目的で使用されているというべきである。
このような使用態様については、本件すし店の役務に係る出所表示機能、
自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評価することはで
きない。
・・・
ク 以上によれば、被告各表示は、その態様に照らし、食材の海外輸出を検
討する国内事業者に向けた本件各ウェブページの中で、被告の事業を紹
介するために使用されているにすぎず、本件すし店を日本国内の需要者
に対し広告する目的で使用されたものではなく、現にそのような効果が
生じている証拠もない。
したがって、本件ウェブページ掲載行為は、「本件すし店の役務に関
する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為」として商
標法2条3項8号に該当するものということはできない。
(3) 被告各表示と原告各商標権の侵害について
仮に、原告が主張するとおり、被告各表示の使用が本件すし店の存在を日
本国内に広く知らしめるという点において「広告」に該当し、商標的使用に
該当すると考えた場合でも、以下のとおり、被告各表示は、日本国内におけ
る役務の提供について使用されているものではないから、原告各商標権を侵
害するものではない。
ア すなわち、被告各表示は、日本語で記載された本件各ウェブページに掲
載されているから、これが本件すし店の広告に該当すると考えたときは、
日本国内において商標法2条3項8号に該当する行為がされたものと一応
いうことができる。
イ しかるところ、前記のとおり、本件各ウェブページは、食材の海外輸出
を検討する国内事業者に向けたものであると認められ、被告各表示は、本
件各ウェブページの中でダイショーグループが海外で日本の食材を用いた
飲食店チェーンを展開していることを示す際に使用されている。本件各ウ
ェブページには、本件すし店の具体的なメニューの内容、価格など、一般
消費者に向けて本件すし店の役務を知らせる内容は一切記載されておらず、
「事業内容」のページの被告各表示の下のリンクから誘導されるのは英文
のページのウェブサイトである。
ウ また、証拠(乙17、21)及び弁論の全趣旨によれば、本件すし店は、
日本国外(シンガポール、マレーシア)で飲食物の提供等の役務を提供し
ていることが認められ、シンガポールやマレーシアで商標登録されている
被告各表示(甲8、乙14、15。商標権者はスーパースシである。)は、
現地でその役務を提供するに当たり、使用されている標章である。本件す
し店が、日本国内で同様の役務を提供している事実は認められない。
エ そうすると、被告各表示は、本件すし店の日本国内における役務の提供
について用いられているものではない。被告各表示を見た日本国内の消費
者が被告各表示により役務の提供の出所を誤認したとしても、本件すし店
が日本で役務を提供していない以上、その誤認の結果(原告の店であると
誤認して、本件すし店から指定役務の提供を受けること)は、常に日本の
商標権の効力の及ばない国外で発生することになるはずであり、日本国内
で原告各商標権の出所表示機能が侵害されることはない。なお、証拠(甲
10、11)によれば、クアラルンプールの本件すし店に入店する際、こ
れを原告の支店であると誤認した日本人がいた事実が認められるが、当該
出所の誤認が本件各ウェブページの被告各表示を閲覧した結果生じたもの
であることを認める証拠はない上、出所の誤認が国外で発生していること
に変わりはないから、当該事実は、前記判断を左右するに足りるものでは
ない。
オ もともと、一国において登録された商標は、他の国において登録された
商標から独立したものとされており(パリ条約6条1項及び3項)、かつ、
いわゆる属地主義の原則により、商標権の効力は、その登録された国内に
限られるものと解される。外国において適法に登録された商標である被告
各表示が当該外国における指定役務の提供を表示するため本件各ウェブペ
ージ上で使用された場合において、原告各商標権に基づき被告各表示の使
用差止等を認めることは、実質的にみて、原告各商標の国内における出所
表示機能等が侵害されていないにもかかわらず、外国商標の当該外国にお
ける指定役務表示のための適法な使用を日本の商標権により制限すること
と同様の結果になるから、商標権独立の原則及び属地主義の原則の観点か
らみても相当ではないというべきである。
・・・
以上によれば、原告の主張を考慮しても、本件各ウェブページは、日本か
らの食材の輸出という役務の広告というべきであり、仮に被告各表示を本件
すし店の役務の広告であると考えた場合でも、当該役務は国外で提供される
役務であるから、原告各商標の国内における出所保護機能を害するものでは
ない。
・・・
(1) 前記2のとおり、本件各ウェブページにおいて、被告各表示は、日本から
の食材の輸出という被告の事業に関連する情報の一つを示すために使用され
ていると認められるから、他人の商品等表示と同一又は類似の商品等表示を
使用し、出所表示機能、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されている
と評価することはできない。また、仮に、被告各表示が、本件すし店の提供
する役務を表示するために使用されていると考えたとしても、当該役務は日
本国内の役務ではなく、国外で提供される役務であるから、日本国内におい
て、出所表示機能、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評
価することはできない。
そうすると、本件ウェブページ掲載行為は、被告各表示を商品等表示とし
て「使用」するもの(不競法2条1項1号)に当たらないから、その余の点
を判断するまでもなく、不競法2条1項1号に基づく原告の請求は、理由が
ない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆判決本文
米国の連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)で、均等侵害について、「均等論は例外的に適用されるべきであり、すべての特許侵害案件で直接侵害の次に行われる分析ではなく、クレームの範囲を容易に拡大するものではない」と示しました。
日本の場合は、均等の第1要件が歯止めとなります。すなわち、技術的思想が同一であることが必要です(マキサカルシトール事件最高裁判決)ので、むやみな拡大はないともいえます。
日本語の解説は下記を参照ください。
◆CAFCが均等論は例外にのみ適用されるべきと発言
◆判決原文
中国で興味深い判決がなされました。
北京市高等裁判所は、複数の実行主体を含む方法クレームにおいて、当該方法を使用する装置を販売しているメーカの幇助責任を認めました(判決番号:(2017)京民終454 号、判決日:2018 年3月28日)。
中国では、寄与侵害の規定が制限的に運用されていましたが、今後は、当該判決のような幇助責任ありと認定されることも想定されます。
事件の概要など、詳しくは、林達劉グループ 北京林達劉知識産権代理事務所の
◆西電捷通VS ソニーのWAPI 特許侵害事件に関する検討
を参照ください。