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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

特許庁手続

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和5(行ウ)5002  特許料納付書却下処分取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年2月16日  東京地方裁判所

 旧特許法112条の2第1項の「正当な理由」があったとはいえないとして、 特許庁による追納期間徒過後の納付書の却下処分に違法性無しと判断しました。

2 原告が本件追納期間を徒過したことについて、旧特許法112条の2第1項の 「正当な理由」があったか(争点2)について
旧特許法112条の2第1項所定の「正当な理由があるとき」とは、特許権者 (代理人を含む。)として、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的 にみて追納期間内に特許料を納付することができなかったときをいうものと解 するのが相当である。
甲11号証によれば、原告の専務取締役であるBは、遅くとも令和4年2月9 日までに、原告への出資を検討していた会社から、原告が保有している多くの特 許について特許料の不払いによって登録が抹消されているとの連絡を受け、同日、 特許料の支払も含めて原告が原告の保有する特許の管理を委任していた本件弁 理士に連絡をとったところ、本件弁理士から、うつ病等を理由に業務をすること が難しい状況にあると告げられたことが認められる。
そうすると、原告は、遅くとも令和4年2月9日には、原告が保有し、本件弁 理士がその特許料等の納付を管理していた特許権について本件弁理士において 適切な管理をしていないものがあること、そのため、当時原告が多数保有してい る特許権について特許料の納付期限が到来しているものについては特許料の納 付が滞っている可能性が高いこと、所定の期間に特許料が納付されなければ特許\n権が消滅することを認識したと認められる。そうすると、原告は、遅くとも同日 の時点で、保有している特許権を今後も維持したいというのであれば、即座に、 原告が保有している特許の特許料の納付状況等について確認すべきであること や、仮に納付されていない場合にはその対処について速やかに検討すべきである ことを認識したか、少なくともこれらを極めて容易に認識できる状況にあったと いえる。そして、本件特許についてこれらの点について検討し、必要な相談(今 後の長期的な特許関係の事務の委任ではなく、このような緊急事態への対処のみ を委任するのであれば、同日に近い時期に原告が弁理士に相談することは難しく なかったといえる。)等をしていれば、本件特許について、本件追納期間満了まで に特許料等を納付すべきことについて容易に知り得て、これを納付することがで きたといえる。そうであるにもかかわらず、原告は、上記の認識をした令和4年 2月9日から本件追納期間の満了まで1か月以上の期間があったにもかかわら ず、同期間満了までに特許料等を納付しなかったのであるから、当時、新型コロ ナウイルスによる感染症が問題になっていたことを考慮しても、その余を判断す るまでもなく、原告は、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみ て追納期間内に特許料を納付することができなかったとはいえない。よって、原 告が本件追納期間を徒過したことについて旧特許法112条の2第1項の「正当 な理由」があったとはいえない。

◆判決本文

関連事件です。

◆令和5(行ウ)5005

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令和5(行ケ)10072  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年12月14日  知的財産高等裁判所

ハーグ条約に基づく国際意匠出願について、拒絶査定がなされ、期間徒過後に審判請求をしました。出願人は米国在住の在外者です。

前記第2の1の事実によれば、本願は、日本国を指定締約国とする国際出願 であって、令和3年1月22日、本件国際登録について、ジュネーブ改正協定10 条(3)(a)の規定による公表がされた(乙3の1・2)ことにより、意匠法60条の6第1項の規定により、本件国際登録の日である令和元年9月9日にされた意匠登\n録出願とみなされる(なお、原告は在外者であるから、意匠法68条2項において 準用する特許法8条1項の規定により、出願に係る補正書や意見書の提出その他の 手続を行う場合には、意匠管理人を選任して行う必要があったことになる。)。
(2) ジュネーブ改正協定12条(1)本文によれば、指定締約国の官庁は、国際登録 の対象である意匠の一部又は全部が当該指定締約国の法令に基づく保護の付与のた めの条件を満たしていない場合には、当該指定締約国の領域における国際登録の一 部又は全部の効果を拒絶することができる。国際登録の効果を拒絶する場合、指定 締約国の官庁は、所定の期間内に国際事務局に対しその拒絶を通報し、国際事務局 は、名義人に拒絶の通報の写しを遅滞なく送付する(12条(1)、(2)(a)、(3)(a))。 同条(2)の「拒絶」は、拒絶の最終決定を意味するものではないと解されており、指 定締約国の官庁に要求されているのは、保護拒絶の原因となり得る理由を表示することだけである(乙5)。そして、拒絶の通報の対象となった名義人は、拒絶を通報\nした官庁に適用される法令に基づいて保護の付与のための出願をしたならば与えら れたであろう救済手段を与えられ、救済手段は、少なくとも拒絶の再審査若しくは 見直し又は拒絶に対する不服の申立ての可能\性から成るものとされている(12条 (3)(b))。指定締約国を日本とした場合、拒絶の通報は、国際登録の公表日から12か月以内にされることになる(乙4、5)。\n
ジュネーブ改正協定上、このような「拒絶の通報」をすること及びこれに対する 指定締約国の国内法令に基づく救済手段を与えるべきことを超えて、指定締約国に おける最終的な拒絶査定の告知方法や不服申立ての手続等(これらの事項は、ジュネーブ改正協定12条(1)ただし書の「国際出願の形式若しくは記載事項に関する 要件」には該当しないと解される。)について定めた規定は見当たらない。したがっ て、これらの点については、ジュネーブ改正協定上、指定締約国の国内法に委ねら れていることになる。前記のとおり、日本の意匠法によれば、本願は、日本の意匠 法に基づく意匠登録出願とみなされるのであるから、これに対する最終的な拒絶査 定の通知方法や不服申立て手続等も意匠法によるべきものと解される。
(3) しかるところ、本件において、特許庁は、本願について、令和3年10月2 2日に国際事務局に対し、「III) 拒絶の理由」の標題を付して具体的な拒絶の理由を 明らかにした本件拒絶の通報を発送しており(甲9)、国際事務局は、同年11月5 日、WIPOのウェブサイトにおいて、本件拒絶の通報を掲載した(乙3)。本件拒 絶の通報には、「国際登録の名義人は、この通報を発送した日から3か月以内に、「III)拒絶の理由」について、意見書を提出することができます。審査官は意見書の内容 を考慮し、保護を付与するかどうかについて決定いたします。なお、日本国内に住 所又は居所(法人にあっては、営業所)を有しない者は、日本国内に住所又は居所 を有する代理人によらなければ、日本国特許庁に対して手続をすることはできませ ん。」旨の英文の記載があり、本件拒絶の通報に付された注意書(Appendix)にもこ れと同旨の記載のほか、関連する意匠法の条文の英訳も記載されていた(甲9)。
(4) しかし、原告は、本件拒絶の通報後に意見書を提出せず、特許庁は、令和4 年4月5日付けで本件拒絶査定をした(甲10)。原告は、在外者であり、意匠管理 人を選任していなかったことから、特許庁は、意匠法68条5項において準用する 特許法192条2項の規定により、本件拒絶査定の謄本を、令和4年4月8日、航 空扱いとした書留郵便により発送した(甲10、乙6、7)。この結果、同条3項の 規定により、当該謄本は、発送の時に送達があったものとみなされた。当該書留郵 便は、同月10日には米国の国際交換局に到着していたが、同年9月21日までの 間、同局に保管され、原告に配達されたのは同月26日であった(甲1、2)。
(5) 意匠法上、拒絶査定に対する不服審判請求は、その査定の謄本の送達があっ た日から3月以内にしなければならない(意匠法46条1項)。本件拒絶査定の謄本 は、令和4年4月8日に原告に送達されたものとみなされたから、原告は、その日 から3か月以内に不服審判請求をすべきであったところ、本件審判請求期間が経過 した後である同年11月18日に本件審判請求をしたものである。
2 以下、本件審判請求期間内に原告が本件審判請求をすることができなかった ことについて、意匠法46条2項の「その責めに帰することができない理由」があ ったかどうかについて検討する。
(1) 原告は、本件拒絶査定の謄本を原告が現実に受領した令和4年9月26日に 本件拒絶査定がされているのを知ったのであり、本件審判請求期間の経過後に本件 審判請求をすることになった原因は郵便の配送遅延にあるから、原告の責めに帰す ることができない理由があると主張する。
しかし、そもそも意匠法68条5項において準用する特許法192条3項の規定 によれば、法律上、原告は現実に受領していなくても本件拒絶査定の謄本の発送の 時である令和4年4月8日に当該謄本の送達を受けたものとみなされるのであるか ら、意匠法46条2項の原告の責めに帰することができない理由の有無は、原告が 同日に当該謄本の送達を受けたことを前提にした上で検討されるべき問題である。 原告が現実に当該謄本を受領した日が本件審判請求期間後であったことや、その理 由が郵便の配送遅延にあったこと(ただし、当該謄本に係る書留郵便が同年4月に 米国交換局に到着した後、同年9月まで原告に配達されなかった理由は、証拠上明 らかではない。)があったとしても、これらの事情が存在することをもって直ちに原 告に「その責めに帰することができない理由」があると解することはできない。な ぜなら、これらの事情は、みなし送達を定めた法の前記規定の想定範囲外の事態で あるとは考えられない上、仮に、在外者の場合にこれらの事情のみをもって「その 責めに帰することができない理由」になると解したときは、拒絶査定の謄本が現実 に審判請求期間内に配達されなかったときは、同項所定の期間内(当該理由がなく なった日から2か月以内で、同条1項の期間の経過後6か月以内)であれば、常に 拒絶査定不服審判を請求することを認めるのと実質的に同じ結果になるからである。 このような解釈は、拒絶査定の謄本等の書類の発送の時に送達を受けたものとみな し、法律関係の安定を図る法の趣旨に反するものであるから、採用することができ ない。同条2項の「その責めに帰することができない理由」とは、通常の注意力を 有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認め られる事由により審判請求期間内に請求することができなかった場合をいうのであ り、原告が令和4年4月8日に法律上、本件拒絶査定の謄本の送達を受けたことを 前提としたとき、本件審査請求期間の末日である同年7月8日までに原告が通常期 待される注意を尽くしてもなお本件審判請求をすることが困難であったことを示す ような客観的な事情は見当たらない。したがって、原告の責めに帰することができ ない理由の存在を認めることはできない。 それのみならず本件においては、前記1のとおり、本件国際登録の公表から12か月以内に拒絶の通報がされる可能\性があることは、ジュネーブ改正協定により国際出願を行った以上、原告又はその代理人において当然知り得たはずである。また、 少なくともWIPOのウェブサイトには本件拒絶の通報が掲載されていたから、原 告は、同ウェブサイトを確認することにより、本件拒絶の通報がされていることを 知り、日本国の意匠法に従って拒絶査定が行われるであろうことを容易に予測することができたはずである。それにもかかわらず、原告は、これらの点に注意を払う\nことなく、本件審判請求期間内に本件審判請求をしなかったのであるから、原告が、 意匠登録出願人として、通常の注意力を有する当事者に通常期待される注意を尽く していたと認めることはできない。
(2) 原告は、意匠法46条2項の文言から、法定の期間内(同条1項の期間内) に審判請求をする機会が与えられるに至った経緯については問われていないことが 明らかであると主張する(取消事由1)。原告の主張する「法定の期間内に審判請求 をする機会が与えられるに至った経緯」の意味は、必ずしも明らかではないが、同 条1項によれば、原告は本件拒絶査定の謄本の送達を受けた日から3か月以内に不 服審判を請求することができ、同法68条5項において準用する特許法192条3 項の規定によれば、法律上、原告は本件拒絶査定の謄本の発送の時である令和4年 4月8日に当該謄本の送達を受けたものとみなされる。したがって、本件における 意匠法46条2項の「前項に規定する期間」は、その日から3か月以内の期間であ る。しかるところ、同項の解釈上、当該期間中に原告が本件拒絶査定を受けたとい う事実を知らなかったというだけで同項の「その責めに帰することができない理由」 に該当すると解することはできない一方、当該理由の存否の判断に当たり、原告が 本件拒絶査定のされたことを知ることができる事実的状況にあったことを考慮する ことは、何ら同項の文言及びその趣旨に反するものではない。そして、これらの点 を考慮した上で本件審判請求期間を徒過したことにつき原告の責めに帰することが できない理由の存在が認められないことは、前記(1)のとおりであるから、原告の主 張は採用することができない。
なお、原告代表者の宣誓供述書(甲1)によると、原告は、令和3年10月頃に、知的財産ポートフォリオの管理を、A氏の法律事務所からScheefに移管した\nが、その際、A氏が、本願について、数年先の更新期限まで更なるアクションをす る必要がない旨の引継ぎをしており、このことが、原告又はScheefをして、 本件拒絶査定を受ける可能性があることを認識しなかった原因であることがうかがえる。しかしながら、前記1のとおり、本願については、国際公表\後に特許庁がその登録を拒絶する可能性があり、このことはジュネーブ改正協定の規定上明らかであったのであるから、上記引継ぎ内容は誤りであったというべきである。A氏及び\nScheefには、知的財産の管理者として意匠の国際登録に係る手続に精通すべ きところ、これを怠っていたために上記誤りに気が付かなかったという過失がある。 また、日本国内の手続において、在外者に意匠管理人がいない場合には、書留郵便 等により拒絶査定の謄本が送達され、発送の時に送達があったものとみなされるこ とは、意匠法の規定上明らかであるから(意匠法68条5項において準用する特許 法192条2項、3項)、A氏及びScheefは、現実に本件拒絶査定の謄本を受 領するよりも前に、送達の効力が生じることを認識し、それに備えるべきであった ところ、これを怠ったという過失もある。そして、原告は、自らの経営判断により、 A氏及びScheefに対し、本願に係る管理を委任していたのであるから、A氏 及びScheefの過失があったことは、本件において原告の責めに帰することが できない理由の存在は認められない旨の前記判断を左右するに足りるものではない。
(3) 原告は、本件審決の判断について、意匠法68条5項において準用する特許 法192条2項の規定に基づいて拒絶査定の謄本が書留郵便等により在外者に発送 された場合には意匠法46条2項の適用は認められないと述べているのに等しく、 法的根拠を欠くとも主張する(取消事由2)。しかし、拒絶査定の謄本が書留郵便等 により在外者に発送された場合には、みなし送達により原告が現実に謄本を受領し ていなくても発送日から同条1項に定める法定の期間が開始することになるだけで、 この場合に同条2項の適用が排除されるわけではない。当該法定の期間内に拒絶査 定不服審判請求をすることができないような客観的な事情があるときなど、なお期 間の徒過につき審判請求人の責めに帰することができない理由が存在することはあ り得る。すなわち、同法68条5項において準用する特許法192条2項の規定に 基づく拒絶査定の謄本の発送がされた場合に、意匠法46条2項を適用して不変期 間の例外が認められる余地がなくなるなどということはできない。したがって、原 告の主張は採用することができない。

◆判決本文

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令和5(行コ)10001 特許分割出願却下処分取消請求控訴事件 特許権 行政訴訟 令和5年9月28日 知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

特許料納付後、設定登録されてからした分割出願の却下処分について、不服申し立てを行いましたが、1審の東京地裁は却下処分は妥当と判断しました。知財高裁も同様です。
経過としては、7月7日特許査定謄本送達、同月20日特許料納付、同月29日設定登録、同月8月5日分割出願です。時期としては、分割出願日が設定登録の後となってます。査定謄本の送達日から30日以内(特44条1項2号)という要件は満たしていると争いましたが、設定登録後は「特許出願人」ではないと判断されました。
法解釈的には裁判所の解釈は正しいです。ただ、条文の規定も、ユーザフレンドリーからすると、同2号に「ただし、設定登録後は除く」と確認的に明記しておけば、このような問題は生じないと感じました。

特許出願の分割は、もとの特許出願の一部について行うものであるから、 分割の際にもとの特許出願が特許庁に係属していることが必要であり、法4 4条1項の「特許出願人」及び「特許出願」との文言は、このことを示すも のである。同項1号から3号は、これを前提に、分割の時的要件を定めるも のであり、これに反する控訴人の主張は、同項所定の「特許出願」、「特許出 願人」との文言を無視する独自の議論といわざるを得ず、採用できない。な お、控訴人は、法65条1項を「特許出願人」と記載されていても「特許権 者」と解釈すべき例として挙げるが、同項の「特許出願人」は「警告をした」 の主語でもあるところ、これが出願公開後、設定登録前の特許出願人を指す ことは明らかである。
また、控訴人は、設定登録後は分割出願できないとの処分行政庁の解釈は 法44条1項に関する改正法の立法趣旨に反する旨主張する。しかし、同項 2号が、特許料納付期限(法108条1項)と平仄を合わせる形で、特許査 定の謄本送達日から「30日以内」を分割出願の期限と定めたのは、同期限 内であれば、特許査定を受けた特許出願人の意思によって「特許出願人」た る地位を継続することが可能であることを踏まえて、当該特許出願人が、特\n許査定を受け入れてそのまま特許料の納付に進むのか、分割出願という選択 肢を行使するのかという表裏一体の判断を検討するための猶予\期間を付与 したものと理解することができる。したがって、改正法の内容は、特許出願 が特許庁に係属していることを分割出願の要件とするとの解釈と何ら矛盾 するものではなく、むしろこれと整合するものといえる。
また、中国、台湾における取扱いを述べる控訴人の主張は、各国工業所有 権独立の原則、工業所有権の保護に関するパリ条約4条G(2)第3文に照 らして、本件の判断に影響を及ぼすものとはいえない。
(2) 取消事由2について
控訴人は、特許登録について独占権発生という効果のほかに分割不可化という効果が生じるのであれば、当該効果の部分については特許出願人に通知されて初めて効果が生じる旨主張する。しかし、設定登録は分割不可化という効果を目的とする行政処分ではなく、設定登録によりもとの出願が特許庁に係属しなくなることの派生的効果として、結果的に適法な分割ができなくなるというにすぎないのであって、控訴人の主張は、前提を欠くというべきである。

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◆令和4(行ウ)382

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令和4(行ウ)382  特許分割出願却下処分取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年3月23日  東京地方裁判所

 特許権の登録後の分割出願の可否について争いましたが、認められませんでした。料金納付後9日で登録されていました。

法 44 条 1 項柱書きは、特許出願人は、一の特許出願中に二以上の発明が 含まれている場合、その特許出願の一部を新たな出願(分割出願)とするこ とができる旨規定する。ここで、「特許出願人」及び「特許出願」とされて いることに鑑みると、同項の規定は分割出願のもととなる特許出願が特許庁 に係属していることを前提とするものと理解される。他方、同項は、分割出 願の時期的要件につき、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面 について補正をすることができる時又は期間内にするとき」(1 号)や「拒 絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があった日から三月以内にするとき」 (3 号)と定めるほか、「特許をすべき旨の査定…の謄本の送達があった日 から三十日以内にするとき」(2 号)と定めているところ、上記のとおり、 法 44 条 1 項はもととなる特許出願が特許庁に係属していることを前提とす るものと理解されることを踏まえると、特許査定の謄本の送達があった日か ら 30 日以内であっても、特許権の設定登録がされればその特許出願は特許 庁に係属しなくなる以上、これをもとに分割出願をすることはできないと解 される。 本件については、前提事実(1)のとおり、本件特許査定の謄本が原告に送 達されたのは令和 2 年 7 月 7 日であるから、原告は、同日から 30 日以内で ある同年 8 月 日に本件親出願をもとの特許出願とする分割出願(本件出願) をしたといえる。しかし、本件出願に先立つ令和 2 年 7 月 29 日に本件設定 登録がされたことにより、本件親出願は特許庁に係属しないものとなったこ とから、それ以降は本件親出願をもとの特許出願として分割出願をすること はできなくなっていたものである。
したがって、本件出願は、法 44 条 1 項所定の分割可能期間を経過した後\nにされたものであり、同項所定の要件を満たさないものと認められる。 以上のとおり、本件出願は、法 44 条 1 項所定の要件を満たさない不適法 なものであり、その補正をすることができないものといえるから、同法 18 条の 2 第 1 項本文に基づいて本件出願を却下した本件却下処分は適法と認め られる。
(2) 原告の主張について
ア 取消事由 1 について
原告は,法 44 条 1 項の定める分割出願について、特許査定謄本の送達 の日から 30 日以内であっても特許権の設定登録がされた後はすることが できないとの解釈は,明文の規定のない被告による解釈にすぎず,十分な\n合理性を有しないなどと主張する。 しかし,「二以上の発明を包含する特許出願の一部」(法 44 条 1 項柱 書き)のうちの「特許出願」及び「特許出願人」(前同)が、特許庁に係 属している特許出願及び同出願における特許出願人をそれぞれ意味するも のであることは文理上明らかである。 また、法 46 条の 2 第 1 項は実用新案制度に特有の事情を考慮して設け られたものであることなどに鑑みると、同条項の存在は、分割出願の時期 的要件に係る解釈に結び付くものでは必ずしもない。

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令和3(行コ)10003  手続却下処分取消請求控訴事件  特許権  行政訴訟 令和4年2月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 国際特許出願について、期限内に翻訳文を提出しなかった点について、救済を求めましたが、1審はこれを認めませんでした。知財高裁も同様です。

 法184条の4第4項は,外国語特許出願の翻訳文の提出について,手続 期間を遵守しなかったことによって出願又は特許に係る権利の喪失を引き起 こしたときの権利の回復について定めた特許法条約(PLT)12条に整合し た救済手続を導入するために,平成23年の特許法改正により新設されたも のであり,こうした規定新設の経緯からすると,外国語特許出願人について, 期限の徒過があった場合でも,柔軟な救済を図ることを目的としたものであ ると解される。しかし,他方で,1)特許協力条約(PCT)に基づく国際特許 出願の制度は,国内書面提出期間内に翻訳文を提出することによって,我が 国において,当該外国語特許出願が国際出願日にされた特許出願とみなされ るというものであるから,同制度を利用しようとする外国語特許出願の出願 人には,自己責任の下で,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出する ことが求められる。また,2)取り下げられたものとみなされた国際特許出願 に係る権利の回復を無制限に認めると,国内書面提出期間経過後も,当該国 際特許出願が取り下げられたものとみなされたか否かについて,第三者に過 大な監視負担をかけることになる。そうすると,法184条の4第4項にい う「正当な理由があるとき」とは,特段の事情がない限り,国際特許出願を 行う出願人が相当の注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて国内 書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいう ものと解すべきである。控訴人は,法184条の4第4項の「正当な理由」 の解釈は,期限管理システムが通常の状態で有効に機能しているのであれば,\n人は間違えることもあるのだからそれは救済するという立場に近づける方向 で緩やかにすべきであると主張するが,その解釈に当たって上記1),2)の点 も考慮しなければならないことからすると,「正当な理由」の解釈を一概に緩 やかにすべきであるということはできず,控訴人の上記主張は,採用するこ とができない。
(2) 相当な注意を尽くしていたか否かについて
控訴人は,本件担当パラリーガルが控訴人に送付した本件メールに,日本 の国内移行手続の期限として誤った記載がされたのは,本件代理人事務所に おいてダブルチェック体制による期限管理システムが有効に機能していたに\nもかかわらず,偶発的でかつ予期し得ない人為的ミスが重なって生じたもの\nであり,偶発的に生じた予期し難いものであったとした上で,法184条の\n4第4項の「正当な理由」の解釈を控訴人主張のとおりに緩やかにすれば, 本件においては,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて 国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったもので あり,法184条の4第4項の「正当な理由」があると主張する。 しかし,法184条の4第4項の「正当な理由」の解釈を控訴人主張のと おりに緩やかにすることができないことは,前記(1)に述べたとおりである。 また,本件代理人事務所では,国際出願の出願人に,国内移行手続の期限と して,国・地域にかかわらず,国内移行手続の期間が30か月である場合の 期限を報告するのが標準の実務であり,また,費用見積りは,クライアント から要望があった場合に行う手続であった(甲23和訳3〜4頁)。そうする と,費用見積りを,クライアントの要望がないにもかかわらず,本件担当弁 護士が選択した国について,国内移行手続の期間が30か月の国と31か月 の国に分けて用意し,それに伴って国内移行手続の期限も,国内移行手続の 期間が30か月の国と31か月の国に分けて表示するというのであれば,そ\nれは通常の取扱いと異なるのであるから,通常の取扱いと異なる部分につい て,誤りが生じないように,通常の取扱い以上にチェックすることが必要と なるというべきである。そして,本件の取扱いにおいては,国内移行手続の 期限を,国内移行手続の期間が30か月の国と31か月の国に分けて表示す\nるという点が,同期間が30か月である場合の期限のみを報告するという通 常の場合と異なっており,同期限は,国際特許出願の出願人であるクライア ントの権利の得喪に非常に重要な意味を有するから,通常と異なる取扱いを する以上は,同期限の表示の誤りの有無は,入念に点検すべきであるといえ\nる。そして,本件メール案には,国内移行手続の期限及び同手続に要する費 用の見積額が記入された一覧表(本件一覧表\)が記載され,国によって異な る期限が表示されていたのであるから,これらの国ごとの期限に誤りがない\nかを点検すべきであり,これをすることは容易にできたものと認められる。 しかしながら,本件一覧表に示された期限が正しいかどうかについてダブル\nチェック等により入念な点検が行われたことはうかがわれない。 本件一覧表に記載されていたのと同じ誤った期限は,本件担当パラリーガ\nルが日本の特許事務所に送付した,見積額を問い合わせるメール(甲19の 英文2頁目)にも表示されていたが,それは,本文の上の「Re:」という欄に 表示されていたにとどまり,そのメールの本文の問い合わせ事項に含まれて\nいたものではなかった。そのため,これに返信した日本の特許事務所がこの 表示の誤りを指摘しなかったとしても,日本の特許事務所がその表\示に誤り がないことを確認したと考えることは必ずしもできないようなものであった。 そうすると,上記メールに対する日本の特許事務所の返信メールに誤りの指 摘がなかったことをもって,その表示が正しいことについて確認がされたと\n認めることはできない。 したがって,控訴人は,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観 的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかっ たものであるとは認められず,法184条の4第4項の「正当な理由」があ るとは認められない。

◆判決本文

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◆令和2(行ウ)316

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令和3(行コ)10001  手続却下処分取消等請求控訴事件  特許権  行政訴訟 令和4年1月27日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 期間徒過後にPCT国際出願の翻訳文提出したのは、期限管理ソフトへの入力ミスがあり、184条の4第4項の「正当な理由」にあたると争いました。知財高裁1部は、これを認めませんでした。

エ 控訴人は,1)法184条の4第4項の立法趣旨や立法経緯,特許庁の ガイドラインに鑑みると,期間徒過の原因となった事象が予測可能\であ るといえない場合は,当該事象により期間徒過に至ることのないように 事前に措置を講じておくことを出願人等に求めるのは酷であることから すると,期間徒過の原因となった事象が出願人等の補助者の人為的ミス に起因するときは,ガイドラインの「相応の措置」(状況に応じて必要と されるしかるべき措置)が採られたかどうか,すなわち,期間内に手続 をすることができなかったことについて「正当な理由」があるかどうか は,監督者が個々具体的な人為的ミスを防ぐための措置を採っていたか ではなく,当該補助者を使用する出願人等がガイドライン3.1.5(5) に規定するaからcの3要件を満たしているか否かによって判断される べきである,2)本件特許事務所では,特許期限管理システム「IPマネ ージャー」を使用し,経験豊富な補助者(A,B及びC)を起用するな ど期間徒過が生じることがないようにするための期限管理体制が採用さ れていたが,本件期間徒過は,本件国際出願の期限前日である平成28 年9月21日,本件国際出願の出願書類の準備と本件国際出願用の新た な期限管理ファイル(本件期限管理ファイル)作成の作業が並行して行 われるという緊急事態の状況下で,Aが錯誤により本件期限管理ファイ ルに本件国際出願の基礎出願の優先日を誤入力し,優先日の入力に対す るB及びCによるダブルチェックが働かず,Aの誤入力が見過ごされた 結果,IPマネージャーによって誤った優先日に基づいて誤った国内移 行の移行期限が自動作成され,それに気づかなかったことが重なって偶 発的に起きた事象であり,このような特殊な事態に起因する複数の補助 者による偶発的な確認ミス等は予測可能\であるといえないから,上記期 限管理体制は,「相応の措置」に該当し,本件期間徒過を回避することが できなかったことについて「正当な理由」があるというべきである旨主 張する。 しかしながら,1)については,ガイドラインは,期間徒過後の救済規 定に関し,救済要件の内容,救済に係る判断の指針及び救済規定の適用 を受けるために必要な手続を例示することによって,救済が認められる か否かについて出願人等の予見可能\性を確保することを目的として,特 許庁が作成したものであり(乙4の表紙から4枚目の「期間徒過後の救\n済規定に係るガイドラインの利用に当たって」),法令等の法規範性を有 するものではなく,裁判所の法令の解釈やその判断を拘束するものでは ない。
次に,2)については,前記(2)及び(3)によれば,IPマネージャーの期 限管理ファイルの「基礎出願」欄に優先日として優先権を主張する基礎 出願の出願日を正確に入力することは,控訴人から本件国際出願の委任 を受けた本件特許事務所の基本的な業務であり,これを正確に入力する 必要性が高いことは明らかであること,本件においては,国際出願手続 及び各国への国内移行手続を担当するCから,ドケット管理部署に所属 するAへの連絡が適切ではなかったこと,本件期限管理ファイルを作成 したAは本件国際出願に係る優先日として米国特許仮出願1及び2のい ずれの出願日を入力すべきであるかを十分に確認することなく誤った優\n先日を入力(本件誤入力)したこと,本件国際出願の際のD弁護士等に よるチェック,本件国際出願後のBによるチェック及び本件国内移行期 限管理ファイル作成の際のドケット管理部署による優先日の事後的なチ ェックがいずれも行われなかったか,不十分であったことによって本件\n期間徒過が発生したことが認められる。 また,本件国際出願の期限の前日に,本件国際出願の出願書類の準備 と本件国際出願用の新たな期限管理ファイル(本件期限管理ファイル) 作成の作業を並行して行うことが,緊急事態であるということも,特殊 な事態であるということもできないし,本件国際出願を期限に余裕をも って行えば,このような事態に至ることを回避することも可能であった\nものである。
さらに,Aの本件誤入力は,本件期限管理ファイルへ優先日として米 国特許仮出願1の出願日である「2015年9月22日」と入力すべき であったのに,米国特許仮出願2の出願日である「2015年12月1 6日」と入力したという単純なミスであり,D弁護士等,B又はドケッ ト管理部署が,通常の注意力をもって,他の資料等と照合してダブルチ ェックを行えば,容易に発見することができたものと認められる そうすると,控訴人から委任を受けた本件特許事務所の担当弁護士や 補助者事務員が本件期間徒過を回避するために相当な注意を尽くしたも のと認められないから,控訴人において,本件期間徒過を回避すること ができなかったことについて「正当な理由」(法184条の4第4項)が あるものと認めることはできない。 したがって,控訴人の上記主張は理由がない。

◆判決本文

同様の人為ミスの事件です。 知財高裁2部は、正当理由についてかなり踏み込んで判断しています。

◆令和3(行コ)10002
(ア) 控訴人は,本件技術担当補助者は特許庁における7年以上の職歴を有する弁 理士であり,担当弁理士においては,本件案件について相当な注意を払って本件技 術担当補助者を選任したものである旨を主張するが,一般的に,本件技術担当補助 者が特許庁において担当していた業務と,その後担当弁理士の事務所において担当 するに至った業務とを同視することはできないものであるところ,本件全証拠によ っても,これらを同視することができる事情を認めることはできない。補正して引 用した原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」(以下,単に「原 判決の第4」という。)の1(3)イ(ア)で認定したとおり,本件技術担当補助者は, 平成30年4月に担当弁理士の事務所に採用され,本件案件について指示を受けた 当時,同事務所における勤務経験は2か月程度にすぎなかったものであって,そも そも「業務の進め方」に記載された通常の業務の流れについてすら,必ずしも習熟 していたといえるか疑問が残るところである。 上記に関し,同じく原判決の第4の1(2)で指摘した本件回復理由書の記載によ ると,本件期間徒過に至った当時,本件技術担当補助者に対する指導・教育等のた めに担当弁理士の業務負担は一時的に更に増大していたなどというのであるが,そ のことは,本件技術担当補助者の特許庁における経験や弁理士という資格をもって, 直ちに担当弁理士の事務所における技術担当補助者としての業務の遂行能力を評価\nすることができないことを裏付けているといえる。なお,控訴人が提出する世界知 的所有権機関のPCT受理官庁ガイドライン(甲35)の166Mの(f)においても, 出願人又は代理人が説明すべき事情の一つとして,当該補助者が「その特定の業務」 を任されていた年数が指摘されているところである。 したがって,控訴人の上記主張は,本件期間徒過について正当な理由が認められ ないとの前記認定判断を左右するものではない。
(イ) 控訴人は,本件技術担当補助者の誤認や思い込みは,担当弁理士の想定外の 人為的ミスというほかない旨を主張するが,本件期間徒過の原因について,専ら本 件技術担当補助者の単独の人為的過誤であると評価することが相当でないことは, 補正して引用した原判決の第4の1(3)アで説示したとおりである。
(ウ) 控訴人は,補助者の選任について相当な注意を払っていた以上,担当弁理士 においては,補助者を信頼することが許されるという旨を主張するが,補正して引 用した原判決の第4の1(3)アで説示したとおり,本件期間徒過に関しては,担当弁 理士の指示の方法が本件技術担当補助者の誤認に無視できない影響を与えたものと みるのが相当であって,そのことや,前記(ア)で指摘した点を考慮すると,控訴人の 上記主張は,その前提を欠くものというべきである。
(エ) 控訴人は,来客対応や外出等が重なれば,担当弁理士において,期限管理シ ステムにアクセスする余裕がないことが生じ得ることや,補助者への指示が万事円 滑に行われているという認識の下において担当弁理士に期限管理システムにアクセ スする義務があるとはいえない旨を主張するが,前者の点は,何ら正当な理由を基 礎付ける事情に当たらず,後者の点は,前記(ウ)で説示したところからして,本件期 間徒過についてはその前提を欠くものというべきである。
(オ) その他の控訴人の主張する点も,本件期間徒過について正当な理由が認めら れないとの前記認定判断を左右するものではない。 以上に関し,本件技術担当補助者の誤認についての主張からすると,控訴人は, 要するに,弁理士であって国内書面の提出期限の重要性を認識していた本件技術担 当補助者においては,少なくとも事務担当補助者から国内書面の印刷物を渡された 以上,担当弁理士が直接に事務担当補助者に国内書面の作成を指示したといった事 情にかかわらず,自らの経験も踏まえ,国内書面提出期間の徒過に至らないよう対 応すべきであったものであり,そのような対応をしなかった本件技術担当補助者に 本件期間徒過のほぼ全面的な責任があるとの捉え方を前提として,担当弁理士には 正当な理由があったことを主張するものとみられるが,本件技術担当補助者に対す るそのような要求ないし期待は,「業務の進め方」に記載された通常の業務の流れ における技術担当補助者の責任の範囲すらも一定程度超えるものとみ得るものであ り,ましてや,担当弁理士が通常の業務の流れから逸脱した形で指示を行った本件 において,担当弁理士が相当な注意を尽くしていたことを基礎付ける事情とは到底 なり得ないものである。

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令和2(行ケ)10085 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月9日  知的財産高等裁判所

 特許庁審査官は、PCTの国際手続きでおこなった補充の扱いについて、欠落部分を含まないようにする手段(施行規則38条の2の2第4項)をしなかったため、出願日が繰りさげて、自己公表よりあとの出願として拒絶査定としました。これについて取消を求めましたが認められませんでした。具体的には、PCT出願のあとに、米国で補充手続きをしましたが、その間に発明者による公表行為がありました。

 前記第2の4のとおり,平成24年10月1日より前の国際特許出願 である本願には,特許協力条約の「引用による補充」に関する規定は適用されない から,本願について「引用による補充」によって本件欠落部分を含んだ出願の出願 日が本願の国際出願日である平成23年8月25日になることはなく,本件欠落部 分を受理官庁に提出した同年9月29日となるが,本件欠落部分を含まない場合に は,本願の出願日が同年8月25日となる。 そして,本願に本件欠落部分を含まないようにする手段として施行規則38条の 2の2第4項の手続が定められているのであるから,同手続によることなく本件欠 落部分を含まないようにすることはできないものと解される。 前記1のとおり,原告は,施行規則38条の2の2第1項に基づいて本件通知を 受けたにもかかわらず,本件指定期間内に本件欠落部分が本願に含まれないものと する旨の同条4項の請求をしなかったのであるから,本願の出願日が平成23年9 月29日となることは明らかである。
イ 前記1のとおり,本願発明と同一の発明である引用発明が掲載された本 件学術誌が,本願の出願日の前の平成23年9月11日に公開されたのであるから, 本願発明には,新規性が認められない。
(2) 原告は,1)出願日が発明の公知日よりも後になることを知らずに,論文発 表等により発明を公知にしてしまった場合は,錯誤に陥って発明を公知にしてしまったのであるから,改正前特許法30条2項の「意に反して」に該当する,2)改正 前特許法30条2項の「意に反して」とは,権利者が発明を公開した後に,権利者 の意に反して出願日が繰り下がり,当該発明が遡及的に出願日よりも前の公知発明 となってしまった場合も含むとして,本願においては,同項が適用されるべきであ ると主張する。 しかし,本件において,原告は,引用発明が掲載された本件学術誌が公開された ことを認識していたことは明らかである。原告は,当初の出願後に「引用による補 充」を求めた行為によって出願日が繰り下がることを認識し得たのであり,また, 改正前特許法30条4項に規定する手続を,特許法184条の14に規定する期間 内に行うことも可能であったといえる。したがって,本件においては,改正前特許法30条2項の「意に反して」には当たらず,同項は適用されないというべきである。\nこの点について,原告は,出願日が繰り下がることがあることを知らなかったと 主張するが,それは日本の特許法についての知識が乏しかったということにすぎず, 上記判断を左右するものではない。
(3) 原告は,本件通知によって出願日が繰り下がる認定がされた日は平成25 年9月24日であり,この時点では既に「国内処理基準時」から30日が経過して いるから,原告が改正前特許法30条4項に規定する手続を行うことは不可能であると主張する。\nしかし,原告は,米国特許商標庁に対し,平成23年9月29日に,本件欠落部 分につき「引用により補充」を求める書面を提出しているのであるから,この時点 で,将来,施行規則38条の2の2第4項の請求をしない限り,本願の国際出願日 が平成23年9月29日となり,本件論文が本願の国際出願日前に公開されたこと になることを認識し得たものである。したがって,原告は,国内処理基準時(特許 法184条の4第6項)から30日以内(特許法184条の14,特許法施行規則 38条の6の3)に,改正前特許法30条1項の適用を受けることができる発明で あることを証明する書面を特許庁長官に提出することができたものということがで きる。 よって,原告の上記主張は理由がない。
(4) 以上より,取消事由1は認められない。
3 取消事由2(本願の出願日の認定の誤り)について
(1) 前記2(1)アのとおり,本願の国際出願日は,平成23年9月29日であ る。
(2) 原告は,特許庁長官に提出した翻訳文には,本件欠落部分が含まれていな かったから,本願の明細書には本件欠落部分が含まれていないとみなされ,また, 特許法184条の6第2項により,本件翻訳文は,願書に添付して提出した明細書 とみなされるから,本件欠落部分は本願の明細書の範囲外となっていると主張する。 しかし,前記2(1)アのとおり,本願の国際出願日は平成23年9月29日であり, このことは,特許法184条の4第1項に基づき指定官庁である特許庁長官に提出 した本件翻訳文に本件欠陥部分の翻訳が含まれていたか否かや,本件翻訳文が特許 法36条2項の明細書とみなされ(特許法184条の6第2項),外国語特許出願に 係る明細書等について補正できる範囲は,翻訳文の範囲に限定されている(特許法 184条の12第2項)ことで影響を受けるものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告は,本件通知には,本願について「引用による補充」がなかったとする 場合には,本件指定期間内に条約規則に基づく請求書に所定の事項を記載して提出 するとともに,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提 出してほしいことが記載されているが,本件通知の発送よりも前に,手続補正によ り削除すべき本件欠落部分が明細書に存在しないことになるから,本件通知に応答 して,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提出するこ とは不可能であり,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提出することを求める本件通知は法律に基づいた処分ではなく,重大かつ明白な瑕疵があると主張する。\nしかし,本件通知の文書に上記の記載があるからといって,本願の国際出願日の 認定が左右される理由はない。
(4) 原告は,翻訳文からあえて膨大な量の本件欠落部分を除いているのである から,本件翻訳文の提出をしたことにより,本件欠落部分が本願に含まれないもの とする旨の請求をする意思を持っていることが客観的に明らかであるところ,原告 は,本件翻訳文の提出により,本願に「引用による補充」がなかったとする黙示的 な意思表示をしており,同意思表\示は,施行規則38条の2の2第4項の請求に当 たるから,本件通知には重大かつ明白な瑕疵があるとともに,本件通知に対する応 答があったとみなされるべきであると主張する。 しかし,施行規則38条の2の2第4項は,特許庁長官が,認定された国際出願 日を通知する際に指定した期間内に,条約規則20.5(c)の規定によりその国際特 許出願に含まれることとなった明細書等が当該国際特許出願に含まれないものとす る旨の請求をすることができる旨を規定しており,本件通知前にした本件翻訳文の 提出行為が,上記の請求に当たらないことは明らかである。このことは,本件欠落 部分の分量が70頁であり,一方,本願の当初の明細書の分量が22頁であること によって左右されるものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。

◆判決本文

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令和1(行ウ)527  手続却下処分取消等  その他  行政訴訟 令和2年8月20日  東京地方裁判所  棄却

 期間徒過後に提出した国内書面について、特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるかが争われました。東京地裁(47部)は正当理由には該当しないと判断しました。

2 争点1(原告が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出できなかったこ とにつき,特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるか否か)に ついて
(1) 法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるときとは,特段の事情 のない限り,国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。以下同じ。)として, 相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて国内書面提出期間 内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいうものと解する のが相当である(知財高裁平成28年(行コ)第10002号同29年3月7 日判決・判例タイムズ1445号135頁参照。)。
(2) これを本件について見るに,本件事務員は,本件日本事務所に対し,本件 メールを送信後,数分後に送信の不奏功を告知する本件送信エラー通知を受 けていたにもかかわらず,また,ほぼ同時刻に送信した他の5箇所の代理人 事務所からは送信と同日中に受信確認メールの送信を受けた一方で,本件日 本事務所からは受信確認メールの送信を受けていなかったにもかかわらず, 国内提出期間が徒過するまで,本件日本事務所に対して,本件指示メールの 受信確認等を一切行わなかったものである。さらに,本件事務員を監督する 立場にあった本件現地事務所代理人は,本件指示メールのカーボンコピーの 送信先となっており,同メールを受信できなかった事情が特段見当たらない 以上は同メールを受信していたものと認められるが,その後,国内書面提出 期間の徒過を回避するための具体的な役割を果たした形跡が見当たらない。 これらによれば,本件事務員及び本件現地事務所代理人が相当な注意を尽く していたとは認められないし,本件において「正当な理由」の有無の判断を 左右するに足りる特段の事情があったとも認められない。
(3) これに対し,原告は,法184条の4第4項の「正当な理由」の有無は, 当事者の規範意識を基準とすべきであり,本件においては米国の基準ないし 実務に基づいて判断すべきであるとした上で,本件事務員が,長年の経験を 有し,これまで一度も同様の問題を起こしたことのない者であったこと,本 件現地事務所の期限管理システムの下,本件現地事務所代理人が業務規則に 従い,本件事務員に対し的確な指導及び指示をしていたこと,国内書面提出 期間の終期の徒過を知った直後から,最善を尽くしたことなどを縷々主張す る。
しかしながら,法184条の4第4項の適用の有無は,国内移行手続にお いて判断されるものであるから,同項の「正当な理由」の有無については, 日本における規範・社会通念等を基準に判断されるべきである。また,本件 現地事務所が期限管理システムや業務規則により期限徒過を防止する態勢を 企図していたとしても,本件の事実経過のとおり,本件事務員が本件送信エ ラー通知を受信していたにもかかわらず,本件日本事務所に対して本件指示 メールの受信確認等を一切行わず,期限徒過を生じさせたことからすれば, 結局のところ,本件事務員が業務を適切に行っている限りは問題が生じない が,見落としや錯誤など何らかの過誤を発生させた場合,何らの監督機能や\n是正機能が働くこともなく,問題の発生を抑止できない態勢にとどまってい\nたと言わざるを得ない。また,その余の主張について慎重に検討しても,本 件において,正当な理由の有無の判断に影響を与えるものとはいえない。 以上からすれば,原告の前記主張は,いずれも前記判断を左右するもので はない。
(4) したがって,本件において,原告が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文 を提出することができなかったことについて,法184条の4第4項所定の 「正当な理由」があるということはできない。

◆判決本文

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令和2(行コ)10002    特許権  行政訴訟 令和2年7月22日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 追納期間経過後にした4年目の年金納付について、112条の2第1項に規定する「正当な理由」があるとは認定されませんでした。
 特許権者はA弁理士に無効審判の代理と、年金管理を委任していましたが、途中で前者は別の弁理士に変更されました。無効審判は請求人との間で取り下げられましたが、年金を納めていなかったため、特許が消滅したという案件です。

 控訴人らは,1)特許庁は,年金管理事務を年金管理サービス会社などに外 部委託することを推奨し,特許権者は,年金管理サービス会社に年金管理を 委託し,相応の対価を支払うことで,自社で年金管理を行うことから解放さ れ,年金管理サービス会社からの期限通知に対し,権利維持の意思表示を行\nうのみで年金納付手続がされているという年金管理の運用実態に鑑みれば, 特許権者は,年金管理サービス会社に年金管理を委任した時点で,特許料の 納付期限の徒過を回避するために相当な注意を尽くしたと解すべきである, 2)控訴人中井紙器は,A弁理士に対し,本件特許権を含む多くの特許権の年 金管理を委任し,本件特許権の第4年分の特許料についても,A弁理士から の「年金通知のご案内」という納付期限が近付いている旨の通知を受け, 納付手数料,印書代,電子化情報処理料といった年金管理費用をA弁理士に 支払うことが予定されており,本件特許権の第4年分の特許料の納付期限で\nある平成28年1月18日及び本件追納期間の末日である同年7月19日の 時点において,本件年金管理はA弁理士に委任されたままの状態であったか ら,控訴人中井紙器は,A弁理士に本件年金管理を委任したことにより,相 当な注意を尽くしたものといえるとして,控訴人中井紙器が本件追納期間内 に本件特許料等を納付することができなかったことについて「正当な理由」 (法112条の2第 1 項)がある旨主張する。
ア そこで検討するに,前記第2の2の前提事実によれば,1)控訴人中井紙 器は,本件特許権の設定登録がされた平成25年1月18日ころまでに, A弁理士に対し,本件特許権の第4年分以降の特許料の納付管理(本件年 金管理)を委任したこと,2)A弁理士は,平成27年6月1日,控訴人中 井紙器のX1会長から,口頭で,本件無効審判に係る手続の代理人を解任 する趣旨の告知を受けた後,控訴人中井紙器に対し,同日付けで本件無効 審判に係る手続の委任を解除した旨の書面の提出を求める旨の甲3の書面 を送付し,控訴人中井紙器は,A弁理士に対し,同日付けで本件無効審判 に係る委任を解除したことに相違ない旨の甲2の書面を送付したこと,3) A弁理士は,X1会長から上記告知を受けたころ,A弁理士の事務所で特 許料の納付管理事務に従事していた担当者に対し,本件年金管理の事務を しなくてよい旨の指示をするとともに,控訴人中井紙器の本件特許権以外 の権利については今後も特許料の納付管理事務を行うよう指示をしたこと, 4)本件特許権の第4年分の特許料の納付期限の平成28年1月18日及び 本件追納期間の末日の同年7月19日が経過するまでの間,A弁理士は, 控訴人中井紙器に対し,上記納付期限の案内や本件追納期間に関する連絡 を行わなかったことが認められる。上記認定事実によれば,控訴人中井紙 器から本件年金管理に係る事務の委任により,その代理人となったA弁理 士は,控訴人中井紙器から本件無効審判に係る手続の委任の解除の告知を 受けた際に,本件年金管理に係る委任も解除されたものと認識したことが 認められる。
しかるところ,先に説示したとおり,特許権者が特許料の納付管理又は 納付手続を代理人に委任している場合は,法律関係の形成に影響を及ぼす べき主観的態様は原則として代理人の主観的態様に従って判断されるべき であり(民法101条参照),法112条の2第1項に規定する「正当な 理由」の有無についても,原則として原特許権者の代理人について決する のが相当であると解されるから,控訴人ら主張の年金管理の運用実態を勘 案しても,特許権者が年金管理サービス会社に年金管理を委任した時点で, 特許料の納付期限の徒過を回避するために相当な注意を尽くしたというこ とはできない。
したがって,控訴人中井紙器がA弁理士に本件年金管理を委任した時点 で控訴人中井紙器が本件追納期間の徒過を回避するために相当な注意を尽 くしたものと認めることはできない。
イ 次に,A弁理士は,控訴人中井紙器の代理人として,本件特許権の第4 年分の特許料の不納付及び本件追納期間の徒過により本件特許権が遡って 消滅したものとみなされる効果が生じることを認識し,又は認識すべきで あったことに照らすと,前記アのとおり本件年金管理に係る委任が解除さ れたものと認識したとしても,控訴人中井紙器に対し,自らの認識と控訴 人中井紙器の認識に齟齬がないかどうかを確認し,あるいは控訴人中井紙 器が本件特許権の第4年分の特許料の納付期限を明確に把握しているかど うかを控訴人中井紙器に確認するなど本件追納期間の徒過を回避するため に必要な措置をとるべきであったものと解される。そして,本件において は,A弁理士がかかる措置をとったことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,控訴人らが主張するように控訴人中井紙器とA弁理士との 間の本件年金管理の事務の委任契約が本件追納期間中も存続していたとし ても,A弁理士は控訴人中井紙器の代理人として本件追納期間の徒過を回 避するために相当な注意を尽くしたものと認めることはできない。 加えて,前記認定(原判決15頁9行目から21行目まで)のとおり, 控訴人中井紙器においては,本件追納期間内に締結した本件和解契約によ り,本件特許権の一部(持分)を控訴人グラセルに譲渡するに当たり,本 件特許権の第4年分の特許料が納付期限までに納付されているかどうかを 確認し,その納付が未了である場合には本件追納期間内に本件特許料等を 納付すべき取引上の注意義務を負っていたのであるから,自ら又はA弁理 士を通じて上記納付の有無について必要な調査・確認を行うべきであった にもかかわらず,かかる調査・確認を行っていないことに照らすと,控訴 人中井紙器自らも本件追納期間の徒過を回避するために相当な注意を尽く したものと認めることはできない。
ウ 以上によれば,本件特許権を共有していた原特許権者である控訴人中井 紙器が本件追納期間の徒過を回避するために相当な注意を尽くしたにもか かわらず,客観的な事情により本件追納期間内に本件特許料等を納付する ことができなかったものと認めることはできないから,控訴人中井紙器が 本件追納期間内に本件特許料等を納付することができなかったことについ て「正当な理由」(法112条の2第1項)があるということはできない。 したがって,控訴人らの前記主張は理由がない。

◆判決本文


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◆令和1(行ウ)278

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令和1(行ウ)278  特許料納付書却下処分取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月22日  東京地方裁判所

 特112条の2第1項の「正当な理由」とは認められませんでした。

 法112条の2第1項所定の「正当な理由」があるときとは,原特許権者(代 理人を含む。以下同じ。)として,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず, 客観的にみて追納期間内に特許料等を納付することができなかったときをいう ものと解するのが相当であるところ(知財高裁平成30年(行コ)第10006 号令和元年6月17日判決参照),以下のとおり,本件においては,本件追納期 間内に原告らが第4年分の特許料等を納付することができなかったことについ て,同項の「正当な理由」があったとは認められない。
1 正当な理由の有無について
(1) 原告中井紙器について
ア 原告らは,本件追納期間の徒過は,A弁理士が,原告中井紙器から本件年 金管理に係る委任についても解任されたと誤認したという人為的なミスに 起因するものであることを前提とした上で,本件年金管理につきA弁理士と いう適切な代理人を選任した時点で原告中井紙器としては本件追納期間の 徒過を回避するために必要な注意義務を尽くしており,A弁理士から甲3の 書面を受け取っていた以上,原告中井紙器が本件誤認に気付くことは困難で あったなどと主張する。 イ しかし,特許料の納付をするかどうかの判断,その支払期限の管理,特許 料の支出の確認を含め,自らの特許権に関する管理を行うのは,特許料納付 の手続を代理人に依頼していたとしても,特許権者の基本的な業務であり, かつ,容易になし得ることである。原告中井紙器は,本件特許の原特許権者 であり,しかも,原告グラセルとの間で本件特許の有効性をめぐり係争中で あったのであるから,本件特許の第4年分の特許料の納付期限が平成28年 1月18日であり,本件追納期間の末日が平成28年7月19日であること を認識し,同各期限までに特許料等が支払われているかどうかを容易に確認 し得たというべきである。 しかるに,原告中井紙器は,支払期限の管理,確認など特許権者として行 うべき基本的な管理を行うことなく,上記各期限を徒過させたものであって, 特許権者としての相当な注意を尽くしていたということはできない。 ウ これに対し,原告らは,本件追納期間の徒過は,本件年金管理事務を受任 していたA弁理士が,本件無効審判に係る手続のみならず,本件年金管理事 務についても委任を解除されたと誤認したという人為的なミスに起因する ものであると主張する。
しかし,前記第2の2(7)記載のとおり,原告中井紙器は,平成27年6月 1日付けの書面をもって,A弁理士に対し,当時係属中であった本件無効審 判に係る手続の委任を解除した旨の告知をしたところ,本件年金管理事務が 特許出願等の手続代理に付随する事務としての性質を有し,出願,無効審判 など各種の手続代理と年金管理事務とを異なる代理人に依頼するとは通常 考え難いことに照らすと,同原告により解除された委任事務は,本件無効審 判に係る手続のみにとどまらず,本件特許に係る全ての事務を包括するもの であったと解するのが自然である。仮に,原告らの主張するように,A弁理 士に対して委任していた事務の一部のみを解除するのであれば,その旨の説 明があってしかるべきであるが,原告中井紙器からA弁理士に対してそのよ うな説明がされたことをうかがわせる証拠は存在しない。 そうすると,本件特許の管理業務も解除された委任事務に含まれるとのA 弁理士の認識が誤信であるということはできず,本件追納期間の徒過がA弁 理士の人為的ミスに基づくものであったということもできない。 エ 仮に,原告中井紙器が本件特許の年金管理業務はA弁理士に引き続き委任 していたものと誤信し,あるいは,原告中井紙器により解除された委任事務 の中に本件特許に係る年金管理事務が含まれていなかったとしても,前記判 示のとおり,自らの特許権に関する管理を行うのは特許権者の基本的な業務 であり,しかも,A弁理士に対しては,特許無効審判に係る手続の代理の委 任を解除しているのであるから,同原告としては,同弁理士からの納付期限 の連絡を漫然と待つのではなく,自ら調査・確認し,又は同弁理士に自ら連 絡をするなどして,特許料等の納付期限の管理を行うべきことは当然であり, それが困難であったとも考えられない。 したがって,原告中井紙器がA弁理士に本件年金管理事務を委任したこと をもって必要な注意を尽くしたなどということはできないのであり,同原告 が特許権者として相当の措置を講じたということはできない。
オ さらに,前記第2の2(11)記載のとおり,原告らは,本件追納期間内であ る同年3月9日に,原告中井紙器が本件特許権の持分1%を原告グラセルに 譲渡する一方で,原告グラセルが無効審判請求を取り下げることなどを内容 とする本件和解契約を締結したと認められるが,原告中井紙器としては,本 件特許権の一部を原告グラセルに譲渡するに当たり,同特許権の特許料が期 限までに支払済みであることを確認し,その支払が未了である場合には本件 追納期間内に第4年分の特許料等を納付すべき取引上の注意義務を負って いたというべきである。 しかるに,原告中井紙器は,同契約に当たり,本件特許の第4年分の支払 の有無を調査すれば,その支払が未了であることを容易に確認し得たにもか かわらず,自ら又はA弁理士に確認するなどして,必要な調査・確認を行わ ないまま,漫然と,本件追納期間の末日を経過したのであるから,特許権者 として,相当な注意を尽くしたということはできない。
(2) 原告グラセルについて
ア 原告らは,本件和解契約において本件年金管理の義務が原告中井紙器にあ って原告グラセルにはないことを合意するなどして本件年金管理の義務が 原告グラセルにないことを明確にしているから,原告グラセルは,本件追納 期間の徒過を回避するために必要な注意義務を尽くしたと主張する。 しかし,本件特許権の持分1%を取得する原告グラセルとしては,本件和 解契約を締結するに当たり,自らの取得する本件特許権が有効に存続するも のであることを確認するのが通常であると考えられる。原告グラセルは,無 効審判手続の当事者であったのであるから,本件特許に係る第4年分の特許 料の納付期限が平成28年1月18日であることは認識していたものと考 えられ,本件和解契約に当たり,同特許料が支払済みであるかどうかを原告 中井紙器に確認し,これが未払である場合には,本件追納期間中に特許料等 の納付を求めることは容易であったというべきである。 しかるに,原告グラセルが原告中井紙器に第4年分の特許料の支払に関し て照会し,あるいは,その点について自ら調査したことをうかがわせる証拠 は存在しない。
イ そうすると,原告グラセルは,自ら特許料の納付の時期について適切に管 理すべき立場にありながら,原告中井紙器が本件年金管理を行うものと軽信 し,本件追納期間中にも自らの不注意によって本件追納期間内に特許料等の 納付をすべきことを認識しないまま,漫然と,本件追納期間の末日を経過し たのであるから,同原告が相当な注意を尽くしたにもかかわらず,客観的に みて追納期間内に特許料等を納付することができなかったということはで きない。 なお,原告らは,本件和解における本件特許権の持分の譲渡は実質的には 実施許諾契約の性質を有するものであったと主張するが,仮にそのとおりで あったとしても,上記結論を左右するものではない。
(3) 特殊な事情の有無について
原告らは,本件追納期間の徒過は,(1)A弁理士が本件年金管理に係る事務の 委任についても解任されたと誤認したことと,(2)A弁理士が自己の認識と異な る内容の書面を送付したことという2つの特殊な事情が重なって生じたもの であるので,正当な理由があると認められるべきであると主張する。 しかし,本件年金管理事務も解除された委任事務に含まれると解すべきであ り,この点について,A弁理士に誤認があったとは認められないことは前記判 示のとおりである。また,甲3の書面の内容は前記2(7)に記載のとおりである ところ,同書面に記載された内容とA弁理士の内心の認識に齟齬があると認め ることはできない。 また,仮に,原告の主張する上記事情が認められるとしても,本件追納期間 の徒過は,原告らが特許権者としての通常の注意を払っていれば容易に避ける ことができたものであり,これらの事情をもって通常起こりえない特殊な事情 であるということはできない。

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平成31(行ウ)162  特許料納付書却下処分取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月23日  東京地方裁判所

 特許の訂正の登録がなされた登録日を年金納付期限の登録日と誤解したことを「正当理由」と主張しましたが、認められませんでした。

 原告は,本件特許権に係る特許料の納付期限を管理していたファイザー社の 担当者において,本件訂正時特許証の「登録日」欄の日付である平成25年9月3 0日が本件設定時特許証の「登録日」欄の日付である平成24年3月16日と異な っていたことから,特許料の納付期限の起算日となる本件特許権の設定登録日が本 件訂正時特許証のとおり訂正されたものと誤解し,本件期間徒過が生じたとし,(1) 特許料等に関する法107条ないし112条の3の各規定によって,訂正をすべき 旨の審決が確定しても設定登録日が変わらないことや特許証に複数の種類があるこ とを認識することはできないこと,(2)本件設定時特許証及び本件訂正時特許証には 「登録日」としか記載されていないため,どちらが本件特許権の設定登録日である か不明確であり,米国や欧州の実務と比べても,我が国の特許証の記載は紛らわし いものであること,(3)特許証の大半は設定登録時に発行されるものであるから,フ ァイザー社において,訂正すべき旨の審決が確定したときに発行される特許証が存 在することを当然に把握しておくべきであったとはいえないことなどに照らし,原 告には,本件期間徒過について法112条の2第1項所定の「正当な理由」が認め られる旨主張する。
(2) 本件特許権に係る特許料の納付期限を管理していた担当者は,原告の主張が 本件回復理由書及び本件審査請求書における主張(甲6,10)から変遷し,判然 としないが,ファイザー社の担当者において,前記のような誤解をしていたと認め られたとしても,以下のとおり,本件期間徒過について,原告が原特許権者として, 相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて追納期間内に特許料等を 納付することができなかったときに当たると認めることはできない。 ア すなわち,原告は,日本の特許権を保有していたのであるから,特許料の納 付等の管理を行うに当たり,一般に求められる相当な注意として,日本の特許法及 びその他の関係法令を理解しておくべきであるといえるところ,(1)特許料の納付期 限については,法107条,108条において,特許権の設定登録日から起算され ることが規定されており,訂正をすべき旨の審決が確定してその登録がされた場合 に特許権の設定登録日が変更される旨の規定は存在しないから,本件特許権につい て,本件審決が確定してその登録がされたからといって,特許権の設定登録日が変 更されないことは条文上明らかであること,(2)特許証の交付についても,法28条 1項において,特許権の設定の登録があったときに交付されることのほかに,訂正 をすべき旨の審決が確定した場合にその登録があったときなどにも交付されること が規定されていることなどからすると,担当者において,これらの規定を理解して いれば,本件訂正時特許証に「登録日」として「平成25年9月30日」と記載さ れていても,本件訂正時特許証に「この発明は,訂正をすべき旨の審決が確定し, 特許原簿に登録されたことを証する。」と記載されていることをも踏まえれば,上 記の「登録日」が本件審決の確定等に係る登録日を記載したものであり,特許料の 納付期限の起算日となる特許権の設定登録日が変更されたものではないと理解する ことは可能であったと認められる。\n
イ 本件訂正時特許証及び本件設定時特許証の「登録日」欄記載の年月日には1 年半ものずれがあり,特許権の設定登録日が訂正されたと考えることに疑念を生じ させるものであったといえるところ,特許権の設定登録日は,ウェブサイトに公開 されている特許情報や特許登録原簿等によっても確認することができるから,担当 者において,上記疑念を抱いて,相当な注意を尽くしてそのような確認をしていれ ば,本件特許権の設定登録日が変更されていないことを認識することは容易であっ たというべきである。
ウ 本件全証拠によっても,担当者において,本件訂正時特許証の「登録日」欄 の記載を上記アのように理解すること又は上記イのような確認をすることが困難で あったことをうかがわせる事情は認められない。
(3) したがって,本件期間徒過について法112条の2第1項所定の「正当な理 由」は認められない。
3 小括
以上によれば,本件納付書による特許料等の納付のうち,第4年分の特許料等に 係る部分について,本件期間徒過について法112条の2第1項所定の「正当な理 由」があるとはいえないとし,第5年分の特許料等及び第6年分の特許料に係る部 分について,第4年分の特許料等の追納が認められないために本件特許権は消滅し ているとして,本件納付書による追納手続を却下した本件却下処分が違法であると はいえない。

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平成30(行ウ)424    その他  行政訴訟 令和元年6月18日  東京地方裁判所

 特許法112条の2第1項の正当理由について、判断基準として「一般に求められる相当な注意を尽くしても避けることができないと認められる客観的な事情があるか」であると示し、今回のケースは該当しないと判断されました。

 特許法112条の2第1項は,同法112条4項の規定により消滅したもの とみなされた特許権の原特許権者は,同条1項の規定により特許料を追納する ことができる期間内に特許料等を納付することができなかったことについて の「正当な理由」があるときは,経済産業省令で定める期間内に限り,その特 許料等を追納することができると規定する。 この規定は,平成23年法律第63号による改正前の特許法112条の2第 1項では,期間徒過後に特許料等を追納できる場合について原特許権者の「責 めに帰することができない理由」により追納期間内に特許料等を納付できなか った場合と規定していたところ,国際調和の観点から,より柔軟な救済を可能\nとすることを目的として,手続期間を徒過した場合の救済を認める要件につき, 特許法条約の規定を踏まえて「Due Care(相当な注意)」の概念を採用 したものであると解される。 これらを踏まえると,特許法112条の2第1項にいう「正当な理由」があ るときとは,原特許権者(その手続を代理する者を含む。)において一般に求め られる相当な注意を尽くしても避けることができないと認められる客観的な 事情により,同法112条1項の規定により追納することができる期間内に特 許料等を納付することができなかった場合をいうと解するのが相当である。 原告らは,本件特許事務所から平成25年11月に本件特許権について第4 年分の年金のリマインダの送付を受け,電子メールに添付した本件注文書によ って,本件特許事務所に対して本件特許権の第4年分の年金納付の指示をした と主張する。 しかし,上記電子メールや本件注文書には特許番号が記載されておらず,ま た,特許番号に代替し得る本件特許権を特定するための情報は全く記載されて いなかった。特許番号を記載しなかった理由は,原告らの年金納付担当者の気 力がなかったというものであった。かえって,本件特許権の第4年分の年金の 納付期間の終期が平成25年12月3日であったにもかかわらず,電子メール 及び本件注文書には,年金納付を指示する特許権の年金が第17年分のもので あり,その納付期間の終期が同月16日であることをうかがわせる記載のみが あった。本件特許事務所は原告らの特許権について多数の特許出願及び更新手 続を管理しており,その特許権の中には年金の納付期間の終期が前同日のもの が含まれていた。
更に,本件特許権について年金納付の指示をしたのであれば,本件特許事務 所からそれに対応してその指示の受領の通知と本件特許権についての請求書 等が送付されるところ,そのような通知や請求書の送付はなく,原告らがそれ に気付くことはなかった。 これらによれば,本件注文書に「2013年11月15日付けの最終連絡に 基づく」旨が記載されていて,原告ら主張のとおり同最終連絡に仮に本件特許 権の年金納付の要否を尋ねる旨の記載があったとしても,原告らは,年金納付 をする特許権を容易に特定することができ,また,本件特許事務所が管理する 原告らの特許権には年金納付をする必要がある別の特許権があるにもかかわ らず,本件注文書やその電子メールをもって,本件特許事務所に対し年金納付 の対象の特許権が本件特許権であることを明確に認識できる形でその納付を 指示したとは到底いい難い。そして,原告らは,年金納付の指示をすれば当然 あるはずの請求書の送付等がないことを看過していた。原告らについて,本件 において,一般に求められる相当な注意を尽くしても避けることができないと 認められる客観的な事情があるとは認められない。 これに対し,原告らは,本件特許事務所は世界的なランキングに掲載される 有力な事務所であり,年金納付が確実に行われるように体制を整備していたの であって,そのような外部組織を適切に選任した以上,原告らには特許法11 2条の2第1項の「正当な理由」があるなどと主張する。 しかし,前記のとおり,本件特許権の年金の納付についての原告らの指示が 明確であったとはいい難く,また,その後,原告らは,当然あるはずの請求書 の送付等がないことを看過していたのであって,本件特許事務所を選任したこ とによって「正当な理由」があるとはいえない。 以上によれば,本件期間徒過について「正当な理由」(特許法112条の2第 1項)があるとはいえないから,原告らの請求には理由がない。

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平成30(行ケ)10156  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月19日  知的財産高等裁判所

 期間徒過後に、拒絶査定不服審判を請求しましたが、この却下処分について取消訴訟を提起しました。知財高裁は、「責めに帰すことのできない事由」ではないと判断しました。経緯はややこしいです。ある出願Aについて拒絶査定がなされたので、分割出願Bをしました。ところが、この出願Aは3代目の分割出願であり、拒絶査定不服審判と同時でないと分割出願ができない旧特許法44条が適用されるものでした。特許庁は、分割出願Bについて、特18条の却下処分を通知しました。出願人は、期間徒過後に、拒絶査定不服審判の請求とともに、分割出願Cをしましたが、拒絶査定不服審判の請求が審決却下されました。

 特許の出願人が在外者である場合,拒絶査定不服審判請求や分割出願を行 うためには,特許法施行令1条1号に定める場合を除いて,特許管理人たる代理人 を選任する必要があるが(特許法8条1項),その場合であっても,同在外者は, 誰を代理人に選任するのかについて,自己の経営上の判断に基づきこれを自由に選 択することができる。そうすると,出願人から委任を受けた代理人に「その責めに 帰することができない理由」があるといえない場合には,出願人本人に何ら落ち度 がない場合であっても,特許法121条2項所定の「その責めに帰することができ ない理由」には当たらないと解すべきである(最高裁昭和31年(オ)第42号同 33年9月30日第三小法廷判決・民集12巻13号3039頁参照)。
(2) 本件においては,前記第2の1のとおり,D弁理士は,本願からの分割出 願について,特許法44条1項3号の適用があり,拒絶査定不服審判請求をする必要はないものと誤信し,拒絶査定不服審判請求についての法定期間を徒過してし まったものである。 弁理士法3条によると,弁理士には,業務に関する法令に精通して,その業務を 行う義務があるところ,通常の注意力を有する弁理士が,通常期待される法令調査 を行えば,本件拒絶査定後,本願から適法に分割出願を行うためには,拒絶査定不 服審判請求を分割出願と同時にする必要があると認識することは十分に可能\であっ たと認められる。したがって,D弁理士が上記のように誤信をしたことは,弁理士 として通常期待される法令調査を怠った結果であるというほかない。D弁理士以外 の他の本件代理人らについても,いずれも原告本人から委任を受けた弁理士である 以上,適宜,必要な処置を講じて,本件のような過誤の発生を防止すべき義務があっ たといえ,D弁理士同様,弁理士として通常期待される注意を尽くしていなかった ものというべきである。 以上のとおり,本件代理人らが通常期待される注意を尽くしていたとはいえない 以上,本件において,特許法121条2項にいう「その責めに帰することができな い理由」があったとすることはできない。
(3)ア 原告は,本件代理人らの過誤は,原告本人にとって思いもかけないこと であり,外国法人である原告本人が,非本質的な手続である本件審判請求について の本件代理人らの過誤を防ぐことは不可能であったことなどから,「その責めに帰\nすることができない理由」があると主張する。 しかし,本件審判請求が,分割の機会を得るためだけにされたものであるとして も,そのことによって「その責めに帰することができない理由」があるとすること ができないのは,前記1(2)エで述べたとおりである。 また,前記(1)のとおり,原告本人は,自らの経営上の判断として,本件代理人ら に委任したのであるから,原告本人には過失がなかったとしても,自己が委任した 本件代理人らに過失がある以上,「その責めに帰することができない理由」はなかっ たと判断されるのもやむを得ないものというべきである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は,本件分割出願1と本件分割出願2が同内容であることからする と,失効した権利の回復を無制限に認めることにはならず,また,第三者の監視負 担が増大することはないと主張するが,そのような本件における個別具体的な事情 を理由に,「その責めに帰することができない理由」があるとすることはできない。

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平成29(行ウ)297  異議申し立て棄却処分取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年11月20日  東京地方裁判所

 特112条の2第1項の「正当な理由」には該当しないと判断されました。
 (1)特許法112条の2第1項は,同法112条4項の規定により消滅したも のとみなされた特許権の原特許権者は,同条1項の規定により特許料を追納 することができる期間内に特許料及び割増特許料を納付することができなか ったことについて「正当な理由」があるときは,経済産業省令で定める期間 内に限り,特許料等を追納することができると規定する。 そして,特許法112条の2の上記文言が,特許法条約(Patent Law Tre aty)において手続期間を徒過した場合に救済を認める要件としての「Du e Care(いわゆる『相当な注意』)」を取り入れて規定されたこと(平 成23年法律第63号による改正,乙12)からすれば,同条の「正当な理 由」があるときとは,原特許権者として,特許料等の追納期間の徒過を回避 するために相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的な事情により これを回避することができなかったときをいうものと解するのが相当である。
(2) 本件について,原告は,「正当の理由」として,主に,本件追納期間中は 別件訴訟の対応で心身ともに余裕がなかったこと,同期間中にうつ病等の複 数の疾患を抱えており,特許料等を納付できる状態ではなかったことを主張 する。 しかしながら,一般的に自己を当事者とする訴訟を追行していたとしても, それ以外の事務を行うことができなくなるものではなく,特許料の納付期限 等について注意を払うことは十分に可能\であったといえるから,原告の主張 する別件訴訟に係る事情は,追納期間の徒過を回避することができなかった と認められる客観的な事情とは評価できない。 また,原告は,本件追納期間中にうつ病等の複数の疾患に罹患していたと 主張し,原告について診断日を平成22年3月25日として「遷延性抑うつ 反応」との診断を受けたことが認められる(甲9の1)。しかし,本件追納 期間(平成25年6月12日から同年12月11日まで)中に原告が精神科 に通院するなどしてうつ病の治療を受けていたことを認めるに足りる証拠は ないほか,原告は,1)上記診断において「遷延性抑うつ反応」に罹患したと される平成20年11月10日(本件交通事故による受傷日)以降も複数の 特許出願を行なっていたことがうかがわれること(甲9の1,乙7〔3枚 目〕,2)本件追納期間中もほぼ毎週整形外科に通院していたこと(甲15, 乙7〔平成26年5月15日付け青森県立中央病院医師作成の診断書から始 まる添付資料の2,4,8,13,14枚目,2013/4/02(44)との記載から 始まる添付書類の5ないし16枚目),3)本件追納期間経過後から間もない 平成26年4月に本件特許権が消失していることを知ると,同月17日頃に は特許庁に対して特許料追納手続を問い合わせる電子メールを送信し,同月 23日には,特許庁から送付された電子メールの記載に従った追納分の特許 料相当額の印紙を貼付した本件納付書を提出し,正当な理由に該当する旨を\n記載した回復理由書を提出したこと(乙5の1,2,乙7〔2枚目,「登録 室」から2014年4月17日午前10時24分に送られた電子メールの記 載から始まる【添付資料】の1枚目〕)などからすれば,原告が本件追納期 間中に「遷延性抑うつ反応」あるいは他の疾患により行動等の制限を受ける ことがあったしても,それが特許料納付の妨げになる程度のものであったと 認めるには足りず,原告の疾病に係る事情もまた,追納期間の徒過を回避す ることができなかったと認められる客観的な事情とは評価できない。 更に,原告は,特許庁から特許料納付に係る請求書の送付がなかったとも 主張するが,特許料及びその納付期限については特許法107条以下に定め られるなどしていて,相当な注意を尽くして情報を収集すれば容易に知るこ とができたというべきであるから,上記事情は追納期間の徒過を回避するこ とができなかったと認められる客観的な事情とはいえない。 その他,追納期間の徒過を回避することができなかったと認められる客観 的な事情は認められない。
(3)以上によれば,本件納付書による特許料等の納付のうち,第4年分の特許 料等に係る部分について,本件期間徒過につき正当な理由があるとはいえな いとし,第5年分の特許料に係る部分について,第4年分の特許料等の追納 が認められないために本件特許権は消滅しているとして,本件納付書による 納付手続を却下した本件却下処分には,特許法112条の2第1項の解釈適 用を誤った違法があるとはいえない。 原告は,本件却下処分または本件決定によって本件特許権が回復しないこ とが憲法29条に違反するとも主張するが,特許権は,性質上,法が定める 条件に従って,国家から付与され存続する権利であるから,法が定める特許 料の納付等の手続を経なければこれを失うものであり,前記のとおり追納を 認めなかった本件却下処分に違法があるとはいえないことから,本件特許権 が回復しないことが憲法29条に違反することはない。

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平成29(行ウ)559  手続却下処分取消請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年8月30日  東京地方裁判所(47部)

 国内代理人の使用していたメールサーバがウイルス感染していたとの理由で、期間内に審査請求できなかったとして争いましたが、東京地裁は正当な理由無しと判断しました。
 特許法48条の3第5項所定の「正当な理由」があるときとは,特段の事情 のない限り,特許出願を行う出願人として,相当な注意を尽くしていたにもか かわらず,出願審査請求期間の徒過に至ったときをいうものと解するのが相当 である。
(2)これを本件についてみるに,原告は,従来から,本件現地事務所が,本件国 内事務所に対し出願審査の請求手続を指示するメールを送信後,メールの到達 を確認する手順を踏まない運用をしていたこと,他方で,本件国内事務所は, 元々,国内移行の段階で審査請求を行う日にちの指示がない場合には,出願審 査請求期間満了の1か月前までに指示するよう本件現地事務所に依頼してお り,逐一その旨は連絡しておらず,同期間満了の1か月前までに指示がない場 合には審査請求を行わないものとみなす運用をしていたこと,そして,かかる 運用でも特段の問題は生じていなかったところ,本件では,本件現地事務所が 本件国内事務所に対し,平成28年4月1日,本件特許出願について出願審査 請求をするようメールで指示したにもかかわらず,本件国内事務所の所内のサ ーバー及びメールサーバーが同年3月28日から同年4月4日までの間,ウイ ルス感染により使用不可能な状況となっていたため,本件国内事務所において\n 上記メールを受信することができなかったこと等をるる主張する。 しかしながら,原告の主張する運用には,本件現地事務所と本件国内事務所 との間のメールの送受信に問題が生じた場合に対する何らの対策も含まれて おらず,この運用に沿って行動したからといって,本件現地事務所あるいは本 件国内事務所が相当な注意を払ったとは認めがたい。
また,原告は,突発的な事象として,本件国内事務所の所内サーバー及びメ ールサーバーのウイルス感染を主張するものと解されるところ,前記1?で認 定した限度で,本件国内事務所の関連会社内のサーバーに関してランサムウェ アの感染に係る問題が認識されていたことは認められるとしても,原告の主張 する期間において,本件国内事務所の所内のサーバーなどが使用不可能な状況\nになっていたと認める足りる的確な証拠はない。そして,仮に原告の主張する とおりの状況があったとしても,本件国内事務所が本件特許出願に係る出願審 査請求期間(本件期間)の終期につき,平成28年4月29日と認識していた のであれば,その1か月前である平成28年3月29日の時点でサーバーが使 用不可能な状態になっていたことになる以上,本件国内事務所としては,通常\nの運用がどうであれ,本件現地事務所に出願審査請求の指示のメールを送信し た事実の有無を確認すべきであるし,サーバーが使用可能になった時点から本\n件期間の終期まで1か月弱の期間があったことからすれば,かかる確認をする 時間的猶予は十\分にあったというべきである。 そうすると,結局,本件において,本件現地事務所あるいは本件国内事務所 が相当な注意を払ったとは,到底認めがたいし,特段の事情があったとも認め られない。 なお,原告は,自らの判断に基づき,本件現地事務所あるいは本件国内事務 所に委任して特許出願に係る手続を行わせることとした以上,原告が相当な注 意を払ったか否かという点において本件現地事務所あるいは本件国内事務所 についての前記の判断と別個の判断をすべき理由はない。
(3)したがって,本件特許出願について本件期間内に出願審査の請求をすること ができなかったことについて,特許法48条の3第5項所定の「正当な理由」 があったとは認められず,その結果,本件手続については本件特許出願の取下 擬制(特許法48条の3第4項)により客体が存在しないこととなるから,本 件却下処分は適法である。

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平成30(行ケ)10011  商標登録維持決定取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成30年7月10日  知的財産高等裁判所

 件のベストライセンス株式会社vs特許庁の裁判です。異議申立を認めなかったのを取り消せ&商標法43条の3第5項の規定が違憲と主張しましたが、認められませんでした。
 商標法43条の3第4項は,審判官は,登録異議の申立てに係る商標登録が同法\n43条の2各号所定の登録異議事由のいずれかに該当すると認めないときは,その 商標登録を維持すべき旨の決定をしなければならない旨を規定し,また,同法43 条の3第5項は,同決定に対しては不服を申し立てることができないと規定する。\nこのように,本件決定に対しては不服を申し立てることができないのであるから,\n請求の趣旨1項に係る本件決定の取消しを求める訴えは,そもそも同法43条の3 第5項の規定に違反するものであって,不適法なものである。
2 請求の趣旨2項に係る訴えの適法性について
請求の趣旨2項に係る訴えは,原告が,本件登録異議事件について商標登録取消 決定をすべき旨を被告特許庁長官に命ずることを求めるものであり,行政事件訴訟 法(以下「行訴法」という。)3条6項2号所定のいわゆる申請型の義務付けの訴\nえとして提起するものと解される。 しかしながら,同号所定の義務付けの訴えは,当該法令に基づく申請又は審査請\n求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴えと 併合して提起しなければならないところ(行訴法37条の3第3項2号),上記取 消訴訟又は無効等確認の訴えが不適法なものであれば,上記処分又は裁決はもとよ り取り消されるべきものとはいえない。よって,上記義務付けの訴えは,行訴法3 7条の3第1項2号所定の訴訟要件を欠くものであって,不適法なものとなる。 そうすると,本件決定が行訴法37条の3第1項2号所定の「当該法令に基づく 申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決」に該当するとしても,\n請求の趣旨1項に係る本件決定の取消しを求める訴えが前記1のとおり不適法であ る以上,請求の趣旨2項に係る義務付けの訴えは,同号所定の訴訟要件を欠くもの であって,不適法なものである。
3 その余の各訴えの適法性について
(1) 裁判所法3条1項の規定にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判の対 象となるのは,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争に 限られるところ,このような具体的な紛争を離れて,裁判所に対し抽象的に法令等 が憲法に適合するかしないかの判断を求めることはできないと解するのが相当であ る(最高裁昭和27年(マ)第23号同年10月8日大法廷判決・民集6巻9号7 83頁,最高裁平成2年(行ツ)第192号同3年4月19日第二小法廷判決・民 集45巻4号518頁参照)。
(2) 請求の趣旨3項に係る訴えの適法性について
請求の趣旨3項に係る訴えは,具体的な紛争を離れて,抽象的に商標法43条の 3第5項の規定が違憲無効であることの確認を求めるものにすぎない。 したがって,上記訴えは,前記(1)にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判 の対象となるものとはいえず,不適法なものである。
(3) 請求の趣旨4項及び5項について
請求の趣旨4項に係る訴えは,具体的な紛争を離れて,抽象的に一つの法令解釈 が違憲無効であることの確認,請求の趣旨5項に係る訴えは,具体的な紛争を離れ て,抽象的に商標登録異議事件における一つの審理方法が違憲無効であることの確 認を,それぞれ求めるものにすぎない。 したがって,上記各訴えは,前記(1)にいう「法律上の争訟」として裁判所の審 判の対象となるものとはいえず,いずれも不適法なものである。 仮に,上記各訴えが本件登録異議事件において審判体がした法令解釈や審理方法 の違憲無効をいうものであったとしても,これらの訴えは,本件決定に関する具体 的な紛争を解決するものにはならないから,確認の利益を欠き,いずれも不適法な ものである。

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平成29(行ケ)10151  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年6月26日  知的財産高等裁判所

 優先権書類の提出がなかったとして、優先権の主張が認められず拒絶されました。なぜ出願人は、JPOから求められたのに、優先権証明書(米国の基礎出願)を出さなかったのでしょうか?
 本願について,特許協力条約規則17.1(a),(b)及び(bの2)の要件 のいずれも満たされないこと,並びに,JPOが,事情に応じて相当の期間内に原 告らに優先権書類を提出する機会を与えたことは,当事者間に争いがない。 原告らは,JPOが,本願について,特許協力条約実施細則715(a)の定め るところにより本件基礎出願に基づく優先権書類を電子図書館から入手可能である\nとみなされることをもって,特許協力条約規則17.1(d)にいう,指定官庁が 実施細則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能な場合に当た\nるから,JPOは,同規則17.1(d)により,本件基礎出願に基づく優先権の 主張を無視することができない旨主張する。
ア 特許協力条約実施細則の定め しかし,まず,本件基礎出願の出願日(優先日)から16か月後の平成21年1 2月1日時点において効力を有する特許協力条約実施細則には,電子図書館に関す る規定は存在しない(乙11)。したがって,本願について,JPOは,「実施細 則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能」ではないから,特\n許協力条約規則17.1(d)により,本件基礎出願に基づく優先権の主張を無視 することができないということはできない。そうすると,JPOは,同規則17. 1(c)により,相当の期間内に原告らに優先権書類を提出する機会を与えた上で, 優先権の主張を無視することができるところ,原告らが,特許法施行規則38条の 14に規定する期間内に,優先権書類を提出していないことは当事者間に争いがな い。よって,JPOは,特許協力条約規則17.1(c)により,本件基礎出願に基 づく優先権の主張を無視することができる。
イ 特許協力条約実施細則715(a)の事後的な充足 特許協力条約実施細則715は,本件基礎出願の出願日の16か月後である平成 21年12月1日時点においては存在しなかったものであるが,本願についてJP Oが出願人に優先権書類を提出する機会を与えた相当の期間(特許法施行規則38 条の14に規定する期間)が経過する前である平成22年1月1日に効力が生じた ものである。 仮に,特許協力条約規則17.1(c)及び(d)の規定について,出願人に優 先権書類を提出する機会を与えた相当の期間内に,JPOが特許協力条約実施細則 715(a)(i)の「通知」をするなどすれば,JPOは優先権の主張を無視で きないと解釈したとしても,後記ウのとおり,JPOが,同実施細則715(a) (i)の「通知」をしたとの事実は認められない。 したがって,JPOが特許協力条約実施細則715(a)に定めるところにより 本件基礎出願の優先権書類を電子図書館から入手可能であるとはみなされないから,\nJPOは,特許協力条約規則17.1(d)の規定の適用上,優先権書類を電子図 書館から入手可能な場合に当たらない。JPOは,同規則17.1(d)により,\n本件基礎出願に基づく優先権の主張を無視することができないということはできな い。 よって,仮に,特許協力条約規則17.1(c)及び(d)の規定について,上 記のとおり解釈したとしても,本願は,同規則17.1(d)にいう,指定官庁が 実施細則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能な場合に当た\nらないから,JPOは,同規則17.1(c)により,本件基礎出願に基づく優先 権の主張を無視することができる。

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平成28(行ケ)10279  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年11月30日  知的財産高等裁判所

 基礎出願Xでは新規性喪失の例外主張および証明書提出をしていましたが、これを基礎出願とする国内優先権主張出願では、かかる手続きをせず、その分割出願にて、新規性喪失の例外の利益を受けられるのかについて争われました。裁判所は、規定がそうなっている以上できないと判断しました。法改正でかかる証明書は、国内優先・分割いずれも省略できます。
 1 平成23年改正前特許法30条4項は,同条1項の適用を受けるための手続 的要件として,1)特許出願と同時に,同条1項の適用を受けようとする旨を記載し た書面(4項書面)を特許庁長官に提出するとともに,2)特許出願の日から30日 以内に,特許法29条1項各号の一に該当するに至った発明が平成23年改正前特 許法30条1項の適用を受けることができる発明であることを証明する書面(4項 証明書)を特許庁長官に提出すべきことを定めているが,同条4項には,その適用 対象となる「特許出願」について,特定の種類の特許出願をその適用対象から除外 するなどの格別の定めはない。 また,平成16年改正前特許法41条に基づく優先権主張を伴う特許出願(以下, 「国内優先権主張出願」という。)は,同条2項に「前項の規定による優先権の主張 を伴う特許出願」と規定されるとおり,基礎出願とは別個独立の特許出願であるこ とが明らかである。 そうすると,国内優先権主張出願について,平成23年改正前特許法30条4項 の適用を除外するか,同項所定の手続的要件を履践することを免除する格別の規定 がない限り,国内優先権主張出願に係る発明について同条1項の適用を受けるため には,同条4項所定の手続的要件として,所定期間内に4項書面及び4項証明書を 提出することが必要である。
2 そこで,国内優先権主張出願について,平成23年改正前特許法30条4項 の適用を除外するか,同項所定の手続的要件を履践することを免除する格別の規定 があるかどうかについて検討すると,まず,分割出願については,平成18年改正 前特許法44条4項が原出願について提出された4項書面及び4項証明書は分割出 願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす旨を定めているが,国内優先権主 張出願については,これに相当する規定はない。 また,平成16年改正前特許法41条2項は,国内優先権主張出願に係る発明の うち基礎出願の当初明細書等に記載された発明についての平成23年改正前特許法 30条1項の適用については,国内優先権主張出願に係る出願は基礎出願の時にさ れたものとみなす旨を定めているが,これは,同項が適用される場合には,同項中 の「その該当するに至った日から6月以内にその者がした特許出願」にいう「特許 出願」については,国内優先権主張出願の出願日ではなく,基礎出願の出願日を基 準とする旨を規定するに止まるものである。平成16年改正前特許法41条2項の 文理に照らし,同項を根拠として,基礎出願において平成23年改正前特許法30 条4項所定の手続を履践している場合には,国内優先権主張出願において同項所定 の手続を履践したか否かにかかわらず,基礎出願の当初明細書等に記載された発明 については同条1項が適用されると解釈することはできない。 特許法のその他の規定を検討しても,国内優先権主張出願について,平成23年 改正前特許法30条4項の適用を除外するか,同項所定の手続的要件を履践するこ とを免除する格別の規定は,見当たらない。
3 平成16年改正前特許法41条2項は,基本的にパリ条約による優先権の主 張の効果(パリ条約4条B)と同等の効果を生じさせる趣旨で定められたものであ り,国内優先権主張出願に係る発明のうち基礎出願の当初明細書等に記載された発 明について,その発明に関する特許要件(先後願,新規性,進歩性等)の判断の時 点については国内優先権主張出願の時ではなく基礎出願の時にされたものとして扱 うことにより,基礎出願の日と国内優先権主張出願の日の間にされた他人の出願等 を排除し,あるいはその間に公知となった情報によっては特許性を失わないという 優先的な取扱いを出願人に認めたものである(甲19)。 そして,平成16年改正前特許法41条2項が,国内優先権主張出願に係る発明 のうち,基礎出願の当初明細書等に記載された発明の平成23年改正前特許法30 条1項の規定の適用については,上記国内優先権主張出願は,上記基礎出願の時に されたものとみなす旨を規定していることは,上記趣旨(国内優先権主張出願が, 基礎出願の日から国内優先権主張出願の日までにされた他人の出願等やその間に公 知となった情報によって不利な取扱いを受けないものとすること)を超えるものと いえるが,その趣旨は,同条1項が「第29条第1項各号の一に該当するに至った 発明は,その該当するに至った日から6月以内にその者がした特許出願に係る発明 についての同条第1項及び第2項の規定の適用については,」と規定して,特許出願 の日を基準として新規性喪失の例外の範囲を定めていることから,国内優先権主張 出願の日を基準としたのでは,上記趣旨により基礎出願の日を基準とすることにな る新規性の判断に対する例外として認められる範囲が通常の出願に比べて極めて限 定されるという不都合が生じることに鑑み,国内優先権主張出願の日ではなく基礎 出願の日を基準とすることを定めたものと解するのが相当である。 そうすると,平成16年改正前特許法41条2項が平成23年改正前特許法30 条1項の適用について規定していることは,その趣旨に照らしても,上記規定が適 用された場合には,国内優先権主張出願の日ではなく基礎出願の日を基準とする旨 を規定するに止まり,これをもって,同条1項の適用について,基礎出願の当初明 細書等に記載された発明については,基礎出願において手続的要件を具備していれ ば,国内優先権主張出願において改めて手続的要件を具備しなくても,上記規定の 適用が受けられるとすることはできない。
4 以上によると,国内優先権主張出願に係る発明(基礎出願の当初明細書等に 記載された発明を含む。)について,平成23年改正前特許法30条1項の適用を受 けるためには,同条4項所定の手続的要件として,所定期間内に4項書面及び4項 証明書を提出することが必要であり,基礎出願において提出した4項書面及び4項 証明書を提出したことをもって,これに代えることはできないというべきである。
5 本願は,出願Aの分割出願である本願の原出願をさらに分割出願したもので あるところ,分割出願については,原出願について提出された4項書面及び4項証 明書は分割出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす旨の定めがあるが, 原告は,出願Aにおいて,その出願と同時に,4項書面を特許庁長官に提出しなか ったのであるから,本願は,平成23年改正前特許法30条1項の適用を受けるこ とはできない。 そして,同条1項が適用されないときには,審決の刊行物A発明の認定並びに本 願発明との一致点及び相違点の認定及び判断に争いはないから,本願発明は,刊行 物A発明であるか,同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの である。 そうすると,本願は,その余の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきも のであるから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
6 これに対して,原告は,国内優先権制度における優先権の発生時期は,パリ 条約4条Bに規定される優先権の発生時期から類推して,先の出願がされた時であ る,基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続をした場合の 国内優先権主張出願については,国内優先権の本質からみて,基礎出願の当初明細 書等に記載された発明について優先権が発生し,平成16年改正前特許法41条4 項の手続をすることにより,上記発明に係る特許法29条,平成23年改正前特許 法30条1項〜3項等の適用については基礎出願の時にされたものとみなされる効 果が発生するが,新規性・進歩性についての規定(特許法29条)の適用に係る前 記効果については,基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手 続をしている場合には,新規性喪失の例外規定(同法30条1項〜3項)に係る前 記効果についても発生しているから,この効果をも含む上記発明の新規性について の優先権の主張の効果が発生するというべきであるなどと主張する。 しかし,平成16年改正前特許法41条1項の「優先権」(国内優先権)の主張の 効果は,同条2項に規定されたものであり,パリ条約の規定を類推することによっ て定まると解することはできない。 また,既に判示した平成16年改正前特許法41条2項の文言及び同項の趣旨に 照らすと,同項は,国内優先権主張出願に係る発明のうち,基礎出願の当初明細書 等に記載された発明について,特許法29条を適用する際には,同条中の「特許出 願前に」にいう「特許出願」は基礎出願時にされたものとみなし,平成23年改正 前特許法30条1項を適用する際には,同項中の「その該当するに至った日から6 月以内にその者がした出願」にいう「特許出願」は基礎出願時にされたものとみな すことを規定するものであり,新規性喪失の例外規定(同法30条1項)と新規性・ 進歩性についての規定(同法29条)とを一体として取り扱うべきことは,平成1 6年改正前特許法41条2項の文理上はもとより,その趣旨からも導くことはでき ない。
7 原告は,平成16年改正前特許法41条には,同条2項に列挙される各条項 が適用されるための手続として,平成23年改正前特許法30条4項のような手続 は規定されていないから,そのような手続は不要であり,例えば,特許法29条の 適用について基礎出願の時にされたものとみなされるための手続として,平成16 年改正前特許法41条4項の手続をすれば十分であるなどと主張する。\nしかし,国内優先権主張の効果である平成16年改正前特許法41条2項が,基 礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続を履践している場合 には,国内優先権主張出願において同項所定の手続を履践したか否かにかかわらず, 同条1項が適用されることを定めるものではないことは,前記2,3のとおりであ る。平成16年改正前特許法41条4項に平成23年改正前特許法30条4項のよ うな手続が定められていないからといって,国内優先権主張出願に係る発明のうち 基礎出願の当初明細書等に記載された発明について,平成23年改正前特許法30 条1項が適用される手続的要件として,国内優先権主張出願において同条4項所定 の手続を履践することを不要とする理由にはならない。 また,特許法29条の適用には格別の手続的要件はないから,平成23年改正前 特許法30条4項所定の手続の履践を手続的要件とする同条1項の適用と同列に論 じることはできない。
8 原告は,平成23年改正前特許法30条4項が,基礎出願の際に既に同項所 定の手続を履践した国内優先権主張出願に際し,同主張出願における平成16年改 正前特許法41条2項に規定の発明について同項で列挙された所定の条項の規定の 適用につき,改めてその手続を履践させるための規定でもあるとすると,それは単 なる重複手続のための規定であって,法がそのようなことを求めていると解するこ とはできないなどと主張する。 しかし,平成23年改正前特許法30条4項がその対象となる「特許出願」から, 基礎出願において同項所定の手続を履践している国内優先権主張出願において,基 礎出願の当初明細書等に記載された発明について同条1項の適用を求める場合の当 該国内優先権主張出願を除外していると解することができないことは,前記1〜4 のとおりであって,原告の主張は,法令上の根拠がなく,理由がない。
9 原告は,平成23年改正前特許法30条4項は,国内優先権主張を伴わない 通常の出願,あるいは,国内優先権主張出願であって,基礎出願において同条1項 又は3項の新規性喪失の例外適用を求めた発明以外の発明について,同条1項又は 3項の適用を求めようとする場合に適用されるものであり,基礎出願において同条 4項所定の手続により同条1項又は3項の適用を求めた発明について優先権を主張 する出願には,適用されないと主張する。 しかし,同条4項が,基礎出願において同項所定の手続を履践している国内優先 権主張出願について,その対象となる「特許出願」から除外しているとは解釈でき ないことは,前記1〜4のとおりであって,原告の主張は,理由がない。
10 原告は,平成23年改正前特許法施行規則31条1項は,基礎出願におい て平成23年改正前特許法30条1項又は3項の新規性喪失の例外適用を求めた発 明以外の発明について,同条1項又は3項の適用を求める出願に適用される規定で あると主張する。 しかし,同条4項が,基礎出願において同項所定の手続を履践している国内優先 権主張出願について,その対象となる「特許出願」から除外しているとは解釈でき ないことは,前記1〜4のとおりであるから,平成23年改正前特許法施行規則3 1条1項を原告が主張するように解することはできず,原告の主張は,理由がない。
11 原告は,基礎出願において新規性喪失の例外規定が適用された発明に基づ いて国内優先権を主張する場合,出願人が敢えて,国内優先権主張出願では上記発 明について新規性喪失の例外規定の適用を受けないことは通常考えにくいから,国 内優先権主張出願の際に改めて新規性喪失の例外適用申請の意思を確認する必要は\nないし,また,国内優先権主張出願の願書には必ず基礎出願の番号を記載している ことなどの事情から,出願人にとっても第三者にとっても,国内優先権主張出願に おいて新規性喪失の例外適用のための書面等を再度提出する必要性は何ら存在しな いなどと主張する。 しかし,基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続を履践 している国内優先権主張出願において,基礎出願の当初明細書等に記載された発明 について同条1項又は3項の適用を求める場合の同条4項所定の手続の履践の必要 性について,仮に原告主張のような見方が成り立つとしても,立法論としてはとも かく,同項の解釈として,同項がその対象となる「特許出願」から,基礎出願にお いて同項所定の手続を履践している国内優先権主張出願を除外していると解するこ とは,法令上の根拠がなく,できないことは,前記1〜4のとおりである。
12 原告は,平成11年法律第41号による特許法の改正において,平成11 年改正前特許法44条の分割出願制度については,手続簡素化のための規定が新た に検討され,同条4項が新設されたが,国内優先権制度については,出願人の手続 の簡素化を図る趣旨は同様にあてはまるはずであるにもかかわらず,手続規定の見 直しも,手続簡素化のための新たな規定の導入などの検討もされなかったという事 実は,国内優先権制度については,法改正をするまでもなく,既に手続が簡略化さ れた規定となっていることの証左であると主張する。 しかし,平成23年改正前特許法30条4項が,基礎出願において同項所定の手 続を履践している国内優先権主張出願について,その対象となる「特許出願」から 除外しているとは解釈できないことは,前記1〜4のとおりであって,そのことは, 平成11年改正において国内優先権制度について改正がされなかったとの原告上記 主張事実により左右されるものではない。
13 原告は,国内優先権主張出願に係る発明のうち,基礎出願において平成2 3年改正前特許法30条4項所定の手続を履践することにより同条1項の適用を受 けた発明について,国内優先権主張出願において同項の適用を受けるために同条4 項の手続を求めている特許庁の運用は違法であると主張する。 しかし,特許庁の上記運用が違法でないことは,既に説示したところから明らか である。
14 原告は,平成16年改正前特許法41条2項が平成23年改正前特許法3 0条4項を対象としていない趣旨は,平成18年改正前特許法44条2項が平成2 3年改正前特許法30条4項を適用除外している趣旨とは異なるなどと主張する。 しかし,同項が,基礎出願において同項所定の手続を履践している国内優先権主 張出願について,その対象となる「特許出願」から除外しているとは解釈できない ことは,前記1〜4のとおりであって,平成16年改正前特許法41条2項が平成 23年改正前特許法30条4項を対象としていない趣旨により左右されるものでは ない。
15 原告は,被告が国内優先権主張出願において,新たな事項を追加すること が想定されること,出願後に通常出願に戻り得ることが,なぜ平成11年法律第4 1号により導入された分割出願に係る手続の簡素化を,国内優先権主張出願にも導 入することを困難にするのかについての理由は,不明であるなどと主張する。 しかし,平成23年改正前特許法30条4項が,基礎出願において同項所定の手 続を履践している国内優先権主張出願について,その対象となる「特許出願」から 除外しているとは解釈できないことは,前記1〜4のとおりであって,平成11年 法律第41号により導入された分割出願に係る手続の簡素化の趣旨が国内優先権主 張出願に妥当するかどうかによって上記解釈が左右されるものではない。
16 原告は,第三者は,基礎出願において新規性喪失の例外規定が適用された 発明について,国内優先権主張出願において敢えてその適用を受けないことなど予\n測する必要はないから,その適用の有無は基礎出願において表示されていれば十\分 であり,国内優先権主張出願においてその表示がないことによる不測の不利益は生\nじないなどと主張する。 しかし,平成23年改正前特許法30条4項が,基礎出願において同項所定の手 続を履践している国内優先権主張出願について,その対象となる「特許出願」から 除外しているとは解釈できないことは,前記1〜4のとおりであって,仮に第三者 に不測の不利益を与えることがないとしても,それによって上記解釈が左右される ものではない。

◆判決本文

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平成28(受)632  特許権侵害差止等請求事件 平成29年7月10日  最高裁判所第二小法廷  判決  棄却  知的財産高等裁判所

 最高裁(第2小法廷)判決です。特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に特許法104条の4第3号所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことはできないと判断されました。本件については、別途無効審判が継続(審取中を含む)しており、法上、訂正審判の請求ができなかったという特殊事情があります。この点については、訂正審判を請求しなくても、訂正の抗弁まで禁止されていたわけではないと判断されました。
 特許権侵害訴訟の終局判決の確定前であっても,特許権者が,事実審の 口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂 正審決等の確定を理由として事実審の判断を争うことを許すことは,終局判決に対 する再審の訴えにおいて訂正審決等が確定したことを主張することを認める場合と 同様に,事実審における審理及び判断を全てやり直すことを認めるに等しいといえ る。 そうすると,特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張し なかったにもかかわらず,その後に訂正審決等が確定したことを理由に事実審の判 断を争うことは,訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえ るだけの特段の事情がない限り,特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させ るものとして,特許法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許 されないものというべきである。
(2) これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,上告人は,原審の 口頭弁論終結時までに,原審において主張された本件無効の抗弁に対する訂正の再 抗弁を主張しなかったものである。そして,上告人は,その時までに,本件無効の 抗弁に係る無効理由を解消するための訂正についての訂正審判の請求又は訂正の請 求をすることが法律上できなかったものである。しかしながら,それが,原審で新 たに主張された本件無効の抗弁に係る無効理由とは別の無効理由に係る別件審決に 対する審決取消訴訟が既に係属中であることから別件審決が確定していなかったた めであるなどの前記1(5)の事情の下では,本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁 を主張するために現にこれらの請求をしている必要はないというべきであるから, これをもって,上告人が原審において本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張 することができなかったとはいえず,その他上告人において訂正の再抗弁を主張し なかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれない。

◆判決本文

◆1審はこちら。平成25(ワ)32665

◆2審はこちら。平成26(ネ)10124

◆無効審判の取消訴訟はこちら。平成26(行ケ)10198

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平成28(ワ)35838  特許法違反請求事件  特許権  民事訴訟 平成29年3月23日  東京地方裁判所

 事件の表示が、「特許法違反請求事件」となっているので、どんな事件かと思ったら、出願人の指示の通りしなかったので、応答ないし補正義務違反,詐欺\,ねつ造及だという事件でした。被告は弁理士です。判決文を読む限り、特に変な対応をしたところはないようです。出願人は何をしたかったんでしょうか?
 上記アの事実関係によれば,1)本件特許出願に係る書類及び本件拒絶 理由通知に対する手続補正書ないし意見書の作成に当たり,原告が表明し\nた意向を受けて被告が書面の案を作成して説明を行い,これを受けて原告 が意向を改めるなどした結果,本件特許出願に係る書類につき平成28年 2月13日頃に,上記手続補正書及び意見書の内容につき同年9月11日 にそれぞれ原告と被告との間で合意した内容を原告が本件委任契約に基づ き被告に対して記載を求める内容として確定させたこと,2)被告が上記各 合意内容どおりの内容を記載した上記各文書を特許庁に対して提出したこ とが明らかであるから,被告が特許庁に対して提出した上記各文書に記載 のないものは,原告が被告に対して記載を求めた内容に含まれないとみる べきである。そうすると,アイデア書(甲5)の内容,モータ駆動部に関 する文章及び原告の主張する前記補正内容につき上記各文書に記載されて いない部分があるとしても,被告がこれを記載しなかったことが応答ない し補正義務違反等に当たるとは解されない。

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平成28(行コ)10002  手続却下処分取消請求控訴事件  特許権  行政訴訟 平成29年3月7日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 国際出願に関して国内移行期間経過後に提出した翻訳文の却下処分について、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて特段の事情があった、とは認められませんでした。
 ア 国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなければ,外国語特許出願は 国際出願日にされた特許出願とはみなされないのであるから,国際特許出願の対象 となる国及び広域の移行期限を確認することは,当該国際特許出願を行う出願人に 当然に求められるというべきであるところ,控訴人は,現地事務所は,移行期限を 徒過しないよう十分な体制を構\築していたと主張する。
イ 前記認定のとおり(引用に係る原判決3の1(2)ウ) 本件出願の処理に当 たり,現地事務所では,補助者であるA氏が,依頼人が移行手続を指示した国及び 広域について,締切リスト(甲14)及びWIPOの期限表(甲13)を用いて,\n移行期限が30か月であるかあるいは31か月であるかを確認した上で,移行期限 が30か月である国について指示書を作成したものである。 しかし,前記認定のとおり(引用に係る原判決3の1(2)カ),締切リストには, 対象となる国又は広域の移行期限が30か月であるか31か月であるかについて区 別して記載されていない。また,前記認定のとおり(引用に係る カ),WIPOの期限表は,アルファベット順に行ごとに国名ないし広域名が記載\nされ,その国名等の右側の離れた位置に移行期限が「30」あるいは「31」など の数字で記載されているものであるから,同期限表を目視するときは「30」ない\nし「31」という移行期限の表記が縦方向に混在して記載されているように見える\nものである。 そうすると,本件出願の処理に当たり,補助者であるA氏が,締切リスト及びW IPOの期限表を用いて移行期限を確認するだけでは,同人が特許管理業務に豊富\nな経験を有していたことを考慮しても,移行期限を看過するという人的ミスが生じ 得ることは当然に想定されるものであったというべきである。
ウ そして,前記認定(引用に係る3の1(2)キ)によれば、現地事務所 において,管理者は,補助者が起案した指示書が適切に作成されているか否かにつ いて,本件システム上のリストを用いてチェックしたことは認められるものの,そ れがどのような内容のリストであるか,また,いかなる事項についてチェックした ものかについては明らかではない。これを,管理者が,締切リストを用いて移行期 限をチェックしたものと解したとしても,前記のとおり,締切リストには,対象と なる国又は広域の移行期限が30か月であるか31か月であるかについて区別して 記載されておらず,C氏作成に係る陳述書(甲50)によっても,本件において, 管理者が移行期限について,締切リストのほかに,どのような資料を用いて確認し たかについては明らかではないから,管理者が,移行指示を受けた国及び広域の移 行期限を確認したものということはできない。なお,同陳述書において,管理者は 「専門的データベース」を用いて指示書等を確認した旨記載があるものの,「専門 的データベース」の具体的内容は明らかではなく,これが移行期限を確認するに当 たり,有用なものであると認めるに足りる証拠はない。 また,平成25年3月12日付けメール(甲34)によれば,B氏が,イスラエ ル,米国,カナダについて指示書の書状及び付属書類の確認をしたことは認められ るものの,その際,B氏が,各国の移行期限の確認作業を行ったとまでは認められ ない。C氏作成に係る宣誓書(甲9の1)及び陳述書(甲12)によっても,管理 者による確認作業が,いかなる事項を対象に,どのような資料をもとに行われたか については明らかではない。その他,本件において,管理者が移行期限の確認作業 を行ったとの事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって,本件出願の処理に当たり,現地事務所が,管理者をして,移行指示 を受けた国及び広域の移行期限の再確認作業を行ったとの事実を認めることはでき ない。また,現地事務所において管理者が移行期限の確認作業を行う体制が構築さ\nれていたとの事実も認められない。
エ このように,本件出願の処理において,移行期限を看過するという補助者に よる人的ミスが生じ得ることは当然に想定されるところ,管理者などが,移行期限 の再確認作業を行ったとの事実も,現地事務所において移行期限の再確認作業を行 う体制が構築されていたとの事実も認められない。よって,現地事務所が,本件出\n願の処理に当たり,移行期限を徒過しないよう相当な注意を尽くしていたというこ とはできない。

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平成27(行ウ)627  手続却下処分取消等請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年7月19日  東京地方裁判所

 国内書面提出期限から3月以上経過してから提出した翻訳文を却下したことについて、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出できなかったことについて「正当な理由」なしと判断されました。
 原告は,本件期間徒過の直接の原因につき,本件特許事務所において受 信班の受信第1担当者が,本件メールを,日付フォルダ直下の「新件午後」 フォルダへ移動すべきところ,誤って日付フォルダ直下の「印刷済み」フォ ルダに移動したためであるとしつつ,同ミスを回避することはできなかった 旨主張し,本件特許事務所の従業員が作成した陳述書にも同様の記載がある。 そこで検討するに,上記1(2)で認定した受信処理の手順の定めによれば, ALPの共有端末から本件特許事務所内のネットワーク上への受信メールの 移動は,受信班のスタッフが手作業で行うのであるから,移動先のフォルダ を誤るミスが生じ得ることは容易に予想される。それにもかかわらず,本件\n特許事務所においては,受信第1担当者が,ALPの共有端末から本件特許 事務所内のネットワーク上の日付フォルダ直下の「新件午後」フォルダ直下 に全ての受信メールを移動したことについて,何らこれを確認する態勢を採 っていなかったのであって(上記1(2)イ),その結果,本件期間徒過に至っ たものである。 また,上記1(2)の手順の定めによれば,まず,受信第1担当者が受信メー ルの件数をカウントし,受信第2担当者においてそれが正しいことを確認し た上で(上記1(2)ア),その後,印刷担当者が「新件午後」フォルダ直下に ある受信メールを印刷し,これを「新件午後」フォルダ直下の「印刷済み」 フォルダに移動した後,受信第1担当者が受信メールの印刷物の件数及び内 容と受信メールの件数及び内容とを確認する作業を行うのであるから(上記 1(2)ウ,エ),受信第1担当者が定められた手順どおりに受信メールの印刷 物の件数と受信メールの件数とを対照していれば,本件メールが印刷されて おらず,その受信処理においてミスがあったことは容易に判明したはずであ る。このように,本件期間徒過の原因についての原告の主張を前提とすると, 本件特許事務所は,受信第1担当者による受信メールの移動ミスに気付くこ とができたはずの機会があったにもかかわらず,これを看過したこととなる のであって,本件特許事務所において上記1(2)の手順の定めが遵守されてい たのかについても疑問がある。 以上によれば,本件期間徒過について「正当な理由」があったとはいえな い。

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平成27(行ケ)10186  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟  平成28年7月13日  知的財産高等裁判所

 取り消し理由の一つが「審判時に提出されていなかった証拠の提出が許されるか」です。知財高裁は、許容されると判断しました。また、周知技術の根拠を審判で初めて示した点についても違法性はないと判断しました。
 原告は,乙第9及び10号証は,いずれも審判時に提出されていなかったもので あり,本件審決の違法性を争う本件訴訟において,このような証拠は許容すべきで はない旨主張する。 審決取消訴訟においては,審判手続において審理判断されていなかった資料に基 づく発明と対比して無効理由の存否を認定し,審決の適法,違法を判断することは 許されないが(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・ 民集30巻2号79頁参照),審判手続において審理判断されていた資料に基づく発 明と対比して無効理由の存否を認定し,審決の適法,違法を判断するに当たり,審 判手続には現れていなかった資料に基づいて上記発明が属する技術分野の当業者の 出願当時における技術常識を認定し,これによって上記発明の有する意義を明らか にした上で無効理由の存否を認定したとしても,審判手続において審理判断されて いなかった資料に基づく発明と対比して無効理由の存否を認定し,審決の適法,違 法を判断したものということはできない(最高裁昭和54年(行ツ)第2号同55 年1月24日第一小法廷判決・民集34巻1号80頁参照)。 本件審決は,審判手続において審理判断されていた引用発明1と対比して,「挿入 部(13)」の成形に関する相違点2の容易想到性の判断をするに当たり,審判手続 には現れていなかった周知例1及び2に基づいて,当業者の技術常識を認定し,こ れによって,引用発明1において,上記周知技術を採用して相違点2に係る本願発 明の構成とすることは,当業者にとって容易であった旨の判断をした。\nそして,乙第9及び10号証は,本件審決による上記判断の誤りの有無を判断す るに当たり,本願出願日当時の上記周知技術に関する技術常識としてテーパ形状の 拡底部を有するアンカーボルトにおける一体成形に関する技術を立証するものであ るから,本件訴訟の判断資料とすることは,許容されるものということができる。
・・・・
3 取消事由2(手続違背)について
(1)原告は,平成27年2月23日付け拒絶理由通知において,アンカーピン自 体を一体成形することは周知技術であることが示されたのに対し,同年4月27日 付けの意見書において,上記周知技術の根拠の明示を求めたが,これに対する回答 はなく,本件審決において,初めて周知例1及び2が示され,これらを根拠とした 周知技術が認定されて請求不成立の判断が出されたとして,このような手続は,原 告に対して周知例1及び2に関する反論の機会を与えることなく,不意打ちをする ものということができ,違法である旨主張する。
(2) 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,本願に係る出願の経緯につき,以下の とおり認められる。
・・・
エ 原告は,平成27年2月23日付けで拒絶理由通知(甲9)を受けた。同拒 絶理由通知には,「アンカーピン自体を一体成形とすることは,本願の出願日前に周 知の技術である。」と記載され,また,前記アの特許請求の範囲請求項1の補正につ き,「本願の出願当初の明細書等には,中間部と係止部とが一体成形されるという記 載はないが,アンカーピン自体を一体成形とすることは,本願の出願日前に周知の 技術であるので,中間部と係止部を一体成形とすることは,出願当初の明細書等か ら自明な事項であると判断した。」と記載されている。 オ 原告は,平成27年4月27日付け手続補正書(甲10)により本件補正を 行い,同日付け意見書(甲11)において,前記エの拒絶理由通知記載の周知技術 につき,その根拠が示されていないことを指摘するとともに,「本願の手続補正は, 図4及び図5(判決注:別紙1の【図4】及び【図5】と同じ。)に記載のアンカー ピンは接続部分がなく,当業者が見れば中間部14と係止部16とが一体成形され ていることが自明であるのであって,これをもって出願前にアンカーピンが一体成 形されることが周知の技術であるわけではないことは明らかである。」と主張した。
(3) 前記(1)のとおり,平成27年2月23日付け拒絶理由通知において,アンカ ーピン自体を一体成形とすることは,本願の出願日前において既に周知の技術であ った旨が明記されている。 そして,原告は,同年4月27日付け意見書において,上記拒絶理由通知記載の 周知の技術に関し,平成25年11月25日付け手続補正書による補正事項につい て,当業者が別紙1の【図4】及び【図5】を見れば中間部14と係止部16とが 一体成形されていることが自明であり,これをもって,アンカーピン自体を一体成 形とすることが周知の技術であるわけではない旨主張しているが,同主張のとおり, 当業者が上記図面を見て上記一体成形を自明のこととして理解するのは,まさに, アンカーピン自体を一体成形することが,当業者に周知の技術であったからにほか ならない。 以上によれば,本件審決が周知技術として認定した「テーパ形状の拡底部を有す る杭において,テーパ形状の拡底部と拡底部以外の部分とを滑らかに連接し,一体 の外周面を形成するように一体成形すること」の主要な内容である一体成形の技術 については,周知技術であることが平成27年2月23日付けの拒絶理由通知に示 されており,しかも,これに関する原告の意見書の内容自体から,一体成形の技術 が当業者に周知されていたということができる。このような経過に鑑みると,本件 審決が,それまで審判手続において示されていなかった周知例1及び2を根拠とす る周知技術を認定したことは,原告に対する不意打ちということはできず,手続違 背には当たらないというべきである。

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平成27(行コ)10004  異議申立却下決定取消請求控訴事件  特許権  行政訴訟 平成28年6月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 国内移行の翻訳文を期限経過後に提出し、必要な代表者資格証明を提出しなかったために補正命令に応ぜず却下処分となりました。この異議申\し立ての行政訴訟です。知財高裁は却下処分妥当と判断しました。
 控訴人らが本件異議申立てに際して代表\者の資格証明に関する書面及び代理人であることを証明する書面(以下,両者を併せて,「資格証明所等」という。)を添付しなかったことから,特許庁長官は,補正期間を30日と定める本件補正命令を発したが,控訴人らが上記期間内に資格証明書等を提出しなかったため,本件決定をした。本件補正命令の内容は,資格証明書等の提出を求めるという明確なものであり,また,控訴人らのような種類の法人についても,補正を命じられた不備を補正することは困難なことではないから(現に,控訴人らは,本訴提起に当たっては,控訴人らの資格証明書等を提出している。),控訴人らは,相当の期間を定めて命じた補正に従って資格証明書等を提出することをしなかったのであって,本件異議申立ては,行政不服審査法13条1項に違反し,不適法である。したがって,これらをいずれも却下した本件決定に違法は認められない。\n

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平成27(行ウ)348  異議申立却下裁決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年1月29日  東京地方裁判所

 翻訳文提出期間経過後に提出した翻訳文の却下が争われました。特許庁は、代表資格証明書が補正指令をしても提出されなかったので、行審法における異議申\し立てを却下しました。裁判所もこれを認めました。
 しかしながら,本件代表資格証明書1)及び同2)は,いずれも,「WATER IP LLC」又は「Water IP, L.L.C.」(名称LLC)に係る書面であるところ,一般に,米国 におけるLLC(limited liability company)とINC(Incorporated)とは,法人の形態として異なり,コーポレートガバナンスや課税等においても異なる規整を受け得るものであるから(弁論の全趣旨),名称LLCが示す法的主体の代表者の資格について言及されるにとどまる本件代表\資格証明書1)及び同2)をもって,本件出願人の名称たる「WATER INTELLECTUAL PROPERTIES, INC.」(名称INC)が示す法的主体の代表者の資格を証明することにはならないことは明らかである。\nこの点について,原告は,1)名称LLCと名称INCとが,会社形態の部分を除いて同一の名称といえ,住所も共通すること,2)米国において,一事業体が事業ごとに名称を使い分けることは一般的であり,商号(Doing Business As)を用いることも一般的であることから,名称LLCが示す法的主体と名称INCが示す法的主体が同一であることは明らかである旨主張するが,上記1)及び2)の事情及びA弁理士が提出した上申書(乙14)の記載のみをもって,直ちに両法的主体が同一のものであると認めることは,困難というほかない。\nしたがって,本件異議申立ては,異議申\立人の代表者の資格を証明する書面が提出されなかったという点において,行審法13条1項の規定に違反する不適法なものであったというべきである。\n

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平成26(行ケ)10158  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年7月16日  知的財産高等裁判所

 審判請求時にした補正書に該当するか否かが争われました。裁判所は実質的に判断して補正書に該当すると認定し、拒絶審決を取り消しました。
 特許法17条の2第1項4号は,特許出願人は,拒絶査定不服審判を請 求する場合には,その審判請求と同時に願書に添付した明細書,特許請求 の範囲又は図面について補正をすることができる旨規定し,同法17条4 項は,手続の補正(手数料の納付を除く。)をするには,手続補正書を提 出しなければならない旨規定し,また,特許法施行規則11条1項は,手 続補正書の様式に関し,手続の補正は,「様式13」によりしなければな らない旨規定している。 そこで,本件書面1が様式13に適合するかどうかについて検討するに, 様式13は,「【書類名】」欄に「手続補正書」,「【あて先】」欄に「特 許長官 殿」とそれぞれ記載し,「【事件の表示】」の「【出願番号】」\n欄,【補正をする者】の「【識別番号】」欄,「【住所又は居所】」欄及 び【氏名又は名称】」欄,【代理人】の「【識別番号】」欄,「【住所又 は居所】」欄及び「【氏名又は名称】」欄,「【発送番号】」欄」,「【手 続補正1】」の「【補正対象書類名】」欄,「【補正対象項目名】」欄, 「【補正方法】」欄及び「【補正の内容】」欄を設け,その各欄に具体的 に記載すべき旨定めているところ,前記ア(ウ)によれば,本件書面1は, 「【補正対象項目名】」欄と記載すべきところを「【補正対象項目】」欄 と記載し,「【代理人】」の「【識別番号】」欄の記載がないほかは,様 式13の定めに従った記載がされているものと認められる。 しかるところ,「【補正対象項目名】」欄の欄名を「【補正対象項目】」 と記載したことは,単なる誤記にすぎず,職権訂正の対象となる事柄であ るものと認められる。 次に,様式13の「[備考]」の「2」に「識別ラベルをはり付けるこ とにより印を省略するときは,識別ラベルは「「【氏名又は名称】」(法 人にあつては「【代表?】」)の横にはるものとする。」との記載がある ことからすると,【代理人】の「【識別番号】」欄は識別ラベルを貼付す\nる方法によって記載することができ,また,代理人がその押印をすること により「【識別番号】」欄の記載を要しないものと認められる。本件書面 1には,【代理人】の「【氏名又は名称】」欄に記載されたCの押印はな く,「【識別番号】」欄の記載も,識別ラベルの貼付もないが,前記ア(ア )のとおり,Cは特許庁の窓口(出願支援課窓口)に訪れて,本件審判請求 書とともに,本件書面1を含む書類を提出していること,本件審判請求書 の【代理人】の「【氏名又は名称】」欄には,Cの氏名が記載され,その 押印がされていること(乙6の1枚目)に鑑みると,上記の点は,窓口の 担当者がCに本件書面1への押印を求めることなどにより補正可能な軽微\nな瑕疵にすぎないものと認められる。 さらに,様式13には,「【提出日】」について,括弧書きで「(【提 出日】 平成 年 月 日)」と記載され,それが任意的記載事項であっ て,必要的記載事項に当たらないことが示されている。この点に関し,本 件書面1には,「【提出日】」欄に「平成22年12月 日」との記載が あるが,この記載は具体的な日を特定するものではなく,「【提出日】」 の記載に当たらないといえるから,本件書面1には,具体的な「【提出日 】」の記載がないものとして取り扱うべきものといえる。 以上によれば,本件書面1は,本願の特許請求の範囲の補正を内容とす る書面であって,様式13に適合する手続補正書と認めるのが相当である。
ウ そして,本件審判請求書の「3・立証の趣旨」に,「拒絶されるべきで ない理由」として記載されている主たる理由は,平成20年10月10日 付け手続補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし16につい て補正をすることで拒絶理由を解消するという内容のものであり(乙6の 5頁ないし9頁記載の「(拒絶理由1)」ないし「(拒絶理由4)」に対 する反論部分を参照),しかも,本件審判請求書の「4・むすび」には, 「したがって,本願発明は引用文献1〜10に記載された発明の内容に関 項を2つにまとめ, よって原査定を取り消す,この出願の発明はこれを特許すべきものとする, との審決をもとめる.」(乙6の10頁〜11頁)との記載がある。これ らの記載は,本願の特許請求の範囲が平成20年10月10日付け手続補 正による補正後の請求項1ないし16から本件書面1記載の請求項1及び 2に補正されたことを前提としたものであることは明らかである。 もっとも,本件審判請求書の「【提出物件の目録】」欄には,「【物件 名】」として,「1・手続補正書 1」及び「7・手続補正書 1」との 記載があり,「1・手続補正書 1」に対応するものとして本件書面1が, 「1・手続補正書 7」に対応するものとして本件書面2が提出されてい るが(前記第2の1(2)ウ),本件書面2(甲45,乙6)には,「【提出 日】」欄に平成22年10月5日,「【補正の内容】」欄に請求項1ない し3がそれぞれ記載され,「22.10.6」と刻印された特許庁国際出 願課名義の日付印が押印されていることに照らすと,本件書面2は,本件 審判請求書の提出日(平成23年12月26日)より前に提出された手続 補正書であり,本件審判請求書の前提とする「請求項を2つにまとめ」る 手続補正に係る手続補正書に当たらないことは明らかである。 さらに,本件においては,拒絶査定不服審判請求書の「【提出物件の目 録】」欄に,拒絶査定不服審判請求と同時にする「手続補正書」を記載し てはならないことを定めた法令が存在することや特許庁がそのような運用 基準を定めて公表していることについての主張立証はない。
エ 前記イ及びウによれば,本件書面1は,本件審判請求書と同時に特許庁 に提出された,本願の特許請求の範囲の補正を内容とする様式13に適合 する手続補正書であるから,特許法17条の2第1項4号に基づく補正に 係る手続補正書に該当するものと認められる。 そうすると,本件審判手続においては,本件書面による補正が特許法1 7条の2第3項ないし5項所定の補正の要件に適合するかどうかについて 審理判断を行い,適法であれば,本件書面による補正後の特許請求の範囲 (請求項1及び2)の記載に基づいて発明の要旨認定を行い,その特許要 件について審理判断を行うべきであったものであるが,本件審決には,本 件書面1による補正がされたことを看過し,上記審理判断を行うことなく, 本件書面による補正前の特許請求の範囲の記載に基づいて発明の要旨認定 を行った誤りがあり,この誤りは,審決の結論に影響を及ぼすべきものと 認められる。

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平成26(行コ)10004等  行政処分取消義務付け等請求控訴事件,同附帯控訴事件  特許権  行政訴訟 平成27年6月10日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審では審査官による特許査定を取り消すとの判断がなされましたが、知財高裁はこれを取り消しました。
 以上の認定判断を踏まえ,本件特許査定について,担当審査官による審 査がされなかったか,実質的にこれと同視することができる場合であるか について検討する。 前記ウによれば,担当審査官は,本件補正が審査基準に照らせば新規事 項の追加に当たることについては,これを看過したといわざるを得ない。 しかし,前記イに検討したところによれば,本件補正後の本願発明が特許 要件を具備しているかどうかについては,本願発明の進歩性,請求項の明 確性,明細書のサポート要件及び実施可能要件について,それぞれ検討を\n経た上で本件特許査定に至ったと評価することができ,その検討過程や検 討結果が,明らかに不合理であるとまでいうことはできない。 このような担当審査官による審査の内容を全体としてみれば,それが, およそ審査の体を成すものではなかったとか,あるいは審査していないに 等しいものであったと評価することはできないものというべきである。そ して,担当審査官が新規事項の追加の点を看過したことによって,本件特 許査定に係る特許が無効理由を含むこととなったとしても,その点は,無 効審判請求における判断対象となるにとどまり,これによって直ちに,担 当審査官が全く審査をせず,あるいは実質的に審査をしなかったのと同視 すべき場合において本件特許査定をしたことが裏付けられるということは できない。 以上によれば,担当審査官が,審査を全くすることなく,あるいは実質 的に審査をしなかったのと同視すべき場合において本件特許査定を行った と認めることはできない。

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◆原審はこちら。平成24(行ウ)591

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平成25(行ケ)10131  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年2月5日  知的財産高等裁判所

 審判請求時の補正が独立特許要件を欠く場合には,拒絶理由通知をしなくとも常に補正を却下することができるとする主張は採用できないと判断されました。ただ本件における補正却下は問題なしと判断されました。
 そこで検討するに,平成18年法律第55号による改正前の特許法50条本文は,拒絶査定をしようとする場合は,出願人に対し拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならないと規定し,同法17条の2第1項1号に基づき,出願人には指定された期間内に補正をする機会が与えられ,これらの規定は,同法159条2項により,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも準用される。この準用の趣旨は,審査段階で示されなかった拒絶理由に基づいて直ちに請求不成立の審決を行うことは,審査段階と異なりその後の補正の機会も設けられていない(もとより審決取消訴訟においては補正をする余地はない。)以上,出願人である審判請求人にとって不意打ちとなり,過酷であるからである。そこで,手続保障の観点から,出願人に意見書の提出の機会を与えて適正な審判の実現を図るとともに,補正の機会を与えることにより,出願された特許発明の保護を図ったものと理解される。この適正な審判の実現と特許発明の保護との調和は,拒絶査定不服審判において審判請求時の補正が行われ,補正後の特許請求の範囲の記載について拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも当然妥当するものであって,その後の補正の機会のない審判請求人の手続保障は,同様に重視されるべきものといえる。
以上の点を考慮すると,拒絶査定不服審判において,本件のように審判請求時の補正として限定的減縮がなされ独立特許要件が判断される場合に,仮に査定の理由と全く異なる拒絶の理由を発見したときには,審判請求人に対し拒絶の理由を通知し,意見書の提出及び補正をする機会を与えなければならないと解される。これに対し,当該補正が他の補正の要件を欠いているような場合は,当然,補正を却下すべきであるし,当該補正が限定的減縮に該当するような場合であっても,当業者にとっての周知の技術や技術常識を適用したような限定である場合には,査定の理由と全く異なる拒絶の理由とはいえず,その周知技術や技術常識に関して改めて意見書の提出及び補正をする機会を与えることなく進歩性を否定して補正を却下しても,当業者である審判請求人に過酷とはいえず,手続保障の面で欠けることはないといえよう。そうすると,審判請求時の補正が独立特許要件を欠く場合には,拒絶理由通知をしなくとも常に補正を却下することができるとする被告の主位的主張は,上記の説示に反する限度で採用することができない。
(2) 以上の点を踏まえて更に検討するに,本件において,拒絶査定の理由は,「補正前発明は,当業者が,引用文献1に記載された発明に対して,引用文献2に開示された技術及び周知技術を適用して容易に発明をすることができた」というものであるのに対し,審決の補正却下の理由は,「補正発明は,当業者が,引用文献1に記載された発明に対して周知技術を適用して容易に発明することができた」というものである。そうすると,両者の相違は,引用文献2に開示された技術について,拒絶査定ではこれを公知技術としたのに対し,審決ではこれを周知技術と評価して例示したのであって,審判請求人である原告にとって不意打ちとはいえないから,審判段階の独立特許要件の判断において改めてこの点について意見書の提出及び補正をする機会を与えなくとも,手続保障の面から審決に違背はないといえる。この点について原告は,審決が,拒絶理由通知書及び拒絶査定において引用されなかった参考文献1ないし3を引用しており,これらに対して補正できないことにかんがみれば十分な反論を行うことは困難であり,審理手続を尽くすことができたとはいえないと主張する。しかし,参考文献1ないし3は,審決において周知技術や常套手段を示すものとして引用されたものであり,後記3(2)及び(3)のとおり,いずれも実際に当業者にとっての周知の技術や常套手段を示したものと認められるのであるから,これに対する補正の機会が与えられなくとも(参考文献1及び2は,審判の審尋において示されたものであり,原告からこれらに対する反論として回答書(甲14)が提出されている。),当業者である審査請求人にとって格別の不利益はないものと解され,原告の主張には理由がない。また,原告は,審決が,引用文献1及び2の記載の中から拒絶理由通知書及び拒絶査定で引用した箇所とは異なる箇所を引用しており,審理手続を尽くすことができなかったと主張する。しかし,拒絶理由通知書(甲7)及び拒絶査定(甲10)では,引用文献1の一部を適示して,引用発明の本質的部分である「Internet Explorerのツールバーのボタンからワンクリックで表示中のWebページのサーバのWhois情報を表\\示させるシステム」という技術事項が開示されていることを示したのに対し,審決では,当該摘示箇所を示した上で,引用発明の背景や目的効果等を示すために別途の箇所を摘記したもの認められるから,原告にとって不利益がないことは明らかであり,原告の主張には理由がない。したがって,審決が,補正発明は独立特許要件を満たさないことを理由として,審判段階で改めて拒絶理由通知をすることなく本件補正を却下したことに誤りはなく,原告の主張する取消事由1は理由がない。

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平成26(行ケ)10137  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年3月10日  知的財産高等裁判所

 手続き違背ありとして、拒絶審決が取り消されました。
 ア(ア) 被告は,1)本件拒絶理由通知書においては,「理由1」,すなわち,新規性欠如を拒絶理由とする請求項として,当初請求項「1,2,5〜8,11〜16,20〜22,25」が挙げられていること,2)その後,平成24年補正により,当初請求項4及び10が削除されて項番号が振り直されたことから,平成24年補正後請求項「1,2,4〜7,9〜14,18〜20,23」が,「理由1」の対象となったこと,3)本件拒絶理由通知書においては,拒絶理由の対象となる請求項につき,「下記の請求項に係る発明は,」という,「記」以下の記載に委ねる文言が明記されているのに対し,本件拒絶査定においては,そのような文言は記載されておらず,本件拒絶理由通知書に記載した理由によって拒絶したことが記載されていることから,本件拒絶査定により「理由1」に基づいて拒絶された請求項は,第一義的には,上記2)の平成24年補正後請求項「1,2,4〜7,9〜14,18〜20,23」であることが理解できる旨主張する。 (イ)a しかしながら,前述した本件拒絶査定の記載内容によれば,本件拒絶査定の理由となる請求項は,「備考」欄に記載されたものとみるのが自然である。 b そして,前述したとおり,本件拒絶査定中,平成24年補正後請求項1に言及しているのは,「なお書き」における新規事項追加及び明瞭性の問題点の指摘のみであり,それ以外にはない。 加えて,本件拒絶理由通知書において,「理由2」,「引用文献等2」,すなわち,引用文献2に対して進歩性を欠くことを拒絶理由とする請求項として挙げられている当初請求項のうち,「7」及び「11〜14」に対応する平成24年補正後請求項は,「6」及び「9〜12」であるところ,これらの請求項は,本件拒絶査定においても,本件拒絶理由通知書と同じく,「理由2」,「引用文献等2」の対象として明記 されており,「なおも,引用文献2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることが出来たものである。」と記載されている。これは,上記請求項については,平成24年補正を経てもなお,本件拒絶理由通知書記載の拒絶理由が解消されていないことを示すものである。 上記の点に鑑みれば,本件拒絶査定において,「理由1」及び「理由2」のいずれの対象にも記載されていない平成24年補正後請求項1につき,これに対応する当初請求項1について本件拒絶理由通知書に記載されていた拒絶理由が,黙示に維持されているものと解する余地はないものというべきである。
c 以上によれば,被告の前記主張は,失当といわざるを得ない。
イ(ア) また,被告は,本件拒絶査定には,平成24年補正後本願発明1を更に限定した平成24年補正後本願発明24につき,新規性を欠く旨が説明されているのであるから,当業者であれば,平成24年補正後本願発明1が,依然として,新規性を欠くとの拒絶理由を回避できないことは,当然に予測できる旨主張する。\n(イ) しかしながら,前記アのとおり,1)本件拒絶査定中,平成24年補正後請求項1については,「なお書き」において新規事項追加及び明瞭性の問題点を指摘されているほかは,一切,言及されていないこと,2)他方,本件拒絶理由通知書中,「理由2」,「引用文献等2」の対象とされている当初請求項のうち「7」及び「11〜14」については,これらに対応する平成24年補正後請求項の「6」及び「9〜12」が,本件拒絶査定においても,「理由2」,「引用文献等2」の対象として明記されていること鑑みれば,当業者は,当初請求項1について,本件拒絶理由通知書に記載された拒絶理由はすべて平成24年補正により解消し,本件拒絶査定において指摘されている新規事項追加及び明瞭性の問題点を解消すれば,特許査定が得られるものと認識するのが,当然である。 以上に加え,1)平成24年補正後請求項24は,平成24年補正後請求項1を含むほかの請求項を引用することなく,独立の請求項であること,2)クレームの文言上,平成24年補正後請求項24が平成24年補正後請求項1を包含するものとま では,直ちにいい難いことも併せ考えれば,原告を含む当業者が,本件拒絶査定において平成24年補正後本願発明24が新規性を欠く旨が説明されていることをもって,平成24年補正後本願発明1についても同様に新規性を欠くものと認識することは,考え難い。平成24年補正後本願発明1が,新規性を欠いているのであれば,それを拒絶査定で明示すれば足りるのであり,出願人に対し疑義を与えるような記載をすべきではない。

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平成24(行ウ)591 行政処分取消義務付け等請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年03月07日 東京地方裁判所

 非常にレアなケースです。特許査定の取り消しが認められました。
 以上のとおり,行服法は,行政機関の専門的知識を活用し,簡易迅速な手続により,行政庁の違法(手続的違法を含む)又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し,国民に対し広く行政庁に対する不服申立ての途を開くことを目的として制定されたものであるところ,特許査定について,特許法上,特段,審査官側の手続違背についての定めがないことに照らせば,審査官の手続違背による違法について,行服法上の不服申\\立手続(行服法1条1項)を排除し,行訴法上の訴えのみをその救済手段とすることが必要であり,又は適切であるとみるべき事情は見出せない。被告は,特許査定が利益処分であって,出願人がこれを争う利益を有する場合が想定し難いことを理由として,行服法による不服申立てを排除することは相当である旨主張するが,審査官の手続違背を理由として特許査定を取り消すことが相当とされる場合があり得ることは,特許庁作成の「職権取消通知等に関する審査官用マニュアル」(甲14の3)にも挙げられているとおりであって,出願人が特許査定を争うべき場合が想定されないとはいうことができない。同マニュアルに職権取消事由の類型として挙げられている「対象案件を取り違えて特許査定した場合」や「補正書が特許査定の謄本と行き違いで提出された場合」は,まさに審査官の手続違背の場合を定めたものと解することができる。\n
ウ 以上によれば,特許査定について審査官の手続違背を理由とする不服については, 特許法195条の4において列記された処分につきみられた,前記アの「行政不服審査法による不服申立てをすることができない」とすることが相当である理由,がいずれも妥当しないのであるから,同条にいう「査定」には特許査定の全てが含まれるのではなく,処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定は含まれないものと解するのが相当である。エ したがって,特許査定は,処分に審査官の手続違背があると主張される限り,「他の法律に審査請求又は異議申立てをすることができない旨の定めがある処分」(行服法4条1項但し書き)に当たらないから,原告らが審査官の手続違背を主張する本件においては(前提事実(8)ア参照),原告らは本件異議申立てを適法にすることができることになる。そうすると,本件は「処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合」(行訴法14条3項)に該当するものであって,前記(1)のとおり,原告らが,本件却下決定(後記(4)のとおり同決定は違法として取り消されるべきものである。)があったことを知った日から6か月以内に本件訴訟を提起している以上,本件特許査定取消しの訴えは,出訴期間を徒過して提起されたものに当たらず,却下すべきものに当たらない。
・・・
もとより,特許出願人は,願書における特許請求の範囲を自ら決定することができ(特許法36条2項),審査官は,当該特許出願について,その実体的特許要件の審査を行うのであるから(特許法49条,51条),審査官は,特段の事情がない限り,出願人の出願に係る特許請求の範囲に記載された発明が特許要件を充たすか否かを判断すれば足り,これを超えて出願人の出願内容がその真意に沿うものであるか否かを確認する義務はない。しかし,拒絶理由通知又は拒絶査定がされ,これに対し意見書の提出及び補正をする場合については,上述したその趣旨(拒絶理由について意見を述べ,かつ,拒絶理由を解消する機会を与えるという手続的利益を特許出願人に保障し,審査官に再考の機会を与えることにより,その判断の適正と発明の適正な保護を確保する)からみて,拒絶理由を出願人が正しく理解し,これに対応した意見書の提出及び補正がされ,審査官においてこれを十分に理解して審査を行うことが予\\定されているのであるから,拒絶理由通知又は拒絶査定に記載された拒絶理由と補正の内容とがかみ合ったものであることが,その前提として,特許法上予定されているものというべきである。そうすると,拒絶理由通知又は拒絶査定に記載された拒絶理由と意見書又は補正書(通常,意見書と補正書の趣旨は一致することから,以下においては,両者のうち補正書及びそれによる補正のみをとり上げる。)の内容が全くかみ合っておらず,当該補正書が,出願人の真意に基づき作成されたものとはおよそ考え難い場合であって,そのことが審査の経緯及び補正の内容等からみて審査官に明白であるため,審査官において補正の正確な趣旨を理解して審査を行うことが困難であるような場合には,このような補正に係る発明につき適正に審査を行うことが困難であり,また,発明の適正な保護にも資さないのであるから,審査官は,特許出願人の手続的利益を確保し,自らの審査内容の適正と発明の適正な保護を確保するため,補正の趣旨・真意について特許出願人に対し確認すべき手続上の義務を負うものというべきである。\n

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平成25(行コ)10001 特許分割出願却下処分取消請求控訴事件 特許権 行政訴訟 平成25年09月10日 知的財産高等裁判所

 特許査定後の分割が、H18年改正が適用されない分割出願について適用されるのかについて争われました。知財高裁は「適用されない」と地裁の判断を維持しました。
 当裁判所も,本件原出願から分割出願をすることができるのは,時期的制限を緩和した平成18年改正法によるのではなく,平成14年改正法によるべきであって,本件原出願についての特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に限られ,当該送達後になされた分割出願である本件出願は時期的制限を徒過した不適法なものであるから,本件出願を却下した本件却下処分に違法はなく,控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。2 平成18年改正法は,従前,特許出願の一部を新たな特許出願とする分割出願ができる時期につき,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる期間内,すなわち,特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に制限されていたのを,旧44条1項の改正により,特許査定謄本の送達後30日以内の期間にも可能となるよう時期的制限を緩和した。本件出願は,本件原出願の一部を新たな出願とする分割出願であるから,本件出願が,分割をすることができる時期的制限内に行われたか否かが本件の争点である。すなわち,平成22年にされた本件原出願からの分割出願に新44条1項が適用されるならば,控訴人による本件出願は分割出願の時期的制限内に行われたものとして適法となり,新44条1項が適用されないならば,分割出願の時期的制限を徒過したものとして,不適法となるという関係にある。3 平成18年改正法附則3条1項は,同法による改正に伴う経過措置として,「第2条の規定による改正後の特許法第17条の2,第17条の3,第36条の2,第41条,第44条,第46条の2,第49条から第50条の2まで,第53条,第159条及び第163条の規定は,この法律の施行後にする特許出願について適用し,この法律の施行前にした特許出願については,なお従前の例による。」旨を規定する。新しい法令を制定し,あるいは既存の法令を改廃する場合において,旧法秩序から新しい法秩序に移行する際には,社会生活に混乱を招いたり,不公平な適用となったりすることのないよう,一定の期間,既存の法律関係を認め,円滑に新しい法秩序に移行すべく,改正の趣旨や社会生活や法的安定性に与える影響等,種々の事情を勘案の上,経過規定が定められる。したがって,経過規定の解釈に当たっては,当該改正法の立法趣旨及び経過措置の置かれた趣旨を十分に斟酌する必要がある。一方で,その解釈には法的安定性が要求され,その適用についても明確性が求められることはいうまでもない。そこで,検討するに,平成18年改正法の主たる改正点は,技術的特徴が異なる別発明への補正の禁止(特許法17条の2第4項,41条,49条ないし50条の2,53条,159条,163条),分割制度の濫用防止(特許法17条の2,50条の2,53条),分割の時期的制限の緩和(特許法44条1項,5項,6項),外国語書面出願の翻訳文提出期間の延長(特許法17条の3,36条の2,44条2項,46条の2)であったところ,平成18年改正法附則3条1項は,これらの各条文の適用に当たり,審査の着手時期等によって適用される制限や基準が区々となり,手続継続中に基準が変更されて審査実務や出願人等が混乱することのないよう,各種手続の基礎となり,その時期が明確である「特許出願」を基準として,「この法律の施行後にした特許出願」に新法を適用することとしたものと解される。そして,上記改正後の特許法44条1項は,「特許出願人は,次に掲げる場合に限り,二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。…」と規定し,原出願の「特許出願人」が,原出願の「特許出願の一部を…新たな特許出願」とできる時期的制限や実体的要件を定めたものであるから,この規定が規律しているのは原出願である特許出願の分割についてであることが明らかである。そうすると,平成18年改正法附則3条1項にいう「この法律の施行後にする特許出願」とは,「新たな特許出願」を指すものではなく,新44条1項が規律の対象としている原出願を指しているものと考えるのが自然である。また,もとの特許出願の審査において既に拒絶理由通知がなされた発明をそのままの内容で再度分割するなどして,権利化時期を先延ばしにすることや,別の審査官により異なる判断がなされることを期待して同じ発明を繰り返し分割出願するといった分割制度の濫用への懸念に配慮して,同改正法は,出願人の利益を図って分割出願の時期的要件を緩和する一方で,分割制度の濫用防止のための方策を同時に改正していることから,分割の時期的要件の緩和と濫用防止策は同時に適用の移行がされることが望ましいのであり,特許法17条の2,44条,50条の2,53条について上記の経過措置を一律に制定した趣旨はこの点にある。なお,平成18年改正法に先立つ平成14年改正法附則3条1項が,「新特許法・・・の規定は,・・・施行日・・・以後にする特許出願(施行日以後にする特許出願であって,特許法第44条第2項・・・の規定により施行日前にしたものとみなされるもの・・・を含む。)について適用し,施行日前にした特許出願(施行日前の特許出願の分割等に係る特許出願を除く。)については,なお従前の例による。」と規定しているのに対し,平成18年改正法附則3条1項には,平成14年のときのように,「この法律の施行後にする特許出願」に「施行日以降にする特許出願であって,特許法44条第2項…の規定により施行日前にしたものとみなされるもの…を含む。」旨の記載はない。両者の改正附則を比較すれば,平成18年改正法附則3条1項の「この法律の施行後にした特許出願」に,新44条1項にいう「新たな出願」である分割出願が含まれるものでないことが明らかである。以上からすれば,平成18年改正法附則3条1項の「この法律の施行後にする特許出願」とは,新44条1項にいう「新たな特許出願」ではなく,「二以上の発明を包含する特許出願」(44条1項),すなわち,分割のもととなる原出願を指すものと解すべきである。
4 本件においては,本件原出願からの分割出願が適法な時期的制限内になされたか否かが問題となるところ,平成22年にされた本件原出願自体は平成18年改正法の施行日(平成19年4月1日)以降になされているものの,本件原出願は平成12年にされた本件原々出願からの分割出願である。そして,控訴人は,本件原々出願の出願日の遡及の利益を求めて本件出願をしているものであり,本件原出願が本件原々出願の時に出願したものとみなされて特許査定されたことを当事者双方とも当然の前提としているところ,本件原々出願が,平成12年2月15日にしたものとみなされる国際出願であり,平成18年改正法の施行前にした出願であるから,本件原出願は本件原々出願のこの出願の時にしたものとみなされる。したがって,本件出願は,平成18年改正法の施行後にする「特許出願」からの分割ではないので,結局,本件出願について同改正法は適用されないことになる。本件原出願の出願日が遡及するか否かについて,控訴人は,分割出願の実体的要件の有無如何によって,改正後の手続規定の適用の有無が決まるのでは,著しく手続の安定を欠き,出願人に不利益を負わせる等と主張する。しかし,本件は,子出願と孫出願がともに平成18年改正後にされた特殊な事例であり,本件出願(孫出願)は,子出願(本件原出願)が親出願(本件原々出願)からの分割出願として実体的に適法であることを前提にしている。平成18年改正法附則の上記解釈によれば,子出願である原出願には平成18年改正による新44条の時期的な制限緩和の適用はないのであるが(原出願についてはこの解釈に沿って同改正前の期間制限に従って原々出願からの分割がされている。),原々出願からの分割についての実体的要件が具備している結果として,原出願の出願日が原々出願の出願日に遡ってしたものとみなされたことになるにすぎない。本件出願はその原出願についての実体的に見て有利な効果を踏まえてのものであるが,そのような法適用のよってきたる効果から逆に推して,政策的に分割出願の時期的制限を緩和した平成18年改正に関する附則3条1項に関する前記解釈に疑義が生じることはないというべきである。

◆判決本文

◆原審はこちら。平成24年(ワ)第4766号

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平成24(行ウ)279 手続却下処分取消等請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年08月30日 東京地方裁判所

 国内書面提出後、期限内に翻訳文を提出できなかったとして救済を求めましたが、裁判所はこれを否定しました。
   原告は,法184条の5第2項が特許庁長官に補正を義務付けるものであるとの解釈を前提に,法184条の5第2項と法184条の4第3項との間に対立・矛盾があり,特許庁長官は,法184条の5第2項を優先して適用し,補正を命ずべきであったと主張する。しかし,法184条の5第2項は,「手続の補正をすべきことを命ずることができる。」と規定しており,その文言に照らして,手続の補正をすべきことを命ずることを特許庁長官に義務付けたものでないことは明らかである。そして,前記(1)で述べたとおり,法184条の5第2項は,国内書面(1号)や要約の翻訳文(4号)の提出期間徒過については補正命令の対象としているのに対して,明細書等の翻訳文の提出期間徒過については補正命令の対象としておらず,法は,明細書等の翻訳文が国内書面提出期間内に提出されない場合には,法184条の4第3項により,当該国際特許出願が取り下げられたものとみなされ,補正の余地がないことを前提に,法184条の5第2項の補正命令の対象となる範囲を定めているものと解される。したがって,法184条の5第2項1号は,法184条の4第1項に規定する翻訳文のうち,明細書等の翻訳文が同項に規定する提出期間内に提出されていない場合には,適用されないと解するのが相当であって,法184条の5第2項と法184条の4第3項との間に対立・矛盾はないと解され,本件において,法184条の5第2項を適用する余地はないから,原告の前記主張は,採用することができない。
イ 特許協力条約の要請について
(ア) 原告は,特許協力条約は,同条約22条(3),24条(2),条約規則49.6に象徴されるように,翻訳文提出期間を緩和し,国際出願を維持することを要請していることから,法184条の4第3項は,同項と矛盾する規定よりも,その適用において劣後すると主張する。(イ) しかしながら,特許協力条約は,出願人は,優先日から30か月以内に国際出願の写しと所定の翻訳文を提出することとし(22条(1)),当該期間内にこれらを提出しなかった場合には,国際出願の効果は,当該指定国における国内出願の取下げの効果と同一の効果をもって消滅する(24条(1)(iii))と規定しているから,法184条の4第3項は,何ら特許協力条約の規定に違反するものではない。そして,特許協力条約22条(3)は,締約国の裁量として,翻訳文等の提出期間の満了日を特許協力条約の定めよりも遅くするように国内法令で定めることができるとするものであって,国内法令においてこのような措置を講ずることを締約国に義務付けていないことは,その文言に照らして,明らかである。また,同条約24条(2)も,同条(1)の規定(国際出願の効果が,国内出願の取下げと同一の効果をもって消滅すること)にかかわらず,指定官庁が,国際出願の効果を維持することができるとするものであって,指定官庁が当該効果を維持することを義務付けるものではないことも,また,明らかである。したがって,特許協力条約は,同条約で定める範囲以上に,翻訳文の提出期間を緩和して,国際出願の効果を維持するものとして取り扱うか否かは,各締約国及び指定官庁の判断に委ねていると解されることから,これらの特許協力条約の規定をもって,この判断の結果である法の規定の範囲を超えて,国際出願の効果を維持するように法の規定を解釈すべき理由はない。(ウ) 平成23年法律第63号による改正後の特許法184条の4第4項は,「前項の規定により取り下げられたものとみなされた国際特許出願の出願人は,国内書面提出期間内に当該明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて正当な理由があるときは,その理由がなくなった日から2月以内で国内書面提出期間の経過後1年以内に限り,明細書等翻訳文並びに第1項に規定する図面及び要約の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。」と規定し,同改正後の同条5項は,「前項の規定により提出された翻訳文は、国内書面提出期間が満了する時に特許庁長官に提出されたものとみなす。」と規定して,翻訳文提出についても救済制度が設けられている。しかし,同改正は,改正附則2条25項により,同改正の施行日である平成24年4月1日前に翻訳文提出期間が満了し,取り下げられたものとみなされた国際特許出願については適用しないとされているから,本件においては同改正の適用はない。また,同改正は,改正前の規定やそれに基づく運用が,特許協力条約の規定や趣旨に反していたことを示すものではない。特許協力条約は,同条約で定める範囲以上に,翻訳文の提出期間を緩和するか否かは,各締約国及び指定官庁の判断に委ねていると解されることは前記のとおりである。(エ) 以上のことから,特許協力条約22条(3),24条(2),条約規則49.6(a)ないし(e)に象徴される特許協力条約の要請を考慮して,法184条の4第3項の規定の適用を劣後させるべきであるとの原告の主張は,理由がない。
ウ 国内書面と明細書等の翻訳文の意義について
原告は,国内書面は願書としての役割を担うもので,重要であり,これについては補正が認められているのに対し,明細書等の翻訳文は,国内書面に対して従たるものにすぎないとして,従たる書面である明細書等の翻訳文の未提出により,国内書面の提出の機会が妨げられるのは,本末転倒であると主張する。しかしながら,国際特許出願において願書としての性質を有するのは,国際特許出願に係る願書であって,国内書面ではない(法184条の3第1項,184条の6第1項)。また,明細書等の翻訳文は,特許協力条約上,その提出を義務付けられている書面である(同条約22条(1))のに対し,国内書面は,同条約上,その提出を義務付けられている書面ではない(同条約22条(1)後段,27条(1)参照)。このような同条約の規定や法の規定に照らして,明細書等の翻訳文が国内書面の従たる書面であると認めることはできない。

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平成24(行ケ)10056 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月17日 知的財産高等裁判所

 少し前の事件ですが、挙げておきます。主引例の差し替え(周知技術として例示されていた引例を主引例とした)について、手続違背があるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 一般に,本願発明と対比する対象である主引用例が異なれば,一致点及び相違点の認定が異なることになり,これに基づいて行われる容易想到性の判断の内容も異なることになる。したがって,拒絶査定と異なる主引用例を引用して判断しようとするときは,主引用例を変更したとしても出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情がない限り,原則として,法159条2項にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるものとして法50条が準用されるものと解される。 イ 前記(2)ウ,(3)ウのとおり,本件においては,引用例1又は2のいずれを主引用例とするかによって,本願発明との一致点又は相違点の認定に差異が生じる。拒絶査定の備考には,「第1及び第2のインバータを,電源に接続されるコンバータに接続することは,周知の事項であって(必要があれば,特開平7−213094号公報を参照。)…」と記載されていることから(甲17),審判合議体も,主引用例を引用例2から引用例1に差し替えた場合に,上記認定の差異が生じることは当然認識していたはずである。 ウ そして,前記(3)エのとおり,引用発明2を主引用例とする場合には,交流発電機(交流電源)を用いた場合の問題点の解決を課題として考慮すべきであるのに対し,引用発明1を主引用例として本願発明の容易想到性を判断する場合には,引用例2のような交流/直流電源の相違が生じない以上,上記解決課題を考慮する余地はない。そうすると,引用発明1又は2のいずれを主引用例とするかによって,引用発明2の上記解決課題を考慮する必要性が生じるか否かという点において,容易想到性の判断過程にも実質的な差異が生じることになる。
エ 本件において,新たに主引用例として用いた引用例1は,既に拒絶査定において周知技術として例示されてはいたが,原告は,いずれの機会においても引用例2との対比判断に対する意見を中心にして検討していることは明らかであり(甲1,16,20),引用例1についての意見は付随的なものにすぎないものと認められる。そして,主引用例に記載された発明と周知技術の組合せを検討する場合に,周知例として挙げられた文献記載の発明と本願発明との相違点を検討することはあり得るものの,引用例1を主引用例としたときの相違点の検討と同視することはできない。また,本件において,引用例1を主引用例とすることは,審査手続において既に通知した拒絶理由の内容から容易に予測されるものとはいえない。なお,原告にとっては,引用発明2よりも不利な引用発明1を本件審決において新たに主引用例とされたことになり,それに対する意見書提出の機会が存在しない以上,出願人の防御権が担保されているとはいい難い。よって,拒絶査定において周知の技術事項の例示として引用例1が示されていたとしても,「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるといわざるを得ず,出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情が存在するとはいえない。
オ 被告は,審判請求書において原告が引用例1を詳細に検討済みであると主張する。しかし,一般に,引用発明と周知の事項との組合せを検討する場合,周知の事項として例示された文献の記載事項との相違点を検討することはあり得るのであり,したがって,審判請求書において,引用例1の記載事項との相違点を指摘していることをもって,これを主引用例としたときの相違点の検討と同視することはできない。
(5) 小括
以上のとおり,本件審決が,出願人に意見書提出の機会を与えることなく主引用例を差し替えて本願発明が容易に発明できると判断したことは,「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるにもかかわらず,「特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならない」とする法159条2項により準用される法50条に違反するといわざるを得ない。そして,本願発明の容易想到性の判断に係る上記手続違背は,審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。よって,取消事由3は,理由がある。

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平成24(行ケ)10261 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月25日 知的財産高等裁判所

 拒絶理由通知を受け取った代理人が、意思能力を欠くとして、拒絶理由通知は送達されていないと判断されました。
 Aに対して本件送達がされた当時,Aは,本件送達を受領するに足りる意思能力を欠いていたと認めるのが相当である。すなわち,Aは,平成19年4月の段階で既に●●との診断を受けており,相当程度,意思能\力が制限された状態にあり,さらに,本件送達がされる以前の平成21年4月には,思考内容の貧困化,意欲減退が顕著であり,身体機能も低下し,意思伝達はほとんど不可で,毎日の日課を理解すること,生年月日を言うこと,短期記憶,自分の名前を言うこと,今の季節を理解することはいずれもできない状況にあった。そして,Aの上記の状況は,加齢性変化に加えて,Aが患った●●による影響によるものであるから,不可逆的であり,本件送達がされるに至るまで漸次悪化していたと認められる。そうすると,本件送達がされた時点では,Aは,本件送達の意味を理解し適切な行動を行うに足りる意思能\力はなかったと解される。受送達者が送達の意味を理解し適切な行動を取るに足りる意思能力を欠く場合には,同人に対する送達は無効であり,工業所有権に関する手続等の特則に関する法律5条1項の規定によるいわゆるオンライン送達の場合も同様に解すべきであるから,Aに対する本件送達は無効である。

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平成24(行ケ)10231 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月13日 知的財産高等裁判所 

 進歩性なしとした審決が維持されました。争点の一つが、請求項の文言を誤記として認定した点です。
 原告は,審決には,本願発明に係る請求項1記載の「逆対数応答空間」を「対数応答空間」と読み替えた上で,本願発明を認定した誤りがあると主張する。この点,確かに,本願発明に係る請求項1の「逆対数応答空間」との記載が,文言上直ちに「対数応答空間」の誤記であると解することはできない。また,本願明細書の段落【0031】,【0051】の記載によれば,「逆対数」は,「対数−反対」を意味するものであり,このうち「反対」は,「反対チャネル」と称される「白−黒の指標」,「赤および緑の指標」,「黄色青色の指標」に対応するものと認められる。そうすると,「逆対数応答空間」とは,入力画像を「対数−反対座標に変換した空間」を意味し,「対数応答空間」とは意味を異にするものと解される。これに対し,被告は,本願発明の入力画像信号は,信号の輝度を表す測定値を含むLab系色空間信号であり,3色の測定値を含むRGB系色空間信号ではないと主張する。しかし,本願発明に係る請求項1の「(a)前記入力画像信号の測定値を得るステップ,ここで,前記測定値は,少なくとも前記信号の輝度i(x,y)を表\す測定値を含み」との記載は,画像信号の測定値から輝度i(x,y)を算出可能であるという画像信号の一般的な性質を確認的に記載したものにすぎず,入力画像信号の「測定値」には,RGB系色空間信号及びLab系色空間信号を含み得るものであるから,本願発明の対象がLab系色空間信号に限定されていると解することはできない。したがって,本願発明に係る請求項1記載の「逆対数応答空間」は,「対数応答空間」の誤記とはいえない(なお,明細書の記載と異なる解釈を採るのであれば,誤記として扱うのではなく,その理由を説示すべきである。)。イ 以上のとおり,審決が,本願発明に係る請求項1記載の「逆対数応答空間」を「対数応答空間」と読み替えた上で,本願発明を認定したことは相当でないが,以下のとおり,審決の結論に影響を及ぼすものとはいえない。16すなわち,上記のとおり,本願発明に係る請求項1のステップ(a)において,「前記測定値は,少なくとも前記信号の輝度i(x,y)を表す測定値を含み」との記載は,画像信号の測定値から輝度i(x,y)を算出可能\であるという画像信号の一般的な性質を確認的に記載したにすぎず,「前記測定値」には,RGB系色空間信号だけではなく,Lab系色空間信号をも含み得るものと解される。そうすると,本願発明に係る請求項1のステップ(b)の「逆対数応答空間に変換して,変換された座標を得る」とは,入力画像信号の「測定値」を,変換後の空間が逆対数応答空間(「対数−反対座標に変換した空間」)となるように変換することを意味すると解され,「対数応答空間に変換」及び「反対応答空間に変換」の2つの構成を必然的に含むとまではいえない。そして,審決は,後述のとおり,相違点1について,「画像処理の技術分野において,入力画像をRGB座標空間のカラー画像信号として入力し,当該RGB座標空間から輝度と2つのクロミナンスによる色空間に座標変換することにより,輝度値を算出し,画像の輝度を補正する技術は慣用技術にすぎない」として,入力されたカラー画像信号を反対座標の色空間となるように変換して輝度値を算出し,画像の輝度を補正する技術は慣用技術であると認定した上で,「刊行物発明に用いられた技術を慣用技術であるカラー画像の輝度値の補正に採用することに格別困難な点はない」との判断を示しており,本願発明が反対座標の色空間となるように変換することを含むことについても,実質的な判断をしているといえる。\n
ウ 
 以上によれば,審決が本願発明と刊行物発明の対比に当たり,本願発明に係る請求項1記載の「逆対数応答空間」は「対数応答空間」の誤記であるとして,読み替えを行った上で,本願発明を認定した点は相当でないが,これにより審決の結論に影響を及ぼすものとはいえない。

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平成24(行ウ)383 特許分割出願却下処分取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月06日 東京地方裁判所

 H19/4/1以前にした特許出願についての、特許査定後の分割出願が適法かが争われましたが、裁判所は却下処分は適法と判断しました。
 旧44条1項は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる期間内,すなわち,特許をすべき旨の査定の謄本の送達前(特許法17条の2第1項)に限って分割出願をすることができるとしていたが,新44条1項は,これに加え,特許をすべき旨の査定の謄本の送達があった日から30日以内であれば分割出願をすることができることとした。そして,平成18年改正法附則3条1項は,同法による改正に伴う経過措置として,「改正後の特許法…第44条…の規定は,この法律の施行後にする特許出願について適用し,この法律の施行前にした特許出願については,なお従前の例による」と規定し,前段で改正法が適用される場合を特定し,後段でそれ以外の場合(すなわち,改正法が適用されない場合)を定めている。本件出願は,平成22年6月8日にした本件原出願からの分割出願であり,本件原出願は,平成12年2月15日にした本件原々出願からの分割出願であるところ,本件原出願は,新44条2項により,平成18年改正法の施行日(平成19年4月1日)前である平成12年2月15日にしたものとみなされるから,本件出願は,同法附則3条1項前段の「この法律の施行後にする特許出願」には該当せず,後段の「この法律の施行前にした特許出願」に該当するものとして,「なお従前の例による」ことになる。そこで,「従前の例」,すなわち,従前の特許法44条1項の適用関係につきみるに,平成18年改正法による改正前に特許法44条1項に関する改正をした直近の法律は,平成14年改正法であるが,同法附則3条1項は,施行日(平成15年7月1日)以後にする特許出願であって,特許法44条2項の規定により施行日前にしたものとみなされるものについては,同改正法による改正後の特許法の規定(44条1項に関しては,旧44条1項がこれに当たる。)が適用されると規定していたから,本件出願には旧44条1項が適用される。そうすると,本件原出願から分割出願(本件出願)をすることができるのは,本件原出願についての特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に限られる。しかるに,原告が本件出願をしたのは,本件原出願についての特許査定の送達がされた平成23年1月28日より後の同年2月10日であるから,本件出願は,旧44条1項の定める出願期間経過後にされたもので,不適法である。 20121214105700

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平成24(行ケ)10056 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月17日 知的財産高等裁判所

 拒絶審決が、手続き違反があったとして取り消されました。
 以上の記載によれば,引用例2に記載された発明は,インバータ装置によって巻き上げ制御装置等の電動機を駆動する自走式のジブクレーン装置において,従来,ディーゼルエンジンにより交流発電機を駆動し,コンバータ装置で交流電源から直流電源に変換するものが知られていたところ,コンバータ装置で交流から直流へ変換する際に高調波電流が発生するといった問題点を解決すべき課題とし,交流発電機の代わりにコンバータ装置が不要な直流発電機を用い,直流発電機の直流出力をインバータ装置に直接入力することによって,上記問題点を解決するものであり,本件審決が引用発明2として認定したとおりのものである。ウ 本願発明は,「電源」(交流電源)と「電源に接続されるコンバータ」とを発明特定事項とするのに対し,引用発明2では,直流発電機からの直流出力がインバータにそのまま供給され,コンバータは存在しない。よって,引用例2を主引用例とした場合,「電源」及び「電源に接続されるコンバータ」は,本願発明との相違点となる。エ また,引用発明2は,交流発電機(交流電源)を用いた場合の問題点の解決を課題として発明されたものであることから,その直流発電機(直流電源)を交流発電機(交流電源)に再び戻すことには,一定の阻害要因があるものと認められる。そうすると,引用発明2を主引用例として,引用発明2の直流発電機(直流電源)を本願発明に係る「電源」及び「電源に接続されるコンバータ」に変更することが容易想到であるか否かの判断にあたっては,引用発明2の上記解決課題が判断材料の一つとして考慮されるべきである。
(4) 主引用例の差替えについて
ア 一般に,本願発明と対比する対象である主引用例が異なれば,一致点及び相違点の認定が異なることになり,これに基づいて行われる容易想到性の判断の内容も異なることになる。したがって,拒絶査定と異なる主引用例を引用して判断しようとするときは,主引用例を変更したとしても出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情がない限り,原則として,法159条2項にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるものとして法50条が準用されるものと解される。
イ 前記(2)ウ,(3)ウのとおり,本件においては,引用例1又は2のいずれを主引用例とするかによって,本願発明との一致点又は相違点の認定に差異が生じる。拒絶査定の備考には,「第1及び第2のインバータを,電源に接続されるコンバータに接続することは,周知の事項であって(必要があれば,特開平7−213094号公報を参照。)…」と記載されていることから(甲17),審判合議体も,主引用例を引用例2から引用例1に差し替えた場合に,上記認定の差異が生じることは当然認識していたはずである。ウ そして,前記(3)エのとおり,引用発明2を主引用例とする場合には,交流発電機(交流電源)を用いた場合の問題点の解決を課題として考慮すべきであるのに対し,引用発明1を主引用例として本願発明の容易想到性を判断する場合には,引用例2のような交流/直流電源の相違が生じない以上,上記解決課題を考慮する余地はない。そうすると,引用発明1又は2のいずれを主引用例とするかによって,引用発明2の上記解決課題を考慮する必要性が生じるか否かという点において,容易想到性の判断過程にも実質的な差異が生じることになる。
エ 本件において,新たに主引用例として用いた引用例1は,既に拒絶査定において周知技術として例示されてはいたが,原告は,いずれの機会においても引用例2との対比判断に対する意見を中心にして検討していることは明らかであり(甲1,16,20),引用例1についての意見は付随的なものにすぎないものと認められる。そして,主引用例に記載された発明と周知技術の組合せを検討する場合に,周知例として挙げられた文献記載の発明と本願発明との相違点を検討することはあり得るものの,引用例1を主引用例としたときの相違点の検討と同視することはできない。また,本件において,引用例1を主引用例とすることは,審査手続において既に通知した拒絶理由の内容から容易に予測されるものとはいえない。なお,原告にとっては,引用発明2よりも不利な引用発明1を本件審決において新たに主引用例とされたことになり,それに対する意見書提出の機会が存在しない以上,出願人の防御権が担保されているとはいい難い。よって,拒絶査定において周知の技術事項の例示として引用例1が示されていたとしても,「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるといわざるを得ず,出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情が存在するとはいえない。
オ 被告は,審判請求書において原告が引用例1を詳細に検討済みであると主張 する。しかし,一般に,引用発明と周知の事項との組合せを検討する場合,周知の事項として例示された文献の記載事項との相違点を検討することはあり得るのであり,したがって,審判請求書において,引用例1の記載事項との相違点を指摘していることをもって,これを主引用例としたときの相違点の検討と同視することはできない。
(5) 小括
以上のとおり,本件審決が,出願人に意見書提出の機会を与えることなく主引用例を差し替えて本願発明が容易に発明できると判断したことは,「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるにもかかわらず,「特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならない」とする法159条2項により準用される法50条に違反するといわざるを得ない。そして,本願発明の容易想到性の判断に係る上記手続違背は,審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

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平成23(行ウ)542 決定処分取消請求事件 その他 行政訴訟 平成24年03月16日 東京地方裁判所

 国内書面提出日から2月経過後に提出された翻訳文提出に対して、特許庁は期間経過後であるとして却下処分を行いました。原告は優先権主張を取り下げて争いましたが、裁判所は、かかる処分について、適法と判断しました。
 原告は,i)平成22年1月22日に原告が特許庁長官に対し本件国際特許出願に関して本件取下書を提出したことにより,本件国際特許出願における2007年(平成19年)1月23日を優先日とするパリ条約による優先権主張は取り下げられた,ii)その結果,本件国際特許出願に係る特許協力条約2条(xi)の優先日は,本件国際出願の国際出願日である2008年(平成20年)1月23日に繰り下がる,iii)その結果,本件国際特許出願についての国内書面提出期間(特許法184条の4第1項)の満了日も,上記国際出願日である平成20年1月23日から2年6月が経過する平成22年7月23日に繰り下がることになる旨主張する。しかしながら,原告の主張は採用することができない。すなわち,原告は,2008年(平成20年)1月23日,特許協力条約に基づいてパリ条約による優先権主張を伴う本件国際出願をし,本件国際出願は,日本において,特許法184条の3第1項の規定により,その国際出願日にされた特許出願とみなされ(本件国際特許出願),本件国際特許出願についての明細書等の翻訳文の提出期間は,同法184条の4第1項ただし書の適用により,原告が本件国内書面を提出した日である平成21年7月14日から2月が経過する同年9月14日までであったにもかかわらず,原告は当該提出期間の満了日までに上記翻訳文を提出しなかった(前記第2の2(1),(2)ア,イ)のであるから,同法184条の4第3項の規定により,当該満了日が経過した時点で,本件国際特許出願は取り下げられたものとみなされる。そうすると,原告が本件取下書を特許庁長官に提出した平成22年1月22日の時点においては,本件国際特許出願は既に取り下げられたものとされ,そもそも特許出願として特許庁に係属していなかったことになるから,当該出願に関して,優先権主張の取下げを含む特許庁における法律上の手続を観念することはできないというべきである。したがって,原告による本件取下書の提出をもって,原告が主張する上記ii),iii)のような本件国際特許出願に関する優先権主張の取下げの効果を生じさせるものということはできず,これに反する原告の主張は採用できない。

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平成23(行ケ)10406 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月08日 知的財産高等裁判所 

 審査において、延長申請をしこれが受け入れられたにも係わらず、期間満了前に査定をしたことについて、手続き違背があったとして、審決が取り消されました。
 本件においては,平成23年3月23日付けの拒絶理由通知に対する意見書の提出期限は,当初同年6月30日とされたが,原告からの合計3か月の期間延長申請に対して許可がされたことにより,同年9月30日まで延長された。しかるに,本件審判においては,上記提出期限より約2か月前である平成23年7月25日付けで審理終結通知がされ,同年8月9日付けで上記拒絶理由を理由として本件審決がされた。したがって,本件審決は,実質的に意見書提出の機会を付与することなくされたものであり,手続違背の違法があるといえる。この点,被告は,本件審決の審決書が送達される約1か月前である同年7月25日に,審理終結通知書が原告に対して発送されているから,原告に,意見書提出の意思があったのであれば,審理終結通知書が発送された時点で,特許庁に対して,確認,上申\書提出などの行為をなし得たはずであると主張する。しかし,被告の主張は,意見書提出の機会を付与すべきと定めた特許法の上記の趣旨に反する主張であり,採用の余地はない。

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平成23(行ウ)535 決定処分取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月16日 東京地方裁判所

 PCTの国内書面提出後、2月以上経過後に提出した翻訳文についての却下処分について不服申し立てを行いました。東京地裁は却下処分について違法とする理由がないとして、棄却されました。出願人は、優先権の主張を取り下げる申\し出をおこないましたが、これも認められませんでした。
 原告による本件取下書提出の効果について検討するに,前記争いのない事実等(1)ないし(3)のとおりの本件国際特許出願に係る事実経過からすれば,i)原告は,2008年(平成20年)1月23日,特許協力条約3条に基づいて,同条約8条に基づくパリ条約による優先権主張(優先権主張日・2007年(平成19年)1月23日(米国における先の出願の特許出願日))を伴う本件国際出願(受理官庁・欧州特許庁)をしたこと,ii)本件国際出願は,日本において,特許法184条の3第1項の規定により,その国際出願日にされた特許出願とみなされたこと(本件国際特許出願),iii)本件国際特許出願についての明細書等の翻訳文の提出期間は,同法184条の4第1項ただし書の適用により,原告が本件国内書面を提出した日である平成21年7月14日から2月が経過する同年9月14日までであったことが認められる。しかるところ,原告は,当該提出期間の満了日までに上記翻訳文をいずれも提出しなかったのであるから,特許法184条の4第3項の規定により,当該満了日が経過した時点で,本件国際特許出願は取り下げられたものとみなすものとされる。そうすると,原告が本件取下書を特許庁長官に提出した平成22年1月22日の時点においては,本件国際特許出願は,既に取り下げられたものとされ,そもそも特許出願として特許庁に係属していないこととなるから,当該出願に関して,優先権主張の取下げを含む特許庁における法律上の手続は,およそ観念することができないというべきである。してみると,原告による本件取下書の提出をもって,本件国際特許出願に関する優先権主張の取下げの効果を生じさせるものと認めることはできない。

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平成23(ワ)3102 損害賠償請求事件 平成23年10月24日 大阪地方裁判所

 弁理士に対して、委任契約の債務不履行又は不法行為があるとして損害賠償請求がなされましたが、原告の請求は棄却されました。
 そこで検討すると,原告が拒絶したのでなければ,被告が審査官と再度面談をしたり,進歩性なしとして拒絶された出願について一部でも特許査定をする旨の合意をされたにもかかわらず,それに従った手続補正をしなかったりする理由は他にないのであって,上記経過は被告本人の供述を前提としてしか了解することができないものである。また,前提事実のとおり,原告と被告は相互に本件出願Bに係る委任契約を解除したにもかかわらず,再度,本件出願Bに係る委任契約を締結している。これは,本件出願Bについて拒絶査定がされ,本件出願A及びCの拒絶査定も確定した後の時期であり,原告の主張するような債務不履行が被告にあったのであれば起こりえないことである。さらに,乙20及び21によれば,再度の委任契約後に,原告は本件出願Bに係る手続補正について発明の名称や請求項の記載内容の文案を示すなど,被告に詳細に指示したことが認められる。このことや,前記1のとおり,被告が原告のアメリカ特許について手続をする都度,原告に了解を求めたことは,被告本人の上記供述を裏付けるものである。なお,この点に関する原告本人の供述は,書面の体裁からして原告から被告に指示したものであることが明らかであるのに,被告から指示されるままに書いたなどと不合理な弁解に終始しており,信用することはできない。加えて,上記1と同様に,原告が平成19年4月に至るまで被告の責任を追及することがなかったことからすれば,本件出願Bの出願手続において被告の責任を追求することができるような事情があったとは考えにくい。

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平成21(行ウ)417 手続却下処分取消請求事件 平成23年09月15日 東京地方裁判所

 北朝鮮の国民がしたPCT出願に基づいて日本国にした移行手続の却下処分は違法ではないと判断しました。
 PCTは,我が国,北朝鮮その他の多数の国家が加盟する多数国間条約であり,各国が所定の手続を踏むことにより当該条約に加入することが可能な開放条約である(PCT62条,パリ条約21条)。本件では,我が国と北朝鮮との間でPCT上の権利義務関係が生じるか否かが問題となっているところ,ある国から国家承認を受けていない国(未承認国)と上記承認を与えていない国との間において,その両国がいずれも当事国である多数国間条約上の権利義務関係が生じるかという問題については,これを定める条約及び確立した国際法規が存在するとは認められない。一方,証拠(乙6の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,我が国の政府は,国家承認の意義について,ある主体を国際法上の国家として認めることをいうものと理解し,国際法上の主体とは,一般に国際法上の権利又は義務の直接の帰属者をいい,その典型は国家であると理解していること,また,我が国の政府は北朝鮮を国家承認していないから,我が国と北朝鮮との間には国際法上の主体である国家間の関係は存在せず,したがって,未承認国(北朝鮮)が国家間の権利義務を定める多数国間条約に加入したとしても,同国を国家として承認していない国家(我が国)との関係では,原則として当該多数国間条約に基づく権利義務は発生しないとの見解をとっていること,が認められる。そして,当裁判所は,日本国憲法上,外交関係の処理及び条約を締結することが内閣の権限に属するものとされ(憲法73条2号,3号),我が国及び未承認国を当事国とする多数国間条約上の権利義務関係を我が国と未承認国との間で生じさせるかということも,外交関係の処理に含まれるものといえることに鑑み,上記の政府見解を尊重し,未承認国である北朝鮮と我が国との間に両国を当事国とする多数国間条約に基づく権利義務関係は原則として生じないと解するべきであり,PCTについても,原則どおり我が国と北朝鮮との間に同条約に基づく権利義務関係は生じないものと考える(知的財産高等裁判所平成20年12月24日判決参照)。したがって,我が国が国家として承認していない北朝鮮に在住する,北朝鮮の国民であるAらによって行われた,指定国に我が国を含む本件国際出願によっては,我が国と北朝鮮との間に多数国間条約であるPCTに基づく権利義務は生じず,我が国は,北朝鮮における発明の保護を図るために本件国際出願をPCT上の国際出願として取り扱うべき義務を負うものではないというべきである。そうすると,本件国際出願は,特許法184条の3第1項所定の「その国際出願日にされた特許出願とみなす」ことはできず,本件国際出願に関する本件書面は,いずれもその提出の対象がないものであるから,本件手続は,特許法上の根拠を欠く不適法な手続であるといえる。また,本件書面が提出対象のないものである以上,本件手続について補正をすることができないことは明らかである。よって,本件手続を却下した本件手続却下処分の判断は適法であると認められる。\n

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平成22(行ウ)527 特許料納付書却下処分取消請求事件 平成23年07月01日 東京地方裁判所

 特許年金の支払いについて、「通常期待される注意を尽くしたものということはできない」と判断されています。特許料管理の委託を受けた事務所は気をつけないといけませんね。
 原告は,本件特許権に係る第11年分特許料を納付することができなかった事情として,A法律事務所(前権利者であるフラーレン社が本件特許権に係る特許料の支払を委託していた法律事務所)がB法律事務所(原告が本件特許権に係る特許料の支払を委託した法律事務所)からの再三の要求にもかかわらず,本件特許権に関する一件記録の送付に応じなかったことから,B法律事務所において適切に特許維持管理を行うことができなかったことが原因であり,原告及びB法律事務所には何ら責任がなく,「その責めに帰することができない理由」がある旨主張する。しかしながら,仮に,原告が本件特許権に係る第11年分特許料を納付することができなかった事情が原告の主張するとおりであったとしても,原告から本件特許権の管理を委託されたB法律事務所は,受託者として,善良な管理者としての注意義務を負うものであるから,A法律事務所に対し,本件特許権の特許番号,特許料の支払期限,支払状況等が記載された一件記録の送付を求めたというだけで,その注意義務を尽くしたことになるとは解されない。すなわち,B法律事務所が本件特許権を管理するに当たって必要な情報を入手するため,A法律事務所に対し,本件特許権に係る一件記録の送付を求めた措置に合理性は認められるものの,その後,相当期間が経過してもA法律事務所から一件記録が送付されなかった場合には,本件特許権に係る特許料の追納期限が到来する可能性についても当然に配慮し,特許権者である原告に対して本件特許権に係る詳細な情報の提供を求めるとか,あるいは自ら特許原簿を閲覧するなどして,本件特許権に係る特許料の納付状況を調査することが求められているというべきであり,このような調査を尽くすことは,本件特許権の管理を委託された者に通常期待される注意義務の範囲内のことというべきである。本件において,B法律事務所がA法律事務所に対し,本件特許権に係る一件記録の送付を最初に求めた時期は不明であるが,原告の主張を前提としても,B法律事務所は,少なくともA法律事務所から「B法律事務所が特許維持管理の責任を負うことの確認」を求めるレターを受領した平成20年6月5日頃には,A法律事務所に対し,本件特許権に係る一件記録の送付を求めていたことになる。本件特許権に係る第11年分特許料の追納期限は平成21年1月17日であり,B法律事務所がA法律事務所に対し本件特許権に係る一件記録の送付を要求してから少なくとも半年以上の期間が残存していたことを考慮すると,B法律事務所は,その間,A法律事務所からの一件記録の送付を漫然と待つにとどまらず,自ら本件特許権に係る特許料の納付状況を調査した上,本件特許権の維持に必要な処置を講じることが求められていたというべきである。したがって,このような調査を行わず,本件特許権に係る第11年分の特許料の追納期限(平成21年1月17日)を徒過させたB法律事務所は,本件特許権の管理者として通常期待される注意を尽くしたものということはできない。そして,B法律事務所は,本件特許権の管理について,特許権者である原告から委託を受けた者であり,B法律事務所に「その責めに帰することができない理由」が認められない以上,前示2のとおり,原告についても「その責めに帰することができない理由」があると認めることはできない。\n

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平成21(行ウ)540 手続却下処分等取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年10月08日 東京地方裁判所

 優先権証明書の提出について争いましたが、認められませんでした。
 このように優先権証明書を提出しないまま優先権証明書提出期間が経過してしまった優先権主張について,同期間経過後,優先権証明書の原本の提出による手続補正を認めるとすれば,優先権証明書提出期間を定め,その期間内に優先権証明書の提出がないときは当該優先権の主張がその効力を失う旨規定する特許法43条2項,4項の規定の趣旨を没却することになるから,本件提出書に係る手続の瑕疵は,優先権主張の手続における重大な要件の瑕疵であり,もはや補正することはできないというべきである。(4)アこの点,原告は,本件提出書に係る手続については,客観的に判断した手続者の合理的意思(優先権証明書の原本を提出すべきところ,誤って「複写」を提出してしまったこと)が明らかであり,不適法な手続であってその補正をすることができないもの(特許法18条の2第1項)には該当しない旨主張する。しかし,原告が本件提出書に添付したのは,OHIMが発行した本件共同体意匠の出願日が記載された認証謄本の一部(表紙を含む2枚分)のみを複写したものとその訳文にすぎず,本件共同体意匠を記載した図面等に相当するものの写し等は添付されていなかったのであるから,本件提出書のその他の記載等を総合しても,直ちに「原本を提出すべきところを誤って複写を提出してしまったことが明らか」であると認めることはできない。この点は,原告において,本件出願と同時に行った他の3件の意匠登録出願については,優先権証明書の原本とその訳文を特許庁長官に提出していた(甲9,10)という事情を考慮しても同様である。\n

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◆関連事件です。平成21(行ウ)597

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平成8(行ウ)125  特許権 行政訴訟 平成9年03月28日 東京地方裁判所

 古い事件ですが、興味深いので挙げておきます。意見書提出期間内に提出された補正書で特許査定がなされ、その結果分割出願が適法でないとされた事件について、裁判所は、意見書提出期限内の特許査定処分は適法と判断しました。  法五〇条は、審査官は、拒絶すべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない旨規定していたが、その趣旨は、審査官が、特許出願に拒絶理由があるとの心証を得た場合に直ちに拒絶査定をすることなく、その理由をあらかじめ特許出願人に通知し、期間を定めて出願人に弁明の機会を与え、審査官が出願人の意見を基に再考慮する機会とし、判断の適正を期することにある。 ところで、法五〇条の定める拒絶理由の通知及び相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えることは、拒絶査定をしようとする場合に履践すべき手続であって、特許査定をしようとする場合に要求されるものでないことは、法五〇条自体から明白である。したがって、拒絶査定をしようとする場合には、指定した期間の経過を待って、右期間中に提出された意見書、右期間中にされた手続の補正、特許出願の分割を考慮した上で拒絶査定をする必要があるけれども、右期間中に提出された意見書又は右期間中にされた手続の補正を考慮した結果、特許査定をすることができると判断した場合には、無為に指定した期間の経過を待って、その後、さらに、追加の意見書が提出されるか否か、再度の手続補正がされるか否か、特許出願の分割がされるか否かを見極める必要はなく、指定期間の途中であっても特許査定をすることができるものであり、むしろ、そのような取扱いこそが望ましいものということができる。意見書提出の期間として指定された期間は、特許出願人が明細書又は図面について補正することができる期間とされている(法一七条の二第三号、法六四条一項)が、その趣旨は、拒絶理由通知を受け、その拒絶理由のある部分を補正により除去することにより、特許すべき発明が特許を受けることができるようにすることにある。

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平成22(行ウ)183 特許庁による手続却下の処分に対する処分取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年09月09日 東京地方裁判所

 パリ優先の証明書が、「優先権書類データの交換に基づく優先権書類提出義務の免除」対象であると誤解して提出せず、これによって優先権の効果が認められ無かったことを争いましたが、裁判所は認めませんでした。  原告の主張は,立法論としてはともかく,解釈論としては到底採用することができない。本件において失効した優先権の主張を補正により復活させなかったことが,原告の財産権等の法的利益を侵害するものであるといえないことは明らかである。したがって,法43条2項及び4項に基づき本件補正書に係る手続を却下した本件処分は,憲法29条1項に違反するものとは認められず,原告の主張は理由がない

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平成22(行ウ)92 異議申立棄却決定取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成22年08月06日 東京地方裁判所 

 期間経過後に提出した新規性喪失の例外の証明書却下処分について、却下処分は違法ではないと判断しました。最高裁判所昭和43年(行ツ)第99号同45年10月30日第二小法廷判決という判例は、初めて知りました。これは旧特許法における例外証明書の提出時期に関して、追完を認めた事例です。

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平成21(行ウ)590 手続却下処分取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年07月16日 東京地方裁判所

 PCT出願の国内移行期間経過後に国内書面および翻訳文を提出したところ、移行手続が却下されました。かかる却下処分が争われました。裁判所は適法と判断しました。
 本件却下処分は,本件翻訳文が国内書面提出期間経過後に提出されたことから,本件国際特許出願が取り下げられたものとみなされることを理由とするものであるところ,本件国内書面及び本件翻訳文が国内書面提出期間経過後に提出されたものであることは,当事者間に争いがない(前記争いのない事実等(2)イ参照。なお,本件国内書面が提出されたのは,国内書面提出期間経過後であるから,本件において,本件国内書面の提出により,法184条の4第1項ただし書の翻訳文提出特例期間が問題となることはない。)。(2) 法184条の4第1項は,外国語特許出願の出願人は,国内書面提出期間内に,明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文を,特許庁長官に提出しなければならないと規定し,同項ただし書において,国内書面提出期間の満了前2月から満了の日までの間に,法184条の5第1項に規定する国内書面を提出した外国語特許出願については,翻訳文提出特例期間以内に,当該翻訳文を提出することができると規定している。そして,法184条の4第3項は,国内書面提出期間又は翻訳文提出特例期間内に,明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文(明細書等の翻訳文)の提出がないときは,その国際特許出願は取り下げられたものとみなすと規定している。法184条の5第2項は,同条1項の規定する国内書面(1号)のほかにも,法184条の4第1項の規定により提出すべき翻訳文のうち,要約の翻訳文(4号)については,国内書面提出期間の徒過を補正命令の対象としているが,明細書等の翻訳文を含むその他の翻訳文については,補正命令の対象としていない。このような法184条の5と法184条の4の規定を併せて読めば,外国語特許出願につき明細書等の翻訳文が国内書面提出期間内に提出されない場合には,その国際特許出願は,法184条の4第3項により,取り下げられたものとみなされることになり,事件が特許庁に係属しないこととなるから,当該国際特許出願について,法184条の5第2項の規定による補正命令が問題となる余地がないことは,明らかである。(3) これを本件についてみると,前記のとおり,国内書面提出期間内に,本件国内書面だけでなく,明細書等の翻訳文を含む本件翻訳文が提出されていないから,法184条の4第3項の規定により,本件国際特許出願は,取り下げられたものとみなされることになる。そのため,本件国際特許出願は,事件が特許庁に係属しないこととなり,法184条の5第2項の規定による補正命令だけでなく,手続の補正が問題となる余地はないから,特許庁長官が本件国内書面や本件翻訳文の提出を求めるなどの手続の補正を認める余地はないというべきである。したがって,本件国内書面の提出は,取り下げられたものとみなされる本件国際特許出願についてされた不適法な手続であって,その補正をすることができないものであるから,法18条の2第1項の規定により,その手続を却下すべきものである。よって,原告に補正の機会を与えずに特許庁長官がした本件却下処分は,適法である。

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平成21(行ケ)10095 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月27日 知的財産高等裁判所

 周知技術を追加してした審決について手続き上違法があったのかが争われました。裁判所は、違法性なしと判断しました。
 審決取消訴訟においてなされる容易想到性(特許法29条2項)の判断は,特定して引用された発明(引用発明)との対比を基準としてなされるべきものであり(最高裁昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁),一方,特許法150条2項が準用する同法50条は「審査官は,拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない」等と規定していることからすると,特許庁が予めなした拒絶理由通知に示された引用発明に基づかない発明に基づいて特許出願を拒絶する内容の審決をしたときは,原則としてその審決は手続上の違法があったということになるが,同通知に示された引用発明に基づいて審決がなされているときは,特段の事情なき限り,同審決に手続上の違法があったということはできないと解される。本件事案においては,本願補正発明5及び本願発明5に関する【請求項5】との関係で引用発明とされたのは,前記のとおり刊行物1(甲1)及び刊行物2(甲2)であり,それらは審査官が平成18年8月11日付けでなした拒絶理由通知(甲12)に記載されているが,周知技術の例として掲げられた前記例示文献1ないし5(甲3〜7)は,本件審決以前に出願人たる原告に示された形跡は見当たらない。もっとも,審判の手続で審理判断されていた刊行物記載の発明のもつ意義を明らかにするため,審判の手続に現れていなかった資料に基づき優先権主張当時又は特許出願当時における当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の技術常識(周知技術)を審決において認定することは許される(最高裁昭和55年1月24日第一小法廷判決・民集34巻1号80頁参照)と解されるから,審決が,前記例示文献1〜5(甲3ないし甲7)を実質的な引用例ないし引用発明として用いたのであれば審決には手続上の違法があるが,引用発明とされた刊行物1及び2(甲1及び甲2)の意義を明らかにするための技術常識(周知技術)として用いたのであれば,特段の事情がない限り,手続上の違法はない,ということになる。(4) そこで,上記(3)の見地に立って審決に手続上の違法があったかどうかについて検討する。・・・そうすると,審決においては,現像器の電圧供給装置において,それぞれの現像器が,電圧供給源の電圧を分岐電圧に分圧して現像器に供給する電圧分配部を備えることを,刊行物1記載発明と本願補正発明5及び本願発明5との一致点として認定しているのであるから,相違点2は,実質的には,電圧供給源から供給される基準電圧,すなわち分圧される電圧を,分岐電圧と共に供給するか否かという点に尽き,前記例示文献1ないし5は,電圧を分圧して供給する構成であれば,分圧される電圧も,分圧された電圧と共に供給できることが技術常識(周知技術)であったことを明らかにするために用いられたにすぎないということになるから,審決に手続上の違法(取消事由1及び4)があったということはできない。\n

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平成21(行ウ)358 裁決取消等請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月26日 東京地方裁判所

 外国語書面出願に基づいて、日本語で分割出願した場合に、当該分割出願についての誤訳訂正書却下について、東京地裁は判断に誤りはないとしました。
 このように特許法17条の2第2項,184条の12第2項が誤訳訂正書の提出手続を設けた趣旨は,外国語書面出願及び外国語特許出願においては,通常は,外国語書面出願の外国語書面又は外国語特許出願の明細書等とこれらの翻訳文との記載内容は一致していることから,翻訳文の記載を基準として補正の可否を判断すれば足りるが,この基準を貫くと,当該翻訳文に誤訳があった場合に当該誤訳を訂正する補正を行おうとすると,そのような補正は,通常,翻訳文に記載された事項の範囲を超えるものとして許されないこととなり,不合理であることによるものと解される。そして,上記のように特許法17条の2第2項,184条の12第2項は,外国語書面出願及び外国語特許出願の場合における補正の範囲についての特別な取扱いに対応した手続として誤訳訂正書の提出の手続を定めたものと解されること,特許法は,外国語書面出願及び外国語特許出願以外の特許出願については,そのような手続の定めを置いていないことにかんがみれば,特許法において,誤訳の訂正を目的とした補正の手続として誤訳訂正書の提出が認められる特許出願は,外国語書面出願及び外国語特許出願に限るものと解するのが相当である。以上の解釈を前提に本件について検討するに,本件分割出願は,外国語特許出願である本件原出願をもとの特許出願とする分割出願であるが,本件分割出願の願書には日本語による明細書等が添付されたものであるから(前記第2の1(1)ア,(2)ア),日本語による特許出願であって,外国語書面出願又は外国語特許出願のいずれにも当たらないことは明らかである。したがって,原告がした本件分割出願の明細書についての本件誤訳訂正書の提出に係る手続は,特許法上根拠のない不適法な手続であって,その補正をすることができないものであるから,これを却下した本件処分の判断に誤りはないものと認められる。

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◆平成18(ネ)10008 損害賠償請求控訴・同附帯控訴事件 特許権民事訴訟 平成21年01月14日 知的財産高等裁判所

  特許の登録ミスに基づく国賠請求事件です。最高裁で破棄差し戻しとなった事件についての判断です。知財高裁は鑑定書の計算手法を信用できると認定した上、寄与率を考慮して、約2000万の賠償額を認定しました。
  「鑑定の結果によれば,上記(1)の本件発明にかかる本件特許権を含むFS床版事業について,本件発明の技術的位置付け,本件特許権の経済性及び市場性の観点からの位置付けについての検討を踏まえて評価すると,3億3000万円という評価額が得られることが認められる。この点についての鑑定書の記載の概要は,次の(3)ア〜ウに示すとおりのものであって,その推論過程の概要は,本件特許権を先行技術と対比し,FS床版事業への本件特許権の活用について見た上で,本件特許権を含むFS床版事業の価値評価を種々の評価法により検討して,結論を導いたものであり,その検討過程は合理的なものと認められるから,この鑑定の結果については,高い信用性が認められる。」

◆平成18(ネ)10008 損害賠償請求控訴・同附帯控訴事件 特許権民事訴訟 平成21年01月14日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ウ)82 却下処分取消請求事件 意匠権行政訴訟 平成20年06月27日 東京地方裁判所

  パリ条約の優先主張を出願時に失念し、同日に補正書でこれを追加しましたが、優先権主張は認められませんでした。
 「ところで,パリ条約による優先権とは,パリ条約の同盟国の第一国に出願した者が他の同盟国(第二国)において出願するについて,一定期間に限り,先後願の関係,新規性等の判断の基準日としての出願日を第一国出願の日に遡らせることができる特別な利益である。この優先権は,第一国における最初の出願によって,観念的,潜在的に発生するといえるものの,優先期間内に第二国において出願する際に,優先権を主張することによって,初めて現実的な効力を生ずるものであると解される。このように,パリ条約による優先権は,先願主義の例外事由となり,新規性等の判断の基準日を遡らせるなど,その効果が第三者に与える影響は大きく,第二国における出願の際に主張することによって,現実的な効力が生じるものであることから,優先権主張の手続については,前記1のとおりの方式が要求されるものである。そうすると,出願の際の優先権主張の手続において,要求される方式を充たしていない場合には,その主張に係る優先権の効力が生じていないものといわざるを得ない(東京高裁平成8年(行コ)第115号平成9年4月24日判決参照)。」

◆平成20(行ウ)82 却下処分取消請求事件 意匠権行政訴訟 平成20年06月27日 東京地方裁判所

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◆平成19(ワ)1623 実用新案権確認反訴請求事件 実用新案権民事訴訟 平成19年07月26日 東京地方裁判所

  実用新案登録を受ける権利の共有者が、単独名義で登録したと主張して,共有持分を2分の1とする共有持分権移転登録手続を請求しました。裁判所は、これを認めませんでした。
  「実用新案法は,考案者がその考案について実用新案登録を受ける権利を有するとし(法3条1項柱書),また,冒認出願は先願としては認めず(法7条6項),冒認出願者に対して実用新案登録がされた場合,その冒認出願は無効理由となる(法37条1項5号)と規定している。また,法は,考案者が冒認出願者に対して実用新案権の移転登録手続請求権を有する旨の規定をおいていない。そして,実用新案権は,出願人(登録後は登録名義人となる。)を権利者として,実用新案権の設定登録により発生するものであり(法14条1項),たとえ考案者であったとしても,自己の名義で実用新案登録の出願をしその登録を得なければ,実用新案権を取得することはない。このような法の構造にかんがみれば,法は,実用新案権の登録が冒認出願によるものである場合,実用新案登録出願をしていない考案者に対し実用新案登録をすることを認める結果となること,すなわち,考案者から冒認出願者に対する実用新案権の移転登録手続請求をすることを認めているものではないと解される。」

◆平成19(ワ)1623 実用新案権確認反訴請求事件 実用新案権民事訴訟 平成19年07月26日 東京地方裁判所

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◆平成18(行ケ)10506 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成19年04月26日 知的財産高等裁判所

  同日出願によって本来は、協議またはくじの手続を経なければならなった商標権につき、無効とすべきものとはいえないとした審決が維持されました。
 「思うに,法46条1項の無効審判事由該当性の有無の解釈に当たっては,違反した手続の公益性の強弱の程度,及び無効事由に該当すると解した場合の法制度全体への影響等を総合的に判断してこれを行うべきものである。・・・法8条は,前記のように,商標法における先願主義の立場を明らかにし,先願と抵触する重複登録はこれを避けようとした規定であると解される。そして,法8条の定めるこの先願主義ないし重複登録禁止の立場は,商標が商品の出所の同一性を明らかにするという意味での公益性に寄与するためのものであることは明らかであるが,その公益性の程度は,法47条が商標権の設定登録の日から5年を経過したときは無効審判請求をすることができないことを定めていることからして,重複した商標登録の併存を法が絶対に許容しない程の強い公益性を有するものと解することはできない(設定登録後5年を経過すれば,重複登録は適法に並存できる。)のみならず,商標法は,類似の規定を持つ特許法(39条)及び意匠法(9条)においてはいわゆる後願排除効がある(同一内容の後願は,先願が拒絶されても,受理されることはないという効力。特許法29条の2,意匠法3条の2)のと異なり,後願排除効がない(法8条3項)から,仮に平成12年1月24日に出願がなされた本件商標及び日清食品商標につき法8条2項若しくは5項違反により無効審判をすべきものと解することになると,それよりも後願の者(例えば原告)の商標登録出願を許容することになり,その後願者にいわゆる漁夫の利を付与することになって,法8条1項の先願主義の立場に反する結果になる。そうすると,法8条2項,同5項に違反し商標登録が無効となる場合(法46条1項1号)とは,本件審決(9頁20行〜24行)も述べるように,先願主義の趣旨を没却しないような場合,すなわち出願人の協議により定めたにも拘わらず定めた一の出願人以外のものが登録になった場合,くじの実施により定めた一の出願人でない出願人について登録がなされたような場合をいうものと解するのが相当である。」

 同じ標章に関する案件です
    平成18(行ケ)10458 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成19年04月26日 知的財産高等裁判所 

◆平成18(行ケ)10506 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成19年04月26日 知的財産高等裁判所

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◆平成17(行ウ)609 裁決取消等請求事件 平成18年08月04日 東京地方裁判所

 出願時の時点では審査請求期間の末日が10/10(体育の日)で休日であったが、その後の祝日に関する法律が第2月曜日になった場合に、審査請求期限の末日が手続きのできない日になるかが争われました。原告は、経過措置に7年の審査請求期限について「なお従前の例による」との規定を根拠に、当該10/10は、休日として取り扱うべきであると主張しましたが、裁判所はこれを認めませんでした。
  「平成11年特許法改正法は,出願審査請求期間を出願から3年以内と改正し,同法附則1条4号においてその改正規定の施行期日を平成13年10月1日とするとともに,同法附則2条4項において,「前条第4号に掲げる規定の施行の際現に特許庁に係属している特許出願に係る出願審査の請求については,新特許法48条の3第1項の規定にかかわらず,なお従前の例による。」と規定しているが,同法附則2条4項は,同規定の施行の際現に係属中の出願の審査請求期間を7年としたに止まるものであり,それ以外の法律の適用関係を定めたものではないと解される。イ.そして,特許法3条2項は,手続についての期間の末日が行政機関の休日に当たるときは,その日の翌日をもってその期間の末日とする旨規定している。同条項は,期間の末日が行政機関が執務を行わない日である場合,期間が満了する日をその日ではなくその翌日としたものであり,当該期間の末日が行政機関の休日であるか否かは,当該日における法律によって判断すべきものと解される。ウ.平成10年祝日法改正法は,改正に当たっての経過措置を何ら定めていない。エ.平成15年10月10日当時,同日が行政機関の休日ではなかったことは,当事者間に争いがない。オ.したがって,本件国際特許出願の審査請求期間は,平成15年10月10日がその末日であり,前提事実(4)ウのとおり同月14日にされた本件審査請求は,出願審査請求期間の経過後にされたものである。よって,本件処分には,出願審査請求期間を徒過したとの判断につき,取消事由たる違法はない。」

◆平成17(行ウ)609 裁決取消等請求事件 平成18年08月04日 東京地方裁判所

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◆H18. 1.24 第三小法廷判決 平成17年(受)第541号 損害賠償請求事件

  特許庁職員の過失により特許権を目的とする質権を取得することができなかったことによる損害の額が争われました。最高裁は、請求理由無しとした原審破棄し、差し戻ししました。
  「特許権の移転及び特許権を目的とする質権の設定は,特許庁に備える特許原簿に登録するものとされ(特許法27条1項1号,3号),かつ,相続その他の一般承継による特許権の移転を除き,登録しなければその効力を生じないものとされ(同法98条1項1号,3号),これらの登録は,原則として,登録権利者及び登録義務者の共同申請,登録義務者の単独申\請承諾書を添付した登録権利者の申請等に基づいて行われることとされている(特許登録令15条,18条,19条)。したがって,特許権者甲が,その債権者乙に対して甲の有する特許権を目的とする質権を設定する旨の契約を締結し,これと相前後して第三者丙に対して当該特許権を移転する旨の契約を締結した場合において,乙に対する質権設定登録の申\請が先に受け付けられ,その後丙に対する特許権移転登録の申請が受け付けられたときでも,丙に対する特許権移転登録が先にされれば,質権の効力が生ずる前に当該特許権が丙に移転されていたことになるから,もはや乙に対する質権設定登録をすることはできず,結局,当該質権の効力は生じないこととなる。このため,申\請による登録は,受付の順序に従ってしなければならないものとされており(同令37条1項),特許庁の担当職員がこの定めに反して受付の順序に従わず,後に受付のされた丙に対する特許権移転登録手続を先にしたために,先に受付のされた乙に対する質権設定登録をすることができなくなった場合には,乙は,特許庁の担当職員の過失により,本来有効に取得することのできた質権を取得することができなかったものであるから,これによって被った損害について,国家賠償を求めることができる。」

◆H18. 1.24 第三小法廷判決 平成17年(受)第541号 損害賠償請求事件

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◆H18. 1.25 知財高裁 平成17(行ケ)10437 特許権 行政訴訟事件

 先願の出願公開がされる前に、後願(当該特許出願)について特許査定がなされ,その後に先願が出願公開がされた場合には、特許法29条の2の適用があるかどうかが争われました。知財高裁は、適用されると判断した審決を維持しました。
 「法29条の2が設けられた主たる趣旨を考察すると,当該特許出願の日前の他の特許出願(先願)の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明は,一部の例外を除きすべて出願公開によって公開されるものである(法64条等)から,後願である当該特許出願は,先願について出願公開がされなかった例外的な場合を除き,社会に対して何ら新しい技術を提供するものではないという点にあるものと解される。この趣旨に照らすと,上記のように解するのが相当である。後願である当該特許出願についての特許査定時期と先願の出願公開時期との先後関係がいかにあろうとも,すなわち,後願の特許査定後に先願の出願公開がされたとしても,後願である当該特許出願が社会に対して何ら新しい技術を提供するものではないことに変わりはないからである。」

◆H18. 1.25 知財高裁 平成17(行ケ)10437 特許権 行政訴訟事件

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◆H17. 1.20 東京高裁 平成16(行ケ)57 特許権 行政訴訟事件

 拒絶査定不服審判の請求とともに提出した補正書について、補正要件を満たしていないとして補正却下処分がなされ、”補正前の請求項1については拒絶理由があるので、他の請求項については判断するまでもなく、本件審判の請求は,成り立たない”とした審決に対して、手続き違背があるとして不服を申立てました。
 裁判所は、審決については認容したものの、立法の不備について以下のように、付言しました。
 「原告は,審決が,請求項1の特許要件のみを判断し,独立した請求項7及びその従属項である請求項8ないし12について判断を行わなかったのは,誤りであると主張する。確かに,原告の主張するところは,特許法の法文に直接明記されていないから,解釈上疑義がある。このような事項は,手続の基本的な原則であるから,本件のような事態を避けるためにも,本来,明文をもって定めるべき筋合いであり,解釈上の疑義を生ずるような立法は妥当ではない。しかしながら,特許法49条,51条の規定などにかんがみれば,一願書に複数の請求項が記載されている場合に,一つの請求項発明について特許をすることができないときは,他の請求項が独立項であると従属項であるとにかかわらず,当該特許出願の全体について拒絶査定をすることも予定しているものと解釈し得ないではない。そうであってみれば,原告の主張は,採用することができない。」

◆H17. 1.20 東京高裁 平成16(行ケ)57 特許権 行政訴訟事件

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◆H16. 4.27 東京高裁 平成16(行ケ)61 特許権 行政訴訟事件

 在外者について、拒絶査定不服審判の末日がいつになるかが争われました。
 原告は、「謄本の送達日の翌日から起算して30日目が土曜日であって,つぎに手続き出来る月曜からさらに60日となるべき」と主張しましたが、裁判所はこれを認めませんでした。
本日初めて気づきましたが、高裁専門部の名称が変わったんですね。遡ってみるとどうやら、04/4/1以降のようです。  ”東京高等裁判所知的財産第1部”となってました。
 

◆H16. 4.27 東京高裁 平成16(行ケ)61 特許権 行政訴訟事件

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◆H15. 6.11 東京高裁 平成14(行ケ)617 特許権 行政訴訟事件

審判請求期限を徒過した審判請求の却下処分について、裁判所はこれを是認しました。事例としては、在外者に対して、拒絶査定謄本がH14/3/6に送達され、H14/6/6に拒絶査定不服審判を請求したが、請求期限を徒過している(90日の期限は同6/4)として審判請求が却下されたので、取消訴訟を提起したというものです。
争点は、1)特許法上の処分について,処分の相手方に対する延長も含めて不服申立期間を教示する義務があるのか、2)教示がされていなかったことを誘因として生じた上記錯誤による請求期間の徒過は,特許法121条2項に規定する「その責めに帰することができない理由」に該当するのかです。
  裁判所は、いずれも否定しました。

 

◆H15. 6.11 東京高裁 平成14(行ケ)617 特許権 行政訴訟事件

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